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【レコンギスタの囹圄】47話前半が半分書けました [Gのレコンギスタ ファンジン]

第47話「個人尊重主義」前半が20枚まで書けました。

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第47話は9月投稿分なのですが、season3の最終回近辺まで話が進んでいて、もうすぐフルムーン・シップが大気圏に突入してきて爆発します。それを阻止するためにベルリとアイーダが協議するのですが、とにかく打てる手がない。徐々にみんな病んできているという。

アムロがちらっと登場していて、最終回近辺から本格的に参戦予定。


7月22日の公開を控えて、ようやく「GのレコンギスタⅢ」の宣伝活動が始まってきました。

Gレコ応援団サイト:https://cheer.g-reco.net/

これまでのGレコを三行で語れなんてキャンペーンをやっているそうです。オレはもうツイッターはやめて嫁のアカウントしかないので参加できませんが、プレゼントもあるそうなので皆さん振るってご参加ください。

劇場版「Gのレコンギスタ」第3部「宇宙からの遺産」は、7月22日公開。

記事:https://eiga.com/news/20210420/22/


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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:109(Gレコ2次創作 第44話 後半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第44話「立憲君主主義」後半



1、


フォトン・バッテリーの配給が停止されてからというもの、中央アジアやアフリカでは皇帝や王を自称する者が相次ぎ、地域住民に君臨する動きが活発化していた。ベルリたちが土地を去ったベトナムでもサムフォー司祭の寡婦が領主を主張して自由ベトナム軍に処刑されたとのニュースがラジオを賑わせていた。

フォトン・バッテリーとスコード教はこれらの動きを抑制する効果があったことは明白であった。ビーナス・グロゥブは最初から地球に国際協調主義をもたらしたのだ。それはスコード教のように人工的で歴史から断絶したものだったために、キャピタル・テリトリィの地位低下によって世界は元の状態に戻りつつあるといっても過言ではなかった。暗黒時代を経た地球文明は、いまだ多くの地域において部族社会であり、古代国家形成過程にあったのだ。

宇宙世紀から連なる進歩的社会は、宇宙にしか存在していなかった。歴史は宇宙で紡がれ、宇宙で継続していた。様々な紀年法によって時代区分が分けられ、外宇宙へ進出した際には各文明間の断絶も経験したものの、それでも地球で誕生した文明は宇宙で継続していたのだ。地球の歴史の真の担い手はスペースノイドであった。地球文明は、暗黒時代に崩壊し失われていたのだ。

文明の崩壊は社会制度の中に蓄積されていた知識と経験を奪った。人間は個々人が持つ知識と経験によって暗黒時代を生き延び、再び部族を形成し始めた。アースノイドは、地球というゆりかごに揺られつつ赤ん坊から再スタートを切った。同じころスペースノイドは、さらに成長を続けていたというのに。

あまりに大きく開いた文明格差は、元はといえば同じ人でありながら、神と土の上で眠る存在ほどの開きが出来てしまった。その中の一部が産業革命に挑戦しようとしたときディアナ・カウンターが起き、産業革命を封じる形でビーナス・グロゥブのレコンギスタが起こった。キャピタル・タワーが完成して、宇宙から舞い降りた神は地球にエネルギーとその使い道を教授した。

各地で起こりつつあった部族社会はこの宇宙からやってきた神に傅き、その教えを守ることで再文明化にこぎつけた。これがキャピタル時代として500年間続いてきたことであった。ところがそれらは、クンパ大佐がばら撒いたヘルメスの薔薇の設計図によってあっという間に瓦解した。文明は捨てねばならないものを新たに託され、それによって何が起こるのかクンパ大佐によって観察された。彼の観察のために、キャピタル時代は終焉して人類は氷河期の到来を前にしてまたしても暗黒時代の続きに逆戻りせねばならなくなった。

トワサンガで生まれ育ち、進歩した世界しか知らずに育ったラライヤは、進歩主義に至る前のプロトカルチュア的な反応に辟易していた。アジアには拒否反応しか起こらず、一刻も早くこの地を出てわずかでも文明の存在する場所に飛んで帰りたかった。そんな彼女の気持ちに、YG-111が反応したのは、地中海を南に抜けたときだった。海上を飛んでいた彼女の下にあった海面が突然凍りついたのだ。

「なんですか、これ!」

コクピットの急激な室温低下によって警報音が鳴り響き、まるで宇宙にいるときのようにヒーターが作動し始めた。猛烈なブリザードがYG-111を激しく揺らした。ラライヤは驚いてフォトン・バッテリーの残量を確認した。ゲージはまったく下がっておらず、フル充電のままである。ベトナムからかなりの距離を飛んできたはずなのに、YG-111はエネルギーをまったく消費していなかったのである。

座標を確認したラライヤは、一目散にアメリア大陸を目指した。上も下もない真っ白な世界にラライヤは上下の感覚を失い、機体を凍った海面に叩きつけてしまった。このままではいけないと彼女はアメリア大陸への座標を固定したまま自動操縦に切り替えた。YG-111は落ち着きを取り戻した。

温まったシートに身を横たえ、ヒーターの温風に当たりながら周囲を観察していると、遥か前方にもう1機のモビルスーツが飛んでいることを確認できた。地球でまだ運用できているモビルスーツがあることに驚いたラライヤは、この機体に近づいていいものかどうか迷った。

先に行動を取ったのは先を行くモビルスーツの方だった。

「後方の機体、G-セルフ、ベルリか?」

凛と張った女の声に、ラライヤは聞き覚えがあった。だが、そんなはずはないのだ。なぜならミック・ジャックはとうに死んでしまっているからであった。

ブリザードは容赦なくYG-111を揺さぶった。ラライヤは我慢できずに応答してみることにした。

「なぜあなたが生きているのですか、ミック・ジャック!」

「なぜも何もないさ、愛する人の心の中に生きていればこういうことも起こるんだよ」

「ラライヤなのか?」

もうひとり、別の男の声がした。まぎれもなくクリム・ニックの声だった。彼もまた死んだはずであったが、時間が1年間も巻き戻っているとするならば、彼はまだ生きているはずであった。しかし、地球にいるのはおかしい・・・。ラライヤは頭が混乱して、ふうと息を継いでドリンクを飲んだ。

「いったいどうなっているのか、ラライヤにはわかっているのか?」

クリムにも状況は呑み込めていないようだった。ラライヤは彼がゴンドワンとキャピタルにやったことが許せなかったが、それを問うのは状況を理解してからでも遅くはなかった。YG-111とクリムが搭乗するミックジャックは、アメリア大陸を間近にしたところでランデブーすることになった。

ミックジャックが上腕を伸ばし、接触回線を開いた。

「ラライヤなの?」

コクピットが開けられ、ミック・ジャックが顔を覗かせた

「あなたはミック・ジャック?」

ラライヤもコクピットを開いて、死んだはずの彼女の顔を確認した。

双方が不思議なものを感じていた。ミック・ジャックはジムカーオ大佐が引き起こしたトワサンガのラビアンローズ分離の際の戦いで、クリムを庇って命を落としている。クリムは、ラライヤの時間の中では1年ほど前、地球が虹色の膜で覆われる前に大気圏突入に失敗して大爆発を起こして死んでいるはずだった。そのときの爆発をきっかけに、地球は虹色の膜に覆われ、その下でフルムーン・シップのフォトン・バッテリーが大爆発を起こして地球文明は崩壊したのだ。

互いに聞きたいことは山ほどあったものの、あまりの寒さに音を上げたミックは早々にコクピットを閉じて接触回線で話を続けた。

「ここは本当に地球なのかい?」

「おそらく」ラライヤにも自信はなかった。「地球の文明は崩壊したんですよ。フルムーン・シップが運んできたフォトン・バッテリーは、ラ・ハイデン総裁の命令で勝手に搬出したら爆発させると厳命されていたんです。それを誰かが外に出してしまって大爆発を起こしました。その爆風は地球を何周もして、地表は剥ぎ取られて陸上生物は絶滅してしまったんです。この世界は・・・、おそらくそのあとの世界だと思うんですけど・・・、でもちょっと前までは爆発の3か月半前だったんです」

「なるほど、さっぱりわからん」クリムは溜息をついた。「わからんことだらけだ。ミック・ジャックがこうして生きているだけでオレは満足だが、それにしても」

「時間を跳躍しているってこと?」ミック・ジャックは怖ろしく勘が良かった。「あなたのその服装、トワサンガのノレド親衛隊のものでもないようだけど」

「ああ、これ・・・。これはジオンのノーマルスーツです」

「ジオン?」ミック・ジャックは訝しげに応えた。

「ジオンというのは、カール・レイハントンの軍のことだろう。トワサンガで奴と接触しようとしたときに同じ服装の女に会ったことがある。あれがおそらくはジオンだろう。あいつは宇宙皇帝を気取っていたそうだからな・・・。クソ、いったいどうなっちまったんだ!」

そうクリムが嘆いたとき、2機のモビルスーツは眩い光に包まれて氷の世界から姿を消した。


2,


「クンタラの教えにそんな教義があるなどと聞いたこともない」グールド翁はジムカーオの話にウンザリしていた。「肉体をカーバに運ぶ船と考えているのがクンタラだと。そうじゃない。クンタラとは暗黒時代に人間に食われた弱者の末裔だ。我々の祖先は艱難辛苦を乗り越えてようやく平等の糸口を掴みつつある。そんなウソ話は、スコード教のたわごとだろう」

「平等ねぇ」

ジムカーオの言葉は辛辣だった。彼はグールド翁がアメリアでもきっての資産家であることを知っていたのだ。彼は室内の調度品に目をやりながら、いま一度同じ話をした。

「人の意識というのはすべて繋がっていましてね、あなたが非クンタラの贖罪意識を利用して財を成していることは、みんな知っているのです。生きている間は時間と空間のフレームの中にいるので、大きな声で怒鳴りつければ事実さえ隠蔽できてしまうものですが、死んだあとはそうもいかんのですよ。情報が共有されたとき、あなたが成してきた卑劣な行為の数々は誰もが知ることになります。いや、いまもみんな知っているのですが、意識の表層には表れてこない」

「死んだら何もかも終わりだ。わたしらクンタラはクンタラであるがゆえにカーバへ向かう。それ以上のことなど起きやせんよ。まったく失礼な男だ。ずいぶんと賢い男だと思って雇ってやったのに、自分の身分すら守れん男だったとはな。お前は馘首だ。どこへなりと行けばいい」

「そのつもりで来たんですがね」ジムカーオは飄々としたものだった。「ただ間違いは指摘させていただく。カーバというクンタラの魂の楽園は、現世で正しくあろうとした人々の魂が正当に評価されるがゆえに魂の楽園なんですよ。正しき者が苦しむことなく胸を張って生きられる世界がカーバです。さて、あなたは本当にその心の裡がすべて晒されてなおあの場所をカーバと感じられますかな」

「ふん、見てきたようなことを。おい、誰かこの男の給与を清算して放り出せ。顔も見たくない」

「カルマの崩壊が起こる前に、せいぜい金儲けに精を出すんですな」

ジル・マナクスは、ふたりのやり取りを部屋の隅で小さくなって聞いていた。ジルはジムカーオがとてつもない力を持つニュータイプだと知っていたので、いくら相手が世界的な大金持ちだとはいえこのようにあっさりと引き下がったことを意外に感じた。

「君にはムーンレイスのことを調べてもらうつもりだが」グールド翁はクルリとジルの方に向き直った。「トワサンガの学生だったのだろう? あいつの言っている意味は君にはわかるのか? ニュータイプとは何だ?」

「ニュータイプは、宇宙空間で発現する人間の共感力の拡張現象のことです。人間の脳は人間が意識していないところで繋がっていて、能力が拡張すると人間間の断絶を感じなくなって、他人の意識と自分の意識を共有するようになるのです」

「あの男が言っていたことと同じなのか?」

「そうですが・・・、ただあの人はクンタラの話をしていたでしょう? 自分が話しているのはニュータイプのことです。ニュータイプ同士は意識の断絶の壁を乗り越えてしまうのです」

「クンタラとニュータイプは違うものなのか? 同じものなのか?」

「それは自分にはちょっとわかりかねます」

グールド翁はしばし考えたのち、ナイフとフォークをカランと皿の上に置くと、ジル・マナクスに対してクンタラとニュータイプ、そしてカーバについて調査するように命令した。彼は胸ポケットから小切手を取り出すと、ジルに前金を払った。

「報告書の出来が良かったらそれと同額を後で出す。いいな」

ジルはこれでアメリアでの就学に目途が立ちそうだと喜んだ。それに彼にはアテがあったのだ。彼は、アメリア政府が極秘に保護しているキエル・ハイムというクンタラ研究家の女性が、ムーンレイスの女王ディアナ・ソレルだと知っていたのだ。

1週間後のこと、ジル・マナクスは照り付ける太陽の熱量に辟易しながらキエル・ハイム宅を来訪した。そこには彼女に寄り添ってきたハリー・オードの姿はない。ディアナ・ソレルは一切の身分を隠し、アメリア南部の小さな屋敷でクンタラの研究を行っていた。

ジルは廃墟を再利用した都市部のアメリアしか知らなかったので、川のほとりに佇み、緑に囲まれた彼女の屋敷に興味を持った。トワサンガのサウスリングのような光景であったが、植生と動物の豊かさは比較できないほど地球の方が豊かであった。寄ってくる虫に辟易するほどに。

キエルは彼を屋敷に招き入れ、使用人に茶を運ばせた。彼女は話し始めた。

「地球の暗黒時代、黒歴史の時代はわずか1000年前と推測されています。そのころの地球はこれほど緑も生物も豊富ではなかった。食料も不足していたといいます。そのころ習慣として各地で行われていたのが食人です。我が子を救うために人の肉を食べさせたことがきっかけで、飢えに襲われたとき、地球ではしばしばそのようなことが起こっていたようです」

ジルはジムカーオが姿を現したことを話した。キエルは平静を装っていたが、一瞬みせた険しい顔つきが彼女が月で大艦隊を率いて戦ったディアナであることをよく表していた。キエルは続けた。

「わたしは宇宙で起こったことはよく存じ上げませんが、アメリアが発表した事件に関する調査報告書を拝見した限り、クンパ大佐、ジムカーオ大佐は亡くなったはずですが」

「ぼくもはじめは驚きました。ですが、彼はかなり強力なニュータイプだったと報告書にもあります。どのようなことが起きても不思議ではない気もするのです」

「ニュータイプ、そう、クンタラには今来(いまき)と古来(ふるき)という言葉があって、使い方の定義が曖昧なのでよく調べてから話さなければならないのですが、暗黒時代に自由を求めてアメリアへ逃げてきた人物たちが古来、キャピタル・タワーの建設労働者として地球に派遣されてきたのが今来と解釈するのがおおよそ正しいとされています。宇宙から降りてきたクンタラは、かつてニュータイプであったことが原因で儀式として食人の餌食にされた、外宇宙に進出した者らの末裔です。食糧難で殺されて食べられた地球の古来とは扱いが違います。アメリアのクンタラの多くは暗黒時代を逃れるためにこの地に渡ってきた古来。だから、ジムカーオ大佐とは話が合わなかったのかもしれない。しかし、彼はスコード教の信者だったと聞いたこともありますが」

「スコード教の信者ですよ。ぼくは宇宙で彼と何度かまみえたことがあります。でも話を聞く限り、出自はクンタラのようで、地球のクンタラをまるで堕落した人間のように見下していました」

「大きく分けて、キャピタルのクンタラが今来、アメリアのクンタラが古来となるので、キャピタルのクンタラを調べてみれば手掛かりが掴めるかもしれないですね」

ジル・マナクスはムーンレイスの存在についてハイム女史にもっと話を聞く予定であったが、彼女は忙しい身らしく、翌日の朝には何かの調査のために屋敷を出ていった。同行を願い出たジルであったが、キエル・ハイムがディアナ・ソレルであることを匂わせてしまった彼は警戒されてしまっていた。

それでもキエルは彼に調査の役に立つであろう書籍を何冊か与えていた。とりあえずはそれでクンタラとニュータイプの研究をしようかと木漏れ陽の中を縫って歩いていたときだった。

突如彼の目の前の空間が歪んで、巨大な赤いモビルスーツが出現した、その肩に描かれていたのは、まぎれもなくレイハントン家の紋章であった。だが、別の見慣れない紋章もある。ジルはその機体のことを知っていた。いや、トワサンガの人間なら誰しも知っていたことだろう。

「カイザル・・・、これはカール・レイハントンのカイザルじゃないのか?」


3,


遡ること300年後・・・。

分析不能の物質で構成された膜によって全球が完全に覆われた地球の地表では、新しい植生が定着して地中で生き残っていた小動物が地表面に出てくるようになっていた。爆風の影響が少なかった極地方に近い場所から鳥が飛んできて、赤道を中心としたベルト地帯で大繁殖を遂げていた。

背の高い木々が生い茂り、木漏れ陽を作り出している。そんな景色の中を歩いているのは、軍服姿の3人の人物であった。真ん中を歩いているのは、金髪の青年だった。その脇をふたりの背の高い白人女性が並んで歩いていた。青年の名はカイザル。ふたりの女性の名はタノとヘイロだった。

タノとヘイロは遺伝子劣化が進んだ彼女らのオリジナルを捨てて、別のアバターに乗り換えていた。青年だけはオリジナルであるキャスバル・レム・ダイクンにより近づけるようアバターを改良し、カイザルを使った思念体の分離作業を続けていた。いまではほとんどすべての記憶情報を取り戻していた。そしてカイザルがオリジナルに近づけば近づくほど、彼のある人物への執着は強くなっていた。

人類が滅亡してから300年。現在地球にいるのは、ザンクト・ポルトで生き延びたカリル・カシスとカル・フサイらのグループの子孫であった。彼らはかつてキャピタル・タワーと呼ばれていた天空の塔を利用して、地球と宇宙との間を往来している。ビーナス・グロゥブによるエネルギーの供給は300年前を最後に途絶え、地球護衛システム・ステュクスによって地球文明との接触を阻まれていた。

人類の数はごくわずかであった。全球凍結となった地球での生存可能域は狭く、人類を繁殖させるだけの石高を上げられてはいなかった。それでも人類は幸福に暮らしていた。彼らは唯一神カバカーリを崇め、正しく生きることを胸にわずか三十数年の人生を謳歌していた。

そんな世界を観察しているのが、ジオンの末裔の思念体たちであった。彼らは時折アバターを作成して、天空の塔を使って地表面に降りてきていた。アバターはかつての強化人間研究の産物で、共感力の高い人工ニュータイプであったが、それでも思念体でいるときより人間間の断絶を感じることができたので、他人と自分の意思を共有しない安心感によって、肉体の悦びを得て遊ぶのだった。

「まだアムロとかいう人物をお探しですの、カイザル」

「そうかもしれないし、そうではないかもしれない」カイザルは応えた。「ベルリ・ゼナムとガンダムは、あの虹色の膜を避けて、膜が発生する前の時間へ戻っていった。奴は地球に降りたはずだが、結局音沙汰なしで300年もの時間が経過してしまった。もういまとなっては・・・」

そんな会話をしていたのも束の間、カイザルの心臓が急にアラームのように速く鼓動した。カイザルは右手を心臓の上にそっとあてがい、顎を上げて息を吸い込みながらその意味を探った。カイザルの意識はタノとヘイロに共有された。強い日差しと吹き抜ける冷たい風がぶつかって、雹が降ってきそうだった。

「お前はまだ人類すべてをニュータイプに進化させる意味を考えあぐねているのか。そんなものは」

カイザルはその思念が捉えた場所へとジャンプした。そこは、300年前のアメリアであった。だが、思念体として時間感覚が通常の人間と変わってしまっている彼にとって、300年という時間は意味をなさないものだった。カイザルは懐かしいモビルスーツのコクピットの中に収まっていた。人間が機械を動かし、操縦を通じて一体化を感じる感触が瞬時に蘇った。

「タノ、ヘイロ、いるか?」

「はい」とふたつの返事があった。

「アムロは下にいるあの男を使ってわたしを呼び寄せたらしい。もうあの男の中にはアムロはいない。だが、感じる。この世界にあいつは潜んでいる。ガンダムとともに」


ジル・マナクスは、突如出現した初代トワサンガ王カール・レイハントンの機体に度肝を抜かれていた。尻もちを着いた彼は、続いて2機の巨大モビルスーツが出現してさらに驚いた。赤いモビルスーツと2機の濃緑色のモビルスーツは、上空を旋回したのち、今度は一瞬で姿を消してしまった。

トワサンガの君主として代々王を継いできたレイハントン家は、何らかの秘密によって初代カール・レイハントンを蘇らせたのだった。王政とは、初代王が転生を繰り返しているというフィクションによって成り立ち、そのフィクションこそが君主制の根幹であると考えるジルは、目の前に出現した白日夢のような光景に興奮した。だが、彼はすぐに冷静になった。そんなことは起こるはずがないのだ。

「カイザルがトワサンガを守護しているとは、あの土地で生まれた者なら誰でも知っていることだ。カイザルという機体がこの世に存在していること自体は不思議ではない。でも待て。ジムカーオの一件といい、おかしなことが起こりすぎている気がする。モビルスーツが目の前で消えてしまうこともあり得ない。この世界に起こるはずのないことが起こった場合、まずこれが夢であることを疑うはずだ。夢か、もしくは夢のようなもの・・・」

ジルは胸の鼓動が高鳴って張り裂けてしまいそうだった。走り出したい衝動に駆られた彼の眼前に、またしても巨大な物体がふたつ出現した。

YG-111と、見慣れないモビルスーツであった。もつれるように地上に落下して轟音と土煙を上げた機体は、バランスを取り戻すと片膝をついた姿勢で停止して同時にコクピットを開いた。YG-111から顔を覗かせたのはラライヤであった。彼女は見慣れない軍服を着ていた。

もう1機の青い機体から顔を出したのは、金髪の背の高い女性と綺麗な瞳をした青年であった。こちらはジルには見覚えがない。少なくともトワサンガの人間ではなさそうだった。ラライヤは周囲を見回してジルを発見した。名を呼ばれたジルは、急いで駆け寄った。ラライヤが尋ねた。

「ここはどこなんですか?」

「アメリアですよ」ジルは興奮して応えた。「アメリアなんですけど、現実じゃない。でも、夢でもない。現実でも夢でもないここは・・・、ここは・・・、ぼくが観察した世界の記憶に違いない!」

「何を言ってるんだ、貴様はッ!」クリムがすぐさま否定した。「お前の記憶の中に初対面のオレの意識があるものか。おかしなことばかり起こる世界に狂人は必要ないぞ」

「失礼な男だな!」ジルは激高した。「じゃあこの世界をどう説明するんだ? たったいま、カール・レイハントンのカイザルがここに出現してすぐに消えてしまった。物体が一瞬で消えることなんてありえない。あなたたちだって何もないところから出現した。そんなことだって起こりえない。でも、これは夢じゃない。ぼくが観察したからこの世界は存在するんだ」

「起こりえないことを観察した事実から目を背けるな。まあ、いい。ここはアメリアなんだな。じゃあそれで結構だ。お前の人生などオレには関係ないのだから」

クリムはジルの反抗的な態度を突っぱねるようにそっぽを向き、ミックにたしなめるように袖を引かれていた。溜息をついたラライヤが、改めてジルに尋ねた。

「アメリアの、いつですか? わたしは1年後の世界から戻ってきたんです」

「1年後? ぼくが生きていない未来から?」

「それみろ」クリムが毒づいた。「お前の小さな目玉が見たものが、世界を再現できるわけがないだろう。よく考えればわかることだ」

「あッ、ニュータイプ・・・。共感力の拡張・・・、集合無意識・・・」

ジルは3人を眺めて黙り込んだ。彼はニュータイプが存在する世界を初めて意識的に観察した最初の人物になった。


4,


「君主というのは実力のある存在だから、憲法でその活動を規制するのが立憲君主主義じゃない。世界中にある部族社会を近代化させて民政に移行するには、王さまや部族長を殺すか、憲法や憲章で彼らの活動に制限を掛けなきゃいけない」

「うん」ベルリは頷いた。「ぼくがトワサンガで経験したのは、支配に正統性を持たせることの大切さだった。ぼくは地球で育って、トワサンガでは何もなしえていないただの若者に過ぎなかった。でも、ジムカーオ大佐がぼくを国王にしようと画策したおかげで、ぼくがレイハントン家の人間であることが周知されてしまった。そのトワサンガが危機に陥って政体が瓦解したとき、もし民主的手続きでことを成そうとすればすごく時間が掛かってしまったと思うんだ。意見はみんな違うから、意見集約が難しい。そんなときに国王の巨大な権限は、意見を集約することに大きな力を発揮した。市民の中の誰かの意見で国王のように国民を束ねて政策を実行することはできない。それが正統性のある君主の実力というものだった。不思議なものだけど、そういうものなんだ。ぼくはそれを利用した。もちろん改革案が実行されれば、権力は議会に委ねるつもりでいたけれど。だから王にはならず、王子のままで仕事をした。王は民衆だと思っていたから。ノレドは王と部族長を同じものだと見做していたけれど、部族長の実力というのは、猿の集団のように腕力によるものが大きい。それに少しの政治力。対立する人間からいつも命を狙われている。サムフォー司祭の寡婦も、ハノイの領主になろうと画策して結局は処刑されたという。でも、王はそうじゃない。王と部族長は、正統性の大きさが違うんだ」

「実力の大きさの違いって何だろう?」

「その答えがこのゴンドワンにあったのかな? ゴンドワンの政府は、それまで存在しなかった君主を新たに作り上げた。君主は、どこの誰でもない子供だという。子供はすぐに大人になるから、今この瞬間に子供である人間の意見は政治に反映されない。あくまで『子供』という架空の存在としての子供。でも架空とは言っても、子供はいつの時代にも存在している。実在している人間でありながら自身の意見はなく、数が多いから傀儡も難しい。子供たちのために社会制度の改革を常に意識することで、実際に実力を持つ特定の誰かの権限が拡大して不正がはびこることも少なくなる。結局正統性とはフィクションの真実性の有無に過ぎない。『あいつは誰よりも強い』との共通認識に頼ることは、フィクションを共有してその中に真実性を見い出す文明とは文化の力において敗北している」

「民主国家の代表といっても、特定の思想集団の代表になってしまうから、どうしても意見は偏るもんね。議会は自由で幅広い市民の意見を集約する場所。意見を集約する過程で少数意見は淘汰されてしまう。少数意見を反映させると今度は多数意見によって議会を掌握した集団が不満を持つ。民主主義、民生の欠点はここにある。常に国民が不満を持っている。民主主義が発展すればするほど不満は大きくなっていく。民主主義の成熟は、国家の安定には繋がらない。だから、共通の目標として君主への忠義を仮定して置いてみる。『子供』という君主のために何かを成すとの共通目標を持つ」

「意見の集約の前に、意見の淘汰もあるだろうね」ベルリは炭酸の入った水を飲んだ。「老人の欲望を叶える政策をあらかじめ排除できる。それだけでも民主主義はずいぶんと運営が楽になるよ。ぼくはトワサンガでレイハントン家の残党の人たちに振り回されていたから」

「各世代のすべての意見を反映させようとせず、予め意見を淘汰して、議会での意見集約のスピードを上げているのか。ゴンドワンが導入した君主制は、見るべき点が多いね。歴史政治学の分野で、いったん失われた君主が復活するのはごく稀にしかないけど、こういうことも起こるんだね」

「余力もなかったのだと思う。氷河期の全球凍結が始まって、ゴンドワンの北部地域は居住不可能になって、流民が発生していた。そこにクンタラ解放戦線の原子炉事故や若者の移住ブームが重なって、未来志向が強くなったのだろう。未来志向を体現したのが、『子供』を君主にするというアイデアだったわけだ」

「ベルリのお母さんは、キャピタルを立て直すためにウソの独裁制を導入したでしょう?」

「うん」

「あれは議会の力の差だとわたしは思う。ゴンドワンはきっと議会の力が強すぎて、意見の集約に時間が掛かりすぎていた。国力が落ちたのに、議会はずっと揉めたままでちっとも捗らない。そこで『子供』を君主にして意見の淘汰と集約の速度を上げた。一方でキャピタルは、議会が機能していなかった。キャピタルの力はスコード教が握っていたから、フォトン・バッテリーが配給されなくなってスコード教の権威が落ちると、実力集団を求めてクリム・ニックやルイン・リーが入り込んでしまった。これは議会に実力がなかったからだよ。スコード教の代わりが侵略者であるクリムやルインだった。実力のない議会では政体を動かすことができない。だからウィルミット長官は、官僚組織を円滑に運用するために、独裁制を取らざるを得なかった。発想はベルリと同じで、独裁者が改革を実行した上で議会に権限を委譲すれば、独裁主義が暴走することもない。民政への移行過程として、どうしてもそれが必要だったんだよ」

「誰か母さんの傍に強い人物がいれば、母さんもあんなに苦労せずに済んだのに」

「キャピタルは、クンパ大佐もジュガン指令もいなくなって、強い男がいなくなっていた。強い男がいるうちは、女は男に対抗して実力を発揮していけるけど、強い男がいなくなってしまうと腕力のなさが露呈してしまう。ベルリはトワサンガのレイハントン家の王子という身分があったけど、ウィルミット長官にはそれがなかった。だから独裁者に権力を奪われた風で、キャピタル・ガードのケルベス教官に代行を頼まなきゃいけなかったんだ」

「権力というのは本当に難しいものだね」ベルリは溜息をついた。「少数部族において権力は単純なものだ。でも少数部族が合従連衡して国家を作り上げると、腕力ではどうしようもなくなる。だからといって、腕力がなければ権力は動かせない。国家は大きくなればなるほど、絶対的に正しいものや、絶対的に強いものを必要とする。しかしそれを本当の腕力に結びつけてしまうと侵略主義的になる。権力を保ちつつ、権力は奪われなければいけない。それを達成するための答えのひとつが、もしかしたらゴンドワンにあったかもしれない」

ベルリとノレド、それにリリンは、ゴンドワンを発して大西洋を越えることにした。その先にあるのはアメリアである。

「とりあえずあたしたちがしなきゃいけないのは、フルムーン・シップの大爆発を食い止めることだ」

ノレドは世界を救う気概に溢れた顔つきで前方を見据えていた。ところが、彼女の後ろの席にいるリリンはそうは考えていないようだった。

「爆発は起こるよ」リリンは顔色を変えずに呟いた。「この世界で起こったことは変えられない。変わるのは向こう側の世界」

「向こう側の世界?」ノレドが聞き返した。「え? どこの世界」

「向こう」リリンはそれを指さした。「向こうにある世界」

ノレドはリリンの話す意味が分からなかった。

3人を乗せたガンダムは、大西洋を横断して壊滅したニューヨークを過ぎた。アメリカ大陸の北方地域はすでに氷で覆われ始めていた。眼下にその光景を眺めながら、いったいこのままフルムーン・シップの爆発を食い止めたところで世界をどう導けばいいのか、ベルリは途方に暮れた。

それとも、世界のことなど考えなくてもいいのだろうか? それは自分の分を超えたことなのだろうか。いまだ自信を持てぬまま、ベルリはワシントンに到着した。彼らが乗る巨大なモビルスーツは、たちまち市民の人だかりを作った。警官たちは馬で集まってきて、銃を構えた。

そこへやってきたのはG-アルケインだった。


次回第45話「国際協調主義」前半は、7月1日投稿予定です。


富野由悠季 全仕事 (キネマ旬報ムック)

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  • 出版社/メーカー: キネマ旬報社
  • 発売日: 1999/06/09
  • メディア: ムック



富野語録―富野由悠季インタビュー集 (ラポートデラックス)

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  • 出版社/メーカー: ラポート
  • 発売日: 2021/06/11
  • メディア: ムック



アニメを作ることを舐めてはいけない -「G-レコ」で考えた事- (単行本コミックス)

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/03/26
  • メディア: Kindle版



映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

  • 作者: 富野由悠季
  • 出版社/メーカー: キネマ旬報社
  • 発売日: 2011/08/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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2次創作小説「ガンダム レコンギスタの囹圄」目次 [Gのレコンギスタ ファンジン]

劇場版「Gのレコンギスタ」を支援する目的で書き始めた続編小説です。劇場版は全5部作、どうしても間隔があいてしまうので、ベルリやノレドの気配を感じたい方などはぜひ暇つぶしにどうぞ。

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[前半][後半]部分にリンクしてあるのでクリックして読んでください。

同じ外宇宙へ進出した人類が戻ってくる物語ということで「∀ガンダム」の世界観も若干反映させてあり、ディアナ・ソレル(キエル・ハイム)などが登場します。

1クール13話区切りで、season4が始まりました。

season4

第40話「自由貿易主義」 前半 後半
第41話「共産革命主義」 前半 後半
第42話「計画経済主義」 前半 後半
第43話「自由民主主義」 前半 後半
第44話「立憲君主主義」 前半 後半
第45話「国際協調主義」 前半 後半
第46話「民族自決主義」 前半 後半
第47話「個人尊重主義」 前半 後半
第48話「全体繁栄主義」 前半 後半
第49話「自然回帰主義」 前半 後半
第50話「科学万能主義」 前半 後半
第51話「死」      前半 後半
第52話「理想」最終回  前半 後半

season3

第27話「ハッパの解析」       前半 後半
第28話「王家の歴史編纂」      前半 後半
第29話「分派」           前半 後半
第30話「エネルギー欠乏」      前半 後半
第31話「美しき場所へ」       前半 後半
第32話「聖地カーバ」        前半 後半
第33話「ベルリ失踪」        前半 後半
第34話「岐路に立つヘルメス財団」  前半 後半
第35話「どのような理由をつけても」 前半 後半
第36話「永遠の命」         前半 後半
第37話「ラライヤの秘密」      前半 後半
第38話「神々の侵略」        前半 後半
第39話「命の船」          前半 後半


season2

第14話「宇宙世紀の再来」      前半 後半
第15話「月の同盟」         前半 後半
第16話「死の商人」         前半 後半
第17話「レイハントンの子供」    前半 後半
第18話「信仰の根源」        前半 後半
第19話「トワサンガ大乱」      前半 後半
第20話「残留思念」         前半 後半
第21話「法王庁の影」        前半 後半
第22話「主導権争い」        前半 後半
第23話「王政の理屈」        前半 後半
第24話「砂塵に帰す」        前半 後半
第25話「ニュータイプの導き」    前半 後半
第26話「千年の夢」最終回      前半 後半


season1

第01話「法王の亡命」        前半 後半
第02話「クンタラの矜持」      前半 後半
第03話「アメリア包囲網」      前半 後半
第04話「ケルベスの教え子たち」   前半 後半
第05話「ザンクト・ポルトの混乱」  前半 後半
第06話「恋文」           前半 後半
第07話「ムーンレイス」       前半 後半
第08話「フルムーンシップを奪え!」 前半 後半
第09話「全体主義の胎動」      前半 後半
第10話「ビーナスの秘密」      前半 後半
第11話「ヘルメス財団」       前半 後半
第12話「全権大使ベルリ」      前半 後半
第13話「失われた設計図」      前半 後半

最後まで読んでくださった方々に感謝いたします。

Gレコ劇場版に少しでも善いファンがついて富野監督の想いが伝わるようお祈り申し上げます。





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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:108(Gレコ2次創作 第44話 前半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第44話「立憲君主主義」前半



1、


山脈地帯を抜けたベルリたちは、上空から東ゴンドワンに侵入した。警戒しつつ乗り込んだ彼らであったが、拍子抜けするほど抵抗はなく、軍が出動してくることもなかった。

「ゴンドワンってアメリアと戦争するほどの国力があるって話だったのに」

ノレドは眼下に広がる美しい景色を眺めながら、あまりにも無抵抗なことに疑念を抱き始めていた。南米のキャピタル・テリトリィで育ったノレドとトワサンガ生まれのリリンは、ジャングルとは違うゴンドワンの森に興味津々で全天周囲モニターにへばりついていた。

ベルリはラジオをつけてみたが、放送はされていなかった。電力に乏しいアジアの最大の娯楽はラジオから流れてくる音楽だったのに、ゴンドワンにはそれがない。無線もほとんど使われておらず、テレビの放送もなかった。電波が利用されていないのは不可解としか思えなかった。

ミャンマーから山岳地帯沿いに北西へ向かう長旅だったので、ハッパが作ってくれた積載用バックパックの中身も心もとなくなってきていたことから、3人は小さな町の外れにガンダムを降ろして、食料調達と情報収集を行うことにした。

彼らがやってきたのは、でこぼこの石畳が敷かれた小さな町だった。人通りはほとんどなく、商店も開いていない。そこで3人は町の中心にあったスコード教の教会に脚を運んで事情を訊くことにした。そこで管理人の老婆に教えてもらったのは、スコード教が活動を辞めたという悲しい話だった。

「教義を伝えていた方々はいなくなりました」老婆はいった。「教会はすべて廃院となって、王家の方々に接収されるのですが、ここは田舎なので役人の方がなかなか来なくて」

老婆はわずかな賃金で教会の掃除や不審者の監視などを行っているのだという。ゴンドワンに王家があると聞いたことのなかったベルリとノレドは思わず顔を見合わせた。

「誰が王さまになったのですか?」

「そりゃ子供たちに決まってますよ」老婆は不思議そうな顔で教えてくれた。「大人たちは子供たちのために国家を運営することに決めたのです」

「子供ですか?」ベルリは驚いた。「子供が総裁を務めているのですか?」

「いいえ」老婆は首を横に振った。「もちろん物事を決めるのは大人たちが運営する議会ですよ。そうじゃなくて、子供たちが王さまなんです。ゴンドワンは立憲君主主義の国ですから」

「驚いたね!」ノレドはリリンの顔をまじまじと見つめた。「リリンちゃんもゴンドワンでは王さまになるんだ」

「あんたたちがどこから来なさったのか知らないけど、ゴンドワンはもうすぐ氷に閉ざされてしまうともっぱらの話でさ、北部地方は放射能汚染で立ち入り禁止区域になってしまったし、人が住めるのは南側の地域と火山のある場所だけになっちまった。この国ではもうそんなに多くの人は住めなくなるんだよ。だからあたしたち年寄は身を引いて、子供たちを王さまにしたのさ。もしあんたたちが政府に話があるなら、ローマに行かなきゃいけない。ここいらはもう足腰の悪い老人ばかりだよ」

話を聞いた3人は、町の活気のなさの理由を悟った。子供たちがみんな別の場所へ移ってしまっているのだ。そう言われて町を眺めてみれば、たしかにポツポツと見かける人影は足腰の悪そうな老人ばかりであった。彼らは大声で話すこともなく、酒を飲むことも、商品を買うこともなく、木々のように静かに暮らしていた。

町でただ一軒の食品店で食べ物を購入したベルリたちは、自分たちが食べ盛りの若者であることを改めて実感させられた。彼らが購入しようと考えていた量は、店の売り上げの数日分に相当したからだ。頼めば買うこともできたのだろうが、3人は遠慮してローマまでの分に購入をとどめた。なぜなら、多くを買っても皴だらけの店の主人が喜ぶようには思えなかったからだ。

「歳を取るとお金に執着しなくなるようね」

ノレドはガンダムのバックパックに食料を詰め込みながら、心もとない紙袋の数に不満そうであった。

「たぶんだけど、あのお店の老人もお客さんと話がしたいために店を続けているだけじゃないかな。それに義務感だろうか。あのお店がなくなるとパンすら買えなくなっちゃう」

「共産主義者は暴力を振るってでも何もかも奪おうとしていたのに、ここじゃまったく逆。なんでこんなに欲がなくなっちゃったんだろう?」

ノレドはハノイでの経験を思い出しながら溜息をついた。共産主義者も自由民主主義者も、命がけの奪い合いの中で生きていた。それだけではなく、サムフォー夫人のように戦いを利用して土地の権利を得て領主になろうとする者もいた。川を流れる水さえ利権とされ、その奪い合いで多くの人が命を落とした。しかし、彼らは命を落としてでも奪うことに価値を見い出していたのだ。

それが東アジアの生きるということだった。

中央アジアの山岳地帯では、生きることは昨日の続きを繰り返すことだった。彼らは南側の砂漠で起きていた宗教戦争には参加せず、自然から与えられたものだけで暮らしていた。食料も水も十分にあった。それは食料と水が行き渡る分しか人がいないからでもあった。

3人は、子供たちが王さまになったという新しいゴンドワンの政治の中心地であるローマへと向かった。


ローマは確かに活気に満ちていた。街には人が溢れ、たしかに多くの人間がひしめき合って暮らしていた。子供たちはガンダムが大きな広場に降り立つと大歓声を上げて寄ってきた。ベルリはまるでスターになったかのように子供たちに取り囲まれた。ノレドとリリンは子供たちの外側にいる大人たちの憎しみに満ちた顔を見逃したりはしなかった。

「大人の人たちには歓迎されていないみたいよ」

ノレドは警戒した。しかし、彼女が手を繋いでいるリリンのことが気になるのか、大人たちは決してガンダムの存在に表立って不満を表明することはなかった。しかし、通報はされたようだった。

しばらくして警官が3人のところへやってきた。

「モビルスーツとは穏やかではありませんね。もしかしてよそ者でしょうか?」

よそ者という言葉を強調された3人はウンザリしながらも、ガンダムをどこに持っていけばよいのか尋ねた。警官は子供たちが無邪気に大きなモビルスーツの存在に喜んでいる姿を横目で見て、溜息をつきながらここに置いておけばよいと3人を黙認した。どうやら子供が王さまになったとの話はまんざら嘘ではないようだった。3人はさっそく議会に案内された。

「現在ゴンドワンでは計画的な移住政策が実行されています」案内の女性が説明してくれた。「旧北欧地帯が放射能汚染で立ち入り禁止区域に指定されてしまいましたので、そこの住民の移住を主な事業といたしまして、他にもこれからやってくる寒冷化によって氷河に覆われると予想されている地域の住人にも南欧への移住を勧めています。どの地区まで農業ができるのかそのときになってみなければわかりませんが、我々は楽観はしておりません」

長い廊下を歩きながら、スーツ姿の背の高い女性は意気軒昂に話した。しかしベルリには別の思いもあった。なぜゴンドワンはクリム・ニックに騙されてしまったのか。ゴンドワンが彼を受け入れることがなければ、ジムカーオの作戦は失敗していたかもしれないのだ。

「全球凍結の噂が意図的に流されて、市民が動揺してしまったのです」彼女は溜息をついた。「それにはクンタラ解放戦線が関係していたといまでは判明しています。旧北欧地域に発掘品の原子炉を集めて街を作ろうとしていたのも彼らクンタラ解放戦線です。それに、トワサンガの人間も関係していたと分かっています」

「トワサンガ?」

「ミラジ・バルバロスという人物です」

「ミラジさんが?」

これにはベルリとノレドも驚いた。ミラジがクンタラ解放戦線と行動を共にしているとはまったく知らなかったからだ。


2、


「それでミラジさんはいまはどこへ?」

「亡くなりました」女性の言葉はあっさりしたものだった。「クンタラ解放戦線のメンバーについては各地から集まっていましたので、遺体のすべての氏名を把握しているわけではありませんが、多くの証言から、ミラジという人物は亡くなったと。スコード教会からの情報提供によれば、彼はトワサンガからレコンギスタしてきた人物で、ビーナス・グロゥブの船にも出入りできたとか。もしそれが本当なら、わたくしどもよりみなさんの方があの方については詳しいのではないですか?」

「きっと武器だ」ベルリは呟いた。「ミラジさんとロルッカさんは、レイハントン家の再興が無理と知って、地球で生きていくためにモビルスーツの手配などの仕事をしていた。きっとそれでクンタラ解放戦線と取引があったんだ。ロルッカさんはどうしたのだろう?」

「ロルッカという人物は船による往来の記録がありまして、問い合わせたところ、アメリアでの死亡が確認されました。彼もまたクンタラ解放戦線に武器を横流ししていた死の商人です」

「情報は入ってきたのですか?」

「アメリアとの戦争は終わりましたから。いまではアメリア議会の実質的な代表はアメリア軍総監の地位を継いだアイーダ・スルガンですから。彼女との関係は良好です。そうでなければ、この全球凍結を前にいまだに戦争兵器を運用しているあなた方を議会に案内することはなかったでしょう。ベルリ・ゼナム、ノレド・ナグ。おふたかたにはぜひとも疲弊したゴンドワンの現状を知っていただきたい」

ここでもトワサンガの王子として発表されていたベルリの名は政治的な色彩を帯びていた。本人がいかにそこから距離を置きたいと願っても、レイハントン家の跡継ぎでありアメリアの実質的な代表であるアイーダ・スルガンの弟であることは覆すことができない事実なのだった。

現在のゴンドワンは、スコード教と距離を取る姿勢を示していた。というよりは、無神論に傾きつつあった。議会へ案内された3人は、上院の院内総務の部屋へ通された。そこには上院議員数名も同席して、にこやかに握手を求めてきた。かつてはこの場所が政治と文化の中心地であったが、現在のゴンドワンにその面影はない。老齢の院内総務は重々しく口を開いた。

「自由民主主義は民衆本位の政治を目的とした政治体制で、数々の試練に見舞われたわたくしどもはこの基本に立ち返ろうと考えたのです。しかし、民衆本位の政治と一口に言っても、そんなものは独裁者でも口にできることです。そこで我々は君主にゴンドワン全域の子供たちを置き、君主のための立憲主義を再構築することにしました。子供たちは教育課程を終えておらず知識が不足しているので、もちろん実験は一切ないですし、親の庇護下にあります。彼らは君主ではありますが、王のように総裁を行う立場にはない。それらは議会の仕事です。その議会が子供たちの未来を第一に考え、その存続を前提に立法を行うことが、民衆本位主義の理念に適っていると考えました」

「子供達には選挙権がありませんね」

「もちろんです。そこが民主主義の盲点だったのではないでしょうか。政治に参加し、立法する人間を選択する選挙に子供たちが除外される場合、現役世代への利益誘導や供与、老齢世代への福祉などが立法の議題に偏りがちになります。国家に集積された富を現役世代の大人たちや老人に分配することはもちろん大事な政治の仕事ではありますが、現役世代の失敗は成長した子供たちが負うことになります。しかも利益供与されることに慣れた世代は、自分たちが老齢になれば当然福祉予算を多めに要求します。前の世代の失敗を押しつけられた世代は、それを先送りしていままでと同じように利益分配と福祉だけを行って次の世代が失敗と先送りのツケを払わされる。ずっとこの繰り返しになるのです。そして先送りのツケは雪だるま式に膨らみ、最後には破綻する。自由民主主義は絶対的な分配の約束はしませんが、選挙に当選するためには短期の分配の約束はします。それらは主に現状維持が目的で、漸進的な改革案は通らず、最終的には不満が蓄積して革命主義に陥ってしまいます。革命は敗北です。それは漸進改革を怠ったという証ですから」

「同意します」ベルリは頷いた。

「この問題の原因を探るうちに辿り着いたのが、民衆本位主義に未来の視点が欠けている問題です。いま生きていて、成人である人間の利益だけが民衆本位ではない。民衆とは過去にも生きて未来にも生きる者たちです。死者もいれば、これから生まれてくる者も民衆です。そこで我々は議会が最高権威である仕組みそのものに疑問を感じ、その上に君主を置くことにしました。それは権力を行使する正統性を保証するための君主制ではありません。権力が現在だけではなく過去も未来も見据えて立法していけるようにするための装置のひとつなのです。そして民衆は未来をより良くすることを目標としようと、子供たちを君主にすることを定めたのです」

「子供たちを玉座に座らせる君主制じゃないってこと?」ノレドが尋ねた。

「それは違いますね。そんなことをすれば国中が要らないおもちゃだらけになる。しかしすぐに飽きて、おもちゃは散らかり放題。そんなことを目標にしては国は滅びます。子供はあくまで教育期間中の未熟な大人です。何の権限もない。しかしいずれ彼らは大人になり、役割上前の世代の失敗を押しつけられます。人間のやることは何かしら失敗はあるものです。政策の中に潜んだ失敗は時間が経過しないと見えてこない。失敗が見えてきたとき、前の世代は老齢に達して責任を取る立場ではなくなるし、自分たちの世代の失敗は自分たちで解決するなどと息巻いてはいつまでも現役にしがみついて世代交代に失敗します。それは最悪です。わたしなどももう老齢で引退間近ですが、子供たちを君主に据えてからというもの、一刻も早く引退しなければと焦るようになりました。なぜなら、子供たちはあっという間に成長する。ほんの少し前に子供たち読んでいた小さな子が、恋人を連れて議会にやってきたりする。老人の時間間隔で物事を進めてはいけないのです。わたしたちは早く引退しなきゃいけない。いまわたしが院内総務として働いているのは、住民の速やかな移住を進めるために折衝をしなければならないからです。ゴンドワンは徐々に全球凍結の影響を受け始めており、北部地域は居住不可能です。以前から南部地域への流民は始まっていたのですが、放棄された年に住み着いたクンタラ解放戦線のメンバーが核爆発を起こす事故を起こしてしまい、市場原理で自然な移住に任せておけなくなった。政治的に調整してやらなければ、貧しい者たちは汚染地域や氷に覆われた居住不可能地域に取り残されてしまう」

「多くの人間がより平等に南部への移住ができるように努力されているわけですね」

「そうです。それらの折衝は若手政治家には難しいのです。それでまだこうして現役をさせられています。本来ならとうに引退していなければいけない年齢です」

院内総務の話は、ベルリにもノレドにもとても分かりやすく、そして納得のいくものだった。これが人間が進むべき未来なのだろうか。ガンダムはこの結論を見せるために自分をこの地に導いたのか。ベルリはよくよく考えねばいけないと身を引き締めた。彼もまた、リリンが君主であったならと考え始めていたのだった。


3、


「どうしてスコード教を廃止しちゃったの?」ノレドは院内総務にぶしつけな質問をした。

「勘違いしないでいただきたいのですが、禁止されたのはスコード教ばかりではなく、クンタラの宗教も一緒です。宗教は一切禁止されました。スコード教が持っていた財産は、君主である子供たちが接収しました。これは、現在の子供たちの財産になるという意味ではなく、未来のために使われるという意味です。そうは言っても大したものはありません。教会くらいのものです。それらは接収後は地域コミュニティセンターとして活用しようと現在議会が議論しています」

「スコード教が禁止されても、キャピタルの通貨は使用されていますね」

「独自通貨を発行する議論もなされてはいますが、慎重論が大勢です。全球凍結は、生産可能地域の減少を意味しています。そんな我々が独自通貨を発行するのは自殺行為です」

「でもスコード教を禁止していながらキャピタル通貨だけを使用すると、中央銀行支店はいい顔をしないでしょう」

「あちらもいろいろあって、現在は形式的には独裁国家となっていますから、いまのところは大丈夫です。しかし、フォトン・バッテリーが再供給されるとなると問題が生じます」

「それなのになぜスコード教を禁止したのですか?」

「君主である子供たちと、エネルギーを供給してくれる宇宙の人々との間に何の接点もないからです。地球にエネルギーをもたらす神のごとき人々あってのスコード教だったはずですね。宇宙からエネルギーをもたらす人々は高潔で地球人類の観察者で、我々を善導するものだと。しかし実際はそうではなかった。彼らも人間で、しかも長い宇宙生活でムタチオンに苦しみ、地球にレコンギスタしたいと願っている。でもその地球は現在全球凍結へと向かっています。居住可能地域は赤道付近のベルト地帯だけと予想されており、その限られた土地に水資源が十分にあるかどうかも不明です。南米大陸と東南アジアの一部だけが居住可能ではないかとの予想もされています。最大人口は地球全体で100万人程度との試算もあります。そこに宇宙から優れた文明を持つ人間がレコンギスタしてきた場合、地球人はどのように彼らを迎え入れるべきなのでしょう? 宇宙に住み続けてもらうわけにはいかないのでしょうか? 人々の不安は、神が神ではなかったこと。そして、神のごとき人々は、彼らの故郷があり、同胞を優先しそうだということです。わたしたちの子供たちは、彼ら宇宙の人々の同胞ではない。このような場合、スコード教を自由民主主義の精神的支柱に据えて、いままで通り彼らにエネルギー供給を懇願すべきなのでしょうか? むしろ、あるもので生きられるだけの人間だけ生かすことを考え始めるべきではないでしょうか。生かすべき人間とは、地位や名誉では決められません。それはいつの時代も子供たちなのです」

「子供たちはいずれ大人になりますね」

「そうです。子供を生かすこと、それは大人が率先して死ぬということです」

「そこまで思いつめねばならないのでしょうか?」

「ゴンドワンはいずれの地域も赤道からは大きく外れます。数年前であれば侵略も視野に入れて物事を考えたかもしれませんが、国力が落ちたいまとなっては東の反スコード教、あるいはインドからの侵略にも耐えられそうにない。彼らは暖かい地域に生まれているので、ゴンドワンを侵略しては来ないでしょうが、こちらからあちらの領土を奪うことはもうできない。いまの我々が出来ることは、いかに多くの子供たちを少しでも遠い未来に送るかだけです。子供たちがお賭場になればまたその子供を未来に送ることだけを考える。これを繰り返すために、ゴンドワンは立憲君主主義を採用しました」

つまり、ゴンドワンの権力の中心は、実質的に空洞になっているということであった。「子供たち」という匿名性を持った存在を君主と見做して、その存続を大前提に政治を運営していく。立憲君主主義とは、本質的にそのようなものだったのだろうか?

ベルリはトワサンガの大学生ジル・マナクスの話を思い出していた。彼はトワサンガが王政を敷いていた理由を、男系男子血統が初代王の転生と見做しやすいからだと説明していた。王政とは、統治の正統性を持った人間が生き続けている幻想の上に成り立っていると。ジル・マナクスの君主論はまさに、君主の正統性が虚構と幻想が生み出した物語であることを見抜いていたのかもしれない。

ゴンドワンの子供君主制は、正当性の中心が空洞であることを前提に、子供の中に未来を見い出し、全球凍結を自分たちがいかに生き延びるべきか模索した結果なのであった。彼らは繁栄を諦め、存続に軸足を移したのだった。院内総務は言葉を継いだ。

「もしフォトン・バッテリーの再供給が行われた場合、我々はこの土地で生き続けることができるかもしれない。エネルギーは寒さを克服して、エネルギーが生み出す輝きは食料を作り出してくれるかもしれません。ですがそれと引き換えにもしレコンギスタしてきた者らに自分たちの子供たちが隷属を強いられたらどうしますか。より繁栄するために奴隷になることを我々は選ぶべきでしょうか。大人がそれを決断したとして、決断に参加していない子供は生きるために隷属に甘んじる人生をどう思うでしょうか? そして、もし彼ら子供たちが我々の君主であったとしたら、わたしたちは君主に対してあなたは奴隷になるべきだと言えるでしょうか? わたしたちは隷属を拒否したのです。それが、スコード教を拒否した理由です。クンタラももう御免です。権力の中心に置くべき物語は、自分たちの手で書き上げます。誰かから与えられるものであってはいけないのです」

ゴンドワンは、アメリアのアイーダへの対抗心からクリム・ニックの覇権主義を受け入れ、国力を大きく下げてしまった。大陸間戦争をしながらもレコンギスタの騒動に巻き込まれなかった彼らは、エネルギーの備蓄に余裕があった。アメリアとのエネルギー残量の差が、彼らに戦争の決断をさせた。そして彼らは破れ、反省したのだ。彼らは戦う気力を失い、未来に絶望していた。

「そういえば」ベルリが尋ねた。「ゴンドワンではラジオやテレビの放送が止まっていますね。それはなぜですか?」

「放送は娯楽です。娯楽は人心の興味を政治から遠ざけるので政治にはもってこいのものですが、娯楽に興じた人間は楽しみに満ちた人生に満足して、快楽の存続を求めるようになります。生への執着が負債を子供に負わせ、利益を子供から奪う行為に走らせる。楽しみを持つのは、子供のときだけでいい。彼らは君主なのですから。そして大人はそれに奉仕するだけでいい」

「それは国民に苦しみを押しつけるだけではありませんか?」

「最大の苦しみは、自由を奪われることです。隷属こそが悪なのです」

ノレドは、ゴンドワンの若者たちがボートピープルになってでもゴンドワンを脱出してキャピタル・テリトリィを目指した理由を理解した。ゴンドワン政治家のこの沈鬱な態度に嫌気がさし、彼らはクリム・ニックに熱狂し、彼に従ったのだ。彼らは新天地キャピタルに生きる希望を見い出していた。

なぜなら、ゴンドワンの希望はすでに潰えていたからである。ゴンドワンの子供たちは、大人たちに希望を託され、大人になったときに自分の国家に希望が無くなっていることを気づかされる。大人になったばかりの若者たちはそれに耐えられず、若者らしい勇気で侵略を選択したのだ。

希望に満ちた若者たちが逃げ出したことが、ゴンドワンの沈鬱に拍車をかけていたのだ。


4、


トワサンガ大学の学生だったジル・マナクスは、地球にレコンギスタしたのちアメリアへ身を寄せて就学の道を模索していたが、ニューヨークの壊滅後に命からがら徒歩でワシントンへ引っ越し、行く先々で地球の広さに驚きながらアメリアの政治体制について見分する中で大きな疑問を持つに至っていた。

自主独立の機運の強いアメリアには、小さなコミュニティに小さな支配者が必ずおり、それが憲法や法の規制を受けずに権力を行使していたのだ。アメリアには繁栄以外の目標は存在せず、その繁栄も各個の人間の自主努力に任されている。自主努力といっても限界があるので、多くの人間は何らかのコミュニティに参加してその庇護のもとで自己実現を図る。そのコミュニティに代表という名の支配者が存在するのである。

スペースコロニーであるトワサンガには、日々達成すべき数値目標がある。これが達成されない場合、コロニーは存続の危機に見舞われる。だから誰しも働き、労働工数によって対価を得ているのだが、それらの仕組みは全体利益と各個分配が公正に行われている安心感が前提になければ存続しえない。

そのために議会がある。議会は義務や分配に隔たりがないか監視する役割を負っている。王政は議会の仕組みに正統性を与える担保となり、もし議会が不当な行いばかりした場合に議会から権力を奪うための重要な装置でもあった。それらは男系男子を受け継ぐことで、初代レイハントン家当主カール・レイハントンが存在していると見做す幻想の上に成立していた。

ジル・マナクスは、カール・レイハントンの命が男系男子による継続によって続いていると見做す幻想のシステムに興味があって、彼の直系の子孫であるベルリ・ゼナムに何度か話を振ったことがあったのだが、レイハントン家相続に興味を持たなかったベルリは彼の話をまともに聞こうとはしなかった。ベルリ・ゼナムにとって、権力を血族相続すること自体が不当との判断があるためだジルは判断していた。

だがアメリアへやってきて、旅の途中で各地のコミュニティと触れ合っていると、権力の血族相続はあながち不当とは決めつけられないのだと確証を得た。なぜならどこのコミュニティも、政治力の強い者が権力者となって法を逸脱した支配を繰り広げ、酷いときは腕力によって権力の座に就く人間が決まっていたからだ。権力という力は、本来力がある者が奪うものなのだ。

権力は暴力性を内包しているのが当たり前であった。男系男子による最高権力の相続によって、権力を得る行為から暴力性を排除する仕組みが王政ではないのかと彼は考えるようになっていたのだ。初代王カール・レイハントンの見えない威光が、小さな権力者の出現を監視しているようなものだ。

こうした権力という暴力装置から暴力性を排除していく仕組みについて、ジルはもっと研究してみたいと願っていた。そのために権力者の宝庫であるアメリアの大学で学ぶことは彼の学問にとって重要な意味を持つはずだった。だが、後ろ盾を持たない彼の就学への道は厳しかった。

アメリアは、ビーナス・グロゥブのピアニ・カルータとジムカーオというふたりの人物が巻き起こした騒動を議会への報告書という形でまとめて発表した。また、トワサンガはその歴史書の編纂を10年以内をめどに発表すると地球に向けて公表した。ジル・マナクスは、そのどちらにも自分が関与できない立場であることを悔やんだ。彼の仲間たちはトワサンガに残り、ベルリ・ゼナムのサポートという形でそれらに携わっているに違いないのだ。

キャピタル・タワーは再び運行を再開し、アメリアからは月の内部にある冬の宮殿の調査をするための調査チームが派遣されたという。就学のための道筋がなかなか見えてこない彼は、内心かなり焦っていた。そんなとき出会ったのが、アメリアの投資家で実業家のグールド翁であった。

豊かな顎ひげを蓄えたこの老人は、アメリアのクンタラを束ねる4人のうちの最高齢ながら矍鑠たる人物であった。ジルは彼に庇護を受ける形で仕事と就学への道を切り拓こうとわずかな伝手を頼って彼に接触した。はじめこそ非クンタラであるというジルは相手にされなかったが、トワサンガ大学にいたことやベルリ・ゼナムと面識があることで興味を持たれ、彼はムーンレイスを調べる仕事を得た。

報告書次第では大学への推薦状も得られると聞いた彼は、知っている限りのことを報告書に書いた。それを読んだグールド翁は大変満足して彼を1年間傍で働かせて、そののち大学への推薦状と奨学金を与えることを約束した。こうしてジルは、ようやくアメリアでの就学への目途が立った。

グールド翁のもっぱらの心配は、どうやらムーンレイスのようだった。初代レイハントンと戦い、ある者は地球に追放され、降伏した者はコールドスリープで500年間の眠りに就かされたこの謎の集団は、アメリアのクンタラ指導者たちから異様に恐れられていた。

「キャピタル・タワーというのは、宇宙世紀時代の遺物じゃないかと伝わっていたはずだが」

グールド翁は、年齢に似つかわしくない強い酒と、塩気の多い肉料理を好んで食べる人物だった。翁の屋敷には20名を超える使用人と子や孫が同居しており、何度訪問してもそのたびに初対面の家族と出くわして紹介を受けるようなところだった。

その日もグールド翁は厚切りの肉をスコッチで流し込むような食事を摂っていた。忙しい翁と学生が面会できるのはこのような時間だけであった。翁の関心はムーンレイスとキャピタル・タワーに向けられていた。翁はキャピタル・タワーが500年前の代物であることが納得いかないのだった。

「宇宙世紀からの遺物がそこに残っていた。長く放置されていたが、それを誰かが再起動して使い始めた。こうでなければ歴史は辻褄が合わんのではないかな?」

「それはまたなぜ?」ジルは尋ねた。

「あんなものは宇宙世紀時代の宇宙への憧れのようなことがなくては到底なしえない大事業ではないか。スペースコロニーだの、宇宙船だの、そんなものすべてが」

「そうとも限りません」ジルは否定した。「宇宙で暮らしていると、今度は地球に降りることが憧れになります。人類は宇宙世紀時代に遠く外宇宙にまで達し、のちに地球に帰還してきているのです。キャピタル・タワーは外に出るものではなく、地球に降りるものだったのでしょう」

「わしは宇宙のことはよく知らんが、落っこちてくれば何とかなるのじゃないのかね?」

「そうやって地球に降りてきた人々も多かったと思いますが、500年前はアメリアがまだ産業革命に突入したばかりで、掘り残していた質の悪い石炭を使って産業革命が起こり始めた頃です。そのまま産業革命が進めば宇宙世紀を繰り返していたでしょう。人類が同じ轍を踏まないようにするには、アグテックのタブーを強く意識させて、化石燃料の使用をやめさせなくてはならなかった。そうした人類の行動制限を促すようなインパクトを与えるためには、宇宙との間に道が出来て、天からエネルギーがもたらされる新しい社会を形として見せる必要があったのではないでしょうか?」

「それが君らトワサンガの住人の仕事というわけか」

「伝え聞くところでは」

ジルは、カール・レイハントンの人物像については詳しくない。それは子供にとっては御伽噺で、大人にとっては神話の話だったからだ。そして彼は、メメス博士の存在も知らない。トワサンガの住民がすべてクンタラの子孫であることも当然知らない。トワサンガでフォトン・バッテリーの中継を行ってきた彼らの先祖は、500年前にビーナス・グロゥブの総裁だったラ・ピネレにかの地を追われたクンタラたちであった。

「何度も訊いてスマンが、君はクンタラではないのだな」

「いいえ、わたしはスコード教の信者です。そうはいっても、さほど熱心な信者ではありませんが」

「ふむ。どうも気に食わんな」

「と、おっしゃいますと?」

「数が合わん。クンタラの数が少なすぎる。地球での比率も少ないし、宇宙にクンタラがおらんのもおかしい。わしらは食われる家畜のようなものだったのだろう? だったら牛や馬のようにもっと数が多いはずだ。ところがそうじゃない」

「クンタラであることを忘れているとか。あるいは隠しているとか」

「それももちろんあろうが・・・」

そのとき不意に部屋の扉がノックされ、執事が顔を覗かせ一礼した。執事はドアを手で押さえたまま、ひとりの男を部屋の中へ招き入れた。その顔を見たジルは驚きを隠せなかった。アジア系の整った浅黒い顔立ちは忘れることができない。

「クンタラについてはわたしから説明しましょう」

ジムカーオは張りのある声でグールド翁に微笑みかけると、ジルを一瞥したのだった。


次回第44話「立憲君主主義」後半は、6月15日投稿予定です。


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第43話「自由民主主義」後半



1、


タイは元々多民族国家であった。それが地球の暗黒期に華僑が土地を去ってしまい、残された少数部族などが王室を中心に言語や風習を整え、単一民族国家になった歴史があった。彼らは自らの力によって差異を乗り越えた自信に満ちており、単一性に誇りを持っていた。あっさり人工的な統一宗教であるスコード教を受け入れたのも、民族格差を乗り越えようとする機運が高かったためである。

単一民族は理想を共有しやすい。本来他者との違いを認め合う手段であるはずの自由民主主義は、おおよそ単一民族の国家においては、支配層の認証手段にしかならず、意見集約の手段にはならない。日本屋台において民主主義は、ごく稀に支配層の数人かを拒否するための手段になっていた。

アメリアのような移民国家や多民族社会、あるいはゴンドワンのような個人主義の国家において自由民主主義は、あらゆる立場の意思表明と、異なる理想の意見集約の手段である。だから彼らは選挙において自分の考えを多数派にしようと言論を駆使して訴える。それらに共鳴する者が多い人間が当選して、政治の役割を負う。

大して単一民族に近い国家は、あるべき理想に違いがないがゆえに、改めて自分たちの民族の理想を問うようなことはしない。なるべき人間が支配層になっていく。しかしごくたまに民衆の勘気を買う政治家が出現する。不正蓄財を働いたり、性的にだらしない人物などがやり玉に挙げられる。そんなとき、単一民族の自由民主主義は拒否という形で強く意見表明がなされる。

誰かを選んだり、自分たちの代表を議会に送り込もうと戦うのではなく、資格がないと思われた者を排除することが重要な政治活動になるのだ。これは、集団内で理想が大きく違わないことに端を発した政治行動であり、単一民族国家の特色である。東アジアのように国家が遥か昔の時代の国家体制に準拠している地域はどこもそうだった。

もし東アジアにおいてゴンドワンのような統一国家が模索されたらどうなるか、ハッパは考えてみた。その場合はかなり激しい政治対立が起こり、多数派の形成が少数派を圧迫し、ひいては迫害や弾圧、最悪の場合民族浄化に繋がる恐れがあった。ハッパはアイーダの理想主義的な政策を思い出してヒヤリと背筋を震わせた。アメリアの理想を東アジアに持ち込むことは、東アジアにおいて民族浄化を引き起こす可能性があったのだ。

幸いなことに、アイーダの政策はアジアにおいて受け入れられたといっても、それぞれの民族が承認した程度のことに過ぎず、民族を解散させてアメリアの理想に従おうとする勢力は形成されなかった。もしそうなっていたら、アメリア人はその傲慢な態度によって東アジアに大混乱をもたらしていたはずなのだ。

現在東アジアでは戦争が起こってしまっている。しかしそれは、東に共産革命主義、西に反スコード主義が発生したからにほかならず、アメリアの世界統一主義的価値観の提示を体現しているのは、自由民主主義陣営ではなく、共産革命主義や反スコード教主義の方なのだ。このふたつの勢力は、アメリアと対立する意見であるが、それはアメリア主導の世界に対するアンチテーゼでもある。

そうして世界は、アジアにおいて3つに分裂してしまっていた。東に共産革命主義、西に反スコード主義、南に自由民主主義である。いち早く自前のエネルギーを確保した日本は、船舶を動員し南方国家に働きかけて自由民主主義陣営を固めつつある。だが、タイとよく似た単一民族的国家である日本の自由民主主義は、アメリアやゴンドワンのものとは違う。イデオロギー化された自由民主主義は、国家に強いまとまりを発生させて、覇権主義的気分を熟成してしまう危険も孕んでいた。

タイがまさにそのような状態に陥りつつあった。彼らは東アジアの混乱を収拾させるという民族的理想に前のめりになり、周辺国すべてと事を構える準備を開始してしまっているのだ。自由民主主義にこのような本質的違いがあるとは考えてもいなかったハッパは、ハノイに援軍を出してくれるようにタイ政府に頼み込むつもりであったが、そうもいかなくて困ってしまった。タイ政府は旧ベトナムを侵略するつもりになっているからだ。そうなればもちろんジャングル地帯になっている旧カンボジアやラオスも一気に平定されるだろう。タイの拡張主義に与していいのかどうか、悩ましかった。

ハッパが頭を抱えたまま数日を過ごしている間に、シンガポールから政府の使者がやってきた。乗ってきたのはハッパが逃げてきた日本のディーゼル船である。南方の国家はあらかた日本とその他の国々の同盟がまとまり、タイを軍事拠点にして共産革命主義との対決に踏み切る算段がすでに付いているという。その場合、自由民主主義陣営は、タイから東進し、日本から西進し、南方国家連合は香港と台湾を奪還すべく動くのだという。

「大戦争じゃないか」

ハッパは真っ蒼になった。こんなことをやっているから、ビーナス・グロゥブのラ・ハイデンはフォトン・バッテリーの供給を躊躇し、カール・レイハントンは人類絶滅後の地球の安寧を夢見るのだ。そしてわずか数か月後、地球はフォトン・バッテリーのエネルギーの大解放によって地表が剥ぎ取られ、陸上生物の大半が絶滅したのちに全球凍結に見舞われてしまうのだ。

「半年なんてすぐそこだ。戦争が端緒についたところで人類は絶滅してしまう。なんてことだ。これを止める手段なんてあるのか?」


同じころ、インド政府の内閣調査室の職員に請われる形で、ラライヤはYG-111とともにインドにやってきていた。

「話が違うじゃありませんかッ!」ラライヤは激高していた。「共産主義とかいうのが山を越えてやってきたら戦争になるから助けて欲しいのだとあなた方は言っていたのでしょう?」

東アジアの地理に詳しくないラライヤのために、内閣調査室のメンバーは地図を広げて現状を説明していた。インド政府は目下西に発生した反スコード教の動きと、東のタイ政府の拡張政策を主に恐れていた。そこで、反スコードテロリストの多い旧バングラディッシュを制圧して、さらにジャングル地帯に少数部族がひしめく旧ミャンマーも勢力下に置きたいと言い出していたのだ。

「情勢が変わったのです。ベトナムの状況を分析した結果、共産主義勢力が旧チベットを越えてインドに侵入するのはまだまだ先です。しかしベトナムを放置していたらいずれはそうなります。同時にタイも厄介な国なのです。あの国はもともとわたしたちと同じような多民族な社会だったのですが、地球の暗黒時代に華僑が土地を去ってしまい、少数部族が言語風習を統一化していったごく新しい単一民族国家なんです。彼らは覇権主義的になりやすい。なぜなら部族社会を解体して単一化させることが幸福に繋がると信じているからです。彼らがこちらに攻めてこないように、せめてミャンマーの東側は勢力下に入れておきたい」

「そんな話に協力はできません」

インド政府は、ある貧しい少女が行った「ララアという救済者がインドを救う」との予言を信じており、それがラライヤのことだと確信していた。ラライヤはアジアのことなど知らず、そのような申し出は迷惑この上なかった。

インド政府はYG-111を接収するつもりでいたようだが、ラライヤ以外ではまったく動こうともしない機体に手を焼いていた。彼らがいつ本性を現して自分に銃を突きつけてくるかとラライヤはヒヤヒヤしていたが、予言のことが意外にも彼らに自制心をもたらしているようだった。

しかも内閣調査室のメンバーにはニュータイプの資質のある人間がいるらしく、ラライヤのそばには強い力を持つ女性がいると見抜いているようだった。ラライヤには確信はないが、自分が何者かに支配されることがあるとは自覚していた。それが彼らの話すララアなのかどうかはわからない。もっと別の人物や、あるいはカール・レイハントンかもしれないのだ。ラライヤは、カール・レイハントンの近くにいたときの記憶が曖昧で、何者かに操られていたような記憶も残っていた。

「あなた方は戦争の結果ばかりを気にしていますが、そんなものは人類絶滅の前では些細な争いにすぎません。間もなく人類は滅亡する恐れがあります。これは脅しじゃありませんよ」

「小さな国ひとつを平定するのだって容易じゃないのに、人類が絶滅したりするものですか」

インド政府はまるで取りつく島なく、ラライヤの話は一笑に付されてしまったのだった。

しかし彼女の脳裏には、人類絶滅後の地球を外から眺めた光景がまざまざと刻まれていた。


2、


民主主義は民衆が王に成り代わる制度ではない。政治を担う者らが民衆本位の政治を目指す社会体制が民主主義、民本主義、デモクラシーである。

では、いったい誰が民衆本位の政治を上手くやってくれるのか。その答えはデモクラシーの中には含まれていない。民衆は選挙を通じて人を選び政治に参加するが、賢者から学習する民衆がごく一部であるのに対して、愚者に共感する民衆は常に多数であった。民政はむしろ、民衆が選挙に参加するがゆえに失敗が約束されているといってよかった。

民衆は社会の多数であるがゆえに、民衆本位主義つまりデモクラシーは、多数の幸福を希求する社会制度であるはずであった。では多数の幸福を希求する人間とはいったい誰なのか。民衆は一人一人は個人である。民衆は個人において利己的で、他者の幸福と自分の幸福が同時に達成されない場合、他者を貶めてでも自分の幸福を追求する。自分の幸福が自分の無能によって達成されない場合、他者をうらやみ憎むことさえある。なかには他人の不幸だけが生きがいの人間さえいる。

そんな人々の幸福を追求する代表者とはいかなる人間なのか。ベルリはミャンマーの部族たちとの交流の中でそんなことを考えていた。

ジャングルに暮らして地球の暗黒時代を生き抜いてきた彼らには、風習や習俗の中心に民本主義がある。少数部族は部族全体の利益を第一に考えて行動する。個人と部族が一体となっており、公平な分配によって部族の単位が大きくなることを望み、それを望まない者は容赦なく排除していた。族長は王の立場にあるが、その権威は部族の権威と同一であった。

もっとも未開とされる部族社会において、民本主義つまりデモクラシーは当たり前のものとして存在していた。物事決める際には部族全員が集会所に集まって協議する。そこでは様々な議論が噴出するが、最終的な決断は多数決でなされ、多数決が拮抗している場合は族長に判断が委ねられる。物事が決すれば、皆してそれに従う。意見の表明、意見数の確認、意見の集約、デモクラシーに必要なものは部族社会には当たり前のように備わっていた。

ベルリは周辺都市部に情報網を持つ彼らに、最新のニュースを提供してもらう代わりに、ミャンマーへの各国の進軍を阻止する役目を請け負った。最初に出撃したのは、反スコード教による東進であった。ただし長くは土地に留まれない、それはあらかじめ伝えてあった。

どのような争いも、ガンダムが出撃すればたちどころに敵は逃げ出した。長らくアグテックのタブーとされ、またその前の暗黒時代には世界に存在しなかったモビルスーツは、それを初めて目にする人間にとって神話的な巨人そのものであった。盾と槍で装備した軍勢は、白い巨人の出現によって蹴散らされた。タイの先遣隊ともベルリは戦った。タイの軍勢はモビルスーツの出現に怯えることはなかったが、戦うことなく自国領内へと戻っていった。おそらくは国王に報告されているはずだった。

ジャングルの中で、解体された野生動物と粗末な粥の食事を摂りながら、ベルリとノレド、それにリリンは、山岳地帯沿いにゴンドワンに抜けるルートを取るには、食料が足らなくなっていることを話し合った。ハノイが奪還されたことで共産主義勢力の圧力は弱まっており、反スコード主義勢力はガンダムに恐れをなして近づかなくなった。残るはタイであった。だが、タイは近代兵器も装備しつつあり、交戦になると犠牲者が出る。ベルリはそれを嫌がり、驚いたことにミャンマーの部族たちもそれは望んでいないようだった。報復を恐れたためである。

かといってタイが侵攻するのを待っていたら、残りに期日までにアメリアへ到着してフルムーン・シップからフォトン・バッテリーが搬出されるのを防ぐことはできない。なるべく早くアメリアへ到達して状況を改善しなければならない。一方で、ベルリはいまのままの自分たちがアメリアへ一足飛びに戻っても状況は変えられないのではと危惧していた。何かを学んで、確信をもってカール・レイハントンやラ・ハイデンと対峙せねばならない。それにガンダムがどのようにかかわるのかも考えねばならなかった。

毎晩のようにリリンと話をして、彼女が見ていた破滅後のイメージは、複数の人間が見たイメージではないかと推測できた。ひとりはウィルミット・ゼナム、ベルリの母である。ひとりはどうやらラライヤではないかと思われた。しかもリリンは、このふたりが未来に達する前に、ふたりが見たものを自分の目で見ているのだ。時系列を整理するとそうとしか考えられなかった。

ベルリもノレドもリリンも、地球が破滅する瞬間やその後の全球凍結の世界には達しないまま過去に戻ってしまった。だが、リリンが地球にやってきたとするラライヤにはその後の記憶があるのだ。この違いが何を意味するのかも考えねばならない。

「いろんなことを知って、備えて、それであたしたちは上手くやれるんだろうか?」ノレドは不安そうだった。「ミャンマーの部族の人たちが先進国の近代的な国家より上手くやれていると思っちゃうことすら、本当に正しいのかって不安で不安で」

「心配したってしょうがないけれど」ベルリも徐々に疲労が蓄積していた。「ノレドの話で、地球で行おうとする計画経済主義と宇宙での計画経済は実体としてまったく異なるものだというのは分かった。労働に対する嫌悪から生じた計画経済主義は、物資不足に陥るか、搾取や簒奪を繰り返して他国を侵略する以外に成り立たない。だから覇権主義的になる。一方でタイを見てもわかるように、自由民主主義も覇権的になり得る。ホーチミンでは、共産主義に対抗したサムフォー夫人が今度は領主の座に納まって圧政を敷き始めたという。彼らを部族社会に戻してまで生きながらえさせることが正しいのか、ぼくにもさっぱりわからない。カール・レイハントンは論外としても、ラ・ハイデンの緩やかな文明の死までは受け入れなきゃいけないかもしれない」

するとリリンが首を横に振って話に加わった。

「ハイデンのおじさんは、負けたっていってたよ」

「誰に?」

「レイハントンに。時間切れだって」

「時間切れ・・・。地球が虹色の膜に覆われて、フォトン・バッテリーが大爆発を起こしたことを指しているのだろうか?」

「だったらさ」ノレドが務めて明るくいった。「クリムさんが大気圏突入に失敗したことが原因なんだから、あれを阻止すればよくない?」

「でもなぜクリムが死んだら地球がああいう状態になったのか原因がわからないから。あれもカール・レイハントンの仕業だったらお手上げだ」

連日彼らは話し合ってみたけれど、答えは出そうになかった。


3、


タイから使者がやってきたのはしばらくしてのことだった。ミャンマーには交渉相手になる政府がなかったが、その使者はベルリのところに直接やってきたのだ。使者とは、ハッパのことだった。

「白いモビルスーツというのは、やはりベルリだったか。それにノレドも。無事でよかった」

4人は再会を喜び合った。ハッパはさっそく話を切り出した。

「実はタイでジムカーオに会ったんだ」

「ぼくらも彼に会いました。やはり幻なんかじゃなかったんですね」

「そうさ」ハッパは言った。「幻なんかじゃない。それどころか、彼はいまアメリアのクンタラのグールド翁のところに潜り込んで、アメリアのクンタラに接触しているらしいんだ。これがなかなか面白い話で、アメリアのクンタラは、クンタラの教義のことをまるで信じていないというんだな。つまり、肉体を維持してカーバに至る云々というベルリが話してくれた内容さ。アメリアのクンタラはあんなものはまるで気にせず、現世利益のみを追求した堕落したクンタラらしい。クンタラ解放戦線もかなり変質してしまっているようだ。マスクにいたっては、カーバはこの世界のどこかに実在する場所だと思い込んでいたらしいからね。そんなわけで、ジムカーオはそんな彼らに本当のことを教えたらどうなるか興味を持っているみたいなんだ。絶滅が起こる前に彼はアメリアのクンタラとクンタラ解放戦線のマスクに接触するつもりでいる。もうひとつは自由民主主義のことなんだけど、タイの覇権主義が陣営の中で問題にされ始めて、彼らを押さえ込むためにゴンドワンを利用しようという話になった。そこで君らにゴンドワン政府に反スコード主義を叩くよう説得してほしいというんだ。インドの西で起こった反スコード主義をゴンドワンが牽制するだけで、タイは西を侵略する大義名分を失う。どうだろう?」

「いいと思いますよ」ベルリは賛同した。「タイが侵略してこなければ、ぼくがミャンマーにいる理由もなくなる。東アジアはいまより安定します」

「そうだろう。だからできる限り早めにゴンドワン政府と接触してほしい。ただあそこはクリムとマスクに好き放題されて、挙句核爆発を起こしてメチャクチャになっている。政治状態がどう変化しているのでわからないから、危険な任務になるけれども」

「それは構わないです。ぼくらは行きます。ハッパさんはどうされるんですか?」

「ぼくはハノイで世話になった老人に恩返しするために残るよ。アメリアへ戻ってセレブになる夢は諦めた。だって、世界が破綻しちゃったらセレブなんて意味ないからね。当初の目的だったこの東アジアに骨を埋めるつもりになっている。だから君らが世界の破滅を食い止める英雄的な場面を目にすることはできないけれども、ずっと君らに期待して応援しているから。あ、そうそう。ぼくはハノイでラライヤに会ったよ」

ベルリたちは目を見合わせた。「ぼくらも、遠くからG-セルフの機体は確認したんです。でも、彼女がどんな役割を負っているのか、現在のG-セルフの位置づけに確信が持てなかったので接触しませんでした。彼女はどんな感じでしたか?」

「ううん・・・」ハッパは首を捻った。「前と変わりないような気もしたけど、彼女も時間を遡ってきているわけだから、何か役割があるんだろうね。でも最初の戦闘の後に姿を消してそれっきりなんだ。いまはどこにいるのかもわからない」

ハッパとは一晩を一緒に過ごした。翌朝彼はミャンマーの部族の何人かと話し合ってタイが攻めてこないことを伝え、ベルリたちを解放してもらった。部族長たちはベルリを快く送り出してくれた。

ハッパを見送ったのち、ベルリたちは山岳地帯に沿って北西へ進路を取った。ここは共産主義勢力と反スコード勢力が入り混じった地域であったが、大きな戦争は起こっていなかった。彼らはジャングルにこそ住んではいないが、地域社会が孤立しており、部族社会のような安定的な規律があった。ベルリたちは途中で何度も補給をしながら、西へ西へと進んだ。


そのころラライヤは、インドに出現したという予言の少女の墓の前に立っていた。内閣調査室のメンバーは、ラライヤのそばにもうひとり誰かがおり、ラライヤが予言のララアだと信じて疑わない。しかし、ラライヤはそんなことを言われてもピンとこないどころか何やら不気味な気すらしていたのだ。

「インドを救えっておっしゃいますけど」ラライヤは早くベルリたちを探したくていささかうんざりしていた。「タイや他の国々と共闘して共産主義や反スコード主義と戦えばいいだけでは?」

彼らはインドの利益の追求のことしか考えず、キャピタル・テリトリィの地位が低下したこの状況でさらなる混乱をもたらそうとしているようにしかラライヤには見えなかった。

自由民主主義は、民衆本位主義のことであり、政治を担う人間が民衆本位で政治を行えばそれはおおよそ自由民主主義と見做される。担保となっているのは、部族社会から発展した旧体制の国家であり、各国の歴史や習慣、習俗の中に民衆本位に物事を考えるものがあると前提して物事が成り立っている。それは地球連邦政府が存在しない宇宙世紀以前の社会体制であって、国家がほぼ極限の大きさであった。

キャピタル・テリトリィを中心とした世界体制は、フォトン・バッテリーを供給する神に等しい存在を前提にした、ある意味神治主義に近いものがある。地球連邦政府は国家が近代国家を解散して参加した社会体制で、内部で揉め事が耐えなかった。それもそのはず、自由民主主義を前提に世界政府を作り上げることは民衆本位主義を担保するものがなく、困難だったのだ。

それを補って、地球連邦政府に似た組織を作り出したものが、キャピタル体制であった。フォトン・バッテリーを供給する神に等しい存在が、民衆本位主義を維持する担保となっていた。

それが失われた途端に神治主義の幻想は崩れてしまい、自由民主主義は国家連合として生き残りつつ共産主義のような世界主義と戦うしかなくなった。共産主義は人治主義であり、どこか他の国の誰かの思惑によって別の国家たる存在が服従させられることになる。そこに民衆本位主義の担保は存在しないのだ。労働者なるものならばどこのだれであれ単一の存在と見做すのは、労働者の生活者としての側面を見落としており、民衆本位主義の根幹である文化風習を破壊させられるだけに終わる。

いったんそれが破壊されてしまうと、枠組みとしての近代国家なるものは回復できるが、自由民主主義を成り立たせる根幹だけは失われた状態で、暴力装置としての軍や警察が失われた根幹を補おうとするので一応理想主義の一形態である共産主義よりタチが悪くなる。

どうもインドというのはそういう状態にあるらしい。ただあまりに多民族でありすぎるために、軍政が目立たないだけなのだ。

ラライヤは雰囲気でこうしたことを感じ取っており、インド政府とは距離を置くつもりであった。だが気になったのは、予言の少女の存在であった。暗黒時代の遥か前に宇宙で亡くなったララアというのはどんな存在なのか。その人物が生き返るなどとなぜ予言されたのか。それだけ知っておきたかった。

「リーナは、両親のいない孤児で、取り立てて目立たない少女でした」孤児院の女性職員が話してくれた。「病気がちな子でしたが、1か月前くらいからしきりに予言をするようになったんです」

「どのような予言だったのですか?」

お墓の前に佇む彼女たちの頭に、霧のような雨が降り注いできた。ラライヤのことを予言の女性だと聞かされていた職員たちは大慌てでラライヤを建物の中に避難させた。

「1か月前ですか・・・」

ラライヤはハッパからちょうどそのころ突然ベルリたちが日本行きの船の上空に出現したと聞いていた。つまり、ベルリとノレドが時間を遡って出現したころに、リーナという少女はビジョンを見るようになったのだ。相手の女性は、予言のことについて語り出した。


4、


「リーナが見ていたのは未来の出来事です。この地球で大爆発が原因の天変地異が起こり、地上の生物がすべて絶滅するというのです。最初はおかしな話だと誰も相手にしなかったのですが、地表が剥がれていく描写や大気が土煙で灰色に濁っていく様子、その頭上では虹色の膜が地球を覆っている不気味な姿、さらに舞い上がった砂がすべて落下した後にやってくる氷河期のことなどあまりに真に迫っているので、政府の方が調査にやって来まして、リーナにはニュータイプの素養があると。だからもしかしたらそのようなことが起こるのではないかというのです。しかしそれを、ララアの転生が悪を滅ぼして救うというので、にわかに騒ぎになりまして」

「ララアというのはそれほど有名な方なのですか?」

「古い土着信仰の中の神さまのひとりなんです。インドではスコード教の神でもあります」

ラライヤは首を捻った。

「でも、おかしくありませんか? インドを救うという話ではないような気がしますが」

「ララアはインドでしか信仰されていない神ですから、インドを救うのは当然じゃないでしょうか? だって、信仰していない人たちを救う神さまなんているのですか?」

こうした考えをなくすためのスコード教ではなかったのかと、ラライヤは憤慨した。相手はそんなラライヤを理解できない。アースノイドはどうしてこうなのかとラライヤは悲しくなるばかりだった。

ハノイが自由民主主義陣営に奪還され、タイが周辺諸国への派兵を思いとどまったことで、東アジアは一時の緊張は解かれて落ち着きを取り戻した。そんな折に、ミャンマーを白いモビルスーツが防衛していたとの情報がラライヤの耳に入った。

ガンダムはやはり時間を遡っていたとハッパの話の裏付けを得たラライヤは、YG-111でインドを出ようとした。だがそのとき、インド政府はモビルスーツを戦略に組み込んだ東進計画を策定中で、ラライヤの離脱を認めようとしなかった。

「白いモビルスーツのおかげでミャンマーへ侵攻できなかったわけです」彼らはいった。「それがいなくなっていよいよというときに、なぜララアがこの地を去ってしまわれるというのですか?」

ラライヤは、人と人との間にある断絶というものを強く意識した。宇宙世紀の時代でさえ、近代国家の壁は乗り越えられ、地球連邦政府が作られることになった。地球連邦政府がスペースノイドに対する搾取の上に成り立ち、決定的な対立を招いたことは問題であったろうが、それは果たして地球連邦政府の性質や体制が悪かったためなのか、考え方そのものが間違っていたからなのか、判然としない。

自由民主主義の根幹である民衆本位主義の限度単位は部族社会から発展した国家であるのは間違いないだろうが、それを乗り越える手段として人類共通の価値観を模索したことそのものは間違っていたとはラライヤには思えない。人と人との間にある断絶を乗り越える手段を模索する人類の歩みを否定することは、トワサンガやビーナス・グロゥブの人々の努力を否定することだ。

フォトン・バッテリーの供給は、スペースノイドによる地球支配のひとつの形であった。神治主義とまではいかなくとも、宇宙からやってくる神聖によるアースノイドの支配であり、それはクンパ大佐が根幹を揺さぶるまで上手く機能していた。アースノイドは宇宙からやってくる者の神聖を疑わなかった。それを受け入れる土壌は、遥か昔に発生したアクシズの奇蹟への信仰があったためだ。

「結局はそこに行きつくのか」

ラライヤは半ば監禁状態になったホテルの一室で断絶を乗り越えることに思いを馳せた。

自由民主主義を人類共通の価値観と仮定して地球連邦政府を作る。しかし国家を否定した地球連邦政府は、国家を維持してきた民族の文化・風習・習俗を徐々に否定して破壊していく。分配は約束されず、世界で活躍できる者と出来ない者に分かれていく。民族の中で守られた弱者はないがしろにされ、やがて弱者たちは民族的風習の中で達成されていただけの自分たちへの福祉を、個人の権利だと思い込んで団結し要求を突きつけるようになる。

上流階級に登り詰めた人間は、社会体制の維持のために彼ら弱者への福祉を権利だと認め、彼らに施しを与えるようになる。するとあらゆる立場の人間が権利を主張し始めて、結局は社会体制を揺るがしていく。増税は果てしなく続き、分配資本が足らなくなる。その皺寄せが、宇宙世紀時代にはスペースノイドからの搾取に繋がっていった。連邦政府という国家と国家の壁を乗り越える努力自体が、アースノイドとスペースノイドの間の乗り越えられない壁となって形作られた。

人と人との間にある断絶は、国家と国家、スペースノイドとアースノイドと拡大しながら一向に乗り越えることができず、やがて人類文明は破綻した。

暗黒期の人類を救ったのは、スペースノイドにおいては外宇宙への脱出計画であり、アースノイドにおいては部族社会への回帰であった。

そしてまた、レコンギスタによってこのふたつは接触した。スペースノイドは原始化した人類を観察しながら地球への帰還を待ち、フォトン・バッテリーの配給、キャピタル・テリトリィの整備、スコード教の普及を通じてアースノイドを教導しようと試みた。500年かけてようやく定着したころ、クンパ大佐がばら撒いたヘルメスの薔薇の設計図によって微妙な均衡は脆くも崩れ去った。

そこに、カール・レイハントンが戻ってきた。ニュータイプ研究を極北まで突き詰めた彼らは、もはやスペースノイドやアースノイドといった区別を乗り越え、人と人との間の断絶を克服した存在だった。彼らとの間にあるのは、断絶を超越した人間とそれを拒んだ人間との壁であった。

断絶を超越した人間は、それを拒む人間を必要となしなかった。文字通り新人類となった彼らは、旧人類との軋轢を繰り返し地球を再び壊死させることは拒まず、旧人類の滅亡を考えている。

そんな彼らの方針に目をつけたのが、メメス博士と娘のサラであった。スコード教という敵対者がいなくなり、クンタラ単一となることも、断絶の克服であることに違いない。だが本当にそれは維持できるのだろうか?

ここまで考えてみて、ラライヤは少し気分が悪くなった。サラのことを思い出すと、なぜか彼女は胸が苦しくなるのだった。

「サラ、サラ」

ラライヤはうめくように声を絞り出すと、胸を締め付けていた衣服を強く引っ張った。

何かを命令された気がする。自分には何か強い役割があった気がするのだが、どうしてもそのことを思い出せなかった。インドの土着の神になったというララアとはどんな人物だったのか。ニュータイプだというのなら、カール・レイハントンの仲間だったのだろうか。

「そんなはずはない。わたしは彼を殺すのだから」

YG-111が無人のまま動き出した。機体を警備していたインド人兵士たちは驚いて思わず発砲したが、原始的な銃で傷つくようなものではなかった。暗闇の中に発砲音が響き渡り、火薬が炸裂する光が点滅した。緊急放送用のスピーカーから警報が鳴り渡った。

夜を楽しんでいた若者たちは遠巻きにその様子を囃し立てるように眺めていたが、モビルスーツの巨躯が自分たちに迫ってくると血相を変えて逃げ惑った。YG-111はどのようなことをしても止めることはできず、警官たちはなすすべなく距離を取って見守るしかなかった。

ビルの間を抜けたYG-111は、ラライヤが監禁されていたホテルの前までやってきた。そして壁を一撃で破壊した。

ラライヤの部屋に轟音が響き渡った。壁が破壊されたことでコンクリートの破片が飛び散り、土煙が舞った。破壊された壁の穴から強い風が室内に吹き込んで舞い上がった塵を外へ押し出した。

半ば意識を失ったまま、ラライヤはYG-111の手のひらに乗り移り、外気に晒された。月夜の晩で、風は少し冷たかった。

群衆がそのさまを見守っていた。彼らにとってラライヤはララアという古の神であった。だが彼女は、群衆の叫びに何ら反応することはなく、しばらくモビルスーツの手のひらの上で風に晒された後に、ひとりでに開いたハッチの中へと消えていった。

そしてインドの地を飛び立ち、二度と戻ることはなかった。


次回第44話「立憲君主主義」前半は、6月1日投稿予定です。


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第43話「自由民主主義」前半



1、


革命の衣をまとった簒奪者たちは、ハノイ自由市民軍相手に総崩れとなって、北の砂漠へと逃亡した。西の水源地から馳せ参じた部隊と南のホーチミンから進軍してきた部隊はハノイの南数キロのところで合流して、無人となったハノイ市内へ凱旋した。

そこは惨憺たる有様であった。人民解放軍は奪えるものは何でも奪い、市内には箸1本残されていなかった。井戸には毒が投げ入れられ、知らずに飲んだ兵士十数名が命を落とした。挙句街には火が放たれ、井戸の毒水を汲んで消火すると今度は毒によって草木が枯れ始めた。敗走した彼らは、元の国境線付近まで下がって陣地を形成した。またいつでも奪いにくる算段なのだろう。

「これだけ奪い尽くせばしばらく襲っても来ないだろう」

兵士たちは口々に言い合った。それくらいハノイにはものがなくなってしまっていた。その中で無事だったのが、地方長官の屋敷になっていた教会の納屋にあった農作業用のシャンクであった。フォトン・バッテリーが切れたとはいえ鉄くずとして売られる可能性もあったのだが、教会には他に奪うものがたくさんあったためか、まったく手つかずの状態で放置されていた。

それを見たハッパは満足げに笑みを浮かべた。

ハノイ奪還の夜、街では兵糧として持ち込んだものを盛大に振舞い、宴会が開催された。ハッパはその席で、自分が持っているディーゼルエンジンの説明を行い、廃油さえあれば電気が起こせて、シャンクを利用できると説明した。ハッパはハノイに残るつもりのようだった。

「水源地も押さえたし、これなら難民も帰還させられる。難民が持ち出した物品も多いから、彼らが戻れば少しはましになるでしょう。井戸は潰して新しいものを掘るしかない」

「シャンクが動かせるなら秋には収穫できる。秋が来る前に奪い返せてよかった」

ハッパは少し酒を飲んで上機嫌だった。

「ハノイが共産主義の防波堤となったと聞けば、キャピタル中央銀行の支店も戻ってくるでしょうし、他の自由主義陣営からのサポートも受けられるはずです。投資も増えるかもしれない。問題は、キャピタルの通貨がどれくらい残っているかでしょうね。闇市の人間はしこたまため込んでいたようだけれど。ああいうちょっと黒いお金もあてにしないと、ハノイの再建には時間が掛かりますよ」

「そういうことは、領主さまがやってくださるはずです」

「領主?」

「サムフォー夫人のことですよ。彼女の一族が、ホーチミンからハノイにかけての一帯を守ってくださるというのです」

この話を聞いて、ハッパの酔いは一気に醒めた。サムフォー司祭の寡婦は、はじめからハノイの土地の権利を奪うために行動していたのだ。ホーチミンの地主の娘であった彼女は、宗教家でありながらハノイの地の領主のような仕事を無償で行っていた夫に従いながら、経済的な利権の網を拡げていたのだ。革命軍がハノイに殺到したあの日、夫を半ば革命軍に明け渡すように逃げたのも彼女であった。

「ちょっと酔ったようです」ハッパは席を立った。「風に当たってきます」

そういってハッパは自分のモビルワーカーに乗って、とりあえず知古の農家に身を隠した。最初にハッパのシャンクを雇ってくれた農家である。老夫婦は無事だったようで、ハッパを歓待してくれたが、その瞳は悲しそうだった。気を利かせたハッパは、箱一杯の物資を老夫婦に差し出した。

「何もかも奪われていきました」おじいさんが嘆いた。「納屋の地下に隠してあった米も塩漬けの肉もみんな見つかって取られてしまった。だからハッパさんをもてなすこともできないのです」

「気にしないでください。戦争があるというのはそういうことです」

「もう戦争は終わったのですか?」

「まだ北に人民解放軍の軍隊が残っていますが、おそらく自由主義陣営が援軍を出してくれるでしょうし、前のように簡単には占領はされないはずです。それよりお聞きしたいのは、サムフォー司祭の寡婦のことです。占領前の彼女の評判はいかがだったのでしょう」

ふたりが話し込んでいる間に、おばあさんがハッパが持ってきてくれた物資で簡単な料理作ってくれた。ふたりの困窮ぶりは酷く、ハッパはいたたまれない気持ちだった。

「サムフォー夫人は目立たない人でしたが、裕福な家の人らしく、陽の当たる仕事はやりたがらないと聞いたことがあります。しかし何か新しい仕事を始めるには、夫人の許可がないとできないのは当たり前に言われていたことで、若い子たちはそれに不満を持っていたようでした」

「この土地はサムフォー司祭が領地経営をやっていたそうですが、議会とかそういうものはあったのでしょうか?」

「議会はありました。でも選挙は長らくやっていません。司祭が来る前は何事もみんなで話し合って決めていましたし、議会が出来てからはホーチミンからやってきたサムフォー夫人の親族しか立候補しないので、無投票で毎回当選するのです」

「民主選挙が機能していなかったわけだな」ハッパは難しい顔になった。「夫が実質的な領主代わりになって、親族らが議会を牛耳る。以前はみんなで話し合って決めていたのに、何かをやるには夫人の許可がいると暗黙の了解になってしまった。それでは確かに不満も出ましょう。共産主義を招いてしまった遠因は、民主主義の機能不全にあったわけだ」

「難しいことはわかりませんが」おじいさんは言葉を継いだ。「この戦争で若い子のリーダー格はみんな大陸の人間に騙されて反発する者がいなくなった。もうこれからは、サムフォー夫人の言いつけを守って司祭が生きていたころのように生活に余裕ができるよう頑張るだけです」

「ううん・・・」ハッパは考え込んだ。「なるほど。ぼくはまたいなくなりますが、おじいさんおばあさん、お元気で。秋の稲刈りには必ずここへ戻ってきて教会にあるシャンクを動かして収穫を手伝うと約束しますよ。ぼくはエンジニアでね。こういうのは得意なんです」

老夫婦の家を辞したハッパは、海に抜けると商船に便乗できないか港を訪ねて歩いた。運よく日本の商船に便乗できることになって、バンコクへ向かうことにした。

「いったん共産主義の支配に入ると、物事が独裁的に決まっていく傾向がある。キャピタルがあてにならない以上、政治的に安定した国との相互互恵関係を通じて各国で自由民主主義を機能させる体制を模索する必要があるんだ。アジアでそれを作ることができれば、不幸な人々を救うことができる」

いまのハッパには、ノレドを助ける余裕はなかった。ハノイを奪還したのちも見つからない彼女の行方を捜すことより、自分はより多くの人々のために奔走することが大事だと思い定めていた。

「ノレドにはベルリもラライヤもいる。あのふたりとガンダムがあればきっと彼女は見つかるはずだ。それに、ノレドが見分した共産主義の実情は必ずベルリの役に立つ。きっと大丈夫だ。いや、そうであってほしい」

ハッパは、あと半年もしないうちに地球に大異変が起きて全人類が滅びてしまうとの話を忘れたわけではなかった。しかし彼は自分がその問題に深く関与する必要があるのかどうか、どうしても自信が持てなかった。もうモビルスーツで相手を圧倒すれば勝敗が決する時代ではない。モビルスーツによる暴力は、人間の自由を奪うだけの代物に過ぎないのだ。

遥か過去の、そして遥か未来の戦争技術による圧倒は、物事の本質を何ひとつ解決しないのである。

そうであるならば、そして人類にあと半年に満たない時間しかないのであれば、自分は正しいと思い定めた物事に時間を使おう。ハッパはそう考えた。


2、


そのころラライヤは、ノレドとベルリの姿を探していた。彼女はYG-111から降りることなく、戦闘の序盤に上空から相手を威圧して追い払うと作戦通り戦線を離脱した。そのあと望遠でノレドが監禁されていそうな場所を探し回っていた。しかしどこにも見つけることはできず、時間ばかりが過ぎ去ってしまった。

ハッパのモビルワーカーを探したがこちらも見つからなくなったラライヤは、見ず知らずの土地で途方に暮れてしまった。いったん落ち着こうと、モビルスーツを降りて火を焚いて休んでいたところ、突然背後で物音がした。森の暗闇の中でガサガサと何かが動いている。そして声がした。

「そのモビルスーツはどこの所属なのですか?」

森の奥から出てきたのは、男性2人、女性2人のアーリア系の男女だった。肌の色は黒い。ラライヤは彼らの肌の色や顔立ちが自分に近いことに気づいた。相手もそれを認めたようで、両手を挙げた4人は武器を手にしていないことを示しながら姿を現した。

「わたしたちはインドから共産主義の視察に来た者で、あなたに敵意はありません。少しだけお話を聞かせていただければいいのです」

ラライヤは相手に停止を命じたのちに、いつでもYG-111のコクピットに飛び乗れる態勢を取った。

「このモビルスーツは、トワサンガのものです」ラライヤは言った。「おかしな真似をすると撃ちますよ」

相手は大人しく立ち止まり、荷物を地面に置きながらYG-111を見上げた。この機体はトワサンガ製のモビルスーツで、ラライヤが地球に降下する際に使用したのちはベルリの愛機として使われていたものだ。クンパ大佐の仕掛けた戦争で1度は大破したものの、ハッパが修繕して博物館に展示する予定だったものだ。

「月に人が住んでいるというのは本当なのですね。宇宙世紀時代には誰もが人種を問わず宇宙で生活できたと聞いたことがありますが、遠い神話時代の話なので」

相手はインド政府の調査員で、北の革命勢力がどれほど西進してくるか確かめるために旧ベトナムまでやってきたのだという。旧ベトナムと聞いても宇宙育ちのラライヤにはピンとこなかった。

「トワサンガの方がどうしてここへ」女性の調査員がラライヤに尋ねた。

「トワサンガの王室の女性が誘拐されてしまい、探しているところです」ラライヤが応えた。

「王室があるのですか?」別の男が口を挟んだ。「王政だったとは知りませんでした。地球の王は、その領地の経営者である正統性を示すために神聖を帯びたものになるのですが、月にも同じようなことがあるのですね。月も地球も、だれが作ったものでもないでしょうに」

ラライヤはこれは厄介な連中に絡まれたものだとウンザリした。彼女は地球の政治体制についてそれほど詳しくない。いくつもの国家が陸地に線を引いて争い合っているくらいの印象なのだ。4人は争いの素振りこそ見せないが、ラライヤに興味があるらしく、ぶしつけな視線で彼女を観察していた。

「お名前を聞かせていただけませんか?」男が丁寧な口調で言った。

「わたしはトワサンガのラライヤ。ただの一兵士です」ラライヤは警戒を解かなかった。

「ラライヤ・・・、モビルスーツに乗るニュータイプの兵士なのですか?」

「いえ、そんなことは」

「実は我々は、我々と同じ血を引くという宇宙で神になった少女の生まれ変わりを探しているのです。もう2週間前になりましょうか、宇宙世紀の始まりのころに宇宙で神のごとき力を発揮しながら、ジオンの正統な後継者を守るために散ったニュータイプの少女、名前をララアというのですが、その生まれ変わりが宇宙からやってきて我々を救済するとの予言を得た女の子がいたのです」

「あなたは先ほど共産主義勢力の西進を調査するために来たとおっしゃったはずですが」

「それももちろん重要な仕事です。わたしたちはインド政府の内閣調査室の所属で、決して怪しい者ではありません。わたしたちには救済者が必要なのです。トワサンガのラライヤさま、どうか我々の招きを受け入れてはもらえないでしょうか?」

「そんな話は!」

「信じられないと思います。突然のことですし、信じてもらえないのは当然です。しかし、わたしたちの立場にもなっていただきたいのです。わたしたちは、共産主義の拡張主義が自国に迫った場合、現在の力ではおそらくなすすべがありません。チベットを超えて彼らがやってきたならば、彼らはたやすく我々の国を征服してしまうでしょう。そんなときに、予言を授かった少女が出現した。国中は大騒ぎになりました。少女はいくつかの予言を残して死んでしまいました。内閣調査室はこの予言について調べるしかない。そしてたった4人でこうして敵国に潜入して、あろうことか、宇宙からやってきた我々と同じ顔立ちをしたモビルスーツに乗る女性に巡り合った。しかも名前も似ている」

「偶然です」

「果たしてそうでしょうか?」短髪の男が大きな目を見開いて一歩だけ前へ出た。「わたしたちの話にウソはありませんが、わたしたちが普通のオールドタイプと思ったら大間違いです。あなたのそばには、別の誰かがいるじゃありませんか。ほら、すぐそばに」

男の瞳が怪しげに輝いた。ラライヤの心の中に男の意識が入り込んだ。ラライヤはその気味の悪さにえずいた。吐き気を堪えて後ろに下がったとき、彼女の肩が少しだけ軽くなった。胸が苦しくなったラライヤが膝をついたとき、背後にあったYG-111のメインモニターがギラリと輝き、インド政府の4人を威圧した。

「どうして?」丸いわっかの耳飾りをした女が叫んだ。「ララアはわたしたちの救世主なのでしょう? どうしてわたしたちに敵意を向けるのですか?」

「そうです!」頭髪を剃り上げた男が続けた。「ララアはアクシズの奇蹟を起こしたふたりのニュータイプの導き手だったはずです。その強大な力でどうか祖国をお救いください」

コクピットに誰も乗っていないはずのYG-111が勝手に動き出し、手のひらを差し出してラライヤの身体をすくった。ラライヤは気分が悪く眩暈がしたが、荒い呼吸に顎を上げたままコクピットの潜り込んだ。メインモニターはすでに作動しており、バルカンが4人に照準を合わせていた。

ラライヤは両手で痛む胸を押さえつけて叫んだ。

「殺してはダメですッ!」

するとYG-111は静かになり、操縦系統はラライヤの手に戻った。汗だくになったラライヤは、同じことが宇宙でも2度起こったことを思い出していた。宇宙でジムカーオの操るシルヴァーシップ・スティクスの艦隊と戦ったとき。そして、突然出現した白いモビルスーツと交戦したとき。あのときYG-111は、ラライヤの手によってではなく、敵対しているガンダムに乗っているはずのベルリの意思でガンダムに攻撃を加えた。いったい自分やベルリの身に何が起こっているのか、ラライヤは困惑するばかりだった。

「帰れないのです」短髪の男が叫んだ。「わたしたちはこのままでは帰れないのです。どうか、ララア。わたくしたちに力を。共産主義から国を守るすべをわたしたちに!」


3、


「ぼくがメメス博士の・・・、いや・・・、そうかもしれない。そうかもしれないけど」

ベルリ、ノレド、リリンの3人は、再び再開した日本のバイオエタノールディーゼル船の甲板上でジムカーオ大佐と対峙していた。クンタラとスコードの間で揺れ動くジムカーオは、自分の目的がラビアンローズの破壊とジオン復活阻止にあったことを明かした。同時に彼は、裏のヘルメス財団から命令されたメメス博士の内偵と、スコード教への復讐を心の闇として抱えていた人物であった。

「トワサンガを作り上げたのは、メメス・チョップ博士だ。トワサンガを王政として残したのは、カール・レイハントンではない。メメス博士だ。そして、君を守護しているレイハントン・コードは、チョップ・コードなのだよ。そもそも、あの思念体とかいう幽霊のような連中が、肉体の存続としての王政などというものにこだわるわけがない。王政、そしてその先にある宇宙皇帝にこだわったのはメメス博士だ。理由は君はもう知っているのだろう? カール・レイハントンにアースノイドを絶滅させたのちにクンタラを地上に降ろして、クンタラだけの世界、それはスコードの理想にも叶った理想社会を作り上げる、それが博士の計画だ。クンタラには、スペースノイドもアースノイドも関係ない。国家や民族も関係ない。血筋さえ関係ない。クンタラは教えだ。クンタラの教えを受け入れ実践する限り、誰だってクンタラである。クンタラに差別心を抱いて拒否する心の壁さえなければ、クンタラほど理想的な存在はない。クンタラは与えられたものだけで生きられるだけの人間を生かし、命を繋いでいく。肉体はカーバに至る乗り物でしかないから、ひとつの乗り物にこだわり死を忌避することはない。むしろ死は楽しみですらある。今度こそ魂がカーバに辿り着くかもしれない。クンタラの死には理想に挑んだ者への褒美のチャンスがある。自分たちがより理想主義的であるとの確固とした自信がクンタラにはある。その理想を叶えるために作られたバイオモビルスーツが君なんだよ、ベルリくん。そうと知るからこそ、公安警察のわたしも、検察局参事だったクンパ大佐も、君の本質には触れなかった」

「宇宙皇帝って言ったけど」ノレドが口を挟んだ。「ベルリを宇宙皇帝にするつもりなの?」

「いや」ジムカーオは首を横に振った。「宇宙皇帝はカール・レイハントンさ。言っただろう? メメス博士は彼を殺す手段を知っている。カール・レイハントンはおそらく地球を外敵から守り、惑星を永遠に孤立させたままで無限の時間を自然の変化の観察に充てるだろう。だが彼が殺されてしまえば、地球を防衛するシステムだけが生き残り、クンタラは地球が何者かに守られていることさえ忘れてこの星で種の絶滅が起こるまで生き続ける。皇帝は空位のままクンタラを守り続けるんだよ」

「それが、メメス博士の計画・・・」

「君の計画でもある。君はメメス博士なのだから。さて、この船はシンガポールへ向かうのだが、君らはどうするつもりだ」

「ぼくらは・・・、アメリアを目指しますよ。メメス博士の血筋はぼくひとりじゃない。姉だってそうです。本当にそうなのかどうか、ぼくはまだ疑っていますけど」

「そうか。おそらくはまた会うことになるだろう。そのときに君がもっとましな答えに辿り着いていることを願っているよ。いまのままでは、メメス博士もおかんむりだろう」

それだけ告げると、ジムカーオ大佐は船室へ入っていってしまった。

「行こう」ノレドはベルリの袖を引いた。

ガンダムの乗り込んでみると、すでにリリンが着席してしきりにモニターをいじっていた。ベルリが着席して確認してみると、どれほど離れているのかわからないほど小さく、G-セルフが飛行する姿が映っていた。リリンの話していた通り、ラライヤが時間を遡って地球へやってきたのだ。

「追いかける?」ノレドが心配そうに言った。

「いや」ベルリは首を横に振った。「月のときのように戦闘になるかもしれない。ガンダムとG-セルフがどのように、誰の意思で動いているのかハッキリしない以上、慌てて追いかけることもないよ。それに、ぼくはだんだんわかってきた気がするんだ。虹色の膜に覆われた地球の内部に入れるのは、何か役割がある人間に限られるはずだ。ジムカーオがあっさり地球にいるのも、彼に何か役割があるからなのだろう」

「リリンちゃんが話していたフルムーン・シップの大爆発に関係があるのかな?」

「虹色の膜で覆われたきっかけは、クリムさんが死んだからだ。それはこの胸が感じた。あのとき、大気圏突入に失敗したクリムさんが死んだんだ。その死がきっかけになって、地球は閉ざされた。どうしてなのかはまだわからないけど・・・。そしてすぐ後に、フルムーン・シップの爆発が起こった。そうだよね?」ベルリはリリンに尋ねた。

リリンはしっかりと頷いた。「わたしはそのとき、ビーナス・グロゥブの船に乗っていて、ビーナス・グロゥブに向かっていました。でも、お母さんの目で爆発を見た。お母さんは凄く怯えていた」

リリンはお母さんと呼んだのは、ベルリの義理の母ウィルミット長官のことであった。リリンは続けた。

「お母さんたちは、ザンクト・ポルトにいた」

「え?」ノレドは驚いた。「ベルリのお母さんはザンクト・ポルトにいたの?」

「うん。ゲル法王猊下もいたよ。クン・スーンさんもいた。みんな地球はもうダメだからって、話していた。虹色の膜の中には、ラ・ハイデン総裁も入れなかった。お母さんは地球の中で強い風が巻き起こって、地表を剥ぎ取りながら地球を何周もするのを見て、絶望してしまった。ザンクト・ポルトは、クンタラの人が治めることになって、ウィルミット長官はタワーの運航ができるかどうか、最後にそれを確かめようと、風が収まってから地上に降りていった」

「待てよ」ベルリがある事実に気がついた。「地球を何周もするほどの爆風が収まるのって何か月もかかるはずじゃないか。大気が閉ざされて、地表が氷に覆われるには何年も掛かる。でも、リリンちゃんはまだ地球から月への軌道にいた」

「リリンちゃんが見ているのって、未来なの?」ノレドが驚きの声を上げた。「ザンクト・ポルトから月までは3日。リリンちゃんが月を離れたのは、クリムさんの事故があった数日後・・・。リリンちゃんは、月へ向かう航路の途中で地球でフルムーン・シップの爆発が起こったのを・・・」

「見たよ」

「見た・・・」ノレドは胸の前で手をしっかりと組んだ。「月に到着する前にわたしたちと合流して、すぐに地球に降りてきたのだから・・・」

「フルムーン・シップの爆発はまだ起こっていない?」ベルリも考え込んだ。「そもそも、ぼくらがリリンちゃんと接触したのも場所がどこなのか確認していない。そのときすでに時間を超越していたのかもしれない。ガンダムは空間だけじゃなく時間も超えるんだ。リリンちゃんはガンダムに影響されて何かの映像を見ているんだ」

「ラライヤなら何か知っているかもよ。すぐにハッパさんを探して、ちょっと危険でもラライヤと合流するべきだよ」

「ちょっと待って、ノレド」ベルリは考え込んでいた。「ハッパさんを連れてアメリアへ戻ることはそれほど重要なんだろうか? ぼくはハッパさんが大好きだけど、コクピットを複座に改造してほしくてハッパさんのところへ来ただけじゃなかったかい? だから、そうじゃないんだ。ぼくらが見なきゃいけない現実はもっとたくさんあるはずなんだよ」

ベルリたちを乗せたガンダムの巨躯が突然揺れた。ノレドが悲鳴を上げて座席にしがみついた。全周囲立体モニタは眩い輝きを映し出し、やがてそれは濃い緑色の光景へと変化した。

ガンダムは一瞬で南シナ海の海上からミャンマーのジャングルの中へと移動したのだった。


4、


ミャンマーはジャングルの中で少数部族が離れて定住している社会だった。ガンダムで上空から観察しても、街らしい街はない。市場すら存在せずに、ロバの行商が物流を担う社会だった。

ガンダムがジャングルの中に舞い降りると、さっそく部族の男たちが警戒の威嚇音を発しながら近寄ってきた。リリンとノレドは抱き合って恐怖に震えていたが、ベルリは恐怖を感じなかった。というのも、彼はクンパ大佐の問題の後で、クレッセント・シップの世界行幸を中座して、ユーラシア大陸をシャンクで旅をしたことがあったのだ。

ノレドとリリンは、ガンダムのモニターでベルリが現地の男たちと交渉しているのをじっと見守った。しばらくしてベルリは戻ってきた。

「ミャンマーはもともとフォトン・バッテリーを使っていない文明圏だったんだ。だから大きな変化は起きていないそうだけど、反スコードの何かの運動が起きているらしくて、それに対抗するため南のタイが軍事大国化に突き進んでいるそうだ。ミャンマーは共産主義、自由主義、反スコード主義、それらがぶつかり合う地点にあるために、現地の男たちはみんな警戒をしている」

「警戒たってさ」ノレドは呆れた顔になった。「こんなこと言っちゃ悪いけど、あんな先を尖らせた棒っ切れの武器と、羽飾りのついた冠じゃ勝ち目なんてないでしょ」

「それは彼らもわかっているし、彼らの土地が狙われているわけじゃないってことも理解しているみたいだった。彼らが恐れているのは、ミャンマーが戦場になるってことだ。戦争には戦場があるものだからね。東アジアはコメの生産が盛んだから、どの国も収穫前に自国で戦争をしたくない。だから、ミャンマーに派兵して、ここで戦おうというのさ。ミャンマーには政府がないから」

「酷い!」ノレドはカンカンになって怒った。

ベルリは男たちと話して、彼らが集めた情報の提供の見返りに、ガンダムで防衛任務を負うと約束していた。ミャンマーの部族が知っている情報によると、南側の国では日本の働きかけで軍事同盟を構築する動きがあり、それに対抗するように共産主義と反スコードが存在するのだという。反スコードはクンタラのことではなく、もっと古い拝火教の一種とのことだった。それらは西にあり、彼らもまた東の砂漠を超えて共産主義勢力が侵略してくるのを恐れていた。

ミャンマー人にとって目下の脅威は東の共産主義と西の反スコードが自国内に流入して、南の自由主義勢力と戦争になり、ジャングルが切り拓かれてしまうことだった。

共産党は東から、反スコードは西からやってくる。それらふたつは北から流れ込み、南からは自由主義陣営が入ってくる。アジアは南北戦争の様相を見せていた。南のタイ国からは使者が来て、自分たちの陣営に加わるように説得がなされたのだという。ベルリはモニターに東アジアの地図を映し出して、ノレドとリリンに説明した。ベルリは山岳地帯を抜けて地中海に抜けるルートを示した。

「人間の主義主張にできるだけ関与せず、戦争を食い止めながら西へ向かうには、このルートが最適のはずだ。しばらくは共産主義に気を付けて、大きな山を越えたら反スコードの勢力に入る」

「ああ、まどろっこしい!」ノレドが頭を掻きむしった。「時間も距離も超越できるんなら、すぐにアメリアまで飛んでくれたらいいのに」

「ぼくらはミャンマーで何かを学ぶ必要があるのだと思う。それが終わるまでは、アメリアに近づくことができないのさ」



そのころハッパはタイのバンコクにいた。ホーチミンとハノイでの情報を持つ彼は、タイ政府の庇護下に入り情報提供を求められた。タイは自由主義陣営に属した王政国家で、宗教改革がなされたスコード教国家であった。ただその様式は、キャピタルのものとは違ってエキゾチックさが溢れていた。

ハッパはしばらくアジアを渡り歩いて、アメリアやゴンドワンとの違いを痛感していた。東アジアはそれぞれの国家に個性があり、政治的民族的にバラバラすぎた。フォトン・バッテリーが供給されているうちは、エネルギーの供給を受けるために争いごとは起こらなかったものの、共通の目的を失ったとたんに統一感のなさが戦争に結びついてしまっているのだ。東アジアの問題は、国家体制の古さそのものにあった。

ハッパはタイの宰相と別室で意見交換する機会を得た。太って温和そうな顔をしたタイの宰相は、ハッパに対して自由民主主義の必要性を強調した。しかしどうもハッパには納得いかない部分があった。その違和感は、民族的な単一性に端を発するもので、日本でも感じたことだった。

タイはここ500年で単一民族国家になった珍しい国であった。華僑が土地を去ったことが契機となり、彼らは王宮主導で民族統一を達成したのだ。

おおよそ単一民族で国家が形成されている場合、慣習を共有している人間同士が考える自由には共通の指向性があり、同じ理由で民主主義は意見集約というより支配層が数年に1度受ける認可のようなものになっていた。民衆の意見に幅がなく、共通の理想のようなものが存在しているのだ。

それは文化や慣習が共通した者たちの集団である証であり、移民国家であるアメリアや個人主義的なゴンドワンとは自由と民主が持つ意味合いが違っていた。違うがゆえに自由を認めるしかなく、違うがゆえに意見集約を試みるしかないアメリアとゴンドワンにとって自由民主主義はとても重要な手段であったが、小さな国家が乱立したりあるいは国家が存在せず部族社会であったりする東アジアには、自由民主主義は他者を排除する壁のようなものなのだ。

長らくその他者なるものの存在は曖昧であったが、共産主義と西の砂漠地帯で起こった反スコードの台頭によって、彼らにとっての他者は顕在化した。目の前に本物の敵が現れたことに彼らは興奮し、奔走していた。本来相互の異質性を肯定するための自由民主主義が、東アジアでは結束の題目になっていた。ところ変わればこうも変わるものなのかと、ハッパは旅を決断したことに喜んだ。

相互の異質性を肯定するシステムとしての自由民主主義が機能していなかったために、アジアではフォトン・バッテリーの供給が止まった途端に戦争が起きた。だが、これを自由民主主義の失敗と結論付けるのは浅はかすぎると思われた。異質なものを排除するシステムとして自由民主主義が機能している地域では、内部崩壊が起きない。むしろ結束感を強めるのだ。

どちらがいいとは断言できないのだった。

「ぼくはハノイで共産革命主義を観察する機会があったわけですが、結論から申し上げるとあなたがおっしゃるように、彼らの本質は簒奪にあります。共産主義者の労働に対する嫌悪は生産性の低下を招くゆえに、必要十分な分配が受けられません。分配を求めて革命を起こした彼らは、いやいやなされる最低限の労働で王さまのような生活を求めます。それをごく少数に与えようとするだけで、侵略して奪うしかなくなるのです」

「そうでしょう」宰相は満足げに頷いた。「そこで我々は旧ベトナム国を侵略しようと思うのです」

「ちょっと待ってください。それは飛躍が過ぎるのではありませんか?」

「あちらから来られたのならわかるはずです。あの地域は以前共産国家になっていたことがあるので、容易に共産化します。共産主義というのは身体から消えない毒のようなもので、1度それに汚染されてしまうと何千年経とうが同じことを繰り返します。西の砂漠の人らも同じです。どうせ国家を維持するだけの国力がないのですから、自由主義陣営の我々に支配される方が彼らも幸福になるでしょう」

「待ってください。タイはベトナムと国境を接していないでしょう。旧カンボジアとラオス、いまはジャングルになっている地域があるはずです。侵略などと」

「心配には及びません。これを機にベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラディッシュ、ブータン、チベット、ネパール、最後にはインドも含めてすべて我が国の支配下に置くつもりです。インド以外は国家がないのですから、これを機に」

「いやいやいやいや」

ハッパははたと気づいたのだった。

国家主義を肯定するために機能していた東アジアの自由民主主義は、共産革命主義、反スコード教の拡大を前にして、覇権主義的イデオロギーに変化しつつあったのだ。単一民族は理想を共有しやすい。その性質が自由民主主義の本来の役割を変質させているのだった。

自由民主主義は、互いの異質性を認め合う相互理解のための政治手法とは違う側面を持っていた。



次回第43話「自由民主主義」後半は、5月15日ごろ投稿予定です。


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第42話「計画経済主義」後半



1、


多くの人間が細心の注意を払って生産するから労働生産性が上がっていく。出来上がったものに付加価値がついて値が上がれば、労働の対価も増える。しかし、すべての物資が分配の約束の元に政府の管理下に入る場合、付加価値の評価をつける人間はない。物資に優劣をつける人間がいないから、物資は数や重さによってのみ判断される。分配の約束は、労働価値の棄損に他ならないのだ。

だからこそ、革命に参加する人間は労働価値を向上させる能力のない人間に限られる。

ホーチミン民兵の士気は高かった。ベルリが敵を威圧したのちにすぐさま開始された戦闘で、ホーチミン民兵は人民解放軍を圧倒した。土地さえ取り戻せば自分で利益を上げていける自信に満ちた彼らと、土地など分け与えられても耕作がつらくて仕方がない人間とでは土地への執着心が違う。土づくりの苦労を厭わない働き者は、ただの労働者ではなく才能と知識に満ちた技能者だった。

人民解放軍は旧式の鉄砲やダイナマイトが最も威力のある武器だった。火薬の材料になる硝石は資源として尽きていただろうから、新たに生産されたもののはずであった。彼ら人民解放軍は、砂漠化した国土を見限り、火薬を作って南進を開始したのであった。そこにスコード教の理想はない。

北の人民解放軍には、机上で立てたハノイでの生産計画があり、それで水源地の確保が必要だと判断して作戦行動に出ていたのだが、軍上層部で計画を立てている人間と革命に参加している下層兵士との間には意識に大きな隔たりがあった。計画を立てるだけの官吏と、労働嫌いの労働者は、互いに相いれないまま同じ革命を達成しようとしていた。このふたつの目的が一致するのは、革命初期の簒奪行為までなのだった。

人民解放軍は一気に総崩れとなり、ジャングルの中へと消えていった。追撃を行うことになり、民兵たちは兵糧として作っておいたパンを腹に詰め込むと、鉈を手にジャングル深く入っていった。ジャングル地帯での戦闘も、不慣れな人民解放軍に勝ち目はないはずだった。

簡易的に流れを堰き止めつつあった木製のダムは、ベルリのガンダムによって水量を調整しながら破壊された。これでまた下流域にも農業生産に必要な水が供給されるはずであった。

「いやぁ、本当にありがとうございました。ベルリさんがいなかったらもっと大きな被害が出ていた」

「ぼくはなにもしていません」ベルリは謙遜したがそれは本心だった。「ホーチミンに押しかけた難民を元の土地に戻すことが、一番の解決方法でしょうから、手伝ったまでです」

「いったんホーチミンのサムフォー司祭の寡婦のところへ戻られますか?」

そのとき、後部座席にいたリリンがベルリの袖を引っ張って首を横に振った。リリンはサムフォー司祭の寡婦が彼女を人質にしようとしたことを知っているのだ。ベルリは司祭の妻がホーチミンの地主の娘であることを聞いていたので、彼もまた南への帰還をためらった。

「ぼくは大切な人がハノイに侵入していて、どうしても心配なんです。いったん彼女と友人の男性を救出しようと思ってます」

「ハノイに行かれるのですか」民兵のリーダーは少し残念そうであった。「ハノイには我々の別動隊が進軍して陣地を形成しているはずです。もしかしたらハノイに攻め込んでいるかもしれないから、早めにいかれた方がいいかもしれません」

「ありがとうございます。そうします」

こうしてベルリは青い空にガンダムを飛び上がらせて、東へと向かった。


そのころハッパは、突如出現したYG-111のラライヤに助けられて、ホーチミンに戻っていた。彼らを助けた民兵はハノイ近郊に陣地を形成して人民解放軍との本格的な戦闘に備えていた。ハノイの粗末な市街地から、さらに多くの難民が南に向けて押し寄せていた。

ハッパはサムフォー司祭の寡婦に事の次第を報告した。彼女はさも残念そうに首を振った。

「やはり共産主義は上手く機能していませんか」

「そもそもですね」ハッパは眼鏡を直した。「北の大陸の砂漠拡大に伴って耕作地や居住区が失われている問題が根底にあるわけです。農産物の収穫量は減るのに、人間は一気には減らない。人手が余った影響で共産党による革命軍の編成が容易になった。それだけなんです。人民解放軍というのは、あれは武装難民にすぎません。武装難民が共産主義という理論武装をして、砂漠で作った火薬を頼りに南進してきているだけ。あれはもっと北の前線で食い止めないと、どこまでも南下してきて現地民を奴隷化していきます。経済体制なんかあってないようなものですよ。彼らは供給できないのですから」

「夫も似た考えでした」夫人は溜息をついた。「やはりホーチミン軍を編成して、ハノイを奪還するよりほかなさそうです。協力していただけますか?」

「大事な知り合いが捕虜にされてしまったのです。彼女を取り返さなきゃいけない。協力します」

ふたりの会話を、ラライヤはただ黙って聞いていた。ハッパは彼女の顔から表情が消えているのを訝しんだが、ベルリらと同じように突然出現して、しかもトワサンガ出身の彼女が見たこともないようなアジアの国にやってきた緊張からそうなっているのだと勝手に解釈した。


同じころ、ハノイの再生計画作りが上手くいかなかったノレドは、処刑を待つ身に戻っていた。

彼女とハノイの元教師たちは死刑判決を受けたのちに、計画経済を教授するとの名目で刑の執行を延期されていたが、人民解放軍による略奪の傷跡は大きく、来年分の食い扶持を水資源の売却に頼る計画を立てていたところに、ベルリたちによる上流域の奪還の報がもたらされて、一気に信用を失ったのだった。彼女たちは再び竹を編んだ籠の牢屋に放り込まれて一夜を明かしていた。

そこに、大きな銅鑼の音が響き渡った。何事かと身を乗り出すと、上空に聞き慣れた飛行音がこだました。それは、ベルリが搭乗するガンダムの飛行音であった。続いて鉄砲の破裂音が何度も何度も響き渡った。周囲の喧騒は大きくなり、鉄砲の音は数分おきに数が増えていった。

ベルリが救出に来たと確信したノレドは、他の処刑メンバーを起こして、真四角の竹の牢屋をゴロンゴロンと動かしながら目立つ場所へ移動しようとした。監視に見つかると厄介であったために、人の気配がするたびに泊まって寝たふりをする。いなくなるとむくりと起き上がり、みんなで籠を移動させていくのだ。広い庭に出ると、上空にガンダムの巨大な影が飛び去るのが見えた。

月が明るく照る夜だった。ノレドは必死にベルリに助けを求めた。すると遠くへ飛び去ったガンダムが戻ってきた。ノレドの大声で籠ごと脱走したことがバレてしまい、大慌てで参集してきた兵士たちはノレドらに銃口を向けて撃ち殺そうとした。そのとき、ガンダムはゆるりと庭に降り立って、メインモニターを強く輝かせた。その迫力におじけづいた兵士たちは、転がるように逃げていった。

ガンダムのハッチが開いた。ベルリは情けない顔で竹にしがみつくノレドに向かって叫んだ。

「だから言わんこっちゃない!」

「もういいから助けて!」

ベルリはコクピットに戻って籠ごとノレドを救出した。「ハッパさんは?」

「それが離れ離れになっちゃって、どこにいるのかわからないのよ。でも捕まったことは確か」

「いったんここを離れよう」

ガンダムが再上昇したときだった。ガンダムのモニターは遠い海上から送られてくる光通信をキャッチして文字情報に変換してモニターに映し出した。それを送ってきているのは、しばらく前に袂を分かった日本のバイオエタノールディーゼル船だった。


2、


ホーチミンの民兵組織は、ハノイ自由市民軍と名を変えて5千人もの大軍を編成した。水源地奪還作戦にも2千人規模の兵を出していたことから、ハッパはサムフォー司祭の寡婦の動員力に舌を巻いた。宇宙世紀やそれ以前の人口の多かった時代ならいざ知らず、フォトン・バッテリーの供給で人口を管理されたリギルドセンチュリーでこれだけの兵力を集めるのは容易ではないはずだった。

作戦には、ハッパのモビルワーカーとラライヤのYG-111も加わることになった。ふたりは戦闘への参加を了承しながらも、ノレドの身柄確保を優先しようと話し合った。軍の話では、水源地に派遣されたハノイ自由市民軍はすでに水源地を奪還して、一部が残党狩りを行いながらハノイに向かって進撃中とのことであった。南と西から挟み撃ちにして人民解放軍を北へ押し返す作戦だった。

ハッパは、サムフォー夫人の協力を得てモビルワーカーの武装強化を図り、張り切って戦闘に参加していた。彼がやる気になったのは、ある目的を見つけたからであった。彼は人民解放軍に潜入して調査をしたときに、計画経済体制は計画を放棄することに他ならないと見抜いたのだった。

ホーチミンからハノイに進軍する途中で、ハッパはそのことを自由市民軍の兵士に話して聞かせた。

「ルールの中で自由に経済を回している限り、細かい計画は民間が勝手に考えて、成功したり失敗したりするんだ。成功したやり方は大きな富を生み、それを見た人らがやり方を真似し始めて、失敗したやり方は淘汰される。計画なんてものはほとんど民需を見据えて機動的にやらねばならないことだから、公的機関の立てる計画経済なんてものは生産から流通、分配に至るまでうまくいきっこない。そしてこれが肝心なことだが、民間が細かい需要に対応するおかげで、公的機関は大きな需要だけを計画することができる。民間需要ではない公的需要には、公的機関が対応するしかない。インフラの整備などがそうなんだけど、フォトン・バッテリーの配給停止のような大きな事態が起こった場合も、公的機関の出番となる。サムフォー司祭がバイオエタノールエンジンへのシフトを急いだのは、秋の刈り入れシーズンまでに何とか電力を確保して農業用シャンクを動かしたかったからだ。ハノイは明らかにシャンクを前提とした人口過多の状態にあったから、電力がなくなればすぐに飢える人間が出るか、果てしない重労働に喘ぐしかないと彼はよくわかっていた。そして、公共事業としてバイオエタノールの導入を考えていた。ところがキャピタル・テリトリィの混乱で、世界的に資金の供給が細っていたものだから、いつものように投資家から資金を確保することができなかった。それで彼は税を免除せず、増税も示唆していたんだろう。餓死や手作業による膨大な土地の刈り入れ作業に従事するより、少しの増税の方が負担は軽く済んだはずなんだ。ところがそれを、個人の利益のためだと政治利用されてしまったんだ」

「サムフォー司祭はやはり悪くなかったんですか?」

「悪いどころか、おそらくは最善の策を立てて行動していた。サトウキビの生産が上手くいけば、ハノイはエネルギー生産地として莫大な利益を生み出して、かなり早い段階で日本からディーゼル発電機を購入できたんじゃないかな。それで農業用シャンクを動かせば、ほとんど経済規模を落とさないまま発展する可能性もあった」

「だったらそう言ってくれればよかったんだ」男たちは少し不満そうだった。

「焦っていたんだと思う。スコード教の司祭である彼は、ビーナス・グロゥブとの関係が切れてしまうなんて考えたくはなかったろうし、ギリギリまでフォトン・バッテリーの再供給に望みを繋いでいたはずだ。でもそれがどうなるか確信が揺らいで、しかも秋がどんどん迫ってくる中で、説明不足のまま奔走していたんじゃないかな」

「そうだったんですか・・・」

サムフォー司祭は春には殺されており、そのあとすぐにハノイは人民解放軍に支配されていた。

「サムフォー夫人にこのまま従って、司祭の計画を引き継ぐことが最善ということですか?」

「ぼくは夫人がどんな人物か知らないから、そうだとは断言はしてあげられないけど、人民解放軍のハノイ統治では、おそらくは来年用の籾さえ飢えに苦しんで食べてしまうほど困窮するだろう。分配の約束に騙される人間がいるけれど、分配するには一度簒奪しなければならない。分配の約束は他人から合法的にモノを奪うウソに過ぎないんだ。騙されたと怒る人間を粛正し、一部の人間にだけ十分に分配して、彼に共産主義を賛美させれば、人民はいかようにも操れる。権力者が、奪うのも殺すのも自由にできるような社会体制にならざるを得ないのが共産主義というものだ。普段仕事が出来なくて他人からバカにされている人間や、怠け者で他人より貧しい人間が、他人から奪って逆らう人間を殺す夢を見て革命に参加する。本当に社会にためになっている人間は、あんなものに参加するわけがないんだ」

ハッパが話し終えると、期せずして拍手が巻き起こった。まさに自由市民軍とはそうした人々の集まりだったからだ。

柄にもなく演説してしまったハッパは、勧められるままに少しの酒を飲んで、焚火を囲む輪から離れてラライヤの様子を見に行った。かつてはともに旅をした仲間であるラライヤであったが、しばらく離れているうちにかなり雰囲気が変わっているように見受けられた。

「十分食べたのかい?」ハッパは言った。

「ええ」ラライヤは心ここにあらずといった雰囲気で応えた。「いただきましたよ」

彼女は空を眺めていた。星空には大きな月が浮かんでいる。ラライヤは小さな声で呟いた。

「わたしはもしかしたら、1年前の世界にやってきたのかもしれないんです」

「え? 半年じゃないのかい? ベルリとノレドはそう言っていたけど」

「ベルリとノレドが消えてから半年が経過していました。地球は虹色の膜のようなものに覆われて、外から観測が出来なくなっていたんです。薄く透けて見えるだけです。そして、地上で大爆発が起こりました。聞いたところでは、フルムーン・シップに積んであったフォトン・バッテリーを、ラ・ハイデンの許可なく降ろそうとしたために自爆装置が作動して大爆発を起こしたとのことでした。そのあと地上は、何もかも吹き飛ばす爆風が地球を何周もして、地上の生物は絶滅したそうです。風が収まると、地球は分厚い雲に覆われて、全球凍結してしまいました。これは薄く透けた膜の外側から見ただけなので、本当のところ何があったのかはわかりませんが、カール・レイハントンは人類の絶滅を確認して、眠ることが多くなりました。カール・レイハントンはビーナス・グロゥブに温存されていたラビアンローズを持っているので、そこで生産されたスティクス、シルヴァー・シップと呼んでいた細長い戦艦が再び量産されて、地球の外縁軌道を周回するようになりました。虹色の海に泳ぐ銀色の魚のようでした。わたしはそれを、ザンクト・ポルトから眺めて、眺めて・・・、何をしていたんだろう?」

「ザンクト・ポルトにいたのかい?」

「はい。いたはず・・・ですけど、サラ・・・? なんだか記憶が曖昧で」

「無理をしないことだよ」ハッパは気を使った。「戦闘になっても、G-セルフは威嚇するだけでいいんだ。ラライヤはもう殺さなくていいよ。ぼくはやりたいことが決まったから、戦うけどさ」

「ハッパさんがやりたいことって何ですか?」

「本当はアメリアへ戻ってセレブになるはずだったんだけど、もっとやりがいのあることを見つけたからね。エンジニアとしても、ひとりの人間としても、やりがいのある仕事さ」


3、


竹で編まれた牢屋を手に抱えたまま、ガンダムは海へと出た。そこには日本の船が沖合に停泊していた。ベルリは甲板にノレドたちを降ろして、かなり頑丈に編まれた牢屋を日本人乗組員に壊してもらった。ベルリとリリンは機体を降りて再び日本人と相まみえた。

「気づいてもらってよかったです」

船長は嬉しそうに再会を喜んだ。少し前に彼はガンダムに銃を向けて、自由民主主義を取るか共産革命主義を取るか二者択一を迫った人物であった。その顔はまるで銃口を向けたことなど忘れたかのように屈託がなかった。一方のベルリは、そこまで大人になり切れていなかった。

船長は苦笑いを浮かべた。子供を相手にした大人の顔であった。ベルリは息を整えて尋ねた。

「フィリピンに向かわれたのでは?」

「マニラでの用事は終わりました」船長は応えた。「マニラではアメリアのグールド翁のプロジェクトが正式に発動しまして、バイオエタノール燃料の原料になる作物がピックアップされて、試験生産が始まっています。我々日本人は、こうしてポスト・フォトン・バッテリーの世界へ向けて着々と準備をしているのですが、やはりフォトン・バッテリーの再供給は無理だと理解してよろしいのでしょうか」

フォトン・バッテリーの再供給はおろか、人類は存亡の危機に立っているのだった。だがそんな未来予知のような話をしてどうにかなるものではない。ベルリは、ハノイやホーチミンでの出来事を話した。船長はどうやらそれらのことは予想していたようで、特に驚く様子もなかった。ベルリは言った。

「ぼくは・・・、あなたが香港で取った行動がどうしても許せなかった。でも、ハノイで戦闘に参加して、結局共産主義は革命参加者の精神の本質において他人からの簒奪行為に偏る傾向があるのだと知りました。簒奪行為は敵対者と戦闘になって、それが集結するまでずっと続く。共産革命主義は、自由民主主義の防波堤にぶつかって波が砕けるまでずっと簒奪を続ける。香港でのことは、そういうことだったんですね」

「ベルリさんの年齢なら、本来は知らなくていいことかもしれません。しかし、あなたにはガンダムがある。それは無限のエネルギーで動く戦闘兵器だと日本で聞きました。そんなものを持っている人間が共産党に加担すれば、ベルリさんが言う通り、簒奪者は全地球人から奪い続ける。そしてとんでもない巨大権力に成長して、誰も歯向かえなくなる。それは避けねばならないのです」

「いまでは、理解しています」

「ベルリさんに信号を送ったのは・・・」

船長が話しかけたとき、ようやくノレドとリリンが食事を終えて甲板に戻ってきた。ノレドと解放者たちは、船長の行為で数日振りにまともな食事にありついたのだった。ノレドはリリンを伴ってすぐにでもハッパの救出に向かうつもりだった。リリンは船首まで走っていって、海風を顔に浴びていた。

船長はベルリとノレドが仲良く並んで立つ姿を見て、目を細めた。

「実はあなた方に信号を送ったのは、マニラでおふたりの仲人だという方とお会いしまして。彼がこの位置から光信号を送れば、相手はキャッチしてくれるからというので」

「仲人?」

ベルリとノレドは顔を見合わせた。

すると船尾の方から、ひとりの壮健な中年男性が歩いてやってきた。中肉中背でアジアでは目立たない顔立ちをしているが、ベルリとノレドはその顔を忘れようもなかった。

「大佐・・・、ジムカーオ大佐? 仲人って・・・」

ジムカーオは、宇宙で相まみえていたときより若干浅黒い顔つきになっていた。アジア系は住む地域の気温や湿度によって肌の色を大きく変えるのだ。船長はふたりに男を紹介した。

「こちらはアメリアのグールド投資銀行からいらしている、ジムカーオさんといいます。なんでも、キャピタル・テリトリィやトワサンガでおふたりとは知り合いで、仲人をされる予定だったとか・・・。そうお聞きしていたのですが・・・、違うんですか?」

船長は、ベルリとノレドの引き攣った顔を見て、少し心配になったようだった。そんな彼の言葉を引き継いだのは、他でもないジムカーオだった。

「いや、何も違わない」ジムカーオは爽やかな笑顔でベルリに手を差し出した。「トワサンガで仲人をするつもりだったんだが、すったもんだあって結婚は延期になってしまっているんだ。そうだね?」

ベルリは差し出された手をそっとつまむように握り返した。

「まったくベルリくんは子供のままだね」ジムカーオはあけすけに言った。「誰もが助かる一番いい方法を最初に示してあげたのに、婚約者から逃げるなんてね。でも、ずいぶん仲良くしてるじゃないか」

「ノレドとは・・・、いえ、」ベルリは強く首を横に振った。「どうして死んだはずのあなたが」

「これだよ」

ジムカーオは船長に向かっておどけたような顔をした。船長は気を利かせて船室へ戻っていった。彼がいなくなったのを見送ったノレドは、ベルリの腕を取ってガンダムに乗り込もうとした。

「行こう!」

「待って」ベルリは余裕綽々の風体でいるジムカーオから瞳を逸らすことができなかった。「いまとなっては、あなたがやろうとしていたことの意味が少しだけ分かるかもしれない」

「わたしはね、ベルリくん」ジムカーオは潮騒に負けないように声を張った。「ニュータイプの食人習慣が残っていた時代の生き残りなんだ。ビーナス・グロゥブで起こっていたことで、もう500年も前の話だ。クンタラの子供に強いニュータイプ現象が現れたとき、その力を人間に食べられることで役立てるか、スコード教に改宗して力そのものをヘルメス財団に役立てるかと迫られて、わたしの親は子供をスコード教に改宗させて生きながらえさせた。その日からわたしは、クンタラでありながら、スコードであり、ヘルメス財団の一員だった」

「あなたがやったことはッ!」ベルリは語気を強めた。

「わたしがやったことは、カール・レイハントンからラビアンローズを奪うことだった。ラ・ハイデンがビーナス・グロゥブへの攻撃であちらに残っていたラビアンローズを破壊してくれれば、それで終わっていた話だ。しかし彼はしくじった。カール・レイハントンがそれを阻止したともいえる。とにかく、ラビアンローズ、あの宇宙世紀の記憶庫は生き残って、ジオンの手に渡ってしまった」

「なんであなたがそんなことに首を突っ込んでいるの?」ノレドが警戒しながら尋ねた。

「ビーナス・グロゥブの公安警察の人間だったからさ。強いニュータイプ能力が発現した子供だって言っただろう。つまり、道具として利用されていたってわけさ。当時の総裁は、ラ・ピレネという狡猾な男だったからね。わたしが内偵していたのは、メメス・チョップだった。ラ・ピレネは彼のことを非常に疑っていたから、トワサンガがビーナス・グロゥブの地球圏への関与の妨げになることを恐れていた。クンタラをクンタラに監視させていたのさ」


4、


「でも、あなたは・・・」

「死んだって言いたいのだろう? ラビアンローズには外宇宙からの帰還者の遺伝子情報やクローン技術など、アグテックのタブーになっている技術がたくさん詰まっている。ラビアンローズとその操作方法を知っている限り、生き続ける方が容易く、死ぬ方が難しい。わたしがクンタラであり続けたならば、死をもって肉体をカーバに運ぶことを選んだだろう。だがわたしはそれを許されなかった。だからこうして生きている。なぜ生きねばならないのか理由がわからないままね」

ノレドはジムカーオから離れたがっていた。しかしベルリは、疑念の多くを彼が解消してくれることを期待していた。なぜなら、ベルリには時間が限られているからだ。半年も経たないうちに、地球は滅び去ってしまう。ベルリはそれをどうしても阻止せねばならなかった。

「ラビアンローズで永遠の生命をむさぼっていたわたしの同志たちは、カール・レイハントンに殺されてしまった。連絡を受けたわたしは、あちらのラビアンローズがどうなったかわからないまま、トワサンガのラビアンローズだけは破壊してカール・レイハントンに渡さないつもりだった。そのときちょうどレイハントン・コードが発動してラビアンローズがパージされた。だがね、わたしは純粋なスコード教徒ではない。クンタラの教えを強制的に奪われた恨みもあったのでね、トワサンガのヘルメス財団の連中はすべてラビアンローズとともに葬った。生き残ったのはわたしひとりだ。それを罪だと断言するには、ベルリくんは若すぎる。両親をカーバに送り、時が来れば死ぬはずだったクンタラの自分がこうして生命を乗り継いで生き続けていることは、決して幸福ではないのだよ」

「あなたは・・・、いわば裏のヘルメス財団の人間で、もうビーナス・グロゥブにもトワサンガにも仲間は残っていないのでしょう? それでも数百年前の命令に縛られているんですか? 自分で、この世界のためにその力を使おうとは思わないのですか?」

「さて、それだ。自分からクンタラとしてのアイデンティティを奪った憎い連中はみんな死んでしまった。わたしの復讐はそこで終わっている。わたしに残っているのは、メメス博士を内偵する仕事だけだ。そして彼が仕掛けた何かは、こうして始まっている。同じクンタラとして彼を助けるべきなのか、それともスコードのために彼の計画を阻むべきなのか、それはまだ決めていないんだ。もっとも、自分にそれを成す力があるかどうかは自信がないのだがね」

「メメス博士の計画を教えていただけますか」

「もちろん教えるよ。彼はカール・レイハントンを利用して、クンタラ以外の人類を葬ったのちに、何かの仕掛けでカール・レイハントンを殺してしまおうと考えていた。仕掛けはわからない。だがその方法を知っていたようだ。ヘルメス財団の人間を絶滅させ、地球で生き残っている人類を絶滅させれば、残るはクンタラだけだ。クンタラが地球を支配すればいい」

「そんなことできないんだよ」ノレドが反駁した。「もうすぐみんな死んじゃうんだから」

「結構なことじゃないか。クンタラはそれでも生き残っているんだ。おそらくはザンクト・ポルトだろう。あそこにいる限り、地球がどうなろうと災難は免れる。地球の再生にいったいどれほど膨大な時間が掛かろうが、クンタラはその長い時間を観察するわけじゃない。クンタラは短い時間を生きるがゆえに、長い時間を生き残る。そういう存在なんだよ。地球が再び住めるようになるまで、クンタラは待ち続ける。そして、カール・レイハントンは思念体であるがゆえに彼らを止めることができない。彼らは思考を共有している。いったんクンタラを保護すると考えを共有してしまえば、それは容易に覆らない。それが彼らの弱点だ。それをメメス博士は突いたってわけだ」

「あなたはカール・レイハントンとは戦わないのですか?」

「なぜ? 誰のために? クンタラが世界に満ちて何が悪い?」

「そうじゃなくて」ノレドが怒った。「たくさん死んじゃうことが問題なんでしょう!」

「クンタラは延命をしない。運用は時代によって変わるが、機械や遺伝子や思念体への変化やそんなものに頼らず、その時代の医術で認められる範囲での最低限の治療しか受けずに死んでいく。これがどういうことなのか、君らはまだ気づいていないんだ。クンタラは肉体をカーバに運ぶというその教義において、理想的なスコード教信者なのだ。肉体をカーバに運ぶことを理想にしているから、クンタラ同士の争いはごく稀にしか起きない。アグテックのタブーも犯さない。スコード教信者は、科学の進歩とともに自らの教義への自信が揺らぐ。ラ・グーでさえアグテックのタブーを緩めて200年も生きていた。彼は裏のヘルメス財団の人間ではなかったが、それでも死から逃れるために技術を使った。彼の存在自身が反スコード的なのだ。わかるか?」

「ラ・グー総裁はそうだったかもしれない。でも、ラ・ハイデンはとてもクンタラ的です」

「ラ・ハイデンは、ビーナス・グロゥブの歪みを正す可能性があるだろう。だが彼はカール・レイハントンの前では無力であろう。彼は何も知らされず、事態に対処せねばならなかった。カール・レイハントンと戦って勝てるのは、とっくに死んでこの世にはいないメメス博士なのさ。わたしは彼の計画を追っていた立場だからよくわかるんだ。その計画の行く末を見てやろうと欲を出して、こうして生きながらえている。ああ、それが生きている意味かもしれない。オリジナルの身体を捨てたわたしはクンタラではなくなっているから、もうカーバには行けない。だが、カーバに辿り着く人間のことには興味がある。欲を出さず、ただ生まれ、愛され、愛し、尽くし、死んでいくだけの最も弱い立場にあるクンタラが地球に満ちれば、それこそスコード教が求めていた理想社会が出来上がるじゃないか。ベルリくんはそれを否定して、いま生きている人間を生きながらえさせたとして、そのあとのことは考えているのかな? ラビアンローズのひとつは破壊されないまま生き残っているんだよ。そこには宇宙世紀の英知もあれば、ジオンが到達したニュータイプ研究の極北についての知識もある。人間はいかなる手段でも永遠に近く生きられるようになる。欲深く、科学の力に頼るスコード教信者を地球に残して、本当にそのあと地球やそこに生きる人間は幸せになれるのか? クンタラが地に満ちれば、ラビアンローズの情報になど見向きもしなくなる。ヘルメスの薔薇の設計図を回収する必要さえなくなる」

ベルリは痛いところ突かれて言葉を失った。半年後に起こる破滅を避け、カール・レイハントンの野望を阻止したとして、拡散してしまったヘルメスの薔薇の設計図を回収しない限り、ビーナス・グロゥブによる安定的な支配体制には戻れない。ラ・ハイデンは、アースノイドがヘルメスの薔薇の設計図を解読できなくなるまで文明を後退させて事態の収拾を図るだろう。彼は人類を原始時代にまで後退させ、ムタチオンに苦しむビーナス・グロゥブの住人だけをキャピタル・テリトリィに住まわせることだろう。

ビーナス・グロゥブのラ・ハイデンも、ジオンのカール・レイハントンも、クンタラのメメス博士も、誰もアースノイドを救うことは考えていない。彼らに共通しているのは、アースノイドへの絶望だけなのだ。半年後に起こる、フルムーン・シップの大爆発を阻止したとして、自分はそのあとどうしたらいいのか、ベルリにはまったく答えがなかった。

「ただ目の前の可哀想な人間を救えばいいという話ではないのだよ」ジムカーオは冷たく言い放った。「君たちは、人間とは何かと考え続けてきた人類の歴史と対峙しているんだ。正義の味方になったつもりでいたかい? キャピタルタワーを破壊しようとするわたしを倒して、誰かを救ったつもりでいたかい? クンタラとしてヘルメス財団の人間を裏切ったわたしは、メメス博士が作ったキャピタルタワーを破壊してクンタラも裏切るつもりでいた。そうすれば、自分はこの世からまったく必要とされなくなって、漆黒の闇の中へ消えていけるのだと。でもそうはならなかった。メメス博士の計画は、君らの活躍によって生き延びてしまった。ビーナス・グロゥブのラビアンローズを破壊できなかったことで、カール・レイハントンも復活してしまった。遺伝的な繋がりはなくとも、ベルリくんは彼の子孫だ。さて、どうするつもりなのか、わたしに聞かせてくれないか」

「ベルリは、カール・レイハントンの子孫じゃないの?」ノレドがおそるおそる尋ねた。

「カール・レイハントンは、あれはただのアバターで、生殖行為を楽しむ機能がついているだけだ。精子はロボットのようなもので、妊娠した子は母親のクローンになる。血筋から言えばね、ベルリくんはメメス博士の子孫なんだ。メメス博士は浅黒い肌のアーリア系だったが、500年間も白色人種と結婚を繰り返しているうちに、すっかり白人のようになってしまっているね。まったく、君は白いメメス博士だよ。とても良く似ている」

「ぼくが・・・、メメス博士・・・」


第43話「自由民主主義」前半は、5月1日投稿予定です。


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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:104(Gレコ2次創作 第42話 前半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第42話「計画経済主義」前半



1、


クリム・ニックの死をきっかけに地球が虹色の膜に覆われてから半年が経過していた。

ザンクト・ポルトはカリル・カシスを中心に少数の男と女たちのコロニーが形成され、食糧増産について連日討議がなされていた。その中にはサラ・チョップの姿もある。ヘイロ・マカカのアバターの中に潜んでいた彼女は、ヘイロの新しい肉体が完成すると同時にサラ・チョップの古い肉体を奪ってザンクト・ポルトのクンタラ集団に合流したのだった。

サラの肉体がパイロット適正を満たさなかったため一時的にパイロットを務めていたラライヤも、その際に解放された。カール・レイハントンはラライヤについて関心を寄せず、肉体関係にあったサラにも執着しなかった。レイハントンの関心は、時間を遡ったベルリに向けられていた。

スティクスの銀色の船体が魚影のように覆う地球を、カール・レイハントンはじっと見つめることが多くなった。肉体を保ったまま地球を観察し続けることは、苦痛以外の何物でもなかった。肉体を捨てて時間から解放されてはじめて観察は観察めいてくるのだった。肉体を持つことは長時間観察には向いていなかった。それゆえか、彼は些末な事象に無関心であろうと努めた。

カール・レイハントンが肉体のメンテナンスに入ると、ラライヤはYG-111で出撃した。この機体も本来ヘイロが使用するものではないので、ラライヤに預けられたまま放置されていた。サラはやがて来るカール・レイハントンとの対決を忘れてはいなかったものの、いまは地球に降りることに夢中であった。500年前、目前に辿り着きながら踏みしめることのなかった大地に。

ラライヤは自分の身に何が起こっていたのか、曖昧な記憶しか持っていなかった。彼女はカール・レイハントンを調査するためにノレドと別れてトワサンガに残った。そして彼に近づこうとしたとき、サラと出会ってそれからの記憶が断片的にしか残っていない。彼女は時折、スティクスの魚影をかいくぐるようにYG-111で地球を一周する。ベルリとラライヤがどこに消えたのか、現在の地球がどうなってしまったのか、彼女は気が気ではなかった。YG-111のフォトン・バッテリーも尽きつつあった。

いつものように虹色の膜すれすれのところをYG-111で飛んでいるときだった。有視界にキャピタル・タワーとザンクト・ポルトが見え、一息ついて虹色の海を泳ぐ銀色の魚影のようなスティクスを眺めていたとき、YG-111は突然コントロールを失ってザンクト・ポルトに引き寄せられるように速度を上げた。慌てて操縦桿を握ったものの機体はいうことをきかず、暴走したYG-111は加速を続けて限界速度を突破した。警報音が鳴り響く中、ラライヤは叫び声をあげ、気がついたときには見たこともない大陸の上空を飛んでいた。YG-111は自動で重力下の操縦に切り替わっていた。

「ここは・・・、地球?」

自分はまた地球に落下したのかと驚いて機体下方に目をやると、小さな粒が蠢いているのが目に入った。それは黒い小さな粒であった。カメラを望遠に切り替えて初めて、ラライヤはそれが人間の集団であることを理解した。無数の人間が、殺し合いをしているのである。

バッテリーの表示を見ると、いつしかフォトン・バッテリーは回復していた。ビーナス・グロゥブ以外では決して充電されないはずのフォトン・バッテリーに何が起きたのか、ラライヤには考える時間は与えられなかった。YG-111は、交信を求めてくる音声をキャッチした。雑音交じりの音声は、聞き覚えのある声でG-セルフの救援を求めていた。

不意にラライヤの頭が正常に作動するようになり、その声の主がハッパであると理解した。

「ハッパさん?」

「その声は誰だ!」相手は興奮していた。「G-セルフならこっちの味方なんだろう?」

ハッパは見慣れない小さなモビルスーツのようなものに搭乗して、棒切れを振り回しながら敵と交戦していた。敵は粗末な身なりで、手作りの盾と槍でハッパたちと戦っていた。

ラライヤは戦闘のただなかにYG-111を降下させた。突然のモビルスーツの出現に敵は恐れをなして、撤退命令なのか、大きな銅鑼の音が辺りに響き渡った。すると敵は蜘蛛の子を散らすように引き上げていった。吹きすさぶ風が通り過ぎたとき、辺り一面に転がるおびただしい数の死体が目に入った。大地は血で染まり、死に損なった人々のうめき声が陰鬱に聞こえてくるのだった。

ハッチを開いたラライヤは、その凄惨な光景に顔をしかめた。現代戦ではありえない血みどろの戦いが地球の上で繰り広げられていたのだ。そこに駆け寄ってきたのはやはりハッパであった。

「なんだ、ラライヤじゃないか」

彼の声はどことなく明るかった。彼の乗る小さな機体もまたおびただしい血で赤く染まっていた。

戦闘を終えた集団は、しんがりを残して南へと撤退していった。ハッパは自分の乗り物ごとYG-111に抱きかかえられた。ハッパは興奮した口調で事情を説明した。

事の発端は、ベルリとノレドがリリンを連れ、おそらくは時間跳躍をして約半年前の世界へ戻ってきたことだった。それから一緒にアメリアを目指して旅を続けていたところ、共産主義革命の現場と出くわして、ハッパとノレドはその調査のためにホーチミンからハノイに潜入していた。ところが、彼らはひそかに憲兵に監視されており逮捕されてしまった。ノレドはどこかへ連れ去られたが、ハッパは処刑される寸前でホーチミンから駆けつけた民兵に助けられて、そのまま野戦になったのだという。

「ノレドが?」ラライヤの顔が蒼ざめた。

「ぼくも責任を感じているんだ」ハッパはうなだれた。「ぼくは立場的にノレドの安全を確保しなきゃいけなかったのに、役割が果たせなかった。ノレドにもしものことがあったら、ベルリに合わせる顔がない。何としてでも取り返さなきゃいけなんだけど、どこに連行させたのかわからないんだ。ぼくもようやく解放されたばかりだから」

ハッパは、世話になっている農家の老人がホーチミンの民兵に協力して情報を提供してくれたおかげで助かった。ノレドの行方は分からず、探す手段もないのだという。

「現地の人間に成りすますために、レーダーも無線機も何も持たせてなかった。ぼくの失態だよ」

「ノレドが・・・」

ラライヤは、夕焼けの空に白く浮かんだ月に、もうひとりの自分がいることに思いを寄せる暇もなく、ノレド奪還を考えねばならなかった。空に白く浮かんだ小さな月には、もうひとりのベルリ、ノレド、ラライヤがいるはずだった。彼女もまた何者かに引き寄せられて、時間を遡ったのだった。

「ベルリはどこにいるんですか?」

「共産主義勢力に奪われた水源地帯奪還の作戦に参加したんだ。見ての通り、相手の装備は古代の戦争そのものだから、すぐに片が付くと見越してぼくらはハノイに潜入したんだが、まさかこんなに早く正体がバレるとは思わなかった」

「わたしはすぐに」

「いや、待つんだ。やみくもに探してもおそらく無理だ。ベルリがいま乗っている機体は不思議な代物で、あれならひょっとしてノレドの居所を見つけられるかもしれない。それに、リリンちゃんには不思議な能力があるようだし。だから、あのふたりに合流するために、ホーチミンに戻ろう」

「でも・・・」

「本当にすまない。でも、G-セルフであんな粗末な装備の人たちを殺してノレドを助けるのかい?」

そう言われてようやくラライヤも納得した。

「ハッパさんのその乗り物は?」

「これはね」

ハッパは日本で起きたことから順にラライヤに話していった。ラライヤの心は、ハッパの言葉を聞きながら、どこか焦燥感に駆られていた。銀色のスティクスが虹色の膜の上を泳ぎ回る姿が脳裏から離れなかった。地球が滅びるというのに、なぜこの人たちは争い続けているのだろうと。


2、


そのころノレドは、他の虜囚とともに竹を編んだ籠に入れらえて、夜を明かしていた。昼前まで食事も与えられず放置されていた彼女たちは、突然引っ立てられて大勢の人の前に立たされた。裁判のようだった。正面に数人の判事らしき人物が並び、左右と後方の座席には同じ服に身を包んだ男女100名ほどが椅子に座っていた。

検事役らしき人物が、反乱分子の罪状をとうとうと述べたのち、いきなり採決が取られた。椅子に座った人々が赤い手帳を右手に掲げ、裁判は終わった。

「被告人らを死刑に処する」

それが人民裁判というものだった。ノレドは訳が分からずに昨夜乗せられた荷馬車に放り込まれると、そのまま刑場に護送されてしまった。

何もしなければ殺される、そう考えたノレドは、護送官にあれこれと話しかけて、状況を打開する方策を探った。共産党の護送官は、はじめこそ迷惑そうにしていたが、若い女性に話しかけられて悪い気がしなかったのか、少しだけ返事をしてくれるようになった。ノレドは相手が食いつきそうな言葉を並べたが、トワサンガの名を出したときに、相手は急に引き締まった顔になって、しばし考えたのちに、列を離れて憲兵の上官らしき男に耳打ちをした。するとその上官が護送車の近くに馬で歩み寄ってきた。

「君はトワサンガに行ったことがあるのか?」

「行ったも何も、わたしはトワサンガのベルリ・レイハントンの婚約者ですから」

それを聞いた憲兵は、さらに上官らしき人物と話をするために列を離れていった。一時的に監視の目が緩くなったので、ノレドは他の繋がれている人々に話を聞いた。

「みなさんはどうして逮捕されちゃったの?」

「わたしたちはハノイの教師だったのです。そこで、古い教科書で授業をしていたところ、反共産主義者として捕らえられて、この有様です。共産主義のことなどわたしたちは勉強していませんので、子供たちに教えられるはずがない。古い知識人は、みんな逮捕されてしまいました」

先ほどの憲兵が戻ってきて、馬で引かれた護送車はいったん休憩を取ることになった。ノレドだけが馬車の外に出されて、用意された椅子に座らされて、水を飲ませてもらえることになった。

遠くからやせ細り目の吊り上がった男がやってきて、彼女の前に座った。

「トワサンガの方だとか? 本当ですか?」

「本当ですよ」ノレドは胸を張った。「ベルリ・レイハントンの婚儀のことはアジアでも報道されていると思いますが」

「そんな方がなぜこちらへ?」

「それは・・・」ノレドは必死に聞きかじった言葉を思い浮かべた。「共産主義の経済体制は、トワサンガの経済運営と似通う部分があるので、視察していたのです」

「ほう、トワサンガは計画経済をやっていると」

「トワサンガは労働本位制です」ベルリたちの話を聞きかじった知識しかなかったノレドだが、死刑になる寸前である恐怖が彼女の頭をより速く回転させていた。「労働工数によって支給される給与が決まっているのです。どんなものをどれだけ生産するかもあらかじめ決まっているんですよ」

「もっと詳しくお話をお聞きしたい」

男は興味持ったようだった。ノレドはこの機を逃さず交換条件を出した。

「護送車にいる他の人々は、ハノイの優秀な教師です。彼らは計画経済について詳しくはありませんが、それは教育を受けていないだけで、トワサンガのことを教えればより良い共産主義者となって国のために働くでしょう。なぜ彼らの処刑を急ぐのですか?」

「人民裁判の決定ですから。しかし、刑の執行をしばらく延期することは自分の権限でできます」

「では、あの人たちに食事を」

食事をと聞いて渋い顔をした男であったが、しばらくして焼いたパンと水が与えられた。

「トワサンガには計画経済の専門家はたくさんいるのですか?」

「もちろん」

「労働工数とは何ですか?」

「簡単に言えば作業量のことで、細かい手順を洗い出して数値化したものです。砂をAからBに運ぶのに、運搬回数で測ると誰もたくさん、重いものを運ばなくなるでしょ。ノルマは重さで決めないと。管理手段として工数を出すんです。ノルマを1回の運搬で達成する力持ちもいれば、10回かかる人もいる」

「回数で管理すれば、力持ちがたくさん運んだ分だけ弱者が楽をできるのでは?」

「それでは力持ちは働かなくなります。だから運ぶ重さでノルマを作っておいて、能力に左右されず誰もが同じ労力で仕事ができるように改善していくわけです。例えば砂を運ぶのにネコ車を使えば1回で運ぶ重さは同じになって、力の差も縮まります」

そう話しながら、ノレドの背中には冷や汗が流れていた。彼女の話は聞きかじったものばかりで、勉強したことはなかったからだ。そこで彼女は、自分はまだ学生であることを付け加えた。

「王の妃が学校へ行くのですか?」男が尋ねた。

「もちろん。それに宇宙では誰もが労働に参加するので、王だからって遊んでいるわけじゃない」

「王さまも工場で働く?」

「王さまは王宮で働きます。王さまの仕事は決済です」

「楽でいいですね・・・。いえ、あなたに嫌味を言っているのではないのですよ。それより、トワサンガの共産主義は上手くいっているのですか? それが聞きたいのです」

「もちろん上手くいってますよ。北の大陸の共産主義はいかがですか?」

「もちろん上手くいってます。でもまだ革命から日が浅いので、上手くいっていないところもあるかもしれません。そこでトワサンガのお話を聞かせていただいているわけです。共産主義を成功させるためにはどうすればよいのでしょう?」

「物資を・・・」ノレドは必死にハッパから聞いた話を思い出した。「物資の供給を豊富に行えばいいのです。誰もが物資に見向きもしなくなるまで、たくさん作るんです」

「たくさん生産するには、たくさん働かねばなりません。トワサンガの人々は、そんなに働いているのですか? 休みもなく。でも、おかしいですね。トワサンガは革命も起きず、王政のままなのに、共産主義体制なのだという。共産主義に王さまがいるなんて聞いたことがありません」

ノレドは相手の話が大筋で理解できるようになった。彼ら北の大陸の革命者たちは、支配者層について幻想を持ちすぎているのだ。

自分たちが労働で苦しい思いをして、貧しい生活に甘んじているのは、支配者層に搾取されているからだと思い込んでいる。平等に分配すれば、それだけで生活は豊かになるのだとの思い込みがある。だが、モノは湧いて出てこない。分配するための物資は、労働によって作られる。豊かになるためには、たくさん作らねばならない。そのためにはたくさん働かねばならないことを、サムフォー司祭を処刑して初めて理解したのだ。


3、


共産主義に支配されたハノイの物資供給は逼迫していた。北の大陸の支配層は、自国で発行する紙幣を大量に送り付けてきてハノイ地域から物資を吸い上げようとしていた。

共産主義革命に酔いしれたハノイの若者たちは豊かになるものと信じてその命令を嬉々として受け止め、見たこともないような大金を手に満面の笑みを浮かべていたが、その紙幣が紙切れのように価値がないとわかると、途端に苦しい立場に追い込まれた。彼らに協力した人々は、生活が以前より貧しくなったと連日訴え、離反者も相次いだ。

分配を前提とした生産は、労働生産性の向上にまるで結びつかなかった。過剰に生産しても、それらが自分たちの富にならない以上、人は働くのをやめる。労働意欲の減衰はそのまま生産能力の低下になって分配能力の低下に直結する。それでもコメなど日持ちのする農産物の生産意欲は衰えなかったが、それは収穫量を誤魔化して隠しておくためであった。

生産量の過少申告は分配能力の低下につながるために、農地には多くの監視官が付けられた。これはさらに農民の労働意欲を削ぐ結果になった。なぜ自分たちは見張られて仕事をしなければならないのか。なぜ見張っているだけの人間が多くの配給を受けるのか。農民たちは共産主義の官吏に嫌気がさして、反体制運動にこぞって参加するようになった。

それらを弾圧するために、密告が奨励された。弾圧は日に日に激しさを増し、誰もまともに働くのをやめてしまった。農地は荒れ放題となって、夜逃げが相次いだ。それでも、農地の監視をする役人は、田を耕さそうとはしなかった。田に手を出せば、官吏の仕事を失って農民にさせられるからだ。彼らは荒れ果てた農地のそばに立ち続けた。これらがハノイの共産主義革命がもたらした結果だった。

誰も積極的に働こうとしないために、生産計画が必要になっていた。生産計画と分配公約があれば、労働意欲は元に戻ると考えられていた。トワサンガの名を出したノレドの処刑が延期されたのは、計画経済のノウハウを得ようとしたためだった。ノレドはそんな彼らの気持ちを利用して、同日死刑判決を受けた教師たちをスタッフとして使うからと交渉して彼らの処刑をやめさせた。

ノレドと教師たちには土壁の粗末な一部屋が与えられた。

「とにかく、いくら生産しても大陸に飲み込まれるんじゃ誰も働かない。ハノイで作ったものはハノイで消費するようにしないと」

ノレドは年上の教師たちと、必死に生産計画を立て始めた。分配から逆算して必要量のコメを割り出し、総生産量と照らし合わせてみた。すると、ハノイで生産されるコメだけでは足らないと分かった。ハノイの人口は、農業用シャンクの労働を前提に増えており、シャンクが動かなくなるだけで生産性は大幅に低下するのだ。しかも、農地の多くは放棄され、夜逃げした人々は苗を持ち去っている。秋の収穫で状況を落ち着かせることは不可能だったのだ。教師のひとりはいった。

「農業にこんなに多くのエネルギーが必要なんて知りませんでした。お恥ずかしながら、わたしはサムフォー司祭のシャンク利用に反対していたんです。それはアグテックのタブーに反していて、人間はもっと自然主義的に生きるべきだと。でも、シャンクを農業に使っていたから、子供を食べさせることができたんですね。自然の恵みを最大限に受けるために、司祭は働いていた」

「それだけじゃない」別の教師が口を開いた。「土壌改良材はホーチミンで作っていたんだ。ハノイはそれを買って、農地を拡げて収穫量を上げていた。ウチも実家が農家なので、深く土を掘って朽ちた大木を埋めたりしていたものです。ああいうのはみんなで協力しないとできない。ところがいまは、たくさん作っても全部盗られて、交換できない紙幣だけが渡される。あの紙幣ではホーチミンと取引すらできない。こんな状況でどうやって生産計画を立てればいいのやら」

「計画も何も、苗すらないというのに」

「でもさでもさ」ノレドは必死であった。「モノの価格は共産党が決めていて、一定なんでしょ? だったら紙幣は余ってるんだから、それで籾を買い戻せばいいんじゃない?」

「籾といっても、コメになるものは配給品ですからね。売買の対象じゃない。農家がコメを隠しておけるのは、来年用の籾だとウソをつけるからでしょうし。もちろんそれは買えません」

「買えないの?」

「おそらく」

「そしたらさ、今年の生産分は全部来年作付け用の籾にするしかないじゃん。1年間どうやって暮らしていけばいいの? 1年間食料もなしで暮らすの? 大陸から配給はされないの? こんなの奴隷以下じゃん。共産主義ってみんなで作ってみんなで分け合うものなんでしょ?」

「それが約束されているのは共産党員だけってことなんでしょうかね。わたしにもわかりません」

「でも」ノレドはぐいと頭を突き出して声をひそめた。「計画経済への移行に失敗したら、あたしたちは即死刑になるんだよ。何とかしないと。何か、売れるものは、売れるものはないの?」

「おそらく、水資源だけだと思います。水源地を人民解放軍が押さえていると聞いたので、上流でダムを作って、ホーチミンなどの下流域の住民に売るんです。それで来年用の籾と、不足分の食料と、できればキャピタル通貨を調達して、外国と密貿易するしか来年生き延びる手段はないかと」

「水資源か・・・、ん、待てよ」

その水源地を奪い返すために、ベルリはホーチミンの民兵とともに現地に向かっているはずだった。

「なんてこったい!」ノレドは頭を抱えてしまった。



そのころベルリは、ジャングルの中を行軍する民兵たちを上空から眺めていた。ガンダムの全天周囲モニターは遠くに水源地を捉えていた。後部座席に座るリリンは、操縦系統の不明な部分をベルリより早く把握して、後ろの席から指をさして使い方を教えていた。

望遠レンズで目的地である水源地を確認したところ、多くの人間が近くの木材を切り倒して川を堰き止めようとしているのが確認された。ベルリはさっそくスピーカーでジャングルの中を歩く民兵たちにそのことを知らせた。目的地まであと1日はかかるというので、今晩はその場で野営が決まった。

ガンダムを降りたベルリとリリンは、民兵と食事を共にした。野生動物の丸焼きと石の上で焼いたパンが振舞われた。イヌビエが多く混ざった粗末なパンだった。

「ダムを作っているのでしょう」民兵のリーダーが忌々し気に言った。「水がなければコメが作れない。おそらく、水を堰き止めて河を細らせ、我々を干上がらせるか、恫喝に使ってホーチミンも共産主義にするつもりに違いない」

「みなさんは共産主義には批判的なんですね」ベルリは素朴な疑問を口にした。

「そりゃそうよ」男たちは口を揃えた。「将来どうなるかなんて誰にもわからない。だからみんな蓄える。慎ましく生きて蓄えた人間が子々孫々楽をして生きていく。それのどこが悪いっていうんだ」

「そうそう。オレなんかハノイの出身だからわかるが、そもそもハノイってのは前文明のときの荒廃して、人はほとんど住んでいなかったんだ。サムフォー司祭がやってきて開墾して豊かになった土地さ。他のどこにも地主と小作人がいる。だけど、ハノイはサムフォー司祭が開墾した土地を全部くれたから、みんな頑張って働いた。司祭は地主にならなかったからな」

「あそこにいるノクタンなんか、プノンペンからやってきて、段々畑を作った奴さ。あんなところに田んぼを作るなんて誰も考えもしなかった。あいつひとりで作ったのに、共産主義者の連中はそれを全部奪おうっていうんだ。北の大陸の連中はろくなもんじゃない」

ベルリはチラリとノクタンの顔を見た。確かに肌の色が少しだけ違う。彼があの見事な段々畑を作ったのかと思うと、ベルリは自然と笑みが浮かんでくるのを抑えられなかった。

「ノクタンは方言があるからあまり喋らないが、いい奴さ」

「小作人がいないなんて、意外でした」

「農地を拡げて、キャピタル中央銀行の支店を作らせて、ほとんど物々交換だった田舎に貨幣経済を根付かせて、交易ルートを作って、フォトン・バッテリーの代替手段まで考えてくれてたんだぜ。それをさ、地主がいないからという理由で、司祭が狙い撃ちされた。他に首を取る人間がいないからさ。おかしな話だろう? 司祭の嫁は、ホーチミンの大地主の娘なんだ。オレはあいつを信用してないね」

ベルリはハッとしてリリンの顔を見た。彼女はちょっと得意げにすましながら、パンを頬張っていた。


4、


翌日のこと、ベルリたちは再び進軍を続けることになったが、ガンダムは極力低空を飛んで、ダム建設中の人民解放軍を監視した。昼にまたいったん休憩となって、民兵組織はベルリも交えて作戦会議となった。人民解放軍と接触すれば必ず戦争になる。有利な陣地を確保する必要があった。

「そろそろ敵の斥候にも気をつけなきゃいけない。出来ればあのモビルスーツで脅かして、人民解放軍の奴らを蹴散らしてくれるのが一番被害が少ないのだが、ベルリさんは戦争がお嫌いなようで」

「戦争が好きな人なんていませんよ」

「そうかもしれないが、戦争をしなきゃ土地を奪われるだけじゃないか。サムフォー司祭は、スコード教の禁忌に縛られて、戦おうとしなかった。だから縛り首にされてしまった。オレたちは司祭ほど人間が出来ていないから、戦って生き残って、そして奪い返すんだ」

奪い返すという表現は、北の大陸による革命の波がただの侵略行為であったことを物語っていた。共産革命主義は、分配の約束を使って無償の兵士を数多く動員するために、戦争が終わるとあっという間に分配資源が底を尽く。分配のための労働を奨励すると以前と同じ不満が燻ってくる。より簡単なのは、分配資源を奪い続けることなのだ。

「農民兵が多いうちは計画経済へ移行できないんです」ハノイから逃げてきた男が言った。「だから革命が終わるとすぐに農民たちは土地に縛り付けられて監視を付けられる。逆らう人間は粛清される。分配を約束しているということは、分配資源を豊富に確保するか、分配を受け取る人間を減らすしかない。だから共産主義は、必ず粛清を開始して口減らしをする。口減らしの肯定が、共産主義賛美の洗脳教育の肯定になっていく。共産主義を理解する進歩的人間が増えれば粛清せずに済むといってね。しかし、粛清や少数民族の弾圧はずっと続く。なぜなら分配を約束しているから」

ホーチミンの民兵の中には共産主義を肯定する人間はひとりもいなかった。共産主義は革命時の約束を果たすために暴力の波を世界中に拡げていく。彼らが計画経済へ移行するには、自由民主主義の防波堤によって暴力の波が止められる必要がある。分配資源を奪えなくなってはじめて計画経済は開始されるのだ。なぜなら、計画経済は、革命を指向した人間が最も嫌う労働の義務に人生を縛られてしまうからである。

みんなで作ったものをみんなで分け合う。資本家に独占をさせない。生産物はすべて労働者のものである。彼ら共産主義者の理想を実現させるには、まずは革命の興奮を鎮静化させる必要があった。

ベルリは決断した。

「戦争になってしまえば、多くの犠牲者が出ます。ぼくがガンダムで先頭に立って、できるだけ相手の戦闘員を傷つけないで水源地から追い払えるよう努力してみます。もし相手が徹底抗戦するようでしたら・・・、そのときもぼくがガンダムで・・・」

「いや、ベルリさん」民兵のひとりが口を開いた。「あなたはトワサンガの王子さまで、スコード教の法王になる資格もある方なのでしょう? そう聞いていますよ。スコード教は反スコードと戦うための宗教ではないはずです。古い多くの宗教を糾合した宇宙宗教だとサムフォー司祭が話していました。そんな人に人殺しをさせるわけにはいかない。先頭に立って戦ってくれるのはもちろん助かりますが、我々の目的は水源地の奪還、ハノイの奪還、それだけです。敵がどんな行動に出るかによって対応は変わりますけど、我々だって憎いのは北の大陸、砂漠の人間だけです。ハノイの若者は彼らに騙されただけだ」

作戦は、ベルリがガンダムで相手を威圧して時間を稼いでいる間に、より高い位置にホーチミン民兵の砦を作って水源地を恒久的に防衛できる体制を作るということでまとまった。

その翌日のこと、作戦は決行された。

人民解放軍による木製の手作りダムの工事は難航を極めていた。人民解放軍の工兵たちは突然上空から飛来した白いモビルスーツに怯え、火薬で鉛玉を撃ち出す旧式の銃で応戦した。ガンダムのコクピットには、カンカンという鉛玉が当たって跳ね返る音が響いた。

ベルリは彼らに向かって叫んだ。

「トワサンガ王子、ベルリ・ゼナム・レイハントンの名において命じる。水資源の独占はどのような理由があろうと認められない。あなた方がそれを強行しようとするなら、スコードの名においてわたしはあなた方と戦う。もしあなた方が宇宙の理を受け入れず、独断で物事を処断するというのなら、あなた方は地球のすべての地域のみならず、宇宙全体をも敵に回して最後のひとりが額から血を流して地に伏すまで追い詰められ、希望の欠片も眼にすることなく意識を失うことになるだろう。いま一度トワサンガ王子、ベルリ・ゼナム・レイハントンの名において命じる。ただちにこの地を立ち去るがよい」



「ノレドさんがベルリ王子の婚約者だって話、本当だったんですね」

「まあね」ノレドは浮かない顔だった。「でも、いまもしベルリがトワサンガの名前を使って水源地で戦争していたらって考えると気が気じゃない。共産党の官吏には、トワサンガが共産主義ってウソをついて視察していたことにしてるからさぁ、ウソだってバレるとマズイのよね」

「トワサンガは共産主義ではないのでしょう?」

「宇宙は計画経済なのよ。スペースコロニーには神さまが作ったものはひとつもない。全部人間たちが作ったものばかり。空気も水も大地も重力も、全部人間が労働によって生み出したものばかり。空気も水も汚れるからキレイにしなきゃいけないし、閉鎖空間だから新しい病原菌やウイルスの発生には細心の注意を払わなきゃいけない。光を取り込む調整も、木々の成長も、麦の成長も、キャベツの収穫も、デブリの回収も、全部決められたとおりに働いて、働いた分の賃金で交換する仕組み。労働を拒否するという発想自体がない。宇宙では働くことが生きること。働かないという選択はない。だから労働力資本が通貨の裏付けになる。労働は常になされるから、必ず生産物が出来上がって、分配資源が尽きない。それが通貨の価値になっている。ずっとそうやってきたから、計画経済であることが当たり前になっている。資本があるからといって、無計画に投資をして開発に繋げることはできない。そもそも資材がないんだから。新しいコロニーを作るには、どこからかコロニーの資材になるものを運んでこなきゃいけない。それは資源衛星といって、資源用に宇宙のどこかから運んできたものなんだ。それは資本家が勝手にやれるような事業じゃない。コロニーの英知を集めて資源衛星として使えるものを選別して、運動エネルギーの方向を変えて、減速させて、事故なくシラノ-5まで運ばなきゃいけない。そういうことは全部計画によってなされる。宇宙は計画経済が当たり前なのよ」

「北の大陸の人たちはその方法を学びたいのでしょう?」

「でもさ、話していると何か違うのよね。共産主義の理想は、みんなで働いてみんなで分け合うってことのはずなのに、資本家や権力者から奪うことばかりに夢中で、ただで働かずに何かが得られると思い込んでいるみたいなんだ。分配資本をたくさん作るには、たくさん労働することと、労働生産性を上げることを考えなきゃいけないはずなんだけど、手っ取り早く何かを欲しがってる。水資源を奪いに行ったのもそういうことでしょ? まぁ、その水資源がこちらの頼みの綱なんだけど」

そこに、ノレドの死刑執行を取りやめた責任者の男がやってきた。

「来年度の計画は完成しましたか?」

「ええ、一応」

ノレドは男に計画書を手渡した。男はそれを一読して、溜息をついた。

「あなたはわたしを騙しましたね。トワサンガのベルリ・レイハントンは、あなたの計画の中心にある水資源をたったいま奪い取ったそうです。残念ですが、あなた方には死んでもらいます」


第42話「計画経済主義」後半は4月15日ごろ投稿予定です。





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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:103(Gレコ2次創作 第41話 後半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第41話「共産革命主義」後半



1、


ハノイからホーチミンに、大量の難民が押し掛けてきた。ベルリたちにその話がもたらされたのは、翌朝になってからであった。宿は人でごった返し、ベルリたちの部屋にはスコード教徒有志による護衛がつけられた。物々しい様子にリリンが怯えて、ノレドのそばを離れなくなった。

一行の宿泊先に、ホーチミンの市政関係者とスコード教関係者が押し掛けてきた。彼らとともに大勢の野次馬も押しかけ、宿の主人はこれを好機と箱に入った朝食を安価で売り付けて金儲けをしていた。どうやらベルリ一行はただの旅人ではないようだと知った主人は、彼らのところには若干多く盛った朝食を届けてきた。会見が持たれたのは、ベルリたちの食事が終わってからであった。

「ハノイに総督と呼ばれる人物が大陸から派遣されてきたそうなんですが、彼が初日に発表した新しい配給に関する話と、ノルマに関する話を聞いたハノイ市民の一部が、夜逃げしてきたようなのです」

「配給が少なすぎたのですか?」ベルリが尋ねた。

「配給を大陸通貨で行うと発表があったようなのです。銀行はキャピタル通貨と大陸通貨を交換する人で溢れたのですが、キャピタル通貨がすぐに底を尽いてしまい・・・」

「エッ、待って! 逆じゃないの?」ノレドが驚いて叫んだ。「大陸通貨に切り替わるのに、みんなキャピタル通貨に交換しようとしたの? キャピタル通貨は、フォトン・バッテリーの配給が止まって不安定になったんじゃないの?」

「相対的な信用度の問題です」スコード教の司祭が応えた。「大陸が砂漠化で食料が不足気味なのは有名な話なので、そんな国が発行する通貨を毎月ただで配られて、生産した食料はすべて供出させられて、本当に食べていくことができるのか不安になったようですね。まだしも米を配った方が良かった」

「それに」ホーチミンの役所の人間が横から口を挟んだ。「共産党から逃れようとすれば、当然キャピタル通貨が使用されている地域に逃げるでしょう? ハノイで革命が達成されて、それから逃れるのに革命の総本山である大陸に逃げる人間はいない」

「自分たちでサムフォー司祭を殺したんでしょう!」

「そうなんです。だから彼らは、サムフォー司祭の寡婦のところに救いを求めに行けない。革命は取り返しがつかないですから、彼らが元の生活に戻るには別の何かにすがらなくてはならない」

「それがぼくってわけですか」ベルリは仏頂面で呆れていた。「ハノイの皆さんは、サムフォー司祭は王さまのように傲慢だったと憤っていたはずです。それなのにまた王さまを求めるんですか? 自分たちが王さまになるために革命を起こしたはずじゃありませんかッ」

「そんな覚悟、誰にもなかったんですよ。もっといい王さまが来るはずだって、勝手に思い込んでいたんです。そしてやってきた共産党の王さまは、自分たちから米を取り上げて、見慣れない通貨を配ると言い出した。通貨は地域を表します。キャピタルの通貨は、広く世界を覆っていますが、大陸の通貨は砂漠の大陸だけです。香港と台湾がそれに飲み込まれようとしていますが、日本は彼らと対立している。まだしもキャピタル通貨の方が安心感がある。大陸の共産党は、これから世界侵略を開始するでしょう。それは通貨戦争でもあるんですから」

話を聞くと、ハノイからの難民は、国境地帯に設けられた強制収容所に入れられ、わずかに懐に締まってきたキャピタル通貨で食料を買って飢えを凌いでいるのだという。ホーチミン市は彼らに施しをする予定はないようだった。ベルリはこの対応にも怒りを露わにした。

「それって人道的にどうなんですか?」

「人道とおっしゃるが」役人が応えた。「スコード教の司祭に守られて発展した土地をわざわざ共産主義者に献上してすっからかんになった彼らが、働きもせずにホーチミン市民から搾取することが人道的なのですか? ホーチミン市民は、無職たちの奴隷ではありません」

「土地はあるんでしょう! 彼らは貴重な労働力じゃないですか。土地を与えて、開墾をさせれば」

「土地はあります。でも水が足りません。北部の水源地を共産党に取られてしまっているので。こっちだって死活問題なんですよ。有り余るほど米があれば、そりゃ何とかしてあげたいですよ。でも、キャピタル銀行の支店の職員だってもうハノイから逃げてきているんです。もうあの土地の評価をするのは我々の陣営の人間ではない。共産党員なのです。共産主義革命を起こせば、共産主義世界の評価に身を委ねるしかないんです。自由民主陣営の価値観や評価基準は通用しなくなる。文字通り世界が変わるんです。革命を起こす人間は、新しい世界のことを何も知らずに新しい世界へ飛び込む。そして絶望するんです。未知の希望が既知の絶望になったとき、革命の愚かさを知ることになる。人間がやることなんて変わりゃしないのに、何かが変わると思い込んでしまうんです」

スコード教の司祭が話を継いだ。「人の絶望の根源は、果てしない労働です。命ある限りずっと働かなきゃいけない。生きるためには労働がついて回る。だから人間はいつも絶望の淵にいる」

「それをスコード教の司祭が口にするんですかッ!」

ベルリが激高して席を立ったのを危うんだハッパは、彼に抱き着いて無理矢理席に座らせた。ベルリの怒りが理解できなかった司祭は、彼をスコード教の仮の法王にする話を切り出せないままいったん席を外すことになった。

部屋に取り残されたベルリたちは、頭を抱え込んだベルリを静かに見守るしかなかった。

「ぼくは考え違いをしていたのか?」ベルリは独り言のように呟いた。「スペースノイドの規範をアースノイドに植え付ければ、アースノイドも必ず変われるって思っていた。だから、地球の若者をトワサンガやビーナス・グロゥブに送って一定期間訓練すれば、スペースノイドとアースノイドの間の溝は解消されていくと思っていた。でも、労働が絶望の源なんて。宇宙でそんなことを言えば、すぐに空気も水も供給されなくなって死んでしまうのに」

「まぁ、そうなんだけどさ。まだそれは実現していないわけだから。変化のきっかけをつかんでいない人に絶望したって始まらない。それより、ぼくに考えがあるんだ。ベルリは自由民主主義や共産主義に肩入れするのは嫌かもしれないけど、水源の話があっただろう? あそこだけでも取り返して、ホーチミンの人間を安心させてあげないか」

「水?」

「土地はあるけど、水が足らなくなるかもしれないって言ってたじゃないか。水源を抑えれば、事態が好転するきっかけになるかもよ。それを君らでやってくれないか。ぼくは、もう一度ハノイに潜入して、共産主義の実態を調べてみようと思うんだ」

「わたしは反対」ノレドが言った。横でリリンも睨んでいた。「ハッパさんは危ないことをすべきじゃないよ。ただでさえディーゼルエンジンが狙われる立場にあるのに」

「大丈夫さ、こう見えても逃げ足は速いんだ。無理はしないよ。通信機の性能を上げて、ガンダムに助けを呼べるようにしたら問題ないだろう?」

「だったらあたしも行くよ。王さまを殺してしまうことの意味を知りたいから」

ノレドの提案は、ベルリ、ハッパ、リリンいずれも反対だったが、反対されるとノレドは意固地になってハノイに潜入することにこだわった。

「こう見えてもわたしはトワサンガ大学の学生だからね。スコード教の司祭がいなくなった世界を見ておきたい。フィールドワークの自由を妨げることは、ベルリにだってできないはずだよ。それに、世界を見ておかなくちゃ答えは出ない。答えが出なくちゃ、カール・レイハントンには勝てっこないんだから」


2、


反対するベルリを押し切ったノレドは、ハッパとともに再びハノイに潜入することになった。ベルリとリリンは不本意ながらもホーチミンの民兵と北部の水源地域を奪還する作戦に参加することになった。次期法王に推挙されているベルリの作戦参加に、民兵たちは沸き返った。

「宇宙世紀時代には人類はかなり長距離の交信も可能になっていたというけどね。どんな技術を使っていたのかわからないんだ。でもこのガンダムなら、きっとノレドの声を拾ってくれるさ」

ハッパは心配するベルリにそう言い聞かせて、ノレドを連れて山岳地帯からハノイを目指してモビルワーカーを走らせた。ノレドは後ろの荷車に乗車していたが、やがて飽きてハッパにモビルワーカーの操縦やディーゼルエンジンの話などをしてくれとせがんだ。

「内燃機関は一時期地球で盛んに使われた技術だったんだけど、排ガスの影響とエネルギーの枯渇によって電気に取って代わられたんだ。人類が100億人もいる時代に、多くの人が火で走る車に乗っていたというんだけどね。そのあとは電気が主流になったそうだけど」

「その電気自動車のバッテリーは何だったの?」

「全固体電池やその前は電解液って言われている。この技術が失われていて、フォトン・バッテリーに依存することになっているんだ。それに容量がフォトン・バッテリーよりはるかに少なかったらしい」

「アメリアってそんなに発掘品の解析が進んでいたんだ」

「キャピタルへの対抗意識だよ。それに、ヘルメスの薔薇の設計図からの情報もあったからね」

「エネルギーがなくっちゃ人は森を破壊していくし、多くありすぎたら戦争しちゃうし、どうしてこう上手くいかないんだろう。もっと計画的にやれないものなのかな?」

「共産主義というのは、計画経済だと言われているけど・・・。トワサンガに限らず、宇宙は共産主義体制に近くなるというか、労働なしに生存環境が維持できないから、否応なしに人は労働のための知識を身に着けて、当たり前のように労働に従事する。労働が絶望なんて言っていたら、宇宙では生きていけない。でも地球はそうじゃないからね。地球でトワサンガのような労働本位制って成り立つのかな?」

ハッパとノレドは、荷車を譲ってくれた農家に身を寄せることになった。粗末な農家には老人が夫婦で済んでおり、子供はハノイに働きに出たきり戻らないという。

「もう見ての通りの年寄夫婦だで、動くシャンクで手伝ってくれるならこんなありがたいことはない」

老夫婦はふたりを若夫婦だと勘違いしたようで、宿泊用に小さな小屋をあてがってくれて、その晩は飼っていた鶏を潰してもてなしてくれた。老夫妻は共産主義や自由主義のことはまるで分らず、前任者のサムフォー司祭のことも領主だと勘違いしていた。聞くと、集落の人間はいつも身綺麗にしていたサムフォー司祭が何をやっている人なのか知らないまま彼に従っていたのだという。

「新しい領主さまは、スコードがなんとかいう話はせんようになったな。ここらには地の神さまがおるでな。ああいった話はよくわからんかった。でも、新しい領主さまは、植えるもんを変えろとか、収量を上げろとかうるさくてな。もうわしらは老人だから、自分が食える分だけ採れればよかったのに、どうすりゃいいのか困っていたんじゃ。あんたが手伝ってくれると助かる」

ノレドが尋ねた。

「地の神さまがいると聞いたサムフォー司祭は何と答えたのですか?」

「地の神さまもスコードだからいうとったわ。あの人は細かいことはうるさく言わん人やったからわしら年寄は信頼しとったけどな。若いもんはスコードも地の神さまも信じないでな。信心なんか遅れた人間がやるもんじゃ言うて。毎晩集会に出かけてな、何事か話し合って、挙句あんなことになってしもうた。シャンクがこのまま動かせなんだら、どうやって収穫すればよいやら」

ハッパが質問した。

「サムフォー司祭はフォトン・バッテリーを使ってシャンクを貸し出してくれたわけでしょう。新しい領主さまというのは何かくれたんですか?」

老夫婦は顔を見合わせて、奥から紙の束を持ってきてくれた。

「これがカネじゃ言うてな。前の領主の持ち物をみんなに配るからといってくれたのがこれ。わしらは動くシャンクを貸してくれりゃよかったんじゃが」

「これで物は買えるんですか?」

「買えるとは言うけれど、持っていっても嫌な顔をされるな。だけどわしらが使っていた前のカネはもうないんじゃって。だからこれで何とかせにゃならんのだが、これでは米も買えんし、せめて配給してくれんもんかと」

腕組みをして考え事をしていたハッパは、ある提案をした。

「使い道がないなら、明日からぼくらが働く報酬としてそれをいただけませんか?」

「やるよ」

「そうはいかないので、とりあえず働かせてください。その報酬でそれをいただいて、ぼくらは市街地へ行ってそれで何が交換できるか調べてみます」

翌日朝から老夫妻の畑仕事を手伝ったハッパとノレドは、分配された大陸の紙幣を貰い、モビルワーカーを老夫妻に預けると、歩いてハノイ市内へと向かった。

まずは宿を探すことになったが、支払いを大陸の紙幣で済ませたいと申し出ると、露骨に嫌な顔をされた。ところが宿の看板には新紙幣での料金が書かれていたので、ハッパにそれを指摘された支配人はしぶしぶふたりを泊めることを了承した。

「どういうことなの?」ノレドが尋ねた。

「インフレさ。おそらくはこうだ。サムフォー司祭の私有財産は、共産主義者に没収された。しかし、物のままでは配分できない。そこで新紙幣で住民に支払った。まぁ、配分しただけマシとはいえるが、たとえサムフォー司祭が金銀財宝を隠し持っていたとしても、全員に平等に分配すればそれはわずかなものだ。革命に参加した人らはそれでは納得しないから、紙幣を多く支払った。それでみんな紙幣は持っているけれども、新紙幣の信用がないから、物と交換はできないんだ」

「それじゃおカネの意味がないじゃん」

「そこで、共産主義者がモノやサービスの値段を決めて、それで交換するように命令を出したのさ。それに従わなければおそらく罰則があるのだろう。一方でキャピタル通貨は信用があるから、銀行に交換の人が殺到してあっという間にキャピタル通貨は底を尽いた。いま、キャピタル通貨はここでは大変な価値があるはずだ。ノレドはいくら持ってる?」

「あまりないけど、1週間分くらいは」

「それがどんな価値になっているか調べれば、大陸通貨のインフレ率がわかる」


3、


法定交換レートと実際のレートの差は、100倍以上で、その差はますます開いていた。

「どういうこと?」ノレドは首を傾げた。

「ノレドは1週間分くらいならお金を持っていると言っただろう? それが少なくとも100週間分になったってことさ。」

「おカネが増えてもいないのに?」

「こういうことがあるから通貨をユニバーサルスタンダードにしたんだけど、北の大陸は物資が枯渇しているんだろうよ。ハノイから物資を徴収して、自分たちが決めたレートで自分たちが発行する通貨をばら撒いているんだ。それでおカネとモノのバランスが崩れてお金の価値がどんどん落ちているんだ」

「解決方法はあるの?」

「物資を大量に供給していくしかない。ひたすら。もう誰もモノに見向きもしなくなるまで。とりあえず秋に収穫されるコメが出回れば落ち着くかもしれないが、それを大陸に持っていってしまうと大変なことになるね。新紙幣は紙切れになる。そして住民は紙切れのために収穫物を全部差し出さなきゃいけない。ところがそのコメはシャンクが動かないのと労働者不足で減収になるのは間違いない。このままでは餓死者さえ出そうだ」

「なんでユニバーサルスタンダードをやめちゃうんだろう?」

「キャピタル通貨は中央銀行がかなり厳格に価値を決めて通貨供給量を絞っていたからね。通貨は安定しているものだって固定観念が強くなりすぎていた。でもなかなか思うようには稼げない。だったら自分たちで通貨を発行すれば、みんなにもっと多くの通貨が行き渡って、みんなが豊かになると安易に思い込んだのだろう」

「上手くいかないものなんだね」

「日本なども、企業の財務が痛んでいるのに、通貨発行の権利がないからバランスシート改善のために多くの努力をしなきゃならなかった。ディーゼルエンジン技術に賭けたのも、新技術で通貨供給量を増やしてもらいたかったこともあるんじゃないかな。企業の財務が痛んでいるときは、通貨供給量を増やすべきなんだけど、キャピタルがあんなことになっていたし、中央銀行が機能しなかったんだ。クリム・ニックは余計なことをしてくれたよ。彼には彼の考えがあったにしてもだよ」

ノレドの郷里キャピタル・テリトリィは、クリム・ニックのゴンドワンとルイン・リーのクンタラ解放戦線の攻撃で一時的に大量の投資が行われ、ふたつの政権が相次いで倒れたことで投資されたほとんどの債権が焦げ付いてしまっていた。キャピタル・テリトリィ中央銀行は自国内の経済立て直しに躍起で、地球の裏側にある東アジアまで目が回らなくなっていたのだ。

キャピタル・テリトリィは通貨の安定を第一に考え、金融の引き締めと不良債権処理を同時に行った。通貨供給量の減少とフォトン・バッテリーの配給停止により不満が高まり、共産革命主義に火をつけてしまったといえた。資本へのアクセスが細り、エネルギーが枯渇して、食料の買い溜めが起こった。追い打ちをかけるように、穀物をエネルギーにするとの噂がバイオエタノールエンジンで起こって、民衆は不安のうちに理想的な社会体制は何かと考え始めたのだった。

北の大陸は、地球連邦成立以前に共産革命が起こったことがあり、アメリアより多くの共産主義に関する資料が残っていた。それらは発掘品であったが、学者によって欠損部分が都合よく解釈されて、誰もが平等で公平な理想社会だと宣伝された。宇宙世紀の地球連邦政府は、相次ぐ戦争によって地球を人間が生存できなくなるほど崩壊させた社会体制だと考えられていたので、地球連邦政府を悪だと教え込まれた人々は、それに敗れた共産主義体制を理想郷だと簡単に信じることになった。

「アメリアはそうじゃないんだね」

「ちがうね」ハッパは首を横に振った。「アメリアではもっと共産主義は否定的に捉えられている。もともと移民国家で、物質的な豊かさしか共通の利益にならなかったゆえに、物質的な豊かさを追求するには共産主義は不適格だとされている。こうしたことは黒歴史以前のことだから、本当のところはよくわかってはいないんだけどね」

ふたりは大通りの両側に商店が立ち並んだ地域を散策してみた。以前来たときより明らかに物資が不足していた。新紙幣で物を買おうとするとそれは品切れだと断られるが、キャピタル通貨をちらつかせると奥から物が出てくる。物資不足は、絶対数の不足もあっただろうが、主に売り惜しみによる行為が原因に思われた。店主たちは、明日には価値が半分になるかもしれない通貨より、価値が倍になる通貨を欲したのだ。それが小売りだけでなく、流通や卸しなどでも起こり、さらに役人の横領などが相まって物資は市場に出て来なくなっていたのだ。

一方で闇市は盛んであった。闇市ではモノの価格は自由に設定され、相手が欲しがればどんなモノでもカネになる。新通貨も、紙幣ではなく棒状の金属貨幣には値が付き、額面が逆転するような現象すら起こっていた。民衆は日々の生き残りに必死であり、相手を誤魔化すことばかり考えるようになっていた。ハノイは、正直な人間が損をして、ウソつきが得をする社会になっていた。

「これが理想社会なの?」ノレドはおかんむりであった。「世の中には悪い人しかいなくなってるじゃん。スコード教の司祭を殺してまで手に入れた社会がこんなのでいいの?」

ハッパは眼鏡を直しながら、大通りの両側に立ち並ぶ商店をつぶさに観察していた。

「食糧の加工品が明らかに減っている。加工すると、日持ちがしなくなってその日に売り切らなくちゃいけないから、足元を見られて安く買い叩かれるんだ。保存のきくコメはほとんど通貨のようになっている。店頭に並んでいるのは、保存に適したコメと乾物だらけ。あとは原材料費が掛かっていない手作りの物品だけだ」

ふたりは道に茣蓙を敷いた老婆が売っていた、粗末な素焼きの壺に入ったヨーグルトを買った。量はたくさんあり、美味で、価格も驚くほど安かった。

「このヨーグルトは、老人の家で焼いた壺と、家畜の乳を加工して作られているんだろう。家畜の乳は毎日絞って売り抜けなければいけないから、価格が安くなって、安いがゆえに誰も見向きもしなくなっている。おそらく、共産政権が制定した価格表ならもっと高く売ることもできるのだろうが、それを求めてしまうと生産品として届けなければいけなくなる。共産主義では、生産品は同時に分配品だから、その分の税を徴収される。生産した分をすべて徴収されるから、売れ残りがあると途端赤字になる。だから生産品として届を出さずに闇市場で売っているんだ」

「みんなで作ってみんなに分配するってそんなに難しいことなのかな?」

「作って分配するって言ってもさ、共産主義者は絞った牛乳を毎日回収しないだろ? 全部労働者がやるんだ。労働者は必要な場所に配置されて、毎日決められた労働をこなす。でも、牛乳を現物で徴収して分配なんかできないから、結局通貨でやるんだ。信用のない通貨でね」

ときたまやってくる客は、老婆に紙幣で対価を支払った。老婆は何度も頭を下げて感謝した。そこにひとりの人相の悪い男がやってきた。彼は金属の通貨を懐から取り出して、老婆に紙幣との交換を迫った。老婆は脅かされるわけでもなく交換に応じた。なぜなら、新通貨の紙幣ではモノが買えないからであった。老婆がその日暮らしを強いられていることは明らかであった。

その姿を見てノレドは憤慨した。

「あれ見てよ! 全然額面が釣り合っていない!」

「あの男はおそらく何かの商売をしていて、たくさん税を払わなければいけないか、そんな人物に紙幣を安く売りつける業者なんだろう。たくさん税を払う人間にとって、紙幣の価値下落はありがたいことさ。指定された分を安く払えるからね」

「でもあんなの公平じゃないよ。何のための額面なの?」

「まぁ、そうとも言い切れない。あの老婆だって、やせ細っているわけじゃないだろう? 収穫を少なく申告して、家に食べ物をたくさん隠しているんだ。だから、彼女は必要な物資をここで調達できるだけの金属通貨が手に入ればいい。そういう理屈でこの闇市は成り立っているんだよ」

「共産主義ってウソばっかりじゃん!」

「ハノイは体制移行間もないから、物資が不足しているのと、体制の不備もある。物資が豊富になって通貨が安定した共産主義の世界を見てみたいけど、そんな場所がこの世界にあるのかなぁ」


4、


スコード教のサムフォー司祭は、キャピタル・テリトリィへの留学経験もあるエリート司祭で、経済にも明るかった。彼はハノイに中央銀行の支店を作り、通貨供給の仕組みを整えたばかりでなく、地域の生産性の向上に取り組んで、物々交換に頼っていた地域の経済を近代的なものに変えた。

しかし民衆の一部は、その事実を理解せずに、彼を不労所得を得る資産家、支配階層であると位置づけた。彼は労働者からの搾取によって不当に資産形成した人物と陰口を叩かれ、まるで王のようだと揶揄された。サムフォー司祭は、それらの悪口にいちいち構うことはなく、エネルギー枯渇問題に備えて新たな発電と送電について思いを巡らせていた。発電機は高く、エネルギーも買おうとすれば民衆の経済を破壊しかねない。送電のための銅もない。地球の資源は枯渇していたのである。

そこで彼は、エネルギー輸出地域になるべく、いち早くサトウキビの生産を打ち出した。資源原料の輸出実績を作り、それを担保に借金をして、バイオエタノールプラントを建設して、さらには新型ディーゼル発電機を導入しようと考えたのだ。

その試みは、彼があずかり知らぬところで研ぎ澄まされていた革命の刃によって頓挫した。革命者はキャピタル・テリトリィを中心とした世界標準を否定して新たな標準を作ろうとしたために、旧体制のものは何でも破壊されてしまった。中央銀行支店は間もなく閉鎖された。

民衆は、扇動者によってサムフォー司祭の資産を多く見積もって垂涎していた。支配層の資産家を縛り首にすれば、民衆こそが王となり、不正蓄財されたものは全部還元されると吹き込まれていたのだ。

ところが、扇動者の言葉とは裏腹にサムフォー司祭は清貧な人物であった。彼の一見豪華に見える住まいと教会は、交渉事を円滑に進めるために必要なものだった。彼の資産と目されたものは張りぼてもいいところで、資産家から投資を勝ち取るための虚飾に過ぎなかった。そして彼には、多額の借金があった。生産性向上のために司祭は農作業用のシャンクを買いつけていた。ハッパのモビルワーカーと同じように、それはアグテックのタブーぎりぎりの代物だったために、大変高価なものだったのだ。それを個人の借り入れで買い揃え、農家に貸し出して生産性を上げていたのだ。

ハッパとノレドは、潜入したハノイでの調査によって、サムフォー司祭には資産と呼べるものはなく、借財だけがあったと結論付けた。その借財は革命によって不渡りとなったために、投資家はこの地域を見限った。収穫を上げることで高値をつけた地価は評価額がゼロとなった。それどころか、何もかもが共産党の所有物となり、地域監視官が細かく決められて、彼らは住民に賄賂を要求し始めた。

分配されるのは、紙切れに等しい紙幣ばかりで、税とは別の名の負担ばかりが増えた。当然民衆の不満は高まったけれども、理想主義者を自称する者たちは、生活が苦しいのは理想が実現していないからで、理想が実現すれば何もかも良くなると民衆を諭した。それでも逆らうものは、理想を疑う思想犯として大陸の強制収容所に送られて、思想教育を受けさせられた。

「なぜなら、理想は絶対で、それに代わるものはないからです」

地域監視官に任命された北の大陸の男は胸を張った。ハッパとノレドは、彼らを刺激しないように慎重に調査を進めていたが、民衆の不満が日々高まっていく中で、突如当局の思想取り締まりが厳しくなった。すると、旅行者を装って長期滞在しているふたりは当然怪しまれ、尾行されるようになった。

「まだまだ知りたいことはあるが、そろそろ逃げなきゃいけないね」ハッパは明かりを消した部屋で声を潜めた。「ガンダムはそろそろ水源地帯を制圧しているころだ。農家に戻って、モビルワーカーで約束の場所へ行ってみよう」

「どこへ行かれるのかな?」

ハッパたちが宿を抜け出したところ、見張りらしき憲兵に呼び止められた。旅行者として内偵していた彼らは知らないうちに密告されていたのである。

ハッパとノレドは引き離されて連行された。ベルリからノレドを預かったとの意識があるハッパは、ノレドだけでも逃がそうと憲兵の腕を噛んで激しく暴れた。そのために彼は銃床で首筋を強く殴られて気絶してしまった。ぐったりとしたハッパは担がれて連れ去られていった。

「ハッパさんッ!」

ノレドも掴まれた腕を振りほどこうと必死に抵抗したが、両脇から腕を絡ませられて持ち上げられるように連れ去られてしまった。ノレドは馬車に押し込められた。馬車には他にも多くの政治犯が腕に枷を嵌められ、首に縄をかけられたまま詰め込まれていた。

ノレドも同じように枷と縄を結わえ付けられ、憲兵に連行されていったのだった。



ハッパとノレドを見送った後、ベルリはホーチミンの民兵と作戦会議を行い、水源地奪還作戦に参加することになった。とはいえ、ベルリはこの作戦には乗り気ではなかった。なぜなら、水源地を巡って戦争になれば、その奪い合いを理由とした戦争が継続的に勃発することになりかねなかったからだ。

しかしこのまま手をこまねいて、共産主義者に先手を取られたままでもいられない。何らかの打開策を提示しないで、ただ反対するだけでは誰もついてきてはくれない。

「我々にとって最も理想的なのは、ベルリさんがスコード教会の法王になって、水源地のみならず自由主義陣営の全軍を率いて共産主義者と戦ってくれることなのです」ホーチミンの枢機卿は話した。「もし、法王という身分がおいやでしたら、トワサンガの王子ということでもいい。我々に必要なのは、スコード教を中心とした価値観を体現してくれる象徴なのですから。戦争が嫌というのなら、戦わなくても、あのガンダムという機体で後方支援をしてくれるだけでもいい。共産主義革命など起こさなくても、スコード教は健在で、いずれフォトン・バッテリーも供給されるようになるのだと希望が見えれば、こんなつまらない争いなどそもそも起こらないのです。民衆が民衆の名において王を殺し、正統性なき権力簒奪を行わなければ、世界の秩序はそのまま保たれるのです」

枢機卿は自信をもってそう断言したが、ベルリは内心で首を横に振っていた。そんなものは役に立たない。いまのベルリにはわかっていた。ビーナス・グロゥブのラ・ハイデンを説得するには、ヘルメスの薔薇の設計図を完全に回収しなければならない。トワサンガのカール・レイハントンを説得するには、人間は愚かな反自然的存在ではなく、ガイアの癌細胞などではないことを示して、地球の封鎖を解いてもらわなくてはならない。人間の主義主張の問題ではないのだ。

しかし、それを東アジアしか世界を知らない目の前の浅黒い肌を持つ男に話しても、理解が及ばないのだ。

民兵は続々と集まってきた。なかには、ハノイから逃げてきた亡命者も多数いた。彼らの間では、ガンダムというモビルスーツに乗るベルリがトワサンガの王子であることはすでに知れ渡っており、否応なしにベルリは軍の象徴的立場にされてしまった。何もかもベルリの思い通りにはいかないのであった。

懊悩を抱えたままガンダムに乗り込んだベルリは、コクピットの奥にリリンが隠れているのを見つけた。

「あのね」ベルリは思わず語気を強めた。「サムフォー司祭の奥さんに匿ってもらう約束だったでしょ? これから戦争に行くんだよ。子供がそんなところにいちゃいけないんだ」

「ダメだよ」リリンは口ごたえをした。「だって、あそこにいると、捕虜になるんだもん」

きつく叱ろうと息を吸い込んだベルリは、ふと思い直し、なぜ自分はサムフォー司祭の寡婦が自分の味方なのだと勝手に思い込んでいたのかと肩の力を抜いた。

「ここにいる方が安全だよ」リリンはすました顔で言った。「それに、未来の宇宙から、ラライヤがもうすぐ来るんだよ。ラライヤじゃない人を連れて」

「ラライヤがここに来る?」

ベルリは、ノレドからラライヤがカール・レイハントンについて調べるためにトワサンガに残ったと聞いていた。最後に気配を感じたのは、カール・レイハントンと交戦したときだった。その前に戦ったときには、ガンダムが勝手に発進して、ラライヤが搭乗するYG-111を破壊しようとした。それを阻止したのは、ベルリだった。ベルリは、ガンダムに搭乗したままで、ラライヤがコクピットにいるYG-111を操縦したのだった。

「リリンちゃんにはそれがわかるのかい?」

「わらないけど、見えるよ」

リリンのその言葉を、ベルリは信用するしかなかった。


次回、第42話「計画経済主義」前半は、4月1日投稿予定です。


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「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第41話「共産革命主義」前半



1、


マニラへ向かう船と袂を分かったガンダムとハッパは、北ベトナムのハノイを目指して海上を飛行していた。

日本の貨物船に乗客として乗り込んできたのは、テロリストたちであった。彼らは厳重な警備をかいくぐり爆発物を持ち込んで、貨物船を乗っ取ろうと企てた。目的は日本が発掘品を分析して再現したディーゼルエンジンであった。

ディーゼルエンジンは汎用性が高く、エネルギーを生産できることが魅力であった。日本の未来の基幹産業になり得るその技術を奪うために、彼らは決死の覚悟で船に乗り込み、逆に皆殺しにされてしまった。なぜ技術を独占したのか。そのために多大な犠牲を払うことに躊躇しないのか。ユニバーサルスタンダードのように広く技術を公開することはできなかったのか。ベルリは悩んだ。

死の余韻はベルリの心に暗い影を落としていた。心配したノレドやリリンが、彼の心を和ませようと流行歌を唄ってくれた。ラジオからは東アジアで人気のある歌手の歌声が流れていた。

「ハッパさん、グレートリセットってなんでしょう?」

ベルリは通信機に向けて話しかけた。この通信機はハッパが取り付けたもので、ガンダムに備わっていたものではない。ガンダムは、まるでそれ自体に意思があるかのように、ベルリに聞かせる声はどんな小さな音でも拾い、伝えなくてもいい声は拾わない。そのために通信機を別に取り付けたのだった。

「文字通りの意味だろうけど、革命のことを指しているんじゃないかな」

「何を革命したの?」リリンが尋ねた。

「自由貿易を否定して、共産主義の世界を作ろうということだと解釈しているけど・・・、ベルリはどう思ったんだい?」

「ぼくは、スコード教の否定だと捉えたんですが」

「スコード教を通じてフォトン・バッテリーが宇宙からもたらされ、それを得るためにアグテックのタブーを人間は受け入れてきた。それをやめて人間の意志で物事を決めていこうとするのなら、たしかにそれはグレートリセットと言えなくもないね」

「でもさ」ノレドが口を挟んだ。「それならアメリアも一緒じゃないの? アメリアだって、ソーラーパネルで発電したエネルギーをフォトン・バッテリーに充電できれば、スコード教に支配されているかのような世界を変えられる、アグテックのタブーは打ち破っていかなきゃいけないってメガファウナを作って、海賊船にして温存してたんでしょ?」

「ぼくらがやろうとしたことも、一種の革命だったのだろうか? でもぼくらには、革命を目指している気持ちはなかったし、キャピタルやスコード教への尊敬も失ってはいなかったよ。革命はただの急進改革主義じゃない。旧体制の完全破壊の上に新しいものを構築しようと志向することが革命だ。ぼくらは、旧体制たるキャピタルに、人類の進化についてもっと柔軟になって欲しかっただけなんだ。実際、火と水とタービンがあれば電気は作れる。ソーラーパネルでも作れる。それを大量に安全に蓄電する技術がどうしても見つからないんだ。フォトン・バッテリーに電気を貯めることができれば、たったそれだけのことで人類の歴史は漸進的に改革されるんだよ。革命はむしろ喪失でしかない」

「古いものを壊すから?」ノレドが尋ねた。

「その通り」ハッパは応えた。「だから、アメリアと彼らテロリストはちょっと違うと思うね。ただ、あのテロリストとされた人たちのことをぼくは何も知らないから、断定はしないけど」

「グレートリセットは、旧体制の破壊ってことですね」ベルリは自分に言い聞かすように呟いた。「でも何をリセットしようとしていたのかは、断定はできないと」

「そう。だってさ、スコード教を全否定して、共産主義国家を成立させることをそう呼んだとするだろう。もしフォトン・バッテリーの供給が再開されたら彼らはどうするんだい?」

「ああ、なるほど。フォトン・バッテリーの供給先から外されてしまいますね。ということはやはり、自由民主主義とか自由貿易体制を否定して、共産主義に・・・。共産主義って何なんですか? 共産主義者になったら、裁判もなしにあんな簡単に殺されてしまわなくてはいけないんですか?」

「テロリストは武装集団だから、彼らを制圧するのに裁判なんかいらないよ。ベルリ、これは世界の常識だ。しかも海上でのテロ行為は、生きるか死ぬか、ただの犯罪じゃないんだ」

「そうなんですか・・・」

そう呟くと、ベルリはまた黙り込んでしまい、ノレドとリリンを心配させた。

ガンダムは、ハノイ郊外のジャングル地帯に到着した。ハッパは周囲の偵察に出て、残りの3人は枯れ木などでガンダムを念入りにカモフラージュして隠した。

「この機体は外からはハッチを開けられないんだ。何をされても傷ひとつつかないし、こんなものでいいんじゃないかな」

「外から開けられないのに、ベルリが触ると開くの?」

「そうなんだ。生きているみたいだよ。人間みたいなんだ」

モビルワーカーで近くの農家に出向いたハッパは、半日してオンボロの荷車を調達して戻ってきた。4人は協力してその荷車に幌をつけて、車輪を直した。東アジアでは、人種的にベルリたちの風貌は目立って怪しまれてしまう。そこで荷車に幌をつけて顔を隠そうというのだ。

ハッパは現地の粗末な服も調達してきたので、3人はそれに着替えて、大きな笠を頭にかぶった。

「お金を払うと言ったら断られたよ。でもただじゃ悪いから、モビルワーカーでちょっと働いてきた。それでこれを全部くれたんだ。もういらないからって」

「親切な人たちですね」

「日本人も最初は親切な人たちだって思ったものさ。はっはっは」

日本企業に契約を一方的に破棄されたハッパは、少しだけ人間不信に陥っているようだった。

モビルワーカーが荷馬車を牽引する形で、一行は出発した。街が近いとのことだったが、行けども行けどものどかな田園風景が続いた。この地で革命が起こったと言われても誰も信じないような牧歌的光景であった。田には水牛がおり、ロバに乗った男が砂糖水を売り歩いていた。

稲作が盛んな地域のようで、段々畑が丘陵の上まで続いていた。遠くの山には炭焼きの煙が立ち上っている。乳牛が柵の向こうで啼いていた。リリンは初めて目にする広大な風景に目を瞠っていた。トワサンガ生まれの彼女には、地平線が途切れる景色さえ珍しい。巨大な山と吹き下ろす風の強さも、リリンには強い刺激そのものだった。

「すごいね。これが全部お米になるんだ」

「こんなに作ってどうするの? 余ったら売るの?」

「香港なんかは買っているだろうね」ハッパが後ろの荷馬車に顔を向けて応えた。「自由貿易が出来ていたころは、たくさん作って、食糧輸入国に売っていたはずだ。でも共産主義国になって、日本はあんな感じだし、どこに売るつもりなんだろうな?」

「ハノイのコメの供給先として、香港を侵略したんでしょうか?」

「その可能性も含めて探ってみるか!」


2、



すっかり現地人に溶け込んだハッパがすれ違う行商人に聞いた話では、ハノイにはサムフォーという名のスコード教の司祭がいて、その人物が王のように振舞い、富を独占してきたのだという。

人民は永くその圧政に苦しみ、大陸で共産主義体制が復活すると多くの国民が革命にこぞって参加したという。王のように振舞っていたサムフォーは押し寄せた民衆に捕まると木に吊るされた。家族は南へ逃れたが、ハノイ人民解放軍はそれを追撃しているということだった。

「スコード教の司祭が富を独占するなんて・・・」ベルリは絶句した。

「いや、実際フォトン・バッテリーの利権は絶大だよ。我々アメリア人は自分の国の豊かさを誇っているけど、キャピタル・タワーがあって、フォトン・バッテリーの配給権を独占しているキャピタルの国民は不当に豊かだなと羨んでいた」

ハッパの言葉を、ベルリとノレドは納得いかない顔で聞いていた。

モビルワーカーを馬のように使い、一行を乗せた荷馬車はハノイの中心地へとやってきた。中心地といっても何かがあるわけではなく、ひときわきらびやかな教会と集合住宅が立ち並ぶだけの寂れた街並みであった。粗末な衣服を着た子供たちが走り回って遊んでいた。

一行は荷馬車に乗ったまま教会の中へ入ってみた。よく手入れされた美しい庭園があり、そこだけ別世界のようだった。ただ、かつては美しい装飾が施されていたであろう礼拝堂は焼け落ちていた。そこから焦げた柱などを運び出し、修復作業が続いていた。

ハッパは現地人と似た顔立ちを生かして、作業を指揮していた男に話しかけた。

「ここにサムフォーは住んでいたのですか?」

「おたくら旅行者かい?」太った現場監督の男が愛想良く応えた。「ここはそう、サムフォーが住んでいた教会だ。あいつが富を独占していたおかげでハノイの人民は長らく苦しんでいたからね。いまではあいつが貯め込んでいた財産は人民解放軍に接収されて、ここには何も残ってないよ」

「教会を直しているところですか?」

「そうじゃないよ。教会を壊して、人民解放軍の総督の屋敷にするために改装してるんだ。総督さまはそれはもう慈悲深い方だから、わしらの暮らしもじきに良くなるだろう」

ベルリとノレドは荷馬車の中で顔を見合わせ、いやな予感にうんざりした表情になった。

「サムフォーがいなくなって何か変わりましたか」

「税がなくなったよ。以前はフォトン・バッテリーの配給と引き換えに徴税していたのに、この1年、サムフォーは電気も配らず税はそのままにしていたんだ。あいつのところのシャンクも今年は貸し出しがない。それなのに税だけ取るって、そんな話はおかしいだろ?」

「そりゃ酷い」

「電気がなければシャンクが動かないから、稲刈りも全部人力でしなきゃいけない。くたびれるのはわかるだろ? それなのに、サムフォーはもっと耕作地を増やして、サトウキビを作りたいと言い出したんだ。強欲な男さ。稲刈りですら大変なのに、開墾までさせて、それでサトウキビを作るというんだ。砂糖は足りている、もっと民衆が豊かになるものを作りたいといっても、サトウキビは儲かるようになるからの一点張り。ほとほと困っていたら、青年会が北の大国が手助けしてくれるからサムフォーを縛り首にしようと言い出して、最初はみんなそこまでしなくてもと反対していたけど、税がなくなると教えてもらって、サムフォーを木に吊るすことに同意したのさ。さすがに家族は逃がしたけどね」

ハッパは荷馬車に乗り込んできてそっと話し始めた。

「サムフォーはサトウキビでバイオエタノールを作って、ハノイの人たちを食べさせていくつもりだったようだ。グールド翁が台湾南部の土地を買い占めて作ろうとしていたのもおそらくサトウキビ。甜菜が作れないところでは、サトウキビは戦略物資になりかけていたんだ」

「どうもそのようですね」ベルリが頷いた。「ぼくは、サムフォー司祭が、フォトン・バッテリーの配給と引き換えに徴税していたことがショックですけど」

「フォトン・バッテリーと引き換えに税を徴収していたのは、住民の勘違いじゃなかろうか? みんなここに来るまでの光景を見ただろう? かなり手入れされた田園風景だった。あれだけの田を管理するだけの農作業用のシャンクがあるということは、この地域は相当豊かだよ。バッテリーの配給もたくさん貰っていたはずだ。税でシャンクを買っていたんじゃないか。サムフォーという人物は、ハノイを上手く経営していた可能性がある。もちろん不正に蓄財していた可能性も同じくらいはあるだろう。だけど、もし彼が良い領主であったのなら、人民解放軍とやらは彼と同じくらい民衆のことを想って政治をやってくれるだろうか?」

「グレートかどうかはわからないけど、この地域はリセットされちゃったみたいね」ノレドは急に不安になってきた。「王さまを殺して何を奪ったの? 権力?」

「豊かな土地の利権だろうね」

と、返答したハッパの予感は当たっていた。

税がなくなるというのは住民たちの勘違いで、収穫物はすべて供出させられることになったのだ。それを毎月必要な分だけ公平に分配するという。丘をまるごとひとつ開墾した働き者の男は、労力に見合う分配がないと知ると新妻を連れて夜逃げしてしまった。行商たちは、売り上げに関わらず毎月配給が受けられるとはじめこそ喜んだが、ノルマが課せられると分かって途方に暮れていた。配給は決まったものが同じだけ与えられると知った女たちは、交換のために闇市を巡るのが日課になった。

たった数日で、豊かな田園風景からのどかさが消えた。

人間同士がギスギスし始め、ベルリたちを見る眼が厳しくなってきた。さらに、遅れてやってきた領主の男がハッパのシャンクに目をつけた。旅行者だからと言い逃れして逃げたものの、いつ寝首をかかれないとも限らないので、ベルリたちは夜中にガンダムを起動させてハノイを離れることにした。

「何が起きたのか全然わからない」ノレドは腕組みをして難しそうな顔をした。

「所有が禁じられたのさ」ハッパは風に吹かれながら月に照らされた美しい田園地帯を見下ろしていた。「この広大な農地はみんなのものになった。みんなで働き、みんなで分け合うようになった」

「それって、いいことなんじゃないの?」

「集落で一番の働き者が逃げてしまって、シャンクもなくて、この田園地帯は維持できないよ」

「だったら、日本はケチケチしないでディーゼルエンジンの技術をユニバーサルスタンダードにしちゃえばいいんじゃないの?」

「つまり、そういうことだ」ベルリは爪を噛んだ。「奪い尽くさなきゃ平等にならない。豊かさを追い求められない。地平線の先の先まで戦争を仕掛けて何もかも奪わないとユニバーサルスタンダードを作ることはできない」

「みんなで努力すればみんなが豊かになるんじゃないの?」

「人間の能力には大きな差があるんだよ、ノレド」ハッパが言った。「それは自分の子供や、地域の人など、仲間たちを豊かにして自分も豊かになれるって実感できなきゃいけない。でもその範囲があまりに巨大になりすぎると、自分の努力がザルに水を灌ぐように消えてなくなるのではと不安になる。実際、この地域は以前より貧しくなるだろうよ。シャンクが動いても、以前のように誰も働かない」

「サムフォー司祭は、スコード教の人で、自分で田を耕すわけじゃなかった。不正蓄財してたって話もあった。その財産は分配されないの?」

「分配の権利を持った人間が、少しずつ富を奪うのさ。それで民衆に届くころには、分配されるものが少なくなって、必要なものが偏る。平等を管理するといっても、人間ひとりに何が必要かなんて、その人しかわからない。わからないからみんなと同じものを配る。各家庭で必要なものは違うから、余ったものを持ち寄って闇市で交換する。そしてノルマだけがある」

「でもトワサンガもそうなんでしょ?」

「科学力がまるで違うし、管理された状況で物を作るのと地球の自然の中で物を作るのでは、結果が大きく変わってくる。労働工数なんて、自然環境の中では計れないよ」

王さまを殺したハノイの人々は、王さまが負っていた役割を自らが背負うことになり、途方に暮れてしまっていた。しかもその王は、スコード教の司祭で、決して強欲ではなかったのだ。


3、


スコード教のサムフォー司祭には、強い義務意識があった。教会から派遣された彼は、自分が任された土地の人々を豊かにしようと努力を怠らず、フォトン・バッテリーの配給が止まってからは世界で何が起きているのかよく学び、観察し、バイオエタノールのことも知っていた。

ハノイからホーチミンへと下ったベルリ一行は、亡命したサムフォー司祭の家族の家に招かれた。

「主人が王のように振舞っていたことなどありません」

司祭の妻はホーチミン政府に保護されて、郊外に屋敷を与えられていた。サムフォーはもともとホーチミンの出身で、キャピタル・テリトリィに留学後にハノイに派遣されて、美しい女性を娶り、美しい娘を授かっていた。娘はリリンと同じ年齢だった。

「夫が派遣された当時のハノイは、荒れた土地とジャングルがあるばかりで、キャピタル中央銀行の支店の統計にも入っていないようなところだったんです。支配層がいなかったために、夫がスコード教の布教の傍らでハノイの経営をやっていました。いまではハノイの農産物は石高がはっきりと計算され、共通通貨の供給も十分になされるようになり、貨幣経済への移行によって人々の勤労意識も高まりました。グレートリセット? それは大陸の政府による独自通貨の発行を指すのではないでしょうか?」

振舞われた紅茶を飲みながら、ベルリが驚きの声を上げた。

「通貨の発行? キャピタル以外がそんなことをするのですか?」

「北の大陸は、ずっと二重通貨だったのです。スコード教への帰依と中央銀行支店の受け入れをしなければフォトン・バッテリーの配給が受けられないので、キャピタルの通貨も使用していたのですが、地球の裏側の経済のことなどキャピタルが完全に把握できるわけがないので、大陸は足らない分を独自通貨として発行していました。キャピタルの通貨の信用は、フォトン・バッテリーによって保障されていましたから、その配給が止まったときに、通貨の信用力が落ちた。独自通貨の信用力は生産力の裏付けがなければいけないので、大陸はフォトン・バッテリーに頼らない強固な通貨、安定的な通貨の確立を呼びかけた。そのためには国境を廃止してアジア全域、最終的には地球全体でキャピタルを凌駕する経済体制を構築せねばならないと訴えていました。それを日本などが反スコード的覇権主義だと批判して対立しました。大陸ではスコード教の司祭は殺され、民衆の通貨への関心が生産力の拡大と所有の概念を揺さぶり、いつしか共産主義の復活へと結びついたのです。わたくしは共産主義がどんなものなのかよく理解していませんが、東アジアで戦争が起こったのは、エネルギーの争奪、大陸の砂漠化、通貨の信用力の低下、これらが混然一体となった結果です」

ベルリは、フォトン・バッテリーの配給停止が地球の裏側でこんな問題を起こしているとは想像もしていなかった。

キャピタル・テリトリィによる緩やかな連合体制は、行政区分としての国家の維持と、国家間対立の回避を見据えた経済運営体制が柱であったのだ。ところがそのキャピタルが戦争による疲弊とクリム・ニックとルイン・リーによる2度の体制崩壊に見舞われ、さらにフォトン・バッテリーを配給できなくなって、地球の裏側では脱キャピタルとも呼べるイデオロギー対立を誘発してしまっていた。

サムフォーの美しく知的な妻は、激動に見舞われたハノイで、スコード教が目指す文明対立の回避を維持するため、夫とともに厳しい状況を耐え続けてきたのだった。

「夫はいずれフォトン・バッテリーは再供給されると信じていました。それまでの期間、日本のバイオエタノールによるエネルギー供給体制を繋ぎとして利用しようと、新たな開墾を農民たちに提案していたのです。いったん共産主義体制に飲み込まれてしまうと、キャピタルの体制に戻ることは難しくなります。日本は自由貿易で互いに足らないところを補完しながら現状を維持しようとしていたので、言葉は悪いですが利用できると思っていました。でも、農民たちはそう思ってはくれなったようです」

サムフォーの家族の家を辞したベルリ一行は、北からの侵攻に備えて軍備拡張を進めるホーチミンの人々を悲しい顔で見つめながら、今後のことを話し合った。

「ハッキリ言って、ガンダム1機あれば、大陸の侵攻を食い止めることはできる」ハッパは断言した。「香港で見ただろう? 大陸の戦力は人力と火薬だけだ。おそらく、火薬を大量に生産して、爆発物と人海戦術、それにハノイみたいにスパイ活動で敵を寝返らせる作戦だけといえる。戦争には勝てる。でも勝とうとすれば、大勢の人間を殺さなきゃいけない」

ベルリは意気消沈して返事をすることもできなかった。代わりにノレドが口を開いた。

「原因が砂漠化と通貨不安とエネルギー枯渇なんでしょ? 人を殺しても何の解決にもならない」

「いや」ハッパは首を振った。「これはスコードと反スコードの戦いでもあるんだよ。もし世界が反スコードの共産主義体制になったら、スコード教が目指してきた人類の融和はどうなる? ビーナス・グロゥブの理想はどうなる? 共産主義体制がそれを引き継いでくれるだろうか?」

「日本がディーゼルエンジン技術をユニバーサルスタンダードにしないのがいけないんじゃないの?」

「違うんだよ、ノレド」ハッパは優しく諭した。「ユニバーサルがふたつ出来ちゃったんだ。フォトン・バッテリーが宇宙からやってきたうちは、本来の意味でのユニバーサルだったけど、その信用が落ちて、地球だけのユニバーサルが生まれようとしている。宇宙との関係が途切れれば、自分が住んでいる目の前の世界が宇宙のすべてになる。まさに革命が起きようとしているんだ。ぼくはアメリア人としてスコード教やヘルメス財団のやり方には不満も持っている。でもその理想を捨てようとは思っていない。ここは日本に与して、反スコード主義である共産主義と戦うのもひとつの手段だ」

「ハッパさんは間違ってるよ」ノレドはベルリを見ながら悲しそうに呟いた。「戦争をしたら、フォトン・バッテリーの再供給はなくなるし、ビーナス・グロゥブとの関係も切れちゃうんだよ。それに、もう時間がない」

リリンがハッパの袖を引っ張った。

「地球は虹色の膜に覆われて、大きな爆発が起きて、宇宙からやってきた銀色の魚みたいな細長い船に取り囲まれるんだよ」

「その話、何度も聞いたんだけどさ、誰か見たのかい?」

「リリンちゃんは見たの?」ノレドはリリンの頭を撫でた。

「見てないけど、見たよ。地球は真っ白になって、人が住めなくなって、みんな死んじゃうの」

「リリンちゃんはずっとこう言ってるのよ。でも、あたしたちは地球が膜に覆われたところまでは知ってるけど、フルムーン・シップが爆発を起こすとか、地表が剥がれて人類が絶滅するとか、地球が氷に閉ざされるとか、そこまでは知らないのよ」

「未来を見たってことなのかな」ハッパは首を捻った。

「ウィルミットのおばちゃんは、タワーで地上に戻って、悲しくなって泣くの。ずっとベルリさんの名前を呼んで、ずっと謝ってるの」

リリンは結論まで話さなかったが、ウィルミットは絶望のあまり地球で自殺してしまうらしかった。ノレドはヒヤヒヤしながらベルリの顔を窺った。蒼ざめたその顔には、絶望の影が浮かんできていた。


4、


統一通貨の脆さは、香港の金融を崩壊させ、日本の企業を危機に陥れただけでなく、スコード教による人類融和の理念さえも揺さぶり始めていた。

そうした危機感は自由貿易主義陣営に共通したもので、ホーチミンのスコード教会は正式にベルリに臨時の法王就任を依頼してきた。

「我々には象徴が必要なのです。失礼な話ですが、現在のゲル法王はアジアでは人気がない。アジア歴訪も中止になるとのもっぱらの噂です。ゲル法王がこちらに来てくだされば、フォトン・バッテリーの供給がなくともスコード教の権威を保つ役に立ったのですが、何やらよくわからない理屈をこねて、スコード教会と対立しているのだとか。しかし、トワサンガの王であるあなたなら、その役割を果たすのに十分だと思うのです」

浅黒い肌に白い法衣をまとった数人の男たちは、すがるようにベルリに頭を下げた。ベルリは心底困った顔で手のひらを横に振った。

「そんなこと、できるはずないじゃありませんか。ぼくは何の訓練も受けていないただのスコード教徒です。みなさんの方がよほどふさわしい」

「そうじゃないのです」ホーチミンのスコード教を束ねる年配の男が首を振った。「象徴になる方がいないと、北から押し寄せてくる共産主義者勢力に抗することができない」

「なぜですか?」

「彼らが唯物論者だからです。彼らは神を信じていない。神はこの世に存在せず、それを知っている自分たちは神を信じている人間より先進的で優れた人間だと思い込んでいる。フォトン・バッテリーは、神の恵みそのものだった。フォトン・バッテリーがあったから、誰も神の実在を疑わなかった。それをあなたは・・・いえ、トワサンガから直接情報が提供されるようになったことで、フォトン・バッテリーが神の恵みではないとみんなが知ってしまった。わたしたちは、欺かれていただけだったと。それでも、フォトン・バッテリーさえ配給されれば、まだ違った。でも、もうダメなんでしょう?」

「ダメと決まったわけではないですけど」

そこから先は、ベルリには確信が持てなくて口にすることはできなかった。この地の司祭は、ベルリの開明的な施策に批判的だったのだ。ベルリは、トワサンガの王子として直接事実を語りかけることで、宇宙と地球の間にあったベールを剥ぎ取ってしまった。司祭は続けた。

「みんなあなたがトワサンガの王子だと知っている。トワサンガは宇宙にあるスペースコロニーで、ビーナス・グロゥブと交渉できる立場であることを知っている。だからこそ、あなたがスコード教と自由民主主義陣営の象徴となって存在してくれないと困るのです。もしあなたが逃げてしまった場合、スコード教の権威は地に堕ち、人々はこぞって神を捨てて唯物論者となることでしょう。神の存在を失った人間は、道徳の規範を失います。共産党の指示書や内規がすべてになるのです。そこに、人間らしい道徳心は存在しません。まさに、グレートリセットです。神を殺し、王を殺した人間が、民衆の代表を名乗ってその場に君臨する。それは選挙で選ばれたわけでも、代々王として君臨して人間でもない。共産党員になって、権力争いに勝利した人間とその取り巻きだけです。そこにスコード教の居場所はないのです。ベルリ王子はスコード教の熱心な信者であるとか。特別な力も発揮したと聞いております。どうかあなたの力で、たとえ一時なりとも、せめて法王庁が機能を回復するまででも、我々の象徴となって戦ってほしいのです」

「戦う? スコード教が、共産主義者と戦うのですか?」

「ではどうすればいいのです? 戦わずに、神を信じない唯物論者にフォトン・バッテリーの配給権を渡すのですか? アグテックのタブーはどうなりますか? 神を信じない唯物論者は、アグテックのタブーなど気にしませんよ。日本はまだしもスコード教会と折り合いをつけて、あくまで一時的なものとして過去の技術を再生させようとしています。でも、共産主義者はそうではありませんよ。神の存在を信じないのにタブーだけ信じるわけがないでしょう。むしろ、タブーは積極的に冒すことになる。なぜなら、彼らの価値観ではその方が先進的で正しいとされているからです」

ベルリの脳裏に、マカオに向かう船で起きた惨劇が蘇った。ガンダムで、火薬と刃物で侵略してくる数百万の敵を虐殺せよというのだろうか。ベルリには、その戦いに与することなど考えられなかった。かといって、司祭の言う通り、スコード教の教えを失って、人間が無神論に陥った場合、ビーナス・グロゥブは2度と地球に関与せず、カール・レイハントンの望む世界を招きかねない。

ベルリはいったん相手に引き取ってもらい、考える時間を貰うことになった。その夜のこと、ノレドとリリンが寝静まった後、ベルリはハッパに相談した。

「やはりハッパさんの言う通り、戦うしかないのでしょうか?」

「ぼくは戦うこともひとつの手段だと提示しただけさ。ぼくはリリンちゃんの話が気になって仕方がないんだよ。彼女は、君らも知らない大爆発による人類の絶滅であるとか、全球凍結の未来を見たって言っている。子供の話だから話半分だとはじめは思っていたけど、ベルリ、怒るなよ、ウィルミットさんが絶望して君の名前を呼んで謝り続けるとかさ、本当に見てなかったらあんな子供が話すものかね?」

「ぼくはいったい何をすればいいんだ」ベルリは天を仰いだ。「戦っても解決しない。戦っても死なない。そんな相手にどうすればいいんだ」

するとハッパはしばらく考えた後で、意を決したように話し始めた。

「もしかすると、これが観察者になるということじゃないのかな? 君らの話じゃ、カール・レイハントンという人物は、ビーナス・グロゥブの意向に沿ってトワサンガとキャピタル・タワーをメメス博士という人物に作らせたのだという。それは、ビーナス・グロゥブの理想、スコード教の理想というものを完全に否定してはいなかったということだ。しかし彼には、深い絶望があった。人間はスコード教なんてものでは御しきれず、いずれ破綻するだろうと見込んで、準備していたんじゃないのかい?」

「そうかもしれません」

「観察者たらんとした彼の眼中に、人間などはなから存在しないのかもしれない。それを君に見せているんじゃないか。君に人間の本当の姿を見せて、同じように絶望させようとしているのかもしれない。だとしたら、ベルリがやることは決まったようなものさ。君は絶望しちゃいけない。君は希望を見つけなきゃいけない。ガンダムに乗って、みんなで希望を見つけることが大切じゃないのかい?」

「法王の話をどうしましょう」

「それは方便さ。いまこの地は、北から侵攻してくる共産主義の恐怖に怯えている。それを一時的に食い止めるための仮の手段であって、誰も君に正式な法王になってくれなんて思っちゃいないさ」

ハッパとの話し合いが終わり、与えられた自分の部屋に戻ったベルリは、その夜も眠れなかった。

共産革命主義の本質は簒奪である。彼らは人々の不満を利用して、イデオロギーを組み替えることにより、すべてを奪っていく。奪うことすら、分配を目的としているからと肯定する。

ハノイで1番の働き者は、せっかく開墾した段々畑を捨て去ってまでも逃げた。それは、平地より手入れに労力がかかる丘陵地帯の田を耕しても、平地で楽をしている人間と同じだけしか配給を受けられないのなら、労力に見合わないからだ。収穫したものが自分のものになるから、彼は働いた。逃げて、別の土地でやり直した方が彼は豊かになる。そう信じて逃げたのだ。

「ぼくは観察者だ」ベルリは自分に言い聞かせた。「共産主義と自由主義の争いに関与してはいけない。それは観察者としての道に反する。何が正しいのかは誰にもわからない。ぼくは革命を見なきゃいけない。ぼくが戦うべき相手は、カール・レイハントンだけなんだから」

ハノイから大量の難民がホーチミンに押し寄せたのは、翌日のことだった。


第41話「共産革命主義」後半は3月15日に投稿する予定です。














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