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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:89(Gレコ2次創作 第34話 後半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第34話「岐路に立つヘルメス財団」後半



1、


約束通り、クレッセント・シップとフルムーン・シップは地球から送り返されてきた。来るかと思われていたメガファウナの姿はなく、代わりに多くの犯罪者が送り付けられてきた。彼らは地球で大罪を犯し、月で簡単な宇宙生活の訓練を受けただけで罪人としてビーナス・グロゥブに連行されてきた。

クレッセント・シップ艦長エル・カインドは、地球代表としてアイーダ・スルガンの親書と、トワサンガ代表としてベルリ・ゼナム・レイハントンの親書を携えていた。ふたつの親書を一読したラ・ハイデンは、すぐさま地球人の教育とビーナス・グロゥブで行う義務についての教育法を指示し、合同裁判の手続きを開始した。

犯罪者として送致された地球人は、まずはスペースノイドとして義務が果たせるよう訓練を受け、教育後に労働力として働かされることになる。

「ベルリというあの少年は、すべてのアースノイドを宇宙で訓練を受けさせると言っているわけか?」

ラ・ハイデンは怪訝そうな顔でエル・カインドに質問した。彼の印象にあるベルリ・ゼナムはいささか頼りない少年で、その恋人というノレド・ナグの印象の方が強かった。そんな第一印象と打って変わり、親書はかなり力強い確信に満ちていた。そのギャップ、そして彼のプランの実効性。どちらもラ・ハイデンは否定的であった。

「1年間地球各地を巡行してわかったことですが」エル・カインドは顎髭を撫でた。「アースノイドというのは意識が未開です。聡明さに欠ける。義務意識に乏しく、身勝手な振る舞いが多い。しかし彼らもフォトン・バッテリーのために必死に知恵を絞ったのでしょう」

エル・カインドは、地球圏で起きたジムカーオ大佐の戦争について知っていることを報告した。目を閉じてそれを聞いていたラ・ハイデンは、事態を収拾して地球圏から暴力装置を排除してみせたベルリとアイーダのことは評価したものの、地球人というものが簡単に戦争に突き進んだことを重くみた。ゴンドワンでは核爆発も起こしてしまい、深刻な環境被害が出ている。

さらに深刻なのは、スコード教の威信の低下であった。キャピタル・テリトリティは国家の機能を失い、トワサンガは機能停止に追い込まれ、多くの住人が死んでいる。

「ジムカーオが支配したトワサンガ・ラビアンローズとの戦争に勝てたのも、トワサンガの機能停止から復興したのも、すべてムーンレイスの技術のおかげではないか。キャピタル・テリトリティもスコード教も何ひとつ役割を果たせず、利権を守るために汲々としていただけか。何と愚かな」

スコード教の威信が低下し、ムーンレイスによってユニバーサルスタンダードが脅かされ、フォトン・バッテリーの配給停止によってアグテックのタブーが犯されている。宇宙世紀の過ちを繰り返さないためのヘルメス財団の大方針はことごとく否定され、破壊されてしまっていた。それが地球圏の現状なのだ。キャピタル・テリトリティには大量の移民が流れ込み、ヘルメス財団の支配が継続されるかどうかも定かでない。

「アイーダという人物は、『連帯のための新秩序』という基本方針で地球の再統一、緩やかな連携をすると親書にあるが、アメリアという国家の国力を前提にした支配の論理に過ぎない。パクス・アメリアーナを我々は望まない。こんなものは帝国主義を美辞麗句で別のものに見せているだけだ。帝国主義による地球統一など許せば、帝国の地位を脅かす帝国が出現して覇を競うようになるだろう。まるで話にならん。地球人は自分たちの本質的愚かさに気づいていない。このベルリという少年もそうだ。ビーナス・グロゥブの労働の専門性を理解しているとは思えない。ちょっと教育してもらえば自分たちにもできると考えたのだろう。愚かなことだ。さては、前総裁のラ・グーからムタチオンのことを聞かされ、それがビーナス・グロゥブの深刻な問題であると足元を見たか」

「善意に満ちた姉弟ではありますが、なにぶん子供でして」

ラ・ハイデンの怒りの大きさに、エル・カインドは戸惑い気味であった。彼はまだカール・レイハントンがビーナス・グロゥブに出現して、ヘルメス財団が人類の進化の岐路に立たされていることを知らなかった。ラビアンローズの巨躯を目の当たりにしても、まさかそこに500年前にトワサンガへ移った人物がいるとは想像できなかった。ましてや彼が不死の存在であることも。

すべてのことを話し終えると、エル・カインドは航海日誌を提出してその場を辞した。


2、


技術革新の禁忌、宗教の統一、独自規格の禁止、エネルギー枯渇の回避。これらをもって文明を再興しながら宇宙世紀の過ちを避けようとしたヘルメス財団の試みは大きく挫折した。

ムタチオンの恐怖を利用したピアニ・カルータの競争信仰は、戦争の有用性を人に思い出させた。ジムカーオは、ラビアンローズとムーンレイスを戦わせることで『独自規格の禁止』を揺さぶり、本来の目的であったであろうスコード教への攻撃を果たした。さらに、トワサンガとビーナス・グロゥブのラビアンローズを同時に蜂起させることで、宇宙同時革命ともいえる状況を作り出して地球圏のエネルギーを枯渇させた。おそらくはこれらがさらなる戦争状況を生んでいるだろう。

ふたつの事件は、レコンギスタを大きく後退させただけだった。再文明化を果たした地球へ、神のように優位な立場で降り立つことが、ビーナス・グロゥブのヘルメス財団が住民に約束したことだった。地球を激しい闘争の状態にすることは、ひとつしかない命を無駄に落とすことに繋がる。

「老人の多くはここに残ると言っております。もういまさら戦争ばかりの地球に移住したところで、生き残る自信などありません」

復旧業務の視察のために街へと出たラ・ハイデンは、なるべく多くの住民の意向と聞こうと精力的に動き回っていた。

命の在り方が変わるとの演説を聞いたビーナス・グロゥブの住民の意見は多様だった。「尊厳死」という言葉が使われるように、残留思念となってまで生き延びたいと願う人間はそれほど多くなく、レイハントンの望む生へと変化したいと願い出る者はほとんどいなかった。多くの住民は寿命を全うし、子供に未来を託して死んでいこうとしている。一方で彼らは長寿を願い、死を恐怖してもいる。

カール・レイハントンは希望者は思念体へと進化させると表明しており、すでに数十名が処置を終えていた。思念体となった人々が家族の前に再び姿を現すことはなく、残された家族は葬儀を行い、いなくなった者を死者として弔った。此岸と彼岸の境界は、此岸にいる者にとっては変えがたい境界だったのである。

長寿を志向し、新たなボディスーツの開発のニュースに関心を示していた過去のビーナス・グロゥブは失われようとしていた。ボディスーツの存在自体が疑われるようになり、あれほど尊敬を集めていたラ・グーのことは急速に忘れられていった。比して、壮健なるラ・ハイデンの潔さの人気は高まる一方であった。強く生き、潔く死ぬことを、金星圏の人々は考え始めていた。

そんなラ・ハイデンの人気に慌てたヘルメス財団の幹部らは、秘かに打倒を誓っていたが、日ごと形勢は不利になるばかりであった。ラ・グーの長期政権において、長寿を目指すことで利権を確保してきた彼らは、ボディスーツを破棄して自然死する人間が増えてきていよいよ追い詰められた。本当のところは誰も彼らを追い詰めてなどいなかったのだが、彼らは自分たちが急速に支持を失っていると感じて焦燥を顔に滲ませた。

そこで彼らが目を付けたのが、地球からやってきた罪人たちであった。暴力的な地球人を操って、ボディスーツをはじめとした長寿技術を携えレコンギスタすれば、神のようにとまでいかなくとも、かなり有利な条件で地球に入植できると考えたのだ。

「スコード教はもはや役に立たぬらしい。アースノイドは我々の尊い労働義務について尊敬をなくし、そのくせフォトン・バッテリーだけは寄越せと」

ヘルメス財団の幹部たちは、連日膝詰めで会議を開催していた。彼らが意見交換することはラ・ハイデンも承知しており、それがどのような内容であれ、例えばラ・ハイデンの暗殺を話し合うような不穏なものであれ、自由が保障されている。保証されていない自由はテロリズムだけであり、それがキア・ムベッキの墓が作られなかった原因でもある。

「ラ・ハイデンは彼らを助けぬだろう。だが問題はその先。地球は戦争になるのだろうか。もはや資源はないはずだが、もしトワサンガが資源衛星を開拓して地球に資源を降ろせばいかがするか。トワサンガ、キャピタル・タワー、アメリア、全部レイハントンで繋がっている。完全な独裁体制だ。こうなると我々で大船団を組んでレイハントン・ムーンレイスの連合と戦うしかない」

「戦うにしても、カール・レイハントンがいる。彼はまだラ・ハイデンに返答を迫ってはいないが、いずれは生か死かと迫ってくる。生と答えて生きることが許される保証はない。これは間違いなく、レイハントン一族の陰謀なのだ。カール・レイハントンは我々ビーナス・グロゥブの民をよくわからない霊魂にして葬り、アンドロイドとあの地球人の罪人でフォトン・バッテリーの生産を続けるつもりだ。金星は奴隷だけの流刑地となって、地球圏を支配するレイハントンだけが皇帝になる。そうした陰謀なのだと自分は考えるがいかがか」

これは他の誰もが考えていることであった。彼らにとって思念体となり永遠の命に変化することなど何の意味もなかった。

「そこで提案なのだが、送られてきた罪人の調査を行ったところ、面白い人物がふたりいるとわかった。ひとりはクリムトン・ニッキーニ。彼は地球の最大国家アメリアの大統領の息子である。もうひとりは、クンタラの指導者ルイン・リー。このふたりは、アイーダ・スルガンとベルリ・ゼナムの対抗馬にならないだろうか。こちらに有利な話はまだある。カール・レイハントン自身が言っていたではないか。ベルリ・ゼナムもアイーダ・スルガンも、彼の血族ではなく、アバターとクンタラの混血だという。これは正当な支配権が彼らにはないことを意味している。最もレイハントン自身は霊魂みたいなものだからそんなことには興味がないのだろうが、ベルリ・ゼナムとアイーダ・スルガンさえ殺せば、事態は好転の兆しを見せるはずだ」

「いや、そうはならんね。最大にして最終的な問題は、カール・レイハントンの方針だ。彼はすべての人類を思念体とやらにするつもりである。それをいまラ・ハイデンがどうやって譲歩を引き出すか思案している段階だ。こうした交渉事は、残念だがラ・ハイデンに委ねなければならないだろう。彼はやはり優秀であることは間違いない。カール・レイハントンをどうにかしなければ、我々に未来などないのだ。我々の未来は、死後の世界にあると彼は言うのだから」

「カール・レイハントンはやはり全スペースノイドを思念体にするつもりなのだろうか」

「スペースノイドを思念体に進化させて、アースノイドはどうするつもりなのだ?」

「アースノイドは絶滅させるのだろう。話を聞く限り、ジオニズムは人間性の否定だ。人間が何か別のものに進化しなければならないとの妄想に支配されている。確かに人類は歴史を誤ったが、それを繰り返さないためのヘルメス財団千年の夢であったというのに」


3、



会議の翌日、ヘルメス財団はクリム・ニックとルイン・リーに初めて接触した。ふたりは個別に派遣された人物と会談を持ち、どんな人物なのか慎重に見定められた。手錠を掛けられたクリム・ニックは、戦争犯罪人である極悪人に告解させるとの名目で大聖堂へと連行されてきた。

ここはゲル法王猊下が説法を行った場所であった。周囲は警官によって厳重に固められ、上空には万一に備えてモビルスーツが配置された。その物々しさにビーナス・グロゥブの住人は、戦争犯罪者というものへの恐怖を感じたが、ヘルメス財団が怯えているのはカール・レイハントンに対してであった。

話を聞いたクリムは、驚きを隠せなかった。

「ベルリとアイーダが地球の支配を目論んで共謀している?」

クリムは話し相手であるビーナス・グロゥブの枢機卿の真意を測りかねていた。相手の話に迂闊に乗って謀りであった場合は取り返しのつかないことになる。ひとまず彼は、アイーダが戦争終結のために尽力していたことを清く認め、自分こそが戦争犯罪人であると返答した。

枢機卿は少しイライラしているようだった。彼は老いて垂れ下がった皮膚を持ち上げるように上を眺めながらクリムに話した。

「終わった戦争犯罪のことはひとまずよろしい。これからこの地で起こる問題の解決に尽力を得られるのなら、恩赦も可能だと提案させていただいている」

彼はゴクリと唾を呑み込んだ。話を思念体という得体のしれない存在であるカール・レイハントンに聞かれているのではと気が気でないのだ。

「この地で起こる問題?」

「虐殺だ。レイハントンによる虐殺がこの地で起こるかもしれない。もしビーナス・グロゥブの罪のない人々が虐殺の憂き目を見れば、最後には地球人すべてが同じ目にあうだろう」

「レイハントンとは、ベルリくんのトワサンガのルーツのことでしょう。ふたりが姉弟であることは承知しているが、地球圏を支配となるといささか・・・」

「トワサンガの初代王カール・レイハントンのことはご存じか」

「いや、寡聞にて」

「カール・レイハントンはいまより500年前の人物だが、ある事情があってまだ生存しておるのだ」

そう聞かされても、クリムにはピンと来なかった。枢機卿はすべてを話すわけにはいかずもどかしそうであったが、あるアグテックのタブーを使えばそれが可能なのだと説明してようやく納得した。クリムは美しいステンドグラスを見上げて呟いた。

「永遠の命・・・」

「だがそれは肉体を捨てねば手に入らないのだ。肉体を捨てれば、霊魂のような状態になって元の肉体も再生できるというものだ」

「元の肉体が再生できるだと!」

クリムは突然思い至った。彼はジムカーオの策謀に巻き込まれ、大陸間戦争再開、キャピタル・テリトリティ爆撃、占領政策と数々の罪を犯していたが、それらが成就しなかったことより親友であり愛人であったミック・ジャックを失ったことを深く後悔していたのだ。

そのミック・ジャックは、命を失ったのちもしばらく機械式アバターであるアンドロイドの中に思念を送り込み、クリムと行動を共にしていたのだ。彼はその際のことを思い出したのだ。

「元の肉体を蘇らせ、そこに魂を入れると元の姿に戻るのか!」

「戻したい人がおありで?」

枢機卿はようやく思い通りの展開になってほくそ笑んだ。

「いる。自分にはこの命に代えても蘇らせたい人間がいるんだ」

「ならば我々との取引に応じるべきでございましょうなぁ」

クリムはギュッと唇を噛み締め、そのくたびれた顔にみるみる精気を蘇らせたのだった。

「わたしに何をしろと? いや、何をすればミック・ジャックを蘇らせてくれると?」

「カール・レイハントンを殺せなどと無理は言わない。あなたにはアイーダ・スルガンを暗殺してもらいたい。いやなに、暗殺でなくともよい。最小限の被害で確実に葬って欲しいのだ。レイハントンは人類を皆殺しにしようとしている。それをどうやったら阻止できるのか、君には作戦に参加していただこう。無論、地球に還してあげるよ」


4、



同じころ、ルイン・リーとマニィ・リーは、幼い娘とともに旧ドレッド家の大邸宅でもてなされていた。ここも厳重な警戒態勢が敷かれ、銃を構えた兵士が邸宅の周囲を取り囲み、無線で連絡を取り合っていた。ふたりの手からは手錠が外されている。

「ベルリ・ゼナムとアイーダ・スルガンという姉弟は、必ずや人類に仇を成すだろうとは思っておりました」ルインは目の前にいる小柄な枢機卿に対して自信あふれる姿をアピールした。「我々夫婦がお役に立てるのであれば、そしてまたクンタラの名誉回復を第一に考えてくださるのなら、ベルリ抹殺の役目、喜んでお引き受けいたします」

「そう言ってくれると助かる」

「しかし、クンタラの名誉回復とは、いったいどのようなものなのでしょう?」

「カール・レイハントンがどのような人物であるかは先ほど話した通りだ。我々は彼との対話を通じてこう結論するに至ったのだ。つまり、スコード教は間違っていたと」

「なんと」

ルインは相手の法衣をまじまじと見つめた。枢機卿はふうと溜息をついて、腹を押さえた。

「ヘルメス財団は、人類の安寧だけを願い、再び人類がエネルギーを巡って争うことがないように、ここビーナス・グロゥブでフォトン・バッテリーを作り、人類に広く行き渡らせるよう努力してきた。人類はすぐに争いを起こす。君もその罪で捕らえられ、ここへと送られてきた。争わせないための宗教がスコード教だ。ビーナス・グロゥブにおける住民たちの自己犠牲は、特定の一族を富ませるために行ってきたわけではない。戦争を起こさせないためのものだ。わかるね?」

「無論です。しかしわたしは」

枢機卿は反論しようと身を乗り出したルインを掌で制した。

「人類を再び戦争に導くことがないようにと願って我々は義務を果たしてきた。スコード教の禁忌は、それに役立つと信じてきたのだ。しかし、カール・レイハントンは、人類を皆殺しにして霊魂のようなものにすれば万事解決すると提案してきた。それがジオニズムであると。ジオニズムというのはわたしもよくは知らないが、ニュータイプだとかいうものに進化しようとする太古の思想だという。そしてそのための手段も持っているのだと。それを独占しているのがレイハントンだ」

「はい」

「彼の提案を受けたときに、はたと気がついたのだ。確かに肉体がなければ人間は争いを起こさなくなるだろう。それは究極の解決方法であると。しかし、それでいいのか? 人類は人類でないものに進化してこの世から消えればいいのか? 死ののちに永遠の命が待っているからと、正しく生きようと努力してきたものを捨てねばならぬのか。おそらくそうではないのだ。生きるというのはそういうものではない。では生きるとはいったいどんな行為なのか。そのとき我々が思い出したのが、名もなきクンタラの宗教であったのだ。君たちクンタラは、肉体をカーバに運ぶ道具として考えている。カーバというのは理想郷のようなものだろうが、人生を賭けて、正しい振舞いを積み重ね、肉体がカーバに辿り着けるようにと人生を捉えている。それは素晴らしい思想ではないか。スコード教はしょせん争いを起こさないために作られた人工宗教であった。宗教対立をなくすための、宗教のユニバーサルスタンダードでしかなかった。そこに、人間の魂をどのように考え、人生に意味を見出す思想はない」

「いや、しかしそれでは、カーバがまるで実在しない理想のようなものだと」

「待ちたまえ。そこで我々ヘルメス財団は決断したのだ。スコード教を廃し、クンタラの宗教を全宇宙に広めていこうと。仮にクンタラ教とでもしておこうか。もし全人類がクンタラ教に改宗したとして、その世界でクンタラは差別されるだろうか。我々もクンタラの苦難の歴史は知っている。食人習慣というおぞましい習慣の被害者だ。だが君らは、人類が食人に走ったおりにも強い信念をもって自らの宗教を守り通してきた。カーバに辿り着かんと、肉体を捨てることをよしとしなかった。それこそまさにいま我々が置かれた立場と酷似しているのではないか? 肉体は確かに争いの源となる。だからこそその肉体を持つ意味を問わねばならない。この肉体は、魂を健全に保ち、カーバに至らしめる重要な道具であったのだ。肉体は様々な煩悩に支配される。肉体があるから争いごとが起こる、これは確かに理のある話だ。だがそれを制するからこそ魂は浄化され、カーバという聖地に至る資格を得るのではないか? 単なる技術で魂だけの存在になるということは、穢れた心を持つ者も一緒に永遠の命を得るということだ。そんなことはおかしい。煩悩に打ち勝ち、まさにあなたの妻が手に抱く幼子のように清らかな魂を保ち続けた人間だけがカーバに至るべきではないのか?」

「わたしはこの人の話は正しいと思う」マニィが口を挟んだ。「戦争を回避するためだけなら確かに霊魂にでもなって大人しくしていればいい。生きるってことは、そういうことじゃないんだ。スコード教は間違っているよ」

「うむ」ルインもいたく感心したようだった。「まさかカーバにそのような意味があろうとは考えたこともなかった。我々にとってカーバは約束された土地。そこへ至りさえすれば差別もなく、苦しみもなく、皆が平等に暮らせる魂の安息地だと思っていた。だが、枢機卿の話されたようなことを体系化して、全人類をクンタラ教に改宗させることができたならば、あるいは・・・」

「それだけではないよ」枢機卿は慎重に、念を押すように、ルインを抱き込もうと彼の肩に手を置いた。「新しい宗教になっても、肉体がある限り人間は争いごとをやめないだろう。だからこそ、いままで通りフォトン・バッテリーを我々ヘルメス財団が供給しなければならない。レイハントン家が500年に渡る策謀で地球圏の支配を完成させようとするいま、それを打倒したのちには誰かがトワサンガを治めねばならない。トワサンガをクンタラ教の聖地にせねばならない。いままで通り、ビーナス・グロゥブで人類全体のために労働に勤しむ人間を尊敬せねばならない。その役割に、レイハントンはふさわしくないのだ。ルイン、そしてマニィ。あなた方若い夫婦は、トワサンガを支配するにふさわしい好人物だ。ベルリ・レイハントン亡きあとは、あなた方にトワサンガを支配していただき、ヘルメス財団の新しい夢の礎になっていただきたいのだ」

「よろこんで!」

マニィは子供を抱いたまますっくと立ちあがり叫んだ。ルインも立ち上がり、マニィの肩を抱き寄せると、枢機卿に深々と頭を下げた。

「よもやこうして三度のチャンスを得るとは思いもしませんでした。ベルリ抹殺の件、しかとお引き受けいたします」



5、



「あの単純な地球人どもを簡単に抱き込んだはいいが、さて、問題はカール・レイハントンとラ・ハイデンよ」

ふたりの枢機卿は小さな教会の地下で膝を合せて話し込んでいた。その狭い空間にはビーナス・グロゥブのすべての枢機卿が参集していた。

「クンタラ教などという汚らわしい名前の宗教に、誰が参加すると思っているのか。やはり地球人は欲に弱い。トワサンガをくれてやると申し出たら、腰が折れるほどお辞儀しよった」

「まぁ、地球人のことはそれくらいで良い。レイハントンのベルリとアイーダに関してはこれで目途がついた。あいつら用のモビルスーツを何とかして用意してやれば、何もかも上手くいくだろう。さてさて、ではカール・レイハントンについて何か意見がないか聞こうか」

カール・レイハントンの名前が出た途端、誰もが委縮したように黙りこくった。魂魄となって何千年生きているかわからないような相手に、どんな手段があるのか見当もつかなかった。

「彼の者の目的は、いったい何でありましょうか?」

暗がりの奥から、不安そうな声が聞こえてきた。スコード教の枢機卿に昇りつめ、時折クレッセント・シップに乗って遠く地球圏に出掛けることを特権にしてきた彼らには、思念体という存在自体が理解できない。何をそこまでしてやり遂げたいのか、何を思い残しているのか理解が及ばないのだ。

そして、当のカール・レイハントンと対等に渡り合っているラ・ハイデンもまた、彼らには得体の知れない存在になりつつあった。住民の中に入り、広く意見を募っているので、てっきり住民投票でもするのかと思いきや、話を聞くばかりで一向に彼は決断を下さなかった。

即決のハイデンと呼ばれ、何事も速さを旨とする彼が、これほど時間をかけて熟考することはかつてなかった。まるでラ・グーのようだともっぱらの評判になっていたのだ。住民たちは死について深い議論をすることを好み、ラ・ハイデンに直訴するような直接行動は起こらなかった。

「結局のところ、ラ・ハイデンをはじめ、誰もがどうしたらいいのかわからぬのではありませんかな。肉体を捨てて永遠の命に進化しろといわれれば多くの人間が従い、レイハントンを打倒せよといわれればモビルスーツに乗り込み、何もするなといわれれば何もしない・・・」

「自信の問題なのですよ。誰しもムタチオンは怖い。レコンギスタはしたい。しかし、地球に住んで自分がやっていけるか不安なのです。地球の人間を侮りながら怖れている。スペースノイドというのは元来そういうもので、無駄なく生きている自分たちの優位性に自信を持ちながら、一方で大量の無駄を出して悔いることなく無計画に人間を増やしてしまうアースノイドの生命力を怖れているのです。地球というものに飲み込まれて、自分が自分でなくなってしまうかのような不安な心持になるのでしょう」

「レイハントンの口振りでは、永遠の命になることは、ジオンという古代国家時代の悲願のようでしたが」

「永遠の命ではなく、人類がニュータイプというものに進化することが目的化していたのでは? さてニュータイプというものがなぜそこまで尊ばれたのかは知りませんが、スペースノイドだけが進化してアースノイドを見下し神になろうとは考えず、アースノイドに進化することを押し付けようとした。なぜなら、アースノイドが地球の資源を食い尽くして地球を窒息させてしまうからですな。スペースノイドなのに、なぜ地球のことを慮るのか、なぜ数において勝るアースノイドを従わせようとしたのか。さきほど自信の問題とおっしゃった。まさにそうではないですかな。自分たちは優れているとのうぬぼれはある。しかし、宇宙でずっと永遠には生きられないのです。いつかは地球に戻らねばならない」

「その考えでは、ピアニ・カルータを肯定することになりませんか?」

「誰もが少しずつ正しい。まったく間違っていたのなら、賛同者はあれほどの数にはなっていない。ピアニ・カルータの悪い点は独断であって、行為ではない」

ひとりが深く溜息をついた。

「カール・レイハントンへの対抗策は今日も見つからずでございますか。このままではラ・ハイデンが決断して、何もかも手遅れになってしまいますぞ」


6、


そして、ラ・ハイデンは決断した。

「いまやヘルメス財団千年の夢は風前の灯火となった。かくなるうえはカール・レイハントンとともに地球へと赴き、トワサンガの者らも含め地球へと叩き落してすべてを餓死させる所存である。あらゆる抵抗には武力を持って対処し、地球上のすべての軍事拠点を強制排除して奴らから抵抗の手段を奪い去る。地球はスペースノイドが支配しなければ、再び暗黒期へと突入しよう。資源の枯渇した地球を再び窒息させることがあったとしたならば、次なる再生はいつになるかわからない。アースノイドという劣等種族を強制排除してこそ、地球は美しく再生されるのである。ヘルメス財団は、穏便をもって地球の再生を願ったが、それは叶わぬと判断した。ビーナス・グロゥブ全艦隊は、ラビアンローズとともにこれより地球へと進撃を開始する。直ちに準備に取り掛かってもらいたい」

ラ・ハイデンの演説は驚きと歓喜をもって迎え入れられた。なぜなら、それはレコンギスタ宣言であったからだ。ついに地球へと戻ることができる。ビーナス・グロゥブは沸き返った。

一方で、別の通達も発せられていた。永らくビーナス・グロゥブにおいて特権とされていた延命処置とボディスーツの着用が禁止されたのだ。遺伝子改良を受けたすべての人間が逮捕され、処断されていった。ビーナス・グロゥブは、解放奴隷を刑期とする法を改め、より厳しい刑罰の導入が検討された。

100歳を超える者らは阿鼻叫喚の中で逮捕され、そのまま行方知れずとなった。恐怖の叫びは、喜びの声にかき消された。ビーナス・グロゥブの歓喜は収まることがなかった。地球侵略にあたって志願兵が募られ、多くの者が殺到したが、その中にはフラミニア・カッレの姿もあった。小人症である彼女は刑期の途中であることなども考慮されていったんは不採用となったが、医師免許を持っていたことで従軍看護師として採用が決まった。トワサンガに詳しいことも彼女には有利に働いた。

志願兵の中には、スコード教が用意した偽の身分証を携えたクリム・ニックとルイン・リーの姿もあった。マニィは子連れで目立つためにビーナス・グロゥブに残されることになった。

エル・カインド艦長はまたしても休みを取りそこない、地球へと赴くことになった。ただし、脚の速いクレッセント・シップとフルムーン・シップの出発は2週間遅れであった。フルムーン・シップの操舵士として船に乗り込んでいたステアは、ラ・ハイデンの地球侵略の大演説を聞いて真っ青になっていた。長い航海で信頼を得ていた彼女は、当たり前のように操舵士として船を任されることになっていた。彼女の頭の中は真っ白であった。

「どうすりゃいいのよ?」

何もかもが突然慌ただしく動き始めたのだった。


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