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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:74(Gレコ2次創作 第27話 前半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第27話「ハッパの解析」前半



1、


薔薇のキューブ墜落事件から1か月が経過していた。

多くの人々は宇宙で何が起こったのか詳細を知らされることもなく、それぞれの国家がエネルギー不足と戦いながら新世界秩序の模索を続けていた。

特に政治体制が崩壊したキャピタル・テリトリィは混迷を極めており、トワサンガ住民の同地域へのレコンギスタは、スコード教団の賛成意思が示されたのにかかわらず住民の間で大きく賛否が分かれていた。またキャピタル・テリトリィとゴンドワンなどからの移民との間の対立は時に大きな暴動に発展することが度々あり、モビルスーツの使用こそなかったものの、毎日のように死者が出る始末であった。

わずかな期間であったにしろ、クリムトン・テリトリィと名を変えた影響は大きく、土地の所有権すら定まらないまま時間だけが浪費されていた。クリムトン・テリトリィに投資した世界中の資本家は、スコード教団の方針に反対し、買い入れた土地を放棄することはなかった。キャピタル・ガードによる治安の回復もほとんど進んではいない。クンパ・ルシータ、ジムカーオのふたりを失ったキャピタル・ガード調査部はまるで機能せず、キャピタル・テリトリィにかつての外交力はなくなっていた。

アメリアは諸外国からの情報の独占批判をかわしながら、クンパ・ルシータとジムカーオのふたりによって引き起こされたレコンギスタ事件の報告書の作成を急いでいた。報告書作成には2000名以上のスタッフが動員され、分析が行われていたが、元軍属の技術師であったハッパもまたスタッフのひとりとして雇われていた。アンドロイド型エンフォーサーの分解と宇宙世紀時代のサイコミュの整備を行った人物は世界で彼ひとりであった。

ハッパはアイーダ・スルガンの執務室で彼女とふたりっきりになり、難しそうな顔で宙を睨みながら困惑の表情を浮かべていた。

「エンフォーサーに関する情報は報告書に盛り込まなくていいわけですか?」

若手政治家として黒のスーツに身を包んだアイーダは、小さくかぶりを振って否定した。

「そういうわけではなく、冬の宮殿の映像や、エンフォーサーの話はレコンギスタとは無縁ですし、スコード教団の方からも情報の公開は控えていただきたいとの旨が伝達されているので、報告書の付帯事項として作成して非公開にするべきではないかと」

「誰が言ったんですか? ディアナ閣下?」

「いいえ」アイーダは首を横に振った。「わたくしの判断です」

ハッパはすでにアジアの大手工作機械メーカーからヘッドハンティングされ、アメリア国籍を離れることが決まっていた。彼がアメリアにとどまっているのは、元軍属としての義務感があるためで、本当は一刻も早く開発技師としての仕事を始めたかったのだ。ハッパは互いにスーツ姿になったアイーダとの距離感を測り損ねていた。

アイーダは話を続けた。

「ハッパさんも知っている通り、報告書の根幹は、かつて宇宙世紀時代に外宇宙まで進出して戦争を続けた人類がその活動を辞め、地球に帰還してきたという話が中心になります。そのころの地球はまったくの未開で、資源もなく、大気汚染が酷くてとても住めたものではなかった。そこで彼らは宇宙にとどまり、資源衛星に頼りながらスペースコロニーでの生活を続けていた。時代が移り変わり、長い宇宙空間での生活によってムタチオンによる遺伝子形質の変化が起こった。彼らにとって戻るべき場所は地球しかなかった。でもムタチオンによる遺伝子の劣化という問題を抱えたまま帰還して、地球に適応できるのか、また有利な立場で文明の存続を図れるのか不安だった。ピアニ・カルータの一派は、競争原理による遺伝子の強化が必要と考え、平等な戦争状態を作り出すためにヘルメスの薔薇の設計図を流出させて地球側の武力の強化を目論んだ。地球とビーナス・グロゥブとの間で数世代にわたる戦争が続けば、ビーナス・グロゥブの住民の遺伝子が再強化されて、不適合者は消え去り、優生人種のみが繁殖して地球環境に定着するだろうと。一種の優生論です。思想の根幹には強い地球主義のようなものがあり、宇宙に適応した人間への侮蔑がありました。ピアニ・カルータとラ・グー総裁との確執は、差別感情に基づくもので、ムタチオンは地球主義からの解離だと見做されていた。また同時にピアニ・カルータには地球人への侮蔑もあった」

ハッパが話に応じた。

「つまりそこに、外宇宙からの帰還群は複数あって、知られているだけでもトワサンガ系、ビーナス・グロゥブ系、ムーンレイス系、エンフォーサー系が確認されているという話は入り込む余地がない。だから付帯事項にして、極秘事項として引き出しの奥にしまっておきたいと」

「刺激が強すぎると思うんです」アイーダは悩ましげであった。「だって当然他にもあるんじゃないか、薔薇のキューブのような軍産複合体の巨大施設が他にもあり、宇宙のどこかからこちらを見ながら侵略機会をうかがっているのではないかという話になるでしょう? それは戦争継続の火種になります。フォトン・バッテリーの再供給だってどうなることか」

「まぁ、当然ですね。それでなくてもキャピタル・テリトリィにトワサンガの人々が降りてくるという話だけで世間はてんやわんやですから。アジアの連中から、アメリアはビーナス・グロゥブの技術の独占を目論んでいると強く抗議されているんでしょ? みんな怖いんですよ。どこかの国だけが発展して、支配されるのが怖い。だからアジアではスコード教団、ゲル法王の信者が増えて、献金額も上がっている。逆にクリムとマスクの行いで国土をメチャクチャにされたゴンドワンはスコード教から新興宗教に改宗する人間が増えている。ぼくは熱心なスコード教信者じゃないけど、新興宗教はごめんだし、アジアの宗教と科学技術が同時に存在するところが気に入ったわけで」

「アメリアがそうした姿勢を失うわけではありませんし、ハッパさんのような優秀な技術者に去られるのは痛手ではありますけど、いまはこの話はよしましょう。エンフォーサーの思念体への変換技術は、わたしも体験して、興味はあるんです。ザンクト・ポルトの施設にその装置があることも含めて、いずれは明らかにされねばならない。そのためにハッパさんに報告書をまとめてもらうのは意義のあることです。しかしそれをいま公開できるかといえば・・・」

「報告書の公開も含めて、そうしたことは政治判断でしょうからぼくには関係ないし、興味もない。先ほど姫さまはピアニ・カルータのレコンギスタは優生論だとおっしゃいましたが、エンフォーサー系のレコンギスタはもっと一方的で、その名の通り執行に過ぎない。地球侵略は彼らにとって当然のことで、それはニュータイプというものを優生、オールドタイプを劣生とする考えが根幹にあるのは間違いない。危険思想を持った人間が宇宙のどこかにいて、ビーナス・グロゥブ、トワサンガ、地球のすべてを強制執行によって奪おうと考えていた。しかも思念体への変換装置がキャピタル・タワーの最上階ザンクト・ポルトにある。こんなことを公開したら、キャピタル・タワーが世界中の侵略目標になりかねない。確かにこれは公開できる情報ではありませんね」

「そうなんです。しかもキャピタルは現在あのような状況でしょう? ビクローバーとその周辺こそクラウン運航庁とキャピタル・ガードが掌握していますけど、治安は最悪、アメリア製の武器がレジスタンス側に供給されていたこともあって、戦争状態に近い。放射能汚染が進んだゴンドワンからの不法移民も増える一方。アメリアがもし武力介入すれば、アジアの国々の支持を失い、アジア連合の成立やそれとの世界大戦も考えられる。これでは武力放棄なんて夢のまた夢。本当はみんなに・・・、みんなにそばにいて助けて欲しいのだけれども、いえ、これは泣きごとですね」

ハッパは、姫さまなら大丈夫だと軽口を叩こうとして思い止まった。1か月が経過して状況は落ち着いてきたと言ってもいまだフォトン・バッテリーの再供給には至っておらず、ビーナス・グロゥブがどのような判断を下すのかはわからない。クリム・ニックとルイン・リーは、フルムーン・シップとクレッセント・シップの返還に付き添う形でビーナス・グロゥブのラ・ハイデン新総裁のところへ出頭している。死刑がなく誰からの恨みも買っていないビーナス・グロゥブにいた方が安全だというアイーダの判断だった。彼らもまたエンフォーサーのことは知らなかったのだ。ベルリの話によれば、ラ・グー総裁はエンフォーサーの支持者によって暗殺されたのだという。

アイーダ・スルガンというまだあどけなさが残る少女は、世界中のヘイトを集める危険性につきまとわれながら政治の一翼を担っている。ゴンドワンを崩壊させたクンタラを積極的に受け入れたことで、国内の一部の人間からも恨まれている状態だ。彼女を支えているのは、キャピタル・テリトリィのウィルミット・ゼナム、ムーンレイスのディアナ・ソレルなど、女性同士の繋がりと、弟であるベルリがトワサンガの仮の国王になっていることだけであった。

ザンクト・ポルトの宗教施設で思念体への変換を体感したことは、スコード教団との関係性を微妙なものにしていた。アイーダはあくまでアメリアの政治家として振舞っているためにスコード教は静観しているが、教義に踏み入る姿勢を見せれば大きな反発を買う恐れもあった。そんな大きな責任を負う彼女は、大統領派からも命を狙われている。

「わかりました」ハッパは頷いた。「まだ宇宙にどのような脅威が潜んでいるのかわからない以上、報告書は詳細に、でも一般には公開せずに秘匿する。こうですね?」


2、


転職が決まってからというもの、アイーダ以外にメガファウナの乗組員と顔を合わせる機会はなくなっていた。デスクワークと会議ばかりで機械いじりの時間も限られている。そもそもフォトン・バッテリーの供給が止まっている現在、エネルギーを大量消費するモビルスーツは稼働していない。もちろん生産施設は破棄されたままだ。機械をいじるには工作機械を作るしかない。

モビルスーツへの未練は徐々になくなりつつあったが、そんなハッパの心にいまだ焼き付いているのは、アンドロイド型エンフォーサーのことであった。

ノレド・ナグがビーナス・グロゥブで偶然手に入れて持ち去ったアンドロイドは、研究の結果、人工知能が搭載された自立式ヒューマノイド型サイコミュだと判明していた。機体制御装置として開発されたサイコミュは、ニュータイプ現象の先にある思念体と呼んでいるものの受け皿となり得るのだ。

宇宙世紀時代は、ニュータイプがサイコミュを通してモビルスーツの機体制御を行っていた。だが、外宇宙で何らかの発達を遂げたエンフォーサーたちは、思念体でいることが当たり前で、サイコミュが搭載されたどんな形のものもサイコミュを通して操ることができたようだ。本体が肉体ではなく、思念にある。彼らはすでに肉体を捨てた人類なのだ。そんなものが本当に存在したのかいまだに疑わしく思わないでもなかったが、報告書作成スタッフの一員としてすべての情報に接する立場にある彼のところには、多くの人間が体験した不可思議な現象が集まってくる。

なかでもバララ・ペオールの尋問内容はすさまじかった。彼女の話では、彼女自身は生きて意識をハッキリしていたのに、自分の肉体を自分自身で動かすことができず、誰かしら入れ替わりに彼女の中に入ってきてまるで自分の身体であるかのように肉体を操り、動かしていたのだという。バララ・ペオールは、地球人の遺伝子内にどれほどニュータイプの素養があるか実験するための道具として扱われ、結果はさほど思わしくなかったのだという。意識があるのに自分で自分の身体が動かせず、他人から好きに操られる苦痛を、彼女は1年以上に渡って味わっていたのだ。彼女の精神は壊れかけており、精神病院で治療を受けてはいるが、回復には程遠い。彼女の遺族は、クンパ・ルシータのレコンギスタ事件での戦死報告を機に軍人恩給を受け取ってしまっているので、生存すら知らされていない。

ハッパは自室にこもって、いまではガラクタになってしまったアンドロイドの頭部を眺めていた。思念体であるエンフォーサーたちにとって、憑依する相手が有機であるか無機であるか、果たして関係あったのだろうか? 彼らにとって、人間のグリア細胞は有機サイコミュである。神経細胞を乗っ取り利用するための有機的装置なのだ。アンドロイド型エンフォーサーは無機サイコミュである。人間には有機的知能があり、アンドロイドには無機的知能がある。互いに自律的に動き、生存のためのメンテナンスを行う。思念体は気まぐれに彼らの中に入って操縦を行う。

そんな生命体にとって、レコンギスタとは果たして何だったのか。ムタチオンに苦しむビーナス・グロゥブやトワサンガの人々は、肉体を守るために地球という惑星を欲した。人工重力下では、人間の遺伝子は宇宙に適応しようと大きな変化を遂げていく。彼らはそれを恐れ、地球環境下で肉体を生存させるために地球を欲した。宇宙移民たちに共通する地球主義は、肉体の要求なのだ。

ではエンフォーサー系の帰還民たちにとって、地球とは何だったのか。彼らはアンドロイド型と有機ヒューマノイド型(いわゆる人間)双方の「身体」を同じ数だけ用意していた。ノレドがG-ルシファーを誤操作してしまったとき、彼らは有機ヒューマノイド型に憑依しており、アンドロイド型は空の状態だった。ノレドに操縦席に運び入れられたアンドロイド型は、勝手に動き出してG-ルシファーを操作した。そして、薔薇のキューブ、のちに判明したところによると宇宙世紀時代にラビアンローズと呼ばれていたビーナス・グロゥブの自立航行型宇宙ドッグを破壊した。

そのとき、アンドロイド型の中には誰かがいたのだ。その誰かは、エンフォーサーの仲間ではなかった。ハッパがG-ルシファーの操縦席をサイコミュ搭載型に作り替えると、アンドロイド型の中にいた人物は、G-ルシファーの中に留まり続け、最後の最後までエンフォーサーと戦ったのだ。ニュータイプの中に敵対関係が存在したのか、それとも別の思念体が存在したのか。

ラビアンローズは、宇宙世紀の戦争を2000年に渡って続けさせた諸悪の根源のような存在だ。軍産複合体は地球資源の枯渇がもたらす恐怖を、戦争継続のプロパガンダに利用した。人類はモビルスーツという人型兵器を作り続け、大した理由もないまま殺し合い、資源が枯渇すると敵味方で仲良く移動して、再び戦争を継続した。それが、宇宙の果てから戻ってきて、ビーナス・グロゥブとトワサンガに隠れ潜んでいた。

それを破壊しようとした存在がどこかにいたのだ。その存在は薔薇のキューブ=ラビアンローズを徹底的に破壊した。その存在は、サイコミュがG-アルケインに搭載されると今度はラライヤとともに薔薇のキューブが生み出したシルヴァーシップとも戦っている。ハッパはG-ルシファーに憑依した存在は、地球圏にとどまっていた思念体で、エンフォーサー系とは違うと考えていた。

そもそもエンフォーサー系が独自の帰還者ではない可能性もあった。彼らニュータイプは、すべての文明圏にも存在し、影から人類を操る存在として姿を隠していた可能性もある。肉体から解脱した存在である彼らが、特権意識を持たなかったと考える方が不自然だ。

思念体にとって、肉体維持は大きな問題ではない。それは捨てたものなのだ。彼らは肉体を捨てて思念体となった。そんな彼らは、命を食らうことをどう考えていただろう。思念体という存在から見たクンタラとは何だったのか。ジムカーオに気に入られともに仕事をする経験をしたウィルミット・ゼナムは、多くの貴重な情報を提供してくれている。品格を重んじる彼女はあからさまには口にしないが、クンタラはやはりニュータイプの素養のない人間とその子孫であったようだ。

劣った人種として人に食われたクンタラは、ニュータイプの優生論によって作られた階層なのだ。

「なんで肉体を捨てて解脱したニュータイプが食人までして肉体維持を図ったんだろうなぁ。時間を越えて永遠に生きるかもしれないのに・・・」

ハッパの思考はいつもここで途切れる。肉体維持の必要がないはずのニュータイプが、クンタラという被差別階級を生み出した。それはなぜなのか。ニュータイプは、思念体であるがゆえに人種や性差を超越した存在で、個人間の差異さえ克服する融和的なものではないのか。時間を超え、空間を超え、人と人との間の断絶をも乗り越え、互いに分かり合うための進化ではないのか。

ニュータイプに適応する進化を遂げた肉体と、オールドタイプのまま変わることのなかった肉体で差別し、オールドタイプをまるで家畜のように扱ったのはなぜなのか。彼らは家畜で、奴隷だった。ニュータイプにとってオールドタイプは牛や馬と同じであった。労働力の補助として利用し、使い終わったら食肉として処理する。そういうものだったのか。

いや待てよとハッパは思い直した。牛や馬にも本来自由意志というものが存在するが、人間は牛や馬の自由意志など考えることなく家畜として意のままにコントロールしている。家畜となった牛や馬は、人間の意思によってコントロールされていることには気づかず生きている。人間は家畜を優生論によって管理し、脚の速い馬、力の強い馬、乳を多く出す牛、肉質の良い牛と品種改良を続けてきた。

優生論は差別思想なのではなく、生産手法であった。思念体にまで進化したニュータイプにとって、人間もまた便利な道具にすぎなかったとは考えられないか。ニュータイプにとって人類の肉体は、有機モビルスーツそのものではなかったのか。人間が身体機能の拡張装置としてモビルスーツを作り上げたのと同じように、思念体にとっては人間もまた文字通りのモビルスーツでしかなかった。

ニュータイプ能力のある肉体は思念体のモビルスーツとして利用し、オールドタイプは家畜として利用した。家畜は管理され生産され、使い終われば食用にした・・・。ニュータイプ能力は突然変異ではないゆえに遺伝しないと考えられている。つまり本来はクンタラという身分階級はおかしい。クンタラの子はクンタラとして扱われるが、ニュータイプ能力の発現確率は一般人と同じであろう。彼らは劣ってなどいないのである。学業成績も教育機会が平等であればまったく格差はない。

宇宙戦争によって発現し、宇宙世紀初期においては戦争利用されたニュータイプという人間の思念体への進化は、警戒されると同時に研究され、全人類の強制的な進化は無理だと断念されたはずだ。そして表立った研究は鳴りを潜め、記録からは抹殺されていく。

ウィルミット・ゼナムによる詳細な供述によれば、宇宙世紀初期にニュータイプを巡る人類の相互理解に関する重大事件が起き、それがスコード教の起源になったという。人類の相互理解という理想的側面と、超越者としての超越できなかった者たちへの差別意識はどのように乖離していったのか。

またこの乖離は外宇宙においてどのように歴史化していったのか。ここまでくると技術屋に過ぎないハッパにはいかんともしがたかった。ニュータイプを巡る理想と現実の乖離、薔薇のキューブ=ラビアンローズ=軍産複合体による戦争継続はどのように結びついていったのか。ビーナス・グロゥブとトワサンガに隠されていた薔薇のキューブは、エンフォーサーが支配していたのだ。

「歴史政治学の分野なんだよな・・・。誰かこれを研究してくれないものか」


3、


そのころノレド・ナグはセントフラワー学園の卒業式に挑んでいた。彼女の実家は戦災によって失われてしまっていたが、両親は無事だった。土地の所有権などは係争中で、一時はレジスタンスの活動にも参加していた両親は、いっときなりともクンタラ解放戦線の活動には身を投じていなかったという。もし彼らの活動に関わっていたら、土地の所有権など一切合切剥奪されるところだったという。

熱心なスコード教信者だった両親は、教団から提供された仮住まいだった。本来なら両親とともにクリム・ニックに奪われた土地を取り返す運動に身を投じるべきだったかもしれないが、彼女はベルリとラライヤを頼ってトワサンガの大学に進学し、歴史政治学を学ぶ決心を固めていた。

ベルリがトワサンガのレイハントン家を再興させるという話になったとき、ノレドは大々的にその妃として住民に紹介されている。シラノ-5のサウスリングでは人気もあり、世話になった人間も多くいたので、トワサンガの復興に手を貸したいとも考えていた。ノレドにとって、地球の土地の所有権の話は大人の世界の話で、トワサンガの方が現実味があったのだ。両親はそれこそ夢物語のように娘の話を聞いていた。

ビグローバーでの簡易的な式典が終わり、学友との名残惜しい挨拶を済ませた彼女がいったん両親の元へ戻ろうとしたときだった。彼女は卒業証書が入った筒を手にしたまま、クラウンの運航庁の人間に捕まってベルリの地球の実家へと連れていかれた。そこにはウィルミット・ゼナムの姿があった。

ウィルミット・ゼナムはいまやクラウンの運航長官の職とどまらず、ビルギーズ・シバに代わる首相代理のような仕事をこなしていた。新しい首相を選ぼうにも、キャピタル・テリトリィ時代の住民票が焼失して、クリムトン・テリトリィ時代の住民票がいい加減であてにならない現状では選挙すらできない。戸籍基本台帳を新規に作成しなければならないのに、土地の所有権は定まっていないのだ。

「ノレドさん、お久しぶりね」と、ウィルミットは疲れた顔に笑みを浮かべた。「どうぞ座って」

「お邪魔します」

ノレドはベルリの母の明らかなオーバーワークに同情しながら、なぜ自分が呼ばれたのかわからずにいた。ベルリとは以前よりずっと密に連絡を取り合っていると聞いていたからだ。ウィルミットは気丈に張りのある声で彼女に尋ねた。

「トワサンガにいらっしゃるのですって?」

「そのつもりでいます」

「歴史政治学を専攻なさるとか」

「はい」

「あなたにこれを託したいのです」

そう言ってウィルミットはレイハントンの紋章の形をしたメタルプレートを差し出した。ベルリとアイーダが持っていたものと似ていたが、いまではその役割は大きく変化しているはずだった。

ウィルミットはいった。

「それはG-メタルではなく、今度キャピタル・テリトリティのIDとして利用しようと思っている記録媒体です。わたくしが託したいのはその中身。あなたは月で一緒にあの映像をご覧になりました。それだけでなく、ビーナス・グロゥブでもトワサンガでの戦争でも重要な役割を果たしたとか。そんなあなたに、そのメタルプレートの中にある情報を持っていてもらいたいのです。これはもしかしたらあなたを危険に巻き込むかもしれない。でも、ここにあるともっと多くの人を危険に晒す可能性のある内容が記録されています」

ノレドは声を潜めてどんなものかと尋ねた。ウィルミットはハーブティーを口にした。

「わたくしがこの度の事件で知りえた内容のすべてです。ジムカーオ大佐のこと、エンフォーサーのこと、黒歴史のこと、スコード教のこと」

「そういうのっていまアイーダさんが報告書を作成しているって聞きましたけど」

「推測になりますが、すべては公表されないでしょうし、文書として残すかどうかも怪しい。確定的なことがわからないわりに、ことが重要すぎるんです。アメリアには包み隠さず供述しましたが、質問されていないことは答えていない。その中にはわたくしが見聞したことすべてを文書にして残してあります。そうはいっても、わたくしはその情報を使って何かがしたいわけじゃない。現実の対応で精一杯で、これ以上余計な心配事はとてもじゃないけど抱え込めない。しかし将来のことも考えると、誰かがそれを研究しなくてはならないはずなんです。あなたは期せずしてレイハントン家のこと、ビーナス・グロゥブのこと、黒歴史のこと、エンフォーサーのこと、あらゆる事柄に接した貴重な人物です。確かにいまは学校を卒業したばかりの女生徒さんかもしれないですが、子供はいつまでも子供じゃない。貴重な体験をして、フリーな立場のあなたにわたくしが知りえたこと、気づいたこと、一切合切任せてみたいのです」

子供はいつまでも子供じゃないと口にしたとき、ウィルミットは確実にベルリのことを思い出していたはずだった。

ノレドは手にしたレイハントン家の紋章をいじりながら、意を決して強く頷いた。

「どこまでやれるかわからないですけど、あたし、やってみます。トワサンガにはベルリもラライヤもいるし、きっといつかここに記された情報を社会に役立ててみせます。そういえば、リリンちゃんは」

「あの子は今日も学校ですよ」

ウィルミットはそう答えた瞬間だけ母の顔に戻った。



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