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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第36話「永遠の命」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第36話「永遠の命」前半



1、


銃声に続いて誰かを激しく罵倒する声が響いた。遠くからだったのでよくは聞こえなかったが、ノレドはひび割れた声の中に「地球へ帰れ!」の声が混ざっているのを聞き取って、まさか自分への罵声ではないかと身をすくませた。

銃を構えたラライヤは、部屋の中を見回し、大きめのリュックを発見するとすぐに荷物をまとめるようにとノレドに勧めた。ノレドは大学進学のためにトワサンガに引っ越してきたばかりで、荷物はいくつもの箱に収められてまだテープを切ってもいない。

ラライヤは小さな声で耳打ちした。

「荷物は置いていくしかありません。サウスリングの人は保守的で、初代王カール・レイハントンへの忠誠は他のリングよりはるかに高い。必要なものだけ鞄に詰めて、脱出方法を探しましょう」

「思い出の品もたくさん持ってきたのに」

「まずは命です!」

ノレドは貴重品だけ鞄に詰めた。ラライヤは食料と水と、武器になるものなどを整え、ふたりはまだ馴染んでいない部屋を出た。部屋にはまだノレド・ナグのネームプレートもつけていない。

キャベツ畑の端で火の手が上がっていた。ときどき雄叫びのような奇声が上がり、歌声なども聞こえてくる。夕刻のはずだがまだ明かりは煌々と灯り、消灯による夜は警備上の理由で見送られるようだった。ノレドとラライヤは住民に出くわさないようにラライヤの先導でひと気のない道を選んでサウスリングを脱出した。

リングの連結部分のエスカレーターに乗り、軍用のハッチを見つけてラライヤのIDカードを認証させて中へと潜入した。軍の施設はドレッド時代ほど厳重な警備ではなかったが、ドアを破壊して潜入するほど暴徒は狂乱状態に達していない。彼らは喜んでいるのだ。その表現が通常とは違う。

どんどん先に進んでいくラライヤの背中に向けて、ノレドは疑問を口にした。

「どうしてこんなことになっちゃってるの?」

「プライドの問題なんです」ラライヤは足早に歩きながら応えた。「トワサンガはビーナス・グロゥブからの中継地で、神々が住まう場所に一番近い国だとみんな自負してきた。その誇りが、初代王カール・レイハントンの血統と結びついて独特の政治体制を作っていた。それが、自分たちも行ったことのないビーナス・グロゥブに地球人が先に行った。しかも二度も。トワサンガ生まれのドレッド家が滅びて、地球育ちのベルリが王子になって国を采配した。素晴らしいと自負していた技術はムーンレイスの方が上。戦争では蚊帳の外に置かれたまま大損害だけ押し付けられる。そして、ムーンレイスの軍と警察の支配。こういうことが重なって、鬱積が溜まっていたんです」

「でもそれは」ノレドは抗議した。「仕方がないことばかりじゃん。全部成り行きでそうなっただけなのに。意図しないことが連続して起こっただけ」

「それはわかっているんですけど、地球人にもムーンレイスにも頼らない自主独立の願いというものを、カール・レイハントンの出現が刺激してしまった」

「ラライヤもそうなの?」

「わたしは事情を知っていますから」

トワサンガの住人は、トワサンガ守備隊がジムカーオに騙されてメガファウナのベルリらに皆殺しにされてしまった事情さえ正式な発表を受けていない。人づてに噂で聞いているだけなのだ。その後はジムカーオに思いのままにされて、とにかくフォトン・バッテリー供給再開によって以前の日常を取り戻すことだけを目標に生きていた。ベルリの罪は知っていても、口に出すことはできなかった。

すぐに再開されると期待していたフォトン・バッテリーの再供給が意外に長く掛かり、先もまったく見通せない中で、かといって子供ながらによくやっているベルリに不満をぶつけることもできず、トワサンガの住民は強い欲求不満を抱えたまま生活していたのだった。

その不満の爆発が、暴力的な喜びの表現に繋がっているのだった。

ラライヤに手を引かれたノレドは、ムーンレイスの一団を発見した。その中にはハリー・オードの姿もあった。サングラスに阻まれてはいるが、彼が困り果てていることは理解できた。ノーマルスーツを身に着けた彼は、ノレドとラライヤの姿を認めるとホッとしたように手招きをした。

「お嬢さん方にもすぐにノーマルスーツを身に着けてもらう」

ノレドが勢い込んで訪ねた。

「どうするんですか?」

「ベルリがいない以上、我々ムーンレイスが治安出動するわけにはいかない。トワサンガから地球人とムーンレイスを撤退させるしかない」

「ベルリはどうなるの!」

「探している余裕はないんだ。ラライヤくんはどうするね?」

「わたしは・・・」ラライヤはしばし考えたのち、意を決して顔を上げた。「わたしはここに残ります」

「ラライヤ!」

「ノレド、勘違いしないでくださいね。あなたがここにいては危ない。だけど、ベルリが見つかったときに対処する人が誰か残らなきゃいけないでしょ? それに、わたしもカール・レイハントンという人物に興味があるんです。誰かがあの人の本性を見極めなきゃいけないはず。あの金髪の若い男性は、本当にカール・レイハントンだったんですか?」

ハリー・オードは応えた。

「500年前に彼と戦ったとき、彼は壮年だった。だが、似ているといえば似ている。特殊な技術を持っているとしか思えないが、詐称している可能性がないわけではない。では、ラライヤくんには彼の秘密を探る任務を託したいが、とにかく無理はするな」

「待って待って!」

ノレドはラライヤと引き離されることに動揺して手足をバタバタ動かして抵抗したが、リングの中から大きな歓声が聞こえると身をすくませて怯えた。

「じゃ、わたしは群衆に紛れてカール・レイハントンに接触してみます!」

ラライヤはノレドの顔をしばし見つめたまま駆け出し、やがて完全に背を向けた。ノレドは不安そうな面持ちのままそれを見送ったが、ノーマルスーツを着用したドニエル艦長が大きな声を張り上げて手招きするのを目にすると、諦めて自分も駆け出した。

メガファウナに乗り込んだノレドは、ノーマルスーツを身に着けるとブリッジに上がってみた。フォトン・バッテリーに限りがあるなか、月に立ち寄る余裕がないことがわかると、ハリー・オードらムーンレイスは脱出艇とモビルスーツに乗り換え、シラノ-5の巨大なハッチから藍色の空へと飛び去っていった。メガファウナはそのまま大気圏突入してアメリアへ向かうという。

「来たばっかりだってのにな」

ドニエルはノレドを慰めたつもりだったが、彼女の顔に浮かんだ不安は消えなかった。


2、


ラ・ハイデンは自らの旗艦に各艦の代表を集め、地球攻略作戦の最終確認を行っていた。

ビーナス・グロゥブ側が描く地球支配の構図は、ヘルメス財団による金星圏からキャピタル・テリトリティに至るまでの一括支配であった。アースノイドはこの支配圏に立ち入ることはできない。スペースノイドは、フォトン・バッテリーの生産から供給までを完全に支配して、エネルギーの無償配給は停止されることになる。アースノイドはスペースノイドからエネルギーを買わなくてはいけなくなったのだ。戦争の準備と並行して、フェアトレードのシミュレーションも始まっていた。

「人間をこれ以上増やすわけにはいきません。貨幣経済も制限しなければいけない。地球が全球凍結に向かっているのは幸いなことで、資源とエネルギーを断てばおのずと人類の数は減ってくる。何もすべての人間を急に思念体だとか幽霊だとかそういうものに変化させないはずです。人類の数が減れば、地球の環境破壊は止まります。ビーナス・グロゥブはこれまで通りトワサンガとキャピタル・タワーを使って資源供給を続ければいい。キャピタル・テリトリティを我々が掌握することで、キャピタル・ガード調査部に頼っていた地球圏の情報収集も行えます。またキャピタル一国がヘゲモニーを握ることで、戦争の収束と軍事技術発展の監視、ヘルメスの薔薇の設計図の回収作業なども行えます。また、対抗する国家に対して即時報復も可能になる」

ビーナス・グロゥブの若手官僚が各艦の代表に説明した。ひとりの壮年の軍人が手を挙げた。

「その場合、我々のレコンギスタはキャピタル・テリトリティに限定されるということだろうか。地球を自由に移動することはできないのか」

「人質に取られたらいかがするおつもりですか?」

若手官僚の返答はつれないものだった。この壮年の軍人のみならず、生まれて初めて地球を目にした者らの気持ちは、ラ・ハイデンにもよくわかっていた。彼らは純粋な好奇心をもって、この彼らにとって母なる星であり未知の惑星である地球に多大な関心を寄せているのだ。彼らは総じて浮ついた気持ちになっていた。戦争が始まる前に、すでに自分が支配者になったつもりでいる。

「あとで総裁の方から説明がございますが、我々スペースノイドは、大いなる決心をもって新しい秩序を生み出す所存です。宇宙は神に支配され、地球は神の化身である現人神に支配されることになります。現人神の立場には、カール・レイハントンの血族を使います。彼らは、民政の芽を摘むために天子として存在し、人では代替不能な存在として崇めさせ、スペースノイドとアースノイドの断絶に利用させていただく」

「地球も含めてすべてビーナス・グロゥブが支配するということでよろしいのですな」

「その通りです。アースノイドは宇宙のことに関与させない。ついては、カール・レイハントンはひとまずトワサンガを支配するという。我々は月とザンクト・ポルトを掌握いたします。相手はフォトン・バッテリーを枯渇させてしまっているので、戦闘はたやすく終わると見込んでおります」

そのとき、1隻の高速輸送艦が陣形から外れて地球の方角へ飛び去っていった。すぐにスコード教の船だと判明して議場にざわめきが起きたが、ラ・ハイデンは杖で床を叩いてそれを制した。彼は集まったスペースノイドたちに、重要な決定を告げねばならなかったのだ。一同は静まり返った。

ラ・ハイデンは参集した者らの顔を見回して、頃合いを見て口を開いた。

「この8か月、我々はずっと大きな岐路に立ったまま時を過ごしてきた。すなわち、命をどう考えるかということである。ジオニズムとはエレズムに端を発した分離進化思想であったが、生命の在り方を根源的に変え、思念というものが独立して存在可能なもので、単なる情報ではないことを明らかにした。肉体は肉体の維持を優先するがゆえ、本質的に人間性を堕落させるものであり、肉体を捨てた存在こそが最も人間らしいというのが彼ら、ジオニストとカール・レイハントンの言い分である。対するもうひとつの生命の在り方は、我々が知っている命である。命は誕生と死を繰り返し、人の思念は肉体とともに滅ぶ。肉体は思念と一体であり、若き肉体には若き思念が、老いた肉体には老いた思念が宿っている。その生は短いが、愛によって遺伝子は次世代へと受け継がれ、生命が誕生してこのかた、1度として滅したことがないゆえにこの命もまた永遠である。思念体として得た永遠の命と、代々受け継いできたこの永遠の命、どちらが地球を支配するか、あるいは観察者としてふさわしいのか、それを決するときがきたのだ。これがすなわち永らく語られてきた大執行である。わたしは諸先輩より、大執行とはビーナス・グロゥブ住民によるレコンギスタだと教えられてきた。地球環境の回復のために尽くし、その代償として得られるものだと。だが、その意味は違っていた。我々にはジオニズムというもうひとつの可能性があったのだ。我々は、ふたつの永遠の命のどちらかを選択せねばならなくなった。どちらを選ぶかによって、地球の在り方は大きく変わる。ジオニズムが選ばれたなら、地球という惑星に人間という存在はいなくなる。人間のように見える観察者は、それは生体アバターであり思念という個が使用するモビルスーツである。地球は人間の存在という肉体的エゴから解放され、地球環境が再び悪化することはなくなるであろう。そして、対立概念であるテラ-ナチュラリズムを選んだなら、ビーナス・グロゥブに住む我々は、アースノイドに対して義務を果たし続ける勤労な神となって、アースノイドの発展に目を光らせ続けねばならなくなるだろう。これはレコンギスタが永遠にやってこないことすら意味する過酷な道である。我々スペースノイドは、果たしてそこまでしてアースノイドの自由を保障すべきなのだろうか。この問題を解決するにあたり、わたしは対立するふたつの概念に不平等を発見した。それは、ジオニズムが神に比するに対し、テラ-ナチュラリズムを支持する者らがアースノイドと同じ立場である人間と見做される点である。神と人とを比べ、どちらを選択するか迫られたとき、人はあまりに不利である。そこで、我々ビーナス・グロゥブは、自らを神として位置付けることと決めた。我々スペースノイドは、アースノイドに対して神として命じる。従わぬ者には罰を与える。この厳しさをもって、ピアニ・カルータ、ジムカーオによって揺さぶられた宇宙の秩序を回復する。我々神々は、ビーナス・グロゥブからトワサンガ、キャピタル・タワー、キャピタル・テリトリティを直接支配し、一切の人間の抵抗を封じてその科学的進歩も認めない。人間は神に対して自由ではないことを強く戒めるものである」

ビーナス・グロゥブを発して2か月余り、彼らは最終的な地球支配の形を模索してきた。結果、ジオニズムへの参加は見送られ、カール・レイハントンにはさらなる猶予期間を申し出ることになった。その猶予期間が100年になるのか500年になるのか、まだ交渉は行われていない。

テラ-ナチュラリズムと名付けられたラ・ハイデンたちの立場は、この500年でビーナス・グロゥブが追及してきたことの再確認であった。フォトン・バッテリーの供給によって人類の発展を規制する。ユニバーサルスタンダードの徹底によって文明格差を是正する。アグテックのタブーによって技術発展を抑止する。スコード教によって宗教対立を根絶する。それらを再度徹底することが、ラ・ハイデンの出した答えであったのだ。変更点は、フォトン・バッテリーの無償供与の停止だけである。フォトン・バッテリーは、レコンギスタして地球に入植するスペースノイドの利益になるのだ。

カール・レイハントンが姿を現した半年後、2隻の輸送船がビーナス・グロゥブに戻ってきたときに、大執行の答えを出せと求められたラ・ハイデンは、地球侵攻を言い出して時間稼ぎをしたのだ。

彼らのところには、先行していたラビアンローズがトワサンガとドッキングしたとの知らせがすでに届いていた。もし、カール・レイハントンがラ・ハイデンの申し出を断ったならば、自動的にジオニズムとテラ-ナチュラリズムは交戦状態になる。それはふたつの神々の戦争になるが、ラ・ハイデンはカール・レイハントンが必ずしも人類すべての思念体化を望んでいないと判断した。なぜなら、彼にはスペースノイドに対する敬意があったからだ。

カール・レイハントンとラ・ハイデンは、アースノイドに不信感を持っているという点で共通していた。ラ・ハイデンは再び杖で床を強く叩き、こう宣言した。

「我々は神となる。アースノイドのようにあるときは神のごとく地球を支配し、あるときは動物のように地球に甘える存在であってはいけない。神になれない人間は、死を受け入れるよりほかない」

ビーナス・グロゥブによる神治主義の宣言とともに、彼らは地球への進撃を開始した。攻撃目標は月面基地だった。報告により、月には宇宙世紀時代より遺る人類の英知の結晶が眠っているという。それは文化的に貴重な財産であったが、ラ・ハイデンは一切合切を破壊するつもりであった。

神になる気概のない人間に、それは不要であったからである。


3、


クリム・ニックとルイン・リーは高速艇の格納庫の中で肩を並べて佇みながら、互いに挨拶はおろか視線をかわすことさえなかった。その様子を心配げに見比べているのは、ビーナス・グロゥブのヘルメス財団のメンバーで、今回のレコンギスタ作戦に同行したスコード教の枢機卿たちであった。彼らはいつもの法衣の上にノーマルスーツを着用していた。

彼らのうち最も若い男が気まずそうに説明を始めた。クリムとルインのヘルメットの中にひび割れた声が聞こえてきた。

「クリム殿とルイン殿に引き渡すこの機体は、ジット・ラボで復元したヘルメスの薔薇の設計図の中でもひときわ高性能だったもので、アンドラ・ラボに持ち込んで改良を進めていたものなのです。青いものをクリム殿に、黒いものをルイン殿に託したい」

「下賜していただけるので?」ルインは漆黒にペイントされた勇猛な機体を見上げていた。「アンドラ・ラボというところではどのような改良をしたのでしょう」

「詳しくはありませんが、長時間運用が可能なようにバックパックを装着してフォトン・バッテリーを2台追加してあります。つまり通常の3倍稼働時間があるわけです。バックパックから先に使うので、使用後はパージしてもらって構わないそうです。パージされると、内部動力に切り替わります。あとは、何でもサイコミュという禁忌の技術を搭載しているとか」

クリムが若干刺々しく応えた。

「ビーナス・グロゥブはアグテックのタブーを犯しすぎている。いや、オレには関係のないことだが。ではさっそく拝領させていただくが、機体名などはあるのかな」

「型式番号はありますが、好きに呼んでいただいて結構です」

「アメリアへ乗り込むというのならば大気圏に突入する手段がなければ作戦は実行できない」

「大気圏というものが我々には未知のものなので」

と、若い枢機卿は心もとないことを口走った。クリムは苦笑いを浮かべたが、モビルスーツを格納して大気圏突入が出来るカプセルがあるというので少しだけ安心した。

クリムが大気圏突入のことで話し込んで動かないので、ルインは先にモビルスーツに搭乗して操縦系統を入念にチェックした。操縦系はユニバーサルスタンダードだが、よくわからない点もいくつかある。質問しようと思ったが、ルインは彼らに呼び掛けることを躊躇った。

「生臭坊主どもは、この2機を調達するだけで精一杯だったのだろう」ルインは独り言を呟いた。「整備士がいるわけでもない。出ていったらそれまでの片道切符だ。あいつらにとって、オレは単なる駒。クンタラの仲間がいるわけでもない。クンタラを宇宙宗教にするなど、どうせ口だけに決まっている。オレを暗殺者として使いたいだけなのだ。だがオレには策がある」

ルインが搭乗するモビルスーツが先に動き始めて、デッキにいた人間たちは慌てて移動した。ルインはマイクで彼らに、先に出撃する旨を伝えるとそのままハッチに手を掛けた。そこに慌てたような声で、先ほどの男からの通信が入った。

「すみません。モビルスーツの登録名だけ教えてください!」

「この機体はカバカーリーだ。カバカーリーはクンタラの守護神である」

ルインにとってそれは2機目のカバカーリーであった。ジット団のフラッグシップ機であったG-ITとは別系統であったが、彼は新しい名前を考えるつもりはなかった。彼にとって、命を懸ける機体はすべてカバカーリーなのだ。

ルインのカバカーリー出撃後、クリムは急に話を打ち切って自分も出撃すると言い出した。

「オレの機体名はミックジャックだ。同士討ちは御免だからな」

そう告げると彼はすぐにモビルスーツを大気圏突入カプセルに入れて、射出するようにと要求した。大気圏突入カプセルには推進装置がついており、自力で地球の大気圏まで操縦することができる。そのころには枢機卿たちはエアロックの向こう側に避難しており、通信を遮断するのは容易になっていた。

「ではよろしくお願いいたします。スコード」

クリムはカプセルが射出されるとすぐにすべての通信回路をオフにしてヘルメットを脱いだ。

「バカどもめ。この天才クリムさまがあんな見え透いた話に乗ると思ったか」

クリムは高速艇が船団へ引き返していくのを待って、レーダー圏外になったのを確認するとすぐさまトワサンガへと舵を切った。

「本当にミック・ジャックが生き返るのか、あんな連中じゃなく本人に確かめねば!」


4、


ハリー・オードからの知らせを受けた月基地のムーンレイス艦隊は、人員の多くを避難民の誘導に充てて3隻のオルカだけでトワサンガに救援としてやってきた。トワサンガ住民の半数は、突然やってきたカール・レイハントンに危惧を抱くか、元々レコンギスタの希望者であったために、彼らを暴力に晒されることなくオルカに収容するのは容易なことではなかった。

「決して発砲するな。どんなに口汚く罵られても逆らってはいかん。とにかく急いで希望者をオルカに収容してすぐに出立するのだ」

ハリーはスモーに搭乗して、トワサンガ守備隊全兵士に指示を出した。守備隊の中にはスモーを奪ってムーンレイスに対抗しようとする者らもいたが、それら反乱分子はそれほど数が多くなく、幸いなことにモビルスーツを奪われることはなかった。

人ごみの中にはノレドの姿もあった。彼女は隙あらば逃げ出してラライヤと合流しようとするので、女性兵士を監視につけられて真っ先にメガファウナに押し込まれていった。やがてすべての避難民の乗船が終わりデッキの空気が放出された。もう船を降りることはできない。

避難した人々はさながら難民のようだった。若者の姿が多い。老人たちはカール・レイハントンの話を信じて残る者が多かった。ノレドはザンクト・ポルトで一緒だった学生たちの姿を探したが見当たらなかった。メガファウナではなくオルカに乗ったらしい。

「いつの間にかあたしはラライヤに依存するようになってる」

ノレドは大きなバッグを大事そうに抱えて、廊下に所在無げに佇む難民たちをかき分け、ブリッジに上がった。ブリッジは整備不良のまま出港することになりてんてこまいだった。珍しくアダム・スミスがブリッジにいたが、メガファウナの状況をドニエルに耳打ちすると急ぎ足で戻っていった。

「ドニエル艦長!」ノレドは意を決して怒鳴った。「ベルリを・・・」

「ダメだ」ドニエルはしかめっ面の目元を帽子で隠した。「付き合ってやりてぇのはやまやまだが、フォトン・バッテリーが本当にギリギリなんだ。このまま地球まで航海して、大気圏突入するしかない。アメリアへ無事に辿り着くかどうかも厳しいのに・・・、とにかくダメだ」

「未確認のモビルスーツが4機、レーダーに反応あり」

「ダメったらダメなんだ!」

食い下がるノレドは、レーダーまでジャンプしてモビルスーツの動きを確認した。ベルリはカイザルという名の、カール・レイハントンのモビルスーツに乗っているはずだった。だが、カイザルと表示された機体はトワサンガへ向かっている。近づいてくるのはUnknownであった。

「来るぞ! 誰だ! どこのだ! クソ、主砲すらねーんだから、ったくこの船は・・・」

「未確認機接近。モニターに映します」

ノレドはモニターを見上げた。映っているのは、G-セルフのようなトリコロールカラーの、G系統のモビルスーツだった。ノレドはモニターを凝視した。そして大声で叫んだ。

「ベルリだッ!」

同時にメガファウナに通信が入り、ベルリの顔が大写しになった。

「ドニエル艦長!」

「おお、ベルリかッ! もう引き返せねーんだ。メガファウナはこのままアメリアへ戻る。もう二度と宇宙へは上がれねー。お前はどうするんだ?」

「事情はあとで話しますけど、カール・レイハントンは肉体を持った人類をすべて地球に降ろして、そのまま全球凍結を利用して人類を滅亡寸前まで追い込むつもりですよ。もうビーナス・グロゥブは人類にフォトン・バッテリーを供給するつもりはありません」

「そんなこと誰に聞いたんだ?」

「詳しいことはいまは言えませんけど、ラ・ハイデンがカール・レイハントンにそう話しているのを聞いたんです。聞いたというか、同期したというか」

「ベルリの計画はもうダメなのか?」

「カール・レイハントンは地球とビーナス・グロゥブとの交流をトワサンガで断つ気でいます。彼は全球凍結が始まるのを待っていたんですよ。彼は人類に肉体は必要ないと考えている。生命に対する考え方が違う別の種族のようなものなんです。ジオンとかいう」

「なんじゃそりゃ? それに、なんだって? 全球凍結?」

「地球が氷河期で氷漬けになるんです。人間は赤道直下のわずかな土地にしか住めなくなる。とにかく着艦します!」

ベルリの白い機体は、メガファウナのモビルスーツデッキに潜り込んだ。

「アダム・スミスさん、この機体だけはバラしちゃだめですよ。ちょっと特別な機体なんです」

そう告げると、ベルリはあたふたとブリッジに上がってきた。彼の姿を見るなりノレドは泣きながら抱き着いたが、ベルリはそれを押しのけてドニエルの傍に飛び移った。

「フォトン・バッテリーは、ラ・ハイデンの艦隊の後ろにいるクレッセント・シップとフルムーン・シップに満載されています。本当はすぐにでも奪いに行きたいけど、メガファウナはぼくの指示で武装解除してしまっているし、ラ・ハイデンはこちらと戦争する気でいます」

「ビーナス・グロゥブが地球人と戦争だって!」

「そうなんですけど、それはカール・レイハントンに対してウソをついた可能性もあるんです。そして、カール・レイハントンもラ・ハイデンの言葉がウソだとわかってる。いまはそんな状況で、双方が出方を窺っている。メガファウナはこのまま姉さんのところへ行って、クンタラのメメス博士の資料が残っていないか調べてもらってください。何か仕掛けをしているとしたら、あの人なんです」

「メメス? あー、よし、わかった。メメス博士って言えばわかるんだな」

「あと、ムーンレイスのハリーさんには、ディアナさんが地球で何か調べているはずだから、合流してくれって」

「よし、あ、お前はどうすんだ?」

「ぼくは月に何か残ってないか調べてみます」

ベルリは艦長席から飛び降りてノレドの手を引いた。ノレドは驚いて素っ頓狂な声を上げた。

「え、あたし? ついていっていいの?」

「君が必要なんだ、ノレド!」


5、


ベルリがノレドの手を引き、ガンダムという機体でメガファウナを離れたころ、ムーンレイスのハリー・オードは移民を満載したオルカ艦隊を率いてメガファウナと合流していた。艦隊は月の輝きを背景に、黒いシミのように一塊になっていた。

スモーのコクピットにドニエルからの通信が入り、事の次第を伝えられた。

「ベルリがそんなことを?」

「ディアナ閣下だっけか、その人がクンタラのことを調べているからと」

「それで彼は?」

「月基地へ向かったが」

「では、月に残った連中に、ベルリの指示で行動するように連絡を入れておく」

黒いシミはゆるりと動き始めた。フォトン・バッテリーの枯渇が始まってから、こうしたエネルギーを使う大規模艦隊行動は初めてだった。月から地球まで、約1週間の旅程であった。オルカには食料が満載されており、避難民が飢えることはないが、星間航行に慣れていない一般人の中には精神を病む者が続出した。

しかも、今回避難指示に同意したトワサンガの住民は、レコンギスタの希望者ばかりである。やけに浮かれる者、はしゃぎまわる子供たち、里心がついて引き返してくれと懇願する人間もいた。

ムーンレイス艦隊は、ごく一部の人間を月基地に残して、メガファウナとともに数日に及ぶ航海ののち、地球に到着してそのまま大気圏に突入した。

彼らムーンレイスは、アメリアと軍事同盟を結んでいる関係にあり、協定の中に一方の民族に何かがあった場合は基地を提供して助けるとの条項があった。今回はそれを利用するだけで、サンベルト割譲条約のことは持ち出さないことにした。

「それこそ500年以上前のことだ。そうか、あのときすでにカール・レイハントンは全球凍結を見越して行動していたということか。あいつのアースノイド嫌いは一体どんな因果があるというのだろう」

艦隊はワシントン郊外のかつての爆心地に降下した。

その姿を地上から眺める姿があった。

彼ら宇宙からの移民団は、アメリア軍のアイーダ・スルガン提督、スコード教和解派の法王となったゲル・トリメデストス・ナグ、クンタラ歴史解明委員会のキエル・ハイムの出迎えを受けたのだった。






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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第35話「どのような理由をつけても」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第35話「どのような理由をつけても」後半



1、


チムチャップ・タノ中尉とともに新規作成した生体アバターに入るはずだったヘイロ・マカカ少尉は、それが望んでいた肉体でないことに気がついた。新たに得た肉体は、視力と筋力が弱く、背が低い。あまりに馴染めないので自分の姿を鏡に映すと、そこに立っていたのはかつての同僚メメス・チョップ博士の娘、サラ・チョップ軍医であった。

クンタラであるはずの彼女のデータがなぜラビアンローズに残っていたのか定かではなかったが、とにかくエラーが起こったに違いなかった。そこでオリジナルデータを取り出そうとしたところ、それは消去されていた。彼女は軽いショックを受けて、サラ・チョップのまま腰掛けた。

チムチャップは先に復元を終えたらしく、軍務に戻っている。どうしてこんなことになったのか、ヘイロ・マカカにはわからなかった。

サラ・チョップは軍医という役職であるがそれにはあまり意味がなく、わずか16歳で医師としての訓練課程を修了して資格を得たのちに、父親について月の裏側にあるトワサンガ設立の名目で執行された旧サイド3宙域の奪還計画に加わっただけの娘であった。後にカール・レイハントンのアバターと肉体関係を結んで、その子孫がレイハントン家王室を形成していったわけだが、思念体であるレイハントンたちに血族による相続はあまり意味のないものであった。

考えても仕方がないと、ヘイロは視力を矯正するための眼鏡を作り、髪を梳いた。するとますます自分が知っているサラ・チョップの顔に近づいてきた。彼女は肩書こそ軍医であったが、幼さが残る少女のまま、長寿だった父の仕事を支えた人物であった。ヘイロたち思念体の3人がたった1回の肉体交換で仕事をやり終えたのは、ひとえに彼女のメンテナンスが良かったからだ。ヘイロはサラに含むところはなく、むしろ感謝しているくらいだった。

だが、自分がその人物になってしまうことはまた別の問題だった。

カール・レイハントンとチムチャップ・タノに面通しをすると、やはり複雑な表情をされてしまった。

「肉体化しているときは」カールは困ったような顔でヘイロを見つめた。「やはり顔というもので認識してしまうから、サラの顔でヘイロの人格というのはどうしたらいいかわからないな」

チムチャップは怒り心頭であった。

「サラのような小柄な女性では大佐のボディーガードは務まりませんし、体力がなさ過ぎてモビルスーツの操縦も心もとないですね。わたしが後で装置を見てみますけど、どんなに急いでも生体アバターを組み上げるには数日かかりますし、しばらくはそれで何とかするしかないわね」

「大丈夫だろう。もう多くの兵士に肉体化してもらった。屈強なジオンの兵士がこれだけたくさんいるのだから、構わんさ。アバターが死んだところで損失にはならんしな。時間がもったいないというだけだ。そんなことより、サイド3の宙域にあるトワサンガはわたしのものだ。いまの住民を追い出して、新生ジオン帝国を作らねばならない。あの宙域にはまだ多くのジオン兵の思念体が存在している。彼らに再び生を与え、そののちに新しい生へと導かねばならん。もはやヘルメス財団の理想は潰えた。ムタチオンも深刻だ。彼らには地球に降りてもらわねばな」

カール・レイハントンとチムチャップ・タノは、新生ジオン公国の復活計画のことで頭が一杯のようだった。

新生ジオン公国の復活計画はジオンの数少ない残党とその支援者が地球圏を離れて遠い世界へ旅立っていったときからの悲願だった。地球環境が氷河期へと移行して、全球凍結へと向かい始めるのを待っていたのだ。全球凍結に近い状態になったとき、人間の生存可能地域は赤道直下に限られてくる。人類は急速に数を減らし、文明は潰える。そして地球は人類なき知的生命体への惑星へと霊的に進化するのである。

地球はスティクスによって永遠に封印され、侵略することも侵略されることもない惑星となり、思念体へと進化した存在によって永遠に観察される。人類文明は、黎明期から成長期を経て、霊的に生まれ変わるのだ。永遠に終わることのない黄昏。夜は来たらず、夜明けを見ることもない。

それは死も再生もない世界だった。脳もまた思念が存在するための器官に過ぎなかったとわかったとき、人間は個と個の間に横たわる断絶を乗り越えた。

「だからもう、肉体で世界を観察する必要はないのだ。彼らが現世と呼ぶ世界は、我々が存在する世界の水槽のようなものだ。水槽の中の世界に入ってみたいと思ったときだけ、肉体という道具をまとってキャピタル・タワーで降りていけばいい。人間のいない地球はきっと美しいものになっているだろう。滅びゆく肉体は、宇宙という過酷な環境ではなく、地球というゆりかごで滅してあげるべきだ。そうは思わないか」

カール・レイハントンはサラの身体に入ったヘイロを抱き寄せた。少なくともヘイロは抱き寄せられたと感じて肉体が鼓動を打った。そして、ヘイロはある疑念に駆られた。サラ・チョップは思念体が抜けたアバターの生殖器官を使って妊娠したとされているが、あれは本当なのだろうかと。

カール・レイハントンは、本当はサラのことがお気に入りだったのではないかと。


2、


カール・レイハントンを凝視するハリー・オードは、自分が目を覆い隠していることに安堵していた。その目にはきっと恐怖が宿っていたであろうからだ。

モニターに映っている金髪の男は、当時より若く見えるものの、500年前にディアナ・カウンターを諦めて月へと引き換えした彼らを急襲して、あっという間に武装解除に追い込んだ憎き相手であった。元々ディアナらは再びコールドスリープに入るつもりであったが、まさかそれを別の人間の管理の元に行うことになるとは想像もしていなかった。

外宇宙からの帰還者は、驚くほど近くにおり、ずっと彼らを監視していたのだった。

ハリーは声を張り上げてカール・レイハントンに対峙した。

「ディアナ親衛隊のハリー・オードである。ゆえあってトワサンガで執務の代行を行っているが、果たして君はわたしの知っている男なのかな」

モニターに映った男、カール・レイハントンはしばらくハリーを観察していたが、やがて興味をなくしたようにつまらなさそうな口調で応えた。

「ベルリの代行ということだな。では、ご苦労といっておこうか。シラノ-5は知ってのようにわたしが作り上げたコロニーである。500年ほど我が子孫に管理させていたが、このたび大執行が行われることとなり、地球人はすべからく地球へ降りてもらうことになった。君は正しい判断をしたようだが、戦闘はもはや無意味。速やかに降伏して愛しのディアナ閣下の元へでも行くがよい」

この挑発的な口調は間違いなくカール・レイハントンだとハリーは確信したものの、相手の目的が何かわからない以上、すぐに敵対行動を取ることはできなかった。かといって下手に出るのは癪に障る相手である。またしてもこいつに苦虫を飲まされるのかと思うと暗澹たる気分だった。

武装解除を決意したとたん、500年前の悪夢が目の前に姿を現したのである。

カール・レイハントンは、ディアナ・カウンターの際に敵対した地球人とはまるで違っていた。彼らは戦争慣れしており、原始人のように暴力的だったのだ。しかも相手はたったの3機のモビルスーツであった。その程度の戦力にも、当時のムーンレイスには歯が立たなかったのだ。

あの当時と現在はかなり状況が違う。月にはシルヴァー・シップに対抗したオルカ艦隊が温存されている。縮退炉を動かせば使えることは間違いない。だが、相手はもっと強大なビーナス・グロゥブの大艦隊を率いていた。さらに巨大な生産設備でもある薔薇のキューブもある。長期戦になれば圧倒的に不利になるのは自分たちだ。戦力も足りない。ムーンレイスの機体や船体は、ユニバーサル・スタンダードではないために、現代人には扱えないのだ。ディアナも彼の元にはいない。

「降伏も何も、戦う気力もなければ戦力もないさ」

「月にオルカの艦隊があるはずだ。それらも廃棄させてもらう。何もかも捨てて、地球に降り給え」

オルカは今回の戦闘に合わせて作られた新造艦である。なぜ彼がその名を知っているのか不思議であったが、そもそも500年前の人間が生きていることがおかしく、さらにそのとき見知った姿より若返っていることも納得しがたい事実だった。カール・レイハントンとはどのような存在なのか。

「ベルリを返してちょうだい!」

ノレドが我慢しきれずに話に割って入った。ラライヤが必死に制止しようとしているが、ノレドは暴れて手が付けられない。ラライヤはカール・レイハントンから目が離せなくなっていた。

「地球へ降りろと簡単に言ってくれるが」ハリーはノレドを退出させるように顎を動かし、モニターに正対した。「そうもいかん事情というものがあるのだ。現在地球は全球凍結へと向かっており、徐々に北半球の北部地帯に人が住めなくなってきている。居住可能地域は限られ、人口問題、土地問題、水問題、それらを解決するには時間がかかる。加えてエネルギー不足だ。さらにスペースノイドの帰還問題も重なっている。これらを解決する時間が欲しい」

「解決などできるのか?」

「ベルリはやるといっている。フォトン・バッテリーが以前と同じ量だけ供給されれば、アースノイドを現在のスペースノイドの代わりに宇宙で働かせることで、人口を増やすことなくスペースノイドの移住も叶え、同時にフォトン・バッテリーの生産も、安定供給も可能だと」

「机上の空論だな。アースノイドがそんな自己犠牲を払うわけがない。奴らは怠惰で傲慢で刹那的だ。そもそもビーナス・グロゥブが人類の命運の掛かったフォトン・バッテリーの秘密にアースノイドを近づけるわけがない。アースノイドは、ビーナス・グロゥブに行けるとわかった途端本性を露わにし、どんな手を使ってでもフォトン・バッテリーの秘密を探り、地球で生産するか、もしくは充電できるようにと考えるだろう。もしフォトン・バッテリーの秘密がアースノイドに知られるところにでもなれば、地球上のエネルギーはインフレを起こし、それに比例して人口爆発が起こる。一方で全球凍結を前に恐怖心もあるから、赤道上のわずかな土地を巡って必ずや戦争になるだろう。戦争するには地球は資源が枯渇してしまっている。そこで、宇宙に進出する。宇宙移民たちは地球上での戦争のために過大な自己犠牲を強いられ、不満が鬱積する。やがて反発は抑えきれなくなり、スペースノイドの独立戦争が起こる。ベルリがやろうとしていることは、宇宙世紀の再現に過ぎないのだよ」

「そうであるなら、すべての人類を収容できるスペースコロニーを宇宙に建設して、地球が再び暖かくなるのを待てばいいではないか。コールドスリープの技術もある」

「そんなことはとっくに試した。アースノイドを宇宙に出してスペースノイドの考え方を学ばせようと、どれだけの人間が苦労してきたと思っているか。それらはすべて失敗したのだ。アースノイドは、宇宙に出ろといわれれば、相手は自分たちの地位や土地を奪おうとしているのだと思い込む。そして自分たちの地位や土地を死守するために、命を懸けて戦うのだ。しまいには宇宙にいる者たちの効率のよい政治体制を独裁だと叫び始める。独裁のレッテルを貼れば、彼らはどんな非人道的手段も使ってくる。独裁者の出現を待っていたかのように」

「あなたの望みは一体なんだ? それを聞かせてもらおう」

「さしあたって、トワサンガを返還してもらえればそれでいい」

「だからそれには時間が掛かると・・・」

「時間など掛けずともよい。君らがこの世界からいなくなればそれでおしまいだ。それが嫌ならば、奪えばいい」

「奪う?」

「戦力はあるのだろう? 地球に降りて、トワサンガとムーンレイスの住人が暮らせる土地を奪えばいいのだ。サンベルト割譲条約があるのだろう? それを頼りにアメリアを侵略すればいい」

「そんなこと、できるわけが・・・」

口では否定しながら、ハリーはそれも視野に考えていたのも確かだった。全球凍結が進んだ現在、サンベルト地帯は500年前ほど価値がなくなっていたが、それでも最も暮らしやすい場所であることは確かだ。もし仮に、ヘルメス財団なるものがムーンレイスの独立性を認めるのであれば、条約を盾にアメリアを侵略してムーンレイスのの国家を作ることも可能だ。たとえフォトン・バッテリーがなくとも、彼らには縮退炉の技術がある。

そんなハリーの心の内を見透かしたかのように、レイハントンは侵略を持ち掛けてきた。やはり得体の知れない男だと、ハリーはさらに警戒を強めた。レイハントンはさらに続けた。

「地球を侵略できないというのならば、その戦力でビーナス・グロゥブの艦隊を迎え撃て。艦隊を全滅させて、ビーナス・グロゥブをその支配下に置くがいい」

「戦うことを愚かだと嘆きながら、その口で侵略をそそのかすのか。とことん信用のおけない男だ」

ハリー・オードはモニターを睨みつけた。その姿を正面に受け止めながら、カール・レイハントンは平然と構えていた。

「信用するかしないかはお任せするが、早く決断しないと、ラ・ハイデンが君らを殺しに来るよ」

それだけ告げると、カール・レイハントンからの優先回線は途絶えた。管制室の全モニターがようやく正常に戻っていく。ハリー・オードはどっと疲れて背もたれに身を投げ出した。

「話し合っている暇はなさそうだ。シラノ-5の全職員に避難命令を出そう。あのふたりのお嬢さんにも命令には従ってもらわなくては。まずは月の裏側へ。ハイパーループで表側に出たのち、オルカでザンクト・ポルトまで輸送。そこからはクラウンで降りてもらう。オルカはザンクト・ポルトで待機」

職員のひとりが口ごたえをした。

「ベルリ王子を助けないままここを放棄するんですか」

ハリーは頷くしかなかった。

「ああ、そうだ。いまの我々の戦力ではカール・レイハントンに勝ち目はない」

「カール・レイハントンはトワサンガの初代王です。我々に危害を加えるわけがない。話では、ビーナス・グロゥブと決してひとつではないようでしたし」

「あの会話を聞いてもまだそんなことを言うのか」

ハリーは呆れてものも言えないほどだった。しかし、トワサンガの人間にとって初代レイハントンは伝説上の人物であるというだけではない。自分たちがトワサンガの住人であることの正統の証明は、レイハントン王家とともにあるのだ。

たとえ一時的にドレッド家になびいていたとしても。

「では、残りたいものは残れ、ただし一般市民の避難誘導には協力してもらう。あの地球人の娘も絶対に地球へ降ろせ。くだらない英雄主義は命取りになるぞ」


3、


「お戯れが過ぎますね」

チムチャップ・タノはモニターのスイッチを切ってカール・レイハントンをたしなめた。

「少々肉体を若く作りすぎたのかな。反省している」口だけで反省のそぶりも見せずに、レイハントンは席を立った。「人を殺すのは、労力ばかりかかって時間の無駄だ。シラノ-5から人が撤退したのを確認次第、ラビアンローズをコロニーと合体させる。ジオンの艦隊は待機。スティクスの生産は人類が互いに殺し合いをして人口が大幅に減少するのを待ってから行う」

「気にかかることがあるのですが」サラの姿のままのヘイロが手を挙げた。「この姿でこれを質問するのもなんですけど、メメス博士との約束はどうやって守られるおつもりですか?」

「クンタラの守護をせよとのありがたいお達しのことか。もしかしてその姿、メメス博士が細工して仕込んだのやもしれん。有能な男であったが、心配性が過ぎるな。では、こうしよう。クンタラの集団が危なくなったら、わたしの責任で宇宙に上げる。全員の命までは保証せんぞ。わかってるな」

「もちろんです」

心の中では納得していなかったが、ヘイロはレイハントンに逆らうことはしなかった。そもそもなぜ自分がクンタラなどの心配をしなければならないのか、ヘイロは自分でもよくわからなかった。なぜだかわからないが、心配になってしまったのだ。

人の意識は肉体に宿っているわけではない、そうと分かっていながらなぜクンタラなどのことが気になってしまうのか、ヘイロには説明できなかった。レイハントンはそのまま姿を消した。おそらくはアバターを寝かして別の場所へ移るのだろう。ヘイロは頭を振って、チムチャップに別の話題を持ち掛けた。

「大佐は地球人同士が対立し合うと決めてかかっているようですが、もし地球人、特にアメリアとトワサンガとビーナス・グロゥブが同盟を結んでジオンと対立してきたらどうなるのですか?」

チムチャップはヘイロの頭に自分を頭をこつんとぶつけた。一瞬にしてチムチャップとレイハントンが同期した全体状況の認識をヘイロも共有した。

「なるほど」

いまのところ大人しく恭順しているように見えるビーナス・グロゥブのラ・ハイデンだが、彼が目指しているのはレイハントンを排除した新しい宇宙秩序の確立で、彼はトワサンガを自分のものにするために地球圏へやってきたのだという。いずれはカール・レイハントンに対して反逆するつもりであり、それは想定内だというのだ。

チムチャップは、豊満な自分の肉体に水分を補給させた。

「ラ・ハイデンは敵になる。だけど彼は、カール・レイハントンだけを排除すべきなのか、ベルリ、アイーダ、ウィルミットも含めて排除すべきなのか迷っている。トワサンガ建国の父カール・レイハントンを排除して、その子孫に跡を継がせることができるのかどうか。もしできないのならば、レイハントン一族を完全に排除するしかないが、ではアメリア議会はそれで治まるのか。指導者不在のキャピタルはウィルミットなしに適切に運営されるのか。トワサンガの住民は、地球育ちのベルリと建国の父とどちらを選ぶのか。キャピタル・ガード調査部からの情報が遮断された現在、ラ・ハイデンにそれらを確かめる手段はない。だからここまで来たってわけ」

ヘイロは頷いて返事をしたのだが、チムチャップはどうしてもサラの顔が気になるようだった。そうと気づいてもどうすることもできないヘイロは、かまわずサラの声で尋ねた。

「だとしたら、狙いはキャピタルへの侵入。ウィルミットとの接触。キャピタル・ガード調査部の組織立て直し。それらをやりつつ・・・」

「アメリアへのフォトン・バッテリーの供給準備。ただし、ベルリとアイーダが暗殺されれば、状況は一変する。好戦的な連中を焚きつけて仲間割れを誘ってもいい。でも、大佐のお考えは、あまり時間をかけたくないということ」

「そこで、ムーンレイスの縮退炉を暴走させて、一気にすべてを吹き飛ばすと」

「人類は絶滅したっていいのよ。一気に絶滅するか、ゆっくり絶滅するかの違いだけ」


4、



シラノ-5から住民の撤退が開始された。彼らはジムカーオの攻撃によっていったん月にまで引き上げた経験があったが、戻ってすぐの撤退命令にはいささか辟易していた。各地でトラブルが起き、警備担当がムーンレイスだったこともあって、人種対立のように双方が睨み合うこともあった。

そこに、撤退を命じてきたのが彼らが尊敬するトワサンガ初代王のカール・レイハントンであるとの噂が流れ、撤退作業は完全に頓挫してしまった。トワサンガ守備隊に代わって警備を担っていたムーンレイスの中には銃床で暴力を振るう事案も発生して、現場は大混乱に陥った。

管制室をつまみ出されたノレドとラライヤは、ベルリと最後に会話を交わしたトワサンガのエンジニアたちに話を聞いて、ベルリが初代レイハントンの愛機カイザルのコクピットに乗るなりカイザルごと姿を消したあらましを聞かせてもらった。ハッパがまとめたレポートを読み、サイコミュに思念体が入り込むことがあると知っていたノレドたちは、カイザルこそがカール・レイハントンではないかと怪しんでいたのだが、当の彼の姿を目の当たりにして、彼は思念体という存在で、古代の人間ではないのかと考え始めていた。

トワサンガではあちこちで喧騒が巻き起こっていた。ふたりはそれを避けて、サウスリングの新しいノレドのアパートに身を隠した。月への撤退命令に合わせるつもりなのか、キャベツの収穫が急ぎ始まっていた。ノレドは鼻をぴくぴくと動かした。

「収穫の後が一番臭いんだよね?」

「そう」ラライヤも窓の外に目をやった。「切り落とした葉っぱが腐って、すごい臭いが充満するんですよ。でも、いまはそれどころじゃない」

ラライヤはカーテンをピシャっと閉めた。ノレドは急に不安になって涙声で尋ねた。

「ラライヤも行っちゃうの?」

「わたしは軍人なので本当は行かなきゃいけないんですけど、最後に受けた命令はノレドの警護だったので、新しい命令が来るまではノレドと一緒にいるのが仕事です」

「ラライヤ専用モビルスーツとかはないの?」

「モビルスーツはもうないですね。あってもフォトン・バッテリーがないから動かない。特殊高速艇があるんですけど、これもバッテリー不足で」

「ムーンレイスのモビルスーツはユニバーサルスタンダードじゃないから使えないし、こりゃ困ったぞ」

「いや、大人しくしておけばいいと思いますよ。ベルリさんも必ず帰ってきますし」

そのときだった。シラノ-5に大きな地震が起きた。地球で地震の経験のあるノレドはさっと身構えて揺れが収まるのを待ったが、地球の地震活動というものを知らないラライヤは攻撃されたと判断して武器を構えると片膝をついた。揺れは10分以上も断続的に続いた。

静寂が訪れたアパートの一室に、今度は遠くから叫び声が聞こえてきた。ノレドはテレビのスイッチを入れたが何も映らず失望したようだった。ラライヤは部屋のデスクの方へ走っていき、引き出しからラジオを取り出した。

「ベルリが日本で買ったラジオを預かっていたんですよ」

周波数を合せると、民間のFM放送が一局だけ放送を続けていた。アナウンサーはかなり興奮しており、音のひび割れも激しいために何を言っているのかわからなかったが、しばらく聴いているうちにノースリングに何者かがドッキングしてきたのだとわかった。アナウンサーが興奮しているのは、それがトワサンガの初代王カール・レイハントンだとわかったからだという。

ノレドは、ラライヤを救出するためにG-ルシファーでノースリングの先端から潜入したときのことを思い出していた。資源衛星をくり抜いて作られたシラノ-5の北側部分には、薔薇のキューブが突き刺さるように合体されており、ジムカーオはそれを奪って逃げたのだった。その部分に、ビーナス・グロゥブから分離して地球圏まで飛んできた薔薇のキューブが再び合体したのだと想像できた。

「ラライヤ、あたしはトワサンガのことは詳しくないから、何か聞き取れたことがあったら教えて」

ラライヤは、んーと唸りながら耳をそばだて、やがて真っ青になってラジオを床に置いた。

「どうしたの? 何があったの?」

「カール・レイハントンが薔薇のキューブでノースリングの上にドッキングしてきて、彼のメッセージが流れているらしいんです。それで、一部の住民がそれを熱狂的に受け止めて、ムーンレイスの排斥運動を開始したと早口で言ってますね」

ノレドが何かを言いかけたとき、窓の外でパンと破裂音がした。それは銃声だった。ラライヤは再び銃を手に身構え、ノレドを自分の後ろに隠した。


5、


ベルリ・ゼナムはカイザルのコクピットの中で意識を回復させた。

どれだけ気を失っていたのかわからない。夢とは違う、強烈な映像と音の記憶が頭の中でガンガンと響いているようだった。

長い長い夢を見ていたような心持であった。夢と違うのは、見た映像が強烈に脳裏に焼き付いていることだった。何が起こったのか、いくつもの警告が発せられたコクピットの表示が、ベルリの覚醒が進むにつれて赤から青に切り替わっていった。コクピットがパイロットのバイタルに危険を感じて警告を発していたのだ。

彼は500年間を断片的に追体験させられた。夢の中で知った、同期という言葉が思い浮かんだ。それが誰の記憶なのか、いまではよくわかっている。カール・レイハントンなのだ。ベルリは偶然カイザルに乗り込むことになってしまい、その不思議な特性のおかげでトワサンガからザンクト・ポルトまで一瞬で移動したのちに再び消えた。その間、ベルリはコクピットの中で、カール・レイハントンの記憶と同期していたのである。

頭がハッキリしてくると同時に、ベルリは耐え難い後悔に苛まれていたたまれず、おもわず天井を仰いだ。ベルリは、自分の祖先だというカール・レイハントンのことを完全に見誤っていた。彼が記憶を同期させたカール・レイハントンは、彼が想像していたような、善意ある人物ではなかった。

いまの彼には、断片的ながらカール・レイハントンの記憶があった。それは主に彼がアバターを使っているときの記憶だった。思念体として存在しているときの彼の記憶は、情報の仕組みが違うためか、認識する器官の問題なのか、何ひとつ覚えていない。ベルリが同期したのは、この500年間で、カール・レイハントンが生体アバターの中に入って脳を活用したときの記憶である。

情報の同期の仕組みはベルリにはよくわかっているが、まさか謎に包まれた始祖にあたる人物の記憶と自分の記憶が同期するとは予想だにしてなかった。それが起こった原因は、おおよそ察しがついていた。この、初代レイハントンが愛用したとされる機体カイザルのサイコミュである。

レイハントンは、このカイザルでムーンレイスたちを狩りを楽しむように殺していた。ベルリたちの時代のフォトン・バッテリー仕様のモビルスーツよりはるかにパワーのあったスモーも、カイザルの前ではまるで歯が立たないおもちゃに過ぎなかった。この機体に、戦争の反省はない。カイザルに込められたのは、敗北の怨恨だけであった。

いやに喉が渇いていた。水を探したが、そもそも数百年隠されていたこの機体にそんなものが備わっているはずがなかった。カール・レイハントンの記憶との同期は、ベルリにある体験を思い出させていた。それは、バララ・ペオールが操縦するモビルアーマーと交戦して、その悪意に引きずられて失神したときと同じ感覚だった。

カール・レイハントンにはあれと同じ悪意が備わっている。トワサンガの設立者で、ヘルメス財団の重要人物である彼が、ヘルメス財団の目指す理想をあれほど冷めた目で見ていたとは。

そして、彼が目指す理想。それは、人類の一掃と、進化した人類の思念による永遠の観察なのだ。地球は、地球を汚すことのない肉体を持たない霊的存在によって永遠に観察されることになる。1秒と100万年の区別がない観察者は、地球を薄暮の囹圄の中に閉じ込めようとしている。人類に夜は来ず、明日もない。破壊による退化も経験しない代わりに、破壊の反省から生じる進化もない。

「これで分かったはずだ。人類を救済しようなどと青臭いことはいわないことだな」

頭の中に声が響いてきた。カール・レイハントンの声だった。彼の声であると同時に自分の声でもあった。若くして素直さを失った、歪んだ人格が発する声だった。それが自分の声でもあることが、耐えられないほどの苦痛だった。

「カール・レイハントン!」

ベルリは叫んだ。するとコクピットが開いた。目の前に、赤いパイロットスーツをまとった、自分とさほど年の変わらない男がいた。だが彼は、戦うことに長けている。彼は戦うことで運命を切り開いてきたのだ。その厳しい視線に、ベルリは身をすくませた。彼は、ただの思念の入った生体アバターだが、瞳に輝きをもたらしているのは、万を超える数の人間を殺して戦場慣れした若き兵士なのだった。

男はいった。「ガンダムを持ってきた。これはお前にくれてやる。どう使おうがお前の勝手だが、本物の勝利は、わたしがお前に見せた世界だ。お前は自分がメメス博士の血族だとわかったはずだ。お前はクンタラとアバターの子が婚姻を繰り返して人間に近くなってきた存在である。自在に天翔ける白い機体で世界を見て回るがいい。そして、わたしと同じように絶望せよ」

男はベルリを機体の外へと放り出した。ベルリは足裏のマグネットで白いモビルスーツに張り付いた。そのモビルスーツは、G-セルフと同じカラーリングだが、デザインもサイズも大きく違っていた。洗練された、人殺しの道具であった。コクピットは、おそらく初期のユニバーサルデザインで、操縦できないことはない。だがこれで自分は何をすればいいのか。

敵の名は、カール・レイハントン。永遠の命を持つ男である。彼と記憶を同期したいま、ベルリは自分が何をしなければならないのか判然としないまま、ガンダムに自分を登録した。

その方向性の定まらぬ顔を見下すように眺めながら、若きカール・レイハントンはカイザルのハッチを閉じて、ベルリの眼前から消え去った。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第35話「どのような理由をつけても」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第35話「どのような理由をつけても」前半



1、


ビーナス・グロゥブ総裁のラ・ハイデンは、ついに地球へのレコンギスタを決意した。

侵略戦争の準備が慌ただしく進められるなか、巨大質量を誇るラビアンローズが一足先にビーナス・グロゥブを離れ、地球圏へ向けて飛び立っていった。ビーナス・グロゥブの人間で、肉体を保ったままラビアンローズに乗船できた人間がいなかったために、ヘルメス財団の人間はラビアンローズにカール・レイハントンひとりが乗船していると思い込んでいた。

だが実際には、カール・レイハントンは人々の前から姿を消しているうちに、船の乗組員を必要なだけ肉体再生させて思念体に操らせていたのである。彼の仲間は、1000年より以前、遠く外宇宙にて肉体を捨てた人々であり、人類のニュータイプ化を信じて戦い続けた人々であった。その残留思念は独りの個であるわけではなく、いくつかの似た思念が糾合したものだ。それらが再び肉体を得て、カール・レイハントンの戦争に加担しようとしているのだ。

その肉体は生体アバターと呼ばれるもので、肉体に人格は存在しない。カール・レイハントンの肉体と同じように作られた彼らは、思念体によって動かされ、彼らにとってはなじみ深い古めかしい軍服を着こみ、慣れた役割分担でラビアンローズの巨躯を地球圏へと急がせていた。ラビアンローズの中でせわしなく働く人々は、ジオン最後の生き残りたちであった。

「数名だけ思念体が維持できなかった者がいるようですが、おおむね計画通り肉体化されました」

彼らは肉体同士で会話することはなく、情報は同期によって互いに共有されていた。ひとりの報告は全員に行き届き、その情報に対する反応も同じように同期される。思念体として維持できなかった者の名前が明らかにされ、推測も含めてその理由もおおよそ察しがついていた。残留思念というものは、強い思い残しがなければ胡散霧消してしまうものだ。肉体を捨てたときに、それほど強く何かを願った者ばかりではなかったというのがおおよその理由であった。

彼らのことは、すぐさま忘れ去られた。

ラ・ハイデン自身も、2週間後に出発する予定のビーナス・グロゥブ艦隊とともに、地球に向かうことになっていた。さらに2週間後にはクレッセント・シップとフルムーン・シップが出発する。地球圏への到着はほぼ同時になる計算だった。

レコンギスタ宣言がなされてより、ラ・ハイデン総裁は以前のような簡潔なる人格ではなくなり、本心を他者に明かさなくなっていた。その傾向はカール・レイハントンと出会ってより始まっていたが、ヘルメス財団の中でハイデン降ろしが始まってからはさらにその傾向が強まっていた。饒舌なる表向きの姿とは裏腹に、壮健な延命処置を拒んだ男は、側近すら置かずにこの戦争に挑んでいた。

そんな彼が、ある女性を自室に呼び寄せた。寸当たらずな身体に大きな頭を乗せた女性は、看護師の制服をまとっていた。ラ・ハイデンは執務の手を止めて振り返った。

「君がフラミニア・カッレか? ジット団のメンバーだったとか」

「はい」フラミニアは恭しく頭を下げた。「ジット団のスパイとしてトワサンガに潜入しておりまして、メガファウナの1回目の航海で彼らを監視しながらビーナス・グロゥブに帰参しております。そののち、彼らとともに地球圏へ赴き、クレッセント・シップの地球巡行に同行しました」

「いくつか質問があるが、答えてもらえるかな?」

「ええ」

「ジット団のレコンギスタのことは裁判記録ですべて明らかになっているので問うまい。訊きたいのはトワサンガと地球のことだ。まずはトワサンガだが、レイハントン一族の支配権というのはどれほど強固なものなのだろう?」

「カール・レイハントンが王家を確立したのは500年も前のこと。王がいることは当たり前になっていて、ドレッド家が反乱を起こして形ばかりの民政に移行した際は驚きをもって情報に接したものの、抵抗運動が起こったのは農業ブロックであるサウスリングのみで、レイハントン家の喪失はドレッド家によってすぐに埋め合わされ、わたくしなどは拍子抜けしたものです」

「君はサウスリングにいたのだね」

「はい。サウスリングでとある女の子の世話をしながら情報収集にあたっていました」

「情報は誰に?」

「第1にはジットラボの仲間たちにです。しかしヘルメス財団の人たちや、キャピタル・テリトリティのクンパ大佐にもトワサンガの情報は流れていたはずです」

「流れていただけで、君がクンパ大佐に流したわけではないと」

「それは誤解です」

「よろしい。トワサンガの人間は、レイハントンと一体というわけではなく、ただ支配されていただけという話で良いのかな」

「そうです。彼らはヘルメス財団との関係性だけが重要で、王家への忠誠が強いという事実はありませんでした」

ラ・ハイデンはふむと吐息をついて何かを考えこんだ。

「王というのは支配者であると同時に庇護者であるはずだが、レイハントン家はトワサンガの住人を何から守っていたと思うか。地球人か、それともビーナス・グロゥブか」

「それは」フラミニアは答えに窮した。「それはわかりかねます。フォトン・バッテリーを供給して地球文明を再興すれば、やがて地球人は大気圏を脱出して月までやってくることは明白。地球人の侵略からトワサンガを守る役割があったと言えばあったでしょうが、だからといってトワサンガの王家を作ってヘルメス財団の支配権より上位に立つ必要があったかといえばそれはなかったはずです」

「ないだろうね。技術体系がフォトン・バッテリーを中心に組み立てられている以上、地球人が大艦隊を率いてトワサンガを侵略してくる可能性は少ない。万が一あったとしても、2か月持ちこたえればビーナス・グロゥブから援軍が来る。その間、地球人はバッテリーを消費し尽くして最後には宇宙で窒息死だ。地球人を怖れてヘルメス財団に支配から脱する必要はないからね。ではやはり、彼はビーナス・グロゥブからやってくる艦隊からトワサンガを守るつもりだったのか」

「もしそうだとすれば、ビーナス・グロゥブやヘルメス財団に対して敵対的な気風が何かしら残っていると思うのです。自分が知る限りにおいてそのようなことはまったくありませんでした」

フラミニアの話を頷きながら聞いていたラ・ハイデンは、このことについては言葉を発しなかった。そのとき彼は、レイハントンが王になって守りたかったものが、ジオンに関するものだと勘づいていた。ジオン公国という古代コロニー国家の複数の強い残留思念が、レイハントンというひとつの思念体に糾合され、大きな計画を密やかに隠し通すための装置が王家だったのではないか。

だがそれも、確たるものは何もなく、トワサンガを王政にした意味も曖昧であった。いったい彼が何を目指して、何を遂行しようと動いているのか、ラ・ハイデンが見極めねばならなかったのだ。

「では次に、地球のことを聞かせてもらおうか」

「地球は美しい星です。現在氷河期に近づいているので、多くの人間が赤道付近に住んでいます。かつて栄えたのはもっと北なのですが、それらは現在居住には向いておらず、放棄されたために古いインフラが地下資源として残されていました。赤道付近の環境は回復傾向にあって、生産性も高く、多様な動植物が生存しており、人間は勝手に増える動植物を無計画に乱獲後食料にして数を増やしていました。文明の程度が高いのは、キャピタル・テリトリティを中心としたアメリア大陸ですが、人口の増加が大きいのはアジアと呼ばれる地域です。特に東アジアはキャピタルの裏側にあり、フォトン・バッテリーの配給が少ないために独立心が旺盛で、わずかなエネルギーで効率よく生産することに長けていました。人間は小柄ですが持久力があり、よく働き、好奇心も旺盛です。ダメなのはユーラシア大陸の西側の地域で、穀物の生産量が少ないために、土地の収奪に走りやすい性質を持っていました。アメリアに対して大陸間戦争を仕掛けたのも、土地の収量に乏しいからです」

「地球か」

ラ・ハイデンは地球を見たことはなかった。ヘルメス財団の人間の中には、フォトン・バッテリー運搬船に紛れて地球圏に入る人間も少なからずいたが、彼はいままで興味を示したこともなかった。そんな彼が、ラ・グーでさえ考えもしなかったレコンギスタ宣言を発したのだった。

「地球のアメリアという国にはレイハントンの子供がいるそうだな」

「アイーダ・スルガンはレイハントン家の長女で、クンパ大佐によってアメリアへ亡命させられました。彼女は軍の総監だった父の意思を継いで上院議員となり、また父の後を継いで軍の総監の立場でもあります。レイハントンの血を引いていると知ったのは、ごく最近のことです」

フラミニアはアイーダについて詳しく説明した。ラ・ハイデンはアイーダと面識はない。フラミニアはベルリについても話そうとしたが、ラ・ハイデンはそれを制した。

「あの少年に関してはいくつか話は聞いている。戦争については、まず彼と話をすることになるだろう。彼が賢明な人間であることを願うばかりだが、彼はキャピタル・テリトリティの育ちなのだね?」

「そうです。運航長官ウィルミット・ゼナムの息子で、飛び級生のエリート、わたしが知る限り、スコード教の熱心な信者でした」

「君はムーンレイスについては知らないのだね」

「逮捕命令で連行されましたので」

ラ・ハイデンは、極秘に調べさせた500年前の記録を閲覧し、ムーンレイスを月に眠らせたのがカール・レイハントンであることを突き止めていた。

(やはり、ムーンレイスが隠し玉か)

「いや、ありがとう」彼は精悍な顔を崩して頭を下げた。「出立前に話が聞けて良かった」


2、



ラ・ハイデン率いるビーナス・グロゥブ艦隊は、予定から2日遅れでビーナス・グロゥブを出撃していった。続いて後を追うのは、今回は補給艦として任務に当たるクレッセント・シップとフルムーン・シップであった。

今回は通常のフォトン・バッテリーの運搬とは任務が違う。2隻の船は補給艦として戦争に参加するのだ。彼らは戦場の最後方に陣取り、必要量のフォトン・バッテリーを前線に供給するのが役目であった。比較的安全な任務であるが、クルーであるヘルメス財団のメンバーの中には、任務を辞退する者が続出していた。とくにフルムーン・シップの乗員はヘルメス財団の正式メンバーが少なく、地球人と元ジット団のクルーの混成だったので、ヘルメス財団の中には反乱などを怖れて彼らと行動を共にしたくないと考える者が多かった。

フルムーン・シップのクルー編成は遅れに遅れ、飛行に関しては目途が立ったものの、船内作業員は不足したまま出港の日が迫っていた。

2隻の輸送艦に戦争用のフォトン・バッテリーの詰め込みを急ぐころ、航行プランの確認を終えて休憩中だったステアがサングラスをかけた女に拳銃を突きつけられた。ステアは悲鳴を上げることなく大人しく彼女に従った。

ステアを狭い路地に連れ込むと、女はいった。

「あなた、フルムーン・シップの操舵士のステアさんですね」

「・・・イエス」

「今回は戦争になるというので、乗船拒否している人がたくさんいるとか。もしクルーが足りないのなら、あたしを乗せてくれませんか?」

言葉遣いは丁寧だが、女の声には迫力があった。しかし貧民街で育ったステアは、脅迫者のことを少しも怖れていなかった。相手は慣れていない。慣れていないがゆえの暴発的行動に出ないよう、ステアは相手を刺激しないように気遣った。

ステアはチラリと横目で相手の顔を盗み見た。彼女を脅かしているのは、ノレドの友人のマニィであった。マニィはステアのことをよくは知らないが、ステアはブリッジにいたので彼女がノレドの友人でルインの妻であることをよく知っていた。そしてルインがマスクであることも。

それに、突きつけられているのは、明らかに金属製のパイプであって、銃ではなかった。

ステアは、どうしたものかと思案した。蹴り飛ばして腕を捻り上げることもできる。だが、互いに傷つけ合うような関係にはしたくない。それに、フルムーン・シップは船内作業員が足りていない。船に乗りたいというのなら結構なことだ。

問題は彼女が、クンタラの反乱の罪を着て、現在ビーナス・グロゥブで服役中の身であるということだ。懲役刑の代わりに開放奴隷として働かされるはずだった彼女は、いまでこそ戦争のどさくさで自由に行動しているが、いずれはラ・ハイデンの改革によってもっと重い刑に服する可能性があった。

マニィは子連れだったはずだ。最悪、子供を引き離されて収監される危険もある。そこで、ステアはこのまま騙されたフリを続けることに決めた。マニィの要求は、フルムーン・シップへの搭乗、できれば子連れでということだった。マニィは、どこから手に入れたのか、ビーナス・グロゥブのIDカードを持っていたので、ステアは紹介状を書いて船に乗れるように手配した。

「恩に着ます」

マニィは紹介状を受け取ると、ステアに背中を向けることなく、警戒したまま後ずさりをして、逃げるように姿を消した。

「罪人だから仕方がないのかもしれないけど、安全な場所にいるべきなのに」

ステアが心配しているのはマニィのことではなく、子供のことだった。


3、



「ガンダムか」

カール・レイハントンはそのデータを見るなり笑い出していた。何がそんなにおかしいのか自分でもわからない。ただ、ガンダムというモデルのデータに強い因縁を感じるのだった。

「G系統のこのモデルも復元は可能か」

ラビアンローズ内では、徐々に言葉が使われ始めていた。肉体を通して得る情報は膨大で、乗員すべての肉体が得た情報を同期していては、脳という器官がエラーを引き起こして、自分がやるべきことを見失うなどの不都合が起きるためであった。それに、言葉を発しないと脳という器官は正常に作動しなくなる。

「それはカイザルと同時期のモデルで、性能は同等です」エンジニアもまた言葉を使い、アバターの脳機能も補助的に利用しつつあった。「使用されている合金が複雑ですが、地球圏に到着するまでには何とかできるでしょう」

「では、頼む」

カール・レイハントンは、アバターの脳機能を使うことは好まなかった。肉体に付属する脳という器官は、肉体の維持を最優先に物事を決定する。純粋な思考決定を、本能と呼ばれるもので歪めるからであった。脳による意思決定は、常に漠としており、それが果たして意思と呼べるのかどうかさえ疑わしいと彼は考えた。人間の意思は、脳という器官からも自由になることで、より純粋になると信じていた。

ラビアンローズ内は、かつてのジオン公国の姿を取り戻しつつあった。彼らはあくまで生体アバターであり、ヒトモドキでしかないが、ジオンの光景が蘇ることをカール・レイハントンは喜んだ。これで、スティクスなどというのっぺらぼうの合理の塊のような戦艦を使用しなくて済む。

ベルリたちがシルヴァーシップと呼んだ戦艦スティクスは、外部デザインの否定が生んだ、カール・レイハントンたちとは違う別系統の流行の産物であった。遥か外宇宙に進出した人類が互いに音信不通となり、それぞれに想像もつかないような進化を遂げて再び接触したのだった。

機能性の追求を内装に特化したスティクスを、カール・レイハントンは好まなかった。それは思念体となったジオンの仲間たちも同じであったが、自分たちをニュータイプだと勘違いしたままエンフォーサーと名乗った一群が選んだ生産の方向性が、スティクスであったのだ。

元はといえば、スティクスは地球を取り囲んで人類を封じ込めるための無人戦艦であった。文明が発達すれば、地球人はいずれ大気圏を脱出して宇宙へ進出してくる。それをスティクスで迎撃する予定で開発されたものだったのだ。ところが、500年前の人類は、発掘された宇宙船を使って自力で宇宙へとやってきた。どのようなものが地球に埋まっているのか不明だったために、スティクスの配置は見送られたのだった。

外宇宙へ進出した人類は、思いがけない進化を遂げている。彼らより早く地球圏へと戻ってきた別系統の人類が残した兵器を目の当たりにして、スティクスは温存されることになった。だが、年月が経ってエンフォーサーと呼ばれた、あるいはそう名乗った一団は、それをニュータイプが使用する特殊兵器だと勘違いをした。思念体という存在を忘却した彼らは、ニュータイプを肉体を持った人間の、特殊な能力だと思い込み、ニュータイプに進化してスティクスやG-モデルのモビルスーツを動かしさえすれば戦争に勝てると考えたのだった。そしてそれが、最後の執行だと。

「随分お若いモデルを使ったのですね」

そうからかってきたのはチムチャップ・タノ中尉であった。指揮命令系統の存在しない彼らの中で階級は無意味であったが、生前の記憶を継承することで物事が円滑に進むこともある。軍籍である彼らは、階級がついているほうが落ち着くのだった。

タノがからかったのは、カールの容姿についてであった。カール・レイハントンは、500年前よりさらに若い、20歳そこそこのモデルを使用している。

「どうせすぐに腐るものだからね、少しでも長持ちしそうな容姿にしたまでだ」

地球圏に残っていたチムチャップ・タノとヘイロ・マカカがもたらした情報はすでに同期してあった。彼女たちはベルリ・ゼナムからG-メタルを奪おうとして失敗し、最後には肉体を捨ててジムカーオの元を離れていた。

「やはり引き寄せられていったのだね」

カールは考え込むように呟いた。引き寄せられたというのは、ザンクト・ポルトのスコード教大聖堂の地下にある思念体分離装置と呼ばれるもののことであった。その装置は、ベルリたちは人間と思念を分離する装置として考えていたが、思念体となった者らはあの大聖堂へと引き寄せられていくのだ。

「メメス・チョップ博士というのも、いまにして思えばなかなか計り知れない男だったから、何を仕込んだか知れたものではない。あの場所のことを博士に話すべきではなかったかもしれないが、いまとなってはすべてが遅い」

「ジムカーオの最後について、彼はあえてあの場所を目指したかのようなそぶりも見せたのですが、混乱が激しかったもので、最終確認が取れないまま肉体は捨てて脱出してしまいました。あとはスティクスの機械式アバターの中に入り、できる限り観察はしたつもりですが・・・」

「いや、上等であったよ。ただG-メタルを奪えなかったのは残念だったね。肉体を使った作戦行動に女性の身体は不向きだったかな」

「申し訳ありません。相手が子供だと思って油断しました」

チムチャップ・タノとヘイロ・マカカは、カール・レイハントンの愛機カイザルを確保するためにG-メタルを回収するつもりだった。G-メタルはジムカーオも手に入れたがっていたのだが、それはトワサンガのノースリングの停止を防ぐためであった。

「ジムカーオという男も複雑な人物だったようだね」

「ジムカーオ大佐は、失礼ながら大佐とメメス博士を合せたような人格でした。ヘルメス財団の理想というものが成就するのならそれでいい、もし成就しないのであれば、オールドタイプをすべて抹殺してニュータイプが地球を支配すると。彼にとってそのニュータイプというのが、クンタラのことだったというのが変わっていた点です」

またクンタラかと、カール・レイハントンは不思議な気持ちになった。

皇帝になって自分たちを守れと恫喝してきたメメス博士。それに、トワサンガを押さえてヘルメス財団をコントロールしようとしたジムカーオ。メメス博士はクンタラのために自分たちの対極にある存在であるカール・レイハントンに協力し、ジムカーオはクンタラのためにクンタラの宗教を捨てた。

食人の対象になったことで忌むべき存在となった彼らであったが、かつて食人の対象となっただけでは、クンタラという存在はとっくに消えてしまっていたはずだ。親が食われた、数世代食われ続けた、そんな記憶だけで民族性は発生しないし、維持もされない。彼らが彼らであり続けたのは、独自の宗教を持っていたからなのだ。

宇宙世紀以前、地球にも似たような歴史を歩んだ民族があったという。独自の宗教を持つというのはそういうことだったのだ。問題は、クンタラの名もなき宗教、やがて理想郷カーバに至るという漠とした教義が発生したのはいつのことなのか、誰も知らないことだ。

彼らが、永遠の命という人間の理想形態に振り向きしない強い精神性を持つに至ったのは、決して差別されたからではない。永遠の命よりも理想的なものを知っていたからなのだ。だから彼らは、胚になって恒星間を旅することも、思念体になることも拒んだ。

「まぁ、いいさ。いずれ地球はスティクスの監視の中で閉じられた空間になっていく。人類は地球の癌細胞だ。自らを切除して取り除き、自然治癒に任せるしかないのだよ。間近で彼らを観察してわかっただろう」

「そうですね。ああした知恵のある生き物は、早く絶滅させるに限ります」

「あの、ラ・ハイデンとかいう曲者も、いずれは肉体のあることに絶望して我が臣下となるだろう。フォトン・バッテリーなどというもので人間を従わせようとしたところで無駄なのだ。人間という魂の道具は、永遠に不完全でこれ以上進化することなどないのだから」

カール・レイハントンはそう呟いて、生体アバターを眠りにつかせた。


4、



トワサンガは、突然出現した大艦隊に上へ下への大騒ぎとなっていた。彼らはよもや天上の世界であるビーナス・グロゥブから大艦隊が襲撃して来るとは想像もしていなかったのだ。

残っている戦艦とモビルスーツは、ムーンレイスのものばかりだった。それらはフォトン・バッテリー仕様でもユニバーサルスタンダードでもない。トワサンガの人間にはまったくなすすべがない。しかも、王の地位にあるベルリはしばらく前から行方不明になっていた。

王の代行の職責を務めていたハリー・オードは、ビーナス・グロゥブという彼にとってまるで未知の存在にどう対処していいのかわからなかった。なるべく多くの行政経験者を集めて話を聞いても、ビーナス・グロゥブの使者は丁重に扱うべきで、決して逆らうようなことがあってはならないと口にするばかりであった。トワサンガの存在意義は、ビーナス・グロゥブと地球の中継地であることに過ぎないのか。モニターを凝視しながら、ハリーは係官に尋ねた。

「到着はいつになる」

「宙域到着は明日の深夜ごろには」

「24時間はないわけだな」

一般市民を月まで避難させるべきなのか彼が迷っていたとき、ノレドとラライヤが管制室に飛び込んできた。ふたりともすでに事情を知っているらしく慌てており、警備員と揉み合いになっているのをハリーは片手で制した。ノレドがハリーに向かって叫んだ。

「軍隊が来たの?」

「大艦隊も来てはいるが」ハリーはミラーシェードで瞳を隠したままふたりを椅子に腰かけさせた。「薔薇のキューブがある。あの大型運搬船も後方にある。ビーナス・グロゥブのことは実際に赴いた経験のあるあなた方が詳しいだろう。あれにはどのような意味があると考えるか」

映像が大型モニターに転送された。映像は望遠によるものなので不鮮明だが、レーダーの画像には薔薇のキューブと無数の戦闘艦、クレッセント・シップとフルムーン・シップが確認できる。

腕組みをして鼻を膨らませたノレドは、こう結論付けた。

「地球人がジムカーオ大佐を相手にまた戦争をしたと知って、警戒してるんじゃないかな」

「いやでも」ラライヤが勢い込んで指摘する。「事情はベルリとアイーダさんから、親書という形で届いているはずじゃ・・・。それにノレドが約束した半年間クレッセント・シップとフルムーン・シップを預かったのちに返却するという約束だって守ってるわけですし」

「約束? あたしが?」

「ノレドが約束したんですよ。それでラ・ハイデンという新しく総裁になった人が納得して・・・。クレッセント・シップとフルムーン・シップを預かってほしいという話は、薔薇のキューブのエンフォーサーと戦争するためだとか・・・、エッ?」

「薔薇のキューブが来てるじゃん! ハイデンとかいう人、もしかして負けたの?」

ハリー・オードは、腕組みをしたままふたりと同じモニターを眺めていた。輸送艦を金星宙域から引き離したということからわかる事実はいくつかあった。ラ・ハイデンというビーナス・グロゥブの総裁は、重要な任務を負っている船を預けるほどに地球人を信頼したということ。そのときはまだフォトン・バッテリーを再供給する意思があったということ。金星圏で大型輸送艦が破壊されるほどの戦闘が起こる可能性があったということ。その相手はどうやら、地球圏と同じように薔薇のキューブであったということ。

そして結果として目の前にあるのは、敵であるはずの薔薇のキューブと、大艦隊と、巨大輸送艦が揃って地球圏に向かっているという事実であった。ハリー・オードは、ディアナ・カウンターが計画通りに実行されていた場合のムーンレイスの行動を思い出した。

人間はいずれ、地球に還るのだ。そして、スペースノイドはアースノイドの在り方に我慢できない。穏便のうちに土地を確保して、スペースノイドの秩序を保ったままひとつの民族として暮らしたい。それを実行するためならば、最悪武力の行使も辞さない・・・。

ハリーは背筋をピンと伸ばすと、大きな声を張り上げた。

「ベルリ王子の代行者として命ずる。トワサンガの一般市民は直ちにオルカを使って月基地に避難させる。一般人はそのままハイパーループで輸送すること。メガファウナは直接ザンクト・ポルトに向かい、キャピタル・テリトリティのウィルミット・ゼナムと連絡を取り、クラウンの再運航を要請してもらいたい。メガファウナは、そのまま大気圏突入を行い、アメリアへ避難していただく。月の生産設備は再稼働させ、モビルスーツの生産を再開させること」

ハリーは声を小さくしてノレドとラライヤに、メガファウナで地球へ降りろと告げたが、ラライヤは軍籍であることを理由に、ノレドはベルリが見つかっていないことを理由にそれぞれ断った。

「地球人は優先してメガファウナに乗せること」

続けて指示を出そうとしたとき、管制室に優先回線で通話が入った。モニターに映し出された男を見上げ、ハリー・オードは驚愕した。モニターに映った男はハリーに気づいたようだった。

「おや、その顔はムーンレイスの隊長さんかな」

「貴様・・・、カール・レイハントン・・・」

カール・レイハントンの名前を聞いて、ラライヤは驚きのあまり大きく口を開けてそれを掌で押さえた。怯えた様子の彼女に、ノレドは小声で誰なのと質問をした。ラライヤは、身体の震えが静まるのを待ってからゆっくりと口を開いた。

「カール・レイハントンは、初代レイハントン王です。ベルリの遠い先祖で、トワサンガとキャピタル・タワーを作り上げた人物。もう500年も前の人」

ノレドは理解が追い付かず、怪訝そうに金髪の男を見上げるばかりであった。ベルリの先祖といわれても、ノレドには似たところがひとつも見出せなかった。







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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第34話「岐路に立つヘルメス財団」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第34話「岐路に立つヘルメス財団」後半



1、


約束通り、クレッセント・シップとフルムーン・シップは地球から送り返されてきた。来るかと思われていたメガファウナの姿はなく、代わりに多くの犯罪者が送り付けられてきた。彼らは地球で大罪を犯し、月で簡単な宇宙生活の訓練を受けただけで罪人としてビーナス・グロゥブに連行されてきた。

クレッセント・シップ艦長エル・カインドは、地球代表としてアイーダ・スルガンの親書と、トワサンガ代表としてベルリ・ゼナム・レイハントンの親書を携えていた。ふたつの親書を一読したラ・ハイデンは、すぐさま地球人の教育とビーナス・グロゥブで行う義務についての教育法を指示し、合同裁判の手続きを開始した。

犯罪者として送致された地球人は、まずはスペースノイドとして義務が果たせるよう訓練を受け、教育後に労働力として働かされることになる。

「ベルリというあの少年は、すべてのアースノイドを宇宙で訓練を受けさせると言っているわけか?」

ラ・ハイデンは怪訝そうな顔でエル・カインドに質問した。彼の印象にあるベルリ・ゼナムはいささか頼りない少年で、その恋人というノレド・ナグの印象の方が強かった。そんな第一印象と打って変わり、親書はかなり力強い確信に満ちていた。そのギャップ、そして彼のプランの実効性。どちらもラ・ハイデンは否定的であった。

「1年間地球各地を巡行してわかったことですが」エル・カインドは顎髭を撫でた。「アースノイドというのは意識が未開です。聡明さに欠ける。義務意識に乏しく、身勝手な振る舞いが多い。しかし彼らもフォトン・バッテリーのために必死に知恵を絞ったのでしょう」

エル・カインドは、地球圏で起きたジムカーオ大佐の戦争について知っていることを報告した。目を閉じてそれを聞いていたラ・ハイデンは、事態を収拾して地球圏から暴力装置を排除してみせたベルリとアイーダのことは評価したものの、地球人というものが簡単に戦争に突き進んだことを重くみた。ゴンドワンでは核爆発も起こしてしまい、深刻な環境被害が出ている。

さらに深刻なのは、スコード教の威信の低下であった。キャピタル・テリトリティは国家の機能を失い、トワサンガは機能停止に追い込まれ、多くの住人が死んでいる。

「ジムカーオが支配したトワサンガ・ラビアンローズとの戦争に勝てたのも、トワサンガの機能停止から復興したのも、すべてムーンレイスの技術のおかげではないか。キャピタル・テリトリティもスコード教も何ひとつ役割を果たせず、利権を守るために汲々としていただけか。何と愚かな」

スコード教の威信が低下し、ムーンレイスによってユニバーサルスタンダードが脅かされ、フォトン・バッテリーの配給停止によってアグテックのタブーが犯されている。宇宙世紀の過ちを繰り返さないためのヘルメス財団の大方針はことごとく否定され、破壊されてしまっていた。それが地球圏の現状なのだ。キャピタル・テリトリティには大量の移民が流れ込み、ヘルメス財団の支配が継続されるかどうかも定かでない。

「アイーダという人物は、『連帯のための新秩序』という基本方針で地球の再統一、緩やかな連携をすると親書にあるが、アメリアという国家の国力を前提にした支配の論理に過ぎない。パクス・アメリアーナを我々は望まない。こんなものは帝国主義を美辞麗句で別のものに見せているだけだ。帝国主義による地球統一など許せば、帝国の地位を脅かす帝国が出現して覇を競うようになるだろう。まるで話にならん。地球人は自分たちの本質的愚かさに気づいていない。このベルリという少年もそうだ。ビーナス・グロゥブの労働の専門性を理解しているとは思えない。ちょっと教育してもらえば自分たちにもできると考えたのだろう。愚かなことだ。さては、前総裁のラ・グーからムタチオンのことを聞かされ、それがビーナス・グロゥブの深刻な問題であると足元を見たか」

「善意に満ちた姉弟ではありますが、なにぶん子供でして」

ラ・ハイデンの怒りの大きさに、エル・カインドは戸惑い気味であった。彼はまだカール・レイハントンがビーナス・グロゥブに出現して、ヘルメス財団が人類の進化の岐路に立たされていることを知らなかった。ラビアンローズの巨躯を目の当たりにしても、まさかそこに500年前にトワサンガへ移った人物がいるとは想像できなかった。ましてや彼が不死の存在であることも。

すべてのことを話し終えると、エル・カインドは航海日誌を提出してその場を辞した。


2、


技術革新の禁忌、宗教の統一、独自規格の禁止、エネルギー枯渇の回避。これらをもって文明を再興しながら宇宙世紀の過ちを避けようとしたヘルメス財団の試みは大きく挫折した。

ムタチオンの恐怖を利用したピアニ・カルータの競争信仰は、戦争の有用性を人に思い出させた。ジムカーオは、ラビアンローズとムーンレイスを戦わせることで『独自規格の禁止』を揺さぶり、本来の目的であったであろうスコード教への攻撃を果たした。さらに、トワサンガとビーナス・グロゥブのラビアンローズを同時に蜂起させることで、宇宙同時革命ともいえる状況を作り出して地球圏のエネルギーを枯渇させた。おそらくはこれらがさらなる戦争状況を生んでいるだろう。

ふたつの事件は、レコンギスタを大きく後退させただけだった。再文明化を果たした地球へ、神のように優位な立場で降り立つことが、ビーナス・グロゥブのヘルメス財団が住民に約束したことだった。地球を激しい闘争の状態にすることは、ひとつしかない命を無駄に落とすことに繋がる。

「老人の多くはここに残ると言っております。もういまさら戦争ばかりの地球に移住したところで、生き残る自信などありません」

復旧業務の視察のために街へと出たラ・ハイデンは、なるべく多くの住民の意向と聞こうと精力的に動き回っていた。

命の在り方が変わるとの演説を聞いたビーナス・グロゥブの住民の意見は多様だった。「尊厳死」という言葉が使われるように、残留思念となってまで生き延びたいと願う人間はそれほど多くなく、レイハントンの望む生へと変化したいと願い出る者はほとんどいなかった。多くの住民は寿命を全うし、子供に未来を託して死んでいこうとしている。一方で彼らは長寿を願い、死を恐怖してもいる。

カール・レイハントンは希望者は思念体へと進化させると表明しており、すでに数十名が処置を終えていた。思念体となった人々が家族の前に再び姿を現すことはなく、残された家族は葬儀を行い、いなくなった者を死者として弔った。此岸と彼岸の境界は、此岸にいる者にとっては変えがたい境界だったのである。

長寿を志向し、新たなボディスーツの開発のニュースに関心を示していた過去のビーナス・グロゥブは失われようとしていた。ボディスーツの存在自体が疑われるようになり、あれほど尊敬を集めていたラ・グーのことは急速に忘れられていった。比して、壮健なるラ・ハイデンの潔さの人気は高まる一方であった。強く生き、潔く死ぬことを、金星圏の人々は考え始めていた。

そんなラ・ハイデンの人気に慌てたヘルメス財団の幹部らは、秘かに打倒を誓っていたが、日ごと形勢は不利になるばかりであった。ラ・グーの長期政権において、長寿を目指すことで利権を確保してきた彼らは、ボディスーツを破棄して自然死する人間が増えてきていよいよ追い詰められた。本当のところは誰も彼らを追い詰めてなどいなかったのだが、彼らは自分たちが急速に支持を失っていると感じて焦燥を顔に滲ませた。

そこで彼らが目を付けたのが、地球からやってきた罪人たちであった。暴力的な地球人を操って、ボディスーツをはじめとした長寿技術を携えレコンギスタすれば、神のようにとまでいかなくとも、かなり有利な条件で地球に入植できると考えたのだ。

「スコード教はもはや役に立たぬらしい。アースノイドは我々の尊い労働義務について尊敬をなくし、そのくせフォトン・バッテリーだけは寄越せと」

ヘルメス財団の幹部たちは、連日膝詰めで会議を開催していた。彼らが意見交換することはラ・ハイデンも承知しており、それがどのような内容であれ、例えばラ・ハイデンの暗殺を話し合うような不穏なものであれ、自由が保障されている。保証されていない自由はテロリズムだけであり、それがキア・ムベッキの墓が作られなかった原因でもある。

「ラ・ハイデンは彼らを助けぬだろう。だが問題はその先。地球は戦争になるのだろうか。もはや資源はないはずだが、もしトワサンガが資源衛星を開拓して地球に資源を降ろせばいかがするか。トワサンガ、キャピタル・タワー、アメリア、全部レイハントンで繋がっている。完全な独裁体制だ。こうなると我々で大船団を組んでレイハントン・ムーンレイスの連合と戦うしかない」

「戦うにしても、カール・レイハントンがいる。彼はまだラ・ハイデンに返答を迫ってはいないが、いずれは生か死かと迫ってくる。生と答えて生きることが許される保証はない。これは間違いなく、レイハントン一族の陰謀なのだ。カール・レイハントンは我々ビーナス・グロゥブの民をよくわからない霊魂にして葬り、アンドロイドとあの地球人の罪人でフォトン・バッテリーの生産を続けるつもりだ。金星は奴隷だけの流刑地となって、地球圏を支配するレイハントンだけが皇帝になる。そうした陰謀なのだと自分は考えるがいかがか」

これは他の誰もが考えていることであった。彼らにとって思念体となり永遠の命に変化することなど何の意味もなかった。

「そこで提案なのだが、送られてきた罪人の調査を行ったところ、面白い人物がふたりいるとわかった。ひとりはクリムトン・ニッキーニ。彼は地球の最大国家アメリアの大統領の息子である。もうひとりは、クンタラの指導者ルイン・リー。このふたりは、アイーダ・スルガンとベルリ・ゼナムの対抗馬にならないだろうか。こちらに有利な話はまだある。カール・レイハントン自身が言っていたではないか。ベルリ・ゼナムもアイーダ・スルガンも、彼の血族ではなく、アバターとクンタラの混血だという。これは正当な支配権が彼らにはないことを意味している。最もレイハントン自身は霊魂みたいなものだからそんなことには興味がないのだろうが、ベルリ・ゼナムとアイーダ・スルガンさえ殺せば、事態は好転の兆しを見せるはずだ」

「いや、そうはならんね。最大にして最終的な問題は、カール・レイハントンの方針だ。彼はすべての人類を思念体とやらにするつもりである。それをいまラ・ハイデンがどうやって譲歩を引き出すか思案している段階だ。こうした交渉事は、残念だがラ・ハイデンに委ねなければならないだろう。彼はやはり優秀であることは間違いない。カール・レイハントンをどうにかしなければ、我々に未来などないのだ。我々の未来は、死後の世界にあると彼は言うのだから」

「カール・レイハントンはやはり全スペースノイドを思念体にするつもりなのだろうか」

「スペースノイドを思念体に進化させて、アースノイドはどうするつもりなのだ?」

「アースノイドは絶滅させるのだろう。話を聞く限り、ジオニズムは人間性の否定だ。人間が何か別のものに進化しなければならないとの妄想に支配されている。確かに人類は歴史を誤ったが、それを繰り返さないためのヘルメス財団千年の夢であったというのに」


3、



会議の翌日、ヘルメス財団はクリム・ニックとルイン・リーに初めて接触した。ふたりは個別に派遣された人物と会談を持ち、どんな人物なのか慎重に見定められた。手錠を掛けられたクリム・ニックは、戦争犯罪人である極悪人に告解させるとの名目で大聖堂へと連行されてきた。

ここはゲル法王猊下が説法を行った場所であった。周囲は警官によって厳重に固められ、上空には万一に備えてモビルスーツが配置された。その物々しさにビーナス・グロゥブの住人は、戦争犯罪者というものへの恐怖を感じたが、ヘルメス財団が怯えているのはカール・レイハントンに対してであった。

話を聞いたクリムは、驚きを隠せなかった。

「ベルリとアイーダが地球の支配を目論んで共謀している?」

クリムは話し相手であるビーナス・グロゥブの枢機卿の真意を測りかねていた。相手の話に迂闊に乗って謀りであった場合は取り返しのつかないことになる。ひとまず彼は、アイーダが戦争終結のために尽力していたことを清く認め、自分こそが戦争犯罪人であると返答した。

枢機卿は少しイライラしているようだった。彼は老いて垂れ下がった皮膚を持ち上げるように上を眺めながらクリムに話した。

「終わった戦争犯罪のことはひとまずよろしい。これからこの地で起こる問題の解決に尽力を得られるのなら、恩赦も可能だと提案させていただいている」

彼はゴクリと唾を呑み込んだ。話を思念体という得体のしれない存在であるカール・レイハントンに聞かれているのではと気が気でないのだ。

「この地で起こる問題?」

「虐殺だ。レイハントンによる虐殺がこの地で起こるかもしれない。もしビーナス・グロゥブの罪のない人々が虐殺の憂き目を見れば、最後には地球人すべてが同じ目にあうだろう」

「レイハントンとは、ベルリくんのトワサンガのルーツのことでしょう。ふたりが姉弟であることは承知しているが、地球圏を支配となるといささか・・・」

「トワサンガの初代王カール・レイハントンのことはご存じか」

「いや、寡聞にて」

「カール・レイハントンはいまより500年前の人物だが、ある事情があってまだ生存しておるのだ」

そう聞かされても、クリムにはピンと来なかった。枢機卿はすべてを話すわけにはいかずもどかしそうであったが、あるアグテックのタブーを使えばそれが可能なのだと説明してようやく納得した。クリムは美しいステンドグラスを見上げて呟いた。

「永遠の命・・・」

「だがそれは肉体を捨てねば手に入らないのだ。肉体を捨てれば、霊魂のような状態になって元の肉体も再生できるというものだ」

「元の肉体が再生できるだと!」

クリムは突然思い至った。彼はジムカーオの策謀に巻き込まれ、大陸間戦争再開、キャピタル・テリトリティ爆撃、占領政策と数々の罪を犯していたが、それらが成就しなかったことより親友であり愛人であったミック・ジャックを失ったことを深く後悔していたのだ。

そのミック・ジャックは、命を失ったのちもしばらく機械式アバターであるアンドロイドの中に思念を送り込み、クリムと行動を共にしていたのだ。彼はその際のことを思い出したのだ。

「元の肉体を蘇らせ、そこに魂を入れると元の姿に戻るのか!」

「戻したい人がおありで?」

枢機卿はようやく思い通りの展開になってほくそ笑んだ。

「いる。自分にはこの命に代えても蘇らせたい人間がいるんだ」

「ならば我々との取引に応じるべきでございましょうなぁ」

クリムはギュッと唇を噛み締め、そのくたびれた顔にみるみる精気を蘇らせたのだった。

「わたしに何をしろと? いや、何をすればミック・ジャックを蘇らせてくれると?」

「カール・レイハントンを殺せなどと無理は言わない。あなたにはアイーダ・スルガンを暗殺してもらいたい。いやなに、暗殺でなくともよい。最小限の被害で確実に葬って欲しいのだ。レイハントンは人類を皆殺しにしようとしている。それをどうやったら阻止できるのか、君には作戦に参加していただこう。無論、地球に還してあげるよ」


4、



同じころ、ルイン・リーとマニィ・リーは、幼い娘とともに旧ドレッド家の大邸宅でもてなされていた。ここも厳重な警戒態勢が敷かれ、銃を構えた兵士が邸宅の周囲を取り囲み、無線で連絡を取り合っていた。ふたりの手からは手錠が外されている。

「ベルリ・ゼナムとアイーダ・スルガンという姉弟は、必ずや人類に仇を成すだろうとは思っておりました」ルインは目の前にいる小柄な枢機卿に対して自信あふれる姿をアピールした。「我々夫婦がお役に立てるのであれば、そしてまたクンタラの名誉回復を第一に考えてくださるのなら、ベルリ抹殺の役目、喜んでお引き受けいたします」

「そう言ってくれると助かる」

「しかし、クンタラの名誉回復とは、いったいどのようなものなのでしょう?」

「カール・レイハントンがどのような人物であるかは先ほど話した通りだ。我々は彼との対話を通じてこう結論するに至ったのだ。つまり、スコード教は間違っていたと」

「なんと」

ルインは相手の法衣をまじまじと見つめた。枢機卿はふうと溜息をついて、腹を押さえた。

「ヘルメス財団は、人類の安寧だけを願い、再び人類がエネルギーを巡って争うことがないように、ここビーナス・グロゥブでフォトン・バッテリーを作り、人類に広く行き渡らせるよう努力してきた。人類はすぐに争いを起こす。君もその罪で捕らえられ、ここへと送られてきた。争わせないための宗教がスコード教だ。ビーナス・グロゥブにおける住民たちの自己犠牲は、特定の一族を富ませるために行ってきたわけではない。戦争を起こさせないためのものだ。わかるね?」

「無論です。しかしわたしは」

枢機卿は反論しようと身を乗り出したルインを掌で制した。

「人類を再び戦争に導くことがないようにと願って我々は義務を果たしてきた。スコード教の禁忌は、それに役立つと信じてきたのだ。しかし、カール・レイハントンは、人類を皆殺しにして霊魂のようなものにすれば万事解決すると提案してきた。それがジオニズムであると。ジオニズムというのはわたしもよくは知らないが、ニュータイプだとかいうものに進化しようとする太古の思想だという。そしてそのための手段も持っているのだと。それを独占しているのがレイハントンだ」

「はい」

「彼の提案を受けたときに、はたと気がついたのだ。確かに肉体がなければ人間は争いを起こさなくなるだろう。それは究極の解決方法であると。しかし、それでいいのか? 人類は人類でないものに進化してこの世から消えればいいのか? 死ののちに永遠の命が待っているからと、正しく生きようと努力してきたものを捨てねばならぬのか。おそらくそうではないのだ。生きるというのはそういうものではない。では生きるとはいったいどんな行為なのか。そのとき我々が思い出したのが、名もなきクンタラの宗教であったのだ。君たちクンタラは、肉体をカーバに運ぶ道具として考えている。カーバというのは理想郷のようなものだろうが、人生を賭けて、正しい振舞いを積み重ね、肉体がカーバに辿り着けるようにと人生を捉えている。それは素晴らしい思想ではないか。スコード教はしょせん争いを起こさないために作られた人工宗教であった。宗教対立をなくすための、宗教のユニバーサルスタンダードでしかなかった。そこに、人間の魂をどのように考え、人生に意味を見出す思想はない」

「いや、しかしそれでは、カーバがまるで実在しない理想のようなものだと」

「待ちたまえ。そこで我々ヘルメス財団は決断したのだ。スコード教を廃し、クンタラの宗教を全宇宙に広めていこうと。仮にクンタラ教とでもしておこうか。もし全人類がクンタラ教に改宗したとして、その世界でクンタラは差別されるだろうか。我々もクンタラの苦難の歴史は知っている。食人習慣というおぞましい習慣の被害者だ。だが君らは、人類が食人に走ったおりにも強い信念をもって自らの宗教を守り通してきた。カーバに辿り着かんと、肉体を捨てることをよしとしなかった。それこそまさにいま我々が置かれた立場と酷似しているのではないか? 肉体は確かに争いの源となる。だからこそその肉体を持つ意味を問わねばならない。この肉体は、魂を健全に保ち、カーバに至らしめる重要な道具であったのだ。肉体は様々な煩悩に支配される。肉体があるから争いごとが起こる、これは確かに理のある話だ。だがそれを制するからこそ魂は浄化され、カーバという聖地に至る資格を得るのではないか? 単なる技術で魂だけの存在になるということは、穢れた心を持つ者も一緒に永遠の命を得るということだ。そんなことはおかしい。煩悩に打ち勝ち、まさにあなたの妻が手に抱く幼子のように清らかな魂を保ち続けた人間だけがカーバに至るべきではないのか?」

「わたしはこの人の話は正しいと思う」マニィが口を挟んだ。「戦争を回避するためだけなら確かに霊魂にでもなって大人しくしていればいい。生きるってことは、そういうことじゃないんだ。スコード教は間違っているよ」

「うむ」ルインもいたく感心したようだった。「まさかカーバにそのような意味があろうとは考えたこともなかった。我々にとってカーバは約束された土地。そこへ至りさえすれば差別もなく、苦しみもなく、皆が平等に暮らせる魂の安息地だと思っていた。だが、枢機卿の話されたようなことを体系化して、全人類をクンタラ教に改宗させることができたならば、あるいは・・・」

「それだけではないよ」枢機卿は慎重に、念を押すように、ルインを抱き込もうと彼の肩に手を置いた。「新しい宗教になっても、肉体がある限り人間は争いごとをやめないだろう。だからこそ、いままで通りフォトン・バッテリーを我々ヘルメス財団が供給しなければならない。レイハントン家が500年に渡る策謀で地球圏の支配を完成させようとするいま、それを打倒したのちには誰かがトワサンガを治めねばならない。トワサンガをクンタラ教の聖地にせねばならない。いままで通り、ビーナス・グロゥブで人類全体のために労働に勤しむ人間を尊敬せねばならない。その役割に、レイハントンはふさわしくないのだ。ルイン、そしてマニィ。あなた方若い夫婦は、トワサンガを支配するにふさわしい好人物だ。ベルリ・レイハントン亡きあとは、あなた方にトワサンガを支配していただき、ヘルメス財団の新しい夢の礎になっていただきたいのだ」

「よろこんで!」

マニィは子供を抱いたまますっくと立ちあがり叫んだ。ルインも立ち上がり、マニィの肩を抱き寄せると、枢機卿に深々と頭を下げた。

「よもやこうして三度のチャンスを得るとは思いもしませんでした。ベルリ抹殺の件、しかとお引き受けいたします」



5、



「あの単純な地球人どもを簡単に抱き込んだはいいが、さて、問題はカール・レイハントンとラ・ハイデンよ」

ふたりの枢機卿は小さな教会の地下で膝を合せて話し込んでいた。その狭い空間にはビーナス・グロゥブのすべての枢機卿が参集していた。

「クンタラ教などという汚らわしい名前の宗教に、誰が参加すると思っているのか。やはり地球人は欲に弱い。トワサンガをくれてやると申し出たら、腰が折れるほどお辞儀しよった」

「まぁ、地球人のことはそれくらいで良い。レイハントンのベルリとアイーダに関してはこれで目途がついた。あいつら用のモビルスーツを何とかして用意してやれば、何もかも上手くいくだろう。さてさて、ではカール・レイハントンについて何か意見がないか聞こうか」

カール・レイハントンの名前が出た途端、誰もが委縮したように黙りこくった。魂魄となって何千年生きているかわからないような相手に、どんな手段があるのか見当もつかなかった。

「彼の者の目的は、いったい何でありましょうか?」

暗がりの奥から、不安そうな声が聞こえてきた。スコード教の枢機卿に昇りつめ、時折クレッセント・シップに乗って遠く地球圏に出掛けることを特権にしてきた彼らには、思念体という存在自体が理解できない。何をそこまでしてやり遂げたいのか、何を思い残しているのか理解が及ばないのだ。

そして、当のカール・レイハントンと対等に渡り合っているラ・ハイデンもまた、彼らには得体の知れない存在になりつつあった。住民の中に入り、広く意見を募っているので、てっきり住民投票でもするのかと思いきや、話を聞くばかりで一向に彼は決断を下さなかった。

即決のハイデンと呼ばれ、何事も速さを旨とする彼が、これほど時間をかけて熟考することはかつてなかった。まるでラ・グーのようだともっぱらの評判になっていたのだ。住民たちは死について深い議論をすることを好み、ラ・ハイデンに直訴するような直接行動は起こらなかった。

「結局のところ、ラ・ハイデンをはじめ、誰もがどうしたらいいのかわからぬのではありませんかな。肉体を捨てて永遠の命に進化しろといわれれば多くの人間が従い、レイハントンを打倒せよといわれればモビルスーツに乗り込み、何もするなといわれれば何もしない・・・」

「自信の問題なのですよ。誰しもムタチオンは怖い。レコンギスタはしたい。しかし、地球に住んで自分がやっていけるか不安なのです。地球の人間を侮りながら怖れている。スペースノイドというのは元来そういうもので、無駄なく生きている自分たちの優位性に自信を持ちながら、一方で大量の無駄を出して悔いることなく無計画に人間を増やしてしまうアースノイドの生命力を怖れているのです。地球というものに飲み込まれて、自分が自分でなくなってしまうかのような不安な心持になるのでしょう」

「レイハントンの口振りでは、永遠の命になることは、ジオンという古代国家時代の悲願のようでしたが」

「永遠の命ではなく、人類がニュータイプというものに進化することが目的化していたのでは? さてニュータイプというものがなぜそこまで尊ばれたのかは知りませんが、スペースノイドだけが進化してアースノイドを見下し神になろうとは考えず、アースノイドに進化することを押し付けようとした。なぜなら、アースノイドが地球の資源を食い尽くして地球を窒息させてしまうからですな。スペースノイドなのに、なぜ地球のことを慮るのか、なぜ数において勝るアースノイドを従わせようとしたのか。さきほど自信の問題とおっしゃった。まさにそうではないですかな。自分たちは優れているとのうぬぼれはある。しかし、宇宙でずっと永遠には生きられないのです。いつかは地球に戻らねばならない」

「その考えでは、ピアニ・カルータを肯定することになりませんか?」

「誰もが少しずつ正しい。まったく間違っていたのなら、賛同者はあれほどの数にはなっていない。ピアニ・カルータの悪い点は独断であって、行為ではない」

ひとりが深く溜息をついた。

「カール・レイハントンへの対抗策は今日も見つからずでございますか。このままではラ・ハイデンが決断して、何もかも手遅れになってしまいますぞ」


6、


そして、ラ・ハイデンは決断した。

「いまやヘルメス財団千年の夢は風前の灯火となった。かくなるうえはカール・レイハントンとともに地球へと赴き、トワサンガの者らも含め地球へと叩き落してすべてを餓死させる所存である。あらゆる抵抗には武力を持って対処し、地球上のすべての軍事拠点を強制排除して奴らから抵抗の手段を奪い去る。地球はスペースノイドが支配しなければ、再び暗黒期へと突入しよう。資源の枯渇した地球を再び窒息させることがあったとしたならば、次なる再生はいつになるかわからない。アースノイドという劣等種族を強制排除してこそ、地球は美しく再生されるのである。ヘルメス財団は、穏便をもって地球の再生を願ったが、それは叶わぬと判断した。ビーナス・グロゥブ全艦隊は、ラビアンローズとともにこれより地球へと進撃を開始する。直ちに準備に取り掛かってもらいたい」

ラ・ハイデンの演説は驚きと歓喜をもって迎え入れられた。なぜなら、それはレコンギスタ宣言であったからだ。ついに地球へと戻ることができる。ビーナス・グロゥブは沸き返った。

一方で、別の通達も発せられていた。永らくビーナス・グロゥブにおいて特権とされていた延命処置とボディスーツの着用が禁止されたのだ。遺伝子改良を受けたすべての人間が逮捕され、処断されていった。ビーナス・グロゥブは、解放奴隷を刑期とする法を改め、より厳しい刑罰の導入が検討された。

100歳を超える者らは阿鼻叫喚の中で逮捕され、そのまま行方知れずとなった。恐怖の叫びは、喜びの声にかき消された。ビーナス・グロゥブの歓喜は収まることがなかった。地球侵略にあたって志願兵が募られ、多くの者が殺到したが、その中にはフラミニア・カッレの姿もあった。小人症である彼女は刑期の途中であることなども考慮されていったんは不採用となったが、医師免許を持っていたことで従軍看護師として採用が決まった。トワサンガに詳しいことも彼女には有利に働いた。

志願兵の中には、スコード教が用意した偽の身分証を携えたクリム・ニックとルイン・リーの姿もあった。マニィは子連れで目立つためにビーナス・グロゥブに残されることになった。

エル・カインド艦長はまたしても休みを取りそこない、地球へと赴くことになった。ただし、脚の速いクレッセント・シップとフルムーン・シップの出発は2週間遅れであった。フルムーン・シップの操舵士として船に乗り込んでいたステアは、ラ・ハイデンの地球侵略の大演説を聞いて真っ青になっていた。長い航海で信頼を得ていた彼女は、当たり前のように操舵士として船を任されることになっていた。彼女の頭の中は真っ白であった。

「どうすりゃいいのよ?」

何もかもが突然慌ただしく動き始めたのだった。


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