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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:75(Gレコ2次創作 第27話 後半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第27話「ハッパの解析」後半



1、


∀ガンダムの暴走によって砂塵に帰したニューヨークは、放棄されたまま手付かずの状態だった。

西暦の時代から宇宙世紀初期までに築き上げられた文明の遺産によって成立していたアメリアの首都は、元に戻すこともできず、新たな都市計画を策定しようにもフォトン・バッテリーの供給が再開されていないのでエネルギーがなく、これでは工作機械をまともに動かすことはできない。

都市はエネルギーによって出来ている。膨大な資源とエネルギーの投入がなければ、都市文明を作り上げることはできないのだ。地下資源を使い果たした人類には、もう2度と西暦時代の都市文明は作り出せない。だからこそ西暦は終わり、宇宙世紀に取って代わられたのだ。

アメリア政府は、ニューヨークからワシントンに拠点を移し、古いビル群をリノベーションさせることに忙しかった。中西部がほぼ荒野であるアメリアは、北部の森林地帯を伐採して都市の再建のために資材を運ばせていた。南北を走る鉄道がないアメリアは、木材のワシントンへの移送だけで多くのエネルギーを消費している。ソーラーパネルで何かがなせると一時でも考えたのは大きな誤りであった。

ハッパがレコンギスタ事件の報告書をまとめるためにワシントンにあてがわれているホテルも、リノベーションが終わっておらず、終日大きな音を立てて内装工事が行われていた。

「メガファウナの自室の方がよほど静かだった・・・」

独り言をつぶやきながら天井を見上げたその顔に、パラパラと砂埃が舞い降りてきた。ホテルとは名ばかり、蛇口をひねっても水は出ず、シャワーを使いたければ1階から必要な分だけ水を自室まで運ばなければいけない。レストランもないので、外出して屋台で物を買わなければいけない。

「こうして考えると、軍などというものはなんて無駄な組織だったろう。オレたちはいったい誰と戦おうとして、資源をあんなに無駄に、無尽蔵に浪費していたのだろうか」

戦艦やモビルスーツに費やされた資源は膨大な量であったのに、いまは石と木材で文明を再生中だ。軍備を拡張せずに残された資源を都市の再建に当てたアジアの方が発展していたとのベルリの話はおそらく本当なのだろうとハッパは納得した。軍事的優位は決して文明の優位ではない。軍事的優位がもたらす政治的優位も、文明の優位ではないのだ。アメリアはいち早く文明を再興させた自信が、宇宙世紀の轍を踏む失敗に繋がったのだ。アメリアが作ったモビルアーマーなど、∀ガンダムの前にはおもちゃでしかなかった。

ハッパがアメリアを離れる日は、刻々と迫っていた。

アメリア政府に提出するレコンギスタ事件に関する報告書作成の一端を任された彼は、技術屋の視点で有機サイコミュであるグリア細胞と無機サイコミュの類似点と相違点をまとめ上げた。これはサイコミュとして使用する場合、人間のグリア細胞は不完全で使いにくいとする内容で、ゆえにエンフォーサーは無機サイコミュとしてアンドロイド型エンフォーサーを作り上げたとするものだった。

「と、書いてはみたものの・・・」

やはり彼は納得はしていなかった。思念体として存在できるニュータイプが、資源やエネルギーに頼らなければ生存限界を迎えてしまう肉体をなぜわざわざ求めたのか、答えになっていないからだ。だが報告書は、薔薇のキューブの意味と、シルヴァーシップ、G-シルヴァー、アンドロイド型エンフォーサーを説明することが主眼であり、ニュータイプ論には踏み込まなくてもよかった。

ハッパは、トワサンガの薔薇のキューブ内部に潜入して、自分の眼でその自動生産設備を目の当たりにしている。薔薇のキューブというのは、それがラビアンローズと呼ばれていたころから、資源がある限りどんな戦争の道具も生産し、修理することができた。その経験値がヘルメスの薔薇の設計図というものだった。

そこに、サイコミュというものが登場して、身体機能拡張の一種として一時的に発達した。人間の意識や思念といったものが肉体の中にあったとき、サイコミュは未知の感覚器官を捉え、予知的動作に生かす手段だったようだ。人類最初のニュータイプと呼ばれる人物にそのような特徴があり、軍事利用されたことがきっかけであった。機械を速く動かせるだけで戦場での成績は大きく変わる。

一時的に流行したサイコミュは、理由はわからないが宇宙世紀の途中から研究が止まってしまう。それに代わるものはなく、人類はアンドロイドの制作は行わずに戦争の道具としてのモビルスーツ開発に専念していった。ハッパはこれを、データ解析量の増大によって予測機能が向上したことと、関節機構の飛躍的進化と制御装置の発展によって、不確実で不安定で誰にでも使えるわけではないサイコミュが不要になったためと考えていた。

宇宙世紀中盤の技術力があれば、パイロットなどいらなかっていたのだ。パイロット制度の継続は、戦争という名のショーが無駄ではないと人民に知らしめるために必要なだけであった。誰かを英雄にするために、人工知能による操舵は否定され続けた。薔薇のキューブやヘルメス財団の存在こそ、戦争が公共事業化していた宇宙世紀の生きた証言者であった。

そのこともまた、報告書には記していない。必要なのは、誰が、何の目的で攻めてきたかだけであった。

2度に渡って人類を襲ったレコンギスタ事件の犯人は、ピアニ・カルータとジムカーオである。いずれもキャピタル・ガード調査部に潜り込み、情報の操作を行っていた。ピアニ・カルータはトワサンガ及びビーナス・グロゥブ在住のレコンギスタ派の動きを使って、自分の主義を証明しようと画策した。

ジムカーオについては多くのことが不明だが、宇宙圏で生存する人類の中のエンフォーサーと呼ばれる集団を同じように操っていたようだ。だがこのふたりはレコンギスタ派を指令する立場にはいなかった。ジムカーオも、エンフォーサーに頼られる立場ではあったが、最後まで状況を収拾させようともしており、地球を攻撃することが目的にはなっていなかったようなのだ。

ジムカーオにもまた、何らかの主義があった。ピアニ・カルータの主義は、闘争本能による遺伝子の強化だった。ではジムカーオの主義とは何であったろうか。彼がニュータイプ、それも思念体としてかなり強い力を有していたことは確定していた。だが彼は指導者ではない。指導者はおそらくはビーナス・グロゥブにいたのだろう。ピアニ・カルータがラ・グーと対立していたように、ジムカーオもビーナス・グロゥブの誰かと対立していたと見做すこともできる。

ピアニ・カルータには、トワサンガのドレット家という対立者もいた。そのせいで彼は宇宙においては目立った活動は行っていない。

ジムカーオは彼の失敗を教訓に、最初から法王の亡命事件を仕掛けて、トワサンガの裏の組織であるエンフォーサーの集団を掌握している。トワサンガを維持する目的は毛頭なく、平気で破壊を行い、キャピタル・タワーの破壊を目論んだ。ジムカーオの目的は何だったのか。

レコンギスタ派とピアニ・カルータとの間に齟齬があったように、ジムカーオにもエンフォーサーとの間に齟齬があったのだろうか。エンフォーサーは本当に1枚岩で、地球侵略、つまりレコンギスタを目的としていたのだろうか? アイーダ・スルガンとベルリ・ゼナムは、エンフォーサーの目的は宇宙世紀の復活だったと考えていた。思念体である彼らにとって、地球に居住することは目的にはならない。思念体は何を望み、何を執行しようとしていたのか。

「クンパ大佐ってのは、結局強者が地球を支配すべきだと考えていただけで、どっちの味方でもなかったんだよな」ハッパは自分の思考を整理した。「もしジムカーオが同じような人物だとしたら、彼も地球の支配はどちらであるべきかなんて答えは持っていなかったのかもしれない。彼がやりたかったのは、ニュータイプとオールドタイプとの戦いだった。そして別にどっちが勝ってもよかった。だから、ベルリもディアナ閣下も殺そうとはしなかった。それはフェアじゃなくなるからだ。同じようにエンフォーサーにも肩入れしていなかったとすればどうなる? なぜ彼は最後にキャピタル・タワーを目指したのか」

ジムカーオという人物は、クンタラ出身だと多くの人物に語っている。またルイン・リーの証言によって、地球においてクンタラ解放戦線を支援していたのも彼だという。グリア細胞に変化が起きて進化した人類と見做されるニュータイプと、それが起きなかったがゆえに被差別階級に転落したクンタラ。

ハッパはハタと気がつき、思わず椅子から飛び上がった。

「そうか、ニュータイプの素質が遺伝しないように、クンタラの素質もまた遺伝しないんだ。彼はクンタラ出身のニュータイプだった。じゃあ逆に、ニュータイプの子孫であることで特権階級になったエンフォーサーって連中は、本当にニュータイプだったのか? もし違っていたとしたら? エンフォーサーが全員オールドタイプだったとしたら?」


2、


ハッパは自分が作成した報告書を委員会に提出する前にアイーダに見せた。ワシントンの喧騒は政府の施設においても変わらず、彼女の執務室にも大工仕事の大きな音が聞こえてくる。

アイーダは受け取った報告書に目を通すうちに、怪訝そうな顔つきに変わった。

「あれだけ大きな戦争を仕掛けてきたジムカーオ大佐が、エンフォーサーのリーダーではなくそれどころか敵対者であったかもしれないと? 大胆な仮説で面白いですけど・・・」

「姫さまは委員会の報告書は随時目を通しているでしょうから、ノレドの証言は知ってるはずですよね? ビーナス・グロゥブには、人間のエンフォーサーと同じ数だけのアンドロイド型のエンフォーサーがあった。彼らエンフォーサーが完全な思念体であったのなら、そんなにアンドロイド型は必要ないわけですよ。トワサンガのように人間の補助をするだけで充分なはずです。アンドロイド型は攻撃兵器じゃないので、人間の補助として必要な分だけでいい。自分は当初こう考えたんですよ。思念体にとって有機も無機も関係ない、どちらにでも入ることができると」

「実際、ジムカーオ大佐はリンゴ・ロン・ジャマノッタの身体を使ってわたしに語り掛けてきたんです」

「そう、だから、有機と無機が同じ数だけあっても不思議ではないと。しかしよく考えると、そもそも有機も無機も必要はない。思念体のままでもいいわけです。思念体として宇宙と一体化していればいい。ベルリが遭遇した邪悪な思念体も、ノレドの協力した思念体も、G-セルフをベルリの意図以上に使いこなしていた思念体も、ラライヤを助けた思念体も、姿を現したわけじゃない。それにリリンちゃんの父親も、別にニュータイプじゃなかったはずなのにアンドロイド型の中に入っている」

「ミック・ジャックさんもそうだったようですね」

「彼女もそうです。彼女は宇宙での戦いで戦死して、クリム・ニックを守るためにシルヴァーシップの中のアンドロイド型エンフォーサーの中に入った。ミック・ジャックはそれほど強いニュータイプじゃなかった。それどころかニュータイプですらないかもしれない。思念体はこの世界で何かを成そうとするときには肉体となる何かが必要ですけど、この世界から解脱した存在である彼らは、そもそも地球の成り行きに関心など持っていないはず。所有欲は肉体的要求がなければ生まれないものだからです。そんな彼らが肉体とアンドロイドと同じ数だけ持っているのはおかしいんですよ。つまりあれは」

アイーダは報告書に目を落とした。

「少なくともビーナス・グロゥブのエンフォーサーはニュータイプではなかった、と」

「彼らは解脱したことがなかったんですよ。ミックの例にもあるように、解脱は死とともに起こる。死によって肉体を失った者が、思念体となる。その死後の世界がどんなものかはまだ知りたくはありませんけど、とにかく強弱の差はあれ、死後には思念体として生きる時間がある。トワサンガとビーナス・グロゥブのエンフォーサーは、解脱前の、ニュータイプの子孫というただの特権階級だったわけですよ。そして、アンドロイド型エンフォーサーは、解脱実験のためのサイコミュだった。彼らニュータイプの子孫は優生論を展開して、クンタラという被差別階級を作った手前、本来は生きたまま解脱できなきゃいけなかった。そのために宇宙世紀では見られなかったアンドロイドを作り上げ、解脱実験を繰り返していた。絶対にできるという確信の下で、準備万端整えてはいたものの、誰一人としてそんな実験に成功はしなかった。そりゃそうです。ニュータイプは突然変異ではないので遺伝子しない。彼らの優生論自体が大ウソだったんです。そして、オールドタイプの子孫として虐げられてきたクンタラ出身のジムカーオにはそれが出来た。肉体を保ったままで解脱実験に成功するほど強いニュータイプであった。だから全シルヴァーシップを思いのまま動かすほどの艦隊指揮も難なくこなした。サイコミュ同士の共鳴現象を彼は通信に利用できた。ひとつのサイコミュに入れば、周囲にあるすべてのサイコミュを操ることができた。大昔、ファンネルという武器があったそうですけど、思念体としても存在できるジムカーオにとっては、大艦隊もファンネルみたいなもので自在に操れたのでしょう。大変な能力者です。そんな彼が、自分らを虐げてきたニュータイプの子孫たちが、道具ばかり揃えて本当はニュータイプなんかじゃないと知ったらどうしたでしょうか。復讐を考えたんじゃありませんか? それに、エンフォーサーがやろうとしていた最終決戦を演出して利用したんですよ」

「ニュータイプとオールドタイプの戦いですか? どちらが地球を支配するのにふさわしいか、戦って決めるというものですね。それはこの本にも書いてあるんですよ」

そう言って彼女は「クンタラの証言 今来と古来」を机の上に出した。ハッパは初めて目にする本だったので興味深く作者の名前を確認した。そこにはディアナ・ソレルとあった。アイーダは本の表紙をポンと叩いて、話を続けた。

「クンタラを地球に降ろして奴隷や家畜として使役しながらキャピタル・タワーを建設したことが記されています。ハッパさんのお考えを聞くと、どうやらエンフォーサーというのは、被差別階級であったクンタラに地球の再建をさせて、十分に文明が再興されたところでいわば決闘を申し込むように正々堂々とオールドタイプとの戦いに挑み、地球を侵略しようとしていた。それが彼らの考える『執行』で、執行する者としてのエンフォーサーであった。はなから負ける気はないと言わんばかりのネーミングですよね」

「ニュータイプの子孫はニュータイプだと、信じて疑わなかったのでしょう。古来から優生論なんてものに傾斜する人間は頭が悪いと相場が決まってて、なぜ遺伝しないニュータイプ現象を階級制に利用しているのか、誰も考えてこなかったんでしょう。彼らにとってジムカーオは、あくまでイレギュラーで、解脱実験に成功した彼を心の広い自分たちは身分など関係なく温かく受け入れたくらいに思っていたはずです。しかし、食われる側の人間、差別される側の人間がそれをありがたがって感謝するだけで終わるわけはない。ニュータイプならニュータイプとして戦って勝ってみせろと、そういうシチュエーションをどうしても作り上げて、彼らエンフォーサーが土壇場で解脱できたならそれはそれでよし、出来なかったのなら大人しく死ねと、そう考えてもおかしくないと思ったんですね」

「そうか、それで・・・」アイーダは机の上を爪でコツコツと叩いた。「なるほど、艦隊戦を仕掛けてきた理由がわかったような気がします。ジムカーオ大佐は大変な能力者で、ひとりで艦隊を指揮できた。そこで戦いながら艦隊を徐々に地球の引力圏に近づけていった。薔薇のキューブも同様です。彼は解脱できるので、そこから逃げ出すことができる」

「肉体は捨てても構わなかったのでしょう」

「そうか、肉体への執着すらなかった。それは彼にとっては死じゃない。だけど、薔薇のキューブの中にいたエンフォーサーたちはそうじゃなかった。彼らは解脱が出来ない。肉体の死は、自分が終わることを意味する」

「薔薇のキューブがどんどん地球圏に近づいていって、解脱できなければ死んでしまう。死なないためには、あの状況だとシルヴァーシップの中のアンドロイド型エンフォーサーの中に入って戦線を離脱するしかない。早くしないと死んでしまうのに・・・」

「解脱できない」

「解脱できないし、ベルリもノレドもあの虹のような物質を出して逃げる先のシルヴァーシップを砂に変えていく。薔薇のキューブも多大な被害を受けて助かりそうもない。つまり、ジムカーオは彼らエンフォーサーの味方じゃなかった」

「試したんですね。自分たちを差別し、あまつさえ食料にしてきた人々の本当の姿を見ようと、彼らを試したのでしょう」

「エンフォーサーとクンタラ。このふたつは・・・」

「ニュータイプとオールドタイプであったと」アイーダは溜息をついた。「なるほど、これがハッパさんの解析なんですね」

「ぼくにとって肝心なところはあくまでサイコミュについての部分だけで、あとは想像ですけど。サイコミュの解析についてはそれなりに自信があります」

「これは、冬の宮殿で見聞したものそのままということです」アイーダは改まって静かに話し出した。「冬の宮殿で見た映像は、宇宙移民と地球住民との間で繰り広げられた果てしない戦争の歴史でした。まさに黒歴史です。宇宙移民の理屈と地球住民の理屈はいつも噛み合うことなく、争いが起こっていた。そのもうひとつの側面に、ニュータイプとオールドタイプの争いというものもあった。しかし、希望もあったのです。秘匿されていた映像には、融和の手掛かりがあった。それがニュータイプへの進化です。ザンクト・ポルトには、ニュータイプ、思念体への変換装置があった。あれを使えば、人類は相互理解という最大の壁を乗り越えられる可能性がある。でも、クンタラとして被差別階級に甘んじてきたジムカーオ大佐は、そんな機械で虐げられてきた歴史をなかったことにされ、人類の融和を謳われても納得できなかった。彼はどうしても決着をつけたかった」

「これも想像ですけど、ジムカーオは初代レイハントンのことも何か知っていたのでしょうね。しきりにベルリを支配下に置こうとしていた」

「だと思います」

大きな謎が解けた満足感で、ふたりはしばらく余韻に浸った。

するとふいにアイーダは涙ぐんだ。

「ごめんなさい。こんな優秀な方をアメリアは手放さなくてはならないのですね。ハッパさんのいでたちを見ればわかります。もうアジアへ行かれてしまわれるのでしょう?」

ハッパは急に気楽になった気がして、身体の力を緩めた。彼は着慣れない背広ではなく、いつものラフないでたちでアイーダの執務室にやってきていたのだ。

「これがぼくのアメリアでの最後の仕事です。自分なりにやり切った感じもするので、スッキリとアジアへ行けますよ。ああ、アジアって大昔はいまと範囲が違っていたらしいですね。ベルリの話では、ゴンドワンから西が全部アジアだったとか」

「ああ、これもゴンドワン中心主義というか、人間の善くないところですね」

「名残惜しいですが、ぼくはこれで」

そう告げるとハッパは音もたてずに静かに部屋を辞した。アイーダの耳に、急に金槌の音が大きく聞こえだした。

議員会館になっている建物を出たハッパは、近くの屋台で軽い食事を買い求め、2時間ほどワシントンの街を歩き続けた。引っ越しの荷物はすでに送ってあり、小さなショルダーバッグひとつの身軽な旅になる。

ビーナス・グロゥブからやってきたクン・スーンやローゼンタール・コバシとは1度会っておきたかったが、彼らは探しても見つからなかった。

しかし、どこかで生きているとの確信はあった。クン・スーンがキア・ムベッキ・Jrを簡単に死なせるはずがなかった。ズゴッキーの整備はちゃんとやっているだろうかなどと空を見上げてみるが、思いがけずその記憶が遠くになりつつあることに驚いた。

「さらば、アメリア。ぼくの故郷」


3、


「なんでこんなにバタバタしなきゃいけないんですか!」

ノレド・ナグとラライヤ・マンディは、ビクローバーの通路を並んで走っていた。クラウンの発車時刻は迫っており、定時運行を旨とするクラウンは決して彼女たちを待ってはくれない。

ハアハアと息を切らしたノレドは、ギリギリで飛び乗ってその場にへたり込んでしまった。ラライヤもまた壁に背もたれたままゆっくりと尻を着いた。

「だってさ、サウスリングにもう家のものは送ってあるじゃない。荷物はないと思ってたんだよ。そしたら学校に思いがけないほど物が置いてあって。先生も卒業式の日に渡してくれればよかったのに」

「普段からちゃんとしないからこうなるんですよ」

「はいはい」

ノレドは口をとがらせて返事をした。

トワサンガの大学への入学にあたって、ノレドは地球を離れることになっていた。激動の時間を生き延びた両親は地球に残したままだ。レジスタンスに参加経験のある両親は、ビクローバーに立ち入ることはできない。ラライヤが地上へやってきた理由もノレドの警備のためであったが、ノレド本人は暢気なもので自分が襲撃されるなどとは夢にも考えない。

ノレドがセントフラワー学園で受け取った荷物の中に、大きな包みが入っていた。見覚えがないために差出人の名を見ると、それはハッパから送られたものだった。書類ケースのようなものが厳重に梱包されていて、包みをほどくとやはり分厚い書類であった。

ラライヤはそれを覗き込んで驚きの声を上げ、辺りを見回すと急に小声になって耳打ちした。

「それ、機密書類ですよ」

「手紙も入ってる」

封を切って目を通してみると、文書は機密書類と同じ用紙に書かれたボツ原稿だとわかった。ハッパはアメリアのレコンギスタ事件の調査委員会に所属しており、主にサイコミュについての調査報告作成に関わったのだが、エンフォーサーとニュータイプについて、そして初代レイハントン王がニュータイプを自称した件についてノレドに研究して欲しいとの依頼だった。

手紙には、自分はもう軍籍を離れてアジアの一般企業に就職するつもりだから、こうした問題に触れる機会はなくなる、君がこれから社会政治学を学ぶというのなら、宇宙世紀の宇宙移民と地球人類との争いや、軍産複合体の問題、ニュータイプとオールドタイプのこと、エンフォーサーとクンタラのことなどを学んでほしい、ついてはその役に立つ資料かもしれないと彼女に託してくれたのだ。

「あたし、ベルリのお母さんにも同じようなことを言われたんだ」ノレドは神妙な面持ちで首から下げたメタルカードを取り出した。「この中に、ベルリのお母さんが観たこと聞いたことが全部入ってる。エリートのウィルミット長官の話はあたしとラライヤもサウスリングのお屋敷でたくさん聞いたけど、それだけじゃないんだ。もっともっと今回の事件について深く考えたことが入ってるらしい。そしてハッパさんまでこうして・・・」

ノレドはハッパの手紙を胸に引き寄せた。

「おふたりだけじゃないですよ」ラライヤがノレドの背中をポンと叩いた。「トワサンガではいまベルリさんが臨時の王さま役をやっていて、トワサンガの人たちをどこにどうやったらスムーズに再入植させられるか検討しているんです。地球は戦争でまた荒廃してしまって、エネルギーも再供給されるかどうかわからなくて、土地はすべて誰かのもの、勝手に入り込む余地なんかない。どの国が移民を受け入れてくれるか、どうやってその国と交渉するか、地球に入植してトワサンガの人々は暮らしていけるのか、いろんなことを考え続けている。全部政治なんです。いまはベルリが臨時でやってるけど、政治機構の改革と法整備が終わったら王政は廃止して民政に移行させると言ってる。これだって政治。アイーダさんがやっていることだって政治。戦争はただの政治の失敗に過ぎない。実際に政治を担う人は政治の研究なんかできない。誰かが引き受けて責任を持たないと、それこそ宇宙世紀を繰り返してしまうことになる。ノレドさんは期待されているんです」

そして・・・とノレドは考えた。そして、宗教もまた広義の政治なのだ。キャピタル・テリトリィとゴンドワンという地盤を失ったスコード教は、現在分裂の危機にある。アジアで激増しているスコード教への改宗は、人種対立を教団内にもたらしていた。ゲル法王は人類の融和について大きな確信を持ち、以前とは比較にならないリーダーシップで教団をまとめてはいるけども、下部組織は力関係が不安定でいつアジア勢が主流になるかわからない。

座席に座ったノレドとラライヤは、それぞれハッパから受け取ったボツ原稿の山を拾い読みしていた。中の1枚に目を通したラライヤがふと口走った。

「クンタラというのはオールドタイプだったと結論付けられていますね」

ノレドはうーんと唸って視線を宙で泳がせてから、きっぱりと否定した。

「逆でしょ。クンタラがニュータイプ」

「そうなんですか?」ラライヤは首を捻った。「ここには逆に書いてありますけど」

「言いたくはないけど、食べるというのは、食べることによってその人物の特殊能力を身体に取り込むことができるって原始的発想が根源でしょ。だから、オールドタイプを劣っていると思うなら、逆に食べない。オールドタイプが時々しか生まれない数の少ないニュータイプを食べて、ニュータイプになったって考えてきたんだよ。エンフォーサーはときどき出現するニュータイプの少年少女を食べ続けてきたオールドタイプのエリート。これは想像だけど、軍産複合体の末裔、つまりヘルメス財団の人間」

ラライヤは思わずアッと声を出した。「ラビアンローズを経営してきた軍産複合体の子孫?」

「そう。軍産複合体とニュータイプ研究所」ノレドは頷いた。「ニュータイプは遺伝しないなんてみんなわかっている。だけど宇宙移民のエリートとしては、自分はオールドタイプだと胸を張っては口にできない。ニュータイプは彼らにとって名誉だった。食人は名誉ある儀式だった。だけど、外宇宙から帰還するとき、食糧難が起きて、人間を食べる必要が生じた。そこで意味が逆になったんだと思うのね。ニュータイプを食べてきたオールドタイプが自称のニュータイプとなり、食べられる立場だったエリート以外の人間がクンタラとなった。食糧難で優劣の意味合いがひっくり返った」

「食べている側が優生だと勘違いするようになった?」

「たぶんね。あたし、ここの部分は結構自信があるんだ。薔薇のキューブのエンフォーサーたちは、自分たちがただの金持ちの子だとは知らなかったと思う。あの人たちはそこに書いてあるように、自分たちはニュータイプで、執行者で、最終支配者だって本気で思っていたと思う。ジムカーオって人は、それを見て笑っていたんだよ。きっと・・・」

「真実を追求するのって難しいのですね」ラライヤは溜息をついた。「アメリアのような大国家の調査委員会の結論だから真実とは限らない。正誤は考えれば考えるほど二転三転する」

「なんかさー」ノレドは溜息をついた。「最後はきっとアイーダさんがやってくる。スコード教と政治の関係について研究しろって」

でもそれも悪くない。ノレドはそう思えるようになっていた。

どんな物体も光が当たり目に見えるのは一部分だけである。人はそれぞれ同じものを目にしながら、違う形を見る。そしてどちらが真実であるかと言い争いを始める。

ものを観察するのに光を必要としている限り、人の言い争いは絶えることがない。



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