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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:105(Gレコ2次創作 第42話 後半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第42話「計画経済主義」後半



1、


多くの人間が細心の注意を払って生産するから労働生産性が上がっていく。出来上がったものに付加価値がついて値が上がれば、労働の対価も増える。しかし、すべての物資が分配の約束の元に政府の管理下に入る場合、付加価値の評価をつける人間はない。物資に優劣をつける人間がいないから、物資は数や重さによってのみ判断される。分配の約束は、労働価値の棄損に他ならないのだ。

だからこそ、革命に参加する人間は労働価値を向上させる能力のない人間に限られる。

ホーチミン民兵の士気は高かった。ベルリが敵を威圧したのちにすぐさま開始された戦闘で、ホーチミン民兵は人民解放軍を圧倒した。土地さえ取り戻せば自分で利益を上げていける自信に満ちた彼らと、土地など分け与えられても耕作がつらくて仕方がない人間とでは土地への執着心が違う。土づくりの苦労を厭わない働き者は、ただの労働者ではなく才能と知識に満ちた技能者だった。

人民解放軍は旧式の鉄砲やダイナマイトが最も威力のある武器だった。火薬の材料になる硝石は資源として尽きていただろうから、新たに生産されたもののはずであった。彼ら人民解放軍は、砂漠化した国土を見限り、火薬を作って南進を開始したのであった。そこにスコード教の理想はない。

北の人民解放軍には、机上で立てたハノイでの生産計画があり、それで水源地の確保が必要だと判断して作戦行動に出ていたのだが、軍上層部で計画を立てている人間と革命に参加している下層兵士との間には意識に大きな隔たりがあった。計画を立てるだけの官吏と、労働嫌いの労働者は、互いに相いれないまま同じ革命を達成しようとしていた。このふたつの目的が一致するのは、革命初期の簒奪行為までなのだった。

人民解放軍は一気に総崩れとなり、ジャングルの中へと消えていった。追撃を行うことになり、民兵たちは兵糧として作っておいたパンを腹に詰め込むと、鉈を手にジャングル深く入っていった。ジャングル地帯での戦闘も、不慣れな人民解放軍に勝ち目はないはずだった。

簡易的に流れを堰き止めつつあった木製のダムは、ベルリのガンダムによって水量を調整しながら破壊された。これでまた下流域にも農業生産に必要な水が供給されるはずであった。

「いやぁ、本当にありがとうございました。ベルリさんがいなかったらもっと大きな被害が出ていた」

「ぼくはなにもしていません」ベルリは謙遜したがそれは本心だった。「ホーチミンに押しかけた難民を元の土地に戻すことが、一番の解決方法でしょうから、手伝ったまでです」

「いったんホーチミンのサムフォー司祭の寡婦のところへ戻られますか?」

そのとき、後部座席にいたリリンがベルリの袖を引っ張って首を横に振った。リリンはサムフォー司祭の寡婦が彼女を人質にしようとしたことを知っているのだ。ベルリは司祭の妻がホーチミンの地主の娘であることを聞いていたので、彼もまた南への帰還をためらった。

「ぼくは大切な人がハノイに侵入していて、どうしても心配なんです。いったん彼女と友人の男性を救出しようと思ってます」

「ハノイに行かれるのですか」民兵のリーダーは少し残念そうであった。「ハノイには我々の別動隊が進軍して陣地を形成しているはずです。もしかしたらハノイに攻め込んでいるかもしれないから、早めにいかれた方がいいかもしれません」

「ありがとうございます。そうします」

こうしてベルリは青い空にガンダムを飛び上がらせて、東へと向かった。


そのころハッパは、突如出現したYG-111のラライヤに助けられて、ホーチミンに戻っていた。彼らを助けた民兵はハノイ近郊に陣地を形成して人民解放軍との本格的な戦闘に備えていた。ハノイの粗末な市街地から、さらに多くの難民が南に向けて押し寄せていた。

ハッパはサムフォー司祭の寡婦に事の次第を報告した。彼女はさも残念そうに首を振った。

「やはり共産主義は上手く機能していませんか」

「そもそもですね」ハッパは眼鏡を直した。「北の大陸の砂漠拡大に伴って耕作地や居住区が失われている問題が根底にあるわけです。農産物の収穫量は減るのに、人間は一気には減らない。人手が余った影響で共産党による革命軍の編成が容易になった。それだけなんです。人民解放軍というのは、あれは武装難民にすぎません。武装難民が共産主義という理論武装をして、砂漠で作った火薬を頼りに南進してきているだけ。あれはもっと北の前線で食い止めないと、どこまでも南下してきて現地民を奴隷化していきます。経済体制なんかあってないようなものですよ。彼らは供給できないのですから」

「夫も似た考えでした」夫人は溜息をついた。「やはりホーチミン軍を編成して、ハノイを奪還するよりほかなさそうです。協力していただけますか?」

「大事な知り合いが捕虜にされてしまったのです。彼女を取り返さなきゃいけない。協力します」

ふたりの会話を、ラライヤはただ黙って聞いていた。ハッパは彼女の顔から表情が消えているのを訝しんだが、ベルリらと同じように突然出現して、しかもトワサンガ出身の彼女が見たこともないようなアジアの国にやってきた緊張からそうなっているのだと勝手に解釈した。


同じころ、ハノイの再生計画作りが上手くいかなかったノレドは、処刑を待つ身に戻っていた。

彼女とハノイの元教師たちは死刑判決を受けたのちに、計画経済を教授するとの名目で刑の執行を延期されていたが、人民解放軍による略奪の傷跡は大きく、来年分の食い扶持を水資源の売却に頼る計画を立てていたところに、ベルリたちによる上流域の奪還の報がもたらされて、一気に信用を失ったのだった。彼女たちは再び竹を編んだ籠の牢屋に放り込まれて一夜を明かしていた。

そこに、大きな銅鑼の音が響き渡った。何事かと身を乗り出すと、上空に聞き慣れた飛行音がこだました。それは、ベルリが搭乗するガンダムの飛行音であった。続いて鉄砲の破裂音が何度も何度も響き渡った。周囲の喧騒は大きくなり、鉄砲の音は数分おきに数が増えていった。

ベルリが救出に来たと確信したノレドは、他の処刑メンバーを起こして、真四角の竹の牢屋をゴロンゴロンと動かしながら目立つ場所へ移動しようとした。監視に見つかると厄介であったために、人の気配がするたびに泊まって寝たふりをする。いなくなるとむくりと起き上がり、みんなで籠を移動させていくのだ。広い庭に出ると、上空にガンダムの巨大な影が飛び去るのが見えた。

月が明るく照る夜だった。ノレドは必死にベルリに助けを求めた。すると遠くへ飛び去ったガンダムが戻ってきた。ノレドの大声で籠ごと脱走したことがバレてしまい、大慌てで参集してきた兵士たちはノレドらに銃口を向けて撃ち殺そうとした。そのとき、ガンダムはゆるりと庭に降り立って、メインモニターを強く輝かせた。その迫力におじけづいた兵士たちは、転がるように逃げていった。

ガンダムのハッチが開いた。ベルリは情けない顔で竹にしがみつくノレドに向かって叫んだ。

「だから言わんこっちゃない!」

「もういいから助けて!」

ベルリはコクピットに戻って籠ごとノレドを救出した。「ハッパさんは?」

「それが離れ離れになっちゃって、どこにいるのかわからないのよ。でも捕まったことは確か」

「いったんここを離れよう」

ガンダムが再上昇したときだった。ガンダムのモニターは遠い海上から送られてくる光通信をキャッチして文字情報に変換してモニターに映し出した。それを送ってきているのは、しばらく前に袂を分かった日本のバイオエタノールディーゼル船だった。


2、


ホーチミンの民兵組織は、ハノイ自由市民軍と名を変えて5千人もの大軍を編成した。水源地奪還作戦にも2千人規模の兵を出していたことから、ハッパはサムフォー司祭の寡婦の動員力に舌を巻いた。宇宙世紀やそれ以前の人口の多かった時代ならいざ知らず、フォトン・バッテリーの供給で人口を管理されたリギルドセンチュリーでこれだけの兵力を集めるのは容易ではないはずだった。

作戦には、ハッパのモビルワーカーとラライヤのYG-111も加わることになった。ふたりは戦闘への参加を了承しながらも、ノレドの身柄確保を優先しようと話し合った。軍の話では、水源地に派遣されたハノイ自由市民軍はすでに水源地を奪還して、一部が残党狩りを行いながらハノイに向かって進撃中とのことであった。南と西から挟み撃ちにして人民解放軍を北へ押し返す作戦だった。

ハッパは、サムフォー夫人の協力を得てモビルワーカーの武装強化を図り、張り切って戦闘に参加していた。彼がやる気になったのは、ある目的を見つけたからであった。彼は人民解放軍に潜入して調査をしたときに、計画経済体制は計画を放棄することに他ならないと見抜いたのだった。

ホーチミンからハノイに進軍する途中で、ハッパはそのことを自由市民軍の兵士に話して聞かせた。

「ルールの中で自由に経済を回している限り、細かい計画は民間が勝手に考えて、成功したり失敗したりするんだ。成功したやり方は大きな富を生み、それを見た人らがやり方を真似し始めて、失敗したやり方は淘汰される。計画なんてものはほとんど民需を見据えて機動的にやらねばならないことだから、公的機関の立てる計画経済なんてものは生産から流通、分配に至るまでうまくいきっこない。そしてこれが肝心なことだが、民間が細かい需要に対応するおかげで、公的機関は大きな需要だけを計画することができる。民間需要ではない公的需要には、公的機関が対応するしかない。インフラの整備などがそうなんだけど、フォトン・バッテリーの配給停止のような大きな事態が起こった場合も、公的機関の出番となる。サムフォー司祭がバイオエタノールエンジンへのシフトを急いだのは、秋の刈り入れシーズンまでに何とか電力を確保して農業用シャンクを動かしたかったからだ。ハノイは明らかにシャンクを前提とした人口過多の状態にあったから、電力がなくなればすぐに飢える人間が出るか、果てしない重労働に喘ぐしかないと彼はよくわかっていた。そして、公共事業としてバイオエタノールの導入を考えていた。ところがキャピタル・テリトリィの混乱で、世界的に資金の供給が細っていたものだから、いつものように投資家から資金を確保することができなかった。それで彼は税を免除せず、増税も示唆していたんだろう。餓死や手作業による膨大な土地の刈り入れ作業に従事するより、少しの増税の方が負担は軽く済んだはずなんだ。ところがそれを、個人の利益のためだと政治利用されてしまったんだ」

「サムフォー司祭はやはり悪くなかったんですか?」

「悪いどころか、おそらくは最善の策を立てて行動していた。サトウキビの生産が上手くいけば、ハノイはエネルギー生産地として莫大な利益を生み出して、かなり早い段階で日本からディーゼル発電機を購入できたんじゃないかな。それで農業用シャンクを動かせば、ほとんど経済規模を落とさないまま発展する可能性もあった」

「だったらそう言ってくれればよかったんだ」男たちは少し不満そうだった。

「焦っていたんだと思う。スコード教の司祭である彼は、ビーナス・グロゥブとの関係が切れてしまうなんて考えたくはなかったろうし、ギリギリまでフォトン・バッテリーの再供給に望みを繋いでいたはずだ。でもそれがどうなるか確信が揺らいで、しかも秋がどんどん迫ってくる中で、説明不足のまま奔走していたんじゃないかな」

「そうだったんですか・・・」

サムフォー司祭は春には殺されており、そのあとすぐにハノイは人民解放軍に支配されていた。

「サムフォー夫人にこのまま従って、司祭の計画を引き継ぐことが最善ということですか?」

「ぼくは夫人がどんな人物か知らないから、そうだとは断言はしてあげられないけど、人民解放軍のハノイ統治では、おそらくは来年用の籾さえ飢えに苦しんで食べてしまうほど困窮するだろう。分配の約束に騙される人間がいるけれど、分配するには一度簒奪しなければならない。分配の約束は他人から合法的にモノを奪うウソに過ぎないんだ。騙されたと怒る人間を粛正し、一部の人間にだけ十分に分配して、彼に共産主義を賛美させれば、人民はいかようにも操れる。権力者が、奪うのも殺すのも自由にできるような社会体制にならざるを得ないのが共産主義というものだ。普段仕事が出来なくて他人からバカにされている人間や、怠け者で他人より貧しい人間が、他人から奪って逆らう人間を殺す夢を見て革命に参加する。本当に社会にためになっている人間は、あんなものに参加するわけがないんだ」

ハッパが話し終えると、期せずして拍手が巻き起こった。まさに自由市民軍とはそうした人々の集まりだったからだ。

柄にもなく演説してしまったハッパは、勧められるままに少しの酒を飲んで、焚火を囲む輪から離れてラライヤの様子を見に行った。かつてはともに旅をした仲間であるラライヤであったが、しばらく離れているうちにかなり雰囲気が変わっているように見受けられた。

「十分食べたのかい?」ハッパは言った。

「ええ」ラライヤは心ここにあらずといった雰囲気で応えた。「いただきましたよ」

彼女は空を眺めていた。星空には大きな月が浮かんでいる。ラライヤは小さな声で呟いた。

「わたしはもしかしたら、1年前の世界にやってきたのかもしれないんです」

「え? 半年じゃないのかい? ベルリとノレドはそう言っていたけど」

「ベルリとノレドが消えてから半年が経過していました。地球は虹色の膜のようなものに覆われて、外から観測が出来なくなっていたんです。薄く透けて見えるだけです。そして、地上で大爆発が起こりました。聞いたところでは、フルムーン・シップに積んであったフォトン・バッテリーを、ラ・ハイデンの許可なく降ろそうとしたために自爆装置が作動して大爆発を起こしたとのことでした。そのあと地上は、何もかも吹き飛ばす爆風が地球を何周もして、地上の生物は絶滅したそうです。風が収まると、地球は分厚い雲に覆われて、全球凍結してしまいました。これは薄く透けた膜の外側から見ただけなので、本当のところ何があったのかはわかりませんが、カール・レイハントンは人類の絶滅を確認して、眠ることが多くなりました。カール・レイハントンはビーナス・グロゥブに温存されていたラビアンローズを持っているので、そこで生産されたスティクス、シルヴァー・シップと呼んでいた細長い戦艦が再び量産されて、地球の外縁軌道を周回するようになりました。虹色の海に泳ぐ銀色の魚のようでした。わたしはそれを、ザンクト・ポルトから眺めて、眺めて・・・、何をしていたんだろう?」

「ザンクト・ポルトにいたのかい?」

「はい。いたはず・・・ですけど、サラ・・・? なんだか記憶が曖昧で」

「無理をしないことだよ」ハッパは気を使った。「戦闘になっても、G-セルフは威嚇するだけでいいんだ。ラライヤはもう殺さなくていいよ。ぼくはやりたいことが決まったから、戦うけどさ」

「ハッパさんがやりたいことって何ですか?」

「本当はアメリアへ戻ってセレブになるはずだったんだけど、もっとやりがいのあることを見つけたからね。エンジニアとしても、ひとりの人間としても、やりがいのある仕事さ」


3、


竹で編まれた牢屋を手に抱えたまま、ガンダムは海へと出た。そこには日本の船が沖合に停泊していた。ベルリは甲板にノレドたちを降ろして、かなり頑丈に編まれた牢屋を日本人乗組員に壊してもらった。ベルリとリリンは機体を降りて再び日本人と相まみえた。

「気づいてもらってよかったです」

船長は嬉しそうに再会を喜んだ。少し前に彼はガンダムに銃を向けて、自由民主主義を取るか共産革命主義を取るか二者択一を迫った人物であった。その顔はまるで銃口を向けたことなど忘れたかのように屈託がなかった。一方のベルリは、そこまで大人になり切れていなかった。

船長は苦笑いを浮かべた。子供を相手にした大人の顔であった。ベルリは息を整えて尋ねた。

「フィリピンに向かわれたのでは?」

「マニラでの用事は終わりました」船長は応えた。「マニラではアメリアのグールド翁のプロジェクトが正式に発動しまして、バイオエタノール燃料の原料になる作物がピックアップされて、試験生産が始まっています。我々日本人は、こうしてポスト・フォトン・バッテリーの世界へ向けて着々と準備をしているのですが、やはりフォトン・バッテリーの再供給は無理だと理解してよろしいのでしょうか」

フォトン・バッテリーの再供給はおろか、人類は存亡の危機に立っているのだった。だがそんな未来予知のような話をしてどうにかなるものではない。ベルリは、ハノイやホーチミンでの出来事を話した。船長はどうやらそれらのことは予想していたようで、特に驚く様子もなかった。ベルリは言った。

「ぼくは・・・、あなたが香港で取った行動がどうしても許せなかった。でも、ハノイで戦闘に参加して、結局共産主義は革命参加者の精神の本質において他人からの簒奪行為に偏る傾向があるのだと知りました。簒奪行為は敵対者と戦闘になって、それが集結するまでずっと続く。共産革命主義は、自由民主主義の防波堤にぶつかって波が砕けるまでずっと簒奪を続ける。香港でのことは、そういうことだったんですね」

「ベルリさんの年齢なら、本来は知らなくていいことかもしれません。しかし、あなたにはガンダムがある。それは無限のエネルギーで動く戦闘兵器だと日本で聞きました。そんなものを持っている人間が共産党に加担すれば、ベルリさんが言う通り、簒奪者は全地球人から奪い続ける。そしてとんでもない巨大権力に成長して、誰も歯向かえなくなる。それは避けねばならないのです」

「いまでは、理解しています」

「ベルリさんに信号を送ったのは・・・」

船長が話しかけたとき、ようやくノレドとリリンが食事を終えて甲板に戻ってきた。ノレドと解放者たちは、船長の行為で数日振りにまともな食事にありついたのだった。ノレドはリリンを伴ってすぐにでもハッパの救出に向かうつもりだった。リリンは船首まで走っていって、海風を顔に浴びていた。

船長はベルリとノレドが仲良く並んで立つ姿を見て、目を細めた。

「実はあなた方に信号を送ったのは、マニラでおふたりの仲人だという方とお会いしまして。彼がこの位置から光信号を送れば、相手はキャッチしてくれるからというので」

「仲人?」

ベルリとノレドは顔を見合わせた。

すると船尾の方から、ひとりの壮健な中年男性が歩いてやってきた。中肉中背でアジアでは目立たない顔立ちをしているが、ベルリとノレドはその顔を忘れようもなかった。

「大佐・・・、ジムカーオ大佐? 仲人って・・・」

ジムカーオは、宇宙で相まみえていたときより若干浅黒い顔つきになっていた。アジア系は住む地域の気温や湿度によって肌の色を大きく変えるのだ。船長はふたりに男を紹介した。

「こちらはアメリアのグールド投資銀行からいらしている、ジムカーオさんといいます。なんでも、キャピタル・テリトリィやトワサンガでおふたりとは知り合いで、仲人をされる予定だったとか・・・。そうお聞きしていたのですが・・・、違うんですか?」

船長は、ベルリとノレドの引き攣った顔を見て、少し心配になったようだった。そんな彼の言葉を引き継いだのは、他でもないジムカーオだった。

「いや、何も違わない」ジムカーオは爽やかな笑顔でベルリに手を差し出した。「トワサンガで仲人をするつもりだったんだが、すったもんだあって結婚は延期になってしまっているんだ。そうだね?」

ベルリは差し出された手をそっとつまむように握り返した。

「まったくベルリくんは子供のままだね」ジムカーオはあけすけに言った。「誰もが助かる一番いい方法を最初に示してあげたのに、婚約者から逃げるなんてね。でも、ずいぶん仲良くしてるじゃないか」

「ノレドとは・・・、いえ、」ベルリは強く首を横に振った。「どうして死んだはずのあなたが」

「これだよ」

ジムカーオは船長に向かっておどけたような顔をした。船長は気を利かせて船室へ戻っていった。彼がいなくなったのを見送ったノレドは、ベルリの腕を取ってガンダムに乗り込もうとした。

「行こう!」

「待って」ベルリは余裕綽々の風体でいるジムカーオから瞳を逸らすことができなかった。「いまとなっては、あなたがやろうとしていたことの意味が少しだけ分かるかもしれない」

「わたしはね、ベルリくん」ジムカーオは潮騒に負けないように声を張った。「ニュータイプの食人習慣が残っていた時代の生き残りなんだ。ビーナス・グロゥブで起こっていたことで、もう500年も前の話だ。クンタラの子供に強いニュータイプ現象が現れたとき、その力を人間に食べられることで役立てるか、スコード教に改宗して力そのものをヘルメス財団に役立てるかと迫られて、わたしの親は子供をスコード教に改宗させて生きながらえさせた。その日からわたしは、クンタラでありながら、スコードであり、ヘルメス財団の一員だった」

「あなたがやったことはッ!」ベルリは語気を強めた。

「わたしがやったことは、カール・レイハントンからラビアンローズを奪うことだった。ラ・ハイデンがビーナス・グロゥブへの攻撃であちらに残っていたラビアンローズを破壊してくれれば、それで終わっていた話だ。しかし彼はしくじった。カール・レイハントンがそれを阻止したともいえる。とにかく、ラビアンローズ、あの宇宙世紀の記憶庫は生き残って、ジオンの手に渡ってしまった」

「なんであなたがそんなことに首を突っ込んでいるの?」ノレドが警戒しながら尋ねた。

「ビーナス・グロゥブの公安警察の人間だったからさ。強いニュータイプ能力が発現した子供だって言っただろう。つまり、道具として利用されていたってわけさ。当時の総裁は、ラ・ピレネという狡猾な男だったからね。わたしが内偵していたのは、メメス・チョップだった。ラ・ピレネは彼のことを非常に疑っていたから、トワサンガがビーナス・グロゥブの地球圏への関与の妨げになることを恐れていた。クンタラをクンタラに監視させていたのさ」


4、


「でも、あなたは・・・」

「死んだって言いたいのだろう? ラビアンローズには外宇宙からの帰還者の遺伝子情報やクローン技術など、アグテックのタブーになっている技術がたくさん詰まっている。ラビアンローズとその操作方法を知っている限り、生き続ける方が容易く、死ぬ方が難しい。わたしがクンタラであり続けたならば、死をもって肉体をカーバに運ぶことを選んだだろう。だがわたしはそれを許されなかった。だからこうして生きている。なぜ生きねばならないのか理由がわからないままね」

ノレドはジムカーオから離れたがっていた。しかしベルリは、疑念の多くを彼が解消してくれることを期待していた。なぜなら、ベルリには時間が限られているからだ。半年も経たないうちに、地球は滅び去ってしまう。ベルリはそれをどうしても阻止せねばならなかった。

「ラビアンローズで永遠の生命をむさぼっていたわたしの同志たちは、カール・レイハントンに殺されてしまった。連絡を受けたわたしは、あちらのラビアンローズがどうなったかわからないまま、トワサンガのラビアンローズだけは破壊してカール・レイハントンに渡さないつもりだった。そのときちょうどレイハントン・コードが発動してラビアンローズがパージされた。だがね、わたしは純粋なスコード教徒ではない。クンタラの教えを強制的に奪われた恨みもあったのでね、トワサンガのヘルメス財団の連中はすべてラビアンローズとともに葬った。生き残ったのはわたしひとりだ。それを罪だと断言するには、ベルリくんは若すぎる。両親をカーバに送り、時が来れば死ぬはずだったクンタラの自分がこうして生命を乗り継いで生き続けていることは、決して幸福ではないのだよ」

「あなたは・・・、いわば裏のヘルメス財団の人間で、もうビーナス・グロゥブにもトワサンガにも仲間は残っていないのでしょう? それでも数百年前の命令に縛られているんですか? 自分で、この世界のためにその力を使おうとは思わないのですか?」

「さて、それだ。自分からクンタラとしてのアイデンティティを奪った憎い連中はみんな死んでしまった。わたしの復讐はそこで終わっている。わたしに残っているのは、メメス博士を内偵する仕事だけだ。そして彼が仕掛けた何かは、こうして始まっている。同じクンタラとして彼を助けるべきなのか、それともスコードのために彼の計画を阻むべきなのか、それはまだ決めていないんだ。もっとも、自分にそれを成す力があるかどうかは自信がないのだがね」

「メメス博士の計画を教えていただけますか」

「もちろん教えるよ。彼はカール・レイハントンを利用して、クンタラ以外の人類を葬ったのちに、何かの仕掛けでカール・レイハントンを殺してしまおうと考えていた。仕掛けはわからない。だがその方法を知っていたようだ。ヘルメス財団の人間を絶滅させ、地球で生き残っている人類を絶滅させれば、残るはクンタラだけだ。クンタラが地球を支配すればいい」

「そんなことできないんだよ」ノレドが反駁した。「もうすぐみんな死んじゃうんだから」

「結構なことじゃないか。クンタラはそれでも生き残っているんだ。おそらくはザンクト・ポルトだろう。あそこにいる限り、地球がどうなろうと災難は免れる。地球の再生にいったいどれほど膨大な時間が掛かろうが、クンタラはその長い時間を観察するわけじゃない。クンタラは短い時間を生きるがゆえに、長い時間を生き残る。そういう存在なんだよ。地球が再び住めるようになるまで、クンタラは待ち続ける。そして、カール・レイハントンは思念体であるがゆえに彼らを止めることができない。彼らは思考を共有している。いったんクンタラを保護すると考えを共有してしまえば、それは容易に覆らない。それが彼らの弱点だ。それをメメス博士は突いたってわけだ」

「あなたはカール・レイハントンとは戦わないのですか?」

「なぜ? 誰のために? クンタラが世界に満ちて何が悪い?」

「そうじゃなくて」ノレドが怒った。「たくさん死んじゃうことが問題なんでしょう!」

「クンタラは延命をしない。運用は時代によって変わるが、機械や遺伝子や思念体への変化やそんなものに頼らず、その時代の医術で認められる範囲での最低限の治療しか受けずに死んでいく。これがどういうことなのか、君らはまだ気づいていないんだ。クンタラは肉体をカーバに運ぶというその教義において、理想的なスコード教信者なのだ。肉体をカーバに運ぶことを理想にしているから、クンタラ同士の争いはごく稀にしか起きない。アグテックのタブーも犯さない。スコード教信者は、科学の進歩とともに自らの教義への自信が揺らぐ。ラ・グーでさえアグテックのタブーを緩めて200年も生きていた。彼は裏のヘルメス財団の人間ではなかったが、それでも死から逃れるために技術を使った。彼の存在自身が反スコード的なのだ。わかるか?」

「ラ・グー総裁はそうだったかもしれない。でも、ラ・ハイデンはとてもクンタラ的です」

「ラ・ハイデンは、ビーナス・グロゥブの歪みを正す可能性があるだろう。だが彼はカール・レイハントンの前では無力であろう。彼は何も知らされず、事態に対処せねばならなかった。カール・レイハントンと戦って勝てるのは、とっくに死んでこの世にはいないメメス博士なのさ。わたしは彼の計画を追っていた立場だからよくわかるんだ。その計画の行く末を見てやろうと欲を出して、こうして生きながらえている。ああ、それが生きている意味かもしれない。オリジナルの身体を捨てたわたしはクンタラではなくなっているから、もうカーバには行けない。だが、カーバに辿り着く人間のことには興味がある。欲を出さず、ただ生まれ、愛され、愛し、尽くし、死んでいくだけの最も弱い立場にあるクンタラが地球に満ちれば、それこそスコード教が求めていた理想社会が出来上がるじゃないか。ベルリくんはそれを否定して、いま生きている人間を生きながらえさせたとして、そのあとのことは考えているのかな? ラビアンローズのひとつは破壊されないまま生き残っているんだよ。そこには宇宙世紀の英知もあれば、ジオンが到達したニュータイプ研究の極北についての知識もある。人間はいかなる手段でも永遠に近く生きられるようになる。欲深く、科学の力に頼るスコード教信者を地球に残して、本当にそのあと地球やそこに生きる人間は幸せになれるのか? クンタラが地に満ちれば、ラビアンローズの情報になど見向きもしなくなる。ヘルメスの薔薇の設計図を回収する必要さえなくなる」

ベルリは痛いところ突かれて言葉を失った。半年後に起こる破滅を避け、カール・レイハントンの野望を阻止したとして、拡散してしまったヘルメスの薔薇の設計図を回収しない限り、ビーナス・グロゥブによる安定的な支配体制には戻れない。ラ・ハイデンは、アースノイドがヘルメスの薔薇の設計図を解読できなくなるまで文明を後退させて事態の収拾を図るだろう。彼は人類を原始時代にまで後退させ、ムタチオンに苦しむビーナス・グロゥブの住人だけをキャピタル・テリトリィに住まわせることだろう。

ビーナス・グロゥブのラ・ハイデンも、ジオンのカール・レイハントンも、クンタラのメメス博士も、誰もアースノイドを救うことは考えていない。彼らに共通しているのは、アースノイドへの絶望だけなのだ。半年後に起こる、フルムーン・シップの大爆発を阻止したとして、自分はそのあとどうしたらいいのか、ベルリにはまったく答えがなかった。

「ただ目の前の可哀想な人間を救えばいいという話ではないのだよ」ジムカーオは冷たく言い放った。「君たちは、人間とは何かと考え続けてきた人類の歴史と対峙しているんだ。正義の味方になったつもりでいたかい? キャピタルタワーを破壊しようとするわたしを倒して、誰かを救ったつもりでいたかい? クンタラとしてヘルメス財団の人間を裏切ったわたしは、メメス博士が作ったキャピタルタワーを破壊してクンタラも裏切るつもりでいた。そうすれば、自分はこの世からまったく必要とされなくなって、漆黒の闇の中へ消えていけるのだと。でもそうはならなかった。メメス博士の計画は、君らの活躍によって生き延びてしまった。ビーナス・グロゥブのラビアンローズを破壊できなかったことで、カール・レイハントンも復活してしまった。遺伝的な繋がりはなくとも、ベルリくんは彼の子孫だ。さて、どうするつもりなのか、わたしに聞かせてくれないか」

「ベルリは、カール・レイハントンの子孫じゃないの?」ノレドがおそるおそる尋ねた。

「カール・レイハントンは、あれはただのアバターで、生殖行為を楽しむ機能がついているだけだ。精子はロボットのようなもので、妊娠した子は母親のクローンになる。血筋から言えばね、ベルリくんはメメス博士の子孫なんだ。メメス博士は浅黒い肌のアーリア系だったが、500年間も白色人種と結婚を繰り返しているうちに、すっかり白人のようになってしまっているね。まったく、君は白いメメス博士だよ。とても良く似ている」

「ぼくが・・・、メメス博士・・・」


第43話「自由民主主義」前半は、5月1日投稿予定です。


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