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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:92(Gレコ2次創作 第36話 前半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第36話「永遠の命」前半



1、


銃声に続いて誰かを激しく罵倒する声が響いた。遠くからだったのでよくは聞こえなかったが、ノレドはひび割れた声の中に「地球へ帰れ!」の声が混ざっているのを聞き取って、まさか自分への罵声ではないかと身をすくませた。

銃を構えたラライヤは、部屋の中を見回し、大きめのリュックを発見するとすぐに荷物をまとめるようにとノレドに勧めた。ノレドは大学進学のためにトワサンガに引っ越してきたばかりで、荷物はいくつもの箱に収められてまだテープを切ってもいない。

ラライヤは小さな声で耳打ちした。

「荷物は置いていくしかありません。サウスリングの人は保守的で、初代王カール・レイハントンへの忠誠は他のリングよりはるかに高い。必要なものだけ鞄に詰めて、脱出方法を探しましょう」

「思い出の品もたくさん持ってきたのに」

「まずは命です!」

ノレドは貴重品だけ鞄に詰めた。ラライヤは食料と水と、武器になるものなどを整え、ふたりはまだ馴染んでいない部屋を出た。部屋にはまだノレド・ナグのネームプレートもつけていない。

キャベツ畑の端で火の手が上がっていた。ときどき雄叫びのような奇声が上がり、歌声なども聞こえてくる。夕刻のはずだがまだ明かりは煌々と灯り、消灯による夜は警備上の理由で見送られるようだった。ノレドとラライヤは住民に出くわさないようにラライヤの先導でひと気のない道を選んでサウスリングを脱出した。

リングの連結部分のエスカレーターに乗り、軍用のハッチを見つけてラライヤのIDカードを認証させて中へと潜入した。軍の施設はドレッド時代ほど厳重な警備ではなかったが、ドアを破壊して潜入するほど暴徒は狂乱状態に達していない。彼らは喜んでいるのだ。その表現が通常とは違う。

どんどん先に進んでいくラライヤの背中に向けて、ノレドは疑問を口にした。

「どうしてこんなことになっちゃってるの?」

「プライドの問題なんです」ラライヤは足早に歩きながら応えた。「トワサンガはビーナス・グロゥブからの中継地で、神々が住まう場所に一番近い国だとみんな自負してきた。その誇りが、初代王カール・レイハントンの血統と結びついて独特の政治体制を作っていた。それが、自分たちも行ったことのないビーナス・グロゥブに地球人が先に行った。しかも二度も。トワサンガ生まれのドレッド家が滅びて、地球育ちのベルリが王子になって国を采配した。素晴らしいと自負していた技術はムーンレイスの方が上。戦争では蚊帳の外に置かれたまま大損害だけ押し付けられる。そして、ムーンレイスの軍と警察の支配。こういうことが重なって、鬱積が溜まっていたんです」

「でもそれは」ノレドは抗議した。「仕方がないことばかりじゃん。全部成り行きでそうなっただけなのに。意図しないことが連続して起こっただけ」

「それはわかっているんですけど、地球人にもムーンレイスにも頼らない自主独立の願いというものを、カール・レイハントンの出現が刺激してしまった」

「ラライヤもそうなの?」

「わたしは事情を知っていますから」

トワサンガの住人は、トワサンガ守備隊がジムカーオに騙されてメガファウナのベルリらに皆殺しにされてしまった事情さえ正式な発表を受けていない。人づてに噂で聞いているだけなのだ。その後はジムカーオに思いのままにされて、とにかくフォトン・バッテリー供給再開によって以前の日常を取り戻すことだけを目標に生きていた。ベルリの罪は知っていても、口に出すことはできなかった。

すぐに再開されると期待していたフォトン・バッテリーの再供給が意外に長く掛かり、先もまったく見通せない中で、かといって子供ながらによくやっているベルリに不満をぶつけることもできず、トワサンガの住民は強い欲求不満を抱えたまま生活していたのだった。

その不満の爆発が、暴力的な喜びの表現に繋がっているのだった。

ラライヤに手を引かれたノレドは、ムーンレイスの一団を発見した。その中にはハリー・オードの姿もあった。サングラスに阻まれてはいるが、彼が困り果てていることは理解できた。ノーマルスーツを身に着けた彼は、ノレドとラライヤの姿を認めるとホッとしたように手招きをした。

「お嬢さん方にもすぐにノーマルスーツを身に着けてもらう」

ノレドが勢い込んで訪ねた。

「どうするんですか?」

「ベルリがいない以上、我々ムーンレイスが治安出動するわけにはいかない。トワサンガから地球人とムーンレイスを撤退させるしかない」

「ベルリはどうなるの!」

「探している余裕はないんだ。ラライヤくんはどうするね?」

「わたしは・・・」ラライヤはしばし考えたのち、意を決して顔を上げた。「わたしはここに残ります」

「ラライヤ!」

「ノレド、勘違いしないでくださいね。あなたがここにいては危ない。だけど、ベルリが見つかったときに対処する人が誰か残らなきゃいけないでしょ? それに、わたしもカール・レイハントンという人物に興味があるんです。誰かがあの人の本性を見極めなきゃいけないはず。あの金髪の若い男性は、本当にカール・レイハントンだったんですか?」

ハリー・オードは応えた。

「500年前に彼と戦ったとき、彼は壮年だった。だが、似ているといえば似ている。特殊な技術を持っているとしか思えないが、詐称している可能性がないわけではない。では、ラライヤくんには彼の秘密を探る任務を託したいが、とにかく無理はするな」

「待って待って!」

ノレドはラライヤと引き離されることに動揺して手足をバタバタ動かして抵抗したが、リングの中から大きな歓声が聞こえると身をすくませて怯えた。

「じゃ、わたしは群衆に紛れてカール・レイハントンに接触してみます!」

ラライヤはノレドの顔をしばし見つめたまま駆け出し、やがて完全に背を向けた。ノレドは不安そうな面持ちのままそれを見送ったが、ノーマルスーツを着用したドニエル艦長が大きな声を張り上げて手招きするのを目にすると、諦めて自分も駆け出した。

メガファウナに乗り込んだノレドは、ノーマルスーツを身に着けるとブリッジに上がってみた。フォトン・バッテリーに限りがあるなか、月に立ち寄る余裕がないことがわかると、ハリー・オードらムーンレイスは脱出艇とモビルスーツに乗り換え、シラノ-5の巨大なハッチから藍色の空へと飛び去っていった。メガファウナはそのまま大気圏突入してアメリアへ向かうという。

「来たばっかりだってのにな」

ドニエルはノレドを慰めたつもりだったが、彼女の顔に浮かんだ不安は消えなかった。


2、


ラ・ハイデンは自らの旗艦に各艦の代表を集め、地球攻略作戦の最終確認を行っていた。

ビーナス・グロゥブ側が描く地球支配の構図は、ヘルメス財団による金星圏からキャピタル・テリトリティに至るまでの一括支配であった。アースノイドはこの支配圏に立ち入ることはできない。スペースノイドは、フォトン・バッテリーの生産から供給までを完全に支配して、エネルギーの無償配給は停止されることになる。アースノイドはスペースノイドからエネルギーを買わなくてはいけなくなったのだ。戦争の準備と並行して、フェアトレードのシミュレーションも始まっていた。

「人間をこれ以上増やすわけにはいきません。貨幣経済も制限しなければいけない。地球が全球凍結に向かっているのは幸いなことで、資源とエネルギーを断てばおのずと人類の数は減ってくる。何もすべての人間を急に思念体だとか幽霊だとかそういうものに変化させないはずです。人類の数が減れば、地球の環境破壊は止まります。ビーナス・グロゥブはこれまで通りトワサンガとキャピタル・タワーを使って資源供給を続ければいい。キャピタル・テリトリティを我々が掌握することで、キャピタル・ガード調査部に頼っていた地球圏の情報収集も行えます。またキャピタル一国がヘゲモニーを握ることで、戦争の収束と軍事技術発展の監視、ヘルメスの薔薇の設計図の回収作業なども行えます。また、対抗する国家に対して即時報復も可能になる」

ビーナス・グロゥブの若手官僚が各艦の代表に説明した。ひとりの壮年の軍人が手を挙げた。

「その場合、我々のレコンギスタはキャピタル・テリトリティに限定されるということだろうか。地球を自由に移動することはできないのか」

「人質に取られたらいかがするおつもりですか?」

若手官僚の返答はつれないものだった。この壮年の軍人のみならず、生まれて初めて地球を目にした者らの気持ちは、ラ・ハイデンにもよくわかっていた。彼らは純粋な好奇心をもって、この彼らにとって母なる星であり未知の惑星である地球に多大な関心を寄せているのだ。彼らは総じて浮ついた気持ちになっていた。戦争が始まる前に、すでに自分が支配者になったつもりでいる。

「あとで総裁の方から説明がございますが、我々スペースノイドは、大いなる決心をもって新しい秩序を生み出す所存です。宇宙は神に支配され、地球は神の化身である現人神に支配されることになります。現人神の立場には、カール・レイハントンの血族を使います。彼らは、民政の芽を摘むために天子として存在し、人では代替不能な存在として崇めさせ、スペースノイドとアースノイドの断絶に利用させていただく」

「地球も含めてすべてビーナス・グロゥブが支配するということでよろしいのですな」

「その通りです。アースノイドは宇宙のことに関与させない。ついては、カール・レイハントンはひとまずトワサンガを支配するという。我々は月とザンクト・ポルトを掌握いたします。相手はフォトン・バッテリーを枯渇させてしまっているので、戦闘はたやすく終わると見込んでおります」

そのとき、1隻の高速輸送艦が陣形から外れて地球の方角へ飛び去っていった。すぐにスコード教の船だと判明して議場にざわめきが起きたが、ラ・ハイデンは杖で床を叩いてそれを制した。彼は集まったスペースノイドたちに、重要な決定を告げねばならなかったのだ。一同は静まり返った。

ラ・ハイデンは参集した者らの顔を見回して、頃合いを見て口を開いた。

「この8か月、我々はずっと大きな岐路に立ったまま時を過ごしてきた。すなわち、命をどう考えるかということである。ジオニズムとはエレズムに端を発した分離進化思想であったが、生命の在り方を根源的に変え、思念というものが独立して存在可能なもので、単なる情報ではないことを明らかにした。肉体は肉体の維持を優先するがゆえ、本質的に人間性を堕落させるものであり、肉体を捨てた存在こそが最も人間らしいというのが彼ら、ジオニストとカール・レイハントンの言い分である。対するもうひとつの生命の在り方は、我々が知っている命である。命は誕生と死を繰り返し、人の思念は肉体とともに滅ぶ。肉体は思念と一体であり、若き肉体には若き思念が、老いた肉体には老いた思念が宿っている。その生は短いが、愛によって遺伝子は次世代へと受け継がれ、生命が誕生してこのかた、1度として滅したことがないゆえにこの命もまた永遠である。思念体として得た永遠の命と、代々受け継いできたこの永遠の命、どちらが地球を支配するか、あるいは観察者としてふさわしいのか、それを決するときがきたのだ。これがすなわち永らく語られてきた大執行である。わたしは諸先輩より、大執行とはビーナス・グロゥブ住民によるレコンギスタだと教えられてきた。地球環境の回復のために尽くし、その代償として得られるものだと。だが、その意味は違っていた。我々にはジオニズムというもうひとつの可能性があったのだ。我々は、ふたつの永遠の命のどちらかを選択せねばならなくなった。どちらを選ぶかによって、地球の在り方は大きく変わる。ジオニズムが選ばれたなら、地球という惑星に人間という存在はいなくなる。人間のように見える観察者は、それは生体アバターであり思念という個が使用するモビルスーツである。地球は人間の存在という肉体的エゴから解放され、地球環境が再び悪化することはなくなるであろう。そして、対立概念であるテラ-ナチュラリズムを選んだなら、ビーナス・グロゥブに住む我々は、アースノイドに対して義務を果たし続ける勤労な神となって、アースノイドの発展に目を光らせ続けねばならなくなるだろう。これはレコンギスタが永遠にやってこないことすら意味する過酷な道である。我々スペースノイドは、果たしてそこまでしてアースノイドの自由を保障すべきなのだろうか。この問題を解決するにあたり、わたしは対立するふたつの概念に不平等を発見した。それは、ジオニズムが神に比するに対し、テラ-ナチュラリズムを支持する者らがアースノイドと同じ立場である人間と見做される点である。神と人とを比べ、どちらを選択するか迫られたとき、人はあまりに不利である。そこで、我々ビーナス・グロゥブは、自らを神として位置付けることと決めた。我々スペースノイドは、アースノイドに対して神として命じる。従わぬ者には罰を与える。この厳しさをもって、ピアニ・カルータ、ジムカーオによって揺さぶられた宇宙の秩序を回復する。我々神々は、ビーナス・グロゥブからトワサンガ、キャピタル・タワー、キャピタル・テリトリティを直接支配し、一切の人間の抵抗を封じてその科学的進歩も認めない。人間は神に対して自由ではないことを強く戒めるものである」

ビーナス・グロゥブを発して2か月余り、彼らは最終的な地球支配の形を模索してきた。結果、ジオニズムへの参加は見送られ、カール・レイハントンにはさらなる猶予期間を申し出ることになった。その猶予期間が100年になるのか500年になるのか、まだ交渉は行われていない。

テラ-ナチュラリズムと名付けられたラ・ハイデンたちの立場は、この500年でビーナス・グロゥブが追及してきたことの再確認であった。フォトン・バッテリーの供給によって人類の発展を規制する。ユニバーサルスタンダードの徹底によって文明格差を是正する。アグテックのタブーによって技術発展を抑止する。スコード教によって宗教対立を根絶する。それらを再度徹底することが、ラ・ハイデンの出した答えであったのだ。変更点は、フォトン・バッテリーの無償供与の停止だけである。フォトン・バッテリーは、レコンギスタして地球に入植するスペースノイドの利益になるのだ。

カール・レイハントンが姿を現した半年後、2隻の輸送船がビーナス・グロゥブに戻ってきたときに、大執行の答えを出せと求められたラ・ハイデンは、地球侵攻を言い出して時間稼ぎをしたのだ。

彼らのところには、先行していたラビアンローズがトワサンガとドッキングしたとの知らせがすでに届いていた。もし、カール・レイハントンがラ・ハイデンの申し出を断ったならば、自動的にジオニズムとテラ-ナチュラリズムは交戦状態になる。それはふたつの神々の戦争になるが、ラ・ハイデンはカール・レイハントンが必ずしも人類すべての思念体化を望んでいないと判断した。なぜなら、彼にはスペースノイドに対する敬意があったからだ。

カール・レイハントンとラ・ハイデンは、アースノイドに不信感を持っているという点で共通していた。ラ・ハイデンは再び杖で床を強く叩き、こう宣言した。

「我々は神となる。アースノイドのようにあるときは神のごとく地球を支配し、あるときは動物のように地球に甘える存在であってはいけない。神になれない人間は、死を受け入れるよりほかない」

ビーナス・グロゥブによる神治主義の宣言とともに、彼らは地球への進撃を開始した。攻撃目標は月面基地だった。報告により、月には宇宙世紀時代より遺る人類の英知の結晶が眠っているという。それは文化的に貴重な財産であったが、ラ・ハイデンは一切合切を破壊するつもりであった。

神になる気概のない人間に、それは不要であったからである。


3、


クリム・ニックとルイン・リーは高速艇の格納庫の中で肩を並べて佇みながら、互いに挨拶はおろか視線をかわすことさえなかった。その様子を心配げに見比べているのは、ビーナス・グロゥブのヘルメス財団のメンバーで、今回のレコンギスタ作戦に同行したスコード教の枢機卿たちであった。彼らはいつもの法衣の上にノーマルスーツを着用していた。

彼らのうち最も若い男が気まずそうに説明を始めた。クリムとルインのヘルメットの中にひび割れた声が聞こえてきた。

「クリム殿とルイン殿に引き渡すこの機体は、ジット・ラボで復元したヘルメスの薔薇の設計図の中でもひときわ高性能だったもので、アンドラ・ラボに持ち込んで改良を進めていたものなのです。青いものをクリム殿に、黒いものをルイン殿に託したい」

「下賜していただけるので?」ルインは漆黒にペイントされた勇猛な機体を見上げていた。「アンドラ・ラボというところではどのような改良をしたのでしょう」

「詳しくはありませんが、長時間運用が可能なようにバックパックを装着してフォトン・バッテリーを2台追加してあります。つまり通常の3倍稼働時間があるわけです。バックパックから先に使うので、使用後はパージしてもらって構わないそうです。パージされると、内部動力に切り替わります。あとは、何でもサイコミュという禁忌の技術を搭載しているとか」

クリムが若干刺々しく応えた。

「ビーナス・グロゥブはアグテックのタブーを犯しすぎている。いや、オレには関係のないことだが。ではさっそく拝領させていただくが、機体名などはあるのかな」

「型式番号はありますが、好きに呼んでいただいて結構です」

「アメリアへ乗り込むというのならば大気圏に突入する手段がなければ作戦は実行できない」

「大気圏というものが我々には未知のものなので」

と、若い枢機卿は心もとないことを口走った。クリムは苦笑いを浮かべたが、モビルスーツを格納して大気圏突入が出来るカプセルがあるというので少しだけ安心した。

クリムが大気圏突入のことで話し込んで動かないので、ルインは先にモビルスーツに搭乗して操縦系統を入念にチェックした。操縦系はユニバーサルスタンダードだが、よくわからない点もいくつかある。質問しようと思ったが、ルインは彼らに呼び掛けることを躊躇った。

「生臭坊主どもは、この2機を調達するだけで精一杯だったのだろう」ルインは独り言を呟いた。「整備士がいるわけでもない。出ていったらそれまでの片道切符だ。あいつらにとって、オレは単なる駒。クンタラの仲間がいるわけでもない。クンタラを宇宙宗教にするなど、どうせ口だけに決まっている。オレを暗殺者として使いたいだけなのだ。だがオレには策がある」

ルインが搭乗するモビルスーツが先に動き始めて、デッキにいた人間たちは慌てて移動した。ルインはマイクで彼らに、先に出撃する旨を伝えるとそのままハッチに手を掛けた。そこに慌てたような声で、先ほどの男からの通信が入った。

「すみません。モビルスーツの登録名だけ教えてください!」

「この機体はカバカーリーだ。カバカーリーはクンタラの守護神である」

ルインにとってそれは2機目のカバカーリーであった。ジット団のフラッグシップ機であったG-ITとは別系統であったが、彼は新しい名前を考えるつもりはなかった。彼にとって、命を懸ける機体はすべてカバカーリーなのだ。

ルインのカバカーリー出撃後、クリムは急に話を打ち切って自分も出撃すると言い出した。

「オレの機体名はミックジャックだ。同士討ちは御免だからな」

そう告げると彼はすぐにモビルスーツを大気圏突入カプセルに入れて、射出するようにと要求した。大気圏突入カプセルには推進装置がついており、自力で地球の大気圏まで操縦することができる。そのころには枢機卿たちはエアロックの向こう側に避難しており、通信を遮断するのは容易になっていた。

「ではよろしくお願いいたします。スコード」

クリムはカプセルが射出されるとすぐにすべての通信回路をオフにしてヘルメットを脱いだ。

「バカどもめ。この天才クリムさまがあんな見え透いた話に乗ると思ったか」

クリムは高速艇が船団へ引き返していくのを待って、レーダー圏外になったのを確認するとすぐさまトワサンガへと舵を切った。

「本当にミック・ジャックが生き返るのか、あんな連中じゃなく本人に確かめねば!」


4、


ハリー・オードからの知らせを受けた月基地のムーンレイス艦隊は、人員の多くを避難民の誘導に充てて3隻のオルカだけでトワサンガに救援としてやってきた。トワサンガ住民の半数は、突然やってきたカール・レイハントンに危惧を抱くか、元々レコンギスタの希望者であったために、彼らを暴力に晒されることなくオルカに収容するのは容易なことではなかった。

「決して発砲するな。どんなに口汚く罵られても逆らってはいかん。とにかく急いで希望者をオルカに収容してすぐに出立するのだ」

ハリーはスモーに搭乗して、トワサンガ守備隊全兵士に指示を出した。守備隊の中にはスモーを奪ってムーンレイスに対抗しようとする者らもいたが、それら反乱分子はそれほど数が多くなく、幸いなことにモビルスーツを奪われることはなかった。

人ごみの中にはノレドの姿もあった。彼女は隙あらば逃げ出してラライヤと合流しようとするので、女性兵士を監視につけられて真っ先にメガファウナに押し込まれていった。やがてすべての避難民の乗船が終わりデッキの空気が放出された。もう船を降りることはできない。

避難した人々はさながら難民のようだった。若者の姿が多い。老人たちはカール・レイハントンの話を信じて残る者が多かった。ノレドはザンクト・ポルトで一緒だった学生たちの姿を探したが見当たらなかった。メガファウナではなくオルカに乗ったらしい。

「いつの間にかあたしはラライヤに依存するようになってる」

ノレドは大きなバッグを大事そうに抱えて、廊下に所在無げに佇む難民たちをかき分け、ブリッジに上がった。ブリッジは整備不良のまま出港することになりてんてこまいだった。珍しくアダム・スミスがブリッジにいたが、メガファウナの状況をドニエルに耳打ちすると急ぎ足で戻っていった。

「ドニエル艦長!」ノレドは意を決して怒鳴った。「ベルリを・・・」

「ダメだ」ドニエルはしかめっ面の目元を帽子で隠した。「付き合ってやりてぇのはやまやまだが、フォトン・バッテリーが本当にギリギリなんだ。このまま地球まで航海して、大気圏突入するしかない。アメリアへ無事に辿り着くかどうかも厳しいのに・・・、とにかくダメだ」

「未確認のモビルスーツが4機、レーダーに反応あり」

「ダメったらダメなんだ!」

食い下がるノレドは、レーダーまでジャンプしてモビルスーツの動きを確認した。ベルリはカイザルという名の、カール・レイハントンのモビルスーツに乗っているはずだった。だが、カイザルと表示された機体はトワサンガへ向かっている。近づいてくるのはUnknownであった。

「来るぞ! 誰だ! どこのだ! クソ、主砲すらねーんだから、ったくこの船は・・・」

「未確認機接近。モニターに映します」

ノレドはモニターを見上げた。映っているのは、G-セルフのようなトリコロールカラーの、G系統のモビルスーツだった。ノレドはモニターを凝視した。そして大声で叫んだ。

「ベルリだッ!」

同時にメガファウナに通信が入り、ベルリの顔が大写しになった。

「ドニエル艦長!」

「おお、ベルリかッ! もう引き返せねーんだ。メガファウナはこのままアメリアへ戻る。もう二度と宇宙へは上がれねー。お前はどうするんだ?」

「事情はあとで話しますけど、カール・レイハントンは肉体を持った人類をすべて地球に降ろして、そのまま全球凍結を利用して人類を滅亡寸前まで追い込むつもりですよ。もうビーナス・グロゥブは人類にフォトン・バッテリーを供給するつもりはありません」

「そんなこと誰に聞いたんだ?」

「詳しいことはいまは言えませんけど、ラ・ハイデンがカール・レイハントンにそう話しているのを聞いたんです。聞いたというか、同期したというか」

「ベルリの計画はもうダメなのか?」

「カール・レイハントンは地球とビーナス・グロゥブとの交流をトワサンガで断つ気でいます。彼は全球凍結が始まるのを待っていたんですよ。彼は人類に肉体は必要ないと考えている。生命に対する考え方が違う別の種族のようなものなんです。ジオンとかいう」

「なんじゃそりゃ? それに、なんだって? 全球凍結?」

「地球が氷河期で氷漬けになるんです。人間は赤道直下のわずかな土地にしか住めなくなる。とにかく着艦します!」

ベルリの白い機体は、メガファウナのモビルスーツデッキに潜り込んだ。

「アダム・スミスさん、この機体だけはバラしちゃだめですよ。ちょっと特別な機体なんです」

そう告げると、ベルリはあたふたとブリッジに上がってきた。彼の姿を見るなりノレドは泣きながら抱き着いたが、ベルリはそれを押しのけてドニエルの傍に飛び移った。

「フォトン・バッテリーは、ラ・ハイデンの艦隊の後ろにいるクレッセント・シップとフルムーン・シップに満載されています。本当はすぐにでも奪いに行きたいけど、メガファウナはぼくの指示で武装解除してしまっているし、ラ・ハイデンはこちらと戦争する気でいます」

「ビーナス・グロゥブが地球人と戦争だって!」

「そうなんですけど、それはカール・レイハントンに対してウソをついた可能性もあるんです。そして、カール・レイハントンもラ・ハイデンの言葉がウソだとわかってる。いまはそんな状況で、双方が出方を窺っている。メガファウナはこのまま姉さんのところへ行って、クンタラのメメス博士の資料が残っていないか調べてもらってください。何か仕掛けをしているとしたら、あの人なんです」

「メメス? あー、よし、わかった。メメス博士って言えばわかるんだな」

「あと、ムーンレイスのハリーさんには、ディアナさんが地球で何か調べているはずだから、合流してくれって」

「よし、あ、お前はどうすんだ?」

「ぼくは月に何か残ってないか調べてみます」

ベルリは艦長席から飛び降りてノレドの手を引いた。ノレドは驚いて素っ頓狂な声を上げた。

「え、あたし? ついていっていいの?」

「君が必要なんだ、ノレド!」


5、


ベルリがノレドの手を引き、ガンダムという機体でメガファウナを離れたころ、ムーンレイスのハリー・オードは移民を満載したオルカ艦隊を率いてメガファウナと合流していた。艦隊は月の輝きを背景に、黒いシミのように一塊になっていた。

スモーのコクピットにドニエルからの通信が入り、事の次第を伝えられた。

「ベルリがそんなことを?」

「ディアナ閣下だっけか、その人がクンタラのことを調べているからと」

「それで彼は?」

「月基地へ向かったが」

「では、月に残った連中に、ベルリの指示で行動するように連絡を入れておく」

黒いシミはゆるりと動き始めた。フォトン・バッテリーの枯渇が始まってから、こうしたエネルギーを使う大規模艦隊行動は初めてだった。月から地球まで、約1週間の旅程であった。オルカには食料が満載されており、避難民が飢えることはないが、星間航行に慣れていない一般人の中には精神を病む者が続出した。

しかも、今回避難指示に同意したトワサンガの住民は、レコンギスタの希望者ばかりである。やけに浮かれる者、はしゃぎまわる子供たち、里心がついて引き返してくれと懇願する人間もいた。

ムーンレイス艦隊は、ごく一部の人間を月基地に残して、メガファウナとともに数日に及ぶ航海ののち、地球に到着してそのまま大気圏に突入した。

彼らムーンレイスは、アメリアと軍事同盟を結んでいる関係にあり、協定の中に一方の民族に何かがあった場合は基地を提供して助けるとの条項があった。今回はそれを利用するだけで、サンベルト割譲条約のことは持ち出さないことにした。

「それこそ500年以上前のことだ。そうか、あのときすでにカール・レイハントンは全球凍結を見越して行動していたということか。あいつのアースノイド嫌いは一体どんな因果があるというのだろう」

艦隊はワシントン郊外のかつての爆心地に降下した。

その姿を地上から眺める姿があった。

彼ら宇宙からの移民団は、アメリア軍のアイーダ・スルガン提督、スコード教和解派の法王となったゲル・トリメデストス・ナグ、クンタラ歴史解明委員会のキエル・ハイムの出迎えを受けたのだった。






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