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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:82(Gレコ2次創作 第31話 前半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第31話「美しき場所へ」前半



1、


アイーダ・スルガンは久々の休息を郊外の丘陵地で過ごしていた。旧時代に破壊された都市群を眼下に、遠く広い空を眺めている。空には白い月。遥か彼方に水平線が見える。国会は2日後に再開される。彼女の下した決断が国会の承認を得られるかどうかはまだわからない。

彼女の傍には女性政策秘書のセルビィが立っているた。彼女はまだ20代後半だが、議会対策に長けており、ベテラン秘書のレイビオとともにアイーダが頼みとするスタッフである。白人女性のセルビィはアイーダよりも背が高く、グラマラスで美しい女性だ。それを最大限に使って権謀術数渦巻く議会対策を取り仕切る能力がある。

地殻変動によって出来たという丘陵地に立ち、アイーダとセルビィは軽い食事をついばむように食べながら遠くを眺めていた。

「今回の選択はもしかすると姫さまの立場をかなり危うくすると存じますが」

セルビィの声は落ち着いており、すでに観念したことが伺えた。それでも念を押すようにアイーダに尋ねたのである。それにアイーダが応えた。

「それはわかっています。エネルギー問題で国民が苦しんでいることも。セルビィがビーナス・グロゥブのことを持ち出されることが嫌いなことも。確かに、ここにこうして立っているだけでは、月に人がいることや、あの輝く金星の近くに人がいることも実感ができない。それはわかるんです。でも、いつかわたしたちは重力を離れて向こうの世界がまるで隣の町のように感じられるまでにならなくてはいけない。そのための第1歩なんです」

アイーダは、国民からの要求が大きい内燃機関の開発や原子力エネルギーの研究再開を認めない方針を打ち出していた。彼女はあくまでビーナス・グロゥブからのフォトン・バッテリー供給を待つことに決めたのだ。グシオン提督の子供としてその政策継続も望まれていた彼女だけに、これには多くの支持者が失望を表明した。

月の裏側にあるというトワサンガや遥か彼方のビーナス・グロゥブまで来訪した経験のある人間は、地球にはほとんどいない。その経験が年若い彼女が政治家として活躍できる素地になっている。クレッセント・シップとフルムーン・シップによる世界歴訪が、彼女の話に真実味を与えていた。

だからと言って、政治の世界がひとりの少女によって動くわけではない。彼女は常に政敵と戦い、国民の支持を得なければならないのだ。そして今回の決断は、彼女の立場を危うくする。

「ゲル法王殿下とお会いになって、フォトン・バッテリーは来ないかもしれないと忠告をお受けになったのに、それでも姫さまはビーナス・グロゥブの方々を信じることにしたのですね」

「以前わたしはお父さまに『溺れた人を見つけてもすぐに助けようと川に飛び込んではいけない』と教わりました。溺れた人は助かろうと必死に救助者にしがみついて救助者までも溺れさせてしまうからだそうです。もし溺れた人を見つけたのなら、その人物の頭が水の中に沈むまで待てと。それから飛び込めば救助者は抱きつかれて手足の自由を奪われることなく川を泳ぎ切り、結果として溺れた人を助けられるのだと。わたしは今回はビーナス・グロゥブに伺っておりませんし、ラ・ハイデンという新しい総裁のことも知りません。しかし、いまの状況はまさにそうなのだと確信したのです」

「姫さまの決断に従うと決めた以上はいまさらどうのこうのとは言いませんけど、助けてくれるからこのまま溺れてしまおうというのは、国民には納得がいかないはずです」

地球にはフォトン・バッテリーで動くトラックしか存在しない。もしその供給がゼロになれば、馬車に時代に逆戻りになるし、すでに馬や牛の価格は高騰している。ゴムのタイヤがついた馬車は日常の足に復権していた。だが、蒸気機関で文明を維持できるほどの資源は地球に残されていない。

「そうでしょうね」アイーダはサンドイッチの最後のひとかけらを口に入れた。「フォトン・バッテリーによって築かれ、増えた人口がこのまま維持できるのかどうか、自分の家族が飢えて死ぬことはないのか、だれしも心配でしょう。それでもわたしにとって今回の決断は、論理的帰結でもあるのです」

「一連の騒動の?」

「そうです。クンパ大佐が引き起こした戦争は、彼自身のムタチオンに対する恐怖とその克服方法として戦争が選ばれたことが原因ですが、真因は戦争の継続を望む軍産複合体の組織が生き残っていたことにあります」

「説明していただいた薔薇のキューブ、ラビアンローズ、そうしたものですね」

「そうです。そしてジムカーオ大佐が引き起こした戦争は、彼自身のオールドタイプに対する私怨が原因でしょう。しかし、真因はスペースノイドとアースノイドによる地球支配をめぐる争いです。これは宇宙世紀初期からずっと続いていたのです。クンパ大佐の反乱の背後にはビーナス・グロゥブのヘルメス財団があり、ジムカーオ大佐の反乱の背後にはトワサンガのヘルメス財団があった。ビーナス・グロゥブのヘルメス財団はラビアンローズの支配者の末裔、トワサンガのヘルメス財団はニュータイプ研究所の末裔だと思います。彼らは別の時代に外宇宙から地球に帰還してきた人たちなんです」

「壮大なお話ですが・・・」

「でも現実なんですよ」アイーダは微笑んだ。「ウソみたいな現実なんです。2000年間、人間はずっとモビルスーツを作って、戦い合って、壊し合ってきた。それがある人々の利益となり、豊かな生活の保障となってきた。政治は彼らの操り人形に過ぎなかった」

「ビーナス・グロゥブはヘルメス財団を抑え込めたのですか? それができていなければ」

「それはノレドさんから聞いています。ラ・ハイデン閣下は戦争をしていたと。そしてラビアンローズの人々、つまりビーナス・グロゥブのヘルメス財団が地球圏へ逃げてこないようにクレッセント・シップとフルムーン・シップを預けたのだと」

「ヘルメス財団は壊滅したのですが?」

「もともと表向きの代表と、エンフォーサーと呼ばれる裏の代表がいたのでしょう。エンフォーサーの目的は、環境が回復した地球を支配することです。クンパ大佐の目論見通り全人類が互いにモビルスーツで争い続けた場合、ビーナス・グロゥブのエンフォーサーはキャピタル・タワーで地球に降りてきてフォトン・バッテリーの供給とモビルスーツ供給でそのまま地球を支配できる。すべての貴重な情報は彼らが握っているわけですから。ビーナス・グロゥブから供給されるエネルギーを使って宇宙世紀の続きができる。彼らの立場は安泰です」

「トワサンガのエンフォーサーは?」

「彼らはスペースノイドとアースノイドが最終戦争をしてアースノイド、つまりオールドタイプを一掃することが目的だったのでしょう。彼らスペースノイドには地球人に対する拭い難い不信感がある」

アイーダはクン・スーンに告げられたきつい言葉を思い出していた。宇宙で育った人間には、地球で育った人間すべてが愚鈍に見えるというものだ。

「いらっしゃったようです」

セルビィが遠くを指さした。その先には1台の馬車があり、蹄の音は次第に大きくなって彼女たちの前で停まった。

馬車から降りてきたのは、アメリアの大統領であるズッキーニ・ニッキーニだった。アイーダの政敵であるが、セルビィのとりなしでアイーダからの提案を検討していたのだった。

「もう走る車がありませんでしてな」ズッキーニはどちらにともなしに話した。「アイーダ議員の今回の提案。大統領個人として、そして議会の総意として受け入れることにしました」

「本当ですか!」アイーダは素直に喜んだ。「そうしていただけると助かります」

ズッキーニ・ニッキーニは相変わらず狡猾そうな油断ならない人間であったが、今回だけは裏工作なくアイーダに賛同したようだった。

「このままアメリアがエネルギー革命を起こして核エネルギーなどを使った場合、ビーナス・グロゥブとの間で戦争になるとの話、可能性は高いと判断しました。こっちには戦う武器もなく、食料の供給もどうなるかわからない状況でビーナス・グロゥブが攻めてきたりしては大変ですからな」

アイーダがズッキーニに送った書簡には、独自エネルギーによる発展を目指すことなくこのままフォトン・バッテリーを待つとの方針が記されていた。理由はビーナス・グロゥブとの間の戦争である。ズッキーニは念を押した。

「もし仮にグシオン総監が目指された方針通りにアメリアを発展させたなら、必ずビーナス・グロゥブは地球に攻めてくるのですな」

「それが『大執行』ですから」

「ううむ」ズッキーニは唸った。「まぁ、仕方があるまい。娘のあなたが父の方針を捨てるというのならそれなりの覚悟があるのでしょう」

覚悟。それはビーナス・グロゥブがフォトン・バッテリーを供給してこなかった場合のアイーダの処分のことである。

「もちろんです」アイーダは応えた。「『座して死を待つ』つもりはないのです。ただ、父上の方針でアメリアを発展させれば、アメリアはおろか地球はお終いです」


2、


月基地の反乱を制圧したハリー・オードは、シラノ-5に戻るや新たな驚きに直面することになった。トワサンガの軍事警察組織のトップに立つ彼は、ベルリ・レイハントンの重要閣僚のひとりであったが、ふたりきりになって打ち明けられた方針は、彼には博打に映った。

ハリーはベルリの執務室の椅子に腰かけ、しばらく吟味するように間を置いてから返事をした。

「縮退炉を放棄してスモーも廃棄処分のするというのは、賛成しかねますな」

執務室の大きな机の前に座ることが嫌いなベルリは、机を椅子代わりにお尻を乗せて並べたデータに眼を落としていた。

「月もトワサンガも、基本的には太陽エネルギーだけで重要設備の大半は維持できるように設計されています。シラノ-5も薔薇のキューブが分離して心配しましたけど、調査の結果では資源には影響がなくて、水も空気も自律的に供給されるようになってますし、過剰なエネルギーは戦争の元ですから」

「エネルギー供給に余力を持っておくのは良いことでは?」

「ぼくも最後まで迷ったんですけど」ベルリは月で生産されたコーヒーを口に含んだ。「宇宙から脅威が消えたいま、残しておく必要はないと判断しました」

「ううむ」

「初代レイハントンが月の内部にハリーさんたちムーンレイスやその技術を隠していたのは、いずれビーナス・グロゥブやトワサンガ内部のヘルメス財団と戦争になるとわかっていたから、切り札に残しておいたのだと思います。ここ数日検討していたのですが、初代レイハントンは、ビーナス・グロゥブのヘルメス財団の中でエンフォーサーの反乱が起きて、地球にフォトン・バッテリーを供給するいわゆる表向きのヘルメス財団が、裏のヘルメス財団であるエンフォーサーに乗っ取られることまで想定していたんじゃないかと。ビーナス・グロゥブのエンフォーサーたちの目的は大執行、つまり全軍を挙げてのレコンギスタですから、トワサンガはそれを受け入れなければ大戦争になる。いや、むしろ大戦争になることを前提に、ムーンレイスの戦力を温存していたのだと考えたんです」

「その隠し玉がG-セルフだったと」

「G-セルフとそのコクピットに搭載されたサイコミュ。さらにはザンクト・ポルトの装置。ニュータイプに関する研究はトワサンガの方がはるかに進んでいたようですし」

「根拠はあるのかな?」

「命についての考え方に大きな違いがあると思うんです」ベルリは天井を見上げた。「ビーナス・グロゥブは長寿を目指した文明の発達が根幹に存在します。ラ・グー総裁は200年以上の長寿、ジムカーオ大佐もかなりの長寿です。ボディスーツだって、ムタチオンに対処するためだけに発達したわけではないでしょう。そもそも長寿を目指してきたから、機械の身体を抵抗なく受け入れている。身体を機械にしてまで生き延びるということは、死を恐怖しているということです」

「ああ、そういうことか」ハリーは思わず頷いた。「ニュータイプ思想は、必要以上に死を畏れないからこそ成立する考えだ。彼らにとって死は思念体に進化するイニシエーションに過ぎないからな」

「誰だって死ぬのは怖いでしょうけど、その向こうに美しい世界があると知って、実感できて、体感もできるのならば、自分の生命に過剰なエネルギーを投入してまで死から逃れようとはしないはずです」

ハリー・オードはこんなとき相手が少年でなければ酒を所望するのにと残念がった。だがその気持ちはミラーシェードの奥に隠されたままだった。彼はベルリのコーヒーをカップに注いで我慢した。

「ビーナス・グロゥブのことはベルリくんほど詳しくはないが、彼らは月と同じ大きさになるほどにまでフォトン・バッテリーを作り蓄え続けているとか。彼らのエネルギー不足への過剰な恐怖は一体なのが原因なのだろう? 地球で消費される分まで労働奉仕するなどとスペースノイドでも普通では考えられないことだ。対価を要求しても別に誰が咎めるわけでもないだろうに」

「エネルギー不足への過剰な恐怖・・・。ハリーさんたちムーンレイスの皆さんも外宇宙から帰還してきたのでしょう? 何か共感することはありませんか?」

「帰還者といっても数世代前のことで、我々は地球圏で生まれ育っているから何とも・・・」

「人類が外宇宙へ進出した原因は、戦争の拡大と継続が目的だったのでは?」

「いや、それはどうかな」ハリーは首を横に振った。「ビーナス・グロゥブのヘルメス財団がそうだったとでも?」

ベルリは言葉を探りながら応えた。

「地球環境の悪化に絶望した人類が外宇宙に居住可能な惑星を探すことはあると思うんです。おそらくそれを決断させるほどかつて地球環境は悪化していた。人が住めなくなるほどでなければ、外宇宙に出ようなんて考えないですよね。だから、生きるために出ていった。それは間違いない。でも、あくまでそれは表向きの理由で、そこの惑星へ辿り着いても人類はモビルスーツを作って争い続けたわけでしょう? 生きるための移住と、特権階級を維持したいという欲望は常にセットで動いていたはず」

「移住するといっても、金が掛かるわけだからな。それを出したのがヘルメス財団の前身組織で、彼らは移住先の惑星で戦争をさせて使った富を回収していた。君の言いたいことはそういうことだろうか?」

「はい」

ハリー・オードは歴史には無関心な男であったが、それでも自分たち外宇宙からの帰還者がモビルスーツでの戦いを絶え間なく継続してきたことは聞いたことがあった。だからこその冬の宮殿でであり、黒歴史であったのだ。それらの事実とヘルメス財団の在り方を考慮して考えると、モビルスーツによる戦いがまるで経済活動や公共事業のように扱われていたことにも納得がいった。

「人類は・・・、愚かだったのだな」

ハリーはベルリの提案を受け入れることにした。彼はすっかり冷めたコーヒーで喉を潤して、しばらく雑談したのちに退去しようとして思い止まり、ドアのところで振り返った。

「初代レイハントンに関する歴史をまとめる話だが、早急に取り掛かりたい。出来れば資料収集のために人員を割いてもらいたいのだが」

「いまザンクト・ポルトにやっている大学生たちが戻るまで待ってもらえますか?」

「彼らか・・・」ハリーは頷いた。「いいだろう。著述などとガラではないが、気になることも出てきたのでな」


3、



ザンクト・ポルトのスコード教教会に結集した調査団の内訳は、トワサンガからの大学生グループが30名、アメリアからの調査団が50名の計80名であった。

本来彼らはキャピタル・テリトリィ法王庁の20名を加えて100人態勢で月にある冬の宮殿を調査して、人類の戦いの記録から黒歴史の編纂をしていくことが目的だった。しかし、法王庁のおかしな動きを察知したベルリが、トワサンガの学生をザンクト・ポルトに送り込み、さらに月に来るはずだったノレドとラライヤ、アメリア調査団を同地に止め置いて法王庁の20名だけを月に移送したのだった。

こうして月での反乱で彼ら80名が捕虜になるのを避けたのである。

ザンクト・ポルトにおける法王庁の振る舞いに腹を立てた調査団は、法王庁との共同調査を拒否した。その話を聞いたザンクト・ポルト住民たちからぜひ自分たちも調査団に加えてもらいたいとの申し出があり、協議の結果民間歴史愛好家20名が調査団に加わることになった。

「あたし? ムリだよぉ」

ノレドはその調査団長に推挙されて、必死になって辞退を申し出た。

「学術調査の責任は自分が取りますから」

シラノ-5からやってきた大学教授アナ・グリーンは、あくまで形式上のものだからと抵抗するノレドをなだめなければならなかった。ノレドは彼女の教え子になるのだ。アナは40歳になる大柄の白人女性で、フリルのついたシャツをパンタロンの中に入れて男装風のいでたちで眼鏡を掛けている。

アメリア政府から派遣されてきた歴史政治学教授ジャー・ジャミングもノレドを調査団長にすることに賛成だった。38歳の彼は囚われの身だった数日間でアナ・グリーンと意気投合してパートナーのような立場になっていたが、アメリアには家族がいるのだという。

「こういうものはだね」ジャーは髭面を引っ掻きながら話した。「権威付けも必要なんだ。何せ相手はスコード教の総本山なわけだから。何が起こるかわからないだろう? 君に迷惑が掛かるようなことはしないし、そんなことはトワサンガの人も許さないだろう。ね?」

「そうです」アナはノレドの肩に手を置いた。「あなたに何かあったらベルリ王子が黙っているわけない。あなたには誰も手出しできない。だからこそ、形式的でいいから、ね?」

ノレドはなおも不満そうであったが、ちょっと照れているだけで本心では調査団長と呼ばれることに悪い気はしていないのだった。ラライヤはノレドの内心がよくわかるだけに醒めた顔でノレドの抵抗を眺めていた。

本来調査団は月の冬の宮殿を調査してから、テクノロジーに詳しい人間を入れてザンクト・ポルトの思念体分離装置の研究をする予定であったが、ノレドから予想外の資料が提供されたことで、資料分析班と実地調査班に分かれてデータ収集だけ先にやってしまうことになった。

アナはウィルミット・ゼナムから提供されたトワサンガの行政組織の情報に釘付けになった。それはシラノ-5に5つあるリングの最上階、立ち入り禁止エリアだったノースリングの行政区画内の様子が詳しく記されていて、失われたいまとなってはエンフォーサーのことを知る貴重な資料であったからだ。

ジャーはハッパから託された紙の資料に向き合って難しい顔つきになっていた。それはアメリアが近々発表するはずのレコンギスタ事件に関する報告書の草稿の一部で、主にエンフォーサーについて記されている。アメリアの大学教授で宇宙へ来たのは初めてになるジャーは、エンフォーサーについては報道以上のことは何も知らない。そもそも「人類の祖先がいったん地球を脱出して外宇宙に移住したのちに帰還してきた」ことも初めて聞く話だったのだ。彼はとんでもないところに来たものだと息を飲んだ。

アナとジャーは同時に紅潮した顔をあげてノレドを見たが、ジャーはどうぞとばかりにアナに譲った。

「ノレドさんもノースリングの立ち入り禁止区域に入ったのですか?」

アナにとってそれは重要なことであったらしい。ノレドは腕組みをして首を横に振った。

「あたしが入ったのはノースリングの上だよ」

「上?」

「シラノ-5はノースリングの上の部分に薔薇のキューブがくっついていたんだ。ハッパさんの資料にはラビアンローズって書いてあるけど、あたしはラビアンローズのエンジン部分から内部の工場のところを通って、居住区域に入っていっただけ。そこでこの子を助けたんだ」

ノレドはそう言ってラライヤを前に差し出した。ラライヤはこの調査団の一員ではないのだが、月からメガファウナが来てベルリの指示があるまでは彼女を護衛する立場にある。彼女はまだノレドの近衛騎士隊長のままなのである。

「ラビアンローズ?」

聞きなれない言葉に戸惑うアナに、ジャーが助け舟を出した。

「それはこちらの資料にありますね。『薔薇のキューブは惑星間宇宙船であり、移動式のスペースドッグであり、宇宙世紀にはラビアンローズと呼ばれる民間企業の施設であった可能性が高い』と。ノレドさんは、その、こういうことに詳しい人なのかな? 月の王子の婚約者だと聞いているが」

「ああ、それね」ノレドはそっけなく言った。「本当はまだ決まってなくて。あたしはそのつもりだけど・・・。詳しいというよりね、薔薇のキューブを壊したのはあたしたちだから」

「は?」

アナとジャーはそうしたことはまだ何も知らないらしく、唖然とした顔でノレドの顔を眺めまわした。

「あたしとここにいるラライヤは、ジムカーオ大佐との戦いのときにシルヴァーシップと戦ったんだよ。ビーナス・グロゥブには2度行ってるしね。ビーナス・グロゥブのラ・グー総裁には、いくらでも使えるキャッシュカードも貰ったんだ。ほら」

そう言ってノレドがヘルメス財団の紋章が入ったカードを見せると、アナとジャーは互いに何か考えるように押し黙り、同時に何か言いかけたが今回もジャーが譲った。

「ノレドさんはシラノ大学に進学する予定だと聞きましたけど」

「そうです」

「そちらは近衛騎士隊長のラライヤ・アクパールさんよね。あなたもどうかしら?」

それからふたりは、アナとジャーに質問攻めにされたのだった。


4、



「思念体の分離装置ってどんなものなの?」

「あたしが知るわけないじゃないですか」

結局ノレドとラライヤは根掘り葉掘り質問されただけで訓練不足を理由に資料分析班には入れてもらえなかった。まだ入学前のノレドと軍籍のラライヤは思念体分離装置解析班に回されたのだが、こちらも分析するわけではなく写真撮影などのちの本格調査に必要な資料収集が主な仕事だった。

「ったく、失礼しちゃうわ」

ノレドはてっきり自分も資料班だと思っていたので、追い出されたときにはむくれて口を尖らせて文句ばかり言っていた。それに対してラライヤはビーナス・グロゥブの出来事を持ち出して慰めた。

「あたしたちとリリンちゃんでビーナス・グロゥブを自由に歩いたことがあったじゃないですか。あのときあたしたちは『トワサンガとビーナス・グロゥブの違いを見つけてやる』って頑張って観察したつもりだったのに、何ひとつ違いを見つけられなかったでしょ。訓練不足なんですよ。大学で何かを専攻するというのは、ああいった場面で違いを見つける手掛かりになる知識を身に着けるということじゃないですか」

「そうなのかなぁ」

「いずれトワサンガに来たら話があると思いますけど、ノレドさんは大学の授業と同時にスペースノイドになるための技能訓練も受けるんですよ」

「スペースノイドのなるための? 宇宙で生まれた人がスペースノイドじゃないの?」

「それはアースノイドの考え方なんです」ラライヤはきっぱりと否定した。「地球で生まれた人はスペースノイドとアースノイドの違いは出身地だと思っている。でも宇宙で暮らす人間にとって重要なのは、その人物がどんな教育を受けてきて、どんなスキルを身に着けていて、何が出来て、どんな仕事を任せられるかってことなんです。いまキャピタルに移住したリリンちゃんは、まだ子供ですけどスペースノイドとしての自覚とスペースノイドとしてやるべきことを理解している。でもノレドさんはそうじゃない。ノレドさんだけじゃなく、地球で暮らしている人はみんなそうです。地球にはビーナス・グロゥブから移住した人が何人かいますけど、おそらくみんな地球人が宇宙に出たらすぐに死ぬだろうって思って日々生活してますよ。宇宙では人間がやらなければならない仕事を全部地球にやってもらっている。木でもなんでも生えているものを伐るだけ。狭い面積と限られたエネルギーで最大の収量をあげるにはどういう形でどんな木々を植えればいいのかなんて考えない。土の管理のことも考えない。全部地球任せでしょ?」

「宇宙では違うんだ」

「違います。分配の仕組みだって違う。木は土地の所有者のもので、伐った人は賃金を貰うだけなんてことは宇宙ではない。植えたときからそれはいつ伐採してなんに使うか決まっているんですから」

「そういう訓練を受けるの?」

「項目はたくさんありますし、テストもあるんですよ」

「頭が痛くなってきた」

ノレドは本当に頭を抱えて苦しそうな顔をした。ラライヤからは宇宙で暮らす人間が地球人とは違うという話は何度も聞かされていたが、テストがあるとは思っていなかったのだ。

ノレドがテストの内容を訊こうとしたときだった。歩いて向かっていたスコード教大聖堂からけたたましい声をあげて何人もの人間が外に走り出してきた。

「装置の解析班の人たちだ。行ってみよう!」

ふたりは駆け出し、大学生と思しき一段と合流した。

「どうしたの?」

「幽霊が出た!」

「は?」

学生たちは口々に幽霊が幽霊がと騒ぎ立てていた。

ノレドとラライヤの目の前には、全面ステンドグラスの奇妙な形の建物が聳え立っていた。それはスコード教大聖堂。上空から見ると建物はレイハントン家の紋章の形をしているという。地上からは壁が局面になった変な建物にしか見えないそれは、調査にやってきた人々をことごとく怯えさせて吐き出していたのだった。



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