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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第47話「個人尊重主義」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第47話「個人尊重主義」後半



1、


ルインは奪い去った高速巡洋艦で大気圏突入を図った。燃え尽きそうなほどの高温とバラバラに壊れてしまいそうな振動に緊張したのも束の間、やがて艦は安定飛行に入った。

そのときふと、ルインは長距離通信をキャッチするような気がして通信士を見やった。しかし何も起きず、気のせいかと前を向いた。ルインは大きな声を張り上げた。

「我々はこの巡洋艦とフルムーン・シップを手に入れた。フォトン・バッテリーは人類全体が半年暮らせるほどある。数日のちにはフルムーン・シップも大気圏に突入してくるだろう。それまで諸君らの英気を養うために、南極に近い南アメリア大陸に身を隠すことにした。知っての通り、地球は我々が危惧した通り全球凍結に向かっている。英気を養うには寒いところだが、それはキャピタルを制圧するまでの我慢だと思って辛抱してくれ」

大気圏に突入してから、ルインはずっと胸騒ぎを感じていた。良からぬことが起きる前触れなのか、それとも今度こそ地球の支配者になるとの確信が武者震いを起こしているのか彼にはわからない。ただ、いいようのない苦しさを抱えたまま彼は艦を南へと進ませた。

ほどせずブリッジの近くで悶着を起こす騒音が聞こえた。怒鳴り声が聞こえた次の瞬間ハッチが開けられ人影が入ってくるのを視界の隅で捕らえた。何事かと振り向いたとき、彼はそこに東南アジア系の壮健な中年男性が立っているのを認めた。

「ジムカーオ閣下・・・」

それはクンタラ解放戦線影の支援者で、元キャピタル・テリトリィ調査部のジムカーオ大佐であった。クンパ大佐が亡くなった後、組織としての活動が途絶えていた調査部に突然アジア支部から戻り、どのような政治的画策があったのか不明のまま責任者に就いた人物であった。

クンパ大佐の死後、軍籍を離れてマニィとともに旅を続けていたルインは、身を隠していたインドで彼と知り合い、クンタラ解放戦線のアイデアを授かって彼の言う通りにゴンドワンに潜入してテロ計画を実行していた。ジムカーオからは長距離通信装置を与えられ、直接指示を受けることもあれば、カリル・カシスを通じて情報が提供されることもあった。

だが彼は、7か月前の事件で、トワサンガに隠されていたラビアンローズとともにキャピタル・タワーを破壊しようとしてベルリらに阻まれ死んだはずであった。投獄されていたルインですらそのことは耳にしており、クンタラ解放戦線の強大な支援者を失ってベルリに大人しく従うことを決めたのだ。ルインはベルリの祭壇によってクリム・ニックとともにビーナス・グロゥブに流刑となった。残りの人生はずっと金星のコロニーで奴隷として過ごすのだと心を決めていたところに持ち上がったのがカール・レイハントンの突然の出現であった。

「あなたは、死んだはずでは?」

「ああ、死んだとも」ジムカーオは応えた。「死の定義は生の定義同様曖昧でブレがある。君らの定義ではわたしは死んだ。だが、別の定義では死んでいない。君もニュータイプという言葉くらいは知っているだろう。わたしはとても強いニュータイプなのだ。ニュータイプにとって死はもっとずっと後にある。永遠の時間の遥か先だ」

ルインにはジムカーオの言葉の意味は分からなかった。しかし、これからクンタラだけの世界カーバを作り出そうとしている彼には願ってもない助っ人であった。ルインは彼を艦長室に案内して、自分が座るべき上等な椅子を差し出した。ルインは人払いをして、部屋をふたりきりにした。

「自分はあなたを赦す気にはなれない」ルインはいった。「自分はあなたが死ぬときハッキリと悟りました。あなたは心に深い闇を抱えています。親の命を救うためにあなたはスコード教に改宗させられ、クンタラの裏切り者として振舞った。自分のことも騙していたはずです。あなたはただ、大執行と呼ばれるものを遂行して、ニュータイプとオールドタイプを戦わせるためだけにあれだけのことを仕込んだ。自分はあなたに騙されたことを後悔はしていないが、赦す気にもなれない。ただ。事情をよく知るであろうあなたが来てくれて、ホッとしているのも確かです」

「君は正直者だね。何を知りたい? 話の前に答えてあげよう」

「あなたはクンタラ解放戦線を使って何がしたかったのですか?」

「目的などない。君らが生き延びる機会を与えただけだ。マスクという人物の悪名によって、クレッセント・シップが世界巡幸を行っている間、クンタラの評判は散々だった。それを承知していたから、君らは逃げていたのだね」

「それは・・・間違いありません」

「だが、クンタラは君らは思っているよりもっと根深いものなのだ。たしかにわたしは強制的にスコード教に改宗させられた過去を持つが、それはもう何百年も前のことだ」

「大執行とは結局何だったのでしょうか?」

「大執行とは宇宙世紀以降人類がずっと続けてきたこと、オールドタイプの絶滅を指す。これをわが手でやってやろうとしたのだが、この星を守護する魂魄によって阻まれてしまった」

「星を守護する魂魄?」

「星を守って死んだ者たちすべての魂魄が集まったもの。わかりやすくいえば、そんなところだ。ニュータイプは魂魄となって肉体を解脱する。その思念だけが確固として存在し続ける。だが、オールドタイプの魂魄もまた永遠だ。いや、君が尋ねたいのはそんなことではなかろうが」

「あなたは自分たちクンタラを騙していたのですか? クンタラごとこの星の人間を殺してしまおうと? あなたがラビアンローズでキャピタル・タワーを破壊しようと試みたとき、自分はあなたを殺すためにベルリと共闘して戦いました。それは正しい振る舞いだったのでしょうか。それとも自分は、あなたのやることを助けるべきだったのでしょうか?」

「どちらでもいいのだよ。君は道を選ぼうとする。だが、どの道を進もうが人は理想に到達することはない。人の歩みの継続を永遠に導くものが理想だ。理想を失ったまま歩めば、人の行き先は途絶える」

「なるほど。道程にはこだわらないと。しかしあなたは、大執行を選んだ」

「そうだ。だが、大執行という名のカルマの崩壊はいずれ起きるのだ。ビーナス・グロゥブとトワサンガには自分たちをニュータイプと信じ、エンフォーサーと名乗る集団がいた。彼らはオールドタイプを絶滅させ地球を我が物にしようとするグループであったが、わたしは彼らがニュータイプでないことを知っていた。ニュータイプでもないのに、先祖の縁故によって自分たちを優生と勘違いした連中は、滅ぼされて当然だろう? わたしがラビアンローズを暴走させたとき、彼らがニュータイプであったならラビアンローズから思念だけ機械に移し、彼らは逃げ延びることができた。そしてオールドタイプのない世界で思念体として生きていくことができたのだ」

「それはできなかったのですね。そしてみんな死んだ」

「ああ、死んだ。恐怖のあまり思念すら怨霊のようになってザンクト・ポルトに引き寄せられていたよ。だからどちらでも良かったのだ」

「大執行がそのような意味であるなら、ラ・ハイデンの戦争行為もまた・・・」

「オールドタイプの絶滅は、地球が氷河期に突入しても起こる。ビーナス・グロゥブが地球を支配しても起こる。カール・レイハントンが支配しても起こる。それらすべてが大執行だ。ただし、人類が宇宙世紀の続きを行い地球を窒息させることは大執行ではない。それはただの絶滅だ。人類が自らの無能によって滅びることを避けるために、大執行は行われる。宇宙世紀の初期、大執行はコロニー落としという手段で行われた。巨大なスペースコロニーを地球に落下させることで、ニュータイプはオールドタイプの絶滅を図ったのだ。それはより良い未来のためのひとつの手段なのだよ」

「閣下は、ヘルメスの薔薇の設計図を回収できない人類を滅ぼそうとした?」

「そのつもりだったが、成功しても失敗しても、それはどちらでもいいのだ。カルマの崩壊は必ず起こるのだから。誰が成すか、それも大きな問題ではない。オールドタイプは必ず滅びる」


2,


ルインたちクンタラ解放戦線のメンバーを乗せた高速巡洋艦は、一路アメリア大陸南部にある南極にほど近い場所を目指して飛んでいた。

その艦長室にて、ルインはジムカーオに話に耳を傾けていた。ルインは彼に尋ねた。

「自分が閣下を殺そうとしたことは咎めようとしないのですね」

「それも先ほどの話と同じだ。君の心の揺らぎがどちらに振れようと大した問題ではない。この、滅びることを赦されなかったビーナス・グロゥブの公安警察の官僚があの場面で生きようと死のうと大きな問題ではない。その前に君はクンタラすべてのために戦おうとしてくれた。その確信が一時揺らいだ。それだけのことではないかね」

「閣下がクンタラ解放戦線を支援してくださったことに偽りはなかったのでしょうか?」

「ビーナス・グロゥブの官僚だったわたしは、初代レイハントンの補佐をしていたメメス博士を調査していた。仕事を拝命したとき、すでに彼と娘のサラは亡くなっていたが、クンタラであった彼の行動が大執行後を見据えたものであったことにわたしは注目した。彼はザンクト・ポルトをオールドタイプ絶滅後の避難場所として整備していたのだ。なぜあの場所だったのか、トワサンガではなかったのかはわたしにもわからない。彼にとってあの場所が意味のあるものだったのだろう。そして娘のサラは、初代トワサンガ王カール・レイハントンの子供を産んで死ぬのだが、カール・レイハントンというのは君も知っての通り思念体と呼ばれる存在で、彼の肉体は生体アバターに過ぎない。生殖機能は娯楽のために存在するだけで、アバターの性質は生殖行為では遺伝せず、娘のサラの遺伝子がそのまま男女の子供に受け継がれている」

「まさか。では、ベルリはカール・レイハントンと血の繋がりがないのですか?」

「ない。ベルリは、サラやその父であるメメス博士の遺伝子形質しか受け継いでいない。しかも、当時のトワサンガの住人になった多くはクンタラであった。これはトワサンガとキャピタル・タワーを建造した労働者がクンタラであったことももちろんあるが、そもそも当時のビーナス・グロゥブ総裁だったラ・ピネレが大のクンタラ嫌いで、ビーナス・グロゥブから彼らを排除したことが大きい。つまり、ベルリ・ゼナムというのは、遺伝的にはクンタラの子孫だ。もちろんクンタラは遺伝ではなく信仰であるから、スコード教徒である彼はクンタラではない。しかし、クンタラの子孫だ」

「奴がクンタラ・・・」ルインはドサリと椅子に身体を預けた。「まさかそんなことが」

「君はあの男を随分と憎んでいたようだが、事実はこんなものだ。目の前にある答えなど当てにならんのだよ。だから、社会がどのような道に進もうと、社会がどんな決定を下そうと、どんな結果が起ころうと、自分の望みのいくらかは満たされ、いくらかは満たされないのだと心構えなくてはいけない。道を選ばなくては人は前に進めないが、自分の道の先にだけ理想があり、他人の道の先には破滅があるなどと考えてはいけない。どの道の先にも理想はなく、理想は道を踏み外さないために照らす明かりに過ぎないのだと知らねば。理想は暗闇の洞窟を照らす光だ。その輝きは、いつかはそこに辿り着くのだと目標となるが、肝心なことは目的地である理想に到達することではない。理想が照らす明かりを頼りに前に進み続けることだ」

「それはもしや、カーバのことをおっしゃっておられるか?」

「クンタラの安息の地カーバ。クンタラの理想郷カーバ。君はそこに辿り着こうとして、多くの罪を犯しているのではないのかね?」

「カーバがないとおっしゃるか!」

「わたしが言ったことをいま一度思い出すがいい。カーバは暗い洞窟の先にある辿り着こうと目指すべき理想であるが、その暗闇を照らす理想の明かりは、人が前に進むために存在しているのだと。クンタラがカーバを目指すことは、心を律するために絶対に必要なことだ。しかし、もし君が『ここがカーバだ』とクンタラの仲間たちに示したのなら、カーバに辿り着いたと思い込んだクンタラたちは先へ進むべき理想を見失うのではないかね?」

「そんなことは・・・」

「君の理想主義は本質的に間違っているのだ。理想とはこういうものだと答えを示し、理想に辿り着くためならと手段を選ばない。君の行動は理想からどんどんかけ離れていく。カーバという理想を目指しているはずの君の心は、どんどん理想から遠ざかって、醜悪になり果てていく。魂の安息地であるはずのカーバを、血塗られた大地に変えていく。君はキャピタル・テリトリィを実行支配して『ここがカーバだ』と仲間に宣言するつもりなのだろう? だが、カーバに辿り着いたと信じ込んだクンタラたちは、一体どうなると思う? クンタラは清らかな魂を安息地カーバに運ぼうとするからより慎重で理想的な人生を送ろうと努力する。理想から外れたクンタラがいれば嘆き悲しみ、激しい怒りを覚える。だが、カーバに辿り着いたと信じ込んだ君の仲間たちは、カーバに辿り着いたと思い込むがゆえに自分がどんな行動を取ろうと自分は清らかで正しい人間だと思い込み、身を律しなくなる。規律を忘れ、犯罪を犯す。君がカーバだと宣言した土地は、怠け者で自堕落で傲慢な人間しかいない土地になる。君の仲間は人間集団と堕落させ、堕落させた土地に育った君の子らにカーバという理想を見失わせる。それはそうだろう? 自堕落で傲慢な人間が軋轢を起こしながら窮屈に暮らす自分の故郷が理想郷だと教わった子供たちにはもはや絶望しかない。君はゴンドワンでもカーバを作ったと豪語した。そこがどうなった? 核爆発であの地は放棄された。キャピタルは君がいなくなり争いごとの絶えない土地になった。君はわたしに呼ばれて宇宙へ上がってきたが、もし君がトワサンガに到達していたのなら、君はトワサンガこそがカーバだと言い出してあの場所も醜い土地に変えただろう」

「そんなことは・・・」

「いつ気がつくかと思って黙って待っていたが、君はついぞ気づかなかった。それはつまり、君は理想など求めてはいなかったということなのだ。理想のことを本当に心から求めていたのであれば、君はもっと早くカーバという言葉を安易に使う危うさに気づいたはずだった」

打ちのめされたルインは、がっくりと椅子の上で崩れ落ちた。

「自分がやってきたことは、まったく無駄だったのですか?」

「世界には理想を追い求める人間が何人もいる。ベルリくんもそうだし、スコード教のゲル法王もそうだ。北の大陸の支配者である共産党書記長でさえ、自分のことを理想主義者であると思っている。自由民主主義のために戦う者らも理想主義者だ。自分たちの道徳を守ろうとする民族自決主義者もそうだ。ゴンドワンのいまの支配者である140センチの独裁者エルンマンもそうだ。理想主義者同士で絶滅するまで殺し合うかね? もし君に本当の勇気があるのなら、君はベルリくんと真正面から向き合ってみるといい。話したように、彼はメメス博士の子孫であり、血筋はクンタラだ。スコード教徒である彼が、いまいかように理想的なクンタラのように振舞っているか、見てみればいい。君はまだゲル法王が唱えている新教義のことを知らないだろう?」

「いいえ、知りません」

「彼は、スコード教徒クンタラは同根であると唱えている」

「そんなはずはないでしょう? スコードは人工宗教、クンタラはそれに参加しなかったはず」

「同じ時の同じ出来事から派生したふたつの考え方だと彼は思っているのだ。君は即座に否定したが、果たして君はゲル法王ほど必死に世界のことを考えただろうか。あるいは、ベルリくんほど世界のために心を砕いただろうか。ここから先は君の勇気の問題だ」


3,


キエル・ハイムは旗艦ソレイユに乗り込み、再びディアナ・ソレルの仮面を被った。

すぐさま編成を終えたムーンレイス艦隊は、アメリアとの軍事同盟に従い、ルイン・リー捕縛の任務のために出動した。再びディアナ親衛隊としてその傍らに就くことになったハリー・オードは、ディアナに詳しい説明を求めた。ディアナが応えた。

「アイーダの話ではこの世界は現実ではないそうです。それがどのようなものなのかはわたくしにもわかりません。しかし、亡くなったはずのミック・ジャックの姿はわたくしも見ました。とっくに尽きたはずのフォトン・バッテリーもフル充電になったまま減ることがない。たしかにこの世界は尋常とは言えないでしょう」

「ソレイユやオルカに乗っている限り、そうしたことは実感しにくいですね」

「ええ、縮退炉を使う我々には実感が乏しい。それで彼女らが主張するには、クリム・ニックが大気圏突入の際に死亡したことをきっかけに、地球が虹色の膜に覆われ外部から侵入できなくなったと。そのとき大気圏突入していたフルムーン・シップは、何時間後かは定かではないもののどうもアメリア近郊で大爆発を起こしたらしい。地球が閉じられた時間と、大爆発の間にタイムラグがある。これは、何者かが地球の行く末に関与したのではないかと推測しているようなのです」

「その推測が正しいという保証はないのですね」

「誰にも未来に起こることの保証などできません。アイーダがそう思う理由はふたつあって、クリム、ミック、ラライヤ、アイーダ、ウィルミットの5人がキャピタル・テリトリィにいるときに、ニュータイプの共感現象が起こって、それぞれの記憶の一部を共有したことがひとつ。もうひとつは、自分の最後の記憶、つまり共感現象中に幻視した自分の最後の記憶というものが、虹色の膜が拡がっていく光景を部屋の窓から眺めているものだったからだと」

「それは何らかの確信と関係ありますか」

「自分はそこで死んだわけではないのに、そこから先の記憶は一切なかったのは、虹色の膜の内部にいた人間は、大爆発が起こる前に思念が肉体から強制的に分離させられていたからではないかというのですね。そこから先の記憶がない、つまり未来はないというのは、もしかしたらその先に起きたことは確定した未来ではない可能性があると」

「すべて推測に過ぎず、保証されるべきものはないが・・・」

「それに賭けるしかないと。そういうことですね。そもそもフルムーン・シップの大爆発が起こるのかどうかもわからないわけですが、クリムは人類を実行支配しようと考えて艦隊を連れてやってきたラ・ハイデンは、人類がフォトン・バッテリーを強奪することは絶対に許さず、それくらいなら人類を滅亡する選択もするだろうと証言しているようです。これにはクン・スーンも同意していました。ラ・ハイデンとはそういう思い切ったことをする人間だと」

「自分はトワサンガでカール・レイハントンと500年ぶりに再会しておりますが、あいつと決着をつける前に人類は滅亡の危機にあるわけですか。何とも情けない話だ」

そこにルインらの高速巡洋艦をキャッチしたとの声が響いた。会話を打ち切ったハリーはモニターを確認してディアナに振り向くと頷いた。

「スモー隊、出撃準備」

同じころ、ルインらクンタラ解放戦線もムーンレイス艦隊をキャッチしていた。ルインはジムカーオとの対話のために艦長室にこもっていたが、ただちにブリッジに呼び出されて状況を確認した。

「まずいな」ルインがいった。「こちらはこの艦に慣れていない上にあの大艦隊。あれはシルヴァー・シップ艦隊と戦ったムーンレイスの艦隊だろう」

「いかがします?」

「まだかなり距離がある。このままアメリア大陸最南端に向かい、まだ追ってくるようなら南極へ逃げ込む。マニィが大気圏突入するまであと数日は猶予があるはずだ。ムーンレイス艦隊は地球の極致地方の戦い方は知らないはずだ。なんとかなるだろう。まずはこの艦に習熟することが先だ」

「ところでさっきの人物、ありゃ何者なんで? 閣下と呼ばれていましたが」

「あの方はクンタラ解放戦線の生みの親だ。支援者と思ってくれればいい」

「そりゃ心強い」

ルインはジムカーオに教えてもらったクンタラの真実については語らなかった。彼についてきている解放戦線の仲間たちは、カーバがこの世のどこかにあり、そこに辿り着けば差別もなく、家も与えられ、自分の好きなことをやって生きていけると信じてルインについてきていた。

ルインは、彼らに誤った理想を語り、誤った未来を夢見させてしまったのだ。後悔してももう遅い。カーバは現実世界に存在する土地ではなかった。このままウソをつきとおすべきなのか、すべてを打ち明け責任を取るべきなのか、ルインはいまだ心を決めかねていた。

ルインは追われるままに南極大陸へと逃げ込んだ。全球凍結に向かいつつある南極は激しいブリザードが吹き荒れ、ムーンレイス艦隊はルインの船を見失った。

ハリー・オードはディアナ・ソレルに呼び出された。

「巡洋艦1隻を追いかけるだけならわたくしがいなくても大丈夫ですよね?」

「何をなさるおつもりで?」ハリーが尋ねた。

「わたくしはキャピタル・テリトリィのビクローバーという場所を調べるつもりです。ソレイユはこのまま離脱させるので、あなたのオルカはこのまま追跡を」

「おひとりで? それは感心できませんな。もしや、ディアナさまの・・・、つまりあの方の?」

「そのような気がするだけです。でもいいでしょう。オルカはアミランに任せてあなたもいらっしゃい」

こうしてルイン追跡からディアナ・ソレルの旗艦ソレイユは離脱した。

そして数日が過ぎた。

宇宙では足の遅いフルムーン・シップを、クリム・ニックが搭乗するミックジャックが追い越した。クリムによってミックジャックと名付けられたモビルスーツは、もともと大気圏突入用のカプセルに内蔵されており、彼はその機体で地球圏に侵入してアイーダを暗殺する使命を与えられていた。

しかし、トワサンガでジオンとまみえ、どうやらミック・ジャックが生き返るという話が眉唾であると知ったクリムは、自暴自棄になりつつも身の振り方を考えあぐねていた。ミック・ジャックが生き返る保証がないのに、約束通りアイーダを暗殺することに何の意味があるのか。そもそもそれを頼んできたビーナス・グロゥブのスコード教の坊主たちは、高速巡洋艦を奪われ生死不明である。

「これ以上あんな連中に関わっても仕方ないということか」

そう呟いたクリムは、機体に異音と振動が発生しているのを感じ取っていた。そもそも地球圏に来たこともないビーナス・グロゥブの、しかもレコンギスタの準備をしていなかったラボが作ったモビルスーツで大気圏突入をするのは心もとなく、しばし迷った後、彼は大気圏突入カプセルを自動操縦で大気圏突入するようプログラムを作動させたまま、モビルスーツからパージした。

「悪く思うなよ、坊主ども」

推進力を失ったカプセルは速度を落とし、やがてフルムーン・シップに追いつかれ抜かれた。身軽になったクリムの青いモビルスーツは、大気圏に引き寄せられないよう気を付けながら、衛星軌道の上を周回してザンクト・ポルトを目指した。

ミックジャックのモニターは、フルムーン・シップが大気圏突入態勢に入るのを確認し、別の場所で切り離した大気圏突入カプセルがどうなるかを捉えていた。真っ赤に燃えたフルムーン・シップの映像に重なり、小さなカプセルが燃えていくのがわかった。予定ではカプセルは燃え尽きることなくやがて冷やされていくはずだったが、振動が激しく、とても持ちそうもなかった。

「あ、しまった!」クリムが叫んだ。「あのカプセルにはフォトン・バッテリーの予備が2つも積んであるぞ。取り外せばよかった!」

そのときだった。カプセルが大爆発を起こした。やはり欠陥があり、大気圏突入に耐えられなかったのだ。ホッとしたのも束の間、カプセルは2次爆発を起こした。2個の予備バッテリーが爆発したのだ。巨大な光球が大気圏上空に出現して、爆発の衝撃は雲となり丸く拡がった。続いて虹色の膜のようなものが地球を覆っていくのが見えた。それはみるみるうちに大きくなり、消えるどころかますますその色彩を強め、地球はシャボン玉に覆われるように青く美しい姿を隠していった。


4,


「これ、G-セルフじゃないですよ。G-セルフは完全に燃え尽きたじゃないですか」

メガファウナのモビルスーツデッキで整備されていたG-セルフに乗り込むなり、ベルリはアダム・スミスに向かった抗議した。

「ラライヤが乗ってきたんだ」アダム・スミスが怒鳴り返した。「ジオンにいたらしいからジオンが新造したんじゃないか」

「たしかにラビアンローズを持ってるわけだから、ヘルメスの薔薇の設計図もあるんだろうし、作れないことはないんでしょうけど」

ベルリはコクピットの隅々をチェックした。元のG-セルフと違ったところはひとつもない。コクピットはコアファイターになっており、そのほかの部分もまったく一緒だった。

それはベルリにとって愛着のある機体だった。初めてG-セルフに乗ったとき、彼は機体が認証したレイハントン・コードのことすら知らなかった。あの機体とまったく同じものなのか一抹の不安はあったが、ガンダムを奪われた以上、ベルリはこのG-セルフの2号機で戦うしかなかった。機体のことを聞こうにも、ラライヤはすでにゲル法王、ウィルミットの護衛としてキャピタル・テリトリィに向けて出発した後だった。結局ベルリは、ほとんどラライヤと顔を合わせていない。

そこにノレドが走り寄ってきた。ノレドはメガファウナに乗り込み、フルムーン・シップに搭乗しているはずのマニィの説得に当たらねばならなかった。

「ベルリにこれを返しておくよ」そう言って差し出したのは、ベルリがノレドに預けたG-メタルだった。「これにどんな意味があるのか知らないけど、これは2号機で素性のわからないものだから、おまじないがてらにG-メタルを差し込んでみたら?」

「ああ」

言われるままにベルリはレイハントンの紋章をかたどったカードを差し込んだ。すると機体に反応があった。ベルリは何が起こるのかとモニターを凝視していたが、最初の反応があったままモニターは小さな音を継続的に堕した状態で止まってしまった。

コクピットに上がってきてなかを覗き込んだノレドは、首に掛けられていたアイーダのG-メタルを外してそれも差し込んでみた。すると突然ハッチが閉まって、お尻を突き飛ばされた形のノレドが狭いコクピットの中に転がり込んできた。

「また君は」

とベルリがノレドを睨み返そうとしたところ、ガタリとコクピットが揺れて、内部が一瞬で真っ暗になったのちにオレンジ色の室内灯が点灯した。全天周囲モニターには星々が映し出されている。低下する室内温度を感知したヒーターが勝手に作動をし始めた。

「宇宙?」ノレドは突然重力を失ったことに驚きながらも身体を回転させてシートにしがみついた。「またジャンプしたの? これガンダムじゃないんでしょ?」

「しまった」ベルリが顔をしかめた。「これ、複座じゃないからこのままでは」

G-セルフは自動操縦であるかのようにベルリの意思を無視して月に向かって飛んでいた。

「ダメだよ、ベルリ! フルムーン・シップが来ちゃう! 早く地球に戻らないと!」

「わかってるけどさ」ベルリはモニターを凝視した。「ここはどこなんだ? トワサンガ宙域!」

そのときだった。突然機体に大きな衝撃があり、メインモニターが塞がれた。G-セルフの頭部がギシギシと音を立てて潰されそうになった。G-セルフは何者かの襲撃を受けて頭部を握り潰されようとしていたのだ。ベルリとノレドは同時に気がついた。これはふたりが体験した場面であった。そのとき彼らはガンダムに乗って、前触れなくガンダムが動き出してラライヤが操縦するG-セルフに襲い掛かったのだった。

接触回線が開いた。音声だけでなく映像も映し出された。画面に映ったのは、ゴンドワンでガンダムを奪った茶色の巻き毛の男とリリンであった。

「リリンちゃん!」ノレドが叫んだ。「くっそ、このロリコン誘拐野郎! ガンダムを返せ!」

「ベルリくん」男がいった。「あいつの魂はのぼくとララアで引き受ける。それまでこの子は預からせてもらう。決して傷つけないし、必ずこの子は母親の元へ返す。あいつの過ちを糾せなかったのはぼくの責任だ。今度はもう逃しはしない。しかし、あいつの過ちの本質を人類は抱えたままだ。1度は避けられたアクシズの悲劇を凌ぐより恐ろしいことが起きる。過去のことはぼくが決着をつけるが、未来のことは君たちで決着をつけなくてはいけない。どんな悲劇が襲おうとも、目を逸らさず、事実をありのまま見て冷静に解釈してほしい」

ベルリはG-セルフの頭部バルカンを発射してガンダムを引き剥がした。接触回線は途切れた。音声も映像も途絶えたが、ベルリとノレドにはガンダムのコクピットに座る男の姿が見えていた。ノレドは思い出した。その男は、冬の宮殿で目にした、赤いモビルスーツの男と戦っていた白いモビルスーツの男であった。

ベルリが叫んだ。

「何千年も繰り返してきた行為を、まだこの先も繰り返そうというのかッ!」

「理想を見失った現実主義者たちのおもちゃ生産工場がラビアンローズだ。あれを破壊しろ」

なおもガンダムを追いかけようとしたベルリであったが、操縦桿は彼の意志では動かなかった。機体の脇を濃緑の大きな機体がすり抜けてガンダムに向かっていった。

「あんたはしょせん人形と人間のあいのこなんだよ!」

その科白を最後まで聞かないうちに、コクピットのハッチが開いた。眩しい光がベルリとノレドの顔を照らした。手をかざしたままそっと目を開いたふたりの前には、アダム・スミスとクン・スーン、それにローゼンタール・コバシが顔を覗かせていた。

「あんたら、大丈夫か?」クン・スーンがいった。「お楽しみかと思ってしばらく放っておいたんだけど、あまり長く閉まったまま応答もないからさ。ま、ハッチは勝手に開いたんだけど」

「なんだ、お楽しみじゃなかったの」コバシが残念そうにいった。「面白いものが見られるかと思って仕事ほっぽり出して来たのに、残念」

いつの間にかベルリとノレドは元のメガファウナのモビルスーツデッキに戻っていたのだ。しばし言葉が出ずボンヤリしていたベルリであったが、やがて翻然と悟ってコクピットから身を乗り出した。

「カール・レイハントンを倒すのはぼくらじゃない。あいつは何千年も前の因縁のある男に・・・、ガンダムに倒されます。ぼくらは・・・、レイハントンを倒すことを目的とするんじゃなくて、レイハントンが囚われて逃げられなくなった過ちを繰り返さなきゃいいんだ。なぜ、なぜあのふたりは争い続けて決着がつかないまま放置された? なぜ人類はラビアンローズを改造した長距離宇宙船で外宇宙へ向かった?」

ノレドも身を乗り出した。「ラビアンローズを破壊しなきゃ。G-ルシファーがあればあたしだって戦える! クン・スーンさん、コバシさん、どうにかならないの?」

「どうにかって言われたって」クンとコバシは顔を見合わせた。「いまからじゃどうにもならないよ」

「ラビアンローズを破壊すれば、宇宙世紀からの戦争技術の多くが失われる。ジオンは生体アバターを作ることが出来なくなる。そして、そして、スペースノイドとアースノイドの争いの原因が見つかれば、破滅は避けられるかもしれない!」

「そうだよ、ベルリッ!」

ノレドは思わずベルリの首に抱きついた。

コクピットを覗き込んでいた3人は、キョトンとしたまま互いの顔を見合わせた。


次回、第48話「全体繁栄主義」前半は、10月1日投稿予定です。


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