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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第48話「全体繁栄主義」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第48話「全体繁栄主義」後半



1、


技術革新の禁忌、宗教の統一、独自規格の禁止、エネルギー枯渇の回避を掲げたビーナス・グロゥブの地球支配体制は、基本的にフォトン・バッテリーを中心に組み立て直されていたが、それらの方針が確立する前に設計されたキャピタル・タワーは、独立電源で運用されていた。

それゆえにフォトン・バッテリーの枯渇とは無縁で、ウィルミットはその電力を市中に開放してしばらくタワーの運用を停止していたが、地球圏が危機に陥っているとの認識を得て再び稼働されることを決定した。長官が動かすといえばすぐに運用を再開できるように準備されていたので、タワーの稼働は何の問題もなく再開された。

1000人のクンタラの女性を搔き集めたカリル・カシスは、世界にどのような変化が起こると知らないままクラウンに乗り込んだ。法王庁もいったん追放した形になっていたゲル法王を再び受け入れ、ラ・ハイデンの歓迎式典に参加することになった。ウィルミットはキャピタル・テリトリィの代表として参加することになっていた。

護衛はキャピタル・ガードから20名程度、モビルスーツはラライヤ・アクパールが登場するG-アルケイン1機だけである。人員と物資を詰め込んだクラウンは慌ただしくザンクト・ポルトまでの数日間の旅に出港した。

最初に異変に気づいたのは、窓から外を眺めていたクンタラの女性たちであった。彼女たちの大騒ぎが伝播する形で、乗員のほとんどが窓側に張り付くことになった。彼らは上空で起こった異変とクラウンの安全に対する不安を口々に言い立てた。青い空はみるみるうちに油膜のような色に変わっていき、クラウンはそれめがけて高速で移動していたからだ。

「姐さん、本当にあたしら大丈夫なんでしょうね?」

カリル・カシスはそんな声と安全性を訴える運行庁からのアナウンスを同時に聞きながら別のことを考えていた。それは、クラウンにクンタラ以外の人間が乗りすぎている問題についてだった。メメス博士の予言を知る彼女たちは、恐怖の皇帝降臨後の世界はクンタラだけが生き延びる世界になると信じていたので、大勢のクンタラでない者がクラウンに乗り込んでいることを不思議がっていたのだ。

「あたしらは助かるんでしょ?」

空を見上げながら、彼女がずっと養ってきた女たちが不安そうに呟いた。

「そりゃ助かるさ」カリルが振り向きざまにいった。「問題なのは、助かるのがあたしらクンタラだけじゃないってこと。運行庁の奴らやゲル法王やウィルミットなんか生きてちゃ困る」

「そうでもないですよ」ひとりが口ごたえをした。「だって、タワーもあたしたちクンタラのものになるんでしょ? だったら、運用方法を教わらなきゃ。死ぬのはそれからでも遅くない」

「あんたも言うねぇ」カリルはそういって皆を笑わせた。

しかし何かがおかしい。アメリアで行われた移民団の歓迎レセプションのときから彼女はずっといいようのない違和感にさいなまれていた。現実が突然夢になったかのような違和感だった。アメリア政府の自分たちクンタラに対する突然の逮捕や、手のひらを返すように媚びてきたウィルミットにもおかしなものを感じ取っていたが、それとは違う生理的な違和感があったのだ。

ふと閃いたカリルは、小柄な女性を呼び寄せてそっと耳打ちをした。

「あんた、あのラライヤとかいうボンヤリしたトワサンガの女を監視しな。モビルスーツのパイロットらしいけど、どうも様子が変だ。ザンクト・ポルトで誰かと接触しないか、あんたはずっと見張ってるんだよ。何かあったらすぐに連絡して」

こうしてカリルは、ラライヤに監視をつけた。

「メメス博士って人物がどんな人間なのかは知らないけど、いまがクンタラにとって千載一遇のチャンスなのは間違いない。どうもウィルミットの奴はそれを知ってる気がしてならない。リリンってガキのことを頼まれたけど、どこにも居やしないガキのことを頼むなんてどうかしてるからね」

カリル・カシスの違和感はずっと晴れることがなく、やがてクラウンは虹色の膜を通り抜けた。彼女の胸の動悸は収まらなかった。彼女の頭の中には、クラウンを降りるなり銃口を突き付けられたあるはずのない記憶があった。自分に銃口を突き付けたのは、ウィルミットであったはずだ。カリルはどうしてもそのイメージから逃れることが出来なかった。

「クラウンを降りたあたしを捕まえるには、ウィルミットは先に到着している必要がある。それにアメリアであいつに会ったときの何とも言えない居心地の悪さ。あいつは本当にアメリアにいたのか? 先にクラウンで宇宙に出ていたんじゃないのか。いや、なんでこんな変な、記憶がごっちゃに混ざった感じがするのだろう。夢を見たまま現実を生きているようなおかしな気分だよ、まったく!」

クラウンがザンクト・ポルトに到着するまであと半日となったころ、トワサンガ宙域ではガンダムとカイザルの終わりなき攻防が続いていた。

カイザルに搭乗するカール・レイハントンは、アムロ・レイを中心とした思念の塊がガンダムの中にあるのを強く感じ、半ば遊ぶように、しかし真の目的は接触を求め、互いの能力をぶつけ合っていた。この戦いにはチムチャップ・タノとラライヤ・アクパールも参戦していたが、タノは早々に被弾を繰り返し、操縦席にいたアバターの心肺は停止した。ラライヤのYG-111がそれを回収した。

サポート役としてトワサンガに残っていたヘイロ・マカカは、両の肺が潰れてしまったタノのアバターをコクピットから放り出し、モビルスーツの改修を急ぐようジオン兵士に命令した。トワサンガに再ドッキングしたラビアンローズは慌ただしく機体を運搬していった。

メメス博士の娘サラ・チョップの姿で再生し、ヘイロ・マカカの思念を封じていたサラは、タノの戦線離脱と肉体再生が必要となったいまがチャンスと見て、タノの新しい肉体の再生に取り掛かった。彼女は自分の近くにタノの思念を感じ取っていたが、共感力を持たないサラにはそれほど関係がなかった。肉体がなければ、タノはサラの意識を読み取ることはできない。

ヘイロの新しい生体アバターはすでに完成間近であった。脳細胞は四肢が組み上がる前に活動を始めており、ヘイロの思念はより本来の姿に近い新しいアバターへと移っていった。その記録が取れ始めたころ、サラはひっそりと姿を消した。彼女はヘイロが目覚めぬうちに、ラライヤを伴ってザンクト・ポルトへ移動するつもりであったが、YG-111の中にラライヤの姿はなかった。

「パイロットはどうした」サラはヘイロの口真似で尋ねた。

「誰かの思念で操縦されていたのだと思っていました」ジオンの兵士が応えた。「最初からパイロットなどおりませんよ」

サラはYG-111に乗り込んでザンクト・ポルトへ急いだ。ヘイロは新たな肉体を得ても、自分の思念がサラ・チョップに操られていたことは思い出さないであろう。しかし、アバターであるはずの彼女が独立して動いているのを見られては、すぐに気づかれてしまう。

サラが操縦するYG-111は、目立たぬようひっそりとモビルスーツデッキを発進してそのまま帰ってはこなかった。

彼女を支援するかのように、ガンダムは姿を消した。カール・レイハントンはたびたびジャンプを繰り返すガンダムの動きに手を焼き、時間を操る何者かがガンダムのサイコミュに関与しているのではないかと疑い始めていた。

「妙な違和感があるのだ」レイハントンはそう呟いてから、話しかけたタノが近くにいないことを思い出し苦笑いを浮かべた。「仕方がない。いったん引き上げて態勢を立て直そう。どちらにしても、地球は予定通り閉じられたようだ。もうこれでラ・ハイデンは地球に関与できまい。ヘルメス財団との戦いはこれで勝負がついた。あとはあの男を味方につけて、永劫の安寧を地球にもたらすだけだ」


2,


カール・レイハントンがトワサンガに戻ったとき、すでにYG-111に乗ったサラの姿は消え、再生されたばかりのヘイロ・マカカが彼を出迎えた。彼女と思念を同期させたカール・レイハントンは、ヘイロの近々の記憶がまるでないことに驚いた。

「いったいどうしたのだ?」

「どうも調子が悪いのです」ヘイロは応えた。「サラの肉体がわたしと相性が悪かったとしか」

「思念と肉体の結びつきは切り離せないということか。まぁいい。ガンダムのパイロットのベルリは、ようやくアムロの思念を肉体に受け入れたようだ。どこへ逃げたのかわからないが、一緒にいたノレドという女性がニュータイプなのだろう。時間を移動するようだから、こちらも追いかける準備をせねばならない」

「それはおそらく不可能だと思われます」

「それを突き止めるのが君の仕事だ。どちらにせよ、あいつらは姿を消してしまった。タノの肉体が再生されるまで2週間はこちらも大きな動きはできない。たとえ数百年かかっても良いから、ガンダムを探し出せ。ジオンには優秀なニュータイプが必要だ」

「ラ・ハイデンはいかがいたしましょう?」

ヘイロはラ・ハイデン率いるビーナス・グロゥブ艦隊が地球圏を目指して移動していることを伝えた。彼らは月を激しく攻撃し、月面基地に残っていた人類すべてを降伏させて艦隊内部に吸収していた。

「ラ・ハイデンはああやってジオン以外の人類を助けていたのだ。あわよくば我らの背後を突くつもりだったのかもしれないが、戦争を忌避した文明体系が我々ジオンに敵うはずがない。それに、もう地球は閉じられた。勝負はついている。あいつらはあのまま金星に送り返せばよい。賢い男だから、言わずともわかるだろう」

それだけ告げると、カール・レイハントンは再びカイザルのコクピットに籠り、アバターを休息させるとの名目で思念の純化作業に入った。ヘイロはその姿について何も言わなかったが、タノがその危険性を警告していたようなボンヤリした記憶を思い出していた。

「ダメなんだ!」ヘイロは頭を叩いた。「なんだってあたしはサラの身体なんかに入っちゃったんだろう? そのせいで記憶に断絶が出来てしまった」

ヘイロはようやく取り戻した自分の身体を使い、サラの生体アバターの元データを調査した。そこで彼女が発見したのは、自分が入っていたサラの生体アバターが、アバターなどではなく、サラの肉体そのものであることと、サラの遺伝子情報の中に500年前の彼女の記憶が書きこまれていた事実だった。

「これは・・・」彼女は絶句した。「ジオンで研究されていた強化人間じゃないか。思念を分離する研究が進んでとっくに放棄されたはずの肉体改造技術を一体誰が・・・」

同刻。

虹色の膜が完全に地球を覆ってしまうのを見届けたクリム・ニックは、地球に刺さるように膜から突き出したキャピタル・タワーの最終ナット、ザンクト・ポルトに入港した。すっかりかつての機能を失ったザンクト・ポルトは入港手続きなどもおざなりで、彼はビーナス・グロゥブ製のモビルスーツであるミックジャックに搭乗したまま居住区へと侵入した。

ザンクト・ポルトでは呑気なことに、パーティーの準備が進められていた。

働いているのはキャピタルの役人やスコード教の関係者たちだった。その他にやたらと女性の姿が目立っていた。モビルスーツのコクピットからその様子を眺めていた彼は、地上から大声で呼び止められた。会場近くに侵入したことで叱られるのかと思ったがそうではなく、手伝えというのである。

「なんだというのだ!」

怒った彼はミックジャックに歓迎ボードを持たせたままコクピットから降りた。

「だが好都合かもしれない。これだけ混雑していれば目立たぬというものだ。しばらくここで潜伏させていただこう。式典のボードを持たせてあれば、ミックジャックを誰も動かそうとはしないだろう」

そういうとミックは、人でごった返すザンクト・ポルトに身を紛れ込ませた。

式典準備のためにザンクト・ポルトはかつてないほど人で溢れていた。訪れるのがビーナス・グロゥブ総裁だと知らされた住民たちは、地球の異変より神々の国から神が舞い降りてくるかのような事態に興奮状態になってしまっていた。そんな気分には到底なれないゲル法王とウィルミットは深く溜息をつき、その姿をカリル・カシスが遠くから窺っていた。

「上手くできるでしょうか」

ゲル法王は新教義を発見したときの勢いを失いつつあった。スコード教とクンタラの教えがアクシズの奇蹟を同根とする同じ宗教だとの彼の考えは、アメリアでこそ画期的と評されたが、同根であるからといって両者が歩み寄れる可能性は見い出されていないのだ。

ウィルミットは不安げなゲル法王を慰めた。

「法王猊下は、ビーナス・グロゥブのラ・グー前総裁から宗教改革の必要性を指摘されたとおっしゃいましたね。世界の大混乱で、宗教改革を考えておいでなのはおそらく宇宙でもゲル法王ただひとりなのです。それがすべてを魔法のように解決することにならないにせよ、必ず必要とされる時が来ますから。それを真摯に訴えればよろしいじゃありませんか」

ゲル法王は自分を奮い立たせるように何度も頷き、会場の設営を見守っていた。

ウィルミットやゲル法王の警護を担当するはずのラライヤ・アクパールは、警護の仕事などまったくできないほど様子がおかしく、式典準備で慌ただしくしていたことから誰にも気にも留められず、ザンクト・ポルトの中を彷徨っていた。その後ろをカリル・カシスの手下が尾行していた。

ラライヤは人の居住区域をあてどなくさまよっているように見えた。彼女を尾行するクンタラの女は、なぜこんな人物が警備担当など任されたのだと首を傾げるしかなかった。ラライヤの姿はまるで夢遊病患者のようだった。

夜になって、ラライヤはスコード教大聖堂の前でしばらく佇み、中へ入っていった。尾行者も後をつけて中に入った。ラライヤは礼拝堂の中央付近で立ち止まり、ぼうっとガラス造りの天井を眺めた。ザンクト・ポルトのスコード教大聖堂は全面ステンドグラスになっており、全方位から光が差し込み影が出来ないように工夫されているのだ。

そのときだった。ふとラライヤは尾行者に顔を向けた。驚いた女は偶然礼拝に来たように装った。ラライヤは少し離れたところから女に声を掛けた。

「クンタラの女」その声はラライヤのものではなかった。「命が惜しくば早々に立ち去れ。お前たちにここは必要のない場所だ」


3,


宇宙は自然から与えられるものが過小であるがゆえに全体繁栄主義となり、地球では自然から与えられるものが過大になるがゆえに個人尊重主義となる。自然から与えられるものの大きさが、人々の考え方の枠組みを違えるのである。

しかし、個人の尊厳や欲望には限界がある。満たされ尽くした個人はやがてその欲望の限界域を他者へと拡大していく。資源やエネルギーを個人に投入し続けると、個人は己が欲望を拡大させた似非全体主義者となる。彼らが唱える世界主義は、過大や過剰を前提としているために、分与が過小な地域において受け入れられず、過大な地域においても分与は重荷となるがゆえに破綻速度が速い。

すぐに使い物にならなくなる理想を唱えるアースノイドの権利拡充は、凝りもせず数年おきに新しい理想を考え出し、それが以前唱えた理想と矛盾していようが反省することがない。過大な分与のツケは、考え方を異にする極過小地域であるスペースノイドに負わされてきた。

そのような日替わりで内容が変わる理想を唯一絶対の価値観として押し付けられてきたスペースノイドは、やがて反乱という行動を起こすことになった。過小であるがゆえに全体繁栄主義を唱えざるを得なかった宇宙で暮らす人類は、地球から過大なものを得て肥大化していく一方の個人尊重主義者に対し、独立戦争を挑んでいくことになる・・・。

それが宇宙世紀初期に起こったことであった。

シラノ-5にドッキングしたラビアンローズ内に、警戒警報が鳴り響いた。ハッチが破壊されて、モビルスーツが1機侵入してきたとの報告が観測者との意識の共有で明らかになった。

そのとき、カール・レイハントンはカイザルのコクピット内にいた。カイザルのサイコミュはジオンのあらゆる観測媒体と情報を共有化していく。肉体が持つ脳機能によって自我の外殻を形成しているレイハントンは、半ばサイコミュと同期して情報を得ながら、感情のほとばしりは巧みに自我の中に封じ込めた。

レイハントンは侵入者の魂が追い求めてきた男だと見抜いた。

「ガンダムが来た。出る」

カール・レイハントンは短く交信しただけですぐさまカイザルを出動させた。ガンダムはラビアンローズのエンジン部分を攻撃したのちに、自動製造ラインまで進んでさらに破壊活動を行っていた。

「戦争は怖ろしいだろうけど、君はこの経緯を見ておかなくちゃいけないんだ。少し振り回されるけど、我慢してて」

ガンダムのパイロットはそうリリンに話しかけて落ち着かせた。リリンは本格的な戦闘に参加して動悸が速くなっていた。彼はしばらく攻撃を続け、ラビアンローズに小さな被害を与えたのち、リリンの体調を考えてラビアンローズの中心部を離れた。宇宙空間に出たガンダムは、虚空に消えた。

「間に合わなかったか」レイハントンはカイザルのコクピット内でガンダムが消えるさまを観測した。もうひとり少女が乗っていたようだ。どうやらあの娘が時間跳躍の鍵になっているようだな」

レイハントンはかつてサイド3があった宙域に漂いながらガンダムの足跡を追いかけたが、まるで検知できなかった。時間を飛び越えているのはわかるが、どの時間に隠れているのかまるで分らない。遅れてやってきたヘイロにもそれは感知できなかった。

「この程度のすぐに修理できる損傷を与えるためにわざわざ攻撃を仕掛けてきたのでしょうか?」

「アムロの狙いはおそらくラ・ハイデンと地球を共闘させてジオンを孤立化させることだろう。我々もラビアンローズを1隻失って不利な状況であることは変わりない」

「地球はすでにあのように閉じられてしまい、ビーナス・グロゥブ艦隊と共闘することはできそうにありませんが」

「そこなのだ。すべては計画通り事が運んでいるはずなのだが、小さなほころびがあるような気がする。ジムカーオとかいう男にまんまとラビアンローズを破壊されてしまった失態を繰り返さないとも限らないからな。だが、ああやってベルリの肉体にアムロの思念が憑りついてくれたことは良い兆候だ。ベルリはこの世界の絶望にいつか気づいてくれるだろう。それがアムロの翻意の手助けになってくれるはずだ。ザビ家はたしかに独裁であったが、ジオンとザビ家は違う。スペースノイドとアースノイドの意識の差というものを、ずっとこの地球圏にいて黒歴史すら観察する立場にあったアムロが気づかないのはおかしなことだ。アムロはいつか必ず気づき、わたしの同志となる」

「ノレドという女の気配はいたしましたか?」

「いや、それは感じなかったな。ベルリは彼女を大切にしていたから、どこかで降ろしたのか」

「でも、あのニュータイプの少女は乗っていたのでしょう?」

「あの子がいなければ時間跳躍が出来ないからか・・・。これもまたほころびのひとつかもしれぬな。ヘイロ、タノの生体アバターの再生を急ぎ、血迷ったラ・ハイデンがシラノ-5を攻撃してきた場合に備えておけ。スティクスを全艦配備。念のためにラビアンローズも切り離しておこう」

「そうですね。了解しました。あのフルムーン・シップとかいう船が大爆発でも起こしてくれれば手間が省けるのですけど」

「自滅するにせよ、氷河期で滅びるにせよ、未来の地球に人類という生体は必要ない。人類には未来まで生き延びる資格はないのだ」

「メメス博士のクンタラを除いてですね」

「それも害が顕著になれば滅ぼすまでだ」

そのとき、ラ・ハイデン率いるビーナス・グロゥブ艦隊は地球へ向かって進軍を開始したところだった。彼らは地球を観測不能な物質が覆い包んでいく様子を驚愕しながら監視し、同時に背後のトワサンガで起きた小さな爆発をもキャッチしていた。

「誰かがトワサンガに攻撃を仕掛けた模様です」

その報告を受けたラ・ハイデンは、直立の姿勢を崩さないまま目的地は地球だと杖を指して示した。内心で彼は、地球圏でレイハントンに逆らう人間がいることだけを記憶にとどめた。だがその力はまだ小さく、ジオンと戦うために必要な巨大な力にはなり得ていない。

彼は振り向くことなく地球圏の様子を探るために進軍を指示した。

無言を貫く彼の元に、伝令がやってきた。彼はラ・ハイデンの耳元で何事かを呟いた。ラ・ハイデンは小さく頷き、艦長席から立ちあがると床を蹴ってブリッジを後にした。

豪華な装飾が施された自身のための艦長室に入った彼は、そこに地球圏でアジア系と称される中肉中背の人物が脚を組んでソファに腰かけているのを見た。男はラ・ハイデンが室内に入っても立ち上がることも敬礼することもなく、静かにただ座っていた。

「ジムカーオという人物については、こちらでおおよそ調べはついているが、君で間違いないのだな」

「ビーナス・グロゥブ公安警察の、ジオ・ジムカーオと申します。といっても、公安にいたのはずいぶん昔のことですが」

「この方とわたしに何か飲み物を」そう侍従に命じた後、ラ・ハイデンは男の前に腰かけた「ピアニ・カルータがビーナス・グロゥブの警察官僚、ジオ・ジムカーオが公安警察。ずいぶん勝手なことばかりしてくれるものだね」

「ピアニ・カルータは前任者のラ・グーの方針に絶望してあのようなことをしたのでしょう。わたしはラ・ピネレに『カール・レイハントンとメメス博士を監視せよ』と命じられたから粛々と任務を果たしただけですよ」

「ラ・ピネレ! 500年前か・・・」

「ようやく報告の機会を得たということでよろしいか」

「そうだな」ラ・ハイデンは頷いた。「では聞かせてもらおうか」


4,


ムーンレイス艦隊に追われたルイン・リーは、厚い氷に覆われた南極大陸上空を逃げ回っていた。ムーンレイスの強力なジャミングにより、彼らの高速巡洋艦はいまだフルムーン・シップの船体を捉えてはいなかった。戦力差は歴然で、交戦となれば巡洋艦1隻の彼らクンタラ解放戦線に勝ち目はない。

ジムカーオに真実を告げられてから、ルインの表情は沈みがちであった。ジムカーオは彼に、オールドタイプは遅かれ早かれいずれ絶滅すると教えたのだ。しかしクンタラは生き残る。ジムカーオは「カルマの崩壊」という言葉を使い、スコード教の自滅を説いた。

それ自体は歓迎すべきことだった。ルインがよりクンタラ的であったとしたら、歓迎し、喜ばねばならない。だが、ジムカーオは、ルインの生き方がクンタラ的だとは認めてくれなかった。より正しく生き、清らかなまま魂をカーバに運ぶことがクンタラの本懐だと諭されたとき、ルインの心は絶望に満ちてしまった。だとしたら、なぜあなたは戦う手段を自分に与えたのか・・・。その抗議も、いまとなっては虚しい。

ルインは、クンタラがいずれ安息の地カーバに辿り着くとの信念から、この世界のどこかにカーバを作り出そうともがいていた。それはつまるところ、クンタラの教えを信じていなかったのだ。ルインは、信じていないがゆえに、自らの力を使ってこの世のどこかにカーバと名の付く土地を作り出そうとしていただけなのだ。どうやらそれは間違っていたようだ。

しかも、キャピタル・テリトリィ運航長官の養子でトワサンガの王子だと思っていた男が、血筋から言えばクンタラなのだという。それは、カール・レイハントンのアバターは子孫に遺伝子情報を受け継がず、クンタラであった母サラ・チョップの遺伝子形質で子供が作られるからだ。クンタラは血縁ではなく、クンタラの教えを守ることがクンタラである条件であるのだから、ベルリはクンタラではない。そう思ってみてもなお、ルインには虚しさだけが残った。

憎んでいた男には憎まれる理由はなく、むしろ彼はクンタラのために戦っている可能性すらある。

「ルインの旦那、このままじゃあいつらどこまでも追ってきやすぜ。何とかしないと」

「わかってる」

もうひとつの心配点は、空に起こった異変であった。南極の晴れ渡った青空は、いまや不気味な油膜のような虹色の何かに覆われていた。オーロラとは違う、もっと禍々しいものであった。強い圧迫感がクンタラ解放戦線の荒くれ者たちの心にも強い影響をもたらしつつあった。

戦うか、降伏するか、逃げ続けるか・・・。ルインはいまだ決めかねていた。

ベルリの説得を受け入れてフォトン・バッテリーの海洋投棄を諦めたフルムーン・シップのマニィは、メガファウナを受け入れ艦に引き入れるところまでは決断できずにいた。彼女は一縷の望みをかけてルインとの約束の場所、旧アルゼンチンの永久凍土地帯までやってきたが、やはりそこにルインの高速巡洋艦の姿はなかった。

「マニィ」ベルリの呼びかけは続いていた。「もう回線は開いてあるんだろ? 聞こえているなら返事をしてほしい。フルムーン・シップはビーナス・グロゥブ艦隊に返すしかないんだ。フォトン・バッテリーは、強奪という手段で奪っていいものではない。そんなものを抱えていたって、キャピタル・テリトリィは奪えない。暴力の時間は終わったんだよ、マニィ。わかってくれ」

ルインの船がムーンレイス艦隊に追尾されていると知ったマニィは、半ば諦めつつあった。このままベルリに降伏したらいいのか、ルインと合流するまで逃げ続ければいいのか、マニィには答えが出せないでいた。

フォトン・バッテリーを奪ってしまった事実は変えられない。大人しく降伏をして、裁きを受け命を失うのはまだいい。もし自分が虜囚の身になった場合、ビーナス・グロゥブに残してきた娘のコニーはどんな扱いを受けるだろう。マニィはそんな心配をしていた。

ステアはじっとマニィの決断を待った。メガファウナはジャミングを掛けていなかった。フルムーン・シップは行く当てがないまま南極方面へ少しずつ移動していった。そのレーダーが、ようやくルインの乗る高速巡洋艦の影を遠くに捉えた。

マニィはレーダーを睨みながら合流ポイントを探し、ルインに対して必死に呼びかけた。応答はなかった。レーダーに映る船影が徐々に近づいてきたとき、ルインからの応答がない理由が分かった。ルインはムーンレイスの大艦隊に追われていたのだ。クンタラであるがゆえに受けてきた屈辱がマニィの心を支配した。いつだってクンタラは少数で、石をぶつけられて生きてきたのだ。そんな自分たちの理想の世界を作るために立ち上がったルインが、なぜこのような扱いを受けねばならないのか。

現実の世界を守ることは、マニィたちにとっては差別主義者を助け、自らを鞭打つのと同じであった。殴られ続け、虐げられるだけの世界を守るために、決して英雄になることのできない自分たちが手を貸す必要があるのか。英雄になる人間はスコード教の人間であると最初から決まっている。それにムーンレイスも加わり、クンタラはルインとマニィの名において更なる差別を受けることになるのか。ふたりの子であるコニーはいったいどれほど酷い扱いを受けるのか。

マニィは決断した。

「全速でルインと合流。急いで!」

ステアはマニィの鬼気迫る表情から、これはもう助からないなと覚悟を決めて舵を切った。快晴の南極大陸の上空に、フルムーン・シップは上昇していった。ルインの高速巡洋艦も、肉眼でフルムーン・シップを確認して近づいてきた。マニィはチラリとステアの顔を見て、乗組員を逃がすべきかどうか迷った。フルムーン・シップにはぴったりとメガファウナが追いかけてきている。もし乗員を逃がそうと慌てたそぶりを見せれば、彼らは迷うことなく艦に乗り込んでくるだろう。

「みんな、すまないね」マニィは諦観した声で小さく呟いた。

フルムーン・シップはマニィの指示でどんどん高度を上げていった。その動きに危険を察知したメガファウナとムーンレイス艦隊は距離を置いて船影を反転させた。追いかけてくるのはルインの船だけだった。マニィにはルインが自分を呼んでいるような気がした。ルインはマニィに、やめろと呼びかけていた。そうか、ルインは何かを知ったんだとマニィは思った。ルインの話を聞くためにもう一度顔を合わすべきだろうかと彼女は迷った。

その迷いは、きっと彼女の覚悟を萎れさせてしまうだろう。そして再びルインとマニィは捕らえられ、再び人類の敵として裁かれ、クンタラの評判は地に堕ちる。

この世界さえ消えてなくなれば・・・。

「この世界さえ消えてなくなれば、人類が消えていなくなれば、差別の歴史は終わる! 苦しみの時代は終わる! 悲しみは忘却される! フォトン・バッテリーを海に捨てて! 醜いこの世界を破壊し尽くせ、フルムーン・シップ!」

フォトン・バッテリー保管庫で準備していたクンタラ解放戦線のメンバーは、マニィの言葉が何をもたらすのか検証することなく、嬉々として指示に従った。彼らはマニィの苦しみの決断が、苦しみからの解放を意味するのだと咄嗟に悟っていた。

ビーナス・グロゥブの船員たちが恐怖のあまり口々に叫び声をあげるなか、フォトン・バッテリーは海に投下された。

「さよなら、ルイン、コニー。もしこの世にカーバがあるのなら・・・」

マニィの言葉が終わらぬうちに、フルムーン・シップは大爆発を起こした。

高高度で引き起こされた巨大な爆発は、オゾン層に巨大な穴を空け、さらに地球を覆っていた虹色の膜さえも吹き飛ばした。

同じころ、ザンクト・ポルトの大聖堂では、ジオンの地球隔離システムが破れたことを、ラライヤだった少女が感知した。

「さあ、人々よ。カーバに導かれなさい」


次回、第49話「自然回帰主義」前半は、11月1日投稿予定です。

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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第48話「全体繁栄主義」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第48話「全体繁栄主義」前半



1、


突然のアイーダの訪問を受け、そこで自らの未来を幻視したウィルミットは、衝撃の大きさに驚きこの世界が現実ではないことを受け入れた。アイーダのG-アルケインでアメリアへ送ってもらった彼女は、フォトン・バッテリーが減らないという話を目で見て確認し、幻視が正しかったことを実感した。

それからずっと彼女は、自らの未来の記憶に悩まされていた。未来においても彼女はゲル法王とともにザンクト・ポルトに上がり、ラ・ハイデンを出迎えたのだった。自分が未来においてそのような行動に出たのは彼女にはよく理解できた。彼女は、キャピタル・テリトリィを治めてくれる真の男を求めていた。政治と行政のトップに立つ彼女だからこその願いであった。

幻視によって事のすべてを知り得たわけではない。自分の未来の記憶とアイーダ、クリム、ラライヤの記憶が同時に流れ込んできて、状況は彼らの間で共有されたのだ。既に死亡しているミック・ジャックの記憶は共有されていない。その事実もまた、幻視に信憑性を与えていた。

地球への侵略がジオンに阻まれたラ・ハイデンは、地球圏への関与を諦めてビーナス・グロゥブへと戻っていった。地球は虹色の膜に覆われて侵入不可能となり、次いでフルムーン・シップの大爆発が起こった。その威力はすさまじく、堅牢なキャピタル・タワーでさえ危うく倒壊しかけた。数か月間、彼女はザンクト・ポルトで孤独に耐え、爆風が収まったのち、氷に覆われた地表に降り、絶望の果てに自死を選んだ。

自分が取ったその行動もまたよく理解できた。なぜなら彼女は、ラ・ハイデンにリリンのことを託していたからだ。リリンを逃がし、ベルリとの再会も絶望視となると、彼女に生きている意味はなくなってしまう。それゆえの自死であった。

しかし、このやり直しの世界ではそうなっていない。ビーナス・グロゥブに引き取られたはずのリリンはベルリとともに地球圏へ戻っており、誘拐されたとはいえ地球にいることが分かっている。またベルリの健在も確認できた。そうとなると話は変わってくるのだ。ウィルミットは戦う気力を取り戻していた。

ザンクト・ポルトにおいてクンタラたちが生き延びると知ったウィルミットは、カリル・カシスを優遇することでリリンの身柄の安全を保障してもらった。リリンが戻ってきた暁には、彼女を安全圏であるザンクト・ポルトに避難させられる。そして彼女は、ベルリとともに地球の破滅を避ける戦いに身を投じる。ベルリはフルムーン・シップを止める戦いに身を投じ、自分はラ・ハイデンを歓待しながら彼の侵略意図を探り、思いとどまらせねばならない。

アメリア艦隊から脚の速い小型輸送機を譲り受けたウィルミットの一行は、ラライヤが操縦するG-アルケインの護衛を受けながらキャピタルに到着した。

ウィルミットを警戒するカリル・カシスは、リリンの安全をいわば人質のようにして行動の自由を保障されていたが、もとより気に食わない相手であり、警戒心は解いていなかった。ビクローバーの地下にメメス博士のメッセージが遺されていた問題は、本来であればタワーの運航長官であるウィルミットと情報を共有した方がより正確なことがわかったであろう。しかし、もしその際に自分たちクンタラに不利な情報が出てきた場合、身の安全すら保障されなくなってしまう。そこでカリルはウィルミットにメッセージのことは隠すことにしていた。

運航長官がタワーの再起動の準備をしている間、カリル・カシスはキャピタル・テリトリィのクンタラたちから若い女性たちを集めることにした。生命を繋いでいくことにおいて重要なのは女性の存在である。男などはそれほど多くは必要とされない。彼女にとって悩ましいのは、キャピタルはゴンドワンやアメリア、そしてクンタラ解放戦線支配後は世界中からクンタラが集まってきており、ただクンタラというだけでは選別が出来ないことだった。

クンタラといっても地域によって考え方に大きな差異があるのは、アメリアで生活したカリルにはよくわかっていた。カリルにとってクンタラとは、キャピタルで艱難辛苦を共にした仲間たちだけであった。

「キャピタルの若いクンタラの女だけだと何人くらいになりそうかい?」カリルが尋ねた。

「1000人くらいなら何とか。クラウンは何往復くらい出来るか聞いてます?」

「もうそんなに時間はないそうだ」カリルが応えた。「最悪ザンクト・ポルトを武力制圧することを考えると数はたくさん欲しいところだけど、向こうのキャパシティってものもあるから、常時1000人くらい常駐してるっていうスコード教の坊主と同じくらいの数となると、やはりその1000人で打ち止めってことになりそうだね。ラ・ハイデンの歓迎セレモニーのアルバイト名目でいいから、当日までにちゃんと数を揃えておいてくれ」

「坊主と同じ数だけ?」

「スコード教の坊主を追い出してあたしらが君臨するんだよ」

「なるほど。さすが姐さんです」

「ルイン・リーがサポートしてくれると助かるんだが、あいつはムーンレイス艦隊に追われちまってるからなぁ。じゃ、とにかく名簿を作っておいてくれるかい? ザンクト・ポルトに乗り込めさえすれば、メメス博士の予言通りあたしたちの世界がやってくるさ。スコードの時代は終わるんだよ」

カリル・カシスが人選を終えたころ、護衛として同行するラライヤ・アクパールはG-アルケインのクラウン搬入に立ち会っていた。

「ラライヤ」ケルベス・ヨーが明るい声で呼びかけた。「何が起こってこういうことになったのか知りたいところではあるが、あえて聞くのはよしておくよ。それより、オレはいまキャピタルを離れるわけにはいかない。治安が悪くてな。長官のことは頼むぞ」

「ええ、それは」ラライヤは考え事をしていたのか、気のない返事をした。

「なんだかずっと元気がないようだが、メシは食っているのか? また痩せたように見えるが」

「ええ、大丈夫です」ようやく笑顔を取り戻してラライヤが振り返った。「ケルベスさんは理想社会は実現すると思いますか?」

「理想社会? また随分難しいことを考えていたんだな。理想社会なんて実現しないさ」

「え? またなんで?」

「オレは教師をやっていたからな。働くことから逃げて楽をしたがり、犯罪に手を染めていく生徒を何人も見てきた。労働はつらいものだ。人間が労働の対価で生きていく以上、苦労ばかりが人生だ。一方で人間は理想という言葉と天国という言葉を一緒に考えてしまっている。理想社会は天国のような社会だと思い込んでいるだろう? 天国ってのは労働から解放された死の世界だ。つまり、理想社会はこの世には存在しえないのさ。もしあるとすれば、大勢の奴隷に支えられた貴族さまだけだろう」

「ああ、そうなんですね。でも、それはトワサンガの理想社会の概念とはちょっと違っているようです。宇宙では労働は当たり前で、労働があるから理想社会が実現しないとは考えない。労働することを前提に、理想社会の実現を模索している」

「個人が全体の繁栄に寄与することが前提になっているというわけか。言われてみれば、全体の計画の中に個人の労働が当たり前のように組み込まれなければ、宇宙では生きていけないもんな。地球は全体の繁栄であるとか環境維持は地球に依存できるからなのか、個人の尊重に価値観の比重が掛けられているのは確かに感じるかな。結局、いま起こっているのはそういう問題なのだろうか?」

「スペースノイドとアースノイド。これは同じ人間でありながら、根本概念を異にしている。この問題を解決しない限り・・・」

G-アルケインの搬入が終わり、ラライヤが書類にサインを求められて去っていくのを見送ったケルベスは、自分の生徒たちがあまりに重責を背負わされていることを気の毒の思った。

そういう彼自身も、無能な議会を招集させないために独裁者の体を保っているのだから同じような立場であった。


2,


クラウンは2日後に出立した。

乗り込んだ人間は、ゲル法王とスコード教関係者、ウィルミットと運行長の職員数名、あとの大部分は歓迎式典のスタッフ名目で乗り込んだカリル・カシスとクンタラの女性たちであった。

彼らがザンクト・ポルトに到着したとき、地球の表面を虹色の膜が覆っていくのが観測された。ウィルミットにとってそれは2度目の体験であった。絶望にも似た重い気分を抱えたまま、彼女は気力を奮い起こしてラ・ハイデンの歓迎式典の準備に取り掛かった。

ゲル法王は、自分の役割がラ・ハイデンの地球侵略を翻意させることであることをようやく理解し、責任の重さに1日に何度も失神するようになった。そんな法王を叱咤しながら、ウィルミットはどうしてこんな混乱の世界に真の男が現れてくれないのだろうかと嘆いていた。

ラ・ハイデンのビーナス・グロゥブ艦隊は、まだ月の遥か先にいた。歓迎式典の準備は、カリル・カシスのグループが滞りなく進めてくれていた。時間に余裕を感じたウィルミットは、スコード教の大聖堂を訪ねてみた。するとそこにはラライヤがいた。彼女は何をするわけでもなく、大聖堂の屋根の上を眺めていた。

同じころ、アメリアでも上空を虹色の膜が覆っていくのが観測された。アイーダは自分の執務室の窓からそれを眺めつつ、ああ自分の記憶はここで途絶えたのだとウィルミットの長官室で体験した幻視のことを思い出していた。なぜそこから先の記憶がないのか、彼女にはわからない。しかしいまの彼女は、世界の観察者としての自分の意識が連続して途切れることなく続いていることを実感していた。

「始まったのだ」アイーダは思った。「世界がどうなっているのかわからないことだらけだけど、やるしかない。人類を絶滅させたりしない。ラ・ハイデンや、カール・レイハントンの思い通りにもさせない。わたしは、グシオン・スルガンの子、アイーダ・スルガンなのだから」

メガファウナでも同様のことが起こっていた。青い空に広がっていく虹色の膜を見るために、ドッグを出た大勢の人間が額に手をかざして上空を眺めていた。

そこに、ローゼンタール・コバシの大声が響き渡った。

「消えた」コバシは腰を抜かさんばかりに尻もちをついていた。「目の前から消えたよ」

「何が?」クン・スーンが振り返った。

「ミックジャックとかいう青いモビルスーツ」コバシが応えた。「びっくりしたー」

クリム・ニックの姿は消えてなくなっていた。出航時間が迫っており、クリムのモビルスーツがいなくなったことは軍上層部に報告されただけで代わりのモビルスーツが補充されてきた。それがアメリア軍のクリムがいなくなったことに対する反応だった。

メガファウナは再武装を終えたところで慌ただしく出航した。まだ確認せねばならないところが多く残されていたために、飛びながら整備が進められた。この作業にはジット団のメンバーも駆り出され、慌ただしく仕事をしていたためにクリムのことはすぐに忘れられてしまった。

メガファウナのメインモニターには、大気圏突入を果たしたフルムーン・シップが映し出された。すでに空力加熱は収まり、速度も落ちていた。フルムーン・シップはアメリアを目指しており、数時間後にはメガファウナと接触する見込みであった。

ドニエル艦長は各モビルスーツパイロットに出撃準備を指示した。パイロットスーツに身を包んだベルリは心配して駆け寄ってきたノレドの肩を抱き寄せ、すぐにブリッジに上がるよう促した。

ノレドがブリッジに上がると、通信士がしきりにフルムーン・シップに対して呼びかけを行っていた。しかし相手からの応答はなかった。地球を虹色の膜が覆ってからフルムーン・シップが爆発するまでの正確な時間はわかっていない。いつ爆発するかわからず、爆発してしまえば地球は滅亡してしまう。ブリッジチーフのギゼラは辛抱強くあらゆるチャンネルで交信を試みた。

そうしている間にも、虹色の膜はどんどん大きくなって太陽の光が金属の光沢のように歪められていった。G-セルフのコクピットに収まったベルリは、ジオンの自然観に恐怖心を感じた。彼らスペースノイドは、コロニーの中で再現される自然観を超越することができないのではないか。大きな入れ物の中に土と水と光と種を入れて再生される自然と、地球の自然はまったく違うものだ。

ジオンが地球を閉じるのは、地球全体を巨大コロニーとして管理するためであった。ベルリは虹色の膜に閉じ込められながら、宇宙にいるジオンの思惑を感じ取った。

ジオンにとって必要なのは地球というコロニーであって、それぞれが繋がり合った生命の胚ではない。スペースノイドであるジオンには、生命が繋がり合った可能性の胚だとの自然観がない。地球の自然にとって、人間は絶対的に必要な存在ではなく、人類滅亡後に別の生物が地に満ち支配者となろうが、知的生命体がいようがいまいが、大型生物が跋扈しようがしまいが、大陸がなくなり海生生物ばかりになろうが、関係がないのだ。

地球という生命の胚は、あらゆる可能性を探る。どのような条件下にも生命を生み出し、その生命の行く末など考えもしない。ただ生み出すばかりである。生れ出た存在は、手段を選ばず生命の永遠性を追求し、ある存在は永続し、ある存在は短命で終わる。創造に終わりはなく、その可能性は人間という道具を使って外宇宙にまで進出した。

スペースノイドの人間中心主義、科学万能主義は、生命の胚の一端を学び、それを宇宙に持ち出した人間が、自らを創造主と位置づけ、錯覚を起こした結果ではないのか。

宇宙空間で生き延びるために金属で大地を作り上げ、資源を集めて地球環境を再現する過程で、スペースノイドは創造主と同じことが自分にもできると錯覚したのか。だとしたら、生命の胚の一部でしかないアースノイドと、それを作り上げたと錯覚したスペースノイドが相容れるはずがない。宇宙にあるものはすべてが地球の模倣に過ぎない。人類は生命の胚の連なりのごく一部にしか過ぎない。環境に適応させた実験体のひとつに過ぎないのだ。

ジオンだけではない。ビーナス・グロゥブも同様である。彼らもまた、人間を生命の胚の外側にあるものと位置付けている。だから神治主義の妄想さえ抱いてしまう。だがその実、彼らが作り出した重力さえ完全ではなく、彼らの肉体は宇宙環境に馴染まずムタチオンを起こしてしまった。

だからこそ彼らは自然を求め、レコンギスタを夢見るようになった。レコンギスタの試みは、自然回帰主義であったはずだ。そこに、ピアニ・カルータという人物が現れて、人工的な競争で人工的に進化を促そうとした。彼らスペースノイドには、生命の胚の実験体の一部として、死を受け入れる覚悟がなかった。ムタチオンに苦しむ肉体が地球環境に適応しなかったのならば、彼らは死を受け入れるしかなかったのだ。

ベルリの頭上を、虹色の膜が覆っていった。自然はジオンに管理され、ジオンに観察されようとしている。

スペースノイドは、宇宙に持ち出した生命の胚のごく一部から得たエネルギーを分け合い、生命を維持しなければならない。スペースノイドはより効率的に社会を運用し、強い義務意識で労働をこなし、生産物を平等に分け合う。その全体繁栄主義は、地球の個人尊重主義より優れた点があるのは事実であるが、全体を管理することが出来るという思い込みがアースノイドとの決定的な差であった。

地球全体を管理することなどできない。地球を膜で覆っても、地球はスペースコロニーにはならないのである。

全球凍結の危機でさえ、地球はその環境に適した新しい生命を生み出すだけなのだ。

ベルリは心の中で強く念じた。

「カール・レイハントン、そしてジオン。お前たちは間違っている」


3,


大気圏に突入したフルムーン・シップのブリッジは、ビーナス・グロゥブの乗員と彼らに雇われたステア、それにクンタラ解放戦線が睨み合っていたが、ステアとマニィの間でフォトン・バッテリーを折半する約束が交わされて船は地球を目指し、艦隊に戻ることが出来なくなっていた。

ビーナス・グロゥブの乗員は数名を残してブリッジの外へ放り出されてしまい、ハッチは厳重に封鎖された。

ステアはフォトン・バッテリーの枯渇で困窮しているであろうアメリアにバッテリーを運ぶつもりでいた。彼女はカール・レイハントンの存在のことをいまひとつ理解しておらず、ビーナス・グロゥブ艦隊と戦うためのフォトン・バッテリーが必要だと考えたのだ。

一方でマニィはルインと約束した南極近くの地点にフォトン・バッテリーを運び込み、そこを拠点に再びキャピタル・テリトリィを奪取するつもりでいた。

クンタラ解放戦線の中にフルムーン・シップのような巨大艦を操舵できる人間はおらず、ステアの存在は欠かせない。彼女は先に南極へ向かえば自分は殺されると考えた。そこで取引を持ち掛け、アメリアでフォトン・バッテリーの半分を降ろしてから南極へと向かい、残りの半分をクンタラ解放戦線が搬出してそのまま彼らは下船することとした。

「南極で残りのバッテリーを降ろした後は我々は開放してもらえるのですか?」ビーナス・グロゥブからやってきた乗員は恐るおそる尋ねた。

「こんな運搬船は持っててもしょうがない」マニィが応えた。「爆破してしまってもいいけど、ラ・ハイデンって人物と事を構えるのも得策じゃない。あんたたちは・・・」

「あんたたちはバッテリーの搬出が終わったらわたしと一緒にアメリアへ戻ってもらう」ステアがいった。「ラ・ハイデンがどんな人物なのか知らないけど、あんたたちとフルムーン・シップは人質として役に立つはずだ。ビーナス・グロゥブ艦隊には何もせずに帰ってもらわなきゃいけないからね。いくらバッテリーを供給してくれるからって、よくわからない理由で侵略されてたまるもんかい。わたしたちだって生きてるんだ」

その言葉を聞いてマニィは何度も頷いたが、実はステアは別のことを考えていた。

アメリアでバッテリーの搬出をしながら何とか軍と連絡を取り、フルムーン・シップを制圧してもらおうと目論んでいたのだ。これからビーナス・グロゥブと戦争をしなければならない(と、ステアは思っていた)アメリアには、戦力差はともかく同等のエネルギーが必要になるはずだった。ビーナス・グロゥブ艦隊にクレッセント・シップに満載されたフォトン・バッテリーがあるなら、アメリアにはフルムーン・シップのバッテリーすべてが必要になる。

そんなステアの思惑を、マニィもうすうす感じ取っていた。ただでさえフルムーン・シップの中にいるクンタラ解放戦線のメンバーは少なく、船員の1割程度である。ルインが船に乗り込んでいたときに武器を押収してあるとはいえ、敵地であるアメリアでは圧倒的に不利になる。しかも相手はアメリア正規軍。白兵戦に持ち込まれては勝ち目はない。

とはいえ、強情なステアの考え方を変えさせるのは容易ではない。彼女をブリッジから出せば、逃げられる可能性が高まる。彼女がいなければ、フォトン・バッテリーを約束の場所まで運べない。彼女をブリッジに残したまま、アメリア軍と接触せずにステアを満足させなければならないのだ。

ステアとマニィがそれぞれに思惑を秘め、腹を探り合っているときだった。モニターを監視していたビーナス・グロゥブの乗組員がこわごわとマニィに報告した。

「アメリア軍より通信回線を開くように要求が来ておりますが・・・」

「すぐに開いて」そ、ステアがいった。

「いや、ダメだよ」マニィがそれを制し、ステアの横に立って耳打ちをした。「事前連絡はなしにしてもらう。このままアメリア近海に向かって進み、東海岸の海にフォトン・バッテリーは投棄してもらう。すぐに引き渡したら追手をかけられるからね」

「海に落とす?」

「サルベージして引き上げられる。おそらくアメリアのフォトン・バッテリーは尽きているだろうから、サルベージしてバッテリー交換をしている時間があれば、南極まで逃げられるはずだ。そういう約束じゃなかったかい?」

「・・・、イエッサー」

ステアは了解するしかなかった。しかしまだステアはアメリア軍との接触を諦めてはいない。そんな彼女の気持ちを読んだマニィは、フルムーン・シップのすべての回線を閉鎖して誰も通信できないように指示を出した。銃を突き付けられたビーナス・グロゥブのブリッジクルーは、黙って従うしかなかった。

「当艦はこれよりビーナス・グロゥブ艦隊を装ってアメリア領内に侵入する。万が一アメリアからの攻撃があった場合はビーム砲で応戦する。望遠で敵艦隊をメインモニターに映して」

フルムーン・シップのメインモニターに、赤い船体のメガファウナが大写しにされた。ステアはそれを見て口笛を吹きかけたが思いとどまり、内心ほくそ笑んだ。マニィは苦虫を噛み潰したような顔になったが、一方で大艦隊でなかったことに胸を撫で下ろしもした。

「おかしいね」マニィがいった。「メガファウナは装備を外して輸送艦として宇宙で運用されていたはずだ。なんで地球にいるのか。それに、砲門も取り付けられている・・・。フォトン・バッテリーはもう尽きているはずなのに」

そのメガファウナからは通信を求める信号が絶え間なく送り続けられていた。それらは信号としてはキャッチされていたが、受信側で遮断され、映像も音声も再生されることはなかった。

そのころメガファウナはフルムーン・シップに対して必死に呼びかけていた。

「応答がありませんね」ギセラが肩をすくめた。「本当にステアが操縦してるんですか? 彼女がいればすぐに応答してきそうなものですけど」

「半分は地球の人間がいるって話だったけどな」ドニエルも首を捻った。「でもあちらさんは戦争しに来てるんだ。あらゆることを想定しておかないと」

そこにG-セルフのコクピットに座ったベルリから通信が飛び込んできた。

「月に来ている艦隊の目的は戦争ですけど、フルムーン・シップは違いますよ。クンタラ解放戦線が船を乗っ取ってフォトン・バッテリーを地球に運んで来てるんです」

「でもよ、クンタラの連中は南極に行ってて、ムーンレイス艦隊が追いかけているんだろ? じゃあなんでフルムーンはこっちに来てるんだ? 艦隊の先発隊じゃないのか?」

「輸送艦で攻撃仕掛けるはずがないでしょ。きっとブリッジで何か揉め事があったんですよ。直接出向いて確かめて来ます」

そういうとベルリは、メガファウナのモビルスーツデッキから発艦し、青い空に向かって飛び立っていった。

「メガファウナ、モビルスーツを発進させました!」

デッキクルーの緊張した声がフルムーン・シップに響き渡った。

「G-セルフ、ベルリだ! わたしに交信させなさい!」

ステアはマニィを睨みつけたが、マニィは首を横に振って大声で指示を出した。

「こちらもモビルスーツ発進。何機出られる?」

「2機なら何とか」モビルスーツデッキから帰ってきた応えは心もとないものだった。

「構わないよ、G-セルフをこっちに近づけなきゃいい。どうせベルリは攻撃できないさ」


4,


「モビルスーツを出してきた?」ベルリは心底驚いた。「しかも、ビーナス・グロゥブのモビルスーツがたった2機。ということは・・・、艦を支配しているのはクンタラ解放戦線のマニィだ。クリムさんの情報通り、ルインは南極に逃げている。接触してみる!」

G-セルフは速度を上げて右に旋回し、出撃してきた敵のモビルスーツをフルムーン・シップから引き離しながら徐々に接近していった。何度も呼び掛けたもののまったく応答がない。接触回線を開いて直接話をしてみるよりほかないが、敵はビームライフルを使用してきた。

「ベルリ!」ドニエルから通信が入った。「30分でフルムーン・シップとランデブーする。この中で事情を知っているのはお前だけだ。どうする?」

「フルムーン・シップを制圧しているのはおそらくクンタラ解放戦線です。南極に向かうはずですが」

「進路はまっすぐアメリアの東海岸に向かっている。防衛ラインに入ったら正規軍と交戦になるぞ」

「その前にぼくらで説得しなきゃ」

「ビーム砲の射程内に入ったらシールドが長くもたんぞ」

ベルリは決断するしかなかった。彼はG-セルフのビームライフルを取り出し、躊躇なく2機の敵モビルスーツを撃墜した。炎を吹き、炎上した機体が海に落下していく。たとえパイロットが生きていたとしても、彼らを救助する者はいない。ベルリは唇を噛んでフルムーン・シップに向かった。

「このG-セルフ、まったく同じように見えるけど、本当に同じなのか。ラライヤが乗ってきたってことは、ジオンが作ったものじゃないのか?」

そのとき、フルムーン・シップからビーム砲が放たれた。ベルリは咄嗟にシールドを張ったが、それは巨大な円となり、G-セルフとメガファウナを守った。

「ぼくが盾になります」ベルリがいった。「メガファウナはフルムーン・シップにフォトン・バッテリーを搬出しないように呼びかけてください」

フルムーン・シップからは何度もビーム砲が放たれたが、すべてベルリに防がれた。ベルリはメガファウナの先頭に立って突き進み、速度を上げると複雑な形状をしたフルムーン・シップの船体の中央付近に潜り込んで、ブリッジにぶら下がった。メインモニタがステアの姿を捉えた。

「接触回線で聴こえてるでしょ。すぐに停船してください。ラ・ハイデンはフォトン・バッテリーを船外に出したらフルムーン・シップを爆破すると警告してきています。すぐに停まってください」

するとマニィが奥から駆け寄ってきてマイクを掴んで怒鳴り始めた。

「なんで月に到着したばかりのラ・ハイデンの警告を地球にいるベルリが知ってるのさ。ウソも大概にしなッ。人類が半年暮らせるだけのフォトン・バッテリーの半分をアメリアにくれてやるって言ってるんだ。全部奪おうたってそうはさせないよッ!」

「マニィ・・・、マニィ・アンバサダ、これはウソじゃない」

「あたしはクンタラ解放戦線のマニィ・リーだッ。そんな名前の少女はとっくに死んだのさ」

「いまフォトン・バッテリーはどれも満タンで減らないんだ。メガファウナだってああやって飛んでるだろう。このG-セルフだってそうだ。いろいろ複雑な事情があって」

「いらないならクンタラ解放戦線が全量いただくことにする。それで文句ないね」

「いやだから、外に出したらフルムーン・シップが自爆してフォトン・バッテリーの全エネルギーが放出されてしまうんだ。ものすごい爆風が起きて地殻の表面が吹き飛んで地上の生物が絶滅してしまう。それくらいの量が積まれているんだよ。爆発させてはいけないんだ」

「信じられないね」マニィは頑なだった。「ビーナス・グロゥブの人間はムタチオンで苦しんでて、みんなレコンギスタしたがってる。それなのに地球を滅ぼすようなことをするはずがない」

「ああ、もう!」ベルリはヘルメットを脱いで頭を掻きむしった。「ルインやクリムと一緒だったならカール・レイハントンのことは知っているだろう? 彼は肉体を持たない思念体という存在で、何百年でも何千年でも関係なく生き続ける。そんな存在が地球圏を支配するから、ビーナス・グロゥブはレコンギスタ政策を放棄せざるを得なくなるんだ。地球はジオンのものになるんだよ。彼らは地球の生物が滅びたって、遥か未来に環境が再生されればそれでいいと思ってる。でも、ぼくらは困るじゃないか。クンタラ解放戦線のみんなも死んでしまう。それじゃいけないだろ?」

「どんな理屈を考えて乗り込んできたのか知らないけどさ、フォトン・バッテリーはいらないってんならとにかくメガファウナを下がらせろ。でなきゃ、ベルリの話が本当なのかどうか、いますぐフォトン・バッテリーを海に落として試してやるよッ!」

「メガファウナを下げることはできない」ベルリは首を横に振った。「マニィはルインと南極で落ち合うつもりなんだろう? それだってぼくらは知ってるんだ。そしてフォトン・バッテリーを使ってキャピタル・テリトリィを攻撃したいはずだ。でもそれじゃ必ずフォトン・バッテリーを船外に出してしまう。それをやれば地球はおしまいなんだ。試すも試さないもないんだよ」

「南極に進路を取れッ!」マニィがステアに命令した。「残念だったね。アメリアはフォトン・バッテリーはいらないってさ」

「あんた」ステアが呆れた声でいった。「ベルリの話が本当だったらどうするつもりなんだい?」

「人類が滅亡するなら上等さ」マニィは小声で応えた。「どうせあたしたちにはわずかな望みしかない。だからあたしはコニーをビーナス・グロゥブに残してきたんだ。あそこにいれば、クンタラの子だって差別もされないだろう」

ステアは言われたとおりに大人しく舵を切った。そしてベルリに目配せをしていったん離れるように促した。合図を察したベルリは、ハッチを閉じてG-セルフをメガファウナの方向へ移動させた。メガファウナは速度を落とし、しかし離れることはせずに一定の距離を保ったままフルムーン・シップを追いかけた。

「あんたさ」ステアは小さく溜息をついた。「そんなの個人的なことじゃないか。ベルリが話しているのは人類全体の行く末のことだ。キャピタル・テリトリィを奪ったところで、こうやってフルムーン・シップを強奪しちゃったからには、たとえベルリの話がウソでもビーナス・グロゥブとの縁は切れる。それどころか、ラ・ハイデンがあんたらを攻撃してくるかもしれないよ。ビーナス・グロゥブに残してきたコニーだって無事で済むかどうかわからない。クンタラの子と蔑まれるのはそりゃ嫌だろう。でもこのままだと、コニーは極悪人の子になっちまうよ」

「あんたなんかにあたしたちのことがわかるもんか」

「クンタラのことはわからない。でも、いまのあんたのことはわかるよ。ルインと離れて心細いんだろう? 会いたいならあたしがルインのところまで連れて行ってやるよ。たしかにフォトン・バッテリーもいらないみたいだしね。ただ、約束してほしい。ベルリの話は本当かウソかわからない。でも、もし本当なら大変な話だ。だから、ルインに会って相談するまでは、フォトン・バッテリーの搬出はしないって約束してほしい。これは、ここにいるみんなのためだ」

「わかったよ」マニィは頷いた。「フォトン・バッテリーの格納庫は厳重に封鎖しなッ。封鎖はビーナス・グロゥブのヤツらにやらせればいい。わたしたちはこれからアメリア大陸の南端を目指す。そこでルインと落ち合えば、何もかも上手くいくさ」

こうしてフルムーン・シップは南極にほど近いアメリア大陸南端に向けて進路を変えた。

上空では不気味な虹色の膜が地球全体を覆い尽くそうとしていた。


次回、第48話「全体繁栄主義」後半は、10月15日投稿予定です。

「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:116(Gレコ2次創作 第48話 前半)





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