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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:91(Gレコ2次創作 第35話 後半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第35話「どのような理由をつけても」後半



1、


チムチャップ・タノ中尉とともに新規作成した生体アバターに入るはずだったヘイロ・マカカ少尉は、それが望んでいた肉体でないことに気がついた。新たに得た肉体は、視力と筋力が弱く、背が低い。あまりに馴染めないので自分の姿を鏡に映すと、そこに立っていたのはかつての同僚メメス・チョップ博士の娘、サラ・チョップ軍医であった。

クンタラであるはずの彼女のデータがなぜラビアンローズに残っていたのか定かではなかったが、とにかくエラーが起こったに違いなかった。そこでオリジナルデータを取り出そうとしたところ、それは消去されていた。彼女は軽いショックを受けて、サラ・チョップのまま腰掛けた。

チムチャップは先に復元を終えたらしく、軍務に戻っている。どうしてこんなことになったのか、ヘイロ・マカカにはわからなかった。

サラ・チョップは軍医という役職であるがそれにはあまり意味がなく、わずか16歳で医師としての訓練課程を修了して資格を得たのちに、父親について月の裏側にあるトワサンガ設立の名目で執行された旧サイド3宙域の奪還計画に加わっただけの娘であった。後にカール・レイハントンのアバターと肉体関係を結んで、その子孫がレイハントン家王室を形成していったわけだが、思念体であるレイハントンたちに血族による相続はあまり意味のないものであった。

考えても仕方がないと、ヘイロは視力を矯正するための眼鏡を作り、髪を梳いた。するとますます自分が知っているサラ・チョップの顔に近づいてきた。彼女は肩書こそ軍医であったが、幼さが残る少女のまま、長寿だった父の仕事を支えた人物であった。ヘイロたち思念体の3人がたった1回の肉体交換で仕事をやり終えたのは、ひとえに彼女のメンテナンスが良かったからだ。ヘイロはサラに含むところはなく、むしろ感謝しているくらいだった。

だが、自分がその人物になってしまうことはまた別の問題だった。

カール・レイハントンとチムチャップ・タノに面通しをすると、やはり複雑な表情をされてしまった。

「肉体化しているときは」カールは困ったような顔でヘイロを見つめた。「やはり顔というもので認識してしまうから、サラの顔でヘイロの人格というのはどうしたらいいかわからないな」

チムチャップは怒り心頭であった。

「サラのような小柄な女性では大佐のボディーガードは務まりませんし、体力がなさ過ぎてモビルスーツの操縦も心もとないですね。わたしが後で装置を見てみますけど、どんなに急いでも生体アバターを組み上げるには数日かかりますし、しばらくはそれで何とかするしかないわね」

「大丈夫だろう。もう多くの兵士に肉体化してもらった。屈強なジオンの兵士がこれだけたくさんいるのだから、構わんさ。アバターが死んだところで損失にはならんしな。時間がもったいないというだけだ。そんなことより、サイド3の宙域にあるトワサンガはわたしのものだ。いまの住民を追い出して、新生ジオン帝国を作らねばならない。あの宙域にはまだ多くのジオン兵の思念体が存在している。彼らに再び生を与え、そののちに新しい生へと導かねばならん。もはやヘルメス財団の理想は潰えた。ムタチオンも深刻だ。彼らには地球に降りてもらわねばな」

カール・レイハントンとチムチャップ・タノは、新生ジオン公国の復活計画のことで頭が一杯のようだった。

新生ジオン公国の復活計画はジオンの数少ない残党とその支援者が地球圏を離れて遠い世界へ旅立っていったときからの悲願だった。地球環境が氷河期へと移行して、全球凍結へと向かい始めるのを待っていたのだ。全球凍結に近い状態になったとき、人間の生存可能地域は赤道直下に限られてくる。人類は急速に数を減らし、文明は潰える。そして地球は人類なき知的生命体への惑星へと霊的に進化するのである。

地球はスティクスによって永遠に封印され、侵略することも侵略されることもない惑星となり、思念体へと進化した存在によって永遠に観察される。人類文明は、黎明期から成長期を経て、霊的に生まれ変わるのだ。永遠に終わることのない黄昏。夜は来たらず、夜明けを見ることもない。

それは死も再生もない世界だった。脳もまた思念が存在するための器官に過ぎなかったとわかったとき、人間は個と個の間に横たわる断絶を乗り越えた。

「だからもう、肉体で世界を観察する必要はないのだ。彼らが現世と呼ぶ世界は、我々が存在する世界の水槽のようなものだ。水槽の中の世界に入ってみたいと思ったときだけ、肉体という道具をまとってキャピタル・タワーで降りていけばいい。人間のいない地球はきっと美しいものになっているだろう。滅びゆく肉体は、宇宙という過酷な環境ではなく、地球というゆりかごで滅してあげるべきだ。そうは思わないか」

カール・レイハントンはサラの身体に入ったヘイロを抱き寄せた。少なくともヘイロは抱き寄せられたと感じて肉体が鼓動を打った。そして、ヘイロはある疑念に駆られた。サラ・チョップは思念体が抜けたアバターの生殖器官を使って妊娠したとされているが、あれは本当なのだろうかと。

カール・レイハントンは、本当はサラのことがお気に入りだったのではないかと。


2、


カール・レイハントンを凝視するハリー・オードは、自分が目を覆い隠していることに安堵していた。その目にはきっと恐怖が宿っていたであろうからだ。

モニターに映っている金髪の男は、当時より若く見えるものの、500年前にディアナ・カウンターを諦めて月へと引き換えした彼らを急襲して、あっという間に武装解除に追い込んだ憎き相手であった。元々ディアナらは再びコールドスリープに入るつもりであったが、まさかそれを別の人間の管理の元に行うことになるとは想像もしていなかった。

外宇宙からの帰還者は、驚くほど近くにおり、ずっと彼らを監視していたのだった。

ハリーは声を張り上げてカール・レイハントンに対峙した。

「ディアナ親衛隊のハリー・オードである。ゆえあってトワサンガで執務の代行を行っているが、果たして君はわたしの知っている男なのかな」

モニターに映った男、カール・レイハントンはしばらくハリーを観察していたが、やがて興味をなくしたようにつまらなさそうな口調で応えた。

「ベルリの代行ということだな。では、ご苦労といっておこうか。シラノ-5は知ってのようにわたしが作り上げたコロニーである。500年ほど我が子孫に管理させていたが、このたび大執行が行われることとなり、地球人はすべからく地球へ降りてもらうことになった。君は正しい判断をしたようだが、戦闘はもはや無意味。速やかに降伏して愛しのディアナ閣下の元へでも行くがよい」

この挑発的な口調は間違いなくカール・レイハントンだとハリーは確信したものの、相手の目的が何かわからない以上、すぐに敵対行動を取ることはできなかった。かといって下手に出るのは癪に障る相手である。またしてもこいつに苦虫を飲まされるのかと思うと暗澹たる気分だった。

武装解除を決意したとたん、500年前の悪夢が目の前に姿を現したのである。

カール・レイハントンは、ディアナ・カウンターの際に敵対した地球人とはまるで違っていた。彼らは戦争慣れしており、原始人のように暴力的だったのだ。しかも相手はたったの3機のモビルスーツであった。その程度の戦力にも、当時のムーンレイスには歯が立たなかったのだ。

あの当時と現在はかなり状況が違う。月にはシルヴァー・シップに対抗したオルカ艦隊が温存されている。縮退炉を動かせば使えることは間違いない。だが、相手はもっと強大なビーナス・グロゥブの大艦隊を率いていた。さらに巨大な生産設備でもある薔薇のキューブもある。長期戦になれば圧倒的に不利になるのは自分たちだ。戦力も足りない。ムーンレイスの機体や船体は、ユニバーサル・スタンダードではないために、現代人には扱えないのだ。ディアナも彼の元にはいない。

「降伏も何も、戦う気力もなければ戦力もないさ」

「月にオルカの艦隊があるはずだ。それらも廃棄させてもらう。何もかも捨てて、地球に降り給え」

オルカは今回の戦闘に合わせて作られた新造艦である。なぜ彼がその名を知っているのか不思議であったが、そもそも500年前の人間が生きていることがおかしく、さらにそのとき見知った姿より若返っていることも納得しがたい事実だった。カール・レイハントンとはどのような存在なのか。

「ベルリを返してちょうだい!」

ノレドが我慢しきれずに話に割って入った。ラライヤが必死に制止しようとしているが、ノレドは暴れて手が付けられない。ラライヤはカール・レイハントンから目が離せなくなっていた。

「地球へ降りろと簡単に言ってくれるが」ハリーはノレドを退出させるように顎を動かし、モニターに正対した。「そうもいかん事情というものがあるのだ。現在地球は全球凍結へと向かっており、徐々に北半球の北部地帯に人が住めなくなってきている。居住可能地域は限られ、人口問題、土地問題、水問題、それらを解決するには時間がかかる。加えてエネルギー不足だ。さらにスペースノイドの帰還問題も重なっている。これらを解決する時間が欲しい」

「解決などできるのか?」

「ベルリはやるといっている。フォトン・バッテリーが以前と同じ量だけ供給されれば、アースノイドを現在のスペースノイドの代わりに宇宙で働かせることで、人口を増やすことなくスペースノイドの移住も叶え、同時にフォトン・バッテリーの生産も、安定供給も可能だと」

「机上の空論だな。アースノイドがそんな自己犠牲を払うわけがない。奴らは怠惰で傲慢で刹那的だ。そもそもビーナス・グロゥブが人類の命運の掛かったフォトン・バッテリーの秘密にアースノイドを近づけるわけがない。アースノイドは、ビーナス・グロゥブに行けるとわかった途端本性を露わにし、どんな手を使ってでもフォトン・バッテリーの秘密を探り、地球で生産するか、もしくは充電できるようにと考えるだろう。もしフォトン・バッテリーの秘密がアースノイドに知られるところにでもなれば、地球上のエネルギーはインフレを起こし、それに比例して人口爆発が起こる。一方で全球凍結を前に恐怖心もあるから、赤道上のわずかな土地を巡って必ずや戦争になるだろう。戦争するには地球は資源が枯渇してしまっている。そこで、宇宙に進出する。宇宙移民たちは地球上での戦争のために過大な自己犠牲を強いられ、不満が鬱積する。やがて反発は抑えきれなくなり、スペースノイドの独立戦争が起こる。ベルリがやろうとしていることは、宇宙世紀の再現に過ぎないのだよ」

「そうであるなら、すべての人類を収容できるスペースコロニーを宇宙に建設して、地球が再び暖かくなるのを待てばいいではないか。コールドスリープの技術もある」

「そんなことはとっくに試した。アースノイドを宇宙に出してスペースノイドの考え方を学ばせようと、どれだけの人間が苦労してきたと思っているか。それらはすべて失敗したのだ。アースノイドは、宇宙に出ろといわれれば、相手は自分たちの地位や土地を奪おうとしているのだと思い込む。そして自分たちの地位や土地を死守するために、命を懸けて戦うのだ。しまいには宇宙にいる者たちの効率のよい政治体制を独裁だと叫び始める。独裁のレッテルを貼れば、彼らはどんな非人道的手段も使ってくる。独裁者の出現を待っていたかのように」

「あなたの望みは一体なんだ? それを聞かせてもらおう」

「さしあたって、トワサンガを返還してもらえればそれでいい」

「だからそれには時間が掛かると・・・」

「時間など掛けずともよい。君らがこの世界からいなくなればそれでおしまいだ。それが嫌ならば、奪えばいい」

「奪う?」

「戦力はあるのだろう? 地球に降りて、トワサンガとムーンレイスの住人が暮らせる土地を奪えばいいのだ。サンベルト割譲条約があるのだろう? それを頼りにアメリアを侵略すればいい」

「そんなこと、できるわけが・・・」

口では否定しながら、ハリーはそれも視野に考えていたのも確かだった。全球凍結が進んだ現在、サンベルト地帯は500年前ほど価値がなくなっていたが、それでも最も暮らしやすい場所であることは確かだ。もし仮に、ヘルメス財団なるものがムーンレイスの独立性を認めるのであれば、条約を盾にアメリアを侵略してムーンレイスのの国家を作ることも可能だ。たとえフォトン・バッテリーがなくとも、彼らには縮退炉の技術がある。

そんなハリーの心の内を見透かしたかのように、レイハントンは侵略を持ち掛けてきた。やはり得体の知れない男だと、ハリーはさらに警戒を強めた。レイハントンはさらに続けた。

「地球を侵略できないというのならば、その戦力でビーナス・グロゥブの艦隊を迎え撃て。艦隊を全滅させて、ビーナス・グロゥブをその支配下に置くがいい」

「戦うことを愚かだと嘆きながら、その口で侵略をそそのかすのか。とことん信用のおけない男だ」

ハリー・オードはモニターを睨みつけた。その姿を正面に受け止めながら、カール・レイハントンは平然と構えていた。

「信用するかしないかはお任せするが、早く決断しないと、ラ・ハイデンが君らを殺しに来るよ」

それだけ告げると、カール・レイハントンからの優先回線は途絶えた。管制室の全モニターがようやく正常に戻っていく。ハリー・オードはどっと疲れて背もたれに身を投げ出した。

「話し合っている暇はなさそうだ。シラノ-5の全職員に避難命令を出そう。あのふたりのお嬢さんにも命令には従ってもらわなくては。まずは月の裏側へ。ハイパーループで表側に出たのち、オルカでザンクト・ポルトまで輸送。そこからはクラウンで降りてもらう。オルカはザンクト・ポルトで待機」

職員のひとりが口ごたえをした。

「ベルリ王子を助けないままここを放棄するんですか」

ハリーは頷くしかなかった。

「ああ、そうだ。いまの我々の戦力ではカール・レイハントンに勝ち目はない」

「カール・レイハントンはトワサンガの初代王です。我々に危害を加えるわけがない。話では、ビーナス・グロゥブと決してひとつではないようでしたし」

「あの会話を聞いてもまだそんなことを言うのか」

ハリーは呆れてものも言えないほどだった。しかし、トワサンガの人間にとって初代レイハントンは伝説上の人物であるというだけではない。自分たちがトワサンガの住人であることの正統の証明は、レイハントン王家とともにあるのだ。

たとえ一時的にドレッド家になびいていたとしても。

「では、残りたいものは残れ、ただし一般市民の避難誘導には協力してもらう。あの地球人の娘も絶対に地球へ降ろせ。くだらない英雄主義は命取りになるぞ」


3、


「お戯れが過ぎますね」

チムチャップ・タノはモニターのスイッチを切ってカール・レイハントンをたしなめた。

「少々肉体を若く作りすぎたのかな。反省している」口だけで反省のそぶりも見せずに、レイハントンは席を立った。「人を殺すのは、労力ばかりかかって時間の無駄だ。シラノ-5から人が撤退したのを確認次第、ラビアンローズをコロニーと合体させる。ジオンの艦隊は待機。スティクスの生産は人類が互いに殺し合いをして人口が大幅に減少するのを待ってから行う」

「気にかかることがあるのですが」サラの姿のままのヘイロが手を挙げた。「この姿でこれを質問するのもなんですけど、メメス博士との約束はどうやって守られるおつもりですか?」

「クンタラの守護をせよとのありがたいお達しのことか。もしかしてその姿、メメス博士が細工して仕込んだのやもしれん。有能な男であったが、心配性が過ぎるな。では、こうしよう。クンタラの集団が危なくなったら、わたしの責任で宇宙に上げる。全員の命までは保証せんぞ。わかってるな」

「もちろんです」

心の中では納得していなかったが、ヘイロはレイハントンに逆らうことはしなかった。そもそもなぜ自分がクンタラなどの心配をしなければならないのか、ヘイロは自分でもよくわからなかった。なぜだかわからないが、心配になってしまったのだ。

人の意識は肉体に宿っているわけではない、そうと分かっていながらなぜクンタラなどのことが気になってしまうのか、ヘイロには説明できなかった。レイハントンはそのまま姿を消した。おそらくはアバターを寝かして別の場所へ移るのだろう。ヘイロは頭を振って、チムチャップに別の話題を持ち掛けた。

「大佐は地球人同士が対立し合うと決めてかかっているようですが、もし地球人、特にアメリアとトワサンガとビーナス・グロゥブが同盟を結んでジオンと対立してきたらどうなるのですか?」

チムチャップはヘイロの頭に自分を頭をこつんとぶつけた。一瞬にしてチムチャップとレイハントンが同期した全体状況の認識をヘイロも共有した。

「なるほど」

いまのところ大人しく恭順しているように見えるビーナス・グロゥブのラ・ハイデンだが、彼が目指しているのはレイハントンを排除した新しい宇宙秩序の確立で、彼はトワサンガを自分のものにするために地球圏へやってきたのだという。いずれはカール・レイハントンに対して反逆するつもりであり、それは想定内だというのだ。

チムチャップは、豊満な自分の肉体に水分を補給させた。

「ラ・ハイデンは敵になる。だけど彼は、カール・レイハントンだけを排除すべきなのか、ベルリ、アイーダ、ウィルミットも含めて排除すべきなのか迷っている。トワサンガ建国の父カール・レイハントンを排除して、その子孫に跡を継がせることができるのかどうか。もしできないのならば、レイハントン一族を完全に排除するしかないが、ではアメリア議会はそれで治まるのか。指導者不在のキャピタルはウィルミットなしに適切に運営されるのか。トワサンガの住民は、地球育ちのベルリと建国の父とどちらを選ぶのか。キャピタル・ガード調査部からの情報が遮断された現在、ラ・ハイデンにそれらを確かめる手段はない。だからここまで来たってわけ」

ヘイロは頷いて返事をしたのだが、チムチャップはどうしてもサラの顔が気になるようだった。そうと気づいてもどうすることもできないヘイロは、かまわずサラの声で尋ねた。

「だとしたら、狙いはキャピタルへの侵入。ウィルミットとの接触。キャピタル・ガード調査部の組織立て直し。それらをやりつつ・・・」

「アメリアへのフォトン・バッテリーの供給準備。ただし、ベルリとアイーダが暗殺されれば、状況は一変する。好戦的な連中を焚きつけて仲間割れを誘ってもいい。でも、大佐のお考えは、あまり時間をかけたくないということ」

「そこで、ムーンレイスの縮退炉を暴走させて、一気にすべてを吹き飛ばすと」

「人類は絶滅したっていいのよ。一気に絶滅するか、ゆっくり絶滅するかの違いだけ」


4、



シラノ-5から住民の撤退が開始された。彼らはジムカーオの攻撃によっていったん月にまで引き上げた経験があったが、戻ってすぐの撤退命令にはいささか辟易していた。各地でトラブルが起き、警備担当がムーンレイスだったこともあって、人種対立のように双方が睨み合うこともあった。

そこに、撤退を命じてきたのが彼らが尊敬するトワサンガ初代王のカール・レイハントンであるとの噂が流れ、撤退作業は完全に頓挫してしまった。トワサンガ守備隊に代わって警備を担っていたムーンレイスの中には銃床で暴力を振るう事案も発生して、現場は大混乱に陥った。

管制室をつまみ出されたノレドとラライヤは、ベルリと最後に会話を交わしたトワサンガのエンジニアたちに話を聞いて、ベルリが初代レイハントンの愛機カイザルのコクピットに乗るなりカイザルごと姿を消したあらましを聞かせてもらった。ハッパがまとめたレポートを読み、サイコミュに思念体が入り込むことがあると知っていたノレドたちは、カイザルこそがカール・レイハントンではないかと怪しんでいたのだが、当の彼の姿を目の当たりにして、彼は思念体という存在で、古代の人間ではないのかと考え始めていた。

トワサンガではあちこちで喧騒が巻き起こっていた。ふたりはそれを避けて、サウスリングの新しいノレドのアパートに身を隠した。月への撤退命令に合わせるつもりなのか、キャベツの収穫が急ぎ始まっていた。ノレドは鼻をぴくぴくと動かした。

「収穫の後が一番臭いんだよね?」

「そう」ラライヤも窓の外に目をやった。「切り落とした葉っぱが腐って、すごい臭いが充満するんですよ。でも、いまはそれどころじゃない」

ラライヤはカーテンをピシャっと閉めた。ノレドは急に不安になって涙声で尋ねた。

「ラライヤも行っちゃうの?」

「わたしは軍人なので本当は行かなきゃいけないんですけど、最後に受けた命令はノレドの警護だったので、新しい命令が来るまではノレドと一緒にいるのが仕事です」

「ラライヤ専用モビルスーツとかはないの?」

「モビルスーツはもうないですね。あってもフォトン・バッテリーがないから動かない。特殊高速艇があるんですけど、これもバッテリー不足で」

「ムーンレイスのモビルスーツはユニバーサルスタンダードじゃないから使えないし、こりゃ困ったぞ」

「いや、大人しくしておけばいいと思いますよ。ベルリさんも必ず帰ってきますし」

そのときだった。シラノ-5に大きな地震が起きた。地球で地震の経験のあるノレドはさっと身構えて揺れが収まるのを待ったが、地球の地震活動というものを知らないラライヤは攻撃されたと判断して武器を構えると片膝をついた。揺れは10分以上も断続的に続いた。

静寂が訪れたアパートの一室に、今度は遠くから叫び声が聞こえてきた。ノレドはテレビのスイッチを入れたが何も映らず失望したようだった。ラライヤは部屋のデスクの方へ走っていき、引き出しからラジオを取り出した。

「ベルリが日本で買ったラジオを預かっていたんですよ」

周波数を合せると、民間のFM放送が一局だけ放送を続けていた。アナウンサーはかなり興奮しており、音のひび割れも激しいために何を言っているのかわからなかったが、しばらく聴いているうちにノースリングに何者かがドッキングしてきたのだとわかった。アナウンサーが興奮しているのは、それがトワサンガの初代王カール・レイハントンだとわかったからだという。

ノレドは、ラライヤを救出するためにG-ルシファーでノースリングの先端から潜入したときのことを思い出していた。資源衛星をくり抜いて作られたシラノ-5の北側部分には、薔薇のキューブが突き刺さるように合体されており、ジムカーオはそれを奪って逃げたのだった。その部分に、ビーナス・グロゥブから分離して地球圏まで飛んできた薔薇のキューブが再び合体したのだと想像できた。

「ラライヤ、あたしはトワサンガのことは詳しくないから、何か聞き取れたことがあったら教えて」

ラライヤは、んーと唸りながら耳をそばだて、やがて真っ青になってラジオを床に置いた。

「どうしたの? 何があったの?」

「カール・レイハントンが薔薇のキューブでノースリングの上にドッキングしてきて、彼のメッセージが流れているらしいんです。それで、一部の住民がそれを熱狂的に受け止めて、ムーンレイスの排斥運動を開始したと早口で言ってますね」

ノレドが何かを言いかけたとき、窓の外でパンと破裂音がした。それは銃声だった。ラライヤは再び銃を手に身構え、ノレドを自分の後ろに隠した。


5、


ベルリ・ゼナムはカイザルのコクピットの中で意識を回復させた。

どれだけ気を失っていたのかわからない。夢とは違う、強烈な映像と音の記憶が頭の中でガンガンと響いているようだった。

長い長い夢を見ていたような心持であった。夢と違うのは、見た映像が強烈に脳裏に焼き付いていることだった。何が起こったのか、いくつもの警告が発せられたコクピットの表示が、ベルリの覚醒が進むにつれて赤から青に切り替わっていった。コクピットがパイロットのバイタルに危険を感じて警告を発していたのだ。

彼は500年間を断片的に追体験させられた。夢の中で知った、同期という言葉が思い浮かんだ。それが誰の記憶なのか、いまではよくわかっている。カール・レイハントンなのだ。ベルリは偶然カイザルに乗り込むことになってしまい、その不思議な特性のおかげでトワサンガからザンクト・ポルトまで一瞬で移動したのちに再び消えた。その間、ベルリはコクピットの中で、カール・レイハントンの記憶と同期していたのである。

頭がハッキリしてくると同時に、ベルリは耐え難い後悔に苛まれていたたまれず、おもわず天井を仰いだ。ベルリは、自分の祖先だというカール・レイハントンのことを完全に見誤っていた。彼が記憶を同期させたカール・レイハントンは、彼が想像していたような、善意ある人物ではなかった。

いまの彼には、断片的ながらカール・レイハントンの記憶があった。それは主に彼がアバターを使っているときの記憶だった。思念体として存在しているときの彼の記憶は、情報の仕組みが違うためか、認識する器官の問題なのか、何ひとつ覚えていない。ベルリが同期したのは、この500年間で、カール・レイハントンが生体アバターの中に入って脳を活用したときの記憶である。

情報の同期の仕組みはベルリにはよくわかっているが、まさか謎に包まれた始祖にあたる人物の記憶と自分の記憶が同期するとは予想だにしてなかった。それが起こった原因は、おおよそ察しがついていた。この、初代レイハントンが愛用したとされる機体カイザルのサイコミュである。

レイハントンは、このカイザルでムーンレイスたちを狩りを楽しむように殺していた。ベルリたちの時代のフォトン・バッテリー仕様のモビルスーツよりはるかにパワーのあったスモーも、カイザルの前ではまるで歯が立たないおもちゃに過ぎなかった。この機体に、戦争の反省はない。カイザルに込められたのは、敗北の怨恨だけであった。

いやに喉が渇いていた。水を探したが、そもそも数百年隠されていたこの機体にそんなものが備わっているはずがなかった。カール・レイハントンの記憶との同期は、ベルリにある体験を思い出させていた。それは、バララ・ペオールが操縦するモビルアーマーと交戦して、その悪意に引きずられて失神したときと同じ感覚だった。

カール・レイハントンにはあれと同じ悪意が備わっている。トワサンガの設立者で、ヘルメス財団の重要人物である彼が、ヘルメス財団の目指す理想をあれほど冷めた目で見ていたとは。

そして、彼が目指す理想。それは、人類の一掃と、進化した人類の思念による永遠の観察なのだ。地球は、地球を汚すことのない肉体を持たない霊的存在によって永遠に観察されることになる。1秒と100万年の区別がない観察者は、地球を薄暮の囹圄の中に閉じ込めようとしている。人類に夜は来ず、明日もない。破壊による退化も経験しない代わりに、破壊の反省から生じる進化もない。

「これで分かったはずだ。人類を救済しようなどと青臭いことはいわないことだな」

頭の中に声が響いてきた。カール・レイハントンの声だった。彼の声であると同時に自分の声でもあった。若くして素直さを失った、歪んだ人格が発する声だった。それが自分の声でもあることが、耐えられないほどの苦痛だった。

「カール・レイハントン!」

ベルリは叫んだ。するとコクピットが開いた。目の前に、赤いパイロットスーツをまとった、自分とさほど年の変わらない男がいた。だが彼は、戦うことに長けている。彼は戦うことで運命を切り開いてきたのだ。その厳しい視線に、ベルリは身をすくませた。彼は、ただの思念の入った生体アバターだが、瞳に輝きをもたらしているのは、万を超える数の人間を殺して戦場慣れした若き兵士なのだった。

男はいった。「ガンダムを持ってきた。これはお前にくれてやる。どう使おうがお前の勝手だが、本物の勝利は、わたしがお前に見せた世界だ。お前は自分がメメス博士の血族だとわかったはずだ。お前はクンタラとアバターの子が婚姻を繰り返して人間に近くなってきた存在である。自在に天翔ける白い機体で世界を見て回るがいい。そして、わたしと同じように絶望せよ」

男はベルリを機体の外へと放り出した。ベルリは足裏のマグネットで白いモビルスーツに張り付いた。そのモビルスーツは、G-セルフと同じカラーリングだが、デザインもサイズも大きく違っていた。洗練された、人殺しの道具であった。コクピットは、おそらく初期のユニバーサルデザインで、操縦できないことはない。だがこれで自分は何をすればいいのか。

敵の名は、カール・レイハントン。永遠の命を持つ男である。彼と記憶を同期したいま、ベルリは自分が何をしなければならないのか判然としないまま、ガンダムに自分を登録した。

その方向性の定まらぬ顔を見下すように眺めながら、若きカール・レイハントンはカイザルのハッチを閉じて、ベルリの眼前から消え去った。



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