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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:106(Gレコ2次創作 第43話 前半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第43話「自由民主主義」前半



1、


革命の衣をまとった簒奪者たちは、ハノイ自由市民軍相手に総崩れとなって、北の砂漠へと逃亡した。西の水源地から馳せ参じた部隊と南のホーチミンから進軍してきた部隊はハノイの南数キロのところで合流して、無人となったハノイ市内へ凱旋した。

そこは惨憺たる有様であった。人民解放軍は奪えるものは何でも奪い、市内には箸1本残されていなかった。井戸には毒が投げ入れられ、知らずに飲んだ兵士十数名が命を落とした。挙句街には火が放たれ、井戸の毒水を汲んで消火すると今度は毒によって草木が枯れ始めた。敗走した彼らは、元の国境線付近まで下がって陣地を形成した。またいつでも奪いにくる算段なのだろう。

「これだけ奪い尽くせばしばらく襲っても来ないだろう」

兵士たちは口々に言い合った。それくらいハノイにはものがなくなってしまっていた。その中で無事だったのが、地方長官の屋敷になっていた教会の納屋にあった農作業用のシャンクであった。フォトン・バッテリーが切れたとはいえ鉄くずとして売られる可能性もあったのだが、教会には他に奪うものがたくさんあったためか、まったく手つかずの状態で放置されていた。

それを見たハッパは満足げに笑みを浮かべた。

ハノイ奪還の夜、街では兵糧として持ち込んだものを盛大に振舞い、宴会が開催された。ハッパはその席で、自分が持っているディーゼルエンジンの説明を行い、廃油さえあれば電気が起こせて、シャンクを利用できると説明した。ハッパはハノイに残るつもりのようだった。

「水源地も押さえたし、これなら難民も帰還させられる。難民が持ち出した物品も多いから、彼らが戻れば少しはましになるでしょう。井戸は潰して新しいものを掘るしかない」

「シャンクが動かせるなら秋には収穫できる。秋が来る前に奪い返せてよかった」

ハッパは少し酒を飲んで上機嫌だった。

「ハノイが共産主義の防波堤となったと聞けば、キャピタル中央銀行の支店も戻ってくるでしょうし、他の自由主義陣営からのサポートも受けられるはずです。投資も増えるかもしれない。問題は、キャピタルの通貨がどれくらい残っているかでしょうね。闇市の人間はしこたまため込んでいたようだけれど。ああいうちょっと黒いお金もあてにしないと、ハノイの再建には時間が掛かりますよ」

「そういうことは、領主さまがやってくださるはずです」

「領主?」

「サムフォー夫人のことですよ。彼女の一族が、ホーチミンからハノイにかけての一帯を守ってくださるというのです」

この話を聞いて、ハッパの酔いは一気に醒めた。サムフォー司祭の寡婦は、はじめからハノイの土地の権利を奪うために行動していたのだ。ホーチミンの地主の娘であった彼女は、宗教家でありながらハノイの地の領主のような仕事を無償で行っていた夫に従いながら、経済的な利権の網を拡げていたのだ。革命軍がハノイに殺到したあの日、夫を半ば革命軍に明け渡すように逃げたのも彼女であった。

「ちょっと酔ったようです」ハッパは席を立った。「風に当たってきます」

そういってハッパは自分のモビルワーカーに乗って、とりあえず知古の農家に身を隠した。最初にハッパのシャンクを雇ってくれた農家である。老夫婦は無事だったようで、ハッパを歓待してくれたが、その瞳は悲しそうだった。気を利かせたハッパは、箱一杯の物資を老夫婦に差し出した。

「何もかも奪われていきました」おじいさんが嘆いた。「納屋の地下に隠してあった米も塩漬けの肉もみんな見つかって取られてしまった。だからハッパさんをもてなすこともできないのです」

「気にしないでください。戦争があるというのはそういうことです」

「もう戦争は終わったのですか?」

「まだ北に人民解放軍の軍隊が残っていますが、おそらく自由主義陣営が援軍を出してくれるでしょうし、前のように簡単には占領はされないはずです。それよりお聞きしたいのは、サムフォー司祭の寡婦のことです。占領前の彼女の評判はいかがだったのでしょう」

ふたりが話し込んでいる間に、おばあさんがハッパが持ってきてくれた物資で簡単な料理作ってくれた。ふたりの困窮ぶりは酷く、ハッパはいたたまれない気持ちだった。

「サムフォー夫人は目立たない人でしたが、裕福な家の人らしく、陽の当たる仕事はやりたがらないと聞いたことがあります。しかし何か新しい仕事を始めるには、夫人の許可がないとできないのは当たり前に言われていたことで、若い子たちはそれに不満を持っていたようでした」

「この土地はサムフォー司祭が領地経営をやっていたそうですが、議会とかそういうものはあったのでしょうか?」

「議会はありました。でも選挙は長らくやっていません。司祭が来る前は何事もみんなで話し合って決めていましたし、議会が出来てからはホーチミンからやってきたサムフォー夫人の親族しか立候補しないので、無投票で毎回当選するのです」

「民主選挙が機能していなかったわけだな」ハッパは難しい顔になった。「夫が実質的な領主代わりになって、親族らが議会を牛耳る。以前はみんなで話し合って決めていたのに、何かをやるには夫人の許可がいると暗黙の了解になってしまった。それでは確かに不満も出ましょう。共産主義を招いてしまった遠因は、民主主義の機能不全にあったわけだ」

「難しいことはわかりませんが」おじいさんは言葉を継いだ。「この戦争で若い子のリーダー格はみんな大陸の人間に騙されて反発する者がいなくなった。もうこれからは、サムフォー夫人の言いつけを守って司祭が生きていたころのように生活に余裕ができるよう頑張るだけです」

「ううん・・・」ハッパは考え込んだ。「なるほど。ぼくはまたいなくなりますが、おじいさんおばあさん、お元気で。秋の稲刈りには必ずここへ戻ってきて教会にあるシャンクを動かして収穫を手伝うと約束しますよ。ぼくはエンジニアでね。こういうのは得意なんです」

老夫婦の家を辞したハッパは、海に抜けると商船に便乗できないか港を訪ねて歩いた。運よく日本の商船に便乗できることになって、バンコクへ向かうことにした。

「いったん共産主義の支配に入ると、物事が独裁的に決まっていく傾向がある。キャピタルがあてにならない以上、政治的に安定した国との相互互恵関係を通じて各国で自由民主主義を機能させる体制を模索する必要があるんだ。アジアでそれを作ることができれば、不幸な人々を救うことができる」

いまのハッパには、ノレドを助ける余裕はなかった。ハノイを奪還したのちも見つからない彼女の行方を捜すことより、自分はより多くの人々のために奔走することが大事だと思い定めていた。

「ノレドにはベルリもラライヤもいる。あのふたりとガンダムがあればきっと彼女は見つかるはずだ。それに、ノレドが見分した共産主義の実情は必ずベルリの役に立つ。きっと大丈夫だ。いや、そうであってほしい」

ハッパは、あと半年もしないうちに地球に大異変が起きて全人類が滅びてしまうとの話を忘れたわけではなかった。しかし彼は自分がその問題に深く関与する必要があるのかどうか、どうしても自信が持てなかった。もうモビルスーツで相手を圧倒すれば勝敗が決する時代ではない。モビルスーツによる暴力は、人間の自由を奪うだけの代物に過ぎないのだ。

遥か過去の、そして遥か未来の戦争技術による圧倒は、物事の本質を何ひとつ解決しないのである。

そうであるならば、そして人類にあと半年に満たない時間しかないのであれば、自分は正しいと思い定めた物事に時間を使おう。ハッパはそう考えた。


2、


そのころラライヤは、ノレドとベルリの姿を探していた。彼女はYG-111から降りることなく、戦闘の序盤に上空から相手を威圧して追い払うと作戦通り戦線を離脱した。そのあと望遠でノレドが監禁されていそうな場所を探し回っていた。しかしどこにも見つけることはできず、時間ばかりが過ぎ去ってしまった。

ハッパのモビルワーカーを探したがこちらも見つからなくなったラライヤは、見ず知らずの土地で途方に暮れてしまった。いったん落ち着こうと、モビルスーツを降りて火を焚いて休んでいたところ、突然背後で物音がした。森の暗闇の中でガサガサと何かが動いている。そして声がした。

「そのモビルスーツはどこの所属なのですか?」

森の奥から出てきたのは、男性2人、女性2人のアーリア系の男女だった。肌の色は黒い。ラライヤは彼らの肌の色や顔立ちが自分に近いことに気づいた。相手もそれを認めたようで、両手を挙げた4人は武器を手にしていないことを示しながら姿を現した。

「わたしたちはインドから共産主義の視察に来た者で、あなたに敵意はありません。少しだけお話を聞かせていただければいいのです」

ラライヤは相手に停止を命じたのちに、いつでもYG-111のコクピットに飛び乗れる態勢を取った。

「このモビルスーツは、トワサンガのものです」ラライヤは言った。「おかしな真似をすると撃ちますよ」

相手は大人しく立ち止まり、荷物を地面に置きながらYG-111を見上げた。この機体はトワサンガ製のモビルスーツで、ラライヤが地球に降下する際に使用したのちはベルリの愛機として使われていたものだ。クンパ大佐の仕掛けた戦争で1度は大破したものの、ハッパが修繕して博物館に展示する予定だったものだ。

「月に人が住んでいるというのは本当なのですね。宇宙世紀時代には誰もが人種を問わず宇宙で生活できたと聞いたことがありますが、遠い神話時代の話なので」

相手はインド政府の調査員で、北の革命勢力がどれほど西進してくるか確かめるために旧ベトナムまでやってきたのだという。旧ベトナムと聞いても宇宙育ちのラライヤにはピンとこなかった。

「トワサンガの方がどうしてここへ」女性の調査員がラライヤに尋ねた。

「トワサンガの王室の女性が誘拐されてしまい、探しているところです」ラライヤが応えた。

「王室があるのですか?」別の男が口を挟んだ。「王政だったとは知りませんでした。地球の王は、その領地の経営者である正統性を示すために神聖を帯びたものになるのですが、月にも同じようなことがあるのですね。月も地球も、だれが作ったものでもないでしょうに」

ラライヤはこれは厄介な連中に絡まれたものだとウンザリした。彼女は地球の政治体制についてそれほど詳しくない。いくつもの国家が陸地に線を引いて争い合っているくらいの印象なのだ。4人は争いの素振りこそ見せないが、ラライヤに興味があるらしく、ぶしつけな視線で彼女を観察していた。

「お名前を聞かせていただけませんか?」男が丁寧な口調で言った。

「わたしはトワサンガのラライヤ。ただの一兵士です」ラライヤは警戒を解かなかった。

「ラライヤ・・・、モビルスーツに乗るニュータイプの兵士なのですか?」

「いえ、そんなことは」

「実は我々は、我々と同じ血を引くという宇宙で神になった少女の生まれ変わりを探しているのです。もう2週間前になりましょうか、宇宙世紀の始まりのころに宇宙で神のごとき力を発揮しながら、ジオンの正統な後継者を守るために散ったニュータイプの少女、名前をララアというのですが、その生まれ変わりが宇宙からやってきて我々を救済するとの予言を得た女の子がいたのです」

「あなたは先ほど共産主義勢力の西進を調査するために来たとおっしゃったはずですが」

「それももちろん重要な仕事です。わたしたちはインド政府の内閣調査室の所属で、決して怪しい者ではありません。わたしたちには救済者が必要なのです。トワサンガのラライヤさま、どうか我々の招きを受け入れてはもらえないでしょうか?」

「そんな話は!」

「信じられないと思います。突然のことですし、信じてもらえないのは当然です。しかし、わたしたちの立場にもなっていただきたいのです。わたしたちは、共産主義の拡張主義が自国に迫った場合、現在の力ではおそらくなすすべがありません。チベットを超えて彼らがやってきたならば、彼らはたやすく我々の国を征服してしまうでしょう。そんなときに、予言を授かった少女が出現した。国中は大騒ぎになりました。少女はいくつかの予言を残して死んでしまいました。内閣調査室はこの予言について調べるしかない。そしてたった4人でこうして敵国に潜入して、あろうことか、宇宙からやってきた我々と同じ顔立ちをしたモビルスーツに乗る女性に巡り合った。しかも名前も似ている」

「偶然です」

「果たしてそうでしょうか?」短髪の男が大きな目を見開いて一歩だけ前へ出た。「わたしたちの話にウソはありませんが、わたしたちが普通のオールドタイプと思ったら大間違いです。あなたのそばには、別の誰かがいるじゃありませんか。ほら、すぐそばに」

男の瞳が怪しげに輝いた。ラライヤの心の中に男の意識が入り込んだ。ラライヤはその気味の悪さにえずいた。吐き気を堪えて後ろに下がったとき、彼女の肩が少しだけ軽くなった。胸が苦しくなったラライヤが膝をついたとき、背後にあったYG-111のメインモニターがギラリと輝き、インド政府の4人を威圧した。

「どうして?」丸いわっかの耳飾りをした女が叫んだ。「ララアはわたしたちの救世主なのでしょう? どうしてわたしたちに敵意を向けるのですか?」

「そうです!」頭髪を剃り上げた男が続けた。「ララアはアクシズの奇蹟を起こしたふたりのニュータイプの導き手だったはずです。その強大な力でどうか祖国をお救いください」

コクピットに誰も乗っていないはずのYG-111が勝手に動き出し、手のひらを差し出してラライヤの身体をすくった。ラライヤは気分が悪く眩暈がしたが、荒い呼吸に顎を上げたままコクピットの潜り込んだ。メインモニターはすでに作動しており、バルカンが4人に照準を合わせていた。

ラライヤは両手で痛む胸を押さえつけて叫んだ。

「殺してはダメですッ!」

するとYG-111は静かになり、操縦系統はラライヤの手に戻った。汗だくになったラライヤは、同じことが宇宙でも2度起こったことを思い出していた。宇宙でジムカーオの操るシルヴァーシップ・スティクスの艦隊と戦ったとき。そして、突然出現した白いモビルスーツと交戦したとき。あのときYG-111は、ラライヤの手によってではなく、敵対しているガンダムに乗っているはずのベルリの意思でガンダムに攻撃を加えた。いったい自分やベルリの身に何が起こっているのか、ラライヤは困惑するばかりだった。

「帰れないのです」短髪の男が叫んだ。「わたしたちはこのままでは帰れないのです。どうか、ララア。わたくしたちに力を。共産主義から国を守るすべをわたしたちに!」


3、


「ぼくがメメス博士の・・・、いや・・・、そうかもしれない。そうかもしれないけど」

ベルリ、ノレド、リリンの3人は、再び再開した日本のバイオエタノールディーゼル船の甲板上でジムカーオ大佐と対峙していた。クンタラとスコードの間で揺れ動くジムカーオは、自分の目的がラビアンローズの破壊とジオン復活阻止にあったことを明かした。同時に彼は、裏のヘルメス財団から命令されたメメス博士の内偵と、スコード教への復讐を心の闇として抱えていた人物であった。

「トワサンガを作り上げたのは、メメス・チョップ博士だ。トワサンガを王政として残したのは、カール・レイハントンではない。メメス博士だ。そして、君を守護しているレイハントン・コードは、チョップ・コードなのだよ。そもそも、あの思念体とかいう幽霊のような連中が、肉体の存続としての王政などというものにこだわるわけがない。王政、そしてその先にある宇宙皇帝にこだわったのはメメス博士だ。理由は君はもう知っているのだろう? カール・レイハントンにアースノイドを絶滅させたのちにクンタラを地上に降ろして、クンタラだけの世界、それはスコードの理想にも叶った理想社会を作り上げる、それが博士の計画だ。クンタラには、スペースノイドもアースノイドも関係ない。国家や民族も関係ない。血筋さえ関係ない。クンタラは教えだ。クンタラの教えを受け入れ実践する限り、誰だってクンタラである。クンタラに差別心を抱いて拒否する心の壁さえなければ、クンタラほど理想的な存在はない。クンタラは与えられたものだけで生きられるだけの人間を生かし、命を繋いでいく。肉体はカーバに至る乗り物でしかないから、ひとつの乗り物にこだわり死を忌避することはない。むしろ死は楽しみですらある。今度こそ魂がカーバに辿り着くかもしれない。クンタラの死には理想に挑んだ者への褒美のチャンスがある。自分たちがより理想主義的であるとの確固とした自信がクンタラにはある。その理想を叶えるために作られたバイオモビルスーツが君なんだよ、ベルリくん。そうと知るからこそ、公安警察のわたしも、検察局参事だったクンパ大佐も、君の本質には触れなかった」

「宇宙皇帝って言ったけど」ノレドが口を挟んだ。「ベルリを宇宙皇帝にするつもりなの?」

「いや」ジムカーオは首を横に振った。「宇宙皇帝はカール・レイハントンさ。言っただろう? メメス博士は彼を殺す手段を知っている。カール・レイハントンはおそらく地球を外敵から守り、惑星を永遠に孤立させたままで無限の時間を自然の変化の観察に充てるだろう。だが彼が殺されてしまえば、地球を防衛するシステムだけが生き残り、クンタラは地球が何者かに守られていることさえ忘れてこの星で種の絶滅が起こるまで生き続ける。皇帝は空位のままクンタラを守り続けるんだよ」

「それが、メメス博士の計画・・・」

「君の計画でもある。君はメメス博士なのだから。さて、この船はシンガポールへ向かうのだが、君らはどうするつもりだ」

「ぼくらは・・・、アメリアを目指しますよ。メメス博士の血筋はぼくひとりじゃない。姉だってそうです。本当にそうなのかどうか、ぼくはまだ疑っていますけど」

「そうか。おそらくはまた会うことになるだろう。そのときに君がもっとましな答えに辿り着いていることを願っているよ。いまのままでは、メメス博士もおかんむりだろう」

それだけ告げると、ジムカーオ大佐は船室へ入っていってしまった。

「行こう」ノレドはベルリの袖を引いた。

ガンダムの乗り込んでみると、すでにリリンが着席してしきりにモニターをいじっていた。ベルリが着席して確認してみると、どれほど離れているのかわからないほど小さく、G-セルフが飛行する姿が映っていた。リリンの話していた通り、ラライヤが時間を遡って地球へやってきたのだ。

「追いかける?」ノレドが心配そうに言った。

「いや」ベルリは首を横に振った。「月のときのように戦闘になるかもしれない。ガンダムとG-セルフがどのように、誰の意思で動いているのかハッキリしない以上、慌てて追いかけることもないよ。それに、ぼくはだんだんわかってきた気がするんだ。虹色の膜に覆われた地球の内部に入れるのは、何か役割がある人間に限られるはずだ。ジムカーオがあっさり地球にいるのも、彼に何か役割があるからなのだろう」

「リリンちゃんが話していたフルムーン・シップの大爆発に関係があるのかな?」

「虹色の膜で覆われたきっかけは、クリムさんが死んだからだ。それはこの胸が感じた。あのとき、大気圏突入に失敗したクリムさんが死んだんだ。その死がきっかけになって、地球は閉ざされた。どうしてなのかはまだわからないけど・・・。そしてすぐ後に、フルムーン・シップの爆発が起こった。そうだよね?」ベルリはリリンに尋ねた。

リリンはしっかりと頷いた。「わたしはそのとき、ビーナス・グロゥブの船に乗っていて、ビーナス・グロゥブに向かっていました。でも、お母さんの目で爆発を見た。お母さんは凄く怯えていた」

リリンはお母さんと呼んだのは、ベルリの義理の母ウィルミット長官のことであった。リリンは続けた。

「お母さんたちは、ザンクト・ポルトにいた」

「え?」ノレドは驚いた。「ベルリのお母さんはザンクト・ポルトにいたの?」

「うん。ゲル法王猊下もいたよ。クン・スーンさんもいた。みんな地球はもうダメだからって、話していた。虹色の膜の中には、ラ・ハイデン総裁も入れなかった。お母さんは地球の中で強い風が巻き起こって、地表を剥ぎ取りながら地球を何周もするのを見て、絶望してしまった。ザンクト・ポルトは、クンタラの人が治めることになって、ウィルミット長官はタワーの運航ができるかどうか、最後にそれを確かめようと、風が収まってから地上に降りていった」

「待てよ」ベルリがある事実に気がついた。「地球を何周もするほどの爆風が収まるのって何か月もかかるはずじゃないか。大気が閉ざされて、地表が氷に覆われるには何年も掛かる。でも、リリンちゃんはまだ地球から月への軌道にいた」

「リリンちゃんが見ているのって、未来なの?」ノレドが驚きの声を上げた。「ザンクト・ポルトから月までは3日。リリンちゃんが月を離れたのは、クリムさんの事故があった数日後・・・。リリンちゃんは、月へ向かう航路の途中で地球でフルムーン・シップの爆発が起こったのを・・・」

「見たよ」

「見た・・・」ノレドは胸の前で手をしっかりと組んだ。「月に到着する前にわたしたちと合流して、すぐに地球に降りてきたのだから・・・」

「フルムーン・シップの爆発はまだ起こっていない?」ベルリも考え込んだ。「そもそも、ぼくらがリリンちゃんと接触したのも場所がどこなのか確認していない。そのときすでに時間を超越していたのかもしれない。ガンダムは空間だけじゃなく時間も超えるんだ。リリンちゃんはガンダムに影響されて何かの映像を見ているんだ」

「ラライヤなら何か知っているかもよ。すぐにハッパさんを探して、ちょっと危険でもラライヤと合流するべきだよ」

「ちょっと待って、ノレド」ベルリは考え込んでいた。「ハッパさんを連れてアメリアへ戻ることはそれほど重要なんだろうか? ぼくはハッパさんが大好きだけど、コクピットを複座に改造してほしくてハッパさんのところへ来ただけじゃなかったかい? だから、そうじゃないんだ。ぼくらが見なきゃいけない現実はもっとたくさんあるはずなんだよ」

ベルリたちを乗せたガンダムの巨躯が突然揺れた。ノレドが悲鳴を上げて座席にしがみついた。全周囲立体モニタは眩い輝きを映し出し、やがてそれは濃い緑色の光景へと変化した。

ガンダムは一瞬で南シナ海の海上からミャンマーのジャングルの中へと移動したのだった。


4、


ミャンマーはジャングルの中で少数部族が離れて定住している社会だった。ガンダムで上空から観察しても、街らしい街はない。市場すら存在せずに、ロバの行商が物流を担う社会だった。

ガンダムがジャングルの中に舞い降りると、さっそく部族の男たちが警戒の威嚇音を発しながら近寄ってきた。リリンとノレドは抱き合って恐怖に震えていたが、ベルリは恐怖を感じなかった。というのも、彼はクンパ大佐の問題の後で、クレッセント・シップの世界行幸を中座して、ユーラシア大陸をシャンクで旅をしたことがあったのだ。

ノレドとリリンは、ガンダムのモニターでベルリが現地の男たちと交渉しているのをじっと見守った。しばらくしてベルリは戻ってきた。

「ミャンマーはもともとフォトン・バッテリーを使っていない文明圏だったんだ。だから大きな変化は起きていないそうだけど、反スコードの何かの運動が起きているらしくて、それに対抗するため南のタイが軍事大国化に突き進んでいるそうだ。ミャンマーは共産主義、自由主義、反スコード主義、それらがぶつかり合う地点にあるために、現地の男たちはみんな警戒をしている」

「警戒たってさ」ノレドは呆れた顔になった。「こんなこと言っちゃ悪いけど、あんな先を尖らせた棒っ切れの武器と、羽飾りのついた冠じゃ勝ち目なんてないでしょ」

「それは彼らもわかっているし、彼らの土地が狙われているわけじゃないってことも理解しているみたいだった。彼らが恐れているのは、ミャンマーが戦場になるってことだ。戦争には戦場があるものだからね。東アジアはコメの生産が盛んだから、どの国も収穫前に自国で戦争をしたくない。だから、ミャンマーに派兵して、ここで戦おうというのさ。ミャンマーには政府がないから」

「酷い!」ノレドはカンカンになって怒った。

ベルリは男たちと話して、彼らが集めた情報の提供の見返りに、ガンダムで防衛任務を負うと約束していた。ミャンマーの部族が知っている情報によると、南側の国では日本の働きかけで軍事同盟を構築する動きがあり、それに対抗するように共産主義と反スコードが存在するのだという。反スコードはクンタラのことではなく、もっと古い拝火教の一種とのことだった。それらは西にあり、彼らもまた東の砂漠を超えて共産主義勢力が侵略してくるのを恐れていた。

ミャンマー人にとって目下の脅威は東の共産主義と西の反スコードが自国内に流入して、南の自由主義勢力と戦争になり、ジャングルが切り拓かれてしまうことだった。

共産党は東から、反スコードは西からやってくる。それらふたつは北から流れ込み、南からは自由主義陣営が入ってくる。アジアは南北戦争の様相を見せていた。南のタイ国からは使者が来て、自分たちの陣営に加わるように説得がなされたのだという。ベルリはモニターに東アジアの地図を映し出して、ノレドとリリンに説明した。ベルリは山岳地帯を抜けて地中海に抜けるルートを示した。

「人間の主義主張にできるだけ関与せず、戦争を食い止めながら西へ向かうには、このルートが最適のはずだ。しばらくは共産主義に気を付けて、大きな山を越えたら反スコードの勢力に入る」

「ああ、まどろっこしい!」ノレドが頭を掻きむしった。「時間も距離も超越できるんなら、すぐにアメリアまで飛んでくれたらいいのに」

「ぼくらはミャンマーで何かを学ぶ必要があるのだと思う。それが終わるまでは、アメリアに近づくことができないのさ」



そのころハッパはタイのバンコクにいた。ホーチミンとハノイでの情報を持つ彼は、タイ政府の庇護下に入り情報提供を求められた。タイは自由主義陣営に属した王政国家で、宗教改革がなされたスコード教国家であった。ただその様式は、キャピタルのものとは違ってエキゾチックさが溢れていた。

ハッパはしばらくアジアを渡り歩いて、アメリアやゴンドワンとの違いを痛感していた。東アジアはそれぞれの国家に個性があり、政治的民族的にバラバラすぎた。フォトン・バッテリーが供給されているうちは、エネルギーの供給を受けるために争いごとは起こらなかったものの、共通の目的を失ったとたんに統一感のなさが戦争に結びついてしまっているのだ。東アジアの問題は、国家体制の古さそのものにあった。

ハッパはタイの宰相と別室で意見交換する機会を得た。太って温和そうな顔をしたタイの宰相は、ハッパに対して自由民主主義の必要性を強調した。しかしどうもハッパには納得いかない部分があった。その違和感は、民族的な単一性に端を発するもので、日本でも感じたことだった。

タイはここ500年で単一民族国家になった珍しい国であった。華僑が土地を去ったことが契機となり、彼らは王宮主導で民族統一を達成したのだ。

おおよそ単一民族で国家が形成されている場合、慣習を共有している人間同士が考える自由には共通の指向性があり、同じ理由で民主主義は意見集約というより支配層が数年に1度受ける認可のようなものになっていた。民衆の意見に幅がなく、共通の理想のようなものが存在しているのだ。

それは文化や慣習が共通した者たちの集団である証であり、移民国家であるアメリアや個人主義的なゴンドワンとは自由と民主が持つ意味合いが違っていた。違うがゆえに自由を認めるしかなく、違うがゆえに意見集約を試みるしかないアメリアとゴンドワンにとって自由民主主義はとても重要な手段であったが、小さな国家が乱立したりあるいは国家が存在せず部族社会であったりする東アジアには、自由民主主義は他者を排除する壁のようなものなのだ。

長らくその他者なるものの存在は曖昧であったが、共産主義と西の砂漠地帯で起こった反スコードの台頭によって、彼らにとっての他者は顕在化した。目の前に本物の敵が現れたことに彼らは興奮し、奔走していた。本来相互の異質性を肯定するための自由民主主義が、東アジアでは結束の題目になっていた。ところ変わればこうも変わるものなのかと、ハッパは旅を決断したことに喜んだ。

相互の異質性を肯定するシステムとしての自由民主主義が機能していなかったために、アジアではフォトン・バッテリーの供給が止まった途端に戦争が起きた。だが、これを自由民主主義の失敗と結論付けるのは浅はかすぎると思われた。異質なものを排除するシステムとして自由民主主義が機能している地域では、内部崩壊が起きない。むしろ結束感を強めるのだ。

どちらがいいとは断言できないのだった。

「ぼくはハノイで共産革命主義を観察する機会があったわけですが、結論から申し上げるとあなたがおっしゃるように、彼らの本質は簒奪にあります。共産主義者の労働に対する嫌悪は生産性の低下を招くゆえに、必要十分な分配が受けられません。分配を求めて革命を起こした彼らは、いやいやなされる最低限の労働で王さまのような生活を求めます。それをごく少数に与えようとするだけで、侵略して奪うしかなくなるのです」

「そうでしょう」宰相は満足げに頷いた。「そこで我々は旧ベトナム国を侵略しようと思うのです」

「ちょっと待ってください。それは飛躍が過ぎるのではありませんか?」

「あちらから来られたのならわかるはずです。あの地域は以前共産国家になっていたことがあるので、容易に共産化します。共産主義というのは身体から消えない毒のようなもので、1度それに汚染されてしまうと何千年経とうが同じことを繰り返します。西の砂漠の人らも同じです。どうせ国家を維持するだけの国力がないのですから、自由主義陣営の我々に支配される方が彼らも幸福になるでしょう」

「待ってください。タイはベトナムと国境を接していないでしょう。旧カンボジアとラオス、いまはジャングルになっている地域があるはずです。侵略などと」

「心配には及びません。これを機にベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラディッシュ、ブータン、チベット、ネパール、最後にはインドも含めてすべて我が国の支配下に置くつもりです。インド以外は国家がないのですから、これを機に」

「いやいやいやいや」

ハッパははたと気づいたのだった。

国家主義を肯定するために機能していた東アジアの自由民主主義は、共産革命主義、反スコード教の拡大を前にして、覇権主義的イデオロギーに変化しつつあったのだ。単一民族は理想を共有しやすい。その性質が自由民主主義の本来の役割を変質させているのだった。

自由民主主義は、互いの異質性を認め合う相互理解のための政治手法とは違う側面を持っていた。



次回第43話「自由民主主義」後半は、5月15日ごろ投稿予定です。


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