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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第5話「ザンクト・ポルトの混乱」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第5話「ザンクト・ポルトの混乱」前半



(OP)


ノレドとラライヤにはパレードに使用されたG-ルシファーがそのまま与えられた。

G-ルシファーのいかつい機体は、ザウスリングののどかな陽光の中に佇み、レイハントン家の屋敷の庭に停められることになった。シラノ-5の農業区画であるサウスリングは緑豊かな場所で、その牧歌的雰囲気を味わうための別荘が多くある地域だった。

レイハントン家の屋敷もかつての当主がそこに住んでいたわけではなく、週末にやって来て家族と過ごすための場所であった。ドレッド家に殺された先代レイハントンは、身体を動かすことが好きで、休日のたびに家族を伴いこの屋敷にやって来ては使用人たちと一緒に農作業にいそしんでいた。

ベルリもアイーダもこの屋敷の庭を走り回って育った。使用人はそのまま王家の家臣団でもあり、忠誠心に篤く、レイハントン家が滅亡したのちもドレッド家に与せずにレジスタンスとして戦った。ここサウスリングのレイハントン領は、王と家臣団の結びつきを確認し合う牧場であり、空であった。

たとえそれが作り物の空であったとしても。

滅亡したドレッド家はノースリンクの工業地帯に地盤があり、豊かではあるものの家臣との関係は経済取引の延長のようなものだった。ドレッド家はその基盤を固めるために生産力の増強を訴え、連帯を重視するレイハントン家と対立していた。

両家の対立はノースリングとサウスリングの対立であり、経済成長と環境維持の戦いでもあり、価値の集中と価値の創造の対立でもあった。資本の集中に於いてドレッド家は常にレイハントンより優位にあったが、人心の掌握についてはレイハントン王家は圧倒的だったのである。

レイハントン王は人々の労働の中に多くの価値を見出して働く人々を称賛して優れた者に勲章を与えていた。たとえ貧しい家庭であってもその仕事ぶりが評価され、王家より名誉が分配されたのである。

ドレッド家は分配を嫌う資本家の意見が大きく反映されたので、彼ら自身は強大な力を持っていても、その後ろには誰もついてきてはおらず、事実1年前の戦争にてドレッド家が滅亡した暁にはその存在はあっという間に忘れられた。資本家たちはノウトゥ・ドレットに代わる権力者も用意できなかった。

自信満々だったノースリングの資本家たちは意気消沈し、ハザム政権が人々に打倒されるのをただ黙って眺めていた。

そこへやって来たのが、ノレドとラライヤだったのである。

ノースリングの資本家たちはふたりの小娘ならば組みやすいのではとさっそく近づいてきたものの、レイハントン家の嫡男ベルリ・ゼナムの地球での養母ウィルミット・ゼナムが一筋縄ではいかない有能な女性とわかってふたりの少女に手が出せないでいた。

ウィルミットはトワサンガの事情に明るくはなかったものの、政治的キャリアによる勘でノレドとラライヤに送られてきた高価な品々はことごとく送り主に返還してしまっていた。彼女のガードはまさに鉄壁であり、ノレドとラライヤは知らないうちに彼女によって完全に守られていたのである。

そうとは知らないふたりも、自分たちが置かれた状況を理解すべく動き始めていた。

ノレドとラライヤは協力してなるべく外を歩き回り、多くの人々に触れ合ってハザム政権が倒れた後のトワサンガの様子を観察していた。

元よりラライヤはサウスリングの出身だったので顔馴染みも多かったが、ノレドも屈託ない性格ですぐに地域住民に溶け込んで仲良くなっていた。新しい王女というのでおっかなびっくりだった住民たちも、ノレドと話をすればたちまちのうちに打ち解けて話せるようになった。物怖じも人見知りもしない彼女の明るい性格は、サウスリングに多くのファンを生んでいった。

ただ、見聞するものの中には不穏なことも多く散見されたのである。

そのひとつがモビルスーツの乱用であった。

ハザム政権が住民たちの蜂起によって倒れたのち、その治安を請け負っていたのはキャピタル・ガードとアーミーの混成部隊であった。ノレドがキャピタル・テリトリィで見知っているウーシァとエルフ・ブルックが治安出動の名目でそこらじゅうを見回っていたのだ。

モビルスーツによるパトロールは地域住民に強い圧迫感と不安を与えていた。憤慨したノレドはウィルミットを通じてモビルスーツの撤退を命じ、所属のハッキリしない彼らもこの命令には応じたものの、それはサウスリングだけのことで、セントラルリングとノースリングでは依然としてモビルスーツの運用が継続されていた。

ノレド、ラライヤ、ウィルミットの3人は、こうした状況をつぶさに観察しながら、じっとベルリの到着を待っていた。

3人には多くの使用人が与えられ、何不自由なく生活をしていたものの、いつも誰かに監視されているような気がしていた。屋敷には明らかに戦闘の経験がありそうな大柄の女性がふたり配属されていた。彼女たちはジムカーオ大佐が雇った人間だったので下手に追い出すわけにもいかない。

そこでウィルミットはこのふたりに荒れたままになっていた庭の手入れの仕事を与え、極力屋敷の中へ入れないように心掛けた。大柄のふたりのメイドは大人しくその指示に従い、蔦に覆われていた庭を切り拓いて元の美しい庭に戻していった。その様子をウィルミットは窓から監視するのを怠らなかった。

ノレド「今度さ、G-ルシファーでどこまで行けるか試してみようと思うんだ」

朝食のクロワッサンを頬張ったままノレドがいった。ノレドはサウスリングの歩いて行ける範囲は行き尽くしていた。

ラライヤ「ウーシァとエルフ・ブルックがどこの所属かわからないままうろついているのにですか?」

すっかり近衛兵の軍服が板についたラライヤが応えた。ノレドの負けず劣らずラライヤはその美貌でサウスリングの若い男性の憧れの的になっていた。

ふたりの話を聞いていたウィルミットは、治安維持を行っている人間たちの制服について文句を言い始めた。

ウィルミット「トワサンガへやって来て、あんなキャピタルの制服で人々を威圧するようにモビルスーツで歩き回るなんて、本当に配慮がなさ過ぎて眩暈がするくらいですよ」

彼女の口調が思っていたより激しかったので、ノレドとラライヤは思わず目を見合わせた。

ウィルミット「あの人たちをトワサンガの守備隊にするつもりならば、すぐに制服をあつらえればいいんです。それくらいの予算はすぐに組めると申し上げたのに、ジムカーオ大佐からは何も言ってこない。そもそも大佐自身が調査部の制服を脱ごうとしない。これじゃまるでキャピタル・テリトリィがトワサンガを侵略したみたいじゃないですか。どうもわたしはあの人というのは・・・」

ノレド「(声をひそめて)クンパ大佐みたい?」

ラライヤ「む!」

ウィルミット「(声をひそめて顔を前に出す)あの人は決して物事に無頓着な人ではないのですよ。大変頭の良い人なんです」

ノレド「悪い人なの?」

ウィルミット「それがですねぇ(椅子の背もたれに寄りかかり)そうとも断言できなくて困っているの。彼が一刻も早くフォトン・バッテリーの供給再開を目指しているのは確かで、そのための仕事も着々と行っていて、ビーナス・グロゥブからレコンギスタしてやってきた人々はクレッセント・シップで送り返し、その際にエル・カインドという方からラ・グー総裁にトワサンガと地球の状況を報告することになるから自分は急いでいるのだといわれると、そうなのかなという気もしてしまって」

ラライヤ「あ、そうか。それでトワサンガにベルリさんを早く招きたがっていて、地球には一刻も早くヘルメスの薔薇の設計図の回収を急がせていると」

ウィルミット「戦争の終結とヘルメスの薔薇の設計図の回収、それにレコンギスタ犯の引き渡し。これらの要求が通ればタワーも運航を開始したいから手伝ってくれとか、言ってることは至極まともだからこちらは言い返せない」

ノレド「でもおばさまの勘では、何か企んでいると」

ウィルミット「これでも日中仕事をしながらずっと考えているんですけどね、フォトン・バッテリーの配給再開以外に彼が何か目的を持っているかというと、それが見当たらなくて」

ラライヤ「得をすることがないんですね」

ウィルミット「(困ったように項垂れ)そうなの」

ノレドは人工的な朝日が昼のものに変わってきたのを確認すると、すっくと立ち上った。

ノレド「だったらいっちょモビルスーツで刺激してやりますか!」






ザンクト・ポルトより発進してきたモビルスーツは、トワサンガ本国守備隊ガヴァン・マグダラ率いるザックス兵団であった。すぐさまミノフスキー粒子が散布され、続いてクノッソス級戦艦1隻がポートから離岸するのが目視で確認された。メガファウナ艦内に警戒警報が鳴り響いた。

ドニエル「ステア、ここはタワーに近すぎる。敵の考えが読めんからには離れて戦う。高度はこのままで少し離れてくれ」

ステア「イエッサー」

青い地球を眼下に、メガファウナは小さく舵を切った。ガヴァン隊もそれに合わせて素早くカーブを描く。攻撃意思があるのは明白であった。10機のモビルスーツはみるみる近づいてきた。

ドニエル「メガファウナにできるだけ近づけるな。タワーがあるぞ。射撃は良く見て狙え。モビルスーツを出す。アダム・スミス、準備はいいだろうな」

メガファウナのモビルスーツデッキでは人が慌ただしく交差している。最初に動き出したのは、アイーダから機体を受け継いだルアンだった。

ルアン「G-アルケイン、出る」

グリモアもすぐさま動き出す。グリモア隊の指揮を執るのはオリバーであった。

オリバー「グリモア隊はあまり離れるな。あくまでメガファウナの守備が任務だ。続け!」

ベルリが搭乗するG-セルフもメガファウナを発艦する準備を進めていたが、ハッパがコクピットの真ん前に張り付いて機体の説明をしていた。

ハッパ「いいか、ベルリ。バックパックは姫さまの指示で全部廃棄してしまった。キャピタル・テリトリィで完璧に直したつもりだが、オレは博物館展示用だと思って整備していた。だからまだ無理はしないでくれ。機体不良でお前に死なれたら姫さまに合わす顔がなくなる」

ベルリ「わかってますって。自分ももうこれには乗らないつもりでいました。でもまずは降りかかる火の粉は払わなくちゃでしょ。ベルリ、出ます」

G-セルフがメガファウナを離れると、遠くのビームライフルの閃光がヘルメットに反射した。ザンクト・ポルトから発進したガヴァン隊は軌道エレベーターにもナットにもあまりに近い位置でビームライフルを使ってきた。タワーを背にしているのは彼らの方であった。

ルアン「タワーに当てるな。ベルリ、後ろへ回り込めるか」

ベルリ「やりますけど(G-セルフを加速させる)あの人たち、トワサンガの守備隊の人たちでしょ? タワーの重要性をわかって行動してます?」

足の速いG-セルフが素早くガヴァン1機の裏を取ってビームを発射した。威嚇のための発砲であったが、敵のパイロットはタワーを背にしたG-セルフめがけてビームライフルを撃ってきた。それは危うく軌道エレベーターのケーブルを傷つけるところであった。

ベルリ「(慌てふためきながら)ドニエル艦長! まずいですよ! トワサンガの人たち、タワーのことをわかっていません!」

ドニエル「なんだって! ダメだ! モビルスーツ隊は戻って艦に取りつけ! タワーを背にするな。クノッソスが出てきてるだ? 艦隊戦はダメだ。こんなところで艦隊戦なんかできるか。敵をタワーから引き離す。それまで不用意に撃つな。モビルスーツ隊、メガファウナについてこい!」

ベルリ「接近戦なんてやりたくないけど(モビルスーツを引きつけながらタワーから離れさせる)来るならやらなきゃいけない。姉さんからラ・グー総裁に会えって言われてるんだから!」

ザンクト・ポルトから出撃してきたクノッソス級戦艦はメガファウナを追いかけてきた。メガファウナと艦隊戦をやるつもりであるのは明白だった。敵は場所など考えずにやみくもにビームライフルを使ってきた。彼らは後方に向かってもビームを発射している。

タワーに関する知識がないことは明白だった。

ドニエル「なんだって、まだ出てきている? そいつらは味方なのか、敵なのか?」

副艦長「144番ナットからだって? 最大望遠!」

モニターに映し出されたのは盾を手にしたレクテンとレックスノーの大部隊であった。彼らは望遠モニターで確認する範囲では武器になりそうなものは持っておらず、盾を並べた部隊が前面に出て、後方の部隊がビーム拡散幕を用意してタワーに取りつけていた。

ベルリ「(G-セルフのモニターに顔を近づけ)あれはキャピタル・ガードでしょ!」

ドニエル「タワーが主砲の射程外に出たらクノッソスとやり合うぞ」

ギゼラ「敵、離れていきます。ザンクト・ポルトに近づけたくないだけのようです」

ドニエル「どうなっているんだ・・・」

メガファウナの下方から1機のレックスノーが白旗を掲げて近づいてきた。宇宙での操縦に慣れていないのか重力に引かれて危なっかしい挙動だったため、ベルリのG-セルフがそれを助けた。






レックスノーでメガファウナに接触してきたのは、ベルリの養成学校時代の同期トリーティだった。同期といっても飛び級生のベルリより年齢的には先輩にあたる。

彼はメガファウナのブリッジに連行され、質問を受けることになった。

トリーティ「お話ししたように、ゲル法王とウィルミット長官がザンクト・ポルトに上がるというので、ガードは警護のためにおふたりについていったんです。人数は数人のはずでした。ところがそのあとに同じクラウンにアーミーの残存兵力がモビルスーツを搬入していたことが明らかになって、事態が混乱したんです」

ドニエル「法王と長官はどうなされた」

トリーティ「アーミーに連行されました。彼ら反乱部隊はジュガン司令の派閥だった者たちで、特に好戦的な連中です。彼らはアーミーの解体に反対していたのですが、戦力的に弱いと感じたのか、トワサンガを追放されたハザム政権の残党と手を組んでザンクト・ポルトを目下占領中です。我々は144番ナットを掌握して、彼らを地球に降ろさないようにクラウンを完全に停めています」

ベルリ「他のナットは?」

トリーティ「(ベルリに向かって)どこに誰が潜んでいるかわからないから、いまひとつひとつ制圧中なんだ。でももうすぐ終わる」

ベルリ「母さん・・・、運航長官のことも」

トリーティ「それはすまない。わからないんだ。ザンクト・ポルトにいるのか、トワサンガにいるのかも。ただカシーバ・ミコシはザンクト・ポルトにはもういない」

副艦長「地球にいたときに聞いていた話では、アーミーの反乱者たちがキャピタル・テリトリィに残ってガードがザンクト・ポルトに上がったという話だったが」

トリーティ「(首を振って否定しながら)反乱を起こしたのはジュガン派の連中で、ザンクト・ポルトに立て籠もっているのもそうですよ。さらにマスク部隊だったクンタラたちが、ゴンドワンから購入したホズ12番艦を奪ってどこかに逃げてます。現在調査部から地球に降りてジュガン派の残党を討伐しろと命令が来ているのですが、もう自分らは調査部からの情報は信じていないんです」

ドニエル「情報を混乱させている奴がいるようだな。政府も頼りないし、キャピタルはボロボロじゃないか・・・(帽子を深くかぶり直し)いや、悪気はないのだが・・・」

ベルリ「(トリーティに向かって)キャピタルにはいまガード養成学校の生徒たちと一緒にケルベス教官どのが潜入して事態収拾にあたってますよ」

トリーティ「そうなのか。(表情が明るくなって)現在通信を切って1番から144番ナットまで制圧することを優先しているが、ケルベス教官がいてくれるなら・・・」

副艦長「クラウンというのは、ザンクト・ポルトから運行させられるのかい?」

ベルリ「ムリです。命令には優先順位がありますから」

トリーティ「それに、144番ナットで全部停められます。こうした事態も考えられた上で訓練も受けていますから。連中がクラウンを使って地球に降りるのは我々が絶対に阻止するつもりです。ただ連中は、戦争を仕掛けてきている。そうなると我々では防ぎきれないかもしれない。タワーだけは絶対に壊させないつもりですが・・・。でもケルベス教官が指揮を執ってくれるならぼくらにも・・・」

ベルリ「そうですよ、先輩!」

メガファウナはいったん高度を下げて144番ナットに入港した。回線を回復させるとケルベス・ヨーの元気そうな顔が映し出され、地上とビクローバーの混乱はひとまず収拾したとの連絡があった。

ケルベス「こちらで装備のすべてを員数管理してみたのだが、クラウンでザンクト・ポルトに上がった連中の他に、戦艦2隻とカットシーを奪っていった連中がいるはずだ。ホズ12番艦を追いかけていた奴らだと思う。あいつらはおそらくゴンドワンの潜入部隊だろう」

トリーティ「自分らはギニア高地の戦いに参加しておりませんので、何とも・・・」

ジュガン派との防衛戦が144番ナットだと分かったことで、ケルベスの判断によりクラウンは地上と144番ナットの間のみで運航を開始した。ケルベス自身もすぐさま144番ナットまで上がってくることになった。ケルベスが来るとわかった瞬間、ガードの隊員から歓声が上がった。

複雑だった状況は一部がほぐれたものの、まだまだ分からないことはたくさんあった。

それらを解き明かすためにも、メガファウナは月を目指す必要があった。





ビーナス・グロゥブのラ・グー総裁が、ピアニ・カルータ事件に絡む全問題が解決されるまでフォトン・バッテリーの供給を停止するとの意向を示したと法王庁が発表してから、トワサンガのハザム政権が打倒されるまで、わずか4時間しかかからなかった。

レイハントン家の滅亡にドレッド将軍が関わっているとの噂はすぐに拡がった。レコンギスタ作戦の生き残りのみならず、ハザム政権に関与していたすべての人間が槍玉に挙がり、トワサンガ政府関係者とドレッド軍の生き残りは本国守備隊であるガヴァン隊に守られ、命からがらザンクト・ポルトに逃げてきたのであった。

ハザム「(疲れ切った表情で)いつになったら地球に降りられるのだ?」

ガヴァン「うるせぇ、ジジイは黙っていろッ!」

トワサンガ本国守備隊元隊長ガヴァン・マグダラは、縛り上げられ横倒しになったトワサンガ元首相ジャン・ビョン・ハザムの横腹を蹴り上げた。恰幅のいい紳士だったハザムは、無精髭が伸び、どこにでもいる無能な老人と何ら変わらない風体になり下がっていた。

ガヴァン「腹が減ったの、クソがしたいの、何もできねぇくせに文句ばっかり垂れやがって。備蓄には限りがあるんだよ。ここがトワサンガじゃないっていつになったら理解できるんだ、ああん?」

ハザム「だが」

ガヴァン「だがとか言ってんじゃねーー!」

ガヴァンはなおも老人を蹴り続けた。政治家は身分を追われると普通以下の人間になり下がるとはいえ、あまりに酷い仕打ちであった。トワサンガ本国守備に人生を賭けてきたガヴァンにとって、本国の民衆に石を投げられながら撤退せざるを得なかった事態は、心に大きな傷を負う出来事であった。

隊員A「メガファウナは144番ナットに入港しました。タワーを奪わない限りレコンギスタできません」

ガヴァン「そんなこたーわかってる! クソッ、レコンギスタさせてやるだの、キャピタル・テリトリィで仕事をやるだの言いながら、アーミーの連中、オレたちに代わってトワサンガに行きやがった。(机をドンと叩き)オレたちは嵌められたんだ」

隊員A「(敬礼し)クノッソスで大気圏突入できない以上、全力でメガファウナを奪ってみせます」

ガヴァン「メガファウナがダメなら144番ナットにいるキャピタル・ガードと戦争だ。自分らが使えないタワーなんぞ知ったことか。死ぬまで戦い抜いてやる」

ガヴァンは腹いせ紛れにまたしてもハザムの横腹を蹴った。






144番ナットに集結したキャピタル・ガードの精鋭は、モビルスーツこそレクテンとレックスノーのみであったが、タワーの緊急時における対応には長けていた。彼らが緊張しているのは、戦争の経験がまるでない隊員ばかりであったためだ。

それに彼らはザンクト・ポルトにアーミーがいるとまだ思っていた。ガードはケルベスに従ってメガファウナに乗り込んだ一部を除いて戦争経験に乏しく、アーミーを怖れていた。

実際のところガードに紛れて上がってきたジュガン派のアーミーは、すでにカシーバ・ミコシを使ってトワサンガのシラノ-5に移動していたのである。

ベルリ「(水分を取りながら)ケルベス教官と合流するまで2日かかりますね」

副艦長「敵がタワーのことを何とも思っていないのは厄介ですな。キャピタル・アーミーというのはそういう教育は受けていないのかな?」

ベルリ「まさか! アーミーといっても急ごしらえで、ガード養成学校の卒業生ばかりですから、タワーが神聖なものだってことは理解しているはずです。その証拠にアーミーは出てきてないですし」

副艦長「アーミーはもういないってこともありますね。カシーバ・ミコシがないのなら、連中と入れ替わりで法王と一緒にトワサンガへ行ったのかも。」

ドニエル「そうだなぁ。ジュガン司令というのはもう死んだのだろう?」

ベルリ「はい」

ドニエル「じゃあ、ジュガン派というのは誰の指示で動いているんだ?」

ギゼラ「(話に割って入り)ちょっと見てください。月の縁のところの突起。月の後ろに何か大きなものがあるんじゃ」

ギセラが指さしているのはメガファウナのメインモニターに映っている月であった。

副艦長「モニターもっと拡大できないの?(クルー全員が目を細めてモニターを見つめる)」

ギゼラが月の画像をさらにアップにしてメインモニターに映し出した。拡大してみると確かに月の裏側に何かがあってほんのわずか突起のように突き出している。

ギゼラ「(モニターを指さしながら)あれってもしかして、フルムーンシップじゃ?」

ドニエル「(大声で)ああーーーーーーッ! んな、どうする、ケルベス中尉を待ってられないぞ」

副艦長「フルムーンシップがあればどこへだって行けますからねー」

ドニエル「総員、緊急発進準備、急げ! フルムーンシップを奪いに行くぞ!」

月の裏側にフルムーン・シップの姿を発見したメガファウナは、艦内にけたたましく緊急通報を流して発進の準備を開始した。







メガファウナの急な動きはザンクト・ポルトにいるガヴァン隊もキャッチした。軽食を口にしていたガヴァンはそのゴミをダストシュートに投げ入れるとすぐさまパイロットスーツにヘルメットを被せ、足元に転がっているジャン・ビョン・ハザムを一瞥した。

その彼にブリッジから指令が伝えられた。

隊員B「メガファウナ、144番ナットから出ようとしています!」

ガヴァン「クノッソス、2隻とも出すぞ! 全員乗艦! 遅れるな!」

ガヴァンはジャン・ビョン・ハザムを担ぎ上げてモビルスーツデッキまで運ぶと、そのまま船外に投げ捨てた。縛り上げられたハザムはもがきながらザンクト・ポルトの住人に受け止められた。

船が出ると知った住人たちは急いでハッチを閉じていく。彼らはガヴァンに恫喝されて、物資を強制徴収されていたのだ。ザンクト・ポルトの住人たちの冷たい視線は、トワサンガで彼に石を投げつけてきた民衆と同じ眼をしていた。

ガヴァン(なんでオレが厄介者になっているんだ? 職務に忠実だっただけじゃないか。オレはマッシュナーやターボ・ブロッキンみたいなドレッド将軍の犬じゃない。なのになんでみんなオレを拒むんだ? なぜオレたちは国を追われた?)

隊員A「全員乗艦確認。出します」

ガヴァン「いいか、メガファウナは生け捕りにするんだ。絶対に沈めたらダメだ。もうオレたちに故郷はない。新天地に降りない限り、オレたちに明日はない。もうトワサンガにオレたちの居場所はないんだ!」

キャピタル・タワー最終ナット、ザンクト・ポルトから2隻のクノッソスが出撃した。


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この続きはvol:30で。次回もよろしく。















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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第4話「ケルベスの教え子たち」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第4話「ケルベスの教え子たち」後半




(アイキャッチ)


キャピタル・テリトリィ警察庁に設けられた指揮所。ジュガンやベッカーの死後、解体するはずだったアーミーに取り残された500名の若者たち。彼らは自分たちが反乱軍と宣伝されているとも知らず、ひっきりなしにかかってくる治安出動要請に応え、寝る間もなく働きづめになっていた。

キャピタル・ガードの動きに不信を感じたケルベス・ヨー中尉は、ガード候補生たち教え子を引き連れ、単身その中心に乗り込んで隠されていたことの次第を明らかにしたのだった。

アーミーの指揮権を得た彼は直ちに警察庁長官に連絡し、警察機能の回復を図るよう要請した。クラウン運航庁には、ザンクト・ポルトに上がったガード本体が降りてくるときに連絡をくれるようにと頼み込んだ。警察はすぐに動いてくれたが、クラウン運航庁はウィルミット・ゼナムの指示がないと確約はしかねると頼りない返事しか貰えなかった。

アーミーに残っていた者の中に3年前の首席卒業生を見つけたケルベスは、彼をアーミーの広報担当にしてすべての次第を包み隠さずマスコミに話すように指示して庁舎を去らせた。マスコミには彼の身の安全のため、警察にも居場所を明かさないようにと命令した。

処分することを前提にしたモビルスーツは、カットシーが4機、キャピタル・ガードのレックスノーが12機であった。警察庁を明け渡して立ち去る際、彼は長官に耳打ちして何事かを告げた。長官は驚いた様子で顔をしかめていたが、最後は彼の肩をポンと叩いて送り出した。

候補生も含めてたった510名の軍隊は、16機のモビルスーツとともに国会へと向かった。

兵士A「(カットシーの手を乗せて接触回線を使う)国会は開幕中ですけど乗り込むんですか?」

ケルベス「(レックスノーのコクピットから)言ったろう? 敵が誰なのか見極めるのさ」






そのころキャピタル・テリトリィ国会議事堂では審議が続いていた。ビルギーズ・シバの顔は長時間の審議で疲れ果て、コンクリート色に変色していた。まるで文学者のような風貌というだけでお飾りの国家のトップに立ったシバは、外面を保っていられる時間が決まっていた。

時間を過ぎるとくたびれたスケベおやじの本性があらわになるのだ。

政策第1秘書のカリル・カシスは、自分が各議員に撒いた議員立法300件を、3日で通すと首相に約束していた。ところが1日目が終わろうというのに採決されたものは、クンタラとは無関係なものばかりであった。件数では20本を少し超えるほどしか通っていない。

舌打ちしながら本会議を眺めていても、質疑応答ともにシナリオ通りのことしか話せない議員たちは汗みどろになりながらもまるで要領を得ない。そこでクンタラ差別禁止に関する法案は一括処理できるかと首相を通じて議長に提案しようか考えていた、そのときだった。

議事堂の外で大きな騒ぎが起こった。続いて軍服姿の若者が議会になだれ込んでくる。彼らは武器を所持していた。ざわめくばかりだった議員たちだったが、1発の銃声が鳴り響くと右往左往の大騒ぎになった。国会の中はマスコミも含めて意外に多くの人間がいる。議場は大パニックに陥った。

若者たちはあっという間に首相と議長の身柄を確保してしまった。カリル・カシスは首相の元へ駆け寄ろうとしたが、思いとどまった。彼女は出口に殺到する分には誰にも止められていないのを見ると、首相を残して議事堂を後にした。

兵士D「首相と議長の身柄は我々反乱軍が預かる。他の者は速やかに退場しなさい」






人が逃げ出したのを確認したケルベスは、縛り上げたビルギーズ・シバの頭に銃口を突き付けた。

シバ「その軍服は・・・、貴様が今回の反乱の首謀者か!」

ケルベス「(呆れながら)あんたね、どこの世界にクーデターを起こして警察の代わりをしている軍隊があるかっての。クーデターといったら国会占拠と首相暗殺でしょ(改めて銃口を突き付ける)」

シバ「ひいいいいいいいいいいいい」

ケルベス「だからそれをやらないクーデターなんかないって話だ。アーミーが反乱を起こしたとニュースが流れたとき、なんですぐにガードに反乱鎮圧命令を出さなかった?」

シバ「それは・・・、ガードが逃げたんだ。法王と運航長官も一緒だ。みんなして逃げた。わしはここに残って戦ったんだ」

ケルベス「(教え子たちを見回しながら)戦っていたんだとよ。国会も開かず官邸にこもっていたくせに。まったくこれが首相とは恐れ入る」

シバ「要求はなんだ?」

ケルベス「我々を本日から正式にキャピタル・ガードに戻していただきたい。アーミーは解散する」

シバ「(考えながら)軍隊を解散させられるのが嫌で反乱を起こしたんじゃないのか?」

ケルベス「(襟元を直し)この中にひとりとしてそんなことを考えた教え子はいません。みんな愛国的で、頼もしい若者たちばかりです。それは教官である自分が保証しましょう。ここにいる若者たちは、アーミーを解散するから警察庁で引継ぎを行えと命令されて庁舎へ参りました。ところが庁舎に入ったところ人っ子一人いない。すぐにアーミーに対して治安出動命令が下りました。彼らはよくわからないまま出動し、訓練も受けていないのに暴動鎮圧をさせられ、行き過ぎがあれば市民の反感を買いました。いつの間にか彼らは反乱を起こしたことにされ、マスコミで報道されたのです。忙しい彼らはその情報に接することもなく、不眠不休で絶え間なく起こる市民の暴動やクンタラの反乱に対応しました。おかしいとは思いませんか。いつからキャピタル・テリトリィはそんなに物騒になりました?」

シバ「(考えあぐねて)・・・法王が亡命したと聞いて、ヤケにでもなったのだろう」

ケルベス「そんなわけないでしょうが。まあ、いい。アーミーは解散します。それでいいですね」

シバ「無論だ」

ケルベス「(うんざりした表情で)何もわかっていないんだなぁ。あんた昨日アメリアのアイーダ・スルガン総監が出した『連帯のための新秩序』を批判して、ゴンドワンのクリム・ニックが出した『闘争のための新世界秩序』を支持したばかりじゃないか」

シバ「それがどうした」

ケルベス「軍隊がないのに、どうやって『闘争のための新世界秩序』に参加するんだ? あれは世界の軍隊を集結させてトワサンガやビーナス・グロゥブに攻め込むという話なんだぞ」

シバ「だからどうした」

ケルベス「(わなわなと震えながら)本当に撃ち殺したくなってきた」






夜が更けたころ、世界を驚かす発表が2夜連続でビルギーズ・シバの口から発表された。なんと彼は一夜にして考えを改め、アイーダ・スルガンの「連帯のための新秩序」に参加することを表明し、クリム・ニックの「闘争のための新世界秩序」を口汚く罵ったのだった。

その変わり身の速さは嘲りの対象になったが、宗教国家キャピタル・テリトリィの首相の言葉は本人が意図しない方向で解釈される幸運にも見舞われた。つまり、宇宙からの脅威と闘うまでもなく、フォトン・バッテリーが供給を再開されそうだと人々は考えたのだ。

報道陣から共同取材の申し込みを受けたケルベス・ヨーは、今回の反乱の顛末は広報に指定した兵士から聞くようにと告げたまま、自分らはキャピタル・ガードとしての任務に就くこと、ザンクト・ポルトに上がった同僚たちにすぐに帰還するよう連絡するつもりだと答えた。

ケルベス「よし、もうここには用はない。すぐさまクラウン発着場へ急ぐぞ」

電光石火で諸問題を片付けていくケルベスは、もはや教え子たちにとってただの学校の教官ではなかった。官僚として役人として、そして理想の大人として身近な手本になっていた。

だが当のケルベスは、大きな疑問を持ったまま動いていたのである。

ケルベス(反乱兵とされたのはたった500人。カットシーとウーシアも足らない。クンタラの反乱者たちが奪ったにしては数が合わない。それにクンタラを追いかけていた戦艦2隻はどこに行ったのだ? その乗組員は? まだ何か裏があるはずだ)






クンタラ国建国戦線からビルギーズ・シバの政策秘書として送り込まれ、秘書室のすべてをクンタラの美人秘書で固めて成果を上げてきたカリル・カシスは、どうやら自分たちの目論見がガードかアーミーの誰かに見破られたことを認めるしかなかった。

警察に告発されることを恐れた彼女は、秘書室の女性に連絡を入れてありったけの現金を官邸から盗み出すと、トランク一杯に詰め込んで3台の車に分乗して官邸を抜け出した。

もうひとつの荷物は、彼女が指示を仰ぐための通信機であった。これはただの通信機ではない。

彼女たちはジャングルの中へと逃げ込み、夜通し車を走らせて東部の港町に着いた。

カリル「キャピタル・テリトリィにいるといずれわたしたちのことがばれてしまう。証拠は残していないはずだけど・・・。みんな、悪いけどこのままアメリアへ逃げるよ。アイーダのことは気に食わないけど、あの小娘が『クンタラ亡命者のための緊急動議』を可決してくれたことに感謝するしかない。法案を通してガードさえ迎え入れられれば勝てた勝負だったけど!」

秘書B「お姉さま、それは仕方のないことです。クンタラのわたしたちを拾ってくださって、たいそうなお給料の仕事を与えてくださっただけでも感謝しなくちゃ」

秘書C「そうです、お姉さま。わたしたちはお姉さまが行くところについて参ります。アメリアはクンタラ差別が少ない地域と聞いております。新天地でまた一緒に夢を見させてくださいませ」

カリル「あんたたち・・・。(目頭を押さえて)よし、金は充分に持ってきた。まずはあの船に乗ってとにかく逃げるんだよ」

指さす先には、世界の海を何か月もかけて就航している豪華客船が停泊していた。彼女たちは札束でパンパンに膨らんだトランクを抱えて、港町へと坂道を降りて行った。






クリム「(テレビを指さし、わなわなと震えながら)あのビルギーズ・シバという男は一体なにを考えているんだ? 昨晩こっちの陣営につくと発表したばかりじゃないか!」

ゴンドワンにはすでに世界各国から戦力が集まりつつあった。だが戦力といっても戦艦などはなく、使い古しの作業用モビルスーツがほとんどで、とても宇宙で運用できる代物ではなかった。そもそもキャピタルから遠く離れた地域では、宇宙が真空であることを知らない者も多い。

朝のシャワーを浴びたばかりのミック・ジャックは、身体をバスローブで包んで髪をタオルで拭いていた。彼女はさほど心配はしていない様子であった。

ミック「単独でもアメリアを叩くつもりでいたんでしょう? アメリアは代替エネルギーへの置換が進んでいて、フォトン・バッテリーの備蓄も多い。むしろ発電量が多いからフォトン・バッテリーの技術が欲しかった。宗教にすがっていたゴンドワンとは投資額が違う」

クリム「ああ、ゴンドワンは遅れているのだ」

ミック「(どんとソファに腰かけ)アメリアがキャピタル・テリトリィを狙っていたのは、投資してエネルギーの備蓄をした分だけ配給を減らすと通告されたから。それじゃ代替エネルギーに投資をする意味がない。蓄えた分だけ減らされるんじゃね。だから、世界はスコード教の専制的独裁から解放されるべきだってわたしたちは訴えた」

クリム「グシオン総監の考えだな。(自分もソファに腰を下ろし)実際、たいしたおっさんだったよ。戦争はゴンドワン単独でも勝ってみせるさ。宇宙からの脅威などというものは、大義名分に過ぎない。だが、アメリアを例え屈服させたとしても、ゴンドワンが得られるのはアメリアのエネルギーの備蓄分だけとなるとゴンドワンの世論は手の平を返すだろう。フォトン・バッテリーの配給が開始されれば、法王庁の権威が回復してしまう」

ミック「この大陸間戦争は、キャピタル・テリトリィ的な旧時代の秩序とアメリア的な新秩序の戦いだった。そこにあの忌々しいベルリとアイーダ姫さまが帰ってきて、『連帯のための新秩序』なんてものが出てきた。あの考えは・・・。わたしたちがクレッセント・シップを降りるきっかけになった・・・」

クリム「まさに秩序なのさ。秩序秩序秩序、何もかも定まった未来、ゆりかごから墓場まで、生まれた瞬間から何もかも決まっている世界。スコード教の世界。考えることが悪になる世界。トワサンガのレイハントン家の王子とかいうベルリくんはそれでいいだろうさ。だが、野心のある者はどうしたらいいのだ? 夢がある者は? 親を嫌っている若者はどこへ行けばいい?」

ミック「(クリムにしなだれかかり)そう、まさにそうだから、あたしはクリムが好きなんです」

クリム「そうか・・・。(一点を見つめ)くれぬというなら勝手に使わせてもらうことにしよう。アイーダに戦争終結と講和の打診を水面下で行い、カリブのジャングル地帯にゴンドワンの若者を大量に移住させてゴンドワン軍の基地を作らせればいい。ゴンドワンの若者がヤケになっているのは、北方地帯の氷河が年々大きくなって町を維持できなくなっているからだ。流民がこんなに溢れているのだから、新大陸へ移住させてやるといえば喜んでついてくるだろう。それに(窓の外に目をやって)作業用モビルスーツは世界から集まってきている。工兵に指示して数週間で町が作れないか考えさせてみよう。キャピタルもアメリアもいまは軍を動かしにくいはずだ」

ミック「(顔を輝かせ)カリブに基地が出来さえすれば!」

クリム「オレたちがキャピタル・テリトリィとタワーの権益を奪い、世界の権力を手にする!」

ミック「姫さまはどう出ますかね?」

クリム「(しばし悩んで)いや、ここはあの死にぞこないのクソ親父を使ってやろう。アメリアの議会はまだ大統領派が多い。混乱してくれさえすればいいのさ」






ケルベス「タワーの再開の目途は立たないのか? 言っておくが、もうキャピタル・アーミーという組織は存在しない。キャピタル・ガードが吸収したんだ」

ケルベスとその教え子たちがビクローバーを占拠してから2日、いまだにクラウンの運航は再開されていなかった。クラウン運航庁の役人も、いつまで停めておくべきなのか分からず困惑の様子を隠せなかった。キャピタル・タワーは独自の電源で動いているため、再開させようと思えばいつでもできる。

ケルベス「ザンクト・ポルトに上がったガードの連中が降りてこない理由はもうないのだろう?」

役人A「そのはずですが、わたくしどもも事情がよく把握できておらず・・・」

ケルベス「いいか、起こったことはふたつだ。ひとり目はアーミーの反乱。ふたつ目はフォトン・バッテリーの配給停止。法王はどちらの理由でザンクト・ポルトに行かれたのだ?」

役人A「話では、天のお怒りがあるのにいまだ争いを続けるアーミーとガードに天罰を加えるとか」

ケルベス「なんだかわからんな。ウィルミット長官まで行かれた理由は?」

役人A「長官はフォトン・バッテリーの配給再開に向けた交渉に立ち会うためと聞いております」

ケルベス「(考え込み)交渉をしている・・・。なるほど。ではガードはなぜ降りてこられない? アーミーとの対立がなくなったのなら、ガードが上がったままなのはおかしいだろう。すぐにでも下に降ろして、事態を収拾させるべきだ」

役人A「(汗を拭きながら)連絡が取れないのです」

ケルベス「動かせるクラウンはあるのか?」

役人A「第2ナットに停止中のものがあり、降ろそうと思えば降ろせるのですが、事態の全貌が掴めておりませんので、降ろして何か恐ろしい事態が起こった場合の責任問題が・・・」

ケルベス「向こうから降りても来ないのだな。こちらがビクローバーを封鎖したことで予定が変わったのかもしれん。その様子ではナットとも連絡がついていないようだな。事情は分かった。よしみんな集合だ。いまからお前たちに重要な任務を与える」

510名の教え子たちがケルベスの前に集合した。

ケルベス「いまからお前たちをケルベス部隊に任命する。不服のある者は前に出ろ」

教え子たち「ノーサー」

ケルベス「敵の正体はまだわからんが、キャピタル・テリトリィを弱体化させようとしている人間がいるのは確かだ。戦力放棄のどさくさに紛れてモビルスーツも奪われているはずだ。いまから書類をひっくり返して徹底的に員数管理を行う。誰の命令で何が持ち出されたのか調べるんだ。早くしないと、そろそろクラウンが動いて空から何かが降りてくるぞ。急げ!」

教え子たち「イエッサー」

ケルベス(ホズ12番艦をゴンドワンから手配した奴ら、奪った奴ら、追いかけていた奴ら。みんな仲間なのか? クンパ大佐やジュガン、ベッカーが死んだ隙を突かれた。すると、内部の事情にかなり詳しく、当然ガードを動かせる人物ということになるが・・・)

ケルベスはここへきてようやくある事実を思い出した。

ケルベス「ホズ12番艦を追いかけていたのはブルジンか?」

教え子たちB「いえ、1隻はガランデンです」

ケルベス「ガランデンの乗組員はゴンドワンの兵士だったな? つまり、クリム・ニックの可能性もあるということか・・・。ゴンドワンの連中がアーミーを乗っ取ろうとした。しかし戦力として購入したホズ12番艦をクンタラに奪われ、計画が狂った・・・。すると、ゴンドワンとクンタラが同時に動いたってことになる。何者かが裏で糸を引いているとしても、ゴンドワンとクンタラを自在に動かせる人物などこの世にいるのだろうか・・・」






キャピタル・テリトリィ南部、廃棄された研究施設にホズ12番艦は隠れ潜んでいた。すでに再利用可能な原子炉ユニットだけが選別されていた。発掘品として預かったG-∀というモビルスーツは、機能がよくわからないままコクピットだけユニバーサルスタンダードに換装された。

G-∀を調べていたローゼンタール・コバシは、エネルギーが完全に充填されていることに驚くほかなかった。少なくとも1000年、それ以上前の機体かもしれないこの巨大なモビルスーツは、コクピットこそ完全に朽ちていたが、それ以外の機能は生きたまま保たれていたのである。

コバシ「これで動くとは思いますけどね。(自信なさげに首を振りながら)エネルギーが充填されているってことは、原子炉ユニットが生きてるってことですからね。もしくはそれ以上のユニットが組み込まれているか。パイロットを認証するときに何かあるかもしれませんから、充分に気を付けて頂戴よ。認証はこちらではやりませんから」

彼はそれだけ告げると疲れた疲れたといいながらホズ12番艦の中へ消えていった。なかで待っていたのはクン・スーンとジット団のパイロットたち20名だった。彼らは食堂に集合し、食事をするフリをしながら入口を塞いだ。

スーン「今後の相談だが、クンタラだの世界同時革命だの、レコンギスタしてきたわたしたちには関係がないことだ。だが、ラ・グー総裁がフォトン・バッテリーの配給を停止するという強硬手段に打って出たいま、わたしたち全員がお尋ね者になった。わたしとキア隊長の子ジュニアは生まれたばかりなのにまるで人質のように扱われている。今後どう動くか意見を聞きたい」

ラボ員A「ここに残っているのはモビルスーツのパイロットばかりで、操舵手がいません。船を奪うのはムリですね」

ラボ員B「残りのジット団のメンバーも逃げたのではなく囚われた可能性もあります。クンタラの奴ら、ジット・ラボのメンバーをいいように使っている。こんな屈辱には耐えられない」

コバシ「地球の人たちには知識がないのでしょう。そこでアタシたちを利用したがっている。ジット・ラボが何をやっていたか知っているわけね」

ラボ員C「クンタラの反乱が失敗すれば、いよいよ我々は行き場をなくしてしまう」

スーン「地球で我々は誰を頼るべきだろうか? あのクレッセント・シップで一緒だったアイーダとかいうレイハントン家のお嬢さまか。クリム・ニックという若者か」

ラボ員D「頼るといっても移動手段がない。このオンボロ艦を奪うしか」

ラボ員B「こっちは武器も奪われている」

コバシ「モビルスーツを奪ったとしても、向こうの戦力がわからないんじゃ動きようがない」

ラボ員A「脱走するとしてもキャピタル・テリトリィまではかなりの距離がある。ジャングルの中を歩いてではとても・・・地球は大きすぎるんだ」

スーン「地球にさえ降りれば何とかなると思ったものだが・・・」

コバシ「拘束されていないことだけが希望ね。いまはヘタに動けない」

そのとき、反乱軍の兵士が食堂へやってきた。ジット団のメンバーは作り笑いを浮かべて、いかにも食事中であるかのように装った。






ドニエル「いよいよだ。モビルスーツデッキ、各員、気を抜くな」

メガファウナは高高度飛行からザンクト・ポルトに入ろうとしていた。ルアン、オリバー、ベルリらはそれぞれの機体に乗り込み、不測の事態に備えていた。

ザンクト・ポルトには法王亡命の護衛と称してキャピタル・ガードが集結しているはずであった。しかし、クレッセント・シップで地上に降りて1年、その間に宇宙で何が起こったのか、知る者はいない。

メガファウナの目的は、ジット団が奪ってレコンギスタ作戦に使用したフルムーン・シップを奪い、再びビーナス・グロゥブを目指すことだった。しかし大気圏突入しなかったフルムーン・シップがどこにあるのかまでは誰も知らない。少なくともザンクト・ポルト周辺には存在しなかった。

メガファウナがザンクト・ポルトに近づいたとき、この最終ナットからモビルスーツが出撃されたことが確認された。

ドニエル「まだだ。まだ応戦するな」

出撃してきた機体は、トワサンガにいるはずのザックス10機であった。


(ED)


この続きはvol:29で。次回もよろしく。









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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第4話「ケルベスの教え子たち」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第4話「ケルベスの教え子たち」前半



(OP)


シラノ-5行政区の大広場に設けられた祝賀会場では、もう丸3日も祭りが続いているという。

キャピタル・テリトリィの特別祭の2日も含めると、クレッセント・シップのクルーは1週間近く祭り漬けの日々を送っている。そうなった理由は彼らの送別祭にレイハントン家再興の祝賀祭が加わったからである。勤勉なトワサンガ住民にとっては、おそらく一生に一度のことになるはずだった。

ノレドとラライヤがその祭りに参加したのは最終日からだった。シラノ-5の住人たちが異様な興奮状態で彼女らを出迎えたのはそのためだった。法王とウィルミットを含めた4人は、文字通り御輿の上に担ぎ上げられ、市内を練り歩いたのち歓待の席に座らされ、予定のプログラムを見せられた。

法王は体調を崩して途中で退席したが、残りの3人はラライヤが操縦するG-ルシファーの手の上にのせられてレイハントンの屋敷まで行進しなければならなかった。それが決められた予定通りのプログラムだったのである。ノレドはここでは姫さまと呼ばれていた。

3人が落ち着いたのは翌日の昼になってからであった。

ノレドとラライヤは疲れ切ってまだ寝ている。クラウンに乗せられた際に睡眠薬を投与されて眠ってから、一度も眠っていなかったのだ。昼になっても彼女たちはひとつのベッドで眠りこけていた。

先に目が覚めたのはウィルミットであった。クラウンの運航長官になってから休みなく働いてきた彼女は、ラライヤが空から落ちてきて以来の騒動で、自分がすっかり怠け者になってしまったのではないかと気に病んでいた。クレッセント・シップの出立によってすべてが元に戻るとの彼女の淡い期待はすぐさま裏切られたのだと理解するしかなかった。

ウィルミットは、自己紹介する10人の女中の挨拶を上の空で聞き流し、食事の準備と掃除の指示だけ出すと、レイハントン家の屋敷の中をひとりで見て回ることにした。そして、書斎でアイーダとベルリの幼少時の写真を見つけた。気品ある両親と賢そうな姉、やんちゃそうな小さな男の子。

ウィルミット(ああ、これはベルリに違いない。昨夜寝る前も、ノレドさんとラライヤさんはこの家は2度目だといっていた。そうか、ベルリはこの写真を見てしまったのか・・・。それではわたしは・・・、わたしの役割は終わったということなのだろうか・・・。ベルリはまだほんの子供だと思っていたのに、モビルスーツなどに乗り、月の裏側の世界や金星の世界をわたしより先に知ってしまった。それを楽しそうに話してくれることもなく、ひとりで考え、世界1周へ旅立ってしまって・・・。もうわたしがベルリにしてあげられることはないというのだろうか。ベルリは月の王子さまになって、わたしの元から永遠に去っていくのだろうか・・・)

ジムカーオ大佐から受けたレクチャーでは、レイハントン家は永らくトワサンガの王家として君臨してきたという。

ピアニ・カルータ、つまりクンパ大佐が諸悪の根源で、彼の考え方に触発された人間たちがレコンギスタを目指し始め、ドレッド家の反乱によってレイハントン家は当主と妻を失った。その子供たちは地球へ亡命させられた挙句に施設に預けられた。トワサンガではドレッド家が権力を握り、その傀儡のハザム政権が作られ、地球と同じように戦争の準備を開始してレコンギスタを目指した。

武力拡大の原動力となったのが、宇宙世紀時代の記録である「ヘルメスの薔薇の設計図」というもの。それとそれをもとに作られたあらゆる兵器を破棄して回収できない限り、フォトン・バッテリーは2度と運ばれてこない。だとすれば、クラウンが時刻通りに運行される意味すら失ってしまう。

ノレド「おばさまー!」

ラライヤ「お食事ですよー」

元気な声が屋敷に響き渡った。ふたりはいつの間にか起きて、すぐさま食堂へ行ったようだ。ウィルミットは苦笑してから静かに頷いて書斎を後にした。

ウィルミット(ベルリはこの部屋を使うことになるのだろうか・・・。本物のお父さまと同じように。地球からこんなに離れた月の裏側で・・・)






そのころ地球では、ケルベスが挽肉の香辛料炒めを詰めた揚げパンを喰らっていた。

メガファウナを離れたケルベスは、キャピタル・ガード養成学校の生徒に車で迎えにこさせ、その日のうちに街を目前にした場所まで舞い戻っていた。

狭い部屋で10人ほどが同じ食事を摂っていた。彼らはキャピタル・ガード養成学校の生徒たちで、ケルベスの教え子たちであった。彼らはガードがザンクト・ポルトに上がってしまってから、学校のあるビクローバーに戻ることもできず、自宅待機の状態が続いていたのだ。

ケルベス「食いながらでいいからよく聞け。知っての通り、キャピタル・テリトリィの民主主義はお飾りで、アメリアのような成熟した民主国家ではない。法王庁中心の宗教国家が、建前上民主国家のふりをしてきただけだ。何もかもフォトン・バッテリー配給の権利を持っていたおかげでそれが認められてきた。もしこの特権がなくなったらこの国はどうなると思う?」

生徒A「(急いで食べ物を飲み込み)ただの未熟な法治国家ではないでしょうか」

ケルベス「その通りだ。アメリアでは有能な若者は法学部で法律を学ぶ。法学部出身でなければ政府の要職に就けない。対してキャピタル・テリトリィではガードの養成学校を出るか、神学校を出て神職に就くか、一般大学を出てクラウン運航庁に入るかしかエリートの行き場はない。官僚はキャピタル・ガード経験者の天下り先でしかないのだ。ではその国で軍隊がクーデターを起こした場合はどうなるか」

生徒B「アーミーもガード候補生から選抜しているので、ガード、アーミー、官僚機構のいずれも国民の支持を失うはずです」

生徒C「官僚機構の信頼が揺らいで、政府への支持が高まります」

生徒D「しかもクラウンも停止している!」

生徒A「法王も亡命している。クラウンも止まったまま。ガード養成学校出身者は信頼を失っている」

生徒B「ああ、そうか。反エリート主義が蔓延するということでしょうか」

ケルベス「そうだ。未熟な民主国家でも安定した国家であったのは、実は官僚機構が機能して国民の支持を得てきたからなのだ。それがなくなり、未熟な政府への期待が高まったからといって、未熟な政府が突然有能になったりしない。君らはこの状況をどう思うか」

生徒A「絶対におかしいです(他の生徒も一様に頷く)」

生徒D「自分はアーミーは解体されるのだと思っていました」

ケルベス「その通りだ。アイーダ・スルガン総監が発表した『連帯のための新秩序』を受け入れ、アーミーは解散、ガードが吸収して元の鞘に収まるはずだった。新規開発されたカットシー、エルフ・ブルック、ウーシァ全部解体して資源として使い、レクテンとレックスノーだけの時代に戻るつもりでいた。政府は決定を承認するだけだ。しかし、誰かが状況を操作して現在に至ったとしかオレには考えられんのだ。そこでお前らに作戦を伝える。(一同息をのむ)オレたちはこれからキャピタル・アーミーを乗っ取る。これの意味するところは分かるか?」

生徒B「官僚への信頼を取り戻すということですか?」

ケルベス「それもあるが、要するに敵を燻り出すのさ。オレたちはいま誰と闘っているのかわからんのだからな」






冬のゴンドワン北部は昼でも冷たい風が吹きすさんでいた。ロルッカとミラジは散歩に出ると告げて山の方向へ歩いていた。

ミラジ「じいさんは何でG-セルフに核兵器が仕掛けてあるなどとウソをついた?」

ロルッカ「(肩をすくめて)本当に王子はトワサンガへ戻らないのか? 王子がトワサンガへ戻るとしたら、G-セルフをあの男に渡すようなことになれば・・・、我々は戻れなくなる。あの男はマスクだろう? わたしにはそう見える。マスクはベルリ王子を殺そうとしたんだぞ。お前こそどうかしている」

ミラジ「だったらどうしろというんだ? 我々はもう地球に降りてしまった。お尋ね者だ。どこも我々を受け入れてはくれないし、レコンギスタしたスペースノイドは少数だ。クンタラのように反乱も起こせない。そもそもゴンドワンとアメリアにモビルスーツを売りつけて稼ごうなどとお前が言うから・・・。あの男がマスクだろうがクンタラだろうが関係ない。いまは彼にすがるしかないんだ」

ロルッカ「ここは寒い。オレは嫌だ。王子に土下座してでも許してもらい、もし王子がトワサンガへ帰るというならついていく覚悟だ。クンタラの世話になどなってたまるか」

ミラジ「お前の考えは分かった。だがあいつらを見ただろう? 脱走すれば殺される。もうすぐ原子炉が運ばれてくるから、その手伝いはやってくれよ」

ロルッカ「地球は寒い。大きすぎて温めることもできない。こんなところに住むのは気が狂っている」

ミラジ(このじいさんはもう地球が嫌になっているのか・・・)

地球にやって来てまだ1年しか経っていない。ロルッカは武器商人の仕事をしながら富を蓄えていったものの、その使い道のない野暮な男で、おまけにやもめ暮らしである。

元来ロルッカは女にもてるタイプではなく、意固地なほどに真面目なのが取り柄であった。それが地球へやって来てから緩み始めて、酒を飲むようになった。穀物の多く採れる地球では多くの種類の酒が造られており、トワサンガのように気分転換に少量を口にするのと違い、意識を失うまで飲んでも誰も咎めないし、そうした人物は大勢いた。

これが地球なのだとミラジは感嘆する。残量や汚染を気にせず好きなだけ清浄な空気が吸えて、屋外の浄水施設を管理するだけで大量の水がいつでも使える。人々は労働するがそれはトワサンガのように命に係わる義務を負っているわけではなく、金儲けの手段でしかない。

こんな環境で生まれ育てば人は必ず腐り、知能は発展しない。地球環境で生まれるニュータイプがあったなら、それはよほど過酷な生活をしてきたか、突然変異でしかないだろう。

声を発してもマイクがなければ相手に届かず、ミノフスキー粒子を撒かれればそれさえ失う環境に生きる緊張感など、地球生まれに育つはずがない。ミラジは安穏とした地球環境に慣れ親しみながらも、ここでロルッカのように規律を失ったら自分は終わりだとも感じていた。

そのためにも何らかの組織に属し、そのために義務を果たすことは必要であった。

ロルッカ「なぜこんなに冷え込むのだ?」

ミラジ「じいさんはさっきから寒い寒いというが、宇宙空間に放り出されることを思えばこんな寒さなどどうということはない。空気が大量にあるから寒いんだ。おまえさんはトワサンガで寒さというものに恐怖を感じるようになっているだけじゃないかな」

ロルッカ「寒さに恐怖・・・。ああ、確かにそうかもしれん」

ミラジ「春になれば勝手に温まってくるのが地球だ。空気を暖めるために多くの機材が正常に作動しているかチェックしなきゃいけないトワサンガとはまるで違うんだ。オレはレコンギスタのどさくさに紛れて地球に降りてきたが、こんなに快適なものならもっと早く来てもよかったくらいだ」

ロルッカ「レジスタンス活動を悔やんでいるのか? 王子は裏切れんだろう?」

ミラジ「おまえさんがハッタリをかましてくれたおかげで王子を裏切らずに済んだ。それにはまぁ、感謝しなくもないな」

ロルッカはフンと鼻を鳴らしていつものように酒場へ出掛けて行った。






世話になった家庭に丁寧にお礼したのち、ケルベスと生徒たちは農業用ピックアップトラックの荷台に乗ってキャピタル・アーミー簒奪のための作戦行動を開始した。

生徒たちはまだ大人とは呼べない年齢で、皆して緊張するばかりだった。震えている生徒たちの背中をケルベスがひとりずつひっぱたいて気合を入れる。

舗装されていない郊外をガタガタと揺られながら出ると、立派な舗装された道路に出た。運転している生徒が運転席から顔を出して訊ねた。

生徒E「どこに行けばいいんでしょう?」

ケルベス「アーミーの拠点はどこだ?」

生徒A「警察庁だったはずですけど」

ケルベス「では、警察庁へ行け」

いきなり敵の本部に乗り込むと聞いた生徒たちは不安げな表情でお互いの顔を見た。庁舎の前には4機のカットシーが並んで周囲を威圧している。

農業用のピックアップトラックは不釣り合いな豪勢な庁舎に横付けされた。颯爽と車を降りたケルベスは生徒たちを手招きして降ろすと、後についてくるように指示して正面玄関から乗り込んでいった。不安げな生徒たちはお互いに抱き合わんばかりに身を寄せて、震える足でケルベスの後をついていった。

ケルベスが庁舎の中へ入っていくと、若い兵士が彼に気付いた。警察庁の庁舎だというのに、疲れ切った表情のアーミーの兵士たちがそこらじゅうで雑魚寝をしている。どの顔も若い。

兵士A「ケルベス先生! ケルベス先生じゃありませんか。どうなさったんですか?」

ケルベス「クラウンが動かなくなったんでな(ケルベスは後ろに控えた候補生たちを指さし)教育実習だ。お前ら、ずいぶん疲れてそうだな」

人懐っこそうな顔の兵士が大声で別の兵士たちを呼び寄せた。眠たそうな顔の兵士も起き上がり、ケルベスの周りにはたちまち人だかりができた。彼らは口々にケルベスの名を呼び、挨拶をするのだった。ケルベスを取り囲んだ一団はワイワイと騒ぎながら軽口をたたき合った。

ケルベス「みんな元気そうだな。教え子たちがこうして活躍しているのを見るのが何より楽しみだよ。(一同を見回し)懐かしい顔ばかりだ」

兵士A「教官どのが来てくださったなら、治安出動のご教授などを賜りたいものです」

ケルベス「警察の連中はどうしたんだ?」

兵士B「それが(肩をすくめて)出勤してこないのですよ。全部こちらに丸投げです」

ケルベス「ここには若い連中しかいないようだが、現在アーミーの指揮は誰が執っているんだ? そのお方は治安出動のご教授をしてくれないのか?」

兵士C「ここにはアーミーしかいません。アーミーはご承知の通り急造の組織で、ガード養成学校を出たばかりの人間ばっかりですよ。それにもうすぐ解体されますし」

兵士の話を聞いて、候補生たちが互いに顔を見合わせた。

ケルベス「そんなこったろうと思った」

ケルベスは若い兵士たちに案内されて指揮所に入った。指揮所には卒業したばかりの生徒もおり、候補生たちは顔なじみの先輩を見て少し安心したようだった。

ケルベス「よし、全員集合!」

この一言で、その場にいた全員が一斉に駆け寄り、整列した。

ケルベス「では訊くぞ。なぜアーミーは反乱を起こしたのか」

兵士C「(困惑した表情で当たりを見回しながら)誓って自分らは反乱など起こしていません」

兵士A「(列から一歩前へ進み出て)反乱など起こすはずがないです。調査部の上官からの指示で、法王亡命の護衛にガードを連れて行くからあとは若い連中でアーミー解体の手伝いをしろとしか言われてないのです。引継ぎは警察庁でやるからというので、モビルスーツもこちらに移動させたのですが、そうしたら警察庁は休みになったとか連絡が入り、ひっきりなしにくる治安出動要請に応えるだけで精一杯。みんな寝不足で倒れそうになるまで国家のために尽くしています。反乱など」

兵士たちは一様に首を横に振った。その顔を眺めたケルベスは満面の笑みを浮かべて頷いた。

ケルベス「そうだろうと思ったよ。残っているアーミーは全部で何人だ?」

兵士A「詰めている者は総勢500名。若い者ばかりです。反乱というのはいったいどういう話なんですか?」

ケルベス「お前らは嵌められたのさ。いまお前らは反乱軍ということになっている。キャピタル・ガードの連中はお前らから逃げてクラウンでザンクト・ポルトに避難したことになっている。あいつらが戻ってきたら、お前らは反乱軍として処分される。口封じだな」

寝耳に水だったのか、兵士たちの間に動揺が走った。

ケルベス「だがオレはお前らをみすみす死なせるつもりはない。いまからアーミーの指揮はオレが執る。この中で不服のある者はいるか?(全員がノーサーと返事をする)だったら治安出動している者も含めて全員庁舎に呼び戻せ。時間はないぞ。それから警察長官に連絡だ」






アメリアの湾口は船であふれ返っていた。それを眼下に見下ろしながら、幾台ものモビルスーツがメガファウナに補給物資を運び入れていた。

ドニエル「なんでこんなに海に船が浮いているんだ?」

副艦長「クンタラですよ。姫さまの法案が通ったでしょ。だから大挙して押しかけてきてるんです」

ドニエル「なーる」

ハッパ「モビルスーツは本来こういうことのためにあるんだ。キリキリ働けよ、ベルリ」

ベルリ「(G-セルフで荷物を運搬しながら)もちろんそうですけど、天才クリムがあんなことして、G-セルフやアルケインをぼくらが使っちゃっていいんですかね? アルケインは姉さんの機体なのだから、アメリアに残していっても」

ハッパ「お前の姉さんはもうこんなのいらなくなったんだ。彼女の武器は法律と地位。もうモビルスーツには乗らないよ」

ベルリ(姉さんは頼もしくなった。あの「連帯のための新秩序」だって誰の力も借りずにひとりで書き上げた。それなのにぼくはまだまだ何をしたらいいのか迷っている。母さんにも何となくあわせる顔がない。ぼくはビーナス・グロゥブで見たことをなんて母さんに伝えたらいいんだろう?)

ドニエル「運び終わったらすぐに出航するぞ。ベルリ、どんどん運べよ。サボるなよ」






ビルギーズ・シバの第1政策秘書カリル・カシスは、法案審議が予想以上に長引いていることに内心で苛立っていた。だがその美しい顔にはおくびにも出さない。

議院内閣制のキャピタル・テリトリィでは、政府は常に与党であり、野党が質問形式で審議を行っていた。しかし今回はすべて議員立法であったために、作成者の議員以外に詳しい者がおらず、審議がたびたび止まって時間を空費していた。

一見とても有能そうなビルギーズ・シバの外面には時間的な制約がある。カリル・カシスはいつまでもつかとヒヤヒヤせねばならなかった。

カリル(ジムカーオ大佐はまだガードを掌握しきれていない。アーミー討伐の手柄で箔をつけておかないと、ベルリとかいうレイハントン家の小僧がしゃしゃり出てくると何が起こるかわからない。ベルリは運航長官の息子らしいけど、クンタラのものになるキャピタル・テリトリィにあんたなんかいらないんだよ。レイハントンの息子なら、月で王子さまでもやっていればいい)


(アイキャッチ)


この続きはvol:28で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第3話「アメリア包囲網」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第3話「アメリア包囲網」後半



(アイキャッチ)

グシオン総監が世界に向けて訴えた宇宙からの脅威。それはメガファウナがビーナス・グロゥブを目指していたころに発表された。

宇宙からの脅威が差し迫っており、地球はいますぐ戦争を止め団結しなければならないとの彼の訴えは、広く世界に受け入れられ、また大陸間戦争の相手であったゴンドワンを絶望させる効果があった。彼らはクンパ大佐の求めに応じ、ガランデンを完成させながら、またクルーまで提供していたのに、宇宙からの脅威についてまったく情報を持っていなかったためである。

アメリアの反スコード教的進歩主義の打倒と宗教的連帯への回帰を訴えていたゴンドワンは、トワサンガの存在の公表と、続いてやってきたビーナス・グロゥブのクレッセントシップにアイーダが乗っていたことで一気に求心力を失った。アイーダが世界巡行中に発表した「連帯のための新秩序」は、ゴンドワンの宗教回帰とアメリアの進歩主義の折衷案であり、それを否定する思想はゴンドワンにはなかったのである。

ゴンドワンの真の狙いは、暖かい地域への領土拡張であった。そのための言い訳が封じられ、戦争継続が困難になったとき、現れたのがクリム・ニックだったのだ。クリムの思想は覇権による世界統一と新秩序構築。彼にはアイーダを否定する思想があった。ゴンドワンは屈辱を飲み込み、アメリア大統領の息子であるこの美しい青年をゴンドワンに受け入れた。

クリムの戦友であり愛人であるミック・ジャックは、自分の恋人がまるで映画スターのようにもてはやされるのを楽しんで見ていた。一方で心配もあった。

ふたりはオーディン1番艦のモビルスーツデッキに戻っていた。クリムは中佐に2階級特進していたが、モビルスーツに乗ることをやめるつもりはなかった。彼はゴンドワンの最新型モビルスーツ、ダ・カラシュの整備に余念がなかった。

ミック「これでアイーダさまと完全に決別することになりましたね」

クリム「(コクピットの最終調整をしながら)元々オレはあの女が好きではない。カーヒルのようなヒヒ親父と寝る女だぞ。箱入り娘というのはああいうものなのだ。最初から利用するつもりで近づいたのだから、いまも関係は同じだ。十分利用させてもらっている」

ミック「天才クリムは最終的に何を目指すのです?」

クリム「(ミックに顔を近づけながら)内緒だぞ。(小さな声で)オレは世界政府の初代大統領になるつもりだ。アメリアにいてはアイーダが邪魔だ。世界政府の大統領になるのに、踏み台がアメリアだろうがゴンドワンだろうが関係ないさ」

そこへオーディン1番艦艦長ドッティ・カルバスより連絡が入った。

ドッティ「クリム中佐。たったいまキャピタル・テリトリィがアメリアを非難する声明を発表いたしました。もしかして(楽しそうに)キャピタル・テリトリィのビルギーズ・シバが無能だという噂は本当かもしれませんね」

クリム「スコード教の総本山で真の民主主義が再興できると思うか? お飾りなのさ」

ドッティ「アメリアとキャピタル・テリトリィの連合軍が攻めてくるかとヒヤヒヤしましたよ」

クリム「確かにキャピタルの動きは少し変ではあるのだが・・・、ドッティ、キャピタルが世界の中心である限り、ゴンドワンは常に寒冷化の恐怖に怯えて暮らさねばならない。世界を闘争のために団結させ、ゴンドワンに世界政府を作ることができれば、とは考えないか?」

ドッティ「それは愉快。お付き合いさせていただきますよ。理想に準じるのは軍人の本懐ですから」






アイーダが上院に提出した「クンタラ亡命者のための緊急動議」は、クリム・ニックの「闘争のための新世界秩序」と名付けられた政治宣言と、キャピタル・テリトリィ首相ビルギーズ・シバによるアメリア批判声明によって思わぬ方向へ議論が進んでいた。

現在のアメリアは上院を旧グシオン・スルガン派が多数を持ち、下院はズッキーニ・ニッキーニ派が多数を占め、ねじれ状態にある。それでもクンタラ差別の少ないアメリアで人道のための法案が否決されることは少なく、緊急動議の賛成多数は揺るがないと思われていた。

ところがズッキーニ派はグシオンの政治宣言がゴンドワンに奪われたと騒ぎ立て、その責任をアイーダになすりつけてきたのだ。上院議員が提出した緊急動議が下院で早々に可決され、上院で紛糾するのは極めて異例の事態であった。息子のゴンドワン亡命で立場のなくなったズッキーニは、政治経験の少ないアイーダに狙いを定めて攻撃する作戦に出てきていた。

議員A「我々も困っているのですよ。(議会から拍手)グシオン総監の娘が父親の政治宣言を否定する『連帯のための新秩序』を勝手に発表する。ところが頼みのクレッセント・シップが宇宙に還ったとたんに政治状況は一変。アメリアの若者がゴンドワンでグシオン総監のお考えと同じ『闘争のための新世界秩序』を発表してあっという間に世界中の賛同を得ている。これではあなたひとりにアメリア議会が振り回されているようではありませんか」

アメリア議会は、政府への質問形式ではなく、議員同士の自由討論形式で質疑が進む。ズッキーニ派が送り込んだ背の高い西部出身議員の前に立ったアイーダは、後ろに控えた父が残したふたりの秘書とともに必死で敵とやりあっていた。討議はチーム戦なのである。

アイーダ「ここは、わたくしが発表した『連帯のための新秩序』を議論する場ではないことは議員もご承知のことと思います。「クンタラ亡命者のための緊急動議」の是非を問う場なのです。人道問題は一刻の猶予もならないために緊急動議として提出させていただきました。ありがたいことに下院の多数の方々のご賛同もいただき、下院はすでに賛成で可決いたしております。上院はいったいいつまで議決を先延ばしされるおつもりなのでしょうか」

議員A「もとよりアメリアはキャピタル・テリトリィよりやってきたクンタラ亡命者を積極的に受け入れることで産業基盤を発達させ、よその地域より文明再興が先んじた過去があります。500前には月よりの使者がやってきて、地球人を月まで連れて行ったこともあるとか。多くの人間によって多くの夢を叶える大地、それがアメリアなのは言うまでもありません・・・」

討論は続いている。その2階の傍聴席には、アイーダにクンタラの亡命者枠拡大を陳情したクンタラ代表団が陣取っていた。彼らはクンタラの中でも資産家たちで、世界中のクンタラを人道支援していた。

陳情者B「そういえば君は(隣のAに向かって小声で)今来(いまき)、古来(ふるき)という言葉を聞いたことがあるか」

陳情者A「(討論の行方に熱中しながら)いや、知らんな」

陳情者B「オレも幼いころに婆さんから聞いただけなのだが、クンタラにはもともと地球にいた者がいて、彼らを古来、新しくやってきた連中を今来と呼んで区別していたというんだな」

陳情者A「もともと地球に住んでいたのに『古来』なのかい? 昔にやって来た者と最近やって来た者がいるということだろう? 古来はどこから来たんだ?」

陳情者B「小さい頃からそれが不思議だったんだ。いま、あの議員の話を聞いていてふと思い出したのだが、『来る』って、どこから来たのだろう? オレたちのルーツのことさ」

陳情者A「(カリカリしながら)あの議員、いつまで粘るつもりなんだ」

陳情者B「アイーダさまはこれがデビュー戦なんだろう? すごい活躍じゃないか。・・・なあ、もしかして、地球にはクンタラという身分階級はなかったんじゃないか。クンタラというのは宇宙にしかなくて、古来(ふるき)は繁殖のために連れてこられ、今来(いまき)は宇宙の連中から・・・」

議長によって討論が打ち切られ、即刻採決の運びとなった。緊急動議は賛成多数で可決した。会場には万雷の拍手が鳴り響き、陳情者たちは互いに立ち上がって握手を交わした。

陳情者B(地球はクンタラの牧場じゃなかったのか。だとすれば地球人はみんなクンタラの末裔となる。地球人などというものは、宇宙世紀時代にすべて滅んだことがあるのではないのか・・・)

陳情者C「亡命者受け入れの件はこれでいいとして、やはり戦う必要はあるのじゃないかな。ゴンドワンとは早急に同盟を結ぶべきだ。カリブ海が欲しいのならくれてやればよい」

彼の意見は少数派だったようで、口々に否定されるのでそのまま黙ってしまった。だが、アメリアの中にはグシオン総監の従来の交戦論を支持する層も一定数いたのである。






レイビオ「よく我慢なされました、姫さま。素晴らしい初登壇です。」

レイビオは興奮を隠せないように早口でまくし立てた。彼はアイーダが思っていたよりはるかに有能だったことに驚き、用意していた辞表を捨てる決心を固めたばかりだった。

もうひとりの女性秘書セルビィも同様であった。「連帯のための新秩序」に否定的だったふたりは、相手がそれを攻撃材料に出してきたとき、秘かに負けを覚悟していた。しかし、アイーダは一切相手にせず乗り切ってみせたのだ。

3人は黒塗りのハイヤーに乗り込み、前後を護衛に固められながらアメリア議会を後にした。アイーダには自宅のほかに上院議員宿舎と総督府の官舎が与えられていたが、彼女は警備を考えて総督府の官舎に寝泊まりすることが多かった。

帰宅しメイドを下がらせた彼女は、隠し部屋に忍び込んだ。そこには通信機が隠してあった。






ベルリ「こんなときに母さんは何をしてるんだ!」

フォトン・バッテリー節約のために遠浅の海岸に停泊したままのメガファウナでは、ハッパ開放祝いの祝宴が開かれていた。たくさん作られた軽食が屋外に持ち出され、砂浜に張ったテントで各自が好き勝手に楽しむのがメガファウナ流であった。

日本で購入したラジオにすっかりはまっているベルリは、ラジオのニュースでキャピタル・テリトリィのアメリア非難声明を知ったのだった。夜空には美しい星々が瞬いていた。

ハッパ「(ビールを片手に)なんて言ってるの?」

ベルリ「姉さんが出した『連帯のための新秩序』をシバ首相が放棄するって。東アジアじゃ大人気の政策だったのに」

ハッパ「東アジアは森林資源も豊富で、熱帯雨林もあって、ソーラーパネル設置も進んで、戦争もないのだろう? 人口も多いからフォトン・バッテリーの配給も多いし、2・3年はエネルギーが持ちそうじゃないか。オレも出身はあちららしいんだよなー。移住も考えなきゃな」

ベルリ「ハッパさんはアメリア人でしょ?」

ハッパ「有休も恩給もないのに、アメリア人なんて何のメリットもありゃしないよ。」

そこにケルベスが姿を現した。

ケルベス「ちょっとこいつ借りていいかな」

ハッパは頷いてビールを片手にアダム・スミスがいる輪の中へと入っていった。

ケルベスはベルリを森の中の暗がりに連れて行くと、真面目な顔で話し始めた。

ケルベス「キャピタル・ガードの一連の動き、ベルリ生徒はどう思う?」

ベルリ「戦友じゃないんですか?」

ケルベス「お前はまだ卒業していないのだから、戦争が終わればオレの生徒さ。(声をひそめて)実をいうとオレはウィルミット長官に頼まれてまたメガファウナに乗ることになったのだが、長官はどうやらアイーダさんと連絡を取り合っていたそうなんだ。おそらくは今回の法王亡命とフォトン・バッテリー供給停止の件を事前に知らせたと思うのだが、何せあっちはアメリア軍総監さまだからな、だからといってキャピタル・ガードまでザンクト・ポルトに上がる必要はない。たしかに指導者を失ったアーミーが焦ってあの無能のビルギーズ・シバを縛り上げてクーデターを起こそうという気配はあった。当初はガードがアーミーを制圧して解体させる手はずだったのに、なぜかガードは長官と一緒にザンクト・ポルトに上がってしまった。かなりの人数がいるのに、全員。家族を残したままだ」

ベルリ「キャピタル・テリトリィは治安が悪化しているのでしょう? ガードがいなくなるなんて」

ケルベス「そうなんだ。ガードがいなくなって、アーミーは慣れない治安出動に追われていると聞く。軍隊が法律に則って市民の暴動を抑えられるとはとても思えない」

ベルリ「するとアーミーは市民の支持を失う」

ケルベス「そうなんだ。これには何か政治的な意思が働いているはずだ。アーミーは確かにジュガンやベッカーの影響で暴走気味だった。ガードが押されていたこともたしかだ。しかし、元はといえば全員オレの教え子だ。クンパ大佐、ピアニ・カルータさえいなければ全員ガードになっていた人間たちだ。そうだろ、ベルリ生徒」

ベルリ「はい」

ケルベス「そのアーミーがジュガンやベッカーを失ってもまだ権力を欲しがること、その割にやることなすことドジばかり踏んでいること。彼らが悪者になっていること。ガードが本来の任務を放棄して国を離れたこと。全部何かがおかしいんだ」

ベルリ「それで教官どのはどうするおつもりで?」

ケルベス「オレはメガファウナを降りて陸路でキャピタル・テリトリィに潜入するつもりだ。クレッセントシップ帰還の特別祭で地上に降りていた生徒がクラウンの運航停止で地上に残されていてな、あいつら、養成学校の生徒たちが協力してくれる。生徒らを残したのは甘かったんだよ。あいつらだって立派なガード候補生だ。だからな、ベルリ生徒。ここでお別れだ。長官と姉上をお守りしろ。いいな」

そういうとケルベスは誰にも別れを告げずにジャングルの暗闇の中へと姿を消していった。






夜。美しい星が瞬いている。エルライド大陸中部、キャピタル・テリトリィ勢力範囲の最南端に、幾台もの大型トラックが列をなしてやってきていた。列はジャングルを切り拓いて建てられた、滑走路を併設した巨大な研究施設に入っていく。サーチライトがその列を照らしていた。

列は滑走路の方へと入ってくる。そこにはホズ12番艦の姿があった。ライトに照らされるなか、男たちが書類を片手に説明に聞き入っている。

学芸員「首相命令にあったものを見繕って持ってきたつもりですけど、宇宙世紀時代末期のモビルスーツといいましてもいろいろありまして、最も状態の良いものは後から来ます。ぼくらも判断に困るモビルスーツが掘り出されていまして。エネルギー反応も大きくて、でもどんな核ユニットが乗っているのかわからないんです」

コバシ「反応が大きいって、まだ原子炉が生きてるってこと?」

学芸員「原子炉は宇宙世紀初期のものでも生きてますよ」

コバシの隣にはスーンの姿もあった。スーンは自分たちがクンタラの反乱部隊に命を救われたことをようやく理解し、ジュニア救出の約束を取り付けて協力する気になったのだった。

命が救われたというのはこういうことだ。

キャピタル・テリトリィはなぜかクンタラ建国戦線と通じた反乱部隊に協力的で、基地の提供および物資の提供を行っている。

それに対して彼らホズ12番艦を追いかけて攻撃してきたキャピタル・アーミーの船はそのまま行方をくらまし、キャピタル・テリトリィから正式に反乱部隊であると非難されたのだ。つまり、反乱軍はクンタラともうひとつ謎の組織があったのである。

ビーナス・グロゥブの旧ジット団団員たちは、そのもうひとつの反乱組織に騙されて偽の契約を交わしていたものを、クンタラの反乱に巻き込まれたことでなぜかキャピタル・テリトリィ側に引き戻されたのだ。クンタラ建国戦線も反乱部隊ではあるが、キャピタル・テリトリィから物資の提供を受けている以上、謎の組織よりはマシだというわけである。

サニエス「トラックで運んできたのはいったい何かな。数が随分と多いが」

学芸員「あれが原子炉ユニットですね。この原子炉ユニットというやつはやたらと丈夫にできていまして、モビルスーツが錆びた後もこれだけ残るわけです。地中に埋もれていたものなどは、他が全部錆びて朽ちても、原子炉ユニットだけが残っている。原子炉ユニットの型から埋蔵モビルスーツを推定することも多いわけです。実はずっと動いて発電しているものもかなりあって、扱いに困っていたのです。いやいや、助かりました。まだほんの一部なので、翌朝以降も運ばせます」

サニエス「(頭を抱えて)原子炉ユニットを剥き出しで持ってきたのか」

学芸員「あー、放射能のことなら意外に大丈夫ですよ。なかがどうなっているのか知りませんが、漏れてくる放射線はわずかなものです。それより、改造して使えるモビルスーツがないかとも注文があったので、もうじき参りますが、どうにも判断に困る機体を1機お持ちいたしました」

スーン「(鼻で笑いながら)宇宙世紀時代のモビルスーツはジット・ラボでも散々研究していたが、使えるものなど残っているはずがない。触れば壊れるようなものばかりだ」

そこに遅れてモビルスーツ運搬用の大型トラックが入ってきた。サニエスの指示でかぶされていた幌が取り払われると、確かに新品と見紛う機体が横たわっていた。かなり大きい。

コバシ「原形をとどめているなんて、よほど保存状態が良かったのね」

スーン「いや、おかしいだろ。宇宙世紀時代の機体がこんなに綺麗なはずがない。もっとずっと汚れて劣化しているものだ。外装を新しいものに変えてあるだろう?」

学芸員「そう思われるのも無理はありませんが、5年前に地中から発掘したときには他のモビルスーツ同様にボロボロだったのです。この機体は発掘して空気に触れた瞬間から自力で機体を修復しはじめまして、このような姿に戻ったのです。おそらくは宇宙世紀時代最末期の機体ではないかと推測してます。流出したヘルメスのバラの設計図にも載っておりませんし。繭のようなものにくるまれて、つがいのようにもう1機あったのですが、それはすでに宇宙へ送られています」

スーン「ヘルメスのバラの設計図は我々も研究していたが、解明できるものはリギルドセンチュリー初期のものまでだったな」

コバシ「キア隊長が論文テーマにするって意気込んでいた話でしょ?(スーンが力強く頷く)宇宙世紀とリギルドセンチュリーが500年ほど重なっていて、その間に宇宙世紀時代の技術がユニバーサル・スタンダードに置き換えられたって仮説」

学芸員「(眼鏡をきらりと光らせ)お、それは興味深い話ですね」

スーン「(得意げに)キア・ムベッキは天才だからね!」

コバシ「キア隊長の仮説では、宇宙世紀1500年ごろがリギルドセンチュリー1年ごろじゃないかって。宇宙世紀は2000年続いたそうだから、リギルドセンチュリー500年ごろに宇宙世紀が終わっている。我々の先祖がリギルドセンチュリーを使い始めた理由は、そのころアースノイドが絶滅したからだって。ま、1500年も戦争を続けてるような暦を使いたくないわよね」

スーン「ああ、確かにそう言ってた。キア隊長はリギルドセンチュリーとユニバーサルスタンダードの発祥は、アースノイドの絶滅がきっかけだったって」

サニエスはその場を離れて原子炉の運搬指示に向かった。原子炉とモビルスーツは海路で運搬する予定だったのだ。

コバシ「それにしてもこれ、不細工ね。地面に埋まっていたなら、1000年以上前の機体よね」

学芸員「古代文字のAを逆向きにした文様が額に入っているでしょう? だから我々はG-∀と呼んでいるのですが、G-∀は不細工ですけど、他の宇宙世紀時代のモビルスーツよりも多くの点で優れている可能性があるんです。機体の自己復元能力などは他にない機能です」

スーン「こいつを直すのはいいとして、こんな古いもの、誰か乗るのか? 宇宙世紀というが、1000年前の黒歴史そのものだぞ」

サニエス「ルイン・リーという若者が、使えるのなら使いたいと。G-セルフを欲しがっていた若者ですが。高機能でフォトン・バッテリーがいらないのなら使いようはあります」

コバシ「ルイン・・・、知らない名ね。でも、こんなの絶対に弱いわ。G系統に分類していいものかどうかも疑わしい。(顔をしかめて)禿で髭って。ウーシアにすら瞬殺されそうだけど、いいの?」

スーン「こいつの原子炉だか核融合炉だかは生きているんだな?」

学芸員「エネルギーが完全に充填されているんですよ。塵も自動で落としますし、コクピット周りさえ新しいものに換えれば、電装系すらそのままでイケるかもしれないんです。エネルギー・ユニットは核融合炉より強力ですね。この機体だけはかなり特殊なんです」

コバシ「嘘みたいな話ね。たしかに宇宙では観たことないなぁ」

スーン「これを直して乗れるようにして引き渡せば、ジュニアを取り戻してくれるか?」

サニエス「必ず」

学芸員「この機体はコクピット部分だけユニバーサル・スタンダードに換装すれば使えますよ」

スーンとコバシは顔を見合わせて頷きあった。彼らはキア・ムベッキ・ジュニアを取り戻すことをすべてに優先させると誓い合っていた。






カリブ海に停泊中のメガファウナは、大きな仕事を前に束の間の休息を取っていた。

クルーはハッパの無事を祝って浜辺で騒ぎ合っていた。その輪の中に席を外していたドニエル艦長が戻ってきた。

ドニエル「たったいま、姫さまより連絡が入った。(どっと歓声が沸く)メガファウナはゴンドワンとの大陸間戦争には参加せず、トワサンガでフルムーン・シップを奪ってビーナス・グロゥブを目指し、ラ・グー総裁にことの真意を尋ねてくる任務に就くことになった。全権大使は、ベルリくん、君だ」

ベルリ「ぼ、ぼくが!」

ドニエル「すぐにアメリアへ戻って補給を済ませてから、その足でトワサンガへ向かう。みんな準備にかかれ」

クルーは艦長の命令で一斉に動き出した。

ハッパは紙コップを片手に笑みを浮かべながらつぶやいた。

ハッパ(有休が欲しいなんて、言ってられないんだよなぁ)


(ED)


この続きはvol:27で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第3話「アメリア包囲網」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第3話「アメリア包囲網」前半



(OP)


法王庁からゲル・トリメデストス・ナグ法王猊下のトワサンガ亡命とフォトンバッテリー供給停止が発表された日から、世界は政治の季節へと突入した。

キャピタル・テリトリィではアーミー残存兵力によるクーデターが起き、対立するキャピタル・ガードはタワーに立て籠もってクラウンの運航を停止してしまった。クラウン運航長官ウィルミット・ゼナムはヘルメス財団との交渉という名目でトワサンガへ赴いたまま帰ってこなかった。

キャピタル・テリトリィ首相ビルギーズ・シバは、アーミーとガードとの対立を調停すると国民に約束しながら、実質何もしていなかった。キャピタル・テリトリィにおいて民主主義は飾りに過ぎず、ウィルミット長官、クンパ大佐、ナグ法王の3者によって政治が取り仕切られていたからである。

キャピタル・テリトリィと政治的に関係の深いゴンドワンは、アメリアとの間で大陸間戦争になる原因となった自国の寒冷化、全球凍結の幻想に怯え切り、国家としての体裁が崩れつつあった。国土の北部にある永久凍土は年々拡がり、それに伴って放棄される街が相次いでいた。

ゴンドワンの慢性的なエネルギー不足は、森林の伐採、砂漠化、地表凍結、近海の漁業資源全滅と悪循環を繰り返した。飢餓による人口減少が最も激しい地域となったことは、ゴンドワンの官僚体制を脅かした。それに付け込む形で登場したのがアメリア大統領子息クリム・ニックであったのである。

ミック「大した人気ですこと」

ミック・ジャックは机の上に並べられた雑誌に目をやり、クリムの肩にしなだれかかった。雑誌の表紙はどれもクリムの写真が使われている。このアメリアからやって来た美しい青年は、たちまちのうちにゴンドワンの若き女性を魅了し、若者たちの希望の星となっていた。

放送局の控室。大部屋の中にはミックとクリムのふたりしかいない。部屋の中にはゴンドワンの若者たちから送られたプレゼントが山のように積まれ、クリムの人気の高さを物語っていた。

クリム「もともと、ゴンドワンからの侵略戦争だったのだ。そうだろう、ミック」

ミック「そうですわね」

クリム「彼らは温かい土地を欲しがった。東海岸か、出来ればもっと南。引け目を感じながら、我々アメリア人が反スコード教だとプロパガンダを流すことで戦争を継続してきたのだ」

ミック「そこへやって来たのがクレッセント・シップですね」

クリム「それに乗るアメリアのアイーダ。彼らゴンドワン人はそこにいなかった。(肩をすくめる)もうここで決着がついたのさ。ゴンドワンは戦争継続の名目を失ってしまった。戦うことなくクレッセント・シップに敗北したのだ。このクリム・ニックが参上するまでは!」

ミック「そういうところが天才クリムの天才たる所以ですね」

ディレクターがクリムに放送準備が整ったと告げた。クリムは全世界の放送局に対し、ゴンドワン声明という形で自説を訴える機会を手に入れたのだ。世界は混乱しており、「大きな声で語られる答え」を求めていた。「大きな声で語られる答え」は、必ずしも正しい必要はない。

演壇に立つクリム。メイクアーティストが最後まで彼の顔にドーランを塗りつけ、やがて放送が始まった。スタジオには放送関係者以外誰もいない。観客も、政治家も。彼が伝えるメッセージは、彼のものというより、ゴンドワンの未来そのものであったから、反対意見はその場に必要ないのであった。

クリム「ゴンドワン並びに世界中の皆様、わたしの名前はクリムトン・ニッキーニ。ご存知の方もおられるかもしれませんが、アメリア人でございます。そのわたしがなぜゴンドワンに亡命し、クレッセントシップが帰還したその日に祖国アメリアに戦争を仕掛けたのか。それはアメリア軍提督アイーダ・スルガンの過ちを告発するためでございます」

カメラがクリムのアップに切り替わる。

クリム「かつて祖国アメリアは、宇宙からの脅威に備え、地球人同士の連帯が必要だと訴えていました。キャピタル・テリトリィとスコード教によるフォトン・バッテリー技術の独占に反対し、独自エネルギー源の確保こそが人類を発展させるのだと固く信じ、戦ってきたのです。ところが新提督となったアイーダ・スルガンは、キャピタル・テリトリィと密かに結び、フォトン・バッテリー技術はおろか、ヘルメスの薔薇の設計図に基づく驚異的な性能のモビルスーツをも独占し、人類の未来について何ら展望を持たぬまま、アメリアという恵まれた大地を独占するばかりなのです」

クリムの背後にホログラムで地球儀が映し出される。クリムは大きく手を拡げた。

クリム「彼女は言います。連帯せよと。相互理解を高めよと。しかしそこに平等なエネルギーの分配はありません。フォトン・バッテリーは供給停止されました。ソーラーパネルを製造販売するのはアメリア人です。日照時間が長いのもアメリアです。世界中の人々は、わずかな金を持ち寄り、金持ちのアメリア人からそれを買わなくてはいけない。そして短い日照時間で少しだけ産業機器を動かすのです。これは真に平等なのでしょうか?」

背後の画面に、世界中の飢えた子供たちの写真が何枚も投影される。

クリム「しかも、クレッセント・シップに我が物顔で乗り込み、あれだけスコード教を笠に着ておきながら、こんにちの法王庁からの発表は一体なんでありましょうか。クレッセント・シップ帰還と同時に法王は宇宙へ亡命し、フォトン・バッテリーの供給停止が決まってしまいました。アイーダ・スルガンが訴える人類同士の相互理解が大事だというのは、人類のためのことを想った発言なのでしょうか、それともフォトンバッテリーの秘密を独占する宇宙に住む人々のことを想ってのことなのでしょうか。よくお考え下さい」

画面はクリムのアップに戻った。

クリム「法王庁は、ヘルメスの薔薇の設計図すべてとそれから製造されたすべての兵器の放棄を要求してきています。アメリアはそれに応えようと世界に訴えている。またトワサンガ及びビーナス・グロゥブからの亡命者の身柄引き渡しも要求されています。各国に残された猶予期間は1年。フォトンバッテリーの備蓄は1年分しかありません。1年以内に問題解決がなされなければ、我々人類は再び暗黒時代へと戻ってしまうのです。我々はアイーダ・スルガンに従い、すべての武器を放棄し、スコード教の前に跪き、恵みを乞うべきなのでしょうか? しかも世界で一番豊かな国のお姫さまに従って。本当にそれでいいのでしょうか!」

ゴンドワンの国旗が大写しになる。ここだけは意地でも入れたいとの外交部官僚の指示であった。

クリム「だからこそいま一度訴えよう。人類の団結を。人類はスコード教に見捨てられたいまこそ強く団結し、宇宙からの脅威に備えて戦力を結集すべきときなのです。戦力の放棄など言語道断。戦力を放棄し、亡命者を引き渡してフォトンバッテリーが再び供給される保証がどこにあるというのか。跪いてはいけない。いまこそ戦わねばならないのです! 幸いゴンドワンは宇宙からの脅威との戦いに巻き込まれず、最も戦力を温存しております。ここにアメリアの産業力とキャピタル・タワーさえあれば、我々はトワサンガのみならずビーナス・グロゥブさえも制圧できるでしょう。1年後には、我々は無力になる。これが事実なのです。与えられるのを待ってはいけない。奪いに行くのです! 故に、ゴンドワンは再び通告する。アメリアはいますぐ降伏せよ。アイーダ・スルガンの偽善を葬れとッ!」

クリム・ニックのこの宣言は、「闘争のための新世界秩序」「修正グシオン・プラン」として宣伝されていった。

クレッセント・シップがもたらした平和は、こうして完全に否定されたのであった。






ゴンドワン北部、クンタラ国建国戦線のロッジ内では、民兵全員がクリム・ニックのテレビ放送を見つめていた。

ルイン「なかなか素晴らしい演説だったじゃないか。さすがは天才くん」

不安そうにオロオロとうろたえているのはロルッカ・ビスケスであった。彼は終始落ち着かない様子で手足をせわしなく動かしていた。

ロルッカ「本当に姫さまは我々をザックス兵団などに渡すつもりであろうか」

ルイン「アイーダという海賊部隊の女がベルリの姉上だとか」

マニィ「そうなんだよ、ルイン。(表情は険しい)生まれたときからお姫さまで、トワサンガでもアメリアでもお姫さまなんだ。天才クリムはアイーダがトワサンガの人間だってことや、海賊部隊をやって宇宙戦艦を廃棄しなかったことも隠して温存してる。まだカードをいくつも持ってるんだ」

ルイン「いまの彼女は(ロルッカとミラジに向かって)あなた方が知っているレイハントンのご令嬢ではないでしょう。あれはあくまでグシオン総監の娘。アイーダ・スルガンです。だとすれば、あなた方のことなど別に」

ルインは笑いながら肩をすくめてみせる。ロルッカは頭を抱えてうつむいてしまった。

ルイン「まあそう悲観しないことです。だからこうして我々が救いの手を差し伸べた。ちゃんと事態を予測してあなた方をお招きしたのです。ロルッカさんとミラジさんがご協力いただけるなら、他のレコンギスタした方々もクンタラ国にお招きいたします」

ミラジ「そのことでご提案があるのですが」

ルイン「(居住まいを質して)聞きましょう」

ミラジ「先ほどクリムトンという方の演説で、残された時間は1年とありました。フォトン・バッテリーの備蓄のことを言っているのでしょうが、実は原子炉とか核融合炉というものがあって、それを使えば放射性物質がある限りほぼ無限にエネルギーが得られるのです。ウランが枯渇しているかもしれませんが、キャピタル・テリトリィというところは宇宙世紀時代の遺物を多く収集していたでしょう。あの中に使えるものがあるかもしれません」

ルイン「(思い出すように)ああ、博物館の・・・。でもさすがにあれは動きませんでしょう」

ミラジ「宇宙世紀が始まってから2千年とも1万年とも言われていますが、いわゆる宇宙世紀時代の遺物はほとんど原子炉とか核融合炉で動いていたのです。しかもそれらは半減期が1万年を超えるものを燃料にしておるので、とてつもなく丈夫に作られているのです。機体は動かなくとも、原子炉が生きている可能性はあります」

ルイン「フォトン・バッテリーの代替になると?」

ミラジ「リギルド・センチュリーになってからのものはユニバーサルスタンダードで、フォトン・バッテリーで動くものばかりですが、宇宙世紀時代の遺物は仕様もバラバラで、現代では再現できないものばかりです。つまり、そういうものが残っていても、博物館の学芸員では仕組みがわからず、取り外すことも容易ではありません」

ルイン「(不安そうに)しかい、核とは爆発するものでしょう?」

ミラジ「太陽が常に爆発していると考えればそうでしょうが、違うともいえます。そもそも外をごらんなさい。こんなに白いものが積もっている。地球は寒すぎます。あなた方がアグテックのタブーを犯すことを厭わないというのであれば、これを使わない手はありません」

ミラジの提案は受け入れられた。ルインはさっそくある人物を通してキャピタル・テリトリィと連絡を取り、原子炉がどこかにないか探らせた。






クリム・ニックの政治演説に呼応するように、グシオン時代の人類結束に賛同していた国々からアメリアに対して遺憾の意が発表された。ゴンドワン経由でフォトン・バッテリーの供給を受けている国々も含め、世界の半数以上が現在のアイーダ・スルガンの新方針に反対したのだ。

ただ、ゴンドワンに対して備蓄されたフォトン・バッテリーの供出まで表明した国は少なかった。

フォトン・バッテリーの備蓄が尽きるまで1年。戦争が始まればもっと早くそれは尽きてしまう。世界は不安に包まれ、クンタラへの暴力でそれを発散させる事件が相次いでいた。

キャピタル・テリトリィでもそれは同様であった。そもそもスコード教の支配地域で、クンタラ差別の色濃い土地柄であった。そこに起こったアーミー内のクンタラが戦艦とモビルスーツを奪って反乱を起こしたとのニュースはさらに彼らへの反感を掻き立てた。

それを鎮圧すべきキャピタル・ガードは、全員ザンクト・ポルトへ上がってしまっている。アーミーは慣れない治安出動で法を無視した威圧行動を取り、市民からの反感を買った。頼るものを失った市民たちが神にすがろうとも、肝心の法王が亡命してしまっている。キャピタル・テリトリィ市民のプライドはズタズタに引き裂かれていた。タワーも止まったまま動かなかった。

キャピタル・テリトリィ首相ビルギーズ・シバは、本来自分が果たすべき役割がすべて自分に戻ってきてから、国会の召集を諦めて首相官邸にこもりきりであった。

毎朝決まった時間に執務室に出勤することを、彼は自分の仕事だと認識していた。だから国会を閉じたままでも必ず執務室には決まった時間にやってきていた。そして何もしないのである。

彼には女性ばかり20人の秘書がいた。それも自分の特権だと思っていた。今まで誰もそれを咎めなかったのだから、肯定される行為だというわけである。

なかでも第1秘書のカリル・カシスは彼のお気に入りだった。彼女は1年前にクレッセント・シップが地球にやってきたときにヘルメス財団から派遣されてきた秘書で、美しくグラマーで頭の切れる女性であった。すべてを仕切れる有能さをシバは気に入っていた。

彼女に任せておけば自分は何もしないで済むからである。

カリル「与党野党の連名で国会開会要請が届いております」

シバ「無視しておけ。非常事態だ」

カリル「非常事態なら非常事態宣言を出せと議長から要請が来ておりますが」

シバ「バカじゃなかろうか。非常事態宣言など出したら本当に非常事態になってしまう。非常事態だと心の中で思っているだけでいいのだ(こぶしで胸をポンポンと叩く)」

カリル「キャピタル・アーミーからこれ以上治安出動に人員は割けないと話が来ています。国内で反乱を起こしたクンタラ討伐に専念したいと」

シバ「クンタラだって有権者なんだ。そんなこと認められるか。無視しておけ」

カリル「それでは法治主義が」

シバ「どいつもこいつも要請要請、自分で考えて行動できないのか。責任を押し付けるな」

カリル「国会を召集しないから責任が首相の元へ来るのでございます。提案なのでございますが、国会を開会し、法案を通しさえすれば要請は首相官邸に参りません」

シバ「本当? 何日くらいかかる?」

カリル「政府与党から法案を出さず、議員立法のみの処理であれば最短で3日で終わります。与党側への根回しはやっておきましょう」

シバ「(ふいに激高し)ウィルミットとナグ法王に騙されたわ! ガードは逃げたじゃないか。調停をすると国民に約束したのに恥をかかされた。いまは誰がこの国の責任者なんだ?」

カリル「あなた様です」

シバ「そんなバカなことがあるか。選挙に勝ってわしの仕事は終わったのだ。任期中ここに毎日通うのがわしに仕事だ。ちゃんとやってるじゃないか。1秒だって遅れたことがあるか?」

カリル「ございません。では提出された議員立法300件をすべて3日で処理するということでよろしいですね。法案内容のご検討は?」

シバ「わしにそんなことがわかるはずがないだろう!」

カリル「では整合性が取れない箇所だけ見つけさせ、あとは自動的に採決させます。議員の皆様も仕事ができて喜びましょう。ところで先ほどのクンタラ討伐の件なのですが」

シバ「なんだ?」

カリル「わたくしもクンタラなのです」

シバ「そうなの? そんなにおっぱい大きいのに?」

カリル「おっぱいの大きいクンタラなのです。アーミーがもしクンタラ討伐部隊を編成した場合、わたくしも捕らえられお仕事のお手伝いができなくなってしまいます。どうかご堪忍くださりたく」

シバ「(真剣な表情で)君がいなくなるのは困る。他の秘書は単なる飾りで仕事ができるのは君だけだ。おお、そうか。クンタラの票をまとめてくれたのも君だったな。(ようやく気付き)クンタラ討伐などしたらわしが当選できなくなるじゃないか! アーミーこそが反乱軍だ!」

カリル「ではわたくしは議員立法の精査をするので失礼いたします」

首相執務室を後にした彼女はその足で秘書室へと入っていった。秘書室にはすべての女性秘書が集結していた。





ビルギーズ・シバの抱える20人の美しい秘書たちは、専用の秘書室の中でカリル・カシスの帰りを待っていた。戻ってきたカリルは不敵に笑みをたたえており、仕事が上手くいったことは誰の目にも明らかだった。部屋に集まった秘書たちが彼女の元へと駆け寄ってきた。

秘書B「どうだった?」

カリル「(手をひらひらさせながら)誰かひとりあっち行って首相のお相手をしてあげて。胸を触られても怒っちゃダメよ。(手招きで全員を輪にならせて)議員立法をすべて通せる手はずになった。これで法的にクンタラへの暴力は違法になる。それでもクンタラ討伐隊が結成されれば、アーミーを違法組織にできる。もうあちらには人材がいないんだ。クンタラは勝てるよ」

秘書B「ジムカーオ大佐が戻ってくれば、わたしたちクンタラの願いが実現する!」

秘書たちはいままでの人生で味わった数々の屈辱を思い出して涙した。美しく生まれても、豊かな家庭に生まれても、学校の成績がどれほどよくとも、彼女たちはキャピタル・テリトリィという土地にあって最下層の扱いしか受けられなかったのだ。

それがいま、終わろうというのだ。彼女たちにとっては夢のような出来事であり、その出来事に彼女たち自身が関与していることは誇りそのものであった。

そして彼女たちには力強い仲間がいた。

その名はルイン・リー。最難関キャピタル・ガード養成学校を首席で卒業し、キャピタル・アーミーの中で異例の出世を遂げた人物であった。彼はクンタラの女性の中の憧れであり、ヒーローであった。1年前の戦争でこそ敗れたが、いま彼は再起を図ろうとしている。

秘書C「ゴンドワンのルイン・リーから先ほど連絡があって、博物館の人員を使って原子炉か核融合炉をゴンドワンに運ばせて欲しいとのことです。なんでもフォトン・バッテリーの入手に失敗したときの保険だとか。他に何か使えるモビルスーツがあれば送ってくれと」

カリル「ルインとマニィは頑張ってるみたいね」

カリルは自分より3つ年下のルインを労うように話した。皆には話してはいなかったが、カリルはルインがベルリのG-セルフという機体にこっぴどくやられたこと、住む場所を失ってしばらく放浪していたことなどを知っていたのだ。

よくぞあの状態から復活したものだと、カリルは素直に感心していた。

カリル「あの子もよくやっている。(真剣な表情になって)首相名義で書類を出して今日中に運ばせて頂戴。わたしは首相に読ませるアメリア批判声明の準備をするわ。アイーダとかいう娘もこれで終わりね。天才クリムくんがいなければ、スコード教の言いなりにならなきゃいけないところだった」

秘書D「スコード教徒を皆殺しにしてクンタラだけ生き残る。クンタラだけの理想郷がついに出来上がる。そしてヘルメス財団の人間を地球に招いて使役する。クンタラが支配者層になる!」

ビルギーズ・シバの秘書たちはお互い抱き合って涙した。クンタラである彼女たちは、他の地球人と違って士気が高い。

クレッセント・シップがやってきたからといって、クンタラの戦いは終わってはいなかったのである。

カリル「博物館の学芸員で、1番原子炉に詳しい人をこちらによこして。それから、繭にくるまれて発掘された2体のモビルスーツのうちの1体がまだ地球に残っていたでしょう? あれをビーナス・グロゥブの連中に整備させてゴンドワンに送りましょう。南部に放棄された基地があるから、あそこを使えばいい。すぐにトラックの手配をして!」



(アイキャッチ)




この続きはvol:26で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第2話「クンタラの矜持」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第2話「クンタラの矜持」後半




(アイキャッチ)


ベルリは険しい表情でG-セルフのモニターを睨みつけた。そこには銃口を頭に突きつけられたハッパの姿が映っていた。

人質を取ってベルリにG-セルフの明け渡しを要求しているのはキャピタル・アーミーの中のクンタラたちであった。彼らは解散寸前のアーミーの戦力を奪ってまだ戦いを続けようとしていた。ゴンドワンの旧式航宙艦ホズ12番艦を奪った彼らは、その他に大量のウーシァを奪っていた。

加えてG-セルフまで手に入れようというのだ。彼らの元にはモビルスーツ開発に長けたジット団のメンバーも捕らえられている。ベルリはキナ臭いものを感じて緊張した。

ルイン・リーがクンパ大佐の元でマスクとして戦い、異例の出世を遂げたのちにマスク部隊を編成したという情報はベルリも聞いていた。しかしたかが戦艦1隻と10数体のモビルスーツで何をしようというのか。国家を持たないクンタラではフォトン・バッテリーを入手することもできない。

フォトン・バッテリーがなければ戦艦もモビルスーツも動かせない。ヘルメス財団によってそのような技術体系にされてしまっているのだ。アメリアのアイーダたちは当初フォトン・バッテリーの技術開示を求めてキャピタル・テリトリィと争っていた。しかしそれが開示されることはとうとうなかった。

いまさらわずかな戦力だけで世界を変えることなどできないというのに・・・。

ハッパ「オレにかまうな。ベルリ、そのままG-セルフで逃げるんだ!」

健気にもハッパは身を挺してG-セルフを守ろうとしてくれていた。だがベルリにそんなことができるはずがなかった。彼はすぐさまコクピットを開けて身を乗り出した。

ベルリ「ハッパさんを置いて逃げるわけにいかないじゃないですか!」

ホズ12番艦のモビルスーツデッキは緊張感に溢れていた。船は飛行を続け、後方から追いかけてくるキャピタル・アーミーのブルジンから攻撃を受け続けていた。船の外ではしきりに爆発が起きて船内は大きく揺れていた。アームで固定されたウーシアがギシギシと音を立てていた。

G-セルフは大勢の兵士に取り囲まれていた。いまのところ発砲してくる気配はない。レイハントン・コードなしに動かないG-セルフをどうやってうまく使うかが鍵であった。

メガファウナは少し離れた位置から後続のブルジンを攻撃していた。

ベルリはメガファウナと通信回線を開き、現在の状況をドニエルらに伝えた。メガファウナのブリッジにはコアファイターのカメラを通じてハッパとベルリの様子が映し出された。

クルーはそのやり取りを聞きながら緊張していた。艦長のドニエルは艦長席で歯ぎしりしながら事態の推移を眺めていたが、埒が明かないとみて口火を切った。

ドニエル「聴こえているか。こちらメガファウナ艦長のドニエル・トスだ。当方に攻撃意思はない。ベルリとハッパを返していただきたい。そちらの要求はなんだ?」

銃口を突きつけられたままハッパは後ろに下げらた。ホズ12番艦が通信回線を開いてきて、メガファウナのブリッジとホズ12番艦のブリッジが映像で繋がった。

画面に映ったのはラテン系の顔立ちで黒々とした顎ひげを蓄えた背の低い恰幅の良い男であった。

サニエス「自分は今回の反乱の指揮を執っているサニエス・バイカルト少佐です」

通信を遮るようにローゼンタール・コバシが身を躍らせて割り込んできた。

コバシ「こいつら反逆者よ。助けてぇ~~」

長身のコバシが取り押さえられた。それをモニター越しに呆れながら見守るメガファウナのクルーたち。ステアは操舵を握りながらも気がかりで仕方がない様子だ。

ドニエル「(険しい顔で)ビーナス・グロゥブの方々もおられるようですな」

サニエス「我々クンタラは全世界同時革命を目指して一斉蜂起したのです」

ドニエル「(頭を掻いて)世界同時革命だって! 革命!! なんだそりゃ?」

サニエス「世界同時革命!」

そうサニエスが叫ぶとホズ12番艦のクルーは一斉に「世界同時革命!」と口々に叫んだ。

サニエス「現在、アメリアを除く世界各国でクンタラは政府に対し武力闘争を開始しています。クンタラの要求はただひとつ。自分たちの国を持ちたいということです。この艦はそのために必要な船です。G-セルフはビーナス・グロゥブの方がコピーしていただければすぐにお返しいたします」

コバシ「(唖然とした顔で棒立ちになり)設備がなきゃ無理よーー。それにこいつらスーンの子供をキャピタル・テリトリィに残したままなのよ。あたしたち手伝わないわよ!」

サニエス「それに、我々はビーナス・グロゥブの方々を救ったのです。法王庁より通達されたレコンギスタした人々の引き渡し要求はご存知でしょう?」

コバシ「だからG-セルフは特殊すぎてコピーなんて無理なのよ!」

サニエス「協力が得られないのならあなた方の身柄をビーナス・グロゥブに売ります」

モニターに映し出されるやり取りを聞いていたメガファウナの副艦長は、思い立ってドニエル艦長の近くに歩み寄った。

副艦長「ビーナス・グロゥブがレコンギスタした人間を指名手配したのは本当です。身柄を保護していたキャピタル・テリトリィに引き渡し要求が出ています。彼らは全部なかったことにしたいらしい。我々のあちらへの訪問もどう考えているのかわかったものじゃない。それに、アメリア人として自分は(居住まいを正し)クンタラ差別には反対です」

ドニエル「(しばし間を置き)世界同時革命のことはよくわからんが、よし。そちらの船を救助する。後方のアーミーの船に一斉射! とにかくベルリとハッパは返してもらうからな」

メガファウナが助太刀に入り、ホズ12番艦と後続の船との距離が開いていった。





プロペラ式の中型機がゴンドワン北方の打ち捨てられた滑走路に降りてくる。おりからの強風に煽られ、着陸は困難を極めた。ようやく止まった飛行機にルインとマニィが駆け寄り、タラップから降りてくる人々を歓待した。彼らはすべてクンタラ国建国戦線に参加する仲間であった。

その中にロルッカ・ビスケスとミラジ・バルバロスの姿があった。

ルイン「(駆け寄りながら)ご協力感謝いたします」

ロルッカ「(あたりを見回しながら不安そうに)なぜここはこんなに寒いのです。アメリアとまったく違う」

4人は髪の伸びたマニィが示す方向にあるき出した。

風が強く、遠くの山々には雪が積もっていた。ルインは他の乗客を暖かい家に案内するように仲間に指示を出した。ロルッカとミラジはルインらとともにトラックの荷台に押し込まれた。トラックには武装した民兵が乗っており、それを幌で隠していた。

ルイン「(座りながら)G-セルフを建造された方々とか」

ミラジ「でも設計図はないのです。あれは複雑でして・・・似たようなG系統の設計図があれば、できるだけ再現してみせますが」

ロルッカ「(不安そうな顔で)そんなことより身柄の安全は保証されるのでしょうな? 法王庁の発表があって以来、みんな手のひらを返してわたしたちを疎んじるようになったのです。これでは地球にやってきた意味がありません。フラミニアが逮捕されたともニュースで言っています」

ルイン「身の安全は必ず保証します。それどころかどうですかみなさん、我々とともに革命の戦士になっていただけませんか。クンタラ国の建設に手を貸していただきたいのです」

ロルッカは露骨に嫌そうな顔をしてみせた。マニィがキッと睨みつけるとすぐに彼は大人しくなった。

一同は車を降り、立派な作りのロッジへと誘われた。かつて宿泊施設として建設されたものであったが、永久凍土の拡がりとともに客足が途絶え、街の人間が流民となって南を目指した際に放棄された施設だった。なかには多くの民兵がカード遊びに興じていた。

ロルッカ「ここは安全なんでしょうな」

ルイン「ゴンドワンはクンタラ差別の酷い土地ゆえ、クンタラが住み着いた場所は穢らわしいというので近寄ってこないのです。あなたもここがお嫌で?」

ロルッカ「(汗を拭きながら)そんなことはありません。いやぁ、なかは暑いくらいですな」

ミラジ「ルインさん、どうかこの男を許してやってください。我々も不安なのです。代々仕えてきたレイハントン家は潰えてしまうし、武器商人としてやっていこうとした矢先にフォトン・バッテリー配給停止でモビルスーツなどどこも増やそうとしない。おまけに指名手配です」

ルイン「レイハントン、ああ、ベルリの・・・。つまりいまのあなた方とわたしたちは同じ立場というわけですな。(ロルッカに向かって)そう言われるのがお嫌でなければ!」

ロルッカはバツが悪そうにうつむいて口を閉じてしまった。

ミラジ「とにかく我々をヘルメス財団に引き渡さないでいただきたいのです。身の安全を保証していただければ、我々はできる限りのことはします。ルインさんたちはクンタラ国建国戦線というものを作ったと聞き及んでおります。資金が必要でしょう。いくらかは御用達できます」

ルイン「それはありがたい。我々クンタラ国建国戦線は今朝方世界同時革命の狼煙を上げたばかりです。ザンクト・ポルトからのフォトン・バッテリー供給停止はまさに願ったり叶ったり。どこもエネルギーを節約しようとするあまり、クンタラの反乱制圧に余計なエネルギーは割かないでしょう」

ロルッカ「しかし、ゴンドワンではクンタラ狩りが盛んだとか。(ルインとマニィの視線に怯えながら)いえ、だって本当のことでしょう? わたしたちはトワサンガには戻るつもりはないし戻れない。レコンギスタしてしまったんです。逮捕されるのも嫌だし、食われるのだって」

ミラジ「(ロルッカの肩を抑えながら)まあじいさん、落ち着いて。(ルインとマニィに目をやり)わたしたちに戻るところはありません。ベルリ坊ちゃまが帰ってこないとわかったときに、わたしたちの希望は潰えたのです。できることがあればお手伝いいたします」

ルイン「国はわたしが盗ります。あなた方はわたしにG-セルフを与えてほしい。G-セルフに関してはもしかしたら整備士とともに機体が手に入るかもしれない」

ミラジ「コクピットも含めてであれば、こちらでレイハントン・コードを解除することはできます」

ロルッカ「(ぶるぶる慄えながら)ダメだ。そんなことしたら」

ミラジ「ダメじゃないでしょう」

ロルッカ「レイハントン・コードを解除すれば核が起爆する」

ルイン「核兵器、ということですか。バカな。謀っておいでだ」

ロルッカは慄えながら黙り込んでしまった。ミラジはかぶりを振ってロルッカを休ませてくれるよう懇願した。マニィがそっぽを向いたので、ルインは手下を呼び寄せてロルッカに部屋を与えるよう指示した。暖炉の明かりが赤々と燃えている。

ミラジ「ロルッカはああいう男なのです。わたしはあなたに賭けてみたい、ルイン」

ルイン「わたしもレイハントンというものについてお伺いしたいことがたくさんあります。わたしが必ず皆様の願いを叶えて差し上げますよ。もし核の話が本当なら、そんなものに用はない。新しく作っていただくまでです」






アメリア軍総監執務室にアイーダの姿があった。ノックの音に続いて女性秘書が人を案内して現れた。あとに続いてやってきたのは、上等な身なりをした4人の紳士だった。彼らは息を切らして部屋に入ってきて、辺りをきょろきょろと見まわしたあとにアイーダに握手を求めた。

4人はめいめいに長椅子に腰かけた。

陳情者D「まったく、あんな屈辱は初めてだ。ニッキーニの奴、こちらがクンタラだと知った途端に賄賂を要求してきた。アメリアでこんな屈辱を受けるのは初めてだ」

陳情者C「だからあんな男はアテにならんと言ったのに」

陳情者B「(諦めの表情で)仕方がないだろう。曲がりなりにもあれが大統領だ」

アイーダ「(困った顔で)何かあったようで」

陳情者A「姫さまにおかれましては世界で同時多発的に暴動が起きているという話は聞きましたかな」

アイーダ「情報は入っております」

陳情者A「あれはクンタラなのです。世界のクンタラが何故か世界同時革命などと言い立ててテロ事件を引き起こしている。申し遅れましたが我々はクンタラ出身者の集まりで、もちろんアメリアの市民権を持っている自由市民でございますが、何とかあれをやめさせたいのです」

陳情者B「ついてはアメリアに全クンタラの亡命を許可願いたい。その陳情に参ったのです」

アイーダ「ああ、それで賄賂を・・・」

陳情者A「首謀者の名前を持ってきました。(写真付きの書類をアイーダに手渡す)キャピタル・テリトリィのルイン・リーという者で、(アイーダがハッと気づく)目下どこかに潜伏中とか。探させておりますがまだ見つかってはおりません。もはや頼れるのは姫さまだけ。どうか助けていただきたい」

アイーダ「(困った顔で)本来、このような政治的陳情はアメリア軍総監であるわたくしではお受けできないのですが」

女性秘書が飲み物を運んでくる。4人は呼吸を整えて会釈して礼を表した。

陳情者C「なあに、グシオン総監にもいろいろ面倒を見てもらったものです。この国はスルガン家でもっているようなもの。民主主義などアテにならん」

陳情者A「クンタラには行き場所がないのです。このままフォトン・バッテリーの供給停止が続けば、歴史はまた暗黒時代に戻る。そうなれば我々クンタラはどうなりますか? またわたしたちを喰って生き延びるのですか? 冗談じゃない。かと言ってクンタラ国などどこに作るというのですか? 出来るわけがない。このルインとかいう若造は人々をたぶらかしているのです」

陳情者B「だからこそ、アメリアに受け入れ先になっていただきたいのです。世界中で反乱を起こすものだから、世界中で一般市民によるクンタラ狩りが始まっているとも聞きます。船で海に逃げた者も多くいるらしい。アメリアが受け入れ先になったと聞けば、皆してこちらへやってくるでしょう」

アイーダ「難民の受け入れ要請は承りました。ただ、このままではエネルギーが持たない。フォトンバッテリーの在庫は1年分しかありません。人口を増やすのは自殺行為です」

陳情者C「だからいまこそ地球人の自主独立を考えるべきときなのです!(机をドンと叩く)グシオン総監が訴えてきた、スコード教からの独立を果たすためにはですな、キャピタル・テリトリィを叩いて、タワーを奪うのです。そして、フォトン・バッテリーの情報を開示させる。これこそ総監の役割ではないですかな?」

アイーダ「クンタラ難民の件は承りました。わたしはアメリア軍総監として上院に議席があります。何とか議会の承認を得られるよう努力いたしましょう」

陳情者A「(首を横に振って)それでは遅い。とりあえずこのルインという人間だけは何とかしていただかないと我々クンタラは・・・生きていけなくなる!」

アイーダは受け取った写真を睨むように眺めた。

アイーダ(マスク・・・。こいつの目的は何?)






遠浅の海辺に2隻の戦艦が着陸して睨み合っている。互いはモニター回線で交渉を続けていた。

ドニエル「さっき助けてやった恩はどこに行った? アメリア人を1人でも殺してタダで済むと思うなよ。世界の果てまで追い詰めて必ず罪を償わせるからな」

サニエス「我々クンタラにはG-セルフが必要なのです。それを分かっていただきたい」

ドニエル「そんなもの誰が欲しがっているんだ? それを言え」

サニエス「それは言えません。革命に必要だとしか」

ドニエル「埒が明かねぇ。あんたら、革命だのほざいているが、騙して誘拐してきたジット団の人だって協力しないと言っている。アーミーを裏切ったから本国にも戻れない。どこへ逃げるっていうんだ? 逃げる場所がないだろう」

サニエス「もとより死は覚悟のこと。キャピタル・テリトリィはアーミーが反乱を起こす計画を立て、それを事前に察知したキャピタル・ガードが法王とともにトワサンガへ亡命しました。今回の作戦はアーミーの戦力を削ぐことが目的です。フォトン・バッテリーの供給が止まって、この国も在庫は1年分しかない。モビルスーツの建造は至難の業です。それを奪ったのです」

ドニエル「お前らまさか、キャピタル・テリトリィをクンタラ国ってのにするつもりなのか?」

副艦長「現実的ではないね。君たちは市民の力を侮っている。クンタラの数では勝ち目はない」

交渉は遅々として進まなかったが、双方の船に同時に重要な連絡がもたらされ、状況は一変することになった。メガファウナもホズ12番艦も慌ただしく艦長に連絡が伝えられた。

ドニエル「アイーダ・スルガン提督より連絡が入った。もしクンタラの反乱軍と接触することがあれば、我がアメリアは全クンタラの亡命先になる法案が議会で審査されるから伝えて欲しいとのことだ。(モニターの中のサニエスに向かって)これでもまだアメリアと敵対するつもりか」

サニエス「我が方にも連絡がありました。G-セルフとハッパさんを開放いたします」

銃口を突きつけられたままだったハッパが拘束を解かれた。それをすぐさまベルリがG-セルフのコクピットに受け入れた。

ベルリ「(G-セルフのマイクで)自分は出ますよ。そこのウーシアをどけて!」

G-セルフはホズ12番艦のモビルスーツデッキを離れた。

そのころ、クン・スーンはホズ12番艦の独房でキア・ムベッキの写真を眺めてうなだれていた。

スーン(あたしが欲をかいちまったばかりに・・・。キア隊長、ゴメン・・・。あたしたちの子が、あたしたちの子が・・・)






ミラジはロルッカに対して腹を立てていた。長年レジスタンスとして戦ってきた仲間だと思うから耐えてきたが、地球へ来てからのロルッカの我儘には付き合えないものがあった。

ミラジはクンタラに対して差別心はさほど持ち合わせていなかった。むしろなぜクンタラだけが独自の神を持ち続けたのか興味があったくらいだ。

宇宙は何もかもがユニバーサル・スタンダードで統一されていた。言語や文化風習はまぜこぜにされ、差異を消されたのちに統一された。言語、風習、宗教、技術、規格何もかもがすべて一緒だ。これは技術屋としては面白くないことであった。必要に応じて考え作る行為の邪魔になることもあった。

だがなぜかクンタラだけはそこから弾かれたのだ。言語や宗教まで統一されながら、なぜクンタラ差別だけが残ったのか。一般的には彼らが食糧難の時代に食人されたからという。ミラジはこのことをずっと疑問に思ってきた。なぜ彼らは逃げなかったのか?

食べ物がなく共食いを始める極限状態は確かにあるだろう。だがふつうは弱い者が強いものに食べられるはずだ。強い者を食べるのは反撃されて自分が食われるリスクの方が大きい。クンタラの中には当然屈強な人間も生まれたであろうに、なぜか彼らは食べられる対象から逃げることをしていない。

身分制度として固定されて食べられ続けるというのはどういう状態なのか、ミラジは上手い答えを見つけられなかった。幼少時からのこの疑問に対する答えはまだ持っていない。羊のように買われていたとするなら、養殖として人間は効率が悪い。

ミラジ「弱い者が狩られて食べられたというのならわからないでもない。食糧難になれば人間だってそれくらいのことはするだろう。しかし、人間などは未熟な状態で生まれて数年は親がつきっきりで世話をしなければいけない。食べ物だって多くいる。その割に肉付きは悪い。変に知恵があるから、屠殺するのも一苦労だ。言葉を喋るから仲間同士で連携して反逆も起こせる。ところが彼らはそういう行動を取らず、独自の宗教を発展させた。クンタラ安住の地カーバ。そこは一体どこだというのか? 子供のころ、ニュータイプという特殊人種が涅槃に辿り着いたと聞いたことがあるが、そんなものなのだろうか? 涅槃がカーバとするならば、クンタラはすべてニュータイプに進化しているということになる。まさかそんなことはないだろう。ルインもマニィもただの人間だ」

ではカーバとはどこなのか。ルインにそのことを訊ねても言葉巧みにかわして答えようとはしなかった。ミラジは彼には答えがあるのだと確信したから、ルインを評価する気になったのである。

それに引き換えロルッカは酷いものだった。彼はトワサンガにいたころは身持ちもよく、真面目な男であったが、自分たちの苦労が報われないと悟ってから急に言動に我慢がなくなった。

ミラジ「レジスタンスという神聖な目的を見失って、自分の人生が空虚にでもなったのか? たしかに奴はブ男で女性には縁がなかったからな。レイハントン家の意思を守り抜くという大義名分が奴のすべてではあった。そうはいっても、あのざまは酷すぎるのではないか」

そういう彼の目の前を、酒で顔を真っ赤にしたロルッカが通り過ぎていった。彼はあまりに飲みすぎていたためにミラジがいることにすら気づかなかった。






カシーバ・ミコシのシラノ-5入港を前に、ノレド・ナグとラライヤ・アクパールは古めかしい衣装に着替えさせられていた。

ノレドはまるで貴婦人のようないでたちをさせられ、ラライヤは近衛兵の古めかしい軍服に身を包んでいた。ノレドは体型にまったく合っておらず、ラライヤは男装の麗人風で、いまにも寸劇が始まりそうな様相であった。

ノレド「この衣装、胸のところがぶかぶかだよ」

ラライヤ「これ、コスプレじゃありません? おかしいでしょ?」

ふたりの傍に立っているのはクンパ大佐の後任、ジムカーオ大佐だった。3人の元へ、法王とウィルミット長官がやってくる。

ジムカーオ「いいですか。すべて打ち合わせ通りに。ノレド・ラグさんはゲル・トリメデストス・ナグ法王猊下の御落胤で、ベルリ・レイハントン王子の婚約者です。法王は新婦の父、長官は新郎の母。ラライヤさんは処女姫をお守りする女近衛隊長ですよ。いいですね!」

ウィルミット「(情けなさそうに)こんな小芝居、女学生のとき以来ですよ」

ゲル法王「(オロオロしながら)御落胤が真実だと思われたりしませんか?」

ジムカーオ「(ひとりだけ得意げな様子)トワサンガの秩序回復がない限り、ここにフォトン・バッテリーはやってきません。トワサンガにフォトン・バッテリーがやってこなければ、地球にも配給されないのです。ヘルメス財団は最悪の場合、地球を暗黒時代に戻してそれから自分たちが入植するとまで言っているのです。地球をクンタラを食べて生き延びた時代に戻したいのですか?」

クンタラという言葉に、珍しくノレドが反応した。

ノレド(そうか、クンタラのあたしがベルリと結婚すれば地球が救われるのか。・・・、ここはひとつ、やっちゃってみせますかッ!)

ノレドはツンと澄ました顔を作り、左手をラライヤの前に差し出した。ラライヤがその手を取ったとき、カシーバ・ミコシのハッチが開いた。

シラノ-5の1番埠頭は、歓声を上げる人々で満ち溢れていた。そこにはトワサンガの全住民が集結していた。彼らは、10数年ぶりのレイハントン家再興の喜びの声で、不安を打ち消そうと戦っているかのようだった。彼らは必死に声を上げ、ヘルメス財団に訴えかけていたのだ。

ノレドの顔は一気に赤く染まり、異様な高揚感にただ身を任せて歩くのみであった。


(ED)


この続きはvol:25で。次回もよろしく。






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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第2話「クンタラの矜持」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第2話「クンタラの矜持」前半



(OP)

カシーバ・ミコシはキャピタル・タワー最終ナット・ザンクト・ポルトを背に宇宙を航行していた。

その船内にはゲル法王のトワサンガ亡命に連れられてやってきたウィルミット・ゼナム、ノレド・ナグ、ラライヤ・アクパールの姿があった。

無重力空間で上手くバランスが取れないウィルミット・ゼナムが宙で身体をバタバタ動かしていた。通路にはノレドとラライヤが並び、法王が特別室へと入っていくのを見守っていた。ウィルミットがようやく着地して口を開いた。

ウィルミット「では法王猊下。お休みなさいませ」

ゲル法王「よしなに。皆様も」

ノレドとラライヤが声を揃えてはいと返事をした。扉はすぐさま閉じた。

3人はレバーを手に船内を移動した。前後には護衛がついていた。すると、進行方向通路の交差からキャピタル・ガードの取り巻きに囲まれた中年の男性が姿を現した。男は40代後半で黒髪。浅黒い肌。顔立ちはアジア系で、身長はウィルミットと同じくらいだった。中肉中背で颯爽とした美男子だった。

その男はレバーから手を放し、交差のところに立って3人を待ち構えた。ウィルミットは同じように降りようとしてバランスを崩し、相手の男性を蹴ってしまった。男性は軽くうめいて後ろへ飛ばされ、取り巻きがそれを受け止めてまっすぐ立たせた。

ウィルミット「(男に会釈してからノレドとラライヤに紹介する)こちらはキャピタル・ガード調査部のジムカーオ大佐です。クンパ大佐の後任なんです」

ジムカーオ「長官はお疲れでしょう。先にお休みになっては」

ウィルミットはそんなと言いかけてからかぶりを振って応えた。

ウィルミット「ではごめんくださいませ。先に休ませていただきます」

ジムカーオ「お身体に気を付けて。ゆっくり休んでください。タワーはしばらく運休ですから」

ウィルミットが身体を不安定に上下させながら去っていった。

ジムカーオ「(ノレドとラライヤを振り返り)おふたりには少しばかりお話があります」

ノレドとラライヤは顔を見合わせた。

彼女たちふたりは、カシーバ・ミコシの一室に案内された。室内は宇宙船内とは思えないほど広く、豪勢な作りをしている。ジムカーオ大佐は取り巻きに部屋に入るなと指示して椅子のある方に手を上げた。ふたりは席について室内を見回した。作りは豪勢だが閑散として散らかっていた。

ジムカーオ「カシーバ・ミコシは2度も荒らされまして。まだ片付いていないのです。保存用のグリーンティーのラテみたいですけど、どうぞ」

ジムカーオ大佐はふたりにカップを手渡して自分も着席した。ノレドはさっそくストローに口をつけた。ラライヤは不思議そうにカップの印刷を眺めている。

ジムカーオ「ビーナス・グロゥブまで行かれたそうで。(ノレドとラライヤが頷くのを待って)ラ・グー総裁にお会いなされたようなので手短にお話いたしますが、自分はヘルメス財団の者で、かつてはトワサンガのレイハントンさまの参謀を務めておりました。現在トワサンガはレイハントン家とドレッド家を失って混乱状態にあり、早急な事態収拾が求められております。ついては、おふたりにはキャピタル・ガードの調査部に所属していただき、レイハントン家再興にお力添えをいただきたい。ノレドさんはベルリ坊ちゃんの婚約者だとか」

ノレド「ええーーーーーーッ。はい!(満面の笑顔で)そのつもりです!」

ジムカーオ「先代のミセス・レイハントンは素晴らしいお方でした。あなたにはぜひあのようなお方になっていただきたい。(ラライヤの方を振り向き)ラライヤさんはパイロットと聞いておりますが」

ラライヤ「(ラテを吸ってから一呼吸おいて)ドレッド軍のパイロットで地球降下を体験しました。でも待ってください。なぜキャピタル・ガードがトワサンガのことに口を差し挟むのですか!」

ジムカーオ「協力者になっていただけるのであればお話いたします」





ゴンドワンの首都パリスに火の手が上がっていた。

逃げ惑う市民に紛れて、ルインとマニィの姿があった。ふたりが首都におけるテロ事件の主犯であった。彼らの協力者は首都に潜伏している人間だけで2000名以上いる。ゴンドワンのクンタラは決起のときを迎えて燃え上がっていた。ルインとマニィは彼らのリーダーになっていた。

すでに首都では頻発するテロ事件の犯人がクンタラではないかとの噂が広がっていた。しかし犯行声明が出されておらず、逮捕者もいないので警察は動けず、市民による暴力という形でクンタラへの私刑が始まっていた。

市民による暴力は、弾圧そのものだった。クンタラの老人は殴られ、持ち物を奪われた。子供たちは学校へ通えなくなり、強姦に怯えた。それらから逃れるように裕福なクンタラたちの間ではアメリアへの亡命が始まっていた。だが、裕福でないクンタラたちは軍や警察、さらには一般市民からの暴行に耐えねばならなかった。

ルインとマニィは警察の眼を逃れて、小さな酒場の2階へと逃げ込んだ。1階の酒場を経営している太った白人の男は、クンタラではなかったが反スコード教徒であり、税金嫌いの無政府主義者だったために、クンタラに協力しているのだった。

ルイン「いいか、肝心なのはここからだ。爆弾テロが首都の真ん中で起きたことで、いよいよ連中は我々クンタラへの差別心を露わにしてくるだろう。この眼をアメリアへ向けさせなければいけない。クンタラは全員がアメリアへの亡命を希望していて、アメリアの市民権を獲得し、いずれゴンドワンに復讐するためやってくる。連中にそう思わせるんだ。差別して暴力を振るうということは、同時に不安の表明でもある。連中の暴力に反応して対抗するのではなく、不安心理を利用するのだ」

同志A「ルインの兄ィがそういうなら従いやすけど、仲間の中にはこんなまどろっこしいやり方ではなくもっと大々的に戦争でも吹っ掛けるべきだって意見も多いわけっすが」

ルイン「お前たちの気持ちはわかる。オレはかつて学問することで連中と平等になれると頑張ってきたのだ。そして、やはりそれは叶わぬとわかってこうして戦いを選んだ男だ。しかしな、勝つためには順序ってものがある。気に食わない人間を殺して憂さを晴らすだけではいけないんだ。我々は勝たねばならない。いずれわかるが、準備は進めている。我々はいずれはゴンドワンにもアメリアにもキャピタルにも戦いを挑んで勝てるだけの戦力を手に入れる。それまでは辛抱してくれ」

同志B「オレたちはルインの兄ィについていきますけど、アメリアがもしゴンドワンみたいにクンタラを差別し始めたらどうするんで?」

ルイン「それについては心配はいらない。アメリア軍総監のアイーダは近いうちにクンタラを救済する法案を通してクンタラを受け入れる表明をするはずだ」

同志C「わかるんで?」

ルイン「ああ、オレにはわかるんだ。そのときが来ればわかるから、とにかくいまは堪えて、オレの指示通りに動いてもらいたい」

同志D「オレっちたちもアメリアへ亡命しちゃいけないんですか? もしその話が本当で、アメリアへ行けば差別されないってんなら、こんな危険なことをしなくてもいいかもしんねぇでしょ?」

ルイン「(首を横に振って)アメリアのアイーダがオレたちを受け入れるのは、あくまでオレたちを弱者として扱うからだ。たしかにそれで救われる連中もいるだろう。だからアメリアへ行きたい奴を止めるつもりはない。行きたいなら行けばいいんだ。しかしな、弱者として受け入れてもらって、弱者であることを盾に要求していくことが本当に長い目で見てオレたちのためになるのだろうか? 反スコード教であるクンタラは、スコード教が禁じていながら人間の欲望に根差して根絶できないことなどに手を染めて大金を稼いでいる者もいる。そういう連中は金は持っているが人間的に劣っていると見做されて差別の原因にもなっている。そんな我々がいつまでも弱者面していられるだろうか? オレたちは弱者なのか? そうではないはずだ。クンタラは強い。多勢に無勢で頭を押さえつけられているから世に出られないだけだ。オレたちがもしカーバを手に入れたら。クンタラ安住の地カーバに達して、持っている能力を最大限に発揮出来たら、そう考えたことはないだろうか。アメリアに渡って弱者権力にすがって惨めに生きるのが本当の我々なんだろうか。なぜ我々は強くなろうとしないのか」

マニィ「(真剣な表情で)みんな、ルインを信じて。絶対に上手くいくから」

部屋に集まっている実行部隊は10名ほどであったが、彼らは互いに顔を見合わせて頷き合い、ルインの元にひとつになることを誓い合った。

顔を紅潮させてテロの成功を喜びあっていた彼らであったが、1階でけたたましい物音がしたのを合図に手に手に武器を取って身構えた。

同志A「ルインさんとマニィさんは窓から逃げてください! ここはオレたちが食い止めます!」

銃声が響き渡ったあと、階段を駆け上ってくる音がした。ルインとマニィはすぐさま窓の外へと逃げた。彼らの同志たちは部屋にあった机をドアの前に並べてバリケードを作った。

襲撃してきたのは首都の警察であった。彼らはドアの外から銃を乱射した。窓から外へ出たルインとマニィは自分たちが警察に包囲されていることを知った。サーチライトが屋根伝いに逃げるふたりの姿を追いかけた。ふたりの頭上には満天の星空が輝いていた。しかしそれは薄く煙っていた。

ゴンドワンの首都はクンタラたちが引き起こした同時テロによってあちこちから火の手が上がり、消防車のサイレンが鳴りやまない状態だったのだ。警察は犯行声明が一向に出ない連続テロの対応に疲れ切っていたが、ようやくアジトのひとつを見つけたようだった。

サーチライトはふたりを追いかけ続けた。ルインは店の1階で主人が倒れているのを横目で見た。酒場の主人は税金嫌いの警察嫌いだったためにガサ入れに抵抗して撃たれて死んだらしい。

ルインとマニィは、川縁の遊歩道へ出ると用意してあったボートに乗り込んだ。ボートは2隻ある。より大型のボートにはルインとマニィによく似た男女が乗り込んでいる。そのボートはルインとマニィが北へと船を動かすのを確認すると、自分たちは南へと下っていった。

マニィ「(ルインの顔を見て)みんな、大丈夫かな」

ルイン「大丈夫だ。抵抗はするなといい含めてある」

この日のテロは、店内の同志10名と、南へ下ったボートの同志2名が逮捕されるところまでが計画であった。彼らはよその国からテロに参加してきた者らで、全員にアメリアのパスポートを持たせてあった。彼らはわざと逮捕されるように計画されていたのだ。

ゴンドワン政府はテロの犯人像を絞り込めていない。そこでアメリア人を装ったクンタラをわざと逮捕させて、また取り調べでアメリアへ渡ったクンタラがゴンドワンに復讐するためにアメリアの支援を受けて活動していると喋らせることで、クンタラがゴンドワンの北方に集結しつつあることを隠そうとしているのだった。

ゴンドワン北方は凍てつく寒さとエネルギー不足で人々が流民となって南へ下っていた。クンタラたちはその土地を奪って次々に入植してきているのだった。

ルイン「今回の逮捕で、ゴンドワンはアメリアの支援を受けたクンタラがテロ活動をしてきていると思い込み、陸軍をノルマンディに貼り付けたままにするだろう。天才クリム君の活躍でゴンドワンとアメリアとの戦争が激しくなればなるほど、北方への監視の目は弱まる」

マニィ「でも本当にアメリアのアイーダはクンタラの受け入れなんて表明するのかな」

ルイン「オレも少々不安ではあるのだが・・・。そこは彼を信じるしかあるまい。いまのところはすべて彼の計画通りにことが進んでいるのだから」






キャピタル・テリトリィの飛行場に着陸したホズ12番艦に荷物が運び込まれてきた。その貨物室を見下ろすデッキに人が集まっている。

スーン「たったこれだけか?(スーンの前に整列している人数は20人ほど)栄光のジット団の誇りあるメンバーはみんなどこへ行ったのだ?」

コバシ「パイロット以外誰一人いないなんて、地球に着いたからって現金なものね。船は使い古しのポンコツだし嫌になっちゃう。(貨物室に向かって、声を張り上げ)さっさと補給を済ませてちょうだい! アメリアに攻め込むんでしょ?」

そのとき突然船の背後で爆発が起こった。続いて銃撃戦が始まった。船の外には大型運搬機に乗せられたG-セルフが積み込みを待っている。運搬機の操縦席にはハッパが座っていた。近くでまた爆発が起こり、跪いた格好で横向きに乗せられたG-セルフが埃まみれになった。

ハッパ「(車の窓から身を乗り出し)早く乗せろ! どこが攻めてきたんだ?」

コバシ「(デッキの通話機を耳にあてながら)反乱?(スーンに向き直り)アーミーの中で反乱だとか言い出してるけどどういうこと?」

スーン「こちらが訊きたい」

バラバラと軍靴が聴こえてきた。ジット団のメンバーは、あっという間に銃を持ったアーミーに取り囲まれた。ハッパが乗る運搬機にもアーミーの制服を着た男たちが乗り込んできた。兵士のひとりがハッパに銃口を突きつける。

兵士A「自分に撃たせないでください。G-セルフを早くなかへ」

ハッパ「お前たちどういうつもりなんだ!(車を発進させる)オレはアメリア人だ。巻き込むな!」

兵士B「(窓の外に向かって怒鳴る)残りのウーシアは諦める! 艦を発進させろ!」

兵士A「(ハッパに向かって)自分らはクンタラです。ジット団の皆様とハッパさんのお力をお借りしたい」

ハッパ「クンタラの人たちが反乱って、どうするつもりなんだ? 行き場所は?」

兵士A「クンタラに行き場所などありません。これから作るんです」

デッキの上で反乱兵士代表から話を聞いたスーンとコバシが飛び上がるほど驚いていた。

コバシ「あんたたちが反乱者だったなんて! クンタラの分際でッ!」

スーン「約束はどうなるんだ? 大きな家は? 軍人恩給は? ちょっと待てよ、この船ッ!」

ホズ12番艦はG-セルフを回収するなりハッチが閉まり切らないうちに離陸を開始した。それを阻止しようとアーミーの兵士たちが地上から船に向かって銃撃を行っていた。ゆっくりと上昇したホズ12番艦のメインエンジンに火が入り、ノズルが明るく光ると飛行を開始した。

運搬機の運転席を飛び出したハッパは早足で階段を駆け上がり、格納庫の上部デッキの人だかりに向かって突っ込んでいった。

ハッパ「オレはクンタラの反乱に関係ないだろ? 降ろしてくれ!」

申し訳なさそうに首を横に振る兵士たち。その輪の中でスーンが肩をわなわなと震わせている。なだめようとする兵士の手を振りほどいてスーンは手すりを掴んで絶叫した。

スーン「ジュニアーーーーーーーーーーーーーーッ!」






カシーバ・ミコシの一室。ノレドとラライヤは2段ベッドのある1室を与えられていた。その部屋には大きな鞄と段ボールが雑多に詰め込まれていた。そのひとつからノベルが出てきた。

ノベル「ノレド、ラライヤ、ヒサシブリ」

ノレド「これ、あたしたちの荷物だ!(段ボールを開け始める)全部あたしのだ」

ラライヤ「(ベッドに腰かけ不安そうに)ジムカーオさんの話は本当でしょうか?」

ノレド「ビーナス・グロゥブのラ・グー総裁がハザム政権を承認せず、早急にレイハントン王家を復興しなければトワサンガにもフォトン・バッテリーが来なくなるって話?」

ラライヤ「ノレドさんがミセス・レイハントンなのは良いとしても、わたしがレイハントン王家の近衛隊長だなんて・・・。そんなのいきなり無理です!」

ノレド「(ラライヤの隣に座って天井を見上げる。膝の上にはノベル)夢みたいな話だけど、大人が勝手になんでも決めちゃうってのは違うんだよなー」

ラライヤ「キャピタル・ガード調査部がヘルメス財団の調査部でもあったとか、それをクンパ大佐に乗っ取られてトワサンガとビーナス・グロゥブには偽の情報が流されていたとか、わたしたちには話が大きすぎます!」

ノレド「で、トワサンガは地球の巻き添えだけは御免だと」

ふたりは狭いベッドの上で不安そうに肩を寄せ合った。






メガファウナの艦橋に警戒警報が鳴り響いた。弾道飛行を終えたメガファウナは上空からキャピタル・テリトリィに潜入を果たしていた。

警報はキャピタル・テリトリィからやってきた戦艦との遭遇によるものだった。

ドニエル「お出迎えが早すぎる。読まれていたのか」

ギゼラ「前方の戦艦と後続の戦艦が撃ち合いをしています。前のはゴンドワンのホズ型。後続の3隻がキャピタル・アーミーの船です」

ドニエル「どういうこった? 撃ち合いしているならこっちは様子見だ。ステラ、距離を取って飛べるか?」

ステラ「(操舵を切りながら)モチよ」

ベルリ、ルアン、オリバーの3名は警戒警報の中でパイロットスーツに着替えていた。そこにケルベスが駆け込んでくる。

ケルベス「ハッパさんを拾って逃げるはずが、敵からお出迎えと来た」

ベルリ「どんな作戦なんです?」

ケルベス「(首を振り)それがようわからん。ゴンドワンの戦艦がキャピタルから飛び出してきてアーミーと交戦しているんだ」

更衣室にドニエル艦長の声が響き渡った。

ドニエル「ベルリ、コアファイターで出られるか。前にいるゴンドワンの船から救援要請が来た」

着替え中のケルベスを残して3人が部屋を飛び出した。

モビルスーツデッキで早くも動き出すグリモア。

ルアン「なんでうちらがゴンドワンを助けなきゃならんので?」

ドニエル「待ってくれ、コアファイターに回線をつなぐ」

ベルリの乗ったコアファイターのコクピットにハッパの顔が映し出された。

ハッパ「ベルリ、ベルリか?」

ベルリ「ハッパさん?」

ハッパ「G-セルフはこちらにある。とにかくコアファイターで来てくれ」

ベルリ「ドニエル艦長、行きます!」

ドニエル「頼むぞ、ベルリ」

ベルリの乗ったコアファイターがメガファウナを飛び出した。ベルリがホズ12番艦に近づくにつれてアーミーの攻撃が激しさを増した。それをかいくぐってホズ12番艦に接近するベルリのコアファイター。格納庫のハッチが空くと、横倒しになったままのG-セルフが見えた。

ベルリ「1年ぶりだけどッ!」

コアファイターは、飛行するホズ12番艦のハッチに近づいていった。G-セルフはモビルスーツデッキの中で横倒しになっていた。

ベルリ「横向きですか? でもやるしかないっていうんでしょ!」

風に煽られ、近くでミサイルが爆発した。渦巻く風の中で機体をコントロールしたベルリは、敵からの度重なる攻撃に退きながらもなんとかG-セルフと合体を果たした。

コアファイターを得たG-セルフのメインモニターが光った。G-セルフは1年ぶりに起動した。

合体したことで、コアファイターのモニターがモビルスーツのカメラのものへと切り替わっていく。ベルリのヘルメットに点滅するパネルの光が反射した。モニターは次々に切り替わり、コクピット前方に並べられていった。最後に映し出されたのは、頭に拳銃を突きつけられたハッパの姿だった。

アーミーの制服を着た男が有線をG-セルフに打ち込んだ。

兵士A「接触回線で聴こえますね。G-セルフのコクピットから出て、機体を明け渡してください。G-セルフは我々クンタラの希望なのです。コピーが終われば必ずお返しいたしますし、おふたりの身の安全も補償いたします」

ハッパ「(暴れながら)いいからそのままG-セルフで逃げるんだ、ベルリ!!」

ベルリ「な・・・、クンタラ?」


(アイキャッチ)


この続きはvol:24で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第1話「法王の亡命」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第1話「法王の亡命」後半




(アイキャッチ)

海風がベルリを吹き飛ばしそうなほど強く吹いていた。

断崖の上にハンバーガーを食べながら夜空を見上げるベルリの姿があった。傍には日本からずっと愛用してきた彼のシャンクが置いてある。星空には満月。小型ラジオはクレッセントシップの世界巡行が大成功を収め、世界中から紛争を消滅させた偉業を讃えていた。

クレッセント・シップの世界巡行に同行しながら日本で降りたベルリは、シャンクを使ってユーラシア大陸を横断し、砂漠地帯は航空機で飛び越え、ゴンドワンに入ったばかりだった。

メガファウナが伝説上のビーナス・グロゥブから惑星間連絡船を引き連れて地球に戻ってきたことは、世界中の国々に驚きをもって伝えられた。それまでビーナス・グロゥブはお伽噺に出てくるような天上の世界の話でしかなかった。それが科学の世界まで降りてきたのだ。世界中の学者が活気づいたのも無理はなかった。

世界を広く旅をしてきて、ベルリはそのことを肌で感じていた。特にキャピタル・テリトリィから遠く離れたアジアでは、宇宙へ出ることそのものが非現実的なことだったので、それまで地上に向けられていた視線が一斉に夜空に向けられたように、人々の生き方や考え方まで変えようとしていた。

戦争に無関心で平和を享受する一方、外交に熱心でなかったアジアの国々はこぞってキャピタル・テリトリィやアメリアと関係していこうと躍起になっていた。

人の眼が宇宙に向くことがこれほど大きな変化をもたらすのだとベルリは感心していた。

ベルリ「(満月を見上げながら)とうとう行っちゃうのかぁ。(ゴミをポケットに入れて立ち上がる)もしかしたら、宇宙世紀の始まりってこういう興奮に満ちていたのかもしれない。人々の眼が宇宙に向いて、争いごとがなくなって、夢と希望があの星々の向こうにあるってみんなが信じて・・・。(険しい顔になって)でも、実際の宇宙世紀はそうはならなかった」

立ち上がったベルリはシャンクを走らせた。ゴンドワンといっても街まではかなりの距離がある。のんびりしすぎたかなと彼は反省した。

夜風を切りながらシャンクを走らせていたベルリの耳に、不気味な轟音が聴こえてきた。彼はシャンクを止めて岩場の影に身を潜めた。強い風が彼の身体にぶつかってくる。

耳を澄ますと、遠くからやはり聞き慣れた音が迫ってきていた。ベルリは海と反対側の山の頂を振り返る。音は徐々に大きくなり、やがて2隻の大型戦艦が姿を現した。大型戦艦はベルリの上空を通り、南西に向かって飛んでいった。

ベルリの表情が険しくなった。通り過ぎたのは大陸間戦争で使用されたホズ型とは違う別の大型戦艦だったのだ。ゴンドワンはヘルメスの薔薇の設計図を基にガランデンを建造した実績があるが、ガランデンよりさらに大型で大気圏用ブースターが備わっている。

ベルリ「まさか、ゴンドワンは新型艦を建造していた? 確かに大陸間戦争はまだ正式に終わったわけじゃないけど、条約がまとまっていないからって、クレッセントシップがいなくなったらすぐこれかよッ!」

ベルリは慌てて街を目指した。





夜空を飛ぶ大型戦艦。それこそがベルリの頭上を通過していった船であった。

ゴンドワンの制服を着たクルーたちが前方を見据えたまま船を操っている。彼らの中にクレッセント・シップに平和を見出したものはひとりもいない。彼らにとってクレッセント・シップの世界巡行はただの休戦期間でしかなかった。

ゴンドワンが誇る最新鋭の大型戦艦のブリッジに、場違いなほどラフで派手な服装をしたクリム・ニックとミック・ジャックの姿があった。

ミック「夜明けまで待たないので?」

クリム「あたぼうよ。わずかひと月でこのオーディン(ゴンドワンの戦艦名)を任された自分が何を待たねばならぬか。あの戦いで戦力を温存したゴンドワンに勝機を見出したこの天才クリムがアメリアに凱旋するのだ。朝一番のニュースに間に合わないでどうする」

ミック「天才クリムがゴンドワンの中佐になって凱旋ですものね」

ベルリと同じようにクレッセント・シップを途中で降りたクリムとミックのふたりは、ベルリとは別の目的をもって世界を眺めていた。

ふたりの眼から見た世界は、まるで漂流船のようなものだった。水先案内する者がおらず、眼前にある危機が見えていない。

アイーダが導いてきたクレッセント・シップに搭乗したふたりは、その科学技術の高さがあれば地球人類の支配などは容易いであろうと考えた。それなのに彼らは支配するでもなく、かといって平等に接するでもなく、スコード教を使いながら教導するそぶりをしているところが不気味であったのだ。

しかも、レコンギスタ派という者たちが一定数いるにも関わらずである。

宇宙に大勢の人間が暮らしていて、地球に戻ってきたいという人間がいて、地球にはそれを受け入れるほどの資源的余裕がなく、なおかつ彼らの方が科学技術が特出して進歩している。このような状況であるに関わらず、人類はいまだに統一政府すら作ろうとせず、政治家各国に任されている。

加えてアメリア軍総監の立場を世襲で引き継いだアイーダは、軍隊を放棄する旨を「連帯のための新秩序」という形ですでに発表してしまっているのだ。

彼女の頭の中には自分の素晴らしき考えが否定される可能性は微塵も考慮されていない。アイーダ・スルガンは自分の発表した論文が否定された場合、軍を放棄するという方針そのものを否定せねばならないという可能性が検討されていない。論文の主旨は、すべての人類が自分に従うという前提で成り立っている。

ならば、と、ふたりは考えたのだ。クリムとニックは先の戦闘の参加せず最も軍事力を温存していたゴンドワンに亡命し、自らがアイーダの否定者になろうと決めた。彼女の戦争放棄の方針が疑義によって実現しなかった場合、それでもアイーダは戦争放棄の方針を捨てないでいられるのか。

また、戦争放棄の方針を宇宙に住む人々がレコンギスタに利用しようとしたらどうするのか。それらに対する答えを、アイーダ・スルガンは持っていない。

アイーダは自分の父親であるグシオン・スルガンの方針を否定した。クリムはその否定された方針を自らのものとしたのだ。

クリムは戦いによる覇権主義によって地球を統一し、さらにイノベーションを推し進めてトワサンガ、果てはビーナス・グロゥブに迫っていこうと考えていた。

クリム「(遥か前方を睨みつけながら)オレは、世界を手に入れる!」





ゴンドワンの北方地方は氷に覆われていた。

凍てつく空気が夜に瞬く星々の輪郭を鋭利にしていた。宇宙世紀の戦果を免れた石造りの街並みが山の方まで続いているのが見えた。町の中心にある公園の噴水に薄い氷が張っている。

厚着をした人々が往来に出て、白い息を吐きながら夜空を見上げていた。その視線の先にはクレッセント・シップの船体があった。子供を肩車する父親。手袋をした小さな手が父親の頭を包み込んでいる。窓から身を乗り出すカップル。熱心に祈りを捧げる老人たち。

町の一角にある場末の食堂に、客はまばらだった。

カウンターの奥にある小さなテレビにもクレッセント・シップが映っていた。カウンターに肘をついて後ろ向きにテレビを見るエプロン姿のマスター。カウンターに座っているしょぼくれた赤鼻の男が帽子を胸にあててテレビに向かって祈りを捧げていた。

テレビ画面に映っているのはクレッセントシップを見送る市民の様子をレポートする女性アナウンサーだった。望遠レンズが月に向かって小さくなっていくクレッセントシップの姿を追いかけていた。

熱心なスコード教信者の多いゴンドワンにとって、ビーナス・グロゥブからやってきたクレッセント・シップはまさに信仰の対象であった。多くの場合はそうだった・・・。

赤鼻の客と反対側、壁の傍でフォークを皿に置きカウンターの上に乗せるルイン・リーの姿があった。その隣で同じように皿を上げ、ナプキンで口元を拭くマニィの姿があった。

マスターがふたりの皿を片付ける。

マスター「コーヒーでもどうだい」

ルイン「珍しいものがあるな。貰おう。ふたつくれ」

マスター「(カップにコーヒーを注いでふたりに出す)はいよ」

コーヒーを飲みながらふたりの身体は徐々に緊張してきていた。ルインはしきりに深呼吸を繰り返していた。心を落ち着かせるのに、コーヒーの香りは役に立った。

マニィは緊張しすぎて肩が耳のところまで上がってきた。ふたりはテレビに注視していた。

すると、クレッセント・シップの中継が火災現場からの中継に切り替わった。スコード教の信者らしきマスターが舌打ちをした。赤鼻の客はコインで支払いを済ませて店を出て行った。

マスター「(洗い物をしながら)またテロかいな」

ルイン「(笑顔で)物騒になりましたね」

その隣でマニィがあからさまに胸をなでおろしていた。アップになった現場リポーターのけたたましい声が大きくなった。

リポーター「またテロ事件です。炎が燃え盛っています」

ルイン「(カウンターに2枚の札を出して)お勘定はここに。コーヒーもいいものですね」

ルインとマニィは寒風吹きすさぶ店の外に出た。マニィは思わず襟を立てる。ルインはコートの前を空けてマニィを中に入れる。往来にはまだ人が大勢いて、夜空を見上げていた。彼らはまだテロ事件のことを知らない。

母親と共に天に向かって祈りを捧げる子供たちの姿があった。

ルインとマニィは、その脇を俯きながらすり抜けていった。

マニィ「成功したってことだよね」

ルイン「ああ、今夜も成功だ」

ふたりは街灯の切れた村の外れに歩いていった。石畳の上には「全球凍結」と「氷河期」が大書きされたチラシが落ちていた。

そのチラシはルインたちが町のあらゆる壁に貼り付けたものだった。

ルインたちは、全球凍結の噂とテロリズムの恐怖を使ってゴンドワン北方地帯の住民を流民にして南へ押しやる活動をしていた。その仕事を手伝っているのは、マニィをはじめ、クンタラの若者たちであった。クンタラの若者たちは、クレッセント・シップなど見てはいなかった。

それは自分たちを差別してきたスコード教のシンボルだったからだ。

クレッセント・シップがやって来て、彼らクンタラは強い圧迫感を感じていた。いままで以上にスコード教の力が強まり、差別が増長されるのではないかという心配であった。ゴンドワンに住むクンタラの中で比較的リベラル思考を持つ者は休戦中を利用してアメリアへ渡る人間もかなりの数に上っていた。

そんな彼らの元に、救いの手が差し伸べられたのはほんの数か月前であった・・・。





宴の後片付けが半分残されたキャピタル・テリトリィ。往来に人の姿はない。夜明け前の一番暗い時間だった。スーンが寝袋の中のハッパを蹴って起こす。それを横目で見るコバシ。ハッパはううんと唸った後、眼鏡を掛けて寝袋から抜け出した。

スーン「来るぞ」

ハッパ「(寝ぼけた声で)何がです?」

スーン「ゴンドワンのホズ1番艦というらしい。戦艦だ」

ハッパ「(思わず飛び上がり)ホズ? ゴンドワンの船じゃないか! 本気なのか? クレッセントシップがいなくなった途端に戦争を始めるつもりか?」

スーン「(ニヤリと笑いながら、静かに)来た」

コバシ「(難しそうな顔で心配そうに)地球人が作った戦艦なんて使えるのかしら? フルムーンシップで大気圏突入してればこんなことにならなかったのに」

夜空に轟音が響いてきて遠くに艦影が見えてくる。ハッパの表情が険しくなった。

ハッパ(オレをG-セルフのところに残したのはそのためか、姫さま)





朝焼けが大西洋上空を失踪する2隻の大型戦艦オーディンを照らし出した。オレンジ色に染まった艦影がさらに速度を増していく。

艦橋の中は警戒警報が鳴り響いていた。船体がガタガタ震えるほどの高速が出ている。何かに掴まらなければ立っていられないほどだった。前方にアメリアのパトロール艇が1隻見えた。

クリム「奇襲をかける方はテンションが違うんだよッ!」

ゴンドワンのオーディン1番艦と2番艦は最高速度のままアメリアの船を挟撃して一瞬で撃沈させた。そのまま速度を落とすこともなくさらに2隻は突進を続けた。





夜明け前、空が白み始めたアメリアの首都に空襲警報が鳴り響いた。驚いたアイーダがベッドから身を起こした。空襲警報は鳴っているが爆音などは聴こえてこない。彼女は急いでガウンを羽織った。

セルビィ(女性秘書)「(扉を開けて急ぎ足で部屋に入ってくる)スルガン提督!(アイーダがガウン姿なのを見咎めて)まだそんな恰好で?」

アイーダ「(胸を張って)なにごとです?」

セルビィ「それを真っ先にお知りになるのが提督のお役目です。急いで着替えて」

着替えを済ませたアイーダはセルビィと共に急ぎ足で廊下を歩いた。

そこにスルガン時代から政策秘書を務めるレイビオも加わった。

3人はアメリア総督府の指令センターに入っていった。センターの中では夜勤の職員が大慌てで走り回っていた。中央の大画面に戦闘の様子が映し出されていた。唖然とするアイーダ。彼女の近くに朝早くから背広姿のズッキーニ大統領が歩み寄ってきた。

ズッキーニ「姫さまは大陸間戦争の経験はおありで?」

アイーダ「(画面を見たまま首を横に振り)いえ、従軍経験はありません」

ズッキーニ「指揮のことです。いつからアメリアの総督は親から受け継ぐことになったので?」

アイーダはそれに答えず画面を注視していた。アメリアの艦隊はたった2隻のゴンドワンの戦艦に蹂躙されていた。指令センターには様々な情報が怒号のように飛び交っていた。

大型画面を見上げるアイーダの横顔。その顔の前にズッキーニが自分の顔を突き出す。

ズッキーニ「いますぐ指揮権を返上なさい」

そのとき画面にクリムの顔が大写しになった。画面は時折起こる爆発で乱れがちであった。息子の顔を見て驚愕したズッキーニは、苦々しい表情でアイーダの傍を離れ、画面を見上げた。アイーダは映像を見つめたまま言葉を発しない。

クリム「わたしはゴンドワンのクリム中佐である。アイーダ・スルガン名義で送られた和平協議開始に対するゴンドワンの答えがこれだ。アメリアはカリブの島々をゴンドワンに割譲せよ。それが協議開始の条件になる。断れば次はミノフスキー粒子を撒いてから戦うぞ、いいかッ! フハハハハ」

通信が切れると同時に味方艦艇が撃沈される様子が画面に映った。取り巻きに囲まれながら退場していくズッキーニ。それを見送る職員が呆れたように首を横に振る。アイーダは右の拳をぎゅっと握って唇を噛んだ。

アイーダ「(怒りを堪えた声で)小賢しい天才だこと」



ベルリは愛用のシャンクを駆って海沿いの道を疾走していた。

太陽はすでに中天に差し掛かっている。ベルリの息遣いは荒く、流れる汗を拭いながらシャンクを走らせていた。首から下げた日本製小型ラジオからゴンドワンとアメリアの戦争が再開された報が聴こえてきた。ベルリは悔しさの余り唇をギュッと噛んだ。

海沿いの坂道の向こう側に小さな港町が見えた。

ベルリ「早く姉さんと連絡を取らないと」

すると、突然崖の下から小型輸送艇が飛び出してきた。飛行艇は風を巻き上げながらシャンクと並走した。驚いてそちらに目をやるベルリ。操縦席にはケルベスが乗っていた。

ケルベス「飛び移れ、ベルリ」

ベルリ「ケルベス教官?」

シャンクごと小型輸送艇の翼に乗り移ったベルリは翼の上を滑っていき、急に開いた上部ハッチからシャンクごと落ちてしまった。輸送艇の貨物室は空で、乗組員も操縦しているケルベスひとりだった。ベルリは慌ててケルベスに駆け寄り副操縦席に座った。

ベルリ「なんで教官どのがここに?」

ケルベス「(操舵を切りながら)もう1か月もお前を探していたんだ。間に合わなかったらお前の姉さんに顔が立たないところだった。旅はいったん中断しろベルリ生徒。地球のために戦え」

ベルリ「(険しい表情で)ラジオで聴いていました。戦争ですね」

ケルベス「メガファウナでキャピタル・テリトリィに向かう。ハッパさんとG-セルフを拾って・・・(首を横に振る)その後どうなるのかわからんのさ!」

陽光に照らされた海の中からメガファウナの赤い船影が浮上してきた。船体から海水がしたたり落ちる。ケルベスの操縦する小型輸送艇がメガファウナのハッチに滑り込んだ。奥にはコアファイターが青いビニールシートを掛けられた状態で保管されていた。シートが風に煽られてはためいていた。

ケルベスとベルリはすぐにブリッジに上がった。そこに懐かしいドニエル艦長の声が響き渡るのが聞こえた。その隣には副長の姿がある。ギセラもベルリの顔を見て微笑んでいた。

ドニエル「弾道飛行に入るぞ。グズグズしてるとゴンドワンの連中がやってくる。キャピタルに入ればあっちはアーミーが支配しているんだ。だーれがこんなことやらせるんだ。ステア!」

ステア「イエッサー」

メガファウナは上空目指して一気に加速をかけた。





ルインは両手を枕との間に挟んでベッドの上でくつろいでいた。

横には裸のマニィが布団をかぶってまだ眠っている。ルインは小さな音でテレビを見ていた。テレビにはクリムの姿が大写しになっていた。テレビではアメリアからやって来た大統領の息子が初戦で華々しい戦果を上げたと持ち上げていた。

ルイン(オレは見てきた・・・、世界に宇宙からやってくる移住者を受け入れる土地などない。どこも砂漠だらけだ。そして、フォトン・バッテリーは常に不足している。だからみんな木を切って燃やす。森は砂漠に飲み込まれ、海は魚のいない死の海になる。クンタラが自主独立するには・・・)

ドアが開いて男が入ってきた。彼はマニィの姿をみると慌てて部屋を出ていった。

男「(ドア越しに)ルイン、北部の連中がまた村を捨てて流民になったそうだ。南へ向かっている」

ルイン「その村は制圧できたのか?」

男「ああ。誰も残っちゃいないから簡単なもんさ。でも薪になるものは残ってない。木はもっと北に行かないと無理だ。それより法王庁の発表を聞いたか? フォトン・バッテリーの配給が停止されるって。そんなことになったらオレたち・・・」

ルインはすぐに服を着て仲間たちのところへ姿を現した。

ルイン「急いでゴンドワン中のクンタラを集めるんだ。ボヤボヤしているとまたクンタラ狩りが始まるぞ。とりあえず集結した分はその村に押し込んでおけ。薪は何とかする」

男は頷いて廊下を走り去っていった。ルインは決意を秘めた表情で見送った。

ルイン(クンタラが自主独立するには、国を奪うしかないんだ)





アメリア軍総監執務室ではアイーダがグシオンが使っていた椅子に腰かけ、両肘を机の上にのせて手を組んで考え事をしていた。

机の上にはチュチュミィが置いてあり、アイーダはそれをじっと見つめている。チュチュミィの水は綺麗な水色をして、なかで金魚が泳いでいた。

そこへ女性秘書のセルビィが部屋に飛び込んできた。

セルビィ「アイーダさま。法王庁から重大な発表があって・・・」

アイーダ「フォトン・バッテリーの供給を止めるというのでしょう。知っています。法王さまもトワサンガに亡命なさるとか。おそらくビーナス・グロゥブのラ・グー総裁の意思でしょう。ビーナス・グロゥブの方々はヘルメスの薔薇の設計図の回収と戦争の停止を要求してくるはずです。それが終わるまでフォトン・バッテリーは地球にやってきません」

セルビィ「(おろおろしながら)おっしゃる意味が・・・」

アイーダは再びチュチュミィに目を落とし、黙考した。

アイーダ(戦争は終わらない。だからラ・グー総裁はフォトン・バッテリーの供給停止で事態を収拾しようとしている。このまま戦争を続けていたら、地球がチュチュミィになってしまう!)





法王庁からの重大発表が世界各地のテレビ局で流れていた。

世界中の人々が、それを食い入るように見つめている。

クリムとニックは法王庁からの発表をそら見たことかと思いながら眺めていた。

ルインとマニィは法王庁の眼がゴンドワンから逸れると喜んでいた。

アイーダはテレビは見ずに、レイビオとセルビィと共に対応を協議していた。

空と宇宙の境界を飛ぶメガファウナ。その窓に決意を秘めたベルリの横顔が写っていた。


(ED)


この続きはvol:23で。次回もよろしく。












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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第1話「法王の亡命」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第1話「法王の亡命」前半


(OP)

キャピタル・テリトリィの夜空にクレッセントシップが小さくなっていく。美しい夜空に消えていくクレッセントシップの船影。月に出来た小さなシミがゆっくりと消えていこうとしていた。

ノレド・ナグとラライヤ・アクパールは並んで桟橋に腰を掛け、それを見上げていた。キャピタル・テリトリィはクレッセントシップのビーナス・グロゥブ帰還を祝う特別祭で賑わっていた。昼間に行われた厳かな祝典が終わり、夜には酒が振舞われ、皆して酔っては騒いでいた。

ノレド「(むくれた顔で)こんなときに、ベルリもリンゴもケルベスさんもみんなしていないんだ」

ラライヤ「(顔をノレドに向けて)仕方ないですよ。ベルリは旅に出たまま。アイーダさんやメガファウナの人たちはアメリアで降りてしまいましたし、軍の人たちは武装解除の支度で忙しい」

ノレド「(ラライヤの顔を見て)リンゴまでいないなんて、こりゃ何かあるな」

ラライヤ「(夜空を見上げて)何もありませんよ。戦争は終わったんです。ゴンドワンとアメリアの大陸間戦争もクレッセントシップの世界巡行で終結しました。争っている場合じゃないってみんな気づいたんです」

ノレド「ラライヤを巡る争いは終わりそうもないけど」

ノレドの言葉を遮るようにふたりに呼び掛ける声があった。そちらへ顔を向けると暗闇の中から黒塗りの自動車が4台姿を現した。先頭の1台の窓が開いており、なかにウィルミット長官の青ざめた顔が見えた。ウィルミット長官はふたりに近づいてウィンドウを下げた。

その横にはゲル法王の姿があった。黒塗りの自動車の車列は法王庁のものであった。ノレドとラライヤは橋桁から降りて、小さく頭を下げた。

ウィルミット「(車中の法王に確認を取るように)よろしいのですか?」

ゲル法王「ザンクト・ポルトの方々が(以下聴こえない)」

ウィルミット「(ふたりに向かって叫ぶ)後ろの車にお乗りなさい」

ノレドとラライヤは不思議そうに顔を見合わせてから、黙って車に乗り込んだ。車列は桟橋の外套の明かりが届かない暗闇の中に消えていった。





ノレドとラライヤたちがいた桟橋からほど近いドッグの中からハッパの声が聞こえてきた。

ドッグの中にはおかしな格好のまま固まったG-セルフが横向きに倒れていた。マスクとの激闘を終えたG-セルフは、エネルギーが切れたままの状態でキャピタル・アーミーによって回収されていた。

G-セルフにはコアファイターがなく、動かすことができない。クレッセント・シップでの世界巡行中にアイーダが発表した「連帯のための新秩序」という論文は、長引く戦争に疲れていた各国の一般市民に広く受け入れられ、いまやモビルスーツの新規開発はどこの国も行っていない。

世界は平和に向けて歩み始めたばかりであった。

ゴンドワンとの正式調印後にはアメリア軍の解体も決まっていた。ハッパの頭の中は次の仕事のことより長期バカンスのことで一杯だった。アジア系であるハッパは、ベルリが日本でクレッセント・シップから降りたことに刺激を受けていて、1度アメリアを離れてアジアで働いてみるのもいいかもしれないと思うようになっていた。

本当なら彼もまたメガファウナのクルーと一緒にアメリアで降りるはずだったのに、彼はアイーダからの要請でキャピタル・テリトリィへと派遣されていたのだった。

その理由はトワサンガとビーナス・グロゥブ製のモビルスーツの回収を手伝い、整備をして博物館に納入することだった。キャピタル・テリトリィからさほど遠くない場所に最後の戦いで破壊された多くのモビルスーツの残骸がある。それを保存しようというのだ。

ハッパが選ばれたのは、彼が技術について貪欲で、整備という仕事であっても何らかの技術的知見を得るのではないかとのアイーダの思惑があった。ビーナス・グロゥブへの旅で多くのことを学んだアイーダではあったが、フォトン・バッテリーの技術公開だけは諦めていなかったのだ。

アメリア軍にはまだ自分の仕事がありそうだと安心しつつも、ハッパは初めて訪れたアジアにも興味を持っていた。アジアは環境回復が進んでいて、宇宙世紀前の技術の再建に熱心だった。戦争もないために、発掘された金属類はアジアへ輸出されたのちに家電製品となって世界へ輸出されていた。

戦争がなくなる以上、技術を追求するならアジアの方が有望なのではないかと彼は考えていた。

彼が作業をしているドッグの中には煌々と明かりが灯っていた。いずれは禁止される技術故に扉は厳重に閉じられ、天井近くにある横に並んだ小さなガラス窓から明かりが漏れるだけである。ハッパはG-セルフのコクピット部分から顔を覗かせていた。

ハッパ「(下にいる兵士に向かって怒鳴る)だからこれ以上直しようがないって! 壊れたところは全部元通りにしたよ。G-ルシファーだって直したし、それにもう必要ないじゃないか。どうせ博物館にでも納めるのだろう? まったくこれだからキャピタル・テリトリィの人間はッ! あとはベルリが飛んでこない限りムリなの!」

兵士A「これで動くんですか?」

ハッパ「ベルリがいればね。(足場を器用にショートカットしながら下に降りてくる)G-ルシファーはどこに持っていったのさ」

兵士B「それをお訊ねしてるんです」

ハッパ「お訊ねしたいのはこっちだよ。ちょ、待て。なにするんだ!」

ハッパはふたりの兵士に両脇を抱えられて連行されていった。突然のことに驚いた彼は激しく抵抗したものの、小柄な彼が抗っても相手はびくともしなかった。





夕刻より臨時運休になっていたビクローバーに人影はなかった。

キャピタル・ガード養成学校もセントフラワー学園も臨時休校となっていてガランとしている。多いときは何万人もの人が行き交うビクローバーがこれほど閑散とすることは珍しかった。

そこにコツコツと大勢の靴音が廊下に響き渡った。ゲル・トリメデストス・ナグ法王と数十人の司祭たちが先頭を歩き、ウィルミット・セナム、ノレド・ナグ、ラライヤ・アクパールの3人は黒服の男たちに急き立てられるように歩かされて、クラウンに押し込まれた。

ノレド「(背中を押され、困惑しながら)ちょ、ちょ、どこへ?」

法衣をまとった者たちが涙ぐみながら別れを惜しんでいた。様子から察するに法王はクラウンで宇宙へ上がるようだった。それに何人かは同行できないらしく、法王との別れを惜しんで泣いているのだ。その法王と一緒に、ノレドとラライヤもクラウン発着場から強制的に乗車させられたのだ。

黒服の男たちが周囲を警戒していた。驚きの表情を浮かべるノレドとラライヤ。扉が閉まるとクラウンはすぐさま動き出した。残してきた者たちがあっという間に小さくなっていった。

ノレド「(素っ頓狂な調子で)修学旅行のやり直し?」

ラライヤ「(気づいたように)あっ!」

ウィルミット「(厳しい表情で)違います」

法王は両手を組んでじっとクラウンの進行方向を見つめたまま動かなかった。彼の周囲には司祭らがいたが、その周囲は黒服の男たちで固められていた。

ノレドとラライヤの元に飲み物が運ばれてきた。おいしそうなトロピカルドリンクであった。喜んだふたりが与えられた飲み物を口にすると、視界がボンヤリとしてきて、やがて彼女たちは気を失って机に突っ伏してしまった。

ウィルミット「ごめんなさい。許してくださいね」






アメリア大統領府執務室に、制服を肩にかけたアイーダの姿があった。

彼女は窓際に立ち、夜の月を眺めていた。整然とした室内にはグシオンと並んで撮影した父娘の写真が飾ってある。壁には名画のレプリカが飾られ、机の上には父の葉巻の箱がまだ置いてあった。

グシオンが使っていた執務室は、いまはアイーダのものだった。アイーダはアメリア軍総監の地位を相続していた。彼女はゴンドワンとの終戦協定をまとめ上げ、そのあと速やかにアメリア軍を解体する重要な仕事があった。これだけは他の人には任せられないと、彼女は軍の総監になることを決めたのだった。

部屋にはグシオンに仕えていたふたりの秘書が立っていた。男性と女性がひとりずつ。男性秘書はお高くとまってアイーダを見下ろし、女性秘書は神経質そうな顔を困らせていた。

秘書たちはグシオン総監から地位を継いだ年端もいかない少女に雇われ続けていいものかどうか見定めようとしていた。ふたりの秘書のうち男性のレイビオは優秀な政策秘書として名が通った存在で、グシオンの右腕だった人物だ。

もうひとりの女性秘書セルビィは、まだ若いが議会対策に長けた人物で、法案を通す際には彼女の助力がどうしても必要であった。アイーダは何とかふたりに職務に留まってほしかった。

アイーダ「(誰に言うともなく)平和とはいいものです。そうでしょ?」

セルビィ「(呆れた顔で)宇宙からの侵略者が何も取らず還っただけです」

彼女は茶色い髪をきっちりと束ねた神経質そうな女性であった。セルビィは奔放に育てられたアイーダが本当に仕事のできる人物なのか疑っていた。

アイーダ「(すました顔で)そうでしょうか? それにあの船はクレッセント・シップというのです」

女性秘書のセルビィだけでなく、男性秘書のレイビオもアイーダを試すように話を切り出した。

レイビオ「お父上のグシオン総監は、キャピタル・テリトリィを侵略しようとしたのではなく、世界を解放しようとそうおっしゃっていたのです、姫さま」

アイーダ「(深く息を吸い込み)それはわかっています。しかし戦争が終わったいま、キャピタル・テリトリィに謝罪をして平和条約を結ぶことこそ最善です。(レイビオの言葉を遮り)キャピタル・テリトリィだけではありません。わたくしはゴンドワンとも平和条約を結び、戦争というエネルギーの無駄遣いを終わらせたいのです。モビルスーツを動かしているフォトン・バッテリーひとつでも、ビーナス・グロゥブの方々がムタチオンと戦いながらどんな思いをして作ってくださっているか。それをわたくしはこの目で見てきました。すべてのモビルスーツは解体して資源として活用します」

レイビオ「ズッキーニ大統領は認めないでしょうな」

アイーダ「(セルビィに向かって)それを認めさせるためにあなたがいるのではないのですか?」

レイビオ「こちらがキャピタル・テリトリィを征服しなければ、ゴンドワンが狙いましょうに」

アイーダ「大西洋とアメリアがある限り、そんなことはさせません!(狼狽しながら)あなた方はわかっていないのです。ムタチオンがどんなに恐ろしいものか。宇宙にいる彼らにレコンギスタさせてはいけない。キャピタル・タワーで地球に戻してあげなければ」

レイビオ「宇宙艦隊でアメリアに亡命させれば砂漠地帯の開拓民に出来ます。金(きん)が出るとウソをつけば定住もいたしましょう。キャピタル・テリトリィの人口が増えたら、それを口実にフォトン・バッテリーの分配比率を変えられてしまう恐れがあります」

アイーダ「(自信なさげに)そんなことは・・・」

レイビオ「お父上はそこまで見越して作戦を立てられていたのです。姫さまはいつからグシオン総監と肩をお並べになったので?」

セルビィ「姫さまが宇宙のお船でのんびり世界旅行している間に、ズッキーニ大統領は大怪我を克服され、ゴンドワンとの戦争準備を進めておられます。議会でも承認されておりますし、それを姫さまの一存で変えるなどわたくしめには無理でございます」

レイビオ「(ふたりの秘書は顔を見合わせる)戦争が終わったなどと誰が言ったのです? 休戦していただけです。あの船もお帰りになったようですし、すぐにゴンドワンは攻めてまいりましょう」

アイーダ「(月を見上げながら不安そうに)そんなことって・・・」





倉庫の中に整然と並ぶウーシァを見てハッパは激怒した。

ハッパ「あんたたち、まだこんなに隠していたのか? 戦争は終わったじゃないか。だからアメリアの姫さまは僕だけここに残してG-セルフを整備させたんだ。弟さんの名前が案内板に綺麗に輝くようにってね。こんなにモビルスーツを用意しても博物館が欲しがるのは1体だけだぞ」

兵士B「博物館にはもう納品してありますよ。(後ろを振り返り)あ、来た来た」

倉庫の入口に長短ふたつの影が延びていた。影はそのまま近寄ってきた。クン・スーンとローゼンタール・コバシだった。クン・スーンのお腹は引っ込み、元の体型に戻っている。コバシは顔が赤く、足元がおぼつかない。

スーン「お前は飲みすぎだ」

コバシ「ジャスト1G。海の傍だからジャスト1G。(飛び上がる)跳んでもはねてもジャスト1G」

兵士A「(遠くから)こちらがハッパさんです」

ハッパ「(辛辣な口調で)何かと思えばジット・ラボの方々じゃありませんか(スーンとコバシが傍に立つ)その節はどうもとでもいえばいいのかな?」

スーン「単刀直入に聞くけど」

ハッパ「そんなことより、あんた子供は? キア・ムベッキ・Jrはどこに消えたんだ?」

スーン「もうお腹から出たさ。助っ人を頼まれたんでね。ママはお仕事中ってわけ」

コバシ「G-セルフの整備をやってたんでしょ? あの機体を分析したいからあんたも手伝ってちょうだい。こっちはたくさん死んで人手が足らないのよ」

ハッパ「あの機体は他のモビルスーツと変わらない。たしかにおかしな機構はあることはあるんだが、全部コクピットと連動しているんだ。そして肝心のコクピットは、ここにはない!」

スーン「G-セルフのあの子か・・・。せめてルシファーを返してほしかったのに」

ハッパ「どこにやったんだ?」

コバシ「知らないわよ」

ハッパはふたりがキャピタル・アーミーの制服を着ていることに気がついた。軍は解体されることになっているはずなのにおかしな話であった。

しかしよく考えれば、ベルリはキャピタル・テリトリィの代表でも何でもない。代表はビルギーズ・シバである。ハッパはアメリア人なのでビルギーズ・シバがどんな人物であるのかは知らないが、たしかに彼がアイーダの「連帯のための新秩序」に参加すると表明したとは聞いていない。

続いてクン・スーンが口にした言葉は驚くべきことであった。

スーン「(両手を大きく広げ)キャピタル・ガードは我がキャピタル・アーミーが吸収する。アーミーは世界を、この地球を征服する。そしてあたしたちは大きな家とたっぷりの軍人恩給を死ぬまで貰う。(ハッパに向き直り)そういうことになったのさ」

ハッパ「アーミーがガードを吸収する? 世界を征服・・・。ちょっと待て、貴様ら! まだ戦争を続けるつもりなのか? フォトン・バッテリーの受け入れ先であるキャピタル・テリトリィが戦争で世界を征服するなんてことがあるはずがないだろう! それこそキャピタル・テリトリィの否定じゃないか! スコード教のこともあるのに(ワナワナと震え)そんなことがあるはずない!」

コバシ「(すました顔で)ビーナス・グロゥブ製の機体は全部回収して、全部使えるようにするから、あんたも(ハッパを指さす)手伝ってよね。なんならアーミーに入っちゃえばいいのよ。アメリアよりお金の払いはいいかもよ」





ノレド「(驚いた顔で)亡命! 法王さまが? まさか、あり得ない!」

クラウンの扉が開くが、誰も降りようとはしなかった。クラウンでザンクト・ポルトまでやってきた意味がまったくわからなかったからだ。ノレドもラライヤも、何を言っても取り合っては貰えなかった。ふたりは薬で眠らされて、ザンクト・ポルトまで移送されたのだった。

手錠をかけられたフラミニア・カッレが横切っていくのをクラウンの窓から見つけて、ラライヤが驚いた。臨時運休中に出発したクラウンは、どのナットにも停まらず、そのままザンクト・ポルトまでやって来た。法王は長旅に疲れ果て、ぐったりとしていた。

車椅子が用意され、法王が運ばれていった。ウィルミットに促されてようやくふたりは下車した。後ろで扉が閉まった。

ノレド「(不安そうに)眠り薬まで使って、なんでベルリのおばさまがこんなこと・・・」

ウィルミット「(やつれた顔で首を横に振り)ダメなの」

貨物用クラウンの中からG-ルシファーが運び出されていた。G-ルシファーは綺麗に整備されており、スカートこそないがファンネルは脚の部分に取り付けられるように改造されていた。

その他に、白い何か少し違う大きめのモビルスーツも運ばれてきた。ノレドにもラライヤにもまったく見覚えのない機体であった。

ラライヤ「(驚いた顔で)あれ、G-ルシファーじゃないですか! なんでクラウンに載っているんですか?」

迎えの人間が3人の元へ寄ってきた。ウィルミットはむずかるふたりの背中をポンポン叩きながら歩くように促した。

ウィルミット「法王さまは愚かな地球の人々の罪を背負って、天にお隠れになるのです。亡命というのは、キャピタル・アーミーに反省を促すためです。でもハッキリ言う必要があるでしょう。ヘルメス財団の方々から連絡があったのです。地球はもうフォトン・バッテリーの供給を受けられません。人類は死に絶えます。我々はおいたが過ぎて見捨てられたのです」

ノレド「ええーーッ!」

ラライヤ「(口をあんぐりと明け)そんな、まさか」


(アイキャッチ)


この続きはvol:22で。次回もよろしく。


















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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:20(続編を書く前に) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム Gのレコンギスタ」のブログ内同人誌「暁のジット団」vol:20をお届けします。

更新は不定期。過去の記事は画面左側の[マイカテゴリー]の一番上をクリックするとすぐに探せます。携帯の場合は記事一覧の下にカテゴリがあります。

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ここから本来の目的であった2次創作に入っていきます。富野総監督が孫の代が作ってくれればと願っていたGレコの続編ですが、孫の代にはガンダムというコンテンツ自体が終わっている可能性が高く、期待は出来そうにありません。

そこで思いついたのがファンジンという形での2次創作なのですが、いくつか前提条件を決めた上で書いていくつもりです。vol:20ではそれを先に記しておきます。

①新しい設定は付け加えない

2次創作においては、極力新しい設定は付け加えないことにします。何か考えなければいけないのは劇中で描写のなかったゴンドワンに関する部分と人々の移動手段、海の状態、そして地球の総人口などです。海洋資源が枯渇して魚がいなくなっているはずです。

アフリカ大陸から南米のキャピタル・テリトリィまで使者が来ていましたが、移動手段がわからない。おそらく航空機でしょうが、それほど頻繁に交流する余裕があったのかどうか不明です。日本のシーンで新幹線が走っている様子があったので、そうしたことは踏まえたいと思っています。

人間がどうやって大陸間を移動しているのか、人々の暮らしに関する部分は勝手に考えるしかないですね。地球が温暖なのか寒冷なのかも考えねばいけません。

本編で決まっていなかった部分は想像して書きますが、設定資料集などで記述がある場合は誰か親切な人が教えてくださったら都度修正します。

②新キャラは極力出さない

2次創作でオリジナルキャラをたくさん出すやり方は昔から否定的なので、当ファンジンでもやりません。ただ劇中で多くの大人が死んでおり、代わりになる人間が必要な場合は作るしかない。

富野監督の言語センスによるネーミングは独特で、あれを真似するのは到底不可能です。ガンダムの別作品でもネーミングを真似しているのは見たことがない。出来るだけ生き残った人間だけで創作するつもりです。死んだ人間を出してしまわないかいまからとても不安です。

③モビルスーツの描写は控え目にする

ガンダムの魅力のひとつはもちろんモビルスーツ同士の戦いです。2次創作でオリジナルのモビルスーツを考えて絵にするような人も多いですが、自分はそれは出来ないし、やるつもりもありません。

考えている続編がそのような内容ということもあります。モビルスーツの活躍が少ない話を書くつもりです。資源が枯渇しているのに宇宙世紀初期並みの速度で新型モビルスーツが供給されていたのが設定としておかしい。

本編もガンダムなのでおもちゃを作るためにたくさん出しただけでしょうから、破壊を免れたものだけで話を進めることにします。

④全26話、前後半分割の脚本形式にする

どういう書き方がいいのか迷ったのですが、小説風だと書くのが大変そうなので、会話の書き方が楽になるよう脚本形式にしました。ただしちゃんとした脚本の形にはせず、半分小説のような、散文的な感じは残したいと考えています。

また一気に1話分は書けそうもないので、前後半に分けます。

⑤クレッセントシップが世界1周を終えたところから始める

クレッセントシップの世界巡行がどれほどの期間でなされたのか描写がなかったのですが、世界の各都市を布教も兼ねてゆっくり回ったとして、1年後くらいから始めるのがいいかなと考えています。

もし続編が作られるのなら、あまり近い時期の話にはしないでしょうが、あくまで「ガンダム Gのレコンギスタ」本編をより楽しむための2次創作ですので、あのあとすぐの時期はどうなったのかと妄想しながら書いていきたいと思っております。

⑥宇宙世紀の失敗を終わらせる話にする

小学生のころにファーストガンダムをリアルタイムで観ていたとき、まさかガンダムがこんなに長く続くとは思っていませんでした。これはひとえにプラモデル需要とアニメ製作が上手く噛み合った結果でしょう。アニメとしては大成功した作品です。

一方で、アニメのため、プラモデルのために宇宙世紀が何千年も戦争を続けることになってしまっている事実に釈然としません。それでは軍産複合体があるために戦争が終わらない現代と何も変わらない。何のためにアムロは死んだのだと悲しくなるのも事実です。

そこで、監督もおっしゃっているように、「ガンダム Gのレコンギスタ」が本当に最後の戦争になるように話を終わらせたいと思います。ガンダムの新作やおもちゃはその間の期間にいくらでも戦争の物語を作ればいいし、並行宇宙でも何でもいいわけです。でも、ファーストガンダムから始まった怖ろしい架空の歴史は、Gレコという架空の歴史できっちり終わらせたいものです。

⑦解釈は当ファンジンで書いたことに基づく

解釈は観る人それぞれがやればいいし、どれが正解ということもないですし、公式なんてものも崇め奉る必要はありません。アニメは作った人と観た人のものです。

そこで歴史の流れやスコード教のことなど細かい解釈は当ファンジンで書いてきたことに基づき進めていきます。


以上の前提を基にして、2次創作を開始するつもりです。

キャラクター紹介をすべきなのかどうかまだ決めていないのですが、前後半で52も書かなきゃいけないので、さっさと始めた方がいいかもしれませんね。


この続きはvol:21で。次回もよろしく。



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