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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第1話「法王の亡命」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第1話「法王の亡命」前半


(OP)

キャピタル・テリトリィの夜空にクレッセントシップが小さくなっていく。美しい夜空に消えていくクレッセントシップの船影。月に出来た小さなシミがゆっくりと消えていこうとしていた。

ノレド・ナグとラライヤ・アクパールは並んで桟橋に腰を掛け、それを見上げていた。キャピタル・テリトリィはクレッセントシップのビーナス・グロゥブ帰還を祝う特別祭で賑わっていた。昼間に行われた厳かな祝典が終わり、夜には酒が振舞われ、皆して酔っては騒いでいた。

ノレド「(むくれた顔で)こんなときに、ベルリもリンゴもケルベスさんもみんなしていないんだ」

ラライヤ「(顔をノレドに向けて)仕方ないですよ。ベルリは旅に出たまま。アイーダさんやメガファウナの人たちはアメリアで降りてしまいましたし、軍の人たちは武装解除の支度で忙しい」

ノレド「(ラライヤの顔を見て)リンゴまでいないなんて、こりゃ何かあるな」

ラライヤ「(夜空を見上げて)何もありませんよ。戦争は終わったんです。ゴンドワンとアメリアの大陸間戦争もクレッセントシップの世界巡行で終結しました。争っている場合じゃないってみんな気づいたんです」

ノレド「ラライヤを巡る争いは終わりそうもないけど」

ノレドの言葉を遮るようにふたりに呼び掛ける声があった。そちらへ顔を向けると暗闇の中から黒塗りの自動車が4台姿を現した。先頭の1台の窓が開いており、なかにウィルミット長官の青ざめた顔が見えた。ウィルミット長官はふたりに近づいてウィンドウを下げた。

その横にはゲル法王の姿があった。黒塗りの自動車の車列は法王庁のものであった。ノレドとラライヤは橋桁から降りて、小さく頭を下げた。

ウィルミット「(車中の法王に確認を取るように)よろしいのですか?」

ゲル法王「ザンクト・ポルトの方々が(以下聴こえない)」

ウィルミット「(ふたりに向かって叫ぶ)後ろの車にお乗りなさい」

ノレドとラライヤは不思議そうに顔を見合わせてから、黙って車に乗り込んだ。車列は桟橋の外套の明かりが届かない暗闇の中に消えていった。





ノレドとラライヤたちがいた桟橋からほど近いドッグの中からハッパの声が聞こえてきた。

ドッグの中にはおかしな格好のまま固まったG-セルフが横向きに倒れていた。マスクとの激闘を終えたG-セルフは、エネルギーが切れたままの状態でキャピタル・アーミーによって回収されていた。

G-セルフにはコアファイターがなく、動かすことができない。クレッセント・シップでの世界巡行中にアイーダが発表した「連帯のための新秩序」という論文は、長引く戦争に疲れていた各国の一般市民に広く受け入れられ、いまやモビルスーツの新規開発はどこの国も行っていない。

世界は平和に向けて歩み始めたばかりであった。

ゴンドワンとの正式調印後にはアメリア軍の解体も決まっていた。ハッパの頭の中は次の仕事のことより長期バカンスのことで一杯だった。アジア系であるハッパは、ベルリが日本でクレッセント・シップから降りたことに刺激を受けていて、1度アメリアを離れてアジアで働いてみるのもいいかもしれないと思うようになっていた。

本当なら彼もまたメガファウナのクルーと一緒にアメリアで降りるはずだったのに、彼はアイーダからの要請でキャピタル・テリトリィへと派遣されていたのだった。

その理由はトワサンガとビーナス・グロゥブ製のモビルスーツの回収を手伝い、整備をして博物館に納入することだった。キャピタル・テリトリィからさほど遠くない場所に最後の戦いで破壊された多くのモビルスーツの残骸がある。それを保存しようというのだ。

ハッパが選ばれたのは、彼が技術について貪欲で、整備という仕事であっても何らかの技術的知見を得るのではないかとのアイーダの思惑があった。ビーナス・グロゥブへの旅で多くのことを学んだアイーダではあったが、フォトン・バッテリーの技術公開だけは諦めていなかったのだ。

アメリア軍にはまだ自分の仕事がありそうだと安心しつつも、ハッパは初めて訪れたアジアにも興味を持っていた。アジアは環境回復が進んでいて、宇宙世紀前の技術の再建に熱心だった。戦争もないために、発掘された金属類はアジアへ輸出されたのちに家電製品となって世界へ輸出されていた。

戦争がなくなる以上、技術を追求するならアジアの方が有望なのではないかと彼は考えていた。

彼が作業をしているドッグの中には煌々と明かりが灯っていた。いずれは禁止される技術故に扉は厳重に閉じられ、天井近くにある横に並んだ小さなガラス窓から明かりが漏れるだけである。ハッパはG-セルフのコクピット部分から顔を覗かせていた。

ハッパ「(下にいる兵士に向かって怒鳴る)だからこれ以上直しようがないって! 壊れたところは全部元通りにしたよ。G-ルシファーだって直したし、それにもう必要ないじゃないか。どうせ博物館にでも納めるのだろう? まったくこれだからキャピタル・テリトリィの人間はッ! あとはベルリが飛んでこない限りムリなの!」

兵士A「これで動くんですか?」

ハッパ「ベルリがいればね。(足場を器用にショートカットしながら下に降りてくる)G-ルシファーはどこに持っていったのさ」

兵士B「それをお訊ねしてるんです」

ハッパ「お訊ねしたいのはこっちだよ。ちょ、待て。なにするんだ!」

ハッパはふたりの兵士に両脇を抱えられて連行されていった。突然のことに驚いた彼は激しく抵抗したものの、小柄な彼が抗っても相手はびくともしなかった。





夕刻より臨時運休になっていたビクローバーに人影はなかった。

キャピタル・ガード養成学校もセントフラワー学園も臨時休校となっていてガランとしている。多いときは何万人もの人が行き交うビクローバーがこれほど閑散とすることは珍しかった。

そこにコツコツと大勢の靴音が廊下に響き渡った。ゲル・トリメデストス・ナグ法王と数十人の司祭たちが先頭を歩き、ウィルミット・セナム、ノレド・ナグ、ラライヤ・アクパールの3人は黒服の男たちに急き立てられるように歩かされて、クラウンに押し込まれた。

ノレド「(背中を押され、困惑しながら)ちょ、ちょ、どこへ?」

法衣をまとった者たちが涙ぐみながら別れを惜しんでいた。様子から察するに法王はクラウンで宇宙へ上がるようだった。それに何人かは同行できないらしく、法王との別れを惜しんで泣いているのだ。その法王と一緒に、ノレドとラライヤもクラウン発着場から強制的に乗車させられたのだ。

黒服の男たちが周囲を警戒していた。驚きの表情を浮かべるノレドとラライヤ。扉が閉まるとクラウンはすぐさま動き出した。残してきた者たちがあっという間に小さくなっていった。

ノレド「(素っ頓狂な調子で)修学旅行のやり直し?」

ラライヤ「(気づいたように)あっ!」

ウィルミット「(厳しい表情で)違います」

法王は両手を組んでじっとクラウンの進行方向を見つめたまま動かなかった。彼の周囲には司祭らがいたが、その周囲は黒服の男たちで固められていた。

ノレドとラライヤの元に飲み物が運ばれてきた。おいしそうなトロピカルドリンクであった。喜んだふたりが与えられた飲み物を口にすると、視界がボンヤリとしてきて、やがて彼女たちは気を失って机に突っ伏してしまった。

ウィルミット「ごめんなさい。許してくださいね」






アメリア大統領府執務室に、制服を肩にかけたアイーダの姿があった。

彼女は窓際に立ち、夜の月を眺めていた。整然とした室内にはグシオンと並んで撮影した父娘の写真が飾ってある。壁には名画のレプリカが飾られ、机の上には父の葉巻の箱がまだ置いてあった。

グシオンが使っていた執務室は、いまはアイーダのものだった。アイーダはアメリア軍総監の地位を相続していた。彼女はゴンドワンとの終戦協定をまとめ上げ、そのあと速やかにアメリア軍を解体する重要な仕事があった。これだけは他の人には任せられないと、彼女は軍の総監になることを決めたのだった。

部屋にはグシオンに仕えていたふたりの秘書が立っていた。男性と女性がひとりずつ。男性秘書はお高くとまってアイーダを見下ろし、女性秘書は神経質そうな顔を困らせていた。

秘書たちはグシオン総監から地位を継いだ年端もいかない少女に雇われ続けていいものかどうか見定めようとしていた。ふたりの秘書のうち男性のレイビオは優秀な政策秘書として名が通った存在で、グシオンの右腕だった人物だ。

もうひとりの女性秘書セルビィは、まだ若いが議会対策に長けた人物で、法案を通す際には彼女の助力がどうしても必要であった。アイーダは何とかふたりに職務に留まってほしかった。

アイーダ「(誰に言うともなく)平和とはいいものです。そうでしょ?」

セルビィ「(呆れた顔で)宇宙からの侵略者が何も取らず還っただけです」

彼女は茶色い髪をきっちりと束ねた神経質そうな女性であった。セルビィは奔放に育てられたアイーダが本当に仕事のできる人物なのか疑っていた。

アイーダ「(すました顔で)そうでしょうか? それにあの船はクレッセント・シップというのです」

女性秘書のセルビィだけでなく、男性秘書のレイビオもアイーダを試すように話を切り出した。

レイビオ「お父上のグシオン総監は、キャピタル・テリトリィを侵略しようとしたのではなく、世界を解放しようとそうおっしゃっていたのです、姫さま」

アイーダ「(深く息を吸い込み)それはわかっています。しかし戦争が終わったいま、キャピタル・テリトリィに謝罪をして平和条約を結ぶことこそ最善です。(レイビオの言葉を遮り)キャピタル・テリトリィだけではありません。わたくしはゴンドワンとも平和条約を結び、戦争というエネルギーの無駄遣いを終わらせたいのです。モビルスーツを動かしているフォトン・バッテリーひとつでも、ビーナス・グロゥブの方々がムタチオンと戦いながらどんな思いをして作ってくださっているか。それをわたくしはこの目で見てきました。すべてのモビルスーツは解体して資源として活用します」

レイビオ「ズッキーニ大統領は認めないでしょうな」

アイーダ「(セルビィに向かって)それを認めさせるためにあなたがいるのではないのですか?」

レイビオ「こちらがキャピタル・テリトリィを征服しなければ、ゴンドワンが狙いましょうに」

アイーダ「大西洋とアメリアがある限り、そんなことはさせません!(狼狽しながら)あなた方はわかっていないのです。ムタチオンがどんなに恐ろしいものか。宇宙にいる彼らにレコンギスタさせてはいけない。キャピタル・タワーで地球に戻してあげなければ」

レイビオ「宇宙艦隊でアメリアに亡命させれば砂漠地帯の開拓民に出来ます。金(きん)が出るとウソをつけば定住もいたしましょう。キャピタル・テリトリィの人口が増えたら、それを口実にフォトン・バッテリーの分配比率を変えられてしまう恐れがあります」

アイーダ「(自信なさげに)そんなことは・・・」

レイビオ「お父上はそこまで見越して作戦を立てられていたのです。姫さまはいつからグシオン総監と肩をお並べになったので?」

セルビィ「姫さまが宇宙のお船でのんびり世界旅行している間に、ズッキーニ大統領は大怪我を克服され、ゴンドワンとの戦争準備を進めておられます。議会でも承認されておりますし、それを姫さまの一存で変えるなどわたくしめには無理でございます」

レイビオ「(ふたりの秘書は顔を見合わせる)戦争が終わったなどと誰が言ったのです? 休戦していただけです。あの船もお帰りになったようですし、すぐにゴンドワンは攻めてまいりましょう」

アイーダ「(月を見上げながら不安そうに)そんなことって・・・」





倉庫の中に整然と並ぶウーシァを見てハッパは激怒した。

ハッパ「あんたたち、まだこんなに隠していたのか? 戦争は終わったじゃないか。だからアメリアの姫さまは僕だけここに残してG-セルフを整備させたんだ。弟さんの名前が案内板に綺麗に輝くようにってね。こんなにモビルスーツを用意しても博物館が欲しがるのは1体だけだぞ」

兵士B「博物館にはもう納品してありますよ。(後ろを振り返り)あ、来た来た」

倉庫の入口に長短ふたつの影が延びていた。影はそのまま近寄ってきた。クン・スーンとローゼンタール・コバシだった。クン・スーンのお腹は引っ込み、元の体型に戻っている。コバシは顔が赤く、足元がおぼつかない。

スーン「お前は飲みすぎだ」

コバシ「ジャスト1G。海の傍だからジャスト1G。(飛び上がる)跳んでもはねてもジャスト1G」

兵士A「(遠くから)こちらがハッパさんです」

ハッパ「(辛辣な口調で)何かと思えばジット・ラボの方々じゃありませんか(スーンとコバシが傍に立つ)その節はどうもとでもいえばいいのかな?」

スーン「単刀直入に聞くけど」

ハッパ「そんなことより、あんた子供は? キア・ムベッキ・Jrはどこに消えたんだ?」

スーン「もうお腹から出たさ。助っ人を頼まれたんでね。ママはお仕事中ってわけ」

コバシ「G-セルフの整備をやってたんでしょ? あの機体を分析したいからあんたも手伝ってちょうだい。こっちはたくさん死んで人手が足らないのよ」

ハッパ「あの機体は他のモビルスーツと変わらない。たしかにおかしな機構はあることはあるんだが、全部コクピットと連動しているんだ。そして肝心のコクピットは、ここにはない!」

スーン「G-セルフのあの子か・・・。せめてルシファーを返してほしかったのに」

ハッパ「どこにやったんだ?」

コバシ「知らないわよ」

ハッパはふたりがキャピタル・アーミーの制服を着ていることに気がついた。軍は解体されることになっているはずなのにおかしな話であった。

しかしよく考えれば、ベルリはキャピタル・テリトリィの代表でも何でもない。代表はビルギーズ・シバである。ハッパはアメリア人なのでビルギーズ・シバがどんな人物であるのかは知らないが、たしかに彼がアイーダの「連帯のための新秩序」に参加すると表明したとは聞いていない。

続いてクン・スーンが口にした言葉は驚くべきことであった。

スーン「(両手を大きく広げ)キャピタル・ガードは我がキャピタル・アーミーが吸収する。アーミーは世界を、この地球を征服する。そしてあたしたちは大きな家とたっぷりの軍人恩給を死ぬまで貰う。(ハッパに向き直り)そういうことになったのさ」

ハッパ「アーミーがガードを吸収する? 世界を征服・・・。ちょっと待て、貴様ら! まだ戦争を続けるつもりなのか? フォトン・バッテリーの受け入れ先であるキャピタル・テリトリィが戦争で世界を征服するなんてことがあるはずがないだろう! それこそキャピタル・テリトリィの否定じゃないか! スコード教のこともあるのに(ワナワナと震え)そんなことがあるはずない!」

コバシ「(すました顔で)ビーナス・グロゥブ製の機体は全部回収して、全部使えるようにするから、あんたも(ハッパを指さす)手伝ってよね。なんならアーミーに入っちゃえばいいのよ。アメリアよりお金の払いはいいかもよ」





ノレド「(驚いた顔で)亡命! 法王さまが? まさか、あり得ない!」

クラウンの扉が開くが、誰も降りようとはしなかった。クラウンでザンクト・ポルトまでやってきた意味がまったくわからなかったからだ。ノレドもラライヤも、何を言っても取り合っては貰えなかった。ふたりは薬で眠らされて、ザンクト・ポルトまで移送されたのだった。

手錠をかけられたフラミニア・カッレが横切っていくのをクラウンの窓から見つけて、ラライヤが驚いた。臨時運休中に出発したクラウンは、どのナットにも停まらず、そのままザンクト・ポルトまでやって来た。法王は長旅に疲れ果て、ぐったりとしていた。

車椅子が用意され、法王が運ばれていった。ウィルミットに促されてようやくふたりは下車した。後ろで扉が閉まった。

ノレド「(不安そうに)眠り薬まで使って、なんでベルリのおばさまがこんなこと・・・」

ウィルミット「(やつれた顔で首を横に振り)ダメなの」

貨物用クラウンの中からG-ルシファーが運び出されていた。G-ルシファーは綺麗に整備されており、スカートこそないがファンネルは脚の部分に取り付けられるように改造されていた。

その他に、白い何か少し違う大きめのモビルスーツも運ばれてきた。ノレドにもラライヤにもまったく見覚えのない機体であった。

ラライヤ「(驚いた顔で)あれ、G-ルシファーじゃないですか! なんでクラウンに載っているんですか?」

迎えの人間が3人の元へ寄ってきた。ウィルミットはむずかるふたりの背中をポンポン叩きながら歩くように促した。

ウィルミット「法王さまは愚かな地球の人々の罪を背負って、天にお隠れになるのです。亡命というのは、キャピタル・アーミーに反省を促すためです。でもハッキリ言う必要があるでしょう。ヘルメス財団の方々から連絡があったのです。地球はもうフォトン・バッテリーの供給を受けられません。人類は死に絶えます。我々はおいたが過ぎて見捨てられたのです」

ノレド「ええーーッ!」

ラライヤ「(口をあんぐりと明け)そんな、まさか」


(アイキャッチ)


この続きはvol:22で。次回もよろしく。


















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