SSブログ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第12話「全権大使ベルリ」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第12話「全権大使ベルリ」前半



(OP)


ベルリは首から下げた小型ラジオでビーナス・グロゥブのラジオの音声を拾っていた。

クレッセント・シップが世界巡行をした際に、日本で降りたベルリが最初に驚いたのが中波放送のラジオが庶民の娯楽として活用されていることであった。キャピタル・テリトリィで育った彼は、ラジオといえば法王庁が製作する宗教番組であったから、楽しそうな音楽がラジオから聞こえてくることが新鮮だったのだ。

シャンクで世界中を旅して歩いていたとき、ラジオはその土地のあらゆることを教えてくれた。わかったことは、何もかもユニバーサルスタンダードにすることの弊害であった。どの土地に住む人間もその国の気候風土に合わせて文化を発展させており、他国の常識を押し付けられることを嫌う。

キャピタル・テリトリィで育ったベルリにはそんなこともわからなかったのだ。宗教国家で育った彼は、世界中がキャピタルに倣って国家を発展させることが当たり前だと思い込んでいた。アメリアさえ反宗教的で野蛮な国だと思っていた。

だが、本当に野蛮なのは、フォトン・バッテリーの配給権を利用して、自分たちの考えや宗教を押しつけてきた自分たちではないか・・・。

ラジオの中波放送は、その土地に住む人間の考えを伝えてくれる。少し離れた土地に行けば、前とまったく逆の考えが聴けるところが新鮮だった。

ベルリにとってそれは重要なことであった。

G-セルフをピッツラクという警察長官に引き渡した彼は、給水塔の階段を登って喧騒から少し離れた場所に隠れていた。ひっきりなしにエアカーが走り回っていること、ゲートから入ったコンテナの中で銃撃戦が行われていることはまだ報道されていない。

ラジオが伝えているのは、緊急事態が起こり、朝がいつもより1時間早まるとの決定だけであった。それ以外、報道番組の類すらない。この不自由さは、ビーナス・グロゥブ、トワサンガ、キャピタル・テリトリィに共通したもので、最も酷いのがビーナス・グロゥブであった。

ベルリ「スコード教から遠ざかれば遠ざかるほど人間は自由になるんだ・・・。スコード教は、自由になれば争いごとが起こるというけれど、アジアはどこも平和そのもの。戦争をしているのはスコード教徒の多いゴンドワンとアメリアだ。自由が戦争を引き起こすというのは本当のことなのか?」

スコード教が世界に平和をもたらしているというのは本当のことなのだろうか? 自分に銃を突き付けてきたのはスコード教を形ばかりにしか知らないアジアの人間ではない。ビーナス・グロゥブの警察長官でスコード教徒を名乗るピッツラクだったのだ。ベルリの信仰は揺らいでいた。

給水塔の階段でうなだれたまま、ベルリはいつもより1時間早いという朝を待った。






ビームライフルの閃光が漆黒の空に輝いている。金星宙域にはポリジットとザンスガットが入り乱れて撃ち合っていた。メガファウナに攻撃は向いていないが、モビルスーツ同士の戦いのために戦闘宙域が激しく変わり、メガファウナは逃げ回るだけで精一杯だった。

ノーマルスーツのスピーカーにハッパの激しい声が鳴り響いた。

ハッパ「G-セルフだ! 戻って来たぞ。よし、すぐに回収しろ!」

モビルスーツデッキに入ったG-セルフは、コクピットのハッチを開けた。なかから赤いパイロットスーツが飛び出てくる。ハッパはすぐに追いついてその肩に手をやった。華奢な肩だった。

ハッパ「ら、ラライヤ! どうして君がここに? いや待って、(ヘルメット内のマイクに向かって)ドニエル艦長、ラライヤさんがG-セルフに乗って戻って来た。ラライヤさん、ベルリは?」

ラライヤ「ハッパさんですか? ビーナス・グロゥブでどうして戦争が始まっているんです?」

ハッパ「それはこちらが訊きたいくらいだ。とにかくブリッジへ上がって」

ヘルメットを外したラライヤがブリッジに上がると、すぐさまドニエル艦長の怒鳴り声が鳴り響いた。

ドニエル「なんだかわかんねーけど、とにかくどこか隠れるところはねーか探せ。おー、ラライヤじゃねーか、(上から下まで眺めまわして)ベルリのパイロットスーツじゃねーか。どこで入れ替わった?」

ギゼラ「隠れるって金星に着陸しろとでもいうんですか!」

ステア「みんな茹っちゃうよ」

ドニエル「あーーー、どっかねーのか! 副長!」

副艦長「(焦りながら)オーシャン・リングですよ。あの下ならさすがに発砲してこないでしょ?(ギゼラに向かって)してこないよね?」

ギゼラ「(食って掛かるように)相手がビーナス・グロゥブの破壊を目的にしていたらどうするんです? フォトン・バッテリーなんて爆弾と一緒なんですよ!」

ドニエル「(天啓を受けたような表情で立ち上がる)閃いた! フルムーン・シップだ。何の戦いかわかんねーけど、生き延びた連中はトワサンガへ行くんだろ? だったら船がいる。フルムーン・シップには攻撃しないはずだ」

ステア「それいただき! フルムーン・シップに隠れるよ!」

ところがフルムーン・シップにはテン・ポリスのポリジットが護衛として張り付いていた。彼らはメインエンジンルームに入って何かをいじっているようだった。

ステア「奴らエンジンかけようとしてますよ!」

副艦長「大丈夫だ。エネルギーの充填には時間が掛かるはずだ。それにG-メタルで活性化させることもできない。ベルリがそれをまだ持ってりゃだけど」

ドニエル「(顔を真っ赤にして)むむむ・・・、ルアン、オリバー、テン・ポリスを追い払えないか?」

ルアン「(モニターに顔が映る)ビーナス・グロゥブと戦闘するのはマズいですよ。ベルリがラ・グー総裁と話をつけてくれなきゃこっちは大気圏突入すらできないんですから」

ドニエル「じゃ、どーーすりゃいいってんだよ!」

ステア「どこに行きゃいいのよ!」

ラライヤ「ビーナス・グロゥブにはノレドさんとリリンちゃんもいるんです!」

ドニエル「(さらに顔を赤くする)むむむむむむ!」

そのとき、メガファウナに通信が入った。映ったのは一緒に地球まで旅をしたビーナス・グロゥブの兵士のひとりであった。彼は現在ビーナス・グロゥブで起こっている争いは、反ラ・グー派による騒乱で、レコンギスタ派ですらなく、その実態は不明であるもののクレッセント・シップとフルムーン・シップを取られない限り必ず鎮圧できると説明した。

兵士「メガファウナの方々はフルムーン・シップ制圧に力添えいただけると助かります」

副艦長「こちらでは敵味方の見分けがつかない」

兵士「ペイント弾を用意しています。印がついたモビルスーツが敵です」

ドニエル「了解! ステア、フルムーン・シップにゆっくり近づけ。砲撃も準備だ」

ラライヤ「わたしも出ます!」

ドニエル「頼んだぞ! 白兵戦の準備だ! 銃を出せ!」

副艦長「ありゃりゃ。その必要もないみたいですよ」

フルムーン・シップに取りついていたポリジットは、ペイント弾数発を撃ち込まれただけで戦意を喪失し、テン・ポリスに降伏したのだった。

ドニエル「(唖然としながら)そんなにオレたちが怖いのか・・・。本当は心優しいおじさんなんだぞ」







ラライヤが出て行ったきり戻ってこないことをノレドとリリンは心配していた。ノレドはリリンを抱きかかえながらルームサービスで朝食を済ませ、どう行動すればいいのか必死に思案していた。

ホテルの外は外出禁止令が出され、ビーナス・グロゥブ始まって以来の出来事に周囲は騒然としている。暴動などは起きていないが、部屋でラライヤを待つだけではじれるばかりであった。

リリン「ねえ、ノレドさん」

ノレド「なに?」

リリン「ここが天の国なの?」

ノレドは返答に迷った。トワサンガのリリンは、ビーナス・グロゥブが天の国、地球が地の国、地球の地下が地獄だとお伽噺で聞いていたのだ。目の前の景色はとても天の国だとは言えないものであった。

ノレド「(身をかがめて)リリンちゃん、ここは天の国なんだよ。でもね、天の国でいま騒動が起きちゃってるの。でもね、必ずヒーローがやってきて助けてくれる。この騒動を終わらせてくれるんだよ」

リリンはキョトンとしていたが、それはお父さんだと小さく口にすると、すぐに後ろを振り返って窓の外を眺めた。そして小さな指をガラスに押し当てた。

リリン「銀行のおばちゃん」

窓から顔を覗かせると、銀行でノレドたちに絡んで来たビーナス・グロゥブのおばちゃんたちが立ち話をしているのが見えた。ノレドとリリンは顔を見合わせ、ホテルのスタッフが止めるのも聞かず駆け足でホテルを出ると、井戸端会議中のおばちゃんの輪の中に入っていった。

市民A「あー、あんたはいつぞやの地球の子じゃないの?」

ノレド「(不安そうな顔で)いったい何があったんですか?」

市民A「それがねー、どうもまたあのクソ坊主どもが問題を起こしたんじゃないかって話をしているのよ。スコード教の坊主ときたらいつもラ・グー総裁に迷惑をかけてばっかり!」

市民B「坊主は税金を払わないだけで飽き足らず、補助金をもらって、学校を経営して、いつもいつも金金金、お金のことしか頭にない。どうせまた坊主どもでしょっていま話をしていたのよ」

ノレド「スコード教の神父さまがそんなことするんですか?」

市民A「するも何も、悪いことをしても捕まらないし、捕まっても釈放されるし、釈放されなければ起訴されないし、メチャクチャなんだから」

ノレド「でも、いま外出禁止令が出ているんでしょ? おばちゃんたちは大丈夫なの?」

市民A「外出禁止令が出てるから子供を置いて出てきたのよ。捕まえられるものですか。坊主どもを甘やかしているからこんなことになる」

市民BC「そーそー」

ノレド「あたし、ちょっとビーナス・グロゥブのスコード教教会に行ってみたい。どこにあるか知ってる人はいますか?」

市民A「教会はあっちこっちにあるけど・・・。1番の聖地は闇の宮殿といってね、地下にあるのよ」

リリン「ちか?」

市民A「そうよ、地下。でもあそこは入れないから・・・」

ノレド「(不思議そうに)コロニーの地下ってイメージできないんですけど」

市民A「この街の真下にあるらしいからみんな地下って呼んでるだけよ。まぁ、ただの最下層のフロアってところ。誰も入ったことはないんだけどね」

ノレド「フロア・・・か。わかりました。ありがとう!」

ノレドはレンタルのシャンクを借りて、リリンとふたりでジット・ラボ跡地へと向かった。






地球からやって来たゲル法王は、スコード教の牧師が目の前で次々に逮捕されていくことに言いようのない悲しみを覚えていた。ところが彼は、ラ・グーのようにことの次第を深く理解していたわけではなかった。宗教改革の意味も理解していなかったし、その前に聞いたビーナス・グロゥブの法王になって欲しいとの要求も、本当のところは漠としたまま微笑み返していただけであった。

それが地球での彼の仕事であったからだ。

彼は外出禁止令に関わらず続々と教会に集まってくる信徒たちに、何を喋るべきかだけ考え、集中しようとしていた。

彼は変わるには年を取りすぎていたのだ。

教会には地球の法王の話が聞けるとあって続々と信徒が集まりつつあった。外出禁止令が出ていることなど誰も気に留めない。ビーナス・グロゥブは長く続いた平和のために、恐怖に鈍感になっていた。

恐怖への鈍感さがどんな事態を引き起こすのか、それもゲル法王にはよくわかっていなかった。






ベルリ「外出禁止って割には教会にたくさん人が集まってるな」

明るくなるのを待って給水塔を降りたベルリは、歩いて市街地の方へ向かっていた。

道路は大勢の人で溢れ、口々にテン・ポリスやスコード教への不満を口にしていた。おかげで彼は人ごみに紛れて移動することが出来た。誰も彼のことを気に留めないし不審がらない。ぼくが悪い人間だったらどうなるのだろうと考えると少し怖かった。

外出禁止令のことはラジオで知った。地球育ちのベルリは、禁止令に背けば逮捕されるものと知っているが、ビーナス・グロゥブの人々は誰も政府の命令を守らないことを気にも留めていない。これでは戦争が起これば被害者は増えるばかりだ。道路には警察もいるのに、よほどのいざこざが起こらない限り介入してこない。

ベルリ(クンパ大佐がビーナス・グロゥブの人々を見て危機感を覚えたのもわかる気がする。ここの人たちは安全に配慮されすぎて、死の恐怖が薄れている。何もかも管理されすぎて、死の臭いがどこにもない。この人たちがジャングルに入ったらさぞかし驚くだろうな)

宇宙に巨大な人工構造物を作って生きていることに、ベルリは最初から強い違和感を感じていた。壁の中は地球のようだが、壁の向こう側は真空の世界なのだ。ここまでして宇宙で暮らす意味は一体何だろうか。どうして人々は地球をより良くすることを考えず、宇宙へ出たのか。宇宙に何を求めたのか。

キャピタル・ガードの候補生として教育を受けていたころ、宇宙では労働の価値観が違うと何度も聞かされた。地球では誰も気に留めないような小さなミスであっても、宇宙ではそれが何十万人を一瞬で殺してしまう致命的な失敗になる。責任の大きさがまるで違うのだ。

ビーナス・グロゥブのような巨大で複雑なコロニーの場合、ひとりひとりの労働の責任は計り知れないほど大きいはずだ。普段その責任と緊張感に耐えているはずの人々が、政治的な失敗がもたらす破滅に鈍感なのはなぜなのか。宇宙世紀時代の戦争も、スペースノイドから仕掛けたのだという。

壁が壊れただけですべての人間が死ぬ世界で生きながら、なぜ破壊を生む戦争には鈍感であったのか。

ベルリ(ガード候補生だったころ、宇宙での教練は緊張感の連続だった。地球での生半可な意識は捨てないといけなかった。それが日常である人々にとって、地球人はさぞかし怠け者に見えるだろう。そして、彼らを侮る。でも、地球には死が溢れていて、地球人は宇宙で暮らす人々より恐怖感が強い。だから戦いになれば、地球に住む人間の方が強い。だとすれば・・・、宇宙に住む人々は、自分たちが地球人を支配すれば人間社会はより良くなると考えてしまう。宇宙の人々の勤労精神と地球人の恐怖感が合わされば人類はもっと発展する。これがレコンギスタの真意なのだろうか)

ではなぜトワサンガのレイハントン家はそれに反対したのか。彼ら自身がスペースノイドで、その代表だ。なぜレイハントン家はドレッド家と対立して、レコンギスタを拒否しようとしたのか。ムーンレイスとの接触はレイハントン家に何をもたらし、レイハントン家はなぜ彼らを封印したのか・・・。







ノレド「あれだ、間違いない!」

シャンクを最高速で操ったノレドは、L22地区にある旧ジット・ラボの跡地にリリンとともにやって来た。

巨大な倉庫が立ち並ぶ広大な一角を走り回るうちに、彼女は扉が開け放たれた建物を発見した。シャンクを乗り捨て中へ入ると、そこにはフラミニア・カッレが手配したG-ルシファーが置いてあった。辺りを見回したが、フラミニアの姿はどこにもない。

ノレド「(叫ぶ)フラミニアさん、ノレドです。どこかに隠れているなら覚えておいて欲しいことがあるんです。ラライヤには家族が必要です。あなたにいて欲しいんです。よろしくお願いします!」

それだけ告げるとノレドはリリンを伴ってG-ルシファーに搭乗した。リリンにノーマルスーツを着せながら、ノレドはこの子を一緒に連れて行くことは罪にならないのかと不安になったが、その気持ちを悟ったリリンは気丈に怖くないよと口にした。

ノレド「おねーちゃんにつき合わせちゃってごめんね。おねーちゃんはね、社会政治学を勉強してみんなの役に立ちたいんだ」

リリン「ノレドさんはトワサンガのお姫さまなんでしょ?」

ノレド「それは・・・どうなるのかまだわからない。でもね、おねーちゃんはもうすぐ大人になるから、リリンちゃんたちのために働くようになるの。そのときにね、誰のためにもならないダメな女の子になるのは嫌なのよ」

自身もパイロットスーツに着替えたノレドは、シートベルトをしっかりと締めるとG-ルシファーを起動させた。操縦には慣れていなかったが、まるっきり動かせないわけではない。ナビゲーション席に固定されたリリンは、目の前のモニターをしばらく不思議そうに眺めたあと、仕組みを理解したのか小さな指で操作をし始めた。

ノレド「(決意を込めた顔で)フロア。あのおばちゃんたちはフロアって言ったんだ。ここはジット・ラボ。地下のどこかには闇の宮殿。スコード教の人たちはお金のことしか興味がない。ということは、モビルスーツ開発にお金を出していたのはスコード教会かもしれない。それがビーナス・グロゥブの秘密のはずなんだ。ジット団がスコード教と繋がっているのなら、エレベーターがあるはず!」

そう叫んだノレドの目の前のモニターに、エレベーターの扉が映し出された。

リリン「エレベーター」

ナビゲーション席のリリンが先にエレベーターの入口を探し出してノレドの席に映像を転送したのだった。

リリン「小さいおばちゃんも近くにいるよ」

その映像もパイロット席のノレドのモニターに転送された。たしかに暗闇に紛れて小さな影が見えなくもない。それを察したりリリンは、物陰に身を潜めるフラミニアの姿を拡大して明度を調整した。それは確かにフラミニア・カッレであった。

ノレド「(マイクを使い)フラミニアさん、いつか必ず迎えに来ます。ラライヤとともに生きてください。あたしたちは闇の宮殿に行きます」

フラミニアは何度も頷くと、その場を走り去っていった。ノレドはG-ルシファーで巨大なエレベーターの中に入る。

ノレド「なんだこれ。丸いエレベーター?」

エレベーターの扉が閉まった。エレベーターは自動で下降を開始し、ゆっくりと回転した。ノレドは丸い壁面についた手すりに摑まって機体をコントロールしなければならなかった。

ノレド「重力が逆向きになっている?!」

エレベーターの扉が開いた。そこには、クレッセント・シップの世界巡行で見たアメリアの都市よりさらに人工的な巨大ビル群がそびえ立っていた。







総裁直属の近衛兵団を直接指揮するラ・グーは、市民の喝采を浴びながら反乱組織を制圧していった。

ラ・グー「(呆れながら)外出禁止令を出したのになんだこのありさまは」

反乱組織の制圧は容易であった。さらにピッツラク公安警察長官が銃撃戦で死亡したとの知らせが入ると、投降するものが続出し、日の出を1時間早めたとはいえ昼前にすべてが決着したのは驚くべきことであった。この手応えのなさは逆にラ・グーを不安にさせた。

平穏を取り戻していくロザリオ・テンに悪人はいなくなったのか。なぜ反乱に加わったのが警察組織だけなのか、ヘルメス財団の主体とは誰なのか、それらがまだ未解決のまま残っていた。

ラ・グー「連中からの連絡はまだないのか」

装甲車を降りたラ・グーは駆け寄ってきた秘書に尋ねた。しかしどこからの接触もまだないと報告を受けて、彼は今回の騒乱が仕組まれた偽装工作だと断定した。

ラ・グー「クレッセント・シップとフルムーン・シップは?」

秘書A「確保済みです」

ラ・グー「法王さまは」

秘書A「逮捕したスコード教の関係者に代わって教会で説法中です」

ラ・グー「つまりこういうことだ。クレッセント・シップに地球の法王とノレドさんやラライヤさんが乗ってしまったことで、あちらが隠しておきたかった情報がこちらに伝わってしまった。そしてわたしは1年前のメガファウナ訪問以来、闇の宮殿を怪しんでいた。最後まで隠し通すつもりでいたがついに内部を見られた彼らはトカゲのしっぽ切りでピッツラク公安警察長官の命をこちらに差し出したつもりでいる。姿を現さないままここで手打ちにしようと持ち掛けているのだ。(集まってきた近衛兵団に向かって)だがよいか、わたしはこのままヘルメス財団の中心にいる者を野放しにするつもりはない。必ず見つけ出して処分する。それまで我が手足となって戦い抜いてくれ、諸君!」

秘書B「(声を潜め)ヘルメス財団が宇宙世紀の再来を目論んでいるという推測は本当なのでしょうか? いまだに信じられないのですが」

ラ・グー「リギルド・センチュリーが始まって1000年を契機に事を再開させるつもりでいたのだろう。これほど超長期で物事を考えることは、寿命の短いトワサンガや地球の人間にはできない。すべてはビーナス・グロゥブで計画されたことだ。いや、もしかしたらはるか遠い宇宙から地球に戻ってくるときにはすでに決まっていた方針なのかもしれない」

そのとき彼は、自分の名を呼ぶ声を耳にした。流れゆく人並みの向こうに、声の主は立っていた。

ラ・グー「そうか、自分で辿り着いたか」

声の主はアイーダ・スルガンの実弟ベルリ・ゼナムであった。彼とアイーダはトワサンガのレイハントン王の血族である。トワサンガのレイハントンがなぜ血族を重視したのかラ・グーは知らない。

ただ、トワサンガのレイハントン家はビーナス・グロゥブの人間が地球に帰還する際の検閲者であったことは確かだ。レイハントンの許可なしに地球に再入植は出来ない。その権限をなぜ血族で守ろうとしたのか・・・、それはラ・グーの長年の疑問でもあった。

その答えをこの少年は知っているのだろうか? ラ・グーはベルリの屈託のない笑顔に微笑み返した。

ベルリ「ラ・グー総裁ですね。お久しぶりです。自分はアイーダ・レイハントンの名代として全権大使を仰せつかった・・・、ベルリ・レイハントンです」

ラ・グー「1年前はまだあどけなかったのに。随分と逞しくなったものだ」

彼がそう言い終わらないうちに、辺りに銃声がこだました。人々は一斉に身をかがめて地面に伏したが、たったひとりラ・グーだけがその長身を起こしたまま、ゆっくりと後ろに倒れていった。

銃を手にしていたのは4人いるラ・グーの秘書のひとりであった。男は悄然としたまま近衛兵団に取り押さえられ、現場にはいくつもの怒号が巻き起こっていった。

やがて救急車が呼ばれ、道路は封鎖された。

その道路脇に、ベルリは取り残されたのである。


(アイキャッチ)


この続きはvol:44で。次回もよろしく。









パナソニック ブルーレイプレーヤー フルHDアップコンバート対応 ブラック DMP-BD90

パナソニック ブルーレイプレーヤー フルHDアップコンバート対応 ブラック DMP-BD90

  • 出版社/メーカー: パナソニック(Panasonic)
  • メディア: エレクトロニクス



コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第11話「ヘルメス財団」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第11話「ヘルメス財団」後半



(アイキャッチ)


リリンは自分と大きさの変わらないフラミニアを不思議そうに眺めていた。

役所から多くの人が帰路に就くなかにボディ・スーツのないフラミニアも混ざっていたのだ。彼女は左手首と左足首にリングを嵌められ、常時監視されている自由奴隷の状態にあった。

それは刑期が終わるまで続く。彼女はジット団の一味としてレコンギスタを行った罪で裁判にかけられ、結審したその日に役所の仕事をあてがわれて労働に従事していた。

ノレドは彼女を食事に誘ったが、それは禁止されていなかったもののフラミニアはその姿を人前に晒すことが嫌だから外食は控えたいと断った。彼女の希望はこのまま宿舎に帰ることだったが、ラライヤが説得して何とか海岸線の人気のない場所まで誘い出した。

リリンは彼女の夕食用に買った挽肉の饅頭を差し出した。

フラミニア「(受け取った饅頭を持ったまま手を膝の上に置き)後悔はしていないのよ。いつかみんなで地球に行く、この誓いはわたしたちジット団の青春そのものでしたから。ただ、ビーナス・グロゥブに戻されるとは思わなかった。トワサンガで地球を眺めながら死ぬつもりだったのに・・・」

ノレド「戻りたいなら戻ればいい。一緒に行きましょう」

フラミニア「それはダメ。わたしは死ぬまでここで働かなくてはいけません。他の仲間たちのことだけが気掛かりかな。地球で幸せになっているのか(遠くを見つめる)」

ラライヤ「(意を決して)わたしたち、お姉さんに訊きたいことがあるんです。ビーナス・グロゥブ、ヘルメス財団、スコード教、これらについてのことなんですが」

ノレドとラライヤはフラミニア・カッレに月の冬の宮殿で見たことを話した。するとフラミニアは奇妙な話を始めた。

フラミニア「ビーナス・グロゥブやトワサンガの人間は、重大な事実についてウソを教えられている」

ノレド「(ハッとして)そう、それ! ウソばっかりなんだ!」

フラミニア「(周囲を警戒して)歩きながら話しましょう。リリンちゃんはまだ眠くはならない?(リリンが首を横に振る。ラライヤを手招きしてそっと耳打ちする)聞かれるマズイことです。周囲を警戒して」

4人は夕焼けの海岸線を歩き始めた。近衛隊長の軍服がすっかり板についたラライヤが周囲を警戒いた。遠くの建物の影に男がふたりいるのが見えた。やはり、緩やかに監視はされていたのだ。それをフラミニアに告げると厳しい顔で頷いた。

フラミニア「ムタチオンというのはなにもリギルド・センチュリーが始まってから起こったことではないの。これはたった1000年で起こるようなことではありません。宇宙世紀の時代から何千年も宇宙で生活することが続いて、こうした現象が起こるようになりました。わたしたち人類は、銀河の果てまで出掛けて戦争を続け、大量の放射線を浴び続けた結果、遺伝子が壊れてきたの。それを補うように、長寿化技術とボディ・スーツ技術が発達した。わたしが医学の勉強をしたのは自分の身体に起こっていることを理解したかったから。しかし、それは本質的なルネサンス、復古運動じゃないと気づいて、地球へ還ろうという運動が起こった」

ノレド「宇宙では常にルネサンスだってラライヤが言ってた」

ラライヤ「(思い出すように)あ、フラミニアさんに教わったのかも」

フラミニア「宇宙文明における復古というのは、地球を思い出せくらいの意味ね。常に地球のことを考えて、そこに戻ることを指してルネサンスという。しかし宇宙の果てで起こったこのルネサンスは、もっと本質的で恐怖に基づくものだった。その原因がムタチオン。人間は自分たちの設計図が壊れ始めて、ようやく戦争をしている場合じゃないと気づいた。そこで、遥か宇宙の果てから地球を目指して帰って来た。ところが、補給で立ち寄る惑星でヘルメス財団は新たな戦争を仕掛け、武器を作って売り、富を蓄積しながら航行を続けたのだけど、その戦争が取り返しのつかない大惨事を巻き起こして食糧事情が悪化する事態が発生した。そのときに生まれたのがクンタラというものなの」

ノレド「え? クンタラって地球にしかないものじゃ・・・」

フラミニア「(首を振りながら)それがウソなの。宇宙世紀末期は資源の枯渇によってどこでも同じようなことが起こった。地球でも起こったはず。でもそれはクンタラという身分制度でもなければ呼び方も違っていたはずよ。クンタラはわたしたちの祖先の呼び方」

ノレド「そうだったのか・・・」

フラミニア「でもね、それを地球だけの悪習のように偽装することにしたの」

ラライヤ「(おぞましさに震えながら)なぜですか?」

フラミニア「地球から月へ上がってきて種の保存をしている人たちと接触したからよ。それが冬の宮殿を作った人たち、ムーンレイスなの。彼らは気高い人々だったけど、地球の有様は悲惨で、まだ宇宙世紀が続いているかのように人々は好戦的で、貧しいのに戦い続けていた。だから、人を食うという醜い行いをしているのは彼らだと歴史を捏造したわけ。わたしたちの祖先は地球にクンタラを捨て、ムーンレイスが設備を整えて食料の生産を始めるまで地球をクンタラの牧場にしていた」

ノレド「むむ・・・」

フラミニア「ノレドさんにはつらい話ね。ごめんなさい。でも、歴史が捏造されているという話は重要なことだから覚えていて欲しいの。あなたたち、大学へ入りたいって役所でごねていたでしょ? あれは断られてよかったの。ビーナス・グロゥブの大学へ入ったらウソの歴史を教え込まれていた。ノレドさん、あなたは必ず地球の大学へ入って社会政治学をおやりなさい。自由に研究できるところじゃないとダメよ」

ノレド「はい」

フラミニア「話し足りないけど・・・(目配せする)もうダメみたい。(声をひそめて)あなたたち、ジット・ラボがどこにあるかわかるわよね」

ラライヤ「はい」

フラミニア「G-ルシファーをあそこに置いておくようわたしが手配しておきます。いざとなったらG-ルシファーでお逃げなさい。メガファウナも着ています」

ノレド「メガファウナが!」

フラミニア「(笑顔で)ええ。でも、メガファウナでは地球には戻れません。どちらにしても、ヘルメス財団がクレッセント・シップを再び派遣する決定をしないと無理です」

それだけ告げて、フラミニアは自宅へと戻っていった。ボディー・スーツのない彼女は、それだけで罪人だと分かるため、行きかう人々にじろじろと見られてしまうのだった。

その後ろ姿を見送りながら、ノレドはある決心を表明した。

ノレド「わかったことがある。真実はレコンギスタ派が知っているんだ。ヘルメス財団やスコード教の支持者は都合よく改変された歴史を真実だと思い込んでいる。でもそれを知っても何にもならない」

ラライヤ「ここまで来たらとことん一緒ですよ、ノレドさん!」

ノレド「反体制派と接触しなきゃいけない・・・。でもここで反体制派って・・・」







闇の宮殿と呼ばれる場所は、ロザリオ・テンの最深部にあるのではなく、張り付くように背中合わせに存在している空間のことであった。そしてそれは宮殿などではなく、機能的な都市であった。

重力はロザリオ・テンと逆向きになっている。ハッチを抜けるとすぐにそれまで頭上であった位置に階段が備わっており、身体を入れ替えてそこに脚をつけて降りてゆかねばならない。

ラ・グー総裁は器用に身体を反転させて、杖を頼りにその階段を下っていった。彼の近衛兵団と秘書の4人も後に続く。かなり広い空間ではあるが、表面のロザリオ・テンの大きさほどはなく、1辺が2kmほどの立方体の中に効率だけを考えたビル群が立ち並んでいる。

ラ・グー「このような空間をスコード教を使って隠し続けてきたということですね」

そう質問したが、そこに公安警察のピッツラク長官はすでにいない。細面で生え際が後退した秘書のひとりが近寄ってくる。

秘書A「これはヘルメス財団に対する重要な裏切り行為、反体制活動です。ピッツラク長官はすぐに尋問いたしませんと」

ラ・グー「(余裕のある表情を崩さず)いや、おそらくはこれがヘルメス財団の本当の姿なのだろう。(周囲を見渡す)これは宇宙世紀初期の、破壊される前の地球の都市部と同じ作りになっている。こんなことを総裁の決定なしに出来るのはヘルメス財団しかない」

近衛兵A「ではこの地区にいる者すべてを拘束し、秘密を洗いざらい話させますか?」

ラ・グー「話せといってもおそらくは話さないのだろう。これはヘルメス財団の核心部分であろうから、わたしが乗り込んで来たとわかった以上はあちらから接触してくるに違いない。よし、もうわかった。ここはすぐに出て行こう。知らない方が多くを知りえる場合もある」

そう告げるとラ・グーはクルっと踵を返して来た道を戻っていき、闇の宮殿の神殿を模した場所へと帰っていった。そこでは多くの兵士たちがそこにあるものを全部箱に詰めて持ち出しているところであった。ラ・グーは彼らに謝罪をして、運び出したものを元に戻すようにと命じた。

秘書A「よろしいので」

ラ・グー「これを隠していた連中はいまごろ対策に必至だろうから、結論が出るのを待つまでだ。それより、ピアニ・カルータの経歴を知りたい」

秘書B「(早足になってラ・グーに追いつき)ピアニ・カルータは検事よりキャリアを開始し、公安の課長補佐時代に警察組織の改編を行い、守備隊の結成に尽力。その功績によってトワサンガのレイハントン家に招かれ、トワサンガの守備隊の結成の指揮を執っております。そののちに地球に亡命して名を変え、キャピタル・テリトリィの調査部に入ったようです」

ラ・グー「これは面白い。つまり、レイハントン家に招かれたのではないのだよ。トワサンガにもヘルメス財団の秘密の組織があり、そこが彼を招いたのだ。レイハントンは守備隊の導入が必要なのか何度もこちらに尋ねてきている。レコンギスタにも反対」

秘書A「つまり?」

ラ・グー「つまり、ピアニ・カルータ事件はレコンギスタ派の男による個人的な犯行ではないということさ。(両手を広げ)どうりで何もかも上手くいきすぎていると思ったよ。彼はただの実行犯であって、黒幕は我々の脚の下で胡坐をかいて笑っていたのさ。ジムカーオの経歴は?」

秘書B「50年前、警察内に公安組織を作った際の・・・」

ラ・グー「(立ち止まり)思い出した。長官官房の参事官だった男だ。そうか。闘争による遺伝子の強化という理屈を考えたのは、わがビーナス・グロゥブの警察官僚であったか!」

近衛兵A「長官を逮捕いたしますか?」

ラ・グー「(強く首を振り)違う! 違うのだ。優勝劣敗論もレコンギスタ論も手段に過ぎない。ヘルメス財団の目的は、金儲けだ。彼らはまた宇宙に戦争状態を作り上げ、戦争利権で肥え太ろうとしている。そうか、これが宇宙世紀で最も邪悪だったという軍産複合体というものか!」

秘書B「(唖然としながら)まさか・・・、ヘルメス財団が・・・。スコード教の教えは一体・・・」

秘書A「先ほどの都市を見れば、彼らがアグテックのタブーを守っていないのは明白です。わたしは、あるビルの中に銀色の肌を持つ人間が動いているのを見ました。あれはアンドロイドです」

ラ・グー「すぐに近衛長官と連絡を取り、人員を100倍にするよう通達。人選は任せると。これよりクレッセント・シップとフルムーン・シップはラ・グー直属とする。それからメガファウナに連絡して、ベルリ・ゼナムくんと話をすると申し入れを。ヘルメス財団がレコンギスタという人々が望むものを利用して戦争を画策しているとすれば、トワサンガと地球でも同じような画策をすでに始めて戦争の火種を作り出しているはずだ。それを阻止するには、トワサンガで指揮を執る者が必要になる。それをあの子にやってもらおうと思う。地球にはアイーダ・スルガンがいる。よし、わたしは法王さまに話さねばならないことが出来た。ゲストハウスへ連れて行ってくれ」






G-セルフのコクピットを開けると、そこにはピッツラク長官が拳銃を構えて立っていた。

ピッツラク「撃たせないで貰えるかな。これでも自分は敬虔なスコード教徒でね」

ベルリ「それがラ・グー長官の意思なんですか? 銃なんか向けなくても戦争の道具なんて差し上げますよ。ぼくはもうこういうものはウンザリなんです」

ピッツラク「君が賢くて助かったよ。トワサンガ製のMSはこちらで接収させてもらう」

両手を挙げたベルリが機体から出ると、代わりにピッツラクが乗り込んだ。彼はコクピットがユニバーサル・スタンダードだったことに安心し、部下にバッテリーの交換を命じた。

G-セルフを受け取ったピッツラクは、コクピットから身を乗り出して部下にあれこれ指図するのに忙しく、ベルリのことなど眼中にないようだった。ベルリが機体を離れていいものか迷っていると、手を動かして追い払う仕草までしてみせた。

ピッツラク「フルムーン・シップのエネルギー装填も急げ」

彼の声を遠くに聞きながら、ベルリはゲートを抜けてロザリオ・テンの内部に入っていった。







ノレド、ラライヤ、リリンの3人は、今日も海辺のホテルのひと部屋を借りて眠っていた。

深夜のこと、騒がしい様子にノレドが目を覚ますと、すでに起きていたラライヤがブラインドの隙間から外を覗いている。ノレドはぐっすりと眠っているリリンを起こさないように下着姿のままラライヤの横に立った。窓の外ではビーナス・グロゥブの近衛兵団が走り回っている。

ラライヤ「何かあったようですね。わたし、ちょっと見てきます」

ラライヤはすっかり正装となったレイハントン家近衛兵団の衣装を身に着け、大急ぎでホテルの部屋を出て行った。残されたノレドも何かしようと下着姿のままうろついたが、リリンが起きそうになったのでそっと立ち止まり、彼女を起こさないように静かにベッドに潜り込んだ。

ノレド「ラライヤのことだから大丈夫だと思うけど・・・」

深夜の街へ出たラライヤは、ヘッドライトが点ったエアカーやシャンクがひっきりなしに走り回っている光景に出くわした。ラライヤの他にも何事かとガウン姿で家を抜け出してきている人が大勢いる。ビーナス・グロゥブの近衛兵団は野次馬などお構いなしに大声で話し合い、右へ左へと駆け出していく。

彼らは酷く混乱しており、統率が取れていない。指示を出している者がいるにはいるのだが、彼自身も混乱しており要領を得ないのだ。その中に、かつてメガファウナに同道したビーナス・グロゥブ守備隊の兵士の姿を見つけてラライヤは走り寄った。

ところが彼女は別の兵士に肩を掴まれ、ピックアップエアカーの荷台に放り込まれてしまった。降ろしてくださいと訴えても、エアカーは走り出してしまい、8番ゲートの方向へと猛スピードで駆け抜けていく。そうこうするうちにラライヤはライフルを持たされてしまった。

見渡すと、トラックの荷台に乗っている兵士はすべて近衛兵団の制服を身に着けていた。ラライヤのものはデザインが違うのだが、現場は混乱しており、間違われてしまったのだ。

エアカーが停止したのは、巨大なトーテンポール状の石柱が2本並んだ先にあるモビルスーツ用のハッチの手前であった。ハッチはすでに開けられた上に固定されているのか、なかから銃声が聞こえても閉じようとする気配はない。それどころか、銃声の合間を縫ってひとりまたひとりと中に突撃していくではないか。ラライヤの乗ったエアカーの一団は石柱の横に並ばされた。

近衛兵A「臨時の近衛兵団だとしても、こうして選ばれたからには君たちはラ・グー総裁の剣であり盾だ。それはビーナス・グロゥブの剣であり盾と同義だと考えてもらいたい。君たちの任務は、この中にあるモビルスーツを1体も彼らに渡さないことだ。狙撃兵がコクピットの付近を狙っているが、近衛兵団の制服には絶対に撃ってこないから安心してもらいたい」

するとトラックで一緒だった男のひとりが手を挙げて質問した。

近衛兵B「モビルスーツを確保したらそのあとはどうすればよいのですか?」

近衛兵A「L22地区の実験棟近くに運んでくれ」

近衛兵B「以前ジット・ラボがあった場所ですか?」

近衛兵A「そうだ。あそこはすでに近衛兵団で固めてある。今回のことはまだ首謀者がわからないから、とにかくモビルスーツだけこちらで確保して事態を拡大させないよう努める。いいな。そこから入って5メートルのところに盾で壁が作ってある。そこまで敵の弾に当たらないように素早く這っていけ。暗闇に眼が慣れたら、モビルスーツを確認してどれでもいいから取り付け。1台動かないものがあるらしいから、それは無視して他のものだけ狙うんだ」

それだけ聞くと、兵士たちは這うように低く進み、最後はスライディングで盾の壁に激突するようにして身を守った。ライフルを手にしたラライヤも順番が回ってきて違うとも言い出せずに彼らの真似をして盾の壁のある場所まで潜り込んだ。

制服組は銃撃戦には参加せず、盾を構えた兵士たちの後ろでじっとして闇に眼を慣らしていた。見えるようになると頭を起こしてモビルスーツの位置を確認する。仕方なくラライヤもそれに倣うと、一番奥にひっそりとG-セルフが置かれているのが見えた。

その他のモビルスーツのある場所では激しい銃撃戦が行われているのに、G-セルフのところだけ人がおらず静かだ。

ラライヤ(レイハントンコード? じゃ、ベルリの?)

ラライヤは闇に紛れてG-セルフのある場所へ走った。彼女の姿勢が高かったために敵に見つかり、何度か発砲を受けたが幸い弾は当たらなかった。彼女は巨大なクレーンの計器が並んだ場所に身を潜め、G-セルフまで最短で行けるルートを探した。

しばらくすると反対方向で激しい銃撃戦が始まった。銃口は一斉にそちらへ向けられ、ラライヤを狙っていた敵もターゲットを変更したと思われた。ラライヤは思い切って走り出し、G-セルフの脚部からレンチを使ってコクピットへと上がり、なかへ滑り込むように入ってハッチを閉じた。

G-セルフはラライヤのアイリスサインを確認して起動した。

ラライヤ「L22地区って言われてもわかるはずないじゃないですか!」

歩いて誰かを踏み潰すのを恐れたラライヤは銃撃戦の中を横切って機体をもっと広い場所へ移すことにした。入ってきた石柱のある門からは出られないため、奥へ奥へと進んでいくと、どういうわけかモビルスーツデッキに出てしまった。

突然無重力になってコントロールを失ったとき、コクピットの後方からベルリの赤いパイロットスーツが流れてきた。デッキを出ると、そこは宇宙空間であった。壮大なビーナス・グロゥブの全景が見え、続いてところどころで閃光が瞬いているのが目に入った。

ラライヤ「ビーナス・グロゥブのこんな近くでビーム・ライフルを使っている?!」

四方をの索敵を行い、モニターを切り替えていくと、かなり離れた場所にメガファウナ、そしてフルムーン・シップの巨大な影も見えた。

ラライヤ「ベルリさんはどこに? ノレドさんやリリンも置いてきてしまった。G-セルフは武器も盾も装備していない。どうすれば?」

ラライヤはサイズの合わないベルリのパイロットスーツに無理矢理身体を押し込め、気密性だけ確保すると、迷った挙句にメガファウナへ向かって飛んでいった。

金星宙域で戦争が起こっていた。ビーナス・グロゥブはフォトン・バッテリーの蓄積を行っており、流れ弾がそのひとつでも破壊すれば連鎖反応ですべてのフォトン・バッテリーが大爆発を起こして宙域のものはすべて宇宙の藻屑となる。

だからこそ厳しく戦いが禁止されていたはずなのに、誰と誰が戦っているのかわからないままに人はビーム・ライフルを撃ち合っていた。

ラライヤ「戦争が起こっている。なぜこんなところまで戦争の波が・・・。どうして?」

G-セルフはシー・デスクを支える柱の陰に隠れながら、戦闘宙域から離れていっているメガファウナを目指した。







ラ・グー総裁が所有する日本庭園風のゲストハウスにやって来たのは、法衣をまとった6人の使者であった。

ゲル法王「もしや皆さま方はビーナス・グロゥブの」

使者「ゲル法王猊下、スコード教団よりお迎えに参りました。現在ビーナス・グロゥブでは戦争が勃発しつつあり、この緊急時に教団としてはこれを鎮めるべく緊急の礼典を行います。朝になれば多くの信徒も協会に参集いたしましょう。どうか我々のお手伝いをしていただきたいのです」

ゲル法王「天の国で戦争・・・」

使者「一刻も早くお支度を」

そこへ乗り込んで来たのはラ・グー総裁の一団であった。法王庁を名乗る使者たちは恭しく頭を下げたが、ラ・グー総裁と近衛兵団は彼らの身柄を確保し、手荒な真似こそしなかったがゲル法王にも自由を与えず、使者と引き離して強引に着席させた。

その眼前に着席したのはラ・グー総裁自身であった。

ラ・グー「お尋ねしたいことがある。地球の法王庁の上部組織はどこですか?」

ゲル法王「法王庁の上部組織というものはございませんが」

ラ・グー「ザンクト・ポルトでフォトンバッテリーの受け渡しをしているのはトワサンガの法王庁ですか? それともヘルメス財団ですか?」

ゲル法王「それはヘルメス財団ですが、いったい何があったのでしょうか? ビーナス・グロゥブの法王庁では礼典を行うと・・・、いやそれより、戦争が始まってしまったとか」

ラ・グー「宗教が侵略の道具だったという話です。ヘルメス財団は宇宙世紀を再来させようとしている。あなたはビーナス・グロゥブの法王庁に関わってはいけない。直ちにトワサンガへ戻り、レイハントン家とムーンレイスの関係、そしてスコード教の本質について調査していただかなければならない。スコード教には確かに元となる奇跡が存在したはずだ。だがそれが失われてしまっている。あなたはそれを再発見して世に広める義務がある」

ゲル法王「まさか自分にそんなことが」

ラ・グー「もう1度冬の宮殿に戻り、奇蹟を見つけるのです。スコード教はあなたによって宗教改革を果たさなければ、このまま戦争の道具として人々の殺し合いに祝福を与える存在に堕するでしょう!」



(ED)



この続きはvol:43で。次回もよろしく。



Franz Porcelain Long tail hummingbird cup/saucer/spoon set Franz Fine Porcelain by The Collection Shop

Franz Porcelain Long tail hummingbird cup/saucer/spoon set Franz Fine Porcelain by The Collection Shop

  • 出版社/メーカー: Franz Fine Porcelain
  • メディア: ホーム&キッチン



Lady Bugコレクションby Franz C / Sてんとう虫デザイン

Lady Bugコレクションby Franz C / Sてんとう虫デザイン

  • 出版社/メーカー: GIFTS-FRANZ PORCELAIN
  • メディア:






コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第11話「ヘルメス財団」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第11話「ヘルメス財団」前半



(OP)


フルムーン・シップを奪って地球圏を脱したメガファウナは、ノレドたちが乗ったクレッセント・シップから2日遅れで金星圏へと到着した。

フルムーン・シップは現在減速中で、すべての乗員はシートベルトをして着席していた。そんな彼らを出迎えたのは膨大な数のビーナス・グロゥブ守備隊であった。

副艦長「(Gに耐えながら苦しそうに)何やらたくさん出てきましたねぇ」

ドニエル「(同じく苦しそうに呻きながら)フルムーン・シップはジット団が奪ったものだから、それが飛んでこりゃあ警戒もするだろう。こちらは交戦する気はないのだから、慌てなくていい。警戒もするな。速度だけ落とせ」

フルムーン・シップは加速と減速だけで大半のエネルギーを消費してしまうほど速く飛んでいる。月に係留してあったフルムーン・シップには片道分のエネルギーしか残っておらず、ビーナス・グロゥブに逆らっては地球に戻ることはできない。メガファウナの速度では1か月も掛かってしまうのだ。

減速が終わり、ようやくGから解放されたクルーたちは、それぞれの持ち場に戻りながらもモニターに映ったビーナス・グロゥブの戦力に驚愕していた。モビルスーツだけで数百機、50以上の戦艦が出撃してきている。クルーたちはビーナス・グロゥブにこれほどの戦力があるとは知らなかったのだ。

ドニエル「ベルリをブリッジに呼べ」

すぐさまギゼラが艦内放送でベルリを呼び出す。ベルリをビーナス・グロゥブのラ・グー総裁に会わせ、フォトン・バッテリーの供給停止を解除してもらうよう要請するのが今回のメガファウナの任務であった。ベルリはハッパと口論しながらブリッジに上がってきた。

ベルリ「G-セルフなんか一体誰が欲しがっているんですか?」

ハッパ「知るか。でもな、どこへ行ってもG-セルフG-セルフだったのは事実だ。まずはキャピタル・アーミーの反乱軍。それから反乱軍に反乱を起こしたクンタラ建国戦線。それにトワサンガだ。お前も見たろ? あいつらは自前でG-セルフを作っちまった」

ベルリは納得がいかないように口答えしようとしたが、それを副長が制止した。

副艦長「モビルスーツを欲しがっているのは、君に負けたことがあるパイロットさんの中で、権力に近い位置にいる人間だ。まずはクリム・ニック。これはゴンドワンだな。次にマスク。これはおそらくクンタラ建国戦線だろう。1機はこちらで確保したんだから、艦長らが見たっていう銀色の奴をクリムの坊やとマスクで争っているんじゃないか。そういうことだから」

といいながら顔を突き合わせたままのふたりに割って入った。

ドニエル「なんでそんなことで喧嘩になったんだ?」

ハッパ「ベルリはG-セルフの威力を見くびりすぎているんですよ。あれだけの力がありゃ、みんな同じものを欲しがるの!」

ベルリ「でも、戦いで勝ったって何の意味もないですよ。極東ではモビルスーツは全部建設機械ですよ。なんでそれを進化させて戦争に使っちゃってるんですか!」

ハッパ「(大声で)オレに言うな!」

ドニエル「(呆れたように)ま、ハッパは関係ないわな」

減速したフルムーン・シップは自動航行になり、しばらくして操縦していたステアをはじめ他のクルーたちがリンゴ・ロン・ジャマノッタを連れて戻って来た。

ドニエル「(横目で一瞥し)おー、リンゴじゃねーか。生きてたのか?」

ステア「(怒った顔でリンゴを床に叩きつける)コイツ、armyの奴らに軍人恩給をたんまり出すからって騙されて隠れてやがった」

ハッパ「(呆れながら)軍人恩給? ジット団のクン・スーンを騙したのと同じ連中に騙されたのか。ホント、お前はバカだな(リンゴの頭を殴る)」

リンゴ少尉はさすがに恥ずかしそうに膝を抱えてうなだれてしまった。

ステア「(呆れて)Fullmoon-shipの真っ暗な操縦席でコソコソしてるから撃ち殺すところだったよ。どうせラライヤちゃんのためだとかいうんだろ?」

副艦長「(ステアの身体を操縦席の方へ放り投げ)もう虐めてやるな。泣きそうな顔じゃないか。それより、おい、リンゴ。知ってることを話せ」

リンゴ「知ってるも何も・・・。キャピタル・テリトリィが新兵を募集してて、アーミーは解散するはずなのにおかしいなと思っていたら、もうすぐ地球は世界政府ができるからっていうんですよ。ぼくは地球のことはよくわからないからって断ったんですけど、トワサンガの人間だって言ったら、世界政府はまさにそういう人材が欲しかったのだってそそのかされて・・・」

副艦長「世界政府という言葉を使ったのならクリムでしょう。(ドニエルが頷いて同意する)で?」

リンゴ「給料もいいし、有休もあるし、恩給も出るからっていうから、それなら・・・ラライヤさんを地球で養っていけるかなって。後で合流するから待っていろと言われて待っていたらステアさんが来て」

ステア「ほらみろ、このバカ」

ドニエル「まあまあ。落ち着け、ステア。なぁ、ハッパ。あのジムカーオって大佐、あれが怪しいと思うよな」

ハッパ「怪しいですし、それにトワサンガの人はレコンギスタ賛成派が多数なんでしょ? だったら天才クリムがドレッド家の残党と手を組んでいてもおかしくはないですね」

メガファウナがいつもの騒々しさを取り戻すうちに、ビーナス・グロゥブのテン・ポリスが所有するMSポリジットがメガファウナとフルムーン・シップを取り囲んだ。圧倒的な数であった。以前来訪した際にはこれほどの数があるとは思いもよらなかった。

ベルリ(戦うための兵器になったモビルスーツ。それがこんなにたくさん!)

ドニエル「こちらに抵抗の意思はない。我々はアメリア軍総監アイーダ・スルガンの命を受けて、フォトン・バッテリー供給の件で話し合いに来た。アイーダ・スルガンの全権大使はこちらのベルリ・ゼナムくんだ」

テン・ポリス「申し訳ありませんが、入港は認められません。まずはおとなしくフルムーン・シップを返していただき、その後の処分についてはラ・グー総裁よりおって指示があるはずです。食料や水などは充分に提供させていただきます」

ドニエル「いや、せめてベルリだけでも・・・」

テン・ポリス「モビルスーツデッキは封鎖させていただきます。絶対に武器を使用しないよう通告しておきます。もし攻撃の意思を示せば、この船は破壊いたしますので」






ビーナス・グロゥブ総裁ラ・グーの懸念はいくつかあったが、まずはジムカーオという人物が思想犯であるか否かが問題であった。もし彼がクンパ・ルシータのような人物であった場合、地球の混乱にはさらに拍車がかかり、それこそフォトン・バッテリーの供給停止のような処置が必要となるであろう。

しかし、ジムカーオは無断で先回りして処分を行っているのだ。

トワサンガのレイハントン家の再興問題もそうである。ビーナス・グロゥブのヘルメス財団では、ベルリ・レイハントンとアイーダ・レイハントンの成人を待ち、本人に意思確認をした上でトワサンガの統治について決めようと考えていた。

それまではヘルメス財団でコントロールしながら、ハザム政権を存続させるつもりであった。しかしこれも先回りしてハザム政権を不承認とし、レイハントン家滅亡によってヘルメス財団がしぶしぶ承認した民政への意向を再び王政に戻す手続きを始めてしまっている。

ゲル法王の処分も同様であった。キャピタル・テリトリィの実質上の元首であるゲル・トリメデストス・ナグ法王は、一介の軍人にすら侮られ、キャピタル・テリトリィを代表する人間として権威が失墜してしまっており、退位させることは既定路線であった。

だがまだ処分がそうと決まっていないうちに彼を実質退位させながら、フォトン・バッテリーの供給停止を絡めて法王の亡命というショッキングな状況を作り出し、法王の権威を高めるための処置さえ彼は行っているのである。エル・カインド艦長の彼への評価はすこぶる高かった。

ラ・グー「すべてをクレッセント・シップの帰還というタイミングに合わせて・・・手際が良すぎる」

ラ・グー総裁は、ロザリオ・テン最深部にあるヘルメス財団の本拠地へ乗り込もうとしていた。そこはスコード教の聖地であり、ラ・グー総裁でさえ普段は入ることを許されない場所であった。

そして、やはり彼は止められたのである。

ロザリオ・テンの最深部には、闇の宮殿と名がついていた。闇の宮殿はスコード教の司祭しか入れないとされていたが、長年の調査によってその場所に司祭が出入りした形跡はなく、テン・ポリス公安警察なる組織のメンバーが定期的に来訪するのみであった。

公安警察は、ビーナス・グロゥブ、トワサンガ、キャピタル・テリトリィを結ぶ情報網の元締めで、月に1度、総裁には定期報告がなされていた。しかし1年前のメガファウナの突然の訪問で、公安警察がピアニ・カルータに偽情報を掴まされていたことが発覚し、大規模な処分が行われたばかりであった。

またラ・グーはこの闇の宮殿に秘かに通じる通路も複数発見しており、いつかこの場所の謎を解いてやろうと待ち構えていたのである。隠し通路には憲兵を排してある。今回の彼は守備隊の兵士200名を同行させており、武力による突破も辞さない構えを見せていた。

闇の宮殿の正門は高く、ギリシア風の柱が左右に12本並んでいた。白い壁にはヘルメス財団を示す薔薇の巨大なレリーフが刻まれていおり、13の階段を上った先に縦に5メートル横に3メートルの外開きの扉がついていた。ラ・グーはその扉の前に立ち、杖でコツコツと叩くと、開けなさいと命じた。

はじめこそ抵抗した門番たちであったが、ラ・グーの威厳ある態度に気圧され、左右に門を開くとそのまま逃げだしていった。

ラ・グー「(門をくぐり)闇の宮殿内を検問する。保存されている資料はすべて持ち出し、施設内にいる者は捕らえよ。(歩きながら)人手が足らない場合は増援を呼んで構わない。この場所のことが明らかになるまで家には帰れないと思え」

ラ・グーの周りには4人の秘書と10人の警護担当だけが残り、残りの兵士たちは手際よく小分隊にわかれて捜査を開始した。ラ・グーらは宮殿の奥へ奥へと進んでいく。そこに待ち構えていたのは、ピッツラク公安警察長官だった。白い肌に赤毛の壮健な人物だが、年齢はラ・グーより上で、頑丈そうなその肉体はボディ・スーツであった。彼は行く手を遮るように立ちはだかっていた。

ピッツラク「闇の宮殿への立ち入りは禁止されているはずですが。ラ・グー総裁」

ラ・グー「(笑いながら)剣呑ですな。公安警察の関係者はピアニ・カルータ事件の責任をもって多くが退職に追い込まれたはずですが、なぜ長官は免責されたのでしょうね」

ふたりは立ったまましばし睨み合ったが、最後はピッツラクが譲る形で道を開け、当然のようにラ・グーの横について歩きだした。

ラ・グー「道案内でもしてくださるので?」

ピッツラク「何が知りたいのですか?」

ラ・グー「(話題を逸らし)ピアニ・カルータというのは、人類には競争が必要不可欠で、優勝劣敗を積み重ねて遺伝子は強化されると訴えて多くの支持を得ていました。ジット・ラボの人たちのように宇宙世紀時代のMSの研究などをしておれば、そういう考え方に傾いてしまうのも無理はありません。しかし、人間というのは遺伝子の強化などという超長期なことさえ考え、ごく短期な個人の人生の意思決定をするのでしょうか。しかも彼は遺伝子操作を拒み、老化を受け入れていた」

ピッツラク「ピアニ・カルータがキャピタル・テリトリィの調査部に入って地球から偽情報を流して大陸間戦争が起きていることさえ伝えてこなかったのは我々公安警察の責任です。それについては何度もお詫びを申し入れたはず。これ以上なのをお望みか」

ラ・グー「超長期で物事を考えている集団がどこかにいなければ、今回の混乱はなかったと、こう申しておるのです。わたしはビーナス・グロゥブの総裁です。わたしを拒むことなどできぬはずです。それとも、ビーナス・グロゥブとは違う組織でもこの中にあるのでしょうか?」

ピッツラク長官は最後の抵抗をするように、巨大な扉の前で振り向いた。

ピッツラク「ここから先は総裁おひとりでならばご案内いたしましょう」

ラ・グー「(首を横に振り)わたしはすべての事柄について決済する立場にあります。それは多くの人間の判断を総合して行わねば、正しいものとなりません。ピッツラク長官、そこをお退きなさい」

ピッツラク「これで宇宙の安定は失われましょう」

強い憂慮を示し、ピッツラク長官は道を譲り、自分は中へは入らずその場を立ち去った。ラ・グー総裁はあえて長官を捕らえることはせず、好きに行かせるままにしておいた。

エアロックのような巨大な扉・・・、それは円形のハンドルロックのついたハッチのような形状であったが、秘書たちがそこを開けてみると、その向こうにはビーナス・グロゥブとは異質な都市文明の街並みが天と地が逆さになった形で広がっていた。

ロザリオ・テンの最深部には、逆向きに大きな都市が広がっていたのだ。






ビーナス・グロゥブの学校への編入手続きを求めるため、ノレド、ラライヤ、リリンの3人は役所の教育課を訪れてた。ノレドとラライヤは、セントフラワー学園の学生証を提示して大学への入学を希望した。リリンは小学校への編入である。

受付の太った女性は目を丸くしてセントフラワー学園の学生証を眺めていたが、やがて自分では判断できないと悟って上司に相談するために席を立った。

やって来たのは東アジア系の小太りの小さな男であった。愛想の良い男で、学生証による身分確認、地球とトワサンガからやってきた理由などを一通り質問したのち、編入は認められませんとニコニコ笑いながら告げたが、ノレドがラ・グー総裁から貰ったカードを出すと表情が一変し、また後ろへと下がっていった。

どうも断りたがっているようだと理解したラライヤはリリンを抱きかかえながら天井を見上げた。だがノレドはあくまで粘るつもりらしく、鼻息荒く受付の前で手を腰に当てて仁王立ちしていた。

さらに黒人系の上司がやってきて、今度こそ断固として断るとその表情が告げていたのだが、ノレドとラライヤが眼に止めたのは、その後ろをちょこちょこ歩いて別の方向へ行こうとしていたフラミニア・カッレの姿であった。

ラライヤ「お姉さん!」

ラライヤの声に気づいたフラミニアは驚きの表情で振り返った。彼女が手錠をかけられた姿で連行されているのは、すでに目撃していた。しかし彼女はビーナス・グロゥブの役場で働いていたのである。

ノレド「フラミニアさん?」

フラミニア・カッレはボディ・スーツを身に着けておらず、小さな身体を満座に晒しながら働いていた。彼女も2人に気づいたが、促されるように書類を抱えたまま奥へと消えていった。

職員「レコンギスタされた方とお知り合いですと、やはり大学への編入は認められませんね」

ノレド「なんでここで働いてんだ?」

職員「裁判はとうに結審して、重加算税で労働することになったんです」

ラライヤ「(ノレドに向かって説明する)宇宙では誰もが労働するので、刑期中の罰は重加算税なんです。移動の制限もされていますよね」

職員「そうです。レコンギスタは厳しく禁止されていますから。そういうわけで、お引き取り願えますか?」

3人は役所の外へと放り出された。

ノレド「ダメだったかーーー。無念!」

ラライヤ「(呆れながら)そりゃそうですよ」

リリン「学校は行けないの?」

ノレド「(リリンに向かって)学校はいずれね。(身体を起こし)ビーナス・グロゥブの秘密を探る作戦はどうしたら叶うんだろう? ラ・グー総裁があたしたちを自由にしてるのは、結局あたしたちでは何も知ることが出来ないって思ってるからなのかな」

ラライヤ「(歩きながら)そんなことはありませんよ。フラミニアさんは長年ジット団のスパイとしてトワサンガに潜入していたくらいの人ですから、重要な情報を持っているはずです。お姉さんに接触できれば、(声をひそめて)あるいは」

ノレド「(声をひそめて)よし、役所が終わるまで何か食べて、フラミニアさんが出てきたら作戦決行だ」






ジムカーオ「さすがにビーナス・グロゥブは遠すぎるか」

ふうと息をついたジムカーオは、自室の安楽椅子から身を起こした。相変わらず彼の部屋に明かりはない。彼は光による刺激で集中力を妨げられるのを極端に嫌っていた。

ジムカーオ「ベルリくんがあちらへ行ってしまったとなると、おそらくはアイーダとかいう少女の名代で交渉するということだろうな。こちらが先走って様々な処分を行っていることをラ・グーが知ることになる。あの男が凡人ならトワサンガのヘルメス財団が独自でピアニ・カルータ事件の事態収拾をしたと思うだろうが、ラ・グーはそこまで甘くないだろう。だが彼もしょせんは雇われの身。さてヘルメス財団1000年の夢というものの意味合いが変わったと気づくかどうかだ。ラ・グーはともかく、向こうのエンフォーサーたちは気づくであろうから・・・、宇宙を統べる資格を問う戦いの本質に誰が辿り着くか・・・。ラ・グーがもし気づくとなると厄介なことになる」

トワサンガのヘルメス財団は、レイハントン王家がドレッド家によって倒されたときすでに独立した動きを開始していた。レイハントン家は大きな歯止めであり、それを失う意味をドレッド家は知らなかったのだ。レイハントンの権力を縮小するだけならまだしも、まさか殺してしまうとまではクンパ大佐も考えてはいなかった。

ジムカーオ「クンパは実に素晴らしい仕事をしてくれた。もしベルリ王子までが殺されていたら、公平な戦いの演出は出来なかっただろう。一方的な虐殺はヘルメス財団の優位を保証しない。力が均衡してこそ、真の勝者が決められる」

彼はトワサンガのヘルメス財団にずっと苛立っていた。彼らは戦争に勝ては勝利者になると思い込んでいたが、それはまったくの思い違いなのだ。

ジムカーオ「さて、ラ・グーはどこまで真相を突き止めるかな」






副艦長「結局これはヘルメス財団の話なんだから、ベルリが代表になるしかないんだよ」

フルムーン・シップをテン・ポリスに明け渡したメガファウナは、多くのモビルスーツに監視されながらオーシャン・リングの近くに停船させられていた。テン・ポリスとの話し合いは上手くいかず、まだ誰もロザリオ・テンへは行けずにいた。

ドニエル「好むと好まざるに関わらず、ベルリ・レイハントンとしてアイーダ・レイハントンの名代になるしか道はない」

ベルリ「姉さんの代理としてラ・グー総裁に会うのは覚悟してます。フォトン・バッテリーの供給再開を申し入れるわけだから、それなりの立場ってものがいるのはわかるんです。でも、レイハントンを名乗れといわれても・・・」

副艦長「あんまり堅苦しく考えるな」

ドニエル「(頷く)そうだぞ。レイハントンを名乗ったからって、ずっと月で暮らすって決まってしまうわけじゃあるまいし」

ベルリ「でも、月ではジムカーオという人がいて、そうする気満々で待ち構えているんです」

ドニエル「そんなにノレドと結婚するのが嫌なのか?」

副艦長「いい子じゃないか」

ベルリ「そうじゃない。そうじゃないんです」

ベルリは困ったようにビーナス・グロゥブの全景が映った窓の外に目をやった。すると、小さな連絡艇が近寄ってくるのが見えた。

ブリッジのモニターが見知らぬ男を映し出した。

ピッツラク「テン・ポリスの長官を務めさせていただいておりますピッツラクと申します。ベルリ・レイハントン氏はいずこでしょうか」

ベルリ「ぼくですけど」

ピッツラク「少々お話を伺いたいので、G-セルフというモビルスーツで出てきてもらえますか?」

ハッパがベルリの肘を小突く。

ピッツラク「テン・ポリスとしては武装戦艦がこんなに近くにいるのは穏やかではないわけです。任意ですのでどうしてもいやというのならば仕方がありませんが」

ベルリ「(意を決して)わかりました。(ドニエルや副長も頷く)そちらへ参りましょう」

こうしてパイロットスーツに着替えたベルリはメガファウナを離れ、ひとりビーナス・グロゥブへと向かった。


(アイキャッチ)


この続きはvol:42で。次回もよろしく。






[ニューバランス] バーサショーツ メンズ AMS81093

[ニューバランス] バーサショーツ メンズ AMS81093

  • 出版社/メーカー: NEW BALANCE
  • メディア: ウェア&シューズ



[ニューバランス] ジャケット/ベスト NBアスレチックウィンドブレーカー

[ニューバランス] ジャケット/ベスト NBアスレチックウィンドブレーカー

  • 出版社/メーカー: NEW BALANCE
  • メディア: ウェア&シューズ



[ニューバランス] アクセレレイトウーブン3/4パンツ Running メンズ

[ニューバランス] アクセレレイトウーブン3/4パンツ Running メンズ

  • 出版社/メーカー: NEW BALANCE
  • メディア: ウェア&シューズ



コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第10話「ビーナスの秘密」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第10話「ビーナスの秘密」後半



(アイキャッチ)


古風な軍服姿の美少女と、物おじしない明るい少女と手を引かれる小さな女の子、この3人は意外なことに多くのビーナス・グロゥブの人々に歓迎されていく先々で人気者となった。

ラ・グー総裁に出迎えを受けた当初にあったどうにも気まずい雰囲気はそこにいた人々がヘルメス財団の人間であったことによるらしいとわかった。だが、地球人であるノレドと小さなリリンにはヘルメス財団がどんなものなのかわからない。ラライヤも詳しく知っているわけではなかった。

ヘルメス財団のトップはラ・グー総裁であったが、彼は3人に詳しいことを話すつもりはないようだった。その役割を引き受けたのは、月にある冬の宮殿で戒めの儀式を行っている際に無理矢理G-ルシファーに乗せられて運ばれた地球のゲル法王であった。

ゲル法王は法王庁のトップにいる人物で、ヘルメス財団に所属している。法王庁自体がヘルメス財団の管轄下にあり、宗教国家であるキャピタル・テリトリィの実質的な国家元首であった。

その彼が、地球から遠く離れたヘルメス財団のトップとじっくり話し合う気持ちになったのは、ひとえに責任感によるものである。フォトン・バッテリーの配給停止処置は、地球が再び暗黒時代に戻ってしまう可能性を秘めている。それを阻止したいとの決心が、ゲル法王を突き動かしていた。

法王がなぜラ・グー総裁のゲストハウスから逃げ出して外を見るように促したのか、ラ・グー総裁がなぜそれを追わないどころか金銭的面倒まで見てくれるのか、ノレドにもラライヤにも本当のところはわからない。大人の世界と子供の世界の壁に3人が気づくことなかった。

3人はオーシャン・リングの海が見える場所まで歩いてきていた。そろそろ人工的な夕刻が近づいており、リリンは少し眠たげな様子であった。しこたま買い食いしたあと、搾りたてのフレッシュジュースを飲みながら歩いていたとき、ポツリとノレドが呟いた。

ノレド「こうしてゆっくり歩いたのは初めてだけど、ビーナス・グロゥブってもしかして地球にあるものの複製品ばかりなのかな?」

ラライヤ「ああ、それはトワサンガも同じですよ。宇宙は常にルネサンスが芸術運動の基本です。ごくまれに新しい試みがムーヴメントになることはありますが、そうした運動もルネサンスの揺り戻しを受けて取り込まれていくんです」

ノレド「どうしてかなぁ。ここは地球より豊かに見えるのに」

ラライヤ「言葉ですかねぇ・・・。いつか地球に還ったとき、言葉が通じなかったら悲しいでしょ?」

ノレド「なるほど、どこかの時代に錨を下ろしておかないと、地球と宇宙でずっと離れて暮らしていると、こう(両手を勢いよく広げる)バアーーっと分かれていっちゃうもんね。それが怖いのか」

フレッシュジュースの飲み物の容器を捨てる際、ラライヤは小さなリリンが飲み残したものを飲み干してからごみ箱に捨てた。それがノレドには不思議で、新鮮であった。いつも仲よく遊んでいるラライヤだが、時折自分たちが違う場所で生まれたのだと感じることがある。

その晩、海辺のリゾート用ホテルに宿泊した3人は、翌朝また元気に外へと出掛けた。労働の義務が徹底されているビーナス・グロゥブでは、同時に休息の義務も厳しく設けられており、観光用のホテルは多数存在している。

ラライヤ「(3人並んでホテルを出る)宇宙ではあらゆるものが生産して作られているので、働くことがそのまま生命維持に必要不可欠な要素なんです。クレッセント・シップで地球を1周したとき、停泊した現地の人などが『食べるために働いている』と話すのを聞いたことがあります。しかし宇宙では、食べるどころか、呼吸するための空気すら労働の産物なんですよ。(目の前の海を指さして)この大きな海・・・、これだってただ水があれば海になるわけではありません。水資源をどこからか運び、人間による徹底した管理の元で水の汚染が食い止められているから、海が美しいままでいられる。でも地球の人は海にゴミを投げていました」

ノレド「地球人は宇宙の人より怠け者ってことか。(困ったような顔で)たしかにねー・・・、そうか、ゴミを燃やすのだって空気がいる。燃やさないのかもしれないけど。ジュースの飲み残しがあったら空気も燃料も余計にかかってしまうのか・・・。じゃあさ、逆にトワサンガ育ちのラライヤがビーナス・グロゥブで不思議に感じる点ってないの?」

リリン「(ぴょんぴょんと飛び上がりながら)リリンもトワサンガで育ったよ」

ノレド「じゃあさ、今日はビーナス・グロゥブとトワサンガの違うところをいろいろ探そう」

ノレドの発案で1日の予定が決まった3人は、大人4人が乗れる馬車のような形のシャンクをレンタルして、海から離れた場所へ出掛けてみることにした。ロザリオ・テンはビーナス・グロゥブの首都にあたる地域で、トワサンガよりかなり広いために住居施設に隣接して農業も行っている。

ラライヤ「広くて余裕があるというのが1番大きな違いですけど・・・」

2時間ほどキョロキョロと辺りを見回しながら歩いてみたが、ラライヤにはトワサンガとビーナス・グロゥブの大きな違いは見つけられなかった。

むしろリリンの方が話をよく理解していない分だけ、トワサンガにないものを見つけるのが上手い。あれもないこれもないと小さな指を差すたびに新たな発見がある。しかし、ノレドとラライヤが探しているものは、リリンが見つけるようなものではない。

ノレド「結局、ユニバーサル・スタンダードに縛られているってことだよね」

ラライヤ「そうですねぇ・・・、なんだろう、革新されているものがないとでも言いましょうか」

ノレド「さっきのルネサンスの話と同じだ。新しいことが始まろうとすると、復古運動の波に飲まれてスタンダードに組み込まれていく。あたしは地球とビーナス・グロゥブの違いを見つけたよ。それは海。ビーナス・グロゥブは海洋資源が豊富だよね」

シー・デスクに隣接する地域では漁業が盛んで、どこへ行っても魚の臭いがする。地球の海の方がはるかに大きいのに、地球の海は汚染と資源枯渇によってまだ再生段階にある。

ラライヤ「それが不思議で」

ノレド「不思議も不思議。(海からの風に吹かれながら)地球の海にはもうこんな多くの種類の魚や哺乳類はいないもん。それにさ、ラライヤはヘルメス財団の人は宇宙の彼方から金星に戻ってきたって言ったでしょ? これがずっと不思議で、太陽系の外側から戻ってきたなら、地球の方が近いよね」

ラライヤ「(首を捻って)たしかに」

ノレド「水資源も太陽に近い場所より遠い場所の方がたくさんあるはずで、それが凍らず、宇宙へ拡散せず重力に引かれてとどまっているのは地球くらいでしょ? 水資源はどこからか引っ張ってきたとしても、ヘルメス財団が設立されたときにこの海にいる生き物は地球にいたのかなって」

ラライヤ「でも地球以外のどこにこんな生き物がいるでしょう?」

ノレド「宇宙世紀の時代に地球は資源が枯渇して、あたしたちクンタラの祖先は悲惨な歴史を歩んだって聞いてる。それがいつのことなのかわからないんだけど、海にこれだけの生物がいて、人間を食べなきゃいけないほど飢えたのだろうかって」

ラライヤ「(クンタラという言葉にはっと驚きながら)時代が合わないと?」

ノレド「うん。だからムーンレイスの話が気になるんだ。ムーンレイスは月の人たちで、ラライヤたちの先祖と接触したって話だけど、月に人間なんているはずがない。元は地球人だったに決まってる。彼らだったら、地球の資源をどうにかして月に持ち出して、保存させられたかもしれないって考えててさ。冬の宮殿も彼らが保存していたものなんでしょ?」

リリン「(話に割って入る)リギルド・センチュリーが始まって1015年だよ」

ノレド「(リリンの頭を撫でて)そう。1015年。もうすぐ1016年」

ラライヤ「1000年・・・。海洋資源の回復と比べて人間の数が多すぎる!」

ノレド「(金星の海を指さし)地球の海にはこれほど豊富な生態系はない。そしてまだ回復していない。宇宙の果てまで海を持ち歩いていたわけじゃあるまいし、アグテックのタブーがあるのに、魔法みたいな技術を使ったとも思えない。ここの海の生物は、ムーンレイスって人たちが地球から月に持ち込んだとしか思えない。だけど、いまはヘルメス財団のものになっている」

ラライヤ「ビーナス・グロゥブとトワサンガの1番の違いは、目的です。こうして見渡していると、ビーナス・グロゥブはかなり多くの物を生産しています。ここでの生産が、トワサンガや地球のエネルギーを賄っています。フォトン・バッテリーなどは、ビーナス・リングに溜める分、トワサンガと地球に配給する分、これらは交換していない労働ですから、生産力がよほど大きくなければ維持できません」

ノレド「だから、どこかにウソがあるんだよ。宇宙の果てから地球を素通りして金星に戻ったという歴史も多分ウソ、ムーンレイスを懲らしめたのも多分ウソ。肝心なことは全部大人が秘密にしてるんだ」







ジムカーオが暗い場所を好むと知っているのはノースリングの先にあるヘルメス財団の人間だけであった。ヘルメス財団が管理するノースリングの先にあるオフィス群は、シラノ-5からもビーナス・グロゥブからも隔離されたもうひとつの世界だった。

その世界を知っているのは、ヘルメス財団の中でもごく一部の人間だけであった。それは血族によっていにしえの時代に定められた契約に基づいていた。多くの者は、その場所で働くことを選良だと考えていた。だが、クンタラ出身のジムカーオは血族による契約によってその場を支配しているわけではなかった。

ジムカーオ「長年研究してきたという割にはこの間からまるで成果がないように見えるのはこちらの気のせいなのかね?」

ジムカーオ大佐の前でかしこまっているのは医療局長であった。ふたりは他の医療スタッフと共に真っ白な壁の明るい部屋にいた。医療局長は大佐の不機嫌を部屋の明るさのためだと考えていた。

医療局長「どうもこの女性は先の戦いで負の感情を増大させる何かがあったようなのです。知っての通り、かつてジオン公国のあったこの宙域というのは人間の残留思念が多く残存する場所らしく・・・」

ジムカーオ「だが、この娘の中に誰かの残留思念が入ったのか、この娘の心象が何かに反応して能力を発揮したのかも解明できないでは、わざわざ助けてここに運んだ意味がない。あなた方は自らの血統というものをよく理解していて、主に他人を見下す際に使っておいでのようだが、自分たちの能力がどんなものかもわからず、その使い方もわからないでは意味がないのではありませんか。自分はクンタラで何の血統書も持ち合わせませんが、この娘に力があるのはわかる。何ならこの娘の中に入ってご覧にいれてもいい。負の力とおっしゃったが、それが残留思念によるものなのか、この娘の能力なのか、遺伝的欠陥なのか、とにかく解明していただかないと、開発中のMS、MAが無駄になってしまうのですよ。あなた方は自分たちの契約を果たして欲しいのでしょう? それは我々も重々承知しているから、こうして手伝っているのです。いやいや、自分は別に怒っているのではない。目の前の現象を解明しなさいと言っている。YG-111のコクピットの秘密が手に入らなかった以上、アンドロイドを使って何とかできないかやってはみますが、エンフォーサーというものは増幅器みたいなものですよ。サイコミュとは違うのです。契約を果たしてくれはよろしいとしても、力が釣り合わない状態ではただの虐殺になるか、虐殺されるしかないわけです。ああ、もう結構」

医療局長がまともに話を聞く気がないと知ったジムカーオは一方的に会話を打ち切ってその場を後にした。部屋の中には医療スタッフと、ベッドの上に横になったバララ・ペオールの姿だけがあった。

ジムカーオ「連中はどうやら一方的に虐殺することが勝利だと信じ切っているようだ。そんな単純な契約をレイハントンが交わすわけがないとなぜわからないのだろうか? ウィルミット・ゼナムを巻き込めば、あのニュータイプのベルリくんをこちらに引き込めたのに、あのばあさんは意外に勘が鋭かったようだ。死んだのかどうかは知らんが・・・。そういえばムーンレイスという話もあったな」

彼はまだムーンレイスがいるという話を完全に信じたわけではなかった。フルムーン・シップを奪われたときに、unknown 機と交戦したとの報告もあったが、画像が不鮮明で確証が得られていなかった。

ジムカーオはまた漆黒の闇に包まれた自室へと下がった。そこで彼はゆったりとソファに沈み込んで神経を集中させたが、どうやっても月に干渉することは出来なかった。

ジムカーオ(これがレイハントンの仕掛けだとしたら大したものだ。もしかすると自分は初代レイハントンと戦うことになるのだろうか・・・)






ゲル・トリメデストス・ナグ法王猊下はしんと静まり返った日本風ゲストハウスの中で、ひたすらラ・グー総裁がやってくるのを待っていた。この辛抱強さこそが信仰によって鍛えられた彼のもっとも優れた点であったといえるだろう。

彼に伝えられた情報といえば、ノレドたちのことは心配いらないと、ただそれだけであった。

夕刻を前に、ラ・グー総裁は、4人の秘書官を引き連れて厳しい表情でやって来た。 

ラ・グー「このような場所に閉じ込めてしまって誠に申し訳なく思っております」

ゲル法王「(立ち上がり)いえなに、こちらこそ有り得ない訪問をいたしてしまったわけですから、身が縮こまる思いでございます。また3人の少女へのご配慮、深く感謝いたします。(深く頭を下げる)」

ラ・グー「早速ですが、こちらで情報を整理したところ、現在地球では法王庁からの通達でフォトン・バッテリーの配給停止が発表され、ピアニ・カルータが流出させたヘルメスの薔薇の設計図の全データと、それから作られた物をすべて1年以内に完全廃棄するよう発表がなされたとか。間違いありませんね」

ゲル法王「はい」

ラ・グー「クレッセント・シップのエル・カインド艦長から報告を受けましたが、ジムカーオという人物がトワサンガにてレイハントン家の再興を目指し、ベルリ王子とノレドさんの婚儀を急いでいたとか。そのためにトワサンガ守備隊を追い出して、キャピタル・テリトリィの守備隊・軍隊の混成チームを率いて乗り込んできたとか。これも間違いないですね」

ゲル法王「はい。トワサンガ守備隊はザンクト・ポルトにいたと思います」

ラ・グー「(深く溜息をつき)ジムカーオというのは、ビーナス・グロゥブの生まれで、若く見えますがもう100歳近い年齢なのです。彼の情報を探し出すのは大変でした。もう50年も前にビーナス・グロゥブを離れ、トワサンガでヘルメス財団の仕事を30年、キャピタル・テリトリィの調査部に入って20年、記録を追うのも大変なほどの古株なのです。もうとっくに死んだと思っていたのですが、どうもこちらで遺伝子改良を受けた痕跡があり、それで若く見えたのでしょう」

ゲル法王「100歳・・・、遺伝子・・・」

ラ・グー「(肩をすくめ)ビーナス・グロゥブには長寿のための様々な技術があり、それらはアグテックのタブーには抵触しないのです。我々はここで生き、労働することが戒めであり、宗教活動そのものなのですから、地球やトワサンガの方々とはまた違った価値観を持っているのです」

ゲル法王「はい」

ラ・グー「ビーナス・グロゥブとトワサンガの間で通信することはできないので、今回の処置について様々な検討を行った結果、状況は基本的に追認することとし、法王猊下におかれましては、どうかこのままビーナス・グロゥブにとどまっていただき、こちらにおける次期スコード教の法王になっていただきたいのです。了承していただけますか」

この質問に対しゲル・トリメデストス・ナグ法王はしばらく考え、やがて口を開いた。

ゲル法王「わたくしは月にある冬の宮殿という場所で、様々な映像を見ることが出来ました。それらは恐ろしいほど破壊に熱中する人々の、悪しき心を映し出したものばかりでしたが、ひとつのことに気づいたのです。それは宇宙で暮らす人々の、地球人への激しい憎悪です。地球は繰り返し繰り返し宇宙の人々から攻撃を受け、そのたびに大きな損害と汚染を受けました。なぜあれほどの憎しみを向けられたのでしょうか?」

ラ・グー「スペースノイドとアースノイドの戦いのことですね。それは宇宙世紀初期においてあった局地戦に過ぎず、もっと激しい戦いは銀河の果てで起こったのです」

ゲル法王「それは宇宙で暮らす人々同士の戦いであって、地球と宇宙で暮らす人々の争いとは根本的に性質が違うのではないでしょうか? 戦争をしながら人類が宇宙へと散らばっていったのは、何らかの利益の追求があったからです。しかし、あの白いモビルスーツと赤いモビルスーツの戦いは違うものを感じたのですが」

ラ・グー「白いモビルスーツと赤いモビルスーツ? なんだろう? 誰か心当たりのある者はいるか?(4人の秘書がそろって首を横に振る)うーん・・・。(部屋の中を歩き回り)わたしは冬の宮殿に蓄えられた映像を解析したことはありません。ただ・・・、あなたがそこまで気に掛かるというのなら、もしかしたらそれはスコード教の根幹に関わる話なのかもしれませんね」

ゲル法王「スコード教は、人間同士の相互理解を追求するものです。それが奇蹟として起こったからこそ、わたくしたちは自信をもって信者たちに説法を行えるのです。白いモビルスーツと赤いモビルスーツのような、あれほど激しい憎しみがあって、果たして相互理解など可能なのでしょうか?」

ラ・グー「つまり、あなたの信仰が揺らいでいるのです。冬の宮殿にはそれほどのものがあったということですね」

秘書A「そろそろお時間ですが」

ラ・グー「ピアニ・カルータ事件は、様々な囹圄の柵を開けてしまったのです。しかし、もし人類が再びイノベーションに走ったならば、それは宇宙世紀の二の舞です。それらが黒歴史として囹圄の中に仕舞い込まれたのはあなたもご存じのはず。それを開けて探ってはいけないのですよ」

部屋を出て行こうとするラ・グー総裁に対し、ゲル法王はその袖にすがりついて激しく抗議した、

ゲル法王「現状を容認し、わたくしをビーナス・グロゥブに留め置かれるというのは、地球そのものを囹圄にするということです! それではあの白いモビルスーツと赤いモビルスーツの時代と何ら変わらないではありませんか! ただ戦わないだけです! これを続けていては、必ずや地球の者たちは立ち上がり、ビーナス・グロゥブと戦うと申しましょう! それではいけないのではありませんか!」

ラ・グー「ピアニ・カルータが撒き散らした戦争の種はすべて摘み取らねばならない! それだけは確かなのです!(法王を振り払い)では、失礼いたします」

部屋を出て歩いていったラ・グーは、声が届かない場所で立ち止まり、秘書たちに指示を出した。

ラ・グー「(秘書Aに対し)フルムーン・シップが数時間以内にこっちにやってくるのだろう? 全戦力を導入してロザリオ・テンへの入港を阻止せよ。(秘書Bに対し)もうこれはわたしとしてもヘルメス財団のお飾りではいられない。財団が隠していることをこの際だから洗いざらい明らかにしてしまいたい。(秘書Cに対し)守備隊を投入してヘルメス財団の本拠に乗り込む。用意してくれ。(秘書Dに対し)あの3人の少女の願いはなんでも叶えてやれ。ノレドさんはクンタラ出身と聞いた。もしかしたらムーンレイスの海洋資源を奪うまで宇宙ではクンタラを食用にしていたことを知られるかもわからないが、そのときは彼女は地球に還さない。何を知ったかだけ報告してくれ」







ノレド、ラライヤ、リリンの3人は、1日中シャンクで歩き続けて、クタクタになったところで近くの食堂で食事を摂ることにした。

ビーナス・グロゥブの食堂は、労働者が気分転換するものであり、家庭料理というものがないビーナス・グロゥブではすべての人間が夜は外食をする。また世界各地の郷土料理を守っていく意味合いもあるので、地球上のあらゆる場所の料理を食すことが出来るのだった。

それらの中には地球ではすでに失われた料理も存在した。

美味しい匂いに釣られてあの店この店と渡り歩くうちに、3人は立てなくなるほどお腹を膨らませてしまった。小さなリリンも、見たことのない食事をあれもこれもと頼むうちに、大人ふたり分は食べてしまっていた。それでもまだデザートを食べるつもりでいるようだった。

ノレドも食べ過ぎて動けなくなっていたが、彼女はラ・グー総裁から貰ったクレジット・カードを眺めながら、何か考え事をしているようにも見えた。

ラライヤ「どうしたんです?」

ノレド「このカードっていうのさ、なんにでも、いくらでも使えるんだよね?」

ラライヤ「そうらしいですけど」

ノレド「じゃ、決めた!」

ラライヤ「何をです? もうこれ以上どこにも行けませんよ?」

ノレド「うんにゃ。うちらはこれを使って、ビーナス・グロゥブの大学に入るのさ」

ラライヤ「えーーーーー!」

ノレド「リリンちゃんだって小学校に行かなきゃいけないでしょ? セントフラワー学園からの進学なんて前代未聞だろうけど、なーに、ダメでもともと。当たって砕けろですよ」

ラライヤ「ほんと、ノレドさんには驚かされてばかりです」

リリン「(眠そうに)リリンも学校行く。あと、アイス食べる」


(ED)


この続きはvol:41で。次回もよろしく。















コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第10話「ビーナスの秘密」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第10話「ビーナスの秘密」前半



(OP)


ビーナス・グロゥブに降り立ったゲル法王は、跪いて大地に口づけをしてみせた。尊敬と愛情を示したつもりであったが、地球と違ってビーナス・グロゥブの大地はすべて人工物であり、漠とした自然信仰が根底にあるそうした行為を相手は理解することが出来なかった。

地球巡行を終えたクレッセント・シップの久々の帰還は、法王庁のトップであるゲル法王を歓待する式典に彩られるかと思いきや、まったくそうした素振りのないものであった。ビーナス・グロゥブの人々は戸惑い、地球からやってきたスコード教の教皇を扱いかねているようだった。

その違和感を感じたのは当の法王と、ラライヤ・アクパールであった。地球からの来訪者を初めて受け入れた前回とやっていることは同じでも、何か重要な事柄が抜けているように感じられた。古風な軍服姿がすっかり板についたラライヤは、ノレドを守るように常に周囲を警戒していた。

もうひとりのノレド・ラグは、意気揚々としたものだった。彼女はリリンと手を繋ぎながら出迎えを恭しく受け入れると、意外なことに実に堂々とラ・グー総裁と渡り合った。物おじしない性格と、リリンを連れていることで大人としての自覚が芽生えてそうした態度になったようだ。

彼女は出迎えに出たラ・グー総裁とその妻に会うなり、冬の宮殿で目の当たりにしたことを滔々と話し始め、慌てたラ・グー総裁のうろたえように驚いたその妻が掌で彼女の口を塞ぐ挙に出てたしなめられてしまうほどだった。加えてリリンも殺戮の映像について興奮してまくし立てた。

冬の宮殿という言葉はラ・グーにとって意外だったらしく、彼は優雅な振る舞いこそ崩さなかったものの、客人がどのような赴きでやってきたのか理解して4人を実務者として扱うように思い定めた。以後4人は、ラ・グーの私的な客人として扱われ、公的な場への参加は認められなかった。

それどころか、ラ・グーは4人を私邸の別館に招き入れると、数人の人間をつけた上で与えた部屋以外への移動を禁止した。書院造の部屋の周囲は池で囲まれ、水の中には錦鯉が泳いでいる。他の場所へ移動するには朱色の小さな橋を渡らなければいけない。そこはまるで解放された囹圄のようであった。

彼は物憂げに沈んだ様子で話し始めた。客人を閉じ込めることに後ろめたさがあるようだった。それでも彼にとっては最大限の処置だったのである。

ラ・グー「どんなことも尋ねれば答えが得られるというわけではないのです。答えは個々人の言葉の体系の中にしかなく、それは自ら見つけるか、新しき言葉を知って意識を広げるしかない」

ノレド「地球人は黙って考えろっておっしゃるんですか?」

ラ・グー「知ることで理解から遠ざかることがあるということです」

そう告げると彼は執務に戻っていった。こうした際にしか公的な出番のない彼の妻は、申し訳なさそうな顔で頭を下げて一緒に引き下がっていった。

残されたノレドは釈然としない様子で頬を膨らませた。

ノレド「知ることで理解から遠ざかるって何だー?」

ラライヤ「それがわたしたちが冬の宮殿で見た映像と関係あるに違いありません」

ノレド「あれか・・・。あれはいったい何ですか?」

話を振られた法王は戸惑いながらも重い口を開いた。その横で日本風庭園が珍しいリリンが走り回っていた。彼女は何度も畳で転びながら伊草の香りが気持ち良いのかわざと転んだりもしていた。

法王「冬の宮殿というのはスコード教の聖地のひとつと言われております。ごく限られた司祭だけが選ばれてあの宮殿に赴くことが許されるのですが、もう何百年もそのようなことはなく、歴史上でもほんの数人、カシーバ・ミコシでトワサンガへ赴いてあの場所へ参りました。むろん、わたくしも初めてです。書物によりますと、あの破壊の映像はかつて月に住んでいたムーンレイスという種族が保存していたもので、暗黒の宇宙世紀という意味合いを込めて『黒歴史』と呼んでいたようです」

ムーンレイスと聞いたラライヤが、ノレドに説明するように話を引き継いだ。

ラライヤ「ムーンレイスは月の種族で、資源の枯渇した地球から宇宙へ逃れてきた者たちのことです。それがいつのことなのか、どんな歴史があったのかは詳しくわかりません。わたしたちの祖先が遠い世界から地球に帰還してきたとき、すでにそこにいて、しばらくは共存していましたが、やがて何か大きな出来事があって、月に封じられたといいます。トワサンガが整備されたのはそのあとのことです」

ノレド「封じられたって、悪いことでもしたの?」

ラライヤ「アグテックのタブーを受け入れなかったようです。お伽噺では、ムーンレイスはスコード教とアグテックのタブーを受け入れなかったために、2体の恐ろしい魔人を蘇らせ、再び地球を荒廃させる寸前まで追い込んでしまった。しかし月の女王ディアナ・ソレルは、争いを望まなかったために自ら人柱となって魔人を地球の地下深くに封じたと」

リリン「(テーブルの上にぴょこんと顔を出し)ディアナ・ソレルは白鷲になって月に戻ってきたんだよ。魔人は地獄の底に深く深く落ちていったの」

地球生まれのノレドにはまったく馴染みのないお伽噺であった。どこまでが本当でどこまでが作り話なのか判然としない。法王に顔を向けても首を振るばかり。「尋ねれば答えが得られるというわけではない」というラ・グー総裁の言葉の一端がわかるような気がした。「知ることで理解から遠ざかる」。ノレドはようやく少しわかった気がした。

ノレド「(椅子から立ち上がり)トワサンガの人たちは遠い宇宙から地球に戻ってきたっていったよね。(ラライヤが頷く)ムーンレイスは地球の人で、宇宙に逃げてきた」

ラライヤ「そうです」

ノレド「それってレコンギスタじゃないの?」

ラライヤ「?」

ノレドは自分の考えを必死になって伝えようと身振り手振りで熱演した。

ノレド「地球が荒廃して逃げてきた人が月で文明を作った。地球が少し回復したから帰ろうとした。ところがそこで戦争が起こった。そしたら魔人が復活しちゃって大変なことになった。ディアナって人は責任を感じて魔人が復活しないように地球に残って見張った。白鷲になって月に戻ったって話も実際は本当かも。月にはまだディアナって人がいるんじゃないの? 実際に冬の宮殿はあったのだし」

法王「(話に割って入る)あの冬の宮殿はムーンレイスの遺跡ではないといいます。あくまでスコード教の聖地としてヘルメス財団が作ったものだと」

リリン「地球の悪い人が燃やしたのよ」

ラライヤ「地球からやってきた悪い人たちが、宇宙世紀の時代をタブーにすることを望まなくて、忘れてしまうようにと火を放って燃やしたといいます。それで活性化した魔人が地球をもう1度荒廃させるために暴れ回ったとか」

ノレド「その地球の悪い人がクンパ大佐みたいな人だったってことだよ。(ひとり納得して)ディアナって女王さまはそれで責任を感じたんじゃないの? ううん(首を横に振って)でもそれだとスコード教と一緒だ。ムーンレイスが悪い人たちで月に封じられたって話と繋がらない」

ノレドは腰に手を当てて仁王立ちとなり、障子という紙の扉の向こうを睨みつけた。ラライヤも目を伏せてしばらく考え込んだ。リリンはそんなふたりを不思議そうに見つめている。そして飽きて法王の膝の上によじ登って笑顔を向けた。

ラライヤ「ムーンレイスはスコード教を拒んだ悪い人だから封じられた・・・」

ノレド「でもディアナって人は争いを好まなかった・・・。うーーん・・・」

法王「(ふたりに笑顔を向け)いってらっしゃい。若者は真実を知ることを恐れても、真実から遠ざかることを恐れてもいけません。ラ・グー総裁から話を聞き出すのはわたくしの仕事です。おふたりはまだお若いのだから、何も恐れず、真実を見てらっしゃい。若者とは自分の心の囹圄を自ら打ち壊すものです。何に囚われてもいけないのです」

リリン「(法王の膝から降り)リリンも行く」

法王「あなたは・・・」

ノレド「大丈夫ですよ。ビーナス・グロゥブの人たちは悪人じゃありません。小さな子供に手を出すなんてことは絶対にしないって信じてます。行こう、リリン」

そういうとノレドたち3人はそっと廊下に出て、高床式の建物の下に潜り込んだのだった。





ジムカーオ「そして誰もいなくなったか・・・。身勝手な連中ばかりで困ったものだ」

彼がいるのはセントラルリングの工場地帯の一角、とある空っぽの倉庫の中だった。そこにあったはずのG-セルフとターンXはなくなっていた。

ジムカーオ「(キャピタル・ガードの制服を着た兵士に向かって)G-セルフを盗んでいったのはアーミーの兵士で間違いないのだな」

兵士A「はい。申し訳ありません。まさか裏切り者が混ざっていようとは思わず・・・」

ジムカーオ「まあ、仕方がない。こういうときのために制服をそのままにしておいたのだ」

兵士B「しかし、一体誰が・・・」

ジムカーオ「(視察を打ち切って歩き出す)キャピタル・アーミーの制服を着ていたのなら、それはゴンドワンの人間だ。クンパ大佐が調達したガランデンという船があっただろう? あの船と一緒にやってきたクルーのひとりが混ざりこんでいたのだ。連中は下でもブルジン2隻を奪って逃げている。(車の前で立ち止まる)G-セルフをゴンドワンに渡してはならん。必ず見つけ出せ。あの機体の状態では単独での大気圏突入はできない。必ず月のどこかに隠れて潜んでいるはずだ。それからそいつの協力者2名の女の名前は割り出したか?」

兵士B「名前は既に判明しており、指名手配をかけております」

ジムカーオ「そいつらはドレッド家支持者のレコンギスタ派だ。どうせ地球に移住させてやるとそそのかされたのだろう。そいつらも早急に見つけ出して連れてこい。仲間がいるはずだから、これを契機にすべて炙り出す。それから、法王とノレド・ラグ、ラライヤ・アクパールの3名はどうした?」

兵士A「救難信号はキャッチしたのですが、なにせ月の内部から発せられており、どこをどう捜索したものか見当もつきませんで」

ジムカーオ「それはおそらく入口があるのだ。月の中にいるのなら、月の中に基地があるのだろう。引き続き捜索だ。ターンXにはもう誰も乗っていないのだな?」

兵士A「現在ターンXは無人です。こちらに戻すように指示は出してあります。乗っていたのはメガファウナのドニエル艦長とハッパ整備士、そして未確認ですが、ベルリ・ゼナムくんです。こちらはフルムーン・シップで逃亡を図り、もはやこちらでは追いつけません」

ジムカーオ「仕方がない。ウィルミットは?」

兵士B「それがまるっきり手掛かりがないのです。ランチを手配したそうですが、もう酸素供給の限界時間を超えており、シラノ-5に戻っていなければ死んだ可能性も・・・」

ジムカーオ「では、キエル・ハイムというお嬢さんは?」

兵士B「彼女もどこへ行ったものか、手掛かりがありません。キエルさんとウィルミット長官は昼間に尋常じゃないほどの衣服類を買い漁っていたとの情報があるのですが、何のためにそんなことをしたのかまるで分らず・・・」

ジムカーオ「よい。では、自分は仕事に戻るから、引き続き捜索を頼む」

そういうと彼は車の後部座席に乗り込んで、沈黙した。運転手も無言のまま彼をノースリングへと運んでいく。

ジムカーオ(ベルリを逃がしたのは厄介だ。ラ・グーの耳に今回のことが入れば、面倒なことにもなるやもしれぬ。ヘルメス財団の指示がある以上、悪いようにならなないだろうが、最悪あの老いぼれが追放となれば、大規模な組織改編が起こりかねん。地球勤務が20年も続いたオレに、いまさらビーナス・グロゥブの生活など無理だ。クンタラの神を捨ててスコード教に改宗したのは、ひとえに地球で良い暮らしをしたいがためだ。変に手柄など立てて、ビーナス・グロゥブの総裁などにされてはたまったものじゃない。そうなったら、クンタラ国などという世迷い事にすがるしかなくなってしまう)

黙考していたジムカーオが溜息をついて外の景色に目をやったタイミングで、運転手が話しかけてきた。彼はヘルメス財団の人間ではないので、ノースリングの一般エリアまでしか入ることはできないし、なかを知ることもできない立場であった。

運転手「ベルリ王子というのは、あの可愛らしいノレド・ラグさんと、美しいキエル・ハイムさんのどちらと結婚なさるんで?」

ジムカーオ「(笑って)君はどちらがいいと思う?」

運転手「ノレドさんというのはいつもニコニコしていて、良いお嬢さんでしたよ。サウスリングのラライヤって子をいつも近衛隊長として連れていたんで、サウスじゃもっぱらノレドさんですよ。キエル・ハイムさんは美しい人ですだが、ちょっと冷たい感じがしたかな。なんか、月の女王さまのような」

ジムカーオ「月の女王・・・、ああ、そういえば、ディアナ・ソレルとかいう・・・。まだトワサンガにいたころ、お伽噺で聞いたことがある。ディアナ・ソレル・・・、まさかな」

たわいもないお喋りを遮るように、緊急連絡のブザーが鳴り響いた。ジムカーオは心底厭そうな顔をしたのちに、しぶしぶといった感じで受話器を取り上げた。

ジムカーオ「なんだね?」

オペレータ「大佐、ゴンドワンのクリム・ニックが地球でキャピタル・テリトリィが占拠し、ビルギーズ・シバを処刑したとのことです」

ジムカーオ「ならば次はタワーを破壊すると脅しをかけながら、ガランデンとブルジンでザンクト・ポルトに上がってくるだろう。ザンクト・ポルトのケルベス・ヨー中尉とはコンタクトは取れたのか?」

オペレータ「それが、ケルベス中尉は法王亡命を謀りとして、同行したガードとアーミーの武装解除を求めたまま交渉すらしようとしません」

ジムカーオ「わかった。すぐに行く。(受話器を置き、呆れた様子で)どうして人というのは他人を信じず、自分勝手なことばかりするのだろうか。スコード教の理想は相互理解なのだろう? これでは相互理解どころか、相互相反ではないか。これでは計画が台無しだ」

ノースリングのオフィスに戻ったジムカーオを出迎えたのは、ベルリを襲った大柄な女性2名と人を喰った話し方をする若いアーミーの兵士であった。

ジムカーオ「(厭そうな顔で)まったく君らは失敗ばかりだな。君らのことは適当にごまかしておいたから、次の任務に移ってもらうよ。例のニュータイプの女の子を使っていろいろやってもらいたいことがあるから。G-メタルは・・・アイーダ姫でも殺して奪ってもらうかもしれない」

それだけ告げたジムカーオは、明かりのない真っ暗な部屋へと消えいった。






ノレドとラライヤ、リリンの3人は、あっさりと屋敷の外へ出られて、少し拍子抜けしてしまった。法王を含めた4人は確かに捕らえられはしたが、罪人ではない。ただ、何か理由があって他人に会わせられない事情が出来たようだった。それが冬の宮殿に関することであるのは確かであった。

3人は街に繰り出してみることにした。ビーナス・グロゥブはジット団のレコンギスタに伴う破壊からすでに立ち直っているのか平穏そのものであった。

リリンが空腹を訴えたので、ラライヤは地球の貨幣で買い物を試みた。するとそれは両替しないと使えないと断られてしまったので、3人は市街地へ向かい、銀行を探した。

ラライヤ「もうこれ、捕まえてくださいって申し出ているようなものですよね。近衛隊長としてこんな間抜けな行動を取るのは少し気が引けます」

ノレド「捕まったときはだね、宿泊所まで送ってもらえると思えばいいのよ」

ラライヤ「(溜息をつき)いつも気軽でいいですねぇ」

リリン「リリンはお腹が空いた」

仕方がないと、ラライヤは受付で地球とトワサンガから持ち込んだすべての通貨を差し出して両替を申し込んだ。すると受付の女性が後ろを振り返って男性を手招きするので、これは通報されると覚悟を決めたが、そうではなく、3人は別室へ案内され、四角い名刺のようなものを渡された。

銀行員「これはラ・グー総裁さまよりみなさまへのプレゼントです。地球ではアグテックのタブーで使われていないでしょうが、クレジットカードという磁気媒体で、通貨として利用できます。お金の代わりに好きなだけ買い物ができるものだと思っていただければよろしいかと」

ラライヤ「(珍しそうに眺めて)これがお金・・・。好きなだけ?」

銀行員「支払いはラ・グー総裁が行いますので、お好きなだけ使っていただいて結構です」

ラライヤはおおと叫んで目を輝かせた。

その横に座っていたノレドは、まったく別の方向を向いて不思議そうな顔をしていた。というのも、行員が「地球」という言葉を使ったとたん、行員の間に緊張が走り、何とも言えない空気になったのだ。ノレドはしばらくその空気がどんなものか探っていたが、やがて何かを理解したのかやおら立ち上がり、大きな声で叫んだ。

ノレド「あたしたち地球から来たんですよ! あたしたち、地球人です!」

リリン「リリンはトワサンガから来た!」

行員たちの間にざわめきが起こった。しかし彼らは業務をおざなりにすることはしなかった。代わりに大騒ぎになったのは受付で列をなしていた人々だった。

彼らは仰天した表情で口々に信じられないといった驚きを含んだ口調で「地球!」と叫ぶのだった。なかでも中年のおばさんは遠慮がなく、衝立で仕切られた別室にズカズカ乗り込んでくるとさも珍しいといった表情で3人を眺めまわした。

おばさん「まーーーーあんたたち、地球人なの? まさか生きて地球人の顔を見るとは思わなかったわ。またこんな遠くまでどうして来たの? 何か悪いことしたの? 地球で何があったの?」

ノレド「(にやっと笑い)さすがおばちゃんは遠慮がないねぇ。あたしたちはラ・グー総裁にフォトン・バッテリーの供給を再開するように頼みに来たんだよ。あとは法王さまをクビにしないようにって。ゲル法王さまはいつだってあたしたちのことを考えてくれる良い人なんだよ」

そんなノレドの言葉をほとんど聞かず、ひとりのおばちゃんは10人20人と同類のおばちゃんを呼び寄せるので、銀行員たちは仕方なく立ち上がり、全員を受付に押し戻さねばならなかった。

3人は裏口よりコッソリ外に出された。

案内した銀行員は若い女性だったが、彼女も興奮した口調で「どこかで会ったら地球のことを聞かせてほしい」と手を合わせる始末であった。

3人は細い路地から大通りに案内され、そこで行員を別れた。

ノレド「よーし、これはラ・グー総裁から許可が出たってことでしょ。3人でビーナス・グロゥブの秘密を解き明かすぞ、オー!」

3人はこぶしを突き上げ、とりあえず良い匂いを漂わせていた先ほどの屋台へと向かった。


(アイキャッチ)


この続きはvol:40で。次回もよろしく。


I-O DATA HDDレコーダー 1TB/トリプルチューナー/スマホ視聴/Fireタブレット対応/1年保証 HVTR-T3HD1T

I-O DATA HDDレコーダー 1TB/トリプルチューナー/スマホ視聴/Fireタブレット対応/1年保証 HVTR-T3HD1T

  • 出版社/メーカー: アイ・オー・データ
  • メディア: Personal Computers












コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第9話「全体主義の胎動」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第9話「全体主義の胎動」後半



(アイキャッチ)


アイーダは窓から空を眺めていた。そこへふたりの政策秘書が入室してきた。アイーダは独り言をつぶやいた。

アイーダ「1年前にはわたくしもモビルスーツを駆ってあの空を飛んでいたのです。まさか政治家というものがこんなに地を這って生きているものとは思いませんでした。(ソファに腰かける)」

男性秘書「政治家とは最も泥にまみれる一兵卒だとスルガン提督もよくおっしゃっていました」

アイーダ「成したいことが多くあるのに、何一つ成し遂げられない。いつも攻撃に晒され防戦するばかりで物事がひとつも前に進まない。情けない政治家と笑っていただいて結構です」

男性秘書「(居ずまいを正し)大人の自信とは身に得るものではなく、身に纏うものです。政治家の戦いに終わりがないのは、民主主義が機能している証左といってよろしい。全体主義国家の政治家は戦いを終わらせ、地位に安穏としたまま国民を地獄に突き落とすのです」

アイーダが弱気になっている原因は、ズッキーニ・ニッキーニ大統領から仕掛けられる政治闘争が原因であった。ズッキーニ大統領は、息子がゴンドワンに亡命したことで政治生命の危機に見舞われたが、議会工作によって復活し、国民の支持のない下院を掌握することでかろうじて延命している状態であった。下院の選挙があれば、アイーダ派が勝つとの予想が大半であった。

ズッキーニ大統領は、ゴンドワンとの平和条約締結をしきりに訴えていた。

女性秘書「情報部が入手したところによりますと、クリム・ニックからズッキーニ大統領宛に親書が届き、どうやらこの中に平和条約締結の文言があった由にございますね」

アイーダ「その情報はどれほど確実なのでしょう?」

女性秘書「早いうちに親書のコピーを取らせます」

アイーダはゴンドワンの全権大使兼スポークスマンとなったクリムとの間で難しい駆け引きの最中であった。アイーダは戦争終結を求めた「連帯のための新秩序」を発表していたが、クリム・ニックの覇権主義的性向をよく知る立場にあり、ゴンドワンとの戦争を終わらせるつもりはなかった。

アイーダはクリムとの和平は危険だと察知して、彼とは戦い続ける覚悟を決めた。クリムがゴンドワンに亡命したことが原因となり、当初予定していた平和条約の締結が結べなくなってしまったのだ。

そこに付け込んできたのがズッキーニ大統領だった。彼はゴンドワンとの平和条約締結を示すことで、息子の亡命騒ぎを帳消しにして尚且つアイーダを好戦主義者だと印象付けようと画策してきたのだ。

アイーダ「(頭に手をやり)あの親子ときたら・・・」

女性秘書「クリムトンとズッキーニの間の親書が公になれば状況は変わるかと」

男性秘書「公にするまでもなく、こちらがそれを持つだけで交渉カードにはなる。ただ、あのふたりを排除するか分断するかこちらが主導権を持っても、国民の中にはクリムトンの『修正グシオン・プラン』を支持する声は一定数あるので、有権者支持率の高い姫さまの優位性を同時に失う可能性もある」

女性秘書「問題の核心はラ・グー総裁の意思なるものが本当にあるのかどうか、姫さまが訴えているだけで誰も実感できていないことだと思われます」

アイーダ「クレッセント・シップを目の当たりにしてもでしょうか?」

女性秘書「異世界から来た巨大な船がフォトン・バッテリーの配給と回収を同時に行い、ビーナス・グロゥブの存在を見せつけた。でもここはアメリアなのです。スコード教の威信を嫌う人々も大勢います。特にクンタラはまったく別の宗教を持ち、スコード教に敵対的な者が多いとも聞きます。ラ・グー総裁なる人物の平和的人物像が疑われるのも無理はありません」

男性秘書「最悪だったのは法王の亡命とフォトン・バッテリーの配給停止のタイミングです。1年分のフォトン・バッテリーを全世界に撒いて、戦争停止を訴えたのは本当に恒久的平和を望んでのことなのか、それとも・・・」

アイーダ「地球を囹圄として使うつもりではないかとのことでしょう? 地球を囹圄にするのならば、そもそもフォトン・バッテリーなど配給しません。配給しないまま戦争が終わるのを宇宙で待っていればいいのです」

女性秘書「戦争の継続によってイノベーションが起これば、そもそもフォトン・バッテリーに頼らない社会の構築も可能なのでは?」

男性秘書「バッテリー技術の解明も期待できましょう。代替エネルギーも見つかるかもしれません」

アイーダ「イノベーションですか・・・。まさにいまおふたかたが話してくださったことがグシオン・プランです。あれはアメリアそのものと言えるのでしょう。それを娘のわたくしが否定して、ゴンドワンのクリムが訴えている。そのことに焦る方々が議員にいらっしゃって、ズッキーニ大統領が議会で多数派を形成している。しかし、クリムはビーナス・グロゥブには行っていないのです。お父さまもそうです。だからこそアメリアという国の中の常識に囚われ、イノベーションの可能性を信じてしまう。その果てに何があったのか忘却している。わたくしはスコード教は決して宗教ではなく、歴史の反省だと知ったのです。人が人でなくなる恐怖に耐えながら、宇宙の人々は働き、地球の人々のためにフォトン・バッテリーの配給を行ってくれています。これはスコード教という歴史の反省あっての行動です。それを自ら失ったとき、地球は囹圄となって重力の足枷を嵌められるのです」

男性秘書「国家を超えた英知ですか。それを国家を超えたことのない人にどうやって伝えましょう?」






キャピタル・テリトリィには空襲警報さえ鳴っていなかった。

南東より突然5隻の戦艦が姿を現したとき、街の人々は笑顔で手を振っていた。だがそれらが爆弾の投下を始め、轟音とともに火柱が上がると笑顔は恐怖で引きつり、次いで逃げ惑うばかりとなった。

宗教国家キャピタル・テリトリィは、軍と議会が同時に混乱したことで統制を失っていた。また彼らは自分たちが他国からの襲撃を受けると思っておらず、戦争に対する備えも整っていなかった。それを担っていたクンパ大佐、ジュガン・マインストロン司令官、ベッカー・シャダム大尉なども先の戦争で失っていた。彼らはまったく無防備なままで、絨毯爆撃の餌食となっていった。

クリム「(ダ・カラシュのコクピットの中で叫ぶ)これは国家を超える戦いなのだ! いまだ国家などというものに囚われている者は、水槽という囹圄の中で泳ぐ金魚に過ぎん! ゴンドワンの若者たちよ、小さき囹圄から解き放たれよ! 初の世界市民となれ!」

オーディン1番艦からクリム・ニック搭乗のダ・カラシュが飛び立つと、続いて2番艦、ガランデン、ブルジンからも一斉にモビルスーツが降下していった。ゴンドワンの最新鋭量産型MSルーン・カラシュの大軍は、キャピタル・テリトリィ上空より舞い降り、街の中心部にある主要建物を破壊していった。

地上に降り立ったダ・カラシュは次々に指示を出していった。

クリム「マイワーの隊はフォトン・バッテリーの貯蔵庫を占拠。難民は北へ誘い出せ。海を渡らせてアメリアへ行かせるのだ。アメリアはエネルギーに余裕がある。難民を押し付けない限りゴンドワンの不利は覆らないぞ。フィンの隊はタワーを警護しているカットシーのザコどもを掃討しておけ。残りは議会の破壊だ。この国から民主主義のシンボルを奪うぞ」

そういうとクリムは自ら隊を率いて放送局の占拠へ向かった。ミック・ジャックはその背後を守りながら、黒焦げになった街に多くの死体が転がっているのを見て目を逸らした。

全世界に影響力を持つスコード教の聖地で、平和に慣れたキャピタル・テリトリィの住民には反撃の手段などなく、また防衛体制も崩壊してしまっていたのだ。これは一方的な虐殺であった。

だが、キャピタル・テリトリィを早く占拠するにはこの方法が一番早いのは確かであった。こうしてキャピタルの権威を失墜させ、ゴンドワンに世界政府樹立を宣言し、各国の支持を取り付けてトワサンガを征服する。猶予はたった1年しかない。チャンスは1度きりなのだ。

戦争が長引けばフォトン・バッテリーの在庫はもっと早く減ってしまう。

これがクリム・ニックとミック・ジャックが考えた世界平和への道筋だった。世界を強き指導者に委ね、急進的改革によって人々の暮らしを向上させる。クリムとミックの夢は、世界中をアメリアのような豊かで物の溢れる飢える心配のない国にすることであった。

それが恵まれた立場に生まれた責務だとも感じていた。

国家は超えなければならない。そのためにはまず自分が大統領の息子という立場を捨てて一介の若者になってみせなければならない。クリム・ニックはこれをやり遂げ、ここまで辿り着いたのだ。だからふたりでクレッセント・シップを降り、幾夜も語り明かした。

ミック(とうとう始まってしまった。これが野望の代償? 夢を抱く男についてきた報い? もう後には引けない。勝つしか道はなくなった。わたしたちは超えたのか、囚われたのか?)

クリム「・・・聴いているのか、ミック。ミック・ジャック!」

ミック「ええ、はい」

クリム「今日中にビルギーズ・シバを処刑してキャピタル・テリトリィの征服を宣言する。キャピタル・テリトリィの住民はすべて他国へ追い出し、トワサンガから無制限にレコンギスタ希望者を受け入れる。忙しくなるぞ。わかっているのか」

ミック「(笑顔を浮かべ舌なめずりをする)わかってなかったらあなたの後ろを守りませんよ!」






兵士A「ケルベス教官、ビクローバーより緊急連絡です!」

ケルベス「地上からか。何があった?」

モニターに映っているのは地上に残してきたキャピタル・アーミーの新兵たちであった。ケルベスは宇宙からのレコンギスタに備えてザンクト・ポルトに上がり、住民を説得した上でタワーの防衛態勢を整えていたところであった。

ケルベスがマイクの前にやってきたとき、通信は切れてしまった。

ケルベス「なんていっていたんだ?」

兵士A「(青ざめながら)攻撃を受けていると。キャピタル・テリトリィがゴンドワンの攻撃を受けて壊滅状態だと・・・」

報告を聞いたケルベスは言葉を失いしばし沈黙した。

彼はクリム・ニックがどのような策謀を巡らしているか警戒はしていた。だが、そんな彼でもキャピタル・テリトリィが直接攻撃を受けるとは考えもしなかったのである。

ケルベス「これがスコード教徒とそうじゃない人間の違いなのか。オレたちが信じている神聖なるものは、誰の心にもあるわけじゃない。オレはアメリア人のメガファウナに乗ってビーナス・グロゥブまで行き、そんなことは分かったつもりでいたのに」

彼はギュッとこぶしを握り締めて、何も映っていないモニターを睨み返した。

ケルベス「オレは何を間違えた? 何に囚われていた? オレの心はどんな囹圄に入れられていた? なぜ見抜けなかった・・・」

そのとき、ザンクト・ポルトの管制室にいた教え子のひとりが口を開いた。

兵士B「教官。もちろん、取り戻しますよね? 地上がどうなっているのかわからないですけど、皆殺しにはされていないはずです。難民になって逃げた住民が1人でもいるなら、自分らはその人たちを故郷に帰す責務があるはずです」

ケルベス「そうだな・・・。それはそうだ。(笑顔になり)だがな、みんな。国は取り戻すが、これは報復ではない。スコード教という囹圄を失った人間は、ケダモノと同じだ。オレたちはそうはならない。いいな、忘れるな」







コバシ「(怒りに震え)バカじゃないの? 地球人って全員バカじゃないの?」

クン・スーン、ローゼンタール・コバシたちは、ジャングルの中に潜み、遥か遠方で戦争が行われている様子を望遠モニター越しに見守っていた。

ホズ12番艦に囚われていた彼らジット団のメンバー22名は、トラック2台とコバシのズゴッキー1機を奪ってクンタラ国建国戦線の陣地より脱走、夜を徹して走り続け、ようやくキャピタル・テリトリィの都市部が眺望できる場所まで辿り着いていた。

そこへやってきたのが戦艦による絨毯爆撃であった。唖然とする彼らの目の前でキャピタル・テリトリィは無残に破壊されていった。爆撃の轟音と炎は、遠く離れたジャングルまで地鳴りとなって響いてきた。恐怖に駆られた野生動物たちの悲鳴のような鳴き声が響き渡っている。

モニターを眺めながら茫然自失になっているのは、街に自分の子供を捕らえられているクン・スーンであった。彼女は尊敬するキア・ムベッキ隊長の子を地球にて出産し、しばらくは育児に専念していたが、キャピタル・アーミーから高給と恩給の約束を取り付け、子供を預けたまま入隊、そしてクンタラ国建国戦線に身柄を捕縛されたのだった。

自分の子供のことだけではない。キャピタル・テリトリィにはフルムーン・シップで一緒に地球へやってきた大勢の仲間たちが腰を落ち着けて暮らしている。その街が、無残に爆撃によって破壊されているのである。轟音と地鳴りは止む気配がない。

団員A「壊したら修復する仕事が増えるだけなのに、なんで地球人は戦争をやって壊すんですかね?」

コバシ「バカなのよ。地球の重力を受けているとバカになるのよ、きっと。あのさ、元気なうちに地球に来ればムタチオンにもならずに幸せに暮らせると思ったけど、とんだ間違いだったわ。これじゃビーナス・グロゥブにいた方がいくらかマシだったかもよ。地球人の奴ら、ずっと1Gに晒されているとそれが当たり前だって勘違いしちゃうのよ。ジャングルもそう。一切何もしなくてもジャングルはどんどん大きくなる。宇宙じゃそんなことないからね。放っておけばすべて枯れて廃れて拡散してしまう。作られたものの貴重さがわからないのよ」

団員B「こりゃ、隕石でも落として人類皆殺しにしてそれから移住するのが正解かも」

上空を旋回していた戦艦からモビルスーツが降下してきた。彼らがいる場所にはやって来ず、モビルスーツは破壊された市街地へ降りて更なる破壊活動にいそしんでいるように見えた。

団員C「フルムーン・シップでトワサンガにやってきたとき、宇宙世紀時代のコロニーの残骸がまだあったでしょ? あれを全部地球に落としてみたらどうでしょうね。こりゃ、絶滅させないと無理ですよ。(両手を広げて)地球人がまともになることなんでありゃしませんよ」

団員D「ラ・グー総裁が地球人にフォトン・バッテリーを与えないって宣言したのも、あながち間違いじゃないですね。このまま餓死させればいいんですよ」

コバシ「問題は隕石を落とされてもコロニーを落とされてもフォトン・バッテリーを止められても、あたしたちが困るってことね。(頭を抱えて)あー、フルムーン・シップにいればよかった!」

スーン「(ボソッと小さな声で)助けよう」

クン・スーンが何か喋ったので団員たちの嘆きはいったん止んだ。彼らはクン・スーンの子供ジュニアだけは取り戻すと固く決意していた。その子の名がキア・ムベッキ・Jr.だったからだ。

スーンはぼんやりと破壊の様子を眺めていたが、誰に話すともなく再び口を開いた。

スーン「クレッセント・シップで出会ったミック・ジャックという女がいてな。大きく膨らんだお腹を撫ででくれたんだ。あんな娘なら、こんな酷いことはしないはずだ。これは人間のやることじゃない。だから、助けてやろう。何ができるかわからないが、困っている人がいたら助けてやらなきゃいけない」

コバシ「姐さんは子供のこと考えなきゃ。おっぱいだって張ってるんでしょ?」

スーン「ジュニアには会いたい。だけど、もう・・・」

クン・スーンは大粒の涙をこぼして大地に崩れ落ちた。






ミラジ「これはもしかしたら大変な拾い物かもしれませんよ」

MS搬送用トラックの荷台から顔を上げたミラジは、横たわった白い機体のコクピット内部から出てきてそう言った。その白い機体は、ホズ12番艦が運んできた念願のモビルスーツであったが、まさかの発掘品とのことでルインは気落ちしたばかりだったのだ。

彼は荷台に素早く駆け上がり、ミラジに声を掛けた。

ルイン「宇宙世紀時代の代物などで戦えますか?」

ミラジ「まずこれは、ナノマシンというロスト・テクノロジーが使用されています。大きな機体ですが、本当は見えないほど小さなロボットの集合体なのです。わたしも詳しくはないですが、ヘルメスの薔薇の設計図が整理されたときに、あまりに危険な技術はフォトン・バッテリー仕様に置き換えることなく技術として放棄されたようなんです。これはそんな時代のものでしょう」

ルイン「(コクピットを覗き込み)なかは新しいように見えますが」

ミラジ「話ではビーナス・グロゥブのローゼンタール・コバシさんが整備されたようです。ナノマシンはコクピットには使用されていないので、おそらくは朽ちていたのでしょう。そこでコクピットだけユニバーサル・スタンダードになっていまして、操縦系をリンクさせてあります」

ルイン「つまり、ユニバーサル・スタンダードで操縦はできると」

ミラジ「操縦はできますが、何と何がリンクされていて、どうすれば戦えるのかなどは手探りで理解するしかないようです」

ルイン「(装甲を眺めて)カラーリングはG-セルフとそっくりだが、性能で大幅に劣るようなら意味はないのだ。自分にはどうしても倒さねばならぬ人間がいるので。おっと、失礼」

ルインはミラジとロルッカがレイハントン家の人間であることを思い出して首をすくめた。ミラジは協力的だが、ロルッカはいわれたことしかやらず、ミラジ以外の人間と口を利こうともしない。クンタラに対して差別的態度をとるために、彼を嫌っている者は多かった。

ミラジ「G-セルフは確かに良い機体ですが、ユニバーサル・スタンダードに置き換えられ、フォトン・バッテリーで動くように作られているということは、それだけ安全性に配慮されているということでもあるんです。その点、宇宙世紀時代の機体は相手を破壊することだけに特化してありますから、攻撃力ははるかに高い。ほとんどは朽ちているので使い物にならないだけで、こうしてナノマシンというロスト・テクノロジーで出来ている以上、期待してもよいと思いますが」

ルイン「わかりました。ではパイロット認証を行いますので」

そういってルインはコクピットに潜り込んだ。

たしかに座席やパネルなどは新品のユニバーサル・スタンダードに置き換えられている。操縦系統もそうであった。ただ、何をどう操作するとどう動くのかわからないというのは不安であった。それに武器が装填されているかもいまのところ確かめようがない。

ルイン「(コクピットの中で)G-∀という名前だそうだが、1度実戦で使って威力を確かめてみないとベルリとの決戦で恥をかかされることにもなりかねん」

その夜のこと。

ルインとマニィは専用の宿泊所となったロッジでキャピタル・テリトリィがクリムトン・ニッキーニによって完全制圧されたとのニュースを仲間とともに聞いていた。ルインはお腹が大きくなりつつあるマニィを気遣って仕事から外させたがっていたが、マニィは彼の手伝いをやめるつもりはなかった。

ルイン「(ニヤニヤ笑いながら)天才クリムはやはり天才だよ。こちらの筋書き通りに動いてくれる。(皆を振り向き)世の中には操り人形というのがあるが、操ってもいないのに思い通りに動いてくれる人形は何と呼べばいいのだろうな!」

広間に集結した仲間たちからどっと笑い声が起きた。ルインの演説は続いた。

ルイン「天才クリムくんはキャピタル・テリトリィ首相ビルギーズ・シバを謀殺したそうだ。これでクリムを倒す大義名分は立った。キャピタルはしばらくジムカーオ大佐に任せて、我々はゴンドワンをいただく! そして、原子炉、核融合技術をものにし、全世界の救世主となるのだ。世界のすべてがクンタラ国だ。我々が地球の支配者となるぞ!」

うおおと歓声が巻き上がった。それだけの戦力がゴンドワン北方には集結しつつあったのだ。そして数はまだまだ増えていた。遠くアジアからの難民船がやってこれば、ゴンドワンの先住者と肩を並べるほどの数になる。

マニィ「(ルインに向かって小声で)そしてあなたは王になる」

ルイン「妃は君で、王子はこの子だ」

ルインはそう呟いてマニィのお腹をさすった。

ゴンドワンには世界中からクンタラが集まり、アメリアはクンタラの亡命者を受け入れ中であった。

さらにトワサンガにいるジムカーオ大佐もクンタラであり、さらにルインはトワサンガに上がったキャピタル・アーミーの中にマスク部隊の生き残りを潜入させてあった。これはジムカーオ大佐にも知らせていない。

ルイン(ヘルメス財団の人間がなぜいまごろクンタラを使おうとしたのかはわからんが、これは千載一遇のチャンスだ。死を恐怖するヘルメス財団の人間など恐れるに足らん。地球もトワサンガもビーナス・グロゥブもすべて手に入れてくれる。あとはベルリと戦える機体を手に入れるだけだ)


(ED)


この続きはvol:39で。次回もよろしく。







コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第9話「全体主義の胎動」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第9話「全体主義の胎動」前半



(OP)


キャピタル・テリトリィ南東に位置する廃棄された研究施設。滑走路からホズ12番艦が飛び去っていく。彼らはゴンドワンのルイン・リーと合流することになっており、機体には発掘品のモビルスーツや小型の原子炉などを積んでいた。

残された隊員は大型トラックを使って残りの原子炉をゴンドワン北方まで運ぶことになっており、多くがすでに出発していた。

彼らクンタラ国建国戦線のメンバーは、キャピタル・テリトリィへ侵攻するつもりはなく、あくまで船舶によるゴンドワン入国を目指していた。そのためか、メンバーはゴンドワンこそ約束の地カーバであると信じ込んでいた。彼らはかなり大きく迂回して大西洋を渡り、北方の港を目指すことになっていた。

彼らに拉致されたジット団のメンバーも同行させられる手はずになっていた。しかし、クン・スーン、ローゼンタール・コバシらメンバー20名は、クンタラ国建国戦線に協力するそぶりを見せながら、ずっと脱出計画を練り上げていた。彼らは団長である亡きキア・ムベッキの忘れ形見でクン・スーンの実子であるジュニアを救出するため、キャピタルに向かう必要があったからだ。

彼らが反乱を起こしたのは、移動部隊が出払った深夜、最も人員が少なくなってからであった。すでに仲間のように扱われていた彼らは拘束もされていなかったので、見張りの男ふたりを襲撃するだけで宿舎からの脱出は成功した。

彼らはあらかじめ用意しておいたトラックに分乗して、コバシだけは愛機ズゴッキーを奪ってそのまま逃走した。

彼らの裏切りを知ったクンタラ国建国戦線のメンバーは、彼らを止めるべく銃を使用した。これはビーナス・グロゥブの人間には信じられないことであった。

コバシ「あいつら実弾を撃ってくるとかマジ頭おかしい」

先頭を行くトラック2台のあとを、ズゴッキーを駆るローゼンタール・コバシが毒づいた。ズゴッキーはライフルで倒されるほどヤワではなかったが、彼らが前方のトラックに分乗するジット団のメンバーを狙い撃ちしてくることに驚いたのだ。

施設にはまだ1000名の兵士がいるが、彼らの物資は不足しており、追いかけてくる車両もなければモビルスーツもない。そして彼らにはパイロット認証でロックの掛かったズゴッキーは動かせなかったのだ。

クンタラ国独立義勇軍を名乗るメンバーたちは、ビーナス・グロゥブの人間が地球のジャングルを酷く怖がっていると過信し、航空機や船さえ抑えておけば脱走しないだろうと高を括っていた。もちろんジット団のメンバーがそう吹き込んだだけなのだが、ビーナス・グロゥブという場所の神秘性が彼らに偽の情報を信じ込ませたのだった。

スーン「(トラックに揺られながら)本当ならいますぐにでも飛んでいってジュニアに逢いたいところだが、車ではかなり遠いのだろう?(同乗の兵士が頷く)なら仕方がない。連中がジュニアを人道的に扱っていることを願うしかない」

兵士A「キャピタルにはフルムーン・シップの乗組員が大勢亡命してすでに生活を営んでますから、あそこに戻ればなんとかなるはずです」

スーン「(幌をめくり)肉食獣だけには気をつけないとな。できるだけ海岸線を行こう」

クンタラ国独立義勇軍はついに追撃を諦め、引き返していった。





アメリアとゴンドワンの大陸間戦争は一層の激しさを増していた。その舞台となった大西洋には多くの戦艦が海の藻屑となって消え去っていた。

新聞は連日クリム・ニックとアイーダ・スルガンの終わりなき争いを社説で取り上げ、「闘争のための新世界秩序」か、「連帯のための新秩序」かを議論し合っていた。

クリム「戦争になれば闘争を呼び掛けた方に戦力は結集する。連帯を呼びかければどこも軍を動かさないからだ。平和は人を消極的にする」

ミック「ですが、闘争を呼び掛けた者は勝利と恩賞を与えねばなりませんね」

クリム「わかっている・・・。ダ・カラシュで出る。お前もラ・カラシュでついてこい。ドッティは出来たばかりの飛行場の確認だ」

アメリアとゴンドワンの戦争は主に海上が戦場になり、いまだお互いに相手国内に兵を進めるには至っていない。しかし、世界を手中に収めるのに、アメリアは必ずしも必要な土地ではなかった。

クリム・ニックとミック・ジャックを乗せたオーディン1番艦と随伴する2番艦は、イザネル大陸(アフリカ大陸)をかすめエルライド大陸(南米大陸)中東部へと迫っていた。この土地は移住最適地としてふたりがピックアップした土地のひとつであった。港町が点在しているが、どこも小さな漁村でしかない。

ゴンドワンの新型主力MSルーン・カラシュを改良した専用機ダ・カラシュで飛び立ったクリム・ニックは、工兵とともに先行して移住させたゴンドワンの若者たちが築いたこの拠点を一目で気に入った。町とまではいかないにしても、軍の拠点として十分な広さが整備されていたからだ。

着陸したクリムは、大勢の兵士や若者の熱烈な出迎えを受けた。アメリアの大統領の息子がゴンドワンでもてはやされるわけは、彼にスコード教への恐怖心がほとんどなかったことに拠る。クリムは信仰と距離を置き、その姿勢がキャピタルを恐れるゴンドワンの老人たちに出来ないことを成し遂げたのだ。

それがキャピタルの影響下にあるエルライド大陸への侵攻だった。アメリアに対して行ったカリブ地域の割譲要求はブラフだったのである。彼の狙いは最初からエルライド大陸とキャピタル・タワーであった。キャピタル・タワーとザンクト・ポルトを要塞化し、トワサンガへ侵攻するという修正グシオン・プランこそが彼の本命の作戦だったのである。

クリム「アイーダは姫さまだけあって甘い。民間船を装えば絶対に襲ってこないのだ。だからこうしてキャピタルの喉元へやって来られる。あと5日でここをもっと大きくしてキャピタル・テリトリィへの侵攻を開始する。ビルギーズ・シバが無能だとわかった以上、混乱しているうちに制圧してしまえばよい」

ミック「『闘争のための新世界秩序』への賛同を一夜で覆した借りは返してもらいませんとね。航空戦艦5隻、モビルスーツ100機、下がジャングルで地上軍が投入できないのは残念です」

意気揚々と司令本部のあるテントに入ったふたりであったが、様々な報告の中には残念なものも含まれていた。

クリム「そうか、G-セルフは奪取できなかったのか。(うつむき、もう一度視線を上げ)メガファウナのハッパに整備をさせて、動けるようにしたとの報告は受けた。そのあとはどうなったのだ?」

その質問に答えたのは、ゴンドワンからガランデンとともに出向して艦長を務めていたロイ・マコニックであった。彼はガランデンとともにキャピタルに残り、アーミー解散の時期に合わせゴンドワンへ戻る手はずになっていたが、アーミー解散に反対する一部反乱分子をそそのかし、ブルジン、ホズ12番艦を引き連れてクリム・ニックの作戦に参加する予定だったのだ。

ロイ「動けるようにはしたのですが、直後にキャピタル内でクンタラの反乱が起こったのです。それでホズ12番艦と一緒に逃げまして、ブルジンとガランデンで追いかけたところ、メガファウナが彼らと接触して攻撃を仕掛けてきたのです。それでやむなく撤退しました」

ミック「そのままブルジンとガランデンでこちらに合流したのね?」

ロイ「そうです」

クリム「メガファウナ・・・、アメリアとクンタラか・・・。結びついていたら厄介だな」

ミック「(クリムに向き直り)アイーダ姫さまが『クンタラ亡命者のための緊急動議』を可決させたことと関係ありますかね? クンタラ亡命者を大量に受け入れればフォトン・バッテリーの消費が早まるだけだと喜んだのに、見くびったようですね」

ロイ「ホズを奪われたのは自分の失態です。申し訳ありません」

クリム「いや(首を振って)ブルジンを2隻もキャピタルから奪ってきてくれたのは大戦果だ。なにせこれから戦う相手だからな。あれは航宙艦でもある。気にしないことだ。ホズみたいなオンボロ、クンタラにくれてやればいい」

ドッティ「G-セルフというのはそんなに良いモビルスーツなので?」

クリム「あれで負ければ諦めがつくという程度のことだ。ゴンドワンが用意してくれた専用機ダ・カラシュで勝てばいいだけのこと。ただ、メガファウナのベルリくんは、G-セルフと一緒だと・・・」

ミック「ジョーカーですわね」






ゴンドワン北方旧北欧地域では、相変わらず地域住民が町を捨てて流民となり、南へ下る現象が止まずにいた。

ゴンドワン北方は宇宙世紀時代に戦争に深く関与しなかったことで古い町並みが残り、人々の生活も安定していたのだが、北極の氷河が陸地を飲み込んでいく寒冷化現象の影響を如実に受け、全球凍結の噂が真実味をもって受け入れられる余地があったのだ。

またテロ事件も頻発しており、人々は治安が悪くなった町を捨て、南へ南へと生活拠点を移していた。

だが、全球凍結の噂も、テロ事件も、クンタラ国建国を目指すルイン・リーの策略であった。彼はトワサンガの技術者ロルッカ・ビスケスとミラジ・バルバロスを仲間に引き入れ、着々と支配地域を広げつつあった。ゴンドワン北方はいまや、クンタラ国を名乗る前夜といった状態になっている。

世界中に散らばっていたクンタラたちは、「クンタラ亡命者のための緊急動議」を議会で可決させたアメリアへ向かう者と、クンタラ国の噂を聞きつけてゴンドワン北方を目指す者とに二分されていた。

スコード教によって永らく虐げられてきたクンタラの人々は、リベラルな人間ほど宗教色の薄いアメリアを求め、コンサバティブな人間ほどクンタラ安息の地カーバを求める行動を取った。ルインの元へ集ってきたのは、宗教的に保守色の強い者たちで、戦闘意欲が強かったために、移住して即クンタラ建国戦線に参加する者が多数を占めていた。

つまり、ルイン・リーの支配地域は、住民が増えれば増えるほど、戦闘員も増えていったのである。

彼らを収容する住居はいくらでもあった。流民になる人間たちは家財道具を持ち出していくのが常であったが、不動産は置いていくほかなかった。人がいくらやってきても、住居は有り余るほどにあったのだ。問題はエネルギーである。北方地域自慢の森林地帯は惨めなほど壊滅していた。

ホズ12番艦が到着したのは、冬が本番を迎えたころだった。

ミラジ「これでおそらく通電するはずですが」

旧住民たちが公共の体育館として使っていた施設を占拠したクンタラ国建国戦線のメンバーは、キャピタル・テリトリィより運ばれてきた発掘品の原子炉を施設内の床板を剥がして並べてた。体育館は丘の上に立っており、遠く占拠地の町が一望できる。

この地域が最も人口が多く、ここを中心に新たな移住者は近隣の放棄された町々を支配下に置いていく準備が進んでいた。

ルイン「(床板を剥がされた体育館に並べられた多くの小型原子炉を眺めて感嘆する)これらがすべて宇宙世紀のモビルスーツに搭載されていたというんですか?」

ミラジ「月の周囲などいまだに宇宙世紀時代の原子炉がデブリとなって飛んでいるのです。宇宙ならば放射性物質が拡散してもいいだろうというので搭載していたのでしょうが、前世紀というのは何もかもが狂っていたとしか言いようがありませんな」

マニィ「(離れた体育館の入り口から大声で)ロルッカさんが用意できたってー」

ルイン「ではやってみますか。土の中で眠っていたものが果たして使えるものやら」

ルインがスイッチを入れると微かに動作音がした。彼はすぐにマニィのところまで歩き、一緒に成り行きを見守った。すると、丘の上に立つ体育館からすぐにわかるほど、次々に町が明るく輝き出した。墨色に濁って見えた町並みが、明るい暖色系の輝きに覆われていくさまは壮観であった。

マニィ「輝いている・・・」

ルイン「ああ・・・、これで今夜からはセントラルヒーティングも使えるだろう。もう凍えなくて済む」

ミラジ「(ふたりの近くにやってきて)ロルッカの奴も少しは静かになりそうですな」

ルイン「(振り向き)お尋ねしたいのですが、(町の方角へ手を拡げる)この原子炉というのはいつまで使えるものなのでしょうか?」

ミラジ「燃えている限りいつまでもです。核融合炉はまた違うのですが、そうですね、宇宙世紀初期のものでもあと1000年。後期のものなら3000年、もっとかな。要するにいつまでも使えます」

ルイン「使用量が供給量を上回らない限りですね」

ミラジ「原子炉はもっとあるのでしょう? 後で船でも運ばれてくるとか。だとしたら、クンタラ国の支配地域にどれほど人が住むのかわかりませんが、おそらく一生エネルギーには困らないはずです」

ルイン「なぜこんな便利なものをスコード教は禁止したのですか? アグテックのタブーの中でも最大のものとか。自分たちでタブーを作っておいて、フォトン・バッテリーの供給はギリギリしか行われず、こうして流民が発生しているのをなぜ黙って見ておいでか」

ミラジ「わたしは・・・(遠くでロルッカが睨みつけているのを見て首をすくめる)、スコード教徒ですから、その点については意見は申しませんが、前にあなたもおっしゃっていたように、原子炉は壊れると爆発して放射性物質を撒き散らして周囲を汚染します。そんなものをモビルスーツに搭載して、戦争を、つまり原子炉の壊し合いをしていたのですから、タブーにもなりましょう」

ルイン「宇宙世紀の人間というのはよほどバカな原始人だったのでしょうね。ああ、クリムという男はまさにモビルスーツオタクで、宇宙世紀の原始人モドキのような男でした。約束します。自分はこの原子炉というのを平和利用に限定して使いましょう。(町を指さし)見てくださいこの明かり。よし、マニィ、このまま町へ出て、一軒一軒電力が足りているか訊いていこう」

ルインとマニィは手を繋ぎながら町へ向かって歩き出した。マニィのお腹は徐々に大きくなりつつあった。ふたりには子供が生まれる予定なのだ。

ロルッカ「(ルインとマニィが離れていくのを確かめながら駆け寄り)ミラジ、お前本当にどうするつもりなのだ? 原子炉だぞ。アグテックのタブーだ。こんなことをしおって。これじゃクンパ・ルシータと変わらんじゃないか」

ミラジ「おまえさんはトワサンガに帰りたいのだろう? オレはとにかく生き延びて、アメリアで腰を落ち着けるつもりだ。いまは生き残ることが先決。ベルリ坊ちゃまもわかってくださるはずだ」

ロルッカ「あのメガファウナのギゼラとかいう女か。(床に唾を吐く)オレはもう本当にたくさんだ。戦争戦争戦争。地球は戦争ばかりじゃないか。いつ家が焼かれるかもしれないのに腰を落ち着けるも何もない。もうこんなのはまっぴらだ」

ミラジ「まぁそういうな。とにかく今夜からはセントラルヒーティングが使える。3か月待ては春も来る。暖かくなればまた考えも変わるさ。明日はあの発掘品のモビルスーツの起動テストをしなきゃいけない。オレはもう休ませてもらうよ」

ロルッカ「(遠ざかっていくミラジを睨みながら)地球人など互いに殺し合って全滅してしまえばいいのだ。オレはクンタラの世話になどなりたくない。だがオレに何ができる? 不細工なオレには誰もよって来やしない。武器商人を続けて、とにかく金を手に入れたい。金があればあとは何とでもなろうよ。先立つものさえあれば、いつかトワサンガへも帰れるかもしれない・・・」






カリル・カシスと9人の仲間たちは、案内された物件の内装の豪華さに驚いて感嘆の声をあげた。

不動産屋「以前のオーナーが高齢で店を手放すことになったのですが、フォトン・バッテリーの配給停止の影響で先の見通しが立たないことから買い手がつかなくて困っていたんですよ。現金でのお支払いと聞いていますし、お安くしておきますが」

カリルたちは店の中にある調度品やグラスや酒などを手に取ってかなり良いものだと確信した。

カリル「なかにあるもの全部込みでいいのよね?」

不動産屋「もちろんです。全部ばらして売ることも考えたのですが、この店はキャバレーといっても名店でして、固定のファンもたくさんおります。そうした方々からも早く新しいオーナーを見つけてくれとせがまれていたものですから」

こうしてカリルたちは東海岸の海沿いに大きな店を構えることになった。

元々彼女たちはクンタラであることを理由にキャピタルでまともな職を斡旋してもらえず、盛り場で働かされていた少女たちであったので、キャバレーの仕事には抵抗はなかった。自分たちの店であるため、賃金もキャピタルにいた頃より比較にならないほど良かった。

自分の店を持って働き始めた彼女たちの移民申請は捗り、若干の賄賂を用意建てしただけですぐに許可は下りた。店は常連だけでなく、若い女たち目当てで連日繁盛した。カリルを説教した世話人たちもこれには満足した。そして2度とクンタラ国とは交わるなと言い渡して去っていった。

ただ、彼女たちの中で一度芽生えた正義感を消し去ることは出来なかった。カリルはルインとの共闘を願う声に押されて、物品の横流しだけはやめることができなかった。

ゴンドワン北方地域を実質支配したといっても、ゴンドワン人のいる南部から物資を購入することなどできるはずがない。そこで飲食業であることを理由に食料品や日常品を大量購入できる立場を利用して、カリルはルインに食料や生活物資を送り続けた。

驚くことに彼女には代金が支払われた。口座に振り込まれた金額を見たカリルは、ゴンドワンのルインがすでにただのゲリラではなくなっていると認める外なかった。

ルインたちはすでに経済活動も行っていたのである。

カリル「これで貿易商に商売替えする算段さえついちまった。経済的な苦境を脱しちまうと、なんだか昔がウソのように感じる。これならあんまり危ない橋は渡らずに何とかやっていけそうだ」






夜のジャングルをひたすら北西へ向かって移動する2台のトラックとズゴッキー。目指す先はキャピタル・テリトリィだ。しかし、そこに辿り着いたからといって先のアテがあるわけではない。

スーン「ギャアアアア!」

コバシ「今度は何? あら珍しい生き物ね。これってもしかしてヒョウ?」

トラックの中の人間を食おうとしていたヒョウを、ズゴッキーで器用につまんで遠くへ放り投げる。

スーン「(真っ青になりながら)地球の生き物は呪われているのか。どいつもこいつも他の生き物を襲って殺そうとする。殺されたくないから爪をとがらせる。牙を剥き出しにする。奇声を上げる。毒を持つ。おかしい。こんな世界は狂っている。世界はもっと秩序立って美しくあるべきだ。そう、ビーナス・グロゥブのように。こいつらは勝手に進化してこうなった生き物ばかりなのだ。殺されたくないから強くなる。遺伝子が強化される。優勝劣敗で強いものだけが生き残る。これがクンパ・ルシータが目指した世界なのか。遺伝子を強化したものだけが生き残る世界。レコンギスタというのはそういうものだ。自分もそうだとわかっていたはずなのに。なぜビーナス・グロゥブの人間は地球人に勝てると信じ切っていたのだろう。こんな現実も知らずに。昆虫すら人間を襲ってくるとも知らずに、なぜ自分は当然のように地球人より強いと信じて、戦えば相手を屈せられると思い込んでいたのか。どうして思い上がったのか。地球のことなど何も知りもしないのに」

兵士A「姐さん、ずいぶんと弱気になってますねぇ。それより自分はなぜキャピタル・テリトリィがこのジャングルを開発しないか不思議なんですよ。ここを農地にしたらいいでしょ? 土地もある。雨も降る。水がいくらでも勝手に降ってくるんですよ」

兵士B「ああ、そうだな。ここを全部農地にすればいいんだ。キャピタルの連中はフォトン・バッテリーを右から左へ流すだけで金が入ってくるから怠け者なんだ。我々スペースノイドの労働者のように強い使命感で働いていない。働かなくても朝が来れば勝手に地球は温まるし、雨も降る。地球人というのは我々と根本的に意識が違う。危機感が教育されていない」

兵士C「こんな怠け者でバカな人間たちなら、いずれ独裁者に喝采を送るようになるだろうね。多くを与えると約束すれば、みんなすぐになびくだろう。生産した分しか分配されないと、地球人には理解できないのだ。地球という地の底に生きていると、魂を腐らせるのさ」


(アイキャッチ)


この続きはvol:38で。次回もよろしく。








コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第8話「フルムーンシップを奪え!」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第8話「フルムーンシップを奪え!」後半



(アイキャッチ)


メイドが放った銃弾はベルリのパイロットスーツをかすめて後ろの壁に当たった。部屋を物色していた女はふたり。どちらもかなり大柄である。

パイロットスーツの胸をはだけていたベルリの首にG-メタルが輝いた。それを見たメイドの血相が変わり、ふたりの大柄な女がベルリに飛び掛かってきて、首に掛けてあったG-メタルを奪い去った。

ベルリ「いい加減にしろ!」

ベルリは組み付いて首を絞めてきた女を払いのけて、なおも組み伏せようと襲い掛かってくる女を払い腰で投げ飛ばした。女はそのまま大の字になって伸びた。

もうひとりの女はG-メタルを手に部屋を飛び出して逃げようとした。その瞬間、後ろから飛んできたターニアに吹き飛ばされ、廊下に転がった。この女もターニアよりはるかに大柄であったが、ドレッド軍で極地急襲部隊にいたターニアはたやすく女を組み敷いてその手からG-メタルを奪い返した。

女はなおも抵抗して、スカートの中から発信器らしきものを取り出して指でスイッチを押した。ターニアはそれを払いのけて、応援にやってきたベルリが銃を取り上げて発信器を足で踏みつぶした。

ターニアからG-メタルを受け取ったベルリはそれを首から下げてシャツの中に仕舞い込み、パイロットスーツのジッパーを高く上げて奪われるのを防いだ。

ターニアは通信機で先ほどの旧家臣団に連絡をした。老人では心もとないと心配になったものの、駆けつけてきたのはレジスタンス活動家だった若者たちであった。彼らは王政時代に平和だったトワサンガが、民政に移行した途端に軍国主義のようになってしまったことに反発してレジスタンスに加わった学生らで、旧王家とは繋がりのないただの領民たちであった。

ベルリとターニアに首根っこを押さえられたメイド姿のふたりの女は、彼らに引き渡された。ターニアはどうやら彼らと内通してドレッド軍の情報を流していた人物だとわかった。やってきた男たちはベルリの顔をしげしげと眺め、やがて代表者が口を切った。

その若者はスラックスにセーター姿の、髪を撫でつけた普通の学生だった。

学生A「あなたがベルリ王子ですか?」

ベルリ「一応そうなっているみたいです」

学生A「この先どれだけあなたと直接お話しできるかわからないので、この機に申し上げておきますが、我々学生は王政復古は望んでおりません。トワサンガはあくまで共和制で行くべきです。統治の方法はいろいろあるでしょうが、貴族社会を復活させるような真似はやめていただきたいのです」

ベルリはそれを聞いて喜び、笑顔で頷いた。






アイーダ・スルガンは胸に輝くG-メタルを見つめていた。

アイーダ「カーヒル大尉がG-セルフを奪い取ってきたとき、それに乗り込んだわたしは自分だけが動かせたことに有頂天になって当たり前のようにこれを受け取ったけれど、こうしたものを託すわけだから、当然そこには大きな意味があったはず。いまになって思えばそれが何かはわからないけど、レイハントン王というわたしの本当のお父さまの願いとはいったい何だったのだろうか? こうしてアメリアで政治家になってみて、王というものの重みを少しは感じる知性が育ったかもしれない。王は生まれながらにして王であって、選挙を経ないで人々を導く役割を負う。レイハントン王はトワサンガの王だ。すべてのトワサンガの住民を導かなければいけない。トワサンガの住民の間にはムタチオンの恐怖があった。それは主にビーナス・グロゥブ発祥のものだけど、宇宙で長く暮らしていれば突然変異が大きくなって人は人でなくなっていく。その恐怖がトワサンガの住人にあったからこそ、ノウトゥ・ドレット将軍はレコンギスタを目指し、住人の支持も得ていた。だからジャン・ビョン・ハザム政権も承認された。ヘルメス財団とビーナス・グロゥブというものがある以上、住民の支持なくしてハザム政権はなかったはずだ。トワサンガはわたしがあのサウスリングの家を離れたとき、王政から民政へ移行する革命が起こっている。その革命は当然より上位者であるヘルメス財団が承認したと見做さなければならない。もしそれが起こらないとするなら・・・、そのときはヘルメス財団を疑うことになる。ヘルメス財団とスコード教を疑うというのは、宇宙の秩序の根本的な否定がなければ無理だ。では疑うとしたら何を疑えばいいのか・・・。それは、レイハントン王を疑うしかない。なぜトワサンガだけが王政だったのか。レイハントンが誰かから王位を簒奪したのなら、革命は承認されるがその場合は元の王家へ王位は移譲されるはずだ。深く歴史に傷を残しもする。トワサンガにはそのような歴史はない。レイハントン王家は最初から王家であったのだ。初代レイハントンという者がいて、王位を継承してきた。だがなぜレイハントンだけが王であったのだろうか? ビーナス・グロゥブに王はいない。地球にも王はいない。トワサンガにだけ王がいる。ビーナス・グロゥブ、トワサンガ、地球とヘルメス財団の考え方が貫かれているのに、トワサンガだけに王家があるのはなぜだろう? 王家の成立は戦争と深く結びつきがある。王になるのは戦争の英雄であって、文官は英雄にはならない。ではレイハントンはいつの時代の戦争の英雄なのか? 戦争で何を成し遂げたのか? ビーナス・グロゥブがそれを認めるほどの大きな成果とは何だろう。トワサンガに王がいなければ成り立たない何かがあるはずだ。フォトン・バッテリー運搬の中継地点であるなら、そこに王などいらない。王がいなければ成り立たない何か・・・」

G-メタルの輝きは、政治の道を歩み始めたアイーダに大きなヒントを与えようとしていた。






シラノ-5を飛び出したディアナが操縦する中距離用ランチは、2000人分の衣料品とウィルミット・ゼナムを乗せて月の表側に向かおうとしていた。

ウィルミットは月をこれほど間近に見たことがなかったので、荷物に押しつぶされそうになりながら窓に張り付いて砂に覆われた白と黒の光景に見入っていた。

ランチはフルムーン・シップをかすめて通り過ぎた。

ディアナ「お母さまにお尋ねしたい。この大きなものはいったい何でしょうか?」

ウィルミット「これは惑星間を移動できる大型の宇宙船です。金星まで行けるのです。この同型の船であるクレッセント・シップという船はこんな複雑な形状なのにこのまま大気圏突入をやったそうです」

ディアナ「やはり間違いないのですね。(目を光らせる)」

ランチが月面に近づくと岩をくりぬいて作られたハッチが開いて船を収容した。そのまま何度もエアロックを潜り抜け、ようやくそれは着陸した。

ディアナ「ここは酸素があります。どうぞお降りになってください。わたくしどもの仲間を紹介いたしましょう」

ディアナはコンテナ部分の扉を開いて船を降りると、そのまま誰かを待っているかのように立ち止まった。そのあとをウィルミットが続いた。ウィルミットは月に降りるのは初めてで、月の6分の1の重力に慣れておらず、おっかなびっくりな足取りで彼女のあとをついていって立ち止まった。

すると突然前方の扉が開いて全裸の男たちが気勢を上げながらなだれ込んできた。突然の出来事にウィルミットは驚き、そのまま失神してしまった。

ディアナ「(怒った口調で)倒れてしまったではないですか! 2000着、靴も含めて用意してあります。早く着替えておしまいなさい。(支えていたウィルミットを指さし)誰かこの方を医務室へ。医務室は使えますね? 医務室に運んで手当をなさい。女たちの服も用意してあります。早く着替えて」

一番先に洋服に身を包んだ女性がウィルミットの肩を抱えて運んでいった。

ディアナ「早く服を着なさい! ハリー、ハリー・オードはおりませんか?」

ハリー「姫さま、ここに。少々お待ちください。(急いで着替えを済ませ駆けつける)設備の復旧は8割方終わっております。大型艦などはいましばらく時間が掛かりそうです。生産設備なども順次復旧中でございます」

ディアナ「よろしい。モビルスーツは?」

ハリー「いつでも」

ディアナ「ではすぐに出撃体制を整え、月の裏側に係留してあるフルムーン・シップという船を奪ってきなさい。あれは足の長い汎用性の高い船で、金星へ行けたり、大気圏突入が可能なようですから」

ハリー「(恭しく頭を下げ)ご命ずるままに。(すくと背筋を伸ばし)スモーを出す。準備しろ」






ハッパ「なにィィィィイイイ!」

モビルスーツの頭だけで宙を浮かんで逃げていたハッパとドニエルは、強い衝撃にコクピットの中で上へ下へと転がり回った。

整備不良で途切れがちなモニターに映っているのは銀色のG-セルフであった。接触回線によってふたりをモビルスーツのある場所まで案内したキャピタル・アーミーの男が映し出された。彼はG-セルフに乗って追いかけてきたのだ。

兵士「何かありましたか」

ドニエル「これ、頭だけで飛ぶじゃないか。どうなってんだ!」

兵士「自分は下っ端なのでわかりません。とりあえず降りてください」

ドニエル「(小声で)ハッパ、逃げろ」

頭部だけで飛行するこのモビルスーツは、かなり強い推進力を持っていた。銀色のG-セルフの両手に捕まれながらかなり暴れたものの、脱出には至らなかった。

兵士「おねがい(通信が途切れる)すよ。手数をかけさせないでください」

銀色のG-セルフはそのままサウスリングの方角へと飛行した。

ドニエル「オレたちをセントラルのデッキに送ってくれなきゃ困るじゃないか」

兵士「あのメガファウナというのはアメリアの船籍でしょ。アメリアの戦艦ならば、当然アメリアの正式な出動命令で動いているはずですよね。法王さまが宇宙へ亡命するという非常事態時になぜアメリアがトワサンガにやってきたのか調査中なのです。それがハッキリするまではお返しできません」

ハッパは見慣れない計器類に苦心しながら、ようやく相手との通信を切断することに成功した。

ハッパ「これでG-セルフには聞こえなくなったはずですけど」

ドニエル「(顔をしかめ)やはりあのジムカーオ大佐というのは怪しいな。船が接収されでもしたら大変なことになる。なんとかせにゃ。メガファウナに連絡はとれんのか?」

ハッパ「やってみます」

ふたりが頭だけのモビルスーツの中で対応策に躍起になっている間にも銀色のG-セルフは飛び続け、夜のサウスリングの農村地帯に入っていった。その道路を走る1台の車の前に着陸すると、両手で持っていた頭を小脇に挟み、左手でその車の行く手を防いだ。

銀色のG-セルフはスピーカーを使って車に呼び掛けた。

兵士「そちらから救援要請の信号が出ておりますので全員車内から出てください。従わない場合は治安維持法に基づいて発砲する可能性があります」

この警告によって車の中にいた男たちが出てきた。その中にベルリの姿もあった。

ドニエル「ありゃベルリじゃないか。いつこっちに着いたんだ?」

ハッパ「艦長! メガファウナに通じました」

ドニエルは大声で叫びながらマイクを探したが見当たらなかったのでそのまま叫び続けた。

ドニエル「副長! G-アルケインでサウスリングへ救援に来てくれ! ベルリもいる。すぐにだ!」

副艦長「了解。すぐにルアンを出します」






屋敷を物色していた怪しい女ふたりを連行していた旧レジスタンスの学生たちとベルリは、レジスタンスのアジトとして利用されていたログハウスへと向かっていた。

ターニア・ラグラチオン中尉は調査のために屋敷に残っていた。

そこに現れたのが塗装すらされていない銀色のG-セルフであった。その見たことのないG-セルフは、両手に何か丸いものを持っていた。1番驚いたのはベルリであった。彼は車の窓から身を乗り出して目を見張った。

ベルリ「G-セルフ?!」

学生B「YG-111でしょ。見たことがあります」

G-セルフはそのまま車の前に着地して左手で進路を塞いだ。レジスタンスの学生たちは恐怖に怯えた顔で互いを見つめ合った。G-セルフがスピーカーを使って呼び掛けてきた。

学生A「救援要請が出ているってどういうことだ?」

ベルリは気づいて縛り上げたふたりの女から発信器を取り上げた。それはベルリが奪って破壊したものと同型の装置で、投げ飛ばした方の女が隠し持っていたのだ。

ベルリ「しまった。もう1台あったのか。(女をキッと女を睨みつける。学生たちを振り向き)ここは仕方がありません。相手がモビルスーツじゃ勝ち目がない。いったん降伏しましょう」

ベルリが車から降りると銀色のG-セルフが持っていた丸い物体のハッチが開いてドニエル艦長が顔を出した。ベルリが駆け寄るとハッパもぬっと首を伸ばして顔を半分だけ出した。

ドニエル「こっちに来て乗れ!」

ベルリ「ダメですよ。車には学生が乗っているんです」

学生A「人質も乗ってます」

そこへルアンが搭乗するG-アルケインが飛んできて銀色のG-セルフと揉み合いになった。ドニエルらが乗る首だけのモビルスーツは地面に着地した。ベルリが駆け寄るとその身体をドニエルが引っ張り込み、ベルリは頭部だけのモビルスーツのコクピットに入ってしまった。

G-セルフはアルケインを振り切り、学生らが乗っていた車ごと奪って逃走した。学生らは全員降りて無事だったが、メイドに化けてレイハントンの屋敷に潜入していた女性ふたりは奪われてしまった。

ドニエル「ルアン、こっちは無線が不調なんだ。すぐにメガファウナに出港するように伝えろ」

ルアン「はいよ」

ベルリ「(ハッチから身を乗り出しながら)レジスタンスのみなさん! 必ず戻ってきます! それまで生き延びてください!」

ベルリの声に学生たちは手を振って応えた。






ベルリ「(ハッチを閉めて)どうなっているんですか?」

ドニエル「話はあとだ。メガファウナの行動が問題になってる。とにかくフルムーン・シップを奪って姫さまの命令を遂行する」

ハッパ「ベルリはパイロットなんだからこれを何とか動かしてくれ」

ベルリ「(モニター周りを見渡して)こんなの無理ですよ。ユニバーサルスタンダードじゃないと」

ルアン「(モニター越しに)メガファウナ、出港しました」

ドニエル「とにかく話はあとだ。シラノ-5から脱出するぞ!」

頭だけのモビルスーツとルアンのG-アルケインは、サウスリングの港へと急いだ。モビルスーツ用ハッチを開けて外に出ようとしたとき、機体が激しく揺れてドニエルらは再びひっくり返った。

ドニエル「何があったんだ!」

モニターに映ったルアンがしきりに下を指さしている。何が起こったのか最初に察知したのはハッパだった。

ハッパ「身体が勝手に飛んで来たのか?」

ドニエル「(少し怒って)何があったんだ」

ハッパ「倉庫に置いてあったこのモビルスーツの首から下が勝手に飛んできて合体したみたいなんです。もしかしたら身体の方にもパイロットがいる?」

ベルリ「いないでしょ?」

ルアン「前方、ウーシア2機! 2時の方向からunknown 10機、もっと? たくさん来てます!」

ドニエル「(映っていないモニターをドンドン叩きながら)メガファウナを探せ! ルアン、メガファウナに救援要請だ。いいか、ベルリはメガファウナに乗り移ったらすぐさまG-セルフで出ろ」

ベルリ「これもモビルスーツなんでしょ? 戦えないんですか?」

ハッパ「動かせないっていったのはベルリだろう! こっちは必死なんだ! 無茶いうな!」






ハリー「ターンXだとッ! なんであんなものがこの宙域に! 皆の者よいか、ターンXには構うな。現状の戦力で叶う相手じゃない。あの巨大なフルムーン・シップという船に取りつくんだ!」

兵士「了解」

ハリー・オード率いる金と銀のスモー隊はすぐさま方向を変えてフルムーンシップへと向かった。

それを見たドニエルはルアンに対してunknown(スモー隊)を追い払うように指示した。ルアンはG-アルケインを変形させてスモー隊に近づきつつ高出力対艦ビーム・ライフルでフルムーンシップに近寄れないように牽制した。スモー隊はいったん離れて距離を置いた。

ハリー「レイハントンのウソ吐きどもめ。何がスコード教だ。自分らはああやって新型を開発しているではないか。(気を取り直し)だが相手は1機だ。あの赤いのを落とすぞ!」

ターンXという機体に乗っていると知らないままのドニエルたちは、変形したG-アルケインで離れていったルアンを見送ると、ついで追いかけてきたウーシアと交戦しなくてはならなくなった。メガファウナの船影は確認できたものの、どうやらモビルスーツの攻撃を受けているらしく、なかなか近づいてこなかった。

ハッパ「ウーシア来ましたよ。どうすりゃいいんだ? 何か武器は?」

見たこともない文字で一杯のスクリーンに戸惑うハッパを見かねて、ベルリとドニエルが横からいろいろ口出しするので余計に混乱するばかりであった。いよいよウーシアが迫ってきたとき、その2機はなぜか突然挙動がおかしくなり、続いて大破してしまった。

それを途切れがちなモニターで確認したものの、3人には何が起こったのかさっぱりわからなかった。

ドニエル「なんでこのモニターはちゃんと映らないんだ!」

癇癪を起こしたドニエルが拳でコンソールを叩きつけると、またしてもガクンと衝撃があって警告表示が出現した。驚いた3人はしばらく動かず黙っていたが、どうやらまたしても首が外れたのだとわかって急いでメガファウナへと向かった。

首の外れたターンXは、大の字に両手を広げた姿のまま月に引き寄せられていった。






何とか砲撃をかいくぐったベルリたちは、モビルスーツデッキへと滑り込んだ。デッキ内には酸素がないため、ザンスガットが簡易エアロックをターンXの頭部に押し当て、3人を中に入れた。そこには2着のノーマルスーツを抱えたアネッテ・ソラが待っていた。

ドニエル「頼んだぞ、ベルリ」

ドニエルとハッパはアネッテ・ソラが用意したノーマルスーツに足を突っ込み、ヘルメットを被るとそれぞれの持ち場に急いだ。

ハッパ「G-セルフでフルムーン・シップを起動してくれ。あとあの頭だけのやつ、使えないから外に捨ててくれないか」

ベルリ「了解です。(コクピットに乗り込む)G-セルフ、出ます!」

G-セルフはターンXの頭部を抱えて出撃し、ハッチを出るなりすぐさまそれを捨てた。するとその頭部は自律的に方向を変え、月の方角へと飛んでいってしまった。

艦長席に着座したドニエルは、全速でフルムーン・シップを目指すように指示した。

ドニエル「副長、すぐに50人揃えてフルムーンシップに乗り込む準備だ。ステア、操縦変わってあちらのブリッジに入ったらすぐに発進できるよう準備だ」

ステラ「わたし、やるの?」

ドニエル「他に誰がやるんだ? クレッセントシップと同じだ。ギゼラ、お前も向こうに乗り込め」

副長とステラ、ギセラたちはブリッジを離れた。






トワサンガから出撃してきたモビルスーツはすべてキャピタル・アーミーのものだった。主力はウーシアだが、カットシーも混じっている。

ベルリ「ジュガン司令もベッカー大尉もいないのに、なぜこいつらは戦いに出てくるんだ?」

オリバー「大丈夫なのか、ベルリ」

ベルリ「ここは任せます!」

G-セルフは加速をかけた。フルムーン・シップの宙域ではルアンがスモー隊相手に奮戦していた。数に劣るために、ルアンは距離を空けて砲撃しながら敵がフルムーンシップへ近づくのを阻止していた。その間をくぐるようにベルリのG-セルフはメインエンジンルームへと滑り込み、G-メタルでエンジンの起動をかけた。

ベルリ「でも、ブリッジで操作しないと動かない!」

思い切ってメインエンジンルームを飛び出したG-セルフは、ビームライフルを撃ちながらスモーの間に飛び込んでいった。あっという間に2機が撃墜されたが、金色のスモーはビームをかいくぐって接近してきた。2機はビームサーベルを打ち付けあってすぐさま距離を置いた。

ハリー「まさか、(G-セルフを∀ガンダムと誤認する)ホワイトドール? レイハントンはあんなものまで。(そこへメガファウナが突っ込んでくる)いかん、戦艦か。クソッ、諦めるッ! こちらはターンXを回収する」

ベルリ「なんだあのモビルスーツ。どこのものなんだ? まさかディアナ・ソレルの軍隊なのか?」

ルアン「相手は引いた。ベルリ、帰還するぞ」

ベルリ「了解です、ルアンさん。(通信を切ってヘルメットを外す)母さんのこと、ノレドとラライヤのこと、法王さまのこと、ディアナ・ソレルのこと、ジムカーオ大佐のこと、何もかも中途半端だけど、ぼくにはぼくの役割があるはず。姉さんを信じて突き進むしかないんだ」

ベルリは一口だけ水を飲むと、ゆっくりとフルムーン・シップに抱かれたメガファウナへと戻っていった。


(ED)


この続きはvol:37で。次回もよろしく。



シャープ スチームオーブン ヘルシオ(HEALSIO) 18L 1段調理 レッド AX-CA400-R

シャープ スチームオーブン ヘルシオ(HEALSIO) 18L 1段調理 レッド AX-CA400-R

  • 出版社/メーカー: シャープ(SHARP)
  • メディア: ホーム&キッチン



シャープ ヘルシオ(HEALSIO) グリエ ウォーターオーブン専用機 レッド AX-H1-R

シャープ ヘルシオ(HEALSIO) グリエ ウォーターオーブン専用機 レッド AX-H1-R

  • 出版社/メーカー: シャープ(SHARP)
  • メディア: ホーム&キッチン






コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第8話「フルムーンシップを奪え!」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第8話「フルムーンシップを奪え!」前半



(OP)


トワサンガの工業区域の一角、その倉庫の中でドニエルとハッパはG-セルフの整備をさせられていた。ふたりは監視の兵士に会話を聞かれないようにコクピットの中で整備をするフリをしながら脱出の算段をつけていた。警備はかなり手薄だった。

ドニエル「キャピタルの組織がどうなっているのかさっぱりわからんが、最初の話ではアーミーが反乱を起こして、ガードが法王を警護しながらタワーでザンクト・ポルトに上がったって話だった。法王の亡命ってやつだ。ところがそれから、ホズ12番艦というやつが反乱を起こしてアーミーから離れたんだろう? クンタラだ、革命だって」

ハッパ「ぼくは捕まっていたんで話をいろいろ聞きましたけど、あれはアーミーの中のクンタラ出身者の集まりだったようで、それにビーナス・グロゥブの連中がクン・スーンとローゼンタール・コバシの他に20名ほどいましたね。彼らも捕まったみたいです。キア・ムベッキ・Jrが人質とか」

ドニエル「(髭をなでながら)サニエスって艦長だったな。世界同時革命とか叫んでいた。アーミーの中のクンタラ部隊と言えば、マスクだ。そうだろう?」

ハッパ「アーミーの中の元マスク部隊がアーミーから反乱を起こした」

ドニエル「ザンクト・ポルトでケルベスから聞いた話じゃ、地上に残されたアーミーは新兵ばっかりでアーミーはガードに再編入されると思い込んでた連中ばっかだったって話だ。法王警護の任務だと思っていたガードの連中はザンクト・ポルトに入れず、その下のナットで防衛戦を張っていた。調査部の人間は信用していないとも言っていた」

ハッパ「やっぱりあのジムカーオってアジア系の大佐ですか?」

ドニエル「マスクとジムカーオは繋がっているのか? それにまだおかしいんだぞ。サニエスのホズ12番艦を追いかけていた2隻の戦艦。あれも行方不明になっている」

ハッパ「(呆れながら)キャピタルはもうめちゃくちゃですね」

ドニエル「キャピタルってのは宗教国家だろ? 民主主義はお飾りで、ビルギーズ・シバは文学者のような風貌ってだけで選ばれていたと聞いた。アメリアとは全然違う」

ハッパ「前から言いたかったんですけど、キャピタルって法王庁のお膝元のくせにクンタラ差別が異様に強すぎるでしょ。ありゃなんですかね?」

ドニエル「前にビーナス・グロゥブへ行ったときはこっちも舞い上がってかしこまるばかりだったが、クンタラだのスコード教だのヘルメス財団だの、訊きたいことはいっぱいあったんだな」

ハッパ「(眼鏡を光らせ)じゃ、やっぱりフルムーンシップですか」

ドニエルは頷き返し、親指を立てて下に降りるぞと無言で合図した。






サウスリングのレイハントン家の屋敷に戻ったウィルミット・ゼナムは、物音ひとつしない屋敷の中で独りきりになったことを実感しつつ、今後の対策を考えていた。

彼女はジムカーオ大佐にヘルメス財団の裏の顔を見せられ、半ば共犯者にされようとしていた。ヘルメス財団の正式メンバーとなれば大変な名誉であることは確かだが、キャリアを餌に子供を裏切れと迫られているようにも感じていた。ウィルミットはベルリに自由な未来を与えてやりたかった。

ヘルメス財団に潜り込んで事の真相を追求するのもひとつの手段ではあるが、自分がその仕事の面白みに嵌って抜け出せなくなることもあり得る。キャリアを積んできた彼女はそれが自分というもので、だからこそそこに付け込まれたのだと認めるしかなかった。

クンパ大佐の傍にいながら彼の目論見をなにひとつ見抜けなかったのも確かであった。自分の能力は規律を保つことには有効でも、陰謀を見抜いてそれを覆す能力ではない。警察やスパイのようなことには向いていないのだ。

ウィルミット「(人工的な夜景を眺めながら)ベルリはこのまま大人になっていくばかり。もう自分は必要ないのかもしれない。それならばヘルメス財団のメンバーになって仕事に打ち込んでもいいような気もする。でももしジムカーオ大佐に悪意があって、ベルリが自分で未来を選択できない状況に追い込まれてしまったらもっと後悔が残る。どうしたらいいものやら・・・」

前庭の芝が激しくなびき、レイハントン家の邸宅にランチが到着した。そこにあったG-ルシファーはもうない。ウィルミットは自分が大変なことを忘れていることに気がついた。月から出ていたという救難信号のことをベルリに訊かなかったのだ。あれはノレドとラライヤかもしれないというのに。

数人の男性とキエル・ハイムが通り名となったディアナ・ソレルが降り立った。

男性A「奥さま、奥さまー」

男は庭先から大声でウィルミットを呼んだ。ウィルミットはディアナの申し出を受けて彼女が望んだ中距離用のランチ1隻と申し出の倍の2000人分の衣服を用意して与えていたのだ。

ウィルミット「手切れ金のつもりだったけども、もしやこれ幸いに・・・」

急いで玄関を出ると、男たちが寄ってきて代金は支払われていたがサインがまだとのことで、ウィルミットの姿を認めると何枚かの書類を差し出した。ウィルミットは素早く書類に名前を書くと自分もランチに乗り込んだ。ランチの中は昼間に購入した2000人分の衣服で一杯だった。

ディアナ「同行するのですか? それは困ります」

ウィルミット「(座席に座ってしまい)アメリアへ戻って仕立て屋をなさるとか。これはその回転資金として既製服として売るのでしょう? どこかに大気圏突入用のシャトルがあるとおっしゃいましたが、そもそもシャトルというのはアグテックのタブーで禁止されているのです。大気圏への突入はキャピタル・タワーに限られているのですよ」

ディアナ「(一瞬迷う)よろしい。ではご案内しましょう」

男たちはランチには乗りこまず、操縦はディアナが行った。ランチはゆっくりと浮かび上がった。






メガファウナへ向かったはずのベルリ・ゼナムは、ターニア・ラグラチオン中尉に捕まって軍用車で連行されているところだった。コロニー内は消灯され、夜になっている。

彼女が向かった先はサウスリングの旧レジスタンスの拠点であった。ベルリはかなり怒っていたが、フォトン・バッテリーの配給停止の件がある以上、彼女を無視するわけにもいかなかった。

ベルリ「王子さまといってみたり、ついてこいといってみたり、どうなってるんですか?」

ターニア「(恐縮して)それは申し訳なく思っております。しかし我々に1度会っていただかないことには、旧レイハントン家の家臣団も方向性がまとまりませんので。それにどっちが本物のお妃になられる方なのかハッキリさせていただきたいですし」

ベルリ「どっちがって?」

ふたりは平屋建てのログハウスの中に入った。室内には100名ほども集まっていて、ベルリの顔を見るなり席を立って帽子を脱いだ。若者は少なく、老人の姿が多い。

家臣団A「坊ちゃま、ああ、今度こそ本当にお坊ちゃまが帰っていらした」

老人たちは泣き出しそうな有様であった。ベルリはひとりひとりに丁寧に挨拶をしてできる限り老人を席に座らせようと自分は立ったまま老婆が差し出した飲み物を受け取った。

ターニア「実は法王さまがこちらへ亡命された際に、ノレド・ラグという女性を連れてきたんです」

ベルリ「(驚いて飲み物を吹き出してしまう)ノレドが?」

ターニア「(頷き)ノレドさんは正式なお妃候補と紹介され、我々の仲間のラライヤ・アクパールも一緒だったのでこちらも油断して信じてしまっていたのです。ところがお話を伺うとキャピタル・ガード調査部のジムカーオ大佐という人物が、ビーナス・グロゥブからフォトン・バッテリー供給再開の約束を取り付けるために単なるガールフレンドだった人物をフィアンセと偽って連れてきたのだとウィルミット長官から聞かされました。長官の話では、ジムカーオ大佐はヘルメス財団のメンバーでレイハントン家の参謀と名乗ったそうなのですが、そもそもレイハントン家に参謀などおりません。我々も彼のことはよく知らないのです。長官のお話では、キャピタル・ガードにも在籍していないとか」

周囲にいた老人たちが口々に「あんな男は知らない」「見たこともない」と言い合った。

ベルリ「たしかにガードの人物なのか確信はありません。ただ調査部は地球全土に派遣されているので、ずっとアジア勤務だったといわれれば納得するしかない・・・けども・・・」

ターニア「彼は大変鮮やかな手腕でトワサンガの行政権力を掌握しており、ハザム政権が倒れガヴァン隊がレコンギスタのためにザンクト・ポルトに降りた後はキャピタル・ガードもしくはアーミーと呼ばれる人たちも含めて現在は権力の中心におります。旧ドレッド派はほぼ壊滅しましたが、このまま彼に従うべきなのか、王子に従い彼らと戦うべきなのか、我々に指示を出していただきたいのです」

ベルリ「このぼくに? そこまで信用していただけるほど、ぼくの本当の父、レイハントン王は優れた人物だったということですか?」

老人たちはついに泣き出し、大きく頷き合った。これは自分が何か命令を出さないと問題が解決しないとみたベルリは、しばし考え、彼らにこういった。

ベルリ「地球ではクリム・ニックという人物が『闘争のための新世界秩序』というのを発表して、地球を武力で統一した上でザンクト・ポルト、トワサンガ、ビーナス・グロゥブに攻め入って宇宙の覇者になろうとしています。それに対抗しているのが、現在アメリア軍の総監で上院議員でもあるぼくの姉さん、つまりアイーダ・レイハントンなのです」

ターニアが目を見張って驚き、老人たちが感嘆の声を口にした。

ベルリ「アイーダ・レイハントンは、『連帯のための新秩序』というものを出して、全宇宙の平和的共存を訴えています。レコンギスタは結局のところ、強制入植であって、それは侵略です。そんなことをすれば戦争になって、ついてはラ・グー総裁の意向にもそぐわない。そこで姉さんとぼくは、地球に新生活圏を創造していくことで、宇宙にいる人々の地球への帰還を成し遂げようと考えたのです。侵略などしなくても、計画的に人々を地球に戻すことが出来ると考えました」

家臣団B「(興奮して)それぞまさにレイハントンさまのお考えそのもの。やはりこれは血筋だ。坊ちゃまとお嬢さまがお父上とお母上の意思をちゃんと継いでくださっている!」

ターニア「(戸惑いながら)その若さで・・・、わかりました。で、我々はどうすれば」

ベルリ「戦争は極力避けてください。それから、できるだけ早く姉さんとコンタクトを取れないかやってみてください。ぼくはこれからビーナス・グロゥブのラ・グー総裁のところへ行き、フォトン・バッテリーの供給再開を直談判してきます。必ず約束を取り付けるつもりですが、ラ・グー総裁を説得できたところで、地球と月で戦争をやっていては元の木阿弥です。またバッテリーの供給は停止されてしまいます。現在、ザンクト・ポルトまではキャピタル・ガードのケルベス中尉が制圧しているはずです。ケルベス中尉に取り継いでもらえば、アメリアの姉さんとも連絡が取れるはずです」

ターニア「了解しました。しかしザンクト・ポルトまで行く手段がないのも事実で、ジムカーオ大佐がカシーバ・ミコシを押さえているのもそうした事情を考慮しているのかも。ところで、昼間の女性、キエル・ハイムという方は・・・ノレドさんとは別に、いえ、その、愛人のようなご関係で?」

ベルリ「あの前に訊きたいんですけど、レイハントン家が月で封印したとは何のことでしょう?」

ターニアは言葉の意味がわからず首を傾げた。すると老人のひとりが話し始めた。

家臣団C「それはムーンレイスのことでは?」

ターニア「(老人の方を向き直り)ムーンレイスとはあのお伽噺に出てくる?」

家臣団C「ターニアさんはお若いのでお伽噺でしか知らないかもしれないが、ムーンレイスとは実際に月にいた種族で、かつてレイハントン家との間で戦争をしたとか。スコード教に従わず、アグテックのタブーを使うので忌避され、月に施設の大部分を移してそのまま封印したと聞きます。その施設の維持管理のために、ごくわずかなフォトン・バッテリーと空気の玉を補給しておりましたよ。わしはまだレイハントンさまが存命の頃に補給任務に就いたことがあります。月の裏側の地下にある冬の宮殿というのは、スコード教の聖地のひとつとして使われています。もっとも本物の冬の宮殿は焼け落ちており、スコード教で再建したものですけど。補給任務はドレッド家に引き継いだはずですが、ドレッド家がああなってから誰がその任を負っているものやら・・・」

ベルリ「(神妙な顔で)みなさんの中で、ディアナ・ソレルという名に聞き覚えのあるお方はいませんか?」

ターニア「(震えながら)ディアナ・ソレルはお伽噺に出てくる月を統べる女王の名です」

ベルリ「では、彼女がそのディアナ・ソレルです」

ログハウスの上空を、小型ランチが飛び去って行った。






豪華客船を手配してキャピタル・テリトリィを後にしたカリル・カシスは、ビルギーズ・シバの秘書を務めていた9人の仲間と共にアメリアへやって来た。

美しい女性ばかり10人の船旅は否応なしに人目を引いたものだが、キャピタルから乗った客が多い船の中では彼女たちがクンタラだと知ると肩をすくめて離れていく男たちばかりであった。絡まれないのはありがたいことだったけども、そうしたことも含めて彼女たちの怒りは収まることがなかった。

数日間アメリアでも有数の一流ホテルで豪遊した彼女たちは、アメリアの人間がクンタラに対して差別心がないことを実感した。クンタラ差別が激しいのはキャピタルの人間とゴンドワンの人間であった。キャピタル育ちの彼女たちにとっては天国のような国であった。

アメリアで必要なものは貨幣であった。金がある限りアメリアで苦しい想いをすることはない。そして彼女たちはビルギーズ・シバが横領して貯め込んでいた金を洗いざらい奪って逃げてきていたのである。金は数年働かず豪遊して食べていけるほどあった。

そのせいで彼女たちはすっかり怠惰な生活を送るようになっていた。

それが変わったのは、2週間が過ぎてアメリアで成功しているクンタラの有力者に出会ってからであった。

彼らはホテルで遊び惚けるクンタラの娘たちの噂を聞きつけてやって来た。真っ黒な顎鬚を蓄えて精悍な顔をさらに厳しく引き締めた5人の老人は、どうせ女目当てでノコノコ出掛けてきた助兵衛オヤジだろうと高を括っていた10人をいまにも杖で殴らんばかりに叱りつけたのだ。

アメリアのクンタラは数百年前に出版されたある書物の影響で差別をほとんど受けることなく生活できてはいるが、移民を多く受け入れるアメリアにはキャピタルやゴンドワンから職にあぶれた者たちが多く移民してきて犯罪に手を染める。

若くて美しい女10人が有り余るほど金を持っていることを隠すこともせず生活していては、彼らに何をされるかわかったものではない。老人たちはその忠告のために来訪したのだった。

その5人の実力者とは、アイーダにクンタラ救済を訴えた5人であった。彼らはすでに仕事を引退しており、残りの人生をクンタラの生活困窮者のために使っていた。カリルはそのような人間がいることを初めて知った。キャピタルではむしろクンタラを騙して金をとるのはクンタラだったからである。

5人の老人に散々説教された10人はしおれたように大人しくなった。10人の代表であるカリルが、自分たちは金を持っており、それにやらねばならぬこともあるので難民キャンプには入りたくはないと訴えると、老人たちはアメリアでの市民権の取り方などを教授してくれた。

老人A「NYには政治家がたくさんいるが、アメリアの政治家はキャピタルのお飾りの政治家とはまったく違う。政治家の秘書になるにはしかるべき大学で資格を取らねば無理だ。ビルギーズ・シバなどという小物と同じに考えてはいかん」

カリル「そうなんですか・・・」

老人B「君らが大金をどうやってせしめたか、そのことを詮索するつもりはない。問題は金を浪費していることだ。金などはいずれなくなる。金は増やすためにあるものだ」

老人C「ビルギーズ・シバの秘書なんてのはキャリアのうちには入らんよ。学校もロクに出ていない。得意なものもない。あるのは若さだけ。それで一体どんなやるべきことがあるというのやら」

老人D「まぁそのことも詮索はすまい。どうせクンタラ建国戦線などというものに騙されでもしたのだろう。あのルイン・リーという若者は賢く、若い女のモテそうな顔をしているようだから」

老人A「(溜息をつきながら)いま聞いただけのキャリアでは堅気の仕事に就くのは難しそうだ。何かいいアイデアアはないか?」

老人E「それならば店を買ってキャバレーでも始めたらどうだ」

話を聞いたカリルは慌ててかぶりを振った。

カリル「あたしはこの娘たちにまともな暮らしをさせてあげたいんで」

老人B「仕事が見つからんといっているのだ。仕事がなければ家も借りられん。ずっとホテルで暮らしているわけにもいかんだろう。店を買ってキャバレーをやれば、お前さんが主人で残りは使用人だ。お前さんひとりをわしらで世話すればあとの娘は部屋が借りられる。毎月家賃を払っておれば信用が生まれる。こうやって地歩を固めながら市民権に近づいていくしかない」

カリル「そうなんですか・・・」

老人C「あんたがキャバレーの店主になりゃ、他のクンタラ難民の子も助けることができる。我々もできる限り雇用しているが、『クンタラ亡命者のための緊急動議』が通ってからこっち難民は増えるばかりで特に女性の雇用問題が深刻だ。あんたがこの話を引き受けてくれたなら、わしらも資金援助は惜しまんよ」

老人E「そういうことだな」

こうしてカリル・カシスは、ようやく抜け出した水商売の道に再び戻ることになった。






ドニエル「今度はこっちのデカい奴を見てみるか」

メガファウナ艦長のドニエルは逃げ出す機会を窺っていたが、キャピタル・アーミーの兵士は銃を携帯しており、また彼らは自分たちがいる場所がセントラルリングということ以外何も知らなかった。

ドニエルとハッパは銀色のG-セルフの隣にある、胸の傷のついた巨大な機体に近づいた。

兵士「地球から持ち込んだ発掘品なんですが」

ハッパ「ぼくは博物館の学芸員じゃないからこの機体の整備はできないぞ」

兵士「自分は下っ端でよくわからないんですけど、とりあえず見てもらって、ダメなら上にそう報告します。コクピットの中がどうなってるかだけ確かめていただければ」

ふたりはクレーンを使って胸に傷のあるあまり見かけたことのない機体のコクピットに入った。

ハッパ「頭部がコクピットになっているのか。(見回しながら)座席部は朽ちてしまってなくなっている。機体は綺麗に残っているわりに中はボロボロになっているな」

ハッパは座席のみ交換して、操縦系統は分解清掃しただけでそのまま組み直した。着座しておそらくは動かすことができるが、パネルに浮かび上がる文字も違えば、計器類の配置も違う。

ドニエル「(小声で)動かんのか」

ハッパ「やってみます」

ハッパは埃の積もった計器類を解析しながら徐々に機体を起動させていった。どのような動力が使われているのか、エネルギーは充填されている。ユニバーサルスタンダードではないためになかなか思うように立ち上がってくれない。痺れを切らせたドニエルがコンソールをドンと叩いた。

すると機体の頭部が外れて宙に浮かんだ。落ちると覚悟してしっかり抱きあったふたりであったが、頭は浮いたまま宙を漂い、フラフラと施設の中を飛び回った。

下ではふたりを連行してきた兵士が驚いて無線でどこかに連絡しているのが見えた。

ドニエル「これ、飛ぶのか? 飛ぶんだな?」

ハッパ「知りませんよ!」

ドニエル「操縦はできんのか?」

ハッパ「やってみますけど」

胴体から切り離された頭部は自律的に飛行する能力があるらしく、操縦桿を握ったハッパは頭部だけのモビルスーツを何とか操り、フラフラと格納庫から出て行った。

ドニエル「よし、このままメガファウナまで飛んでいけ」

ハッパ「(情けなさそうに)いまにも落ちそうなんですけど」






ターニア・ラグラチオンは助手席にベルリ・ゼナムを乗せて軍用車両を疾走させていた。向かう先はサウスリングにあるレイハントン家の邸宅であった。ノースリングにある王宮は、ドレッド家によるクーデターがあって以来、立ち入り禁止区域に指定されており、そこに手掛かりがあるとは思えない。

あるとすればウィルミットやノレドたちが使っていたサウスリングの旧領地邸宅であった。

ベルリは疾走する車内で念のためにパイロットスーツに着替えた。セントラルリングで買ったばかりのジャケットは脱ぎ捨ててしまった。

ベルリ「母さんがいたり、ノレドやラライヤまでいたのに行方不明になっていたり、法王さまが冬の宮殿に籠られたまま任を解かれるとか、なんでこんなに話が進んじゃってるんですか!」

ターニア「誰かが計画的に物事を実行しているからではありませんか?」

到着するなりふたりはウィルミットの名を叫びながら屋敷の中に入っていった。

2階で物音がするのを聞いたベルリは急いで階段を駆け上がり、ひとつひとつドアを開けていった。するとかつてこの地の領主であったレイハントンが使っていた書斎にふたりのメイド姿の女性がおり、何かを探しているかのように部屋を荒らしていた。

ベルリが飛び込んできて驚いたふたりのメイドは、隠し持っていた銃を発砲した。


(アイキャッチ)


この続きはvol:36で。次回もよろしく。












コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

「ガンダム レコンギスタの囹圄」第7話「ムーンレイス」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


001.jpg


第7話「ムーンレイス」後半




(アイキャッチ)



ディアナ・ソレルと名乗る女性は全裸であることは気にもしていなかったが、ベルリが話しづらそうにしているのを見て取り、部屋にあったノーマルスーツに身を包んだ。

ディアナ「これで良いでしょう。さあ、お話しなさい。レイハントン家はいかなる理由で封印を解く決心をなさいましたか。(ベルリに近づき)わたくしどもはスコード教なるものへの改宗はいたさないとの考えは、あれから何年経っていようとも変わることがないのです。ヘルメス財団と名乗る方々は、我々にとっては侵略者も同然。宇宙の果てまで資源を求めて突き進み、殺し合いに飽きたからとでっち上げた宗教を押しつけながら、自らの持ち込んだ階級制度を地球にまで拡げようとの目論み、それは国家の上に雲上人として立って、開拓者の汗を富に変え、搾取しようと目論んでいるに相違ないとわたくしは考えます。もしそれが気に食わないというのなら、いますぐもう1度封印すればよろしい。地球にはすでに資源はございません。資源を外宇宙より持ち帰ったあなた方の優位は変わることがないのですから」

ベルリ「(困った顔で)封印とかぼくは分かりません! 月から救難信号が出ていたので、助けに来たんです」

ディアナ「救難信号? 眠っていた我々の一体誰がそんなものを・・・」

と言いかけ、ディアナは周囲を見回し、ひとり得心した。

ディアナ「わかりました。大方この施設のことをあなた方は忘れてしまい、機能維持に必要な補給を怠ったのでしょう。それだけ年月が経ったということです。あなた方はコレクトセンチュリーを使っておりませんでしょう? それなら時を問うのは意味がない。封印を解いてくださってありがとう。あとは自分たちで成し遂げることが出来ます。お下がりなさい」

ベルリ「(恥ずかしそうに)それが、道に迷ってしまって」

ディアナはそれに答えず、透明な壁の向こうで続々と目覚める人々を眺めていたが、しばらくして振り向き、顎をしゃくって自分についてくるよう促した。ベルリは彼女についていくほかなかった。

廊下に出たが、息苦しくなることはなかった。彼女がいうところの設備が稼働し始め、空気を満たしていったようだ。ディアナは廊下で息絶えた人々を一瞥し、静かに頭を下げただけでその脇を通り過ぎた。ベルリにもようやくこの女性が身分の高い人物だと理解できた。

ディアナ「設備はすべて通常通り動いているようです。人々が目覚めれば何もかも元に戻るでしょう。どうやらあなたには感謝しなくてはならないようです。月日がどれほど経ったものか、朽ちて使い物にならなくなった衣服を誂えるまで時間が掛かりそうですが」

それはベルリに話しているというより独り言のようなものだった。ベルリは自分が見たものが本当に起こったことなのか夢なのか、いまだに信じられない心持であった。

ディアナは勝手知ったる様子で月の中を歩き回り、やがて見たこともない形のランチが並んだデッキに出た。小型のランチであるが、流線型でなぜか羽がついている。デッキには月の重力しかない。身軽になった彼女は1台のランチに乗り込み、ベルリを後ろに乗せた。

機体はディアナのアイリスサインを確認して認証した。ベルリは物珍しそうにコクピットを見回した。計器類は見たこともない配置だった。不思議なのは、何年放置されていたかわからないランチのエネルギーが充足していたことだった。

ベルリ「フォトン・バッテリーの供給が止まって設備が動かなくなったのに、これは動くんですね」

ディアナ「これは小型の核ユニットで動いていますから、動かさないでいれば充電されます。しかし良かった。どうやら数万年も眠っていたわけではないようです」

やがて小型ランチは飛び立ち、ハッチを出て月面へ飛び出した。ベルリは頭上の構造物の位置からG-セルフの位置を推測してディアナに伝えた。彼女の操縦は巧みであった。

ディアナ「ああ、地球が見える。なんて美しい。ん? ホワイトドール?」

ランチはG-セルフの近くに着陸した。

ベルリ「ぼくはこれで帰ります。ありがとうございました」

ディアナ「お待ちなさい。わたくしもご一緒させていただきます」

そういうとディアナはG-セルフのコクピットに乗り込んできた。ノーマルスーツの下に何も着ていないディアナの柔らかい胸がベルリの腕に当たった。

ベルリ「(赤くなりながら)いや、でも・・・」

ディアナ「いいから行きなさい」

仕方なしに月の重力圏を離れ軌道上を回って月の裏側に出ようとすると、すぐさま2機のカットシーが近づいてきて、通信回線が開いた。

レイ「ベルリくんかな? 自分はキャピタル・アーミーのレイ・キャウ中尉だ。メガファウナはいまシラノ-5に入港している。法王庁からフォトン・バッテリーの供給停止が発表されたのは知っているかい?」

ベルリ「(しっかりと頷く)ええ、もちろん」

レイ「(ディアナに気づき)ああ、美しいお嬢さまとご一緒だったか。月でデートとはずいぶんとロマンチックなことだ。いやいや、嫌味でいっているのではない。自分も若い頃はそうだったさ。それに若いお嬢さんと一緒なら都合もよい。ドニエル艦長も待っておいでだから、ついてきなさい。あ、そうそう。シラノ-5ではいろいろ驚くこともあるだろうが、話を合わせてくれないと困るよ。地球全人類の命運が君のお芝居にかかっているのだから」

通信が切れた。ふたりの会話を大人しく聞いていたディアナは、回線が切れると同時に質問を浴びせてきた。特に彼女が不思議がっていたのは、月の裏側に浮かぶフルムーン・シップであった。

ディアナ「あれはどのような目的で建造されたものですか?」

ベルリ「(少し警戒しながら)あれは惑星間飛行が可能な航宙艦で、金星まで行けるのです」

ディアナ「金星・・・、明けの明星のことですか?」

ベルリ(明けの明星という言い方・・・、地球に行ったことがある?)「そうです。あ、でもいまから行くのはトワサンガのシラノ-5というところです」

ディアナ「(ベルリに身体を押し付け)そこで綺麗なお洋服は仕立てることが出来まして?」

ベルリ「(真っ赤になりながら)えっと、多分。お金があればですけど」

メガファウナの頭上を飛び超えたところでブリッジの中の様子が見えた。そこでは副長やギゼラらが大きな身振りでしきりにメガファウナの中に入れと合図を送ってきていた。ベルリはG-セルフをいったんメガファウナの中に収納し、ディアナを伴ってデッキに降りた。

デッキチーフのアダム・スミスがふたりに近寄ってきて歩きながら耳打ちをした。

アダム「艦長とハッパがなんだかよくわからない事態に巻き込まれた。とにかくみんなで抜け出して早く戻ってきてくれ。補給は終わってるから、とにかく早くな」

ベルリとディアナは同時に頷いた。

メガファウナを出た瞬間、大きな歓声が巻き起こった。なぜかトワサンガの大勢の市民が集まっていて、口々に王子王子と叫んでいた。驚いたベルリは眼を見開いてあっちこっちと視線が定まらなかった。その横でディアナはすました顔でベルリの腕を取り、優雅に歩いてみせた。

熱狂する人混みを掻き分け、ドレッド軍の軍服のままのターニア・ラグラチオン中尉が長い三つ編みをなびかせながら駆け寄ってきた。彼女の手にはマイクが握られ、その後ろにはアンプを背負った禿げ頭の男が小走りでついてきている。禿げ頭の男は人混みを抜け出したところで立ち止まってアンプを聴衆に向けた。

ターニア「(マイクをテストする)あーあー(頷く)みなさま、ついにトワサンガにレイハントン家新当主ベルリ・レイハントン王子が戻ってまいりました。盛大な拍手をお願いいたします。(割れんばかりの拍手が巻き起こる。ベルリは顎が外れたかのような顔で茫然自失の表情)ドレッド家による不名誉な王位簒奪から10余年、トワサンガは再び王政へと復帰し、敬虔なスコード教徒として歩み始めることになったのです。ご承知の通り、法王庁よりフォトン・バッテリーの供給停止が発表されましたが、いまだ戦争の続く地球はともかく、これでトワサンガへのフォトン・バッテリー供給再開は決まったようなものです。(ようやくベルリの腕を取るディアナに気づき)ところであなたは?」

ディアナが何か言いかけたとき、遠くからジムカーオ大佐とウィルミット長官が走り寄ってくるのが見えた。ディアナは微笑みを崩さず、ふたりの大人の到着を待った。

ウィルミット「ベルリ、ああ、ベル。よくぞ無事で」

ベルリ「(さらに驚き)母さん? なんで母さんがトワサンガに?」

ジムカーオ「(ゼイゼイと息を切らし)待った、ちょっと待った。(隣のディアナに目をやる)ああっと、あなたは?」

ディアナはそっとベルリの手から離れると、ターニアに手を差し出し、マイクを渡すようにと暗に要求した。その威厳のある態度にたじろぎ、ターニアは思わずマイクを渡してしまった。

ディアナはマイクが必要でないほどの大声量で話し始めた。

ディアナ「レイハントン家の忠実な臣民の皆様、お初にお目見えいたします。わたくしの名前はキエル・ハイム。アメリアで鉱山業を営むハイム家の長女でございます。たったいま月より参ったばかりで、皆様を長くお待たせしたのではないかと心配でたまりません。わたくしどもが月に立ち寄りましたわけは、このような次第でございます」

そういうとディアナはノーマルスーツのチャックを下ろして、その下が全裸であることを仄めかした。観衆は度肝を抜かれて騒然とした。

ディアナ「わたしたちは若く、確かにこのようなときもあるのです。しかし、皆様におかれましても若い男女の秘め事はお心当たりがあるはずです。こうしたことは決して恥ずかしいことではなく、健全な人としての証なのです。どうか若さゆえの御無礼をお許しください」

その毅然とした物言いと大胆さに圧倒された5万人の観衆は、しばしの沈黙の後、爆発的な熱狂となって叫び声が渦巻いた。彼らは口々にキエル・ハイムの名を叫び、特に若い男女から圧倒的な支持を得た。ディアナは手にしたマイクを突き上げ、彼らの拍手と歓声に応えた。

トワサンガの人々は、大きな熱狂の中で、ほんの1か月ほど前にやってきたノレド・ナグという少女のことを忘れ去った。

ジムカーオもしばらくあっけにとられていたが、気を取り直して頭の中を整理するかのように指で額をコンコンと叩いた。

ウィルミット「(心配そうな顔で)ベル・・・、そうなの?」

ベルリ「違う・・・(レイ・キャウ中尉に言われたことを思い出し)ああ、まあ、それは・・・」





シラノ-5のセントラルリングにはいくつかの工場群が立ち並ぶ区画がある。ドニエルとハッパはキャピタル・アーミーの制服を着た兵士にその一角まで案内されていた。

ドニエル「補給に応じていただけたのは感謝するが、できれば早く船に戻りたいのだがなあ」

兵士「(恐縮しながら)少しだけお付き合いいただけますか。実は見ていただきたいものがございまして。こちらにあるのですが(どんどん先に歩いていく)」

兵士は巨大な倉庫のなかにふたりを導き入れた。その建物の中に保管してあったのは、銀色のG-セルフともう1機、かなり旧式で大型のモビルスーツであった。

ハッパ「これは・・・、G-セルフじゃないか。どうしてこんなものがここに?」

兵士「自分は下っ端なのでよくわからないのですが、ハッパさんにこれを診てもらえと命令を受けています。こちらがG-セルフとかYG-111と呼ばれる機体で、古いモビルスーツをフォトン・バッテリー仕様に改造したものです。設計図はレイハントン家の家臣団が隠し持っていたのですが、彼らの製造責任者がレコンギスタいたしまして、こちらで入手したようなのです」

ドニエルは横目でキャピタル・アーミーの制服を見咎めた。

ドニエル(こちらで入手か・・・。アーミーがこれをねぇ・・・)

ハッパ「診るたって、G-セルフは複雑な機体で、いわゆる単なるG系統とは違うんだ。コクピットはコアファイターになっているのか?」

兵士「そうした部分も診ていただけるとよろしいかと」

ドニエルがクレーンを操縦してハッパをコクピットハッチの位置まで上げた。ハッパは手動でハッチを開き、懐中電灯でコクピット内部を調べた。

ハッパ(驚いたな。パイロット認証の仕組みが違うだけで、まったくG-セルフと同じだ)「おーい、拝見させていただいたが、おそらく組み立ては大丈夫だ。ただ動作確認させてみないと何とも言えないな。コクピットに関しては(もう1度中を覗き込み)これは普通のユニバーサルスタンダードでG-セルフのものとは違うみたいだ。ところでつかぬことをお訊きするが、(眼鏡を光らせ)戦争は終わったはずなのに、なんでまたこんなものを組み立てたんだろうね」

兵士「いやあ、(頭を掻きながら)自分は下っ端なので」

ドニエル「オレからもつかぬことをお訊きしたいのだが、何でキャピタル・アーミーの方々がトワサンガで守備隊もどきのことをしているんだろうね」

兵士「(屈託なく)そういえば、ザンクト・ポルトでガヴァン隊を全滅させたとか。さすが歴戦の勇者たちだって評判になってましたよ」

ドニエル「そういうことが訊きたいわけじゃないんだがな(ハッパと目配せをする)」






セントラルリングの商業地帯のカフェで、ウィルミット・ゼナムはふたりの若者を前にどう振舞っていいかわからず戸惑っていた。女手ひとつで男の子を育てた場合、いつかこういうことがあるだろうと何度も頭の中でシミュレーションしていたのに、いざとなるとどうしていいかわからないのだった。

アメリアのキエル・ハイムと名乗ったディアナ・ソレルは、かつて自分が身に着けていた衣装に極力近いものを選び、それを身に纏っていた。彼女はすました顔で紅茶を飲んでいる。ウィルミットは話すきっかけが掴めずにただ時間を空費するだけの自分に嫌気が差してきていた。

ウィルミット「あそこでアイスクリームを売っているわね。みんなでいただきましょうよ」

ベルリ「さっきたくさん食事したばかりじゃないか、母さん」

ベルリは食べすぎを注意しただけのつもりだったのに、ウィルミットにはそれがとても刺々しい言葉のように感じられ、いたたまれなくなった彼女は席を外してアイス屋へ歩いて行った。

それを横目で見ていたディアナは、テーブルの下でベルリの脚を蹴り、合図を送った。ところがベルリは母親がどこにいるか首を伸ばして探す様子だったので、ディアナはもう1度その脚を蹴った。

ベルリ「ちょ、痛いじゃないか」

ディアナ「あなたは鈍いのね。あなたの赤い戦艦のおかしな髪型の人に、早く戻るようにいわれていたでしょう。逃げ出すならいまですよ。監視もいません」

ベルリ「あ、そうか・・・。(ディアナに向き直り)でもあなたはいったいここで何がしたいんですか? あなたのことは何も教えてもらってないんですけど」

ディアナ「わたくしのことを聞くということは、何百年も前の話を聞くということですよ。もしかしたら千年前のことかもしれない。そんな話に興味があるんですか? それとも本当にわたくしを抱いてみたくなったとか?」

ベルリ「(険しい顔になって)じゃ、ぼくはメガファウナに戻りますけど、ぼくの母さんに何かあったら、宇宙の果てまで追いかけて復讐しますよ」

ディアナ「(冷笑を浮かべ)まあ、怖い。肝に銘じておきましょう」

ベルリは母親とは逆の方へと走り去り、人ごみに紛れてしまった。

アイスを3つ買って戻ったウィルミットは、ベルリがいなくなったことに動揺したが、ディアナとふたりになったことで逆に話しやすくなったとも感じて、あえて息子が消えたわけを訊かなかった。ウィルミットは、この民間人とは思えない威厳に満ちた女性に興味を持ち始めた。

ウィルミット「(アイスクリームを手渡しながら)あなたはアメリアのキエル・ハイムというのですね?」

ディアナ「(すました顔で)ええ、お母さま」

ウィルミット「あなたのそれは、つまりお若い方とは思えない態度のことですが、お芝居なのですか、それとも本当にベルリとお付き合いされているのですか?」

ディアナ「お母さまの御子息が女を遊び道具としか思っていなければ」

ウィルミット「まあ、棘のあるいい方ですこと」

ディアナ「アメリアの女は男に遊ばれるだけの弱々しい女ではありませんので」

ウィルミット「わたしに取り入ろうともしないのですね。本当のことを言えば、わたしはあなたのような女性は決して嫌いではないのです。女はもっと毅然として強くあるべきと考えます。わたしの心配は、あなたではなく、本当はベルリに向けられているのかもしれませんわね」

ディアナ「なるほど。ベルリ・レイハントンには父がいないのですね。あなたは心配しすぎています」

ウィルミット(この人、ベルリをベルリ・レイハントンと呼んだ!)「(探るように)キエルさん、そろそろ本当のことを教えていただけるかしら。何か目的がありますか?」

ディアナ「お母さまは頭が良くて助かります。あなたの御子息がわたくしにしたことはさておき、わたくしがレイハントン家の王妃になるか、それともそのフリをするだけになるのかは、お母さまの返答次第です」

ウィルミット「聞きましょう」

ディアナ「お金をご用立ていただきたい。それもかなりの金額です。それと、わたくしはアメリアへ戻って仕立て屋のお店を持ちたいと思っております。とりあえず1000着、こちらが指定するサイズのものを揃えていただけると助かります。これは仕立て屋の回転資金にするための既製品ですから、サイズさえ合っていれば結構。あと、月にシャトルを隠してあるので、月まで行けるランチを1台レンタルしていただきたい」

ウィルミット「(怪訝な顔で)ランチはご用立てできますが、シャトルなどどこでそんなものを?」

ディアナ「それをお聞きになってどうなさいますか。ご返答は?」

ウィルミット「(しばし考え)こちらが早く用意できれば、物事は早く解決する。そう考えてよろしいのでしょうね?」

ディアナ「その通りです」

ウィルミットは立ち上がってすぐに人を呼びに行かせた。彼女はトワサンガのショッピングモールに通達を出し、ディアナが申し出た倍の数の衣料品を買い占めるように指示したのだ。

ウィルミット「ランチはすぐにご用意できます。サイズなどは・・・」

ディアナ「すべて記憶しています。(受け取ったメモ用紙に書きながら独り言をつぶやく)誰ひとりとして忘れたことなどありません。どんなに年月が過ぎ去ろうと、ディアナさまにムーンレイスを任されながらレイハントン家に屈したあの日のことは。あの日に生き残り、コールドスリープに放り込まれて封印された屈辱の記憶は。ひとりひとり、名前も体の大きさも全部忘れまいと・・・、それがわたくしのせめてものディアナさまへの忠義の証だと・・・」

その声は小さく、雑踏に消え入るばかりで、どこの誰にも聞こえない大きさになっていた。






そのころ月の地下基地では全裸の男たちが走り回っていた。全裸の男たちは寒さに震えながら、一体何年使われなかったかわからない設備の復旧に忙しかった。

ハリー「ディアナさまが先に目覚めておいでだ。ランチで出られているから、すぐに戻ってくるだろう。それまでに完全に使える形にしておけ。粗相のないようにな」

兵士「(情けなさそうに)素っ裸で粗相も何もあったもんじゃないですよ」

ハリー「ディアナさまなら何とかしてくださる」

兵士「女たちは恥ずかしがって隅で震えていますよ。ディアナさまも着るものがないでしょう?」

ハリー「織機はまだ動かんのか。何もかも朽ちて、一体我々は何年封印されてきたというのか!」


(ED)


この続きはvol:35で。次回もよろしく。



シャープ ヘルシオ 「COCORO KITCHEN」搭載 30L 2段調理タイプ レッド系 AX-XW500-R

シャープ ヘルシオ 「COCORO KITCHEN」搭載 30L 2段調理タイプ レッド系 AX-XW500-R

  • 出版社/メーカー: シャープ(SHARP)
  • メディア: ホーム&キッチン



シャープ ヘルシオ(HEALSIO) グリエ ウォーターオーブン専用機 レッド AX-H1-R

シャープ ヘルシオ(HEALSIO) グリエ ウォーターオーブン専用機 レッド AX-H1-R

  • 出版社/メーカー: シャープ(SHARP)
  • メディア: ホーム&キッチン






シャープ スチームオーブン ヘルシオ(HEALSIO) 18L 1段調理 レッド AX-CA400-R

シャープ スチームオーブン ヘルシオ(HEALSIO) 18L 1段調理 レッド AX-CA400-R

  • 出版社/メーカー: シャープ(SHARP)
  • メディア: ホーム&キッチン



コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。