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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第2話「クンタラの矜持」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第2話「クンタラの矜持」後半




(アイキャッチ)


ベルリは険しい表情でG-セルフのモニターを睨みつけた。そこには銃口を頭に突きつけられたハッパの姿が映っていた。

人質を取ってベルリにG-セルフの明け渡しを要求しているのはキャピタル・アーミーの中のクンタラたちであった。彼らは解散寸前のアーミーの戦力を奪ってまだ戦いを続けようとしていた。ゴンドワンの旧式航宙艦ホズ12番艦を奪った彼らは、その他に大量のウーシァを奪っていた。

加えてG-セルフまで手に入れようというのだ。彼らの元にはモビルスーツ開発に長けたジット団のメンバーも捕らえられている。ベルリはキナ臭いものを感じて緊張した。

ルイン・リーがクンパ大佐の元でマスクとして戦い、異例の出世を遂げたのちにマスク部隊を編成したという情報はベルリも聞いていた。しかしたかが戦艦1隻と10数体のモビルスーツで何をしようというのか。国家を持たないクンタラではフォトン・バッテリーを入手することもできない。

フォトン・バッテリーがなければ戦艦もモビルスーツも動かせない。ヘルメス財団によってそのような技術体系にされてしまっているのだ。アメリアのアイーダたちは当初フォトン・バッテリーの技術開示を求めてキャピタル・テリトリィと争っていた。しかしそれが開示されることはとうとうなかった。

いまさらわずかな戦力だけで世界を変えることなどできないというのに・・・。

ハッパ「オレにかまうな。ベルリ、そのままG-セルフで逃げるんだ!」

健気にもハッパは身を挺してG-セルフを守ろうとしてくれていた。だがベルリにそんなことができるはずがなかった。彼はすぐさまコクピットを開けて身を乗り出した。

ベルリ「ハッパさんを置いて逃げるわけにいかないじゃないですか!」

ホズ12番艦のモビルスーツデッキは緊張感に溢れていた。船は飛行を続け、後方から追いかけてくるキャピタル・アーミーのブルジンから攻撃を受け続けていた。船の外ではしきりに爆発が起きて船内は大きく揺れていた。アームで固定されたウーシアがギシギシと音を立てていた。

G-セルフは大勢の兵士に取り囲まれていた。いまのところ発砲してくる気配はない。レイハントン・コードなしに動かないG-セルフをどうやってうまく使うかが鍵であった。

メガファウナは少し離れた位置から後続のブルジンを攻撃していた。

ベルリはメガファウナと通信回線を開き、現在の状況をドニエルらに伝えた。メガファウナのブリッジにはコアファイターのカメラを通じてハッパとベルリの様子が映し出された。

クルーはそのやり取りを聞きながら緊張していた。艦長のドニエルは艦長席で歯ぎしりしながら事態の推移を眺めていたが、埒が明かないとみて口火を切った。

ドニエル「聴こえているか。こちらメガファウナ艦長のドニエル・トスだ。当方に攻撃意思はない。ベルリとハッパを返していただきたい。そちらの要求はなんだ?」

銃口を突きつけられたままハッパは後ろに下げらた。ホズ12番艦が通信回線を開いてきて、メガファウナのブリッジとホズ12番艦のブリッジが映像で繋がった。

画面に映ったのはラテン系の顔立ちで黒々とした顎ひげを蓄えた背の低い恰幅の良い男であった。

サニエス「自分は今回の反乱の指揮を執っているサニエス・バイカルト少佐です」

通信を遮るようにローゼンタール・コバシが身を躍らせて割り込んできた。

コバシ「こいつら反逆者よ。助けてぇ~~」

長身のコバシが取り押さえられた。それをモニター越しに呆れながら見守るメガファウナのクルーたち。ステアは操舵を握りながらも気がかりで仕方がない様子だ。

ドニエル「(険しい顔で)ビーナス・グロゥブの方々もおられるようですな」

サニエス「我々クンタラは全世界同時革命を目指して一斉蜂起したのです」

ドニエル「(頭を掻いて)世界同時革命だって! 革命!! なんだそりゃ?」

サニエス「世界同時革命!」

そうサニエスが叫ぶとホズ12番艦のクルーは一斉に「世界同時革命!」と口々に叫んだ。

サニエス「現在、アメリアを除く世界各国でクンタラは政府に対し武力闘争を開始しています。クンタラの要求はただひとつ。自分たちの国を持ちたいということです。この艦はそのために必要な船です。G-セルフはビーナス・グロゥブの方がコピーしていただければすぐにお返しいたします」

コバシ「(唖然とした顔で棒立ちになり)設備がなきゃ無理よーー。それにこいつらスーンの子供をキャピタル・テリトリィに残したままなのよ。あたしたち手伝わないわよ!」

サニエス「それに、我々はビーナス・グロゥブの方々を救ったのです。法王庁より通達されたレコンギスタした人々の引き渡し要求はご存知でしょう?」

コバシ「だからG-セルフは特殊すぎてコピーなんて無理なのよ!」

サニエス「協力が得られないのならあなた方の身柄をビーナス・グロゥブに売ります」

モニターに映し出されるやり取りを聞いていたメガファウナの副艦長は、思い立ってドニエル艦長の近くに歩み寄った。

副艦長「ビーナス・グロゥブがレコンギスタした人間を指名手配したのは本当です。身柄を保護していたキャピタル・テリトリィに引き渡し要求が出ています。彼らは全部なかったことにしたいらしい。我々のあちらへの訪問もどう考えているのかわかったものじゃない。それに、アメリア人として自分は(居住まいを正し)クンタラ差別には反対です」

ドニエル「(しばし間を置き)世界同時革命のことはよくわからんが、よし。そちらの船を救助する。後方のアーミーの船に一斉射! とにかくベルリとハッパは返してもらうからな」

メガファウナが助太刀に入り、ホズ12番艦と後続の船との距離が開いていった。





プロペラ式の中型機がゴンドワン北方の打ち捨てられた滑走路に降りてくる。おりからの強風に煽られ、着陸は困難を極めた。ようやく止まった飛行機にルインとマニィが駆け寄り、タラップから降りてくる人々を歓待した。彼らはすべてクンタラ国建国戦線に参加する仲間であった。

その中にロルッカ・ビスケスとミラジ・バルバロスの姿があった。

ルイン「(駆け寄りながら)ご協力感謝いたします」

ロルッカ「(あたりを見回しながら不安そうに)なぜここはこんなに寒いのです。アメリアとまったく違う」

4人は髪の伸びたマニィが示す方向にあるき出した。

風が強く、遠くの山々には雪が積もっていた。ルインは他の乗客を暖かい家に案内するように仲間に指示を出した。ロルッカとミラジはルインらとともにトラックの荷台に押し込まれた。トラックには武装した民兵が乗っており、それを幌で隠していた。

ルイン「(座りながら)G-セルフを建造された方々とか」

ミラジ「でも設計図はないのです。あれは複雑でして・・・似たようなG系統の設計図があれば、できるだけ再現してみせますが」

ロルッカ「(不安そうな顔で)そんなことより身柄の安全は保証されるのでしょうな? 法王庁の発表があって以来、みんな手のひらを返してわたしたちを疎んじるようになったのです。これでは地球にやってきた意味がありません。フラミニアが逮捕されたともニュースで言っています」

ルイン「身の安全は必ず保証します。それどころかどうですかみなさん、我々とともに革命の戦士になっていただけませんか。クンタラ国の建設に手を貸していただきたいのです」

ロルッカは露骨に嫌そうな顔をしてみせた。マニィがキッと睨みつけるとすぐに彼は大人しくなった。

一同は車を降り、立派な作りのロッジへと誘われた。かつて宿泊施設として建設されたものであったが、永久凍土の拡がりとともに客足が途絶え、街の人間が流民となって南を目指した際に放棄された施設だった。なかには多くの民兵がカード遊びに興じていた。

ロルッカ「ここは安全なんでしょうな」

ルイン「ゴンドワンはクンタラ差別の酷い土地ゆえ、クンタラが住み着いた場所は穢らわしいというので近寄ってこないのです。あなたもここがお嫌で?」

ロルッカ「(汗を拭きながら)そんなことはありません。いやぁ、なかは暑いくらいですな」

ミラジ「ルインさん、どうかこの男を許してやってください。我々も不安なのです。代々仕えてきたレイハントン家は潰えてしまうし、武器商人としてやっていこうとした矢先にフォトン・バッテリー配給停止でモビルスーツなどどこも増やそうとしない。おまけに指名手配です」

ルイン「レイハントン、ああ、ベルリの・・・。つまりいまのあなた方とわたしたちは同じ立場というわけですな。(ロルッカに向かって)そう言われるのがお嫌でなければ!」

ロルッカはバツが悪そうにうつむいて口を閉じてしまった。

ミラジ「とにかく我々をヘルメス財団に引き渡さないでいただきたいのです。身の安全を保証していただければ、我々はできる限りのことはします。ルインさんたちはクンタラ国建国戦線というものを作ったと聞き及んでおります。資金が必要でしょう。いくらかは御用達できます」

ルイン「それはありがたい。我々クンタラ国建国戦線は今朝方世界同時革命の狼煙を上げたばかりです。ザンクト・ポルトからのフォトン・バッテリー供給停止はまさに願ったり叶ったり。どこもエネルギーを節約しようとするあまり、クンタラの反乱制圧に余計なエネルギーは割かないでしょう」

ロルッカ「しかし、ゴンドワンではクンタラ狩りが盛んだとか。(ルインとマニィの視線に怯えながら)いえ、だって本当のことでしょう? わたしたちはトワサンガには戻るつもりはないし戻れない。レコンギスタしてしまったんです。逮捕されるのも嫌だし、食われるのだって」

ミラジ「(ロルッカの肩を抑えながら)まあじいさん、落ち着いて。(ルインとマニィに目をやり)わたしたちに戻るところはありません。ベルリ坊ちゃまが帰ってこないとわかったときに、わたしたちの希望は潰えたのです。できることがあればお手伝いいたします」

ルイン「国はわたしが盗ります。あなた方はわたしにG-セルフを与えてほしい。G-セルフに関してはもしかしたら整備士とともに機体が手に入るかもしれない」

ミラジ「コクピットも含めてであれば、こちらでレイハントン・コードを解除することはできます」

ロルッカ「(ぶるぶる慄えながら)ダメだ。そんなことしたら」

ミラジ「ダメじゃないでしょう」

ロルッカ「レイハントン・コードを解除すれば核が起爆する」

ルイン「核兵器、ということですか。バカな。謀っておいでだ」

ロルッカは慄えながら黙り込んでしまった。ミラジはかぶりを振ってロルッカを休ませてくれるよう懇願した。マニィがそっぽを向いたので、ルインは手下を呼び寄せてロルッカに部屋を与えるよう指示した。暖炉の明かりが赤々と燃えている。

ミラジ「ロルッカはああいう男なのです。わたしはあなたに賭けてみたい、ルイン」

ルイン「わたしもレイハントンというものについてお伺いしたいことがたくさんあります。わたしが必ず皆様の願いを叶えて差し上げますよ。もし核の話が本当なら、そんなものに用はない。新しく作っていただくまでです」






アメリア軍総監執務室にアイーダの姿があった。ノックの音に続いて女性秘書が人を案内して現れた。あとに続いてやってきたのは、上等な身なりをした4人の紳士だった。彼らは息を切らして部屋に入ってきて、辺りをきょろきょろと見まわしたあとにアイーダに握手を求めた。

4人はめいめいに長椅子に腰かけた。

陳情者D「まったく、あんな屈辱は初めてだ。ニッキーニの奴、こちらがクンタラだと知った途端に賄賂を要求してきた。アメリアでこんな屈辱を受けるのは初めてだ」

陳情者C「だからあんな男はアテにならんと言ったのに」

陳情者B「(諦めの表情で)仕方がないだろう。曲がりなりにもあれが大統領だ」

アイーダ「(困った顔で)何かあったようで」

陳情者A「姫さまにおかれましては世界で同時多発的に暴動が起きているという話は聞きましたかな」

アイーダ「情報は入っております」

陳情者A「あれはクンタラなのです。世界のクンタラが何故か世界同時革命などと言い立ててテロ事件を引き起こしている。申し遅れましたが我々はクンタラ出身者の集まりで、もちろんアメリアの市民権を持っている自由市民でございますが、何とかあれをやめさせたいのです」

陳情者B「ついてはアメリアに全クンタラの亡命を許可願いたい。その陳情に参ったのです」

アイーダ「ああ、それで賄賂を・・・」

陳情者A「首謀者の名前を持ってきました。(写真付きの書類をアイーダに手渡す)キャピタル・テリトリィのルイン・リーという者で、(アイーダがハッと気づく)目下どこかに潜伏中とか。探させておりますがまだ見つかってはおりません。もはや頼れるのは姫さまだけ。どうか助けていただきたい」

アイーダ「(困った顔で)本来、このような政治的陳情はアメリア軍総監であるわたくしではお受けできないのですが」

女性秘書が飲み物を運んでくる。4人は呼吸を整えて会釈して礼を表した。

陳情者C「なあに、グシオン総監にもいろいろ面倒を見てもらったものです。この国はスルガン家でもっているようなもの。民主主義などアテにならん」

陳情者A「クンタラには行き場所がないのです。このままフォトン・バッテリーの供給停止が続けば、歴史はまた暗黒時代に戻る。そうなれば我々クンタラはどうなりますか? またわたしたちを喰って生き延びるのですか? 冗談じゃない。かと言ってクンタラ国などどこに作るというのですか? 出来るわけがない。このルインとかいう若造は人々をたぶらかしているのです」

陳情者B「だからこそ、アメリアに受け入れ先になっていただきたいのです。世界中で反乱を起こすものだから、世界中で一般市民によるクンタラ狩りが始まっているとも聞きます。船で海に逃げた者も多くいるらしい。アメリアが受け入れ先になったと聞けば、皆してこちらへやってくるでしょう」

アイーダ「難民の受け入れ要請は承りました。ただ、このままではエネルギーが持たない。フォトンバッテリーの在庫は1年分しかありません。人口を増やすのは自殺行為です」

陳情者C「だからいまこそ地球人の自主独立を考えるべきときなのです!(机をドンと叩く)グシオン総監が訴えてきた、スコード教からの独立を果たすためにはですな、キャピタル・テリトリィを叩いて、タワーを奪うのです。そして、フォトン・バッテリーの情報を開示させる。これこそ総監の役割ではないですかな?」

アイーダ「クンタラ難民の件は承りました。わたしはアメリア軍総監として上院に議席があります。何とか議会の承認を得られるよう努力いたしましょう」

陳情者A「(首を横に振って)それでは遅い。とりあえずこのルインという人間だけは何とかしていただかないと我々クンタラは・・・生きていけなくなる!」

アイーダは受け取った写真を睨むように眺めた。

アイーダ(マスク・・・。こいつの目的は何?)






遠浅の海辺に2隻の戦艦が着陸して睨み合っている。互いはモニター回線で交渉を続けていた。

ドニエル「さっき助けてやった恩はどこに行った? アメリア人を1人でも殺してタダで済むと思うなよ。世界の果てまで追い詰めて必ず罪を償わせるからな」

サニエス「我々クンタラにはG-セルフが必要なのです。それを分かっていただきたい」

ドニエル「そんなもの誰が欲しがっているんだ? それを言え」

サニエス「それは言えません。革命に必要だとしか」

ドニエル「埒が明かねぇ。あんたら、革命だのほざいているが、騙して誘拐してきたジット団の人だって協力しないと言っている。アーミーを裏切ったから本国にも戻れない。どこへ逃げるっていうんだ? 逃げる場所がないだろう」

サニエス「もとより死は覚悟のこと。キャピタル・テリトリィはアーミーが反乱を起こす計画を立て、それを事前に察知したキャピタル・ガードが法王とともにトワサンガへ亡命しました。今回の作戦はアーミーの戦力を削ぐことが目的です。フォトン・バッテリーの供給が止まって、この国も在庫は1年分しかない。モビルスーツの建造は至難の業です。それを奪ったのです」

ドニエル「お前らまさか、キャピタル・テリトリィをクンタラ国ってのにするつもりなのか?」

副艦長「現実的ではないね。君たちは市民の力を侮っている。クンタラの数では勝ち目はない」

交渉は遅々として進まなかったが、双方の船に同時に重要な連絡がもたらされ、状況は一変することになった。メガファウナもホズ12番艦も慌ただしく艦長に連絡が伝えられた。

ドニエル「アイーダ・スルガン提督より連絡が入った。もしクンタラの反乱軍と接触することがあれば、我がアメリアは全クンタラの亡命先になる法案が議会で審査されるから伝えて欲しいとのことだ。(モニターの中のサニエスに向かって)これでもまだアメリアと敵対するつもりか」

サニエス「我が方にも連絡がありました。G-セルフとハッパさんを開放いたします」

銃口を突きつけられたままだったハッパが拘束を解かれた。それをすぐさまベルリがG-セルフのコクピットに受け入れた。

ベルリ「(G-セルフのマイクで)自分は出ますよ。そこのウーシアをどけて!」

G-セルフはホズ12番艦のモビルスーツデッキを離れた。

そのころ、クン・スーンはホズ12番艦の独房でキア・ムベッキの写真を眺めてうなだれていた。

スーン(あたしが欲をかいちまったばかりに・・・。キア隊長、ゴメン・・・。あたしたちの子が、あたしたちの子が・・・)






ミラジはロルッカに対して腹を立てていた。長年レジスタンスとして戦ってきた仲間だと思うから耐えてきたが、地球へ来てからのロルッカの我儘には付き合えないものがあった。

ミラジはクンタラに対して差別心はさほど持ち合わせていなかった。むしろなぜクンタラだけが独自の神を持ち続けたのか興味があったくらいだ。

宇宙は何もかもがユニバーサル・スタンダードで統一されていた。言語や文化風習はまぜこぜにされ、差異を消されたのちに統一された。言語、風習、宗教、技術、規格何もかもがすべて一緒だ。これは技術屋としては面白くないことであった。必要に応じて考え作る行為の邪魔になることもあった。

だがなぜかクンタラだけはそこから弾かれたのだ。言語や宗教まで統一されながら、なぜクンタラ差別だけが残ったのか。一般的には彼らが食糧難の時代に食人されたからという。ミラジはこのことをずっと疑問に思ってきた。なぜ彼らは逃げなかったのか?

食べ物がなく共食いを始める極限状態は確かにあるだろう。だがふつうは弱い者が強いものに食べられるはずだ。強い者を食べるのは反撃されて自分が食われるリスクの方が大きい。クンタラの中には当然屈強な人間も生まれたであろうに、なぜか彼らは食べられる対象から逃げることをしていない。

身分制度として固定されて食べられ続けるというのはどういう状態なのか、ミラジは上手い答えを見つけられなかった。幼少時からのこの疑問に対する答えはまだ持っていない。羊のように買われていたとするなら、養殖として人間は効率が悪い。

ミラジ「弱い者が狩られて食べられたというのならわからないでもない。食糧難になれば人間だってそれくらいのことはするだろう。しかし、人間などは未熟な状態で生まれて数年は親がつきっきりで世話をしなければいけない。食べ物だって多くいる。その割に肉付きは悪い。変に知恵があるから、屠殺するのも一苦労だ。言葉を喋るから仲間同士で連携して反逆も起こせる。ところが彼らはそういう行動を取らず、独自の宗教を発展させた。クンタラ安住の地カーバ。そこは一体どこだというのか? 子供のころ、ニュータイプという特殊人種が涅槃に辿り着いたと聞いたことがあるが、そんなものなのだろうか? 涅槃がカーバとするならば、クンタラはすべてニュータイプに進化しているということになる。まさかそんなことはないだろう。ルインもマニィもただの人間だ」

ではカーバとはどこなのか。ルインにそのことを訊ねても言葉巧みにかわして答えようとはしなかった。ミラジは彼には答えがあるのだと確信したから、ルインを評価する気になったのである。

それに引き換えロルッカは酷いものだった。彼はトワサンガにいたころは身持ちもよく、真面目な男であったが、自分たちの苦労が報われないと悟ってから急に言動に我慢がなくなった。

ミラジ「レジスタンスという神聖な目的を見失って、自分の人生が空虚にでもなったのか? たしかに奴はブ男で女性には縁がなかったからな。レイハントン家の意思を守り抜くという大義名分が奴のすべてではあった。そうはいっても、あのざまは酷すぎるのではないか」

そういう彼の目の前を、酒で顔を真っ赤にしたロルッカが通り過ぎていった。彼はあまりに飲みすぎていたためにミラジがいることにすら気づかなかった。






カシーバ・ミコシのシラノ-5入港を前に、ノレド・ナグとラライヤ・アクパールは古めかしい衣装に着替えさせられていた。

ノレドはまるで貴婦人のようないでたちをさせられ、ラライヤは近衛兵の古めかしい軍服に身を包んでいた。ノレドは体型にまったく合っておらず、ラライヤは男装の麗人風で、いまにも寸劇が始まりそうな様相であった。

ノレド「この衣装、胸のところがぶかぶかだよ」

ラライヤ「これ、コスプレじゃありません? おかしいでしょ?」

ふたりの傍に立っているのはクンパ大佐の後任、ジムカーオ大佐だった。3人の元へ、法王とウィルミット長官がやってくる。

ジムカーオ「いいですか。すべて打ち合わせ通りに。ノレド・ラグさんはゲル・トリメデストス・ナグ法王猊下の御落胤で、ベルリ・レイハントン王子の婚約者です。法王は新婦の父、長官は新郎の母。ラライヤさんは処女姫をお守りする女近衛隊長ですよ。いいですね!」

ウィルミット「(情けなさそうに)こんな小芝居、女学生のとき以来ですよ」

ゲル法王「(オロオロしながら)御落胤が真実だと思われたりしませんか?」

ジムカーオ「(ひとりだけ得意げな様子)トワサンガの秩序回復がない限り、ここにフォトン・バッテリーはやってきません。トワサンガにフォトン・バッテリーがやってこなければ、地球にも配給されないのです。ヘルメス財団は最悪の場合、地球を暗黒時代に戻してそれから自分たちが入植するとまで言っているのです。地球をクンタラを食べて生き延びた時代に戻したいのですか?」

クンタラという言葉に、珍しくノレドが反応した。

ノレド(そうか、クンタラのあたしがベルリと結婚すれば地球が救われるのか。・・・、ここはひとつ、やっちゃってみせますかッ!)

ノレドはツンと澄ました顔を作り、左手をラライヤの前に差し出した。ラライヤがその手を取ったとき、カシーバ・ミコシのハッチが開いた。

シラノ-5の1番埠頭は、歓声を上げる人々で満ち溢れていた。そこにはトワサンガの全住民が集結していた。彼らは、10数年ぶりのレイハントン家再興の喜びの声で、不安を打ち消そうと戦っているかのようだった。彼らは必死に声を上げ、ヘルメス財団に訴えかけていたのだ。

ノレドの顔は一気に赤く染まり、異様な高揚感にただ身を任せて歩くのみであった。


(ED)


この続きはvol:25で。次回もよろしく。






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