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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第20話「残留思念」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第20話「残留思念」前半



(OP)


ノースリングの上部に隠された薔薇のキューブから出撃したザム・クラブは、その巨躯を躍らせてラライヤのG-アルケインに迫った。

突如出現した奇妙な形のモビルアーマーに驚いたラライヤは、そのコクピットに座っているのが正気を失ったバララ・ペオールであることを知った。バララは人としての意識を失っているのに、人としての機能が最大限に発揮されている状態だった。

何が彼女を動かしているのか、操っているのか、ラライヤにもバララにもわからなかった。

ザム・クラブは卵を海に放出するかのようにファンネルを機体から撃ち出した。G-アルケインは囲まれないように移動しながら姿勢を制御してひとつひとつ撃ち落としていく。だが数が多すぎて徐々に対応できなくなり、直撃を喰らうようになった。

上体をエアバックで守られながらラライヤはサウスリングへと後退していった。代わりに貨物用ハッチから飛び出してきたのはベルリのG-セルフだった。下がりながらも射撃を続けるラライヤを、ターンXのケルベスが制止した。

ケルベス「もういい。あとはベルリに任せるんだ、ラライヤ」

ケルベス「バララさんです。バララさんが生きています」

ケルベス「バララ・ペオール? 彼女はユグドラシルで死んだはずだ。それより落ち着いて聞いてくれ。この事件の黒幕は法王庁だ。ゲル法王をトワサンガへ亡命させるところからすべて彼ら主導で現在まで進んでいる。この戦争は地球に生配信されて、オレたちはお尋ね者になっているそうだ」

ラライヤ「(ふうと息をついて正気に返り)こんなにミノフスキー粒子が濃いのに、地球まで電波なんか届かないですよ」

ケルベス「これはオレの推測だが、電波以外の何らかの波長に映像を乗せて、シルヴァーシップで中継しながら地球に送っているんじゃないだろうか? 最初から彼らは先手を打ってきていて、こっちは状況に踊らされるばかりだった」

ラライヤ「(驚いて)じゃあ、宇宙世紀復活派というのが法王庁?」

ケルベス「おそらくな。認めたくはないが。戦争は資源とエネルギーを浪費する。それは地球では枯渇している。宇宙で暮らす者は、それらを地球に提供する。戦いの中で人類は進歩して、宇宙世紀の時代に戻っていく。だが・・・」

ラライヤ「いったい何のために? そうか! 進歩はしたいけど、進歩した地球人類が宇宙に進出してくるのは嫌なんだ。だから、資源とフォトン・バッテリーの技術だけは絶対に手放さない」

ケルベス「そういうことだから、ラライヤはサウスリングに撤退してくれ。オレはこの機体でシルヴァーシップを叩いて中継を途切れさせる!」

G-アルケインとターンXは入れ替わりになってラライヤはサウスリングへと撤退した。

アイーダは脱出艇が並ぶデッキで学生たちと話し合っていた。機体を降りたラライヤは彼らの輪の中に加わった。戦闘は続いており、とても脱出艇を出せる状況ではない。かといってシラノ-5の重力装置は全停止したままであった。

ラライヤ「話はケルベスさんから聞きました」

アイーダ「まさか法王庁が宇宙世紀復活派で地球を進歩の囹圄にするつもりとは考えもしませんでした。しかしそんなことをして一体地球から何が奪えるというのでしょう? 貨幣価値で得られる快楽? わたくしはアメリアの名誉を回復するためにも地球に戻らなくてはならなくなったのです」

学生A「先ほどから姫さまと議論していたのですが、地球を人間進化の実験場にして封じてしまうのはおかしいのですよ。資源とエネルギーはスペースノイドの労働によって賄われます。法王庁自身が働かないにしても、無駄が多すぎる。ぼくはこれはもっと前からあるイデオロギー対立の具現化だと考えます。ディアナ・ソレルのお伽噺は決してムーンレイスは悪役じゃない」

ラライヤ「そうか。レイハントン家はやはりムーンレイスを味方と考えていた!」

アイーダ「それについてはディアナさんから重要なお話を聞いているんです。アメリアへ戻ってある人物のお墓へ行けば、何かがわかるかもしれない」

学生のリーダー格の青年は、自分をジル・マナクスと名乗り、メガファウナに同乗してアメリアへ向かうことになった。

ラライヤ「わたしは宇宙に残ります。まずはここを脱出しませんと」







ターンXを得たケルベスは、その機体性能に大きな手ごたえを感じていた。ターンXのモニターに出現する文字を読めない彼は、望遠で戦闘地域から外れたところで滞空するシルヴァーシップを見つけ、ターンエックスで攻撃を仕掛けた。

背部ウェポンプラットホーム・キャラパスが唸りを上げ、シルヴァーシップにあらゆる攻撃を仕掛けていく。ビームライフルを引き抜いたケルベスは、凹凸のない船体から射出口が出てくる一瞬の隙をついて正確にビームを命中させ、船を撃沈した。

他に通信の中継をしていそうな船体が見当たらなかったため、彼は機体を振り向かせると、ベルリの助太刀に戻った。彼はザム・クラブのファンネルを蹴散らし、カブトガニのような機体に体当たりをかますとそのまま敵の動きを封じた。

ザム・クラブは急加速してターンXを振り落とそうとしたが叶わず、急減速した一瞬の隙をベルリのG-セルフに狙われた。すでにファンネルのほとんどはG-セルフに撃墜されていた。

ベルリ「バララさんは前に戦ったときとまた違う。あのときは憎しみで一杯だったけど、いまは空っぽになってしまっている」

ファンネルを失ったザム・クラブを援護するかのように、トワサンガのモビルスーツが大挙して押しかけて来た。

ラライヤのG-アルケインも再び戦闘に加わり、サウスリング周辺は上方の艦隊戦とは違ってモビルスーツ同士の戦いの場となっていった。

シラノ-5のリングの回転は止まってしまっていた。これはベルリも知らない機能によってG-セルフが勝手に行ったものであった。リングの回転が止まったことによってシラノ-5全体が重力を失っていた。各リングからは多くの脱出艇が宇宙空間へと飛び出しており、宙域は大混乱の様相を呈していた。

それを見たムーンレイス艦隊は徐々に攻勢を強め、オルカ数隻がシラノ-5の港へと強制着艦しつつあった。トワサンガのシルヴァーシップは後退して宇宙の闇の中へ消えようとしていた。

ところが、である。突如シルヴァーシップは攻撃目標を変えた。

シルヴァーシップの大軍はノースリング上方まで辿り着くと船首を下方に向け、民間人が乗った脱出艇めがけて射撃を開始した。武装していない脱出艇はシルヴァーシップのメガ粒子砲に船体を貫かれて、次々に炎上していった。

シルヴァーシップは民間人の虐殺を開始したのだ。

戦場になすすべなく殺された者たちの思念が渦巻いた。

恐怖が空間を支配していった。

ケルベス「しまった! あいつらは自分たちがやっていることをこちらになすりつけようとしている連中だ。民間人への攻撃もこちらのやったことにされてしまうぞ!」

ベルリ「教官!」

ケルベス「おう!」

G-セルフとターンXは一気に加速して、サウスリング以外から出てきた脱出艇の前に入り、シルヴァーシップを攻撃した。G-セルフは青い光に包まれ瞬間移動するかのような加速をすると出力が最大となったビームサーベルでシルヴァーシップを撃沈させた。

さらにケルベスが搭乗したターンXもその性能をフルに発揮し、キャラパスが次々に攻撃を仕掛けると機体がバラバラに分解され、オールレンジ攻撃でシルヴァーシップを破壊していく。そこにオルカの艦隊も加わって一方的に押されたシルヴァーシップはさらに後退した。

2機は敵を押しのけたが、戦艦のメガ粒子砲は止むことなく脱出艇を撃ち落としていいった。

ベルリたちの背後で炎が消えることはなかった。

ケルベス「ダメだ、他のリングの脱出艇は全滅だ」

ベルリ「どうしてなんだーーーー!」

そのときだった。シラノ-5の頭についていた資源衛星で巨大な爆発が起こり、周囲に拡散していく砂粒の煙の奥から真四角な箱に球体をくっつけたような物体が出現した。

ケルベス「あれが・・・」

ベルリ「薔薇のキューブ!」

それは、シラノ-5やビーナス・グロゥブにおいて、統治者にすら秘匿されていた宇宙世紀の遺物、薔薇のキューブだったのだ。側面に刻まれた巨大な薔薇の紋章はそれがヘルメス財団のものであることを示し、球体の下部についた巨大なノズルはそれが惑星間移動船であることを物語っていた。

ベルリ「これで・・・、これに乗って宇宙の果てから地球に戻ってきたのか! 行く先々で戦争の種を撒き散らしながらッ!」

薔薇のキューブは、惑星間移動船であると同時にとてつもなく巨大な移動式のスペースドックでもあった。生産設備を兼ね備え、人間を生存させ、人間同士を戦わせるものなら何でも生産できる設備なのだ。人間はこれに乗って外宇宙まで進出し、数百年も戦い続けた。

薔薇のキューブはゆっくりとシラノ-5から離れていった。破壊されずに残ったシルヴァーシップも合流し、正六面体の前面に2重の円を描くように布陣した。彼らはゆっくりゆっくり後退し、宇宙世紀時代のスペースコロニーの残骸に近づいていった。

シルヴァーシップの大艦隊が後退したことで、ムーンレイス艦隊は難なくシラノ-5に入港していった。作戦は成功したものの、これでトワサンガを取り戻したと言えるのかどうか疑わしかった。きっと法王庁はアメリアとムーンレイスがトワサンガを乗っ取ったと宣伝するだろう。

それはすでに放送されたかもしれないのだ。

戦闘はいったん休止状態となった。敵は攻撃を仕掛けてこず、ムーンレイスたちはシラノ-5に入っていく。メガファウナはサウスリングの脱出艇を守るように貨物用ハッチを離れて、ラトルパイソンと合流すると月に向かって移動していった。

MS隊はしばらく薔薇のキューブの出方を監視していた。ターンXがベルリのG-セルフの肩に手を置き、接触回線を開いた。

ケルベス「あのカブトガニみたいなMAは撃墜されたのか?」

ベルリ「そういえば、ラライヤ・・・」

ふたりの元へ1機のグリモアがやってきた。それにはアイーダが搭乗していた。

アイーダ「大変です! わたしたちの目の前でアルケインがカニみたいなのに捕まってそのまま・・・」

ベルリ「ラライヤが誘拐された!?」







サウスリングの貨物デッキはちょうど薔薇のキューブの死角になっていた。

生き残ったのはサウスリングの脱出艇だけであった。

彼らをムーンレイスの月基地に送り届けたメガファウナとラトルパイソンは、再びこの場所へ戻ってきていた。アメリアの2隻の前には、ディアナ・ソレルの旗艦ソレイユも停泊している。

メガファウナの艦橋にはディアナ・ソレル、アイーダ・スルガン、ベルリ・ゼナムが集結して今後の話し合いに挑んだ。

アイーダ「法王庁が敵で、彼らの名前で地球に偽の情報が発信されたのなら、わたくしはすぐにでもアメリアへ戻らねばなりません。そしてなぜ法王庁が今回の件の黒幕のような動きをしているのか、ヘルメス財団の真の目的とは何なのか、すべて暴かねば地球は常に戦争が起こる危うい世界になってしまいます。それは絶対に阻止しなくてはならない」

ディアナ「アメリア軍の総監だというアイーダさんが、現在の地球に戻ればおそらく大変な非難を浴びましょう。それでも行かれるというのですね?」

アイーダ「それはやむなきことです。政治家なら覚悟のこと」

ベルリ「ぼくはここに残ります。多くの人を死なせてしまって、もう王子なんて名乗る資格はないけれど、それでもぼくは生き残ったサウスリングの人たちを元の生活に戻す義務があると思うし、連れ去られたラライヤのこともある。それに気づいたんですけど、G-セルフやG-メタルには隠されていることが多すぎる。姉さんのことは心配ですけど・・・」

アイーダ「心配には及びません。大丈夫です」

ディアナ「ウィルミット長官の協力で月面基地について多くを知ることが出来まして、レイハントン家は我々にたくさんのものを託していると分かりました。ムーンレイスは月の守護者としてこれからも生きていく所存ですので、トワサンガのことは不幸な出来事も考慮して、宙域を明け渡せとの要求は撤回させていただきます。ただ、あの薔薇のキューブを倒すまでは、ここは基地として使わせていただかなくてはいけませんし、ベルリさんの協力がなければ成し遂げられないことも多いでしょう」

アイーダ「地球と月で戦力を分散する必要があるのですが、どうお考えでしょうか」

ディアナ「本来ならば全軍で薔薇のキューブを叩いてから地球に降下して状況を説明すべきでしょう。しかし、地球がもし反アメリアで結託し、ハリーの報告にあったように敵側にモビルスーツが供給されていたならば、最悪、フォトン・バッテリーが尽きるまで戦い続けることになる。対立の火種が燃え盛ってしまっては、鎮圧するのに武力が必要になる可能性もある。こちらから縮退炉の技術を提供させていただくこともできるのですが、それには・・・」

アイーダ「反対なんです。いずれ話し合わねばならないでしょうが、宇宙世紀時代のイノベーションの産物を再び地球に持ち込んでエネルギーが供給過多になった場合、人類がどのように考え、行動するかまったく読めません。もしかすると、エネルギーを消費させるためだけに戦争を続けさせようと考えるかもしれない。フォトン・バッテリー供給に頼って生まれた秩序を破壊して、そのあとの秩序をどう作ったらいいのかわたしたちには残念ながら知恵はないのです」

ディアナ「だとすれば、地球を再びクンタラの時代にしないためには、フォトン・バッテリー供給システムは維持すべきでしょうし、クレッセント・シップとフルムーン・シップを無事にビーナス・グロゥブへお返ししなければいけない。まどろっこしい気もしますが、この件でわたくしが口を挟むのはよしておきましょう」

アイーダ「そこで・・・、心苦しいのですが、ディアナ閣下の親衛隊をお貸しいただきたいのです」

ディアナ「ほう」

アイーダ「アメリアと敵対するゴンドワンのルーン・カラシュ、それに薔薇のキューブから新たに供給されたMSともにアメリアのグリモアやキャピタル・テリトリィのレックスノーでは太刀打ちできません。新しい機体を生産することもできないのが現状でして・・・」

ディアナ「スモーを提供するのではいけないのですか? あ、そうか。文字が違うのですね。ユニバーサル・スタンダードというものに統一されたとの話もお伺いしております。G-セルフをこちらに留め置くわけですから、見返りは考えますが、残った戦力で薔薇のキューブを叩けるかどうか」

アイーダ「メガファウナを丸ごと宇宙に置いていきます。お借りしたいのは、最も閣下の信頼が厚い親衛隊と、ターンXです」

メガファウナを置いていくとの話が出たとき、ブリッジにいたドニエル以下クルーの面々は深く溜息をついてうつむいてしまった。モビルスーツデッキでスピーカーの傍に陣取り耳を澄ませていたハッパなどは力なくその場にしゃがみこんでしまった。

ハッパ「いつまで戦い続けなきゃいけないんだ? 休暇は?」

ブリッジでは話し合いが続いていた。

ディアナ「ターンXは承知しました。パイロットのケルベス中尉も一緒ですね。それにキャピタル・タワーを奪還するためのガードの方々とそのレックスノー」

アイーダ「これでギリギリなんです。どうか・・・」

ディアナ「わかりました。もしそれだけの戦力をアメリアへ回すのならば、我々はクレッセント・シップとフルムーン・シップの守備に割く戦力がなくなってしまう。ハリーは最も信頼すべき部下ですので、それをお貸しするというのであれば、あの2機の価値はわたくしどもではわからないということもありますし、ともにアメリアで預かっていただきたい」

アイーダ「クレッセント・シップとフルムーン・シップをですか・・・。それは責任重大ですけど・・・、確かにビーナス・グロゥブにお返しする期日が決まっているわけですし、月に置いていて何があるかわかりませんね・・・。了解しました。クレッセント・シップとフルムーン・シップはこのアイーダ・スルガンが責任をもってお預かりいたしましょう」

ベルリ「ということは、クレッセント・シップとフルムーン・シップをビーナス・グロゥブに返却するまでにあの薔薇のキューブをやっつけなきゃいけないってことになる」

アイーダ「どちらにしてもフォトン・バッテリーの余裕はありません。短期決戦ですべてのケリをつけなければ!」

ベルリ「わかりました。姉さん、気をつけて」

アイーダ「希望的楽観的すぎると言われるやもしれませんが、もしことが解決されたならば、地球のすべての戦力を率いて援軍に参ります。それだけのことを成し遂げる意気込みと覚悟はこの胸の中に」








旗艦ソレイユへ戻ったディアナ・ソレルに、ハリー・オードが近づいてきた。

ハリー「お話は伺いました。自分を地球へ派遣するとか。よろしいので?」

ディアナ「(ハリーを近づけ耳打ちをする)あなたもディアナさまのお墓には行っておきたいのでしょう? それに、姫さまが知っておられる外宇宙へ脱出した文明存続派が絡んでいるのは確か。今後のためにもその手掛かりが欲しい」

ハリー「(声を潜め)ロランとともにアメリアのどこかに隠棲した際に何かを隠された可能性が?」

ディアナ「加えて地球の状況など。あとから戻ってきた外宇宙脱出派の内部分裂には、文明存続派と文明リセット派の対立があるように思えてならない。しかし彼らは多くの点で一致しているようにも見える。なぜいまになって対立したのか。少しでも手掛かりがあるのなら」

ハリー「アメリアへ行くのは500年ぶりですか。何もかも変わっておりましょう。彼らが連れて行ったリックとコロンが生きてりゃいいのですが」







ケルベスがメガファウナのブリッジからラトルパイソンに戻ると、彼が連れてきたキャピタル・ガードの兵士たちが駆け寄ってきた。

トリーティ「どうでしたか?」

ケルベス「地球へ戻ることになった。どちらにしてもあんなデカブツ相手ではレックスノーは役に立たん。(両手を上げ)代わりのMSの提供もなしだ。ただあのターンXだけは使えるぞ。曰く付きらしいが、壊れるまで頑張ってもらうしかない」

教え子A「タワーは取り返せるでしょうか?」

ケルベス「最後には取り返すさ。しかし、クレッセント・シップとフルムーン・シップを地球帰還組で預かることになったし、ザンクト・ポルトを少し見て、敵が完全制圧しているようならいったんはアメリアだ。それは覚悟しておけ。しかし最後には必ず取り返す!」

教え子B「ジムカーオに寝返った連中は一体どんな奴らなんだ!」

ケルベス「マスクの仲間だった連中だろうな。クンタラだよ。結局、キャピタル・テリトリィに根強く残っていた差別意識が、こういう事態を引き起こしたともいえる。ガードの中にもマスクへの賛同者は予想以上にいたということさ」







ラライヤが薔薇のキューブに拉致されたとの話を聞いたノレドは力なく床にへたり込んだ。

ウィルミット「外はそんなことになっていたのですか?」

ゲル法王とリリン、それにノレド、ウィルミットの4人は冬の宮殿で情報解析の作業を続けていた。冬の宮殿は月の奥深くにあるために、激しい戦闘のことは冬の宮殿が同時録画した映像でしか知らなかった。それにはラライヤのことも薔薇のキューブのことも映っていなかったのだ。

兵士「ついては皆さまは引き続き作業をしていただきたいとのことでございます」

ウィルミット「もしアイーダさんにお時間があるなら、こちらにお越しいただきたいのですが」

アイーダ「もうお越しさせていただいております」

アイーダの姿を見るなり、椅子から飛び降りたリリンが駆け寄って両手を差し出した。戸惑うアイーダに、ウィルミットが説明した。

ウィルミット「いま宇宙世紀初期の映像を分析しているのですが、ロックが掛かっているものがあって、それを解除するのはもしかしたらG-メタルというものとレイハントンコードじゃないかと話し合っていたところなんです」

アイーダ「ああ、これですか」

そういうと彼女は首から下げていたG-メタルを取り出し、紐を外して小さなリリンに預けた。受け取ったリリンはそれを細長い窪みに差し込んだ。キュルキュルと音が鳴り、コンソールから弱い光が伸びたので、アイーダはその光に眼をかざした。

すると、1秒ほど再生されたところで止まっていた映像が流れ出した。

リリン「2時間あるんだよ」

アイーダ「残念ながら全部を見ている暇はなさそうです。ここへ来たのは他でもなくて、ゲル法王猊下にお伝えしなければならないことがあるのです」

ゲル法王「(意外そうに振り返り)いったい何事でしょうか?」

アイーダ「薔薇のキューブ、そして宇宙世紀復活派の黒幕は法王庁でした。法王庁およびヘルメス財団は、初めからゲル法王猊下を謀り、今回の事件を仕掛けてきたのです。ただ、その目論見の全容が解明されたわけではなく、目下調査中です」

それを聞いたゲル法王は静かに頷いて、まっすぐにアイーダを見つめ返した。

ゲル法王「そんな気がしておりました。ビーナス・グロゥブで説法をさせていただく前、亡きラ・グー総裁は彼の地の神父、牧師、そのほか法王庁関係者すべてに逮捕状を出して連行していたのです。それを見たときに、この日が来るのは覚悟しておりました。しかし、法王などという身分に関わらず、わたくしはひとりの神学者としてスコード教の原点、信仰が起こるきっかけになった奇跡を見つけたいと欲し、ここにいらっしゃるウィルミット長官、ノレドさん、リリンちゃんの力をお借りしてまさに勉学させていただいているのです。これを解明することが出来たのちは、いかなる処分も甘んじて受ける覚悟でございます」

アイーダ「処分などと・・・」

ゲル法王「法王だのと崇められながら何も知らなかったわたくしには、相応の罰があってしかるべきです。しかし、いましばらく時間が欲しい。ひとりの神学者としてスコード教の原点を知りたい。もしそれを知ることが出来たのなら、あとは何も望みません」

アイーダはふと4人が研究しているという映像を見た。

そこには人類だけでなく地球上のすべての生物を亡ぼせるほど巨大な小惑星が、地球に落下しようと邪悪な意思に導かれているさまが映っていた。なぜそこまで地球文明を憎むのか。なぜスペースノイドの英雄は追い込まれたのか。神学者ではないアイーダにはわからなかった。








薔薇のキューブの中に、ゆっくりとザム・クラブは降りていった。その8本の脚にはしっかりとG-アルケインが捕らえられている。

ラライヤ「放せ、このッ!」

ザム・クラブにG-アルケインごと鹵獲されたラライヤは、ザム・クラブから降りてきたエンフォーサーに羽交い絞めにされてジムカーオの元へ連行されてきた。ラライヤは必死に暴れたが、エンフォーサーの力は強く、ビクともしなかった。

ジムカーオ「素晴らしい能力を発揮されていたのはあなたでしたか。お久しぶりです。カシーバ・ミコシの中で対面して以来ですかな」

ラライヤ「あんたの悪事は全部暴いた! わたしなんか捕まえても逆転などできないですよ! 諦めてバカなやめはやめなさい!」

ジムカーオ「悪事などと人聞きの悪い。自分はヘルメス財団の者ですから、財団の意向のままになすべきことをやっているだけです。あなたにはちょっとした実験台になっていただきます。バララ・ペオールという人物に心当たりがあるでしょう? 彼女にはニュータイプの資質がありまして、エンフォーサーユニットとして思念を移してみたのですが、どうにも安定しないので、もっと強いニュータイプを求めていたのですよ。それがあなたです」

ラライヤ「ニュータイプ?」

ジムカーオ「連行しろ」

ラライヤはエンフォーサーに捕まったまま廊下を連行されていった。どんなに暴れてもピクリとも動かない。廊下では白衣を着た数名の人間とすれ違った。

ラライヤ(薔薇のキューブの中に住んでいる人たちか・・・。ノレドの話では彼らもエンフォーサーだと言っていた。ハッパさんの話・・・、思い出せ! そうだ、エンフォーサーユニット。つまり、ニュータイプとサイコミュで何かを執行する・・・)



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この続きはvol:61で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第19話「トワサンガ大乱」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第19話「トワサンガ大乱」後半



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戦線を離脱して独自の行動に移ったメガファウナを目ざとく見つけたのは、トワサンガから発進してきたクノッソスだった。

ドニエル「ドレッド軍は壊滅したんじゃなかったのか? サウスリングへ取りつく。MS隊発進。姫さまはここにいてくださいよ」

アイーダが出撃するのを制止したドニエルは、メガファウナごとサウスリングに入港する手段がないか必死で探していた。彼らを追ってきたクノッソスからもYG-201が大量に出撃してきた。YG-201はフォトン・バッテリーを動力源とするG-セルフの量産機であった。

頭部と関節部分を簡素化させた以外はG-セルフと大きく違わない機体相手にベルリは戦うことになった。彼らは盾を装備しており、中距離からのビーム攻撃ではなかなか倒せなかった。

ケルベス「ベルリ、これはメガファウナをサウスリングに入れるための作戦だ。道を空けなきゃいかんのだよ!」

そういうとケルベスはターンXで中央突破を試みた。ターンXという謎の機体は全身からあらゆる攻撃が可能でケルベスの意思に従って戦闘モードを自律的に選択しているかのようだった。ターンXが巻き起こす爆発の閃光の向こうに一筋の光が輝いた。

それは変形したラライヤのG-アルケインであった。ラライヤは飛行形態に変形してクノッソスの弾幕を潜り抜けて一足先にサウスリングにへと侵入したのだ。

上空では艦隊戦が続いていた。ボードゲームのように複雑に艦隊を動かしながらの戦いは熾烈を極め、トワサンガ側もメガファウナ追撃に艦隊を割くわけにはいかないようだった。彼らの前を塞ぐのはクノッソス1隻だけである。

G-セルフのコクピットにドニエルからの通信が入ったが、ミノフスキー粒子が濃く、声は途切れ途切れになっていた。ベルリは追いすがるYG-201にビームを浴びせ、クノッソスのブリッジの前に出た。

ベルリ「ぼくはベルリ・レイハントンです。この戦闘を中止してください。一体誰の命令で戦っているのですか?」

クノッソスの艦橋にはノーマルスーツ姿の人間たちがいた。エンフォーサーでないことに安堵したベルリだったが、同時にノレドの言葉を思い出していた。ノレドはビーナス・グロゥブの薔薇のキューブの中で、G-ルシファーが人間もエンフォーサーとして認証していたと彼に話していたのだ。

ベルリ「ドレッド軍は壊滅したはずなのに、これほどの戦力を動員できるはずがないんだ。彼らが人間のエンフォーサーだとしたら・・・」

ベルリが艦橋を離れた瞬間、メガファウナの主砲がクノッソスに着弾した。

ベルリ「やはりぼくは姉さんとトワサンガに入らなきゃいけない!」







サウスリングの貨物用ハッチから内部に潜入したラライヤ・アクパールは、内部で激しい銃撃戦が行われているのを目撃した。飛行形態から変形したG-アルケインは、レジスタンス側の前に出ると見えない相手に頭部のバルカンを発射して威嚇した。

機体を降りたラライヤは、銃を取って戦う学生や老人たち、それにレジスタンス協力者ではない一般のサウスリング住人らと顔を合わせた。ノレドの近衛隊長としてお披露目されたラライヤの顔は誰もが知っていて、大きな歓声が上がった。

ラライヤ「どうしたことですか?」

前へ進み出てきたのはターニア・ラグラチオン中尉であった。彼女はほつれかけた三つ編みを直すいとまもないほど疲れているようにみえた。

ターニア「兵団長、これはトワサンガ憲章違反です」

学生A「王政も民政も機能していないのに、軍部が勝手に」

ターニア「(誰ともなく怒りをぶつけるように)どこの軍部でもないんです。ジムカーオ大佐が地球から連れてきた兵士は私兵ですよ」

ラライヤはトワサンガの外で大規模な戦争が行われていることを説明した。100隻の軍艦を運用するのに必要な人員が徴兵されたか確かめるためであった。学生たちは他のリングで学生及び一般兵の徴兵がなされ、学徒のための小型MSが開発されていることなどを話したが、急遽徴兵した人員だけであれだけ大規模な艦隊戦が行えるはずがなかった。

ラライヤ「(天を見上げ)やはりおかしい」

学生A「それで仲間たちとサウスリングへの入口を遮断したんです。いまは一般住民もこちらを支持してくれています。でも重力装置を止められると厳しいです」

ラライヤ「緊急避難訓練通りに全員にノーマルスーツを着用させて1カ所に集めます。サウスリングに残っているのは何人ですか?」

ターニア「1万人は超えますね」

1万人ではメガファウナに収容して地球へ連れていくことはできない。頭を悩ましているときにようやくベルリのG-セルフが到着した。コクピットを降りてきたベルリに、ラライヤはわけを話した。

ベルリ「クレッセント・シップとフルムーン・シップを使えば運べないかな」

学生B「え、ぼくら学業の途中なのに地球に移住するんですか?」

ベルリ「地球じゃない。月だ。月のムーンレイスに保護してもらおう。戦争が続いているところにいても徴兵されるだけ。まずは身の安全を考えないと」

学生B「ムーンレイス・・・。本当にいるんですか?」

ムーンレイスと聞いてレジスタンス派の人々は愕然としたようだった。彼らにとってムーンレイスはお伽噺に出てくるとっくに滅びた種族だったからだ。すでにターニアから聞いてはいたのだが、信じていないものも多かったのだ。

彼らにビーナス・グロゥブで起こった出来事を説明している暇はなかった。ベルリはラライヤの指示に従うように彼らを説得した。

サウスリングの貨物ハッチの前にはターンXが陣取って入口の安全を図るとともにメガファウナの露払いを行っていた。メガファウナが到着するとターンXはその場を離れてベルリらと合流した。いまのところセントラルリングからサウスリングへの攻撃は行われていない。

ラライヤ「ジムカーオ大佐も接触してきませんね」

ラライヤと学生たちが中心となって、サウスリング住民の緊急避難が始まった。1万人を超える数の避難は地球であれば大変な混乱をもたらすものだが、スペースノイドである彼らは万が一の場合を考えていつも脱出の訓練を受けているので、目立った混乱はなかった。

ラライヤ「備蓄食料のバックパックは絶対に忘れないでください。自分の分は必ず背負って!」

上空で監視活動を行っていたケルベスのターンXから通信が入った。彼らが潜入した12番地区には他の地区からの移動者が続々とやって来ていた。

ケルベス「上のリングへの通路はあっちか? オレが偵察に行ってくる」

そこへメガファウナの連絡用ランチが到着してアイーダが降りてきた。

アイーダ「どうなっているんですか?」

ベルリ「サウスリングの住民が自主的にリングを閉鎖して上の階層の連中と戦っているみたいなんです。いまケルベス教官が偵察に向かいました」

アイーダ「避難させてどうするつもり?」

ベルリ「クレッセント・シップとフルムーン・シップで月に避難させるんですよ」

アイーダ「(マイク越しに)クレン、聞いた? クレッセント・シップとフルムーン・シップをサウスリングに近づけなくてはなりません。すぐにディアナ・ソレルに連絡を」

クレン・モア「敵の腹の中にいるんですよ。生きて出られるかどうかもわからないのに、連絡なんてつくわけないじゃないですか!」

ケルベス「あの大型2隻は月の表側にいるんだ。こちらに来るまでに時間が掛かるぞ」

ラライヤ「アイーダさん、聞こえますか? 1000人収容の脱出艇が10席以上配備されています。ただ非武装なので艦隊戦の真ん中に放り出すわけはいかないんですよ」

アイーダの頭の中に一瞬シラノ-5の他のリングを襲撃する作戦がよぎった。北側のリングを攻撃すれば、南側のリングの防衛は手薄になる。しかしその考えに何か違和感を感じて思いとどまった。

彼女はベルリのヘルメットに自分のヘルメットを当てて、接触回線を開いた。

アイーダ「何かおかしいと感じませんか? わざと攻撃させようとしているかのような」

ベルリ「ゴンドワンの艦隊もなぜ前線に出したのか・・・。やり方が理不尽すぎて」

アイーダ「これは推測ですけど、守ろうとしているものが人命でないとしたら? 彼らは彼らの考えやイデオロギーを守ることしか頭になかったら?」

ベルリ「ヘルメス財団の宇宙世紀回帰派ってことですか?」

アイーダ「自分たちがやろうとしていることをさも他人が推し進めているように見せかけて、宇宙世紀への回帰という誰も望んでいない彼らのイデオロギーを隠す目的があるとしたら?」

ベルリ「ここは姉さんに任せます。ぼくは教官と一緒に北のリングへ上がってみます」

アイーダ「相手の思惑に気をつけて!」

ベルリはG-セルフに乗り込んでケルベスと合流すると、ともにセントラルリングを目指した。







G-シルヴァーはついにビームライフルのエネルギーを使い果たしてそれを追撃してくるモビルスーツに投げつけた。

クリム「くそ。こんなところで、こんなところで死ぬのか? ミック、すまん!」

そのとき、目の前にあったシルヴァーシップの側面が開いて中からYG-201が出撃していった。クリムはハッチが閉まる前に中へ飛び込み、モビルスーツデッキに武器がないか探した。YG-201が装備している小型ビームライフルを見つけると、フォトン・バッテリーが減っていないことを確かめ、シールドとともに奪った。

武器を手にして少し安心したクリムは、シルヴァーシップのなかを観察する余裕ができた。

クリム「なぜ・・・、なぜ誰もいないんだ?」

そこはモビルスーツデッキであるのに明かりはなく、ただ機械が動いているばかりであった。外気をチェックすると空気もない。クリムはコクピットの中に武器がないか探したが、ノーマルスーツの予備があるだけで短銃ひとつ置いていなかった。

彼は好奇心に勝てず、ハッチを開いてコクピットを離れた。G-セルフと同型機を得たことより、自分がなぜこのような状況に陥ったのか知りたい欲求が勝った。

クリム「G-セルフが欲しいのならばくれてやる。どうせここまでの命ならば、オレを騙した奴らの真意を知りたい」

彼は慎重にデッキを離れ、ブリッジを探した。文字らしきものを見つけるたびにヘルメットのライトを灯して読もうとするが、どれもクリムが知らない文字ばかりであった。

状況の大意を掴むことに長けた彼は、シルヴァーシップが無人船であることを確信した。それで空気がないのである。この船には外から見えるブリッジも存在しないことから、指令を受ける中央管制室があるはずだとアタリをつけて、それらしい部屋を探した。

クリム「無人で運用もできるが、いざとなれば人間でも動かせるように設計されているから、こうしてオレが通れる通路も確保されているのだろう。ならば導線を辿ればおのずと!」

彼が潜り込んだ場所は、まさにブリッジにふさわしい場所であった。通常の艦艇のように人が行きかう空間が確保されている。ただこの船の場合、それが船体の中央に位置しているのだ。

真っ暗な部屋には、表示パネルの明かりだけが微かに点っていた。天井が低く、圧迫感がある。パネルを覗き込んでみても書いてあることがさっぱりわからない。違う文明のものなのか、それとも古い文明のものなのか判然としなかった。

クリム「文明が興って1万年になろうというのだから、様々な文字があるだろうが、リギルド・センチュリーの文明ならば文字はユニバーサル・スタンダードであるはずだ。言葉の通じない人間同士は相互理解が進まずにすぐに争いごとを起こす。つまりこれは、リギルド・センチュリーの文明ではないということか。なぜそんなものがトワサンガにあるのだ? 法王庁の人間がなぜそんなものを使っているのか? 重大なタブー破りではないか」

考えごとをしていたクリムはふいに視線を感じて振り返った。そこには銀色の肌を持つ女性が、艦長席に相当する場所に座っていた。ずっとそこにいたのか、気づかないうちに座ったのかいまとなっては確かめようがなかった。

クリム「お前、何者だ?」

クリムは周囲を警戒しながらそれに近づいた。女はまっすぐに前方を見たまま動かない。銀色の肌はまるで人間そのもののように思えたが、触ると冷たく、機械の身体であることは疑いようがなかった。クリムが顔を覗き込んだとき、エンフォーサーは初めて反応した。

エンフォーサー「認証できません」

クリム「そりゃそうだろう。初対面だからな」

彼はフンと鼻で息をしてその場を離れようとした。しかし、何か引っかかるものを感じて艦長席に座るエンフォーサーの前に身を乗り出した。

すると、エンフォーサーの顔つきが徐々に変化してきた。肌の具合だけでなく、骨格から変わって輪郭を再構成し始めた。驚いたクリムは後ずさったが、目を離すことはできなかった。

エンフォーサーは、ミック・ジャックの顔に変化したのだ。

エンフォーサー「クリム。あたしがあなたを再び地球へと導きます。あなたはこのスティックスにいてください」

クリム「ミック・・・なのか?」

エンフォーサー「残念ながらミック・ジャックは死んだのです。しかしいまとなればわかります。人の思念に境界はない・・・。あたしは弱いけど、あなたを地球に還すことならできる」

クリムの乗ったトワサンガの銀色の戦艦スティックスは、ゆっくりと方向を変えて戦線を離脱していった。







ラライヤの鼻がぴくっと動いて、彼女はどこを見るともなしに顔を上げた。

学生A「脱出艇への乗り込みが終わりました。どうかしましたか?」

ラライヤ「いえ、何か変な感じはしませんか?」

学生A「(肩をすくめ)いいえ。それより戦争が激烈すぎて、とてもあの中をかいくぐって脱出するのは不可能そうです」

ラライヤはそれに応えず、神経を集中させた。彼女は何かが宙域から離れようとしていることを感じていた。ただそれが何かまではわからなかった。

ラライヤ「ここの指揮は任せます。アイーダさんの指示に従ってください」

そう告げると彼女はG-アルケインへと戻り、ハッパが用意した新しいコクピットの性能をフルに解放した。すると彼女の思考から靄が消え去り、何もかもがクリアになった気がした。そして彼女はシラノ-5の中にいながら、トワサンガ軍の隊列から1隻のシルヴァーシップが離れようとしているのを感知した。それにはクリム・ニックとミック・ジャックが乗っている。

ラライヤはすぐさま機体を発進させて宇宙へと出た。艦隊戦はいまだに続いていたが、艦砲射撃の合間をかいくぐってG-アルケインは1隻のシルヴァーシップへと迫った。

シルヴァーシップもG-アルケインを察知し、のっぺりとした船体から射出口を突き出して迎撃ミサイルを発射した。ミサイルを射出してしまうと突起はすぐになかへと引っ込んだ。メガ粒子砲も同様であった。のっぺりして何もないように見えながら、武器の射出口がいくつも備わっているのだった。

ラライヤ「ミック・ジャック!」

彼女はミックの名を叫び、対艦ビーム・ライフルを構えて攻撃した。シルヴァーシップからは大量のMSが出てきた。どれもG-セルフの量産機であった。再び対艦ビーム・ライフルを背中に固定すると小型ビームライフルに持ち替えて応戦した。

放出されたMSを残し、シルヴァーシップは速度を上げていった。

ラライヤ「待て! ミック・ジャック!」

そう叫んで変形しようとしたとき、ラライヤの脳裏に強い思念が伝わってきた。キョトンと我に返ったラライヤは、強い思念の主がベルリであることを知った。

ラライヤ「あたしなんでミックさんが生きているなんて思ったのだろう? ベルリ?」

後ろを振り返ったがそこには誰の姿もなかった。







ベルリの脳裏にラライヤの叫び声が聞こえた。彼女はすでに死んだミック・ジャックの名を叫んでいた。ベルリは咄嗟にラライヤの感情を制止した。するとおかしな現象がすぐに収まった。

ところが今度はG-セルフが反応した。コクピットの動作音がひときわ大きくなったのだ。

ベルリ「(慌てながら)うわっ、何か勝手に動き出した!」

ケルベス「どうせ変なスイッチでも触ったんだろう?」

スピーカー越しにケルベスの暢気な返答を耳にした瞬間、シラノ-5の重力を生み出すリングの回転が止まった。緊急警報が鳴り響き、コロニー内は警報の点滅の赤に染まっていった。

ケルベス「(慌ててシートベルトを閉めながら)ベルリ、お前何をした!」

ベルリ「いえ、G-セルフが勝手に・・・。ええーーーーー!」

セントラルリングへ通じるハッチが開いた。G-セルフとターンXは通路を通ってセントラルリングへと出た。

商業地域であるセントラルリングは戒厳令下であるために人はまばらであったが、重力を失って慌てふためく人々がノーマルスーツを求めて飛び交っていた。ベルリは大きく息を吸い込むと、外部スピーカーを通じて兵士や一般人に呼び掛けた。

ベルリ「ベルリ・レイハントンの名を持って命じます。みんな武装解除して通常の生活に戻ってください。戦争なんかしている場合じゃないでしょ?」

それでもなおG-セルフめがけて発砲してくる兵士が多くいた。モビルスーツの手でそれを防ぎながら、ベルリは兵士たちから機関銃を取り上げた。

ベルリ「誰の命令で動いているんですか!」

G-セルフに摘み上げられた兵士はジタバタともがきながらスコードと叫んだ。

兵士「あんたたちは反スコードの悪魔たちなんだろう? 放せ、汚らわしい!」

ベルリ「こちらには地球の法王さまだっているんです。反スコードなわけないじゃないですか!」

それでも兵士たちは信じず、抵抗を続けた。

兵士「お前たちの悪事は全部生中継されているんだ。トワサンガだけじゃない。地球にだって中継されている。ムーンレイスとアメリアは反スコードの悪魔だ!」

地球に中継されていると聞いたベルリとケルベスは、この戦争がアメリアとムーンレイスを貶めるための策略であることを悟った。

ベルリはスイッチを切っていたラジオの電源を入れた。すると古代種族ムーンレイスが反スコード国家アメリアと結託して世界を宇宙世紀に戻そうと画策していると盛んに宣伝されていた。発信元は法王庁であった。

ベルリとケルベスは、自分たちと一体であると信じていた法王庁こそが黒幕であったことを認めるしかなかった。ヘルメス財団の本体は、法王庁だったのである。




ノースリングのさらに上にある薔薇のキューブから、カブトガニの形状に似たMAザム・クラブが発進した。

ザム・クラブは望遠レンズでラライヤが搭乗するG-アルケインの姿を捉えていた。



(ED)



この続きはvol:60で。次回もよろしく。
















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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第19話「トワサンガ大乱」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第19話「トワサンガ大乱」前半



(OP)


ムーンレイスの艦艇はリギルド・センチュリーのものとデザインが大きく違い、どれも流線型の美しい形をしている。新造されたものや古くより使われていたものを合わせて100隻にもなる大艦隊が月の裏側の宙域に結集しつつあった。

それに呼応するかのように、トワサンガからもクノッソスが出てきた。だがクノッソスの数は少なく、ほとんどが銀色ののっぺりとした細長い船であった。その船には艦橋はついておらず、砲台もない。形は長方体であるが角が丸く、特に先端部分にはかなりの丸みがついている。どこに武器が隠してあるのか、どこから外を見ているのかまるでわからない。

その先頭にいるのはゴンドワンから宇宙へ上がってきたガランデンとオーディン2隻であった。宙域には大量のミノフスキー粒子が散布されていた。

ムーンレイス・アメリア同盟の指揮はソレイユに乗艦するディアナ・ソレルに委ねられていた。

ディアナ「オルカはホエールズとは違ってソレイユと性能は同じなのですから、火力の乏しいメガファウナの前に出て守ってあげなさい。メガファウナは状況を見て作戦通りに」

ディアナは望遠カメラで捉える正体不明の戦艦を、薔薇のキューブで作られた宇宙世紀末期のものと推測していた。問題は動力源であった。フォトン・バッテリーが使用されていれば、いくらトワサンガにバッテリーが豊富にあるからといっても限度がある。

しかし自分たちと同じ縮退炉が使われていた場合、戦闘はかなり長引くことになる。

戦いの火ぶたは双方の先陣が100㎞まで接近したとき、主砲の撃ち合いによって始まった。漆黒の闇に包まれた月の裏側の宙域に、禍々しく伸びた閃光と火花が飛び交った。

その様子は月面裏側の地下にある冬の宮殿にも映像が送られていた。冬の宮殿に映し出された戦争の映像を見上げていたゲル法王とウィルミット・ゼナムは固く手を組んでそれを見つめていた。

ウィルミット「(泣き出しそうな声で)こんなの・・・、冬の宮殿にある宇宙世紀の映像と変わらないじゃありませんか」

ふたりとともに冬の宮殿に残ったのは、ノレドとリリンであった。旧時代のコンソールの操作は他の3人ではまるでわからず、リリンだけが操作方法を見つけて動かすことが出来た。

彼女は空中に投影される戦争の様子にはさほど興味を示さず、その映像が録画されていることを発見して興奮していた。冬の宮殿は、古い映像を保存するだけでなく、新しい戦争の映像を記録する巨大装置でもあったのだ。映像は撮り溜まると自動編纂されてひとつの映像として繋がれていった。

ゲル法王「冬の宮殿がこの戦争を記録しているのならば、この戦いもまた人類の黒歴史なのです」

ノレド「クリム・ニックの覇権主義がまた黒歴史を生み出したんだ。あいつ、ミック・ジャックさんが死んだってのにお葬式も出さないでこんなこと!」






先陣に出されたオーディン1番艦の艦長ドッティ・カルバス中佐は、生まれて初めて体験する宇宙での大規模戦闘に戸惑い、恐怖を感じていた。

クリムトン・テリトリィの利権に目がくらんでクリム・ニックを出し抜いてゴンドワン軍の指揮官になったはいいが、彼は地球での大陸間戦争の経験しかない。そしてフォトン・バッテリーの制限のある地球ではこれほどの数の艦隊戦など起こりようもなかったのである。

自分たちが同盟を結んだトワサンガも、敵対するムーンレイスも、彼の常識を逸脱した存在に思えた。古代種族と紹介されたムーンレイスが異質であるのはまだしも、自分の背後にいるトワサンガ軍にも同じものを感じるのはなぜなのか。宇宙に上がってきたばかりの彼には知る由もなかった。

戦いは双方が10分の1程度の戦力を割いた艦隊のみで続いていた。ムーンレイス側の艦隊行動はよく訓練されていて、ゴンドワンの3隻の艦艇は後手に回って被害を拡大していた。

ドッティ「まだMS戦にもなってないんだぞ。なぜこんなに被害が出るんだ! ガランデン、もっと前へ!」

するとガランデン艦長のロイ・マコニックから光通信で暗号文が届き、艦隊行動ができない自分たちは下がるべきではないかと意見された。

ドッティ「下がる? 下がっていいのか? それは誰に許可を取るんだ? とりあえず回避!」

この回避行動が失敗だった。右舷に舵を切ってメガ粒子砲をかわしたオーディン1番艦は、ガランデンの逆に動いてしまい、先陣の中から1隻だけはみ出るように離れてしまったのだ。

オーディン1番艦は右翼に展開して前に出てきていたムーンレイスのオルカに一斉射を喰らって横腹にしこたま被弾してしまった。

ドッティ「いつの間にか目の前に展開している部隊がいるじゃないか。なんでどこからも情報が来ないんだ? MS隊発進。あの艦隊を叩け!」

通信士「ガランデンより入電。トワサンガの艦隊の動きに合わせろとのことです」

ドッティ「弾幕が薄い! MSにも外へ出て船の護衛をさせろ。船は回避!(通信士に向かって)隊列に戻れってことか? よし回避しつつ下がれ」

オーディン1番艦は一見果敢に戦っているようで、回避行動が多すぎて主砲の狙いが定まらず何の成果も挙げられていなかった。わずか数か月でクリムが世界一の金持ちになっていった様を間近に見ていた彼は、早く地球に還って自分がその座に座ることにしか興味がなかったのである。







ドニエル「これじゃオレたち、何もできんぞ」

大艦隊の左翼後方に置かれたメガファウナは、トワサンガ・サウスリングに強制着陸してレジスタンス派に連携を持ち掛ける作戦にいつ持ち込むか考えあぐねていた。

副艦長「ジムカーオというのが言葉巧みに自分らをトワサンガに入れなかったのは明らかなんですから、住民が蜂起して彼を追い出してくれさえすればこの戦争は終わるんですがね」

ドニエル「こっちは王子さまと姫さまがいるんだから、何とかなりそうなものだが」

ギセラ「何とかされちゃ困るから入れなかったんでしょうよ」

メガファウナのモビルスーツデッキではすでに各員がスタンバイした状態で戦闘配置についていた。しかし艦隊戦の様相を見せてきたことから、大規模戦闘の訓練をしていないメガファウナとラトルパイソンは戦場の後方に置かれたままになっていた。

ラトルパイソンのブリッジではアイーダが恐怖心に駆られながらモニターを見上げていた。

アイーダ「アメリア軍総監として戦場の映像は随分見ることになりましたが、結局あんなものは子供同士の小競り合いに過ぎなかった。宇宙での戦いは規模が違う」

ブリッジクルー「ディアナという人はなぜこんな複雑な指揮が執れるのでしょうか?」

アイーダ「ウィルミット長官が宇宙世紀時代の設備の中に残っていたデータを偶然発見したとかで、それに基づいて行っているとは聞きましたが」

そのような危険なデータが廃棄もされず残されていることが恐怖であった。基地として使われていたところにはそうしたものが残され、宇宙空間にはいまだにMSに搭載されていた小型原子炉がデブリになって高速で飛び回っている。もしこの艦隊戦に勝利を収めても、宇宙空間にさらなるゴミと人間の死体を増やすばかりなのだった。

アイーダ「やはりわたしたちがここで責務を果たさなければ。グリモアを1機用意。メガファウナに光通信でいまからそちらに行くと伝えてください。ラトルパイソンは艦長に任せます」

ブリッジクルー「姫さまにそんなことさせられませんよ!」

アイーダ「わたしがここにいても役に立てることはありません」

そういうとアイーダはブリッジを降りてグリモアで宇宙に飛び出してしまった。

緊急入電を受けたメガファウナはアイーダの行動に驚いてグリモア隊を出撃させた。メガファウナのグリモア隊はアイーダのMSを隠すように広く展開してビームに警戒した。

モビルスーツデッキに入ったアイーダは懐かしい顔と対面して旧交を温め合うつもりであったが、すぐさま大勢に囲まれて説教を受けることになった。

アダム・スミス「大事なお身体であらせられるのになんという無茶を」

アイーダ「あーー、うるさい! ベルリはどこですか?」

騒ぎを聞きつけたベルリもG-セルフのコクピットから出てきて騒動に加わった。嬉しそうな顔をしながらも口々に文句を言ってくるデッキクルーを押しのけて、アイーダはベルリとラライヤを近くに招き寄せた。

アイーダ「こんな宇宙世紀みたいなことをさせていてはいけないと思うんです。ラライヤさん、サウスリングにどうやったら入れるでしょうか?」

ラライヤ「こちらをサウスリングに誘い込む作戦だったらどうするんですか?」

アイーダ「かといって見てください、この怖ろしい光景を。これを終わらせるにはやはりわたしたちがトワサンガの住民に訴えかけるしかないのでは?」

ラライヤ「サウスリングは確かにわたしたちに好意的ですけど、なかの様子はわからないんですよ」

ベルリ「母さんの話や艦隊の出撃の様子から察するに、ジムカーオ大佐がノースリングを拠点に動いていることは確かですよ。もちろんラライヤさんの言う通り罠かもしれませんけど」

アイーダ「ハッパさん!」

輪の中に入らずG-ルシファーの整備をしていたハッパを手招きで呼び寄せると、アイーダは空いている機体はないか尋ねた。ハッパは腕組みをして珍しく政治的な発言をした。

ハッパ「確かにグリモアで乗り込むと、アメリアの侵略行為だと宣伝に使われる可能性もありますね。でもこちらも空いているのはG-ルシファーくらいで」

ラライヤ「ルシファーが使えるなら、わたしがアルケインを降りて・・・」

ハッパ「待て待て。G-アルケインにはサイコミュをつけてあるんだ。もしまたエンフォーサーのG-シルヴァーとベルリが戦うことになったら、ラライヤに何とかしてもらわないと危険だ」

ラライヤ「G-ルシファーのコクピットもサイコミュというシステムなんでしょう?」

ハッパ「いや、あれはエンフォーサーがユニットなんだ。機体自体には搭載されていない。パネル操作が後ろについているからまだ複座のまま改造が出来ていなし、もし戦闘中に敵のエンフォーサーがコクピットに乗り込んで機体を乗っ取ったらどうする? 長官の話じゃお茶汲みさせるくらいたくさんいたらしいじゃないか。とにかく、艦長の許可を取ってくれないと絶対に出せないからな!」

それを聞いたアイーダは各自持ち場に戻るように指示をすると、ベルリとラライヤを伴ってメガファウナのブリッジに上がった。

ベルリ「姉さん、本当にやるつもりなの? 一応ぼくが王子なんだから、ぼくだけ行けば・・・」

アイーダ「弟だけにしょい込ませるのは嫌なんです!」

3人が艦橋に姿を現すと、ギゼラとステアが小さく拍手をして出迎えてくれたが、ドニエルはカンカンで、拍手をするふたりを歯を抜き出してギッと睨みつけた。

ドニエル「無茶しないでくださいよ、姫さま」

アイーダ「艦隊戦の様子はどうです?」

副艦長「オーディン2番艦が1番艦の盾になって撃沈しましたよ。1番艦っておそらくクリムでしょ? あんなことをするのは指揮官の器じゃないね」

アイーダ「ではまだ被害は1隻だけ?」

ドニエル「1番艦ももうじきでしょうなぁ。動きがおかしすぎる」

アイーダ「このまま全軍入り乱れた戦争になったら、この宙域は2度と船が航行できないほどデブリだらけになります。何とか戦争を止めさせたい」

ドニエル「それで自ら出撃ですか。ストレスが溜まってるだけじゃないでしょうね?」

彼はモビルスーツデッキにいるハッパを呼び出した。ハッパはスパナで肩を叩きながら、なぜか諦めたような顔で画面に出た。

ドニエル「サイコミュとかいうのはお前しかわからんのだ」

ハッパ「姫さまにG-アルケインを使わせれば、G-シルヴァーにエンフォーサーが乗っていた場合、ベルリに危険が及びます。かといって姫さまは複座のG-ルシファーには慣れていない。G-ルシファーのサポートにエンフォーサーを使うなど論外。こんな状況です」

ドニエル「ノレドの報告では、エンフォーサーは操縦席に移動してアレをしでかしたんだろう? だったら後部座席に固定しておけば」

ハッパ「怖いこと考えないでくださいよ」

ドニエル「G-セルフとG-アルケインはセットで使わないとG-シルヴァーには対抗できないってことか」

ハッパ「それにベルリとラライヤも」

アイーダ「でしたら、やはり」

ドニエル「それは絶対に許可できません。ひとりで行くなどもってのほか。・・・しょうがない。ソレイユに連絡。これよりメガファウナは戦争の早期終結のために戦線を離脱してサウスリングへ向かうと」

ソレイユからはすぐに許可するとの連絡が光通信で届いた。

ドニエル「メガファウナ行くぞ。ステア、このままゆっくりと後退して陣形が再編されたら急速離脱。下方からサウスリングへ向かう。(アイーダに向き直り)向こうも陣形を崩していませんので、近づけないようなら無理はしませんからな。そのときは諦めてラトルパイソンに戻って下さいよ」

アイーダ「わかってます」






セントラルリングの貨物用デッキから小型ランチと共に宇宙空間へ出たG-シルヴァーはクリム・ニックが操縦していた。随伴の小型ランチには彼の配下のゴンドワンのスパイ3人が狭い場所に同乗していた。

彼らは戦闘空域から身を隠すためにシラノ-5の裏側へと回った。この辺りはミノフスキー粒子の濃度が低く、通信も可能だった。

クリム「あの銀色の船は戦艦なのだろう? あれを奪って地球に戻ることはできないか?」

兵士「自分のような下っ端にはそれこそ無理な注文ですよ」

事情を話してアイーダに慈悲を乞うかと迷っていたときであった。ノースリングの上部にある岩石の部分が大きく開き、トワサンガの主力戦艦になっている銀色の棒のような船体が出現するのが見えた。

クリム「侵入するぞ、ついてこい」

ハッチが閉じる前に、クリムはG-シルヴァーでその内部に潜入した。そこにあったのは資源を採掘した空洞を利用して作られた巨大な兵器工場であった。壁面には巨大な薔薇の紋章が見える。

クリム「ここはどういう場所なのだ?」

兵士「自分は下っ端なので・・・。他の者も初めて入ったそうです」

こんなときにミック・ジャックがいてくれれば・・・。ドッティ・カルバスに裏切られてから何度同じことを思ったか数えきれないほどであった。

空洞の内部は巨大で、戦艦の組み立てからMSの製造ラインまで整っている。それどころか小型艇からエアカーの組み立てまであらゆる生産設備が稼働していた。

クリム「これがヘルメス財団というものなのか。それにしても・・・」

それにしても何かが違う。この違和感は何だろうかと考えたとき、彼の機体は下方より攻撃を受けた。

モニターに映し出されたのは巨大なMAであった。ユグドラシルを想起したが、形状はまったく違う。それは闇の底からゆっくりと巨躯を浮上させてきた。古代の甲殻類を思わせるその機体からは、底知れぬ邪悪さが発散されており、クリムは胸が締め付けられるように感じた。

クリム「いかん。ここを出るぞ!」

そう指示したときにはすでに小型ランチの姿はなかった。先に逃げたのかどうかも彼にはわからない。不安に駆られた彼は一気に加速して下降し、MSのラインに置かれていたビームライフルを拝借するとすかさず上昇して開いたままになっているハッチから外へ出た。

不気味な姿をしたそのMAもG-シルヴァーを追いかけるように外に出てきた。敵なのか味方なのか、クリムは迷った。しかしトワサンガに自分の味方がいるはずはないと悟り、改めてMAと向き合った。2機は虚空に浮かんだまましばらく正対していたが、やがてMAはファンネルを大量に放出した。

その様子をモニターで眺めているのはジムカーオ大佐であった。彼がいる部屋には銀色の女性型エンフォーサー以外誰もいなかった。彼は明かりの消えた暗い部屋でたったひとつだけ灯された大型モニターを眺めていた。

その部屋に小型ランチを降りた兵士やその仲間たちが入ってきた。彼らはゴンドワンのスパイとして送り込まれていたが、とっくにジムカーオに寝返って彼の意志通りに動いていたのだ。

ジムカーオ「ご苦労だった。2重スパイは大変だったろう? いずれ君たちの願いは叶えられる。それまでは大人しく待っていてもらいたいものだ」

兵士「クレッセント・シップとフルムーン・シップを奪うところまでが任務だと聞いていたのですが」

ジムカーオ「(はじめて彼らの顔を見て)ああ、そうだよ。しかし物事には手順というものがあって、それを踏み外すと最終的に望むものは得られない。君らは彼らに顔を知られてしまったから、しばらく仕事は回せない。どちらにしても、ベルリとアイーダが持っているG-メタルがなければレイハントン家の残したものを手に入れることはできないだろう」

それだけ告げると、彼らには興味を失ったようにジムカーオは顔を逸らした。彼の協力者たちはこれ以上その場にいても何も訊き出せないとわかって大人しく部屋を辞していった。

ジムカーオ「(エンフォーサーに向かって)記録は録れているのだろうな?」

エンフォーサー「すべてのカメラが正常に作動しております」

彼らが見つめるモニターにはクリムのG-シルヴァーとMAザム・クラブの戦いが映し出されていた。

ジムカーオ「ザム・クラブで追い込んでクリム・ニックという人物が覚醒してくれると手駒も増えるのだが」

ファンネルを放出したザム・クラブは対峙するG-シルヴァーに攻撃を仕掛けた。四方八方からショートレンジ攻撃を浴びせられたクリムは、かわすこともできず何発も直撃を喰らった。それでも大破せずにいられるのは、G-シルヴァーの性能というより、ビームの出力が弱めてあるためだ。

クリムは宙域から離れようと何度も脱出を試みたものの、ザム・クラブはつかず離れずで追いかけてくる。ファンネルによる攻撃をクリムはかわすことさえできなかった。やられるがままのクリムを眺めていたジムカーオは呆れてしまい、手を軽く振った。

ジムカーオ「もうよい。あれは見込み違いだ。YG-111は回収。ザム・クラブのバララ・ペオールは帰還させろ」

そういうと彼は部屋を後にした。残された女性型エンフォーサーは、その場に立ちすくんだまますべての機器を操って状況を終了させた。暗い部屋に映像が投影される。それはトワサンガとムーンレイスの戦いの映像であった。

先陣を切らされたゴンドワン軍はすでにオーディン2番艦が撃沈して1番艦も半壊状態になっていた。宇宙での戦闘経験のあるガランデンのみが奮闘していたものの、3カ所に小破を負っておりこのまま前線で戦い続ければいずれオーディンと同じ運命になるのは目に見えていた。

トワサンガのヘルメス財団が記録するこれらの映像は、通信衛星を経由して地球に配信されていた。

全世界の地球人が宇宙で起こっている大規模紛争の映像を真に当たりにして恐怖に震えていた。クリムトン・テリトリィ、アメリア、ゴンドワンその他のすべての地域に戦争の様子がわずかな時差で生配信されていたのだ。配信主は法王庁であった。

すべてのテレビ番組は臨時放送として戦争の様子を伝え、解説者が宇宙からの脅威を訴えていた。テレビはアメリアと古代種族ムーンレイスが結託して世界を宇宙世紀に戻す工作をしていると法王庁からの発表をそのまま伝えていた。トワサンガに協力した敬虔なスコード教徒であるゴンドワンは、果敢に先陣を務めたオーディン2隻が撃沈され、悲劇の主人公であるかのように扱われていた。

悪役にされたのはアメリアであった。法王庁は激しくアメリアを非難する声明を発表した。

そのアメリアに舞い戻ったロルッカ・ビスケスの元には、大量のモビルスーツの注文が舞い込んできていた。宇宙からの脅威に怯えた各国は、崩壊した旧キャピタル・テリトリィや、対ムーンレイスでいいところなく撃沈されたゴンドワンに頼るのは愚策であると判断して、政策を自主防衛に大きく舵を切ったのだった。

得体の知れない古代種族ムーンレイスと行動を共にしてトワサンガを攻撃しているアメリアは、アイーダが発表した「連帯のための新秩序」が説得力を失い、同盟国が次々に離反していた。

NYにオフィスを構えたロルッカは、大金を積んで雇い入れたカリル・カシスの店の踊り子に仕事を任せ、自分は酒と女に溺れる生活になっていた。

なにせ何もしなくとも注文は舞い込み、商品はクリムトン・テリトリィから船便で毎日のように届くのだ。彼はどの国への入国もフリーパスとなり、有り余る金で政界のフィクサーとして暗躍する計画も立てていた。彼が考えるのは、どの国とどの国を対立させれば最も武器が売れるか、だけであった。

ロルッカが武器商人として暗躍する影で、カリル・カシスと9人の仲間たちは再びクンタラ建国戦線の活動を活発化させていた。彼女らは女に弱いロルッカに付け込み、実質彼を傀儡として操っていたのである。

ゴンドワンの地域は政府こそまだ存続していたものの、クンタラ建国戦線は支配地域を4分の3にまで拡げ、もはや政府などないも同然であった。

その立役者であるルイン・リーは、愛妻マニィと愛娘コニーを引き連れて、クリムトン・テリトリィに降り立とうとしていた。



(アイキャッチ)


この続きはvol:59で。次回もよろしく。
















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