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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第25話「ニュータイプの導き」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第25話「ニュータイプの導き」前半



(OP)


クリム・ニックを慕ってゴンドワンから流れてきた若者の多くは、北方地区出身で全球凍結を恐れ流民となった家庭の子供たちであった。彼らの中にはクンタラ国建国戦線に家を追われたものも多数いた。彼らは北方地区がクンタラの支配地域になっていることを知っていた。

彼らの話は口コミで拡がり、クリムトン・テリトリィにやってきたゴンドワンの若者たちはクンタラを激しく憎むようになっていた。

そこに法王庁よりゴンドワン政府がクンタラ支配地域において核爆発をさせたことを非難する声明が出された。

彼らが歓声を上げて喜んだのも無理はなかった。彼らは自分たちの国の放射能汚染を悲しむよりも、侵略してきたクンタラたちが死んだことを喜ぶようになっていたのである。

いまや法王庁は旧キャピタル・テリトリィの住人であるレジスタンスも、アメリア政府も、ゴンドワン政府も支持していなかった。法王庁が唯一認めているのはクンタラ国建国戦線だけになっていた。

そんな状況を、ケルベス・ヨーは怪しんでいた。人類に根強く残るクンタラ差別を法王庁が利用して、争いごとを引き起こそうとしていると考えたのだ。

このまま人類の多数が法王庁とクンタラに対して憎しみを募らせ、戦う姿勢を示した場合どうなるのか。ジムカーオ大佐は相手を戦いに引きずり込んで最終的に勝利する独特の戦い方をする不気味な人間であった。彼は人類にもう1度クンタラ差別を根付かせようとしている・・・。

ケルベスの心配は、キャピタル・タワーを自分たちが破壊したように工作されてしまうことだった。キャピタル・ガードの教官だった彼が教え子たちを率いてタワーを破壊したなどと宣伝されては浮かぶ瀬もない。かといってこのまま何もしなければ、最後にはエネルギーが尽きて敗北してしまう。

エネルギーは戦っても戦わなくても消費されていくのである。

法王庁の人間はタワーに立て籠ったまま姿を現さなかった。ケルベスは総攻撃を慎み、じりじりと支配地域を取り戻していった。都合上ミラーシェードと名乗っているクリム・ニックは、単身街へ侵入してゴンドワンの若者たちに正体を明かし、レジスタンス側に寝返らせる作戦を実行中であった。

問題なのはもう一方のクンタラの若者たちをどう説得するかであった。彼らはいま勝利に酔いしれている。クリムトン・テリトリィはルインが戻り次第クンタラ国になるのだと信じて疑わなかった。

そのルインは宇宙へと連れ出され、おそらくは戻ってこないだろう。テリトリィ内にはルインの妻であるマニィとその娘が大邸宅で暮らしている。彼女はクンタラの英雄の妻だ。

ケルベス「現在の状況はゲル法王が戦争を止めない地球人に失望してトワサンガへ亡命したというストーリーの上に成り立っている」

彼の目の前にはレジスタンスの代表とキャピタル・ガードの教え子たちが立っていた。

ケルベス「法王庁が多くの談話を発表しているのは、ゲル法王猊下の代理として談話を発表しているわけだ。そして最初にアメリアが非難された。同盟を組むムーンレイスも非難された。そしてゴンドワンが非難された。次はどう考えても我々キャピタル・テリトリィの人間なのだ」

トリーティ「つまり、我々が総攻撃を仕掛けると彼らはタワーを破壊してそれをガードの攻撃によるものと発表するわけですね。汚いにもほどがある」

レジスタンスA「法王庁はクンタラと組んで地球を支配させるのでしょうか?」

ケルベス「いや、おそらく法王庁はルインにベルリを殺させるように仕向けていると思う。ベルリはトワサンガの王子だ。ベルリがルインに殺されれば、ルインはトワサンガの秩序回復を妨げた重罪人の烙印を押される。そしてクンタラとの歴史的和解は破棄される。そして姉のアイーダさんも非難される。彼女はすでにトワサンガ住人を殺したことにされているから、ベルリを殺した黒幕はアイーダさんと宣伝される可能性すらある。この一連の騒動がトワサンガの王位をめぐる争いだと人々に信じ込ませれば、アイーダさんは殺され、法王と法王庁は地球人への支援を打ち切ると発表してトワサンガの支配者となる。もちろん真実を知るゲル法王も殺される。この筋書きならば、フォトン・バッテリーが配給されず、地球はやがて原始時代に戻るのだから、トワサンガと地球が彼ら法王庁のものになるわけだ」

トリーティ「ぼくにはそんなまどろっこしいことをやる意味がわかりませんが」

ケルベス「ビーナス・グロゥブへの言い訳なんだ。もしビーナス・グロゥブがフォトン・バッテリーの配給を再開しなければ、トワサンガを抑えてもいずれは干上がる。連中がムーンレイスの月面基地を攻撃してこないのも、ビーナス・グロゥブを騙せなかった場合の保険として、ムーンレイスの発電技術を残したいからだろう」

ワシントンへ移ったアイーダから詳しい連絡が入ったのは昼過ぎであった。∀ガンダムはハリー・オードのオルカ2隻が交戦して南下を抑えてくれている。

トリーティ「だからこそ基本に返って、ぼくらはタワーを守る仕事に専念すると」

ケルベス「そうだ。本当に悪いが、∀ガンダムがこちらに近づいてきたらターンXと交戦になってタワーは必ず被害を受ける。お前しか頼める人間はいないんだ、トリーティ」

トリーティ「死ぬ覚悟はできています」

彼はここ数日間、ターンXの操縦について訓練を受けていた。そしていよいよ出撃することになったのだ。敵は徐々にアメリアに迫りつつある∀ガンダムと10機のYG-201であった。

ケルベス「YG-201に対抗するのはポンコツのカットシー5機だけだ。レックスノーは地上の防衛に専念させる。少ない戦力ですまんが、何とか抑えきってくれ。その間にオレは必ずキャピタル・タワーを取り戻す。ゴンドワンもクンタラも味方につけてな!」

トリーティを含む若者たちだけで構成された部隊は、ムーンレイスの救援と補給を任務にすぐさま出発していった。

ケルベス「さて、こうなるとあの晩のクンタラの若者たちを殺した事件が悔やまれる。あれでクンタラたちはこちらに警戒心を持ってしまった。さて、どうしたらいいものか・・・」







薔薇のキューブが動き出したとの知らせが入ったムーンレイスの月面基地は慌ただしく動き始めた。

敵の狙いが絞り込めないアメリア・ムーンレイス連合軍は、シラノ-5をいったん放棄して月面基地の防衛を固めながら各戦闘艇の準備を急ぐことになった。

外宇宙からの帰還船でもある薔薇のキューブは、その出力のごく一部を使ってゆっくりと地球に向かって移動していた。その周囲にはシルヴァーシップが2重の円陣を張って防衛している。この陣形が容易に突破できないのはすでに1度戦ってわかっていた。

最大限の警戒態勢の中、薔薇のキューブは悠然と月を離れて地球を目指した。それを見たディアナは全軍の4分の3を追撃戦に投入する決断をした。調査によってサウスリングの住民以外のトワサンガの生き残りはいないとわかっている。残る4分の1は月面基地に残されるムーンレイスの民間人を守る役目を負った。

その中にはタワーの運航長官であるウィルミット・ゼナムやリリン、サウスリングの住民たち、ジャン・ビョン・ハザムなどがいた。しかし軍人ではないゲル法王はメガファウナに乗り込み、地球に戻るといってきかなかった。法王に乗り込まれたメガファウナは大騒ぎになって出港が遅れてしまった。

副艦長「法王猊下、そうはおっしゃいましてもスコード教教会そのものがあなたの敵に回っているのですよ。法王庁もそうです。こういっちゃ悪いが、あなたひとりで何ができるというのです?」

ゲル法王「わたくしができることは数多くあります。そのひとつがアメリアのアイーダ総監への誹謗中傷の疑惑を晴らし、赦しを与えることです。それでもこの船に乗せてはもらえませんか?」

そう言われてしまうと断ることもできず、ゲル法王はメガファウナで1番まともな客室を与えられることになった。

ノレド、ラライヤ、ハッパの3人はG-アルケイン、G-ルシファーと共にメガファウナに乗り込んだ。ノレドと顔を合わせたベルリは嫌そうな顔をした。

ベルリ「なんで月に残らないんだ? ノレドは非戦闘員じゃないか」

きつい言葉を浴びせられたノレドは自信なさげに俯いてベルリのそばを離れてしまった。一緒にいたラライヤがすれ違いざまにベルリに対してキッと睨みつける。

ベルリ「なんだい、あいつ。人が心配してやっているのに」

第1種戦闘配備の指示が艦内に鳴り響くとメガファウナの船内も慌ただしくなった。月の裏側の基地に入港していたメガファウナは30隻のオルカと共に漆黒の宇宙へと出撃した。

月の表側の基地からはディアナ・ソレルの旗艦ソレイユを中心とした大艦隊が月の引力圏を脱して薔薇のキューブとシルヴァーシップの艦隊を待ち受け、アメリア・ムーンレイス連合艦隊はジムカーオ大佐率いるエンフォーサーの集団を挟撃する形になろうとしていた。

一見戦力は均衡しているように見えるが、メガファウナのブリッジに上がったハッパの報告はドニエル艦長以下ブリッジクルーを驚愕させるに十分だった。

ハッパ「間違いないですね。薔薇のキューブはそれ自体が膨大な生産設備で、船が撃沈されるごとにすぐさま新しい船を生産して補給するんですよ。だからいくら戦っても相手の数は減らない」

ドニエル「こっちは減る一方だってのに? たまんねぇ話だな」

副艦長「だとしたらなぜこちらと同数だけ揃えるんだ? どんどん増やせばいいじゃないか?」

ギセラ「(指先で頭を抑え)だから目的が違うんですよ。もしくは勝つことの基準が違う」

ドニエル「本当にややこしい連中だな。それでハッパはどう考えているんだ?」

ハッパ「鍵はニュータイプとエンフォーサーだと思います。シルヴァーシップはエンフォーサーの集中管制で無人機、しかもおそらくは思念で連動しているのでミノフスキー粒子は関係なく相互に連絡が取り合える。YG-201にはエンフォーサーは乗っていませんが、遠隔操作でしょう。同時にエンフォーサーは思念の入れ物でもある。極端な話、メガファウナのクルー全員がニュータイプになってエンフォーサーの中に入ってシルヴァーシップをコントロールできれば攻撃能力を持たない薔薇のキューブは簡単に乗っ取れる」

ドニエル「つまり・・・ギセラ!」

ギセラ「ジムカーオ大佐にとって重要なのは、わたしたち人類がニュータイプになれるかどうかを見極めるってこと? 領土とか政治的野心がまったくない人だってこと?」

ハッパ「ラライヤにも結局何もしてないんですよ。彼女に誰かの思念が入っているとわかったら、すぐに興味をなくした。ちなみにラライヤに入っているのは彼女によく似た美人さんです」

副艦長「(頭を掻きながら)宇宙世紀復活派というのは?」

ハッパ「宇宙世紀って元々は人類の宇宙進出に際して地球にあったそれまでのいざこざを忘れて新しくやり直そうって意味でしょう? 月に初めて人類が降り立った日が宇宙世紀元年なのかどうかはわかりませんが。そして100年以内にニュータイプが生まれた。宇宙世紀復活派というのは、その時代に戻ろうという意味で、戦争を継続しようという意味じゃないのかもしれない」

副艦長「(口をすぼめて難しい顔をしながら)軍産複合体というのは?」

ギセラ「(ポンと手を叩き)それがビーナス・グロゥブのヘルメス財団や法王庁じゃないの? だからレイハントンは彼らと敵対していた。リギルド・センチュリー1000年の年にヘルメスの薔薇の設計図がばら撒かれてビーナス・グロゥブのヘルメス財団が動き出した。だからレイハントンは何らかの対抗手段を講じようとした。それに危機感を持ったビーナス・グロゥブのヘルメス財団が裏で手を引いてレイハントン家を打倒した。(ドニエルを指さしながら)でもそこには競争の概念が欠如していたのでクンパ大佐はふたりの子供を逃がした」

ドニエル「(イライラしながら)だから勝つにはどうしたらいいんだよ!」

ハッパ「(胸を張って)ニュータイプに進化すればいいんですよ」

ドニエル「(がっくりと肩を落とし)オレにそんなことできると思うか?」

副艦長「(ハタと気づき)もしギセラとハッパの話が本当なら、ビーナス・グロゥブの軍産複合体はノレドが一掃しちまったってことじゃないか。それで人間タイプのエンフォーサーが反乱を起こしたからキルメジット・ハイデン新総裁は連中がトワサンガに逃げないようにクレッセント・シップとフルムーン・シップをこっちに預けた。そうなる。ノレドはこれ、大手柄どころじゃないぞ」

ギセラ「人間タイプのエンフォーサーは2万人くらいいたんでしょ? そいつらはニュータイプなの? トワサンガの薔薇のキューブにもそれくらいいた?」

ハッパ「数えてはいませんが、数はそれくらいでしょうね。ラライヤが捕まっていたときに覚醒したらしくて、そのときの感触だと彼らはニュータイプとは違うってことです」

ドニエル「ニュータイプになってエンフォーサーを止めるって手立て以外に戦う方法はないのかよ。そもそも連中は地球へ行って何をしようってんだ!(モニターに眼をやり)なんだって? 薔薇のキューブからなんか出たって? 例のカブトガニか?」

望遠モニターで捉えられた映像には、薔薇のキューブから飛び立っていくザム・クラブが映し出された。それに重なるようにディアナの映像が映し出された。

ディアナ「地球よりカシーバ・ミコシがこちらに向かってきているようです。スコード教の船ですが、ハリーの報告で武器を密輸していることが確認されています。攻撃してよろしい?」

ドニエルは返答に困って副長に助けを求めた。彼はギセラに助けを求めるが無視された。ドニエルは顔を真っ赤にして悩みぬいた末にこう叫んだ。

ドニエル「(ディアナに向かって)待ってくれ。おそらくムーンレイスが攻撃するとややこしくなるはずだ。いったんこちらに任せてくれないか。よし、メガファウナ最大戦速! 薔薇のキューブを追い越してカシーバ・ミコシと接触する! オルカはディアナ艦隊と合流!」







カシーバ・ミコシの客室でゆったりと時間を過ごしていたルイン・リーは、突然鳴り響いた警報に驚いて飛び上がった。

ルイン「何事か!」

法王庁職員「前方より巨大MA接近。何者かわかりません」

ルイン「よし、オレが確かめる。G-シルヴァーの準備を急げ!」

ルインはクリム・ニックから引き継いだG-シルヴァーに大きな自信を持っていた。いままで乗り継いできたどのモビルスーツよりも高機能で運動性能が高いのは間違いない。ルインはベルリと同等の性能の機体に乗れば、自分は絶対に勝つはずだと自分に言い聞かせた。

カシーバ・ミコシから出撃したルインは、前方から高速で接近してくるカブトガニのようなMAと撃ち合いになった。MAはファンネルを放出した。小さな卵のようなファンネルは小刻みに動きながらG-シルヴァーを包囲して一斉に射撃をした。ルインはそれを避けることができなかった。

一瞬で20以上の直撃を喰らったルインは、てっきり自分はここで死ぬのだと思った。ところがファンネルのビームは威力が弱く、機体に大きな損傷はなかった。敵のMAは卵のようなファンネルを再び腹の中にしまい込んで動かなくなった。

ルイン「こいつ、遊んでいるのか?」

MAのコクピットが開いた。そこにいたのはバララ・ペオールであった。ルインは唖然と彼女を眺め、ゆっくりと機体を接触させた。

ルイン「バララ・・・、生きていたのか?」

バララはそれに応えなかった。彼女は再びコクピットを閉じ、G-シルヴァーを装甲の繋ぎ目に手をかけさせたまま一気に加速をかけた。ルインはMAに手をかけて接触回線を開いたままバララに呼びかけ続けた。その目の前に、赤い戦艦が近づいてきたのをメインカメラが捉えた。

ルイン「メガファウナ? そうか、バララ。ベルリのところに連れて来てくれたのか。ようし、オレはあいつを倒して宇宙に秩序を取り戻す。もうお前は戦わなくていいんだ、バララ」

メガファウナから、一筋の光が射出された。ルインにはその光の正体はすぐに分かった。出撃してきたのはG-セルフに間違いなかった。ルインはザム・クラブから手を放し、ベルリのG-セルフと正対したまま突っ込んでいった。

そのころメガファウナの中では慌ただしくラライヤが出撃しようとしていた。彼女はG-アルケインのコクピットに収まり、ハッパの指示を受けていた。

ハッパ「カブトガニにエンフォーサーが乗っていた場合はベルリが取り込まれてしまわないように気をつけて。バララ・ペオールだった場合は、彼女は君がされたような実験をされた可能性がある。強制的にニュータイプの思念を入れられてしまったんだ。できれば彼女を助けて、メディー先生に診てもらおう。誰の残留思念なのかが気になる」

ラライヤ「了解です。(ハッチを閉じる)ラライヤ、行きます!」

そのころ、ドニエルの独断でカシーバ・ミコシの去就を預かることになったメガファウナのブリッジは、どう事態を収拾するか侃々諤々の議論になっていた。

ギセラ「(顔を真っ赤にして)カシーバ・ミコシと言ったって法王庁が武器商人みたいなことをしているのに守ってやる必要はないでしょうが!」

ドニエル「(焦りの表情で)んなこと言ったって、武器を運んでいたって証拠はないんだからまたジムカーオに利用されちまうじゃないか! アメリアの戦艦がカシーバ・ミコシを破壊したなんて宣伝されたら姫さまの立場はどうなっちまうんだよ! 乗り込んで白兵戦だ!」

副艦長「ハリー隊長が攻撃したときは、左にモビルスーツ、右にシルヴァーシップが隠れていたっていうじゃないですか。シルヴァーシップはそのあとクリム艦隊と接触してシラノ-5に入っている。モビルスーツをタワーで降ろしているとすると中は空のはず。白兵戦でもいけないことはないか」

ドニエル「(ホッとした表情で)ほらみろ」

ギセラ「ザンクト・ポルトはジムカーオの軍隊に占領されていたんですよ。なかが戦闘員だらけだったらどうするんですか!」

副艦長「その可能性もあり得る」

ドニエル「うぬぬぬ!(顔を真っ赤にして)よーし、わかった。副長、お前ちょっとゲル法王猊下のところへ行って、カシーバ・ミコシの格納庫だけ吹き飛ばしていいか訊いてこい。カシーバ・ミコシはデカいがほとんどは格納庫だ。とりあえず左右の大きな部分だけ攻撃する。これでいいか?」

ギセラ「承知!」

ドニエル「ステア、カブトガニから離れてカシーバ・ミコシに近づけ。主砲スタンバイ。(モニターにゲル法王と副長の姿が映り、指でOKサインを出す)主砲、撃てー!」







G-セルフとG-シルヴァーは互いを牽制し合いながら距離を取ってビームライフルを撃ち合っていた。バララのザム・クラブはファンネルを放出してベルリを攻撃したが、ベルリはG-シルヴァーの砲撃をかわしながら同時にファンネルのビームも避けて2機のファンネルを撃ち落とした。

それを見たルインは自分に出来なかったことをいともたやすくやってしまうベルリに激怒すると、ムキになってビームライフルを乱射した。

ルイン「バララは下がれ! 邪魔をするな! あいつはオレが仕留める!」

そこに遅れてラライヤのG-アルケインが戦闘に加わった。ラライヤはムーンレイスから提供されたハンドビームガンでさらに5機のファンネルを撃ち落とした。するとザム・クラブはファンネルを放棄してG-アルケインに突撃してきた。ラライヤは回転してそれを避けると、ザム・クラブの腹に1発を命中させた。火花が一瞬大きな炎になったがそれはすぐに鎮火した。

ラライヤが戦場に参戦してきて、ベルリは自分の知覚がクリアになる感覚に襲われた。感覚の靄が晴れ渡るような感じがした。そして彼は、G-シルヴァーのパイロットがルインであることと、ザム・クラブのコクピットにバララが座っているのを見た。ベルリは自分の眼に見えているものに驚いた。

ベルリ「ラライヤ!」

ラライヤ「相手はルインさんです。こっちはバララ・ペオール。見えていますか?」

ベルリ「(怒って叫ぶ)ルイン先輩なら目を覚ましてくださいよーー!」

ベルリの叫びを、一瞬だがルインも察知した。しかし同時にメガファウナから発射されたメガ粒子砲が彼らの頭上を通り越してカシーバ・ミコシを直撃するのを目の当たりにして彼は再び怒り狂った。

ルイン「オレたちクンタラがスコード教のご神体を守ってやっているのに、お前たちは攻撃するのか! クンタラに穢された御神体なら壊していいとでも考えたのかッ!」

ルインの怒りはベルリとラライヤにも伝わった。ふたりは口々にそれは違うと否定した。だがその声はルインに届かない。ミノフスキー粒子はふたりの声を拡散させて遮断した。ベルリとラライヤに見えているものがルインには見えなかった。G-セルフのコクピットの中でいくら叫んでも、悲しみの声はルインには聞こえないのだった。人はなんて孤独なのか、ラライヤは愕然とした。

G-シルヴァーはザム・クラブに守られながらカシーバ・ミコシまで撤退した。そこにメガファウナの第2波が放たれ、格納庫のハッチが大爆発を起こして船体側面がめくれ上がった。

ルインはカシーバ・ミコシのブリッジに手を置いて接触回線を開いた。

ルイン「敵はこいつを破壊するつもりだ。戦艦や武器などは積んでいるのか?」

法王庁職員「(震えながら)まさか・・・、カシーバ・ミコシは御神体です。武器などは・・・」

ルイン「なに? 何も積んでいないのか? では脱出艇でいますぐ逃れるんだ。殺されてしまうぞ」

法王庁職員「いえ、それがジムカーオ大佐がゴンドワンのクンタラ国建国戦線に提供する兵器を優先するからと、脱出艇をすべて撤去してしまいまして・・・。ないのです。1艇も、ないのです!」

ルイン「まさか丸腰で運用していたのか? あの聡明なジムカーオ閣下が? あの方はそこまで人類を信用して下さっていたというのに、(メガファウナを振り返る)お前たちアメリア人はッ!」








ベルリとラライヤは揃ってメガファウナに引き返してブリッジに手を置き、接触回線を開いた。

ベルリ「(憤怒の表情で)カシーバ・ミコシは丸腰なんですよ! なぜ攻撃したんですか!」

ラライヤ「(慌てふためき)ベルリ、落ち着いて!」

ベルリ「(怒りは収まらず)スコード教の御神体なんですよ! なんてことをしてくれたんですか!」

ドニエル「(冷静に言い返す)ゲル法王猊下の許可はいただいている。武器を積載していないか左右の側面を壊しただけだ。慌てるな、ベルリ!」

ラライヤ「そうですよ! ベルリさん、落ち着いて。この空間は何かがおかしいんです。エンフォーサーとは違うものが渦巻いている気がします。あのバララさんだって・・・」

ベルリ「バララ・ペオール!」

ベルリが怒りにまかせてG-セルフのメインモニターをザム・クラブに振り向けたとき、また感覚が明瞭になるかのような現象が起こった。ベルリはふと冷静になって、破壊された側面が燃え上がるカシーバ・ミコシを見た。そこには黒く渦巻く何者かの思念があった。

思念の中心にはザム・クラブのコクピットがある。しかしバララ・ペオールがその憎悪の思念を発しているわけではなかった。その身体の内にいる何者かの思念に、バララ・ペオールは絡め捕られているのだ。彼女はユグドラシルに搭乗してからずっとおかしかった。

ベルリ「あれか・・・、あいつがみんなをおかしくしているのか・・・」

ラライヤ「ユグドラシルにエンフォーサーユニットがついていたとしたら、何者かの悪い残留思念があの人の肉体を乗っ取った可能性もあります」

ベルリは機体を加速させてザム・クラブとG-シルヴァーに迫った。ラライヤもその後を追った。

ふたりが離れたメガファウナのコクピットに、ディアナ・ソレルからの通信が入った。

ディアナ「薔薇のキューブが加速しました。食い止めようとしていますがシルヴァーシップを突き崩せません。戻ってきてもらえますか?」

ドニエル「もう少し待ってくれ。こちらが片付いたらすぐに救援に向かう」

ディアナ「よろしく」

ドニエル「ギセラ! カシーバ・ミコシの格納庫に何かあるか?」

ギセラ「いえ、何も。あ、いま停電しました」

ドニエル「丸腰なんだな。よし、それならもう十分だろう。ディアナ艦隊の救援に戻るぞ」

メガファウナが180度回頭するさまを確認することもせず、ベルリとラライヤは接触回線を開いてザム・クラブの様子を探っていた。G-セルフとG-アルケインは手を繋いだままジッと敵を観察した。

ザム・クラブが発するどす黒い憎悪には、空間を歪めるほどの威力があった。その残留思念は強大で、周囲を圧する力があった。

ベルリ「あいつを何とかしなきゃいけない」

ラライヤ「ええ」







だがふたりはその様子を遠くで見つめている視線には気がついていなかった。

薔薇のキューブの中で多くの職員たちと食事を摂っていたジムカーオは、ふいに呆れたように両手を広げてスプーンを放り出した。

ジムカーオ「あの男もニュータイプじゃないのか? やはり地球育ちではダメなんだろうな。ルインですらこれほどまでに鈍感なのに、レイハントンはよくもまぁ500年も猶予を取って待たせてくれたものだ。ヘルメス財団1000年の夢が聞いて呆れる。人間は原始時代からまるで進歩などしていないではないか。やはりオールドタイプは絶滅させるしかない。地球文明再興派の子孫など最初から皆殺しにして地球を奪っていけばよかったのだ。大執行を一方的な虐殺にしないためにわざわざニュータイプを探してやったのに、見つかるのは強化人間の残留思念と悪意ある人間の残留思念ばかりだ」

今来・女性「虐殺の汚名を着るとフォトン・バッテリーの配給は望み薄になりますね」

ジムカーオ「ビーナス・グロゥブのラビアンローズは内部が破壊されてしまったそうだから、こっちまで攻めてくることはないだろうが、なぁに、文句を言ってきたらレコンギスタ派でも焚きつけてラ・ハイデンを失脚させてやるさ。向こうの連中は金星暮らしに心底懲りごりしているんだ。地球人を皆殺しにし、レイハントン一味を排除して、レコンギスタさせたのちにムーンレイスの技術で文明を再興させれば文句は言わないだろう。ディアナ・ソレルとは話したが、あれは賢いから戦争が終われば条約は締結できる。心配はいらんよ」

今来・男性「結局我々は500年間待たされただけですか。そんなに我々のアンドロイド技術を怖れたんでしょうかね?」

今来・女性「モビルスーツで戦争なんかやっているから強化人間という発想になる。真のニュータイプ研究を突き詰めて完成させた我々の敵じゃなかったんですよ。ただわたしたちは遅れて戻ってきただけ。ニュータイプを長年食べてきたわたしたちが1番進歩しているに決まってるじゃないですか」







メガファウナに残ったノレドは、G-セルフとG-アルケインが、つまりベルリとラライヤが手を繋いでいる様子を小さなモニターで眺め、見送っていた。

彼女はパイロットスーツを着てモビルスーツデッキにいた。彼女のそばにはコクピットを再び封印されたG-ルシファーがある。

ノレド「なんであたしはニュータイプじゃないんだよぉ。なんでラライヤとベルリなんだ? なんであたしじゃダメなんだよぉ。誰かあたしの死に場所を教えておくれよ・・・」

メガファウナはカシーバ・ミコシとふたりの仲間を残したままどんどん遠ざかっていった。


(アイキャッチ)


この続きはvol:71で。次回もよろしく。



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