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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第23話「王政の理屈」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第23話「王政の理屈」前半



(OP)


ノレド、ラライヤ、ハッパの3人を乗せたG-アルケインが、同じくジムカーオを裏切った3人を乗せたG-ルシファーを抱えたままムーンレイスの月面基地に戻ったとき、メガファウナは反対側のシラノ-5サウスリングに入港していた。

ノレドの単独行動によって再開された戦闘では被害は少なかったが戦果も乏しかった。薔薇のキューブのシルヴァーシップは撃沈するごとに間髪入れず代わりの戦艦が補給され、彼らの2重円形の陣はまるで崩せなかった。G-ルシファーが出していた彼らの識別コードの解析がなされてはいたが・・・。

副艦長「まぁ、ダメでしょうな。すぐに対策を打ってくるに決まっている」

ギセラ「(疲れ切った表情で)そもそもそういう問題じゃないかもしれないし」

ドニエル「(配給のサンドイッチを受け取りながら)そういう問題って?」

ギセラ「G-アルケインとラライヤを捕まえて、G-ルシファーは素通りさせて、最終的には簡単にこっちに渡しちゃってるでしょ?(自分もサンドイッチを受け取る)そこに弱点を見い出そうとしていることが間違っていて、相手はそもそもシラノ-5も月面基地も狙ってないんじゃないかって」

ステア「(配給のサンドイッチを食べながら)シラノ-5の人間を殺しているのに、敵はアメリアとムーンレイスって言ってるのおかしいでしょ?」

副艦長「宇宙世紀を復活させるって敵の目的がそもそも漠然としすぎてて(両手を上げる)」

ギセラ「こうやって相手の弱点を探って次の戦いのことを考えることが宇宙世紀じゃないかって気もするんですよねぇ。戦争にのめり込ませているわけでしょ?」

ドニエル「じゃ、オレたち軍人にどうすりゃいいってんだよ・・・」

シラノ-5のノースリング上部に隠してあった薔薇のキューブが姿を現したとき、ディアナ・ソレルもメガファウナのクルーもあれこそが真の敵に違いないと勇み立った。しかし、彼らはこちらに攻撃を仕掛けてくるわけでもなければ、シラノ-5を奪いに来るわけでもなかった。

彼らがやったことは、G-セルフによって機能を停止させられたシラノ-5から脱出してきた民間人の乗った脱出艇を全滅させたことだけなのだ。その攻撃による死者の数はおよそ30万人。生き残ったのは最も田舎で人の少ないサウスリングにいた1万人余りだけである。

副艦長「そもそもオレたちはムーンレイスと同盟を組んで、トワサンガ・ゴンドワン連合軍と戦争をしていた。なのに連中はゴンドワンの船を全滅させて、トワサンガの住民を虐殺して、挙句正体を現して、かかって来いよと言わんばかりだ。これじゃまるで人間を・・・」

ギセラ「(片方の眉を上げて)人間を減らすことが目的になっている? 戦争の責任はなぜか全部こっちになっているんでしょ? 戦争状況を作り出して、相手の責任にしつつただ人間の数を減らしている? 責任を押し付けている理由は? 誰に言い訳している?」

ドニエル「そりゃ・・・ビーナス・グロゥブ? それ以外何かあるか、副長」

副艦長「ないですね。おそらくはビーナス・グロゥブに言い訳をしている。トワサンガで起きたことは我々の責任ではないと、トワサンガのヘルメス財団が、ビーナス・グロゥブのヘルメス財団に言い訳をしているんでしょう。ということは、トワサンガで起きていることはジムカーオの独断だということです。ベルリが話したのでジムカーオはラ・グーが死んだことは知っている。次の総裁の名前も知っていた。それは彼がビーナス・グロゥブの人間だからです。クンパ大佐と同じなんだ。しかしクンパ大佐とは目的が違っている。戦争による遺伝子強化が目的ならば、トワサンガの一般人を虐殺する必要がない。人口の減少はかえって競争を減らしてしまうからだ」

ドニエルもギセラも深く考え込んだものの、どうしても答えが見えてこなかった。

副艦長「ヒントはエンフォーサーとニュータイプだね」

ギセラ「おそらくは」

ドニエル「ハッパをこちらへ寄こしてもらうか。ベルリはちゃんとやってるんだろうな?」







そのころG-セルフに乗ったベルリは、ザンスガットのリンゴ・ロン・ジャマノッタを伴ってシラノ-5のセントラルリングに来ていた。2機のモビルスーツは機能を停止した真っ暗な空間を飛行して中央管制塔のあるエリアへ入っていった。

ベルリ「本当に誰も残っていないんだ」

リンゴ「誰かさんがコロニーの全機能を停止させたから」

ベルリ「(怒って)嫌味ですか?」

彼らはG-セルフの暴走によって全機能が停止したシラノ-5を再起動させるために派遣されていた。リングの回転が止まったことで重力が失われ、彼らの頭上に巨大な商業施設が立ち並んでいるのが見えた。

ベルリ「じゃ、ぼくだけで行ってきますから、G-セルフをお願いします」

そう告げるとベルリはコクピットを抜け出して建物の中へと入っていった。送電が止まったことで電気は点かなかった。真っ暗な建物の中をベルリは宙に浮いたまま廊下を進んでいく。

そもそもなぜシラノ-5の機能が停止したのか、そして薔薇のキューブが分離された後もシラノ-5の機能を回復させられるのかどうかはわからない。そうしたことに精通している専門家はすべて殺されてしまった。今回の派遣は、ムーンレイスが目覚めたときのように、G-メタルで機能を回復させられるのか確かめるためのものであった。

目的の部屋は管制塔の最上階にあった。広いロビーに人影はない。電気が点かないので小さなハンドライトとヘルメットのライトだけで挿入口を探さなくてはならなかった。

部屋の中は突然の重力停止に驚いた職員がそのままにしていった書類や事務用品が宙に散乱していた。それらを顔の前から払いのけながらの作業なのでまるで捗らない。

ベルリは記録媒体が差し込める穴を見つけるたびにG-メタルを差し込もうとしたが、どれも規格が違っており中に入っていかなかった。彼は改めて自分が父から受け継いだ遺産を眺めた。

ベルリ「そうだ。これはユニバーサル・スタンダードの記録媒体じゃない。宇宙世紀のものかどうかはわからないけど、こんな記録媒体は他にないんだ。一族にしか使えないものなら・・・」

ベルリはどこかにレイハントン家の紋章がないか探した。すると管制室の壁の高いところにレリーフがあった。ハンドライトで照らしてみると、レリーフの下の部分に挿入口がある。そこにG-メタルを差し込むと部屋の明かりが灯った。そして次々にシステムが復旧していく。

ベルリ「これで完全復旧するわけじゃないから、応急的なものだとは思うけど・・・。シラノ-5は技術者がすべて殺されてしまって、これからどうやってコロニーを運用していけばいいんだ。クソッ」

改めて怒りがこみあげてベルリは傍にあった机をドンと叩いた。

結局電源が復旧しただけで重力を作り出すためにリングを動かすところまではできなかった。戻ってみるとリンゴがG-セルフのコクピットの中を覗き込んでいる。

リンゴ「君はトワサンガの王子なんだよな。ぼくはもうちょっと口を慎むべきだったかも」

ベルリ「もういいですよ、そんなこと」

トワサンガの王子といいながら、自分にはこのコロニーを運用する知識など微塵もないのだとベルリは悲しんだ。G-セルフに乗っているから、G-メタルを持っているからと他の者たちはみんな彼に期待する。しかし、物心ついたときから地球に住んでいた彼に、何が成せるというのか。

彼はリンゴの好奇心溢れる顔から眼を背け、すぐにG-セルフのハッチを閉じてしまった。

ベルリ「ビーナス・グロゥブのラ・グー総裁は真実に迫ろうとしたとたんに殺された。ということは、ビーナス・グロゥブは総裁の任命権を持つヘルメス財団が実質統治していたということだ。キャピタル・テリトリィは民政だったけど、首相もタワーの運航長官も飾り物だった。影で操っていたのは法王庁、そしてキャピタル・ガード調査部。つまりヘルメス財団だ。トワサンガのレイハントン家も同じだったのか? 王政ならばヘルメス財団に任命権はなかったはず。影で操るには王の権限は大きすぎる。だから革命を起こして、ドレッド家を傀儡にして民政にしたのか・・・。じゃぁなぜトワサンガだけが王政だったのだろう?」

ベルリは独り言を呟きながら頭を整理していたつもりだったが、回線はメガファウナと繋がっていた。モニターにギセラの顔が映し出された。

ギセラ「王政の強い権限でヘルメス財団を抑え込んでいたからでしょう」

ベルリ「ええーーー? 回線が開いてた?」

副艦長「抑え込んでいたってことは、敵対していたってことですよねー。これは重要な情報かな」

ベルリ「すぐに戻ります! 重力を回復するには専門の技術者じゃないと無理っぽいです」

副艦長「それがわかっただけで十分だ。我々はムーンレイスの基地へ移動する。早く戻ってこい」








シラノ-5のサウスリングから避難させてきた住人たちを受け入れたムーンレイスの月面基地では、ちょっとした騒動が起きていた。レジスタンスに参加していた学生のうち3名がディアナ・ソレルと話がしたいと中央指令室に乗り込もうとして親衛隊と小突き合いになってしまったのだ。

学生たちと共にやってきたターニア・ラグラチオンは学生の側についたり、親衛隊の側についたり態度が定まらなかった。

ディアナ親衛隊A「姫さまはお疲れなのだ。とにかく下がれ」

学生A「重要なことなんです。ではいつ会えるのかだけでも」

ディアナ親衛隊A「起きられたら取り次ぐからとにかくここは下がって」

指令室にディアナがいないと気づいたターニアは学生たちを押し戻すように間に割って入った。

レジスタンスに参加していた学生たちは、ターニアを睨みながらも仕方がないとばかりに引き下がった。学生の話を聞いて彼らの味方になったターニアには、実は彼らの話がよくわかっていない。

ターニア「そんなに重要なことなの?」

学生A「ディアナ・ソレルが本物のディアナ・ソレルなら、500年前に初代レイハントン王子と戦ったということでしょう? これは王政の根幹に関わる話じゃないですか?」

ターニア「(首を捻り)王政の根幹ねぇ」

学生A「王政というのはそもそも初代王の血を引く子を王の転生だと見做すところに権威を求めているんですよ。正統性とはそういうものでしょう?」

学生たち3人は口々にターニアに王政の正統性をどこに求めるかという話をした。ターニアには正直よくわからなかったが、たしかに初代レイハントンとディアナ・ソレルが戦ったというならばその話は聞いておきたいとも思った。しかし彼女にはその重要性がいまひとつピンとこないのだった。

ターニアと学生たちはメガファウナが帰還するなりベルリを捕まえ、食堂になっている地球が見えるフロアに連行した。

学生B「王子! 王子は初代レイハントンのことを詳しく聞いていますか?」

ベルリは疲れた様子でボンヤリしていた。彼は話を聞きに来たムーンレイスの大尉にシラノ-5の様子を話したり、サウスリングに住んでいたコロニー保守の仕事をしていた老人に事情を説明したり忙しく、できればそれが終わったら眠りたいのにと恨めしそうに学生たちを横目で見た。

ベルリ「ぼくにわかるわけないでしょ。生まれてそんなに経たずに地球に亡命させられたんだから」

学生A「これはとても重要なことだとぼくらは考えたんです。そもそも王政というのは」

ベルリ「王様が実効支配しているもしくは権威の象徴になっている政治形態のことでしょ?」

学生A「そうなんですが、民政に対して王政の正統性というのは、初代王が成した政治的成果をその血を受け継ぐ人間を初代王の転生と見做してその統治がずっと続いていき、政治的成果が代々守られていくことを前提に成り立っているわけです。ですから・・・」

ベルリはムーンレイスの女性が持ってきた食事のトレーを受け取り、軽く頭を下げて礼を言ってから、地球を真正面に展望できる席にドシンと腰かけた。

ベルリ「ごめん。話がまるで飲み込めない」

学生A「なんでみんなぼくらの話をちゃんと聞いてくれないんだ!」

ベルリ「ぼくはトワサンガは民政に移行すべきだという意見。王さまなんて必要ないでしょ?」

学生A「そう言っていただけるのはありがたいのですが・・・。王政か民政かという話ではなくて、初代レイハントンはディアナ・ソレルと戦っているんですよ。その戦いが終わったのちに彼は王になるわけです。王ですよ。ビーナス・グロゥブやキャピタル・テリトリィにもいない王になるんです」

ギセラ「面白い話じゃない」

メガファウナのクルーたちが食事のトレーを持って続々とやって来た。

ステア「ムーンレイスの食事っておいしいよね」

学生A「(ギセラに向かって)ある地域を力で征服した人は王になりますよね。分裂した地域を束ねた人も王になります。王はほとんどの場合男系男子か母系男子によって権力を世襲していきます。それは王政というものが、初代王が転生しながらずっと生きているというファンタジーの上に成り立っているからです。王政は戦争と深く関係があって、戦争がないところには王政もないし、男系もない。ぼくらが問題にしているのは、初代レイハントンは何をやった人かわからないことなんです。普通王様は権威付けするでしょ。何をやった人か詳しく語られるのが常です。ところがレイハントン王はそれがない。老人たちはただ王だというだけで信奉しているけども、ぼくらは子供のころにドレッド家が革命を起こしてからずっと民政で、それが当たり前になっています。ジャン・ビョン・ハザムは確かにドレッド家の傀儡で、だからぼくらは彼に反対してレジスタンス活動をしてきましたが、民政に反対していたわけじゃありません。レイハントンがどんな戦争をして、どんな成果を上げ、その成果の偉大さを称えながら継続されてきたのか誰も知らないんです。知っているのはヘルメス財団でしょうが、それはもう向こうに行ってしまって話は聞けません。だったら実際に初代王と戦ったディアナ・ソレルに・・・」

副艦長「ちょっと待った。ディアナ・ソレルが戦ったのが初代レイハントン王なのか。マジか。そりゃすごい。オレは君たちが熱心なわけがわかったぞ。ベルリはどうなんだ?」

ベルリは首から下げているG-メタルを取り出した。

ベルリ「シラノ-5の機能回復ができるか調べていたときに気づいたんですけど、これってユニバーサル・スタンダードじゃないでしょ? レイハントン家の人間だけが持てて、レイハントン家の人間だけが使えるものがあちこちにある。しかも重要なキーになっているケースがほとんどですよね。クレッセント・シップとフルムーン・シップの性能を上げるキーもこれになっている。ムーンレイスの冷凍睡眠を解くキーもこれだった。サウスリングのレイハントンの屋敷に侵入してきた2人組の女はこれを探していた。自分はなぜレイハントンの一族が血族なんかでこれを(G-メタルをひらひらさせる)受け継いできたのか不思議で」

ドニエル「(ステアの隣でスプーンを口に運びながら)本当は受け継ぐべきものがもっとたくさんあったんじゃないのか?」

ベルリ「そうかもしれませんけど、ぼくはまだ小さい頃に地球に連れていかれて、姉さんと違ってトワサンガの記憶はまったくないんですよ」

ギセラ「(副艦長と顔を見合わせて指を慣らす)クンパ大佐はG-メタルを必要としなかった。ジムカーオ大佐はG-メタルを必要としている」

副艦長「クンパ大佐は人と人をもっと競争させて遺伝子を強化しようとしていた。つまりレコンギスタだ。スペースノイドを地球に帰還・再征服させ、地球はそれを迎え撃つように仕向けた。その方針はレイハントンのものとは違うからG-メタルが必要になる場面はなかった。ジムカーオはそうじゃない」

ギセラ「ジムカーオが目指しているものは、レイハントン家の成り立ちに関係していて、G-メタルがないと事が進まない。だから欲しがった。でも薔薇のキューブはああやって自分の意思で動かしている。ほらほらほら、わかってきた!」

副艦長「薔薇のキューブはレイハントン家の意思に基づかない。しかし何かをしようとすれば、キーがいる。つまり、レイハントン家は最初から薔薇のキューブと敵対していた。やっぱり話は繋がってくるじゃないか。さっき聞いた話じゃ冬の宮殿のロックが掛かっていた映像はアイーダ姫さまのG-メタルでロックが解除されたっていっていたぞ。これに学生諸君の王政の成り立ちの話が加わる」

ステア「(ナプキンで口を拭きながら)あたしはレイハントンは1000年前の人だって思っていたよ」

ギセラ「ヘルメス財団1000年の夢ってやつでしょ? でもそれは宇宙世紀を復活させるという夢じゃなかったの? エル・カインド船長の話では確かにそんな話じゃなかった」

副艦長「外宇宙から地球へ帰還してきたのは幾度にも渡り、早くに地球圏へ戻ってきた集団を古来、遅く戻ってきた集団を今来と呼ぶ。順番でいうと、ムーンレイスが1番の古株、次にレイハントン王政の集団、そのあとは?」

ギセラ「太陽系外に出てしまうと、それはもう無限に散らばってしまうのでは?」

副艦長「レイハントンの後はその他大勢ということか。ムーンレイスは月の裏側の宙域を支配していたが、共存していたはずのレイハントンが奪いに来て、ディアナさんたちをコールドスリープに入れた。そのときレイハントンは薔薇のキューブで生活していて、月の裏側の宙域を奪ってからシラノ-5を作った。話を総合すると、これはムーンレイスを匿ったとか隠したと考える方が筋が通っている。レイハントンはムーンレイスを隠した。それは?」

ベルリ「(眠そうに)ディアナさんたちがスコード教への改宗を拒否して技術体系をフォトン・バッテリー仕様にすることも拒否したからですよ。ディアナさん本人がそう言ってました」

副艦長「ということは、いずれスコード教によるフォトン・バッテリー配給の仕組みが壊れると知っていたということだろうか?」

ドニエル「宇宙世紀の技術には宇宙世紀の技術でなければ対抗できないってわかってるからじゃないのか? 薔薇のキューブがいずれは敵対してくると知ってたからやったんだろ?」

ギセラ「そうですかねぇ?」

副艦長「ベルリは寝ちゃったか」

学生A「この人が我々の王子さまなんですか? なんだか頼りないな」

副艦長「王子としての利益を何ら享受せずに責任だけしょい込もうとしている若者を頼りないというなら、他のどんな人間だって頼りないというだろうさ。無責任な批判者でいるのは学生の特権かもしれないが、ベルリは君らより年下なんだぞ。地球はみんなが思っているほどには環境は回復していない。人が住める地域にはすでに多くの人間がいて、簡単に再入植なんてできない。ベルリは自分がトワサンガの王子だって知ってから、君らをどうすれば地球に再入植させられるか考えてきた子なんだ。そう悪く言うものじゃないな」







ゲル法王とウィルミット、リリンの3人は、ムーンレイスが封じた黒歴史の編纂作業をすべく、準備を進めていた。

彼らの調査により、宇宙世紀初期に起こった地球を破滅の危機から救った奇蹟は地球圏では伝承されず、地球は∀ガンダムというモビルスーツの機能により1度文明が完全崩壊していた。

アクシズの落下を食い止めた行為は顧みられることなく、赤いモビルスーツの人間が目指した行為だけが根強く継承され、文明リセット派と呼ばれる集団を生み出したのだ。文明リセット派は∀ガンダムで地球文明を灰燼に帰してしまった。それに対抗した文明存続派の機体がターンXであった。

しかし、ターンXは破れてしまう。

何もなくなった地球は、外宇宙へ逃れる者と地球に残る者に分かれた。地球に残った者はやがて原始時代へと戻っていった。宇宙世紀の技術は外宇宙に進出した者たちだけが受け継いだ。

外宇宙に進出した者たちはやがて地球へと戻ってきた。最初に戻ってきたのがムーンレイスだった。彼らは軍人と技術者の末裔だった。彼らの船団が地球に戻ってきたとき、地球は資源の枯渇した原始時代だった。ムーンレイスは月に拠点を構え、文明の再興を待った。

やがて彼らはアメリアと地球再入植について話し合い、サンベルト地帯の割譲を約束させた。ところが情報の長期保存ができなかったアメリア人はその事実を忘却し、些細な行き違いから戦争が起こった。事態が大きくなった原因は、文明が崩壊する原因になった∀ガンダムとターンXの発掘をしてしまったことであった。この2機を再び封じるため、多くの犠牲が払われた。

結局大規模な再入植は行われず、ムーンレイスは再び月に戻って時を待つことにした。ところが外宇宙から帰還してほとんど交流のなかった薔薇のキューブがムーンレイスを攻撃してきて彼らを月に追いやり、月の裏側の宙域を奪い取った。

薔薇のキューブの司令官レイハントンはのちにスコード教を興し、月の王位に就いた。

ウィルミット「月に戻ったムーンレイスは、冬の宮殿の1度焼失したデータを復元するために薔薇のキューブに支援を求めてますね。おそらくレイハントンが黒歴史に接したのはこのときが初めてでしょう。宇宙世紀の技術体系の結晶である薔薇のキューブからやってきた彼らは、黒歴史と接して突然何かを始めようとした」

ゲル法王「宇宙世紀時代の技術を放棄して、ユニバーサル・スタンダードへ置き換える作業が始まったということではないでしょうか? そしてアグテックのタブーの創出」

ウィルミット「法王さま、それがおそらくヘルメスの薔薇の設計図なんですよ。宇宙世紀の技術をすべてフォトン・バッテリー仕様に置き換えたものがヘルメスの薔薇の設計図で、それ以外はすべて廃棄されたんです。ビーナス・グロゥブの薔薇のキューブも同調した。そしてフォトン・バッテリーの生産と配給を開始して、キャピタル・タワーを建設して地球の文明再興に関与し始めた。それまでは折を見てレコンギスタするつもりだったのではないでしょうか?」

ゲル法王「レコンギスタ派というのはクンパ大佐のことですね。ではあのジムカーオ大佐という人物のことを長官はどのようにお考えなのでしょうか?」

ウィルミット「レコンギスタ派はそもそもの薔薇のキューブの考え方だった。しかし、地球環境が回復していないので待っていた。そこにムーンレイスの冬の宮殿との接触が起こった。彼らは宇宙世紀を繰り返すことを恐れた。クンパ大佐はそもそも宇宙世紀の繰り返しをそれることなどないと訴えた。ということは、ジムカーオ大佐は、レコンギスタには反対するレイハントンに近い考え方ということになる。でもやっていることはどうも違う」

ゲル法王「はい」

ウィルミット「映像を見ていて気付いたのは、あることが起こると人間というのは必ず意見が2派以上に分かれるということです。つまりレイハントン家が例のアクシズの映像を見たときも、解釈は2派あったと考えるべきで、その片方がジムカーオ大佐ではないかと」

ゲル法王「アクシズを押し返した奇蹟に接したとき、解釈がふたつ生まれた、と」

ふたりの傍で映像を再生させることに夢中だったリリンがふと立ち上がって走っていった。ゲル法王とウィルミットが彼女を目で追うと、その先にはノレドとラライヤ、それにハッパが立っていた。リリンはさっそくノレドとラライヤに抱き着いた。

ウィルミット「ああ、ふたりともよくぞ無事で。もうこんな怖ろしいことはやめてください」

抱き合う4人を縫うように前に出たハッパが、ゲル法王に話しかけた。

ハッパ「法王さま。ぼくはアメリア人で、熱心なスコード教徒ってわけじゃないですけど、アクシズの奇蹟のふたつの解釈というのは、人間がニュータイプに進化できるかできないかってことじゃないですか? いまからお話いたしますが、エンフォーサーというのは・・・」







結局学生たちは満足な回答を得られないまま追い払われることになった。

彼らがこだわっているのは、王という権力が世襲されることについてであった。王という権力は世襲によって代々受け継がれていく。これは彼らが主張しているように、血脈を転生と考えるから成立するのであり、もしも子供をまったくの他人と考えことが常識であったのなら、王という権威は常に強者が引き継ぐことになる。これは群れを作る動物と同じである。

しかし人間は常に王が誰かを争う事態を避けるため、王は血族によって最初から決まっていると定めた。なぜなら王の子は王の生まれ変わりであるからというわけである。人間の想像力は、血族の中に永遠性を見つけ出したのだ。王という存在を永遠にすることによって、権力争いを永遠に終わらせようと考えた。これが王政の理屈である。

では、レイハントン家は何を終わらせようとしたのか。トワサンガの権力争いだろうか。スペースコロニーであるトワサンガという閉鎖空間では、生産力が爆発的に増えることはない。地球とは違い、宇宙で暮らすということは、働いて作って分配することを効率よくやらねば人はすぐに飢えてしまう。何もかも計画的にやらねばならず、奪い合う余力はない。

効率的な行政がなければ分配は失敗する。分配の失敗による不満は生産力の低下に直結して人々を貧しくする。アースノイドがスペースノイドを支配できないのはこのためである。アースノイドは奪い合う余力を前提に権力志向を持つ。権力に対する考え方が違うのだ。

ではレイハントン家は一体何を怖れて王政を敷いたのか。ジル・マナクスは腕を組んで物思いに沈んだ。

彼は自分が研究すべき事柄を見つけたと思った。

ジル「そのためには何としても生き残らなくちゃな」


(アイキャッチ)


この続きはvol:67で。次回もよろしく。



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