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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第24話「砂塵に帰す」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第24話「砂塵に帰す」後半



(アイキャッチ)


ターンXがNYの街への攻撃を開始して半日が過ぎていた。

逃げ惑うアメリアの市民は軍と民間が協力して供出した様々なバスやトラックに分乗して東海岸から各地へと散っていった。テールランプの赤い灯火がハイウェイに列をなしていた。

太陽が西の空に落ち、闇が広がっても市街を照らす街灯はひとつも灯らなかった。フォトン・バッテリーによる電力供給が止められたこともあるが、そもそも街灯がひとつも残っていなかった。

旧時代に国連本部があったという理由だけで宇宙世紀を生き延びた歴史ある都市は、いまは灰燼に帰そうとしていた。暴走した∀ガンダムによって巨大な都市の3分の1は消失し、舞い上がった砂塵が夜空にあるはずの星の瞬きを隠し不気味な漆黒を作り出していた。

風に煽られた砂塵はアメリア軍国防省の建物に容赦なく降り注ぎ、パチパチと鳴る音が止むことがない。広場に降り立ったグリモアが上空から近寄ろうとする∀ガンダムに対して必死の応戦をしていた。しかしグリモアがどれほどサブマシンガンで応戦しようとも、退けられるのは一時的に過ぎなかった。

数百年前に作られたとされるこの古代兵器と比べると、フォトン・バッテリー仕様の兵器はまるでおもちゃのように軽々しく、脆弱であった。アメリア軍は∀ガンダムと交戦しながら、自分たちの自信の源であったイノベーションの行きつく先に絶望していた。技術革新は人間を豊かにすると信じていたのに、得られるものは虚無のごとき自己否定だったのである。

その白い禍々しい機体は、まるで地球そのものと戦っているがごとく大地に対して正対し、両手両脚を大きく開いた姿勢で攻撃されれば上空に退き、しばらくするともうもうと立ち込める煙と砂塵の合間を縫って舞い降りては闇の中でさえ輝く虹色の粒子を撒き散らしてまた上空へと消えていった。

アイーダ「首都機能はワシントンに移します。あちらは大戦時に放棄したままですが、それでもこちらよりはマシでしょう」

大統領であるズッキーニがいち早く首都を脱出してしまったために、現場の指揮はすべてアイーダの肩にのしかかっていた。国防省の周囲には多数のグリモア隊が集まって必死の防戦を行っていたが、∀ガンダムにはまるで歯が立たない状況が続いていた。

軍の輸送機で政治家を逃がそうとしたところ、あっさりと∀ガンダムに撃墜させられてしまったために、市民の避難はトラックとバスをかき集めて行われていた。全米各地の軍もNYに集結しつつあった。必至の状況を裁こうとするアイーダの頭の中には、月の裏側の広大な空間で大艦隊戦を指揮するディアナ・ソレルの姿が思い描かれていた。

アイーダ(彼女に出来て、わたしに出来ないはずがない!)

いまや誰もかれもがアイーダを頼り、その指示を仰いでいたが、彼女は泣きごとひとつ言わずすべての事柄に指示を出し続けた。

レイビオは彼女のプライベートルームの隠し部屋から高性能の通信機を運び出していた。それはグシオンがアグテックのタブーを犯して作らせたもので、衛星を利用した遠距離無線通信機であった。メガファウナがベルリを救出するためにゴンドワンに潜入したときも、キャピタルに潜入したときも、これを使って連絡を取っていたのだ。

アイーダ「それだけは絶対に壊させないでください。いまはそれだけが命綱です」

そんな彼女の下に、待望の知らせが届いた。

セルビィ「連絡がふたつ。ひとつはハリー・オードさまより。ふたつめは海兵隊よりシルヴァーシップ潜入部隊の準備ができたと」

アイーダ「ハリーには∀ガンダムを破壊するよう伝えてください。シルヴァーシップ潜入部隊はわたくしが指揮を執ります。連絡が終わったらあなたもここから逃げてください。あの光の粒子は人間を殺しませんが、大量の砂に押しつぶされて死んだ人間がたくさんいます。地下もダメです。首都を移すワシントンへ!」

セルビィ「(髪を振り乱しながら)姫さまは?」

アイーダ「議会が始まればあなたが必要です。とにかくワシントンへ急いで!」

そういってもまだオロオロとその場を離れがたくしているセルビィの背中を押し、アイーダは台車に乗せた衛星遠距離通信機を押すレイビオと共に建物の外へと飛び出した。

アイーダを援護するためにグリモアが一斉射撃をした。サブマシンガンの轟音が辺りに響き渡る。秘書と共に軍のトラックに通信機を乗せたアイーダは、男性秘書にこれを自分の旗艦であるラトルパイソンに積み込むようにと指示を出し、そのあとは南西の方角を指さしワシントンへ向かえと怒鳴った。

サブマシンガンの轟音は止むことなく、火薬が破裂する閃光がアイーダとシルヴァーシップ潜入部隊の姿を断続的に闇夜に照らし出した。彼らは強襲用のホバーに乗り込んで砂に覆われた街へと出た。その上空で轟音が鳴り響き、2機の巨大なモビルスーツの影を映し出した。

ハリー・オードの金色のスモーは街を破壊し尽くそうとする∀ガンダムに体当たりをしてその上体を起こさせ、ビームガンを連射した。機体表面を弾かれた∀ガンダムは月光蝶の射出を中止してスモーに狙いを定めた。

2機は牽制し合いながら上空へと舞い上がった。滞空した砂塵が切れるとその巨躯は月光に照らされキラキラと光るふたつの影となった。海上には巨大なふたつの丸い影がある。クレッセント・シップとフルムーン・シップであった。その2機にはすでに多くの戦艦が護衛としてついていた。

ハリー「ホワイトドールを海面上へ押し出す。オルカは絶対にこいつを逃がすな!」

さらに投入されたスモーが編隊を組んでビームガンの閃光を∀ガンダムに浴びせ続けていく。地上からのグリモアの攻撃に加えて新たにやってきたディアナ親衛隊との交戦で、∀ガンダムは防戦一方となって都市部への攻撃を中断せねばならなくなった。

静寂を眼下に置きながら、スモーの編隊と∀ガンダムが戦い続ける。アメリアとムーンレイスの連合軍は共に戦うことで信頼を深め、徐々に連携が取れるようになっていた。

砂塵が舞う静寂の中を、アイーダと軍の海兵隊選抜20名が乗り込んだホバークラフトが進んでいた。夕刻まであった街並みはもうそこにはない。砂と剥き出しになった硬い大地が残るのみであった。

彼らが目指すのは、アメリア軍の軍港であった。ここも関連施設はすべて砂の山となっていたが、ある建物だけがそのまま残っていた。その中に、シルヴァーシップは係留されていた。

ホバーを降りた20名は工兵が砂を描き分けて作り上げた通路を通って、建物へと近づいた。地下へと降りる階段に辿り着いたとき、アイーダが制止して作戦の確認を行った。

アイーダ「シルヴァーシップと呼ばれる薔薇のキューブの戦艦は、ある方から無人艦艇だと聞いております。しかし確認されているわけではないので十分気をつけること。戦艦の中心部に中央司令室があって、そこにアンドロイドと呼ばれる女性型の人造人間が1体います。10名でそれを破壊すること。指揮はわたくしが執ります。街を破壊しているあの白いモビルスーツは、このアンドロイドというものが操作している可能性があります。必ず機能が停止するまで破壊してください。残りの10名はこの船に時限爆弾をセットしていってください。完全に破壊してくださって構いません。機爆破30分後にセット。全員時間通りに脱出すること。よろしいですね?」

シルヴァーシップに潜入したアメリア軍は指示通り二手に分かれ、アイーダが率いる10名はライトを装着した銃を構えて中央司令室を目指した。もう1隊は爆弾をセットしていく。確実にこの船を破壊するのが目的だったので、船首から船尾まで500以上の爆薬を仕掛けなければならない。

中央司令室を目指したアイーダは、不気味に静まり返る真っ暗なモビルスーツデッキから入った。そこにはYG-201というG-セルフの量産機が10機静かに立ち竦んでいた。このモビルスーツにも爆薬が仕掛けられた。アイーダたちは帰り道に迷わないように小さな丸いライトを仕掛けながら進んでいく。

通路に書かれた文字はアイーダたちが使っているユニバーサル・スタンダードの文字ではなかった。宇宙世紀時代は世界各地で文字も言葉も違っていたという。これを統一することがユニバーサル・スタンダードの意味であり、宗教を統一することがスコード教の意味であった。

ユニバーサル・スタンダードを使っていないということは、規格統一の話し合いに参加していないという意味であった。クンタラが独自の宗教を持つのも同様だ。クンタラはスコード教を成立させる話し合いに参加させてもらえなかったのだ。アイーダはこのふたつの共通性に気がついた。

ユニバーサル・スタンダードはムーンレイスが指向していた世界統一の方向性であった。アイーダは月面基地でディアナからその話を聞いてたる。ベルリが追い詰められたときにスコードの名を叫ぶように、ハリーはユニバースと叫んでいたそうだ。人類統一の夢がそこには託されている。

ムーンレイスの目指したものが、規格と宗教の統一に繋がっている。

おそらくそれを成し遂げたのは500年前にディアナ・ソレルを攻撃した初代レイハントンであろう。彼はムーンレイスの夢を奪って、ムーンレイスを月に封じ込めた。ムーンレイスはユニバーサル・スタンダードのプロトタイプの方向性を持っていたが、話し合いの主導権を取れなかったのだ。それはレイハントンの野望によって奪われたのだろうか。アイーダにはそうは思えなかったのだ。

彼らは縮退炉の技術を捨てるつもりはなかったのだ。スコード教に参加しなかったのも、それがアグテックのタブーを正当化するための装置であったからだ。外宇宙から最も早く地球圏へ戻ってきたムーンレイスには、宇宙世紀の技術体系が最も色濃く残っていたのだ。

アイーダ(元も早く地球へ戻ってきた古来が話し合いから弾かれたとするならば、最も遅く戻ってきた今来も話し合いに参加させてもらえなかったのではないか? もしそれが薔薇のキューブで暮らすエンフォーサーなのだとしたら、彼らはなぜシラノ-5やロザリオ・テンの中に隠れて何百年も大人しくしていたのだろうか? 何らかの取り決めがなければそんなことには耐えられないはずだ)

列の中央で守られながら考え事をしていた彼女は、隊列が止まったことに気づかず前にいた兵士にぶつかってしまった。前列に人が移動し、銃を構えた。

兵士たちの銃に取り付けられたライトが、銀色に輝く男の顔や胸を捉えていた。

それは女性ではなかった。姿かたちは男性そのもので、痩躯のアジア系の特徴を保っていた。

エンフォーサー「あなたがもうひとりのレイハントンですかな。自分はジムカーオ。随分と困ったことをしてくれるものです」

アイーダは兵士たちの前に進み出て、まだ撃つなと命令した。

アイーダ「あなたがキャピタル・ガード調査部のジムカーオ大佐なのですか?」

エンフォーサー「いかにも。といってももちろんこれはただの思念の入れ物の機械ですが。それよりあなた方は何をもって法王庁に逆らっているのですか? このままではフォトン・バッテリーも尽きるのではありませんか?」

アイーダ「あなたこそなぜ世界を宇宙世紀に戻そうというのですか? 目的はなんです?」

エンフォーサー「もちろん世界を元通りにすることです。そのためには人類が戦争を止め、ばら撒かれたままのヘルメスの薔薇の設計図を回収しなければなりません。そうでしょ?」

アイーダ「そうですけど、あなたは戦争を焚きつけているし、ヘルメスの薔薇の設計図は拡散してしまってすぐにどうこうできるものではないのです」

エンフォーサー「戦争を止めるというのはね、どんなに焚きつけられ、煽られても戦争を起こさないことであって、一時的に休戦することは戦争を止めることにはならないのですよ。自分は多くの人間に関与しましたが、誰もがみんな戦い、壊し、裏切ることを選んだ。目先の勝利を求めたわけです。だからこうなった。アメリアと休戦協定を結んだゴンドワンは、間もなく核施設を攻撃して、地域一帯を放射能汚染で穢してしまうでしょう。∀ガンダムの利用も、ターンXの利用も同じです。あなた方は破壊のためにしか利用しなかった。違いますか?」

アイーダ「違わないかもしれませんが、人間はそんな一足飛びには変われません。何をするにも時間は掛かりますが、だからといってあなたのように時間を宇宙世紀に戻すことは言語道断です!」

エンフォーサー「宇宙世紀といっても長いのですよ。それに、戦争というものを反省して人間の新しい時代を作り出そうという考えは、もう1000年も前に始まっているのです。それには大きく分けてふたつの考え方があります。ひとつは言語と宗教を統一して争いごとの種を摘み、アグテックのタブーを用いてイノベーションを抑制しつつ発展しようという考え方です。あなた方アメリアが革新を担い、キャピタルが保守を担いました。保守と革新が互いを牽制し合いながら、戦争なき発展を目指そうとしたのです。これは民政を前提にした発展方法です。もうひとつの方法は王政による統治方法です。優れた人間が、劣った人間を善導しながら社会を発展させていく方法もまた、平和への道であるのです。お判りですよね?」

アイーダ「わかります。わかりますけど・・・」

彼女はいまにも銃口を開きそうな兵士たちを必死に抑え込んだ。

エンフォーサー「対話を拒否するのならいますぐにでも撃ってもらって構わないのですが」

アイーダ「いえ、納得する話があるまでは撃たせません」

エンフォーサー「人類が民政と王政のいずれを選択するかは、1000年の猶予をもって決することになり、リギルド・センチュリーが始まったのです。この場合、王というのはあなた方レイハントンのことではありませんよ。覚醒したスペースノイドによる旧人類の支配体制が王政になります。つまり、ニュータイプこそが王であり、人類を善導する指導者になるのです」

アイーダ「ニュータイプ・・・」

エンフォーサー「優れたニュータイプは超越者です。人と人との断絶を超え、時間を超えます。あなたはミック・ジャックという方の残留思念と遭遇したはずです。あの方は力が弱かったが、強い力を持つ人もいるのです。そうした方々の支配の下で人類は平和を享受できると」

アイーダ「納得できませんね」

エンフォーサー「それはあなた方アメリア人が革新的役割を負ったからそう感じるのですね。では実際、民政的方針で世界に平和は訪れましたか? クンパ大佐がヘルメスの薔薇の設計図を流出させただけであなた方は何をしでかしましたか? 1000年の猶予はもう過ぎたのです。そもそも猶予は500年のはずだった。それをレイハントンが自らをニュータイプだと詐称してまでさらに500年延ばした。もうこれ以上は待てないのです。民政が失敗したなら、リギルド・センチュリーはこれでおしまいになります」

アイーダ「いや、待ってください。そもそもそんな取り決めが1000年も前になされた訳は?」

エンフォーサー「ずっと戦っていたのですよ。ジオンがサイド3の独立を宣言してから、途方もない時間、外宇宙にまで進出して、ずっと戦い続けてきたのです。そのふたつの両派が争い、殺し合ってきたのです。あなた方はわたしたちを宇宙世紀存続派であると見做しましたね? それは間違っていません。なぜなら、王政、つまりニュータイプが支配する新世界に、タブーは必要ないからです。宇宙世紀の技術を使っても、戦争は起きないのです。こんなことは最初から分かっていたことなのに、我々が遅れて地球圏に戻ってきたことをいいことに、レイハントンはさらに500年の猶予を勝手に作った。それでも人類の破滅を避けるために、500年の猶予を我々は受け入れた。その間にビーナス・グロゥブではムタチオンが酷くなってスペースノイドは過酷すぎる運命に晒されたのです。その間、アースノイドは何をやっていたというのか。・・・さて、もういいかな?」

ふいにジムカーオの姿をしたエンフォーサーは話を止めた。すると皮膚をナノマシンで覆ったアンドロイドは女性型へと戻った。

アイーダ「いますぐあれを破壊してください」

彼女の合図で一斉に銃弾が放たれ、エンフォーサーは火花に包まれてその場に崩れ落ちた。

アイーダ「撤退します。時間稼ぎをさせられただけでした」

シルヴァーシップの突撃部隊が船内を離れてすぐ、仕掛けた時限爆弾が起爆し、シルヴァーシップは炎に包まれた。ホバーに乗り移った隊員らは急ぎ国防省へと戻った。







∀ガンダムのコクピット内で失神していたロルッカ・ビスケスは、目が覚めると咄嗟にコントロールレバーを引いた。するとまるで反応しなかったはずの∀ガンダムに操縦できるようになっていた。眼下では激しい炎が巻き起こっていた。そして自分は海の上にいた。

ロルッカ「冗談じゃない。こんな危なっかしい機体に乗っていられるか!」

彼はコアファイターを分離して逃げようとした。コアファイターは無事に分離された。しめたと喜び勇んだ彼は、ゴンドワンのある北東に機首を向けた。その直後、彼の乗るコアファイターは見慣れないモビルスーツの銃撃を受けて炎に包まれた。

ロルッカ「なんでオレを撃つんだ? オレは何も悪くないじゃないか。ただ武器を売っていただけだ。みんなが欲しがるから売ったんじゃないか! こんなのおかしいだろ? なぜ・・・」

ロルッカを乗せた∀ガンダムのコアファイターは空中で爆発して四散した。

それを見ていたハリー・オードは、コアファイターが分離されてなお∀ガンダムが動き続けることに驚いていた。

ハリー「全機、あのホワイトドールは以前戦ったものとはまったく違う。何らかの改造が成されているはずだ。まったく別の機体として・・・」

彼の左後方に陣取っていた銀色のスモーが突然炎を上げて墜落した。

ハリー「どこから攻めてくる? 下かッ!」

シルヴァーシップの大爆発の炎の中から、YG-201が飛び出てきてスモーを攻撃し始めた。ディアナ親衛隊のスモーは∀ガンダムと10機のYG-201に挟撃される形となった。

ハリー「いかん、ここは撤退する。各機、散開ッ!」

バラバラに攻撃をかわしながら逃げ惑うスモーをよそに、∀ガンダムと10機のYG-201は一塊となってディアナ親衛隊と対峙したが、すぐに方向を変えて南へ向かって飛び去っていった。

親衛隊A「追いかけますか?」

ハリー「いや、アイーダに報告することもある。ここは撤退だ。(通信を切り替え)アイーダ総監、聞こえるか。ホワイトドール・・・∀ガンダムが南へ向かった。YG-201というのも一緒だ。南には何があるのか?」

アイーダ「ハリー・オード? 南には・・・キャピタル・タワーがあります!」







ゴンドワン正規軍の爆撃機は、キャピタル・テリトリィを絨毯爆撃したものと同じ機体であった。

落陽前に出撃した彼らはそのまま北方を目指して飛んだ。眼下に見下ろすかつて首都だった場所には明かりひとつなく、墨で塗りつぶしたかのように真っ暗になっている。その様子を目にしたゴンドワンの兵士から、躊躇いというものが消えてなくなっていった。

彼らは闇の中を飛行し、クンタラ支配地域に向けて飛行中であった。そこはかつて自分たちの国であった。そこにクンタラが流入してきて彼らの土地を奪い去っていた。

すでに街が放棄されて住民が流民になっていたことは彼らには関係がなかった。土地が奪われた事実だけが重要だったのだ。兵士たちにとってクンタラ国建国戦線は、ゴンドワンがアメリアとの戦争に全精力を上げているときに狡猾に土地を奪った赦されざる者たちであった。

アメリアとの休戦協定もしくは和平協定がほぼ確定となったとき、ゴンドワン政府が真っ先に考えたことは奪われた土地の奪還であった。これは当然のことだったかもしれない。

戦場となったゴンドワンの首都と違い、クンタラ国建国戦線が支配する地域には煌々と明かりが灯っていた。それは宇宙世紀時代の原子炉を再利用したエネルギーだと彼らは聞いている。だが、原子炉の知識は彼らにはまったくない。アグテックのタブーに触れるものだとの認識しかなかったのである。

それもまた、熱心なスコード教徒の多い彼らには赦せないことであった。

遥か下方から対空射撃が行われ、闇夜にオレンジ色の光の粒が綺麗に浮かび上がった。だがそれらは爆撃機の高度までは届かなかった。目的地に達した彼らは、爆弾を次々に投下していった。巨大な炎が周囲を明るく照らした。爆弾が破裂するたびに街の借りが消えていった。

そして、投下した爆弾がかつて体育館だった場所に落ちると、しばらく間があってからとてつもなく大きな光球がその場所にいくつもできた。爆撃機は光球をともなった爆発が巻き起こした爆風によってコントロールを失いそうになったほどだった。

宇宙世紀時代の古びた原子炉が、連鎖的に爆発して周囲一帯の建物を吹き飛ばし、飛び散った炎が山々に火をつけていった。原子炉の恩恵によって真昼のように明るかった街は、核爆発の炎によってさらに激しく、昼間のように輝いた。

爆撃機は炎が燃え広がるのを確認すると、大きく右に旋回して南部地域へと引き返していった。

爆撃機の両翼と尾翼に灯るライトを、ミラジ・バルバロスはずっと見ていた気がした。だがそれが本当の記憶なのかどうか確認するすべは彼にはなかった。焼けただれて骸骨に溶けた肉が張り付いているだけの彼は、動かない瞳を空に向けるしかなかったのだ。

ロルッカ・ビスケスがアメリア近くの海上で撃墜されて死んだ時間と大差なく、ミラジ・バルバロスは核爆発に巻き込まれて死んだ。

レイハントン家を裏切り、武器商人となって利益を上げてきた彼らは、自分たちが仕えてきた王家がどんなものか知ることなく死んでいった。

クンタラ国建国戦線の中心都市は、一夜にして消滅した。

生き残った者は南を目指して夜を徹し徒歩で移動していた。そんな彼らの目の前に迫って来たのは、ゴンドワンの地上軍であった。アメリアのノルマンディ上陸を警戒して南部に張り付いていた陸軍が、必死の行軍で北方地帯目指して駆け上がってきていたのだ。

明け方近く、核爆発の災害を逃れてきたクンタラたちに、最初の砲撃が加えられた。

安住の地カーバを目指し、夢に溢れてやってきた保守派のクンタラたちは、自分たちが砂塵に帰したゴンドワンの首都に辿り着く前に、一方的に虐殺されていった。

その行為を懺悔するゴンドワン兵は皆無であった。


(ED)

誤字・変換ミスが多くてすみませんねー。


この続きはvol:70で。次回もよろしく。



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