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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第20話「残留思念」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第20話「残留思念」後半



(アイキャッチ)


施術台の上に固定されたラライヤ・アクパールは、自分を囲む白衣を着た大勢の人間が何者であるのかずっと考えていた。様々な人種、男女の数が同じ集団。似ているものはアメリアの気風であった。

しかし彼らはアメリアの人間ではない。彼らはエンフォーサーと呼ばれる何者かであるのだ。彼らの指揮を執っているのは、キャピタル・ガード調査部のジムカーオ大佐。クンパ大佐の後任としていつの間にか調査部に君臨した男である。

ラライヤはビーナス・グロゥブで起こったことをひとつひとつ記憶の表層に蘇らせていった。そして思い当たったのが、ビーナス・グロゥブ公安警察のことだった。彼の地での主犯はピッツラク公安警察長官という人物であった。彼は殺されたとのことであったが、公安警察とキャピタル・ガード調査部との類似性は、政府から独立した機関で、情報が集積する組織だということだ。ただでさえ秘密裡に行動しやすい組織が、宗教というタブーの影に隠れたらどうなるかは明白だった。

ジムカーオ「ゼロ? この娘には一切何も入らないのか? そんなはずはないだろう。あれだけの能力を発揮したのだ。やり方が間違っているのではないか?」

実験を繰り返しながら、ラライヤの身に何も起こらないことにジムカーオは納得がいかないようだった。簡易な台の上に寝かされて、両手両足を拘束されたラライヤは、様々な方法で「エンフォーサーユニットとして思念を移す」実験に晒されていた。

しかし何をやってもラライヤの身に変化は起きなかったのだ。実験の責任者らしい中年の痩せた白人の女が肩をすくめながらこういった。

女医A「共感性はあるのでしょう。それでもダメということは、すでに誰かの残留思念が彼女の身体に入っている可能性があります。誰のかはわかりませんけど」

ジムカーオ「施術も受けずにそんなことが起きるはずがない。ニュータイプは霊媒師じゃないんだぞ」

ラライヤには彼らの話が理解できた。それはベルリに起こった出来事から類推された彼女なりの結論だった。

ニュータイプの資質のある者は人と人の境界線を越えて、その思念が相手の中に入ることがある。思念に境界はなく、残留思念というからには人の生死すら関係ないのかもしれない。

エンフォーサーが何を執行する存在であるのかまでは彼女にはわからない。しかし、銀色の女性型エンフォーサー自身には人の思念というものがなく、境界を越えてきたニュータイプ資質のある人間の思念を自身の中に取り込んで囲うことが出来るのである。

ベルリがエンフォーサーが搭乗したG-シルヴァーと戦った際に意識を失うほど引き込まれていったのはそのためだ。しかし自分にはすでに何者かの思念が宿っていたので、引き込まれもせず、新たな思念も入ってこない。G-ルシファーの操縦をしていたときにそれは彼女の中に入ってきたのだろう。

G-ルシファーのサイコミュが、彼女の身に何かを引き起こしたのだ。

ジムカーオと医師たちは議論を戦わせていた。だが諦めたのはジムカーオであった。

ジムカーオ「哲学論争などまっぴらだ。いやこれは哲学ですらない。宗教だ。大昔の強化人間とは違うのだよ。戦うために欲しているのではない。人の肉体がかりそめのものでなければ大執行などただの虐殺ではないか。ビーナス・グロゥブにどう言い訳するのだ」

語気を強めるジムカーオの足元が小さく揺れた。ラライヤもベッドの上でその揺れを感じた。何者かが薔薇のキューブに攻撃を仕掛けてきたのだった。







メガファウナを飛び出して単機薔薇のキューブの後方に回り込んだG-ルシファーにファンネルが回収された。あまりに巨大な薔薇のキューブは1度の攻撃ではビクともしなかった。

G-ルシファーに乗っているのはノレドとハッパであった。ラライヤが誘拐されたと聞いたノレドは矢も楯もたまらず冬の宮殿を飛び出し、アイーダにメガファウナまで送ってもらったのちに許可もとらずG-ルシファーの封印を解いたのだった。

ハッパに対してエンフォーサーを乗せるように彼女は要求したが、ハッパがそれを拒否すると彼をそのままコクピット内に蹴り込んで無断で出撃してしまった。

ハッパ「いい加減にしろ、ノレド!」

ナビゲーション席に座らされたハッパは怒り心頭であった。だが自分がラライヤを救出するといってきかないノレドは薔薇のキューブの内部に入ることしか考えていなかった。

ノレド「ハッパさんはシルヴァーシップがこちらを攻撃してこなかったことを考えて。あたしは入口を探す。こんなもの全部あたしが壊してやる!」

シルヴァーシップの話に、ハッパのメカオタク気質が刺激された。

ハッパ「(眼鏡を直しながら)確かに妙なんだな。突っ込んでいったときはもう死ぬと思ったものだが、連中は攻撃どころか警告もしなければ通信も送ってこなかった。つまりこれは、この機体を仲間だと識別したということだ。だが、そう識別したからといってこうして攻撃を仕掛けているのだから、目視で敵だとわかりそうなものだが、それでも反応がない。ここから得られる結論は、シルヴァーシップは完全自動操縦の無人船だということだ。おい、ノレド、聞いているのか」

ノレドは話など聞いていなかった。彼女はまたしてもファンネルを放出して薔薇のキューブに攻撃を仕掛けた。しかし薔薇のキューブには傷ひとつつかない。

立方体の前で2重の円形の陣を取っていたシルヴァーシップが前方に向けて射撃を開始した。どうやらノレドが動いたことで戦闘が始まってしまったらしかった。

ハッパ「まだ作戦会議は終わっていなかったんだぞ! ラトルパイソンもまだ宙域にいるのに。ノレド! ノレドーーーーーー!」







ノレドがG-ルシファーを盗み出して単機攻撃を開始したとの知らせが入って、作戦会議は打ち切られた。シラノ-5の各港に入港していたムーンレイスの艦艇や、サウスリングの下に隠れていたメガファウナ、ソレイユなども出撃し、ディアナ・ソレルの指示で陣形を整えた。

シルヴァーシップは射程外から第1射を放って威嚇してきたが、ムーンレイスとメガファウナはそれにひるむことなく陣形を完成させた。

そのときだった。G-ルシファーからオープンチャンネルを通じて各艦に通信が入った。あまりに急な出来事であったためにミノフスキー粒子が散布されていなかったのだ。

ハッパ「シルヴァーシップは無人機の可能性あり。おそらく敵モビルスーツも同様に無人。ミノフスキー粒子が干渉しない何らかの方法で遠隔操作されている模様!」

ディアナ「なるほど。それで疲れ知らずな指揮ぶりだったのですね」

それに対抗した自分を誇るかのようにディアナはいった。彼女は少し考えこみ、敵が艦隊戦に持ち込んできたわけを考えた。

ディアナ「無人機のモビルスーツに自信がないとみました。先ほどより乱戦に持ち込みます。各艇モビルスーツの発進準備。確固の判断で出撃させてください。敵は1度に攻略できる戦力ではありません。今回の目的はシルヴァーシップの数を減らすことだと考えてください。メガファウナはラライヤ・アクパール及びノレド・ナグらの救出を優先」

たった2日の戦闘休止状態は瞬く間に崩れ、再び宇宙では大規模な戦いが始まった。






ベルリ・ゼナムはメガファウナのモビルスーツデッキでずっと苛立っていた。

ベルリ「ノレドの奴、勝手なことばかり!」

アダム・スミス「お前にふさわしい女の子になりたいのさ。わかってやれよ、少年」

ベルリ「ふさわしいってどういうことですか!」

アダム・スミスはそれに答えずさっさと自分の仕事に戻っていった。ベルリは思い切り水を飲みこんで少しむせた。クレッセント・シップが日本に寄港したときに降りて以来、かつての仲間たちとはずっとすれ違いになっているような気がしていた。ノレドも同様であった。

ベルリ「なにか、みんなが遠くにいる気がする」

アダム・スミス「なんだってー?(何でもないですとベルリの返事がある)ディアナさんは名前を出してなかったが、ハッパも連れ戻してくれよ。頼むぞ、ベルリ!」

ベルリ「了解です!」

メガファウナを発進したG-セルフは少しだけ先行して敵の様子を伺った。シルヴァーシップは2重の円陣を崩しておらず、ムーンレイスの動きに合わせて完璧に連動された艦隊行動をみせていた。

ベルリ「結構固いぞ。なんでノレドはあんな防御陣形を突破できたんだろう?」

中央に入ると集中砲火を浴びると判断したベルリは、陣形の一角を崩すために大きく左舷へ回り、シラノ-5の影を利用して攻撃を仕掛けることにした。







地球へ帰還することになったアイーダ・スルガンは、1隻も失うことなく艦隊戦を乗り切ったことに安堵していた。

彼女のラトルパイソンに従うのはディアナ親衛隊を乗せたオルカ2隻であった。彼らは月の軌道を回り、太陽光が当たる表側へ向かっていた。そこでクレッセント・シップとフルムーン・シップを伴って地球まで航行し、大気圏突入をすることになっていた。

戦力を失うどころかさらに増やして帰還できるのは大きな成果であるはずなのに、アイーダの顔は晴れなかった。

その理由は、ジムカーオによる情報戦にあった。いつしかアメリアは「宇宙からの脅威」であるムーンレイスと同盟を組んで地球の支配を目論む悪人にされてしまっていたのだ。法王庁を通じて発表された話がどこまで庶民に浸透しているのかは、戻ってみなくてはわからなかった。

ハリー「顔色がすぐれませんな。何か心配事でも?」

ハリー・オードは作戦を共にするラトルパイソンを表敬訪問していた。彼の視線はサングラスに阻まれてどこにあるのかわからない。

アイーダ「(難しい顔で)トワサンガの奪取には成功いたしましたが、もしかしたら地球は厳しい状況になっているかもしれません。お覚悟を」

ハリー「ご心配には及びません。自分はこれでも慣れているので」

ラトルパイソンのブリッジにケルベス・ヨーが上がってきた。彼が率いるケルベス隊は彼の教え子たちで構成されており、若い隊員ばかりであった。

ケルベス「(帽子を取って腿のところでパンと叩く)話を総合すると、ザンクト・ポルトにはカシーバ・ミコシが乗りつけてガードの裏切り者たちがタワーを運行していてもおかしくないわけです。薔薇のキューブの連中はクリムと同盟を結んでいたわけだから、タワーもテリトリィもあちらのものになっている。ハリーさんのお話じゃカシーバ・ミコシは大量のモビルスーツを運搬していた。こうなるとこっちのレックスノーじゃ対抗できない」

アイーダ「何か作戦を考えましょう」

ケルベス「いや、それは隊員たちと散々議論したがダメだとわかったわけです。かといってキャピタルの問題でアメリアに軍隊を出してくれともいえないし、アメリアにはモビルスーツがないという。そもそもエネルギーがなくなってきている。これはもうどうしたらいいのかわからんのです」

話を聞いていたハリー・オードが、キャピタルとアメリアの座標を確認しながら話に割って入った。

ハリー「ディアナさまが月の宙域を制圧したのなら、どのような世界が来るにせよあなた方の悪いようにはしないでしょう。タワーというものもそのときに取り戻せばいいのでは?」

ケルベス「取り戻し方が問題です。あまり時間が経ってしまうと、キャピタルに入植した人間と元の住人との間で権利に関する争いが起こる」

アイーダ「アメリアはキャピタルのレジスタンスを支援していましたが、たしかにゴンドワンのみならず多くの入植者が入ってきていますね」

ケルベス「また戦争で取り戻すのかという話になります。宇宙世紀復活派というのはどうも争いの火種を作り上げる天才のように感じる。かといって、キャピタルは我々の故郷なので、明け渡すつもりなどないのです」

アイーダ「ケルベスさんにはとりあえずアメリアへ入ってもらって、レジスタンスの指揮を執るなりしていただこうと思っていたのですが、そう単純でもないのですね」

ケルベス「我々が戦争に勝てば、今度はゴンドワンからの入植者がレジスタンスになる」

ハリー「戦いは諦めた方が負けることになっている。ケルベスさんの話ではもう負けたかのような言い草だ。取り返したいのであれば、戦うことです」

それを聞いたケルベスは気分を害し、むっとした表情で食って掛かった。

ケルベス「では貴殿ならばどのようになさるのかご高説を賜りたい」

ハリー「決してバカにしたわけではないのでお許しいただきたいものだが・・・、もしわたしが故郷を奪われたのならば、一命を賭してでも奪い返しましょうな。ターンXならば、単独で大気圏突入もできますし、エネルギーは永遠、フォトン・バッテリー仕様のモビルスーツなど敵ではありません。単独で大気圏内飛行も可能。攻撃力も無限に近い」

ケルベス「単独で・・・、まさか」

ハリー「ゆえにあの機体は邪悪なのです。あれとホワイトドール・・・、∀ガンダムは、宇宙世紀の鬼子のような存在。せっかく我々が封じたものをまた掘り返すことになったのならば、それなりの運命というものがあるのでしょう」

ケルベスは意を決した顔になり、まっすぐハリーに向き直った。

ケルベス「よいお話を聞かせてもらった。ではアイーダ姫さま、自分はキャピタル上空から単独大気圏突入をさせていただく。レックスノー隊は予定通りレジスタンスに合流させてやってください」

アイーダ「ちょっと待ってください。いいのですか?」

ケルベス「いいんです!」

ハリー「(腰に手をやり)なかなかまっすぐな男だ。心地よい」






薔薇のキューブはシルヴァーシップ同様凹凸の少ない作りで、入口はなかなか見つからなかった。

ハッパ「ノレドはビーナス・グロゥブで中へ潜入したんだろう?」

ノレド「あのときはフラミニアさんが案内してくれて・・・。丸い形のエレベーターだったんだよ」

ハッパ「球体? まるでクラウンのようだな。(考え込み)内部の都市部はノレドやウィルミット長官の話で直径2㎞四方だとわかっている。いま計測結果が出ているが、立方体の部分は直径20㎞もある。残り18㎞で生活空間や外壁として・・・、後ろの丸い部分は生産設備なのか?」

ノレド「うーん・・・、壁の向こうは確かに生産設備だった。でも宇宙に繋がっていた。あそこから入れると思ったんだけど」

ハッパ「立方体部分はおそらくかなり頑丈だ。後部にパルスエンジンがついているから球体の下半分はエンジンユニットだろう。なら入るなら球体部分の上半分のどこかだな」

ふたりを乗せたG-ルシファーは、薔薇のキューブの球体部分の側面のどこかに侵入口がないか探したが、なかなか見つからなかった。そうこうしている間に艦隊戦は激しくなり、ノレドの操縦でまっすぐに帰還することは不可能になってしまった。

ノレド「くっそう! ラライヤーーー!」

彼らから離れた位置で大爆発が起きてその閃光がG-ルシファーを一瞬だけ明るく照らした。ムーンレイスの艦隊がシルヴァーシップを1隻撃墜したのだった。すると、薔薇のキューブの球体部分のハッチが開いてそこから新たなシルヴァーシップが出撃するのが見えた。

ハッパ「あそこだー!」

ノレド「はい!」

G-ルシファーは閉まるギリギリのタイミングで薔薇のキューブの内部に潜入した。

ハッパ「ノレドも見たか? 薔薇のキューブはシルヴァーシップが1隻撃墜されるとすぐさま新しいのを補充するんだ。こりゃ厄介だぞ」

球体の内部は漆黒の闇であった。G-ルシファーは全身のライトを灯して周囲を照らした。そこは驚くことに完全に自動化された巨大生産ラインで、複雑に入り組んだ作りになっているがシルヴァーシップからモビルスーツまでがオーダーを受けるなりすぐさま組み立てられるように準備されていた。

生産ラインの間をすり抜けながら、ふたりは機体をモビルスーツの生産ラインに寄せていった。

ハッパ「これはありがたい。フォトン・バッテリーを新品に変えられるかもしれない」

そういうとハッパはさっそく真新しいフォトン・バッテリーを1個盗み出して交換を始めてしまった。

ノレド「うお、フォトン・バッテリーがいっぱいある!」

ハッパ「あるとこにはあるもんだ。ウィルミット長官がトワサンガの行政を手伝っていたとき、少量ずつ使用先のわからないエネルギーが分配されているらしいとレポートに書いてあったのを読んだが、ムーンレイスの生命維持だけでなく、こっちに回されていたかもしれんな。なぁ、ノレド。ラライヤを助けたい気持ちはわかるが、メカニックはこうしたことのやり繰りもしながら機体を運用しているんだ。もう勝手なことはしないでくれよ。空気の玉も水の玉も残り少ない。どこかにないか探してくれないか」

ノレド「うん、わかった。ごめんよ、ハッパさん」

作業を続けるハッパは、カチャッと金属音が鳴ったのを耳にして顔を起こした。

そこには、ハッパとドニエルを拉致してG-シルヴァーとターンXの整備をさせたアーミーの制服の男が立っていた。彼の後ろにはふたりの大柄の女も立っている。女はベルリとターニアを襲った女たちであった。アーミーの男はノレドのこめかみに拳銃を突き付けていた。

兵士「そのモビルスーツを譲ってくださいよ」

ハッパ「あのときの下っ端くんか・・・。ノレドを開放するか?」

兵士「もちろん」

ハッパ「じゃぁ、フォトン・バッテリーの交換が済むまで大人しく待っててくれ。交換しなきゃすぐに止まっちまうぞ」

兵士「そりゃありがたいことで」

ハッパ「(作業を続けながら)オレたちはラライヤという女性を探している。心当たりはないか?」

3人は互いに顔を見合わせていたが、男が顎をしゃくると後ろの女のひとりが答えた。

女A「F-10045にいます」

ハッパ「じゃ、オレたちはそこへ向かうから、オレもその子も絶対に殺すなよ。お前たち、ジムカーオを裏切ったのだろう? オレたちを殺せばもうトワサンガへは帰れないぞ」







クリム・ニックを乗せたシルヴァーシップは、轟音を上げて大気圏に突入しようとしていた。船体は空気との摩擦で真っ赤に染まって、船内中央部分にあるブリッジも大きく揺れていた。

シートベルトをつけたクリムは指を座席に食い込ませてGに耐えていた。ニック・ジャックの顔に変化したエンフォーサーは微動だにせず、前方を見つめている。クリムはいまだに信じられない気持であったが、エンフォーサーはミック・ジャックの残留思念を取り込んだ存在なのだ。

やがて船体表面の温度は下がり、シルヴァーシップは安定飛行に入った。エンフォーサーはミックと同じ声の合成音で喋り始めた。

エンフォーサー「ガランデンもオーディンも失って、ゴンドワンに戻られるのですか?」

クリム「(シートベルトを外し)仕方がない。クリムトン・テリトリィよりは安全だろう。あの忌々しいジムカーオとかいう男がタワーを占拠しているみたいだしな」

シルヴァーシップは静かにゴンドワン上空に近づいていった。モニターが作動して一斉に地上の様子を映し出していく。ところが、確かに地形はゴンドワンのものであったが、そこに映し出されたのは砂漠のような光景であった。わずかに残っていた歴史的建造物など跡形もなく消え去っていた。

クリムは唖然とした顔で画面を見つめていた。

クリム「都市部が壊滅している・・・。一体誰がこんなことを・・・。いや、何者も文明を砂に返すようなことはできるはずがない。これは何かの間違いだ」

エンフォーサー「これは大執行の後です。あたしはこの機械の中にある情報がわかるようになっていて・・・、これは大執行といって、地球人類に進歩が認められなかった場合に定期的に起こされる仕組みなんです」

クリム「定期的?」

エンフォーサー「約1000年に1度のようですね。今来と古来の間でそのように決まったと。ただし、最も古く帰還したムーンレイスはそれに反対し、人間の自由意思を尊重するように求めたことで争いになった。続々と地球に帰還してきた今来には『文明存続派』と『文明リセット派』がいて、戦争に敗れた『文明存続派』は数が少なく『宇宙世紀復活派』などと呼ばれてビーナス・グロゥブへ追いやられ、遠い将来地球に帰還させるとの条件で忍耐強い労働を強いられることになった」

クリム「何のことかさっぱりわからん」

エンフォーサー「いまのクリムに必要なものは、あたしの代わりになるいい女を見つけること。たしかに関係ありませんね」

クリム「(モニターを凝視して)世界中がこうなっているのか?」

エンフォーサー「大執行はまだ行われていないはずですが。それに、トワサンガのレイハントン家はビーナス・グロゥブが強制的に地球に対して大執行を行うことに反対して、月で食い止めるため様々な仕掛けを施していたようです」

クリム「では、誰がこんなむごいことをしでかしたのか」

エンフォーサー「大昔の『文明リセット派』の機体が再起動したとしか考えられませんが・・・」

クリム「ミック、これではゴンドワンに接触しても無意味だ。かといってアメリアにはもう戻れない。どうなっているかわからんが、クリムトン・テリトリィに接触したいが、近づけそうか?」

エンフォーサー「キャピタルに侵攻したときのように、大西洋を東から大回りしますか」

ミック・ジャックの思念を宿したエンフォーサーは、これ以上ゴンドワンに近づくことはやめて、船首を南へと向けた。







クレッセント・シップとフルムーン・シップを伴って航行するラトルパイソンを離れ、ケルベス・ヨーはひとりターンXで出撃した。

ケルベス「これほどまでとは・・・」

ターンXは驚くべき速さで月から地球へと帰還した。ザンクト・ポルトはいまだ夜の位置にあり、彼は太平洋付近から単独で大気圏を突入してそのままクリムトン・テリトリィと名を変えさせられた故郷を目指すことになった。

モビルスーツでの大気圏突入など考えもしなかったケルベスの心は不安で一杯であった。だが、もし自分ひとりが悪名を背負うことで故郷を取り戻せるならば、それも仕方がないと覚悟を決めたのだ。

現在のクリムトン・テリトリィにはゴンドワンからの入植者がたくさんやって来ている。旧住民たちは土地を取り戻すために入植者たちと戦っている。その殺し合いを終わらせるためには、もう1度殺し合いが必要なのだ。もしターンXがそれを可能にするならば・・・。

ケルベス「その悪行はオレが背負うしかない」

大気圏突入を果たしたターンXは、太平洋を越え、夜明け前のクリムトン・テリトリィを目指した。








法王庁からの指示でクリムトン・テリトリィ2代目領主となったルイン・リーは、クリム・ニックが接収して使っていた巨大な邸宅を相続していた。

彼はクリムトン・テリトリィという名前を聞くたびにこみ上げてくる笑いを噛み殺さねばならなかった。すでにクリムは死亡したことになっており、大々的に葬儀も済ませてあった。法王庁の手際は良く、元側近らによる遺産相続をめぐる争いは鎮圧されていた。

クリムが残した莫大な遺産は法王庁の管理下に置かれ、ルインとマニィの手には渡っていない。宇宙からの脅威、ムーンレイスの脅威を盛んに宣伝する法王庁は、まるでかつてのアメリアのようだった。ただ、その絶大な権威は人々をひれ伏させる。宇宙からの脅威は既成事実となっていた。

ゴンドワンからの入植はすでに行われていなかった。行き場を失った移住希望者たちはアメリアへ向かったが、アイーダ不在の議会は彼らを不法移民として処罰した。

ルインがキャピタルを奪ったことで、大陸間戦争を終わらせたのはクンタラ国建国戦線ということにされていた。法王庁はこの功績を称え、キャピタル・テリトリィの秩序回復に貢献したことで、クンタラ建国戦線は合法組織となり、スコード教法王庁との間で歴史的和解を果たそうとしていた。

その式典の日取りを決めるのも、キャピタル・テリトリィ2代目領主ルイン・リーの仕事なのだ。

ルイン「皮肉なものだ。しかしこれで世界は元に戻ったともいえる。ジムカーオ大佐の手際の良さ、頭の回転の速さは驚くべきものだ」

ルインは邸宅の片隅に新たに設置した小さなブランコに腰かけ、夜空を眺めながら小さな娘をあやしていた。かつて陰湿な虐めにあっていた土地に戻ってきて、自分はそこに君臨している。しかも、世界の救世主として。これは大きなサプライズだった。

ルイン「オレはどうすればよいのだろう。クリムの口車に乗った若者たちをゴンドワンに返して、レジスタンスを迎え入れればいいのか? それともここをクンタラの国家にすればいいのか? ゴンドワンの若者を受け入れ、オレたちを差別したキャピタルの人間たちに復讐すればいいのか? 何でもできるんだ。いまのオレには何でもできる」

夜中にぐずって泣き始めた娘コニーは、いまは静かに眠りについていた。そこにガウンを纏ったマニィが駆け寄ってきた。彼女はブランコの傍にやって来て、ルインから子供を受け取った。

マニィ「ごめん。あたし寝てた」

ルイン「夜なのだから君は眠ればいいのさ。すまないが、オレはG-∀でレジスタンスの様子を見てくる。朝食までには戻るよ」

マニィ「あまり眠っていないんでしょ? 無理しないで」

ルイン「まだ若いんだ。それに責任というものがある」

そう告げると彼はG-∀に乗り込んで上空へと飛び上がっていった。

東の空、水平線がかすかに白んできていた。もうすぐ夜明けが来るだろう・・・。ルインがそう考えていたとき、G-∀のモニターにおかしな文字が浮かび上がっては消えた。それは徐々に点滅のようになり、ルインの意思とは無縁に機体はどんどん加速していった。

見たことのない古代文字が交互に点っては消える現象に怯えたルインは、何とか機体を停止させるようにあらゆる操作系を触ってみた。

しかしG-∀の加速は止まらず、何かに引き寄せられるように加速していく。コクピットは警報音を発し、機体は大きく揺らいだ。

ルイン「コクピットはユニバーサル・スタンダードに換装されているんじゃなかったのか? なぜこんな文字が浮かび上がるのだ? いかん、操縦が効かない。故障か?」

G-∀のコクピット内部で起こっていることは、クリムトン・テリトリィ目指して飛んでいたターンXのコクピットでも起こっていた。ケルベスもルイン同様に発光する謎の文字に戸惑っていた。操舵は効かず、減速もできない。

ケルベス「いかん。このままでは地表に激突する」

必死に機体をコントルールしようとするケルベスの意思を、ターンXは顧みようとはしてくれなかった。

ルインが乗る∀ガンダムとケルベスが乗るターンXは互いに引かれ合い、猛スピードで風を切り宙を駆け抜けると、Iフィールドを全開にしたまま激突した。

ぶつかり合ったIフィールドは、∀ガンダムとターンXを一瞬のうちに停止させ、直径100㎞にも及ぶ巨大な光球を作り出した。


(ED)


この続きはvol:62で。次回もよろしく。



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