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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第18話「信仰の根源」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第18話「信仰の根源」後半



(OP)


月の裏側へ移動するためにムーンレイスが過去に作り上げたハイパーループを使い、ベルリとラライヤのふたりはG-セルフ、G-アルケインの2機を先に冬の宮殿へと移動させた。

同じ便で移動したのはノレドとウィルミット長官、ケルベスの3人と、前線基地建設のための作業員たちであった。ノレドとウィルミットはそのまま冬の宮殿へと向かい、ゲル法王とリリンに合流した。アイーダはラトルパイソンで移動してくる手はずになった。

ベルリとラライヤ、ケルベスの3人のパイロットは到着するなり機体に乗り込み、モビルスーツデッキへと移動していった。

ラライヤ「クレッセント・シップとフルムーン・シップの防衛は大丈夫なんですか?」

ベルリ「護衛も残るみたいだけど、月の表面の監視モニターを上手く使って逃げ回るそうだよ。月があっちゃ物理的に近づくのは難しいんじゃないかな」

月の裏側のモビルスーツデッキは、ラライヤたちトワサンガの訓練兵が発見した宇宙世紀時代のものだった。月面は中立地帯といいながら極秘のうちに多くの施設が建設されては放棄された場所であった。

ラライヤ「(機体をチェックしながら)G-シルヴァーにエンフォーサーが乗っていたって本当なんですよね。リンゴ少尉も見たとか」

ベルリ「うん。エンフォーサーがG-ルシファーを操作したとは聞いていたから驚きはしなかったけど、起こった現象はハッパさんの説明ではさっぱりわからなかったな。ニュータイプがどうのとか、サイコミュがどうとか。でもあの現象が起こると、たしかに境界が消えていく感覚はある。それで相手のことが見える場合と、昏い闇の中へ引き込まれていくときがあるんだ。ラライヤはあれに引き込まれそうにはならないんだ」

ラライヤ「黒いのは見えますけど・・・、引き込まれはしないですね」

ベルリ「ぼくだけか・・・。それにエンフォーサーは明らかにこちらをスキャンしていた」

ラライヤ「ノレドは暴走するエンフォーサーを殴って止めたらしい」

ベルリ「(呆れて)爆発したらどうするつもりだったんだ。じゃ、ぼくはちょっと偵察に出てくる」

ラライヤ「わたしはみんなのところに行きます」

G-アルケインを降りたラライヤはすぐに冬の宮殿へと向かった。宇宙世紀の黒歴史として封印されていた映像をベルリも見ておきたかったのだが、彼は何か嫌な予感も感じ、ノレドたちと行動を共にする勇気を持てないでいた。

G-セルフにドンッという衝撃があり、接触回線が繋がった。

ケルベス「ビーナス・グロゥブでは上手くいかなかったらしいな」

ケルベスはトワサンガから脱出するときに使った胸に傷のある白い機体に乗っていた。その機体のコクピットは頭のところにあるのでモニターを合わせるとケルベスが身を乗り出して微笑んでいた。

ベルリ「教官殿はその機体なんですか? リンゴ少尉からザンスガットを取り返せばよかったのに」

ケルベス「それがな、ハリーというサングラスを外さないディアナ・ソレルの近衛隊長がいるだろう? 彼がこの機体を嫌っていて、できることなら地球に持ち帰ってこれを埋めるなりなんなり処分して欲しいというんだな。そもそもは地球で掘り出したものを、調査部のジムカーオ大佐が宇宙まで運ばせたらしいんだ。この機体をどう思う?」

ベルリ「宇宙世紀時代のものなんでしょう? 胸のところに傷もついてるし、それにトワサンガじゃ頭が取れてしまいに暴走してましたよ。使い物にならないと思いますよ」

ケルベス「一応整備されて、使えるようにはしてあるらしいんだ。名前はターンXだそうだ」

ベルリ「操作系がユニバーサル・スタンダードじゃないし、文字も読めないような代物、やめた方がいいですよ。頭のところに乗るなんて基本設計が狂ってますよ。死んじゃいますよ」

ふたりは開かれたハッチから宇宙空間へ飛び出した。ターンXは発掘品とは思えないほど力強く加速し、運動性能においてはG-セルフを凌駕しているようにも見えた。その事実に感嘆しながらも、ベルリは不安を覚えていた。

ベルリ(宇宙世紀時代のいわくつきのMSを本当にこの戦場に出していいのだろうか? 何か悪いことが起こらなきゃいいけど)

月の裏側からシラノ-5はさほど遠いわけではない。MSだけで移動できる距離であった。この狭い空間で近々大きな戦争が起こるかもしれない、そう考えるとまた自分はリリンの父親を殺したとわかったときのような絶望を味わうのかと気持ちが暗くなった。

G-セルフの機体の調子は良好だった。

ケルベス「そっちも調子がいいようだな」

ベルリ「本当にターンXで戦場に出るつもりじゃないでしょうね?」

ケルベス「(得意げに)教官さまを舐めてもらっちゃ困るね。たしかにこの機体は宇宙世紀のものだが、パイロット認証さえやっておけば、ほとんどがオートで、動かせば動かすほど思い通りに操れるようになっているのさ。まあ、ハリーに教えてもらったのだが」

ベルリ「文字は読めるんですか?」

ケルベス「いや。文字は読めないが、直感的に操作できるようになっているから、ユニバーサル・スタンダードのはしりみたいなものじゃないかな。宇宙世紀時代に概念としてはあったのだろう」

そういうとケルベスはターンXを自在に動かしてみせた。大きな機体であるのに軽やかに動き、右手を突き出すとワイヤーが伸びて先端の爪が勢いよくピンと張った。

ケルベス「ザンクト・ポルトで調べたのだが、ジムカーオというのはクンパ大佐の前の前の調査部の責任者らしい。ガードの調査部というのは、スパイのようなものだから、クンパ大佐のようにでしゃばらなければ運航長官も詳しくはお知りにならないし、ウィルミット長官が就任する前のことでもある。おれはその男を捕まえたいと考えているんだ。協力してくれないか」

ベルリ「教官殿のご命令とあらば喜んで!」

ケルベス「ご命令を聞くというなら、ついでに母上殿とノレド嬢にもっと優しくしろと命令もしたくなる。喧嘩ばかりしてるんだって? ドニエル艦長に聞いたぞ」

ベルリ「そんなんじゃないです。そうじゃないんだけど・・・」

ケルベス「ベルリよ、クレッセント・シップを降りてシャンクで旅に出たのは、宇宙の連中をどこなら移住させられるか調べていたんだろう? あのな、そんなのどこだっていいんだよ。人間には開拓精神というものがある。放り出してしまえば、あとは自分たちで何とかするものなのさ」

ベルリ「そうなんでしょうか・・・」

ケルベス「トワサンガの王子かもしれないってわかったからって、全員の責任をしょい込む必要はないんだぞ。資源がないのなら、ビーナス・グロゥブのように資源衛星を調達して来ればいいだけさ。元々宇宙世紀ってそういうものだろう?」

ベルリ「はい。そうです。そうですね。少し元気が出てきました」







ラライヤが冬の宮殿に入ったとき、操作盤の前で悪戦苦闘するリリンをゲル法王とノレド、ウィルミットらが不安そうに見下ろす光景に出くわした。

ラライヤ「何か進展がありましたか?」

するとノレドが駆け寄ってきて興奮した面持ちでラライヤに話しかけた。

ノレド「スコード教の原点になった奇跡の記録映像が残ってるかもしれないんだって!」

ラライヤ「スコード教の原点になった奇跡?」

ノレド「そう! 宗教というのは何らかの神秘的な体験をもとに発生するものだろ? だからさ、その奇跡が映像で残ってるかもって、法王さまとリリンちゃんが」

ウィルミット「(心配そうに)でも、ディアナさんからいろいろお話を聞くと、フォトン・バッテリーの配給制度とスコード教は政治的に生み出されたような話だったので・・・。いえ、法王さまの前でこんな不敬な話は慎むべきかもしれませんが」

ゲル法王「いえ、構いません。わたくしもいまは法王の身分を離れ、ひとりの神学者としてこの地と向き合っているのです。もしその奇跡の映像があるのなら、ぜひ見てみたい」

だがそれはリリンの検索能力をもってしてもなかなか姿を現さなかった。画面は壊れたかのように同じ映像を繰り返し流していた。ふたりの青年が互いに競い合い、戦う映像だ。

ラライヤ「この赤いのに乗っているマスクの人物は、マスクを外してからもずっと同じ人と戦っていますね。それに、コロニーを地球に落としている。あッ、すごい数の人が地球に住んでる。宇宙世紀はこんなにたくさんの人間がいたんですね」

ノレド「(映像を指さしながら)これを黒歴史として封じ込める気持ちはわかるよ。戦ってばっかりで、結局いまの地球の人口は7億人でしょ? 技術も失われて、いいことなんか何もなかった」

自分の両親がキャピタル・テリトリィで戦争に巻き込まれて死んだかもしれないと聞かされてから、ノレドは努めて明るく振舞ってはいたが、空元気であるのは隠しようもなかった。

ラライヤはそんなノレドに寄り添い、リリンを見下ろす輪に加わった。

リリンは懸命に何かを開こうとしていたが、どのような形でトライしても映像は映し出されなかった。だが、鍵の掛かった映像は確かに存在するのだ。冒頭の1秒ほどが再生され、途中で止まるものがそれらしかった。その鍵の掛かった映像は2時間もある。

ウィルミット「黒歴史だから、希望のある映像は映せないようになっているのでしょうか?」

ゲル法王「でしたら、映像を残さねばいいとは思いませんか? それにまだ不可解なところはたくさんあるのです。マスクの人物がスカートのついたモビルスーツに乗って薙刀で戦っているときに、ある女性が白いモビルスーツと赤いモビルスーツの間に入って亡くなっているのですが、この出来事から白と赤の関係がこじれているように見受けられるのです」

ノレド「それって宇宙世紀の初期の話?」

ゲル法王「そうです」

ノレド「スコード教って起こってまだ1000年なんでしょ? ヘルメス財団1000年の夢って話。でもこれが宇宙世紀初期なら、2000年前になる」

ゲル法王「そこがわからなくて、悩ましいのです。もしムーンレイスの方々との接触がスコード教の興りだとしたら、わずか500年前ということになる。民間信仰としてあったものが形作られたのが1000年前ということなのでしょうか。それともヘルメス財団1000年の夢とは実は違うものを指しているのか」

ふうと溜息をついてリリンはいったん作業を諦めた。







東海岸へ流れついたジット団のメンバーは、カリル・カシスの紹介でMSのチェックをする仕事に従事していた。彼らには海辺の廃倉庫が与えられた。

スーン「こういうのが落ち着くんだな」

潮の匂いを嗅ぎながら、クン・スーンは油まみれになって働いていた。彼女の背中には1歳を過ぎたキア・ムベッキ・Jrが背負われている。

コバシ「まぁあたしたちも海辺育ちっていえばそうですもんね。ビーナス・グロゥブの海はこんなに臭くなかったですけど」

スーン「(丸い球形のMSの腹を撫でながら)アメリアというのは内陸部は乾燥地帯だと聞いたが、耕作用MSなど需要があるんだな」

コバシ「なんでも地下水というのがあって、掘ると水が湧き出てくるそうですよ。まさに地球は夢のようなところ。重力は安定しているし。おかげで調子よくって」

兵士A「戦争さえなけりゃいいところですよね」

その兵士が見上げているのは、レコンギスタしてきたジット団メンバーが遭遇したことのないトワサンガ製の最新鋭機YG-201であった。ジット団は、この機体を分析して追加装備開発の依頼を受けていた。それは容易いことであったが、彼らはいまだ逡巡していた。

コバシ「(機体を見上げ)これは、キア隊長を殺した機体を量産機にしたものだからね。隊長はこれをエンフォーサーユニットのG-ルシファーの対抗機じゃないかって推測してたけど。でも例のユニットはついてないし、なんでこんなものを量産したのかよくわからない」

スーン「(難しい顔で)トワサンガのレイハントン家がいつか起こる大執行を阻止しようとしているんじゃないかって仮説。あれを研究していたのは隊長とフラミニアだろう? ヘルメス財団の秘密に関係しているからとあまり人に話さなかったやつだな」

コバシ「あたしは少し聞いてますよ。複雑な取り決めだったらしいから正しいのかどうか知りませんけど、話の肝は外宇宙からの帰還は数度に渡り、最も古い者は月に文明を構えていたがのちに戻ってきた者たちと争いごとになった。さらに続けて帰還してくるのですでに地球文明と接触を持っていた1番古い帰還者たちだけ封じて、残りの者たちで宇宙世紀を繰り返さないための取り決めをいくつか行い、クンタラを労働者として使ってキャピタル・タワーを作った。そして新しい秩序を作り上げた。でも、もしそれが壊れて宇宙世紀が繰り返すような動きがあれば、文明をもう1度リセットして、そのときは完全に地球人は滅ぼしてしまって帰還者だけで入植する、みたいな」

クン・スーンはしばらく宙を眺めて考えに耽り、やがて口を開いた。

スーン「今来、古来だったっけか?」

コバシ「それ、禁止された言葉なんじゃ? キア隊長はビーナス・グロゥブの歴史は帰還者たちのそれぞれの歴史を習合して改変されたもので、実際は年代も何も結構ばらばらだって推測してましたけどね。でもこの論文はラ・グー総裁に握り潰されて、それからでしょ。レコンギスタとか言い始めたのは。公安警察のピッツラクがやって来て、ほら」

スーン「ああ、あいつな・・・。それより、地球圏へ最初に戻ってきた連中はなんで地球に降りなかったんだろう? それに、キャピタル・テリトリィより降りるならアメリアの方がよほど文明が進んでいる。赤道に近いところが良かったのだろうか?」

そこにさらに新しい機体が運ばれてきた。それはトワサンガ製ながらまるで見たことのないMSであった。ロルッカはこれをYG-201の敵対国に売りつけるという。

兵士B「姐さん、またあのロルッカとかいう爺さんが早く整備しろとせっついてきてますよ」

スーン「(大声で)いまそれを話し合ってる! 爺さんは待たせておけ」

コバシ「大執行を止める機体を量産化するってどういうことなんだろう?」

スーン「G-ルシファーを量産化して戦わせるつもりなんだろうか? いや、どちらも例のユニットはついていないのだから、単に金儲けなのか? わけがわからん」

コバシ「それはまた無駄な。それか別の思惑があるのか。どちらにしてもフォトン・バッテリーが尽きようとしているのに、なんでまたMSなんか」

スーン「(肩をすくめ)宇宙世紀に戻したい連中でもいるのかな?」

コバシ「アイーダさんって人にはまだ会えないの? アメリアは完全民政なんでしょ? ビーナス・グロゥブみたいにヘルメス財団が指名する総裁が決済するシステムじゃない」

スーン「アイーダさんは議会が招集されるまでは戻らないそうだ。それより、MSを売りつければ当然フォトン・バッテリーの供給を増やさなければいけないよな。フォトン・バッテリーは無償配給だが、それでもタワーのある地域はバックマージンを得て潤っていた。これってもしかして、軌道エレベーターによる無償配給システムが生み出す利権の争奪戦になってないか?」

コバシ「え? どことどこ?」

スーン「トワサンガとビーナス・グロゥブ」

コバシ「まさか(ひきつった笑い)。そんなことラ・グー総裁が許すはずがないでしょ。あの人の堅物は年季が入ってる」

スーン「ま、そうだな。ラ・グー総裁が生きている限り、利権で問題は動かないだろう」

そういうとふたりは仕事に戻っていった。クンタラを大量に移民させたアメリアであったが、クンタラたちは働き者で荒野だった中部地域の開発が進み、エネルギーや穀物の自給率はさらに高まっていた。産業用MSの需要は拡大を続け、地球に根を下ろしたジット団の下へは仕事が殺到していたのだった。

スーン「(しみじみと)最初からこうしておけばよかった」

コバシ「ですね。MSなんかわざわざ輸出してきて、誰が買うんだか」







ゴンドワンの首都に黒煙が立ち込めていた。

ルイン「フォトン・バッテリーの備蓄庫はクンタラ国建国戦線が接収する。大人しく立ち退けばよし。逆らう者は死んでもらう」

G-∀のマイクから発せられる声に慄いたゴンドワンの兵士たちは、武器を放り投げて次々に逃げ出していく。ルインのG-∀の下には砂まみれになったルーン・カラシュ5機が集まってきた。

クンタラの兵士A「我々だけじゃ使い切れないくらいですな」

クンタラの兵士B「アジアの同志もようやく動き始めて、ゲリラ戦でフォトン・バッテリーをかっぱらってるそうですぜ」

ルイン「ゴンドワンの差別主義者どもが乞食になり下がるのを見るのは爽快だな」

クンタラ建国戦線のゴンドワン・ルイン隊の当初の目的は、フォトン・バッテリーを強奪してエネルギー不足を演出しながらゲリラ戦を繰り返し、国内を騒乱状態に導くことであった。

その状況を変え、支配地域の拡大に舵を切らせたのはキャピタル・テリトリィ隊から提供されたG-∀の存在が大きかった。この古代兵器のある機能が、ゴンドワンの守備隊を無力化していくことに役立っていた。さらに原子炉ユニットのようなものが提供されたことも大きかった。

クンタラの兵士C「何もかも消滅させちまうんだから、大将のMSは無敵ですぜ。G-セルフなんてものは必要ないでしょ」

ルイン「いや、G-セルフだけは侮れない。あれは何か違うのだ」

6機のMSは一見すると砂漠のような場所にいるような佇まいだった。しかし彼らがいる場所はゴンドワンの首都だった場所なのである。ゴンドワンの文明はルイン操るG-∀によってたった1か月ですべてが砂塵に帰してしまっていた。

先立つこと2週間前、彼らクンタラ建国戦線はゴンドワン最大の飛行基地を急襲し、24隻の戦艦と10隻の輸送艦を接収していた。これによってゴンドワン軍は戦力を大幅に失い、政府ごと南部に移ることを余儀なくされていた。彼らはクリム・ニックに多くを預けすぎたのだ。

ホバー・ランチで陸路北部へ移動する仲間を残し、単独飛行が可能なG-∀のルインだけが先に基地へと戻った。彼らが棲家にしていた西北部の街は放棄され、現在はかなり内陸部へと拠点を移動させていた。世界中からゴンドワンへやってきたクンタラ保守派の仲間たちは人口が20万人を超え、首都が滅びたいま、ゴンドワン最大勢力となりつつあった。

ルインとマニィは旧領主の広大な屋敷を奪い、そこに居住していた。クンタラの救世主となったルイン・リーが最も良い屋敷の占有を言い出しても咎める者はいなくなっていた。

ルイン「1年前にはテント生活だったのにな」

そう呟いたルインに、マニィは生まれたばかりの子供の顔を見せて答えにした。ふたりの間に生まれた子供は女の子だった。

ルイン「ただここはあくまで仮の住まいだ。君はここに残ってもいいが、オレはタイミングを見計らってキャピタル・テリトリィへ戻らねばならない」

マニィ「やはりカーバ(クンタラ安住の地)はキャピタル・テリトリィなんだね」

ルイン「いや(首を振る)そうではないんだ。カーバとは地球そのもののことだ。カリル・カシスという女と共にジムカーオ大佐に呼びつけられたときにそう聞いた。そもそも地球文明が滅びたときに食人習慣が始まってしまい、クンタラという身分階級が生まれたそうだが、地球には逃げる場所がいくらでもある。だが、その習慣が宇宙に持ち込まれてしまうと、彼らはどこにも逃げ出せず、大人しく食われるしかなかった。それは宇宙移民の自己犠牲精神と結びついて制度として固定化されてしまったのだ。それに外宇宙から地球に帰還する過程で再び食糧難になったこともあって、クンタラという身分階級が固定化された。宇宙移民であった我々の先祖にとっては、地球に帰還することが食われることが終わることだったのさ。だから、地球こそがカーバなんだ」

マニィ「だったらなぜずっと差別を受けていたの?」

ルイン「今来、古来という言葉を知っているか? 外宇宙から地球に帰還してきた人類は、地球にクンタラを降ろして食人習慣と決別した。だが、それは数度に渡って行われたために、古参と新参者の間で新たな差別が起こり、アメリア以外の地域、とくにキャピタル・テリトリィで食人習慣がしばらく維持された。つまり、食う者もクンタラ、食われる者もクンタラという時代があって、その醜い争いの様子が地球でのクンタラ差別の元凶になったらしい」

マニィ「じゃ、自業自得だった?」

ルイン「今来はスコード教に改宗したリベラル派のクンタラ。古来はスコード教が興る以前に入植してきたクンタラ。結局はスコード教が悪いのさ」

マニィは大きく息を吐き出して、話題を変えた。

マニィ「キャピタル・テリトリィ、いまはクリムトン・テリトリィらしいけど、いつ行くつもりなの?」

ルイン「昨日カリルから連絡があって、キャピタル・タワーはジムカーオ大佐直属のキャピタル・ガードが奪還したそうだ。だからすぐにでも行かなきゃいけないんだ」

マニィ「あたしもついていく」

ルイン「せっかくこんな大邸宅を手に入れたのに、いいのか?」

マニィ「別に。ルインと一緒ならテントだって構わないよ」







逮捕されたターニア・ラグラチオンと学生たちは、警察署の留置場から牢屋へと護送されていた。

その車が襲撃されたのは彼らがノースリングに近づいたときであった。護送車の扉を開けたのは、クリム・ニックであった。

クリム「なんだこれは。女とガキばっかりじゃないか! こんなの使えるか!」

クリムは再び扉を閉めてしまった。車の外では銃撃戦が起きている。監視役の男は一瞬あっけにとられたがやがて自分の任務を思い出して銃を構えて護送中のレジスタンス派を威嚇した。

ひときわ大きな動作音はモビルスーツのものであった。バルカンの射撃音が鳴り響いて学生たちは身をすくめた。銃撃戦は5分以上続き、やがて沈黙した。するともう1度扉が開いた。開けたのは他の車両に乗せられていた学生であった。振り返った監視役の男は背中を蹴られて車外へ叩き落された。

素早く車外へ出たターニアは、ピストルを構えると護送車の扉に隠れて状況を確認した。そして運転席へ乗り込むとそのまま車をUターンさせた。それに他の車も続いた。

上空にはG-シルヴァーの姿があった。地上には軍の装甲車が砲身を森の方角へ向けていた。

ターニアたちはひとまず地元であるサウスリングへ戻るしかなかったが、閉鎖空間であるコロニー内に彼女らの逃げ場はない。

ターニア「こうなったら最終手段を取る。サウスリングを閉鎖して立て籠もる。みんな手はず通り行動してよ」

学生A「どんな最悪なことが起こたって、あの丸いMSで戦うよりはマシだ。みんな手分けして最後まで戦おう!」







クリム「なんであんなヘボそうなのを護送車で運んでいたんだ?」

クリムはいつものようにそう口にしたが、それに応えてくれていた人がすでに死んでしまったことを思い出してそのまま押し黙ってしまった。

監獄に捕らえられていた彼を救出したのは、ゴンドワンのスパイとトワサンガにおける協力者たちであった。彼らはゴンドワンへの入植と現地での住居の提供を約束され、クリムに従っていたのだった。その中にはベルリとターニアを襲撃した女性らも含まれていた。

G-シルヴァーをクリムに提供したのは、ドニエルとハッパを騙してセントラルリングまで連行した人を喰った話し方をする兵士であった。彼はアーミーの制服を着ていたが、ガランデンに乗っていたゴンドワンの兵士であり、元々キャピタル・テリトリィを監視するための密偵であった。

クリム「戦艦の手配は?」

密偵「そんなもの自分には無理ですよ。下っ端なもんで。でも全員が乗れるランチならセントラルから出られます」

クリム「では、オレが護衛するから宇宙へ出るぞ」

密偵「もうこうなったら仕方がないですね」

ところが、彼らがセントラルリングの港に向かおうとしていたとき、すでにノースリングからは銀色の凹凸のない戦艦スティックス30隻が出港しようとしていた。

トワサンガはもはや避けられなくなった大乱を前に緊張していた。


(ED)


この続きはvol:58で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第18話「信仰の根源」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第18話「信仰の根源」前半



(OP)


スコード教の法王ゲル・トリメデストス・ナグは、今度は自主的に月の裏側奥深くに隠された冬の宮殿に籠っていた。

ウィルミット・ゼナムの力を借りたムーンレイスたちの尽力により、冬の宮殿の機能は100%回復され、いまでは近郊の宿泊施設も使用できるようになっている。冬の宮殿は、多くの人が集まる礼拝所のような作りになっていたのだ。

法王庁の役人たちと離れて数か月が経つゲル法王に、身の回りの世話をする人間はついていない。ただひとり彼に付き添ってきたのは、トワサンガの孤児リリンであった。

ゲル法王「リリンさんがいてくれて助かりました」

リリンは冬の宮殿の映像投影装置にどのようなものがどれほど入っているのか解析する手伝いをしていた。機械に弱いゲル法王にとってリリンほど頼もしい助手はいなかった。彼女は記録された映像を時代ごとに分類してくれた。ゲル法王はそれを自ら学んだ歴史と頭の中で符合させていけばよかった。

記憶力の良いリリンは、映像が決してランダムでないことを突き止めた。また、最後に記録された映像にディアナ・ソレルとハリー・オードの姿があることも突き止めた。

リリン「ディアナさんがふたりいるみたい」

ゲル法王「たしかに似たお嬢さんが映っているようです」

リリンが興味深そうに眺めていたのは、ディアナが映っている時代に登場する、2機の白いモビルスーツの映像だった。その2機はいずれもリリンの記憶にあるものを撒き散らし戦っていたのだ。

ゲル法王「あの光の粒のようなものに触れると、ものが消えてなくなるというのですね?」

法王は映し出された映像を眺めながら小さなリリンに訊ねた。

リリン「天の国の地下に、お仕事するだけのおっきな箱のようなところがあって、そこで隣に座っていた悪魔みたいな人が暴れ出してぜんぶ壊したの」

ゲル法王「G-ルシファーという禍々しい名前のロボットがあると聞いたことがあります。法王庁の名前で処分しておくべきだったかもしれないですね。金星のことを指しているかもしれませんが」

法王の悩みは深かった。人生を信仰に捧げてきた彼が信仰の力を過大に評価してきたのはやむを得ないことであったが、信仰の力は本物の争いの前ではあまりに無力であった。彼はしょげ返り、それでも気力を振り絞って憎しみと破壊の映像に向き合った。

リリン「白いモビルスーツがときどき出てくる」

ゲル法王「確かに時々出現してきては争いを終わらせる役割を果たしているようにも見えます」

リリン「白いモビルスーツが神さまなの?」

ゲル法王「そんなはずはないと思いますが・・・。(首を傾げ)はてさて、長い歴史の中で、白いモビルスーツに何かを託す気持ちがあったやもしれませんね。もしそうなら・・・」

リリン「?」

ゲル法王「もしそうなら、最初に出現した白いモビルスーツが戦争を終わらせる役割をして、のちの人々に受け継がれた可能性はあるでしょうか」

リリン「(画面を指さし)最初の白いモビルスーツは赤いのと戦っていたんだよ」

ゲル法王「もうかれこれ2000年も前のことですから・・・、でも調べてみる必要はあるかもしれない。歴史学によれば、ジオン公国という宇宙移民たちの独立戦争が、宇宙世紀の戦争の始まりだったとか。それがきっかけとなり、宇宙世紀は鮮血の時代になっていたと神学校では学びますね」

リリン「神話時代?」

ゲル法王「リリンさんは物知りですね。宇宙世紀初期は神話時代と呼ばれ、スコード教が興る原点になった奇跡はこの時代にあったと推測されています。もしこの映像の中にそのヒントがあるとしたら、わたくしたちスコード教徒は信仰の本質に触れることが出来るのですが」

老年のゲル法王と幼年のリリンは、不思議とウマが合って互いに尊敬し合う関係を築いていた。ゲル法王に若年者を侮る資質がなかったことが大きい。彼にとってすべての人間、すべての事象は神の使いとして認識されていたからである。

ふたりは協力し合って、神話時代の白いモビルスーツについて集中的に調べ始めた。リリンの記憶力と検索能力はどのモビルスーツも色でしか判別できない機械音痴のゲル法王には非常に役立った。

作業自体は上手く進んだ。ところがふたりの周囲は急に慌ただしくなってきて、作業に集中できなくなってきた。暗く静かだった冬の宮殿の周りに、人の声で満ち始めた。

アメリア・ムーンレイス同盟が正式に発足して、対トワサンガ用の前線基地を月の裏側に作り始めたからである。






トワサンガに招かれたクリム・ニックとゴンドワンの兵士たちは、客人として丁重にもてなされたものの、民間人との接触は厳しく制限されていた。

彼らは宿泊施設を提供されたが、一切のサービスはできないと通告され、船の中にいたときのように軍隊として独立した運営を強いられた。またエネルギーの提供もできないとも言い渡された。

そんな中でクリムは、トワサンガの行政官ジムカーオとの話し合いに応じていた。アジア系の浅黒い肌を持つジムカーオが、キャピタル・テリトリィ調査部の人間と知って彼は強い緊張を強いられていた。クリムには彼がクンパ大佐に見えて仕方がなかった。

クリム「トワサンガというのだから、フォトン・バッテリーなど有り余るほどあるのでしょう。それさえ提供いただければ、アメリアもあなたのいうムーンレイスとやらも一気に叩いてみせましょう」

ジムカーオ「ムーンレイスの技術体系はフォトン・バッテリーを必要としないもので、持久戦になればあちらの勝利は間違いないのです。勝てるのだから彼らは持久戦に持ち込もうとするでしょう。それでも一気に叩いてみせるなどと世迷い事を申されますか」

クリム「ではどうしろと?」

ジムカーオ「もちろん、講和です」

クリム「話にならん。そもそもあなた方だってあちらと交戦状態にあるのでしょう?」

ジムカーオ「こちらに戦う意思はない。トワサンガにとってはゴンドワンもアメリアもムーンレイスも関係ないのです。争いをやめていただくことが肝要。ムーンレイスというのはこちらのレイハントンと敵対関係にありましたので、地球に連れ去られたふたりのレイハントンの子供をたぶらかし、トワサンガの統治権を簒奪する腹積もりだと推測しております。しかし先ほども申したように、彼らは宇宙世紀時代の技術体系の上に成り立った古代文明なので、トワサンガは彼らをそのまま受け入れることはできないのです。だから現状は彼らの侵略行為からの防衛に徹しております」

クリムは相手の真意を測りかねていた。もし彼らの話が本当だった場合、自分はミック・ジャックの戦死の虚を突かれて敵の戦略にまんまと乗せられたことになる。彼らがアメリアとの講和の仲介を持ち掛けてきた時点でもっと注意すべきだったのだ。

不利な戦況と愛人の死が、彼から冷静な判断力を奪ってしまっていた。

ジムカーオ「目下、我々の敵となっているのは、古代文明の生き残りであるムーンレイスだけで、アメリアもゴンドワンも友好国だと見做しておりますが、あなたは『闘争のための新世界秩序』や『修正グシオン・プラン』というものを発表して、これらスペースノイドの自己犠牲で成り立った理知的国家を侵略する腹積もりだったとか。(嘲笑的に)本気だったのですか? それとも、地球を統一するための方便でしたか」

クリム「フォトン・バッテリーの秘密さえ提供していただければ、我々地球人はエネルギーなど自前で調達できると言っているのです。自己犠牲などと押しつけがましいことをいうのはやめていただこう。自己犠牲を強いているから、地球を支配していいとはならない」

ジムカーオ「まさか、支配などと」

クリム「スコード教というものがまさに支配体制だとこう申しているのです」

ジムカーオ「反スコード教。なるほど。ではあなた方もムーンレイスと同じ古代種族というわけですな。だってそうでしょう? 地球と宇宙では労働の感覚が大きく違う。壁を隔てた向こう側が真空の宇宙で暮らすスペースノイドは、幼いころから厳しく訓練を受け、マニュアル通り完璧に仕事をするのが当たり前です。しかし、地球は違う。いくらでも手抜きをして、浮いた金を懐に入れても誰も死ぬわけじゃない。だから平気でやってはいけないことに手を染める。汚職がなくならない。心当たりはあるでしょう? そんなあなた方が、トワサンガやビーナス・グロゥブを支配することなどできないのです。そもそも宇宙で暮らしていくことすらできないでしょう。スコード教は、スペースノイドによるアースノイドの教導であって、支配ではない。逆はあり得ないことなのです」

クリム「(イライラしながら)そうやって支配を正当化してきたと言ってるだけだ。地球はあなた方の支配体制にはうんざりしている」

ジムカーオ「(両手を広げて肩をすくめる)ならば、このままでいいではありませんか。もうフォトン・バッテリーは供給されません。スコード教の法王も行方不明でどこに行ったのかわからない。キャピタル・ガードと法王庁はこうしてトワサンガに亡命してきているが、キャピタル・テリトリィはあなた方ゴンドワン軍が破壊して奪い去ったのでしょう? それで宇宙からの支配からの脱却は果たされたはずだ。お前たちに従う気はないが、技術は提供してくれでは話が通らない。・・・、わかっていますよ。だからあなたは戦争を選んだ。通らない話だと分かっていたから、暴力で奪うことを最初から選んだのです。違いますか?」

クリム「では、スコード教が支配体制であることは認めるのか」

ジムカーオ「受け取り方の問題です。スペースノイドは宇宙世紀の争いごとから脱却するために知恵を絞ってフォトン・バッテリーの供給システムとスコード教の禁忌を作り上げた。それを否定するならば、いま1度宇宙世紀を繰り返すまでのこと。そうなりますね」

クリムが言葉に詰まったところで、オーディン1番艦の艦長ドッティ・カルバス中佐が口を挟んだ。

ドッティ「そこまでおっしゃるならば、なぜわたくしどもを助けてくれたのでしょうか? こうしてトワサンガに招かれれば、何かを期待したくもなるというものです」

ジムカーオ「先ほどから申しているように、我々にとっての敵はムーンレイスとアメリアです。アメリアは古代人種と同盟を組んでリギルド・センチュリーを否定して世界をユニバーサル・センチュリーの時代に戻そうとしている。これを阻止したい」

ドッティ「では、こういう提案はどうでしょうか?」

クリム「でしゃばるな、ドッティ」

ドッティ「いや、クリム大佐はあくまでゴンドワンの客分でしかないのだから、あなたこそ黙っていただこう。あなたのプランは失敗した。ゴンドワンはあなたと心中するつもりはない。(ジムカーオに向き直り)提案というのは、トワサンガとゴンドワンの同盟についてです。我々ゴンドワンはトワサンガ政府と同盟を結び、ムーンレイス討伐に協力する。あなた方は見返りにクリムトン・テリトリィを承認して、フォトン・バッテリーの配給権をゴンドワンに委託していただきたい」

ジムカーオ「クラウンの運航をあなた方ができますかな?」

ドッティ「いや、ですからタワーまでの利権はトワサンガが持ってくれて結構だ。地上に降ろしてからの利権は我々にいただきたい。タワーの地上部分を占拠しているのは我々なのですから」

ジムカーオ「確かにそれは検討に値する提案かもしれない。我々とともにムーンレイスと戦ってくださるとこうおっしゃるのですね」

ドッティ「クリムトン・テリトリィの確約さえいただければですが」

ジムカーオ「結構。ゴンドワンは元々熱心なスコード教信者の多い地域。一時的に宗教から乖離する動きがあったのは、若者を扇動する悪しき輩がいたからというわけでよろしいな」

ジムカーオは指をパチンと慣らして人を呼ぶと、クリム・ニックの身柄を拘束して連行するように命じた。これにクリムは激しく抵抗した。

クリム「ドッティ、貴様ッ!」

ドッティ「(肩をすくめて)15歳も年上の人間を呼び捨てですか。さすがアメリアの野蛮人は教育がなっていませんな」

クリムはそのままトワサンガの牢に閉じ込められた。







シラノ-5のサウスリングにある旧レジスタンス派の拠点に、若い学生たちが集結しつつあった。

そこはかつてレイハントン家の家臣団が集まるサロンのような場所であったが、トワサンガに非常事態宣言が出されて情報が統制されて以来、老人たちはいまこそ若者の出番であると考え彼らに活動拠点を提供したのだった。

名もなき学生たちを束ねるのはサウスリング出身でドレッド家に在籍していたこともあるターニア・ラグラチオン中尉であった。彼女はラライヤ・アクパールをドレッド軍に送り込み、地上へと派遣した功労者で、トワサンガ守備隊としてジムカーオとも接触できる稀有な立場にある。

その実は旧レイハントン家のレジスタンスがドレッド軍に送り込んだ士官であった。

ターニア「いま説明したように、月にはディアナ・ソレル率いるムーンレイスたちが住んでいて、かなり強大な武力を所持している。そことアメリアが同盟を結んだらしいのだけど、アメリアにはベルリ王子とアイーダ姫がいる。対するトワサンガは守備隊もロクになくて、ジムカーオという人が連れてきたキャピタル・テリトリィの軍隊と守備隊の一部しかいない。トワサンガの戦力はかなり少ないのよ」

学生たちが多くレジスタンスに加わったわけは、ラライヤにあった。レイハントン家の処女姫との触れ込みで悠然と乗り込んで来たノレド・ラグは、年配者と子供にこそ人気があったが、若者の注目を集めたのは彼女に付き添う近衛兵団長のラライヤであったのだ。

ラライヤ人気の高まりによって、若者のレジスタンス参加者は飛躍的に伸びていた。そのせいもあって、今夜の集会はロッジから人が溢れるほどの盛況となっていた。

学生A「なるほどそれで戒厳令を敷いたジムカーオ大佐は近く徴兵制度を強いてくるのではと」

学生B「いやしかし、宇宙での戦争ならMSで行うのだろう? いまから自分らを徴兵したところで役には立たんぞ」

学生C「そもそもムーンレイスなんてお伽噺、それ自体がニセ情報という可能性もあるのでは?」

学生たちは口々に意見を言い合った。ターニアはそんな彼らの前に3枚の不鮮明な写真を提示した。

ターニア「ジムカーオの傍にいる協力者が撮影してくれたものです。どうもノースリングに大規模な生産工場か何かあるようで、そこで作られた新兵器が、これ」

学生C「なんですかこの丸いものは」

ターニア「わたしもこの写真でしか知らないの。見たところ、脱出ポッドの頭に長距離ビームライフルを搭載した簡易型MSのようだけど、詳細は不明」

ターニアの言葉は学生たちに衝撃を与えた。写真に映っている小さな丸いボール型のものがMSだというのだ。それは、長距離砲1門と、2本のアームをつけただけの、まさに脱出ポッドであった。

学生A「だ、脱出ポッドのまま戦場に出される? 剥き出しのまま? 装甲は?」

学生D「学徒に戦闘訓練させている余裕がないからといってこんなもので戦場に出すなんて普通じゃない。ぼくらはこう見えてエリートですよ。しかも相手がレイハントン家のふたりのお子さんとか、それじゃぼくらはいったいなんのために誰と戦うのですか?」

ターニア「だからそれをはっきりさせておかなきゃいけないのよ。あなたたちの敵は、ジムカーオ。あなたたちの味方はレイハントン家。いいかしら?」

学生A「それは構いません。ベルリ王子はトワサンガの民主主義を保証するとおっしゃっていましたし。だけど、サウスリングのぼくらはいいとしても、他の地区の連中の中にはドレッド家のシンパも多くて、彼らはジムカーオ大佐の行政手腕を評価する向きもあります。彼は決して無能ではない。むしろ非常に賢い。自分にはそう見えます」

ターニア「賢い。たしかに。そして狡猾。あたしは彼の傍で何度か働いたけども、何を考えているのか最後まで分からなかった。一見すると非暴力主義で熱心なスコード教の信者。先を見通す力があって、他人の力を利用するのが上手い。賢い人が自分の味方じゃないとしたら悪夢よね」

学生A「狡猾ですか。ターニアさんをこうして泳がせているのもおそらくそうなんでしょうね」

ターニア「まぁ身元が割れてないとは思ってない。あなたたちと会ってることも知ってはいるはず。でも、圧倒的に人間が足らないのも確か。戦力なんてない。どこにもない。だってドレッド軍が潰れて、守備隊がザンクト・ポルトで全滅して、キャピタル・アーミーやガードだって法王の警護のために連れてきた僅かな数しかいない。それで戦争準備を始めているのが怖いのよ」

学生A「了解しました」

ターニアと学生たちは今後のことを確認して散会しようとした。

しかし、彼らの行動はすべて監視されていた。彼らのアジトは数百名の兵士に包囲されていた。

人工的に作った夜の闇に立っていたのは、見慣れない憲兵の衣装をまとった男たちであった。ターニアは彼らの顔に見覚えがあった。彼らは元ドレッド軍の兵士だったのである。

憲兵「ターニア・ラグラチオン中尉、および学生諸子。反乱罪で逮捕令状が出ている。逆らえばこの場で銃殺にする」







トワサンガ奪還のための作戦会議の席上、ハリー・オードの発言に耳を傾けていた一同は、突然発せられた大声の主に視線を集めた。声を上げたのはケルベス中尉であった。

ケルベス「いまのハリー殿の発言が本当ならば、カシーバ・ミコシに乗せられていたのはアーミーとガードの連中に間違いない。彼らなら、クラウン運航庁の人間がいなくてもタワーを再開させるのは可能だ。タワーを乗っ取るつもりでいるのだろう」

アイーダ「ということは・・・、ああ、それでクリムと手を組んだと」

ケルベス「地上はクリムに支配され、タワーは我々の同胞。しかしなんであいつらはジムカーオなどという得体のしれない人間に従っているのか」

ベルリ「ジムカーオに従っているつもりはないんでしょう。ガードの先輩たちは、法王庁の人間に従っているんだと思います」

ドニエル「ということは、なんだ、オレたちは誰と戦うんだ? トワサンガは空になってるんじゃないのか?」

ディアナ「メガファウナとゴンドワン軍を停船させた銀色の戦艦というものには法王庁の人間が乗っていたのでしょう?」

ドニエル「法王庁って名乗ってたけどなぁ、いまとなっては本当かどうか・・・」

ディアナ・ソレルとアイーダ・スルガンの会談は2時間弱ですでに終わっていた。会談は誰も交えずふたりきりで行われたのだが、どのような内容であったのか、ふたりはにこやかに微笑みを交わしながら部屋を出てきて、すぐさまトワサンガ奪還作戦決行が命じられたのだ。

アイーダ「何かの罠なのか、それとも罠と見せかけて・・・」

ディアナ「地球の現状はゴンドワン優勢だとか」

アイーダ「わたくしたちはキャピタル・テリトリィは神聖なものだと思っていましたから。まさかそのような土地を侵略戦争で奪うとは考えなかったのです。アメリアは世界の警察などではないのです」

ベルリ「そうしたことも含めて、すべてが壮大な計画の一環だとぼくらは考えました」

アイーダ「宇宙世紀を終焉させるか、それとも復活させるか、そのふたつの勢力の争いではないかとのご指摘ですね。それはディアナさんから聞きまして、確かにそう考えなければキャピタルの急速な弱体化の説明がつかない。クレッセント・シップが世界巡行を終えて宇宙に帰還していったまさにその瞬間に何もかも始まっているのですから。しかも戦争を再開したのもクリム・ニックです。彼の覇権主義的傾向が利用されたと考えなければ、起こるはずがないことが起こっているわけですから」

ケルベス「アーミーを解体するタイミングに合わせてガード内を分裂させ、法王を人質として奪いゴンドワンを動かし、こんなことが出来る人間がいるとは考えにくい。人間とは違う何か別の、もっと大きなものを相手にしているようだ」

アイーダ「その何か大きな意思は、クンタラも使っているのです。地球ではクンタラ建国戦線というのが勢力を拡大していて、クンタラは国境をまたいで存在しているので、どの国も内部が攪乱されていますね。たしかに、ひとりの人間が考えてできることではない」

ドニエル「トワサンガやビーナス・グロゥブを巻き込む勢力ってのは・・・」

ベルリ「それどころか、ラ・グー総裁を連中は殺している。ぼくの目の前で」

アイーダ「そのような勢力ですから、何を考えているのか掴みどころがない。今回のトワサンガ奪還作戦も、罠である可能性も考えなくてはいけないのですが」

ディアナ「いえ、それは無用です。罠であっても結構」

ベルリ「なぜ結構なんですか?」

ディアナ「薔薇のキューブで宇宙からやってきた者たちは、明らかに我々ムーンレイスの影響を受けて変質している。あなた方には、変質した彼らと以前の彼らの見分けがつかない。新しい時代の人間ですから。しかし、我々は以前の彼らを知っている。ウィルミット長官から聞いた宇宙世紀復活を目指している何者かは、我々にしか見分けがつかないはずなのです」

アイーダ「つまり、ディアナ閣下をトワサンガに入れれば、そこにある薔薇のキューブがどんなものか突き止められると」

ディアナ「そうです。ベルリ・ゼナムとアイーダ・スルガンはともにトワサンガのレイハントン家の子女であるという。もしあなた方ふたりがわたくしを信用してくださるというなら、トワサンガはいったんわたくしが預かり、あなた方おふたりは地球へ帰還して地球で起きた戦争の火種を消していただきたい。これはそのための作戦だとお考えいただければいい」

ドニエル「敵がいないのか、それとも何か強烈なものがいるのかいないのか、それがわからないと戦う側としては不安ですな。戦力がいるのかいないのかハッキリしない戦争なんて初めてです」

ハリー「G-シルヴァーはトワサンガ製でしょ。あの機体ひとつでこちらは大打撃を与えられ、リックとコロンを人質に取られている。戦力がないとはとても思えないのだ。G-シルヴァーはあの銀色ののっぺり戦艦の中に消えてしまっている。あれが敵の本体でしょう。しかもどれほど数がいるのかわからない」

ケルベス「アーミーとガードからトワサンガに入った人間は推定で1000人に満たない数です。残りはガヴァン隊とは別行動の守備隊の生き残りか、ドレッド軍の生き残りか」

ドニエル「戦力を分断させる作戦ならば納得がいくが」

アイーダ「つまり、わざとウーシアなどの機体を見せて、ガードのみなさんがトワサンガを離れたと思わせておいて・・・」

ドニエル「実は残っていました、みたいな。なんでこうややこしいことをするのかな」

ディアナ「月面裏側の前線基地建設の様子はどうか」

ハリー「あと1週間もあれば」

ディアナ「アイーダ、ベルリのレイハントン家の子女は、ディアナが一時的にトワサンガを掌握する旨を市民に伝えるところまではやっていただきたい。以降は我々が敵の正体を暴きましょう」






クリムトン・テリトリィのカフェでコーヒーを飲んでいたロルッカ・ビスケスは、キャピタル・タワーから続々と運ばれてくるMSに興奮を隠せないでいた。

ロルッカ「ウーシアなどというポンコツが出てきたときはガッカリしたものだが、この新型は素晴らしい。トワサンガはいつこんなものを開発したというのだろう。YG-111の量産型を地球で扱えるとは」

カフェの窓からは、トワサンガの新型機YG-201を運搬する様子が見えていた。ロルッカにそれが見える特等席が用意されたのだ。YG-201はYG-111=G-セルフの量産機だと宣伝され、さらにその敵役となる機体もこのあと運搬される予定になっているという。

ロルッカ「いくらでも出てくる。金になるものがいくらでもタワーから出てくる。オレは大金持ちになるぞ。オレは地球で1番の富豪になるやもしれん。これは、これは大変なことだ。レイハントン家の家臣の身分ではこんな興奮は絶対に味わえなかった。凄いぞすごいぞ。戦争万歳。オレこそが地球のレイハントンになれるかもしれんのだからな」

ロルッカはそうひとりごとを言いながら興奮して子供のようにはしゃいでいた。

彼がくつろいでいる場所は、かつてスコード教の礼拝堂があった場所であった。その美しい装飾が気に入られ、この建物は高値で売買されて、いまは高級カフェテリアになっているのであった。

ステンドグラスから差し込む色とりどりの光が、天使のレリーフを美しく染め上げていた。


(アイキャッチ)


この続きはvol:57で。次回もよろしく。




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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第17話「レイハントンの子供」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第17話「レイハントンの子供」後半



(アイキャッチ)


オーディン1番艦に警戒警報が鳴り響き、艦内は緊張に包まれた。前方より急速に接近してきたのはアイーダのラトルパイソンではなくメガファウナであったためだ。しかも未確認戦艦2隻を伴っている。

やおら慌ただしくなった艦内は人で溢れ、しばらくしてブリッジにクリム・ニックとミック・ジャックも姿を現した。モニターはハッキリとしない小さな影しか映し出していない。識別表示だけがそれをメガファウナだと告げていた。

クリム「接触までの時間は?」

兵士「このままなら5時間後に接触です」

クリム「第1種戦闘配備。全員ノーマルスーツ着用。モビルスールデッキの空気を抜くからすぐに支度しろ。パイロットは軽く何か口に入れておけ。艦隊戦になる。ガランデンを先頭にオーディンは左右に開け。距離を空けながら速度は落とさずこのままトワサンガを目指す」

クリムは次々に指示を出すと自分もノーマルスーツを着用するためにブリッジを出た。

その後を追いながら、ミック・ジャックはついにメガファウナと対峙することに不安を感じていた。彼女は自分たちが国家を裏切ったこと、そして移住先のゴンドワンから過大な期待をかけられていること、キャピタル・テリトリィという国家を亡ぼしてしまったことを思い出していた。

ここまで来て穏便に物事を解決することなどできない、ミック・ジャックはそうとわかっていて心がざわつくのを抑えられなかった。手が震えてパイロットスールを上手く着ることも出来ない。彼女は力任せに右手でドンとロッカーを叩いた。

ミック「ダメだ。迷っていたら死ぬ。クリムについていくと決めたんだ。後悔を感じるこの胸を焼き潰さなきゃ」

5時間はあっという間に過ぎ去った。通信可能範囲になるとミノフスキー粒子が散布され、一切の対話は拒絶された。

敵味方双方、まったく速度を落とさない。警戒警報が鳴りやむことはなく、我慢比べが続いていた。

ガランデンに続いて左舷後方に位置取ったオーディン1番艦は、艦砲射撃が始まるのをいまかいまかと待った。月を大きく迂回してトワサンガへ入るルートには、寄るべきものは何もなかった。宙域にあるのは対峙するふたつの戦力だけであった。

ミック・ジャックは自身の専用機ラ・カラシュのコクピットの中で水分を取りながら、怒鳴り合いのようなやり取りが続く回線をすべて遮断した。

ミック「こんな何もない広大な空間で、出会った瞬間に殺し合いを始める人間という動物は一体何を考えているのだろう? 腹が減って相手を食べるわけでもないのに」

ふうと息を吐いて彼女は回線を元に戻した。

クリム「聞いているのかミック!」

いきなり飛び込んできたクリムの声に彼女は驚いた。

ミック「精神統一をしていたんですよ。なんです?」

クリム「メガファウナからはおそらくG-セルフが出てくる。オレはあいつの相手をすることになるから、ミックは1番艦のルーン・カラシュを率いてメガファウナを攻撃してくれ。後ろの見慣れないものはダミーの可能性があるから気にしなくて良い。メガファウナだけを沈めろ」

ミック「了解です」

いつも自分に背後を任せてくれるクリムがおかしなことを言うと首を傾げようとしたとき、クリムから接触回線で、G-セルフがいない場合はいつも通り後ろにいてくれと言葉があって、ニック・ジャックはそういえばなぜG-セルフは悪魔のような役回りばかりなのだろうかと別のことを考えた。

ミック「(落ち着いた声で)はい。了解です」

艦砲射撃が始まる前の蛇行が始まり、戦闘は開始された。開け放たれたモビルスーツデッキに砲撃の閃光が入り込んでくる。しばらくしてミサイルの爆発による衝撃が起き、ゴンドワンの3隻の戦艦は左に大きく舵を切った。同時にモビルスーツが発艦していく。

宙(そら)に出たミックのラ・カラシュには、小さく右舷に流れたメガファウナの位置情報が断続的にモニターに表示される。胸の鼓動と自分の呼吸音を聞きながら、ミックはルーン・カラシュの編隊を進行方向斜め上へと導いた。

メガファウナと2隻の船はばらけることなく宙返りしてそのままゴンドワン軍の後方から追いかけてくる形になった。ガランデンとオーディンは蛇行をやめトワサンガへのルートを保ったまま後方のメガファウナに対して主砲を放った。

双方メガ粒子砲の撃ち合いになるが、ガランデンは後方への攻撃力が弱いため若干先行させてオーディンが守りながら応戦する形になった。

オーディン1番艦を出たミック・ジャック率いる隊は閃光の合間を縫ってメガファウナに迫ろうとしたが、上方よりMSのビーム攻撃を受けたためにいったん下方へ移動し、ビームを避けて右舷に回り込んで再びメガファウナと対峙したところで赤い飛翔体と交差した。

それは一瞬で形を変えた。

ミック「G-アルケイン? まさか姫さまが?」

ミノフスキー粒子が相手の位置情報を掴ませてくれず、宇宙の闇が味方機の編隊をばらけさせていく。小さな混乱を収束させるための指示はなかなか届かず、空間に突如として大量に出現してきたまるで見たことのない敵MSが混乱に拍車をかけた。

メガファウナの両脇を固める船から出撃してきたMSは、どこの国のものとも違い、異質さを感じさせた。まるで違う時代の代物が紛れ込んで来たかのように、設計思想が基本から違うような機体であった。これに動揺したのはゴンドワンの兵士たちであった。

ミックは必死に光信号で編隊再編を指示するものの見落とす者が多く、移動についてこられない機体はあっという間に敵に囲まれて撃墜させられた。

一瞬交差したG-アルケインは、その動きから指揮官でないことは明白であった。射撃に長け、戦場を自在に動き回りながら確実に多くのルーン・カラシュにダメージを負わせていく。

ミック「あの動きはアイーダ姫さまじゃない。誰だ? ルアンか?」

このままでは戦力を削られるばかりと判断したミックは、メガファウナへの突撃を諦め、Unknown 機の編隊と距離を置いて対峙するように布陣すると、長距離ビーム・ライフルを装備したルーン・カラシュを前に出してUnknown 機の編隊めがけて一斉射を命じた。

射撃は相手にダメージこそ負わせなかったが、ビームを避ける動きとすぐさま編隊を再編成する動きから、よほど宇宙での戦闘に慣れた集団であると認められた。

ミック「まさか、トワサンガの・・・」

Unknown 機が出撃してきた流麗で真っ白な戦艦らしき船を横目に、ミックはいったん撤退を命じるしかなかった。

ミック「あんな美術品のような船なのに攻撃力が高すぎる。クノッソスと全然違うじゃないか。どうして、まさかビーナス・グロゥブってんじゃないでしょうね?」

自らしんがりを引き受けた彼女は、1機ずつ突撃してくるUnknown 機を追い払いながら、メガファウナの前にグリモアの編隊がいるのを発見した。後退するミック隊と入れ替わりにオーディン2番艦のルーン・カラシュの編隊がUnknown 機と交戦に入ったのを確認すると、彼女は近くにいた隊長機の肩に手をかけて接触回線を開いた。

ミック「キーン! 指揮権を渡すからあんたたちはメガファウナを叩け。宇宙を征服するってのにこんなところで負けていられないんだよ!」

キーン「姐さんは?」

ミック「あたしはアルケインを落とす!」

そう告げると、ミックは閃光にまみれていない空間へ入り必死の形相でモニターをチェックした。

G-アルケインは再び変形して彼女の遥か後方、オーディン1番艦に取りついて攻撃を加えていた。させるかとばかりに加速をかけたとき、彼女の眼前を青いダ・カラシュと白いG-セルフがとてつもない高速で横切っていった。

ミック「押されてるのか、クリム。でも、間に入ったらあとで殺される」

後ろ髪を引かれる想いで2機を振り切り前方に視線を定めた彼女には、もはやG-アルケインの姿しか見えていなかった。G-アルケインは変形を解いて艦砲射撃の間を縫って突撃しては一撃を浴びせて離脱する攻撃を何度も繰り返していた。

自分がメガファウナに出来なかったことをいともたやすくやっていることに彼女は腹を立てた。

ミック「艦隊守備はどうなってるの!」

その声はミノフスキー粒子に阻まれ誰にも届かない。話し合って分かり合えない人間同士は、話し合う機会すら自分たちで奪っている。ミック・ジャックは自在に動き回って捉えどころのないG-アルケインに何度も射撃を加え、振り向かせることに成功した。

ミック「ルアンだろうが姫さまだろうが、人間をこんなに孤独な生き物にする奴らはあたしが全部落としてやる! 宇宙をクリムに差し出せ!」

G-アルケインはオーディンの機銃から逃れるように戦場を移動すると、ミックのラ・カラシュに攻撃を仕掛けてきた。

2機は激しく銃撃を交えながら距離を置いて螺旋を描くように動き回り、互いにビーム・サーベルを抜くと双方が同時に飛び掛かり閃光を交えた。

ミック「あんた、ラライヤ?」

ラライヤ「ミック・ジャック!」

ミックは一瞬戦場にあるすべてのものを把握したかのような錯覚に捉われた。しかしすぐに気を取り直してG-アルケインに襲い掛かった。G-アルケインはビーム・サーベルを構えたままミックの攻撃をかわし、打ち込む隙を与えなかった。

ミック「(焦った表情で)おかしい。なんであのラライヤがこんな動きをする? なんであの娘の姿が見えた? どうして声が聞こえた? (首を振り回し)違う違う!」

ラ・カラシュがG-アルケインのビーム・サーベルを受け止めると、また大きく思考が拓ける感覚に襲われた。サーベルを押し合うジリジリと焼けるような音がコクピットにまで伝わってくる。

ラライヤ「ミックさんならクリムさんにこんなのやめるように言ってくれないと困ります!」

ミック「(バカにした声で)あんた、いつから大人に説教する子供になったのさ!」

ラライヤ「時代を宇宙世紀に戻しちゃいけないんです!」

ミック「そんなことは(G-アルケインの腹を蹴り上げる)子供に言われなくても(ビーム・サーベルを交える)国境はあたしたちがなくしてみせる!」

ミックは何度も何度も真正面からビーム・サーベルを打ち込んだ。そして、ラライヤのG-アルケインと接触するたびに身体の中の感覚器官が別のものに切り替わる不思議な気分に襲われた。

ミック「何? 孤独は盲? 孤独は聾? 孤独は唖? 閉じ込められているって、誰が?」

心の中に何者かが入ってくる恐怖に彼女は慄いた。心の中に入ってきたのは明らかにラライヤではなかった。別の何か、何者かだった。ミック・ジャックのラ・カラシュは跳び退ってG-アルケインから離れ、反転するとそのまま振り切るように全速で宙域を離れた。

ミックはパイロット・スーツのヘルメットを脱ぎ去り、汗だくになった額を拭ってストローから水を飲んだ。するとおかしな気分は瞬く間に収まり、戦場が見渡せるようになった。そう感じた。だが、ラライヤと接触したときの異常な空間認識は、いまの感覚とはまるで次元が違う。

思い出すだけで喉が渇いた。

ミックが思わず口走った国境をなくしてみせるという言葉は、口に出すまでもなくラライヤや他の何者かから強く否定された。彼女はラライヤが否定する声を聞いたわけではないが、ラライヤと誰かが彼女の言葉を否定したのは明らかだった。

ラライヤと誰かは、国境は行政区分に過ぎないとまで彼女に伝えたのだ。

ミック「だから・・・、あいつはいつあたしにそんなことを言った? 何も言ってないんだ・・・」

国境がただの行政区分だとしたら、自分たちがキャピタル・テリトリィで犯したことは民間人に対する大規模殺戮行為になってしまう。そう考えると不意に寒気がこみあげてきた。ゼイゼイと肩で息をしながら、彼女は自分を取り戻そうと必死に意識を集中させた。

ミック「専用機まで与えてもらいながら、あたしはこの戦場で何をした? まだ何もしていない。そうだ、メガファウナだ。(力ない声で)今度こそ」

クリムと離れただけで自分がこれほど役立たずになったことが情けなくて仕方がなかった。どこかに爪痕をつけないことには引き下がれない。

ラ・カラシュに再びビーム・ライフルを構えさせると、ミック・ジャックは一直線にメガファウナめがけて突進していき、光も、音も、声もない世界で意識を四散させた。







ピンクに塗装されたミック・ジャックのMSを追いかけていたラライヤのG-アルケインは、追いかけていた機体が無防備なまま複数のMSのビーム・ライフルに刺し貫かれるのを目の当たりにした。

瞬間、ラライヤの心の中にミック・ジャックの意識が飛び込んできた。

彼女は国家を過大評価していた。国家があるから戦争があると信じ込んでいた。どこかの強い男が全宇宙の国家をひとつにまとめ上げれば、世界から戦争がなくなると思っていた。それが彼女の答えであり、結論であった。彼女にとって国家の枠組みこそ心の壁だった。

彼女は心の壁を打ち壊すために戦争を肯定した。やがて来るはずの恒久平和のための犠牲は仕方がないと考えていた。しかしそれは意識の表層的な部分だけで、本当はキャピタル・テリトリィの征服を承認していたわけではなかった。

認めていないからこそ、彼女は最後まで戦い、恒久平和に辿り着くしかなくなったのだ。

ラライヤは歯を食いしばって胸をギュッと押さえた。

ミック・ジャックは子供を欲しがっていた。しかし彼女の男はそれを与えてはくれなかった。それでも男を憎む気持ちは持たなかった。その男は強くあろうとし、強くあるために彼女を欲していたからだ。

感情の濁流がラライヤの細胞の隙間をすり抜けて、宇宙に四散した。







クリム「ミック・・・、なのか?」

G-セルフとの戦闘中、クリム・ニックの中に何かがなだれ込んできた。感情の濁流が彼の心を絞めつけた。何が起こったのかわからないまま、彼はG-セルフにビーム・サーベルを打ち込ませる隙を作ってしまった。ふたつの光の剣が接触した瞬間、クリムにはベルリの姿が見えた。

ベルリ「ミックさんを死なせてまで権力が欲しいのかよ!」

クリム「最大の権力者はトワサンガの王子である貴様であろうに!」

G-セルフとダ・カラシュはもつれあうように激しくビーム・サーベルを打ちつけ合った。ふたりには互いの姿が見え、互いの声が聞こえていた。ベルリとクリムは罵り合い、その気持ちは反発しあった。見えることも聞こえることも、戦いの渦中にあるふたりには意味のないことであった。

ふたりの戦いに割って入ろうとする者たちは、容赦なく撃墜させられた。怒りでも憎しみでもない、研ぎ澄まされた感覚器官のぶつかり合いになっていた。

爆発の炎がそこかしこで大きく膨らみ、急速に萎んでいた。炎の色が互いの機体を刹那の間オレンジ色に変化させ、闇が広がれば両機はメタリックな色彩に戻った。命をかけた戦いには紛れもない興奮が宿っていた。命を失うまでのわずかな時間、英雄は存在した。

蒼い機体を眼前に置いたまま、ベルリは次の攻め手の隙を窺っていた。その集中を妨げたのはラライヤの声だった。

いつの間にかベルリのG-セルフとG-アルケインの間に接触回線が開かれていた。

ラライヤ「撤退命令です」

ベルリ「え・・・撤退?」

ベルリの感覚器官が通常に戻った。もう目の前にクリムの機体はいない。彼はヘルメットを脱ぎ、したたる汗を拭って水分を補給した。

ベルリ「どうして撤退なんだ?」

ラライヤ「何かあったみたいですね。メガファウナに戻りましょう。それから、ミックさんが・・・」

ベルリ「ミック・ジャック・・・。(悲しげに)そうか、ミック・ジャック・・・」







メガファウナに帰投したベルリとラライヤは、医務室でメディカル・チェックを受けた。そこには助手として忙しく働くノレドの姿もあった。着替えを済ませたふたりにノレドを加えた3人は、一緒にブリッジに上がった。ブリッジはいつになく沈鬱な空気に包まれていた。

ベルリ「両軍揃って撤退の理由は何ですか?」

ドニエル「カシーバ・ミコシがこっちに迫ってきているんだ」

副艦長「(ベルリに向かって)ハリーとかいうサングラスの男が臨検したはずだが、おかしなことになっていてな」

ミノフスキー粒子が散布された宙域からかなり離れ、復旧したレーダーには左舷の方向に並走するゴンドワン隊、前方にカシーバ・ミコシの巨躯が映し出されていた。カシーバ・ミコシには随伴する何かがある。それは銀色の細長い棒のような形をした何かであった。

ラライヤ「あの細いのは?」

副艦長「どうやら船のようなんだが、あんなつるっぺたの船なんてあるのかどうか・・・」

ノレド「いや、あれは戦艦だよ」

副艦長「どうしてわかる?」

ノレド「雰囲気が似てるんだ・・・。薔薇のキューブに」

ドニエル「あれが宇宙世紀派って連中の船だってのか?」

メガファウナと2隻のオルカの目の前で、カシーバ・ミコシを取り囲むように飛んでいた銀色の船のようなものは、ゆっくりとガランデンとオーディンに近づいていった。彼らからもゴンドワンからも何の連絡もないまま、両軍の間にカシーバ・ミコシが入り込んで視界を遮った。

ドニエル「ところでな、ベルリとラライヤ、もしかすると戦場でミック・ジャックが死んだか?」

ラライヤ「ミックさんはわたしと交戦していて、なぜか急に集中力が切れたようになってメガファウナの方角へ飛んで行ったのです。警戒心がないから、撃墜されるのはあっという間でした」

ギセラ「声が聞こえたんだよ。ミックのね。ここにいるみんなに」

マキ・ソール「(悲しそうに)穏やかな声だったよ」







トワサンガからの使者は、先頭を飛んでいたガランデンに着艦していた。それを伝え聞いたクリムのダ・カラシュもガランデンに帰投し、両者はブリッジにて会合をもった。

銀色の戦艦からやってきた小さなランチから降り立ったのは、法衣を纏った人物で、まだ少年のようにあどけなかった。

使者「あなたがクリムトン・テリトリィの責任者、クリム・ニックですか?」

クリム「そうだが、貴殿は?」

使者「わたくしは法王庁の者です。法王庁は今回の地球圏での問題に苦慮しており、ついては停戦の仲介を果たしたいと考えております」

クリム「仲介など無用。自分はあなた方のテリトリィを奪った者だ。いまさら法王庁の仲介など欲しくはない」

使者「覇権主義による宇宙の統一を目指しておいでのようですが、月では古代種族ムーンレイスとアメリアが同盟を結び、トワサンガと敵対関係になっているのをご存知ですか?」

クリム「古代種族ムーンレイス? それはあの白い戦艦の者たちか?」

使者「あれはトワサンガ製のものではありません。ムーンレイスのものなのです。ただいまこちらのカシーバ・ミコシが間に入って戦闘は中断されておりますが、戦闘中止の仲裁を受け入れるならば法王庁はゴンドワンのこれまでの行為を赦し、シラノ-5の軍港の一部を開放致しましょう。もしここで戦闘を止めないのであれば、我々トワサンガと法王庁はムーンレイス・アメリア同盟と和解し、あなた方と戦わねばなりません。月の近くでこれ以上大規模な戦いをされては困るのです」

クリムはしばらく迷っていたが、法王庁の申し出を受け入れ、停戦に応じると伝えた。

確約を取り付けた法王庁のランチはガランデンを離れ、メガファウナへと向かった。

クリム「自分もオーディン1番艦に戻る」

ロイ・マコニック「ミックさんのこと、お悔やみ申し上げます」

クリム「ああ・・・」

なぜガランデン船長のロイ・マコニックがミック・ジャックの死のことを知っているのか、クリムにはそれを確かめる気力すら残っていなかった。






ムーンレイスの月面基地に入港したラトルパイソンからは、アイーダを先頭に12名の乗務員が降りた。彼らは恭しく指令室へと案内されていった。

美しい指令室であった。装具はすべて純白で、流れるようなラインで設計されている。モニターはすべて空中投影で、透き通ったその先には地球の青い姿がはっきりと見えた。

ひときわ高い位置からメガファウナの戦いの様子を見つめるひとりの美しい少女がいた。その少女は、ギセラがまとめたレポートによると500年前の人間だという。少女はアイーダを振り返り、にこやかに微笑むと威厳ある態度で階段をしずしずと降りてきた。

ディアナ「わたくしの名前はディアナ・ソレル。あなたがアメリアのアイーダ・スルガンですか?」

アイーダ「はい。その通りです」

アイーダも彼女に倣って美しいしぐさで挨拶をしたつもりだったが、どこががさつでこの場にそぐわないと自分で認めるしかなかった。真っ赤になったアイーダを見て、ディアナはやさしく笑みを返した。

ディアナ「レイハントンのもうひとりのお子さんであるとか」

アイーダ「それも確かなことです」

ディアナ「それではふたりきりでとことんお話いたしましょう。レイハントンのこと、ムーンレイスのこと、わたくしのこと、あなたのこと」

アイーダ「地球のこと、宇宙のこともですね」

ディアナ「はい」

ディアナ・ソレルはアイーダ・スルガンを別室へと招いた。

そこには神妙な面持ちで先に着席していたウィルミット・ゼナムの姿があった。


(ED)



この続きはvol:56で。次回もよろしく。







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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第17話「レイハントンの子供」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第17話「レイハントンの子供」前半



(OP)


整備を終えたメガファウナはいつでも出撃できる準備を整え、ムーンレイスの月面基地で待機していた。そのモビルスーツデッキではノレドとラライヤがハッパを挟んで睨み合いをしていた。

ラライヤ「そんな危険な任務にノレドを行かせるわけにはいきません」

ノレド「G-ルシファーにそういう役割があるってわかった以上、使わない手はないよ。ここはハッパさんにお願いして」

ハッパ「ノレドがG-ルシファーで内部を破壊したっていう薔薇のキューブというものは、宇宙世紀時代の人間が地球に戻ってくるのに使った恒星間飛行ができる巨大宇宙船だというのだろう。それがトワサンガにもあるとウィルミット長官がじかに確認したと。それを破壊することで宇宙世紀の残滓をこの世界から消滅させられるというならこの作戦もありだろう。しかしあのエンフォーサーにはまだ未知の部分が多いし、ノレドをパイロットにして作戦を実行するのはいくら何でも」

ラライヤ「行くならわたしが行きますよ」

ノレド「ラライヤはG-アルケインでみんなを守らなきゃいけないし、暗闇に引き込んでいく現象にも対処しなきゃいけないんでしょ。だったら1度やってるあたしが適任だよ」

ラライヤ「ノレドは無理をしてるんです」

ハッパ「とにかくいますぐ実行に移せる作戦じゃない。シラノ-5のノースリングの奥にあるとわかっていても、入るまでに撃墜されちゃ意味がない。ノレド、とにかくG-ルシファーの整備はやっておくしエンフォーサーのことももっと調べてみるけど、艦長の許可がない限り絶対にダメだ」

ノレド「そりゃいますぐって決めたわけじゃないけど・・・」

ノレドが大人しくなったのを見計らって、ラライヤは彼女の腰に手を回し、デッキを離れるように促した。ノレドもそれに従ったものの、まだ納得できない様子であった。

ラライヤはノレドが焦っているのを感じていた。せっかく再会を果たしたというのにベルリが意外に冷たい態度に終始するので、認めて欲しい気持ちが焦りに繋がっているのだろうと。こんな状態で内部がどうなっているのかわからないトワサンガに彼女だけ送り込むことはできない。

ふたりは飲み物を貰いにムーンレイスの人々が使っているホールへと移動した。

ベルリとウィルミットはディアナ・ソレルにヘルメス財団のふたつの夢について話すために作戦指令室にいるはずだった。ヘルメス財団には宇宙世紀についてふたつの評価があり、反目しながら共存関係にあった。ヘルメス財団内にはリギルド・センチュリー派とユニバーサル・センチュリー派がいるのだ。

リンゴのような香料を使った合成のミルクを飲みながら、ふたりは椅子に腰かけていた。

ノレド「ヘルメス財団1000年の夢ってあるじゃん。あれさ、もしかしてこの戦争のことを言っていたのだろうか?」

ラライヤ「(少し考え)1000年で宇宙を平和にするという理想だと思ってました」

ノレド「だよね。でも、リギルド・センチュリーに試練を与えるためにこの戦争があらかじめ仕組まれていたのだとしたら? あたしたちはリギルド・センチュリーの子供としてユニバーサル・センチュリーに勝たなきゃいけない。でもなー、まだなんか釈然としない部分があるんだ」

ラライヤ「勝利とは何かということですよね。相手を征服することが勝利なのかという」

そう口にしながら、ラライヤはむしろノレドのことを気に掛けていた。自分たちは本当にこんな大きな話に首を突っ込むために生まれてきたのだろうかとの本質的な疑問は拭えないままであった。

そのとき大音声でメガファウナの乗組員に召集が掛かった。ふたりは同時に立ち上がった。







ムーンレイスの月面基地が慌ただしくなっていた。

月の裏側にあるトワサンガよりカシーバ・ミコシが発進したとの知らせと、その進行方向にアメリアのラトルパイソン、それを追いかけるようにゴンドワンのスペースガランデンと新鋭艦オーディン2隻が追いかけてきているとの情報が入ったからであった。

階段を駆け上がったウィルミット・ゼナムはディアナ・ソレルの傍らに寄り添い、ともに状況を見守った。ヘルメス財団に対するレクチャーはすでに終わり、ベルリはメガファウナへと戻っている。

ウィルミット「(ディアナに対し)カシーバ・ミコシはフォトン・バッテリーの運搬船です。ビーナス・グロゥブから何も届いていないのに、運用されるのはおかしい」

ディアナ「(小声で)みなさまから聞いた、宇宙世紀を復活させようと目論む者の仕業とすれば、武器弾薬をトワサンガより運び出していると考えるのが妥当では?」

ウィルミット「怖ろしい話ですが、薔薇のキューブが兵器の生産拠点とするならば、それはあり得ることかもしれません。考慮すべきは、カシーバ・ミコシは信仰の対象ということです。こちらがあれを傷つけることでスコード教徒を敵に回してしまう可能性がある」

ディアナ「なるほど。それで戦艦でもないのにああやって出てきたのですか。では、臨検と行きましょう。(大声を張り上げ)ハリー、ソレイユであれを止めてみせなさい。我々ムーンレイスならばスコード教のことなど関係ない。積み荷がなんであるか探るのです。メガファウナはオルカ2隻を伴い直ちに出撃。前方のラトルパイソンと接触しこちらの月面基地へ誘導。その後ゴンドワン軍と対峙。攻撃意思が示された場合は応戦してください。彼らを絶対に月周辺に入れてはいけません。オルカ第2陣もすぐに準備。ムーンレイスはアメリアと交渉します」

ウィルミット「(小声で)オルカというのはムーンレイスの戦艦ですか?」

ディアナ「こちらの新造艦です。しかし、この技術もいずれは・・・」

ウィルミット「封印していただかなくては困ります」

ディアナはそれに応えなかったが、彼女がベルリの説明を受け入れ、レイハントン家について考えを改めたのは確かであった。

レイハントンは彼女たちムーンレイスから月の裏側の宙域を奪い、月に閉じ込めて封印したのではなく、おそらくは逃がして、リギルド・センチュリーが危機に陥ったときに助けてもらうつもりだったのではないかとの推測だ。

ディアナ(つまり、フォトン・バッテリーの供給システムは戦争を起こさないためのものだから、宇宙世紀の技術を使われると生産力において勝ち目がなくなってしまう。だから我々ムーンレイスの技術を月に隠して温存した。ではなぜレイハントンは我々ムーンレイスが必ず自分たちの味方になると予測できたのか。冬の宮殿が彼に好影響を与えたとでもいうのか・・・)

ウィルミット「(心配そうに)ああ、メガファウナがまた出撃していく」

ディアナ「長官は随分過保護なようで」







ムーンレイスの戦艦オルカは、真っ白で流麗なフォルムを持つ美しい船であった。そのオルカ2隻を伴い、メガファウナは月面基地を出撃した。

ドニエル「(後ろを振り返りながら)あんだけ電気が溢れているのに、こっちのフォトン・バッテリーには充電できないとかどうなってんだ、まったく」

副艦長「使い切って空になっていても爆発する仕掛けなんだから、レイハントンのお坊ちゃんのベルリを小一時間問い詰めたい気分ですな。あの小型核融合炉は便利そうに見えたけど、こっちに積めないですかねぇ。トワサンガで補給しなきゃ地球へ帰れなくなるかもしれませんよ」

ギセラ「もうすぐ通信圏内に入ります」

メガファウナのモニターにアイーダ・スルガンの姿が映し出された。

アイーダ「やはりメガファウナですね。ビーナス・グロゥブへは無事に?」

ドニエル「(立ち上がって敬礼する)船は無事ですが、ラ・グー総裁はこちらが滞在中にお亡くなりになりました。ついては事の次第をギセラにまとめさせているので、いまから送信します」

アイーダ「随伴の船があるようですが、トワサンガのものですか? 見たことない形ですが」

ドニエル「これはムーンレイスの船です。姫さまはムーンレイスはご存知ですかな」

アイーダ「いえ、わたくしはまったく・・・」

ドニエル「誠に勝手ながら、メガファウナは独自の判断で月の先住民というべきムーンレイスと同盟を結んだのです。クレッセント・シップとフルムーン・シップがそちらからも見えるはずですが、あれをビーナス・グロゥブの新総裁であるラ・ハイデン公より預かってくれと頼まれておりまして、戦力不足を補うためにドニエル・トスの判断で決めさせていただきました。そのこともレポートにまとめておりますのでこれから送ります。ついては姫さま、申し訳ないがこのまま月面までコースを変えていただき、月の女王であるディアナ・ソレルと面会していただきたい」

アイーダ「月の女王ディアナ・ソレルと面会? 月の女王とは何です?」

ドニエル「どうにも込み入った話で。それに現在トワサンガはジムカーオという人物に占拠されており、こちらと交戦状態にあるのです。彼らはカシーバ・ミコシでザンクト・ポルトに移動中でありまして、それもあってただちにコース変更をお願いいたしたい」

ふたりの通信にムーンレイス側から割り込みが入った。画面に顔を映し出されたのは、一見すると30代前半ほどにしか見えないノーク・クレイスという緑色の眼をした白人の女性だった。

ノーク「いまからわたしが指定する航路を取っていただけると助かります」

アイーダは首をすくめたが、ドニエルが画面の向こうでしきりに頷くので覚悟を決めた。

アイーダ「わかりました。事情は複雑なようですね。月に到着するまであと1日は掛かるので、送られたレポートを読んで勉強することにしましょう。メガファウナと後ろの船の方々は・・・」

ドニエル「自分らはラトルパイソン後方のガランデンを叩きます」

アイーダ「それも艦長の判断ですか?」

ドニエル「いえ、これはディアナ女王の命令です・・・」

画面の向こうのアイーダがキッと睨みつけたので、ドニエルと副長はそろって肩をすくめた。

アイーダを押しのけ、ケルベスが画面に映った。

ケルベス「すまない、ノレド・ナグはそこにいるか」

ブリッジの端で状況を見守っていたノレドが返事をして艦長席まで上がってきた。

ノレド「なんです?」

ケルベス「言いにくいことだが、クリム・ニックがキャピタル・テリトリィを絨毯爆撃した。ノレドの家や家族も被害を受けたかもしれない」

ノレド「え? 絨毯?」

ケルベス「軍事施設だけでなく、民間地もまとめて爆撃されたってことだ。キャピタルにあるものの多くが破壊されて、目下連中はそこに新しい都市を作り上げようとしている。名前はクリムトン・テリトリィだそうだ。・・・もうキャピタルはないんだ」

ノレド「キャピタル・テリトリィが・・・、なくなった?」

ケルベス「キャピタルだけじゃない。タワーも放棄してきた。ガランデンが追いかけてきているのは、彼らではクラウンの運航ができないからだろう。とにかく、覚悟だけはしておいてくれ」

ノレド「(ひきつった顔で)覚悟・・・、覚悟・・・。もう家がない・・・。父さん、母さん・・・」

ノレドは放心したようにその場に腰から崩れ落ちた。







ディアナ・ソレルの旗艦ソレイユを預かったハリー・オードは、ランデブーするとカシーバ・ミコシに接近して停止するように求めた。

ところが何度呼びかけても応答がない。スモーでブリッジの前に出て接触回線を開いても、彼らは呼びかけには応じなかった。

兵士「隊長、人は大勢乗っているようです。確認しました」

ハリー「よし、強制的に格納庫を開ける。ツグミとノンのふたりはハッチを開けろ。ユニバーサルスタンダードは頭に叩き込んだだろうな?」

ツグミ「大丈夫です。あれはバカでも使えるようになってます」

ハリー「これより左舷ハッチより内部に潜入する。他の者は中から何が出てくるかわからないから警戒態勢を怠るな。開いたら自分が中に入る。リックとコロンがついてこい」

ツグミとノンが両サイドからカシーバ・ミコシの巨大な格納庫のハッチを操作して開けようとする。なかからロックが掛かっていると見たふたりは時限爆弾を使ってロックを解除すると、そのまま2機で離れるようにハッチから離れた。

ハリー・オードの金色のスモーとリックとコロンの銀色のスモーが素早くなかに潜り込んだ。照明は点けられておらず暗闇が広がっている。3機は頭部のライトを灯して巨大な倉庫の上部に機体を進めた。

ハリー「やはりモビルスーツであったか」

カシーバ・ミコシの格納庫にはズラリとモビルスーツが詰め込まれていた。1機ずつ照合していくとそれらはメガファウナより提供された機体情報と一致した。ほとんどがウーシァという機体であった。

ハリー「新型を開発したかもしれないと聞いていたが、そうではないようだ。しかしなぜレイハントンの者らが地球製のMSなど使っているのだろうか」

と言い終わらないうちに、ハリーのスモーは下から大きな衝撃を受けて天井にぶつけられてしまった。

ハリー「お前は、あのときの銀色の!」

突然姿を現したG-シルヴァーは、ハリーの機体をさらに強く天井に圧しつけた。身動きが取れずにいるうちに格納庫のウーシァが動き出し、リックとコロンの機体の動きを封じると他はハッチから雪崩を打って飛び出していった。

ハリー「リック! コロン! クソッ、ミノフスキー粒子か!」

ミノフスキー粒子の散布によって各機の連絡は途絶えた。ハリー、リック、コロンの3機は接近戦に持ち込まれたままカシーバ・ミコシの格納庫から外へ出られず、ハッチの外から漏れてくるビームライフルの閃光によって外でも交戦状態になっているのを知るのみであった。

格納庫内に残ったウーシァは20機。ハッチ付近には2機が取りつき、外へ向かってビームを発射して味方を援護していた。

ハリーはG-シルヴァーともつれあいながら必死に逃れようとするが、G-シルヴァーの動きは速くその手から逃れることが出来ない。そこでハリーは逆に相手を抱えたまま加速をかけ、開いたハッチに突進していった。G-シルヴァーとスモーはもつれたまま宇宙空間へ飛び出していった。

戦闘宙域に突然飛び出してきた両機はいくつもの流れ弾を浴びて大きな衝撃を受けた。その隙にG-シルヴァーから離れたハリーはソレイユに戻り接触回線を開いた。

ハリー「ブリッジ、聴こえるか」

艦長「はい」

ハリー「艦砲射撃はできそうか」

艦長「どこを狙いましょうか」

ハリー「ゴテゴテ飾ってはいるがただの輸送船だ。ブリッジの近くを撃って脅かしてやれ」

そこまで伝えたところでまたしてもG-シルヴァーが迫ってきたのでハリーはこれに応戦した。2機は互いを牽制しながら螺旋を描くように距離を置きながらソレイユから遠ざかっていく。

艦長「照準はいいな。撃て!」

ソレイユの主砲が放たれ、宙域のモビルスーツを一瞬照らしたかと思うとカシーバ・ミコシの本体に直撃した。爆発による発光を確認した敵のウーシァはひるんだのか一斉に引き下がり、左舷ハッチの中に戻っていった。

ハリーは味方機の肩に腕を乗せて接触回線を開いた。

ハリー「損害は?」

兵士「1機半壊のみです。すでに収容するため運ばせています」

ハリー「パイロットが無事ならばよい。このカシーバ・ミコシというのはスコード教の御神体だそうだが、これは艦隊戦で撃沈するしかないな。リックとコロンは中か?」

兵士「未確認ですが、数が足りませんのでおそらく」

ハリー「輸送艦風情が何を血迷ってこんなことを・・・」

だがハリー・オードの見込みは間違っていた。爆発の影から姿を現したのは、細長い形の大小の攻撃艇だったのである。

ハリー「しまった! 右舷に隠してあったか!」

その船の情報は提供されたどの船の形とも照合されなかった。銀色に輝く船体は凹凸の極端に少ない細長い代物で、コールドスリープから寝覚めたハリー・オードが記憶したこの時代のどんな船とも違っていた。

出現した船は3隻。いずれも同系でまったく同じ姿かたちをしており、識別する印もない。3隻の船はゆっくりとカシーバ・ミコシから離れると方向を変えて左舷のソレイユに向き直った。そして間髪入れずに一斉射を浴びせかけてきたのである。

この攻撃によってソレイユはカシーバ・ミコシとのランデブーを保てなくなり、戦闘宙域に取り残されてしまった。カシーバ・ミコシはゆっくりと離れ、ザンクト・ポルトへと確実に進んでいく。

ハリー「嵌められたというわけか!」

出現した敵未確認攻撃艦の全長はソレイユほどもあった。敵はこれをカシーバ・ミコシの右舷格納庫に隠していたのである。しかも1隻ではない。

ハリーは発光弾を打ち上げ、全機撤退を命じた。その中に彼の部下、リックとコロンの姿はなかった。







ルイン・リー率いるクンタラ国建国戦線ゴンドワン隊に、16台のモビルスーツが納入された。うち2台はゴンドワンの新型ルーン・カラシュであった。

手配したのはロルッカ・ビスケス。彼はアメリア各地から不要になったモビルスーツをかき集めただけでなく、さらにゴンドワンの新型さえも手に入れてみせた。

これはクンタラ国建国戦線がゴンドワンに成りすまして作戦行動を取るのにうってつけであった。さらに作戦の幅が拡がると兵士たちは大喜びであった。

彼らの様子を横目で眺めていたミラジは、近くにいた若い兵士にことの次第を訊ねてみた。

兵士「なんでもアメリア軍が解析のために回収したものらしいですよ。彼らは大陸間戦争で小破したモビルスーツを回収して解析していたのでしょうが、議会が平和主義で新規のモビルスーツ開発が止まっているものだから不用品扱いになっていたそうで。でもだからといってこれを手に入れたのはロルッカさんの手腕ですけど」

ミラジ「なるほど。ゴンドワンから手に入れたわけじゃないのか。ところでそのロルッカは?」

兵士「こっちに届いたのは荷物だけですよ。どこにいるのか自分にはわかりませんね」

ミラジは兵士に礼を言うと踵を返した。ミラジはロルッカがほとんどゴンドワンに姿を見せなくなったことを訝しんでいた。ロルッカはクンタラの人間を深く見下しており、トワサンガへ帰りたがっていたからだ。ミラジはクンタラという人種に何の悪感情も持ち合わせていなかったが、彼らの中で虜囚のようにこき使われている現状には大きな不満があった。

ミラジ「もし逃げるつもりならオレを誘ってくれてもよさそうなものだ。自分だけ自由の身のようになりやがって。整備担当じゃ逃げるに逃げられない」








ミラジがルーン・カラシュの整備に着手したころ、ロルッカ・ビスケスは豪華客船に乗ってクリムトン・テリトリィを目指していた。

南国風の明るい色の半袖シャツと短パン姿のロルッカは、カリル・カシスの店から貸してもらった3人のクンタラ美女をはべらせて得意げに昼間から酒を飲んでいた。その姿は金持ちの客ばかりの船の上でもひときわ目立っていた。なかには彼に名刺を持ってくる人間もいた。

ロルッカはいっぱしの名士気取りでそれを受け取った。

ロルッカ「いまごろミラジの奴、あのクソ寒いゴンドワンで何をしてやがるかな」

赤道近くの南の風がロルッカを日焼けした恰幅の良い男に変えていた。彼は金を稼ぐたびに自信をつけつつあった。

彼はミラジが若年のクンタラに叱られながらルーン・カラシュの整備をさせられているところを想像してニヤニヤと醜い笑いを顔に浮かべた。彼はいまだクンタラ国建国戦線のために働いていたが、それはのちに裏切るためのカモフラージュであった。それにまだ取引先は彼らだけでもあった。

いずれは世界を相手に商売ができる。しかも彼が扱う品物はトワサンガ製の極上品なのだ。商品はキャピタル・タワーを使っていくらでも降ろされてくる。兵器開発を停止してしまったアメリア、クリムが開発から離れて停滞しているゴンドワン、いずれもこの兵器を欲しがるだろう。

それだけではない。クリムの絨毯爆撃によってキャピタル・テリトリィを追われた元住民たちによるゲリラ活動も活発化の様相を呈しており、フォトン・バッテリーの供給が再開されれば彼らレジスタンスにもモビルスーツの需要はある。

長引く戦争はいずれ平和を保つアジア諸国をも巻き込んで、需要は果てしなく大きくなる見込みなのだ。いまそうなっていないのはひとえにバッテリーが枯渇しつつあるためであった。エネルギーさえ豊富に入手できるようになれば、地球は戦争一色になる。

その利権を自分がひとり占めできるのだと想像するだけで彼の身体には武者震いが起きるのだった。

ほんの少しばかり兵器を右から左に動かすだけで彼の元には面白いように大金が転がり込んでいた。これが地球規模で行われたならどれほどの富が自分に集まるか想像もできなかった。ロルッカは3人のクンタラ女のひとりひとりを眺めまわし、こいつらは屋敷で雇ってやろうと慈悲深く考えた。

彼はクンタラ差別が酷いゆえに、自分の財力がグラマーな女たちを救う想像を止めることができなかった。彼は女をはべらせているという自覚はなく、助けてやっていると思い込んでいたのだ。

ロルッカ「さて、トワサンガからどんなモビルスーツが来るというのだろうな」







ラトルパイソンとの接触を果たしたメガファウナとムーンレイスの最新鋭艦オルカは、全速で進むとついにガランデンとオーディン1番艦、2番艦と交信可能範囲まで迫った。

ドニエルがクリムに攻撃意思の確認をするためにオープンチャンネルで呼びかけたものの、返答はミノフスキー粒子の散布によってなされた。

ドニエル「敵はモビルスーツを出してくるぞ。モニター監視怠るな。MS隊は出撃準備。オルカとの連絡は光通信で行う。敵は新型で手強いようだ。オリバーのグリモア隊は無理をするな。ベルリ、ラライヤはすまんが先鋒だ。ルアンとリンゴは待機。ノレドはギセラのサポート。ぬかって死ぬなよ」

クリム・ニック率いるゴンドワン艦隊は速度を落とすことなく蛇行しながらメガファウナとムーンレイスの同盟艦隊に迫ってきていた。


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この続きはvol:55で。次回もよろしく。




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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第16話「死の商人」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第16話「死の商人」後半



(アイキャッチ)


宇宙へ上がったアメリア軍は、キャピタル・タワーからの通信を得てザンクト・ポルトに入港した。しかしそこはかつて来訪したときの穏やかさとは打って変わって、疲れ果てた人々がわずかな物資を奪い合う難民キャンプのような場所へと変貌していた。

アイーダ「これは一体どうしたことなのでしょう?」

ケルベス「どうもこうもないですよ。ザンクト・ポルトはキャピタル・テリトリィから搬入させる物資で成り立っていたんです。そのキャピタルがクリムトン・テリトリィなんて名前に変われば、こういうことにもなりますって」

ケルベス・ヨーはタワーこそ守り抜いたものの、レックスとレックスノーだけの戦力では地上のゴンドワン軍に打って出ることもできず、ザンクト・ポルトに居住する一般人の身の危険を考え、ついにキャピタル・タワーの放棄を決心した。

ケルベス「我々キャピタル・テリトリィの人間は絶対にクリム・ニックを許したりしない。この責任は必ずあいつに取らせる所存です。そこでアメリアのアイーダさんの協力を得たいのです」

アイーダ「一般人はアメリアで亡命を受け入れましょう。問題は軍人ですが」

ケルベス「実は、レックスとレックスノーの運用ではもはや限界なのです。新しいMSを提供していただけるとありがたいのですが」

アイーダ「アメリア軍でもそのことが問題になっているのです。グリモアではゴンドワンの最新鋭機に対抗できないと。ですが、エネルギーには限りがありますし、戦争のための道具を作るのにそれを割くのは議会が承認しないでしょう」

ケルベス「戦時体制のゴンドワンはもう少し粘れば一気にガタが来ますよ」

実際はキャピタル・テリトリィが備蓄していたフォトン・バッテリーを奪った彼らゴンドワン軍は、新都市建設にエネルギーを費やしてもまだ余裕があった。クリムトン・テリトリィ建設に投資された資金によって、他地域の余剰エネルギーを買い取っていたからだ。

アイーダ「(頭を押さえ)天才くんがもっとバカならよかったのですが。なかなか」

ケルベス「そこでお願いなのですが、トワサンガへ連れて行っていただきたいのです。トワサンガはベルリたちがいて、エネルギーもおそらく豊富に残って、優秀なMSがあるはずです。一般人はアメリアへ受け入れていただいて、我々はぜひトワサンガへ」

アイーダ「それはわたくしも考えました。しかし、タワーを閉鎖して本当に大丈夫なのですか?」

ケルベス「キャピタル・タワーはフォトン・バッテリーを降ろす先が宗教国家であるキャピタル・テリトリィだったから公平であり得たのです。クリムトン・テリトリィなどという胡散臭い国に降ろしたら、それこそ腐敗の温床になるでしょう。それに様々な閉鎖処置を施していますし、ノウハウのない連中に運用できるほど単純なものでもありません。もはや、戦うしか道はなくなっている」

アイーダ「了解しました。では兵士の皆さまはわたくしの船にどうぞ。こちらもトワサンガにMSの手配を頼みたいので、ご一緒するのが良いでしょう。それに月の表側にクレッセント・シップとフルムーン・シップが来ているようなので、メガファウナは無事にビーナス・グロゥブとの往還を果たし、戻ってきているはずなのです。ベルリにはラ・グー総裁の真意を聞かねばなりませんし」

ケルベス「通信できないということは月のあたりでも誰かがミノフスキー粒子を散布したということか・・・。トワサンガを追放されたというジャン・ビョン・ハザムの身柄はどうしましょう?」

アイーダ「本人はどうしたいと?」

ケルベス「自分がドレッド家の傀儡であるというのは濡れ衣であるから、トワサンガへ戻って身の潔白を証明したいと。それにどうやらトワサンガではクーデターが起こったようなのです。これが不思議なのですが、法王庁の人間がやって来た途端にクーデターが起き、守備隊もろともあっという間にトワサンガを放逐されたというんですね。レイハントン家のレジスタンスが主導したのかと尋ねると、そうではなく、キャピタル・ガードなのだと。自分はこの真意を確かめたい」

アイーダ「ではさっそく一般人を収容した船は下に降ろしましょう。ガードのみなさんはすぐにラトルパイソンに乗っていただいてすぐに出発致しましょう」







月を盾に使いクレッセント・シップとフルムーン・シップを隠したメガファウナは、ムーンレイスの月面基地へと入港した。

そこはきらびやかな都市そのものだった。大きさに比べて人の数が少ないことを除けば、地球のどの都市より発達しているといっても過言ではない。驚くのはライトがどれも明るすぎるくらい明るいことであった。それにエアカーも飛び交っている。

メガファウナ一行は案内されながら感嘆するしかなかった。

副艦長「トワサンガでもないのにこの賑わい。こんなに人が少ないのに全空間を照らす無駄遣い」

ドニエル「こりゃまぁ一体どうしたこった?」

ハリー「エネルギーなどソーラーパネルもあれば縮退炉もあれば核融合炉もある。何がそんなに不思議なのでしょうか?」

ドニエル「縮退炉? なんじゃそら」

ハリー「エネルギーなど無限にあるということです」

メガファウナのクルーたちは、流線型で形作られた真っ白な宮殿のような空間へと案内された。そこが作戦指令室だと聞くとさらに驚くしかなかった。アメリア人は自分たちが世界で1番豊かな国に生まれたと自負しているが、使用できるエネルギーに割り当てがある以上、これほどデザイン性を意識した建造物を作ることなどできなかったからであった。

彼らはめいめいにポカンと口を開けて、宙に浮かび上がる映像を目にした。そこにモニターはなく、空間に映像が投影されていたのである。

実際に会うまでムーンレイスという集団について疑心暗鬼だった彼らアメリア人も、彼ら月の住人が実在し500年の眠りから目覚めたとの話を信じるしかなくなった。

ディアナ「ようこそ。親愛なるアメリアのみなさん。わたくしがディアナ・ソレルです」

金髪の美しい少女が階段を降りてやってきたとき、クルーたちは自分たちが月ではなく地球と同じ重力を感じているのだと改めて理解した。

ドニエル「お招き感謝する。自分はメガファウナ艦長ドニエル・トス。早速ですが、これからの予定を話し合いたい」

話に割って入ったひとりの女性がいた。ウィルミット・ゼナムであった。

ウィルミット「あの、ベルリやノレドさんたちは?」

ドニエル「ベルリは戦闘中に体調を崩しまして、メガファウナの医務室で休んでいるのです。ノレドは付き添い。ラライヤは出てきたときはメガファウナのモビルスーツデッキにいましたな」

ウィルミット「お伺いしてもよろしいでしょうか?」

ドニエル「それはもちろん」

ウィルミット「では伺わせていただきます」

そういうとウィルミットは頭を下げながらその場を辞した。

ディアナ「(ドニエルに向かって)謎解きは月の宙域を掌握してからでよろしいでしょう。トワサンガというところをいかに占領するかを話し合いましょうか」

ドニエル「一般人を巻き込みたくはないのですがね・・・。折り入ってご相談したいのは、ムーンレイスのモビルスーツを提供していただくことはできませんか。そろそろ現有戦力では限界を感じているところで。聞けば、エネルギーは豊富にあるとか」

ディアナ「モビルスーツですか・・・。人とは結局そうなっていくものなのですね。戦いには勝たねばならない。そのために戦力を高める。相手はそれに応じる。こちらもまた・・・。この繰り返し」

ドニエル「いやしかし、いまはそうもいっていられない状況でして」

ディアナ「考えてはおきますが、おそらくそれは大きな誤りでしょう」







ムーンレイスの月面基地に入港したメガファウナは、ザンクト・ポルトでガヴァン隊と戦って以来修繕できていなかった箇所を集中的に直すことになった。設備はすべてムーンレイスによって提供されたのだが、手渡された機器がユニバーサルスタンダードではなかったことと、いくら使用してもフォトン・バッテリーを消費しないことは彼らには驚きであった。

アダム・スミス「規格に合わないものは全部変圧器を通して使えるようにしろ。そのままで使用できるものには発光テープを巻いてわかりやすくしておけ」

ハッパ「コンセントの規格すら違うんだから一体どうなっているんだか」

アダム・スミス「よくわからんが、宇宙世紀時代のものなんだろう?」

ハッパ「彼らは宇宙世紀とは違うと言ってますが、フォトン・バッテリーを使っていない以上、こちらの文明と違うのは明らかですね」

アダム・スミス「いや、これは宇宙世紀時代のものだ。アメリアだって500年前の産業革命当時はまだ宇宙世紀の規格を使っていたんだから、500年前に戦争に負けて眠らされたというなら宇宙世紀時代のものだろう」

ハッパ「へぇ、そうなんですか」

アダム・スミス「宇宙世紀時代のモビルスーツを発掘して産業用機械として使っていたのさ。アメリアはどこかと戦争したらしいが」

ハッパ「自分らはそのあとの移民なのでそうしたことは詳しくないですね。それに、スコード教以前の歴史は学校でも習いませんしね」

アダム・スミス「300年以上前の歴史は禁忌になっているからな」

ふたりのところにラライヤが戻ってきた。彼女はG-アルケインの新しいユニットの調整をしていたのだ。これはハッパが作り出したG-セルフのシステムのコピーだった。

ラライヤ「命令通りに動きますけど、サイコミュとかニュータイプとか、本当にこれG-セルフのものなんですか? わたしが乗って大丈夫?」

ハッパ「すまんな。自分もコピーしただけだから詳しいことは把握できていないんだ。ただ、G-アルケインを組み立てたときに不明だった部分がG-セルフの操作系と同期することでわかってくることは確かだ。ヘルメスの薔薇の設計図のG系統に共通のものじゃないかな」

ラライヤ「(ハッパの隣に立ち)資格のことを訊いているんですけど」

ハッパ「ビーナス・グロゥブで起こった話を聞けば、ラライヤしかいないってなるさ」

そこへウィルミット長官がやって来たとの知らせが入り、ハッパは仕事に戻ってラライヤは長官の下へと飛び上がっていった。

ラライヤ「ベルリのお母さん、リリンちゃんは?」

ウィルミット「(笑顔で)こんなに早く再会できるとは。リリンはムーンレイスの方々が教育を施してくださるとのことで、臨時の教育施設を作ってそこで勉強させているんです。ディアナさんからは本格的な学校が欲しいからと頼まれたのですが、使っている文字が違うので教科書から作っているところです。キャピタル・テリトリィに戻れば、ベルリが使っていた教科書があるんですけど・・・。ところで、ベルリの容態は?」

ラライヤ「もう安定しました。精神的なものだそうです」

ウィルミット「あの子が!」

ラライヤ「ベルリさんは人一倍戦いを憎んでいるのに、人一倍戦わされるので、いろいろあるんです」

ラライヤはメガファウナの医務室へウィルミットを案内した。ドアが開くと、ベルリとノレドが喧嘩している最中だった。ノレドはむいた梨をベルリに食べさせようとして、ベルリはそれを嫌がって逃げ回っていたのだ。傍ではメディー・ススンとキラン・キムが呆れながらその様子を眺めている。

ノレド「ベルリは病人なんだから大人しく寝てるの!」

ベルリ「もう治ったったら。え? 母さん?」

ウィルミット「病室でなんてザマですか! 大人しくしてなさい!」

ベルリ「(真っ赤になって)ノレドが子ども扱いするからこんなことに」

ノレド「せっかく梨をむいたのに。貴重品なんだよ」

ウィルミットの顔を見て大人しくなったベルリはベッドに戻り、ノレドはもう1度ベルリの顔の前に梨を差し出したが顔を背けられたので怒り、自分で半分齧って、残りをラライヤに食べさせた。

ベルリ「母さんがトワサンガを抜け出てムーンレイスの人たちと一緒にいると聞いたときは驚いたってもんじゃなかった」

ウィルミット「(周囲を見回し小声になる)そんなことより聞いて欲しいの。ムーンレイスの人たちはアグテックのタブーを知らなくて、古い危険な技術をたくさん使っている。フォトン・バッテリーに依存する気はさらさらなくて、それどころかスコード教を打倒しようとしている。どうしたらいいと思う? みんなの知恵を貸して」

ベルリ「は? 母さん、もしかして・・・」

ノレド「スパイしてた?」

ラライヤ「なんて危険なことを」

ウィルミット「(居ずまいを正して)人聞きの悪いことを言わないで。わたくしはちゃんと彼らの文明復旧に手を貸しいたしました。レイハントン家に封じられたとディアナさんが怒っておられたので、手伝ったのです。これはベルリにも関わることなので。しかしお手伝いをしているうちに、彼らの文明は独立していてスコード教と馴染まないとわかって、どうしたらいいものかと」

ベルリ「ムーンレイスだけじゃない。ビーナス・グロゥブにもトワサンガにも反スコード教がいる」

ノレド「あたしはビーナス・グロゥブで薔薇のキューブを見た。お母さまはトワサンガで薔薇のキューブを見た。ハッパさんの部屋にアンドロイドって奴が置いてあるんだ。おそらくお母さまが見たものと同じのはず」

ベルリ「そいつはG-シルヴァーのパイロットでもあった。奴と戦ってぼくは暗い世界へ引き込まれてしまった。心を別の場所へ引き込んでしまうんだ・・・」

ラライヤ「ずっと考えていたんですけど、これはあくまで仮説ですが、レイハントン家というのは反スコード教と戦っていたのではないですか? フォトン・バッテリーを世界に供給して余剰エネルギーを持たせず、戦争をさせない仕組みはトワサンガのレイハントン家が目指した人類の在り方で、ムーンレイスを封じたようにレイハントン家は反スコード教、宇宙世紀復活派も封じたのではないかと」

ベルリ「(頭を掻きながら)ディアナさんは、レイハントン家がスコード教への改宗を迫るために目覚めさせたと思い込んでいた。でもそうじゃないとトワサンガで気づいて、方針転換した。彼女の狙いはなんなんだ?」

ウィルミット「うーん。おかしいのは、ディアナさんたちに何かの悪意は感じないってことなのよね。スコード教への改宗などは微塵も考えてはいないけど、ユニバーサルスタンダードなども、自分たちが目指していた方向性と同じだと感心していた。ハリーさんなどはユニバースという言葉が大好きで、ユニバーサルスタンダードに肯定的ですし」

ラライヤ「やはり、スコード教に二重の意味のようなものがあって、長官などは良い意味でのスコード教を支持していて、逆にディアナ女王などは悪い面を知っているから指示はできないと言っているとしか思えないのですが」

ノレド「あたし思ったんだけど、ビーナス・グロゥブの秘密ってさ、秘密を隠すための秘密じゃないのかな。それは、スコード教が本当は悪い宗教だったって秘密。薔薇のキューブの中の宇宙世紀が本当はスコード教の本来の姿で、大昔のレイハントン家の祖先は、ムーンレイスの冬の宮殿なんかの影響を受けて、クンタラの身分制度とかそういうものが嫌になって否定した。ユニバーサルスタンダードなんかも本当はムーンレイスがやりたいと思っていたことで、それを奪った。ビーナス・グロゥブの薔薇のキューブは、闇の宮殿って呼ばれていたんだよ。ディアナさんの話じゃ、レイハントン家の祖先もみんなそれに乗って宇宙の果てから地球に戻ってきたっていうし」

ベルリ「ムーンレイスと接触したことで、ヘルメス財団は内部分裂した・・・」

ラライヤ「こういうことでは? ビーナス・グロゥブの闇の宮殿の中に宇宙世紀を残しておいたのは、レイハントン家の方針が失敗したときのための保険だった」

ウィルミット「レイハントン家の方針とは、もともとムーンレイスがやりたがっていたユニバーサルスタンダードと宇宙世紀の反省ということですね」

ノレド「クンタラのことも」

ウィルミット「クンタラの習慣を捨て、宇宙統一規格を作り上げ、宇宙世紀の反省としてエネルギーが過剰にならないようにフォトン・バッテリー供給システムを作り、それをスコード教に託した。ではムーンレイスを封印したのは?」

ベルリ「それも保険? 自分たちが敗れて再び宇宙世紀に戻ろうとしたときのために、宇宙世紀の技術を持ったムーンレイスを月に封印した・・・。彼らに宇宙世紀の復活の阻止を託すために」

ノレド「敗れるってどういうこと? 宇宙世紀派に戦争で負けるってこと?」

ベルリ「人類が戦争で争い続けることを望めば、それがレイハントン家の敗北だったのでは? そう考えれば、クンパ大佐がビーナス・グロゥブの人だったことの説明になる」

ラライヤ「ということは、薔薇のキューブの人たちとは、反スコード教じゃなくて、反レイハントン家。ヘルメス財団1000年の夢って・・・」

ノレド「宇宙世紀終焉と宇宙世紀復活の二重の意味があった?」

ウィルミット「ヘルメス財団の中のふたつの夢が戦っていた・・・。正義の夢と悪の夢・・・」

ラライヤ「エンフォーサーの意味は、レイハントン家の方針を終わらせるために大執行を行う人々ということでは?」

ノレド「だったらあれじゃない? G-ルシファーをジット団に作らせていたのは、ロザリオ・テンを壊してしまうためだったんだ! それをあたしとマニィが盗んじゃって勝手に使っていたんだ!」

ラライヤ「そうですよ!」

ノレド「あたし・・・、悪いことしたんじゃなかったんだ。スコード教のためにも、レイハントンのためにもなったんだ・・・、よかった、よかった・・・」

そう話しながらノレドは泣き出してしまった。ラライヤはそっと彼女に寄り添った。

ベルリ「(立ち上がり)ちょっとディアナに会って、このことを話してくる。母さんも来て」







アメリア東海岸にあるカリル・カシスのキャバレーに、ロルッカがやって来ていた。彼はいつものように多くの女をはべらせ、高い酒を次々に注文していく。

程よく酔いが回ったところでカリルはロルッカにトワサンガ製の武器を扱ってくれないかと遠回しに持ち掛けた。すると鼻の下を伸ばしていたロルッカの顔色がサッと変わり、どす黒く酒臭い顔をカリルに近づけてきた。

ロルッカ「どうしてお前のようなクンタラがトワサンガの話を知っている?」

カリル「いやですよぉ、お客さん。わたしも詳しいことはわからないのよ。ただお客さんの中に地球で武器商人をやれる知り合いはいないかって訊かれたものだから」

ロルッカ「そいつは本当にトワサンガ製のMSを扱うと言っていたのか? このご時世に?」

カリル「なんでもレコンギスタしてきたドレッド軍の元技術者だって話でしたね」

ロルッカ「トワサンガのドレッド軍が・・・。どういうことなんだろうか・・・。それでオレにどうしろと」

カリル「クリムトン・テリトリィに行けばわかるとか」

ロルッカ「あんな危険なところ」

カリル「あそこはゴンドワンの飛び地扱いですから、パスポートもいりませんし、お客さんならと思って声を掛けさせていただいたのですが、見当違いというならば他の人に・・・」

ロルッカ「いや、待て。(少し考えこむ)トワサンガから武器を密輸するのなら、フォトン・バッテリー用のコンテナに入れて運んでくるはずだ。ということは・・・、あ、そうか、わかったぞ。カシーバ・ミコシとキャピタル・タワーを使って正規のルートで降ろせる算段が付いたということだ。運んでくるMSのリストなどはあるのか」

それはないとカリルは答えたが、カリルの立場でそれを知るはずがないと勝手に判断したロルッカは妙に興奮した面持ちで札束を机に叩きつけて立ち上がった。

ロルッカ「クリムトン・テリトリィのどこへ行けばいい?」

カリル「以前、国会議事堂と議員宿舎があった場所ですよ。いまはゴンドワンに占拠されていますけど、カリル・カシスの紹介できたといえば話は通じます」

それだけ聞くと、ロルッカは意気揚々と店を後にして帰っていった。多くの女たちで彼を見送ったカリルと仲間の女性たちは、深々と頭を下げその姿が消えるとお互いの肘をぶつけ合って必死に笑いを堪えた。事前の打ち合わせでは、クンタラの自分たちがトワサンガの人間を説得するのは困難だと予想していたのだ。

カリル「あれが死の商人か。間抜け面ね」







空になったザンクト・ポルトを見て、クリムとミックは唖然とするしかなかった。

クリム「補給を済ませて来てみれば、アイーダにまんまと出し抜かれたってわけか!」

ザンクト・ポルトの中には人っ子一人おらず、ガランとした空間に鳥の鳴き声が響き渡るばかりであった。ゴンドワンの兵士がふたりに近寄ってきて報告をした。

兵士「ダメです。我々ではクラウンを動かすことはできそうもありません」

クリム「だろうな」

ミック「そうとわかってるから放棄したんでしょうね。月にクレッセント・シップとフルムーン・シップがありますけど、これからどうしましょう?」

クリム「いや、まずはトワサンガだ。カシーバ・ミコシのルートを使って直接トワサンガに向かう。アイーダのことだから、ザンクト・ポルトの一般人をアメリアへ降ろすために戦艦2隻は使ったはずだ。だとしたら、月にメガファウナがいても2対3。シラノ-5さえ占拠してしまえば何とでもなるさ」

ミック「トワサンガの備蓄バッテリーさえ押さえてしまえば?」

クリム「こっちの勝ちさ」


(ED)


この続きはvol:54で。次回もよろしく。















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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第16話「死の商人」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第16話「死の商人」前半



(OP)


ザンクト・ポルトから東へ1000キロメートル離れた場所でアメリアの艦隊とゴンドワンの艦隊が激しくぶつかり合っていた。

ザンクト・ポルトへ先行するゴンドワンをアメリアの艦隊が脚の速さを生かして追いつき、艦隊戦に持ち込んだことで、両軍は激しい消耗戦に突入してしまった。戦いは12時間経っても終わる気配はない。遠目にザンクト・ポルトを眺めながら、どちらも一歩も引かぬ戦いにもつれ込んだ。

ラトルパイソンのブリッジにアイーダの叱咤の声が響き渡った。

アイーダ「どうしてこれほどの戦力がありながら押されているんですか!」

艦長「どうもMSの性能差のようです。こちらの量産機よりゴンドワンの量産機の方が性能がいい」

アイーダ「グリモアは良い機体だと亡きカーヒル大尉もおっしゃっていましたのに」

艦長「あちらにはあの人がおりますから、いろいろ流出してしまったのでしょう」

あの人とは、ゴンドワンに亡命したクリム・ニックのことであった。MSの知識に長け、多くの機体を乗り継いできたクリムがアドバイザーになってゴンドワンの新型機が製作された可能性があった。

アイーダ「(唇を噛み)平和を模索していた間に出し抜かれたと」

艦長「戦場に身を置く身としては、やはり常に新型機を用意していただけるとありがたいのです。その点、グシオン総監はイノベーションを怠らなかった。常に相手より優位に立てるよう予算の面でも取り計らっていただき、おかげでアメリア軍は世界最強を保っていられました」

それはアメリア軍の新総監になったアイーダへの嫌味でもあった。たしかにアイーダはMSの研究開発予算を削って、クンタラ支援に当てた張本人だったのだ。

アイーダ「もうグリモアでは戦えないと?」

艦長「地上ならともかく、宇宙では厳しいですね。新型機が無理なら、せめてジャハナムの数を揃えていただきたかった」

アイーダ「ジャハナムの量産ラインはもうないんです。グリモアは宇宙用の汎用型工作機械として残すつもりだったので・・・。いったん研究開発を止めるとこういうことになるのですね」

艦長「(近くで爆発が起こり、身をかがめる)そういうことです。いまから研究開発を再開するか、もしくはどこからか新鋭機を購入していただくか」

アイーダ「どこからかといわれても・・・」

MSの性能はトワサンガやビーナス・グロゥブのものが圧倒的に高性能なのはわかっていた。しかし、ドレッド家が絶え、ジット団もないいま、ゴンドワン以外に新鋭機の開発を続けている国家があるとは思えなかった。

アイーダの心の中に、G-セルフを量産できないかという考えがよぎった。彼女が知る中で最も高性能で未知に溢れていたのがレイハントン家が用意していたG-セルフなのである。

アイーダ「とにかくここはしのいでください。クリムのオーディン1番艦も疲れてきているはずです。新鋭機のことは責任をもって承りました」

G-アルケインならば設計図もあればノウハウもある。ジャハナムの量産ラインをもう1度作り直すこともできる。しかし、それを行うだけのエネルギーを戦争のために使っていいのか、またそれを議会が承認するかどうかは難しい問題であった。

アイーダは戦争の早期終結と国家間の融和を訴えて国民の支持を得ている。新型MS開発やいったん廃止したMS生産ラインの復活を言い出せばズッキーニ大統領に揚げ足を取られることは間違いなかった。たとえそれをやむなくさせているのが彼の息子であったとしてもだ。ズッキーニ大統領はそんなことで大人しくなるような性格ではない。面の皮の厚い、まさに政治家らしい政治家なのだ。

メガファウナが戻れば、G-セルフもあればバックパックを作ることもできる。強い機体があれば戦争が早く集結するのではないかとアイーダは考え、そして自らその考えを否定した。

アイーダ(G-セルフを量産させて欲しいなんて言ったらベルリがどんな顔をするか。武力で戦争に勝つために政治家になったんじゃない。ビーナス・グロゥブのラ・グー総裁だってそんなことは望んでいない。絶対に何かできることがあるはずだ。わたしじゃなきゃできない何かが・・・)






クリム「これではいつまで経ってもザンクト・ポルトに近づけぬではないかッ!」

クリムが搭乗する青いダ・カラシュの肩に、ミック・ジャックのピンクのラ・カラシュが手を置いた。2機の間に接触回線が繋がる。

ミック「仕方がないですよ。ゴンドワンの兵士はこれが宇宙での初めての戦闘なんです」

クリム「(ダ・カラシュの指を西に向けて)ザンクト・ポルトから1000㎞も離れてしまった。あの真下から上がってきたというのに」

ミック「まさか姫さまが先に来ているとはね。正直、見くびってました。それに、さすがアメリアは物量が豊富です」

クリム「グリモアごときにどいつもこいつも後れを取るとは。こちらのルーン・カラシュは最新鋭機なんだぞ」

ミック「引きどきですよ」

クリム「わかっている」

クリムは撤退命令を出してMSをそれぞれの母艦へと戻した。ゴンドワン軍の動きに合わせてアメリアもグリモアを引き上げさせた。長時間の戦闘に疲れ果てているであろう兵士たちには食事と睡眠を取るように指示がなされた。

ブリッジに上がったクリムはミックと肩を寄せ合って状況を分析した。

ザンクト・ポルトまでの距離は1000㎞。宇宙ではそれほどの距離ではないが、間にアメリアの艦隊が入り込んで行く手を阻んでいる。MS戦は互角で、双方相手国の戦艦に迫って十分な打撃を与えるまでには至っていない。まさにエネルギーを消費しただけに終わってしまったのだ。

MSの性能差は歴然としていた。ゴンドワンが用意した最新鋭機カラシュ・シリーズは優秀で、クリムが搭乗した機体の中ではダハックに次ぐ能力があり、アメリアのグリモアとは比較にならない運動性能を誇っていた。ただ、キャピタル侵攻部隊から戦力を割いたために数が少ない。

また、ゴンドワンの兵士は宇宙空間での練度を欠いており、MSの性能に劣るアメリア軍相手に押すどころか押されるほどで、目的地であるザンクト・ポルトからは引き離されるばかりであった。ザンクト・ポルトに近づけばキャピタル・ガードが応戦してくる可能性もある。

クリム「タワーを占拠しておけばザンクト・ポルトを拠点にトワサンガへ侵攻できたのか・・・。くそ、あのケルベスという男ッ!」

ミック「(首を振り)いえいえ、占拠したってあたしたちじゃタワーを運行させることはできませんって。あれはあれですでにロストテクノロジーともいわれているのですから。運航庁だけですよ、仕組みを理解しているのは」

クリム「(八方ふさがりを感じて怒りを吐き出す)クソが」

ミック「どうします。1回地上に戻って兵士を休ませて補給をしてからもう1度上がってきますか?」

クリムは頷きかけて自分の弱気を強く否定するかのように首を大きく横に振った。

クリム「いや、補給は足りている。ここは持久戦と行こう。ザンクト・ポルトから離れてゴンドワン上空へ移動。MSの補給を受ける。数が同等なら相手は突破できない戦力ではない。ドッティ、オーディン2番艦とガランデンに移動すると伝えてくれ」

ミック「ゴンドワン政府は増派要請を聞いてくれますかね?」

クリム「ケチくさい連中だからな。寒いところの連中は貯め込むばかりで使おうとしない」

クリムの願いは、武力をもって世界、続いて宇宙を統一して平和をもたらすことであった。オーディン1番艦のモニターには月は映し出されていないが、クリムの眼は月に向けられていた。

ゴンドワンからキャピタル・テリトリィにガランデンが提供された際のクルーの一部が、アーミーに残って法王と共にトワサンガへ入っている。密偵の数は10人。

そのうちひとりがハザム政権転覆のどさくさに紛れてトワサンガ守備隊に潜り込み、シラノ-5にもう1機のG-セルフがあるとの情報を伝えてきているのだ。彼はハザムと共にザンクト・ポルトに残り、ガヴァン隊とメガファウナが交戦しているどさくさを突いて大気圏グライダーで地球に降り、キャピタル・テリトリィに侵攻してきたクリムと合流していた。

クリム(月へ行けばG-セルフが手に入るかもしれない。トワサンガさえ抑えてしまえば、G-セルフを量産して地球もビーナス・グロゥブとやらも何とでもできる。あとのことは、手に入れてから考えればいいのだ)







キャピタル・テリトリィ爆撃を逃れた人々は、難民となって各地に散らばっていた。

その多くはアメリアとの国境へと逃れたが、アメリアはクンタラの亡命者を優先して受け入れ、キャピタル・テリトリィから逃れてきた人々は難民収容所を作ってそこに隔離していた。歴史的にさほど仲の良くない両国であったため、その支援はおざなりなものであった。

アメリアのグシオン総監がフォトン・バッテリーの情報開示を求め、キャピタルがそれを拒否したことはクリム・ニックの「修正グシオン・プラン」の公表によって広く知れ渡ってしまった。アメリア人の中には今回のクリムによるキャピタル侵攻によって留飲を下げる向きさえあったのである。

難民キャンプでは代表が決められ、アメリア政府と交渉を行っていたが、要求していた食料や子供用ミルクなどの配給は少なく、豊富に送られてくるのは武器ばかりであった。

それを手に取ってクリム率いるゴンドワンと戦えというのである。武器の支援はアメリアの政府予算で賄われていたために、武器商人たちはアグテックのタブーを無視して次々に新型の銃を開発していた。

長く続いた平和に慣れ親しんだキャピタル・テリトリィの人々も、祖国を失ったことで若者を中心に兵士として志願する者が増えていた。彼らは祖国解放レジスタンスとなってジャングルに潜み、ゴンドワン軍と各地でゲリラ戦を繰り広げていた。

コバシ「あんたたち、覗いたらぶっ殺すわよ」

ローゼンタール・コバシはその長身を生かしてクン・スーンの授乳を他の兵士に見せまいと立ちはだかっていた。

クン・スーンは自らが産んだキア・ムベッキの息子ジュニアに乳を飲ませていた。彼女の息子は人質として病院に囚われていたが、クリム・ニックは病院を空爆対象にしなかったので、保育器の中にいたジュニアはかろうじて生き延びることが出来たのだ。

コバシ「しかしいつまでもこんなジャングルの中にはいられないわね。ズゴッキーのバッテリーもそろそろ切れてしまうし」

団員A「やっぱりバッテリーはかっぱらってくるしかないですね」

団員B「筏は明日には完成しますよ。木だけはいくらでもありますから」

スーンとコバシらはジュニアの身柄を取り戻すとキャピタル・テリトリィに居住していた旧ジット団のメンバーを難民キャンプから探し出して、元いたパイロット20名に加えて80名を確保して100人のグループとして行動し、揃ってジャングルの中へ身を隠した。

旧ジット団メンバー100名は、ズゴッキーを隠しながらジャングル地帯を北東へ進み、海が見える場所まで辿り着いていた。難民の多くは半島の突き出た北西へ向かっていたので、徐々に人に会う機会も減ってきたところだった。

彼らにはトラック2台とズゴッキーしかなかったが、難民キャンプで受ける配給と物々交換で得た道具で木を切り出しては筏を制作していたのである。それに乗り、ズゴッキーに引かせて海を渡り、アメリアへ向かおうというわけだ。

数名の団員が立ち上がり、互いに頷き合いながらスーンの授乳が終わるのを待ってから話しかけた。

団員C「姐さん、自分らはいまからここの南にあるレジスタンスの拠点に忍び込んでバッテリーを奪ってきます」

団員D「夜が明ける前に戻るのでズゴッキーをすぐにバッテリー交換できるように準備して、筏も浮かべておいてください。夜明け前に出ましょう」

スーン「(胸を服の中にしまいながら)そんな危ないこと任せていいのか?」

団員C「地球の自然は暴力的すぎる。こんな生活、限界です」

団員D「少しでも文明を感じるところへ」

レコンギスタを掲げビーナス・グロゥブからやって来た彼らであったが、地球環境がこれほど過酷なものだと想像していた人間はひとりもいなかった。ジャングルでの生活は、クンパ大佐が目論んだ優勝劣敗論そのものであったが、天の国で生まれ育った彼らは、自分たちが弱者の立場になるとは夢にも思ってもいなかったのである。

スーン「すまない。ではバッテリーの強奪は任せる。こちらは急いで筏を完成させ、すぐに海を渡れるように準備しておく」

翌日未明、強奪に向かった10人を乗せたトラックは無事に戻ってきた。ただちにズゴッキーのフォトン・バッテリーが交換され、ローゼンタール・コバシは10艘の筏を海に浮かべると、その上に100名の団員を乗せて結わえたロープを引っ張り、アメリアへ向かってゆっくりと進んでいった。

筏の上の団員たちは、疲れてはいるが皆良い笑顔であった。ビーナス・グロゥブで真っ白だった彼らの肌は、日焼けで真っ黒になり垢で汚れ切っていた。

スーン(キア隊長、これが強くなるってことなのですね。見てください。みんな随分逞しくなりました。いずれはジュニアもこの地球で強い子として育っていくでしょう)

ズゴッキーに引かれた筏は、強い海風を受けながら朝焼けの中をゆっくり北上していった。







夜のアメリア東海岸旧NYシティに色とりどりのネオンが瞬いている。

アメリアへ渡ったカリル・カシスは、キャピタル・テリトリィから奪った有り余る資金で東海岸で大きな店を買い取り、元ビルギーズ・シバ美人秘書たちと共に高級キャバレーを経営していた。

彼女たちはクンタラ出身という身分を隠すまでもなく、その美貌を武器に界隈でたちまちのうちに評判を得て毎日多額の売り上げを計上するまでになっていた。アメリア人の偏見のなさは彼女らが拍子抜けするほどであった。それもそのはず、アメリアは早くからクンタラ亡命者を受け入れ、登用することで一気に文明レベルを引き上げた国家であった。

クンタラの女性が差別なく働ける店という評判は周辺にとどろき、難民として他の地域からやって来たクンタラの女性たちが連日面接に訪れては雇われ、そろそろ2号店を開こうかとの話すら出ているほどだった。きらびやかな店内は着飾った男女の社交の場になっていた。

経済的に成功した彼女たちであったが、キャピタル・テリトリィにおいて幼少時より受け続けた差別の記憶は拭い難く、酒を出すだけではなく裏ではいまでもクンタラ建国戦線のために働いていた。新規に雇った女性たちも彼女らの仲間になって、アメリア国内での支援者はどんどん大きくなっていった。

そんな客の中に、紛争当事国であるゴンドワンとアメリアの間を頻繁に行き来するロルッカ・ビスケスなる金回りのいい老人がいた。彼は酷く差別的な男であったが、クンタラへの差別が強いが故にクンタラの女に目がなく、アメリアへ来た際には湯水のように金を使うので逆に怪しまれたのだ。

カリル「あの風采の上がらない男がトワサンガの出身? それは本当ですか?」

ジムカーオ「レイハントン家という旧王室の家臣だったそうだ」

カリル・カシスは通信機を前に我が耳を疑った。彼女がキャピタル・テリトリィから持ち出した大型の通信機は、彼女がジムカーオ自身から与えられたものだった。彼女はこれを使って情報を逐一トワサンガのジムカーオ大佐に送り、指示を受けていたのである。

ジムカーオ「近々地球はさらに戦争が激化してフォトン・バッテリーの備蓄が尽きていく。それに合わせてゴンドワンのルイン隊が動き始める手はずだから、ロルッカという男を完全に篭絡して武器売買の仲介人をさせたい。武器はこちらから地球へ運搬する」

カリル「それはもちろんやりますけど、大佐はトワサンガにいるんでしょ? どうやって地球に持ち込むんですか?」

ジムカーオ「その手段はいくらでもある。いまのところ宇宙もいろいろ混乱しているが、バッテリーが尽きればあいつらも大人しくなるだろう」

カリル「物資が不足して餓死寸前になったらあたしたちクンタラはまた・・・」

ジムカーオ「それは心配ない。その前に自分が責任をもってエネルギーの供給をする。人間を飢えて死なせるほどには法王庁も追い込まないだろうし、こちらも対処する」

カリル「法王庁ですか・・・。彼らこそが差別の源のような気もしますが・・・。ロルッカを通じてトワサンガ製の武器やMSをルイン隊に届けさせればよいのですね」

ジムカーオ「ロルッカは武器商人だから世界中に武器を売りこんでくれるだろう。現状では戦争に参加していないアジア地域はエネルギーに余裕がありすぎて国内で政局が起こらないと推測されている。クリムという男のプランに参加しなかった国々は、軍事革命が起こらないまま事態を乗り切ってしまう。それでは地球全体をクンタラ国の支配下に置く作戦に支障が出るのだ。まったく、クリムはザンクト・ポルトなどを目指さずアジアを侵略すべきだったのだ」

カリル「キャピタルをくれてやったのに天才という割には大したことはなかったですね」

ジムカーオ「まったくだ。クリムトン・テリトリィ建設で地域のフォトン・バッテリーを使い果たしてくれたのはありがたかったがね。故郷を爆撃されて、君は悲しかったか?」

カリル「(首を横に振り)いいえ、全然。スコード教の聖地なんて焼け野原になって当然ですわ」

ジムカーオ「それではロルッカに武器を扱わせる件はよろしく頼むよ」

カリル「はい。それでは」

フォトン・バッテリーは1年分の備蓄がなされるように世界中に供給されている。しかしその中に戦争で使われる分は含まれていない。自主電源を多く持つアメリアはまだいいが、ゴンドワンなどはかなり疲弊してきているはずだった。

カリル「もう少しだ。これでようやく血の差別が終わる。クンタラの血が一滴でも混ざっていればクンタラなどという時代が終わる。クンタラの魂が安寧の地に導かれる」

カリルは両手を胸の前で十字に組むクンタラ式の祈り方でクンタラの神を称えた。

深夜を過ぎ、店じまいをして帰路についた女たちは、海の方角から大きな物音と騒ぐ声が聞こえてきてめいめいに脚を止めた。旧ビル群にドーンドーンと大きな音が響き渡っている。それは徐々に彼女たちに近づいていた。カリルは部下の女たちを先に逃がして、自分は音のする方角へ走っていった。

繁華街のネオンもあらかた消えた深夜のビルの谷間に、ぬっと姿を現したのは巨大なモビルスーツの姿であった。その下には100人ほどの眼をギラギラさせたむさくるしい男たちが歩いてついてきている。

目を凝らすとそれは彼女がキャピタル・テリトリィで騙してアーミーに入隊させたビーナス・グロゥブのジット団の面々であった。生きていたのかと驚くと同時に、彼らが地球人には思いもよらぬ技術を多く有していることを思い出し、笑顔を作るとわざと女らしい走り方で彼らに走り寄った。

カリル「生きていらしたのですね! わたくし、ビルギーズ・シバの第1秘書、カリル・カシスでございます。クン・スーンさまですか?」

香水の匂いをプンプンと漂わせたカリルが近寄ると、真っ黒に日焼けしたクン・スーンはその場に突っ伏して吐き始め、波が波がと何度もうめいた。

スーン「た、頼む。こいつらに何か食事を」

彼女の傍には100人ほどの人間がいる。確かめなくてもジット団のメンバーであることはわかっていた。

カリル「近くにわたくしのお店がございます。もう閉店しましたが、有り合わせのもので何かお作りしましょう。そのMSだけは、この先にある廃倉庫にでも隠してきてください」

スーン「すまない(指でズゴッキーのコバシに指示を出す)」

カリル・カシスは彼女に肩を貸しながら、こいつはどこのお嬢さまで、恵まれた生活を捨ててレコンギスタなどしたものかと考えていた。

いまや東海岸有数の資産家となったカリルは、痩せ細ったちっぽけなクン・スーンに肩を貸しながら、いままでにない優越感を感じていた。

カリル(天の国などといってもしょせんはスコード教の話。これが現実なんだよ、お嬢ちゃん)



(アイキャッチ)



この続きはvol:53で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第15話「月の同盟」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第15話「月の同盟」後半



(アイキャッチ)


ベルリはG-セルフの両手を大きく広げてトワサンガモビルスーツ隊の前に立ちはだかった。

ベルリ「いい加減にしなさいよ!」

するとトワサンガから出てきたMSは攻撃せずに停止した。

兵士「その声は王子ですね。どうかトワサンガにお戻りください。地球の軍隊がザンクト・ポルト周辺まで上がってきたことが確認されています」

クレッセント・シップとフルムーン・シップは徐々に動き始めていた。ベルリはG-セルフをその反対方向へ移動させながら敵戦力を引き離そうと試みる。その行く手を1機のエルモランが塞いだ。

ベルリ(エルモラン、ドレッド軍の機体じゃないか)

トワサンガMS隊は多くはウーシアとカットシーだが、ガヴァン隊が採用していたザックスだけでなくドレッド軍が採用していた機体も含まれていた。

ベルリ(壊滅したはずのドレッド軍のMSがあるのは、残っていたからなのか、新しく作ったからなのか。ラライヤから報告のあった話が本当なら、ヘルメス財団はいずれ戦争の道具を量産して売り始めるはずだ。どうやってトワサンガの人たちにこちらの話を信じさせたらいい?)

兵士「ビーナス・グロゥブからお越しになられた方々もねぎらう必要がございます。王子には早急に戻っていただかなくては困るとジムカーオ大佐もおっしゃっております」

ベルリはそれに応えずエルモランを振り切ってさらに逆方向へと機体を進ませた。トワサンガ隊が動かないので速度は上げられない。いっそ自分についてきてくれればと思った矢先にトワサンガ隊は後方から攻撃を受けて四散した。攻撃を仕掛けてきたのはメガファウナでG-シルヴァーと名づけた銀色のG-セルフであった。

ベルリ「バララ・ペオール!」

ビームライフルを構えたベルリは、トワサンガ隊が二手に分かれて2機のG-セルフを追いかけ始めたことでどう対処していいか迷い、とりあえずはトワサンガの追っ手を振り切ることに集中した。トワサンガのMSは攻撃の意思を示さず、ただ捕まえようとしているだけに見えた。

しかしG-シルヴァーは好戦的でビームライフルを使って的確に1機ずつ被害を増やしていった。

ベルリ「前のように精神感応しない? 人がたくさんいるからか? よし、ここは! トワサンガのみなさん、あの銀色のを捕まえます。手伝ってもらっていいですか?」

兵士「王子にも来ていただかなくては困るんですよ!」

カットシーがコクピットを撃ち抜かれて爆発した。さらにもう1機のカットシーが両脚を撃ち抜かれて小破する。G-シルヴァーはまるで敵味方の見境なく攻撃を仕掛けているように見えた。

ベルリは敢然とG-シルヴァーに立ち向かおうとするが、G-シルヴァーに気を取られるとウーシアに両腕を掴まれそうになり、それを振りほどくと右側にいたウーシアが撃破される。

ベルリ「なぜあんたたちは邪魔しかしないんだ!」

兵士「戦争を終わらせなきゃいけないからですよ! 地球からゴンドワン軍とアメリア軍が迫っているんです。王子にはトワサンガを治めてもらわねばなりません!」

ベルリ「学生たち若者はトワサンガの王政への復古には反対している! ビーナス・グロゥブがハザム政権を承認しないなんて誰に聞いたんだ! クレッセント・シップもフルムーン・シップも地球圏にあったっていうのに!」

兵士「あんたが王子さまになってくれなきゃオレたちクンタラが困るって言ってるんだよ!」

ベルリ「クン・・・タラ?」

G-シルヴァーは一気にモランとエルモランと撃墜した。通信していた相手が搭乗していたらしく、呼びかけても先ほどの声は聞こえてこない。

ベルリ「(大声で)そんなに王子さまが好きなら王子さまとして命令する! みんな下がれ! ぼくはこいつを!」

残った3機のトワサンガ隊は王子としての命令が効いたのか、隊長機を失ったためなのか、一斉にシラノ-5に戻っていった。空間に残されたのはG-セルフとG-シルヴァーだけとなった。するとG-シルヴァーはすかさず反転してシラノ-5北側へ逃れて行こうとする。ベルリはそれを追いかけた。

ベルリ「どっちも同じG-セルフかもしれないけど、ご先祖が残してくれたこの機体は違うって信じたい! バララ・ペオール!」

そう呼びかけてもベルリの心には何も返ってこなかった。ベルリのG-セルフは必死に逃れようとするG-シルヴァーに追いすがり、ようやくその足首を捕まえた。

ベルリ「接触回線で聴こえているんだろ? 返事をしたらどうなんだ!」

足首を掴まれたG-シルヴァーは、加速を弱めたが暴れるでもなく、ただ慣性のままに脚を掴まれたまま漂っている。ベルリの心の中に何かモヤモヤした違和感が沸き起こってきた。自分はいま得体のしれない何者かと対峙しているのだと感じた。

ベルリの精神は、敵パイロットと感応していなかったのではなく、感応していたものが異質な人間以外の何かだったのだ。

ベルリは周囲に邪魔をする者がいなくなったのを確認してから、G-シルヴァーを抱きかかえるように固定して、コクピットを開いて宇宙空間へと身を乗り出した。G-シルヴァーのハッチはユニバーサル・スタンダードだったので外から開けることが出来た。

コクピットの中に明かりはついていなかった。ベルリはパイロットスーツからペンシルライトを取り出してG-シルヴァーのコクピット内を映した。パイロット席に乗っていたのは、ノレドがビーナス・グロゥブのジット団跡地地下から持ち帰ってきた銀色の女性、エンフォーサーであった。

ベルリ「エンフォーサー、アンドロイド・・・」

エンフォーサーは真っ暗なコクピットの中に座ったまままったく動かない。ベルリはG-シルヴァーのコクピットの隅々にライトを当ててG-セルフとの違いを確認した。ほとんど変わることはなかったが、ハッパが話していたようにコクピットはコアファイターにはなっていない。違っているのはその部分だけといってよかった。

人間に似せて作られた顔を前方に向けたまま微動だにしないアンドロイドは、ベルリには狂気を湛えた人間以上に怖ろしいものに感じられた。再び地球を離れ、ガヴァン隊と交戦してから日々強くなる精神感応の鋭敏さにベルリは神経が参ってしまいそうになっていた。

あのときやむなく地球の大気圏に押し込んで焼き尽くしたガヴァン隊の中に、ノレドが連れてきた小さなリリンという女の子の親もいた。戦争は殺して殺しても終わらない。話して話しても人間と人間の間の溝は埋まらない。それどころか、話すことが対立を深めていくばかりであった。良かれと思って取る行動が、相手には気に食わずに新たな対立の火種となる。

人と人との間には感応の不具合しかない。それは接触しているようで、最初から壊れているのだ。

ベルリ「だからこいつを作ったのだろうか・・・。この機械人形を・・・」

妙な感じを覚えたベルリは咄嗟に飛びのいてG-シルヴァーのコクピットから飛び出た。するとハッチが閉まり、G-シルヴァーは生気を取り戻したかのように細かい振動を繰り返した。

G-セルフに戻ったベルリは抱きかかえるように固定していたG-シルヴァーから手を離した。するとG-シルヴァーは逃げ出すでもなく、まるで意思のある人間であるかのようにベルリのG-セルフを眺めた。先ほどまでまるで感応しなかったG-シルヴァーが、今度はベルリをスキャンするかのように観察し始めたのだ。

ベルリは叫び声をあげてバルカンでG-シルヴァーを撃った。それでも強制的な精神への介入は止まず、ベルリは巨大な眼に心の底まで覗かれ続けた。






隣のベッドで寝ていたラライヤが不意に上体を起こしたので、ノレドは寝ぼけ眼のまま頭だけ横にした。ノレドは寝袋から手を出し、掌をまさぐって自分の横にいるはずのリリンの姿を求めたが、小さなリリンの姿はそこにはなかった。

ノレド(そうか、リリンちゃんは本物の月の女王様のところに残ったんだ・・・。やっぱりあたしじゃ役不足だよね。女王さまって柄じゃない。結局、何の役にも立てなかったもんね)

不意に悲しさがこみあげてきたが、ノレドはそれをぐっと堪えていつもの笑顔の自分を作り上げた。

ノレド「どうしたの、ラライヤ」

ラライヤはくるまっていた寝袋のジッパーを開けて身体を外に出した。彼女はまだトワサンガ王室近衛兵の衣装をまとっている。もうそんなことはしなくていいのにと思ったが、ノレドはラライヤがそうしていてくれることを嬉しくも感じていた。

ラライヤ「何か変なものをふたつ感じませんか?」

ノレド「変なもの?」

ラライヤ「目玉がふたつ、どこからかこっちを覗いているような」

ノレド「ちょっと、怖い話はやめてよね」

ラライヤは神経を集中させてその違和感を探っているようだった。ラライヤがビーナス・グロゥブでヤーン・ジシャールの乗るジャイオーンと戦ったときの現象はノレドも耳にしていた。戦いの中、強い精神感応のような現象が起きて、モビルスーツが見えなくなって消え去り、人と人がじかに向き合い、交流したような感覚に襲われたという話だった。

ノレドにはそうしたものはまったくない。その現象は決まってベルリとラライヤにしか起こらないのだ。ハッパの話ではそれはニュータイプ現象といって、宇宙に適応してきた人類がときおり体験してきた謎めいた精神現象なのだという。

ラライヤにはその素質があるらしいのだ。だからハッパはG-アルケインにG-セルフと同じ機能を持たせようと頑張っている。

ノレド(そうか。ラライヤは特別なんだ・・・)

ラライヤ「いけない。ベルリさんが呑み込まれそうになっている!」

そういうとラライヤは部屋を飛び出していった。ノレドは後を追おうとしたが、自分にできることは何もないと諦めて、しばらく胡坐をかいたまま無重力に身を任せてうなだれていた。

だが、ハタと何かを思いついてノーマルスーツを着ると部屋を飛び出した。ノレドはハッパの部屋に、エンフォーサーが置いてあるのを思い出したのだ。ニュータイプ現象を増幅させる何かだと解析されたあのアンドロイドに変化が起こっているのではないかと考えたのである。

ところが部屋の前まで来たところでハッパの部屋の暗証番号がわからないことに気づいた。ノレドは部屋の前でどうしたものかとひとりで唸り声をあげていたが、部屋の中から動作音が聞こえてくるのを耳にして、扉に耳をあてがって中の様子を伺った。

聞こえてくるのはエンフォーサーの動作音であった。地下にあった空間、薔薇のキューブを破壊したときの暴走音ではない。その前の、人間のように彼女がビルの中で働いていたときの動作音だった。人間と見紛うばかりの精巧な作りである彼女だが、小さな動作音だけは消せないのだった。

ふいに扉が開いてノレドは驚き、後ろへ飛びずさった。立っていたのはエンフォーサーだった。

エンフォーサー「あなたは・・・ノレドですね」

ノレド「ひぃ(驚いた後におっかなびっくり近づく)」

エンフォーサー「ノレドさん、活動できる時間が限られている。あなたに伝えてもらいましょう。(指をある1点に向ける)あちらの方角に強い憎悪が存在します。巨大な破滅をもたらし、精神を変容させる憎悪です。それを取り除かない限り、強制執行が行われるでしょう」

それだけ告げるとエンフォーサーはガラガラとその場に崩れた。

ノレド「どうしちゃったの?(繋がっている線を見て)あ、そうか。バッテリーが切れたんだ。内部電源を外して・・・。ハッパさん、勝手に動き回れないようにしてたんだな。あっちって(エンフォーサーが指さしていた方向を見る)シラノ-5だよね」

ノレドはただのガラクタのように崩れ去ったエンフォーサーから線を引き抜くと、ヘルメットを閉めてモビルスーツデッキへと急いだ。







ハッパ「だから出撃命令は出てないんだろ? ごまかしたってダメだ。それにまだサイコミュの調整が終わってない」

パイロットスーツに着替えたラライヤは、自分を出撃させろと押しかけてきてハッパたちと押し問答になっていた。

ラライヤ「ベルリさんが何か異常なことに巻き込まれています。早く助けに行かないと!」

ハッパ「ダメなものはダメだったら。いいか、ラライヤ。少ない戦力で巨大船2隻を守り切れなかったら地球は破滅するんだぞ。ここはドニエル艦長に従うんだ!」

ラライヤ「でも、ベルリさんが!」

ふたりの通信にノレドの声が割って入った。

ノレド「ラライヤー」

ハッパ「(呆れて)君もか。とにかくお嬢さんたちふたりは大人しくしてくれ。アルケインもルシファーもシートユニットを換装中でどっちしろ出せないんだから!」

ノレド「ハッパさん! あのね、ハッパさんの部屋にあるエンフォーサーが動き出して、シラノ-5に巨大な憎悪があるっていうんだ。それを取り除かない限り強制執行が起こるって」

ハッパ「なんだって? あのアンドロイド、部屋から出たのか?」

ノレド「部屋から出たんだけどすぐにバッテリーが切れて動かなくなっちゃった。一応電源に繋がっていた線は抜いておいたけど」

ハッパ「MSを動かせなくなったフォトン・バッテリーにつないでいたからな。自立して動けば1分も持たない。どうしてこういろんなことが同時に起こるんだよ。(ヘルメット横のコンソールをいじりながら)艦長、ドニエル艦長!」

ドニエル「(ハッパのヘルメットのスピーカーから呼び出しに応じる声が入る)なんだ、ハッパか?(ブリッジの乗員に向けて怒鳴る声が聞こえる)シラノ-5からまた出てきただぁ? ルアン、絶対に連中を近づけるな! グリモアじゃ厳しいのはわかってる! でもやってみせるしかないだろう!(口調が変わり)で、なんだよ、ハッパ」

ハッパ「いまラライヤとノレドがこっちに来ていて、例のベルリが危ないだの例のエンフォーサーがシラノ-5に巨大な憎悪があってそれを何とかしないと強制執行が起こるとかなんとか言ってきてるんですよ。でもこっちはこっちで手一杯なんだ。ブリッジで引き取ってくださいよ」

ドニエル「(ハッパに向かって)ベルリの件は了解だ。憎悪云々はちょっと後回しにしてくれ。ふたりには自室で待機するようハッパから言ってくれないか。こっちはそれどころじゃないんだ」

ハッパ「(ノレドとラライヤに向き直り)やっぱりダメだ。ベルリの件は了解したといっている。とにかくふたりは大人しくしてくれ。ムーンレイスの援軍なんて来るのか来ないのかわからないんだから」

手すりを握り締めて唇を噛むラライヤはノレドが引き取り、ふたりはうなだれてモビルスーツデッキを離れた。ラライヤは胸が苦しいのか、両手を心臓の前に置いて息遣いが荒くなっていた。

ノレド「法王さまの部屋へ行ってみよう」

ラライヤ「(顔を上げて)こんなときにですか?」

ノレド「もしベルリのことが心配なら、祈るのも助けになるはず。それに、ムーンレイスと接触できたら法王さまには冬の宮殿に行ってもらわなくちゃいけなくなる」

ラライヤ「わかりました」







メガファウナはクレッセント・シップとフルムーン・シップという巨大船のしんがりを務めるようにあとについてゆっくりと航行していたが、大きさがあまりに違うゆえに位置取りに苦労していた。

しかもフルムーン・シップの操舵にステアを取られていたので、なかなか思うような場所に固定して動けない。

ドニエル「ラ・ハイデン閣下との約束が守れなきゃ、地球は再び原始時代に戻るんだぞ。全員気合入れていけーー!」

ギセラ「ハッパが何か?」

ドニエル「ベルリが危ないとかなんとか。またジャイオーンのときみたいなことが起こったかもしれんから何とかしてやりたいが、もうだいぶ離れてしまっている。グリモアだの出しても役に立たんし、もうちょっとマシなMSがあれば・・・」

副艦長「それこそ宇宙世紀の発想ですよ、艦長」

ドニエル「わかってる! わかってるが・・・。聞こえているか、リンゴ! お前がベルリの救援に行け。こっちにMS隊が迫っていて危ないから来てくれと。無理はすんなよ」

リンゴ「了解」

ジムカーオに騙されてフルムーン・シップ強奪の片棒を担ぐところだったリンゴ・ロン・ジャマノッタは、なかなか訪れない汚名返上の機会が巡ってきて喜び勇んだ。

彼のモランは月とシラノ-5の間を飛び、漆黒の中にベルリのG-セルフを見つけた。トワサンガのドレッド軍にいた彼にとって、ここは自分の庭のようなものだった。

リンゴ「ベルリ! ん、何だこの厭な感触は・・・」

ベルリの機体は発見したものの、リンゴは猛烈にこみあげてくる吐気に耐えねばならなかった。

リンゴ「あう、気持ち悪い! なんだこれ。(キョロキョロと周囲を見回す)どうなってるんだこの空間! 息苦しい!」

ドニエル「ベルリは見つかったか!」

リンゴ「見つかったは見つかったんですけど、ここの空間が何かおかしくて近づけません」

ドニエル「空間なんて何かあるわけじゃないんだ! 突っ込んでいってかっさらってこい。別の機体はないのか?」

リンゴ「G-シルヴァーがG-セルフと向き合ってます。あ、でもこのおかしな感じはシラノ-5から感じます。あれに飲み込まれようとしてるんだ。(自分に言い聞かす)怖がるな。自分を信じるんだ」

リンゴは意を決して色違いのG-セルフのところへと飛び込んでいった。するとそれに気づいたのかG-シルヴァーがG-セルフの近くから離れ、同時に空間全体に広がっていた厭な感触が綺麗に消え去ってしまった。

リンゴ「ベルリ、大丈夫か、ベルリ」

応答がなかったのでコクピットを出てG-セルフの中に入ると、ベルリは座席に固定されたまま気を失っていた。

リンゴ「艦長、ドニエル艦長! ベルリが気を失って吐いてます。すぐに手当てしないと吐瀉物が喉に詰まって危ないかも」

ドニエル「だったら連れて戻れ! あ、いやよくやったぞ、リンゴ。(ブリッジのクルーに向かって)弾幕が薄い! MSは絶対に近づけるな!」







ラライヤ「(ハッと気づき)気配が消えた?」

ノレド「どうしたの?」

ラライヤ「厭な感じが消えました。何があったんだろう?」

ノレドとラライヤは法王がいるメガファウナの一室の前に立ち、扉をノックした。

ゲル法王「お入りなさい」

ふたりが部屋に入ると、ゲル法王は法衣の洗濯を済ませてそれを畳んでいるところだった。ノレドは慌てて法王の傍に駆け寄った。

ノレド「法王さまがそんなことをしなくても、おっしゃってくださればあたしがやります」

思えば、冬の宮殿からG-ルシファーで連れ去って以来、法王は傍付きの人間ひとり置かずに過ごしてきたのだった。

ゲル法王「いえいえ、みなさん忙しいのに、私事などでお手数をかけるわけにはいきません。それにこうしていると神学校時代を思い出して身が引き締まるのです。あの頃は何でもひとりでやるのが当たり前だったのに、いつしかわたくしは助けられることに慣れておりました。ところでおふたりは何か用事があったのでは?」

ノレド「あたし、なんだか心配なんです。世界がとても恐ろしい方向に向かって進んでいる気がする。何かがおかしいのにそれが何か雲を掴むようでよくわからない」

ゲル法王「地球、トワサンガ、ビーナス・グロゥブ。これらすべてが不安定になり、価値観が揺らいできています。戦うことを恐れているのに、戦わなくては奪われるという恐怖に人々は直面して世界は悲しみの色に満たされています。わたしはスコード教の法王としてこの責任を強く感じているところです」

ラライヤ「法王さまが責任を感じることはないですよ」

ゲル法王「スコード教教会の責任とは、政治家の責任とは違うものです。宇宙から祈りが絶えることこそ、我々が負うべき責任といえるのです。ビーナス・グロゥブで説法する機会を得たとき、わたくしは天の国の人々にもまた祈りが必要なのだと強く感じました。地球にいるから祈るのではなく、広く宇宙を祈りで満たさないことには争いごとは収まりません。ノレドさんとラライヤさんは、冬の宮殿を作り上げたムーンレイスという方々とお話になって、わたくしに新たな機会を作って下さったと聞いております。冬の宮殿のあの破壊と憎しみの映像を見て、わたくしは思うところがあったのです。これほどの憎悪は一体どこから生まれたのかと。わたくしはそれを探らなくてはなりません。ビーナス・グロゥブのラ・グー総裁や、ラ・ハイデン総裁はわたくしに宗教改革を行えとご命じになりました。しかし、わたくしにそんな能力はありません。わたくしに出来ることは、祈りの根源を探ることです。人々は破壊を恐れて冬の宮殿を作り、戒めとしてあれを残したのか。それとも、あの映像の中にスコード教が目指すべき祈るべき何かがあったのか。それに立ち向かわねばならないと強く感じているのです」

そのとき、窓の外に強い閃光が瞬いた。それはビームライフルの閃光であった。進行方向と逆から放たれたこの光に続いて、数十機の見慣れないモビルスーツが姿を現した。

ラライヤ「あれはムーンレイスのスモーです。救援が来ました」

ゲル法王「もしおふたりがよろしければ、我々はしばしここで祈ることにしましょう。戦争の勝利より先に、戦争の悲しみに想いを致しましょう」







ハリー・オードの金色のスモーはメガファウナのブリッジに取りついた。

ハリー「事情を簡単にご説明ください」

ドニエルはその見慣れない機体がディアナ・ソレルのものとわかって状況説明をした。ハリーはフルムーン・シップについてはすでに見知っていたので、味方のMSの認識データを受け取ってディアナ親衛隊と情報を共有すると、すぐさま戦場に身を投じた。

スモーが加わったことで形成は一気に逆転した。トワサンガの軍はしょせんキャピタル・テリトリィのガードとアーミーの混成軍に過ぎず、トワサンガへの忠誠も低い。彼らは調査部のクンパ大佐に従って宇宙へやって来ただけだったのだ。

ハリー「なんという心魂の弱い連中だ」

逃げ出していくトワサンガ隊を見て、ハリー・オードはこれが本当にあの強かったレイハントン家の軍なのかと拍子抜けしたくらいだった。これならばメガファウナと連合などせずとも、単独蹴散らせるのではないかと考えた。かつて彼が戦って敗れた薔薇のキューブの者たち、宇宙の最果てから地球に戻ってきた者たちは、もっと悪意に満ち、いたわりを捨て去った狂気の戦闘集団だったのである。

ハリー・オードはホワイトドールによく似た機体と共にメガファウナのモビルスーツデッキへと招かれた。ホワイトドールのコクピットから担ぎ出されたのはまだ少年といっていい赤いパイロットスーツの若者で、ヘルメットの中で吐いていたために緊急搬送されていった。

ハリー(あんな子供が・・・。いや、ロラン・セアックもまた子供であったな。自分はなんと遠い時代に来てしまったのだろうか)

ブリッジに招かれたハリー・オードは、ディアナからの伝言を簡潔に伝え、クレッセント・シップとフルムーン・シップの補充クルーの用意もあることを伝えた。すると彼が相手にした地球人たちは何の疑いもなくそれを喜びのうちに受け入れた。

ハリー「2週間の教育機関を設けていただければ、フルムーン・シップの方は我々だけで運用することも可能です」

副艦長「ありがたい話なので任せてもいいだろうか?」

ハリー「無論」

話はいともあっさりとまとまった。彼らには警戒心がなく、これがとてもあの地球人の子孫とは思えないほどの間抜けぶりであった。

ハリー・オードは赤いミラーグラスで隠した瞳に疑念の色を浮かべていた。

ハリー(まさかこいつら、我々とあれほど激しく戦ったことすら忘れてしまっているのか? こちらに殺されて戦死した者も多いというのに、魂の鎮魂はいかように行っているのか。これが軍などととても信じられない。まるで素人ではないか)

ドニエル「こちらの要求をすべて飲んでいただき感謝する。ではそちらの要求を聞きましょうか」

ハリー「まずは地球からやってくる艦隊を共同で撃破すること。そして共同でトワサンガというものを制圧してこちらのいただけること。以上2点でございます」

ドニエル「トワサンガを! いや、いくらなんでもそれは・・・」

ハリー「そちらにとって重要な領土なのでしょうな」

ドニエル「領土というわけじゃないが・・・。そうやって奪い合うものじゃないのだが」

ハリー「あれはもともと我々ムーンレイスの空域なのです。それをレイハントンに奪われましたが、姫さまは過去のことは水に流すとおっしゃっております。ベルリ・ゼナムというものが支配者だと聞いておりますが」

副艦長「ベルリは支配者などではありません。トワサンガというのはそういうものではなくて・・・」

縮退炉や核融合炉を自在に操り膨大な自主エネルギーを得るムーンレイスと、エネルギーをフォトン・バッテリーに依存する時代の違うふたつの勢力は、トワサンガの扱いこそ合意できなかったものの、月に置いて強い同盟関係を構築していくことでは一致を見た。

そのころベルリは、メガファウナの医務室で吐瀉物の吸引を受けていた。

その横にはノレドが付き添っていたのである。



(ED)



この続きはvol:52で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第15話「月の同盟」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第15話「月の同盟」前半



(OP)


ムーンレイスと交渉するため、G-アルケインはメガファウナを出撃した。

暫定的に複座に改良されたG-アルケインであったが、複座のまま高速飛行形態に変形できないとわかって今回だけの仕様となった。その間にハッパはG-アルケインの性能アップのため、コクピットにG-セルフに使われている技術を一部導入することになった。複座への換装はハッパが前からやりたかった試みにチャンスを与えたのだ。

複座に改良されたG-アルケインは、操縦席にラライヤ、後部座席にノレドとリリンを乗せて月の裏側にある進入口より内部に潜入した。

リリンはとても目が良く、観察力が高い。彼女は1度見たきりの冬の宮殿への通路を正確に記憶しており、彼女の指さす方へ向かうだけで簡単に電話が設置された場所に辿り着いてしまった。

しかし、電話を使うまでもなく、冬の宮殿にはディアナ・ソレル、ウィルミット・ゼナムらがすでにいたのだ。ふたりはG-アルケインがゆっくり着陸するのを待っていた。

ノレド「ベルリのお母さん、どうしてここに?」

コクピットから降りてきたノレド、ラライヤ、リリンの3人は久しぶりの再会を喜んだ。

ディアナ「冬の宮殿にこれが落ちていたんです」

ディアナが見せたのは、3人が法王を救出した際に落としていった発信器であった。

ディアナ「月の裏側から救難信号をが発せられているのを確認いたしましたので、こうしてやって来たのです」

ラライヤ「それ、わたしたちが落としたものです」

ウィルミット「こちらはディアナ・ソレル女王さまです」

ラライヤ「あなたがディアナ・ソレル!」

驚いたラライヤは目を丸くしてディアナ・ソレルを観察した。たしかにお伽噺の挿絵から抜け出てきたような美しい姫であった。リリンは絵本の主人公を直に目にして感動している様子であった。

複雑な表情を浮かべたのはノレドひとりである。

その表情を見逃さず、ディアナは泰然とノレドに近づき話し始めた。

ディアナ「察するにあなたがベルリ・レイハントンと恋仲というノレド・ナグさんですね。(ウィルミットに向かって)生命力に溢れた良いお嬢さんです。思えばわたくしにもこのような少女時代がありました。(ラライヤに向かって)パイロットスーツを着ておられるのですから、あなたがラライヤ・アクパールさんでしょう。おふたりのことはハリーに連絡を受けたのちにこちらのお母さま・・・いえ、ウィルミット長官からお伺いいたしました。(リリンの前で身をかがめて)こちらの小さな方はリリンさんですね。とても利発なお子さまだとか。さて、あなた方がこの冬の宮殿にいらした目的は何でしょう」

ディアナ・ソレルの貫禄ある話しぶりに気圧された3人だったが、目的を思い出してメガファウナがムーンレイスと交渉するつもりでいることを手短に伝えた。

ディアナ「承知いたしました。つまりあなた方はビーナス・グロゥブからやって来た巨大な2隻の船を守るための戦力がない。それを貸して欲しいと。わたくしどもは月の世界に戦争を持ち込んで荒らして欲しくない。これならどちらが損をする話でもありますまい。ではこれで我々ムーンレイスとトワサンガの和平は成立したのだと考えてよろしいので」

ノレド「(恥ずかしそうに)やっぱりベルリと結婚するんですか?」

ディアナ「(きっぱりと)いえ、レイハントン家と結ばねば和平が成立しないとなればそれなりの覚悟があると申したまで。必要がないのであれば、婚儀などいたしません。それでいつ、わたくしはトワサンガに入れますか?」

ラライヤ「ディアナ女王はトワサンガの女王になりたいのですか?」

ディアナ「わたくしは生まれながらの女王です。そうではなく、こちらの・・・いまからお母さまではなくウィルミット長官とお呼びいたしますが、長官から伺った話の中に気になる事柄があったのです。それは、トワサンガには住人たちにも知られていない秘密の空間があり、そこには非常に古い時代の多くの技術が残されていて、アンドロイドすら製造されていたと」

ノレド「アンドロイド! 秘密の空間って真四角のおっきな空間ですか?」

ウィルミット「(驚いて)そうよ、なぜノレドさんがそれを」

ノレド「あたし、ビーナス・グロゥブに同じような空間があるのを見ました。リリンちゃんも一緒でした。(リリンが頷く)上下さかさまで、ビルがたくさん建ち並んでいて、どの建物もガラス張りで凄かったんです。なかでアンドロイドが働いていて」

ウィルミット「(驚いて)ああ、そうなの? だとしたらわたしが見たものと同じものでしょう。わたしはジムカーオ大佐からヘルメス財団に入ってそこで働かないかと誘われたんですけど、なんというか・・・反スコード的なものを感じて逃げて来たんです」

ノレド「反スコード! それだ!」

はからずもウィルミットとノレドというふたりの敬虔なスコード教信者がヘルメス財団の秘密施設に潜入したことがわかり、彼女たちの中に違和感の本質は徐々に形作られていった。ふたりの話に耳を傾けていたディアナ・ソレルは、時を待たず結論に辿り着いた。

ディアナ「反スコードの正体とは、まさにこの冬の宮殿と同じもの、宇宙世紀のことでしょう」

ウィルミット・ノレド・ラライヤ「宇宙世紀!」

ディアナ「ディアナ・カウンターを放棄したわたくしたちがレイハントン家と対立したのは、彼らの中にいくつものウソを見抜いたからです」

ノレド「そうなんだ。絶対にウソをついている(ラライヤも頷く)」

ディアナ「1000年も前のことをお話いたしましょう。これはわたくしどもに伝わっている話です。彼ら薔薇のキューブで地球に戻ってきた者たちは月と反対の位置にコロニーを構え、地球とわたくしどものことをずっと観察しておりました。彼らは宇宙の果てから戻ってくる際に資源を使い果たしており、科学技術は発達しておりましたが宇宙世紀の野蛮人で、人間を食料にしており、クンタラというなくていい身分階層を作り上げて人を食べていたのです。その野蛮な行為をやめさせるために、わたくしたちは彼らに過去の地球にあった遺伝子のサンプルを提供したのですが、食料に困らぬと分かったとたんに彼らは地球へクンタラを捨てたと聞いております。地球に捨てられたクンタラは未開状態に落ちていた地球の人間を食べる側に回りました。その悪習が広かったことから、我々はいまのアメリアなどに介入して文明の発達を促すことにしたといいます。ところが我々が地球への帰還を先延ばしにしたと知った彼らは、ムーンレイスとの間に戦争を仕掛けてきたのです。戦うことにタブーのない彼らは、ムーンレイスを圧倒しました。ところが急に、レイハントンという者がやってきて、月の中に基地を作ってそこに逃げろと持ち掛けてきました。コロニーは破壊され、追い詰められていたわたくしたちは、すがるように彼の提案を受け入れ、月に逃げ延びました。ところが騙され、全員わたしたちの技術で眠らされてしまったのです。これが500年前に起こった出来事です」

ウィルミット「(ノレドとラライヤに向かい)ベルリがG-メタルというものを持っているでしょう? あれが認証キーになっていて、ムーンレイスの皆さまを起こしたというのです」

ノレド「(意を決して)そのあとキャピタル・タワーを作ったんでしょ? そのとき、クンタラが奴隷としてタワーの建設に使われたんじゃないですか?」

ウィルミット「え! まさかそんな!」

ラライヤ「(考え込みながら)たしかに、キャピタル・タワーというのは、スペースノイドの技術力と労働意識の高さがなければ建設し得ないものです。トワサンガの人間はあれを自分たちが作ったと信じていますが、トワサンガの人口であれほどの巨大なものは作るのに膨大な時間が掛かってしまいます。奴隷を使ったと考えれば・・・」

ディアナ「食べるための奴隷に与えるエサがもったいないからと地球に捨てたあとも、クンタラという身分制度を維持したまま今度は奴隷として働かすために教育したのでしょう。そして完成したらまた捨てられた」

ウィルミット「キャピタル・テリトリィにクンタラが多い理由・・・。差別が色濃く残っている理由・・・。まさかそんな悲しいことがあってよいのでしょうか?」

ディアナ「スコード教というもの、それらも元はといえば我々ムーンレイスの文化を背乗りしたものではないでしょうか。ムーンレイスは宇宙世紀の歴史を黒歴史として過去に葬り去りました。それをあなた方リギルド・センチュリーを使う文明が奪ったのです」

ウィルミット「我々は文化の簒奪者だった?」

ノレド「そうかもしれない、そうかもしれないけど、ではなぜスコード教は残された? みんな戦わずにずっとやってこられた? キャピタル・タワーは壊されずに残ってきた? ディアナさんの話のも何か間違いがあるはず。ムーンレイスが邪魔なら500年も眠らせずに殺してしまえば良かった。冬の宮殿の怖ろしい映像も消してしまえば良かった。でもそうしてないじゃん。だから、違うんだよ。悪い人もいれば、良い人もいたんじゃ?」

ウィルミット「(思い出しながら)ジムカーオという人は、あのキューブの中にはレイハントンもラ・グーも入れないといっていました」

ラライヤ「反逆者?」

ディアナ「宇宙世紀復活を望んでいる人間がいたということですか」

ノレド「エンフォーサーって何? あのアンドロイドって奴は、自分のことをエンフォーサーだといったんだ。あたし、ビーナス・グロゥブのキューブっていうのを全部壊しちゃったんだ!」

ディアナ「・・・おそらく、平和な時代を作り替えるための大きな行動を起こす者たちを指すのでしょう。それらを破壊したのなら大手柄です。よろしい。大筋は理解しました。ではあなた方はこれから船に戻り、この話をお伝えください。ウィルミット長官の話も併せて考えれば、現在トワサンガにいるジムカーオという人物もエンフォーサーなのでしょう」

ノレド、ラライヤ、リリンの3人はG-アルケインに戻ろうとしたが、ノレドだけが振り返った。

ノレド「ベルリのお母さんは?」

ウィルミット「わたしはここに残ってムーンレイスの方々のお手伝いをします。法王さまはご無事で?」

ノレド「無事です。メガファウナにいます」

ディアナ「ではスコード教の法王という者もこちらによこしてください。冬の宮殿にある記録のすべてをお見せするからと」

リリンはノレドに手を引かれていたが、それを振りほどいてウィルミット元へと走った。

リリン「女王さまと一緒にいたい」

ディアナ「この子はこちらで大切に預かりましょう。すぐにそちらへ使いのものを差し向けます。トワサンガには反逆者、地球からは戦艦が迫っています。早く!」






月の裏側にある冬の宮殿とハイパーループで結ばれたムーンレイス月面基地に到着したのは3時間後であった。

ウィルミットとリリンを伴ったディアナ・ソレルは真っ先に指令室に赴いた。

ディアナ「地球人どもの様子はどうか」

ハリー「例のザンクト・ポルト周辺でいまだ戦闘中です」

司令官の座席についたディアナはモニターに映し出されたザンクト・ポルトの様子を見ていて、横にいるウィルミットに訊ねた。

ディアナ「彼らの戦艦でこちらに来るにはどれほどの時間が掛かろうか?」

ウィルミット「2日はかかります。しかし私はタワーのことが心配で」

ディアナ「キャピタル・タワーというものをわたくしは知りませんが、それは地球の大気を燃やさず大気圏の中まで降りられるものなのだな」

ウィルミット「左様です。戦艦だのモビルスーツだの、見ているだけでウンザリしてきます。ああやって戦争するのは勝手ですが、戦艦もモビルスーツもフォトン・バッテリーで動いており、ビームのエネルギーもすべてそうなのです。どことどこが戦争しているのか知りませんが、バッテリーの配給が停止されているのになぜ無駄遣いをするものやら」

ディアナ「エネルギーがないのに戦っているということなら、やはりこちらに奪いに来るのでしょう。ハリー! いますぐ500名の技術者を伴いメガファウナと接触しなさい。あちらは惑星間連絡船を2隻持っています。運用の手助けをさせるとともに、その技術体系を見てこさせなさい。あなたはスモーで出撃して今後の作戦立案をなさい」

ハリー「は、ただちに!」

ハリーが指令室を離れるとディアナは座席を離れてウィルミットとリリンの傍にやって来た。

ディアナ「わたくしはかつてディアナカウンターと名づけて宇宙移民の子孫を地球へ帰そうとしたのです。しかし、宇宙移民に残った技術を地球に持ち込めば再び争いが起こるのだと確信して月へと戻りました。それに、当時の地球はまだ宇宙に残した古い動植物を移植するには環境の再生が不十分だったのです。長官よりいろいろお話を伺い、いまがそのときなのだと確信いたしました。これを機に戦争の火種を完全に消し去り、新しい歴史、真の平和の歴史を取り戻すのがわたくしの責務です。長官にはぜひ協力者になっていただきたい。この子たちのため、ムーンレイスの子孫のためにも」

ウィルミット「承知いたしました。スコード教というものに不信を抱くお話も多くありましたが、わたしはやはりスコード教の考えこそ平和の礎なのだといまでも思っております。どうせわたしは戦争のお役には立てません。それならば、ここで歴史の真実を学びたい」

リリン「(ディアナを見上げ)リリンも勉強する」

ディアナ「賢い子です。しかしまずは、この宇宙に平和を」







ザンクト・ポルトに近い位置で鉢合わせになったクリム・ニックのゴンドワン艦隊とアイーダ・スルガンのアメリア艦隊は、そのまま地球の引力圏であるに関わらず艦隊戦になだれ込んでいた。

緒戦こそタワーを気にしながら双方がモビルスーツで威嚇し合うだけだったが、性能に劣るアメリアのグリモアがミック・ジャックのラ・カラシュに撃墜させられたことがきっかけとなりビームライフルが使用され、少しばかりタワーとの距離を作ってからは艦砲射撃にまで発展していた。

艦隊戦は両軍の激しい撃ち合いにまで発展し、クリムもアイーダも自分が何をやるために宇宙へ出てきたのか忘れてしまうほど戦いに熱中した。

ゴンドワンの新造艦オーディンは宇宙用に改造されたラトルパイソンより機動力に優れていたが、ラトルパイソンの重装備を前に戦いあぐねていた。そこでクリムは性能的に圧倒的に優位なMS戦に打って出たのだ。ゴンドワンの新型MSルーン・カラシュはグリモアを圧倒した。

ところが性能に劣るグリモアも数の上では圧倒的に優位に立っており、MS戦を長引かせれば撃墜されるルーン・カラシュも目立ってきた。クリムもアイーダもまるで引く気配がないために、戦局は再びMSを引っ込めるて艦隊同士の激しいぶつかり合いに移っていった。

これに慌てたのがザンクト・ポルトのケルベス・ヨーであった。主砲を激しく撃ち合い、激しく位置取りに興じるゴンドワンとアメリアから、キャピタル・タワーを守り抜かねばならなかった。

ザンクト・ポルトと144番ナットから出撃したレックスノーには大きな盾が装備された。

ケルベス「タワーには傷ひとつつけるな! ビーム拡散幕はありったけ使って構わん。とにかくここを守り抜くんだ!」

作業用MSを警備用に改造しただけのレックスノーは、大きな盾を正面に構えて隊列を組み、ビーム拡散幕がはじいたものを必死に受け止めた。レックスノー隊はケルベス自身が指揮を執り、艦隊戦の行方を見守りながら細かく隊列の向きを変えてタワーを防衛した。

ケルベス「みんなよく見ておけ。これが戦争だ。戦争は殺し合いではない。奪い合いなのだ。人間はザンクト・ポルトを奪うためなら肝心のザンクト・ポルトを危険に晒して平気な生き物なのだ。だが我々は違う。断じて戦争屋ではない。我々はキャピタル・ガードだ。ここを守るためにオレたちは勉強し、訓練を受けてきた。この差を胸に刻んでおくんだ」

レックスノーで壁を作り、四散して流れてくるビームを受け止めながら、ケルベスは必死に訴えた。







ノレドとラライヤを乗せたG-アルケインが戻ってくるなりシートの換装のためにハッパとスタッフたちがコクピットに取りついた。ワイヤーが降ろされ、2人が乗っていたシートが手際よく外されていく。新しいシートは以前のものとはまるで違う仕様になっていた。

ハッパ「ラライヤ、君がいない間にアルケインの座席をG-セルフのシステムに近いものにしておいた。実は理論的なことはよくわかっていないのだが、増幅装置のようなものがついている。ビーナス・グロゥブでヤーン・ジシャールの姿が見えたって言っていただろう? ああいったニュータイプ現象に干渉するものだと思う。テストを重ねてからってわけにはいかないが、操作はいままでのユニバーサル・スタンダードと変わらない」

ラライヤ「了解です」

ハッパ「それにノレド、ちょっと」

ノレド「なんですか?」

ハッパ「(ヘルメットをくっつけて接触回線のみで話す)例のエンフォーサーのことだが、あれはまさにこの新しいシート、G-セルフのシートそのものなんだ」

ノレド「どういうこと?」

ハッパ「ニュータイプ現象を増幅させる何かだってこと。あれをG-ルシファーに乗せると、何らかのプログラムが発動してG-ルシファーの本来の目的が発動する仕組みだと思う。だから、ビーナス・グロゥブで何があったのか知らないけど、君の責任じゃない」

ノレド「あ・・・うん!(明るく頷く)」

メガファウナの艦内に警戒警報のランプが点滅し、ヘルメットの中に大きな警報が鳴り響いた。

ハッパ「ふたりはブリッジへ。シートの換装には時間が掛かるからすぐに出撃はできないって艦長に言っといてくれ」

ラライヤ「わかりました」

ブリッジへ上がったふたりはドニエルにことの次第を報告するつもりだったが、艦内は慌ただしくそれどころではない。

ドニエル「ベルリは出せるか」

ラライヤ「どうしたんですか?」

ドニエル「ジムカーオだ。とうとうモビルスーツ隊を出してきやがった」

ギセラ「(モニターから顔を離し)で、どうだったの?」

ラライヤ「ディアナ・ソレルと話ができました。こちらに協力してもらえるそうです」

ドニエル「くっそ、ジムカーオって奴は先手先手を打ってきやがる。(みんなに向かって)ムーンレイスの救援は間に合わねぇ。何としても三日月と満月を守り通すぞ。ベルリ、ルアン、オリバーすぐに出撃だ。ラライヤは・・・」

ラライヤ「ハッパさんがアルケインはしばらく使えないって。ネオドゥが空いていれば」

ドニエル「(悩みつつ)いや、ラライヤは出撃しなくていい。ノレドとふたりで休んでくれ。いいか、勝手に出るなよ。戦力の投入を考えるのはオレだ」

ノレドはモニターを見つめていた。そこにはベルリの顔が映っている。自分がビーナス・グロゥブでやってしまったことでベルリに嫌われてしまうのではないかと気にしていた彼女だが、ディアナ・ソレルやハッパの話を聞いて少しだけ安心できるようになっていた。

それでもまだ昔のようにベルリに接することはできない。

ドニエル「前の接触はG-シルヴァーを追いかけてきただけだが、今度は何があってもおかしくない。三日月も満月もいつでも発進できるように準備しておけ」

エル・カインド「戦艦のようには動けないのですよ」

ベルリ「G-セルフ行けます」

ドニエル「すぐに外に出て三日月と満月を守ってくれ。守れたってデカすぎるのはわかってる。とにかくやってみせるしかないんだからな。自分からは撃つな。相手が発砲してきたら応戦だ」

ベルリ「了解。ベルリ、出ます!」

ノレドはベルリの無事を祈って両手を胸の前で組んだ。




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この続きはvol:51で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第14話「宇宙世紀の再来」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第14話「宇宙世紀の再来」後半



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ドニエル「(Gに耐えながら苦しそうに)副長! そっちは大丈夫そうかー?」

副艦長「(Gに耐えながら苦しそうに)なんとか!」

クレッセント・シップとフルムーン・シップは地球圏に近づいていた。

両機は最低限の人員で操舵しており、急減速のGに耐えるためにすべての乗組員はシートベルトをつけていた。クレッセント・シップに固定されたメガファウナの指揮はドニエル・トスが務め、クレッセント・シップの艦長はエル・カインド、その副長はフルムーン・シップの艦長となって、慣れない操舵手のステアに指示を送っていた。

ドニエル「(Gに耐えながら苦しそうに)投錨たって錨を下ろすわけじゃないが、まずは月の裏側に潜り込んでトワサンガと地球の情勢を探る。月にはムーンレイスというのがいるかもしれんから、モビルスーツ隊は減速終了後ただちにスタンバイだ。もう何があっても驚くな!」

エル・カインド「(Gに耐えながら苦しそうに)フルムーン・シップ艦長、トワサンガを越えたところで減速が終わるからすぐに舵を切って月へ。メガファウナ艦長、状況判断はお任せします」

ドニエル「(Gに耐えながら苦しそうに)G-アルケインのラライヤ、減速終了後直ちに出撃、月の表側を回ってザンクト・ポルト周辺を望遠で視認すること、変形は練習で習得したろうな。計算では月の表に出ればタワーが見えるはずだから、いいな!」

ラライヤ「(Gに耐えながら苦しそうに)大丈夫です!」

ドニエル「(Gに耐えながら苦しそうに)ベルリはラライヤより先に出てトワサンガの偵察、王子さまだってことを最大限利用して戦争にならないよう話をつけてくれ。シラノ-5の中には入らない。外からの交信だけだ。30分を越えるな!」

ベルリ「(Gに耐えながら苦しそうに)了解しやした」

惑星間移動の加速がようやく終わり、身体に掛かる負担が減ってきたところで総員はすぐさまシートベルトを外し、打ち合わせの行動へと急いだ。

G-セルフのコクピットに飛び込んだベルリにハッパがマイクで声を掛けた。

ハッパ「バックパックを用意してやれなくてすまん。お前さんだけは死んじゃいけない人間だ、必ず生きて戻って来いよ」

ベルリ「死んでいい人間なんていませんよ。それにこいつが必要にならない世界を作りたいんです」

そう告げるとベルリはモビルスーツデッキを飛び出していった。

ラライヤ「こっちも出ます!」

ハッパ「高速飛行形態になるのは充分に距離を取ってからだ。三日月も満月も速くてデカいんだからぶつかったら死ぬぞ」

ラライヤ「了解。G-アルケイン出ます!」

ラライヤ・アクパール搭乗のG-アルケインは出撃後斜め前方に急上昇してクレッセント・シップ、フルムーン・シップ両機と距離を取るとそのまま高速飛行形態に変形して右に旋回、月の軌道上に進入して太陽が当たる側に出た。真っ先に飛び込んできたのは青い地球の姿であった。

ラライヤ「最大望遠。照準ザンクト・ポルト。(前方モニターにキャピタル・タワー最終ナットザンクト・ポルトが小さく映し出される)あれは、光線?」

ときおりモニターに小さく交差する閃光が映し出されるのをラライヤは見逃さなかった。照準器の望遠性能が悪く詳しい解析はできないが、G-アルケインはそこに多数の戦艦が存在することを確認した。

ラライヤ「ガランデン1隻、戦艦級 unknown 2隻、クロコダイル2隻、ガビアル1隻を確認。アメリアと、どこ?」

その声は月に阻まれてメガファウナには届かない。ラライヤが知る限りガランデンはキャピタル・アーミーの船ではあるが、建造はゴンドワンだ。

モニター解析に熱中するラライヤを気づかせるように、コクピット内に警告音が響き渡り、警告灯が赤く点滅した。月表面より未確認機が4機近づいてきている。すべて同じ形だが、1機は金色の塗装で目立つ色をしていた。ラライヤはすぐさまモニターを切り替えてMSを視認した。

ラライヤ「見たことのない形・・・。トワサンガの新型か、それともディアナ・ソレルの?」

ラライヤは、自ら月にある冬の宮殿を目の当たりにしながら、ディアナ・ソレルが生きているというベルリの話を信じていなかった。彼女はムーンレイスがいまも生きているとは思っていない。しかし、月から出撃してきた未確認MSはどこか彼女が見知っている技術体系と違うものを感じさせた。

彼女は4機の未確認機を振り切るべくさらに加速した。金色の1機が集団から離れ、銀色の3機と挟撃を仕掛けてきたのでそられを振り切るべく自在に旋回して接近を許さなかった。

高速飛行形態のG-アルケインは4機とは速度が違う。あっという間に追撃を振り切ったがそれは彼らの罠であった。G-アルケインは彼らの網に捕らえられ、電流を流された。

ラライヤ「あああああ!」

減速と加速を繰り返してようやく網から逃れたものの、一瞬コントロールを失ったラライヤは機体が高速で月に向かって飛んでいるのを認め、MS形態に変形して減速した。そこを金色のMSに羽交い絞めにされてしまった。

月を背にした2機はゆっくりと漂いながら互いに緊張していた。金色のMSと接触回線が繋がった。

ハリー「できれば手荒な真似はしたくない。わたしの名前はハリー・オード。このMSはスモーという。あなたの名前と機体名を教えて欲しい」

ラライヤ「わたしは・・・ラライヤ・アクパールといいます。機体はG-アルケインです」

ハリー「物分かりが良くて結構。君の仲間にベルリ・レイハントンはいるか?」

ラライヤ「(しばし迷って)ベルリならいます。わたしにも質問させてください。あなたはディアナ・ソレルの手の者ですか?」

ハリー「ほう、姫の名前を知っているとは感心」

ラライヤ「ディアナ・ソレルが生きているのですか!」

ハリー「時を超え、美しいままにご健在だ。それではベルリ・レイハントンに伝えていただきたい。我々ムーンレイスはかつての遺恨を捨て、レイハントン家と結びつき、月とトワサンガに分かれた両者を統合して新しい治世を望んでいると」

ラライヤ「結びつき?」

ハリー「・・・婚儀のことだ! いや、だが待て。こうも伝えていただこう。ディアナ・ソレルとの婚儀は形式上のもので結構。政略結婚である故、ともに子をなす必要はなしと。いや、待て。それでは後々の跡取りはどうしたら・・・」

ラライヤ「ベルリが・・・ディアナ・ソレルと結婚ッ! ダメです! ベルリさんにはノレド・ナグという相応しいパートナーがいるんです!」

ハリー「そうなのか? ならばますます結構。よろしい。その者を妾にして子をなすがよい。こちらのことは婚儀の前に相談させていただくことにしよう。このことをラライヤ殿の上官並びにベルリ・レイハントンにお伝え願いたい。それともうひとつ。地球圏で戦闘が起こっているようだが、あれは貴殿の仲間か?」

ラライヤ「・・・遠くて確認はできませんが、わたしたちのメガファウナはアメリア船籍です」

ハリー「アメリア・・・。ほう、あなた方はアメリアのお方か。ならばなお結構。月は互いに争っている場合ではない。地球の野蛮人どもが戦艦などでこちらに迫ろうとしている。月は月で互いに手を結び、防衛体制を築かねばならない。そうお伝え願おう」

それだけ告げると金色のスモーはG-アルケインを開放し、再び月へと戻っていったのだった。

ラライヤ「ベルリがディアナ・ソレルと結婚?! これは・・・何とかしないと!」






シラノ-5に近づいたベルリを出迎えたのはザックスとネオドゥの混成部隊20機であった。彼らは一斉にビームライフルを撃ってきた。

ベルリ「戦う気なんかないってば!」

だが、彼らが追ってきているのはベルリのG-セルフではなかった。塗装を済ませていない、銀色のG-セルフだったのだ。

銀色のG-セルフは混成部隊の下方から急上昇してきてベルリのG-セルフを見つけるなりビームサーベルを引き抜き、襲い掛かってきた。ベルリもこれに応戦し、2機のG-セルフは接近しては離れを繰り返し、3合、4合と打ち合った。

ベルリはこの機体のパイロットにただならぬものを感じた。

ビーナス・グロゥブでヤーン・ジシャールと戦ったときと似た感触だが、こちらはもっと異質な何かだった。

ベルリ「部隊の方はみんな離れて! こいつは危険だ!」

ミノフスキー粒子が撒かれていなかったためにベルリの声は広く届いた。混成部隊は指揮官に命令でいったん下がったが、銀色のG-セルフはその中に突撃してまっすぐ駆け抜け右に旋回したときには3機が爆発していた。

ベルリ「こいつは、こいつはッ!」

2機のG-セルフは螺旋を描いて一定の距離を空けたまま斬り込む間合いを計って虚空を駆け抜け、ビームサーベルを押し付け合う展開になった。ベルリが力押しした瞬間、敵はそれをいなして素早く体を入れ替えると反対方向から打ち込んできた。

その一撃は咄嗟にかわしたもののベルリのG-セルフはバランスを失って左足の先が相手の機体の肘にぶつかった。その一瞬で、ベルリの脳裏には敵の正体が映像で浮かんだ。彼女は醜くゆがんだ顔で純粋な憎しみを注ぎ込んだ器のようにコクピットの中に鎮座していたのだ。

ベルリ「ユグドラシルのパイロット? あんたは何で人形みたいにッ!」

銀色のG-セルフに搭乗していたのは、バララ・ペオールであった。しかし、彼女の様子はおかしく、人格というものを感じない。あるのは純粋な憎しみと嫉妬心だけであった。バララのG-セルフはそのあともベルリの機体に襲い掛かってきたが、突然旋回してトワサンガの部隊に向けてビームライフルを撃つと月の方角へ飛び去っていった。

トワサンガの部隊はこれを追ったが、ベルリは深追いはしなかった。

ベルリ「いまはそれどころじゃない。あの人はバララ・ペオールに間違いないけど・・・。とにかくぼくは混乱を終わらせなきゃいけない。姉さんを助けるために」

ベルリはシラノ-5へ向かってオープンチャンネルで呼びかけた。返答はすぐに返ってきた。

ジムカーオ「これは王子。いったいどこへ行かれていたのですか? もう少ししっかりしていただきませんと、こう振り回されるばかりでは・・・」

ベルリ「あなたに伝えたいことがあります。トワサンガの政体や統治についてあなたにそれを決める権限はないのではありませんか? いったいあなたはなぜ勝手な行動を取るのでしょうか?」

ジムカーオ「それは無論混乱を早期に収拾するためです。フルムーン・シップでビーナス・グロゥブへ行かれたのならば、ラ・グー総裁よりヘルメス財団の意思はお聞きになったはずです。地球圏での戦争の中止、全戦力の放棄、ヘルメスの薔薇の設計図の回収、レコンギスタした者の身柄の引き渡し、これらがなされなければビーナス・グロゥブからフォトン・バッテリーは配給されません。ラ・グーはなんとおっしゃった?」

ベルリ「ラ・グー総裁はお亡くなりになりました。残念なことですけど、いまはそんな話をしているわけじゃない。大佐がそうやってトワサンガの指揮を執っている限り、この混乱は収束しないと考えます。これはつまり、指揮権を放棄しろということです」

ジムカーオ「それは簡単なことのようで簡単じゃありませんよ。まず王子はトワサンガの統治者にならねばならない。統治者になったならば軍の指揮権は王子のものです。人事権も王子のものです。すぐにこちらへいらして即位をされて、それからわたしジムカーオを解任すればよいのです。しかし、王子はアメリアのアイーダ総監と血縁でいらして、アイーダ総監は軍の最高責任者であるとともに政治家でもいらっしゃる。当然アメリアを第一に考えます。アメリアは現在ゴンドワンと戦争中で、キャピタル・テリトリィへの増援も検討中でしょう。トワサンガとアメリアの同盟でゴンドワン連合と戦えば、戦争は勝つでしょうが大きな被害と損害が出ます。それをさせないためにフォトン・バッテリーの供給を止めるとヘルメス財団は決めたのです。地球を二分する大戦争を仕掛けておきながら、しかも何のコネもないヘルメス財団と王子はどうやって交渉なさるのか。さらに、ラ・グーが死んだという。ラ・グーが亡くなったというならば、新総裁はキルメジット・ハイデンでしょう。だとしたらなおさらあなたは難しい交渉をすることになる。キルメジット・ハイデンは物事をはっきりさせるのが好きなお人だ。トワサンガとアメリアの同盟を断つために、アイーダ姫を殺しに来るでしょうな」

ベルリは自分の考えがジムカーオに見抜かれているのだと認めるしかなかった。

ベルリはジムカーオを穏便に追い払って、トワサンガの王子として即位しないまま総選挙で代表を決め、アイーダ・スルガンの「連帯のための新秩序」に参加すれば問題は丸く収まると考えていたのだ。しかし、ジムカーオはそれは軍事同盟であるとベルリに突き付けたのである。

ジムカーオ「どうやらご理解いただけたようで幸いです。トワサンガはあくまでビーナス・グロゥブと一体でなければならない。王子がこの問題を終結させるためには、トワサンガの王子となって即位し、ヘルメス財団に加盟していただいて、ヘルメス財団1000年の夢というものをご理解した上で、公的な立場で物事を決済するすべを身に着けていただいてからになるのです。王子は幼少時にクンパ・ルシータによって誘拐され、帝王教育を受けておられません。それを再開していただかなくてはならない。その教育者となるのも、実はこのジムカーオなのです」

ここへきて、ようやくベルリは自分の置かれた立場を理解した。ドレッド家の反乱によって生家を追われたとき、彼は王子ではなくなったのだ。トワサンガで自分が影響力を行使するには、ジムカーオの下に入って彼の指示に従って生きるしかないのである。

もしそれを拒めば、彼はただのクラウン運航長官の息子になって、トワサンガへの影響力など持たない立場になる。

ベルリ(逆に考えれば、この状況を作り出すためにこの人は真っ先にトワサンガに入ったということだ。彼は地球にいたからこそ、ガードとアーミーの人間をたぶらかしてここへ連れてこさせ、ハザム政権と守備隊を追い払った。この状況を主導したのは彼だ。間違いない)「わかりました。しかしぼくは弟なので、まずは姉と相談してから王子の件は考えることにします。ありがとやした」

屈託ない笑顔でそう告げるとベルリは一方的に回線を切ってメガファウナへと帰投した。

ベルリ「(悔し涙を浮かべながら)さあ、考えるんだ、ベルリ! なぜキャピタル・テリトリィは狙われた? いまのこの状況のためだ。ぼくが戻るべき場所をあらかじめ潰されたんだ。クラウンはもう動いていない。母さんはトワサンガで人質にされている。トワサンガの王子になれば、ぼくと姉さんと切り離されてしまう。一緒に世界の平和のための努力する道が断たれる! 全部このときのためにあの男は行動していたんだ・・・。クソッ、なんて狡猾な男だッ! それなのにぼくは月の王子さまにはなりたくないなんて子供みたいなことを考えていてッ!」

王子さまにはなりたくないと態度で表しながら、月の王子になるのは自分しかいないと高を括っていたことをベルリは深く後悔した。






メガファウナへ戻ったベルリは、すぐさまブリッジに上がって状況を報告した。

ドニエル「つまり? ベルリが味方に付いてるってのにオレたちはトワサンガの協力は得られそうにもないってことか?」

ベルリ「そうなります。お役に立てずにすみませんです」

月の裏側に潜り込んだメガファウナは、戦艦1隻では守り切れないほど巨大なクレッセント・シップとフルムーン・シップを抱えて大きな緊張に満たされていた。この2隻の巨大船はあくまで惑星間輸送艦であり、戦力と呼べるほどのものはついていない。さらにどちらも人員が足りていないのだ。

副艦長「ベルリをジムカーオって男に渡した日にゃ何をされるかわかりませんな。クンパ大佐という男もあとで知ってみりゃとんでもない策士でしたが、あいつもなかなかのヤリ手のようで」

ドニエル「だからよ、いまどうすりゃいいか考えてんだが」

副艦長「やはりこちらは姫さまと合流するしかないでしょう。キャピタル・タワーのケルベスさんがいくら頑張っていても、おそらくはタワーの維持が精一杯と見るべきで」

ベルリ「あと、その前の戦闘で艦長とハッパさんが話していた銀色のG-セルフと交戦したんですが」

ギセラ「こっちでも確認したよ」

ベルリ「パイロットがどうもユグドラシルに乗っていたバララ・ペオールのようでした」

ドニエル「なんでわかった? 話でもしたのか?」

ベルリ「いえ、何となくそう感じたというか、映像がパッと見えたような気がしました」

ドニエル「ビーナス・グロゥブでヤーン・ジシャールのジャイオーンと戦ったときもそんなことを話していたな。なんでお前とかラライヤってのはそういうものを戦闘中に見たりするんだろうか?」

副艦長「ニュータイプって言葉は聞いたことありますけどね。ハッパが詳しい」

ドニエル「G-セルフをみんなして欲しがっているのはやはり奇妙だな。副長はG-セルフに負けたマスクやクリムの坊やが欲しがっているという説で話していたが」

副艦長「(首をすくめて)ハッパの勘が当たってましたね」

そこに月を一周してきたG-アルケインの帰還が報告された。ラライヤもベルリ同様大急ぎで駆け込んできた。そのあとに、ノーマルスール姿のノレドも続いた。ノレドはリリンの手を引いていた。

G-アルケインが偵察で撮影してきた映像がブリッジのモニターに転送されてくる。

ラライヤ「現在キャピタル・タワー近くで艦隊戦が行われています。一方はアメリア軍、もう一方はガランデンですけど・・・」

副艦長「(モニターを見ながら話を遮り)あ、いや。ガランデンと一緒にいるのはゴンドワンのオーディンだ。あのガランデンは新造艦かもしくはキャピタル・テリトリィに返還してもらったものだろう。この映像ではわからんが、宇宙に出てきたのなら、クリムと見るべきかと」

ドニエル「そうだ。大気圏突入を怖がらずに突撃してくるのはクリムの坊やだろうよ。あいつはとうとうラトルパイソンと艦隊戦をおっぱじめやがったか」

ラライヤ「もうひとつ! 偵察飛行中に月のディアナ・ソレルの臣下ハリー・オードという人物と接触しました。(ラライヤは突然ノレドに抱き着き)こんなことは言いたくないし、させないですけど、ムーンレイスはディアナ・ソレルとベルリさんを結婚させて月は独自の防衛体制を作るべきだって言ってました。そう伝えてくれって。ノレドさん、ごめん」

ディアナ・ソレルとベルリの結婚と聞いて、ノレドの頬がひくついた。リリンは不思議そうに大人たちのやり取りを眺めている。

話を聞いたベルリとブリッジにいたクルーたちは黙り込み、しばし考えごとをしていたが、何か合点がいくような様子になったので、ノレドは慌てて周囲の人間に小声で訊いて歩いた。

ノレド「まさか、ベルリがディアナ・ソレルと結婚なんてしないよね? そうだよね。会ったこともないんでしょ?」

ベルリ「いや、ノレド。まだちゃんと話していなかったけど、あの人たちを目覚めさせたのはぼくなんだ。ムーンレイスを封印していたのは、おそらくレイハントン家の先祖で、スコード教への改宗を迫って拒否された末に月に封印したと聞いた。(ドニエルに向けて)艦長、月には宇宙世紀時代の遺物がたくさん残っていて、ムーンレイスの技術は素晴らしいものです。数もかなり多かったように思えます」

ドニエル「(横目でノレドを気にしながら)正直、メガファウナだけで三日月と満月を守り切れる自信がない。乗務員も足らんし、戦闘員はもっと足らん。姫さまと合流できりゃ少しは増員を頼めるのだが、クリムが宇宙に出てきてるとなると迂闊に月の表には出られない。あいつはフルムーン・シップを奪おうとしていたからな」

副艦長「まぁ、なんだ。結婚なんてしなくていいんだ。同盟だ、同盟。あ、そうそう。アメリアとムーンレイスが同盟すりゃ別に結婚なんてしなくても(横目でノレドを気にする)」

ノレド「月の女王さまとトワサンガの王子さまが結婚して月の統治者になる・・・。なーんだ、すごくいい話じゃない!」

ベルリ「結婚なんかしない! そんなこと考えてもいないから話をややこしくしないでくれ!」

ノレド「(真っ赤になって怒り)ふさわしい相手じゃん!」

ドニエル「あーーーーーーっ、止めろッ! これは同盟だ。我がアメリアは月の女王ディアナ・ソレルと軍事同盟(横にいる副長に訊ねる)軍事同盟でいいんだよな?」

副艦長「軍艦が通商同盟なんか結べないでしょ? どこにそんな権限が?」

ドニエル「オレたちゃこれからムーンレイスつーのと軍事同盟を結ぶことにする。代表者は(ベルリを横目で見るが思い直す)オレだ! オレが話し合う! だからベルリとノレドは喧嘩すんな!」

それからブリッジでは月の表側に出ずにムーンレイスと接触する方法が話し合わされた。

リリン「月の裏側に入口があるんだよ」

ラライヤ「あ、冬の宮殿に通じる入口! わたしなら案内できますし、ハリー・オードに名前を名乗っています。でもドニエル艦長を乗せて行くとなると、複座のG-ルシファーじゃないと狭いし、ちょっと臭いし・・・」

ノレド「あれは・・・、あれはやめた方がいいと思う・・・」

ベルリ「あ、でも自分は月の表側の入口から侵入してごく表面的なところしか通っていませんよ。太陽が当たる側には何らかの構造体があるので、あれに隠れていけばザンクト・ポルトからでは観測されないでしょう」

副艦長「あー、いや待て。君が行くときっとややこしいことになる。ここは別の人選で」

ドニエル「月の裏側からじゃかなり距離があるからな」

リリン「電話があったよ」

ドニエル「リリンちゃん、冬の宮殿に電話があったのか?」

リリン「あった」

ラライヤ「あったような気もしますが・・・」

副艦長「モビルスーツデッキのハッパにつないでくれ」

すぐにブリッジのモニターにハッパの顔が映し出された。

副艦長「G-アルケインを複座に換装できるか?」

ハッパ「3時間も貰えればできますが」

ドニエル「じゃ、すぐに頼む。ラライヤちゃんを酷使してすまんが、3時間仮眠を取ってノレドとふたりで冬の宮殿に行き、ムーンレイスの連中に、話し合いに応じるから月の裏側まで来てくれと頼んでくれ。でもまだ増援は頼むな。それはオレが判断する。ベルリは待機だ。トワサンガがどうなっているのかわからんし、こっちは守るものが大きすぎる。三日月も満月も無事にビーナス・グロゥブに持っていかにゃならんからな。パイロットは交代で仮眠を取れ。あくまで仮眠だぞ」

メガファウナクルーたちの、2隻の巨大輸送船を守りながらの緊張した時間はなおも続いた。


(ED)


この続きはvol:50で。次回もよろしく。












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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第14話「宇宙世紀の再来」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第14話「宇宙世紀の再来」前半



(OP)


クレッセント・シップが世界巡行を終えて地球を離れてから4か月が経過していた。

キャピタル・タワーを占拠したケルベス・ヨーは、ザンクト・ポルトまで完全に掌握したのちにキャピタル・テリトリィで議会の解散総選挙を行うつもりでいた。

ところが彼が144番ナットでトワサンガのガヴァン隊の侵略行為に対応しているうちに、地上ではゴンドワンのクリム・ニックが都市部への絨毯爆撃を敢行し、あっという間にすべてを破壊してしまっていた。キャピタル・テリトリィは、ゴンドワンの侵略戦争の餌食になったのだ。

地上が占拠されたのちは、ビクローバーへの通信網は寸断され、状況はまるで掴めていない。これによりアメリア軍総監アイーダ・スルガンへの救援要請も出せないままになり、ケルベス・ヨーはキャピタル・ガードの兵士と教え子たち、それにクラウン運航庁数名でタワーを死守するのが精一杯になっていた。

ザンクト・ポルトに拠点を移した彼の元へは、クリム・ニックからの一方的な降伏勧告と、トワサンガへ上がったキャピタル・ガード調査部からの増援申請が届いている。ドレッド家滅亡に続いて守備隊であるガヴァン隊さえ失ったトワサンガであったが、ジムカーオ大佐率いるガードと元アーミーの混成部隊が現在はシラノ-5を掌握しているとのことであった。

侵略者クリム・ニックに屈するのは論外としても、仲間であるはずのトワサンガの部隊の増援申請さえ迂闊に受け入れられないのがもどかしかった。キャピタル・ガードの中にはクンパ大佐の事件以来、調査部に不信感を持つものが多く、増援受け入れによって指揮権を奪われることを恐れていたのだ。

いまやキャピタル・ガードの指揮権は、中尉に過ぎないケルベス・ヨーに委ねられている。

ザンクト・ポルトにはトワサンガ首相のジャン・ビョン・ハザムがいる。彼はドレッド家の傀儡であったために真の民政の代表とは言い難く、ビーナス・グロゥブの承認も得ていないために扱いに困ることがあった。政治家として能力も未知数だった。

ケルベス「望んでやったこととはいえ、大それたことをしでかしたものだ」

ケルベスはザンクト・ポルトの行政官から預かった陳情書に眼を通し、備蓄エネルギーが底をつきかけていることに愕然とした。このままではあと1か月で人間が活動することはできなくなる。キャピタル・タワーのエネルギーは地球の自転を使った発電方法であるため問題はないが、各ナットの生命維持などはフォトン・バッテリーに頼っているからだ。

キャピタル・タワーに閉じ込められた彼らはエネルギーと物資をザンクト・ポルトに依存しており、地上からも月からも支援を受けずにいれば早々にこうなることはわかっていたはずなのに、アメリアへの支援要請を優先するあまり、決断が遅れたのは確かであった。

トリーティ「ザンクト・ポルトには大気圏突入グライダーというものがあります。命令があればいつでも自分がアメリアに支援要請へ赴きます」

ケルベス「いよいよとなったら頼むしかないが、ゴンドワンがどの程度の戦力で活動しているかによって、こちらの支援要請が受け入れられるかどうか決まる。北と南から挟み撃ちになって苦戦しているようなら、クリムの攻撃をかわして無事にアメリアに着いても受け入れられないこともある」

トリーティ「ではやはり、あの調査部のジムカーオの支援を受け入れるので?」

ケルベス「これはキャピタル・テリトリィの問題なのだから、最終的には彼らに賭けるしかない。アメリアと通信ができれば、どの道を選択するか見えてくるのだが」

そういうとケルベスは親指の爪を噛んで、残り1か月のエネルギーで何ができるか考えた。もはや大規模戦闘を起こすこともできず、市民への配給を減らすなど言語道断であった。

彼は天井を見上げ、しばらく黙考したのちに口を開いた。

ケルベス「2日後にジムカーオ大佐の使者と会う。第2ナットのケルベス部隊にはいつでも撤退できるように準備をさせておいてくれ。できれば、オレたちはトワサンガへ移動したい」






ミック「とにかくタワーの破壊だけは大反対です。あんな大きなものを壊して地球に落ちてきたらどうするつもりなんですか?」

かつてキャピタル・テリトリィ中心部だった場所は、大規模開発の好景気に沸き立っていた。地域を占領したクリム・ニックはその土地をクリムトン・テリトリィと命名し、世界中から投資と移民を受け入れ、破壊された街を新都市計画に基づいて再建しようとしていた。

クリムが発表した「闘争のための新世界秩序」に賛同した国々はこぞって失業者をクリムトン・テリトリィに送り込み、開発利権に与かろうと工作機械の供出に熱心になっていた。元々戦闘用モビルスーツ開発に熱心でなかったアジア地域も、工作機械ならば多様な製品を持っていたために商社をこの新たな国に送り込んで毎日のように商談に明け暮れている。

ゴンドワンの若者たちもこの土地に殺到し、働いた分だけ豊かになる新生活を満喫していた。古いしがらみがないとの理由で貧しい生活を強いられていた女たちやクンタラさえもこの土地を目指してやってきていた。いくら働いてもなくならない仕事と常に足らない労働力は、世界中の余剰資金をこの土地に集める効果を果たした。

この巨大利権によって、クリムは一瞬で世界一の大金持ちになってしまった。

問題は中心部に聳え立つキャピタル・タワーの扱いと、旧市民によるレジスタンス、さらにレジスタンスを支援するアメリアの動向、そして枯渇しつつあるエネルギーであった。

クリム「キャピタルに備蓄してあったフォトン・バッテリーは都市開発で使い果たしてしまった。あんな大きなもの、壊そうたって無理だよ。壊すためのエネルギーがない。それに、キャピタル・タワーは宇宙全体を支配するのに不可欠なものだ。そもそも失うわけにはいかない」

ミック「いまさらロケットじゃないですし、燃料もありませんしね」

キャピタル・ガードの抵抗が激しく、小競り合いの戦闘で消費されるエネルギーもバカにできないために、クリムはいずれタワーを破壊するのではないかとの憶測が市井に流れていたのだ。侵略戦争によって巨万の富を得たクリムへの風当たりは日増しに強まっており、ミック・ジャックはそれを気にしていたのだった。

クリムトン・テリトリィの開発は盛んであったが、人口が増えたことによってエネルギーの消費も激しかった。土木建築に消費されるフォトン・バッテリーは膨大で、軍事行動が制限されつつあった。アメリアに支援されているレジスタンスの方が装備が良いこともしばしば見受けられるようになった。

クリムは更地に建ち始める巨大建築物を旧議員宿舎だった執務室から眺めながら、ついに時が来たことを受け入れた。

クリム「アメリアを降伏させてからと思っていたが、この好景気を維持するためには資源が必要だ。オーディン、ガランデンを率いてまずはザンクト・ポルト、そしてトワサンガ、ビーナス・グロゥブと征服するしか道はない。ついてきてくれるな、ミック」

ミック「そりゃお供はしますけど、フルムーン・シップの奪取に失敗したのは痛かったですね」

クリム「メガファウナが邪魔したそうだな。姫さまはとことん情勢の読めないお人らしい。グシオン総監が宇宙からの脅威を訴え、地球の自主独立の重要性を訴えたのに、何もわかっていないとみえる。そもそもフォトン・バッテリーの解明さえできればビーナス・グロゥブなどなくても地球はやっていけるのだ。トワサンガにどれほどの技術があるのか知らないが、まずはあそこを占拠してみないと始まらない。ただオレが地球を離れた隙にアメリアがクリムトン・テリトリィに侵攻してこないとも限らない。それで迷っていたのだが、タワーのケルベスという者も、アイーダも代案を出さずに時間ばかり稼いで状況を複雑にするばかり」

ミック「(指先で机をたたきながら)アイーダさまの『連帯のための新秩序』でフォトン・バッテリーの供給がいままで通りに戻ったとしても、あたしたちはビーナス・グロゥブに支配されていることを知ってしまった。スコード教がどんなありがたいものかあたしは知りませんけど、宇宙にいる人に傅いて乞食のように生きるのはごめんですよ。それならあなたについていって宇宙で死ぬ方がよほど幸せというものです。(明るく笑い)さて、トワサンガ侵攻に作戦力は?」

クリム「そうだな・・・、首都防衛はクリムトン・テリトリィの正当性を訴えるためにもキャピタルから奪ったブルジンとアーミーから転向してきた連中に任せて、オーディン2隻とガランデンで出立したい。クリム・ニックがいなくなったと知ればアイーダはこちらに攻め込んでくるだろうし、タワーに籠っている連中も出てくるやもしれぬ。その場合はゴンドワンに背後を突くようにあらかじめ決めておきたい。2日で準備はできるか?」

ミック「出立準備は2日でできますが、ゴンドワンとの連絡は航空機を使わないと無理ですね。通信はアメリアに妨害されていますから。親書を持っていかせます」






アメリアのアイーダは癇癪を起して何度も何度も両の拳で机を叩いた。政治家としての道を歩み始めた彼女だが、元来老成した性格だったわけでなく、グシオンの死によって跡を継いだだけなので、ときどきこうしてストレスを発散しないとやっていられないのだった。

アイーダ「まったくまったくまったく!」

彼女のストレスの原因はゴンドワンであった。ゴンドワンは大陸間戦争を継続するとともにアメリア南方のキャピタル・テリトリィを爆撃して多くの難民を生み出していた。難民の多くは海を渡りアメリアに押し寄せていた。エネルギーに余裕のあるアメリアでもそれは大きな負担になっていた。

レイビオ(アイーダの男性秘書)「技術者の話では、電気というのは送電線というものを作らないと遠くに運べないらしく、それには大量の銅が必要とのことです。宇宙世紀時代にはもっと優れた技術があったのかもしれませんが、なにせ資源が枯渇するまで戦争をしていた時代なので、何も伝わっていないのが現状です」

アイーダ「モビルスーツの手足も銅で繋いでいる?」

レイビオ「手足は違います。電装系の一部はそのようですが、全部ではないようですね」

アイーダ「こうしてみますと、戦争というやらなくていいことのために資源やエネルギーを使うのはバカバカしいと思えます。限りある資源はもっと他のことに回せる。足らなければ奪えばいいとなぜ考えるのか!」

そういうとまた机をドンと叩いた。

レイビオ「(昔を懐かしむように)ヘルメスの薔薇の設計図が流出してきたとき、それがもたらす技術革新は人間を飛躍的に発展させると思ってしまったのです。イノベーションが人々を豊かにすると。しかし起こった結果は大陸間戦争でした。資源は戦争の道具に代わり、勝たねば奪われる世界。それを終わらせるためにグシオン総監は宇宙に敵を求めた。フォトン・バッテリーの情報開示も求めた。だがそれすら戦争継続の道具にされてしまった」

アイーダ「クリムですね。彼はモビルスーツオタクが高じて戦争オタクになってしまった。だけど、わかっています。勝たねば奪われる世界にわたしは生きて、アメリア軍の総監なのですから、キャピタル・テリトリィの救援要請を待ってからの出動では遅いのだと。エネルギーの枯渇に焦ったクリムは必ずどこかに奪いに出てくる。アメリアはラトルパイソンで固めてある。ゴンドワンはクリムがいなくなってから大人しい。なら宇宙に出るはずです。クロコダイルをザンクト・ポルトに向かわせましょう。入港できる保証はありませんが、求められたときにそばにいればすぐに対応できます」

レイビオ「承知いたしました。とにかく議会が招集されたらまた厄介になりますから、いまのうちに手を打っておくのが最善です」

アイーダ「賛成していただいたとのことですから、クロコダイルはわたくし自ら指揮することといたします」

レイビオ「また、姫さまそんな・・・」

アイーダ「議会が招集されたらまた厄介ですから」






春が近くなり、ゴンドワン北部の水が徐々にぬるくなり始めたころ、北上してきたゴンドワン守備隊とクンタラ国建国戦線との間で小競り合いが起こった。

守備隊の目的な流民によって放棄された町での略奪であった。ところがその町にはなぜか人が住み着いており、エネルギーも豊富でしかも住民の多くが武装していたことから大騒ぎになった。

調査のために軍が派遣されることになった。大型の輸送車5台とモビルスーツ2機によるこの調査隊は、見たこともない謎のモビルスーツに一蹴され、かろうじて逃げた2名の兵士を除いて全滅した。

事態を重く見たゴンドワン軍は、航空戦力を投入して状況を視察しようとした。ところが彼らが派遣機の選定を終えないうちに敵は襲い掛かってきた。それがホズ12番艦だったことは軍を驚愕させた。それは友好国であるキャピタル・テリトリィの求めに応じて供出したものだったからだ。

ホズ12番艦から出撃してきたのは、所属不明、形式不明の白いモビルスーツであった。それは翼を持たず上空を飛行し、基地上空で静止したのちに何らかの攻撃を行って基地全体を完全に消滅させてしまった。以後、ゴンドワン北部からの情報は途絶えた。

クリム・ニックがキャピタル・テリトリィ侵攻に出撃してから、対アメリア戦でゴンドワンは守勢に回った。大西洋地域での戦闘は敗北を繰り返し、ノルマンディーにアメリア海兵隊が上陸するとの噂に怯えた人々はさらに流民となり、春になって北部の故郷に帰ろうとする者も出てきた。

だがそこはすでに他人の土地となっていたのである。

ルイン・リー率いるクンタラ国建国戦線ゴンドワン隊は、当初の目的であるゲリラ戦においてゴンドワン国内を騒乱状態にしてエネルギー消費を増大させることにとどまらず、独自のエネルギー確保による居住地域拡大を成し遂げたことによってまさにクンタラ国の様相を帯び始めていた。

ルイン「アメリア国内のクンタラが我々に協力的であったなら、ゴンドワンなど一気に踏み潰してくれように。なぜ彼らはこちらの要求を撥ねつけるのか不思議でならない」

ミラジ「アメリアには商売で何度も入国しましたが、あの国は他の国に対しても文明が進んでいて、非常に豊かなんです。商業と工業の国で成功者を称える気風もあるので、クンタラ差別もほとんどない。差別を受けていなければ、クンタラ出身であることも親の膝で聞くお伽噺と変わらなくなるのでしょう。それはそれで幸せなことでは?」

ルイン「ご老体に意見するようで申し訳ないが、クンタラは崇める神が違うのです。そうやすやすとクンタラのことを忘れるとは思えない。何か別の考えがあると邪推されても仕方がない」

マニィ「(臨月のお腹をさすりながら)アメリアはスコード教すら田舎の人しか信じていないし、クンタラ安住の地ガーバのことだって、アメリアに住んでいれば忘れてしまうのかも」

ミラジ「それか、アメリアをカーバだと思っているかでしょうな」

ルイン「(吐き捨てる)バカな。クンタラ安住の地カーバはクンタラだけのものだ」

小さな食堂での昼食を済ませた3人は、広間に戻って状況報告を受けた。

兵士A「(3人の姿に目を止め)ロルッカさんはすごいですよ。頼めばなんでも調達してくれます。武器弾薬は使い切れないほど集まりました。モビルスーツもルーン・カラシュが明日には20機が納入されます。輸送機も現在手配中とのことで」

ミラジ「あいつはこうしたことが向いているのでしょう。コネも作ってきましたし」

ルイン「最新鋭機のルーン・カラシュは助かる。ホズ12番艦の本格運用もできそうだ。ウーシアはアーミーの仲間に運用させて、ルーン・カラシュは新たにパイロットを育成しよう」

兵士B「とうとうゴンドワンにカーバを作るんですね」

ルイン「うむ。それもいい。なにせあの原子炉というのは凄いものだ。無尽蔵のフォトン・バッテリーのようなもので、尽きることがない。だがカーバは安住の地でなければならない。絶えず紛争が起こっているようではそこはカーバではないのだ」

てっきりゴンドワンを占領してカーバにするつもりでいた兵士たちはルインの言葉の意味がわからずキョトンとしていた。ルインは彼らが望むものを与えてくれる人物であったが、どこに定着してどう暮らすのか話したことはなかった。

ルイン「(すべての書類に眼を通し終わり)よし、オレはG-∀で敵基地を叩いてくる。あれは素晴らしいものだ。戦わずして基地の痕跡すら残らないように消してくれる。あれが100機も手に入ったなら、地球上のすべての文明を消滅させて何もかも新しくしてやるのに」







いつしかウィルミット・ゼナムはムーンレイスたちにとってなくてはならない存在になっていた。

彼女の行政能力は永らく眠らされていた彼らの組織を瞬く間に立て直した。また現在という時間において社会がどう変わっているのかも包み隠さず教えてくれることから、誰もがディアナ・ソレルに次ぐ人物と見做し始めていた。だがそれは本人には迷惑な話でもあった。

ディアナ「お母さまには面倒な仕事ばかり押し付けてしまって、面目ない次第です」

ウィルミット「なかなかお母さまと呼ぶのをやめていただけないのですね」

ディアナ「キャピタル・タワーというものの長官をなさっていた有能な方だとお聞きいたしましても、わたくしどもはそれがどのような職業でどれほど重要な地位なのかピンと来ないのです。たしかにわたくしがご子息と恋仲などとウソをついたことは謝らなければなりません」

机の上に広げた用紙には、ウィルミットが中心になって作った月基地の見取り図が記されていた。月には宇宙世紀時代から様々な構造物が作られており、張りぼてで作った迷路のように複雑に入り組んでいる。使える設備と使えない設備、修理が必要な設備と翻訳が必要な設備などをわかりやすく視覚化したのがウィルミットの地図であった。

ウィルミット「(ディアナに向かい)驚くのはフォトン・バッテリーに依存しないエネルギー供給システムです。どうしてこんな無尽蔵のエネルギーを得ているものやら」

ディアナ「縮退炉のことですか? むしろわたくしたちには縮退炉や核融合炉のない世界の方が奇異に感じます。人が暮らすにはエネルギーが必要です。天然資源に頼ることは、生命維持に必要な環境を破壊する。バッテリーによる供給は、流通が止まれば終わりです。レイハントン家によってまさにそれがなされているわけですよね?」

ウィルミット「フォトン・バッテリーの供給停止にレイハントンは無関係なはずです。あなたが息子のベルリの婚約者を装ったように、現在トワサンガのレイハントン家は相続者がいない状態になっています。いない者がことをなすことはありませんでしょ?」

ディアナ「トワサンガというものがわたくしにはまだよく理解できないのです。あれはどこより持ってきた資源小惑星を使ってこの500年で作ったものでしょう。しかしそこは拠点ではなく、中継地に過ぎないと。ビーナス・グロゥブというものが明けの明星の近くにあるのだと」

ウィルミット「ええ、そうですけど・・・。(しばし悩み)失礼なことを伺いますが、あなたはもしかして地球の方ですか? 月の女王様が明けの明星とはおっしゃらないはず」

ディアナ「それは話すことが出来ない悲しい過去の話なのです。ええ、でもわたくしがキエル・ハイムと名乗り、アメリアの人間だと話したことは覚えておいででしょう。そのような人物と、昔々関わりがあったということです。それ以上は話しても意味のないこと」

このあとふたりは農業ブロック、工業ブロックなど生産設備の稼働状況を視察しながら、地球の見えるテラスまで移動した。ここもウィルミットが見つけた場所で、かなり古い観光用の設備を再利用して使えるようにしたのだ。

ウィルミット「わたくしは心配なのです。クレッセント・シップが去ったのち、法王さまの亡命などがあって、地球は見捨てられると危機感を持つはずだった。ところがディアナ女王はフォトン・バッテリーは必要ないとお考えになる。これではスコード教の権威が揺らぎます。スコード教のない世界に争いごとが起きないとはどうしても思えない」

ディアナ「過剰生産体制が宇宙世紀を暗黒の時代にした。反スコードは宇宙世紀に戻ることだと、こうお考えで?」

ウィルミット「おかしいのでしょうか。(首を振り)これは自分にもわからないのです。ただ自分はジムカーオという人物に、まるで宇宙世紀がそのまま残っているような場所へ連れていかれました。あそこがなんなのかは正直よくわかりません。しかし、スコード教とヘルメス財団が作り上げてきた安定と平和の形が大きく変わる予感はしました。悪い予感です」

ディアナ「お母さまは本当に賢い。ひとつわたくしどものお話をいたしましょう。この世界では1年前にレコンギスタという騒動があったと伺いました。実はわたくしたちも500年前に同じようなことを試みたのです。わたくしたちは支配者になろうとしていましたが、すぐにそれが愚かなことだと気づき、別の道を模索しました。人とは実に様々な考えを持つもので、それぞれの考えの違いからその試みは上手くいかなかったのですが、お母さまはわたくしたちの失敗の原因を理解し、成功に導く要因をスコード教に求めていらっしゃる。しかし、こうも考えてしまうのです。人と人との断絶をなくすための統一宗教は、支配ではないのかと。人の支配の仕組みは、必ず悪用されます」

ウィルミット「スコード教も悪用されていると?」

ディアナ「可能性の話です」

ウィルミット「ほんの数か月前なら、わたくしはそれを自信をもって否定いたしました。しかし、ジムカーオ大佐にあの場所を見せられた以上、女王のお話に真実味が出てしまいます」

ディアナ「さてそこでお頼みがあるのです」

ウィルミット「なんでしょう」

ディアナ「わたくしはあのトワサンガというものが欲しい。これは征服のためでも戦争のためでもありません。宇宙に住む者たちを地球に還すために権力が必要だという意味です。そこで、いま一度お母さまの大切なベルリ王子との婚儀をお考えいただきたい」





ビーナス・グロゥブのラ・ハイデン総裁よりクレッセント・シップとフルムーン・シップを預かったメガファウナの一行は、残り2日の旅程となったことで減速前のミーティングに忙しかった。

ドニエル「地球圏に入った際にもし戦争が起こっていたらどうするか、なんだ」

副艦長「とにもかくにもアメリアへ戻りたいところですがね」

ベルリ「宇宙と地球を繋ぐ生命線はキャピタル・タワーです。自分はケルベス教官が心配なのでザンクト・ポルトへ向かうことを希望します。最悪、G-セルフだけ増援に向かわせてくれれば」

ギセラ「トワサンガを離れるときもビーナス・グロゥブを離れるときもあの騒ぎですよ。もうこの船は騒動に巻き込まれるに決まっているんです」

ベルリ「いや、ぼくは姉さんのことは当然気に留めています。ぼくとラライヤ、ノレドにモビルスーツを与えてもらって、みなさんはどんな状況であろうともアメリへ戻って貰えば」

ドニエル「アメリアへ戻って姫さまに状況報告はせにゃならん。キャピタルとの同盟関係のためには一肌も二肌も脱ぐよ。だけど」

副艦長「そうだぞ、ベルリ。キャピタル・タワーが占拠されていることだってあるんだ。そうなったらすぐに君らを回収しなきゃいけない。モビルスーツだけで放り出すわけにはいかんよ」

ベルリ「キャピタル・タワーが占拠されるなんて!」

ギセラ「可能性の話だから熱くならない」

なかなか話がまとまらないブリッジに、ノレドとラライヤが上がってきた。ふたりはベルリを手招きして通路に呼び出した。

ベルリ「(怒った声で)いま重要な話をしているんだけど」

ラライヤ「(こちらも怒った顔で)月でディアナ・ソレルに会ったと話していましたよね?」

ベルリ「ああ。それが何か?」

ラライヤ「ノレドと話をしていたんですけど、もしそれが本物のディアナ・ソレルなら、必ずトワサンガを欲しがります。ベルリは王子さまなんだから、結婚という話は絶対に出てくると思うんです」

ベルリ「結婚なんかしない」

ラライヤ「ならいいのですが、ディアナ・ソレルはディアナ・カウンターという名のレコンギスタ派ですから、迂闊に話に乗ってしまうといけないと思って」

ベルリ「結婚なんかしないし、いらぬお節介だよ。レコンギスタ派なら向かうのは地球じゃないのか? じゃ、ぼくはタワーのことで話をしているから」

そういうとベルリはすぐにブリッジの中に戻ってしまった。

結局ノレドは一言も口を利いてもらえないまま、自分からも何も話せず、悲しそうな顔を当惑の表情で隠して自室に戻るしかなかった。


(アイキャッチ)



この続きはvol:49で。次回もよろしく。



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