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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第25話「ニュータイプの導き」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第25話「ニュータイプの導き」前半



(OP)


クリム・ニックを慕ってゴンドワンから流れてきた若者の多くは、北方地区出身で全球凍結を恐れ流民となった家庭の子供たちであった。彼らの中にはクンタラ国建国戦線に家を追われたものも多数いた。彼らは北方地区がクンタラの支配地域になっていることを知っていた。

彼らの話は口コミで拡がり、クリムトン・テリトリィにやってきたゴンドワンの若者たちはクンタラを激しく憎むようになっていた。

そこに法王庁よりゴンドワン政府がクンタラ支配地域において核爆発をさせたことを非難する声明が出された。

彼らが歓声を上げて喜んだのも無理はなかった。彼らは自分たちの国の放射能汚染を悲しむよりも、侵略してきたクンタラたちが死んだことを喜ぶようになっていたのである。

いまや法王庁は旧キャピタル・テリトリィの住人であるレジスタンスも、アメリア政府も、ゴンドワン政府も支持していなかった。法王庁が唯一認めているのはクンタラ国建国戦線だけになっていた。

そんな状況を、ケルベス・ヨーは怪しんでいた。人類に根強く残るクンタラ差別を法王庁が利用して、争いごとを引き起こそうとしていると考えたのだ。

このまま人類の多数が法王庁とクンタラに対して憎しみを募らせ、戦う姿勢を示した場合どうなるのか。ジムカーオ大佐は相手を戦いに引きずり込んで最終的に勝利する独特の戦い方をする不気味な人間であった。彼は人類にもう1度クンタラ差別を根付かせようとしている・・・。

ケルベスの心配は、キャピタル・タワーを自分たちが破壊したように工作されてしまうことだった。キャピタル・ガードの教官だった彼が教え子たちを率いてタワーを破壊したなどと宣伝されては浮かぶ瀬もない。かといってこのまま何もしなければ、最後にはエネルギーが尽きて敗北してしまう。

エネルギーは戦っても戦わなくても消費されていくのである。

法王庁の人間はタワーに立て籠ったまま姿を現さなかった。ケルベスは総攻撃を慎み、じりじりと支配地域を取り戻していった。都合上ミラーシェードと名乗っているクリム・ニックは、単身街へ侵入してゴンドワンの若者たちに正体を明かし、レジスタンス側に寝返らせる作戦を実行中であった。

問題なのはもう一方のクンタラの若者たちをどう説得するかであった。彼らはいま勝利に酔いしれている。クリムトン・テリトリィはルインが戻り次第クンタラ国になるのだと信じて疑わなかった。

そのルインは宇宙へと連れ出され、おそらくは戻ってこないだろう。テリトリィ内にはルインの妻であるマニィとその娘が大邸宅で暮らしている。彼女はクンタラの英雄の妻だ。

ケルベス「現在の状況はゲル法王が戦争を止めない地球人に失望してトワサンガへ亡命したというストーリーの上に成り立っている」

彼の目の前にはレジスタンスの代表とキャピタル・ガードの教え子たちが立っていた。

ケルベス「法王庁が多くの談話を発表しているのは、ゲル法王猊下の代理として談話を発表しているわけだ。そして最初にアメリアが非難された。同盟を組むムーンレイスも非難された。そしてゴンドワンが非難された。次はどう考えても我々キャピタル・テリトリィの人間なのだ」

トリーティ「つまり、我々が総攻撃を仕掛けると彼らはタワーを破壊してそれをガードの攻撃によるものと発表するわけですね。汚いにもほどがある」

レジスタンスA「法王庁はクンタラと組んで地球を支配させるのでしょうか?」

ケルベス「いや、おそらく法王庁はルインにベルリを殺させるように仕向けていると思う。ベルリはトワサンガの王子だ。ベルリがルインに殺されれば、ルインはトワサンガの秩序回復を妨げた重罪人の烙印を押される。そしてクンタラとの歴史的和解は破棄される。そして姉のアイーダさんも非難される。彼女はすでにトワサンガ住人を殺したことにされているから、ベルリを殺した黒幕はアイーダさんと宣伝される可能性すらある。この一連の騒動がトワサンガの王位をめぐる争いだと人々に信じ込ませれば、アイーダさんは殺され、法王と法王庁は地球人への支援を打ち切ると発表してトワサンガの支配者となる。もちろん真実を知るゲル法王も殺される。この筋書きならば、フォトン・バッテリーが配給されず、地球はやがて原始時代に戻るのだから、トワサンガと地球が彼ら法王庁のものになるわけだ」

トリーティ「ぼくにはそんなまどろっこしいことをやる意味がわかりませんが」

ケルベス「ビーナス・グロゥブへの言い訳なんだ。もしビーナス・グロゥブがフォトン・バッテリーの配給を再開しなければ、トワサンガを抑えてもいずれは干上がる。連中がムーンレイスの月面基地を攻撃してこないのも、ビーナス・グロゥブを騙せなかった場合の保険として、ムーンレイスの発電技術を残したいからだろう」

ワシントンへ移ったアイーダから詳しい連絡が入ったのは昼過ぎであった。∀ガンダムはハリー・オードのオルカ2隻が交戦して南下を抑えてくれている。

トリーティ「だからこそ基本に返って、ぼくらはタワーを守る仕事に専念すると」

ケルベス「そうだ。本当に悪いが、∀ガンダムがこちらに近づいてきたらターンXと交戦になってタワーは必ず被害を受ける。お前しか頼める人間はいないんだ、トリーティ」

トリーティ「死ぬ覚悟はできています」

彼はここ数日間、ターンXの操縦について訓練を受けていた。そしていよいよ出撃することになったのだ。敵は徐々にアメリアに迫りつつある∀ガンダムと10機のYG-201であった。

ケルベス「YG-201に対抗するのはポンコツのカットシー5機だけだ。レックスノーは地上の防衛に専念させる。少ない戦力ですまんが、何とか抑えきってくれ。その間にオレは必ずキャピタル・タワーを取り戻す。ゴンドワンもクンタラも味方につけてな!」

トリーティを含む若者たちだけで構成された部隊は、ムーンレイスの救援と補給を任務にすぐさま出発していった。

ケルベス「さて、こうなるとあの晩のクンタラの若者たちを殺した事件が悔やまれる。あれでクンタラたちはこちらに警戒心を持ってしまった。さて、どうしたらいいものか・・・」







薔薇のキューブが動き出したとの知らせが入ったムーンレイスの月面基地は慌ただしく動き始めた。

敵の狙いが絞り込めないアメリア・ムーンレイス連合軍は、シラノ-5をいったん放棄して月面基地の防衛を固めながら各戦闘艇の準備を急ぐことになった。

外宇宙からの帰還船でもある薔薇のキューブは、その出力のごく一部を使ってゆっくりと地球に向かって移動していた。その周囲にはシルヴァーシップが2重の円陣を張って防衛している。この陣形が容易に突破できないのはすでに1度戦ってわかっていた。

最大限の警戒態勢の中、薔薇のキューブは悠然と月を離れて地球を目指した。それを見たディアナは全軍の4分の3を追撃戦に投入する決断をした。調査によってサウスリングの住民以外のトワサンガの生き残りはいないとわかっている。残る4分の1は月面基地に残されるムーンレイスの民間人を守る役目を負った。

その中にはタワーの運航長官であるウィルミット・ゼナムやリリン、サウスリングの住民たち、ジャン・ビョン・ハザムなどがいた。しかし軍人ではないゲル法王はメガファウナに乗り込み、地球に戻るといってきかなかった。法王に乗り込まれたメガファウナは大騒ぎになって出港が遅れてしまった。

副艦長「法王猊下、そうはおっしゃいましてもスコード教教会そのものがあなたの敵に回っているのですよ。法王庁もそうです。こういっちゃ悪いが、あなたひとりで何ができるというのです?」

ゲル法王「わたくしができることは数多くあります。そのひとつがアメリアのアイーダ総監への誹謗中傷の疑惑を晴らし、赦しを与えることです。それでもこの船に乗せてはもらえませんか?」

そう言われてしまうと断ることもできず、ゲル法王はメガファウナで1番まともな客室を与えられることになった。

ノレド、ラライヤ、ハッパの3人はG-アルケイン、G-ルシファーと共にメガファウナに乗り込んだ。ノレドと顔を合わせたベルリは嫌そうな顔をした。

ベルリ「なんで月に残らないんだ? ノレドは非戦闘員じゃないか」

きつい言葉を浴びせられたノレドは自信なさげに俯いてベルリのそばを離れてしまった。一緒にいたラライヤがすれ違いざまにベルリに対してキッと睨みつける。

ベルリ「なんだい、あいつ。人が心配してやっているのに」

第1種戦闘配備の指示が艦内に鳴り響くとメガファウナの船内も慌ただしくなった。月の裏側の基地に入港していたメガファウナは30隻のオルカと共に漆黒の宇宙へと出撃した。

月の表側の基地からはディアナ・ソレルの旗艦ソレイユを中心とした大艦隊が月の引力圏を脱して薔薇のキューブとシルヴァーシップの艦隊を待ち受け、アメリア・ムーンレイス連合艦隊はジムカーオ大佐率いるエンフォーサーの集団を挟撃する形になろうとしていた。

一見戦力は均衡しているように見えるが、メガファウナのブリッジに上がったハッパの報告はドニエル艦長以下ブリッジクルーを驚愕させるに十分だった。

ハッパ「間違いないですね。薔薇のキューブはそれ自体が膨大な生産設備で、船が撃沈されるごとにすぐさま新しい船を生産して補給するんですよ。だからいくら戦っても相手の数は減らない」

ドニエル「こっちは減る一方だってのに? たまんねぇ話だな」

副艦長「だとしたらなぜこちらと同数だけ揃えるんだ? どんどん増やせばいいじゃないか?」

ギセラ「(指先で頭を抑え)だから目的が違うんですよ。もしくは勝つことの基準が違う」

ドニエル「本当にややこしい連中だな。それでハッパはどう考えているんだ?」

ハッパ「鍵はニュータイプとエンフォーサーだと思います。シルヴァーシップはエンフォーサーの集中管制で無人機、しかもおそらくは思念で連動しているのでミノフスキー粒子は関係なく相互に連絡が取り合える。YG-201にはエンフォーサーは乗っていませんが、遠隔操作でしょう。同時にエンフォーサーは思念の入れ物でもある。極端な話、メガファウナのクルー全員がニュータイプになってエンフォーサーの中に入ってシルヴァーシップをコントロールできれば攻撃能力を持たない薔薇のキューブは簡単に乗っ取れる」

ドニエル「つまり・・・ギセラ!」

ギセラ「ジムカーオ大佐にとって重要なのは、わたしたち人類がニュータイプになれるかどうかを見極めるってこと? 領土とか政治的野心がまったくない人だってこと?」

ハッパ「ラライヤにも結局何もしてないんですよ。彼女に誰かの思念が入っているとわかったら、すぐに興味をなくした。ちなみにラライヤに入っているのは彼女によく似た美人さんです」

副艦長「(頭を掻きながら)宇宙世紀復活派というのは?」

ハッパ「宇宙世紀って元々は人類の宇宙進出に際して地球にあったそれまでのいざこざを忘れて新しくやり直そうって意味でしょう? 月に初めて人類が降り立った日が宇宙世紀元年なのかどうかはわかりませんが。そして100年以内にニュータイプが生まれた。宇宙世紀復活派というのは、その時代に戻ろうという意味で、戦争を継続しようという意味じゃないのかもしれない」

副艦長「(口をすぼめて難しい顔をしながら)軍産複合体というのは?」

ギセラ「(ポンと手を叩き)それがビーナス・グロゥブのヘルメス財団や法王庁じゃないの? だからレイハントンは彼らと敵対していた。リギルド・センチュリー1000年の年にヘルメスの薔薇の設計図がばら撒かれてビーナス・グロゥブのヘルメス財団が動き出した。だからレイハントンは何らかの対抗手段を講じようとした。それに危機感を持ったビーナス・グロゥブのヘルメス財団が裏で手を引いてレイハントン家を打倒した。(ドニエルを指さしながら)でもそこには競争の概念が欠如していたのでクンパ大佐はふたりの子供を逃がした」

ドニエル「(イライラしながら)だから勝つにはどうしたらいいんだよ!」

ハッパ「(胸を張って)ニュータイプに進化すればいいんですよ」

ドニエル「(がっくりと肩を落とし)オレにそんなことできると思うか?」

副艦長「(ハタと気づき)もしギセラとハッパの話が本当なら、ビーナス・グロゥブの軍産複合体はノレドが一掃しちまったってことじゃないか。それで人間タイプのエンフォーサーが反乱を起こしたからキルメジット・ハイデン新総裁は連中がトワサンガに逃げないようにクレッセント・シップとフルムーン・シップをこっちに預けた。そうなる。ノレドはこれ、大手柄どころじゃないぞ」

ギセラ「人間タイプのエンフォーサーは2万人くらいいたんでしょ? そいつらはニュータイプなの? トワサンガの薔薇のキューブにもそれくらいいた?」

ハッパ「数えてはいませんが、数はそれくらいでしょうね。ラライヤが捕まっていたときに覚醒したらしくて、そのときの感触だと彼らはニュータイプとは違うってことです」

ドニエル「ニュータイプになってエンフォーサーを止めるって手立て以外に戦う方法はないのかよ。そもそも連中は地球へ行って何をしようってんだ!(モニターに眼をやり)なんだって? 薔薇のキューブからなんか出たって? 例のカブトガニか?」

望遠モニターで捉えられた映像には、薔薇のキューブから飛び立っていくザム・クラブが映し出された。それに重なるようにディアナの映像が映し出された。

ディアナ「地球よりカシーバ・ミコシがこちらに向かってきているようです。スコード教の船ですが、ハリーの報告で武器を密輸していることが確認されています。攻撃してよろしい?」

ドニエルは返答に困って副長に助けを求めた。彼はギセラに助けを求めるが無視された。ドニエルは顔を真っ赤にして悩みぬいた末にこう叫んだ。

ドニエル「(ディアナに向かって)待ってくれ。おそらくムーンレイスが攻撃するとややこしくなるはずだ。いったんこちらに任せてくれないか。よし、メガファウナ最大戦速! 薔薇のキューブを追い越してカシーバ・ミコシと接触する! オルカはディアナ艦隊と合流!」







カシーバ・ミコシの客室でゆったりと時間を過ごしていたルイン・リーは、突然鳴り響いた警報に驚いて飛び上がった。

ルイン「何事か!」

法王庁職員「前方より巨大MA接近。何者かわかりません」

ルイン「よし、オレが確かめる。G-シルヴァーの準備を急げ!」

ルインはクリム・ニックから引き継いだG-シルヴァーに大きな自信を持っていた。いままで乗り継いできたどのモビルスーツよりも高機能で運動性能が高いのは間違いない。ルインはベルリと同等の性能の機体に乗れば、自分は絶対に勝つはずだと自分に言い聞かせた。

カシーバ・ミコシから出撃したルインは、前方から高速で接近してくるカブトガニのようなMAと撃ち合いになった。MAはファンネルを放出した。小さな卵のようなファンネルは小刻みに動きながらG-シルヴァーを包囲して一斉に射撃をした。ルインはそれを避けることができなかった。

一瞬で20以上の直撃を喰らったルインは、てっきり自分はここで死ぬのだと思った。ところがファンネルのビームは威力が弱く、機体に大きな損傷はなかった。敵のMAは卵のようなファンネルを再び腹の中にしまい込んで動かなくなった。

ルイン「こいつ、遊んでいるのか?」

MAのコクピットが開いた。そこにいたのはバララ・ペオールであった。ルインは唖然と彼女を眺め、ゆっくりと機体を接触させた。

ルイン「バララ・・・、生きていたのか?」

バララはそれに応えなかった。彼女は再びコクピットを閉じ、G-シルヴァーを装甲の繋ぎ目に手をかけさせたまま一気に加速をかけた。ルインはMAに手をかけて接触回線を開いたままバララに呼びかけ続けた。その目の前に、赤い戦艦が近づいてきたのをメインカメラが捉えた。

ルイン「メガファウナ? そうか、バララ。ベルリのところに連れて来てくれたのか。ようし、オレはあいつを倒して宇宙に秩序を取り戻す。もうお前は戦わなくていいんだ、バララ」

メガファウナから、一筋の光が射出された。ルインにはその光の正体はすぐに分かった。出撃してきたのはG-セルフに間違いなかった。ルインはザム・クラブから手を放し、ベルリのG-セルフと正対したまま突っ込んでいった。

そのころメガファウナの中では慌ただしくラライヤが出撃しようとしていた。彼女はG-アルケインのコクピットに収まり、ハッパの指示を受けていた。

ハッパ「カブトガニにエンフォーサーが乗っていた場合はベルリが取り込まれてしまわないように気をつけて。バララ・ペオールだった場合は、彼女は君がされたような実験をされた可能性がある。強制的にニュータイプの思念を入れられてしまったんだ。できれば彼女を助けて、メディー先生に診てもらおう。誰の残留思念なのかが気になる」

ラライヤ「了解です。(ハッチを閉じる)ラライヤ、行きます!」

そのころ、ドニエルの独断でカシーバ・ミコシの去就を預かることになったメガファウナのブリッジは、どう事態を収拾するか侃々諤々の議論になっていた。

ギセラ「(顔を真っ赤にして)カシーバ・ミコシと言ったって法王庁が武器商人みたいなことをしているのに守ってやる必要はないでしょうが!」

ドニエル「(焦りの表情で)んなこと言ったって、武器を運んでいたって証拠はないんだからまたジムカーオに利用されちまうじゃないか! アメリアの戦艦がカシーバ・ミコシを破壊したなんて宣伝されたら姫さまの立場はどうなっちまうんだよ! 乗り込んで白兵戦だ!」

副艦長「ハリー隊長が攻撃したときは、左にモビルスーツ、右にシルヴァーシップが隠れていたっていうじゃないですか。シルヴァーシップはそのあとクリム艦隊と接触してシラノ-5に入っている。モビルスーツをタワーで降ろしているとすると中は空のはず。白兵戦でもいけないことはないか」

ドニエル「(ホッとした表情で)ほらみろ」

ギセラ「ザンクト・ポルトはジムカーオの軍隊に占領されていたんですよ。なかが戦闘員だらけだったらどうするんですか!」

副艦長「その可能性もあり得る」

ドニエル「うぬぬぬ!(顔を真っ赤にして)よーし、わかった。副長、お前ちょっとゲル法王猊下のところへ行って、カシーバ・ミコシの格納庫だけ吹き飛ばしていいか訊いてこい。カシーバ・ミコシはデカいがほとんどは格納庫だ。とりあえず左右の大きな部分だけ攻撃する。これでいいか?」

ギセラ「承知!」

ドニエル「ステア、カブトガニから離れてカシーバ・ミコシに近づけ。主砲スタンバイ。(モニターにゲル法王と副長の姿が映り、指でOKサインを出す)主砲、撃てー!」







G-セルフとG-シルヴァーは互いを牽制し合いながら距離を取ってビームライフルを撃ち合っていた。バララのザム・クラブはファンネルを放出してベルリを攻撃したが、ベルリはG-シルヴァーの砲撃をかわしながら同時にファンネルのビームも避けて2機のファンネルを撃ち落とした。

それを見たルインは自分に出来なかったことをいともたやすくやってしまうベルリに激怒すると、ムキになってビームライフルを乱射した。

ルイン「バララは下がれ! 邪魔をするな! あいつはオレが仕留める!」

そこに遅れてラライヤのG-アルケインが戦闘に加わった。ラライヤはムーンレイスから提供されたハンドビームガンでさらに5機のファンネルを撃ち落とした。するとザム・クラブはファンネルを放棄してG-アルケインに突撃してきた。ラライヤは回転してそれを避けると、ザム・クラブの腹に1発を命中させた。火花が一瞬大きな炎になったがそれはすぐに鎮火した。

ラライヤが戦場に参戦してきて、ベルリは自分の知覚がクリアになる感覚に襲われた。感覚の靄が晴れ渡るような感じがした。そして彼は、G-シルヴァーのパイロットがルインであることと、ザム・クラブのコクピットにバララが座っているのを見た。ベルリは自分の眼に見えているものに驚いた。

ベルリ「ラライヤ!」

ラライヤ「相手はルインさんです。こっちはバララ・ペオール。見えていますか?」

ベルリ「(怒って叫ぶ)ルイン先輩なら目を覚ましてくださいよーー!」

ベルリの叫びを、一瞬だがルインも察知した。しかし同時にメガファウナから発射されたメガ粒子砲が彼らの頭上を通り越してカシーバ・ミコシを直撃するのを目の当たりにして彼は再び怒り狂った。

ルイン「オレたちクンタラがスコード教のご神体を守ってやっているのに、お前たちは攻撃するのか! クンタラに穢された御神体なら壊していいとでも考えたのかッ!」

ルインの怒りはベルリとラライヤにも伝わった。ふたりは口々にそれは違うと否定した。だがその声はルインに届かない。ミノフスキー粒子はふたりの声を拡散させて遮断した。ベルリとラライヤに見えているものがルインには見えなかった。G-セルフのコクピットの中でいくら叫んでも、悲しみの声はルインには聞こえないのだった。人はなんて孤独なのか、ラライヤは愕然とした。

G-シルヴァーはザム・クラブに守られながらカシーバ・ミコシまで撤退した。そこにメガファウナの第2波が放たれ、格納庫のハッチが大爆発を起こして船体側面がめくれ上がった。

ルインはカシーバ・ミコシのブリッジに手を置いて接触回線を開いた。

ルイン「敵はこいつを破壊するつもりだ。戦艦や武器などは積んでいるのか?」

法王庁職員「(震えながら)まさか・・・、カシーバ・ミコシは御神体です。武器などは・・・」

ルイン「なに? 何も積んでいないのか? では脱出艇でいますぐ逃れるんだ。殺されてしまうぞ」

法王庁職員「いえ、それがジムカーオ大佐がゴンドワンのクンタラ国建国戦線に提供する兵器を優先するからと、脱出艇をすべて撤去してしまいまして・・・。ないのです。1艇も、ないのです!」

ルイン「まさか丸腰で運用していたのか? あの聡明なジムカーオ閣下が? あの方はそこまで人類を信用して下さっていたというのに、(メガファウナを振り返る)お前たちアメリア人はッ!」








ベルリとラライヤは揃ってメガファウナに引き返してブリッジに手を置き、接触回線を開いた。

ベルリ「(憤怒の表情で)カシーバ・ミコシは丸腰なんですよ! なぜ攻撃したんですか!」

ラライヤ「(慌てふためき)ベルリ、落ち着いて!」

ベルリ「(怒りは収まらず)スコード教の御神体なんですよ! なんてことをしてくれたんですか!」

ドニエル「(冷静に言い返す)ゲル法王猊下の許可はいただいている。武器を積載していないか左右の側面を壊しただけだ。慌てるな、ベルリ!」

ラライヤ「そうですよ! ベルリさん、落ち着いて。この空間は何かがおかしいんです。エンフォーサーとは違うものが渦巻いている気がします。あのバララさんだって・・・」

ベルリ「バララ・ペオール!」

ベルリが怒りにまかせてG-セルフのメインモニターをザム・クラブに振り向けたとき、また感覚が明瞭になるかのような現象が起こった。ベルリはふと冷静になって、破壊された側面が燃え上がるカシーバ・ミコシを見た。そこには黒く渦巻く何者かの思念があった。

思念の中心にはザム・クラブのコクピットがある。しかしバララ・ペオールがその憎悪の思念を発しているわけではなかった。その身体の内にいる何者かの思念に、バララ・ペオールは絡め捕られているのだ。彼女はユグドラシルに搭乗してからずっとおかしかった。

ベルリ「あれか・・・、あいつがみんなをおかしくしているのか・・・」

ラライヤ「ユグドラシルにエンフォーサーユニットがついていたとしたら、何者かの悪い残留思念があの人の肉体を乗っ取った可能性もあります」

ベルリは機体を加速させてザム・クラブとG-シルヴァーに迫った。ラライヤもその後を追った。

ふたりが離れたメガファウナのコクピットに、ディアナ・ソレルからの通信が入った。

ディアナ「薔薇のキューブが加速しました。食い止めようとしていますがシルヴァーシップを突き崩せません。戻ってきてもらえますか?」

ドニエル「もう少し待ってくれ。こちらが片付いたらすぐに救援に向かう」

ディアナ「よろしく」

ドニエル「ギセラ! カシーバ・ミコシの格納庫に何かあるか?」

ギセラ「いえ、何も。あ、いま停電しました」

ドニエル「丸腰なんだな。よし、それならもう十分だろう。ディアナ艦隊の救援に戻るぞ」

メガファウナが180度回頭するさまを確認することもせず、ベルリとラライヤは接触回線を開いてザム・クラブの様子を探っていた。G-セルフとG-アルケインは手を繋いだままジッと敵を観察した。

ザム・クラブが発するどす黒い憎悪には、空間を歪めるほどの威力があった。その残留思念は強大で、周囲を圧する力があった。

ベルリ「あいつを何とかしなきゃいけない」

ラライヤ「ええ」







だがふたりはその様子を遠くで見つめている視線には気がついていなかった。

薔薇のキューブの中で多くの職員たちと食事を摂っていたジムカーオは、ふいに呆れたように両手を広げてスプーンを放り出した。

ジムカーオ「あの男もニュータイプじゃないのか? やはり地球育ちではダメなんだろうな。ルインですらこれほどまでに鈍感なのに、レイハントンはよくもまぁ500年も猶予を取って待たせてくれたものだ。ヘルメス財団1000年の夢が聞いて呆れる。人間は原始時代からまるで進歩などしていないではないか。やはりオールドタイプは絶滅させるしかない。地球文明再興派の子孫など最初から皆殺しにして地球を奪っていけばよかったのだ。大執行を一方的な虐殺にしないためにわざわざニュータイプを探してやったのに、見つかるのは強化人間の残留思念と悪意ある人間の残留思念ばかりだ」

今来・女性「虐殺の汚名を着るとフォトン・バッテリーの配給は望み薄になりますね」

ジムカーオ「ビーナス・グロゥブのラビアンローズは内部が破壊されてしまったそうだから、こっちまで攻めてくることはないだろうが、なぁに、文句を言ってきたらレコンギスタ派でも焚きつけてラ・ハイデンを失脚させてやるさ。向こうの連中は金星暮らしに心底懲りごりしているんだ。地球人を皆殺しにし、レイハントン一味を排除して、レコンギスタさせたのちにムーンレイスの技術で文明を再興させれば文句は言わないだろう。ディアナ・ソレルとは話したが、あれは賢いから戦争が終われば条約は締結できる。心配はいらんよ」

今来・男性「結局我々は500年間待たされただけですか。そんなに我々のアンドロイド技術を怖れたんでしょうかね?」

今来・女性「モビルスーツで戦争なんかやっているから強化人間という発想になる。真のニュータイプ研究を突き詰めて完成させた我々の敵じゃなかったんですよ。ただわたしたちは遅れて戻ってきただけ。ニュータイプを長年食べてきたわたしたちが1番進歩しているに決まってるじゃないですか」







メガファウナに残ったノレドは、G-セルフとG-アルケインが、つまりベルリとラライヤが手を繋いでいる様子を小さなモニターで眺め、見送っていた。

彼女はパイロットスーツを着てモビルスーツデッキにいた。彼女のそばにはコクピットを再び封印されたG-ルシファーがある。

ノレド「なんであたしはニュータイプじゃないんだよぉ。なんでラライヤとベルリなんだ? なんであたしじゃダメなんだよぉ。誰かあたしの死に場所を教えておくれよ・・・」

メガファウナはカシーバ・ミコシとふたりの仲間を残したままどんどん遠ざかっていった。


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この続きはvol:71で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第24話「砂塵に帰す」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第24話「砂塵に帰す」後半



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ターンXがNYの街への攻撃を開始して半日が過ぎていた。

逃げ惑うアメリアの市民は軍と民間が協力して供出した様々なバスやトラックに分乗して東海岸から各地へと散っていった。テールランプの赤い灯火がハイウェイに列をなしていた。

太陽が西の空に落ち、闇が広がっても市街を照らす街灯はひとつも灯らなかった。フォトン・バッテリーによる電力供給が止められたこともあるが、そもそも街灯がひとつも残っていなかった。

旧時代に国連本部があったという理由だけで宇宙世紀を生き延びた歴史ある都市は、いまは灰燼に帰そうとしていた。暴走した∀ガンダムによって巨大な都市の3分の1は消失し、舞い上がった砂塵が夜空にあるはずの星の瞬きを隠し不気味な漆黒を作り出していた。

風に煽られた砂塵はアメリア軍国防省の建物に容赦なく降り注ぎ、パチパチと鳴る音が止むことがない。広場に降り立ったグリモアが上空から近寄ろうとする∀ガンダムに対して必死の応戦をしていた。しかしグリモアがどれほどサブマシンガンで応戦しようとも、退けられるのは一時的に過ぎなかった。

数百年前に作られたとされるこの古代兵器と比べると、フォトン・バッテリー仕様の兵器はまるでおもちゃのように軽々しく、脆弱であった。アメリア軍は∀ガンダムと交戦しながら、自分たちの自信の源であったイノベーションの行きつく先に絶望していた。技術革新は人間を豊かにすると信じていたのに、得られるものは虚無のごとき自己否定だったのである。

その白い禍々しい機体は、まるで地球そのものと戦っているがごとく大地に対して正対し、両手両脚を大きく開いた姿勢で攻撃されれば上空に退き、しばらくするともうもうと立ち込める煙と砂塵の合間を縫って舞い降りては闇の中でさえ輝く虹色の粒子を撒き散らしてまた上空へと消えていった。

アイーダ「首都機能はワシントンに移します。あちらは大戦時に放棄したままですが、それでもこちらよりはマシでしょう」

大統領であるズッキーニがいち早く首都を脱出してしまったために、現場の指揮はすべてアイーダの肩にのしかかっていた。国防省の周囲には多数のグリモア隊が集まって必死の防戦を行っていたが、∀ガンダムにはまるで歯が立たない状況が続いていた。

軍の輸送機で政治家を逃がそうとしたところ、あっさりと∀ガンダムに撃墜させられてしまったために、市民の避難はトラックとバスをかき集めて行われていた。全米各地の軍もNYに集結しつつあった。必至の状況を裁こうとするアイーダの頭の中には、月の裏側の広大な空間で大艦隊戦を指揮するディアナ・ソレルの姿が思い描かれていた。

アイーダ(彼女に出来て、わたしに出来ないはずがない!)

いまや誰もかれもがアイーダを頼り、その指示を仰いでいたが、彼女は泣きごとひとつ言わずすべての事柄に指示を出し続けた。

レイビオは彼女のプライベートルームの隠し部屋から高性能の通信機を運び出していた。それはグシオンがアグテックのタブーを犯して作らせたもので、衛星を利用した遠距離無線通信機であった。メガファウナがベルリを救出するためにゴンドワンに潜入したときも、キャピタルに潜入したときも、これを使って連絡を取っていたのだ。

アイーダ「それだけは絶対に壊させないでください。いまはそれだけが命綱です」

そんな彼女の下に、待望の知らせが届いた。

セルビィ「連絡がふたつ。ひとつはハリー・オードさまより。ふたつめは海兵隊よりシルヴァーシップ潜入部隊の準備ができたと」

アイーダ「ハリーには∀ガンダムを破壊するよう伝えてください。シルヴァーシップ潜入部隊はわたくしが指揮を執ります。連絡が終わったらあなたもここから逃げてください。あの光の粒子は人間を殺しませんが、大量の砂に押しつぶされて死んだ人間がたくさんいます。地下もダメです。首都を移すワシントンへ!」

セルビィ「(髪を振り乱しながら)姫さまは?」

アイーダ「議会が始まればあなたが必要です。とにかくワシントンへ急いで!」

そういってもまだオロオロとその場を離れがたくしているセルビィの背中を押し、アイーダは台車に乗せた衛星遠距離通信機を押すレイビオと共に建物の外へと飛び出した。

アイーダを援護するためにグリモアが一斉射撃をした。サブマシンガンの轟音が辺りに響き渡る。秘書と共に軍のトラックに通信機を乗せたアイーダは、男性秘書にこれを自分の旗艦であるラトルパイソンに積み込むようにと指示を出し、そのあとは南西の方角を指さしワシントンへ向かえと怒鳴った。

サブマシンガンの轟音は止むことなく、火薬が破裂する閃光がアイーダとシルヴァーシップ潜入部隊の姿を断続的に闇夜に照らし出した。彼らは強襲用のホバーに乗り込んで砂に覆われた街へと出た。その上空で轟音が鳴り響き、2機の巨大なモビルスーツの影を映し出した。

ハリー・オードの金色のスモーは街を破壊し尽くそうとする∀ガンダムに体当たりをしてその上体を起こさせ、ビームガンを連射した。機体表面を弾かれた∀ガンダムは月光蝶の射出を中止してスモーに狙いを定めた。

2機は牽制し合いながら上空へと舞い上がった。滞空した砂塵が切れるとその巨躯は月光に照らされキラキラと光るふたつの影となった。海上には巨大なふたつの丸い影がある。クレッセント・シップとフルムーン・シップであった。その2機にはすでに多くの戦艦が護衛としてついていた。

ハリー「ホワイトドールを海面上へ押し出す。オルカは絶対にこいつを逃がすな!」

さらに投入されたスモーが編隊を組んでビームガンの閃光を∀ガンダムに浴びせ続けていく。地上からのグリモアの攻撃に加えて新たにやってきたディアナ親衛隊との交戦で、∀ガンダムは防戦一方となって都市部への攻撃を中断せねばならなくなった。

静寂を眼下に置きながら、スモーの編隊と∀ガンダムが戦い続ける。アメリアとムーンレイスの連合軍は共に戦うことで信頼を深め、徐々に連携が取れるようになっていた。

砂塵が舞う静寂の中を、アイーダと軍の海兵隊選抜20名が乗り込んだホバークラフトが進んでいた。夕刻まであった街並みはもうそこにはない。砂と剥き出しになった硬い大地が残るのみであった。

彼らが目指すのは、アメリア軍の軍港であった。ここも関連施設はすべて砂の山となっていたが、ある建物だけがそのまま残っていた。その中に、シルヴァーシップは係留されていた。

ホバーを降りた20名は工兵が砂を描き分けて作り上げた通路を通って、建物へと近づいた。地下へと降りる階段に辿り着いたとき、アイーダが制止して作戦の確認を行った。

アイーダ「シルヴァーシップと呼ばれる薔薇のキューブの戦艦は、ある方から無人艦艇だと聞いております。しかし確認されているわけではないので十分気をつけること。戦艦の中心部に中央司令室があって、そこにアンドロイドと呼ばれる女性型の人造人間が1体います。10名でそれを破壊すること。指揮はわたくしが執ります。街を破壊しているあの白いモビルスーツは、このアンドロイドというものが操作している可能性があります。必ず機能が停止するまで破壊してください。残りの10名はこの船に時限爆弾をセットしていってください。完全に破壊してくださって構いません。機爆破30分後にセット。全員時間通りに脱出すること。よろしいですね?」

シルヴァーシップに潜入したアメリア軍は指示通り二手に分かれ、アイーダが率いる10名はライトを装着した銃を構えて中央司令室を目指した。もう1隊は爆弾をセットしていく。確実にこの船を破壊するのが目的だったので、船首から船尾まで500以上の爆薬を仕掛けなければならない。

中央司令室を目指したアイーダは、不気味に静まり返る真っ暗なモビルスーツデッキから入った。そこにはYG-201というG-セルフの量産機が10機静かに立ち竦んでいた。このモビルスーツにも爆薬が仕掛けられた。アイーダたちは帰り道に迷わないように小さな丸いライトを仕掛けながら進んでいく。

通路に書かれた文字はアイーダたちが使っているユニバーサル・スタンダードの文字ではなかった。宇宙世紀時代は世界各地で文字も言葉も違っていたという。これを統一することがユニバーサル・スタンダードの意味であり、宗教を統一することがスコード教の意味であった。

ユニバーサル・スタンダードを使っていないということは、規格統一の話し合いに参加していないという意味であった。クンタラが独自の宗教を持つのも同様だ。クンタラはスコード教を成立させる話し合いに参加させてもらえなかったのだ。アイーダはこのふたつの共通性に気がついた。

ユニバーサル・スタンダードはムーンレイスが指向していた世界統一の方向性であった。アイーダは月面基地でディアナからその話を聞いてたる。ベルリが追い詰められたときにスコードの名を叫ぶように、ハリーはユニバースと叫んでいたそうだ。人類統一の夢がそこには託されている。

ムーンレイスの目指したものが、規格と宗教の統一に繋がっている。

おそらくそれを成し遂げたのは500年前にディアナ・ソレルを攻撃した初代レイハントンであろう。彼はムーンレイスの夢を奪って、ムーンレイスを月に封じ込めた。ムーンレイスはユニバーサル・スタンダードのプロトタイプの方向性を持っていたが、話し合いの主導権を取れなかったのだ。それはレイハントンの野望によって奪われたのだろうか。アイーダにはそうは思えなかったのだ。

彼らは縮退炉の技術を捨てるつもりはなかったのだ。スコード教に参加しなかったのも、それがアグテックのタブーを正当化するための装置であったからだ。外宇宙から最も早く地球圏へ戻ってきたムーンレイスには、宇宙世紀の技術体系が最も色濃く残っていたのだ。

アイーダ(元も早く地球へ戻ってきた古来が話し合いから弾かれたとするならば、最も遅く戻ってきた今来も話し合いに参加させてもらえなかったのではないか? もしそれが薔薇のキューブで暮らすエンフォーサーなのだとしたら、彼らはなぜシラノ-5やロザリオ・テンの中に隠れて何百年も大人しくしていたのだろうか? 何らかの取り決めがなければそんなことには耐えられないはずだ)

列の中央で守られながら考え事をしていた彼女は、隊列が止まったことに気づかず前にいた兵士にぶつかってしまった。前列に人が移動し、銃を構えた。

兵士たちの銃に取り付けられたライトが、銀色に輝く男の顔や胸を捉えていた。

それは女性ではなかった。姿かたちは男性そのもので、痩躯のアジア系の特徴を保っていた。

エンフォーサー「あなたがもうひとりのレイハントンですかな。自分はジムカーオ。随分と困ったことをしてくれるものです」

アイーダは兵士たちの前に進み出て、まだ撃つなと命令した。

アイーダ「あなたがキャピタル・ガード調査部のジムカーオ大佐なのですか?」

エンフォーサー「いかにも。といってももちろんこれはただの思念の入れ物の機械ですが。それよりあなた方は何をもって法王庁に逆らっているのですか? このままではフォトン・バッテリーも尽きるのではありませんか?」

アイーダ「あなたこそなぜ世界を宇宙世紀に戻そうというのですか? 目的はなんです?」

エンフォーサー「もちろん世界を元通りにすることです。そのためには人類が戦争を止め、ばら撒かれたままのヘルメスの薔薇の設計図を回収しなければなりません。そうでしょ?」

アイーダ「そうですけど、あなたは戦争を焚きつけているし、ヘルメスの薔薇の設計図は拡散してしまってすぐにどうこうできるものではないのです」

エンフォーサー「戦争を止めるというのはね、どんなに焚きつけられ、煽られても戦争を起こさないことであって、一時的に休戦することは戦争を止めることにはならないのですよ。自分は多くの人間に関与しましたが、誰もがみんな戦い、壊し、裏切ることを選んだ。目先の勝利を求めたわけです。だからこうなった。アメリアと休戦協定を結んだゴンドワンは、間もなく核施設を攻撃して、地域一帯を放射能汚染で穢してしまうでしょう。∀ガンダムの利用も、ターンXの利用も同じです。あなた方は破壊のためにしか利用しなかった。違いますか?」

アイーダ「違わないかもしれませんが、人間はそんな一足飛びには変われません。何をするにも時間は掛かりますが、だからといってあなたのように時間を宇宙世紀に戻すことは言語道断です!」

エンフォーサー「宇宙世紀といっても長いのですよ。それに、戦争というものを反省して人間の新しい時代を作り出そうという考えは、もう1000年も前に始まっているのです。それには大きく分けてふたつの考え方があります。ひとつは言語と宗教を統一して争いごとの種を摘み、アグテックのタブーを用いてイノベーションを抑制しつつ発展しようという考え方です。あなた方アメリアが革新を担い、キャピタルが保守を担いました。保守と革新が互いを牽制し合いながら、戦争なき発展を目指そうとしたのです。これは民政を前提にした発展方法です。もうひとつの方法は王政による統治方法です。優れた人間が、劣った人間を善導しながら社会を発展させていく方法もまた、平和への道であるのです。お判りですよね?」

アイーダ「わかります。わかりますけど・・・」

彼女はいまにも銃口を開きそうな兵士たちを必死に抑え込んだ。

エンフォーサー「対話を拒否するのならいますぐにでも撃ってもらって構わないのですが」

アイーダ「いえ、納得する話があるまでは撃たせません」

エンフォーサー「人類が民政と王政のいずれを選択するかは、1000年の猶予をもって決することになり、リギルド・センチュリーが始まったのです。この場合、王というのはあなた方レイハントンのことではありませんよ。覚醒したスペースノイドによる旧人類の支配体制が王政になります。つまり、ニュータイプこそが王であり、人類を善導する指導者になるのです」

アイーダ「ニュータイプ・・・」

エンフォーサー「優れたニュータイプは超越者です。人と人との断絶を超え、時間を超えます。あなたはミック・ジャックという方の残留思念と遭遇したはずです。あの方は力が弱かったが、強い力を持つ人もいるのです。そうした方々の支配の下で人類は平和を享受できると」

アイーダ「納得できませんね」

エンフォーサー「それはあなた方アメリア人が革新的役割を負ったからそう感じるのですね。では実際、民政的方針で世界に平和は訪れましたか? クンパ大佐がヘルメスの薔薇の設計図を流出させただけであなた方は何をしでかしましたか? 1000年の猶予はもう過ぎたのです。そもそも猶予は500年のはずだった。それをレイハントンが自らをニュータイプだと詐称してまでさらに500年延ばした。もうこれ以上は待てないのです。民政が失敗したなら、リギルド・センチュリーはこれでおしまいになります」

アイーダ「いや、待ってください。そもそもそんな取り決めが1000年も前になされた訳は?」

エンフォーサー「ずっと戦っていたのですよ。ジオンがサイド3の独立を宣言してから、途方もない時間、外宇宙にまで進出して、ずっと戦い続けてきたのです。そのふたつの両派が争い、殺し合ってきたのです。あなた方はわたしたちを宇宙世紀存続派であると見做しましたね? それは間違っていません。なぜなら、王政、つまりニュータイプが支配する新世界に、タブーは必要ないからです。宇宙世紀の技術を使っても、戦争は起きないのです。こんなことは最初から分かっていたことなのに、我々が遅れて地球圏に戻ってきたことをいいことに、レイハントンはさらに500年の猶予を勝手に作った。それでも人類の破滅を避けるために、500年の猶予を我々は受け入れた。その間にビーナス・グロゥブではムタチオンが酷くなってスペースノイドは過酷すぎる運命に晒されたのです。その間、アースノイドは何をやっていたというのか。・・・さて、もういいかな?」

ふいにジムカーオの姿をしたエンフォーサーは話を止めた。すると皮膚をナノマシンで覆ったアンドロイドは女性型へと戻った。

アイーダ「いますぐあれを破壊してください」

彼女の合図で一斉に銃弾が放たれ、エンフォーサーは火花に包まれてその場に崩れ落ちた。

アイーダ「撤退します。時間稼ぎをさせられただけでした」

シルヴァーシップの突撃部隊が船内を離れてすぐ、仕掛けた時限爆弾が起爆し、シルヴァーシップは炎に包まれた。ホバーに乗り移った隊員らは急ぎ国防省へと戻った。







∀ガンダムのコクピット内で失神していたロルッカ・ビスケスは、目が覚めると咄嗟にコントロールレバーを引いた。するとまるで反応しなかったはずの∀ガンダムに操縦できるようになっていた。眼下では激しい炎が巻き起こっていた。そして自分は海の上にいた。

ロルッカ「冗談じゃない。こんな危なっかしい機体に乗っていられるか!」

彼はコアファイターを分離して逃げようとした。コアファイターは無事に分離された。しめたと喜び勇んだ彼は、ゴンドワンのある北東に機首を向けた。その直後、彼の乗るコアファイターは見慣れないモビルスーツの銃撃を受けて炎に包まれた。

ロルッカ「なんでオレを撃つんだ? オレは何も悪くないじゃないか。ただ武器を売っていただけだ。みんなが欲しがるから売ったんじゃないか! こんなのおかしいだろ? なぜ・・・」

ロルッカを乗せた∀ガンダムのコアファイターは空中で爆発して四散した。

それを見ていたハリー・オードは、コアファイターが分離されてなお∀ガンダムが動き続けることに驚いていた。

ハリー「全機、あのホワイトドールは以前戦ったものとはまったく違う。何らかの改造が成されているはずだ。まったく別の機体として・・・」

彼の左後方に陣取っていた銀色のスモーが突然炎を上げて墜落した。

ハリー「どこから攻めてくる? 下かッ!」

シルヴァーシップの大爆発の炎の中から、YG-201が飛び出てきてスモーを攻撃し始めた。ディアナ親衛隊のスモーは∀ガンダムと10機のYG-201に挟撃される形となった。

ハリー「いかん、ここは撤退する。各機、散開ッ!」

バラバラに攻撃をかわしながら逃げ惑うスモーをよそに、∀ガンダムと10機のYG-201は一塊となってディアナ親衛隊と対峙したが、すぐに方向を変えて南へ向かって飛び去っていった。

親衛隊A「追いかけますか?」

ハリー「いや、アイーダに報告することもある。ここは撤退だ。(通信を切り替え)アイーダ総監、聞こえるか。ホワイトドール・・・∀ガンダムが南へ向かった。YG-201というのも一緒だ。南には何があるのか?」

アイーダ「ハリー・オード? 南には・・・キャピタル・タワーがあります!」







ゴンドワン正規軍の爆撃機は、キャピタル・テリトリィを絨毯爆撃したものと同じ機体であった。

落陽前に出撃した彼らはそのまま北方を目指して飛んだ。眼下に見下ろすかつて首都だった場所には明かりひとつなく、墨で塗りつぶしたかのように真っ暗になっている。その様子を目にしたゴンドワンの兵士から、躊躇いというものが消えてなくなっていった。

彼らは闇の中を飛行し、クンタラ支配地域に向けて飛行中であった。そこはかつて自分たちの国であった。そこにクンタラが流入してきて彼らの土地を奪い去っていた。

すでに街が放棄されて住民が流民になっていたことは彼らには関係がなかった。土地が奪われた事実だけが重要だったのだ。兵士たちにとってクンタラ国建国戦線は、ゴンドワンがアメリアとの戦争に全精力を上げているときに狡猾に土地を奪った赦されざる者たちであった。

アメリアとの休戦協定もしくは和平協定がほぼ確定となったとき、ゴンドワン政府が真っ先に考えたことは奪われた土地の奪還であった。これは当然のことだったかもしれない。

戦場となったゴンドワンの首都と違い、クンタラ国建国戦線が支配する地域には煌々と明かりが灯っていた。それは宇宙世紀時代の原子炉を再利用したエネルギーだと彼らは聞いている。だが、原子炉の知識は彼らにはまったくない。アグテックのタブーに触れるものだとの認識しかなかったのである。

それもまた、熱心なスコード教徒の多い彼らには赦せないことであった。

遥か下方から対空射撃が行われ、闇夜にオレンジ色の光の粒が綺麗に浮かび上がった。だがそれらは爆撃機の高度までは届かなかった。目的地に達した彼らは、爆弾を次々に投下していった。巨大な炎が周囲を明るく照らした。爆弾が破裂するたびに街の借りが消えていった。

そして、投下した爆弾がかつて体育館だった場所に落ちると、しばらく間があってからとてつもなく大きな光球がその場所にいくつもできた。爆撃機は光球をともなった爆発が巻き起こした爆風によってコントロールを失いそうになったほどだった。

宇宙世紀時代の古びた原子炉が、連鎖的に爆発して周囲一帯の建物を吹き飛ばし、飛び散った炎が山々に火をつけていった。原子炉の恩恵によって真昼のように明るかった街は、核爆発の炎によってさらに激しく、昼間のように輝いた。

爆撃機は炎が燃え広がるのを確認すると、大きく右に旋回して南部地域へと引き返していった。

爆撃機の両翼と尾翼に灯るライトを、ミラジ・バルバロスはずっと見ていた気がした。だがそれが本当の記憶なのかどうか確認するすべは彼にはなかった。焼けただれて骸骨に溶けた肉が張り付いているだけの彼は、動かない瞳を空に向けるしかなかったのだ。

ロルッカ・ビスケスがアメリア近くの海上で撃墜されて死んだ時間と大差なく、ミラジ・バルバロスは核爆発に巻き込まれて死んだ。

レイハントン家を裏切り、武器商人となって利益を上げてきた彼らは、自分たちが仕えてきた王家がどんなものか知ることなく死んでいった。

クンタラ国建国戦線の中心都市は、一夜にして消滅した。

生き残った者は南を目指して夜を徹し徒歩で移動していた。そんな彼らの目の前に迫って来たのは、ゴンドワンの地上軍であった。アメリアのノルマンディ上陸を警戒して南部に張り付いていた陸軍が、必死の行軍で北方地帯目指して駆け上がってきていたのだ。

明け方近く、核爆発の災害を逃れてきたクンタラたちに、最初の砲撃が加えられた。

安住の地カーバを目指し、夢に溢れてやってきた保守派のクンタラたちは、自分たちが砂塵に帰したゴンドワンの首都に辿り着く前に、一方的に虐殺されていった。

その行為を懺悔するゴンドワン兵は皆無であった。


(ED)

誤字・変換ミスが多くてすみませんねー。


この続きはvol:70で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第24話「砂塵に帰す」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第24話「砂塵に帰す」前半



(OP)


クリムから接収した∀ガンダムは、その機構解析のために封印されたまま横たわっていた。

解析作業はジット団委ねられ、キャピタル地域での戦闘に参加した彼らの帰国を待って行われることになっていた。シートを被せられた機体に興味を示す者はなかった。

そこにやって来たのはNYでキャバレーを経営するカリル・カシスと逮捕されたはずのロルッカ・ビスケスであった。

カリル「この借りは必ず返してもらいますからね」

周囲を見回したカリルはロルッカを∀ガンダムが横たわるジット団の工場へと案内した。工場といってももとは海沿いの廃倉庫だった場所を使っているだけであったが。

ロルッカは真っ赤な顔で憤慨していた。

ロルッカ「信じられん。姫さまがオレを逮捕させたというのか? ずっとレイハントン家に仕えてきて、レイハントンさまがノウトゥ・ドレットに殺された後もレジスタンスとして頑張って、ずっと坊ちゃまと姫さまを探し続けてきたこのオレを、逮捕させた・・・」

カリル「何があったのかはあたしゃ知らないけどさ、そりゃ武器の密売をやってりゃ危ない橋を渡ってるとわかりそうなもんだけどねぇ。とにかくルインに頼まれてなけりゃあたしだってこんな危険な真似はしないんだ。それからあんたが貯め込んでた金はきれいさっぱり使っちまったからね。怒るなよ。あんたを釈放させるのにどれだけ賄賂が必要だったと思ってるんだい。いいからそれに乗ってゴンドワンでもどこでも行っちまいな」

ロルッカ「これはルインが乗っていたモビルスーツじゃないか。なんでこんなものがここに・・・」

カリル「(周囲を気にしながら)さぁね。とにかく死にたくないならさっさと逃げるんだね。もうあたしは帰らせてもらうよ。こんなところ誰かに見られちゃあたしまで破滅しちまう」

何か言いたげなロルッカをそのまま残して、カリル・カシスは立ち去った。不満顔のロルッカだったが、レイハントン家に見捨てられたショックは大きく、最後には力なく∀ガンダムのシートを外してコクピットに乗り込んだ。

∀ガンダムはジムカーオ大佐の指示の下で発掘され、いったんキャピタルの南にある国境沿いの軍事基地跡地に運ばれた。騙されてホズ12番艦に乗せられたジット団のメンバーが、コクピットだけをユニバーサル・スタンダードに換装させている。認証も新規登録するだけにセットされていた。

ロルッカはコクピットに座って計器類を確かめた。

ロルッカ「これなら動かせそうではあるが・・・。こんな宇宙世紀時代のポンコツでゴンドワンまで逃げて、またあのチンピラみたいなクンタラの連中と顔を合わすなんてオレにはできない。どうする? やはり姫さまを頼って許してもらうか? いや待て。オレは法王庁の仕事を請け負っただけだ。武器の横流しをしていたわけじゃない。全世界に売り歩けと命令されたんだ。そもそも不当逮捕なのだ。謝る必要などないはずだ。だが、裁判は怖い。地球人に裁かれるなんてまっぴらだ」

彼はコクピットに座ったまま大きく溜息をついた。しばらく彼は考え、やがて決心した。

ロルッカ「とりあえずミラジと合流するか。これは何かの行き違いなのだ。ミラジに取りなしてもらうように頼むしかない。姫さまだってきっとわかってくれる。これは間違いなんだ」

彼は機体を立ち上がらせた。目立つことをしたくなかった彼はそのまま歩かせて海へ出て、大西洋を渡るつもりでいた。コンソールにはゴンドワンまでの飛行ルートが表示され、自動操縦にセットすることもできそうだった。

ロルッカ「これならなんとか」

彼が安心したときだった。∀ガンダムは突如自動操縦に切り替わり、倉庫の天井を突き破って一気に200mほど上昇した。シートベルトをしていなかったロルッカは天井でしこたま頭を打って力なく崩れ落ちた。∀ガンダムはさらに高度を上げた。

そして下に広がる街を見下ろし、何かの解析を始めたのだった。その行為はノレドがG-ルシファーでビーナス・グロゥブの薔薇のキューブの内部を破壊したときと同じであった。

驚いたロルッカは必死にコントロールを取り戻そうとしたが無理であった。コアファイターだけでも切り離そうとしたがこれもできなかった。どこをどう触ってもまるでいうことを聞かず、まるで機体そのものに意思でもあるかのようだった。

彼は痛む頭を押さえながら、シートベルトだけをして、こんなときに地球は便利だとノーマルスーツの必要がないことを感謝した。∀ガンダムはさらに上昇して1番高いビルを見下ろすほどに達すると、ぐるっと回って周囲にあるものを解析していった。

∀ガンダムは、破壊すべき文明の痕跡を探していたのだ。

陽光を浴びて白く禍々しく輝く機体は、やがて計算が終わると大きく両腕を天に掲げ、その姿勢のまま地面に対して水平になると、光の粒子のようなものを撒き散らし始めた。驚くことに、それに触れたものは一瞬で消え去った。そして後には砂塵だけが舞ったのである。

ロルッカ「こ、これは・・・。これはダメだ。誰がこんなことを考えた? ああ、街が消えていく・・・。だ、誰かこれを止めてくれぇ」







ゴンドワンの特使はアメリア大統領ズッキーニ・ニッキーニには会おうともせず、直接アイーダの元を訪ねてきた。アメリア軍総監執務室に通された特使は、すぐさま戦争の終結とクンタラ国建国戦線を共同で駆逐できないかと相談を持ち掛けてきた。

アメリアとゴンドワンはクリムトン・テリトリィという名称を認めないことで一致。ただし法王庁への対応では意見が分かれた。クンタラ建国戦線に備蓄分のフォトン・バッテリーを強奪された彼らは法王庁にすがればバッテリーの供給が許されるかのような甘い考えを持っていた。

アイーダはトワサンガで起こったことを手短に説明したのだが、そもそもトワサンガについて大した知識のない彼らには事情が複雑すぎて理解が及ばないだけでなく、法王庁の発表がアメリアの立場を弱めていると勘違いしており、彼らはいまこそアメリアに恩を売るときだとすら考えてやって来ていた。

アイーダ「法王庁にとりなすとのことですが、ご説明したように法王庁そのものと戦っているのです。キャピタルの住民は法王庁から自分たちの土地を取り戻さねばならないわけです」

特使「いえ、待ってください。法王庁と戦うとおっしゃるが、それではフォトン・バッテリーは永久に供給されないのでは?」

アイーダ「みなさまもご覧になったように、ビーナス・グロゥブのクレッセント・シップとフルムーン・シップは彼の地の総裁より直接預かるよう我々が承っており、トワサンガについても、発表は伏せておりましたが、王家の正統な血筋はベルリ・ゼナムという若者にあるのです。わたくしもそうです。トワサンガとビーナス・グロゥブの考え方は一致しておりますが、それを邪魔している者がおり、現在それらと宇宙で交戦中なのです」

特使「法王庁の発表を認めながら、非はないとおっしゃるのですか? 呆れた人だ」

アイーダは何かを言いかけたが、それは口にせず特使をホテルに送り返した。結局会談は何も決まらないまま終わった。

レイビオ「ゴンドワンの特使と組んでクンタラ国建国戦線と戦うのは国内のクンタラへの立場上慎まれた方が良いので、交渉決裂はやむを得ないかと」

アイーダ「(背もたれに深く沈み)そうですね。それにしてもたかがテロ組織に国の半分以上を取られるというのは一体どんな魔法を使ったというのでしょう? ゴンドワンの国内情勢についてもっと聞き出せればよかったのですが・・・」

レイビオ「こちらの調べで、ゴンドワンにおけるクンタラ指導者はルイン・リーという人物だと判明しております。もとキャピタル・アーミー所属、別名マスク。現在は法王庁からキャピタル・テリトリィの領主に任命されています」

アイーダ「マスクのことならよく知っています。薔薇のキューブのジムカーオという人物は、法王庁とクンタラを上手く使って現在の状況を作り出したようです。それにクリムですね。野心のある者が騙され、彼に利用されている。そして悪いのは全部わたしと弟になすりつけている。狡猾な男です」

レイビオ「(用紙を手渡し)ゴンドワンとキャピタルのフォトン・バッテリーが尽きかけているのは確かなようです。ゴンドワンにはもう侵略してくる余力はないでしょう。姫さまのお話では、支援しているキャピタルのレジスタンスもすべてこちら側とか。それが本当なら、アメリアは安泰です。ただし、議会は困難ですぞ」

セルビィ「議会対策についていくつか方向性をまとめてありますが、クリム・ニックの生存をどう使って・・・」

そこまで話したところで、ドアをノックする音が響いて会話は中断された。

アイーダ「お入りなさい。何事ですか?」

飛び込んできた男の報告を聞いたアイーダは、慌てて執務室の窓を開けた。すると青空を背にした1機のモビルスーツが上空に浮かんでいるのが見えた。

そのモビルスーツは七色に輝く何かを撒き散らした。するとその下にあった建物が跡形もなく消え去ったように見えた。まるで夢でも見ているかのようだった。とても美しい光景であるのに、それは紛れもなく破壊行為なのだった。

アイーダの目の前で街がどんどん消えていった。ビル群は跡形もなく消え去り、道路には砂塵が舞い降りた。緑の区画はそのままで、人工物だけが消え去っていく。

白昼に輝く虹の粒子が、街を砂漠に変えようとしていた。

アイーダ「すぐに全軍の召集! 警報を鳴らして! 警察を動員して市民を地下に避難させてください!」








ゴンドワン正規軍はアメリアとの大陸間戦争を諦め、残存兵力すべてをクンタラ狩りに投入する決定をした。

彼らが愛してやまなかった首都はすでになく、そこには砂に覆われた荒涼とした光景だけが残っていた。しかし公園や小さな森などはそのまま残っており、雨が降り積もった砂を川へ流せば復興できそうだとの情報がもたらされている。ゴンドワン政府はこれにすがった。

フォトン・バッテリーの備蓄はクンタラ国建国戦線に奪われほとんど残っていなかったものの、イザネル大陸政府との間にソーラーパネル供給と引き換えにフォトン・バッテリーを譲り受ける契約が成立して当座はしのげる見込みがついていた。季節が夏であることも幸いした。

今回の作戦は、イザネル大陸から提供されたエネルギーの3分の1を消費する大規模な戦闘が予定されており、人口規模でゴンドワン市民と匹敵するほど膨れ上がったクンタラたちを殲滅することが目的であった。元来クンタラ差別が根強い地域だけに、兵士たちはいきり立っていた。

作戦指揮官はクンタラ国建国戦線にモビルスーツが不足していることをすでに確認しており、最初の攻撃は大規模な空爆を予定していた。問題は北方地域の広範囲に拡がった占領区域のどこを攻撃するかであった。人口の多い地域を狙うとの意見に対し、ひとつの有力な案が提示されていた。

司令官「では連中はこの小さな町を最初に占領したというのだな。周辺の森の木はほとんど切り倒されているのに彼らは難なく冬を越して南進してきたと」

諜報員「当時まだフォトン・バッテリーは奪われておらず、彼らも流民が放棄した街をただ占拠しただけだったようです。ところが木もないのに彼らは冬を越した。そこで調べてみたところ、キャピタル・ガードに提供していたホズ12番艦がこちらに戻って、クンタラに使われている。しかもキャピタルから多くの大型船舶がやって来て、彼らの支配地域に巨大な何かを運んでいるのです。専門家の分析では原子炉ではないかと」

司令官「原子炉などアグテックのタブーに触れるではないか。そんなものを連中が組み立てたとでもいうのか?」

諜報員「おそらく発掘品でしょう。宇宙世紀初期からトリウム原子炉を始め様々な原子炉がMSに搭載されていたので、それを掘り起こして運んだのです。幸いゴンドワンにはあまり埋まっておりませんが、キャピタルやアメリアにはかなり多くありますから。そこを叩けば、周辺地域のクンタラたちはもう冬を越せません。防衛戦を張って、北方に封じ込めるのです」

司令官「だが原子炉を叩くのは・・・」

諜報員「無論ご決断は閣下にお任せいたしますが、入植してきたクンタラの数は膨大で、彼らひとりひとりを叩いている余裕はないかと思われます。大量破壊兵器がない現状・・・」








たった1機のモビルスーツにまるで歯が立たないことにアメリア軍は焦りの色を濃くしていた。

NY上空に突如出現した白いモビルスーツを撃墜するため、国境守備隊から正規軍まで動員されながら、ことごとく蹴散らされるばかりか兵器が一瞬で砂に変えられる恐怖は指揮系統を散々に乱して余りあった。空に輝く太陽は、もうもうと立ち込める砂塵に黄色く歪んでいた。

アメリア軍総監アイーダ・スルガンは、近接戦闘を諦めてロングレンジからの砲撃と戦闘機によるミサイル攻撃に作戦を切り替え、戦艦出撃の準備を急ぐように指示していた。

しかし、どれほど火力を集中させようとも、∀ガンダムはびくともしなかったのである。

攻撃を続ける意味は、砲火に晒されている間は虹色の粒を放出しないためであった。少しでも攻撃の手を緩めると、∀ガンダムはすぐさま態勢を整えて都市を破壊し尽くすように虹色の粒を撒き散らすのだった。アイーダはムーンレイスの基地で耳にしたG-ルシファーの機能を思い出していた。

アイーダ(ノレドさんがビーナス・グロゥブの薔薇のキューブを攻撃したときは、エンフォーサーユニットというものが暴走したからだと言っていた。しかしあれはクリムが普通に操縦していた機体だ。宇宙世紀時代のものかもしれないけど、エンフォーサーユニットとは違うもののはずだが・・・)

アイーダはアメリア軍総監執務室を離れてはいなかった。彼女は屋上へ出て、ミサイルやグリモアの射撃を受けるたびに燃え上がり、もうもうと煙を上げる∀ガンダムを眺めていた。昼過ぎから始まった戦闘は長引き、太陽は西の空に落ちようとしていた。

男性秘書「姫さま! 早く避難を!」

建物のすぐ近くでミサイルが誤爆した。爆風がアイーダの髪を大きく乱した。

女性秘書「姫さま!」

アイーダ「(サッと踵を返し)クリムから接収したシルヴァーシップを調査します。20名ほどの特殊部隊を組織するよう命じてください。それからすぐエル・カインド艦長にクレッセント・シップとフルムーン・シップを大西洋上へ避難させるようにと。至急です」







ジャングルの中の作戦本部に鎮座するケルベスの下に、助っ人としてジット団とミラーシェードという人物がやってきた。ミラーシェードは、変装したクリム・ニックであった。ケルベスにはすぐに分かった。問題は彼に恨みを持つレジスタンスのメンバーに見つかった場合であった。

ケルベスは夕闇のジャングルの中にクリムを誘い、ふたりきりで話をした。トワサンガで薔薇のキューブを見ることになったケルベスには、クリムに対する悪感情はなくなっている。彼もまたジムカーオ大佐に利用されただけの哀れな人間だと知っているからだ。しかも、ミック・ジャックも失っている。

ケルベス「そこでだ、天才を見込んで頼みがある」

クリム「なんだ?」

ケルベス「君がゴンドワンから連れてきた若者たちだが、あの子らはまだ君を信奉しているのだろう? もしそうなら、彼らを説得してこっちの味方につけてもらいたい。クリムもあの子らも、もうゴンドワンには戻れない。だとしたら、宇宙移民を考えてはくれまいか?」

クリム「ああ、その話か」

ケルベス「そうだ。これはベルリの発案なのだが、スペースノイドとアースノイドの決定的な違いは労働に関する価値観の問題だ。壁1枚隔てた向こう側が真空の宇宙に住むスペースノイドは、労働について非常に厳しい価値観をもって生きている。だからこそ、だらけた地球人が我慢できない。逆にアースノイドはスペースノイドの厳しい労働倫理をいつまで経っても理解しない。ここにスペースノイドとアースノイドの決定的な違いがある。そこで、ベルリは人々に一定期間宇宙で暮らすことを義務付けられないか検討しているんだ。宇宙まで行けなくても、キャピタル・タワーで訓練するだけでも全然違う。これは君が考えた地球人の幸福とは違うかもしれないが、ひとつの幸福の形になり得るものなんだ。オレは今回の問題に巻き込まれたゴンドワンの若者と、クンタラの若者をなんとかこのプログラムに参加させたいと願っている。手伝ってはくれまいか」

クリム「その話はアイーダから聞かされている。だが、ケルベス中尉殿はオレが単独行動を取ることになっても平気なのか? オレをまだ信じるのか?」

ケルベス「信じるさ。人間だからな。オレがキャピタル・ガードの教官になったのは、初めて宇宙空間に出たときの感動と緊張を子供たちに教えてやりたかったからなんだ。クラウンの守備隊というのは、アースノイドとして唯一宇宙を体験できる職業だった。宇宙に出て、地球にいたときのようにふざけては生きられないということを知ったとき、オレの中で何かが変わった。大人になった気がしたんだ。だから、ベルリの話を聞いたとき、それは人間が変われるチャンスを得る話だと思った。いままではそれをキャピタルの人間が独占していたが、誰もが体験できるならば、本当に大陸間戦争なんて起きただろうかと。宇宙世紀という時代を我々は悪しき黒歴史として教え込まれるが、新しい時代を宇宙世紀と名づけた人間たちはオレが宇宙に出たときの感動と同じものを感じて、それで宇宙世紀と名づけたんじゃないのか? 宇宙世紀は、希望の名前だったはずだ。だが、アースノイドとスペースノイドは立場が固定されて意識の違いが埋められぬまま戦争を繰り返し、やがて生じた大きな利権が戦争の継続を人類に押し付けてきた。宇宙世紀は人の数が多すぎた。エネルギーが、資源が、過剰になっていた。しかし、いまの時代はどうだろう? 宇宙世紀を本当に繰り返せるのだろうか? いまの地球の人口で、資源の量で、それは可能だろうか? 誰もが必ず宇宙で労働の義務を果たす世界は、何かが変わるとは思わないか? 人が初めて宇宙に飛び出したときの感動を、オレは教師として子供たちに伝える仕事を続けていく。君はゴンドワンのやさぐれた若者たちを、宇宙に導いて欲しいんだ」

クリムは神妙な顔でケルベスの話を聞き、瞬き始めた夜空の星を見上げた。

クリム「ずいぶん感傷的な幸福論だが、そうか、子供たちを宇宙で働かせる時代を作ろうというのか。リギルドセンチュリーにそれはふさわしいことなのかもしれない。そうだな、モビルスーツで遊んでいる場合じゃなかったのかもしれん・・・」

ケルベス「そこでだ。まずはキャピタル・タワーを奪還しないことには始まらん。テリトリィ内にいるゴンドワンの若者たちについては君に任せる。オレたちはクンタラの連中をどうにかするつもりだ。法王庁にはまだ何もしないでくれ。あいつらは攻撃を利用する連中だからな」

クリム「了解した。では先にヘカテーで街へ潜入させてもらう」







暗室のように真っ暗な部屋で、ジムカーオは目覚めた。ビーナス・グロゥブで生まれ、長く地球圏で暮らしてきた彼はにとって漆黒は懐かしい故郷であった。しかし、暗闇の中に引きこもってばかりもいられない。身支度を整えた彼は部屋を後にした。

トワサンガから解放された薔薇のキューブには、2万人の乗員が暮らしていた。地球圏へ最も遅く戻ってきた「今来」である彼らは、ムーンレイスの次に早く戻ってきた「古来」であるレイハントン家と激しく対立した人々の末裔であった。

ジムカーオ「人と人の間にある断絶を乗り越えること、生と死の間の断絶を乗り越えること、これらにおいて我々より進んだ人類などいるはずがないのだ。最も長く外宇宙で暮らした我々が辿り着いた世界以上に完成されたものなどあるはずがない」

彼の拡張された感覚器官はエンフォーサーと繋がり、同時にシルヴァーシップと繋がっていた。シルヴァーシップの全機能が彼の感覚であった。そしてすべての艦艇、その操縦者であるエンフォーサーの間に垣根はなく、感覚で繋がっていた。

シルヴァーシップやエンフォーサーは、彼の眼であり耳であり手足だった。

ジムカーオ「ではそろそろ行くとするか。我々執行者を止められる奇蹟があるというのなら、ぜひ見せていただきたいものだよ、レイハントンの坊や」

彼は手を振り、全軍の地球への前進を命じた。

シルヴァーシップと薔薇のキューブは、静かに青い地球目指して動き始めた。


(アイキャッチ)


この続きはvol:69で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第23話「王政の理屈」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第23話「王政の理屈」後半



(アイキャッチ)


ゲル法王を前にして少しだけ緊張したハッパは、エンフォーサーについて話し始めた。

ハッパ「エンフォーサーというのは自立運動式の連動型人工知能で動くアンドロイドのことですが、その実態は拡張型サイコミュなんです。サイコミュはニュータイプ現象を増幅する装置ですが、エンフォーサーのものは人間の感覚器官の強化とは違った方向性のもので、残留思念を捕まえて増幅するものなんです。いわば人間の霊魂を取り込んで増幅させて実体化できる装置とでも言ったらいいでしょうか。つまり人間の意思情報が思念体として存在していることを前提としています」

話にラライヤも加わった。

ラライヤ「トワサンガの住人ならばさわりくらいは知っているはずですけど、ニュータイプは稀に起こる人間の感覚機能の拡張現象です。でもハッパさん、思念体、残留思念となるともはやオカルトの話になってしまう。人間の思念なんて死んだら消えるものじゃないですか?」

ハッパ「だから不思議なんだ。エンフォーサーはサイコミュだからニュータイプのアンドロイドじゃない。いわば空っぽ。何かがその中に入ることを前提にしている。ベルリが取り込まれそうになったのはそのためだ。そんなものがたくさんある。ぼくとノレドはG-ルシファーで薔薇のキューブに潜入してきたけど、シルヴァーシップはおそらくエンフォーサーで動かしている。連動型人工知能だからエンフォーサーが1台いれば船は動かせるし、エンフォーサー同士で連動させれば艦隊行動さえさせられるはずなんだ。エンフォーサーはニュータイプみたいなものだから、ミノフスキー粒子も関係ない」

ノレド「そこでメガファウナからこれを持ってきたんだよ」

ノレドは大きめのバッグのチャックを開けた。なかから取り出したのは、彼女がビーナス・グロゥブから持ち帰ったエンフォーサーの頭部だけであった。それを見たウィルミットは気味悪がってのけぞった。銀色の女性型の頭部には頸椎のところに通電させるための変圧器が簡易的につけられていた。

ハッパは鞄の中から取り出した他の部品を組み合わせ始めた。

ハッパ「手足があると何があるかわからないから、頭だけ完全に動くようにして、その下はサイコミュの最低限のパーツだけを組むことにします」

ラライヤ「(ハッパに部品を手渡しながら)わたし、ジムカーオに実験台にさせられそうになって、そのときに身体の中に誰かの残留思念が入っていると言われたんです。もしそうなら、その人物がこのエンフォーサーの中に入るかもしれない。もしそうならなくても、冬の宮殿にはたくさんの残留思念がいそうでしょ? だからここで実験しようって」

ウィルミットはオロオロしながらエンフォーサーの頭部とゲル法王の顔を交互に見比べた。

ウィルミット「みなさん忘れているかもしれませんが、それはアグテックのタブーもいいところで」

ゲル法王「いえ、神学者としてはとても興味深い実験です。人の残留思念などというものがあって、それが場に引き寄せられるというなら、その証拠をこの目で見たいという気持ちはあります」

ノレド「あたし(ハッパの作業を手伝いながら)G-ルシファーでビーナス・グロゥブの薔薇のキューブを攻撃しちゃったとき、もしかしたらラライヤの中にいた人が戦争はいけないって気持ちでエンフォーサーに入って攻撃したかもって思ってるんだけど・・・」

ハッパ「(組み立て作業を続けながら)もしそうなら、ラライヤの身体の中にいるニュータイプの残留思念は生前よほど強い能力を持っていたんだろう。残留思念なんてものがあるのかどうかはともかく、仕組みを見る限りそんなに長くは留めておけないはずだし、あっちこっち出たり入ったりできるならほとんどそれは幽霊みたいなものだ。G-ルシファーとG-セルフは座席がサイコミュシステムだから・・・。いや、待てよ。ラライヤの中に入ったり、サイコミュの中に入ったりしててもおかしくはないか・・・」

ラライヤ「実験していたとき、何かが中に入ってきた感じがあって、すごい覚醒感があったんです」

ノレド「確かにラライヤの様子はおかしかったよね?(ハッパに同意を求める)」

ハッパ「その人物がもしこのエンフォーサーの中に入ってくれたら、貴重な情報を聞き出せるかもしれないし、みなさんの研究の役にも立つかもしれない。じゃ、電気を通しますよ。ラライヤは中の人にこちらに入ってくれるようにお願いして。それから何かが身体から出る感覚があったらあとで教えてよ。いいかい、行くよ!」

ハッパはケーブルから引いた電極を変圧器に差し込んだ。

ラライヤ「(両手を前に突き出して力を入れる)ふん!」

電気が通ったことで、エンフォーサーの頭部は再起動状態となり、機能の回復にはしばらく時間が掛かった。何か思念を押し出すように両手を構えたラライヤは、そのままじっと動かずエンフォーサーに変化が起きるのを待った。1分ほど経つと、徐々にエンフォーサーが動き始めた。

ウィルミット「え?」

女性型ということ以外特徴のなかったエンフォーサーの顔つきが少しずつ変化を始めた。銀色の皮膚に見える表面がゆっくりと動き、何かの形になろうとする。

ハッパ「ナノマシンだ! うおおおおおおお!」

眼鏡をかけ直したハッパは小さな眼を限界まで拡げてその変化を目に焼き付けようとした。そのときだった。リリンが大きな声で突然泣き始めた。

リリン「パパ!」

エンフォーサーは男性の顔に変化した。その場にいる者の中でその人物を知っているのはリリンだけであった。エンフォーサーはリリンの父親の顔に変化したのである。

ゲル法王「(興奮した口調で)守護霊です。お父さまがリリンさんの守護霊になっていたんです」

ノレド「(唖然とした表情で)守護・・・霊」

リリンの父親の残留思念はかなり弱く、リリンに何かを語りかけようとしながらも、自分の顔の形を保つことさえおぼつかなく、その声は誰にも聞こえなかった。ただリリンだけがエンフォーサーの顔に抱き着きわんわんと泣き叫んでいる。

そんなリリンの姿を眩いばかりの強い光が照らした。ノレドやハッパ、ゲル法王とウィルミットも、光が差す方向に眼をやって仰天した。両手を突き出していたラライヤがその手を大きく包み込むように天に掲げ、身体から強い光を放っていたのである。

ラライヤの身体にはもうひとりの少女の姿が重なっていた。その少女はラライヤによく似た緑色の瞳を持つ美しい少女で、ラライヤの肉体を操っているように見えた。ラライヤとその少女が放つ光によって、冬の宮殿全体が神々しい光に包まれた。

彼女の目の前に、微かではあるがリリンの父親が立っていた。

リリンの父「娘がムタチオンに犯されないうちに地球へ連れて行きたくて、自分はガヴァン隊長と行動を共にしました。しかし力及ばず願いを叶えることはできませんでした。どうかみなさま、娘を地球に住まわせてあげてください。リリン、ふがいない父さんでごめんね。愛しているよ、ずっとずっと」

リリン「パパ! パパ!」

リリンの父親の姿は不意に消えてしまった。当たりに焦げ臭いにおいが充満して、ラライヤが放っていた光も消え、彼女はその場に崩れ落ちた。

ハッパ「いかん、サイコミュが焼けてしまった。(エンフォーサーの頭部の中を覗き込み)ああ、もうこれはダメだ。回路が全部ダメになった」

ゲル法王はウィルミットの袖を引いて何事か耳打ちをした。それを聞いて頷いたウィルミットがラライヤに駆け寄り、気を失った彼女の体をゆすった。

ノレドは泣き止まないリリンを強く抱きしめて自分も涙をボロボロとこぼした。

ノレド「リリンちゃん、あたしの家に連れて行きたいけど、あたしの両親も戦争で家が壊されて、いまどこにいるかわからないんだよ。なんでクリムはキャピタル・テリトリィを爆撃なんかしたんだ? なんでベルリはリリンちゃんのパパを殺さなきゃいけなかったんだ? なんでみんなこんなことしてるんだよ! 誰か教えてくれよ!」

そう叫んで、ノレドはリリンと共に大粒の涙をこぼし続けた。

その傍らに立ったゲル法王は、ラライヤがそうしていたように両手を広げて天にかざし、誓うようにこう言った。

ゲル法王「天の奇蹟は確かにあった。スコード教の原点なるものは、確かに存在している! 天にいらっしゃるラ・グー総裁! わたくしはいまあなたがおっしゃった宗教改革の意味を理解しました。わたくしは一命を賭して必ずやあなたの期待に応えてみせましょう!」





ルイン「ベルリを殺して何もかもを終わらせたい」

ザンクト・ポルトからカシーバ・ミコシに乗り込んだルイン・リーは、整列した元マスク部隊の面々に向けてそう訓示した。彼らは宇宙での戦闘経験を買われてジムカーオ直属となり、キャピタル・アーミーの解散に合わせて今回のクーデター計画の実行を担ってきた者たちであった。

正体を知られたルインはジムカーオと接触した際にこの計画を知らされ、自分はゴンドワン政府の瓦解を目指しながらいつか彼らと合流する日を待ち望んでいたのだ。

クンパ大佐の下で思うような結果が得られず、苦労を掛けたマスク部隊の面々の晴れやかな顔がルインには眩しく映った。

彼らはザンクト・ポルト最後の晩を飲み明かして過ごし、いまシラノ-5に向けて旅立とうとしている。

マスク部隊A「マニィさんとの間に女のお子さんがお生まれになったとか。おめでとうございます」

ルイン「ありがとう。いや、照れるな」

マスク部隊A「ルインさんもいまやキャピタル・テリトリィの領主。スコード教との歴史的和解が成立したのちにはシラノ-5の統治権も賜るとか。人類の敵レイハントンのベルリを叩いたのちは歴史上もっとも大きな権力を持つことになるのでは?」

ルイン「(シャンパンのグラスをテーブルの上に置き)いえ、ジムカーオ大佐のおっしゃっているのは、トワサンガと地球、とくにキャピタル・テリトリィまでが一体になっているとアピールしなければ、ビーナス・グロゥブからフォトン・バッテリーの供給再開の約束を取り付けられないということだと思うんです。いまは地球各地もバラバラ、トワサンガは王政も民政も機能していない、これではどう説明してもビーナス・グロゥブは説得できないと」

話し相手の男はニコニコ笑いながらもルインにそっと耳打ちした。

マスク部隊A「年はわたしの方が上だが、階級は君の方が上なんだから、敬語はいかんよ」

ルイン「自分はまだ領主だのには慣れておりませんので。しかし気をつけることにします」

クンタラたちはようやく巡ってきた我が世の春に浮かれ騒いでいた。地球の3大大国だったアメリア、ゴンドワン、キャピタル・テリトリィのうち、彼らは2つまで手に入れたのだ。もうひとつのアメリアは手に入れるまでもなくクンタラを差別しない実力主義の国である。彼らが喜び勇むのも無理はなかった。

ルインはもう少し年の若い話しやすそうな兵士を見つけて話しかけた。

ルイン「それで宇宙での首尾はどうだったのだ? 何もかも上手くいったのか?」

マスク部隊B「自分らはジムカーオ大佐の指示通りに動いただけです。トワサンガで苦労したのはガヴァン隊を追い出したときだけですか。あのときはすでに大佐が現地の人間を使って偽情報で誘導していたので、法王庁と自分らで叩き出すだけになっていました。ジムカーオ大佐というのは凄い人ですよ」

ルイン「確かに彼の計画は鮮やかというか、鮮やかすぎるというか・・・」

心配なのはその点だけであった。計画のすべてを立案し実行させたジムカーオ大佐は、たとえヘルメス財団の後押しと手引きがあったとしても侮れる相手ではなかった。それほど有能な人間が、自分を上に立たせずルインを押し立てて事を運ぼうと画策しているところがきな臭い点であった。

ルイン(クンパ大佐と同じビーナス・グロゥブの人間で、クンパ大佐と同じようにキャピタル・ガードの調査部に所属し、クンパ大佐とは違うことをやっている。これがどうも腑に落ちないのだ。クンパ大佐の目的を後で聞いたところでは、レコンギスタを演出することで人間同士を戦わせてスペースノイドの遺伝子を強化するというものだった。いわば戦わせること自体が目的だったのだ。しかし、ジムカーオ大佐は何かの決着に導こうとしているように見える。彼は結果が得られれば戦わす必要はないと思っている。だがその結果が一向に見えない)

ささやかなパーティーは解散し、カシーバ・ミコシはトワサンガに向けて動き出した。ルインの前には拘束具に全身を包まれたムーンレイスの捕虜2名が連れてこられた。

マスク部隊C「彼らが捕虜のムーンレイスです。名前はこちらがリック、こちらがコロン。ともにパイロットで、ディアナ親衛隊所属とのことです」

ルイン「拘束を一部解いてやれ。話が聞きたい」

兵士はリックとコロンの口を塞いでいた拘束を解いた。リックとコロンはカシーバ・ミコシに閉じ込められて連行されて以来、マスク部隊の尋問にも大人しく答えていたが、尋問する側にムーンレイスの知識がなく、話を聞いてもよくわからないことから独房に入れられたままになっていたのだ。

ルイン「わたしはキャピタル・テリトリィの領主ルイン・リーという者です。あなた方は古代種族のムーンレイスとのことですが、ムーンレイスのことを少し話していただきたいのです」

リック「あんたがここの責任者か? 1番偉いと思っていいのかな?」

ルイン「(苦笑しながら)立場上はそうなっています。しかし指揮を執っているのはジムカーオ大佐という人物ですが」

リック「だったら警告しておいてやるけど、レイハントンというのは怖ろしい人間で、生半可なことで勝てる相手じゃないからな。覚悟しておくことだ」

ルイン「(首を捻り)そのレイハントンというのは、ベルリ・ゼナムという少年のことか?」

リック「ベルリというのはあのホワイトドールの坊やだろう? 彼じゃない。彼の先祖のレイハントンだ。あいつは最も早く月に戻ってきた我々ムーンレイスから何もかも奪った男だ。クンタラなら今来、古来という言葉を知っているだろう? 最も早く月に戻ってきた我々が1番の古来、古株だ。ところがレイハントンは我々を月の内部に封じ込めてその文化を奪い、背乗りして自分が1番早く戻ってきたかのような顔をして外宇宙から戻ってきた人間たちの王に収まったのさ。本当ならば我々のディアナさまがそうなるはずだったのにな」

ルイン「わたしは地球で生まれ育った人間で、事情がよく呑み込めないのだが、それはいつのことなのだ?」

リック「たしか500年前とか言っていたな。そうだよな、コロン」

コロン「オレたちは500年間コールドスリープの中さ。お前にはわからないだろう? 500年前にレイハントンと戦った人間が目の前にいるんだぜ」

ルイン「500年前・・・、リギルド・センチュリー500年ごろのことか・・・」

リック「自分はアムロ・レイの生まれ変わりだとかぬかしてな、進化したニュータイプだから王になるのは自分しかいないのだと思い込んで、なんだか知らないが歴史の改編を始めたのさ。もっともオレたちは戦争で押されまくって、詳しいことは知らないけどな。アムロ・レイって誰だよって話で」

ルイン「アムロ・レイ・・・」

コロン「確かにヤツは怖ろしく強かったけどな。ベルリって坊やが同じくらい強いのかどうかはオレたちにはわからねぇが」

ルイン「しかしあなた方はそのレイハントン家と関係の深いアメリアと同盟を結んで法王庁にたてついたと聞いておりますが、これについて釈明はあるのですか?」

コロン「もともとオレたちはアメリアの人間なんだぜ。それでちゃんと条約でアメリアのサンベルト地帯に移住する約束になっていた。いろいろあってそれは叶わなかったが」

リック「レイハントン家の遺産を実質手に入れたのはジムカーオだぜ」

ルイン「(怪訝そうな口調で)そうなんですか?」

ルック「月の裏のコロニーはあいつが支配して、ベルリって坊やは入れてもらえなかったんだ。それでオレたちはコロニーをベルリの坊やに返すために戦ったのさ。あのベルリって坊やは、初代のようないけ好かない男じゃなかったしな」

コロン「月の裏の宙域だって元々はムーンレイスのものだ」

ルインは2人の話にウソはないと見抜いて、話題を変えた。

ルイン「わたしはシラノ-5に入り次第、何らかの交換条件を提示してあなた方を開放するつもりでおります。ところであなた方・・・ムーンレイスというのは、最終的にどうしたいと望んでいますか?」

リック「オレたちはディアナさまに従うだけだが、おそらくはアメリアに帰ることになるだろうな。もうそういう約束になっているかもしれない」

ルイン「まぁ、無駄な殺生をするつもりはありません」





キャピタル・テリトリィ周辺地区にはすべてのレジスタンス戦力が結集していた。彼らは全軍の指揮をケルベス・ヨーに委ねることを決め、勝手に兵を動かすことは固く禁じられた。

一方で法王庁はレジスタンス側が若者を無差別に殺し、女性に乱暴を働いたことを繰り返し非難していた。これについてはアメリア政府からもかなりきつい文言で警告が届いていた。もし今後同じことが起きた場合、レジスタンスへの支援を打ち切るとアイーダは告げてきたのだ。

世界の眼はレジスタンスへの非難に満ちていた。レジスタンスに参加していた人々は自分たちの正義を信じて疑わなかったために、彼らは酷く困惑した。ただ、どこの国家もフォトン・バッテリーが枯渇しつつあり、政治的なことより日常の心配の方が大きくなっていた。

アイーダが発表した「連帯のための新秩序」もクリムが発表した「闘争のための新世界秩序」も、事態の早期解決を約束した政治公約であったために、どの国も親身になってエネルギーの節約に取り組まなかったのは世界にとって誤算だった。

さらにクリムトン・テリトリィへの資金とエネルギーの供出が各国とも重しとなり、どこも経済が混乱し、治安も悪化してきていた。フォトン・バッテリーを供給してくれるのは法王庁とヘルメス財団であったために、どの国も法王庁に取り入ろうとする動きが活発化していた。

アメリアでは修正グシオンプランを支持する機運が高まり、エネルギーの自給なくして地球の真の独立はないと訴える勢力が議会を支配しつつあった。

そんななか、いまだに戦争を続けていたのがゴンドワンであった。

北方地区から中央地帯をクンタラ国建国戦線に実効支配されたゴンドワンは、南部に逃れた政府軍が反撃に出て、砂塵に帰したかつての首都跡地でクンタラ国建国戦線と激しく交戦していた。

政府軍にはエネルギーも戦力もほとんど残っておらず、戦いはクンタラ国建国戦線の有利のまま進んでいた。もし南部の政府軍が壊滅し、臨時政府が倒れることがあれば、ゴンドワンはクンタラのものになるというので、いまやアメリアに亡命したクンタラたちも戦いに加わり、ゴンドワン政府は風前の灯火となっていたのである。

しかし、彼らにも誤算はあった。ロルッカに手配を頼んでいたモビルスーツが届かなかったのである。それまでトワサンガ製のみならずゴンドワン製すら手配してくれていたロルッカからの荷物が届かなくなり、せっかくのフォトン・バッテリーが生かせない状態になりつつあった。

ミラジ「それをわたしに求められても困るんです」

ルインがいなくなったあと、彼の片腕として働いていたミラジは兵士たちから頼られることが多くなった。ロルッカへの手配も彼が行っていたために、モビルスーツが届かなくなった責任も彼に向けられる有様であった。

元々クンタラですらないミラジは、やはりルインについていくかアメリアへ渡っておけば良かったと激しく後悔していた。

クンタラ兵士A「ロルッカさんからの荷物もミラジさんが止めているって噂があるんですよね」

ミラジ「まさか。あいつはアメリアでオフィスを構えて派手にやっていたから、アイーダさんがクレッセント・シップとフルムーン・シップを引き連れて戻ってきたときに何かヘマをしでかしたんでしょう。とにかく誤解はよして欲しい。わたしは老人なんですよ」

クンタラ兵士B「もともと正規軍に対してモビルスーツが不足していたのに、予備のパーツも届かないんじゃいつまで優勢が保てるかわからない。何か打開策を考えていただかないと」

ゴンドワンに集まってきているクンタラたちはテロ活動も辞さない気の荒い若者が多く、トワサンガ育ちのミラジには手が余るものがあった。こんな連中を束ねていたのかと改めてルイン・リーという人間を評価した気にもなるというものであった。

ミラジ「YG-201については技術者と小さな工場でもあれば予備パーツを作らせることはできる。しかし、ゴンドワン製のルーン・カラシュについては本当にわからないもので・・・」

ミラジはなぜ自分がこんな若造に舐められなきゃいけないのかとウンザリしていた。ルインは年長であるミラジに感謝し、敬う気持ちがあったが、他の兵士たちにはそれがなかった。

しかも、それどころではないのである。

ミラジ「あなた方は押している押していると勇んでいらっしゃるが、追い詰められたゴンドワンはアメリアとも手を組むとルインさんもおっしゃっていたでしょう? どうして目の前の戦いばかりに夢中になって誰も大局を見ようとしないのか」

クンタラ兵士C「アメリアがゴンドワンと組んで戦力を割けば、ルインの兄貴がキャピタルから背後を襲う手はずになっている。それにアメリアもゴンドワンもいざとなれば戦争は止めて市民の日常生活にエネルギーを回さなきゃいけなくなる。こっちには原子炉もあれば核融合炉もあるのに、何の心配もいらない。欲しいのはゴンドワンから奪ったフォトン・バッテリーを使うためのモビルスーツなんだ」

男は机をドンと叩いて老人のミラジを恫喝した。ミラジが驚いて身をすくませると兵士たちはいっせいにどっと笑い声をあげた。

クンタラ兵士C「わかったかな、爺さん。なんとしてもロルッカさんと連絡を取ってモビルスーツを手に入れてくれ。市民の生活をすべて原子力で賄ってるオレたちにはフォトン・バッテリーは有り余ってるんだからよ」

ミラジがいくら悔しがったところで、若い彼らに腕力で適うはずもなく、引き下がるほかなかった。ミラジは溜息をつきながら表に出て、気分転換に通りを歩くことにした。

ミラジ(クンタラを差別する気持ちなど微塵もなかったはずなのに、何だろうかこの怒りは。結局クンタラを嫌っていたロルッカは金が入り出した途端にここへは立ち寄らなくなった。アメリアで例え捕まっても法的な裁きを受けるだけだが、ここでは私刑以外ありえない。なんということだ・・・)

彼らの拠点は当初奪った地域より150㎞ほど南へ移動していた。

これはルインとマニィが図書館で宇宙世紀時代の地下送電網の存在を見つけたから出来たことであった。原子力エネルギーは安定した電力を生み出し、送電網がある限り電力を供給してくれる。なぜそういう仕事をみんなしなくなったのか。なぜ戦うことばかりに夢中になるのか。

ミラジ「結局、エネルギーがある限り人はそれを浪費したがる。ヘルメス財団がやろうとしたことは何も間違っちゃいない。体育館に並べた原子炉など、1回の空爆で全部吹っ飛んでしまうというのに、なぜ安穏と日常生活を送れるのか。どうせアグテックのタブーの勉強もしなかったのだろう。学問は底辺を救済するものなのに、なぜ底辺はそれを放棄して猿のようにはしゃぎたがるのか。地球の大地はこんなに痩せてみすぼらしいのに、どうして地球に住むと人は堕落して働かなくなるのか。宇宙であんな態度の人間が1人でもいればそれは必ずミスを引き起こし、重大事故につながる。地球の人間はいくら堕落しても事故などたかが知れていると言わんばかりだ。壁の向こうに真空がある恐怖を知ろうともしない。そして余力のすべてを戦いに振り向ける。アースノイドなど、全員死んでしまえばいいのだ!」

そんなミラジの怨嗟が現実になろうとしていた。

アメリアがクリムから接収していた∀ガンダムと呼ばれる機体が、突如自動操縦に切り替わり、格納庫の天井を突き破って上空へ飛び去ったのである。

∀ガンダムはNY上空から人間が作り上げた文明を見下ろし、解析していた。

(ED)

この続きはvol:68で。次回もよろしく。



映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

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  • 作者: 富野由悠季
  • 出版社/メーカー: キネマ旬報社
  • 発売日: 2011/08/29
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「ガンダム」の家族論 (ワニブックスPLUS新書)

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富野に訊け!! 〈悟りの青〉篇

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ガンダム世代への提言  富野由悠季対談集 I (単行本コミックス)

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富野由悠季全仕事―1964-1999 (キネ旬ムック)

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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第23話「王政の理屈」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第23話「王政の理屈」前半



(OP)


ノレド、ラライヤ、ハッパの3人を乗せたG-アルケインが、同じくジムカーオを裏切った3人を乗せたG-ルシファーを抱えたままムーンレイスの月面基地に戻ったとき、メガファウナは反対側のシラノ-5サウスリングに入港していた。

ノレドの単独行動によって再開された戦闘では被害は少なかったが戦果も乏しかった。薔薇のキューブのシルヴァーシップは撃沈するごとに間髪入れず代わりの戦艦が補給され、彼らの2重円形の陣はまるで崩せなかった。G-ルシファーが出していた彼らの識別コードの解析がなされてはいたが・・・。

副艦長「まぁ、ダメでしょうな。すぐに対策を打ってくるに決まっている」

ギセラ「(疲れ切った表情で)そもそもそういう問題じゃないかもしれないし」

ドニエル「(配給のサンドイッチを受け取りながら)そういう問題って?」

ギセラ「G-アルケインとラライヤを捕まえて、G-ルシファーは素通りさせて、最終的には簡単にこっちに渡しちゃってるでしょ?(自分もサンドイッチを受け取る)そこに弱点を見い出そうとしていることが間違っていて、相手はそもそもシラノ-5も月面基地も狙ってないんじゃないかって」

ステア「(配給のサンドイッチを食べながら)シラノ-5の人間を殺しているのに、敵はアメリアとムーンレイスって言ってるのおかしいでしょ?」

副艦長「宇宙世紀を復活させるって敵の目的がそもそも漠然としすぎてて(両手を上げる)」

ギセラ「こうやって相手の弱点を探って次の戦いのことを考えることが宇宙世紀じゃないかって気もするんですよねぇ。戦争にのめり込ませているわけでしょ?」

ドニエル「じゃ、オレたち軍人にどうすりゃいいってんだよ・・・」

シラノ-5のノースリング上部に隠してあった薔薇のキューブが姿を現したとき、ディアナ・ソレルもメガファウナのクルーもあれこそが真の敵に違いないと勇み立った。しかし、彼らはこちらに攻撃を仕掛けてくるわけでもなければ、シラノ-5を奪いに来るわけでもなかった。

彼らがやったことは、G-セルフによって機能を停止させられたシラノ-5から脱出してきた民間人の乗った脱出艇を全滅させたことだけなのだ。その攻撃による死者の数はおよそ30万人。生き残ったのは最も田舎で人の少ないサウスリングにいた1万人余りだけである。

副艦長「そもそもオレたちはムーンレイスと同盟を組んで、トワサンガ・ゴンドワン連合軍と戦争をしていた。なのに連中はゴンドワンの船を全滅させて、トワサンガの住民を虐殺して、挙句正体を現して、かかって来いよと言わんばかりだ。これじゃまるで人間を・・・」

ギセラ「(片方の眉を上げて)人間を減らすことが目的になっている? 戦争の責任はなぜか全部こっちになっているんでしょ? 戦争状況を作り出して、相手の責任にしつつただ人間の数を減らしている? 責任を押し付けている理由は? 誰に言い訳している?」

ドニエル「そりゃ・・・ビーナス・グロゥブ? それ以外何かあるか、副長」

副艦長「ないですね。おそらくはビーナス・グロゥブに言い訳をしている。トワサンガで起きたことは我々の責任ではないと、トワサンガのヘルメス財団が、ビーナス・グロゥブのヘルメス財団に言い訳をしているんでしょう。ということは、トワサンガで起きていることはジムカーオの独断だということです。ベルリが話したのでジムカーオはラ・グーが死んだことは知っている。次の総裁の名前も知っていた。それは彼がビーナス・グロゥブの人間だからです。クンパ大佐と同じなんだ。しかしクンパ大佐とは目的が違っている。戦争による遺伝子強化が目的ならば、トワサンガの一般人を虐殺する必要がない。人口の減少はかえって競争を減らしてしまうからだ」

ドニエルもギセラも深く考え込んだものの、どうしても答えが見えてこなかった。

副艦長「ヒントはエンフォーサーとニュータイプだね」

ギセラ「おそらくは」

ドニエル「ハッパをこちらへ寄こしてもらうか。ベルリはちゃんとやってるんだろうな?」







そのころG-セルフに乗ったベルリは、ザンスガットのリンゴ・ロン・ジャマノッタを伴ってシラノ-5のセントラルリングに来ていた。2機のモビルスーツは機能を停止した真っ暗な空間を飛行して中央管制塔のあるエリアへ入っていった。

ベルリ「本当に誰も残っていないんだ」

リンゴ「誰かさんがコロニーの全機能を停止させたから」

ベルリ「(怒って)嫌味ですか?」

彼らはG-セルフの暴走によって全機能が停止したシラノ-5を再起動させるために派遣されていた。リングの回転が止まったことで重力が失われ、彼らの頭上に巨大な商業施設が立ち並んでいるのが見えた。

ベルリ「じゃ、ぼくだけで行ってきますから、G-セルフをお願いします」

そう告げるとベルリはコクピットを抜け出して建物の中へと入っていった。送電が止まったことで電気は点かなかった。真っ暗な建物の中をベルリは宙に浮いたまま廊下を進んでいく。

そもそもなぜシラノ-5の機能が停止したのか、そして薔薇のキューブが分離された後もシラノ-5の機能を回復させられるのかどうかはわからない。そうしたことに精通している専門家はすべて殺されてしまった。今回の派遣は、ムーンレイスが目覚めたときのように、G-メタルで機能を回復させられるのか確かめるためのものであった。

目的の部屋は管制塔の最上階にあった。広いロビーに人影はない。電気が点かないので小さなハンドライトとヘルメットのライトだけで挿入口を探さなくてはならなかった。

部屋の中は突然の重力停止に驚いた職員がそのままにしていった書類や事務用品が宙に散乱していた。それらを顔の前から払いのけながらの作業なのでまるで捗らない。

ベルリは記録媒体が差し込める穴を見つけるたびにG-メタルを差し込もうとしたが、どれも規格が違っており中に入っていかなかった。彼は改めて自分が父から受け継いだ遺産を眺めた。

ベルリ「そうだ。これはユニバーサル・スタンダードの記録媒体じゃない。宇宙世紀のものかどうかはわからないけど、こんな記録媒体は他にないんだ。一族にしか使えないものなら・・・」

ベルリはどこかにレイハントン家の紋章がないか探した。すると管制室の壁の高いところにレリーフがあった。ハンドライトで照らしてみると、レリーフの下の部分に挿入口がある。そこにG-メタルを差し込むと部屋の明かりが灯った。そして次々にシステムが復旧していく。

ベルリ「これで完全復旧するわけじゃないから、応急的なものだとは思うけど・・・。シラノ-5は技術者がすべて殺されてしまって、これからどうやってコロニーを運用していけばいいんだ。クソッ」

改めて怒りがこみあげてベルリは傍にあった机をドンと叩いた。

結局電源が復旧しただけで重力を作り出すためにリングを動かすところまではできなかった。戻ってみるとリンゴがG-セルフのコクピットの中を覗き込んでいる。

リンゴ「君はトワサンガの王子なんだよな。ぼくはもうちょっと口を慎むべきだったかも」

ベルリ「もういいですよ、そんなこと」

トワサンガの王子といいながら、自分にはこのコロニーを運用する知識など微塵もないのだとベルリは悲しんだ。G-セルフに乗っているから、G-メタルを持っているからと他の者たちはみんな彼に期待する。しかし、物心ついたときから地球に住んでいた彼に、何が成せるというのか。

彼はリンゴの好奇心溢れる顔から眼を背け、すぐにG-セルフのハッチを閉じてしまった。

ベルリ「ビーナス・グロゥブのラ・グー総裁は真実に迫ろうとしたとたんに殺された。ということは、ビーナス・グロゥブは総裁の任命権を持つヘルメス財団が実質統治していたということだ。キャピタル・テリトリィは民政だったけど、首相もタワーの運航長官も飾り物だった。影で操っていたのは法王庁、そしてキャピタル・ガード調査部。つまりヘルメス財団だ。トワサンガのレイハントン家も同じだったのか? 王政ならばヘルメス財団に任命権はなかったはず。影で操るには王の権限は大きすぎる。だから革命を起こして、ドレッド家を傀儡にして民政にしたのか・・・。じゃぁなぜトワサンガだけが王政だったのだろう?」

ベルリは独り言を呟きながら頭を整理していたつもりだったが、回線はメガファウナと繋がっていた。モニターにギセラの顔が映し出された。

ギセラ「王政の強い権限でヘルメス財団を抑え込んでいたからでしょう」

ベルリ「ええーーー? 回線が開いてた?」

副艦長「抑え込んでいたってことは、敵対していたってことですよねー。これは重要な情報かな」

ベルリ「すぐに戻ります! 重力を回復するには専門の技術者じゃないと無理っぽいです」

副艦長「それがわかっただけで十分だ。我々はムーンレイスの基地へ移動する。早く戻ってこい」








シラノ-5のサウスリングから避難させてきた住人たちを受け入れたムーンレイスの月面基地では、ちょっとした騒動が起きていた。レジスタンスに参加していた学生のうち3名がディアナ・ソレルと話がしたいと中央指令室に乗り込もうとして親衛隊と小突き合いになってしまったのだ。

学生たちと共にやってきたターニア・ラグラチオンは学生の側についたり、親衛隊の側についたり態度が定まらなかった。

ディアナ親衛隊A「姫さまはお疲れなのだ。とにかく下がれ」

学生A「重要なことなんです。ではいつ会えるのかだけでも」

ディアナ親衛隊A「起きられたら取り次ぐからとにかくここは下がって」

指令室にディアナがいないと気づいたターニアは学生たちを押し戻すように間に割って入った。

レジスタンスに参加していた学生たちは、ターニアを睨みながらも仕方がないとばかりに引き下がった。学生の話を聞いて彼らの味方になったターニアには、実は彼らの話がよくわかっていない。

ターニア「そんなに重要なことなの?」

学生A「ディアナ・ソレルが本物のディアナ・ソレルなら、500年前に初代レイハントン王子と戦ったということでしょう? これは王政の根幹に関わる話じゃないですか?」

ターニア「(首を捻り)王政の根幹ねぇ」

学生A「王政というのはそもそも初代王の血を引く子を王の転生だと見做すところに権威を求めているんですよ。正統性とはそういうものでしょう?」

学生たち3人は口々にターニアに王政の正統性をどこに求めるかという話をした。ターニアには正直よくわからなかったが、たしかに初代レイハントンとディアナ・ソレルが戦ったというならばその話は聞いておきたいとも思った。しかし彼女にはその重要性がいまひとつピンとこないのだった。

ターニアと学生たちはメガファウナが帰還するなりベルリを捕まえ、食堂になっている地球が見えるフロアに連行した。

学生B「王子! 王子は初代レイハントンのことを詳しく聞いていますか?」

ベルリは疲れた様子でボンヤリしていた。彼は話を聞きに来たムーンレイスの大尉にシラノ-5の様子を話したり、サウスリングに住んでいたコロニー保守の仕事をしていた老人に事情を説明したり忙しく、できればそれが終わったら眠りたいのにと恨めしそうに学生たちを横目で見た。

ベルリ「ぼくにわかるわけないでしょ。生まれてそんなに経たずに地球に亡命させられたんだから」

学生A「これはとても重要なことだとぼくらは考えたんです。そもそも王政というのは」

ベルリ「王様が実効支配しているもしくは権威の象徴になっている政治形態のことでしょ?」

学生A「そうなんですが、民政に対して王政の正統性というのは、初代王が成した政治的成果をその血を受け継ぐ人間を初代王の転生と見做してその統治がずっと続いていき、政治的成果が代々守られていくことを前提に成り立っているわけです。ですから・・・」

ベルリはムーンレイスの女性が持ってきた食事のトレーを受け取り、軽く頭を下げて礼を言ってから、地球を真正面に展望できる席にドシンと腰かけた。

ベルリ「ごめん。話がまるで飲み込めない」

学生A「なんでみんなぼくらの話をちゃんと聞いてくれないんだ!」

ベルリ「ぼくはトワサンガは民政に移行すべきだという意見。王さまなんて必要ないでしょ?」

学生A「そう言っていただけるのはありがたいのですが・・・。王政か民政かという話ではなくて、初代レイハントンはディアナ・ソレルと戦っているんですよ。その戦いが終わったのちに彼は王になるわけです。王ですよ。ビーナス・グロゥブやキャピタル・テリトリィにもいない王になるんです」

ギセラ「面白い話じゃない」

メガファウナのクルーたちが食事のトレーを持って続々とやって来た。

ステア「ムーンレイスの食事っておいしいよね」

学生A「(ギセラに向かって)ある地域を力で征服した人は王になりますよね。分裂した地域を束ねた人も王になります。王はほとんどの場合男系男子か母系男子によって権力を世襲していきます。それは王政というものが、初代王が転生しながらずっと生きているというファンタジーの上に成り立っているからです。王政は戦争と深く関係があって、戦争がないところには王政もないし、男系もない。ぼくらが問題にしているのは、初代レイハントンは何をやった人かわからないことなんです。普通王様は権威付けするでしょ。何をやった人か詳しく語られるのが常です。ところがレイハントン王はそれがない。老人たちはただ王だというだけで信奉しているけども、ぼくらは子供のころにドレッド家が革命を起こしてからずっと民政で、それが当たり前になっています。ジャン・ビョン・ハザムは確かにドレッド家の傀儡で、だからぼくらは彼に反対してレジスタンス活動をしてきましたが、民政に反対していたわけじゃありません。レイハントンがどんな戦争をして、どんな成果を上げ、その成果の偉大さを称えながら継続されてきたのか誰も知らないんです。知っているのはヘルメス財団でしょうが、それはもう向こうに行ってしまって話は聞けません。だったら実際に初代王と戦ったディアナ・ソレルに・・・」

副艦長「ちょっと待った。ディアナ・ソレルが戦ったのが初代レイハントン王なのか。マジか。そりゃすごい。オレは君たちが熱心なわけがわかったぞ。ベルリはどうなんだ?」

ベルリは首から下げているG-メタルを取り出した。

ベルリ「シラノ-5の機能回復ができるか調べていたときに気づいたんですけど、これってユニバーサル・スタンダードじゃないでしょ? レイハントン家の人間だけが持てて、レイハントン家の人間だけが使えるものがあちこちにある。しかも重要なキーになっているケースがほとんどですよね。クレッセント・シップとフルムーン・シップの性能を上げるキーもこれになっている。ムーンレイスの冷凍睡眠を解くキーもこれだった。サウスリングのレイハントンの屋敷に侵入してきた2人組の女はこれを探していた。自分はなぜレイハントンの一族が血族なんかでこれを(G-メタルをひらひらさせる)受け継いできたのか不思議で」

ドニエル「(ステアの隣でスプーンを口に運びながら)本当は受け継ぐべきものがもっとたくさんあったんじゃないのか?」

ベルリ「そうかもしれませんけど、ぼくはまだ小さい頃に地球に連れていかれて、姉さんと違ってトワサンガの記憶はまったくないんですよ」

ギセラ「(副艦長と顔を見合わせて指を慣らす)クンパ大佐はG-メタルを必要としなかった。ジムカーオ大佐はG-メタルを必要としている」

副艦長「クンパ大佐は人と人をもっと競争させて遺伝子を強化しようとしていた。つまりレコンギスタだ。スペースノイドを地球に帰還・再征服させ、地球はそれを迎え撃つように仕向けた。その方針はレイハントンのものとは違うからG-メタルが必要になる場面はなかった。ジムカーオはそうじゃない」

ギセラ「ジムカーオが目指しているものは、レイハントン家の成り立ちに関係していて、G-メタルがないと事が進まない。だから欲しがった。でも薔薇のキューブはああやって自分の意思で動かしている。ほらほらほら、わかってきた!」

副艦長「薔薇のキューブはレイハントン家の意思に基づかない。しかし何かをしようとすれば、キーがいる。つまり、レイハントン家は最初から薔薇のキューブと敵対していた。やっぱり話は繋がってくるじゃないか。さっき聞いた話じゃ冬の宮殿のロックが掛かっていた映像はアイーダ姫さまのG-メタルでロックが解除されたっていっていたぞ。これに学生諸君の王政の成り立ちの話が加わる」

ステア「(ナプキンで口を拭きながら)あたしはレイハントンは1000年前の人だって思っていたよ」

ギセラ「ヘルメス財団1000年の夢ってやつでしょ? でもそれは宇宙世紀を復活させるという夢じゃなかったの? エル・カインド船長の話では確かにそんな話じゃなかった」

副艦長「外宇宙から地球へ帰還してきたのは幾度にも渡り、早くに地球圏へ戻ってきた集団を古来、遅く戻ってきた集団を今来と呼ぶ。順番でいうと、ムーンレイスが1番の古株、次にレイハントン王政の集団、そのあとは?」

ギセラ「太陽系外に出てしまうと、それはもう無限に散らばってしまうのでは?」

副艦長「レイハントンの後はその他大勢ということか。ムーンレイスは月の裏側の宙域を支配していたが、共存していたはずのレイハントンが奪いに来て、ディアナさんたちをコールドスリープに入れた。そのときレイハントンは薔薇のキューブで生活していて、月の裏側の宙域を奪ってからシラノ-5を作った。話を総合すると、これはムーンレイスを匿ったとか隠したと考える方が筋が通っている。レイハントンはムーンレイスを隠した。それは?」

ベルリ「(眠そうに)ディアナさんたちがスコード教への改宗を拒否して技術体系をフォトン・バッテリー仕様にすることも拒否したからですよ。ディアナさん本人がそう言ってました」

副艦長「ということは、いずれスコード教によるフォトン・バッテリー配給の仕組みが壊れると知っていたということだろうか?」

ドニエル「宇宙世紀の技術には宇宙世紀の技術でなければ対抗できないってわかってるからじゃないのか? 薔薇のキューブがいずれは敵対してくると知ってたからやったんだろ?」

ギセラ「そうですかねぇ?」

副艦長「ベルリは寝ちゃったか」

学生A「この人が我々の王子さまなんですか? なんだか頼りないな」

副艦長「王子としての利益を何ら享受せずに責任だけしょい込もうとしている若者を頼りないというなら、他のどんな人間だって頼りないというだろうさ。無責任な批判者でいるのは学生の特権かもしれないが、ベルリは君らより年下なんだぞ。地球はみんなが思っているほどには環境は回復していない。人が住める地域にはすでに多くの人間がいて、簡単に再入植なんてできない。ベルリは自分がトワサンガの王子だって知ってから、君らをどうすれば地球に再入植させられるか考えてきた子なんだ。そう悪く言うものじゃないな」







ゲル法王とウィルミット、リリンの3人は、ムーンレイスが封じた黒歴史の編纂作業をすべく、準備を進めていた。

彼らの調査により、宇宙世紀初期に起こった地球を破滅の危機から救った奇蹟は地球圏では伝承されず、地球は∀ガンダムというモビルスーツの機能により1度文明が完全崩壊していた。

アクシズの落下を食い止めた行為は顧みられることなく、赤いモビルスーツの人間が目指した行為だけが根強く継承され、文明リセット派と呼ばれる集団を生み出したのだ。文明リセット派は∀ガンダムで地球文明を灰燼に帰してしまった。それに対抗した文明存続派の機体がターンXであった。

しかし、ターンXは破れてしまう。

何もなくなった地球は、外宇宙へ逃れる者と地球に残る者に分かれた。地球に残った者はやがて原始時代へと戻っていった。宇宙世紀の技術は外宇宙に進出した者たちだけが受け継いだ。

外宇宙に進出した者たちはやがて地球へと戻ってきた。最初に戻ってきたのがムーンレイスだった。彼らは軍人と技術者の末裔だった。彼らの船団が地球に戻ってきたとき、地球は資源の枯渇した原始時代だった。ムーンレイスは月に拠点を構え、文明の再興を待った。

やがて彼らはアメリアと地球再入植について話し合い、サンベルト地帯の割譲を約束させた。ところが情報の長期保存ができなかったアメリア人はその事実を忘却し、些細な行き違いから戦争が起こった。事態が大きくなった原因は、文明が崩壊する原因になった∀ガンダムとターンXの発掘をしてしまったことであった。この2機を再び封じるため、多くの犠牲が払われた。

結局大規模な再入植は行われず、ムーンレイスは再び月に戻って時を待つことにした。ところが外宇宙から帰還してほとんど交流のなかった薔薇のキューブがムーンレイスを攻撃してきて彼らを月に追いやり、月の裏側の宙域を奪い取った。

薔薇のキューブの司令官レイハントンはのちにスコード教を興し、月の王位に就いた。

ウィルミット「月に戻ったムーンレイスは、冬の宮殿の1度焼失したデータを復元するために薔薇のキューブに支援を求めてますね。おそらくレイハントンが黒歴史に接したのはこのときが初めてでしょう。宇宙世紀の技術体系の結晶である薔薇のキューブからやってきた彼らは、黒歴史と接して突然何かを始めようとした」

ゲル法王「宇宙世紀時代の技術を放棄して、ユニバーサル・スタンダードへ置き換える作業が始まったということではないでしょうか? そしてアグテックのタブーの創出」

ウィルミット「法王さま、それがおそらくヘルメスの薔薇の設計図なんですよ。宇宙世紀の技術をすべてフォトン・バッテリー仕様に置き換えたものがヘルメスの薔薇の設計図で、それ以外はすべて廃棄されたんです。ビーナス・グロゥブの薔薇のキューブも同調した。そしてフォトン・バッテリーの生産と配給を開始して、キャピタル・タワーを建設して地球の文明再興に関与し始めた。それまでは折を見てレコンギスタするつもりだったのではないでしょうか?」

ゲル法王「レコンギスタ派というのはクンパ大佐のことですね。ではあのジムカーオ大佐という人物のことを長官はどのようにお考えなのでしょうか?」

ウィルミット「レコンギスタ派はそもそもの薔薇のキューブの考え方だった。しかし、地球環境が回復していないので待っていた。そこにムーンレイスの冬の宮殿との接触が起こった。彼らは宇宙世紀を繰り返すことを恐れた。クンパ大佐はそもそも宇宙世紀の繰り返しをそれることなどないと訴えた。ということは、ジムカーオ大佐は、レコンギスタには反対するレイハントンに近い考え方ということになる。でもやっていることはどうも違う」

ゲル法王「はい」

ウィルミット「映像を見ていて気付いたのは、あることが起こると人間というのは必ず意見が2派以上に分かれるということです。つまりレイハントン家が例のアクシズの映像を見たときも、解釈は2派あったと考えるべきで、その片方がジムカーオ大佐ではないかと」

ゲル法王「アクシズを押し返した奇蹟に接したとき、解釈がふたつ生まれた、と」

ふたりの傍で映像を再生させることに夢中だったリリンがふと立ち上がって走っていった。ゲル法王とウィルミットが彼女を目で追うと、その先にはノレドとラライヤ、それにハッパが立っていた。リリンはさっそくノレドとラライヤに抱き着いた。

ウィルミット「ああ、ふたりともよくぞ無事で。もうこんな怖ろしいことはやめてください」

抱き合う4人を縫うように前に出たハッパが、ゲル法王に話しかけた。

ハッパ「法王さま。ぼくはアメリア人で、熱心なスコード教徒ってわけじゃないですけど、アクシズの奇蹟のふたつの解釈というのは、人間がニュータイプに進化できるかできないかってことじゃないですか? いまからお話いたしますが、エンフォーサーというのは・・・」







結局学生たちは満足な回答を得られないまま追い払われることになった。

彼らがこだわっているのは、王という権力が世襲されることについてであった。王という権力は世襲によって代々受け継がれていく。これは彼らが主張しているように、血脈を転生と考えるから成立するのであり、もしも子供をまったくの他人と考えことが常識であったのなら、王という権威は常に強者が引き継ぐことになる。これは群れを作る動物と同じである。

しかし人間は常に王が誰かを争う事態を避けるため、王は血族によって最初から決まっていると定めた。なぜなら王の子は王の生まれ変わりであるからというわけである。人間の想像力は、血族の中に永遠性を見つけ出したのだ。王という存在を永遠にすることによって、権力争いを永遠に終わらせようと考えた。これが王政の理屈である。

では、レイハントン家は何を終わらせようとしたのか。トワサンガの権力争いだろうか。スペースコロニーであるトワサンガという閉鎖空間では、生産力が爆発的に増えることはない。地球とは違い、宇宙で暮らすということは、働いて作って分配することを効率よくやらねば人はすぐに飢えてしまう。何もかも計画的にやらねばならず、奪い合う余力はない。

効率的な行政がなければ分配は失敗する。分配の失敗による不満は生産力の低下に直結して人々を貧しくする。アースノイドがスペースノイドを支配できないのはこのためである。アースノイドは奪い合う余力を前提に権力志向を持つ。権力に対する考え方が違うのだ。

ではレイハントン家は一体何を怖れて王政を敷いたのか。ジル・マナクスは腕を組んで物思いに沈んだ。

彼は自分が研究すべき事柄を見つけたと思った。

ジル「そのためには何としても生き残らなくちゃな」


(アイキャッチ)


この続きはvol:67で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第22話「主導権争い」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第22話「主導権争い」後半



(アイキャッチ)


クリムトン・テリトリィと改名された都市は、ゴンドワンの若者たちとクンタラの若者たちがストリートで覇を競う無法地帯となりつつあった。

巨額の資本を投入され整備された新都市は、クリム・ニックの失脚によって貸付が引き剥がされ、そのキャピタル・フライトによって急速なゴーストタウン化が起こっていたのだ。建設中の巨大ビルは作りかけのまま放置され、元々ジャングル地帯であるために自然は道路を再び飲み込もうとしていた。

現在のゴンドワンは、都市部の9割以上が∀ガンダムによって砂塵に帰し、移住してきたゴンドワンの若者たちは帰るべき故郷を失ってしまっていた。

その故郷に新たに国家を建設したのがクンタラ国で、クンタラ国の若者たちはルイン・リーと共にクリムトン・テリトリィにも押し寄せ、この地もまたクンタラに飲み込まれようとしている。

元来熱心なスコード教の信者の多かったゴンドワンに、クリム・ニックが無神論を持ち込んだ。それに乗じてゴンドワンの若者はスコード教の聖地を強奪した。ところがその地はスコード教によってクンタラに与えられ、クンタラとスコード教は歴史的和解を成そうとしている。

梯子を外されたゴンドワンの若者たちは、キャピタル・テリトリィを亡ぼしたが故にスコード教にはすがれず、差別してきたが故にクンタラとも折り合いが悪い。さらに帰るべき故郷はもうない。八方塞の状態になっていたのだ。そして彼らは夜の街で暴力をふるうことでストレスを発散している。

しかし、クンタラの若者たちも決して幸せというわけではなかった。

彼らがこの地にやって来た途端、世界中から集まってきていた投資資金は回収されていき、クリム・ニックの口座にあった資金は法王庁に差し押さえられ、資金不足から極端な不況に見舞われていたのだ。

さらにクリムがトワサンガ征服のために多くのフォトン・バッテリーを持ち出したためにエネルギー不足も始まっていた。唯一景気がいいのは法王庁が管理するモビルスーツの販売だけ。これをアメリアへ横流しする仕事だけが景気が良かった。その仕事以外はないといってよかった。

夜になれば、ジャングル地帯に逃げ込んでいる元キャピタル・テリトリィの住人たちによるゲリラ戦が始まる。これはクラウンの運航を担うために新設された法王庁守備隊が撃退していたが、法王庁守備隊は住民の保護義務を負っていないために誰彼かまわずに銃撃する。

ゴンドワンの若者にとっても、クンタラの若者にとっても、この地は地獄のような街になっていた。

そんな街を、カーテン越しにルインは悲しげに見つめていた。

ルイン「キャピタルのことは心配ではあるのだが、法王庁とクンタラとの間の歴史的和解、それに反逆者ベルリ・ゼナムの処刑を請け負ったからにはやり遂げねばならぬ」

マニィ「領主といっても形ばかり。こんなのルインが望んできたカーバじゃないってわかってる」

ルイン「じゃ、ぼくは行くよ」

そういうと彼はマニィと娘にキスをして部屋を出て行った。

彼の屋敷は法王庁の人間によって警護されていた。3機のモビルスーツが警護に当たっている。

クリムトン・テリトリィのフォトン・バッテリーは残り1か月分を切っている。ルインがことを急ぐには訳があったのだ。一刻も早く事態を収拾して、エネルギーの配給を再開してもらうしか生き残る道はなかった。一見うまく事が運んでいるようで、内情は火の車だったのだ。

それでも戦争は続く。国力の高いアメリアはレジスタンスへのバッテリー供給を止めてはくれなかった。

こんなはずじゃなかったのに。マニィは何かがおかしいと感じ始めていた。ゴンドワンが北方の小都市を除いてほぼ全滅した途端にルインが宇宙に連れていかれる。それも追い込まれて否応なしにされた上でだ。何もかも上手くいくことで、ルインとマニィは逆らえない境遇に追い込まれている。

マニィ「クンタラの人たちを開放する戦いだったのに、何か違う方向に祭り上げられてしまった。何がいけなかったんだろう? あたしは欲をかきすぎたのだろうか・・・」

いまのマニィには娘のコニーがすべてだった。父親が宇宙へ行ってしまい、自分ひとりで子供を守れるか不安であった。警護の問題で、ルインの見送りにも行けないことが、彼女を不安にさせていた。







クリムトン・テリトリィ北方50㎞の地点に続々と新たな戦力が集結しつつあった。

そこはレジスタンスの拠点になっているキャンプであった。一般人への被害を最小限にするために、難民キャンプからはかなり離れた地点に設営してあった。

夜が更けようとしていた。レジスタンスへの参加者たちは、小さなラジオから流れてくる法王庁の発表に耳を傾けている。相変わらずアメリアを非難し、ムーンレイスを古代種族と罵り、トワサンガのレイハントン家を宇宙世紀復活派と決めつけてその打倒を呼び掛けている。

その先兵として、クリムトン・テリトリィのルイン領主がクラウンを使って宇宙に出撃する内容が勇ましい音楽と共に喧伝されている。およそ平和を願う法王庁の放送とも思えない内容であった。

ケルベスとレジスタンスたちは、キャピタル・タワーを奪還するための作戦を練っていた。そこへ彼の教え子たちがお馴染みのレックスノーでやってくると、レジスタンスの間に大きな歓声が沸き上がった。好漢として知られるケルベスが合流したときと同じ歓迎ぶりだった。

レックスノーは緑色のボディをジャングルの中に隠した。兵士と教え子たちは、すぐさまケルベスのテントへとやってきた。

トリーティ「このあとの第2陣はビーナス・グロゥブのジット団及びミラーシェードという人物らしいです。あのムーンレイスの親衛隊長さんでしょうかね?」

ケルベス「(机の上の地図から目を離し)ハリー・オードならばそんな偽名は使わんよ。誰かは察しがついている。彼らが第2陣ならば、ハリー隊長の部隊は第3陣だな」

レジスタンスA「今度こそ故郷を奪還できそうです」

ケルベス「当然だ。法王庁はオレたちキャピタル・テリトリィの人間を陰謀によって陥れた。その本体は、ジムカーオや法王庁ではない。ヘルメス財団だ。ゲル法王猊下は月の冬の宮殿というところでスコード教の原点について研究中だ。彼こそがスコード教だと信じろ」

レジスタンスA「スコード教が死んでなかったって教えてもらっただけで勇気百倍です」

戦力はどんどん膨れ上がっていった。総攻撃を前に、各地に散らばったレジスタンスに召集が掛かっていた。モビルスーツこそないが、アメリアから提供された武器はふんだんにある。

アメリアへ亡命したリベラル派のクンタラもクンタラ国建国戦線を非難してレジスタンスへの協力を申し出てくれていた。長くジャングルの中で反体制活動をしてきた人々の間には今度こその思いは強い。しかし、それが逆にケルベスを不安にさせていた。

ケルベス「ルイン・リーが今夜中にザンクト・ポルトに向かって出発する。彼の不在を狙った作戦によってキャピタル・テリトリィを奪還したい。だがみんなに聞いて欲しいのは、我々はずっと相手に主導権を取られて何度も煮え湯を飲まされてきたということだ。我々からキャピタル・テリトリィを奪ったクリム・ニックでさえ、巨大な敵の小さな手駒のひとつに過ぎなかった。敵は何か大きな目的があって、それを完璧に遂行するシステムを持っているとしか考えられない。たしかにルインの不在はチャンスだ。しかしそれが罠である可能性は大いにあるのだ」

レジスタンスB「まさか作戦を中止したいと?」

ケルベス「ムーンレイスと同盟を組んだとき、トワサンガを制圧すれば平和を取り戻せると思った。作戦は上手くいった。トワサンガは攻略できた。ところが敵はすでにトワサンガの住民に我々を悪だと思い込ませることに成功していて、トワサンガを奪ったとたんに我々は侵略者の汚名を着せられた。反スコード教徒の汚名を着せられた我々から逃れるべくトワサンガを脱出した人間はみんな殺された。我々が殺したことにされたんだ。クリムのときもそうだ。彼もゴンドワンの英雄からキャピタルの王になり、トワサンガまで進出した途端に何もかも失った。この戦いにおいて局地的勝利は、もしかすると敗北へ導く敵の布石かもしれないんだ」

レジスタンスC「ではどうしたらいいのですか?」

ケルベス「大きな作戦の一部によって生まれた状況と、突発的に起こった状況を分析してみないといけない。突発的に起きてしまった偶然は、ジムカーオの関与によって修復されている。見分けるのは困難かもしれないが、それができなければ次は我々がクリムのようになってしまう」

ケルベスの言葉にレジスタンスたちは大いに失望した。彼らは今夜こそ完膚なきまでに敵を叩き潰し、故郷を取り戻そうと意気込んでいたからだ。

ケルベス「だから状況を見極める時間が欲しい。まさに今夜は好機だが、それが怪しいんだ。だって考えても見ろ。レジスタンスの君たちはゴンドワンからの移住者たちと戦ってきたはずだ。それが一夜にして敵が法王庁になってしまっている。法王庁の人間を我々が皆殺しにして故郷を取り戻した後はどうなる? 宇宙にいるより大きな敵が何でもできるカードを手に入れるだけじゃないか?」

ラジオからは法王庁が煽ってきているとしか思えない激烈な言葉が流れてきている。それを聞いていれば、何としてでも法王庁を叩きのめしてやりたいと誰もが思う。ケルベスはそれが罠である可能性を指摘したのだ。

トリーティ「なるほど・・・。局地的勝利者が必ず敗北者になるように基本設計された作戦の中で我々は踊らされているだけだとこうおっしゃりたいのですね」

ケルベス「もしその作戦の中に、キャピタル・タワーの破壊が組み込まれていたら君たちはどうする? いままでの敵のやり口から想像するに、彼らは自分ではタワーを破壊しないだろう。交戦状態の中で偶然を装って破壊して、すべての責任を我々に押し付けるのだ」

トリーティ「敵がタワーを破壊するメリットはあるのでしょうか?」

ケルベス「ヘルメスの薔薇の設計図はもはや回収不可能だ。だとしたら彼らは地球を原始時代に戻そうとするだろう。そうすれば自然とヘルメスの薔薇の設計図は絶える。人類を滅亡させた後に、彼らは地球へ降りてくればいい。敵はトワサンガの人間を簡単に皆殺しにしてしまった。生き残ったのはサウスリングの人間だけだ。そこまで徹底してやるのが彼らなんだよ」

レジスタンスの人間は明らかに不満そうな様子であった。彼らはずっと地球にいて、最終ナットであるザンクト・ポルトまでは意識できるが、トワサンガのことまでは理解できないのだ。

ケルベスはテントを出た。レジスタンスとして戦ってきた者たちの不満は、彼の教え子たちにぶつけられている。それを聞きながら、彼は状況を整理しようと必死に頭を巡らせた。

ケルベス(法王庁はクリムが死んだと発表した。彼らはそう思っていたのだろう。だから発表した。しかし彼はシルヴァーシップを奪って地球に戻ってきていた。そこで慌てて死刑勧告という形で装ったが、混乱した。クリムがG-シルヴァーを奪っていたのも予想外だったはずだ。もしクリムの介入がなかった場合、∀ガンダムとターンXは果てしない戦いを繰り広げ、オレは・・・、オレは必ずキャピタル・テリトリィの方へ戦闘区域を変えていたはずだ。そこで何が起こったかだ。∀ガンダムとターンXは、そのままお互いだけと戦い合っただろうか?)

トリーティ「ケルベス隊長!」

大声で呼びかけられてケルベスは我に返った。テントの中から数人のレジスタンスのメンバーが武器を手に出てくる。ケルベス隊のメンバーが必死にそれを止めようとしていた。

レジスタンスA「そんなに騒がなくても、いつものようにちょっかい出してくるだけですよ。法王庁守備隊の連中と少しだけ戦って、すぐに引き上げてきますって」

ケルベス「敵に怪しい動きがあれば教えてくれよ」

トリーティ「行かせていいんですか?」

ふたりの会話を聞き遂げることなく、レジスタンスのメンバーはアメリア製のバギーに乗り込んで走り去ってしまった。

ケルベス「今夜が決戦だと思ってたんだろう。まぁ、しょうがないよ。彼らだって故郷を奪われたままで疲れているんだ」







レジスタンスA「キャピタル・タワーを守り抜いたあの隊長さんが来てくれたならすぐにでも奪還できると思ってたんだがなぁ」

レジスタンスB「敵がゴンドワンのときだってクンタラになってからだって、オレたちはモビルスーツなしでゲリラ戦をやって来たんだ。それで互角に戦い通したっていうのに、なんで信用してくれないんだろうな? 正規軍じゃないからか?」

レジスタンスC「もとはと言えば、あいつらガードがしっかりしていないからこんなことになっちまったっていうのにな。偉そうなもんだ」

彼らに賛同して今夜の攻撃に加わったのは12名だった。バギー1台とトラック1台に分乗した彼らは、手に手に武器を持ってジャングルの中を走り、彼らがいまだキャピタル・テリトリィと呼ぶ中心部へ繋がる幹線道路を走った。その手前にいくつもの検問所がある。そこを攻撃するのだ。

現在彼らの故郷に武力を展開しているのは、法王庁守備隊であった。法王庁守備隊はトワサンガから供給されたというモビルスーツを運用していた。

かつてこの地を支配していたゴンドワン軍は故郷へと戻り、南部に退いたゴンドワン政府の支援に回ってクンタラ国建国戦線と戦っていた。ゴンドワンの正規軍はクリム・ニックに見切りをつけて、本国北方地域奪還のために戻っていったが、若者たちはここに残った。

レジスタンスA「法王庁と折り合いが悪いゴンドワンの若い連中ばかり残ったから、法王庁の奴らは誰彼関係なく撃ってくるだろ。ゴンドワンの正規軍は法王庁と和解したに違いない。元々ゴンドワンはスコード教の信者が多いからな。若い連中は無神論者だから始末が悪い」

レジスタンスB「ゴンドワンもキャピタルもクンタラと戦っているというのに、なんでオレたちは反スコード教のアメリアなんかの支援を受けて、法王庁と戦わされているんだろう? オレたちが1番熱心なスコード教信者じゃないか。だろ? オレたちが戦っていたのは、クリム・ニック、ゴンドワン、そしてクンタラだ。法王庁じゃない。(うなだれて)だったはずなのにな・・・」

やがてバギーとトラックはかつてゴンドワンの検問所があった手前で停止した。息をひそめて近づいてみるとそこに法王庁の人間はおらず、無人になっていた。

トラックの荷台に乗っていたメンバーが車を降り、ゆっくりと建物の間をすり抜けていく間、どこからも攻撃してくる様子はなかった。銃を構えて警戒していた彼らは、息を吐き出して周囲を見渡した。

レジスタンスA「誰もいねぇ」

レジスタンスB「オレ思うんだが、法王庁の人間は『クンタラとの歴史的和解』ってヤツのあとに、オレたちキャピタルの住民を元に戻してくれるつもりじゃねーのか? いまはほら、クンタラの領主さまの機嫌を損ねちゃいけないからさ、遠慮してるんじゃないかって」

レジスタンスA「総攻撃が近いというんで招集をかけたのに来ない連中もいるだろ? あいつらオレたちより先に法王庁に駆け込んだんじゃねーのか? もしかしたらチクられたかもしれねぇ」

レジスタンスC「あのルインとかいうクンタラの新しい領主さまってよ、キャピタル・ガードの養成学校の首席卒業生らしいぜ。なんか、オレさ、本当に怪しいのはやっぱり法王庁の発表通りにアメリアじゃないかって気がするんだよな」

レジスタンスA「それはオレも思うわ。法王庁がオレたちを撃ってくるのって、アメリアから支援を受けているからじゃないかって。多分招集かけてこなかった連中もそう考えたんじゃないかな」

レジスタンスたちは何か得心いったように頷き合った。

レジスタンスC「ルインって奴な、クンタラ国建国戦線のゴンドワン方面隊の隊長だったらしいんだ。(両手を動かしながら)その隊長をこちらに呼び寄せるだろ。ゴンドワンの兵士を故郷に返すだろ。向こうじゃドンパチが始まって、正規軍とゲリラだからさ、正規軍が押し返すだろ。こっちではさ、アメリアの支援を受けてるオレたちとゴンドワンの若い連中とクンタラを撃ってくるだろ。これってさ」

レジスタンスA「法王庁が世界を元に戻そうとしているわけか!」

法王庁が自分たちを裏切ったわけじゃないと考えるに至った彼らは、互いの顔を見合って興奮した様子で抱き合った。

レジスタンスB「すると敵はしつこくキャピタルに残っているゴンドワンの若い連中と、クンタラだ。そうだよ。こう考えるのが1番シンプルじゃないか。オレたちの敵は反スコード教の無神論者どもとクンタラだ。法王庁はオレたちがこれに気づくのを待ってくれているんだよ!」

すべての謎が氷解したとばかりにスッキリした顔になったレジスタンスのメンバーは、再びバギーとトラックに分乗すると今度は全速力で街の中心地へ向かった。

そこでは今日もゴンドワンの若者とクンタラの若者が刃物を突きつけ合って暴れていた。安物の服をわざと切り裂いた服を身に着けた化粧の濃い若い女たちが、男たちの争いを少し離れた場所から眺めている。若い男たちにとって喧嘩は、女にアピールする場でもあったのだ。

そこに走ってきたのがレジスタンスのメンバーが乗るバギーとトラックであった。彼らは若者たちに向けて発砲するとそのまま街中を車で追いかけまわし、口々にスコードと叫びながら銃を乱射して、逃げ遅れた女をトラックに引きずり込んだ。

レジスタンスA「スコード!」

夜の街で遊んでいた若い女たち数名がレジスタンスに輪姦された。

スコード! スコード! スコード! それは雄たけびだった。彼らはその夜に限ってどこにも検問所がないことや、法王庁守備隊が姿を現さないことなど考えもしなかった。

その翌日、法王庁はクリムトン・テリトリィ領内でアメリアの支援を受けたレジスタンスメンバーが住人を虐殺した末に女を強姦したと発表し、その映像を公開した。音声のないその映像は法王庁を通じて各国に配信され、アメリアへの批判は大きくなった。

さらに法王庁は死んだと思われたクリム・ニックが生きていること、アメリアが彼の身柄を保護したこと、フォトン・バッテリーの供給が止まっている状態なのにムーンレイスという新たな居住者を勝手に入植させたことを非難した。

犯人であるレジスタンスメンバーは、法王庁守備隊によってすべて銃殺された。







ハリー・オードは小さな墓標に花を手向け、地球のそよ風に吹かれながら空を見上げた。

彼は数日かけてディアナ・ソレルの古い墓標を探し当てた。彼女の墓はソシエ・ハイムではなく、ディアナの名になっていた。墓碑銘は「月の女王 ここに眠る」それだけである。

従者として付き添ったはずのロラン・セアックの墓は見当たらなかった。地球で隠棲したディアナと生涯を共にしたのか、誰か愛する人を見つけこの地を去ったのかはわからない。

500年という年月は、アメリアの姿を大きく変えてしまっていた。

ふたりが移り住んだ小さな屋敷はもうない。周辺は別荘地開発が進み、大きなペントハウスがそこかしこに建てられていた。風光明媚な土地であったため、都市部の金持ちはこぞってここに別荘を建てたがっていた。随分と豊かになったものだとハリーは感慨に耽った。

手掛かりになるものは、墓地を管理する事務所で見つけた1冊の本だけであった。墓地を管理する老人は本を手に取りこう話した。

老人「この書物がアメリア人からクンタラ差別を消し去ったといっていい。スコード教はその本にいい顔をしないが、アメリアでは代々読まれてきたのだよ」

彼はそう言って、もう古くなったからとハリーにその本をくれたのだ。

本の著者の名はキエル・ハイム。かなり読みこまれてボロボロになっていたが、出版は20年前。老人はまた新しいものを購入するからと代金を受け取らずにハリーに本を託した。

青空の下に佇むハリーの手の中にはその本がある。

初版は450年前となっていた。タイトルは「クンタラの証言 今来と古来」であった。

クンタラに関する著書としては地球最古だと管理人が教えてくれた。地球では名著として扱われ、何度も再販を繰り返して現代まで生き残っていた。ディアナ・ソレルは、自分が隠棲して間もなく始まった宇宙での戦争を、地球に降ろされたクンタラから話を聞くことで知ろうとしていたのだ。

一読して気づいたのは、外宇宙から帰還してきた薔薇のキューブの者たちは、レイハントン家の仲間ではなかったということだった。ハリーたちは今来はすべてレイハントン家だと思って戦っていたが、薔薇のキューブだけでなく、外宇宙からは何度も地球圏への帰還者は続いていたのである。

それらをむやみに地球へ降ろさないよう管理していたのがレイハントン家であった。産業革命を成し遂げたばかりでいまだ野蛮人ばかりの土地に宇宙世紀の技術体系を持ち込んでは人類の歴史は正史からはみ出てしまい、またしても殺し合いの黒歴史が生まれると懸念されたのだ。

人間に技術を与えるには、人間を野蛮な状態から進化させる必要があった。その想いは地球に残ったディアナ・ソレルも同じであっただろう。彼女の身代わりに月の女王となった本物のキエル・ハイムは、レイハントン家を外宇宙からの侵略者だと捉えて交戦するしかなかった。

ハリー自身もレイハントン家や薔薇のキューブで戻ってきた人間たちのことを知らなかったので、キエル・ハイムに同調して抗戦を選択した。結果、彼らは月に封じられてしまったのだ。

「クンタラの証言 今来と古来」によると、クンタラ差別の起源にはふたつの流れがあるという。ひとつは文明崩壊後に起きた食糧難。これによって共食いが始まった。

もうひとつは宇宙において超常的な能力を発揮した人類への嫌悪とその能力を得るために始まった食人習慣。ハリーがメガファウナのクルーから聞いたニュータイプと呼ばれる超常能力の発現を恐れた人々が、彼らを下層階級に押し込め、食人することで能力を得ようとした。

やがてその食人習慣は階層固定化のための儀式となって、上層階級にニュータイプ現象が起きても不問に付せられ、下層階級の人間はニュータイプ現象が発現しなくても食われるようになった。

実際は、ニュータイプ現象は遺伝子しなかったと本では結論付けられ、故にクンタラへの差別はまったく意味のないものだとされていた。

また、ニュータイプ現象の捉え方にも言及されており、超常能力の発現を戦闘能力の向上と考え研究された宇宙世紀初期の考え方が差別の原因になったとも指摘されている。実際のニュータイプ現象は、空気が存在せず声が届かない宇宙空間に適応した何らかの新しい意思疎通能力の発現ではないかと本の中では考察されていた。

ハリー「姫さまは晩年このようなことを研究なされていたのか」

「クンタラの証言 今来と古来」には、地球に降ろされ捨てられた彼らが、地球人への食人行動に出た経緯に彼らの宗教が関係していること、被差別者の精神不安定の原因などについても言及されていた。また、一部の今来の中に地球をクンタラの牧場にしようと考えた者らもいると記されている。

ハリー「外宇宙脱出派というが、宇宙のあらゆる地域から数度に分かれて帰還した我々は、文化が大きく分かれていた。だからこそユニバーサル・スタンダードによって文化の再統合をせねばならなかったわけだが、クンタラを常食していた特権階級がもしそれに従うのを密かに拒否した場合、触れることがタブーになる隠れ蓑を探すはずだ。やはり彼らはスコード教を使って人々を謀っていた。ニュータイプを常食していた自分たちは他の者たちとは違うと」

思考を遮るように彼は呼び出しを受けた。

ハリー「なんだ?」

兵士「(マイク越しに)ケルベス中尉より合流の依頼が届きました」

ハリー「よし、こちらも用事は終わった。アイーダ総監と話をしてから、すぐに参ると伝えてくれ」

ハリーはいま一度ディアナ・ソレルの墓標に向かってこうべを垂れ、彼女が残した貴重な記録を大事そうに抱えて足早にその場を立ち去った。

小さな花々がそよ風に吹かれて揺れている。


(ED)


この続きはvol:66で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第22話「主導権争い」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第22話「主導権争い」前半



(OP)


ベッドの上に固定されたまま、ラライヤはいつしか眠ってしまっていた。

彼女が目を覚ましたとき、部屋には表情のない銀色の肌を持つ女性がひとりだけ佇み、計器類を眺めていた。彼女はエンフォーサー、執行者と名づけられたアンドロイドだった。エンフォーサーは人種的特徴のない表情なき顔をラライヤに向けた。

ふたりはしばらく見つめ合った。するとみるみるうちにエンフォーサーに表情と人間の顔が宿ってきた。ラライヤの知らない人物だった。

エンフォーサーはニュータイプの残留思念の入れ物であり、あるタイプのモビルスーツのユニットであった。彼女は笑顔でラライヤを見下ろしていた。

ラライヤを拘束していた手錠と足枷が外された。ラライヤは恐るおそるベッドから立ち上がり、機械の身体を持つ彼女を見つめた。エンフォーサーに乗り移った人物は、柔和な顔をラライヤに向けている。

ラライヤ「あなたが・・・わたしの中にいた人なんですか?」

その自覚はあった。エンフォーサーに表情が宿ったとき、ラライヤは耳が聞こえなくなったような、目が見えなくなったような、不思議な感覚に襲われたからだ。

彼女の感覚器官は正常だった。通常の人間の、通常の感覚器官であり、性能だった。見えるし、聞こえもする。しかし、何かが違う気がした。見えたり聞こえたりするだけでは、何も見ておらず聞いていないのと同じだった。まるで感覚器官すべてに靄が掛かったようだった。

人間は本当はもっと多くのことを見ることができ、聞くことができる。他人との間の境界線はもっと薄く、その先に手を届かせることもできる。

人間はもっとわかり合える・・・。

エンフォーサー「断絶を感じる?」

その声は落ち着いて、静かなものだった。彼女の声に聞き覚えはない。いつかこの世界に生きた誰かの声なのか。彼女はいったい誰なのか。ラライヤも落ち着いて彼女の質問に応えた。

ラライヤ「感じます。人間ってこんなに隔たりがあったんですね」

エンフォーサー「でもそれは本当の感覚じゃない。地球という恐怖に満ちた世界で生き残るための防衛本能が、他者との間に断絶を作り上げただけ。生き残るための手段が、断絶を生んだのよ」

エンフォーサーの表情が消えた。一瞬、ラライヤは胸が締め付けられるような感覚に襲われた。エンフォーサーに乗り移った人が、再びラライヤの身体の中に入ってきたのだ。するとラライヤの感覚は研ぎ澄まされた。鋭敏で、物事を広く見渡せる感覚が戻った。目が覚めたときより、覚醒を自覚できた。

ラライヤはハッと何かを感じた。鋭敏な感覚器官に触れた感触は、懐かしいものだった。彼女は集中してその正体を探った。

ラライヤ「ノレドがこっちに来る」

ノレドとハッパが息を切らしながら薔薇のキューブの中の通路を走ってくるのが見えた。どこを走っているのかはわからない。もっと集中すると、薔薇のキューブの全体像が見渡せるようになった。








ノレドとハッパは必死に教えられた部屋を探し続けていた。そしてようやくF-10045と記された部屋を発見した。すると間髪入れず部屋の中からラライヤが姿を現した。

ノレド「ら、ラライヤ!」

ノレドから見て、ラライヤの様子は少しおかしいように見えた。でもどこに違和感を感じたのかまではわからなかった。ラライヤを心配するノレドは勢い込んで質問した。

ノレド「大丈夫だったの? 怪我はない? 何もされていない?」

ラライヤ「大丈夫ですよ。なんともありません。それより、G-ルシファーで来たんでしょ? いま男の人とふたりの女性がコクピットをいじって動かそうとしています。でもG-ルシファーはあたしたちのアイリスサインがないと動かないので、3人はすごく怒ってます。いまあちらに戻ると危ない。G-アルケインに乗ってG-ルシファーを持ち出してから搭乗しましょう」

ノレド「(ハッパを振り返りながら)やっぱり変だよ、ラライヤ。ジムカーオ大佐に何かされたんだ」

するとハッパが心配顔のノレドを制した。

ハッパ「いや、これはおそらくニュータイプ現象だ。まだ詳しくは調べられてないけど、思念だけが肉体の限界を超えているんだと思う」

ラライヤ「(ハッパの話を遮り)まずはみんなでここを脱出しましょう。話はそれからです」

ラライヤはノレドの手を引いて走り出した。ノレドは改めてラライヤがベルリと同じニュータイプというものなのだと知って、言いようのない悲しみに襲われた。なぜ自分はそうなれないのか。

生まれたときからトワサンガの王子で、地球に連れてこられてからもクラウンの運航長官に引き取られ才能を発揮したベルリと、パイロットの才能がありニュータイプにもなったラライヤ。周りにいる誰もが才能を発揮していくのに、自分だけが何もできないままなのだ。

不安に駆られ泣きそうになったノレドの手をラライヤは強く握り返した。

ふたりの後について走るハッパは、モビルスーツ用の巨大なレンチで武装していた。G-ルシファーを奪いに来た3人から逃げる際には必死にそれを振り回したのだ。

ハッパもまたベルリ恋しさに無理をするノレドを気遣い、別な話題をふたりに振った。

ハッパ「ラライヤもノレドもあの自動ラインを見たか?」

ラライヤ「はい。シルヴァーシップやモビルスーツなどを生産しているものでしょ? 機械だけであんなことができるんですね」

ハッパ「機械だけで戦艦からモビルスーツから、おそらくは薔薇のキューブに住んでいる人間の生活必需品まで自動で作って、その利益は誰のものになっていると思う?」

3人はときおり出会う薔薇のキューブのクルーらしき人間を蹴散らして走り続けた。

ノレド「みんな研究者みたいな人たちばっかりだ」

ノレドは自分を気弱を振り払うようにハッパに話を振った。巨大なレンチを握りしめたままのハッパがノレドの疑問に答えた。

ハッパ「出会う人間で会う人間白衣を着て研究者のような人物ばかり。レンチを構えて威嚇するだけで道を空けてくれる。警備の人間がいないんだ。戦艦のクルーもいない。モビルスーツも無人。なぁ、おかしいとは思わないか? こうして物を作って売れば金が入る。それは誰のものになっているんだ?」

ラライヤ「そういえば、おかしいですね」

3人はG-アルケインに乗り移った。薔薇のキューブの技術者はアメリア製のG-アルケインには興味がなかったようで、連れ去られたときのまま何もされていないようだった。

アルケインの500m先にはにはザム・クラブの姿があった。だがバララ・ペオールの姿はどこにもない。ラライヤはバララ・ペオールもまた自分と同じような実験をされたのだと理解した。彼女には過去の時代に生きたニュータイプの残留思念が宿っている。

その人物の悪質さが、バララ・ペオールを変質させたのだ。

3人は目線を上げ、キューブの反対側を見た。G-ルシファーはFブロックの反対側の壁面に着陸していた。全身の光を灯したままのG-ルシファーの輝きがはっきりと見えた。

真っ暗な立方体の内側壁面すべてが自動工場になっている。ハッパはキューブの中央部分に透明な膜に覆われた球体があるのを指さした。

ハッパ「あの部分が無重力下で精密部品を作るラインなのだろう」

3人はG-アルケインに乗り込んだ。しかし、3人が乗り込むには狭すぎた。コクピットに座ったラライヤは両端をハッパとノレドに圧迫されながら機体を発進させた。

ノレドがラライヤの頭越しにハッパに質問した。

ノレド「結局誰が儲けているって?」

ハッパ「アメリアで発生した資本の集中を思い出したんだよ。500年前に産業革命を達成したアメリアは、資本主義という経済体制で国家を運営していて、資本の偏りが問題になっている。つまり金持ちと貧乏人が発生したんだ。そこで余剰資本を効率よく投資するために、古代の文献をもとに株式市場というものを作ろうとしていた。しかしこれはさらに富の分配を破壊するというので、計画は止まったままになっている。株式市場再興を熱心に働きかけているのはクンタラの金持ちで、彼らはグシオン総監にそのことを陳情していた。総監はそれを止めていたんだけど・・・」

ラライヤ「ちょっと待ってくださいよ!」

G-アルケインがG-ルシファーにドンとぶつかって機体を抱きかかえると、コクピットの中にいた3人組が勢い余って外に飛び出してしまった。ラライヤは3人のヘルメットにモビルスーツの指を当てて接触回線を開くと、こういった。

ラライヤ「3人とも武器を捨てればこのまま助けます。それが嫌ならここに残って下さい」

3人は突然闇の中から出現したモビルスーツに驚いて慌てて武器を捨てた。ラライヤは3人を再びG-ルシファーのコクピットに押し込むと機体ごと抱きかかえて飛び上がった。

ハッパ「アルケインの認識コードを切るんだ。G-ルシファーだけのコードにしておけば、無人のシルヴァーシップは攻撃してこない」

ノレド「アメリアじゃなくても資本主義じゃないの?」

ハッパ「ああ、話の続きか。つまりアメリア以外はまだ国家が投資をしている段階なんだ。だけど、アメリアは自主独立の気風が強くて昔から個人の権利にうるさい。産業革命が起こったのも早かったからすでにかなりの大金持ちが発生している。あれ、何の話だっけ?」

ラライヤ「自動工場の利益は誰のものかって」

ハッパ「そうそれだ! つまり、薔薇のキューブの中の連中を宇宙世紀復活派と呼んでいるけど、彼らは戦争をしたいわけじゃない。戦争で儲けたいだけだろう? つまり、資本家とか株主とか、そういうものじゃないかって思ったんだ。そもそも彼らの名前は・・・」

ノレド・ラライヤ「ヘルメス財団!!」

ハッパ「どんだけ労働者から搾取したらビーナス・グロゥブみたいなもんが作れるのかって話ですよ。ヘルメス財団にとって、フォトン・バッテリーの供給体制は投資だったんじゃないかな」

ノレド「永久に搾取するための?」

ラライヤ「エンフォーサー、つまり執行者というのは株主みたいなもの?」

ハッパ「人間のエンフォーサーはね。機械の方がなぜエンフォーサーなのか、何を執行するのかについてはまだ確信がないな。ニュータイプに何を執行させるというのか」

そういいながら、ハッパは何やら嫌な予感を持ち始めていた。

3人を乗せたG-アルケインはG-ルシファーを抱えたまま静かに薔薇のキューブを離れ、ムーンレイスと戦争状態にあるシラノ-5側には戻らず月に向かって降下していった。

ラライヤが逃げたとの知らせはジムカーオに届けられた。報告を聞いた彼は特に驚いた様子もなく、ラライヤ・アクパールに憑依した残留思念の落ち着いた様子を思い出していた。

ジムカーオ「まさかとは思うが、ニュータイプは宇宙世紀の最初期にしか出現していないのではないか。ジオンが研究していた強化人間という狂人の思念ばかりがエンフォーサーに取りついて、これでは大執行などできようはずもない。それとも彼らの狂った思念に人類の未来を委ねることになるのだろうか・・・。ヘルメス財団も酔狂なことをするものだ」







法王庁からの発表は、アメリア国民にも当然伝わっていた。テレビは連日この話題で持ちきりであり、いつの間に自分たちが世界から非難を受ける立場になったのか頭が追いつかない人々がその大半であった。実力主義でクンタラ差別が少ない土地柄ゆえに、法王庁の発表が理解できないのだった。

だが法王庁の発表通りにクレッセント・シップとフルムーン・シップが共に宇宙から降りてきたとき、放送がでたらめでないことは誰の目にも明らかになった。ただ、アメリアの国民は法王庁より自国の政府の発表を待った。特に宇宙へ上がったアイーダ総監の言葉を。

ラトルパイソンから降り立ったアイーダ・スルガンの隣にクリム・ニックが立っているのを見たとき、大勢の観衆はさらに驚きを強めた。空港に押しかけアイーダに詰め寄るパフォーマンスを考えていたズッキーニ大統領派の議員はクリムの姿に仰天して何もせずに退散してしまった。

ハリー・オードはオルカを引き連れてアメリアのある地域へ移動していった。

クリム「まさに針のむしろだ」

アメリアを裏切ってゴンドワンについたクリム・ニックへの罵声はひときわ激しかった。彼との戦闘で死んだアメリア人兵士の家族はプラカードを掲げて彼に抗議の意思表明をした。そしてキャピタル・テリトリィから命からがら逃げてきた難民たちもまた彼を赦してはくれなかった。

アイーダへの非難の声は主にスコード教信者からのものだった。アメリアも南部のサンベルト地帯には多くのスコード教信者がいる。キャピタル・テリトリィに近いその地域は、ムーンレイスとの間の協定で本来は彼らに土地を明け渡すことになった。

スコード教はまさにその地域に多くの信者を抱えていたのだ。彼らにムーンレイスとの協定を納得させるのは至難の業に思えた。やり遂げなければならないことは多く、困難ばかりであった。

アイーダとクリムはアメリア国防相にある彼女の総監執務室へ入ってようやく一息ついた。さっそく駆け寄ってきたのはグシオン時代から政策秘書を務めるふたりであった。ひとりは背の高い年配の白人男性、ひとりは若い白人女性で、いずれもアイーダの有能なスタッフであった。

男性秘書はクリムを冷ややかな目で一瞥すると、腕まくりをしてアイーダに詰め寄った。

レイビオ(男性秘書)「宇宙では散々ご活躍だったようで。おかげで地球は大混乱ですよ。とにかく仕事が溜まっておりますが、そちらの男性(クリムを指さす)はこのまま置いておかれるつもりで?」

アイーダ「いえ、まずはクリムとわたしに飲み物を。(クリムに応接室の椅子に座るように促し、自分はその前に座る)わたしはあなたがやろうとしていたことは理解できるんです。パクス・ロマーナもまたひとつの平和の形だと思います。それは父が考えていた平和への道でもあり、考え方の違いをここで云々するつもりはないのです」

クリム「(脚を組んで遠くを見ながら)オレは法王庁から死刑勧告と死亡宣告が出ているのだろう? いまさらどうあがいてもジムカーオに嵌められた事実は覆らんし、アメリアの若者を殺したことも、キャピタルを爆撃したことも、ビルギーズ・シバを処刑したことも変わらん。罪は背負うつもりだよ。車で四肢を引き裂かれなかっただけ上等というものだ」

アイーダ「そこまで覚悟が定まっているというなら結論だけ申しますが、あなたには一兵卒としてキャピタル・タワー奪還のために戦ってもらいたいと思っているのです。ケルベスさんと共に戦ってください」

クリム「そんなこと相手が承知しないだろう。それに∀ガンダムはターンXと一緒に運用はできない」

アイーダ「あの白い機体はいにしえの大戦の忌まわしき機体らしいので解体します。エネルギー源を調べるためにもあれは提供してください。それよりあなたにはそのままゴンドワンの若者たちと宇宙へ移民していただきたいのです」

クリム・ニックの顔がサッと引き締まった。

クリム「宇宙・・・移民だと?」

アイーダ「そうです。これはベルリの発案なのですが、資源が枯渇した地球は思っているより居住可能な地域が少ない。一方で宇宙に住んでる方々は地球への帰還を望んでいる。だとするならば、地球と宇宙はもっと往還を激しくするべきだと」

クリム「あいつがそんなことを考えていたのか・・・」

アイーダ「弟は地球とトワサンガ、ビーナス・グロゥブの関係を変えようとしています。しかし、宇宙との往還をキャピタル・タワー以外の手段で行った場合、フォトン・バッテリーを止められては何もできなくなる。独自エネルギーで動いているクラウンを使うのが最も効率がいいのです。戦艦はいずれ廃止いたします」

クリム「グリモアでも貸してくれるのか?」

アイーダ「ミックさんのヘカテーが整備されて使えます。もしそれでよければ」

クリム「宇宙移民か・・・。君は総監として、上院議員として何を成すつもりなのだ?」

アイーダ「わたしが目指すのは、(毅然と)パクス・アメリアーナですよ。少なくとも宇宙で起きている大問題が解決するまでは。解決のヒントをくれたのもミックさんなんです」

クリム「(両手を上げ)わかったよ。償いはいかなる形であれさせてもらうさ」

クリムが退室すると入れ替わりに女性秘書が入ってきた。

セルビィ(女性秘書)「議会対策の仕事が溜まっているのですが、その前に姫さまはジット団ってご存知ですか?」

アイーダ「(大声で)ジット団! なんであなたがそれを?」

セルビィ「実はずっと面会要求がされていて、ビーナス・グロゥブから来たというのでとりあえず話だけ通しておこうと思いまして」

アイーダ「いまどこにいるのですか?」

セルビィ「それがこのすぐ近くなんですよ。モビルスーツの整備をやっている工場の汚い人たちなんですけど、どうしても姫さまに会って話したいことがあると。自分らは新型モビルスーツの整備と武装の開発を頼まれているが、新型兵器の横流しをしているロルッカ・ビスケスという人物の言うとおりにしていていいのかと」

アイーダ「(また大きな声で)ロルッカ・ビスケス! 新型モビルスーツ・・・。あ・・・、すぐに警察に連絡して動員できるすべての警官を集めるように指示してください。アメリアが宇宙世紀復活派の武器の横流し場所になっているなんて!」







ヘカテーの受け取り場所が記された小さな紙きれを頼りに、クリムはひとりで夕闇の街を歩いていた。一応サングラスで顔を隠してはいたが、アメリア中のヘイトを一身に集める彼は生きた心地がしなかった。ただ、法王庁が流してくれた死んだとの誤報もあり、誰も彼に気づくことはなかった。

クリム「(地図に眼を落とし)この辺のはずだが・・・。(周囲をキョロキョロと見回す)それにしてもやけに警官の数が多いな」

周辺区域には多くの警官が配置されていた。彼らはある巨大なビルを取り囲んでいた。どこぞの悪人が逮捕される瞬間を見てみようかとも考えたが、そんな立場でないことを思い出して彼は海沿いにある寂れた工場区域に脚を踏み入れた。薄暗闇の中、その工場だけは煌々と明かりが点っていた。

しかもやけに騒がしい。彼は工場の中に入って従業員に声を掛けた。

クリム「アメリア政府からヘカテーというモビルスーツの整備を依頼された工場はここか?」

声が小さかったのか酒に酔った従業員はクリムに気づかなかったが、やおら振り返って肩を抱きかかえると工場の中へと連れて行ってくれた。工場の中は酒盛りの最中だった。

クリム「なんだか楽しそうだな」

団員A「さっきアメリアのアイーダ総監から電話があってな、オレたちの正式な移民を認めてもらったんだ。クリムトンとかいう男と一緒にキャピタル・タワーの奪還作戦に加わる条件なんだが、オレたちもあの空爆では散々苦労させられたから、ちょうど仕返しもできるしって喜んでたのよ」

クリムは酒盛りの輪の中にクレッセント・シップで一緒だったコバシがいるのを見て、サングラスを深く掛け直した。コバシはクリムと幾度か面識がある。

団員A「(大声で)ヘカテーを取りに来たってよ! あれ? ってことはあんちゃんが噂のクリムトンかい?」

クリム「ああ、そうだが・・・」

小さな子供を抱きかかえた女性が声を聞きつけて近づいてきた。小柄な女性であった。クリムは彼女にも見覚えがあった。ビーナス・グロゥブから地球にやってきたジット団の女性だった。

スーン「あんたがクリムトンか。今回の作戦行動ではあなたの指揮下に入る、ジット団のクン・スーンという。話を聞かれているかどうか知らないが、実はわたしたちはトワサンガから密輸されたモビルスーツをロルッカ・ビスケスという男に扱わされて、その告発をしていたのだが、アイーダさんという方がようやく戻ってきて、流されたモビルスーツはアメリアが接収するということで決着したそうだ」

コバシ「そこでね、そのモビルスーツを使ってキャピタル・タワーを奪った奴らに復讐できることになったのよ。あたしはもうあの日の空爆のことは一生忘れないわ。あんな残虐なことができる人間がこの世にいていいはずがない。あれ、クリムトン・ニッキーニとかいう男がやったんでしょ? ああ、あんたのことじゃないわよ。同じ名前の人ね。あんな残虐行為をする悪魔がいたら、せっかくレコンギスタしてきたのに生きた心地がしないわよ。だからキャピタルのレジスタンスと協力して、タワーを奪還したのちに、サンベルトってところに全員分の住居と新しい工場を提供してもらえることになった」

団員B「これでようやく落ち着けるってもんだね」

団員C「(顔をしかめて)オレは前から武器商人みたいなことをしているロルッカとかミラジって連中は好きじゃなかったんだ。逮捕されて清々しているよ」

クリム「みなさんはビーナス・グロゥブの方だとか。アメリアとは散々戦ったんじゃないのですか?」

スーン「戦ったことは確かだが、アイーダさんはクレッセント・シップとフルムーン・シップをああしてアメリアに預けてもらうほどの人なんだろう? たしかにメガファウナの人間とはいろいろあったけど、ウチらが悪い面もある。もうとにかくこれで終わりにしたい。自分らは地球に根を下ろしてみんなで仕事して食っていければそれでいいんだ」

コバシ「(クリムに向き直り)ただし、条件があるの。タワーを奪還して元の住民を家に戻すのは結構。でもそれを成し遂げるために無差別殺人をするような真似だけはごめんこうむりたいのね。あたしたちはあんたの指揮下に入るのだから、あんたには空爆したクリムトンのようなことはしてほしくない。あれはね、人間のやることじゃないのよ。それはわかって欲しいのね」

ローゼンタール・コバシの言葉はクリムの心に突き刺さった。

戦争の興奮を離れてみれば、その行為はただの残虐行為でしかなく、戦争に内包される政治目的や浪漫主義は、何の意味もなさないのである。

自分は無意味な行為にミック・ジャックを巻き込み、死なせ、死んだ彼女に助けられ、こうして恥をかきながら生きていくのだろうかと自虐的感慨に包まれていくのを止めることができなかった。

スーン「それにしても問題なのはあの銀色の船体だな。あれは宇宙世紀末期のエンフォーサーユニットのものだろう?」

クン・スーンがエンフォーサーの名前を出すと、酒に酔っていた団員たちの顔色が変わり、凍り付くような静けさが場を支配した。

コバシ「ニュータイプによるオールドタイプの粛清って話でしょ? あの船がどこから持ち出されたものなのかわからないんだし、古い迷信みたいな話なんだから、気にすることはないと思うけど。(顔が引きつってくる)キア隊長の論文はあくまでビーナス・グロゥブが行う大執行をレイハントン家が阻止しようと考えているって話だから」

スーン「もちろん、何事もなければそれに越したことはないが、エンフォーサーユニットはG-ルシファーで我々も実験していたけども、システマチックに月光蝶を使うから、あんなものが大挙して生産されたら人類は本当に終わりだろう。なんだかG-∀も持ち帰るし、あのアイーダって姫さまもよくわからん人ではあるな」

クリム「(こわばった声で)月光蝶とは?」

コバシ「ナノマシンによる文明を消失させる武器のこと。大昔に開発された武器なんだけど、現在ではニュータイプによる大執行という裁きの日に使用されるだけの特殊兵器に指定されていて、あたしたちも法王庁からの依頼で研究していたのよ。G-ルシファーに搭載していたのは威力の弱いものだけど、もし銀色の船が空を覆うことがあったら、あとは祈るしかないという。迷信よ、迷信」

クリム「ニュータイプによる大執行・・・。裁きの日・・・」

スーン「人間がオールドタイプのまま進化しなかったら、ニュータイプによる支配に強制的に切り替えるってこと。だけどさ、(ふざけた調子で)人類がそんな都合よく進化するかっての」

スーンの言葉にジット団の団員たちは笑ったが、クリムの表情は凍り付いたままだった。


(アイキャッチ)


この続きはvol:65で。次回もよろしく。






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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第21話「法王庁の影」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第21話「法王庁の影」後半



(OP)


アイーダが乗るラトルパイソンは水先案内を引き受ける形で先行して大気圏突入を果たした。メガファウナの機能を取り入れ、宇宙での運用も可能になったこの戦艦は、彼女の自己矛盾そのものであった。アイーダは、大気圏脱出をクラウンに頼ることに不安を感じていたからこそ、ラトルパイソンを新型に改造するよう命じていたのだ。

そして、彼女の微かな不安は最悪な形で的中していた。

法王庁による善意の資源供出が支配体制の確立を目的としていた場合、アメリアは彼らにどう対処すればいいのか。アイーダは考え続けていた。

彼女自身が発表した、法王庁およびキャピタル・テリトリィとの協力関係を重視し、世界をスコード教の下に糾合して紛争を解決する「連帯のための新秩序」は、法王庁の裏切りによって頓挫した。法王庁は、彼らに敵対的であったクリム・ニックやクンタラ建国戦線を利用してアメリアを陥れたのだ。

アイーダ「(シートベルトを外しながら)こういうことでしょう。自主独立の機運の強いアメリアは、最初から法王庁にとっては目の仇、目の上のたんこぶだった。そのアメリア主導でスコード教への帰依を世界に呼び掛けた場合、アメリアは法王庁に対しても過大な要求を突き付けてくる可能性がある。彼らはそれを嫌がったのです。法王庁は、すべて自分たちで決め、それに従うだけの信徒を求めていた。だから彼らは我がアメリアを服従させるための手段を取った」

彼女は腕を組んだまま乗員を反応を確かめた。彼らはしきりに頷き、賛意を示した。

アイーダ「はなから法王庁はなかなか自分たちに服従しないアメリアを快く思っておらず、そのアメリアが世界の代表としてスコード教に接近してくることに恐怖したのです。法王庁はわたくしの『連帯のための新秩序』を、世界のヘゲモニーを握るための方便だと邪推した。そこで自らヘゲモニーを奪い返す手段に打って出た。これが地球圏における今回の騒動の原因です」

アイーダの声はオープンチャンネルですべての艦艇に流れていた。クレッセント・シップとフルムーン・シップの乗員だけでなく、ハリー・オードも彼女の演説に耳を傾けて聞いていた。

アイーダ「そこでわたくしとディアナ・ソレル閣下は、ある約定について再確認いたしました。それはアメリアとムーンレイスの間で取り決められた『サンベルト移譲条約』の再確認です。これは遥か大昔にアメリアとムーンレイスの間で取り決められた条約ですが、アメリア側の不手際によって条約の確認ができず、戦争の原因となったものですが、わたくしはディアナ閣下とお話しして、ムーンレイスのサンベルト地帯への移住を認めることにいたしました。ただし、これはアメリアに新国家を作ることではなく、すべてのムーンレイスのアメリアへの移住を許可するものです。アメリアがこの条約によって分裂することはありません。今回の事態が収束したのち、改めて条文を作り直した上で締結するつもりです。『連帯のための新秩序』は、破棄されたものとご理解ください」

新造艦オルカの中で話を聞いていたムーンレイスたちは、驚きの顔を互いに見合わせていた。彼らはまったくこの事実を知らされていなかったのだ。その喜びは抑えきれずに爆発して、オルカの中はお祭り騒ぎになった。

ハリー「ただの小娘だと思っていたのは撤回せねばな」

ディアナが自分を地球へ派遣する決断をした意味をようやく理解したハリーは、勝利の後に今度こそ夢が実現することに打ち震えた。







アイーダがオープンチャンネルを通じて伝えた言葉は、シルヴァーシップもキャッチした。

自らの残留思念をエンフォーサーユニットに移植することでクリムを救出したミック・ジャックは、エンフォーサーが分析した内容と自分の意識が感じた内容のギャップに驚いた。エンフォーサーはアイーダの方針を危険と見做し、ミックは逆に希望と捉えたのだ。

彼女はシルヴァーシップから外へこの情報が漏れないように指令を出した。エンフォーサーユニットの身体を得た彼女は、いまやこの戦艦の司令官なのだ。

エンフォーサー「クリム! 作戦変更です。すぐに戦艦に戻って!」

しかし、クリム・ニックはそれどころではなかった。彼は∀ガンダムを操るルイン・リーとともに、ケルベス・ヨーのターンXを鹵獲するために戦い続けていたのだ。

文明存続派の威信をかけて作られたターンXは、一筋縄ではいかない機体であった。加えて∀ガンダムのルインがやりにくそうに戦っていることも見て取れた。これではいくら戦い続けても決着はつきそうにもない。クリムは休息をとるかのようにシルヴァーシップの船体上部に乗った。

クリム「(肩で息をしながら)なんだ、ミック」

エンフォーサー「作戦変更です。ここは姫さまに慈悲を乞いましょう」

クリム「いや、そんなことは断じてできん!」

エンフォーサー「いえ、これはあたしの判断、ミック・ジャックの判断ってだけじゃないんです。考えてもごらんなさい。アメリアが反法王庁になった場合、ゴンドワンの亡命政府は国を破壊したクンタラ国建国戦線と、彼らと和解する手はずになっている法王庁への強い不満を表明します。そうなれば必ずアメリアと終戦協定を結ぶはずです。そして共にクンタラ国建国戦線を国を簒奪した侵略者として非難するでしょう。『クンタラ亡命者のための緊急動議』を出した姫さまはクンタラのリベラルに評判がいい。国内のリベラル派のクンタラに対して建国戦線への不支持表明を出させることくらいはできるはずです。だとすればどうなります? 次はそこで戦っているルインがクリムのように梯子を外される番です。法王庁は全部計算済みなんですよ。地球に居場所がなくなったルインは、ジムカーオを頼って宇宙に出るしかなくなる。そうなれば全部ジムカーオの思いのままに出来る」

クリム「それは、君の、その、機械の頭脳というものの判断なのか?」

エンフォーサー「そうです。姫さまのムーンレイスとの同盟の確認は、ルインという人物を追い込むための彼らの作戦の一部です」

ふたりの会話は接触回線だけではなくオープンチャンネルでも流されていた。それを聞いたルイン・リーはターンXと距離を置いた。

ルイン「オレを陥れるための罠だと?」

エンフォーサー「残念ながらね。クリムもそれで陥れられた。あなたはどうせ自分はジムカーオの片腕だとでも思っているのでしょう。でもこのままあなたが法王庁と歴史的和解などというものをやってしまえば、あなたの支持層である保守派のクンタラはあなたに不満を持つでしょうし、リベラル派のクンタラはあなたが何の権限もなくクンタラ代表を標榜しているだけだと非難するはずです」

よく考えれば、それはあり得る話であった。自分はクリムトン・テリトリィ=キャピタル・テリトリィの領主などという甘言に騙されて本質を見誤っていたのではないか。ルインは急に不安になり、戦闘を完全にやめてしまった。

ケルベス「ルイン生徒。オレの教え子。オレはお前のやったことを云々するつもりはない。お前もベルリと同じだ。ベルリは宇宙の人々を地球に入植させるにはどうしたらいいか探していた。お前はクンタラの人々をどうやったら救えるか探していた。そうじゃないのか? でもな、ジムカーオというのはレコンギスタ派よりたちが悪い男だぞ。あれはこの世界を宇宙世紀に戻そうとしている男だ。戦争は巨大な利権だ。宇宙世紀を戦争の世紀にしたのは戦争で肥え太ってきた一部の人間なんだ。連中が望んでいるのは、人間同士が争い、武器を求め、自分たちが利益を得ながら害だけは及ばないように戦争を限定的にとどめることなんだ。歯止めのある継続的戦争の創出による利益の最大化、それこそヘルメス財団が目指したものだ。ヘルメス財団は軍産複合体なんだ!」

ルイン「軍産・・・複合体」

ケルベス「主席卒業生のお前にはわかるはずだ。そこにいるクリムはキャピタルの民政の象徴であった首相を殺した。それで後に引けなくなった。お前にとってのそれは、法王庁との和解なのだ。キャピタルの利権に目を暗ませるな。正しい道を歩め、わが生徒!」

ルイン「そんな・・・そんなことはないはずだ。まさか、すべて壮大な計画の一部だったなどと、そんなことはない。有り得ない!」

エンフォーサー「(ルインに対し)それは自分で確かめたらいいでしょう。あたしたちが壮大な計画の一部だと知らずにキャピタル・テリトリィを灰にしたように、あなたはゴンドワンを砂に変えた。あたしたちが宇宙の王になることを夢見させられたように、あなたは地球の王になることを夢見させられていた。こうして話してはいるけど、あたしは大好きなクリムを残してすでに死んでしまっている。あなたを大好きな人は、本当に大丈夫かしら?」

ルイン「マニィが・・・殺されるというのか?」

ケルベス「ルイン生徒よ。オレはお前に教えなきゃいかんことは全部教えたつもりだ。あとは自分で考えて判断するんだ。オレは先にキャピタルに行かせてもらう。オレはそこでなすべきことがある」

そう告げるとケルベスは∀ガンダムとターンXが干渉し合わないように機体を大きく後退させてからキャピタルを目指して飛んで行ってしまった。

ルイン「待て!」

クリム「ルイン。その機体のままで彼を追いかけたら、先ほどの光球のような現象がまた起きてしまうのじゃないか? オレとモビルスーツを交換しないか?」

ルイン「G-セルフを渡すというのか?」

クリム「オレにはもう必要のないものだ」

クリムはシルヴァーシップの上でモビルスーツのハッチを開いた。ルインは戸惑いながらも彼の求めに応じて自分もその傍に降り立つと、ハッチを開けた。ふたりはしばらく見つめあったのち、先にクリムがワイヤーを渡して∀ガンダムのコクピットに脚をかけた。

その際にクリムは小さく呟いた。赤道上の風がふたりに吹きつけていた。

クリム「ミック・ジャックが死んだのは本当だ。オレがあの娘を冷たい宇宙で死なせた」

それを聞いたルインは自分もG-シルヴァーに乗り移った。

クリム「よく考えることだ」







ルインはケルベスの姿を追いかけたが、結局見失ってしまった。それを残念とも思わず、彼はクリムトン・テリトリィにある自分の邸宅へと戻った。

ルインが銀色のG-セルフで戻ってきたことに驚いたマニィだったが、それどころではないとばかりに機体を降りてくるルインに駆け寄って勢い込んで話し始めた。

マニィ「(子供を抱え直して)たいへんだよ、ルイン。ジムカーオ大佐から連絡が入ってる」

ルイン「大佐から?」

マニィ「(屋敷に向かって歩きながら)いま法王庁の人がやって来て、なんだか大きな機械を置いていってね、それを使うとトワサンガと時差なしで連絡できるんだって」

ジムカーオ大佐からと聞いてルインは緊張した。彼の頭の中にはクリムやミックの言葉が強く焼き付いていた。マニィとコニーの身に何かあると想像するだけで心がざわめいた。

ルイン「よし、オレが話す。マニィは部屋を出て行ってくれ」

マニィ「でも・・・」

ルイン「いいから!」

そう強く言い放ち、彼はマニィを退室させて、法王庁の人間が置いていったという機械に向き合った。操作はユニバーサル・スタンダードの通信機と変わらなかった。彼は通話スイッチを入れた。画面にカップでコーヒーを飲むジムカーオが映し出された。

ジムカーオ「おっと、これは失礼」

ルイン「一別以来です。あれから大佐の方針通り何もかも進み、また今回も特別なご配慮を賜り、至極光栄でございます」

ジムカーオ「ああ、屋敷のことか。君の働きに報いるとなればそれくらいは当然のことだ。堅苦しい挨拶は抜きにして本題に入るが、こうして通信することになったのは非常事態だと考えてもらっていい。実は法王庁とクンタラとの和解について問題が生じた。君にその日取りを決めてもらう手はずになっていたはずだが、アメリアと月の古代種族ムーンレイスが結託してしまって、トワサンガは大変な状態になってしまっているのだ。君も知っての通り、地球に残されたフォトン・バッテリーの残量は残り3か月もない。このまま戦争を続けていては月も地球も干上がってしまう。一刻も早く戦争を終わらせ、ヘルメスの薔薇の設計図を回収してビーナス・グロゥブと和解せねばならないのに、何も進んでいない状態なのだ。極めて憂慮すべき事態である。しかも、トワサンガの元国王であったレイハントン家の嫡男が反乱を起こし、シラノ-5の機能を停止させた上でこちらに戦いを挑んできている。いま必死に防戦しているのだが、レイハントン家とムーンレイスはかなり手強くて苦戦しているのだ」

ルイン「ベルリが反乱?」

ジムカーオ「何が気に入らないのか知らないが、トワサンガの国王になるのは嫌だと駄々をこねた挙句、古代種族を冷凍睡眠から解放して仲間に引き入れ、戦争を仕掛けてきているのだよ。それにアメリアにいる総監の娘も加わったから大騒動さ。こんな状態ではビーナス・グロゥブになんと申し開きしていいのかわからない。だからこうして君の助力を得るために通信させてもらった」

ルイン「わたしなどにどうしろというのでしょう?」

ジムカーオ「クラウンを使ってすぐに宇宙へ上がって来てくれないか。ザンクト・ポルトからはカシーバ・ミコシでトワサンガに入ってもらう。ただしこちらの宙域はずっと戦争が続いている状態だ。王子さまはよほど戦争が好きらしく、フォトン・バッテリーが尽きるまで戦争を続けるつもりのようだ。彼はビーナス・グロゥブから盗み出したクレッセント・シップとフルムーン・シップをアメリアへ降下させた。おそらくアメリアにあるフォトン・バッテリーを運ばせて補給にするつもりらしい」

ルイン「ベルリが・・・」

ジムカーオ「そう、ベルリ王子さまだ。ベルリ王子さまというのはノレド女史と仲が悪いのかい? 彼女とどうしても結婚するのが嫌らしいのだ。だからといってここまでやるのは異常だ。そうは思わないかね?」

ルイン「いえ、自分には宇宙で起こっていることは知りようもございませんので」

ジムカーオ「それはそうだ。愚痴が過ぎたようだ。わたしは戦争の終結とヘルメスの薔薇の設計図の回収、そしてトワサンガで起きた反ドレッド家の騒乱をベルリ王子のレイハントン家相続によって収束させるつもりだった。ところが誰もかれも勝手なことばかりして、法王庁もヘルメス財団もカンカンに怒ってしまっている。とにかく戦争を終わらせなければ、地球は破滅するしかない。そこで君に、ベルリ王子の処刑を頼みたい」

ルイン「(椅子から腰を浮かせるほど驚き)なんですって! ベルリの・・・処刑?」

ジムカーオ「そうだ。これは法王庁からの死刑勧告に基づくものだから、もちろん君は何の罪も被せられない。これについては君の了承があり次第法王庁とヘルメス財団の方から正式に発表させてもらうつもりだ。君は法王庁の発表を待って、ベルリ王子と戦っていただくことになる。そのために、すぐにでもタワーで上がってきて欲しいのだ」

ルイン「いや・・・しかし、急な話で・・・」

ジムカーオ「戸惑うのは無理もない。君に嫌な役割を押し付けるようで悪いのだが、こちらの手持ちの戦力はタワーの運航再開に振り向けてしまって、残っているのは2万人のトワサンガの一般住民だけなのだ。彼らを早く正常な生活に戻してやりたい。そのためには、ベルリ王子が持っているG-メタルというレイハントン家の証が必要なのだ。もしそれをベルリ王子から奪って、彼を処刑してくれたら、君をトワサンガの新王に推挙してもいい。レイハントン家のふたりの子供は地球で何不自由なく育てられてしまって、姉も弟も手が付けられない。アメリアの問題もあるが、まずはトワサンガを元に戻さねばビーナス・グロゥブと交渉することさえできない有様なのだ。クレッセント・シップとフルムーン・シップがアメリアからフォトン・バッテリーを運んできてからではまた戦争が長引き、地球はエネルギー不足でさらに疲弊してしまう。そうなったらクンタラどころじゃない。地球人全員が飢えて死ぬことになる。また共食いの時代に逆戻りだ。わたしはクンタラのひとりとしてそれは何としても避けたいと願っている。だから君にどうしてもと頼みたいのだ。君は優秀なパイロットでもある。君ならばベルリ王子を処刑できるはずだ。いや、それができるのは宇宙に君しかいないだろう」

ルイン「ひとつお聞きしたい。自分が宇宙へ出た場合、地球に残されたクンタラの人間、特に自分と共に戦ってくれたクンタラ国建国戦線の人間はどのようになるのでしょうか? 自分はいまゴンドワンの仲間と離れ、クリムトン・テリトリィの領主になれと命じられここで足止めを喰らって仲間と接触できておりません。当初、こういうつもりではなかったのです」

ジムカーオ「君のゴンドワンでの活躍はヘルメス財団も大いに評価しているところだ。クリム・ニックによって反スコード教の動きを強めたゴンドワンには制裁が必要であった。それを我々クンタラに押し付けた法王庁のやり方にはわたしも文句があるが、クンタラにはカーバが必要なのだ。カーバとは地球のことだ。地球へ還れば、差別はなくなるはずだった。約束の地カーバの伝説を持つクンタラには、地球のどこにでも自由に住める権利がある。法王庁はクンタラとの歴史的和解を通じて、クンタラ差別の撲滅と世界のすべての国に対して領土の割譲、参政権の付与を約束すると言っている。それに、もし君がトワサンガの新王になるというのなら、フォトン・バッテリーの配給権を持つことになる。クンタラ差別がある地域へのフォトン・バッテリーの配給停止をすることもできるんだ。そこまで保証されたなら、あとは自分次第だ。クンタラだからといって怠け者が得をするようではいかん。働いた分だけ、才能を発揮した分だけ報酬を受け取る。これで本当にクンタラは平等にあり得るのだ」

ルイン「なるほど。ゴンドワンの仲間にはいつでも会えると?」

ジムカーオ「君が新生キャピタル・テリトリィの領主を選択しようが、トワサンガの新王を選択しようが、クラウンに乗っていつでも好きなところへ行けるじゃないか。いまはそれを得るために働くべきときだ。働きもせずに何も得られないよ。それは当然であろう」

ルイン「自分の働き如何でクンタラは真の平等を得る? 間違いないのですね?」

ジムカーオ「まさか君も地球をクンタラが支配し得るとは思いはしないだろう? 数が圧倒的に少ないのだ。しかし、君がレイハントン家を亡ぼし、新王になるのなら話は別だ。フォトン・バッテリーの配給は支配だ。君は公正な男だから、不正などしないだろう。権力は正義を知る者が持つべきであって、ただ血筋が旧国王のものだからといって我儘放題で状況を少しも好転させられない地球育ちの甘ちゃん王子が持っていいものではない。血による差別で苦しんだ我々クンタラだからこそ、正義を成すことが出来る。そうは思わないか?」

ルイン「血か・・・」

ジムカーオ「血族支配を終わらせるのだ。我々クンタラの手で」

ルイン「そういうことならば・・・承知いたしました。一命を賭してでもベルリを処刑致しましょう。ただし、自分はひとりの子の親です。人殺しの汚名を着るわけにはまいりません。法王庁より、レイハントン家が持つ権利の剥奪、ベルリへの死刑勧告が出されたのち、クラウンにて出立いたします」

ジムカーオ「そうか、やってくれるか。君ならばわかってくれると思っていた。それでは直ちにそのふたつを世界に向けて発表しよう。ただ、言っておくが、月の裏側は戦争の真っただ中だ。カシーバ・ミコシに乗っているからと油断すると何が起こるかわからないからな」







ルイン・リーの∀ガンダムと機体交換を済ませたクリム・ニックは、真っ暗な中央指令室へと戻った。完全自動運行を実現したシルヴァーシップに人間の乗員はいない。ミック・ジャックの意識を取り込んだエンフォーサーさえも、無人船の機械の一部でしかなかった。

表面をナノマシンで覆ったエンフォーサーは、相変わらずミック・ジャックと寸分変わらぬ表情を浮かべてクリムが戻ってくるのを待っていた。彼女は初めて席を立ちあがるとクリムに近寄り、冷たい肌で彼を抱きしめてキスをした。

エンフォーサー「あたしはこれから姫さまにあなたのことを助けてくれるように懇願してきます。元々弱いあたしではもうここに戻ってくることはできないでしょう。これでお別れです。あなたはまた素敵な人を見つけてくださいな」

クリム「何を言ってるんだ、ミック。ずっと一緒に・・・」

そう言葉を伝えようとクリムが顔を上げたときには、エンフォーサーの顔はミック・ジャックのものではなくなっていた。それは女性型という以外に特徴のない、作り物の顔でしかなかった。

クリム「なんで・・・、なんでお前はそこまでしてオレを・・・」







ラトルパイソンのブリッジで腕組みをして今後の作戦を練っていたアイーダとブリッジクルーたちは、何かが来るのを感じて一斉に顔を見合わせた。

周囲を見回したブリッジクルーたちは、アイーダが人間の形をした光の塊と正対して話しているのを見た。だがそのボンヤリした光がなんであるのか理解できる者はいなかった。アイーダは相手の言葉に何度も頷くと、最後は笑みを浮かべてその人物に触ろうとした。

しかしアイーダの手は虚空を掴み、何も手に触れることはなかった。光は消えていなくなった。

アイーダ「たったいま、アメリアのミック・ジャックより陳情を受けました。後方から敵主力戦艦シルヴァーシップがやってきます。彼女は船とエンフォーサー1機、∀ガンダム1機と引き換えにクリム・ニックの安全の保障を求めてきたので、わたくしはそれを了承いたしました。グリモア隊は直ちに出撃して自動航行になっているシルヴァーシップの確保を急いでください。またクリムの身柄の確保も。アメリアは法王庁の死刑勧告には従いません。宗教団体による超法規命令は断固拒否いたします」

艦長「グリモアだけで大丈夫ですか?」

アイーダ「心配はいりません。敵艦はクリム以外は無人です。ああ、誰か船の分析ができる人たちを探さなければなりませんね」

命令だけを済ますと、アイーダは自室に戻ってベッドに腰かけた。

アメリアへ戻ればまた政治屋との戦いが待っている。彼女の敵は法王庁。どうやって打ち砕くか、そして宇宙で戦っている弟を守れるか、不安は尽きなかった。

静かに天井を見上げて、アイーダは呟いた。

アイーダ「ニュータイプへの導きが人類進化の鍵だって、本当にそうなの、ミック・ジャック」


(ED)


この続きはvol:64で。次回もよろしく。













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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第21話「法王庁の影」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第21話「法王庁の影」前半



(OP)


∀ガンダムとターンXの衝突が作り出した巨大な光球は、最も近い位置にあるクリムトン・テリトリィでも観測された。

早起きしていた人々は誰もがその光の球を目撃して、神々しい輝きに世界で何かが起こる予感を感じた。

その輝きは、大西洋を東から迂回してクリムトン・テリトリィを目指していたシルヴァーシップのレーダーにも捉えられた。

クリム「なんだ、あの巨大な光球は」

そう訝しみながら、クリムはミック・ジャックの姿になった銀色のアンドロイドに指示して船を光球が観測された場所へと移動させていった。

エンフォーサー「大型のモビルスーツが出てますね。あれは∀ガンダムとターンXという機体で、人類を滅亡に導いたときの忌々しき機体です」

ふむと頷いてからクリムはエンフォーサーの知識が最初からあればこうはならなかったとも後悔した。いま彼は航海中に部下に裏切られて海に叩き落された大航海時代の船長のような立場になっていた。もう一度這い上がるために何が必要なのか・・・。

クリム「ミック、教えてくれ。いまのオレには君とG-セルフだけがある。もう1度何かを成す手段はあるだろうか」

エンフォーサー「いま法王庁のラジオ放送を受信していますけど、どうも彼らはあなたを悪人に仕立ててクリムトン・テリトリィをもう1度キャピタル・テリトリィに名前を変更しようとしてます。あなたはビルギーズ・シバを処刑した人物として法王庁の名義で死刑勧告が出され、宇宙で戦死した旨が発表されてしまっている。ゴンドワンのラジオは、政府があなたを国家の防衛任務を放棄して私欲のために軍隊を利用した罪で告発して、新生キャピタル・テリトリィに対して和解を持ち掛けている。アメリアではあなたのお父さまが、罪深い息子なれど親子である以上葬儀を行うのは当然だと・・・これは家族愛のある人物だと国民に印象付ける作戦でしょうね。またあなたはあの父親に政治利用されている。こうなると未開の地にでも行ってそこの王様になるか、ビーナス・グロゥブへでも行くか」

クリム「オレは死んだことになっていて、居場所はもうないというわけか・・・。このままふたりであのときのように気ままに世界を回るか。それとも・・・」

エンフォーサー「ちょっと待ってください。法王庁から全人類に対してターンXの捕縛命令が出ていますね。ターンXというのは宇宙世紀で最も攻撃的種族の負の遺産ですから封じ込めたいのでしょう。あれを手土産に恩赦を求めることもできるかもしれません。それにあたしもいる。あたしはエンフォーサーといって残留思念の入れ物で、ターンXとエンフォーサーは本来地球人の眼に触れさせてはいけないものなんです。∀ガンダムについてはルインという人物の機体なのでいましばらく使わせておくようですが・・・。いや、待ってくださいよ」

クリム「すまん。オレにはミックが言っていることの意味がさっぱりわからない」

エンフォーサー「あたしはあんなところであんな死にざまをして、悔しいんですよ。でもこのままあなたを終わらせてしまうのも悔しい。敵はあたしたちが考えていたよりずっと大きく古いものなんです。あたしはあなたの覇権主義に賭けましたけど、こんな姿になってみてわかったんです。覇権主義で成功するのは1代限り。そのあとは作り上げた権威をめぐって争いをするか、官僚が権威を簒奪するかしかありません。覇権主義はその暴力を肯定するために統治者に大きな権限を与えます。1度国家がこの大きな権威を認めてしまうと、それは容易に変えられない。変えることが出来ない。独裁の仕組みは独裁者が死んだ後も残り続けるんです。あたしたちの夢は、残念ながら間違っていました」

クリムは言葉ではそれに答えなかったが、沈んだ表情で小さく頷いた。

エンフォーサー「でもあたしはあなたをこのままでは終わらせない。あなたはまだ若い。あなたの魅力は衰えてなどいません。働く場所はまだまだあるんです」

そう告げるとミック・ジャックの思念が宿ったエンフォーサーは、シルヴァーシップの速度を上げた。

エンフォーサー「あなたとあたしを陰で操っていたのは法王庁です。本当は彼らに復讐したいけど、いまは我慢して恩赦を求めるためにターンXを手に入れましょう。おそらくルインに∀ガンダムを与えたのは、ここで戦わせるためではないはず!」

クリムは、初めてエンフォーサーの冷たい手を触った。

クリム「ミック・・・。あんな冷たい宇宙で君を死なせたオレを、まだ守ってくれるのだな」

ミック「当り前じゃないですか。いまはまだわからないでしょうけど、あたしたちはずっと一緒なんですよ。ふたりを分かつものなど、本当は何もなかったんです」






ジムカーオ「文明というのはときおりリセットしてやらないと、進歩の果てには黒歴史しかないのだ」

彼は薔薇のキューブの指令室でエンフォーサーに対して話をしていた。エンフォーサーは任務を遂行することに掛かりきりで誰も彼の話を聞いてなどいなかったが、ジムカーオにとってそれは関係のないことだった。彼は対話者を必要とはしない。

クンタラからスコード教に改宗したときから、彼は究極的に神との対話を諦めていた。クンタラの神も、スコードの神にも助けを求めないから彼は神を捨て孤独になりえたのだ。

暗い室内で、彼はずっと独り言を呟いている。拠るべき神を捨てた人間にとって重要なのは、信念だけであった。

ジムカーオ「∀ガンダムで文明をリセットできたのは幸いな話だ。それでクンタラの原型が生まれたことなど小さな問題に過ぎない。文明は生まれ、崩壊する。これを繰り返せばよい。宇宙世紀の果てに何があるかを人類が知る必要などない。人類は未熟で、都合よく進化したりしないからだ。宇宙世紀は長く続きすぎた。その原因は、宇宙世紀のごく初期にアクシズを落としそこなったからだ。シャア・アズナブルという歴史的人物が小惑星を地球に落としていさえすれば、宇宙世紀は産声を上げた瞬間に死んでいた。勤労意識に目覚めたスペースノイドが地球に再入植して、新しい秩序を地球にもたらしていた。それを博愛主義か何か知らんがそんなもので阻む力が働いたから、宇宙世紀は存続し、イノベーションは利権化したのだ。人類はいま1度アダムとイヴから始めればよい。そうは思わないかね?」

中央指令室のエンフォーサーは、ムーンレイスの攻撃を分析し、対応指示を出し続けている。

ジムカーオ「宇宙世紀の技術で地球を再生しようなどと考えるから、宇宙世紀の存続派や復活派が生まれる。そしてそこに利権の継続を見出す人間が出てくる。真のレコンギスタとは、地球文明を完全崩壊させたのちにアダムとイヴが地球に降り立つことだ。ピアニ・カルータとかいう男はまったく何を血迷って、競争が遺伝子を強化するなどと考えたのか。1度衰えた遺伝子が再強化されることなどない。遺伝子は環境に適応して再構成されていくだけだ」

エンフォーサー「内部に侵入者あり。映像を出します」

思考を中断されたジムカーオはしかめっ面で画面を見た。

ジムカーオ「ああ、これはノレドくんとハッパくんだな。捨ておけ。法王庁の利権主義者どもが始末するなり、始末されたりするだろう。どちらでもよい、そんなことは」

彼はいま1度自分の考えに集中した。

ジムカーオ「・・・、外宇宙にまで進出した人類は、宇宙のどこにも神などいないと身をもって体験したはずだ。神はおらず、神の衣をまとった者が神の言葉と偽り人を騙す。だがそれすら新世界には必要ないものだ。あるべきは勤労意識のみ。いまはスペースノイドすら増えすぎた。神を屠り、新人類が新たに創造する神こそが真の神である」

それが、信仰を捨てた彼の結論であった。ビーナス・グロゥブの検察官僚だった彼は、スコード教への改宗を契機に真の無神論者として信仰の根源を探っていたのである。








自己犠牲の精神がアクシズの進路を変えたとき、ゲル法王とウィルミット長官は思わずおおと声を上げた。地球は滅亡の危機を救われたのだ。

ウィルミット「あの方が地球を救った? これは本物の映像なんですよね? 怖ろしい話ばかりだったので救われたような気分になりました」

ひとりの神学者として映像と向き合っていたゲル法王も興奮を隠しきれない様子であった。

ゲル法王「なぜこのような素晴らしい映像が禁忌になっていたのか。鍵が掛かっているということは禁忌になっていたということですから。人々を滅亡の際から救ったこの映像をスコード教の原点として人々に見せることが出来れば、人類は再び争いごとを起こさなかったかもしれませんのに」

リリン「白いのがみんなを助けた?」

ゲル法王「そうですね。白いモビルスーツに乗った人が奇跡を起こしたのです」

不可解なのは、法王の言う通りその映像が禁忌になっていた事実であった。なぜレイハントン家はこの映像に鍵をかけて秘匿したのか。

ウィルミット「拝見したところ、あのモビルスーツに落下する隕石を止める力はなかった。そこで何かが起こったのですね」

ゲル法王「奇跡が起きたわけです。うん、そうですね。しかし、機械の力を使っています。増幅されたかのような印象を持ちました」

ウィルミット「力が機械で増幅された。奇跡が宇宙世紀の技術を前提にしていたから、スコード教の原点になった出来事でありながら封印するしかなかったのでしょうか?」

ゲル法王「それもあるでしょうが、こうも考えられます。重力に捕まり大気圏内に落下していく隕石を小さなモビルスーツで押し返したあの人物が、決して技術を肯定し称賛する人物ではなかったということです。あの特別な力自体を称賛してしまう可能性があったから・・・」

ウィルミット「封印されたと。なるほど。称えるべきはその前の自己犠牲の精神であると」

ゲル法王「そうです」

ウィルミット「ニュータイプという力と宇宙世紀の技術を前提に信仰を興してしまうと、それはオカルトや文明への過信に繋がって、のちの宇宙世紀が引き起こした戦争の継続の否定ができなくなってしまう。だからこそ、この映像は封印された」

ゲル法王「一方で、偉大な自己犠牲精神がもたらした最大の奇蹟でもあった。だから、保存しながらも封印せざるを得なかった」

彼らが赤いモビルスーツの人と呼ぶ人物は、文明を亡ぼしたのち、スペースノイド主導で地球を再建しようと考えていた。

一方で白いモビルスーツに乗る人物は、宇宙世紀の技術を使って破滅から人間を救ったものの、文明そのものの瑕疵を肯定していたわけではなかった。白いモビルスーツの人物は、文明は別のものによって何かしらの進化を遂げる可能性があると信じ、人を救ったのだ。

ゲル法王「これから我々がなすべきことは、白いモビルスーツの人物が信じたことを探すことでしょう。彼の人類への信頼の原点は一体何だったのか。それもまた奇蹟だったのでしょうか」







ぶつかり合ったIフィールドは、直径100㎞にも及ぶ巨大な光球を作り出した。

稲妻が幾筋も走り、空中に雷鳴が轟いた。光球が消え去ると、∀ガンダムとターンXは互いにビームライフルを構えて相手の撃墜を狙った。パイロットはまったく操舵が効かず、互いに相手の機体がどこの誰のものかもわからないままに戦い続けた。

ケルベス「自動操縦に切り替わった? なぜだ!」

地球に戻って来た途端始まったこの戦闘に、ケルベスは戸惑った。2機は人間の思惑を超え、もっと大きな怨念のようなもので突き動かされているかのようだった。互いが果てるまで戦い続ける運命を背負わされているかのようだった。

ケルベス「何が起こってるのかはわからんが、オレには帰らなきゃいけない故郷がある! それを汲んでくれよ、ターンX!」

ケルベスは必死にコントロールを取り戻そうとあてずっぽうでパネルを触ったり操縦桿を回したりしてみた。1㎞ほどの距離を空けて正対しつつ互いに間合いを計っているとき、敵機の股間の部分にコクピットがあるのを発見した。

ならばと放ったワイヤークローで接触回線を開くと、敵パイロットに呼び掛けた。

ケルベス「オレの名前はキャピタル・ガード所属ケルベス・ヨー中尉だ。そちらの名前と所属は?」

ワイヤークローで胴体を縛られて身動きが取れない∀ガンダムのルイン・リーは、懐かしいその声に戸惑っていた。キャピタル・ガード候補生で主席卒業を果たしたルインの恩師がケルベスだったからだ。ルインは思わず返事をしてしまいそうになって、その言葉を飲み込んだ。

ルイン(よく考えるんだ、ルイン。この2機は似たような機体だと思われる。おそらくは作られた時代が同じなのだろう。ということは、相手の機体も発掘品で、同等の性能があるとみなければならない。オレはいまクリムトン・テリトリィの領主であっても、キャピタル・テリトリィを爆撃したわけでもキャピタルの人間を殺したわけでもない。ケルベス教官にマスクのことが知られていたとしても、言い逃れはできる。ここは下手に出て、あの機体をこちらのものにするか・・・)

そんなルインの思惑を察したかのように、∀ガンダムは激しく蠢動し、ワイヤークローを振りほどくと再びビームライフルを構えた。ワイヤークローはターンXの右腕に収まり、接触回線は途切れた。

ルイン「操縦ができなければ、何もさせてもらえないか」

ルインは操縦系から完全に手を放して、何か手掛かりがないか辺りを見回して観察した。モニターは謎の文字を浮かび上がらせて点滅するばかりで、その記号が何を表しているのかルインには理解できない。機体はビームライフルを構えてはいるが、それはルインが意図して動かしているわけではない。

同様に、ケルベスもまた操縦を諦めて状況の把握に努めていた。

ケルベス「ワイヤークローは思いのままに使えたわけだ。ということは、攻撃に関してはこちらの思いのままに動く。敵から離れようとすると(操縦桿を手前に動かす)操舵が利かない。機体が敵と戦いたがっている。ということは、この2機はかつて戦ったことがあり、その際にインプットされたものがどの時代のどんな命令にも優先するように設計されているということか。それとも、この機体には考える力なり、感情があるということだろうか?」

∀ガンダムに対して執拗に戦いを挑んでいくターンXを、ケルベスはそう分析した。いにしえの時代より続く争いの根源が、解消されないまま果てしなく継続されているのだ。

ケルベスがいま一度相手パイロットに接触を求めようとしたところ、威嚇するかのような艦砲射撃が2機を襲った。操縦系統が元に戻り、ケルベスとルインはすぐさま機体を相手から離した。

メガ粒子砲を撃ってきたのはシルヴァーシップであった。驚いたケルベスはターンXを大きく後退させた。するとシルヴァーシップの中からG-シルヴァーが飛び出してきた。

ケルベス「なんであいつがこんなところに。それに薔薇のキューブに関することは地球人には伝えられていないはずだが。それともすでに地球でも宇宙世紀復活派が暗躍を始めているのか?」

驚いたのはケルベスだけではなかった。ルインは眼前に出現した銀色のG-セルフに唖然とした。G-セルフはレイハントン家の御曹司であるベルリだけのものと思っていたからだ。

ルインはG-シルヴァーと距離を置きながら、声を出すと相手に正体がバレると思いつつも、意を決してマイクを使って呼び掛けた。

ルイン「そこのパイロット」

その声を聞いて、ケルベスは∀ガンダムに乗っているのが教え子のルインだと知った。マスクとしてクンパ大佐に操られながら、最後までメガファウナに抵抗した男であった。ルインの声は風に遮られながらも辺りに響き渡った。

ルイン「その機体はG-セルフだとお見受けした。なぜあなたはその機体に乗っているのか」

∀ガンダムとターンXの間に割って入ったG-シルヴァーから、ふたりになじみのある声が響き渡り、またしてもふたりは驚くことになった。G-シルヴァーのクリム・ニックは両機にオープンチャンネルで呼びかけてきた。

クリム「自分はゴンドワン軍の上級大将を任されていたクリム・ニックである。自分は現在すでに死んだことにされているが、こうして生きている。法王庁の出した死刑勧告は誤ったものであり、誤解に基づいている。そこでかつてマスクと呼ばれていた君に頼みごとがある。自分は法王庁に恩赦をもらうためにそこにいるターンXの機体を求めている。ともにあれを鹵獲する手伝いをしてくれまいか」

いつしかケルベスのターンXはG-シルヴァーと∀ガンダムに挟まれていた。

マスクと呼ばれ一瞬焦りをみせたルインであったがすぐに落ち着き、銀色の機体と同じ色の細長く凹凸のない不思議な戦艦を観察した。それらは宇宙から持ち帰ったものに違いなかった。

ルイン(空から落ちてきた古代のモビルスーツ。なぜかここにいるトワサンガの最新兵器。この両者との接触はジムカーオ大佐の計画ではないはずだ。ここは慎重に行かねばならないが・・・)

慎重さが求められる場面でありながら、ルインの眼はG-シルヴァーに釘付けになっていた。古代の、時折暴走する謎の機能に溢れた機体より、ルインの眼にはG-シルヴァーの方が遥かに魅力的に映った。ルインは、ベルリのG-セルフをいったん奪いかけて入手しそこなっていたのだ。

何としてでも手に入れたい。ルインは思った。マスクを外した彼はすでにベルリに対する憎しみや怒りは消えている。それでも、彼に感じていた羨望が消えたわけではなかった。生まれながらにしてなんでも持っている人間と自分は相容れない。

ルインは立場の違いを強調するために、自分もオープンチャンネルを使って返答した。

ルイン「これはクリム閣下。お目に掛かれて光栄です。自分の名はルイン・リー。新生キャピタル・テリトリィの領主を法王庁から賜ったものです」

この言葉にケルベスは愕然とした。自分の教え子がいつの間にかキャピタル・テリトリィの領主になっていたこともそうだが、まがりなりにも民政であったキャピタル・テリトリィに、領主などという立場が創設されたことが信じられなかった。悔しさに彼は歯ぎしりした。

ルイン「法王庁がターンXという機体を求めておられるのは聞いております。ではあれが共通の敵というわけですな。しかし、あなたもまた法王庁から死刑勧告を受けておられる。宗教団体であるスコード教教会から死刑の勧告を受けるというのは相当なことです。わたしはクンタラの代表としてスコード教と歴史的和解をするにあたり、あなたを庇うわけにはいかないのです」

クリム「足元を見られるのは嫌いだが、君がマスクならばこの機体が欲しいのではないのか? ターンX鹵獲後ならば機体を交換してもいい」

ルイン「なるほど。ではあなたを信じることにしましょう」

ケルベス「ナメてくれる!」

そうは言ったものの、最高性能のモビルスーツ2機に戦艦を相手にして勝てる見込みはケルベスにはなかった。しかも彼は機体性能を熟知しているわけではない。

ケルベス「頼りになるのはッ!」

敵機である∀ガンダムとの間に起こる不思議な現象であった。ターンXで∀ガンダムに近づくと自動的に戦闘が始まって操縦が利かなくなる。それは∀ガンダムも同様なのだ。この古代のモビルスーツは果てることない憎しみをぶつけ合い、それはエネルギーの大量放出を伴って早朝の空に雷鳴を発生させた。

この2機が激しい戦闘状態に突入すると、G-シルヴァーはなすすべなく後退するほかない。クリムはシルヴァーシップの凹凸のない甲板に立つと接触回線を開いた。

クリム「ミック、聞こえていたか。マスクはモビルスーツの交換に応じた。だがターンXはかなり手強いようだ。何か策はないか」

ミック「姫さまが戻ってきたようですよ」

シルヴァーシップよりはるか上空の映像が転送されてきた。それは小さな点のような映像に過ぎなかったが、メガファウナ及びラトルパイソン、続いてクレッセント・シップとフルムーン・シップに違いなかった。

ミック「ジムカーオという人物は、マスクだった男に文明を崩壊させるような機体を預けて、いったい何を考えていた?」



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この続きはvol:63で。次回もよろしく。





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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第20話「残留思念」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第20話「残留思念」後半



(アイキャッチ)


施術台の上に固定されたラライヤ・アクパールは、自分を囲む白衣を着た大勢の人間が何者であるのかずっと考えていた。様々な人種、男女の数が同じ集団。似ているものはアメリアの気風であった。

しかし彼らはアメリアの人間ではない。彼らはエンフォーサーと呼ばれる何者かであるのだ。彼らの指揮を執っているのは、キャピタル・ガード調査部のジムカーオ大佐。クンパ大佐の後任としていつの間にか調査部に君臨した男である。

ラライヤはビーナス・グロゥブで起こったことをひとつひとつ記憶の表層に蘇らせていった。そして思い当たったのが、ビーナス・グロゥブ公安警察のことだった。彼の地での主犯はピッツラク公安警察長官という人物であった。彼は殺されたとのことであったが、公安警察とキャピタル・ガード調査部との類似性は、政府から独立した機関で、情報が集積する組織だということだ。ただでさえ秘密裡に行動しやすい組織が、宗教というタブーの影に隠れたらどうなるかは明白だった。

ジムカーオ「ゼロ? この娘には一切何も入らないのか? そんなはずはないだろう。あれだけの能力を発揮したのだ。やり方が間違っているのではないか?」

実験を繰り返しながら、ラライヤの身に何も起こらないことにジムカーオは納得がいかないようだった。簡易な台の上に寝かされて、両手両足を拘束されたラライヤは、様々な方法で「エンフォーサーユニットとして思念を移す」実験に晒されていた。

しかし何をやってもラライヤの身に変化は起きなかったのだ。実験の責任者らしい中年の痩せた白人の女が肩をすくめながらこういった。

女医A「共感性はあるのでしょう。それでもダメということは、すでに誰かの残留思念が彼女の身体に入っている可能性があります。誰のかはわかりませんけど」

ジムカーオ「施術も受けずにそんなことが起きるはずがない。ニュータイプは霊媒師じゃないんだぞ」

ラライヤには彼らの話が理解できた。それはベルリに起こった出来事から類推された彼女なりの結論だった。

ニュータイプの資質のある者は人と人の境界線を越えて、その思念が相手の中に入ることがある。思念に境界はなく、残留思念というからには人の生死すら関係ないのかもしれない。

エンフォーサーが何を執行する存在であるのかまでは彼女にはわからない。しかし、銀色の女性型エンフォーサー自身には人の思念というものがなく、境界を越えてきたニュータイプ資質のある人間の思念を自身の中に取り込んで囲うことが出来るのである。

ベルリがエンフォーサーが搭乗したG-シルヴァーと戦った際に意識を失うほど引き込まれていったのはそのためだ。しかし自分にはすでに何者かの思念が宿っていたので、引き込まれもせず、新たな思念も入ってこない。G-ルシファーの操縦をしていたときにそれは彼女の中に入ってきたのだろう。

G-ルシファーのサイコミュが、彼女の身に何かを引き起こしたのだ。

ジムカーオと医師たちは議論を戦わせていた。だが諦めたのはジムカーオであった。

ジムカーオ「哲学論争などまっぴらだ。いやこれは哲学ですらない。宗教だ。大昔の強化人間とは違うのだよ。戦うために欲しているのではない。人の肉体がかりそめのものでなければ大執行などただの虐殺ではないか。ビーナス・グロゥブにどう言い訳するのだ」

語気を強めるジムカーオの足元が小さく揺れた。ラライヤもベッドの上でその揺れを感じた。何者かが薔薇のキューブに攻撃を仕掛けてきたのだった。







メガファウナを飛び出して単機薔薇のキューブの後方に回り込んだG-ルシファーにファンネルが回収された。あまりに巨大な薔薇のキューブは1度の攻撃ではビクともしなかった。

G-ルシファーに乗っているのはノレドとハッパであった。ラライヤが誘拐されたと聞いたノレドは矢も楯もたまらず冬の宮殿を飛び出し、アイーダにメガファウナまで送ってもらったのちに許可もとらずG-ルシファーの封印を解いたのだった。

ハッパに対してエンフォーサーを乗せるように彼女は要求したが、ハッパがそれを拒否すると彼をそのままコクピット内に蹴り込んで無断で出撃してしまった。

ハッパ「いい加減にしろ、ノレド!」

ナビゲーション席に座らされたハッパは怒り心頭であった。だが自分がラライヤを救出するといってきかないノレドは薔薇のキューブの内部に入ることしか考えていなかった。

ノレド「ハッパさんはシルヴァーシップがこちらを攻撃してこなかったことを考えて。あたしは入口を探す。こんなもの全部あたしが壊してやる!」

シルヴァーシップの話に、ハッパのメカオタク気質が刺激された。

ハッパ「(眼鏡を直しながら)確かに妙なんだな。突っ込んでいったときはもう死ぬと思ったものだが、連中は攻撃どころか警告もしなければ通信も送ってこなかった。つまりこれは、この機体を仲間だと識別したということだ。だが、そう識別したからといってこうして攻撃を仕掛けているのだから、目視で敵だとわかりそうなものだが、それでも反応がない。ここから得られる結論は、シルヴァーシップは完全自動操縦の無人船だということだ。おい、ノレド、聞いているのか」

ノレドは話など聞いていなかった。彼女はまたしてもファンネルを放出して薔薇のキューブに攻撃を仕掛けた。しかし薔薇のキューブには傷ひとつつかない。

立方体の前で2重の円形の陣を取っていたシルヴァーシップが前方に向けて射撃を開始した。どうやらノレドが動いたことで戦闘が始まってしまったらしかった。

ハッパ「まだ作戦会議は終わっていなかったんだぞ! ラトルパイソンもまだ宙域にいるのに。ノレド! ノレドーーーーーー!」







ノレドがG-ルシファーを盗み出して単機攻撃を開始したとの知らせが入って、作戦会議は打ち切られた。シラノ-5の各港に入港していたムーンレイスの艦艇や、サウスリングの下に隠れていたメガファウナ、ソレイユなども出撃し、ディアナ・ソレルの指示で陣形を整えた。

シルヴァーシップは射程外から第1射を放って威嚇してきたが、ムーンレイスとメガファウナはそれにひるむことなく陣形を完成させた。

そのときだった。G-ルシファーからオープンチャンネルを通じて各艦に通信が入った。あまりに急な出来事であったためにミノフスキー粒子が散布されていなかったのだ。

ハッパ「シルヴァーシップは無人機の可能性あり。おそらく敵モビルスーツも同様に無人。ミノフスキー粒子が干渉しない何らかの方法で遠隔操作されている模様!」

ディアナ「なるほど。それで疲れ知らずな指揮ぶりだったのですね」

それに対抗した自分を誇るかのようにディアナはいった。彼女は少し考えこみ、敵が艦隊戦に持ち込んできたわけを考えた。

ディアナ「無人機のモビルスーツに自信がないとみました。先ほどより乱戦に持ち込みます。各艇モビルスーツの発進準備。確固の判断で出撃させてください。敵は1度に攻略できる戦力ではありません。今回の目的はシルヴァーシップの数を減らすことだと考えてください。メガファウナはラライヤ・アクパール及びノレド・ナグらの救出を優先」

たった2日の戦闘休止状態は瞬く間に崩れ、再び宇宙では大規模な戦いが始まった。






ベルリ・ゼナムはメガファウナのモビルスーツデッキでずっと苛立っていた。

ベルリ「ノレドの奴、勝手なことばかり!」

アダム・スミス「お前にふさわしい女の子になりたいのさ。わかってやれよ、少年」

ベルリ「ふさわしいってどういうことですか!」

アダム・スミスはそれに答えずさっさと自分の仕事に戻っていった。ベルリは思い切り水を飲みこんで少しむせた。クレッセント・シップが日本に寄港したときに降りて以来、かつての仲間たちとはずっとすれ違いになっているような気がしていた。ノレドも同様であった。

ベルリ「なにか、みんなが遠くにいる気がする」

アダム・スミス「なんだってー?(何でもないですとベルリの返事がある)ディアナさんは名前を出してなかったが、ハッパも連れ戻してくれよ。頼むぞ、ベルリ!」

ベルリ「了解です!」

メガファウナを発進したG-セルフは少しだけ先行して敵の様子を伺った。シルヴァーシップは2重の円陣を崩しておらず、ムーンレイスの動きに合わせて完璧に連動された艦隊行動をみせていた。

ベルリ「結構固いぞ。なんでノレドはあんな防御陣形を突破できたんだろう?」

中央に入ると集中砲火を浴びると判断したベルリは、陣形の一角を崩すために大きく左舷へ回り、シラノ-5の影を利用して攻撃を仕掛けることにした。







地球へ帰還することになったアイーダ・スルガンは、1隻も失うことなく艦隊戦を乗り切ったことに安堵していた。

彼女のラトルパイソンに従うのはディアナ親衛隊を乗せたオルカ2隻であった。彼らは月の軌道を回り、太陽光が当たる表側へ向かっていた。そこでクレッセント・シップとフルムーン・シップを伴って地球まで航行し、大気圏突入をすることになっていた。

戦力を失うどころかさらに増やして帰還できるのは大きな成果であるはずなのに、アイーダの顔は晴れなかった。

その理由は、ジムカーオによる情報戦にあった。いつしかアメリアは「宇宙からの脅威」であるムーンレイスと同盟を組んで地球の支配を目論む悪人にされてしまっていたのだ。法王庁を通じて発表された話がどこまで庶民に浸透しているのかは、戻ってみなくてはわからなかった。

ハリー「顔色がすぐれませんな。何か心配事でも?」

ハリー・オードは作戦を共にするラトルパイソンを表敬訪問していた。彼の視線はサングラスに阻まれてどこにあるのかわからない。

アイーダ「(難しい顔で)トワサンガの奪取には成功いたしましたが、もしかしたら地球は厳しい状況になっているかもしれません。お覚悟を」

ハリー「ご心配には及びません。自分はこれでも慣れているので」

ラトルパイソンのブリッジにケルベス・ヨーが上がってきた。彼が率いるケルベス隊は彼の教え子たちで構成されており、若い隊員ばかりであった。

ケルベス「(帽子を取って腿のところでパンと叩く)話を総合すると、ザンクト・ポルトにはカシーバ・ミコシが乗りつけてガードの裏切り者たちがタワーを運行していてもおかしくないわけです。薔薇のキューブの連中はクリムと同盟を結んでいたわけだから、タワーもテリトリィもあちらのものになっている。ハリーさんのお話じゃカシーバ・ミコシは大量のモビルスーツを運搬していた。こうなるとこっちのレックスノーじゃ対抗できない」

アイーダ「何か作戦を考えましょう」

ケルベス「いや、それは隊員たちと散々議論したがダメだとわかったわけです。かといってキャピタルの問題でアメリアに軍隊を出してくれともいえないし、アメリアにはモビルスーツがないという。そもそもエネルギーがなくなってきている。これはもうどうしたらいいのかわからんのです」

話を聞いていたハリー・オードが、キャピタルとアメリアの座標を確認しながら話に割って入った。

ハリー「ディアナさまが月の宙域を制圧したのなら、どのような世界が来るにせよあなた方の悪いようにはしないでしょう。タワーというものもそのときに取り戻せばいいのでは?」

ケルベス「取り戻し方が問題です。あまり時間が経ってしまうと、キャピタルに入植した人間と元の住人との間で権利に関する争いが起こる」

アイーダ「アメリアはキャピタルのレジスタンスを支援していましたが、たしかにゴンドワンのみならず多くの入植者が入ってきていますね」

ケルベス「また戦争で取り戻すのかという話になります。宇宙世紀復活派というのはどうも争いの火種を作り上げる天才のように感じる。かといって、キャピタルは我々の故郷なので、明け渡すつもりなどないのです」

アイーダ「ケルベスさんにはとりあえずアメリアへ入ってもらって、レジスタンスの指揮を執るなりしていただこうと思っていたのですが、そう単純でもないのですね」

ケルベス「我々が戦争に勝てば、今度はゴンドワンからの入植者がレジスタンスになる」

ハリー「戦いは諦めた方が負けることになっている。ケルベスさんの話ではもう負けたかのような言い草だ。取り返したいのであれば、戦うことです」

それを聞いたケルベスは気分を害し、むっとした表情で食って掛かった。

ケルベス「では貴殿ならばどのようになさるのかご高説を賜りたい」

ハリー「決してバカにしたわけではないのでお許しいただきたいものだが・・・、もしわたしが故郷を奪われたのならば、一命を賭してでも奪い返しましょうな。ターンXならば、単独で大気圏突入もできますし、エネルギーは永遠、フォトン・バッテリー仕様のモビルスーツなど敵ではありません。単独で大気圏内飛行も可能。攻撃力も無限に近い」

ケルベス「単独で・・・、まさか」

ハリー「ゆえにあの機体は邪悪なのです。あれとホワイトドール・・・、∀ガンダムは、宇宙世紀の鬼子のような存在。せっかく我々が封じたものをまた掘り返すことになったのならば、それなりの運命というものがあるのでしょう」

ケルベスは意を決した顔になり、まっすぐハリーに向き直った。

ケルベス「よいお話を聞かせてもらった。ではアイーダ姫さま、自分はキャピタル上空から単独大気圏突入をさせていただく。レックスノー隊は予定通りレジスタンスに合流させてやってください」

アイーダ「ちょっと待ってください。いいのですか?」

ケルベス「いいんです!」

ハリー「(腰に手をやり)なかなかまっすぐな男だ。心地よい」






薔薇のキューブはシルヴァーシップ同様凹凸の少ない作りで、入口はなかなか見つからなかった。

ハッパ「ノレドはビーナス・グロゥブで中へ潜入したんだろう?」

ノレド「あのときはフラミニアさんが案内してくれて・・・。丸い形のエレベーターだったんだよ」

ハッパ「球体? まるでクラウンのようだな。(考え込み)内部の都市部はノレドやウィルミット長官の話で直径2㎞四方だとわかっている。いま計測結果が出ているが、立方体の部分は直径20㎞もある。残り18㎞で生活空間や外壁として・・・、後ろの丸い部分は生産設備なのか?」

ノレド「うーん・・・、壁の向こうは確かに生産設備だった。でも宇宙に繋がっていた。あそこから入れると思ったんだけど」

ハッパ「立方体部分はおそらくかなり頑丈だ。後部にパルスエンジンがついているから球体の下半分はエンジンユニットだろう。なら入るなら球体部分の上半分のどこかだな」

ふたりを乗せたG-ルシファーは、薔薇のキューブの球体部分の側面のどこかに侵入口がないか探したが、なかなか見つからなかった。そうこうしている間に艦隊戦は激しくなり、ノレドの操縦でまっすぐに帰還することは不可能になってしまった。

ノレド「くっそう! ラライヤーーー!」

彼らから離れた位置で大爆発が起きてその閃光がG-ルシファーを一瞬だけ明るく照らした。ムーンレイスの艦隊がシルヴァーシップを1隻撃墜したのだった。すると、薔薇のキューブの球体部分のハッチが開いてそこから新たなシルヴァーシップが出撃するのが見えた。

ハッパ「あそこだー!」

ノレド「はい!」

G-ルシファーは閉まるギリギリのタイミングで薔薇のキューブの内部に潜入した。

ハッパ「ノレドも見たか? 薔薇のキューブはシルヴァーシップが1隻撃墜されるとすぐさま新しいのを補充するんだ。こりゃ厄介だぞ」

球体の内部は漆黒の闇であった。G-ルシファーは全身のライトを灯して周囲を照らした。そこは驚くことに完全に自動化された巨大生産ラインで、複雑に入り組んだ作りになっているがシルヴァーシップからモビルスーツまでがオーダーを受けるなりすぐさま組み立てられるように準備されていた。

生産ラインの間をすり抜けながら、ふたりは機体をモビルスーツの生産ラインに寄せていった。

ハッパ「これはありがたい。フォトン・バッテリーを新品に変えられるかもしれない」

そういうとハッパはさっそく真新しいフォトン・バッテリーを1個盗み出して交換を始めてしまった。

ノレド「うお、フォトン・バッテリーがいっぱいある!」

ハッパ「あるとこにはあるもんだ。ウィルミット長官がトワサンガの行政を手伝っていたとき、少量ずつ使用先のわからないエネルギーが分配されているらしいとレポートに書いてあったのを読んだが、ムーンレイスの生命維持だけでなく、こっちに回されていたかもしれんな。なぁ、ノレド。ラライヤを助けたい気持ちはわかるが、メカニックはこうしたことのやり繰りもしながら機体を運用しているんだ。もう勝手なことはしないでくれよ。空気の玉も水の玉も残り少ない。どこかにないか探してくれないか」

ノレド「うん、わかった。ごめんよ、ハッパさん」

作業を続けるハッパは、カチャッと金属音が鳴ったのを耳にして顔を起こした。

そこには、ハッパとドニエルを拉致してG-シルヴァーとターンXの整備をさせたアーミーの制服の男が立っていた。彼の後ろにはふたりの大柄の女も立っている。女はベルリとターニアを襲った女たちであった。アーミーの男はノレドのこめかみに拳銃を突き付けていた。

兵士「そのモビルスーツを譲ってくださいよ」

ハッパ「あのときの下っ端くんか・・・。ノレドを開放するか?」

兵士「もちろん」

ハッパ「じゃぁ、フォトン・バッテリーの交換が済むまで大人しく待っててくれ。交換しなきゃすぐに止まっちまうぞ」

兵士「そりゃありがたいことで」

ハッパ「(作業を続けながら)オレたちはラライヤという女性を探している。心当たりはないか?」

3人は互いに顔を見合わせていたが、男が顎をしゃくると後ろの女のひとりが答えた。

女A「F-10045にいます」

ハッパ「じゃ、オレたちはそこへ向かうから、オレもその子も絶対に殺すなよ。お前たち、ジムカーオを裏切ったのだろう? オレたちを殺せばもうトワサンガへは帰れないぞ」







クリム・ニックを乗せたシルヴァーシップは、轟音を上げて大気圏に突入しようとしていた。船体は空気との摩擦で真っ赤に染まって、船内中央部分にあるブリッジも大きく揺れていた。

シートベルトをつけたクリムは指を座席に食い込ませてGに耐えていた。ニック・ジャックの顔に変化したエンフォーサーは微動だにせず、前方を見つめている。クリムはいまだに信じられない気持であったが、エンフォーサーはミック・ジャックの残留思念を取り込んだ存在なのだ。

やがて船体表面の温度は下がり、シルヴァーシップは安定飛行に入った。エンフォーサーはミックと同じ声の合成音で喋り始めた。

エンフォーサー「ガランデンもオーディンも失って、ゴンドワンに戻られるのですか?」

クリム「(シートベルトを外し)仕方がない。クリムトン・テリトリィよりは安全だろう。あの忌々しいジムカーオとかいう男がタワーを占拠しているみたいだしな」

シルヴァーシップは静かにゴンドワン上空に近づいていった。モニターが作動して一斉に地上の様子を映し出していく。ところが、確かに地形はゴンドワンのものであったが、そこに映し出されたのは砂漠のような光景であった。わずかに残っていた歴史的建造物など跡形もなく消え去っていた。

クリムは唖然とした顔で画面を見つめていた。

クリム「都市部が壊滅している・・・。一体誰がこんなことを・・・。いや、何者も文明を砂に返すようなことはできるはずがない。これは何かの間違いだ」

エンフォーサー「これは大執行の後です。あたしはこの機械の中にある情報がわかるようになっていて・・・、これは大執行といって、地球人類に進歩が認められなかった場合に定期的に起こされる仕組みなんです」

クリム「定期的?」

エンフォーサー「約1000年に1度のようですね。今来と古来の間でそのように決まったと。ただし、最も古く帰還したムーンレイスはそれに反対し、人間の自由意思を尊重するように求めたことで争いになった。続々と地球に帰還してきた今来には『文明存続派』と『文明リセット派』がいて、戦争に敗れた『文明存続派』は数が少なく『宇宙世紀復活派』などと呼ばれてビーナス・グロゥブへ追いやられ、遠い将来地球に帰還させるとの条件で忍耐強い労働を強いられることになった」

クリム「何のことかさっぱりわからん」

エンフォーサー「いまのクリムに必要なものは、あたしの代わりになるいい女を見つけること。たしかに関係ありませんね」

クリム「(モニターを凝視して)世界中がこうなっているのか?」

エンフォーサー「大執行はまだ行われていないはずですが。それに、トワサンガのレイハントン家はビーナス・グロゥブが強制的に地球に対して大執行を行うことに反対して、月で食い止めるため様々な仕掛けを施していたようです」

クリム「では、誰がこんなむごいことをしでかしたのか」

エンフォーサー「大昔の『文明リセット派』の機体が再起動したとしか考えられませんが・・・」

クリム「ミック、これではゴンドワンに接触しても無意味だ。かといってアメリアにはもう戻れない。どうなっているかわからんが、クリムトン・テリトリィに接触したいが、近づけそうか?」

エンフォーサー「キャピタルに侵攻したときのように、大西洋を東から大回りしますか」

ミック・ジャックの思念を宿したエンフォーサーは、これ以上ゴンドワンに近づくことはやめて、船首を南へと向けた。







クレッセント・シップとフルムーン・シップを伴って航行するラトルパイソンを離れ、ケルベス・ヨーはひとりターンXで出撃した。

ケルベス「これほどまでとは・・・」

ターンXは驚くべき速さで月から地球へと帰還した。ザンクト・ポルトはいまだ夜の位置にあり、彼は太平洋付近から単独で大気圏を突入してそのままクリムトン・テリトリィと名を変えさせられた故郷を目指すことになった。

モビルスーツでの大気圏突入など考えもしなかったケルベスの心は不安で一杯であった。だが、もし自分ひとりが悪名を背負うことで故郷を取り戻せるならば、それも仕方がないと覚悟を決めたのだ。

現在のクリムトン・テリトリィにはゴンドワンからの入植者がたくさんやって来ている。旧住民たちは土地を取り戻すために入植者たちと戦っている。その殺し合いを終わらせるためには、もう1度殺し合いが必要なのだ。もしターンXがそれを可能にするならば・・・。

ケルベス「その悪行はオレが背負うしかない」

大気圏突入を果たしたターンXは、太平洋を越え、夜明け前のクリムトン・テリトリィを目指した。








法王庁からの指示でクリムトン・テリトリィ2代目領主となったルイン・リーは、クリム・ニックが接収して使っていた巨大な邸宅を相続していた。

彼はクリムトン・テリトリィという名前を聞くたびにこみ上げてくる笑いを噛み殺さねばならなかった。すでにクリムは死亡したことになっており、大々的に葬儀も済ませてあった。法王庁の手際は良く、元側近らによる遺産相続をめぐる争いは鎮圧されていた。

クリムが残した莫大な遺産は法王庁の管理下に置かれ、ルインとマニィの手には渡っていない。宇宙からの脅威、ムーンレイスの脅威を盛んに宣伝する法王庁は、まるでかつてのアメリアのようだった。ただ、その絶大な権威は人々をひれ伏させる。宇宙からの脅威は既成事実となっていた。

ゴンドワンからの入植はすでに行われていなかった。行き場を失った移住希望者たちはアメリアへ向かったが、アイーダ不在の議会は彼らを不法移民として処罰した。

ルインがキャピタルを奪ったことで、大陸間戦争を終わらせたのはクンタラ国建国戦線ということにされていた。法王庁はこの功績を称え、キャピタル・テリトリィの秩序回復に貢献したことで、クンタラ建国戦線は合法組織となり、スコード教法王庁との間で歴史的和解を果たそうとしていた。

その式典の日取りを決めるのも、キャピタル・テリトリィ2代目領主ルイン・リーの仕事なのだ。

ルイン「皮肉なものだ。しかしこれで世界は元に戻ったともいえる。ジムカーオ大佐の手際の良さ、頭の回転の速さは驚くべきものだ」

ルインは邸宅の片隅に新たに設置した小さなブランコに腰かけ、夜空を眺めながら小さな娘をあやしていた。かつて陰湿な虐めにあっていた土地に戻ってきて、自分はそこに君臨している。しかも、世界の救世主として。これは大きなサプライズだった。

ルイン「オレはどうすればよいのだろう。クリムの口車に乗った若者たちをゴンドワンに返して、レジスタンスを迎え入れればいいのか? それともここをクンタラの国家にすればいいのか? ゴンドワンの若者を受け入れ、オレたちを差別したキャピタルの人間たちに復讐すればいいのか? 何でもできるんだ。いまのオレには何でもできる」

夜中にぐずって泣き始めた娘コニーは、いまは静かに眠りについていた。そこにガウンを纏ったマニィが駆け寄ってきた。彼女はブランコの傍にやって来て、ルインから子供を受け取った。

マニィ「ごめん。あたし寝てた」

ルイン「夜なのだから君は眠ればいいのさ。すまないが、オレはG-∀でレジスタンスの様子を見てくる。朝食までには戻るよ」

マニィ「あまり眠っていないんでしょ? 無理しないで」

ルイン「まだ若いんだ。それに責任というものがある」

そう告げると彼はG-∀に乗り込んで上空へと飛び上がっていった。

東の空、水平線がかすかに白んできていた。もうすぐ夜明けが来るだろう・・・。ルインがそう考えていたとき、G-∀のモニターにおかしな文字が浮かび上がっては消えた。それは徐々に点滅のようになり、ルインの意思とは無縁に機体はどんどん加速していった。

見たことのない古代文字が交互に点っては消える現象に怯えたルインは、何とか機体を停止させるようにあらゆる操作系を触ってみた。

しかしG-∀の加速は止まらず、何かに引き寄せられるように加速していく。コクピットは警報音を発し、機体は大きく揺らいだ。

ルイン「コクピットはユニバーサル・スタンダードに換装されているんじゃなかったのか? なぜこんな文字が浮かび上がるのだ? いかん、操縦が効かない。故障か?」

G-∀のコクピット内部で起こっていることは、クリムトン・テリトリィ目指して飛んでいたターンXのコクピットでも起こっていた。ケルベスもルイン同様に発光する謎の文字に戸惑っていた。操舵は効かず、減速もできない。

ケルベス「いかん。このままでは地表に激突する」

必死に機体をコントルールしようとするケルベスの意思を、ターンXは顧みようとはしてくれなかった。

ルインが乗る∀ガンダムとケルベスが乗るターンXは互いに引かれ合い、猛スピードで風を切り宙を駆け抜けると、Iフィールドを全開にしたまま激突した。

ぶつかり合ったIフィールドは、∀ガンダムとターンXを一瞬のうちに停止させ、直径100㎞にも及ぶ巨大な光球を作り出した。


(ED)


この続きはvol:62で。次回もよろしく。



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