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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:47 [Gのレコンギスタ ファンジン]

1クール分を書き終わったところで、前半の整理をしておきます。

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登場人物は原作である「ガンダム Gのレコンギスタ」に準拠していますが、新規の登場人物や団体、別作品の登場人物などもあるので、簡単に整理しておきます。


*ゴンドワン

・クリム・ニック

大佐、ゴンドワン軍事顧問、政府特別代表、旗艦・オーディン1番艦。MSはダ・カラシュ。政策「闘争のための新世界秩序」「修正グシオン・プラン」を発表。地球統一政府を作り、トワサンガ、ビーナス・グロゥブの占領を主張している。ゴンドワンの若者に人気がある。

・ミック・ジャック

少尉。クリムの愛人の立場から政策全般に関与。MSはラ・カラシュ。

・ロイ・マコニック

中佐。ガランデン艦長(1期に搭乗した人物に名前をつけました)キャピタル・テリトリィの混乱に乗じてクリムと合流。

・ドッティ・カルバス

中佐。オーディン1番艦艦長。


*キャピタル・ガード(トワサンガ駐留隊)

・ジムカーオ

キャピタル・ガード調査部責任者。階級は大佐。クンパ・ルシータの後任。ヘルメス財団メンバー。元レイハントン家参謀。クンタラ。出身はビーナス・グロゥブ。

・レイ・キャウ

中尉。パイロット。


*キャピタル・ガード(キャピタル・タワー占拠隊)

・ケルベス・ヨー

キャピタル混乱鎮圧のためにあえてクーデターを起こして実権を掌握。かつての教え子や卒業生たちから慕われている。

・トリーティ

ベルリやマスクと同期。デレンセンに才能を認められていた。

・教え子たち

ケルベスと共にあえてクーデターを起こす。戦闘経験に乏しい。


*クラウン運航庁(キャピタル・テリトリィ)

・ウィルミット・ゼナム

クラウン運航長官。クーデターに巻き込まれトワサンガへ連行される。ベルリの母としてトワサンガで執務を行い、その能力が買われてヘルメス財団に勧誘され、ジムカーオの案内でトワサンガにおける「執行の囹圄」に案内された。現在はムーンレイスの基地にいる。

・役人

クラウン運航庁の役人。キャピタル・テリトリィの実質支配者。エリート。


*クンタラ国建国戦線(ゴンドワン隊)

・ルイン・リー

元マスク。ゴンドワンにて作戦を指揮。クンタラ国国王の座を狙っている。

・マニィ・アンバサダ

ルインの恋人で現在妊娠中。ゴンドワン北部に居留。

・ロルッカ・ビスケス

元レイハントン家家臣。ゴンドワン北部に居留。マスクに否定的。

・ミラジ・バルバロス

元レイハントン家家臣。ゴンドワン北部に居留。マスクに協力的。キャピタル・テリトリィより送られてきた小型原子炉を再生して膨大なエネルギーをもたらす。

・兵士たち

ルインとマニィが集めたクンタラの若者たち。


*クンタラ国建国戦線(キャピタル・テリトリィ隊)

・サニエス・バイカルト

元キャピタル・ガード少佐。ホズ12番艦艦長。元マスク部隊。のちにルインと合流。

・兵士たち

元マスク部隊。カランデンで戦艦運用の経験あり。のちにルインと合流。

・クン・スーン

元ジット団。子供を人質に取られている。のちに脱走。

・ローゼンタール・コバシ

元ジット団。ズゴッキーを奪い仲間とともに脱走。発掘品である謎のMS(∀ガンダム。この世界ではG-∀と呼ばれている)を整備してコクピットをユニバーサル・スタンダードに換装した。

・元ジット団員

MSパイロットばかり20名。技術者でもある。スーン、コバシらと共に脱走。

・カリル・カシス

キャピタル・テリトリィの首相ビルギーズ・シバの第1政策秘書。巨乳。クンタラ国に賛同しているが、利己的に動くことが多い。シバを騙してクンタラに有利になるような法案を通そうとするもケルベスに邪魔をされ失敗した。高級客船でアメリアへ亡命。

・ビルギーズ・シバの秘書たち

9名。美人揃い。カリル・カシスと共にアメリアへ亡命。皆貧しい家の出で、カリル・カシスを慕って行動を共にしている。カシスのことはお姉さまと呼んでいる。


*キャピタル・テリトリィ

・ビルギーズ・シバ

キャピタル・テリトリィ首相。お飾りの首相で無能。文学者のような風貌というだけで首相をやっていたが怠け者。クリムにより処刑される。

・ゲル法王

クーデターに巻き込まれたのち、冬の宮殿に監禁されていたが、ノレドらが救出。クレッセント・シップでビーナス・グロゥブへ赴き、説法を行う。


*アメリア

・アイーダ・スルガン

アメリア軍総監。上院議員。ベルリの姉でレイハントン家令嬢。世界巡行中に「連帯のための新秩序」を発表。「クンタラ亡命者のための緊急動議」を議員立法で発議、可決させる。

・男性秘書

グシオン時代からの政策秘書。アイーダの才能を見抜き辞職を思いとどまる。

・女性秘書

グシオン時代からの政策秘書。議会対策に長けている。

・ズッキーニ・ニッキーニ

アメリア大統領。息子のゴンドワン亡命で民衆の支持を失う。議会を掌握しており、アイーダやその女性秘書と対立関係にある。権力欲が強い。

・クンタラ有志

アメリアで商業的に成功したクンタラ。アイーダにクンタラ救済を陳情する。ズッキーニを嫌っており、アイーダに政治献金を行う。ひとりだけ「修正グシオン・プラン」賛同者がいる(D)。


*トワサンガ

・ジャン・ビョン・ハザム

元トワサンガ首相。ドレッド家滅亡後、ジムカーオに追放される。現在はザンクト・ポルトにいる。レイハントン、ドレッド両家の力が強いトワサンガに民政を定着させた功労者として学生に人気がある。

・ターニア・ラグラチオン

元ドレッド軍中尉。ラライヤをドレッド軍に潜り込ませた人物。三つ編み。元レイハントン家家臣でレジスタンスであったためジムカーオにより身分を保証された。レイハントン家、ドレッド軍、キャピタル・ガード調査部に顔が利く稀有な女性。便利屋としても使われる。

・リリン

ドレッド派追放の際に家を奪われ孤児となった6歳の女の子。ノレド、ラライヤに拾われる。軍人である父を慕っており、父の手ほどきでユニバーサル・スタンダードのモニターの扱いに長けており、G-ルシファーの後部座席ではノレドより高い能力を発揮する。

・学生たち

レジスタンスの若手。レコンギスタに反対し、民政から王政への移行にも反対。

・元レジスタンス

レイハントン家家臣団の生き残り。老人ばかり。


*ビーナス・グロゥブ

・ラ・グー

ビーナス・グロゥブ総裁。ヘルメス財団の裏の顔を暴き暗殺される。あまりに有能すぎて姿を現さない敵にいち早く迫り、「執行の囹圄」を検分してしまったことが災いとなった。闇の宮殿居住者が反リギルド・センチュリーだと咄嗟に見抜く。

・ピッツラク

ビーナス・グロゥブ公安警察長官。ヘルメス財団に口封じのために殺される。

・キルメジット・ハイデン

ビーナス・グロゥブ新総裁ラ・ハイデンとなる。元副総裁。熱心なスコード教の信者。意外に切れ者。

・キャプス・マデン

近衛兵団長。老マデンと称され、信頼が厚い。

・エンフォーサー

アンドロイド型ニュータイプ。人工生命体。∀ガンダムのユニバーサル・スタンダード版であるG-ルシファーとリンクして、文明の痕跡を消す大執行を行うためのもの。普段はロボットのように動くが、人間の意識が移植してあり、ある人物の個性を保存している。

・闇の宮殿居住者

エンフォーサーとしてアイリスサインが登録されている人々。反リギルド・センチュリー派のスペースノイド。常時「執行の囹圄」に居住していたが、ノレドが操縦するG-ルシファーに何もかも破壊されてしまい、トワサンガへの一刻も早い移民を求め反乱を起こした。

・ラ・グー秘書A

ラ・グー政策秘書。闇の宮殿の謎を新総裁に伝え、半ば自害する形で死亡。

・ラ・グー秘書B

ラ・グー暗殺実行犯。その場で何者かによって銃殺。

・フラミニア・カッレ

元ジット団。レコンギスタの罪で有罪判決を受ける。ノレドに闇の宮殿を見せた。

・ヤーン・ジシャール

ヘルメス財団に最後まで騙され、ベルリにジャイオーンもろとも撃墜される。

・エル・カインド

クレッセント・シップ艦長。ヘルメス財団の裏の顔は知らない。

・タース

ロザリオ・テンの役人。

*メガファウナ

・ベルリ・ゼナム

トワサンガ王子。アイーダの全権大使。スペースノイドの地球入植を考えている。G-セルフの怖ろしい役割について気づきつつある。

・ノレド・ナグ

ベルリの役に立とうと頑張るあまり闇の宮殿(執行の囹圄)を全滅させてしまう。エンフォーサーを1台奪いメガファウナにもたらした。

・ラライヤ・アクパール

トワサンガ近衛兵団団長という役をジムカーオに与えられる。ノレドと共に行動。

・ハッパ

G-セルフの整備ができることで様々な事件に巻き込まれる。現在はエンフォーサーの解明を託されている。メカニックオタクで、口にはしないが宇宙世紀に憧れている。

・その他乗組員

「ガンダム Gのレコンギスタ」に準拠しています。副長は科白部分だけ副艦長と表記してあります。


*ムーンレイス

・ディアナ・ソレル

月の女王。ベルリによって冷凍睡眠から目覚める。

・ハリー・オード

ディアナ・ソレル親衛隊隊長。


以上になります。以下、13話までのサブタイトル。


第1話「法王の亡命」

第2話「クンタラの矜持」

第3話「アメリア包囲網」

第4話「ケルベスの教え子たち」

第5話「ザンクト・ポルトの混乱」

第6話「恋文」

第7話「ムーンレイス」

第8話「フルムーンシップを奪え!」

第9話「全体主義の胎動」

第10話「ビーナスの秘密」

第11話「ヘルメス財団」

第12話「全権大使ベルリ」

第13話「失われた設計図」


当ブログ内では過去の回が読みにくいのではとの指摘を受け、1話から順番に読めるように「レコンギスタの囹圄」のみのブログを独立させました。

「レコンギスタの囹圄」

こちらはまだ作りかけなので、更新も遅めになっています。

それでは残り13話もよろしくお願いいたします。最終回は第26話になります。


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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第13話「失われた設計図」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第13話「失われた設計図」後半



(アイキャッチ)


ビーナス・グロゥブの新総裁ラ・ハイデンは、ヘルメス財団というのは全宇宙に均衡ある商業活動をもたらすための組織で、スコード教というのは人間の欲望を抑え込むための装置のようなものだと考えていた。ともに人間の悪しき活動を抑制させるためのものだと認識していたのだ。

だからこそ自分もヘルメス財団の一員として働くことを誇りに思ってきた。

しかし、ラ・グーの秘書は、まったく逆の話を告げた。ヘルメス財団はリギルドセンチュリーをユニバーサルセンチュリー(宇宙世紀)に戻すための組織であったと命懸けで伝えたのだ。

このギャップを埋めるための情報は圧倒的に不足していた。

ラ・グーが有能であったためにさほどまじめに働いてこなかったハイデンは、ラ・グーの執務室を引き継ぐとこの1年間で起こった出来事を整理して深く推考した。秘書を置かないと決めた彼を手伝うのは王宮付きの小間使いたちであった。彼らはハイデンの指示で多くの書類を運ばされた。

それによって見えてきたのは、ピアニ・カルータ事件の背後にあるものであった。長く思想犯とされていたピアニ・カルータだが、背後にヘルメス財団がいると考えるとまた違った側面が見えてくる。優勝劣敗論に基づく遺伝子強化の演出が、戦争の再開に見えてくるのだ。

ピアニ・カルータがそれを自覚していたとはとても思えず、特殊思想を持つ彼をヘルメス財団が利用したと考える方がスッキリと納得できる。

モビルスーツや戦艦の設計図を放棄せず、それどころかフォトン・バッテリー仕様に改造した上でユニバーサル・スタンダードで誰でも操縦できるようにしたのは、宇宙世紀のような破滅的結末をもたらさずに利益だけ上げる仕組みを作り出すためと考えれば辻褄は合ってしまうのだ。

ハイデン「戦争状態を生み出し、利益を独占しながら破滅には至らせない。これはもう新宇宙世紀創出のための超長期プランニングだ。リギルドセンチュリーが始まって1000年以上。どこの時点で方針が変わったのかはじめからそうだったのかはわからないが、長寿技術のない者たちが超長期計画を維持することんどできない。となれば、発祥はビーナス・グロゥブ以外ありえない。やれやれ」

1000年かけて人間の心にアグテックのタブーを植え付け、競争心を煽って戦争状態を生み出し、戦争が激烈を極めてきたらフォトン・バッテリー配給を減少させて状況の過熱を抑え込む。

利益の独占のために必要なものは、技術的な優位性を保ち続けること。それには研究開発投資が必要であり、投資した金は利益を上げることで回収しなければならない。

ハイデン「利益を独占するつもりならば、モビルスーツは売りつけるだけでよいはずだ。ピアニ・カルータのようにヘルメスの薔薇の設計図を流出させてしまっては、流出先で開発競争が起こってビーナス・グロゥブの技術的な優位性が脅かされる。それをやった理由のひとつが、地球のアメリアという国家の存在だ。アメリアはエネルギーのフォトン・バッテリーへの依存度が低い。商業活動が活発で、富の蓄積に熱心。学問のレベルも高い。まずはあの国に何者かが関与して技術発展を促してしまったのだ。それが目に余るレベルになり、国家自体をなくしてしまおうと画策した。ううむ」

それは可能性のひとつであった。アメリアは500年前には産業革命を達成しており、発掘品のモビルスーツを修理して小さな戦争状態を起こすまで発展していた。

その由々しき状況は、何らかの理由で終了しているのだが、詳細な資料が不足しておりなぜ紛争が大規模化しなかったのか調べてもわからなかった。

それに対し、ゴンドワンやキャピタル・テリトリィは、フォトン・バッテリーの配給制度が確立されてから作られた新しい国家だ。配給制度を執行するための国家といってもよい。アジアなどはアメリアのようではないが、バッテリーの供給がなされる前から発展していた。

ハイデン「人間を食べることが特権意識と義務意識に結びついていたかつてのビーナス・グロゥブを変革したラ・グー総裁は、その悪しき事実を地球人には伝えたのであろうか? さて、騒がしくなってきたようだから、そろそろ始まったかな」

ハイデンが入ったビーナス・グロゥブの宮殿には、暴徒と化した市民たちが押し寄せてきていた。

執務室を出たラ・ハイデンは、うろたえる宮殿付きの小間使いたちの動揺を抑えるとともに、近衛兵団の屯所に顔を出して兵士たちをねぎらった。

ハイデン「市民たちは何を要求してきている?」

近衛兵A「レコンギスタをさせろと口々に叫んでいるようです」

ハイデン「(頷き)ならばよし。それは老マデンが首尾よく地球の人々に話をつけたということだ」

近衛兵B「なぜ彼らはいまごろレコンギスタさせろなどと要求しているのでしょう?」

ハイデン「レコンギスタがしたいのではない。トワサンガへ行きたがっている連中が先導しているだけであって、市民はデマに惑わされているだけだ。彼らはビーナス・グロゥブで大事なものを失ったのだ。同じものがトワサンガにあり、彼らと合流したがっている。いまごろ老マデンが闇の宮殿を調査しているはずだ。そんなことより、連中はやけになってこの宮殿に火を放つかもしれない」

近衛兵A「放火ですか? まさかいくら暴徒と化そうともビーナス・グロゥブの人間がそんなことをするはずがないと考えますが」

ハイデン「暴徒を先導しているのはビーナス・グロゥブの過剰生産体制に依存してきた、宇宙世紀時代の生き残りだ。こちらの常識は通じないと思え」






メガファウナから退去したキャプス・マデン近衛兵団長は、その足で闇の宮殿の調査に向かっていた。

彼が目にしたものは、ロザリオ・テンの下部に設けられた立方体の空間とその中を舞う砂塵だけであった。彼の部下は空間のあちこちでこの物質を採取して鑑識に回す手続きを行っていた。

空間に重力はなく、どちらが上なのか下なのか判別できないほどであったが、通路やエレベーターの作りからこの空間がロザリオ・テンと逆向きに重力がかけられていたことがわかった。すぐ上部に旧ジット・ラボ跡地があり、施設はまだ解体されていない。

隣の空間には巨大なドッグが隣接されていて、壁面が何者かによって撃ち抜かれ、破壊されていた。ドッグは宇宙空間に繋がり、コロニーの中心に据えられた資源採掘用の小惑星が見える。

キャプス「ここは公安警察のものか? スコード教のものか?」

鑑識員「いえ、違います。何もなくなっていますが、生産設備ではないでしょうか」

キャプス「大量生産のための工場なのか?」

鑑識員「(双眼鏡で周囲を確認し)巨大な機器の最終工程でしょう。宇宙空間に出られるようになっているので、戦艦、MS、MAなどではないでしょうか。調べてみなければわかりませんが、もしかしたらこの立方体自体が惑星間移動船になっているかもしれません」

キャプス「(驚き)こんなデカいものが?」

鑑識員「これはロザリオ・テンだけではなくすべてのコロニーを調べた方がよさそうですね。自分は以前から金星宙域にこれほどの構造物をどうやって建造したのかわからなかったのですが、このキューブ自体が惑星間移動船だとすれば、これで船団を組んで別の場所から運んだのでしょう。巨大な生産設備の惑星間移動船数隻を母体に、小惑星の資源を使って現在の姿にしたのです。そうだとすれば、ここはビーナス・グロゥブで最も古い場所だったはずです」

キャプス「宇宙世紀時代から続くものだと思うか?」

鑑識員「これは宇宙世紀時代のものです。なぜなら、破壊を免れた設備の一部がユニバーサルスタンダードではないからです。ジット・ラボから降りてくるエレベーターもそうです。さらにコンソールが宇宙世紀時代のもので、壁面に残っている文字も違います」

キャプス「(双眼鏡でその文字を見ながら)やはりそうか。新しい総裁のラ・ハイデンさまもなかなかやりおる。予想通りだ」

ふたりはもう1度壁面に空いた穴を通って元の空間に戻った。

鑑識員「(砂塵と帰した空間を指し示し)ここに何があったのかいまとなっては知るすべもありませんが、1辺およそ2kmの立方体ならば内部の6面はそれぞれ居住用ブロック、農業用ブロック、工業用ブロックなどと分けて使えるはずです。本来はこの内部だけで完結できるほどで、この立方体に隣のドッグ、反対側に推進装置が付いているものと想像できます。惑星間移動船だとすれば、この巨大な物体に隕石除けのシールドがついていたかもしれません」

キャプス「薔薇の花びらのような。そうだな」

鑑識員「お察しの通り。ここはヘルメス財団の古い遺物か何かだったようです」

キャプス「遺物ならよかったのだが、おそらくここには大勢の人がいたのだ。よし、仕事の続きをしてくれ」

そういうとキャプス・マデンは近衛兵団精鋭20名とジット・ラボに上がった。老マデンを乗せたランチが広大な敷地を要するジット・ラボの跡地に着陸する。調査にあたっている近衛兵の報告を聞きながら、キャプス・マデンはジット団支持者で有罪になった者らのリストを眺めていた。

ビーナス・グロゥブでは死刑判決はなく、有罪になっても思想犯は投獄されずに重加算税のみで労働に従事することになっている。身分は解放奴隷なのでボディ・スーツなどの着用は認められていない。政治参加が認められないので演説すらできないが、宇宙世紀時代の人間が宇宙世紀のまま生存していたとしたら、彼らと接触することで隠れた戦力を保持する可能性はある。

近衛兵A「目撃証言によると日中ここでモビルスーツ同士の戦闘があったようです。許可なくメガファウナから発進されたものと、ビーナス・グロゥブのものです。戦っていた相手が誰なのかは不明。目撃者がパンの配達員だったために詳しいことは分かっておりません」

近衛兵B「また同時刻周辺一帯で大きな振動が1回だけ起きております」

キャプス「それはあの壁に穴を空けたときの衝撃であろう。ビーナス・グロゥブのMSとはテン・ポリスのものだ。敵がどこに隠れていたのか・・・。それに肝心なのは、誰がこの地下で大規模な破壊活動をしたのかということだが、それについて何か」

近衛兵C「それはわたしが。この建物の中には地球から運ばれてきたG-ルシファーというMSが役所の指示で昨晩のうちに運搬されています。指示を出したのはジット団支持者のフラミニア・カッレ。逮捕済み。現在取り調べ中ですが、何も話していないようです。彼女と親しいヤーン・ジシャールという男が目下逃亡中。G-ルシファーという機体はどこにもありません」

キャプス「G-ルシファーのことはこちらで確認した。ではヤーン・ジシャールを探してくれ。逃げ隠れできる場所などもうどこにもないはずだ」

キャプス・マデンはランチに戻り、王宮へと戻った。上空から宮殿の壁に火がついているのが見える。火災は燃え広がる気配はなく、小さなうちに消し止められているようだった。近衛兵たちは放火という大罪を犯した人間がいることに大きな衝撃を受けていた。暴徒の数はおよそ5万人。

キャプス「これで確定だ。わがビーナス・グロゥブには宇宙世紀時代の生き残りがいたのだ。完全に断絶した場所で、まったく違った倫理観を維持したまま。彼らはヘルメスの薔薇の設計図という圧倒的に優位な情報源を持ち、ヘルメス財団の総裁という表の顔とスコード教を使役でもするかのように使い、闇の宮殿の中で1000年間隠れ潜んでいたのだ。彼らに我々はどう見えていたであろうな。もし彼らが1000年の長寿であったならば、200年生きようとも犬のように見えたに違いない」

近衛兵「着陸いたしますか?」

キャプス「いや、兵力は充分割いてある。ラ・ハイデンが首尾よく指揮をするであろう。それよりビーナス・グロゥブのどこかに闇の宮殿と同じものがあると困る。フォトン・バッテリー球の警備を強化。メガファウナに連絡を入れて、クレッセントとフルムーンの出港を急がせろ。宇宙世紀時代の生き残りは死刑制度を導入してでも処分せねばならん」






クレッセント・シップの艦長エル・カインドと副長は、予定していた1年間の特別休暇を取り上げられ、またしても地球圏への航海を押し付けられた格好となった。

しかも今度はフルムーン・シップとのランデブーである。巨大運搬船2隻による高速長距離航行の安全な航行プラン作成だけでも神経を使うのに、本国からは何度も早く出港しろとせっつかれ、当たり散らかす相手もおらず、人員も割いてもらえない状況に次第に疲れ果ててきていた。

彼はヘルメス財団の人間であったが、ラ・グーの葬儀にすら参加できないと聞いて落胆していた。それは副長も同じで、忙しく働きながら突然ラ・グーのことを思い出すのか手が止まり、涙ぐむことがあった。ふたりともヘルメス財団のメンバーに宇宙世紀時代の生き残りがいたとはまだ知らされていない。

エル・カインドはジムカーオの人物観察が疎かであるとラ・グーに叱責されたまま、それが今生の別れとなってしまった。大きな心残りであり、大きな反省点であった。彼は今度こそジムカーオの正体を探り当てようと固く決意していた。

副長「やはりステアさんにフルムーン・シップを任せるのは危険です。地球の人たち、あんな少ない人員でここまで飛ばしてこれたのが奇跡のようなものだってわかってません」

エル・カインド「人員の派遣要請は出しているんだが、何が不満なのか知らんがまったく取り合ってもらえないんだ。あのキルメジット・ハイデンという男はラ・グー総裁の影に隠れて目立たなかったが、今回の騒動はちゃんと仕切れるのだろうか」

副長「不安ですね」

エル・カインド「とにかく今回は密航者ひとり乗せてはいかんらしいから、重量の検査だけは完璧にしないといけない。それに減速中に大型艦同士が衝突でもしたら大変なことになる。やはりフルムーン・シップの操縦は副長に任せるか」

副長「了解です」

と、彼女が席を立ったそのときだった。クレッセント・シップに大きな衝撃があった。同時に緊急警戒警報が鳴り響き、艦内は赤い点滅に満たされていった。

副長「メガファウナからモビルスーツが出たみたいです。(不安そうに)またいざこざですかね? 向こうに行くのは後にしておきます」

艦長のエル・カインドは、副長の声を聞いてはいなかった。彼はモニター画面に釘付けになっていたのだ。そのただならぬ様子に驚いた副長が画面に眼をやると、そこには真っ赤に燃え盛るロザリオ・テンが映し出されていた。ロザリオ・テンの中心街が炎に包まれていたのである。






襲撃してきたモビルスーツはジット・ラボの跡地で遭遇したジャイオーンと5機のリジットであった。

メガファウナの艦内に警戒警報が鳴り響き、人員が慌ただしく移動していく。フルムーン・シップの操縦をするつもりだったステアは、突然の予定変更でゼイゼイと肩で息をしながら遅れてブリッジに上がってきた。

ベルリ「G-セルフ、出られます」

ラライヤ「G-アルケイン、行けます」

ドニエル「ビーナス・グロゥブのキャプス・マデンからは誰ひとり、猫1匹トワサンガへは連れて行くなと言明されている。撃墜していいからな」

ベルリ・ラライヤ「了解!」

モビルスーツデッキから発進した2機は、すぐに敵を捕らえて交戦状態に入った。

作戦は、ラライヤのG-アルケインが後方より支援し、陣形を崩してからG-セルフが各個撃破するというものであったが、後方からのビームライフルの狙撃だけで2機のリジットが撃墜され、残り3機もベルリのビームサーベルに頭部や脚部を破壊されるとあっという間に戦意を喪失して投降した。

あっという間に1機となったジャイオーンは死に急ぐかのように闇雲にG-セルフに突撃してくる。

2機が接触した瞬間のことだった。ベルリの脳裏にジャイオーンのパイロットの姿が鮮明に映った。

ベルリ「ヤーンさんなのか?」

ヤーン「なぜトワサンガにビーナス・グロゥブにもない設計図があったんだ?」

ヤーンの様子は明らかにおかしかった。興奮しすぎて正気を失っていた。ベルリには彼の脳裏にあるものがまざまざと浮かんだ。彼は若き日からジット団のメンバーとして活動してきた男で、フラミニア・カッレに淡い気持ちを抱いていたが、それが本当の気持ちなのか彼女のムタチオンに苦しむ状態に付け込んだ気持ちなのか判断できず、何も言い出せないまま時だけを過ごしてきた日々のことだった。

ベルリはなぜ自分の頭の中に他人の気持ちが鮮明に浮かび上がるのかわからず混乱した。

ジャイオーンは何度も何度も突撃を繰り返した。そのたびに機体同士が激しくぶつかってコクピット内に大きな衝撃音を響かせた。

それは戦いなどというものではなく、殺すという気持ちだけでモビルスーツを動かしているようなものだった。そんなことはいけないと何度呼びかけてもベルリの声はヤーンには届かなかった。ヤーンの悪意だけが宇宙に大きく拡がり、空間を満たしていった。

ラライヤ「ベルリ! 飲み込まれてはいけません!」

ベルリ「なんだこれは、なんなんだこれは! どうしてぼくばっかりに殺させるんだ!」

ヤーン「トワサンガにだけあるわけないじゃないか。宇宙世紀の機体、船体、すべての情報はヘルメスの薔薇の設計図の中にあるはずだ。なぜG-セルフだけなかったんだ? どうしてレイハントンはそんなどういうものなのだ? なぜ隠し通せた? G-ルシファーで地球文明を崩壊させてレコンギスタすることを見抜いていたとでもいうのか! 1000年も待って、どうして肝心なときにお前みたいなのが出てくるんだ! どうしてG-ルシファーで宇宙移民の夢を壊したんだ! そのコクピットにいるのは何者なんだ!」

ベルリはいつしか虚空に漂っている自分を自覚した。ヤーンは人生で1度も自信を持てなかった自分の肉体をジャイオーンで武装して襲い掛かってきた。しかし、どんなモビルスーツに搭乗しようと、ヤーンの肉体が別のものになることなどなく、彼の肉体がフラミニアの心に触れることはない。

ヤーンは無力なヤーンでしかなく、彼の精神の発露も、肉体の発露も、虚空をさまよう霧のようで、発する声は無音の世界に消えるばかりなのだ。

ときとして激しい怒りの感情が人と人との間にある断絶を刹那だけ乗り越えてみせることがあるが、それは真のふれあいではない。断絶を激しく打ち砕いただけであって、その無作法な振る舞いがかえって人と人との断絶を深めてしまう。

ジット団に所属する若者たちは、G-ルシファーを量産し、地球文明を完全崩壊された上でビーナス・グロゥブの全人口を地球に入植させる計画を提出し、ラ・グーに却下された。重加算税を課せられ、それでもラボの研究員として働き続けた彼らはいつしかビーナス・グロゥブから断絶し、何かの歯車として利用されながら研究を続けてきた。

自分たちがどんな歯車になったのか彼らは知らされていない。ただ、1000年の夢を託されただけだ。

ヤーン「それをお前が壊したんだ!」

ベルリ「ちがう、ぼくじゃない! もう投降してくれ。このままじゃまたぼくが殺すことになってしまうじゃないか!」

ヤーン「お前は他人の夢を否定し、破壊する運命なんだ! 他人から恨まれないはずがないだろう!」

ラライヤ「いい加減にしなさい!」

変形して飛行形態となったG-アルケインが、G-セルフとジャイオーンの間に割って入った。距離を取るため1回転したG-セルフのベルリは、ジャイオーンのビームライフルの銃口がゆっくり自分に向けられるのを見た。それは純粋な悪意の塊であった。

次の瞬間、爆発音によってベルリは正気に返った。

ジャイオーンはフォトン・バッテリーを撃ち抜かれ、大爆発を起こしていた。ヘルメットの中に自分の名を呼ぶラライヤの声が何度も響いていた。






エル・カインド船長はようやく連絡が取れたラ・ハイデンの姿を見て驚愕した。彼の優雅な衣装が血まみれになっていたからだ。

エル・カインド「だ、で、・・・、どうしたらいいのでしょう?」

ハイデン「君はできるだけ早く出港してトワサンガへ向かってくれたまえ。今回の任務はビーナス・グロゥブを離れることだ。半年後に戻ってくるときはおそらくビーナス・グロゥブは大きく様変わりしているだろうが、住んでいる人間は変わりはしないものだ。我々スペースノイドは働き者だ。どんな困難も雄々しく乗り越えてみせるさ」

エル・カインド「しかし、その血は一体・・・」

ハイデン「自分は総裁に就任してから殺生ばかりだよ。まさか自分が人を殺すとは思わなかったが、戦うべきときに戦わずに総裁は務まらないのだ。ビーナス・グロゥブは、1000年の闇の夢を葬り去り、1000年の光の夢を真に抱くときが来た。闇と戦う仕事は自分にまかせて、あなたは支度ができしだい出港しなさい」

エル・カインドと副長が航行プランを作成し終わり、ビーナス・グロゥブを再び離れていったのはその2日後であった。

その間、ビーナス・グロゥブとは一切の連絡が取れなかった。



(ED)



あとがき

ここで1クール分が終了です。細かいミスがあるようで、直さなきゃいけないのですが、ちょっとサボると書けなくなりそうなので修正は気づいたときにちょこちょこやります。

ここまでくれば、あとは何とかなりそうですね。



この続きはvol:47で。次回もよろしく。






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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第13話「失われた設計図」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第13話「失われた設計図」前半



(OP)



ノレドの興奮は収まらず、メガファウナの軍医メディー・ススンによって鎮静剤が投与されしばらく眠らさせることになった。

ビーナス・グロゥブを襲った大混乱はひとまず収束していた。ゲル法王、ラライヤ、ノレド、リリンの4名は無事にメガファウナに回収され、地球人のビーナス・グロゥブへの入国は別命があるまで禁止されることになった。その間にメガファウナには補給が行われていた。

医務室で眠りについたノレドは軍医らに任され、ラライヤはリリンを伴ってブリッジに上がった。ラライヤが幼い彼女に代わって名前と父がトワサンガのガヴァン隊にいたことなどを紹介すると、メガファウナのクルーたちの間に重苦しい空気が流れた。

それもそのはず、メガファウナはザンクト・ポルトを占拠していたガヴァン隊と交戦になり、重力に慣れていない彼らの戦艦2隻を大気圏に押し込んで焼き殺していたからだ。ベルリをはじめ、その事実をリリンに伝えることはなかった。いまはただ戦争の虚しさを嘆くしかない。

ラライヤ「まさか・・・」

リリンを寝かしつけた後、緊急ミーティングの席でラライヤにはその事実が告げられた。しばらく絶句していた彼女であったが、気持ちに整理をつけると落ち着いて話し始めた。

ラライヤ「クレッセント・シップが地球を離れて、あっという間に何から何まで変わってしまった。誰が何を考えているのかさっぱりわからないんです」

ドニエル「オレたち軍人に罪がないとは言わない。だが(クルーたちを見回し)終わったはずの戦争がこうもあからさまに活発化しているのはどう考えてもおかしい。はじめはクリムの坊やのせいだと思った。キャピタルの政治体制のせいだとも思った。(頭を掻く)だがなぁ、釈然としねーんだ」

副艦長「トワサンガでベルリを襲撃したっていうメイドに化けたふたりの女はおそらくクリムの坊やの手下でしょうな。あの子の『闘争のための新世界秩序』『修正グシオン・プラン』ってのはキャピタル・テリトリィを奪って宇宙を侵略し、トワサンガ、ビーナス・グロゥブをすべてひとつの政府にするっていうアイデアですから、フルムーン・シップとG-メタルを欲しがってもおかしくない。それに、ベルリに後れを取ったのは機体のせいだとも思ってるでしょうから、G-セルフも欲しいはず」

ドニエル「おそらく表には出てきていないが、マスクもどこかで生きていてG-セルフで雪辱を誓っているはずだ。彼らのクンタラ建国戦線だの、ジムカーオ大佐だの、レイハントン家再興だの、なんでこんなにこんがらがっちゃったものかね」

ギゼラ「(溜息をつきながら)それに、ラ・グー総裁の暗殺。さっき法王さまに聞いた話じゃ、ラ・グー総裁はどういう理由かはわからないけど、スコード教の司祭を片っ端から逮捕していたとか」

ベルリ「(ラジオを耳に当てながら)逮捕された司祭は新総裁就任の恩赦で釈放されたってラジオで言ってますね」

ラライヤ「ヘルメス財団が黒幕で、スコード教がその隠れ蓑になっている可能性があります」

ラライヤのこの一言は驚きを持って受け止められた。

ラライヤはトワサンガでウィルミット長官らと過ごしたときに聞いた話や出来事などを話した。そしてゲル法王が冬の宮殿という場所に閉じ込められていたこと、ジムカーオ大佐だけでなくターニア・ラグラチオン中尉ほどの階級の人間ですら法王の解任を口にしていたことなど。

次にフラミニア・カッレから聞いたムーンレイスとクンタラの話。これらを総合すると、ヘルメス財団はウソの歴史をでっちあげ、自分たちを正当化した上で地球人を貶めるよう教育していることになる。

ラライヤ「地球は最初から我々の祖先が将来自分たちのものにするための開拓地として見做されていたんじゃありませんか? トワサンガもビーナス・グロゥブも、環境資源がある程度回復するまで、地球人に再建させて、時期が来たらすべて奪うつもりで」

副艦長「いや、待て待て。ラライヤちゃんの話は肝心な部分がおかしい。ヘルメス財団が黒幕だとして、目的はなんだ? つまりはレコンギスタだろう? ラ・グー総裁がレコンギスタを希望していたってことになるじゃないか。ヘルメス財団の総裁はラ・グーだ。地球なんてフォトン・バッテリーさえ止めればイチコロ・・・」

ドニエル「止めたんだよなぁ」

ギゼラ「いやいやいやいや、おかしいでしょ? だったらなんでビーナス・グロゥブは仲間割れしてるんです? ゲル法王をはじめわたしたち全員をここで殺しちゃえば、何かを疑う人はいなくなるんですよ。仲間同士で殺し合う必要なんてないでしょ?」

ドニエル「殺しには来てないが、歓迎もされていないんだ。ベルリひとりを中に入れたのだって、結局は罠だったわけだから。でもなんでビーナス・グロゥブがG-セルフを欲しがったのか」

ギゼラ「だからそれが反ラ・グーのレコンギスタ派なわけでしょ? 1年前に関係者を処分したつもりが生き残っていたって話で。だけど、クレッセント・シップもフルムーン・シップも地球と月の近くにあってビーナス・グロゥブには惑星間を移動できる船がなかった。戻って来たからフルムーン・シップとG-セルフを奪ってレコンギスタしようとした。彼らは船の出力を上げるのに必要なのがG-メタルだって知らなかった。だからG-セルフを奪おうとした。ほら、これで辻褄が合う」

ラライヤ「じゃあ、ラ・グー総裁がスコード教の司祭を逮捕したことはどう解釈するんですか? スコード教がレコンギスタ派だったとでも? ラ・グー総裁を暗殺した秘書もレコンギスタ派? それに、レコンギスタってそもそも何ですか? 地球を再侵略するという意味です。でも、実際のレコンギスタ派はフラミニアさんがそうですけど、ただ地球に行ってみたかっただけの人たちなんです。スコード教の中に地球に行きたいという人がいるなら、それこそこのメガファウナに乗せて一緒に連れて行ってくれと頼めばいい。真の侵略行為は何かと考えれば、地球と戦って土地を奪うことですよ」

副艦長「だからさ、それがしたいならフォトン・バッテリーなんか配給しなけりゃいいんだよ。地球はすぐに干上がって人口は激減する。モビルスーツも動かなくなる。侵略なんて簡単にできちまう。フォトン・バッテリーの配給をやっているのはヘルメス財団とスコード教だ。このふたつが喧嘩する理由がないんだって」

ギゼラ「喧嘩してるし、ラ・グー総裁は殺されたじゃない!」

ドニエル「ノレドがG-ルシファーで持ってきたちっこいMSみたいなの、あれは何か関係ないのか。ノレドはあいつのせいでなんかすごいことになったって泡吹いてたけど」

副艦長「ハッパの話じゃあれはアンドロイドっていう自動人形みたいなものだって話ですよ。なんでも宇宙世紀時代後期の代物で、人間をニュータイプにするのを諦めて、機械で代用したとか。もちろんアグテックのタブーに触れるもので、強化人間の代わりとかなんとか、ま、あいつはオタクだから話が半分もわからなかったけども。こっちの話には関係ないでしょ?」

ドニエル「これじゃ姫さまにどう報告していいのかわかんねー。ベルリ、お前はどう思ってるんだ?」

ベルリ「話が前後しちゃいますけど、自分は月でムーンレイスのディアナ・ソレルっていう女王さまに会ったんです」

ラライヤ「(血相を変えて)たしかに月にはムーンレイスの人々がいまも生きているとか、交代で起きているとかそういうお伽噺はありますけど、ディアナ・ソレルなんて大昔のお伽噺の主人公じゃないですか。そんなの担がれただけです」

ベルリ「ドニエル艦長は見てないですか、キエル・ハイム って名乗った女性」

ドニエル「トワサンガでか? オレはハッパといたからな。知らんな」

ベルリは月から発せられていた救難信号を辿ってムーンレイスの基地らしき場所に迷い込んだこと、ある部屋にレイハントン家の紋章の入ったコンソールがあり、G-メタルを入れたところディアナ・ソレルたちムーンレイスが続々と目覚めてきたことなどを話した。

副艦長「そりゃ貴重な情報だ。レイハントンの先祖が彼らを封印していたってのか?」

ラライヤ「(首を振り)有り得ない。ディアナ・ソレルなんて・・・。実在しているはずがない」

ベルリ「でもラライヤは冬の宮殿のことは知っていたんだろ?」

ラライヤ「冬の宮殿は、わたしたちがそう呼んでいただけなんです。モビルスーツの教練中に月の中に迷い込んだ子がいて、宮殿のような場所に出たからお伽噺の冬の宮殿だと仲間内で呼び始めただけです。スコード教の聖地だの、あんな恐ろしい映像が出てくるだのは知らなかった」

ドニエル「お化けでも出たのか?」

ラライヤ「戦争の映像ですよ。おそらく宇宙世紀時代の。G-セルフによく似た白いモビルスーツと赤いモビルスーツが戦っていて、激しい憎しみ合いが地球を荒廃させていく映像をずっとです」

副艦長「反省部屋のようなものだな。法王さまもお気の毒に」

ドニエル「あ、でも待てよ。ゲル法王さまはお人柄がいいからそういう戦争の映像を見て反省していたかもしれんが、ラライヤの話じゃねーけど、宇宙のスコード教の人間はその破壊の映像を崇めていたってことはねーのか? 破壊信仰のようなさ」

ベルリ「それはいくら何でもスコード教徒に対する酷い侮辱ですよ!」

ドニエル「まーまー待てよ、ベルリ。落ち着くんだ。可能性の話だ。もし宇宙のスコード教の連中が宇宙世紀時代の破壊行動を礼賛している状況があればどうなる? それをずっと隠していて、ゲル法王からラ・グー総裁が何か聞くか、ラ・グー総裁が何らかの理由で今回そのことに気づいたとしたら。そしたらスコード教の司祭を逮捕した説明もつくし、逆に殺された説明もつく。ベルリだって地球のスコード教のことしか知らないわけだろ?」

ラライヤ「わたしは艦長の意見に賛成ですね」

ドニエル「よし。議論はここでいったん打ち切る。事態は複雑だ。みんな自分でよく考えてくれ。それから、ノレドの話を聞いて、どうもG-ルシファーは何か別の目的のある機体かもしれないとわかった。あれはしばらく封印してアダム・スミスとハッパに調べさせる。アンドロイドってやつもそうだ。ついてはルアンはケルベスが使っていた赤いザンスガットに乗り換え、ラライヤはG-アルケイン、リンゴはモランに搭乗機を変更する。いまから言うことは絶対に守れ。オレはお前たちを必ず地球に還す。もう勝手な行動はしてくれるな。ラライヤとノレド、それにベルリ。オレの許可なく勝手な判断では動くな。ギゼラにはわりーが、ちょっと話の整理を頼みたい」







ビーナス・グロゥブの新総裁に選出されたキルメジット・ハイデンは、事態収拾に全力を傾けると話し、新総裁就任式の取り止めと前総裁であるラ・グーの葬儀を大々的に執行することを臣民に約束した。また副総裁はしばらく置かないとの方針も同時に示した。

街の中心部にある大聖堂で地球からやって来たゲル法王の説法を聞いていたあと、突然ラ・グー暗殺の報に触れた彼は、自分の敵となる存在がかなり大きなものだとすぐに確信した。それを裏付けるようにラ・グーの秘書官よりもたらされたヘルメス財団とスコード教の秘密。

このふたつの団体が目論んでいるものが宇宙世紀の再来となれば自分の命もそう長くはもたないだろうと覚悟するしかない。ラ・グーの秘書は自らの命をもってラ・ハイデンとなる彼に情報を託したのだ。これはラ・グーから彼に送られた最後の信頼の証であった。

秘書官は彼に何かがもたらされると死ぬ前に話していた。何かは情報であろう。それがどのように送られてくるのかは想像もできない。情報は途中で抹消される危険性もある。かといってあからさまにヘルメス財団と敵対すれば、余計に情報は届かなくなり、彼はお飾りの総裁になるしかなくなる。

新総裁ラ・ハイデンは、安全の確保を理由に近衛兵団長キャプス・マデンを王宮に常駐させ、ラ・グーの葬儀が終わるまでは秘書官も置かないことにした。それをして臆病と罵られるのは覚悟の上である。

ハイデン「老マデンにお聞きしたいのだが」

彼はラ・グーの肖像が掲げられる王宮の執務室で居心地悪そうに話し始めた。王宮ではラ・グーの12人目の妻が退去の準備を進めている。それにしても民政ではないにしてもなぜビーナス・グロゥブには王宮があるのかと彼はふと思うのだった。

キャプス「年寄りならば何でも知っているだろうと思われるのは心外だが、前総裁のラ・グーさまは、公安警察の反乱とスコード教の裏切りだとわしには言うておったな。反乱の黒幕はピッツラク公安警察長官。これはすでに銃殺されておるから、心配はいらんと思うが」

ハイデン「さて自分はラ・グー総裁のように頭が切れないので、いまさらレコンギスタでもなかろうと思うのですが。それに、警察や守備隊が真っ二つに割れて交戦していたのも引っ掛かります」

キャプス「ビーナス・グロゥブの者なら誰でもレコンギスタしたいのでは? もうこの場所には若々しさがない。わしはじきに死ぬからいいが、若い者はムタチオンに苦しむわしらのようにはなりたくないでしょうな。新総裁は何がそんなに不安なのじゃ?」

ハイデン「(不安の正体には答えずに話題を変える)総裁となったからにはラ・グーとは違った方針を出してみたいと誰もが思うでしょう。自分はビーナス・グロゥブの者を地球に入植させていこうと考えているのですよ。これについて老マデンのご意見は?」

キャプス「いいんじゃないか。ただそれを言い始めると誰もが我こそ先にと争って、ビーナス・グロゥブの保守管理が疎かになったり、フォトン・バッテリーの製造が遅れたりしよう。ただでさえムタチオンで苦しむ我ら、これ以上長寿化技術で延命するがいいか、人口減を受け入れフォトン・バッテリーの製造を諦めるがいいか、大きな決断になるだろう」

ハイデン「どちらにしてもいままでのようにフォトン・バッテリーを供給し続けるのは難しいはず。トワサンガと地球への供給量を減らすか、それとも・・・」

そこに王宮付きの使用人がやってきて、ふたりに客人があると告げた。ハイデンはこれを断ろうとしたが、相手がヘルメス財団の人間だと聞いて翻意し、部屋に通すよう命じた。

やって来た男は疲れ果てているように見えた。ビーナス・グロゥブの人間であるのは確かなようだが、どこか違和感がある顔立ちであった。服装もどこかおかしかった。フォーマルないでたちなのだろうが、ビーナス・グロゥブのいかなる流行にも同じものがない形を纏っている。

男はハイデンに向かって、2万人の人間をいますぐトワサンガに送り届けるように命じた。ラ・ハイデンとキャプス・マデンは驚愕するしかなった。男はビーナス・グロゥブの総裁に命令を下したのだ。

ハイデン「いまこのビーナス・グロゥブから2万人も人員を引き抜くことはできない。そんなことをしたらロザリオ・テンの保守管理さえ滞るようになるだろう。なぜいまそのような要求をなさるので」

男「もうここには何も残っていない。すべては失われてしまった。君はそれ以上のことは知らなくていい。とにかく船を用意して、トワサンガまで運んでくれればあとは自分たちでやる。船と食料、空気、水、そういったものを手配してくれ」

ハイデン「(両手を広げて)無理ですね。自分はラ・グーから引き継ぎを受けていない。それに2万人分となれば、かなりの量だ。すぐには手配できない」

男「何日で用意できるか」

ハイデン「悪いが用意などしないよ。ヘルメス財団の方だと聞いていたが、自分はビーナス・グロゥブの総裁としてこの話はお受けできない」

男「こんなに物分かりの悪い男だとは思わなかったな。君には申し訳ないが、これはヘルメス財団の重要事項ゆえ、詳しい説明をするのは何十年もあとになるだろう。とにかくトワサンガに行かねばならないのだ。もうここには何もないのだから」

ハイデン「何がないのですか?」

男「答えられない」

キャプス「すまんが口を挟ませていただこう。その2万人というのはIDをお持ちなのか?」

キャプスの質問に男は答えられない。彼は苦虫を噛み潰したような顔でふたりを睨み返している。

キャプス「そうか。すまんな。これもビーナス・グロゥブのためだ。悪く思うな」

そういうとキャプス・マデンはやおら立ち上がって男の眉間を1発で撃ち抜いた。

ハイデン「やれやれ。今日は殺生ばかりする日だ」

キャプスは大声で男の死体を始末すよう指示をした。王宮付きの使用人たちは新しい主たちがラ・グーとはまったく違う恐ろしい人物ではないのかと疑い、死体を運び出しながらビクビクしている有様であった。ハイデンとキャプスは目も合わさないまま飛び散った血が片付くのを待った。

ハイデン「自分はビーナス・グロゥブの副総裁になって、このコロニーの過剰生産の在り方についてずっと疑問に思ってきたのですよ、老マデン。地球が数千年文明を持続させるためのエネルギーの蓄積を行う崇高な任務。ビーナス・グロゥブの人間はそれを誇りに思って日々労働に精励している。さて、その過剰生産に別の目的があったなればいかがするか」

キャプス「ラ・グーさまは近衛兵団を通常の100倍に増員しろと命じてきましたが、いやはや、IDを持たないヘルメス財団だけで2万人。それに公安警察の一部、守備隊の一部、スコード教の坊主とくると、100倍でも足りませんなぁ。やれやれ、これでは総裁すら命も失うわけだ」

ハイデン「ビーナス・グロゥブにあった何かが失われたようで、焦ってトワサンガへ逃げる算段だったようです。つまり、トワサンガには失われたものがまだあると彼らは知っている。ということは、クレッセント・シップで何度も行き来していたということ。ラ・グー総裁は前日に闇の宮殿へ行かれたとか。同行した者らから報告は?」

キャプス「とっくに殺されましたわい」

ハイデン「なるほど。(頷く)なるほど。この騒ぎをトワサンガと地球に波及させてはなりません。ただちにクレッセント・シップ及びフルムーン・シップの出立準備を。自分はベルリ・ゼナムくんと会いましょう。彼ら次世代の若者たちに委ねるしかないようですから。そうか。何かが自分の元に届くとはこういうことであったか・・・」








ラライヤ「気がついた、ノレド」

ううんとうなってノレドは上体を起こした。そこはメガファウナの医務室のベッドの上であった。鎮静剤を投与された彼女はしばらくボンヤリとしていたが、徐々に頭がハッキリしてくるとまた混乱状態に落ちていこうとした。

ラライヤはそんな彼女の身体を支えて抱きしめると、ノレドは次第に落ち着きを取り戻して、静かに涙した。

ノレド「ラライヤ、あたし、大変なことをしちゃったんだよ。G-ルシファーが・・・」

ラライヤ「勝手に動き出したんでしょ。ノレドさんのせいじゃないです」

ノレド「でも、闇の宮殿も、巨大なドッグも、みんな消えちゃった。こんなことしたら、もう地球にフォトン・バッテリーなんて配給してくれなくなる。あたし、ベルリのためになるならって頑張ったつもりだったのに。なんでこんなことになっちゃったんだー・・・」

ラライヤ「なるようにしかならないですよ。ノレドさんのせいじゃないんです。ビーナス・グロゥブは何かがおかしくなり始めています。変化の前ってこんな感じだと思いますよ」

ノレド「でも、でも、地球の人たちにフォトン・バッテリーが来なくなったら」

ラライヤ「大丈夫、心配しないで。それより、ノレドさんの話を聞いていて思い出したんですけど、何もかも消し去ってしまう光の粒ってもしかしてあのときの?」

ノレド「そう、あのときの光の粒と同じなんだ。あたし、あれはああいう武器で、ラライヤが操作して出したんだと思ってた。でもあのエンフォーサーが・・・」

ラライヤ「エンフォーサー? 何かを執行する人ですか?」

ノレド「(泣きながら)よくわからないんだよ。ジット・ラボの跡地に行ったらフラミニアさんがいて、地下へのエレベーターを動かしてくれた。その前に闇の宮殿というのが地下にあるって聞いていたから、ビーナス・グロゥブの秘密を探ろうと思って行ってみたんだ。そしたらはじめはそこに誰もいなくて、空っぽの都市みたいなところで、建物の中にあの銀色の人たちだけがいたんだよ。それで建物の中に入って、何か手掛かりになるかもしれないって考えて、G-ルシファーに乗せて・・・、そしたら」

ラライヤ「目を離したすきに操縦席を奪われて、勝手に」

ノレド「ラライヤ、怖いよ。G-ルシファーは、多分空間を計測していたんだと思う。そして全部消しちゃった。本当だよ、あたしはそんなことしないもん」

ラライヤ「G-ルシファーって、ジット・ラボから盗み出した機体で、わからないことがたくさんありすぎますね。コバシさんやクン・スーンさんならわかるかもしれませんが・・・」

ノレド「あたし、死刑になるのかな。あそこ、最初は誰もいなかったのに、エンフォーサーを盗んだらたくさん出てきて」

ラライヤ「たくさん?」

ノレド「2万人。これもG-ルシファーが勝手に計算したんだ。それで、アップにしたら、アイリスサインを確認して、その人たちもエンフォーサーだって」

ラライヤ「ハッパさんはあれはアンドロイドじゃないかって。でも、エンフォーサーってなんでしょうね?」

ノレド「死刑執行人なんだ、きっと。あたしはとんでもないことをしてしまった」

キラン・キムがノレドを横にならせたので、ラライヤはいったん医務室を離れた。するとその脇にベルリが立っていた。

ラライヤは少し怒って、なんで自分でお見舞いできないのかと叱った。なおも何か言おうとしたとき、ベルリは艦内放送でブリッジに呼び出されてしまった。

ベルリがブリッジに上がってみると、ひとりの杖を突いた老人が立っていた。

ドニエル「こちらはビーナス・グロゥブ近衛兵団のキャプス・マデン兵団長という方だ。先ほどランチで到着して、ベルリと話があるらしい。(キャプスに向かって)本当にここでいいので。何なら別室をご用意できますが」

キャプス・マデンは見かけによらず闊達としており、大声量でここで良いと告げるとベルリに向き合って話を始めた。

キャプス「お前さんがレイハントンの誘拐された王子か」

ベルリ「あ、はい」

キャプス「フルムーン・シップをどうやって操縦してここまで来た?」

ドニエル「それはわたしから。ここにいるステアが、クレッセント・シップで操縦を習ったのです。アメリアには優秀なメカニックもおりますので、機関部の知識は動かせるくらいにはありました」

キャプス「(ドニエルの説明に納得して頷き、ベルリに向き直る)現在ビーナス・グロゥブでは容易ならざる事態が起こっていてな、詳しくは説明しないが、クレッセント・シップとフルムーン・シップをしばらくお前さん方に預けたい。トワサンガと地球は現在どうなっておるか」

ベルリ「残念ながら各地でまた紛争が勃発しております。彼らは地球統一政府を作り、トワサンガ、ビーナス・グロゥブと侵略するつもりでいるのです。クレッセント・シップとフルムーン・シップを地球圏へ移動させるのは危険ではないかと」

キャプス「それがそうもいかんのだ。もしこちらにこの2隻があると、2万人以上がトワサンガに押しかけ、侵略戦争を仕掛ける可能性がある。状況が終了するまで預かってはもらえまいか。それとも、君らではクレッセント・シップとフルムーン・シップをやすやすと奪われてしまいそうか? 君はトワサンガをどれほど掌握しているのか」

2隻の巨大惑星間移動船を押し付け合うのは奇異な光景であった。本来ならばそれを得たものが一気に有利になる船であったからだ。

ベルリ「ぼくは地球育ちなので、トワサンガの掌握なんて考えたこともないんです」

キャプス「(失望した声で)親父と違って君は頼りにならん男だな。では、トワサンガの統帥権をビーナス・グロゥブに返上し給え。我々近衛兵団がトワサンガへ赴き、統治しよう。君らはここに残って、新総裁のラ・ハイデンの下で働くがよい」

戸惑うベルリが何か言いかけたとき、ブリッジに大きな声が響き渡った。姿を現したのは医療用の部屋着を身に着けたノレドと彼女を支えるラライヤであった。

ノレド「トワサンガの統帥権は渡せません!」

キャプス「あなたは?」

ノレド「あたしは・・・レイハントン家の王妃です! 改めて申しますが、トワサンガの統帥権は渡せません。クレッセント・シップとフルムーン・シップはこちらで預からせていただきましょう。しかし、2隻とも地球圏へ持っていった場合、いつビーナス・グロゥブにお返ししていいのか」

キャプス「ふむ。では半年後に返していただくということでいいかな」

ノレド「わかりました」

心配になったドニエルが慌ててノレドを制しようとするが、ノレドはそれを押しのけてキャプス・マデンと向き合った。

ノレド「地球は現在、法王庁より発表されたフォトン・バッテリーの供給停止に怯えています。ビーナス・グロゥブよりそれが再会されるという確約はいただけますか?」

キャプス「(感心して)ふむ。では、地球圏での戦争を半年で終わらせ、その報告をクレッセント・シップとフルムーン・シップとともに持ってきたら供給再開をいたそう。これで不服はないか?」

ノレド「必ず戦争を終わらせてみせます」

キャプス「良い返事だ。この科白をそこの坊やから聞きたかったものだが、坊やは戦うのが怖くなっているようだ。戦いが終わらぬうちから終戦気分で戦意を喪失しているようでは、そう遠くないうちに君は死ぬだろう。早くその妃との間に子でも作ることだ」

そう言い終わると、キャプス・マデンは矍鑠たる足取りでブリッジを去っていった。







初めて見るアンドロイドを分析していたハッパは、その肌がトワサンガで整備を依頼された巨大な頭の取れるモビルスーツの表面に酷似していることに気がついた。

顕微鏡で採取した微量の粉末を眺めていた彼は、昔読んだSF小説のアイデアを思い出した。

ハッパ「この肌に見える金属の粒が、1台1台自立した小さなマシンなら、こいつの表面が人間の肌のようになっている説明がつく。ナノ・マシンとでも呼べばいいのか。だが、そんなことはあり得ない。こんな小さなマシンを無数に作って動かすなどできるはずがない。ましてや、トワサンガで見たあのMSほどもあったらその量は膨大だ。ああ、ヘルメスの薔薇の設計図だけじゃなく、宇宙世紀時代のあらゆる技術が手元にあれば、もっともっと凄いものがあるだろうに。宇宙世紀は戦争の時代かもしれないけど、こんなのまさにロマンだ! オレはこんな夢にあふれた時代に生まれたかったよ」


(アイキャッチ)

この続きはvol:46で。次回もよろしく。



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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」訂正 [Gのレコンギスタ ファンジン]

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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:44において、G-ルシファーにレイハントン・コードがついていないと書きましたが、第5話後半で改造されていたのを失念していました。

誤:G-ルシファーにはレイハントン・コードがついていない。

正:G-ルシファーにはレイハントン・コードがついている。

認証されているのは、レイハントン家の人間とラライヤ、ノレドのみです。訂正は済ませました。


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HG 1/144 ガンダム G-ルシファー (ガンダム Gのレコンギスタ)

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  • 出版社/メーカー: BANDAI SPIRITS(バンダイ スピリッツ)
  • メディア: おもちゃ&ホビー



HG 1/144 ガンダム G-アルケイン (ガンダムGのレコンギスタ)

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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第12話「全権大使ベルリ」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第12話「全権大使ベルリ」後半



(アイキャッチ)


ラ・グー総裁が銃弾に倒れ血まみれの身体を地面に横たえたとき、ベルリは何者かに腕を掴まれ人垣の後ろへ放り投げられた。それが何かを意図したものなのか、単に子供を危険から遠ざけようとしたものなのかはわからない。ただベルリはラ・グーと引き離され、そのまま警官の群れに他の群衆とともに押しやられてしまったことは確かであった。

悲鳴が飛び交う現場で、人を押し分けて彼の元に辿り着くことはできなかった。ベルリはもみくちゃにされて何もすることが出来ないまま何度も背伸びをしてラ・グーの安否を気遣うことしかできなかった。騒然とした現場に救急車が到着し、ラ・グーは運ばれていった。

そしてベルリは無力感とともにその場に取り残されたのである。

銃声は2発。もう1発が誰かに当たったのか逸れたのかはわからない。犯人はその場で捕らえられて近衛兵団に連行されていった。近衛兵団と警察の間で小さな衝突もあった。それは市民にとって驚きであったらしく、商店はどこも臨時休業を決めて窓を固く閉ざした。

現場に集まってきた野次馬たちを避けて広場の方に移動したとき、興奮冷めやらない市民たちの間に改めてざわめきが巻き起こった。彼らが指さす先を見ると、オレンジ色のテン・ポリスのポリジットに先導されてG-セルフがやってくるのが見えた。スピーカーからベルリを呼ぶ声がする。

ベルリ「ラライヤ?」

G-セルフから呼びかけているのはラライヤであった。ポリジットから呼びかける声にも聞き覚えがある。かつてともに地球まで旅をした仲間であった。

広場に着陸したG-セルフはハッチを開けた。コクピットにはビーナス・グロゥブのものとは少しだけ形の違う近衛兵の装束をまとったラライヤがベルリのパイロットスーツを掲げて何か叫んでいる。ベルリはすぐにG-セルフに乗り込んだ。

ベルリ「なんでビーナス・グロゥブにラライヤが?」

ラライヤ「クレッセント・シップで来たんです。ノレドさんや法王さまも一緒。あと、トワサンガから子供を連れてきています。とにかく早く着替えて」

ベルリ「たったいまラ・グー総裁が撃たれて病院へ運ばれたんだ」

着替えを済ませたベルリはラジオのボリュームを上げた。すると、ニュースなどの番組をほとんど放送していなかったビーナス・グロゥブのラジオ局がしきりにラ・グー総裁の死去を繰り返し放送しているではないか。奇異に思ったベルリはラライヤに操縦を任せてラジオに聞き入った。

それによると、反ラ・グー派によるクーデターが起き警察組織の一部が暴動を起こしてフルムーン・シップの強奪を謀ったが近衛兵団を増員したラ・グー総裁がこれを鎮圧、首謀者のピッツラク公安警察長官は銃撃戦に巻き込まれ近衛兵団によってその場で銃殺、総裁は自ら近衛兵団を率いてロザリオ・テンの反乱分子を鎮圧したものの、その際に秘書のひとりによって暗殺されたとのことだった。

ヘルメス財団は直ちに副総裁であるキルメジット・ハイデンを新総裁ラ・ハイデンとして任命したとのことだった。

G-セルフとポリジットは、昨晩ラライヤが宿泊していたホテルに向かっていた。メガファウナ艦長のドニエル・トスはビーナス・グロゥブの混乱を見かねてベルリ、ゲル法王、ノレド、リリンの救出を指示してモビルスーツを送り出していたのだ。

ラライヤ「聞きました。ベルリさんはアイーダさんの名代としてラ・グー総裁と交渉するのだと」

ベルリ「そのつもりだったんだけど・・・、交渉相手がラ・ハイデンという人に変わった? しかもこんな形で?」

ラライヤ「(沈鬱な表情で首を振り)ビーナス・グロゥブはずっと何かがおかしいんです。昨晩わたしは市内が騒がしいのでホテルの外へ出てみました。すると近衛兵団の制服に似たものを着ているというだけで間違われて運ばれていったんです。そこでG-セルフに乗り込みました」

ベルリ「ぼくはそこでピッツラクという人に銃口を突き付けられて機体を明け渡したんだ。彼はレイハントン・コードのことを知らなくて、ぼくは解放された」

ラライヤ「ちょっと待っていてください。このホテルにノレドとリリンちゃんがいます」

そう告げるとラライヤはウィンチで道路に降り、ホテルのロビーに駆け込んだ。しかしすぐさま走り出てきてホテルの周りにいた人たちに何事か尋ねて回っている。

ベルリ「(叫ぶ)ノレドがいないのかー!」

ラライヤはコクピットに戻るとベルリに操縦を任せて自分はモニターのチェックに回った。

ラライヤ「法王さまは中心街の教会で説法しているそうです。ノレドさんは朝1番にリリンちゃんを連れて出て行ったままだと」

ベルリ「よし、手分けしよう。(モニターに向かって)ポリジットの人はビーナス・グロゥブに詳しいですから、中心街の教会に行ってゲル法王を救出してメガファウナに戻ってください。(ポリジットが頷いてすぐさま飛び立つ)ぼくらはノレドを探そう。あいつ、なんでこんなときにちょろちょろと」

ラライヤ「(怒って)それは違います。ノレドさんはトワサンガでベルリさんのお妃のフリをしろとジムカーオという人物に言われて以来、自分にできることを必死にやって来たんです。すべてはフォトン・バッテリーの供給を再開してもらうためですよ。ベルリさんだって一緒でしょう?」

ベルリ「それはそうかもしれないけど、地球ではキャピタルで反乱が起きたり、クリム・ニックがアメリアに戦争を仕掛けて来たり、クンタラ建国戦線とか、あっちこっちが滅茶苦茶なんだ。トワサンガもビーナス・グロゥブもおかしなことばっかり。どうしてこんな・・・」

ラライヤ「少しあてがあるので、ジット・ラボの跡地に向かってもらっていいですか。(ベルリが機体を飛ばす)ベルリさんのラジオを聞いていて思ったんですけど、もしラ・グー総裁を暗殺した犯人グループが、ラ・ハイデンという新総裁の仲間だとしたら、ラ・グー総裁の敵は近衛兵団を丸ごと吸収してしまいますね」

ベルリ「(操縦しながら)それはぼくも考えた。でもそれだと総裁の任命権を持つヘルメス財団という組織がすべての黒幕ということになってしまう。ヘルメス財団はスコード教の母体だ。そこが黒幕だなんて・・・」

ラライヤ「そういう思い込みはこの際は禁物なんです。反ラ・グー派がレコンギスタ派の残党であるなら、それはメガファウナが初めて訪問した1年前に発覚したのですから、とっくにラ・グー総裁が処分しているはず。それに、ビーナス・グロゥブはウソの歴史を教えています。わたしたちはフラミニアさんに聞いたんです」

ベルリ「フラミニアさんがビーナス・グロゥブに来てる?」

ラライヤ「フラミニアさんは地球で逮捕されて、クレッセント・シップでビーナス・グロゥブに連行されたあと裁判を受けて重加算税の処分を受けてから役所で働いています。彼女は月にムーンレイスという人々がいて、地球の種を保存していたと言ったんです。逆にわたしたちの祖先は、クンタラという身分制度をそのままにしている状態で、地球にクンタラを捨ててムーンレイスが蓄えていた種を奪ったと。そしてクンタラを地球の悪習だとウソを広めたと。ここからは想像ですが、宇宙の果てから戻って来た地球人は、まず月でムーンレイスと接触した。そして新たな食糧源を彼らから奪って、地球にクンタラを捨てた。彼らは食料であると同時に労働力として使われ、キャピタル・タワーが建設された」

ベルリ「そんな! いや待って、いまは・・・、いまはまだ待って」

G-セルフがジット・ラボの跡地に到着したとき、そこにはすでにジャイオーンを先頭に、5機のリジットが配されていた。






リリンは優秀なナビゲーターであった。彼女はユニバーサルスタンダードをよく理解しており、後部座席で様々なことを調べては前方のノレドに情報を転送した。

ノレド「(リリンから送られてくる情報を眺めながら)そうか、この空間は一辺が2kmの立方体なのか。なんでこんなに人工的に作ってあるのだろう? というか、リリンちゃん、すごい。そうかぁ、G-ルシファーってこんなこともできる機体だったのか」

G-ルシファーに乗ったふたりはそのままビル群の間をすり抜けるように飛んでいった。闇の宮殿と聞いていたノレドはそのあまりにそっけない風景にガッカリしていた。何もかも機能が優先されて、装飾的なものがどこにもなかったからである。ビーナス・グロゥブの地上とは大違いであった。

ビルの壁面はガラス張りだったので、宙を飛ぶG-ルシファーの姿がそのまま映し出される。地球育ちのノレドはこれほどのガラスの壁はアメリアで朽ちたものを見ただけであった。

アメリアにはここと同じような風景があったが、どれも朽ち果てそうになっている。ガラスは割れて蔦が覆い茂っていた。それは古い時代に作られた都市で、現在はそれらを改修して再利用するのがやっとなのだとアイーダに聞いたことがあった。現在の地球では再現できないロストテクノロジーなのだ。

着地してみると、道路は石畳ではなくてもっと柔らかいものでできていた。すると素材はアスファルトであるとモニターに表示された。

ノレド「G-ルシファーってただの兵器じゃないみたいだ。こうして分析するためのものなのかな? でもその割にいかつい装備がたくさんついているし・・・」

リリン「ノレドさん、あれはだれ?」

転送されてきた画面に映っているのは、ビルの中で働く銀色の肌の女性であった。望遠レンズで映し出された映像は不鮮明で目を凝らしてみても詳細は分からない。ただ人間のように動いて働いている。その他に人の姿はない。

眼の良いリリンはビルの中に動くものを見つけるとすぐにカメラで捉えて前方モニターに転送してくる。映るもの映るものすべてが銀色の女性だ。ノレドは仮面を被っているのかとも考えたが、実際に自分で確かめるしかないと覚悟を決めると、リリンにこう言い聞かせた。

ノレド「これからおねーちゃんはあの(前方を指さす)建物に入って調べてくる。リリンちゃんはここで待っていて。誰か人が近づいてきたらパネルのここを押せば大きな音が鳴るから。いい?」

リリンは黙って頷いた。トワサンガで改良されたG-ルシファーには生体認証コードが仕込まれている。ノレドはラライヤと同じでパイロット登録がしてあり、すべての機能は使えないが彼女でなければコクピットは開けられない。

ノーマルスーツのままノレドは機体を離れてビルの中へと入っていった。

フロアに人影はなかった。コツコツと靴音を響かせながら、ノレドはゆっくりと銀色の肌の女性を探した。エレベーターで8階へ上がると、そこは広いオフィスになっていた。床にはカーペットが敷かれ、埃を吸着するようになっている。窓際に、その女性は立っていた。

ノレド「あの、お聞きしたいことがあるのですが」

銀色の肌の女性はゆっくりとノレドの前へ歩いてきた。表情は変わらないが、微笑を浮かべているようにも取れる。身長はウィルミット長官ほどあり、ノレドが見上げるほどの大きさだった。彼女の銀色の肌がメイクではなく金属でできているのは確かだった。しかし継ぎ目はどこにもない。

ノレド「あたしはノレド。お聞きしたいことがあるんです。あなたは何ですか? 人間ですか?」

エンフォーサー「あなたのアイリスデータは存在しません」

銀色の肌の女性はそう応答した。

ノレド「誰のアイリスデータならあるんですか?」

エンフォーサー「すべてのエンフォーサーです」

ノレド「エンフォーサーとは何ですか?」

エンフォーサー「許可がありません」

埒が明かないようだと理解したノレドは、どうしたものかと思案した挙句、オフィスにあるものを物色し始めた。物を盗もうとしたときにエンフォーサーがどのように反応するのか確かめたかったのだ。エンフォーサーはノレドのあとをついて歩いた。まるで人間と変わらない動きで、継ぎ目のない肌が人間の肌のように自在に動くことに感心した。

彼女はどこまでもついてきた。ここでどのような仕事がなされているのか見当もつかず、めぼしいものもなく、他に人もいないようなので、ノレドは部屋を出た。エンフォーサーもぴったりとついてきた。エレベーターに乗って階下へ降りたが、彼女も一緒にエレベーターに乗って来た。

どこまでついてくるのかと歩き続けると、建物の入口のところまで追いかけてくる。しかしビルから出ることはしないのでどうしようかとノレドは迷ったが、フンと鼻から息を吹き出すとその女性型の人形を担いでG-ルシファーのあるところまで戻っていき、そのままコクピットに乗せてしまった。

ノレド「こいつ、重いなー。リリンちゃん、大丈夫? 何もなかった?」

リリン「なにもなかったけど、知らない人がたくさんこちらにくるよ」

ノレドは転送された画像を見て驚いた。たしかに誰かがやってくるのだが、服装が見慣れない様式なのだ。おそらく正装であるはずだが、灰色や藍色の上下に白のシャツを着て、色とりどりのネクタイを締めている。似たような服装はどこにでもあるが、ビーナス・グロゥブの正装とはまた違う。

男女の比率は同数ほど。人種は様々。一見するとアメリア風に取れなくもないが、やはりどこかが違う。その違和感が何によるものなのかノレドには分からなかった。

男たちが何か叫んでいるのでマイクを向けてみると、モビルスーツをここに入れてはいけないと叫んでいる。そこでノレドは彼らとコンタクトを取ってみることにした。

ノレド「(マイクで呼びかける)あたしたち地球からやって来た者です。探検していたらここには入ちゃって。ここは一体なにをするところなんですか?」

背広の男性「とにかくここへは入っちゃいかん。勝手に入っていいところじゃないんだ」

ノレド「ここはまるでアメリアみたいですね」

コクピットにカウンターが現れ、数字が表示された。数字は20000を中心に上下していた。

ノレド「(マイクをオフにして)これって人間が2万人いるってことなのかな。リリンちゃん、わかる?」

リリンは首を横に振った。ノレドの斜め後ろに座らせたエンフォーサーが彼らのアップが映るたびに反応するので、リリンはモニターをすべて彼らの顔に標準を合わせてみた。

エンフォーサー「アイリスサイン確認」

ノレド「ということは、あの人たちがエンフォーサーなのか。何を執行する人たちなんだろう?」

そのとき、座席に座らせていた銀色の女性エンフォーサーの挙動がおかしくなり、ガタガタと震え出したかと思うと急に停止して瞳を赤く光らせた。

隣に座らされていたリリンは恐怖のあまり泣き出してしまい、ノレドは道路に集まってくる人間のエンフォーサーを気にしながらリリンをあやさねばならなかった。

人間のエンフォーサーは女性を建物の中に避難させたのち、代表者数人だけがG-ルシファーの前に立って何か伝言しようとしている。しかしリリンの泣き声が大きくてノレドにはよく聞き取れなかった。男たちはなおも何かを叫んでいるが、リリンを泣き止ますためにノレドが操縦席を離れると、立ち上がったエンフォーサーが勝手にその場に座ってしまった。

エンフォーサーは座席に座ったまま動かなかったが、G-ルシファーの機体は勝手に動き出し、闇の宮殿と呼ばれるこの機能的な都市の上空を旋回したのちに虹色の光を放ち始めた。

その光に触れたものはその場で消え去った。ノレドは夢を見ているかのような心持でそれを眺めた。精緻に作られた都市が、絵に描いた都市を消しゴムで消すかのように消滅していくのだ。G-ルシファーは、ロザリオ・テンに張り付くように存在するさかさまの世界を文字通りこの世から消し去っていった。

20000人いた人間たちは上空からは豆粒のようにしか見えなかったが、避難口のような場所に殺到しているのは分かった。モニターを操作して確かめたかったが、リリンは泣き止まず手が付けられない。

30分ほどで、1辺が2kmのこの人工的な都市は完全に焼失してしまい、重力コントロールを失ったためかかつて文明を構成していた建築物の残骸である砂状の物質が漂うばかりとなった。

ようやく泣き止んでぐったりしたリリンにシートベルトをさせたノレドは、この状況をどう受け止めていいのかわからず茫然としていた。

ところが、エンフォーサーに操縦されたG-ルシファーは今度はメガキャノンを構えて壁をぶち抜いてしまった。そしてもうもうと煙が立ち込める中に入っていった。

その先にあったのは、巨大なドッグであった。遠くに資源採掘用の隕石が見える。数キロはある壁面にはヘルメス財団の薔薇の紋章が描かれていた。G-ルシファーはその空間の解析を始めた。また銀色の女性エンフォーサーの瞳が赤く光り、その上空を旋回したのちに虹のような光の粒を放出し始めた。それに触れた係留中の戦艦やモビルスーツ、作業用の足場などが消失していった。

はたと我に返ったノレドは、エンフォーサーをこのままにしてはいけないと揺さぶったり殴ったりしたものの相手にはまるで効いていないようで埒が明かない。そこで思い切ってラライヤのパイロットスーツを持ち出してそのヘルメットで思いっきり頭部を殴りつけた。

すると瞳の赤は消え、エンフォーサーはぐったりとうなだれた。

彼女を必死に座席から引き離すと、ノレドは操縦を取り戻して事態の収拾を図ろうとした。だが彼女はG-ルシファーの操縦に慣れているわけではない。ノレドは基本的な動作をさせることしかできないのだ。

このまま放置すると広大なこのヘルメス財団の施設まで灰燼に帰してしまうと恐れたノレドは、半べそをかきながら必死にパネルを操作して、虹色の光の粒の放出を止めようとした。だが何をどういじってもG-ルシファーは止まらず、30分ほどしてその空間内にあったものを何もかも消滅させてしまった。

ノレド「なんだったんだー。この機体に一体何があってこんなことになっちゃったんだろう。(後ろを振り返る)とにかくリリンちゃんだけは助けなきゃ」

そう覚悟を決めたノレドは、G-ルシファーが空けた巨大な穴をくぐり、ラライヤを探すためにジット・ラボまで戻ってみることにした。






急遽ビーナス・グロゥブの新総裁に任命されたキルメジット・ハイデンは、1時間早まった朝からおかしなことばかりが続くのを感じていた。

まだ副総裁だった朝のこと、ラ・グーからの命令で理由がわからないままスコード教の司祭を逮捕したのち、司祭に手錠をかけたばかりだというのに地球からやって来たゲル法王の説法に参加しなければいけなくなった。

その内容は素晴らしく、キルメジット・ハイデン自身も司祭逮捕の気まずさをしばし忘れて、聖堂に万雷の拍手が鳴り響いたときにはうっすらと涙を浮かべるほどであった。

永らくラ・グーの副総裁として任務を果たしてきた彼は、ラ・グーより120歳も若く、白い壮健な表情は頼もしさに溢れていたものの、真実の姿はムタチオンに苦しむ痩せ細った肉体をボディ・スーツでごまかしているだけであった。彼はヘルメス財団に迎え入れられたことで若返りの手術を受けられる手はずとなり、顔を元通りに戻し、肉体は屈強なボディ・スーツで固めて生まれ変わった。

そんな彼にヘルメス財団より呼び出しがかかったとき、ラ・グーはすでに絶命していた。すぐさま聖堂を出た彼はやって来た近衛兵団にエアカーに乗せられようとした。

それを呼び止める姿を確認したとき、彼は多くのことを悟らねばならなかった。

エアカーに乗り込む前に声を掛けられた彼は、それがラ・グーの第1秘書であると認め、近衛兵を下がらせて彼の話に耳を傾けた。表情を悟られぬように壁に向かって話を聞いていたが、その話は信じられないものだった。彼は男に耳打ちをした。

ハイデン「ヘルメス財団が宇宙世紀再来を目論んでいるなどという話をどうして信じられようか」

秘書A「でなければ、誰があのラ・グー総裁を手に掛けたりいたしましょう。詳しいことはいずれあなたさまの元へ何かが届けられるはずです。だれも信用せず、ご自身だけをお信じになることです。ハイデン閣下、護身用のピストルはお持ちで」

ハイデン「持っているがまさか」

秘書A「覚悟はできております」

ハイデンはその男を突き飛ばすと、男が身構えるより先にピストルを取り出して相手の頭を撃ち抜いた。倒れた男の手には銃が握られている。たちまち近衛兵が駆け寄り、聖堂から出てこようとしていた一般信徒を建物の中へ通し戻した。

近衛兵「この男は?」

ハイデン「(汗をかきながら)ラ・グー総裁の元秘書の男だ。不埒な話でたぶらかそうとするので撃ち殺した。(大袈裟に嘆いてみせる)神聖な聖堂の前でなんということだ。素晴らしい説法を聞いた後にこのような殺生をせねばならぬとは!」







赤紫色のジャイオーンを操っているのが誰なのか、ベルリには分からなかった。しかし、ラ・グー総裁を目の前で殺されたあとにG-セルフを渡せと要求されてもできるはずがなかった。

ジャイオーンと5機のリジットの目的はG-セルフのようだった。相手は搦手で機体を奪うつもりらしく、ビームもソードも使ってこない。ジット・ラボの建物の影に隠れながらの追いかけ合いは30分ほども続いた。G-セルフの中にはラライヤも同乗しており、身体を固定していないために重力下では下手な動きはできない。

途中で1度突き上げるような衝撃があった。物陰に隠れていたG-セルフはその衝撃で倒れてきたクレーンの下敷きになりかけた。すぐに建物の中から出ると、もうそこに敵の姿はなかった。

しばらくして姿を現したのはG-ルシファーだった。コクピットのハッチが開いており、ノーマルスーツを着たノレドの姿が見える。ベルリもG-セルフのハッチを開いて、2機は向かい合って寄り添うように停止した。良く見るとノレドは目を真っ赤にして泣いていた。

ノレド「(大声で)ベルリー。あたし大変なことをしちゃったかもしれない」

ベルリ「落ち着け、ノレド」

ラライヤ「(ベルリを押しのけ)リリンちゃんは無事ですかー」

ノレド「リリンちゃんは無事。でも、でも・・・」

ラライヤ「(ベルリに向かって)わたし、あちらへ行きます」

ベルリ「頼む」

コクピットでひとりになったベルリは、ノレドの様子が明らかにおかしいことや、リリンという自分の知らない少女をふたりが絶えず気にしていることなどを不思議に感じていた。

ベルリ「そうか、ノレドとは日本で別れてからもう何か月も会ってない。お互いに話さなきゃいけないことがたくさんあるんだ、きっと・・・。でもぼくは」

ゴンドワンの港町をシャンクで走っているとき、ふいに姿を現したケルベスに拾われてそのまま昔に戻ってしまった彼は、いまはアイーダの名代としてフォトン・バッテリー供給再開の件でビーナス・グロゥブを再訪し、ラ・グー総裁と話し合わなくてはならない立場であった。

ラライヤに抱き着きながらわんわんと泣きじゃくるノレドの姿を見ながら、ベルリは彼女との距離が遠くなったことを強く実感していた。


(ED)


この続きはvol:45で。次回もよろしく。






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