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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第18話「信仰の根源」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第18話「信仰の根源」前半



(OP)


スコード教の法王ゲル・トリメデストス・ナグは、今度は自主的に月の裏側奥深くに隠された冬の宮殿に籠っていた。

ウィルミット・ゼナムの力を借りたムーンレイスたちの尽力により、冬の宮殿の機能は100%回復され、いまでは近郊の宿泊施設も使用できるようになっている。冬の宮殿は、多くの人が集まる礼拝所のような作りになっていたのだ。

法王庁の役人たちと離れて数か月が経つゲル法王に、身の回りの世話をする人間はついていない。ただひとり彼に付き添ってきたのは、トワサンガの孤児リリンであった。

ゲル法王「リリンさんがいてくれて助かりました」

リリンは冬の宮殿の映像投影装置にどのようなものがどれほど入っているのか解析する手伝いをしていた。機械に弱いゲル法王にとってリリンほど頼もしい助手はいなかった。彼女は記録された映像を時代ごとに分類してくれた。ゲル法王はそれを自ら学んだ歴史と頭の中で符合させていけばよかった。

記憶力の良いリリンは、映像が決してランダムでないことを突き止めた。また、最後に記録された映像にディアナ・ソレルとハリー・オードの姿があることも突き止めた。

リリン「ディアナさんがふたりいるみたい」

ゲル法王「たしかに似たお嬢さんが映っているようです」

リリンが興味深そうに眺めていたのは、ディアナが映っている時代に登場する、2機の白いモビルスーツの映像だった。その2機はいずれもリリンの記憶にあるものを撒き散らし戦っていたのだ。

ゲル法王「あの光の粒のようなものに触れると、ものが消えてなくなるというのですね?」

法王は映し出された映像を眺めながら小さなリリンに訊ねた。

リリン「天の国の地下に、お仕事するだけのおっきな箱のようなところがあって、そこで隣に座っていた悪魔みたいな人が暴れ出してぜんぶ壊したの」

ゲル法王「G-ルシファーという禍々しい名前のロボットがあると聞いたことがあります。法王庁の名前で処分しておくべきだったかもしれないですね。金星のことを指しているかもしれませんが」

法王の悩みは深かった。人生を信仰に捧げてきた彼が信仰の力を過大に評価してきたのはやむを得ないことであったが、信仰の力は本物の争いの前ではあまりに無力であった。彼はしょげ返り、それでも気力を振り絞って憎しみと破壊の映像に向き合った。

リリン「白いモビルスーツがときどき出てくる」

ゲル法王「確かに時々出現してきては争いを終わらせる役割を果たしているようにも見えます」

リリン「白いモビルスーツが神さまなの?」

ゲル法王「そんなはずはないと思いますが・・・。(首を傾げ)はてさて、長い歴史の中で、白いモビルスーツに何かを託す気持ちがあったやもしれませんね。もしそうなら・・・」

リリン「?」

ゲル法王「もしそうなら、最初に出現した白いモビルスーツが戦争を終わらせる役割をして、のちの人々に受け継がれた可能性はあるでしょうか」

リリン「(画面を指さし)最初の白いモビルスーツは赤いのと戦っていたんだよ」

ゲル法王「もうかれこれ2000年も前のことですから・・・、でも調べてみる必要はあるかもしれない。歴史学によれば、ジオン公国という宇宙移民たちの独立戦争が、宇宙世紀の戦争の始まりだったとか。それがきっかけとなり、宇宙世紀は鮮血の時代になっていたと神学校では学びますね」

リリン「神話時代?」

ゲル法王「リリンさんは物知りですね。宇宙世紀初期は神話時代と呼ばれ、スコード教が興る原点になった奇跡はこの時代にあったと推測されています。もしこの映像の中にそのヒントがあるとしたら、わたくしたちスコード教徒は信仰の本質に触れることが出来るのですが」

老年のゲル法王と幼年のリリンは、不思議とウマが合って互いに尊敬し合う関係を築いていた。ゲル法王に若年者を侮る資質がなかったことが大きい。彼にとってすべての人間、すべての事象は神の使いとして認識されていたからである。

ふたりは協力し合って、神話時代の白いモビルスーツについて集中的に調べ始めた。リリンの記憶力と検索能力はどのモビルスーツも色でしか判別できない機械音痴のゲル法王には非常に役立った。

作業自体は上手く進んだ。ところがふたりの周囲は急に慌ただしくなってきて、作業に集中できなくなってきた。暗く静かだった冬の宮殿の周りに、人の声で満ち始めた。

アメリア・ムーンレイス同盟が正式に発足して、対トワサンガ用の前線基地を月の裏側に作り始めたからである。






トワサンガに招かれたクリム・ニックとゴンドワンの兵士たちは、客人として丁重にもてなされたものの、民間人との接触は厳しく制限されていた。

彼らは宿泊施設を提供されたが、一切のサービスはできないと通告され、船の中にいたときのように軍隊として独立した運営を強いられた。またエネルギーの提供もできないとも言い渡された。

そんな中でクリムは、トワサンガの行政官ジムカーオとの話し合いに応じていた。アジア系の浅黒い肌を持つジムカーオが、キャピタル・テリトリィ調査部の人間と知って彼は強い緊張を強いられていた。クリムには彼がクンパ大佐に見えて仕方がなかった。

クリム「トワサンガというのだから、フォトン・バッテリーなど有り余るほどあるのでしょう。それさえ提供いただければ、アメリアもあなたのいうムーンレイスとやらも一気に叩いてみせましょう」

ジムカーオ「ムーンレイスの技術体系はフォトン・バッテリーを必要としないもので、持久戦になればあちらの勝利は間違いないのです。勝てるのだから彼らは持久戦に持ち込もうとするでしょう。それでも一気に叩いてみせるなどと世迷い事を申されますか」

クリム「ではどうしろと?」

ジムカーオ「もちろん、講和です」

クリム「話にならん。そもそもあなた方だってあちらと交戦状態にあるのでしょう?」

ジムカーオ「こちらに戦う意思はない。トワサンガにとってはゴンドワンもアメリアもムーンレイスも関係ないのです。争いをやめていただくことが肝要。ムーンレイスというのはこちらのレイハントンと敵対関係にありましたので、地球に連れ去られたふたりのレイハントンの子供をたぶらかし、トワサンガの統治権を簒奪する腹積もりだと推測しております。しかし先ほども申したように、彼らは宇宙世紀時代の技術体系の上に成り立った古代文明なので、トワサンガは彼らをそのまま受け入れることはできないのです。だから現状は彼らの侵略行為からの防衛に徹しております」

クリムは相手の真意を測りかねていた。もし彼らの話が本当だった場合、自分はミック・ジャックの戦死の虚を突かれて敵の戦略にまんまと乗せられたことになる。彼らがアメリアとの講和の仲介を持ち掛けてきた時点でもっと注意すべきだったのだ。

不利な戦況と愛人の死が、彼から冷静な判断力を奪ってしまっていた。

ジムカーオ「目下、我々の敵となっているのは、古代文明の生き残りであるムーンレイスだけで、アメリアもゴンドワンも友好国だと見做しておりますが、あなたは『闘争のための新世界秩序』や『修正グシオン・プラン』というものを発表して、これらスペースノイドの自己犠牲で成り立った理知的国家を侵略する腹積もりだったとか。(嘲笑的に)本気だったのですか? それとも、地球を統一するための方便でしたか」

クリム「フォトン・バッテリーの秘密さえ提供していただければ、我々地球人はエネルギーなど自前で調達できると言っているのです。自己犠牲などと押しつけがましいことをいうのはやめていただこう。自己犠牲を強いているから、地球を支配していいとはならない」

ジムカーオ「まさか、支配などと」

クリム「スコード教というものがまさに支配体制だとこう申しているのです」

ジムカーオ「反スコード教。なるほど。ではあなた方もムーンレイスと同じ古代種族というわけですな。だってそうでしょう? 地球と宇宙では労働の感覚が大きく違う。壁を隔てた向こう側が真空の宇宙で暮らすスペースノイドは、幼いころから厳しく訓練を受け、マニュアル通り完璧に仕事をするのが当たり前です。しかし、地球は違う。いくらでも手抜きをして、浮いた金を懐に入れても誰も死ぬわけじゃない。だから平気でやってはいけないことに手を染める。汚職がなくならない。心当たりはあるでしょう? そんなあなた方が、トワサンガやビーナス・グロゥブを支配することなどできないのです。そもそも宇宙で暮らしていくことすらできないでしょう。スコード教は、スペースノイドによるアースノイドの教導であって、支配ではない。逆はあり得ないことなのです」

クリム「(イライラしながら)そうやって支配を正当化してきたと言ってるだけだ。地球はあなた方の支配体制にはうんざりしている」

ジムカーオ「(両手を広げて肩をすくめる)ならば、このままでいいではありませんか。もうフォトン・バッテリーは供給されません。スコード教の法王も行方不明でどこに行ったのかわからない。キャピタル・ガードと法王庁はこうしてトワサンガに亡命してきているが、キャピタル・テリトリィはあなた方ゴンドワン軍が破壊して奪い去ったのでしょう? それで宇宙からの支配からの脱却は果たされたはずだ。お前たちに従う気はないが、技術は提供してくれでは話が通らない。・・・、わかっていますよ。だからあなたは戦争を選んだ。通らない話だと分かっていたから、暴力で奪うことを最初から選んだのです。違いますか?」

クリム「では、スコード教が支配体制であることは認めるのか」

ジムカーオ「受け取り方の問題です。スペースノイドは宇宙世紀の争いごとから脱却するために知恵を絞ってフォトン・バッテリーの供給システムとスコード教の禁忌を作り上げた。それを否定するならば、いま1度宇宙世紀を繰り返すまでのこと。そうなりますね」

クリムが言葉に詰まったところで、オーディン1番艦の艦長ドッティ・カルバス中佐が口を挟んだ。

ドッティ「そこまでおっしゃるならば、なぜわたくしどもを助けてくれたのでしょうか? こうしてトワサンガに招かれれば、何かを期待したくもなるというものです」

ジムカーオ「先ほどから申しているように、我々にとっての敵はムーンレイスとアメリアです。アメリアは古代人種と同盟を組んでリギルド・センチュリーを否定して世界をユニバーサル・センチュリーの時代に戻そうとしている。これを阻止したい」

ドッティ「では、こういう提案はどうでしょうか?」

クリム「でしゃばるな、ドッティ」

ドッティ「いや、クリム大佐はあくまでゴンドワンの客分でしかないのだから、あなたこそ黙っていただこう。あなたのプランは失敗した。ゴンドワンはあなたと心中するつもりはない。(ジムカーオに向き直り)提案というのは、トワサンガとゴンドワンの同盟についてです。我々ゴンドワンはトワサンガ政府と同盟を結び、ムーンレイス討伐に協力する。あなた方は見返りにクリムトン・テリトリィを承認して、フォトン・バッテリーの配給権をゴンドワンに委託していただきたい」

ジムカーオ「クラウンの運航をあなた方ができますかな?」

ドッティ「いや、ですからタワーまでの利権はトワサンガが持ってくれて結構だ。地上に降ろしてからの利権は我々にいただきたい。タワーの地上部分を占拠しているのは我々なのですから」

ジムカーオ「確かにそれは検討に値する提案かもしれない。我々とともにムーンレイスと戦ってくださるとこうおっしゃるのですね」

ドッティ「クリムトン・テリトリィの確約さえいただければですが」

ジムカーオ「結構。ゴンドワンは元々熱心なスコード教信者の多い地域。一時的に宗教から乖離する動きがあったのは、若者を扇動する悪しき輩がいたからというわけでよろしいな」

ジムカーオは指をパチンと慣らして人を呼ぶと、クリム・ニックの身柄を拘束して連行するように命じた。これにクリムは激しく抵抗した。

クリム「ドッティ、貴様ッ!」

ドッティ「(肩をすくめて)15歳も年上の人間を呼び捨てですか。さすがアメリアの野蛮人は教育がなっていませんな」

クリムはそのままトワサンガの牢に閉じ込められた。







シラノ-5のサウスリングにある旧レジスタンス派の拠点に、若い学生たちが集結しつつあった。

そこはかつてレイハントン家の家臣団が集まるサロンのような場所であったが、トワサンガに非常事態宣言が出されて情報が統制されて以来、老人たちはいまこそ若者の出番であると考え彼らに活動拠点を提供したのだった。

名もなき学生たちを束ねるのはサウスリング出身でドレッド家に在籍していたこともあるターニア・ラグラチオン中尉であった。彼女はラライヤ・アクパールをドレッド軍に送り込み、地上へと派遣した功労者で、トワサンガ守備隊としてジムカーオとも接触できる稀有な立場にある。

その実は旧レイハントン家のレジスタンスがドレッド軍に送り込んだ士官であった。

ターニア「いま説明したように、月にはディアナ・ソレル率いるムーンレイスたちが住んでいて、かなり強大な武力を所持している。そことアメリアが同盟を結んだらしいのだけど、アメリアにはベルリ王子とアイーダ姫がいる。対するトワサンガは守備隊もロクになくて、ジムカーオという人が連れてきたキャピタル・テリトリィの軍隊と守備隊の一部しかいない。トワサンガの戦力はかなり少ないのよ」

学生たちが多くレジスタンスに加わったわけは、ラライヤにあった。レイハントン家の処女姫との触れ込みで悠然と乗り込んで来たノレド・ラグは、年配者と子供にこそ人気があったが、若者の注目を集めたのは彼女に付き添う近衛兵団長のラライヤであったのだ。

ラライヤ人気の高まりによって、若者のレジスタンス参加者は飛躍的に伸びていた。そのせいもあって、今夜の集会はロッジから人が溢れるほどの盛況となっていた。

学生A「なるほどそれで戒厳令を敷いたジムカーオ大佐は近く徴兵制度を強いてくるのではと」

学生B「いやしかし、宇宙での戦争ならMSで行うのだろう? いまから自分らを徴兵したところで役には立たんぞ」

学生C「そもそもムーンレイスなんてお伽噺、それ自体がニセ情報という可能性もあるのでは?」

学生たちは口々に意見を言い合った。ターニアはそんな彼らの前に3枚の不鮮明な写真を提示した。

ターニア「ジムカーオの傍にいる協力者が撮影してくれたものです。どうもノースリングに大規模な生産工場か何かあるようで、そこで作られた新兵器が、これ」

学生C「なんですかこの丸いものは」

ターニア「わたしもこの写真でしか知らないの。見たところ、脱出ポッドの頭に長距離ビームライフルを搭載した簡易型MSのようだけど、詳細は不明」

ターニアの言葉は学生たちに衝撃を与えた。写真に映っている小さな丸いボール型のものがMSだというのだ。それは、長距離砲1門と、2本のアームをつけただけの、まさに脱出ポッドであった。

学生A「だ、脱出ポッドのまま戦場に出される? 剥き出しのまま? 装甲は?」

学生D「学徒に戦闘訓練させている余裕がないからといってこんなもので戦場に出すなんて普通じゃない。ぼくらはこう見えてエリートですよ。しかも相手がレイハントン家のふたりのお子さんとか、それじゃぼくらはいったいなんのために誰と戦うのですか?」

ターニア「だからそれをはっきりさせておかなきゃいけないのよ。あなたたちの敵は、ジムカーオ。あなたたちの味方はレイハントン家。いいかしら?」

学生A「それは構いません。ベルリ王子はトワサンガの民主主義を保証するとおっしゃっていましたし。だけど、サウスリングのぼくらはいいとしても、他の地区の連中の中にはドレッド家のシンパも多くて、彼らはジムカーオ大佐の行政手腕を評価する向きもあります。彼は決して無能ではない。むしろ非常に賢い。自分にはそう見えます」

ターニア「賢い。たしかに。そして狡猾。あたしは彼の傍で何度か働いたけども、何を考えているのか最後まで分からなかった。一見すると非暴力主義で熱心なスコード教の信者。先を見通す力があって、他人の力を利用するのが上手い。賢い人が自分の味方じゃないとしたら悪夢よね」

学生A「狡猾ですか。ターニアさんをこうして泳がせているのもおそらくそうなんでしょうね」

ターニア「まぁ身元が割れてないとは思ってない。あなたたちと会ってることも知ってはいるはず。でも、圧倒的に人間が足らないのも確か。戦力なんてない。どこにもない。だってドレッド軍が潰れて、守備隊がザンクト・ポルトで全滅して、キャピタル・アーミーやガードだって法王の警護のために連れてきた僅かな数しかいない。それで戦争準備を始めているのが怖いのよ」

学生A「了解しました」

ターニアと学生たちは今後のことを確認して散会しようとした。

しかし、彼らの行動はすべて監視されていた。彼らのアジトは数百名の兵士に包囲されていた。

人工的に作った夜の闇に立っていたのは、見慣れない憲兵の衣装をまとった男たちであった。ターニアは彼らの顔に見覚えがあった。彼らは元ドレッド軍の兵士だったのである。

憲兵「ターニア・ラグラチオン中尉、および学生諸子。反乱罪で逮捕令状が出ている。逆らえばこの場で銃殺にする」







トワサンガ奪還のための作戦会議の席上、ハリー・オードの発言に耳を傾けていた一同は、突然発せられた大声の主に視線を集めた。声を上げたのはケルベス中尉であった。

ケルベス「いまのハリー殿の発言が本当ならば、カシーバ・ミコシに乗せられていたのはアーミーとガードの連中に間違いない。彼らなら、クラウン運航庁の人間がいなくてもタワーを再開させるのは可能だ。タワーを乗っ取るつもりでいるのだろう」

アイーダ「ということは・・・、ああ、それでクリムと手を組んだと」

ケルベス「地上はクリムに支配され、タワーは我々の同胞。しかしなんであいつらはジムカーオなどという得体のしれない人間に従っているのか」

ベルリ「ジムカーオに従っているつもりはないんでしょう。ガードの先輩たちは、法王庁の人間に従っているんだと思います」

ドニエル「ということは、なんだ、オレたちは誰と戦うんだ? トワサンガは空になってるんじゃないのか?」

ディアナ「メガファウナとゴンドワン軍を停船させた銀色の戦艦というものには法王庁の人間が乗っていたのでしょう?」

ドニエル「法王庁って名乗ってたけどなぁ、いまとなっては本当かどうか・・・」

ディアナ・ソレルとアイーダ・スルガンの会談は2時間弱ですでに終わっていた。会談は誰も交えずふたりきりで行われたのだが、どのような内容であったのか、ふたりはにこやかに微笑みを交わしながら部屋を出てきて、すぐさまトワサンガ奪還作戦決行が命じられたのだ。

アイーダ「何かの罠なのか、それとも罠と見せかけて・・・」

ディアナ「地球の現状はゴンドワン優勢だとか」

アイーダ「わたくしたちはキャピタル・テリトリィは神聖なものだと思っていましたから。まさかそのような土地を侵略戦争で奪うとは考えなかったのです。アメリアは世界の警察などではないのです」

ベルリ「そうしたことも含めて、すべてが壮大な計画の一環だとぼくらは考えました」

アイーダ「宇宙世紀を終焉させるか、それとも復活させるか、そのふたつの勢力の争いではないかとのご指摘ですね。それはディアナさんから聞きまして、確かにそう考えなければキャピタルの急速な弱体化の説明がつかない。クレッセント・シップが世界巡行を終えて宇宙に帰還していったまさにその瞬間に何もかも始まっているのですから。しかも戦争を再開したのもクリム・ニックです。彼の覇権主義的傾向が利用されたと考えなければ、起こるはずがないことが起こっているわけですから」

ケルベス「アーミーを解体するタイミングに合わせてガード内を分裂させ、法王を人質として奪いゴンドワンを動かし、こんなことが出来る人間がいるとは考えにくい。人間とは違う何か別の、もっと大きなものを相手にしているようだ」

アイーダ「その何か大きな意思は、クンタラも使っているのです。地球ではクンタラ建国戦線というのが勢力を拡大していて、クンタラは国境をまたいで存在しているので、どの国も内部が攪乱されていますね。たしかに、ひとりの人間が考えてできることではない」

ドニエル「トワサンガやビーナス・グロゥブを巻き込む勢力ってのは・・・」

ベルリ「それどころか、ラ・グー総裁を連中は殺している。ぼくの目の前で」

アイーダ「そのような勢力ですから、何を考えているのか掴みどころがない。今回のトワサンガ奪還作戦も、罠である可能性も考えなくてはいけないのですが」

ディアナ「いえ、それは無用です。罠であっても結構」

ベルリ「なぜ結構なんですか?」

ディアナ「薔薇のキューブで宇宙からやってきた者たちは、明らかに我々ムーンレイスの影響を受けて変質している。あなた方には、変質した彼らと以前の彼らの見分けがつかない。新しい時代の人間ですから。しかし、我々は以前の彼らを知っている。ウィルミット長官から聞いた宇宙世紀復活を目指している何者かは、我々にしか見分けがつかないはずなのです」

アイーダ「つまり、ディアナ閣下をトワサンガに入れれば、そこにある薔薇のキューブがどんなものか突き止められると」

ディアナ「そうです。ベルリ・ゼナムとアイーダ・スルガンはともにトワサンガのレイハントン家の子女であるという。もしあなた方ふたりがわたくしを信用してくださるというなら、トワサンガはいったんわたくしが預かり、あなた方おふたりは地球へ帰還して地球で起きた戦争の火種を消していただきたい。これはそのための作戦だとお考えいただければいい」

ドニエル「敵がいないのか、それとも何か強烈なものがいるのかいないのか、それがわからないと戦う側としては不安ですな。戦力がいるのかいないのかハッキリしない戦争なんて初めてです」

ハリー「G-シルヴァーはトワサンガ製でしょ。あの機体ひとつでこちらは大打撃を与えられ、リックとコロンを人質に取られている。戦力がないとはとても思えないのだ。G-シルヴァーはあの銀色ののっぺり戦艦の中に消えてしまっている。あれが敵の本体でしょう。しかもどれほど数がいるのかわからない」

ケルベス「アーミーとガードからトワサンガに入った人間は推定で1000人に満たない数です。残りはガヴァン隊とは別行動の守備隊の生き残りか、ドレッド軍の生き残りか」

ドニエル「戦力を分断させる作戦ならば納得がいくが」

アイーダ「つまり、わざとウーシアなどの機体を見せて、ガードのみなさんがトワサンガを離れたと思わせておいて・・・」

ドニエル「実は残っていました、みたいな。なんでこうややこしいことをするのかな」

ディアナ「月面裏側の前線基地建設の様子はどうか」

ハリー「あと1週間もあれば」

ディアナ「アイーダ、ベルリのレイハントン家の子女は、ディアナが一時的にトワサンガを掌握する旨を市民に伝えるところまではやっていただきたい。以降は我々が敵の正体を暴きましょう」






クリムトン・テリトリィのカフェでコーヒーを飲んでいたロルッカ・ビスケスは、キャピタル・タワーから続々と運ばれてくるMSに興奮を隠せないでいた。

ロルッカ「ウーシアなどというポンコツが出てきたときはガッカリしたものだが、この新型は素晴らしい。トワサンガはいつこんなものを開発したというのだろう。YG-111の量産型を地球で扱えるとは」

カフェの窓からは、トワサンガの新型機YG-201を運搬する様子が見えていた。ロルッカにそれが見える特等席が用意されたのだ。YG-201はYG-111=G-セルフの量産機だと宣伝され、さらにその敵役となる機体もこのあと運搬される予定になっているという。

ロルッカ「いくらでも出てくる。金になるものがいくらでもタワーから出てくる。オレは大金持ちになるぞ。オレは地球で1番の富豪になるやもしれん。これは、これは大変なことだ。レイハントン家の家臣の身分ではこんな興奮は絶対に味わえなかった。凄いぞすごいぞ。戦争万歳。オレこそが地球のレイハントンになれるかもしれんのだからな」

ロルッカはそうひとりごとを言いながら興奮して子供のようにはしゃいでいた。

彼がくつろいでいる場所は、かつてスコード教の礼拝堂があった場所であった。その美しい装飾が気に入られ、この建物は高値で売買されて、いまは高級カフェテリアになっているのであった。

ステンドグラスから差し込む色とりどりの光が、天使のレリーフを美しく染め上げていた。


(アイキャッチ)


この続きはvol:57で。次回もよろしく。




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