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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:51(Gレコ2次創作 第15話・後半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第15話「月の同盟」後半



(アイキャッチ)


ベルリはG-セルフの両手を大きく広げてトワサンガモビルスーツ隊の前に立ちはだかった。

ベルリ「いい加減にしなさいよ!」

するとトワサンガから出てきたMSは攻撃せずに停止した。

兵士「その声は王子ですね。どうかトワサンガにお戻りください。地球の軍隊がザンクト・ポルト周辺まで上がってきたことが確認されています」

クレッセント・シップとフルムーン・シップは徐々に動き始めていた。ベルリはG-セルフをその反対方向へ移動させながら敵戦力を引き離そうと試みる。その行く手を1機のエルモランが塞いだ。

ベルリ(エルモラン、ドレッド軍の機体じゃないか)

トワサンガMS隊は多くはウーシアとカットシーだが、ガヴァン隊が採用していたザックスだけでなくドレッド軍が採用していた機体も含まれていた。

ベルリ(壊滅したはずのドレッド軍のMSがあるのは、残っていたからなのか、新しく作ったからなのか。ラライヤから報告のあった話が本当なら、ヘルメス財団はいずれ戦争の道具を量産して売り始めるはずだ。どうやってトワサンガの人たちにこちらの話を信じさせたらいい?)

兵士「ビーナス・グロゥブからお越しになられた方々もねぎらう必要がございます。王子には早急に戻っていただかなくては困るとジムカーオ大佐もおっしゃっております」

ベルリはそれに応えずエルモランを振り切ってさらに逆方向へと機体を進ませた。トワサンガ隊が動かないので速度は上げられない。いっそ自分についてきてくれればと思った矢先にトワサンガ隊は後方から攻撃を受けて四散した。攻撃を仕掛けてきたのはメガファウナでG-シルヴァーと名づけた銀色のG-セルフであった。

ベルリ「バララ・ペオール!」

ビームライフルを構えたベルリは、トワサンガ隊が二手に分かれて2機のG-セルフを追いかけ始めたことでどう対処していいか迷い、とりあえずはトワサンガの追っ手を振り切ることに集中した。トワサンガのMSは攻撃の意思を示さず、ただ捕まえようとしているだけに見えた。

しかしG-シルヴァーは好戦的でビームライフルを使って的確に1機ずつ被害を増やしていった。

ベルリ「前のように精神感応しない? 人がたくさんいるからか? よし、ここは! トワサンガのみなさん、あの銀色のを捕まえます。手伝ってもらっていいですか?」

兵士「王子にも来ていただかなくては困るんですよ!」

カットシーがコクピットを撃ち抜かれて爆発した。さらにもう1機のカットシーが両脚を撃ち抜かれて小破する。G-シルヴァーはまるで敵味方の見境なく攻撃を仕掛けているように見えた。

ベルリは敢然とG-シルヴァーに立ち向かおうとするが、G-シルヴァーに気を取られるとウーシアに両腕を掴まれそうになり、それを振りほどくと右側にいたウーシアが撃破される。

ベルリ「なぜあんたたちは邪魔しかしないんだ!」

兵士「戦争を終わらせなきゃいけないからですよ! 地球からゴンドワン軍とアメリア軍が迫っているんです。王子にはトワサンガを治めてもらわねばなりません!」

ベルリ「学生たち若者はトワサンガの王政への復古には反対している! ビーナス・グロゥブがハザム政権を承認しないなんて誰に聞いたんだ! クレッセント・シップもフルムーン・シップも地球圏にあったっていうのに!」

兵士「あんたが王子さまになってくれなきゃオレたちクンタラが困るって言ってるんだよ!」

ベルリ「クン・・・タラ?」

G-シルヴァーは一気にモランとエルモランと撃墜した。通信していた相手が搭乗していたらしく、呼びかけても先ほどの声は聞こえてこない。

ベルリ「(大声で)そんなに王子さまが好きなら王子さまとして命令する! みんな下がれ! ぼくはこいつを!」

残った3機のトワサンガ隊は王子としての命令が効いたのか、隊長機を失ったためなのか、一斉にシラノ-5に戻っていった。空間に残されたのはG-セルフとG-シルヴァーだけとなった。するとG-シルヴァーはすかさず反転してシラノ-5北側へ逃れて行こうとする。ベルリはそれを追いかけた。

ベルリ「どっちも同じG-セルフかもしれないけど、ご先祖が残してくれたこの機体は違うって信じたい! バララ・ペオール!」

そう呼びかけてもベルリの心には何も返ってこなかった。ベルリのG-セルフは必死に逃れようとするG-シルヴァーに追いすがり、ようやくその足首を捕まえた。

ベルリ「接触回線で聴こえているんだろ? 返事をしたらどうなんだ!」

足首を掴まれたG-シルヴァーは、加速を弱めたが暴れるでもなく、ただ慣性のままに脚を掴まれたまま漂っている。ベルリの心の中に何かモヤモヤした違和感が沸き起こってきた。自分はいま得体のしれない何者かと対峙しているのだと感じた。

ベルリの精神は、敵パイロットと感応していなかったのではなく、感応していたものが異質な人間以外の何かだったのだ。

ベルリは周囲に邪魔をする者がいなくなったのを確認してから、G-シルヴァーを抱きかかえるように固定して、コクピットを開いて宇宙空間へと身を乗り出した。G-シルヴァーのハッチはユニバーサル・スタンダードだったので外から開けることが出来た。

コクピットの中に明かりはついていなかった。ベルリはパイロットスーツからペンシルライトを取り出してG-シルヴァーのコクピット内を映した。パイロット席に乗っていたのは、ノレドがビーナス・グロゥブのジット団跡地地下から持ち帰ってきた銀色の女性、エンフォーサーであった。

ベルリ「エンフォーサー、アンドロイド・・・」

エンフォーサーは真っ暗なコクピットの中に座ったまままったく動かない。ベルリはG-シルヴァーのコクピットの隅々にライトを当ててG-セルフとの違いを確認した。ほとんど変わることはなかったが、ハッパが話していたようにコクピットはコアファイターにはなっていない。違っているのはその部分だけといってよかった。

人間に似せて作られた顔を前方に向けたまま微動だにしないアンドロイドは、ベルリには狂気を湛えた人間以上に怖ろしいものに感じられた。再び地球を離れ、ガヴァン隊と交戦してから日々強くなる精神感応の鋭敏さにベルリは神経が参ってしまいそうになっていた。

あのときやむなく地球の大気圏に押し込んで焼き尽くしたガヴァン隊の中に、ノレドが連れてきた小さなリリンという女の子の親もいた。戦争は殺して殺しても終わらない。話して話しても人間と人間の間の溝は埋まらない。それどころか、話すことが対立を深めていくばかりであった。良かれと思って取る行動が、相手には気に食わずに新たな対立の火種となる。

人と人との間には感応の不具合しかない。それは接触しているようで、最初から壊れているのだ。

ベルリ「だからこいつを作ったのだろうか・・・。この機械人形を・・・」

妙な感じを覚えたベルリは咄嗟に飛びのいてG-シルヴァーのコクピットから飛び出た。するとハッチが閉まり、G-シルヴァーは生気を取り戻したかのように細かい振動を繰り返した。

G-セルフに戻ったベルリは抱きかかえるように固定していたG-シルヴァーから手を離した。するとG-シルヴァーは逃げ出すでもなく、まるで意思のある人間であるかのようにベルリのG-セルフを眺めた。先ほどまでまるで感応しなかったG-シルヴァーが、今度はベルリをスキャンするかのように観察し始めたのだ。

ベルリは叫び声をあげてバルカンでG-シルヴァーを撃った。それでも強制的な精神への介入は止まず、ベルリは巨大な眼に心の底まで覗かれ続けた。






隣のベッドで寝ていたラライヤが不意に上体を起こしたので、ノレドは寝ぼけ眼のまま頭だけ横にした。ノレドは寝袋から手を出し、掌をまさぐって自分の横にいるはずのリリンの姿を求めたが、小さなリリンの姿はそこにはなかった。

ノレド(そうか、リリンちゃんは本物の月の女王様のところに残ったんだ・・・。やっぱりあたしじゃ役不足だよね。女王さまって柄じゃない。結局、何の役にも立てなかったもんね)

不意に悲しさがこみあげてきたが、ノレドはそれをぐっと堪えていつもの笑顔の自分を作り上げた。

ノレド「どうしたの、ラライヤ」

ラライヤはくるまっていた寝袋のジッパーを開けて身体を外に出した。彼女はまだトワサンガ王室近衛兵の衣装をまとっている。もうそんなことはしなくていいのにと思ったが、ノレドはラライヤがそうしていてくれることを嬉しくも感じていた。

ラライヤ「何か変なものをふたつ感じませんか?」

ノレド「変なもの?」

ラライヤ「目玉がふたつ、どこからかこっちを覗いているような」

ノレド「ちょっと、怖い話はやめてよね」

ラライヤは神経を集中させてその違和感を探っているようだった。ラライヤがビーナス・グロゥブでヤーン・ジシャールの乗るジャイオーンと戦ったときの現象はノレドも耳にしていた。戦いの中、強い精神感応のような現象が起きて、モビルスーツが見えなくなって消え去り、人と人がじかに向き合い、交流したような感覚に襲われたという話だった。

ノレドにはそうしたものはまったくない。その現象は決まってベルリとラライヤにしか起こらないのだ。ハッパの話ではそれはニュータイプ現象といって、宇宙に適応してきた人類がときおり体験してきた謎めいた精神現象なのだという。

ラライヤにはその素質があるらしいのだ。だからハッパはG-アルケインにG-セルフと同じ機能を持たせようと頑張っている。

ノレド(そうか。ラライヤは特別なんだ・・・)

ラライヤ「いけない。ベルリさんが呑み込まれそうになっている!」

そういうとラライヤは部屋を飛び出していった。ノレドは後を追おうとしたが、自分にできることは何もないと諦めて、しばらく胡坐をかいたまま無重力に身を任せてうなだれていた。

だが、ハタと何かを思いついてノーマルスーツを着ると部屋を飛び出した。ノレドはハッパの部屋に、エンフォーサーが置いてあるのを思い出したのだ。ニュータイプ現象を増幅させる何かだと解析されたあのアンドロイドに変化が起こっているのではないかと考えたのである。

ところが部屋の前まで来たところでハッパの部屋の暗証番号がわからないことに気づいた。ノレドは部屋の前でどうしたものかとひとりで唸り声をあげていたが、部屋の中から動作音が聞こえてくるのを耳にして、扉に耳をあてがって中の様子を伺った。

聞こえてくるのはエンフォーサーの動作音であった。地下にあった空間、薔薇のキューブを破壊したときの暴走音ではない。その前の、人間のように彼女がビルの中で働いていたときの動作音だった。人間と見紛うばかりの精巧な作りである彼女だが、小さな動作音だけは消せないのだった。

ふいに扉が開いてノレドは驚き、後ろへ飛びずさった。立っていたのはエンフォーサーだった。

エンフォーサー「あなたは・・・ノレドですね」

ノレド「ひぃ(驚いた後におっかなびっくり近づく)」

エンフォーサー「ノレドさん、活動できる時間が限られている。あなたに伝えてもらいましょう。(指をある1点に向ける)あちらの方角に強い憎悪が存在します。巨大な破滅をもたらし、精神を変容させる憎悪です。それを取り除かない限り、強制執行が行われるでしょう」

それだけ告げるとエンフォーサーはガラガラとその場に崩れた。

ノレド「どうしちゃったの?(繋がっている線を見て)あ、そうか。バッテリーが切れたんだ。内部電源を外して・・・。ハッパさん、勝手に動き回れないようにしてたんだな。あっちって(エンフォーサーが指さしていた方向を見る)シラノ-5だよね」

ノレドはただのガラクタのように崩れ去ったエンフォーサーから線を引き抜くと、ヘルメットを閉めてモビルスーツデッキへと急いだ。







ハッパ「だから出撃命令は出てないんだろ? ごまかしたってダメだ。それにまだサイコミュの調整が終わってない」

パイロットスーツに着替えたラライヤは、自分を出撃させろと押しかけてきてハッパたちと押し問答になっていた。

ラライヤ「ベルリさんが何か異常なことに巻き込まれています。早く助けに行かないと!」

ハッパ「ダメなものはダメだったら。いいか、ラライヤ。少ない戦力で巨大船2隻を守り切れなかったら地球は破滅するんだぞ。ここはドニエル艦長に従うんだ!」

ラライヤ「でも、ベルリさんが!」

ふたりの通信にノレドの声が割って入った。

ノレド「ラライヤー」

ハッパ「(呆れて)君もか。とにかくお嬢さんたちふたりは大人しくしてくれ。アルケインもルシファーもシートユニットを換装中でどっちしろ出せないんだから!」

ノレド「ハッパさん! あのね、ハッパさんの部屋にあるエンフォーサーが動き出して、シラノ-5に巨大な憎悪があるっていうんだ。それを取り除かない限り強制執行が起こるって」

ハッパ「なんだって? あのアンドロイド、部屋から出たのか?」

ノレド「部屋から出たんだけどすぐにバッテリーが切れて動かなくなっちゃった。一応電源に繋がっていた線は抜いておいたけど」

ハッパ「MSを動かせなくなったフォトン・バッテリーにつないでいたからな。自立して動けば1分も持たない。どうしてこういろんなことが同時に起こるんだよ。(ヘルメット横のコンソールをいじりながら)艦長、ドニエル艦長!」

ドニエル「(ハッパのヘルメットのスピーカーから呼び出しに応じる声が入る)なんだ、ハッパか?(ブリッジの乗員に向けて怒鳴る声が聞こえる)シラノ-5からまた出てきただぁ? ルアン、絶対に連中を近づけるな! グリモアじゃ厳しいのはわかってる! でもやってみせるしかないだろう!(口調が変わり)で、なんだよ、ハッパ」

ハッパ「いまラライヤとノレドがこっちに来ていて、例のベルリが危ないだの例のエンフォーサーがシラノ-5に巨大な憎悪があってそれを何とかしないと強制執行が起こるとかなんとか言ってきてるんですよ。でもこっちはこっちで手一杯なんだ。ブリッジで引き取ってくださいよ」

ドニエル「(ハッパに向かって)ベルリの件は了解だ。憎悪云々はちょっと後回しにしてくれ。ふたりには自室で待機するようハッパから言ってくれないか。こっちはそれどころじゃないんだ」

ハッパ「(ノレドとラライヤに向き直り)やっぱりダメだ。ベルリの件は了解したといっている。とにかくふたりは大人しくしてくれ。ムーンレイスの援軍なんて来るのか来ないのかわからないんだから」

手すりを握り締めて唇を噛むラライヤはノレドが引き取り、ふたりはうなだれてモビルスーツデッキを離れた。ラライヤは胸が苦しいのか、両手を心臓の前に置いて息遣いが荒くなっていた。

ノレド「法王さまの部屋へ行ってみよう」

ラライヤ「(顔を上げて)こんなときにですか?」

ノレド「もしベルリのことが心配なら、祈るのも助けになるはず。それに、ムーンレイスと接触できたら法王さまには冬の宮殿に行ってもらわなくちゃいけなくなる」

ラライヤ「わかりました」







メガファウナはクレッセント・シップとフルムーン・シップという巨大船のしんがりを務めるようにあとについてゆっくりと航行していたが、大きさがあまりに違うゆえに位置取りに苦労していた。

しかもフルムーン・シップの操舵にステアを取られていたので、なかなか思うような場所に固定して動けない。

ドニエル「ラ・ハイデン閣下との約束が守れなきゃ、地球は再び原始時代に戻るんだぞ。全員気合入れていけーー!」

ギセラ「ハッパが何か?」

ドニエル「ベルリが危ないとかなんとか。またジャイオーンのときみたいなことが起こったかもしれんから何とかしてやりたいが、もうだいぶ離れてしまっている。グリモアだの出しても役に立たんし、もうちょっとマシなMSがあれば・・・」

副艦長「それこそ宇宙世紀の発想ですよ、艦長」

ドニエル「わかってる! わかってるが・・・。聞こえているか、リンゴ! お前がベルリの救援に行け。こっちにMS隊が迫っていて危ないから来てくれと。無理はすんなよ」

リンゴ「了解」

ジムカーオに騙されてフルムーン・シップ強奪の片棒を担ぐところだったリンゴ・ロン・ジャマノッタは、なかなか訪れない汚名返上の機会が巡ってきて喜び勇んだ。

彼のモランは月とシラノ-5の間を飛び、漆黒の中にベルリのG-セルフを見つけた。トワサンガのドレッド軍にいた彼にとって、ここは自分の庭のようなものだった。

リンゴ「ベルリ! ん、何だこの厭な感触は・・・」

ベルリの機体は発見したものの、リンゴは猛烈にこみあげてくる吐気に耐えねばならなかった。

リンゴ「あう、気持ち悪い! なんだこれ。(キョロキョロと周囲を見回す)どうなってるんだこの空間! 息苦しい!」

ドニエル「ベルリは見つかったか!」

リンゴ「見つかったは見つかったんですけど、ここの空間が何かおかしくて近づけません」

ドニエル「空間なんて何かあるわけじゃないんだ! 突っ込んでいってかっさらってこい。別の機体はないのか?」

リンゴ「G-シルヴァーがG-セルフと向き合ってます。あ、でもこのおかしな感じはシラノ-5から感じます。あれに飲み込まれようとしてるんだ。(自分に言い聞かす)怖がるな。自分を信じるんだ」

リンゴは意を決して色違いのG-セルフのところへと飛び込んでいった。するとそれに気づいたのかG-シルヴァーがG-セルフの近くから離れ、同時に空間全体に広がっていた厭な感触が綺麗に消え去ってしまった。

リンゴ「ベルリ、大丈夫か、ベルリ」

応答がなかったのでコクピットを出てG-セルフの中に入ると、ベルリは座席に固定されたまま気を失っていた。

リンゴ「艦長、ドニエル艦長! ベルリが気を失って吐いてます。すぐに手当てしないと吐瀉物が喉に詰まって危ないかも」

ドニエル「だったら連れて戻れ! あ、いやよくやったぞ、リンゴ。(ブリッジのクルーに向かって)弾幕が薄い! MSは絶対に近づけるな!」







ラライヤ「(ハッと気づき)気配が消えた?」

ノレド「どうしたの?」

ラライヤ「厭な感じが消えました。何があったんだろう?」

ノレドとラライヤは法王がいるメガファウナの一室の前に立ち、扉をノックした。

ゲル法王「お入りなさい」

ふたりが部屋に入ると、ゲル法王は法衣の洗濯を済ませてそれを畳んでいるところだった。ノレドは慌てて法王の傍に駆け寄った。

ノレド「法王さまがそんなことをしなくても、おっしゃってくださればあたしがやります」

思えば、冬の宮殿からG-ルシファーで連れ去って以来、法王は傍付きの人間ひとり置かずに過ごしてきたのだった。

ゲル法王「いえいえ、みなさん忙しいのに、私事などでお手数をかけるわけにはいきません。それにこうしていると神学校時代を思い出して身が引き締まるのです。あの頃は何でもひとりでやるのが当たり前だったのに、いつしかわたくしは助けられることに慣れておりました。ところでおふたりは何か用事があったのでは?」

ノレド「あたし、なんだか心配なんです。世界がとても恐ろしい方向に向かって進んでいる気がする。何かがおかしいのにそれが何か雲を掴むようでよくわからない」

ゲル法王「地球、トワサンガ、ビーナス・グロゥブ。これらすべてが不安定になり、価値観が揺らいできています。戦うことを恐れているのに、戦わなくては奪われるという恐怖に人々は直面して世界は悲しみの色に満たされています。わたしはスコード教の法王としてこの責任を強く感じているところです」

ラライヤ「法王さまが責任を感じることはないですよ」

ゲル法王「スコード教教会の責任とは、政治家の責任とは違うものです。宇宙から祈りが絶えることこそ、我々が負うべき責任といえるのです。ビーナス・グロゥブで説法する機会を得たとき、わたくしは天の国の人々にもまた祈りが必要なのだと強く感じました。地球にいるから祈るのではなく、広く宇宙を祈りで満たさないことには争いごとは収まりません。ノレドさんとラライヤさんは、冬の宮殿を作り上げたムーンレイスという方々とお話になって、わたくしに新たな機会を作って下さったと聞いております。冬の宮殿のあの破壊と憎しみの映像を見て、わたくしは思うところがあったのです。これほどの憎悪は一体どこから生まれたのかと。わたくしはそれを探らなくてはなりません。ビーナス・グロゥブのラ・グー総裁や、ラ・ハイデン総裁はわたくしに宗教改革を行えとご命じになりました。しかし、わたくしにそんな能力はありません。わたくしに出来ることは、祈りの根源を探ることです。人々は破壊を恐れて冬の宮殿を作り、戒めとしてあれを残したのか。それとも、あの映像の中にスコード教が目指すべき祈るべき何かがあったのか。それに立ち向かわねばならないと強く感じているのです」

そのとき、窓の外に強い閃光が瞬いた。それはビームライフルの閃光であった。進行方向と逆から放たれたこの光に続いて、数十機の見慣れないモビルスーツが姿を現した。

ラライヤ「あれはムーンレイスのスモーです。救援が来ました」

ゲル法王「もしおふたりがよろしければ、我々はしばしここで祈ることにしましょう。戦争の勝利より先に、戦争の悲しみに想いを致しましょう」







ハリー・オードの金色のスモーはメガファウナのブリッジに取りついた。

ハリー「事情を簡単にご説明ください」

ドニエルはその見慣れない機体がディアナ・ソレルのものとわかって状況説明をした。ハリーはフルムーン・シップについてはすでに見知っていたので、味方のMSの認識データを受け取ってディアナ親衛隊と情報を共有すると、すぐさま戦場に身を投じた。

スモーが加わったことで形成は一気に逆転した。トワサンガの軍はしょせんキャピタル・テリトリィのガードとアーミーの混成軍に過ぎず、トワサンガへの忠誠も低い。彼らは調査部のクンパ大佐に従って宇宙へやって来ただけだったのだ。

ハリー「なんという心魂の弱い連中だ」

逃げ出していくトワサンガ隊を見て、ハリー・オードはこれが本当にあの強かったレイハントン家の軍なのかと拍子抜けしたくらいだった。これならばメガファウナと連合などせずとも、単独蹴散らせるのではないかと考えた。かつて彼が戦って敗れた薔薇のキューブの者たち、宇宙の最果てから地球に戻ってきた者たちは、もっと悪意に満ち、いたわりを捨て去った狂気の戦闘集団だったのである。

ハリー・オードはホワイトドールによく似た機体と共にメガファウナのモビルスーツデッキへと招かれた。ホワイトドールのコクピットから担ぎ出されたのはまだ少年といっていい赤いパイロットスーツの若者で、ヘルメットの中で吐いていたために緊急搬送されていった。

ハリー(あんな子供が・・・。いや、ロラン・セアックもまた子供であったな。自分はなんと遠い時代に来てしまったのだろうか)

ブリッジに招かれたハリー・オードは、ディアナからの伝言を簡潔に伝え、クレッセント・シップとフルムーン・シップの補充クルーの用意もあることを伝えた。すると彼が相手にした地球人たちは何の疑いもなくそれを喜びのうちに受け入れた。

ハリー「2週間の教育機関を設けていただければ、フルムーン・シップの方は我々だけで運用することも可能です」

副艦長「ありがたい話なので任せてもいいだろうか?」

ハリー「無論」

話はいともあっさりとまとまった。彼らには警戒心がなく、これがとてもあの地球人の子孫とは思えないほどの間抜けぶりであった。

ハリー・オードは赤いミラーグラスで隠した瞳に疑念の色を浮かべていた。

ハリー(まさかこいつら、我々とあれほど激しく戦ったことすら忘れてしまっているのか? こちらに殺されて戦死した者も多いというのに、魂の鎮魂はいかように行っているのか。これが軍などととても信じられない。まるで素人ではないか)

ドニエル「こちらの要求をすべて飲んでいただき感謝する。ではそちらの要求を聞きましょうか」

ハリー「まずは地球からやってくる艦隊を共同で撃破すること。そして共同でトワサンガというものを制圧してこちらのいただけること。以上2点でございます」

ドニエル「トワサンガを! いや、いくらなんでもそれは・・・」

ハリー「そちらにとって重要な領土なのでしょうな」

ドニエル「領土というわけじゃないが・・・。そうやって奪い合うものじゃないのだが」

ハリー「あれはもともと我々ムーンレイスの空域なのです。それをレイハントンに奪われましたが、姫さまは過去のことは水に流すとおっしゃっております。ベルリ・ゼナムというものが支配者だと聞いておりますが」

副艦長「ベルリは支配者などではありません。トワサンガというのはそういうものではなくて・・・」

縮退炉や核融合炉を自在に操り膨大な自主エネルギーを得るムーンレイスと、エネルギーをフォトン・バッテリーに依存する時代の違うふたつの勢力は、トワサンガの扱いこそ合意できなかったものの、月に置いて強い同盟関係を構築していくことでは一致を見た。

そのころベルリは、メガファウナの医務室で吐瀉物の吸引を受けていた。

その横にはノレドが付き添っていたのである。



(ED)



この続きはvol:52で。次回もよろしく。



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