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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第25話「ニュータイプの導き」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第25話「ニュータイプの導き」後半



(アイキャッチ)


ムーンレイスのリックとコロンは、カシーバ・ミコシの独房に収容され捕虜交換に使われようとしていた。手持無沙汰のふたりはコールドスリープに入る500年前の四方山話に花を咲かせていたが、突然轟音が鳴り響いて船体が大きく揺れたので口を閉じて天井を見つめた。

リックが窓に駆け寄って外を見たが、目視できる距離には何もなかった。ふたりはしばらくじっと身を潜めていたが、轟音はさらに続いて爆発音が室内にこだました。

リック「攻撃を受けているな」

コロン「助けが来たにちげーねーや」

逃げる場所のない宇宙空間故にふたりは縛られるところまではされておらず、ロックの掛かった部屋に閉じ込められているだけだ。部屋には破壊活動に使えるようなものは何もない。

船の爆発がさらに続いた。彼らはこの船がヘルメス財団所有のフォトン・バッテリー運搬船だということは作戦前に聞かされていた。攻撃は貨物室のハッチに集中していた。分厚いハッチが金属の軋む音と共に剥がれていき、内部が丸見えになってしまった。

そこかしこから地鳴りのような音が鳴り響き、救援が来たと楽観していたリックとコロンの顔に焦りが滲んできた。リックは何度もドアを開けようとしたもののビクともせず、諦めかけたそのときだった。突然船は停電に見舞われた。リックは勢い込んで扉を引っ張ると、電子ロックが解除されたらしく、簡単に開けることができた。

リック「早く、緊急用のノーマルスーツに着替えるんだ」

ふたりは部屋に備えてあったノーマルスーツに袖を通し、自分たちに時代とは規格の違うヘルメットをあーでもないこーでもないと喚きながらなんとか装着して爆発のあった貨物室へと移動していった。

コロン「人がたくさん死んでるぜ。どうしたこった?」

リック「なんでこいつらノーマルスーツを着てねーんだろ?」

彼らが目にした死体は、法王庁の職員のものだった。地球生まれでザンクト・ポルトにすら滅多に上がったことのない彼らは、今回の騒動で宇宙での行動について何の訓練も受けないままトワサンガまで駆り出されていたのだ。いままで彼らは誰かに守ってもらっていたが、今回は護衛がいなかった。

そこにメガファウナの砲撃によって突然格納庫に大穴が開けられた。空気が流出してしまったことが原因で、室内にいた法王庁の職員はすべて窒息死したのだ。彼らはエアロックの概念すらあやふやな知識しかなく、またカシーバ・ミコシは砲撃されることを前提に設計されていなかったのである。

格納庫に開けられた穴は大きく、船内の空気はあっという間に宇宙空間へと流出してしまった。電気系統がショートしたときにはそれを修理する人間はすでに死んでいたのだ。

唯一生き残っていたのは、運搬船運航に実績のあるブリッジクルーだけであった。ところが彼らのいるブリッジは、いままさにルインに救援を求める通信を発しようとした矢先に何者かによって妨害され、通信が遮断されたのちに爆発が起きて全員死亡してしまった。

リック「なんだか知らんが死んでくれたなら結構さ。スモーを奪い返して逃げ出そうぜ」

リックとコロンのスモーは格納庫の中央部に固定されて無事だった。ふたりはコクピットの中で息絶えていた法王庁の職員を放り出してカシーバ・ミコシを脱出した。

ところが位置を確認したところ、月へも地球へも遠すぎるとわかった。近くにいるのは、3機のモビルスーツと1機のモビルアーマーだけであった。それらは互いに高速移動を繰り返し、エネルギーが尽きるまで戦い続けるかのように憎しみ合っていた。その中心にいるのが、カブトガニのような形をした気味の悪いMAだった。

リック「一方はメガファウナのG-セルフとG-アルケインだ。あれが仲間だが・・・、あいつらこんなところで戦い続けたらバッテリー切れで全員死んじまうだろうに。状況が見えていないのか?」

コロン「あー、なんかオレ吐きそう。あのMAはおかしいぜ」

リック「あのMAのコクピットをこじ開けてパイロットを引きずり出してやるか。来い、コロン!」







ベルリ「ダメだ。ルイン先輩に近づくこともできない」

同じ機体で戦うことで、ベルリはルインの実力を改めて思い知っていた。同学年だが年上のルインは学年主席のエリートで、なんでもベルリより上手くやれる人で尊敬の対象だった。

ラライヤ「(ゼイゼイと肩で息をしながら)わたしも全然歯が立たない」

ふたりが突破口を見つけられず焦ってきたとき、突然どこからともなく2機のスモーが現れてザム・クラブに取りついた。スモーに機体を取り押さえられたザム・クラブはそれを振り払おうと突然動き出した。卵型のファンネルが放出されたが、スモーが装甲の部分に手を掛けているので撃つことができないようだった。

ザム・クラブが動いた瞬間だった。ベルリの視界にコクピットに座るルインの姿が鮮明に映った。ルインもベルリの視線に気づいて戸惑いの表情を魅せた。G-セルフとG-シルヴァーは互いにコクピットを確認できるほど近くにはいない。距離は10㎞は離れている。しかし、ふたりは手を伸ばせば届くような距離にいるかのような錯覚に陥っていた。

ベルリ「(必死に呼びかける)ルイン先輩! もうやめてください!」

ルイン「(キョロキョロしながら)ベルリなのか? なんだこれは。お前は何をやったんだ?」

ベルリ「ジムカーオ大佐はニュータイプとエンフォーサーというのを使って何か実験をやっているんです。バララさんは早く医者に見せないと壊れちゃうんですよ!」

ラライヤ「本当のことです。詳しくはメガファウナで説明します。バララさんと一緒に来てください」

バララ・ペオールの名前を出されてルインは動揺した。しかし頭を強く振ると決然とふたりの申し出を拒否した。

ルイン「ダメだ。オレはジムカーオ大佐からお前を殺せと指示を受けている。お前がトワサンガの王でありながらその役割を拒否して法王庁に逆らっているのだから、お前を排除しなければ宇宙に秩序は戻らない。お前は死ぬしかないんだ、ベルリ!」

そう叫んだルインはビームサーベルを引き抜くとザム・クラブに取りついたスモーに斬りかかった。

コクピットを開けることができなかった2機はやむなく後ろへさがった。すると間近に見えていたベルリの姿は消え、戦場が広く見渡せるいつもの自分に戻った。そしてザム・クラブのバララの思考がなだれ込んできてルインはカッと身体が熱くなるのを感じた。

ルイン「オレはいまバララとかつてないほど一体感を感じている。負ける気がしないんだよ、ベルリ!」

ルインのG-シルヴァーは怨念のドス黒いオーラに包まれたままベルリのG-セルフに迫って来た。その力は圧倒的でベルリは剣先を打ち交わすのに精いっぱいだった。バララ・ペオールのザム・クラブも機動性を生かした動きでラライヤとリックとコロンを攻め立てた。

互いにビームを撃ち合うなか、ザム・クラブのファンネルが、どちらへ動くか躊躇したコロンのスモーを四方から貫いた。コロンの機体は大爆発を起こして炎が巻き起こり破壊された部品が飛び散った。

リック「コロン!」

四散したコロンのモビルスーツの部品がリックのモビルスーツの装甲に当たってカチカチと音を立てた。激怒したリックはハンドビームガンを乱射しながらザム・クラブに向かっていった。リックの友を失った怒りはザム・クラブが発散する負のオーラとまったく同じものだった。

ラライヤ「いけない!」

ラライヤはG-アルケインを素早く変形させるとリックとバララの間に割って入ろうとした。リックのスモーの指先がビームを放とうとしたとき、宙域にいるパイロットたちの間で再び強い感応現象が起こった。その刹那だった。ルインの視界からG-セルフが消えた。

ベルリのG-セルフが青いオーラに包まれそのまま目の前から消え、次の瞬間にはリックのスモーに体当たりをしたのだ。もしリックが引き金を引いていたら、間に入ったラライヤの機体を直撃して破壊していたところであった。リックはコクピットの中で激しく揺さぶられながらも、ラライヤを殺さずにすんだことに感謝した。彼もまた精神感応を起こし、自分がラライヤを殺しかけたことを理解したのだ。

ラライヤ「バララさんの中の人がみんなを悪い方向に引っ張っています。彼女をエンフォーサーユニットから引き剥がさないとみんなが不幸になります!」

リック「(汗を拭いながら)承知した。オレが何とかしてみる。あんたはファンネルを壊してくれ!」

リックのスモーがバララのザム・クラブを追い掛け回し、その装甲に手を掛けた。ラライヤは正確な射撃でファンネルを撃ち落としていく。ルインはバララを助けようとするが行く手をベルリに阻まれた。

ルイン「(ギリギリと歯ぎしりしながら)貴様は・・・!」

ベルリ「(必死の表情で)この状況が作られたものだと理解してないのは先輩だけだッ!」

ルイン「貴様に先輩呼ばわりされるたびにこちらは屈辱を感じるのだとなぜわからんのかッ!」

まったく同じ設計図から生み出されたG-セルフとG-シルヴァーは、いまは正反対のオーラを機体にまとわりつかせて剣を振るい合った。ところが互いの記憶の中にあるキャピタル・ガード養成学校時代の思い出は同じものだったのである。ふたりは同じ時間を生き、一緒に笑い合った仲だった。

これが人間性なのかとベルリは恐怖した。ともに生活し、ウォークラインを行った自分たち。ある時期からふたりの記憶の多くの部分は重なっている。これほど近い仲だったふたりの間にすら断絶しかない。人と人はこれほどまでに遠くにいる。言葉も思い出も、ふたりの間を繋いではくれない。

この断絶を乗り越えない限り、ジムカーオ大佐には勝てない。

G-セルフにメガファウナから連絡が入った。モニターにドニエルの顔が映し出された。

ドニエル「ベルリ、すぐにこちらへ戻ってくれ。薔薇のキューブが地球に向かって突進している。対応を協議中なんだ。最悪、お前とノレドを結婚させてジムカーオと和議するかもしれん」

ベルリ「ノレドは道具じゃない!」

ラライヤ「ベルリ!」

ベルリ「クソこの分からず屋がーーーッ!」

G-セルフの機体を覆っていた蒼いオーラが一段と光り輝き、G-シルヴァーを弾き飛ばした。暴れ回るザム・クラブに取りついていたスモーは装甲の隙間にビームを撃ち込むことに成功した。ザム・クラブから炎が上がる。その隙をついて、G-アルケインのビームワイヤーが装甲に巻き付き、切断した。

ザム・クラブは切断面が爆発を起こした。炎が他の部分の爆発を誘発する前に、脱出ポットが放出された。リックのスモーがそれを受け止めた。

ラライヤ「掴まってください!」

飛行形態へ変形したG-アルケインに、スモーとG-セルフが手を掛けた。

ルイン「貴様ら、バララをどうするつもりだ!」

ベルリ「彼女はジムカーオ大佐におもちゃにされたんです。メガファウナで治療します」

そう告げるとG-アルケインに捕まったG-セルフとスモーはその場を飛び去った。後を追おうとしたルインだったが、追いつけないと悟っていったんカシーバ・ミコシの中へと引き下がった。

コクピットを降りた彼は、法衣を身に纏った多くの乗員が死んでいるのを目のあたりにした。ザンクト・ポルトから上がってきたスコード教会の幹部や法王庁の役人など、誰ひとり生き残っていなかった。彼らはノーマルスーツさえ着ることなく、窒息死したのだ。

ルインは宙に漂うばかりの遺体を掻き分けるようにブリッジへ上がろうとした。ところがその階段は途中で千切れ途切れていた。エレベーターがあった場所も完全に吹き飛んでなくなっていた。ブリッジに上がったはずの彼は、星の瞬きを目にした。もうそこには誰の姿もない。

カシーバ・ミコシは完全に航行不能に陥っていた。







脱出ポッドのまま回収されたバララ・ペオールは、リックに付き添われメガファウナの軍医メディー・ススンのところへ運ばれ、鎮痛剤と睡眠薬を投与されて眠りについた。彼女の脳はオーバードライブの状態にあった。

メガファウナに戻ったベルリはラライヤと共にすぐさまブリッジへと上がった。

ベルリ「(大声で)ぼくとノレドを結婚させるってどういうことですか!」

怒鳴り声を聞いたノレドが身をすくませた。ベルリは彼女の姿に気づくと、気まずそうに視線を逸らした。彼は床を蹴ってドニエル艦長の横に立った。モニターにはディアナ・ソレルの顔が映し出されていた。ブリッジクルーは誰も沈鬱な表情で俯いていた。

ディアナ「まんまとしてやられました。戦力が同等だと思い込まされていたのもジムカーオの罠でした。戦力が同等ならば月面基地のあるわたしたちの方が有利だと油断させるのが敵の狙いだったのです。薔薇のキューブが動き出してしまうと、わたしたちはそれを止める手段をまったくもっていませんでした。彼らは圧倒的で、こちらを壊滅させようとすれば出来ると思います」

ドニエル「だがまだ負けたと決まったわけじゃねえ。いまディアナさんとも話していたんだが、向こうはベルリとノレドがトワサンガの王と王妃になればとりあえずは地球を攻める理由がなくなるはずなんだ。そこで危険な作戦だが、ふたりに・・・」

ベルリ「ぼくは反対です」

ベルリがあまりにハッキリとそういったのを聞いて、ノレドは眩暈がしたのかふらついたところをラライヤに支えられた。ラライヤはキッとベルリを睨んだが、ベルリはそれを無視した。

ベルリ「反対ですよ。危険すぎるでしょう? ぼくはともかく、ノレドは関係ないお嬢さんです。宇宙の平和だか何だか知らないけど、そんなものに責任を負う立場じゃないはずです」

副艦長「もし嫌なら、ディアナさんがその役を負ってもいいとおっしゃっているんだ。ただディアナさんを相手に差し出すとなると、ムーンレイスの人々がだな(咳払いをする)」

ベルリ「結局ジムカーオ大佐の目的は何なんですか? ぼくと話したときも、とにかくトワサンガに入れ、自分が王の何たるかを教育するからこっちへ来いの一点張りでしたよ。宇宙の王になりたいのならあいつを王にしたらいい。それなのに人だけ殺して、あとは何にもしないなんて」

副艦長「相手が望むものが何なのかを探って欲しいということもあるのだ。いままでの戦いで、連中は自分たちに悪評がつくのを極端に恐れている。おそらくはビーナス・グロゥブでフォトン・バッテリーを生産していることと関係があるのだろう。彼らは進んだ科学力と生産力を持っているが、ムーンレイスのように発電技術は持っていない。ユニバーサル・スタンダードとフォトン・バッテリーを受け入れているんだ。薔薇のキューブだけが古いものだと我々は推測している」

ベルリ「かといってノレドを巻き込むのは・・・」

ラライヤ「わたしもついていきます!」

ギセラ「あなたこそ関係ないお嬢さんでしょうに」

ラライヤ「いえ、ノレドの親衛隊長になれと要求してきたのはジムカーオ大佐なんです。いま思えば、ニュータイプの資質を調べたかったのでしょう。とにかく、彼が言い出したことなのだから、わたしがついていっても反対はできないはずです」

ドニエル「オレだってベルリやノレドにこんなことはさせたくないんだ。戦争は軍人の仕事だからな。ところが相手が普通の戦争をやらないから、どうすりゃ勝ちになるのかまるでわからねぇ。少なくとも時間稼ぎをしたい」

話を聞いていたディアナがモニター越しに話に加わった。

ディアナ「宇宙世紀時代に、スペースノイドは地球に対してコロニー落としということをやったんです。薔薇のキューブをもし地球に落とされたら、それこそ宇宙世紀の二の舞になる」

話が行き詰まるのを感じたノレドが不意に大きな声で会話に入ってきた。

ノレド「あたしはいいよ。心配なんかしてくれなくても全然大丈夫だって。ベルリもラライヤもついているならなおさら。それにあたしがもしニュータイプだったら、エンフォーサーがなくてもG-ルシファーはあの光の粒子を放出できるかもしれないってハッパさんが言ってた。(ひきつった顔で笑いながら)とにかくさ、ラ・ハイデン総裁にクレッセント・シップとフルムーン・シップを無事に返さなきゃいけないんだ。そうでしょ? そしてヘルメスの薔薇の設計図を回収して、全部元通りにして、フォトン・バッテリーを配給してもらわなきゃいけない。そんな簡単にあたしたちを殺せないって」

ドニエル「(小さな声で)だからよ、ベルリ。時間を稼いでくれるだけでいいんだ。仮に薔薇のキューブをキャピタル・タワーにぶつけられでもしろよ、大変なことになるってわかるだろう? とにかくあのデカブツを止めてもらわなきゃ困るんだ」

他に方法がないということはベルリにもわかっていた。彼はしぶしぶ小さく頷いた。

ディアナ「あなたを潜入させるもうひとつの意味についてもお話しますが、ジムカーオという人物はあなたのG-メタルというものを欲しがっていたのでしょう? わたくしたちはそれが何かを起動させるために必要だと考えていた。しかしもしかしたら、G-メタルが何かを止める機能を持っているのかもしれない。だから、目的遂行の邪魔になると入手しようとした可能性もあるのです。もしレイハントンが薔薇のキューブに何かを仕掛けたのならば、あなたが内部に潜入するしかそれを見つけることはできないのです。あなたにしかできないし、やっていただかなくてはなりません」

ベルリ「わかりました」

メガファウナのブリッジクルーたちは、あまりに重い責任を背負わされた3人の若者を無言のまま見送った。

レバーに掴まって自室に戻るとき、ベルリは不意に振り向いてノレドの顔を見た。

ベルリ「こんなことに巻き込んで本当にごめん。それから、もしみんな無事で戻れたら、ノレドに話したいことがあるんだ」

ノレド「うん。わかった」

ふたりは視線も合わさず、自分の部屋に入っていった。疲れ知らずのラライヤはモビルスーツデッキへと降りて行った。







爆破されて吹き飛んだカシーバ・ミコシのブリッジを調べていたルイン・リーは、そこがミサイルやメガ粒子砲で吹き飛ばされたわけではないと結論付けた。

ルイン「カシーバ・ミコシに自爆装置など付けるわけがないから、これは誰かが爆弾を仕掛けて、メガファウナの攻撃に合わせて爆発させたとしか思えない。法王庁の人間が仲間をこんな形で殺すわけがないし、ザンクト・ポルトから遠隔操作で起爆させる技術などないはずだ。やったとすれば・・・」

それはジムカーオしかいなかった。

ルインはクリムの話を思い出していた。ルインは彼と機体交換した際に、彼がジムカーオに裏切られて失脚したこと、そのためにパートナーであったミック・ジャックを失ったと言っていた。お前も必ずそうなるからと警告を受けていたのに、ルインは直接話しているうちにベルリを殺すことに同意してしまった。ジムカーオは言葉巧みに自分を操ったのだろうかと彼は疑った。

一方で彼がクンタラの支援を続けてくれたのは本当のことであった。ルインはマニィとともに地球を歩いて回り、クンタラの約束の地カーバがどこにあるか探していた。しかし、地球は生産力に合わせて人口が拡大していくので、どこにもクンタラだけを受け入れるような広い土地は余っていなかった。

絶望しかかったとき目の前に現れたのがジムカーオであった。彼は自分自身ももとはといえばクンタラの出身で、いまでこそスコード教に改宗してはいるが、クンタラ差別を受けたことは生涯忘れはしないと彼に話した。そして彼はルインとカリル・カシスに大きな役目を与えた。

クンタラ国を作るためには人口を急激に減らす必要がある。そう説明されたとき、ルインはそんなことできるはずがないと思った。その考えを見透かすように、ジムカーオは具体的な作戦を授け、事実その通りに事態は推移したのである。

宇宙にポツンと取り残された彼は、人口を急激に減らす作戦の中に、自分や地球のクンタラたちも含まれていたのではないかとの疑問を持った。もしそうだとするなら、ゴンドワンに残してきた仲間たちの身に危害が及んでいるかもしれない。

ルインにとってもっと最悪なのは、クリムトン・テリトリィの邸宅に残してきたマニィとコニーに危害が加えられることであった。考えたくもないことであるが、マニィを守ってくれているはずの法王庁がこういう形で殺されて、本当にマニィが守られているのかはなはだ疑問であった。

なぜ自分はジムカーオの言葉に騙されたのか。自分だけではなく、クリムさえも彼に騙されている。ジムカーオの作戦はことごとく的中しており、それは怖ろしくなるほどであった。

ルイン「ベルリがニュータイプやらエンフォーサーやらと話していたが、それは一体どういうものなのだろうか?」

G-シルヴァーに戻った彼は、レーダーにメガファウナを含む大艦隊と謎の巨大物体とそれを囲むUnknown の艦隊が徐々に近づいてきているのを確認した。彼は宇宙でこのような大規模戦闘が繰り広げられているとは聞いていない。知っているのは、アメリアがムーンレイスという人種と同盟を組んだということだけであった。

ルイン「ということは、巨大物体の方にジムカーオ大佐はおられるわけだな」







白旗を掲げたG-セルフ、G-アルケイン、G-ルシファーの3機が薔薇のキューブの誘導に従って内部に潜入した。パイロットはそれぞれベルリ、ラライヤ、ノレドである。

光誘導によって着艦させられたのは正規のハッチで、モビルスーツデッキのような作りであった。機体を降りた3人は、にこやかな笑みを浮かべる女性の案内で通路を歩いていった。薔薇のキューブの中には重力が発生していた。

すれ違う人々は彼らに無関心で、その中には銀色の女性型アンドロイドであるエンフォーサーも含まれていた。エンフォーサーは彼らにとっては普通に労働力として機能していた。

案内されたのはオフィスの中にある簡易的な応接室のような場所であった。オフィスでは様々な人種が忙しそうに働いていた。男女の比率も半々で、悪の組織のアジトといった雰囲気ではなかった。3人には紅茶が振舞われた。部屋に現れたジムカーオはコーヒーを要求した。

姿を現したジムカーオは、開口一番こういった。

ジムカーオ「降伏するとは思いませんでしたよ。発案はディアナ閣下かな?」

彼は3人が座らされたソファの前に腰かけ、緊張した面持ちの若者たちに微笑みかけた。

ジムカーオ「拍子抜けしたでしょう? きっと悪の帝王のような人間に頭を下げる屈辱をお考えだったのでは? 残念ながら自分はそういうタイプではありませんで、例えばベルリくんのG-セルフと戦うためにいかにも悪そうな面構えのモビルアーマーを用意して自分で操縦して戦うなどということはしないのです。そもそも戦いに勝って戦争が終結しても、それは戦争の終わりにはならないでしょう? 正義が悪に勝つことは、カタルシスは生まれますが、それはしょせんドラマの話で、現実は戦って終われば次の戦いがあるものなのです。勝利と平和は違います」

ベルリ「ぼくらはこの薔薇のキューブを止めていただくためにやって来たのであって、そんな話をするために来たんじゃありません」

ノレド「あたしたち、結婚します! トワサンガの王様と王妃になります! ヘルメスの薔薇の設計図はアメリアのアイーダさんがきっと何とかします。だから、もうこれ以上人を殺さないでください!」

話を聞いたジムカーオは困った顔を他の職員に向けた。

ジムカーオ「もう遅いんですよ。そのシナリオは自分が当初に考えてあなた方に提示したものですね。あなた方が薔薇のキューブと呼んだこのラビアンローズが姿を現す前まではかろうじて有効だったシナリオです。ですからベルリくんにはそう警告しました。それをあなたは無視した」

ラライヤ「ジムカーオ大佐、あなたの目的は何ですか!」

ジムカーオ「自分は様々な立場の利害調整を行っているだけの、ただの官僚です。その立場の中にはビーナス・グロゥブのものもあれば、トワサンガのものもあれば、レイハントンのものもある。そしてあなた方が知らない1000年前の条約を遂行する立場もある。もうニュータイプとエンフォーサーの役割についてはおおよそ想像がついたはずです。その通り、あなた方はいますぐニュータイプに進化してエンフォーサーユニットを止めなければならない。それがない限り、あなた方がシルヴァーシップと呼ぶ大執行のための艦隊がキャピタル・タワーを破壊して文明をもう1度原始時代に戻します」

ベルリ「そんなことは絶対にさせません!」

ジムカーオ「(肩をすくめて)させるもさせないも、そもそもそう決めたのはあなたのご先祖、初代レイハントン王ですから。ベルリくんだけでなく、ノレドさんもラライヤさんも、元はといえば外宇宙から戻ってきた人間の子孫です。外宇宙からの帰還は数度に渡り、様々な地域から帰ってきました。数百年間離れて暮らしていた我々は、互いに干渉はせず、500年間は地球文明の再興を待つことにして様子を見ていました。ところがムーンレイスの集団が地球と接触したところ、地球人は愚かにもまた文明をやり直せると過信していた。本当はそこで地球人はすべて滅亡させるはずだった。ところがレイハントンが地球人を善導するからもう500年間くれという。そこでもう500年間待った。その間に作られたのが、キャピタル・タワーによるフォトン・バッテリー供給システム、技術のユニバーサル・スタンダード化、言語・文字の統一、スコード教の制定です。その間に地球人は真に平和的人間に生まれ変わったことを証明しなければならなかった。クンパ大佐が行ったヘルメスの薔薇の設計図の公開は、人類を試す手段のひとつだったのです。あなた方はそれを拒否しなければいけなかった。でもそうはなりませんでしたね。自分がやったのは、状況の創出です。これも地球人は拒否しなければならなかった。大陸間戦争は再開してはいけなかったし、クンタラ国などという夢も見るべきではなかった。これにも失敗した。最悪すべての状況に終止符を打つための努力をしなければいけなかった。しかしあなた方は戦力による対抗を選んだ。勝てば終わると思った。そうではないですか? だからラビアンローズが自立して動き出した。レイハントンのすべての試みが失敗したとき、キャピタル・タワーは破壊され、人類は地下資源のないあのみすぼらしい星で死に絶える。そのあとは、生き残ったスペースノイドが地球にレコンギスタするのです。囹圄という言葉を知っていますか? 牢屋のことです。地球は外宇宙から帰還した者たちのための囹圄だったのです。戦いによる決着を模索すれば、ロクな文明のなかった地球人は外宇宙からの帰還者に勝てるはずがなかった。しかし帰還者たちは戦争による解決を望まず、ひたすら地球人を支援しながら1000年待ったのです。そして時は尽きました。あなた方は、このラビアンローズを止めて、キャピタル・タワーの破壊を阻止しなければならない。人類は宇宙世紀を繰り返さない新しい人類になったことを証明しなければならない。どんな手段を使っても結構ですよ。ぜひやってみてください。なんならこのジムカーオをここで殺してくださっても結構。それが解決になるとあなた方が考えているのならば」


(ED)


この続きはvol:72で。次回もよろしく。



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