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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第18話「信仰の根源」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第18話「信仰の根源」後半



(OP)


月の裏側へ移動するためにムーンレイスが過去に作り上げたハイパーループを使い、ベルリとラライヤのふたりはG-セルフ、G-アルケインの2機を先に冬の宮殿へと移動させた。

同じ便で移動したのはノレドとウィルミット長官、ケルベスの3人と、前線基地建設のための作業員たちであった。ノレドとウィルミットはそのまま冬の宮殿へと向かい、ゲル法王とリリンに合流した。アイーダはラトルパイソンで移動してくる手はずになった。

ベルリとラライヤ、ケルベスの3人のパイロットは到着するなり機体に乗り込み、モビルスーツデッキへと移動していった。

ラライヤ「クレッセント・シップとフルムーン・シップの防衛は大丈夫なんですか?」

ベルリ「護衛も残るみたいだけど、月の表面の監視モニターを上手く使って逃げ回るそうだよ。月があっちゃ物理的に近づくのは難しいんじゃないかな」

月の裏側のモビルスーツデッキは、ラライヤたちトワサンガの訓練兵が発見した宇宙世紀時代のものだった。月面は中立地帯といいながら極秘のうちに多くの施設が建設されては放棄された場所であった。

ラライヤ「(機体をチェックしながら)G-シルヴァーにエンフォーサーが乗っていたって本当なんですよね。リンゴ少尉も見たとか」

ベルリ「うん。エンフォーサーがG-ルシファーを操作したとは聞いていたから驚きはしなかったけど、起こった現象はハッパさんの説明ではさっぱりわからなかったな。ニュータイプがどうのとか、サイコミュがどうとか。でもあの現象が起こると、たしかに境界が消えていく感覚はある。それで相手のことが見える場合と、昏い闇の中へ引き込まれていくときがあるんだ。ラライヤはあれに引き込まれそうにはならないんだ」

ラライヤ「黒いのは見えますけど・・・、引き込まれはしないですね」

ベルリ「ぼくだけか・・・。それにエンフォーサーは明らかにこちらをスキャンしていた」

ラライヤ「ノレドは暴走するエンフォーサーを殴って止めたらしい」

ベルリ「(呆れて)爆発したらどうするつもりだったんだ。じゃ、ぼくはちょっと偵察に出てくる」

ラライヤ「わたしはみんなのところに行きます」

G-アルケインを降りたラライヤはすぐに冬の宮殿へと向かった。宇宙世紀の黒歴史として封印されていた映像をベルリも見ておきたかったのだが、彼は何か嫌な予感も感じ、ノレドたちと行動を共にする勇気を持てないでいた。

G-セルフにドンッという衝撃があり、接触回線が繋がった。

ケルベス「ビーナス・グロゥブでは上手くいかなかったらしいな」

ケルベスはトワサンガから脱出するときに使った胸に傷のある白い機体に乗っていた。その機体のコクピットは頭のところにあるのでモニターを合わせるとケルベスが身を乗り出して微笑んでいた。

ベルリ「教官殿はその機体なんですか? リンゴ少尉からザンスガットを取り返せばよかったのに」

ケルベス「それがな、ハリーというサングラスを外さないディアナ・ソレルの近衛隊長がいるだろう? 彼がこの機体を嫌っていて、できることなら地球に持ち帰ってこれを埋めるなりなんなり処分して欲しいというんだな。そもそもは地球で掘り出したものを、調査部のジムカーオ大佐が宇宙まで運ばせたらしいんだ。この機体をどう思う?」

ベルリ「宇宙世紀時代のものなんでしょう? 胸のところに傷もついてるし、それにトワサンガじゃ頭が取れてしまいに暴走してましたよ。使い物にならないと思いますよ」

ケルベス「一応整備されて、使えるようにはしてあるらしいんだ。名前はターンXだそうだ」

ベルリ「操作系がユニバーサル・スタンダードじゃないし、文字も読めないような代物、やめた方がいいですよ。頭のところに乗るなんて基本設計が狂ってますよ。死んじゃいますよ」

ふたりは開かれたハッチから宇宙空間へ飛び出した。ターンXは発掘品とは思えないほど力強く加速し、運動性能においてはG-セルフを凌駕しているようにも見えた。その事実に感嘆しながらも、ベルリは不安を覚えていた。

ベルリ(宇宙世紀時代のいわくつきのMSを本当にこの戦場に出していいのだろうか? 何か悪いことが起こらなきゃいいけど)

月の裏側からシラノ-5はさほど遠いわけではない。MSだけで移動できる距離であった。この狭い空間で近々大きな戦争が起こるかもしれない、そう考えるとまた自分はリリンの父親を殺したとわかったときのような絶望を味わうのかと気持ちが暗くなった。

G-セルフの機体の調子は良好だった。

ケルベス「そっちも調子がいいようだな」

ベルリ「本当にターンXで戦場に出るつもりじゃないでしょうね?」

ケルベス「(得意げに)教官さまを舐めてもらっちゃ困るね。たしかにこの機体は宇宙世紀のものだが、パイロット認証さえやっておけば、ほとんどがオートで、動かせば動かすほど思い通りに操れるようになっているのさ。まあ、ハリーに教えてもらったのだが」

ベルリ「文字は読めるんですか?」

ケルベス「いや。文字は読めないが、直感的に操作できるようになっているから、ユニバーサル・スタンダードのはしりみたいなものじゃないかな。宇宙世紀時代に概念としてはあったのだろう」

そういうとケルベスはターンXを自在に動かしてみせた。大きな機体であるのに軽やかに動き、右手を突き出すとワイヤーが伸びて先端の爪が勢いよくピンと張った。

ケルベス「ザンクト・ポルトで調べたのだが、ジムカーオというのはクンパ大佐の前の前の調査部の責任者らしい。ガードの調査部というのは、スパイのようなものだから、クンパ大佐のようにでしゃばらなければ運航長官も詳しくはお知りにならないし、ウィルミット長官が就任する前のことでもある。おれはその男を捕まえたいと考えているんだ。協力してくれないか」

ベルリ「教官殿のご命令とあらば喜んで!」

ケルベス「ご命令を聞くというなら、ついでに母上殿とノレド嬢にもっと優しくしろと命令もしたくなる。喧嘩ばかりしてるんだって? ドニエル艦長に聞いたぞ」

ベルリ「そんなんじゃないです。そうじゃないんだけど・・・」

ケルベス「ベルリよ、クレッセント・シップを降りてシャンクで旅に出たのは、宇宙の連中をどこなら移住させられるか調べていたんだろう? あのな、そんなのどこだっていいんだよ。人間には開拓精神というものがある。放り出してしまえば、あとは自分たちで何とかするものなのさ」

ベルリ「そうなんでしょうか・・・」

ケルベス「トワサンガの王子かもしれないってわかったからって、全員の責任をしょい込む必要はないんだぞ。資源がないのなら、ビーナス・グロゥブのように資源衛星を調達して来ればいいだけさ。元々宇宙世紀ってそういうものだろう?」

ベルリ「はい。そうです。そうですね。少し元気が出てきました」







ラライヤが冬の宮殿に入ったとき、操作盤の前で悪戦苦闘するリリンをゲル法王とノレド、ウィルミットらが不安そうに見下ろす光景に出くわした。

ラライヤ「何か進展がありましたか?」

するとノレドが駆け寄ってきて興奮した面持ちでラライヤに話しかけた。

ノレド「スコード教の原点になった奇跡の記録映像が残ってるかもしれないんだって!」

ラライヤ「スコード教の原点になった奇跡?」

ノレド「そう! 宗教というのは何らかの神秘的な体験をもとに発生するものだろ? だからさ、その奇跡が映像で残ってるかもって、法王さまとリリンちゃんが」

ウィルミット「(心配そうに)でも、ディアナさんからいろいろお話を聞くと、フォトン・バッテリーの配給制度とスコード教は政治的に生み出されたような話だったので・・・。いえ、法王さまの前でこんな不敬な話は慎むべきかもしれませんが」

ゲル法王「いえ、構いません。わたくしもいまは法王の身分を離れ、ひとりの神学者としてこの地と向き合っているのです。もしその奇跡の映像があるのなら、ぜひ見てみたい」

だがそれはリリンの検索能力をもってしてもなかなか姿を現さなかった。画面は壊れたかのように同じ映像を繰り返し流していた。ふたりの青年が互いに競い合い、戦う映像だ。

ラライヤ「この赤いのに乗っているマスクの人物は、マスクを外してからもずっと同じ人と戦っていますね。それに、コロニーを地球に落としている。あッ、すごい数の人が地球に住んでる。宇宙世紀はこんなにたくさんの人間がいたんですね」

ノレド「(映像を指さしながら)これを黒歴史として封じ込める気持ちはわかるよ。戦ってばっかりで、結局いまの地球の人口は7億人でしょ? 技術も失われて、いいことなんか何もなかった」

自分の両親がキャピタル・テリトリィで戦争に巻き込まれて死んだかもしれないと聞かされてから、ノレドは努めて明るく振舞ってはいたが、空元気であるのは隠しようもなかった。

ラライヤはそんなノレドに寄り添い、リリンを見下ろす輪に加わった。

リリンは懸命に何かを開こうとしていたが、どのような形でトライしても映像は映し出されなかった。だが、鍵の掛かった映像は確かに存在するのだ。冒頭の1秒ほどが再生され、途中で止まるものがそれらしかった。その鍵の掛かった映像は2時間もある。

ウィルミット「黒歴史だから、希望のある映像は映せないようになっているのでしょうか?」

ゲル法王「でしたら、映像を残さねばいいとは思いませんか? それにまだ不可解なところはたくさんあるのです。マスクの人物がスカートのついたモビルスーツに乗って薙刀で戦っているときに、ある女性が白いモビルスーツと赤いモビルスーツの間に入って亡くなっているのですが、この出来事から白と赤の関係がこじれているように見受けられるのです」

ノレド「それって宇宙世紀の初期の話?」

ゲル法王「そうです」

ノレド「スコード教って起こってまだ1000年なんでしょ? ヘルメス財団1000年の夢って話。でもこれが宇宙世紀初期なら、2000年前になる」

ゲル法王「そこがわからなくて、悩ましいのです。もしムーンレイスの方々との接触がスコード教の興りだとしたら、わずか500年前ということになる。民間信仰としてあったものが形作られたのが1000年前ということなのでしょうか。それともヘルメス財団1000年の夢とは実は違うものを指しているのか」

ふうと溜息をついてリリンはいったん作業を諦めた。







東海岸へ流れついたジット団のメンバーは、カリル・カシスの紹介でMSのチェックをする仕事に従事していた。彼らには海辺の廃倉庫が与えられた。

スーン「こういうのが落ち着くんだな」

潮の匂いを嗅ぎながら、クン・スーンは油まみれになって働いていた。彼女の背中には1歳を過ぎたキア・ムベッキ・Jrが背負われている。

コバシ「まぁあたしたちも海辺育ちっていえばそうですもんね。ビーナス・グロゥブの海はこんなに臭くなかったですけど」

スーン「(丸い球形のMSの腹を撫でながら)アメリアというのは内陸部は乾燥地帯だと聞いたが、耕作用MSなど需要があるんだな」

コバシ「なんでも地下水というのがあって、掘ると水が湧き出てくるそうですよ。まさに地球は夢のようなところ。重力は安定しているし。おかげで調子よくって」

兵士A「戦争さえなけりゃいいところですよね」

その兵士が見上げているのは、レコンギスタしてきたジット団メンバーが遭遇したことのないトワサンガ製の最新鋭機YG-201であった。ジット団は、この機体を分析して追加装備開発の依頼を受けていた。それは容易いことであったが、彼らはいまだ逡巡していた。

コバシ「(機体を見上げ)これは、キア隊長を殺した機体を量産機にしたものだからね。隊長はこれをエンフォーサーユニットのG-ルシファーの対抗機じゃないかって推測してたけど。でも例のユニットはついてないし、なんでこんなものを量産したのかよくわからない」

スーン「(難しい顔で)トワサンガのレイハントン家がいつか起こる大執行を阻止しようとしているんじゃないかって仮説。あれを研究していたのは隊長とフラミニアだろう? ヘルメス財団の秘密に関係しているからとあまり人に話さなかったやつだな」

コバシ「あたしは少し聞いてますよ。複雑な取り決めだったらしいから正しいのかどうか知りませんけど、話の肝は外宇宙からの帰還は数度に渡り、最も古い者は月に文明を構えていたがのちに戻ってきた者たちと争いごとになった。さらに続けて帰還してくるのですでに地球文明と接触を持っていた1番古い帰還者たちだけ封じて、残りの者たちで宇宙世紀を繰り返さないための取り決めをいくつか行い、クンタラを労働者として使ってキャピタル・タワーを作った。そして新しい秩序を作り上げた。でも、もしそれが壊れて宇宙世紀が繰り返すような動きがあれば、文明をもう1度リセットして、そのときは完全に地球人は滅ぼしてしまって帰還者だけで入植する、みたいな」

クン・スーンはしばらく宙を眺めて考えに耽り、やがて口を開いた。

スーン「今来、古来だったっけか?」

コバシ「それ、禁止された言葉なんじゃ? キア隊長はビーナス・グロゥブの歴史は帰還者たちのそれぞれの歴史を習合して改変されたもので、実際は年代も何も結構ばらばらだって推測してましたけどね。でもこの論文はラ・グー総裁に握り潰されて、それからでしょ。レコンギスタとか言い始めたのは。公安警察のピッツラクがやって来て、ほら」

スーン「ああ、あいつな・・・。それより、地球圏へ最初に戻ってきた連中はなんで地球に降りなかったんだろう? それに、キャピタル・テリトリィより降りるならアメリアの方がよほど文明が進んでいる。赤道に近いところが良かったのだろうか?」

そこにさらに新しい機体が運ばれてきた。それはトワサンガ製ながらまるで見たことのないMSであった。ロルッカはこれをYG-201の敵対国に売りつけるという。

兵士B「姐さん、またあのロルッカとかいう爺さんが早く整備しろとせっついてきてますよ」

スーン「(大声で)いまそれを話し合ってる! 爺さんは待たせておけ」

コバシ「大執行を止める機体を量産化するってどういうことなんだろう?」

スーン「G-ルシファーを量産化して戦わせるつもりなんだろうか? いや、どちらも例のユニットはついていないのだから、単に金儲けなのか? わけがわからん」

コバシ「それはまた無駄な。それか別の思惑があるのか。どちらにしてもフォトン・バッテリーが尽きようとしているのに、なんでまたMSなんか」

スーン「(肩をすくめ)宇宙世紀に戻したい連中でもいるのかな?」

コバシ「アイーダさんって人にはまだ会えないの? アメリアは完全民政なんでしょ? ビーナス・グロゥブみたいにヘルメス財団が指名する総裁が決済するシステムじゃない」

スーン「アイーダさんは議会が招集されるまでは戻らないそうだ。それより、MSを売りつければ当然フォトン・バッテリーの供給を増やさなければいけないよな。フォトン・バッテリーは無償配給だが、それでもタワーのある地域はバックマージンを得て潤っていた。これってもしかして、軌道エレベーターによる無償配給システムが生み出す利権の争奪戦になってないか?」

コバシ「え? どことどこ?」

スーン「トワサンガとビーナス・グロゥブ」

コバシ「まさか(ひきつった笑い)。そんなことラ・グー総裁が許すはずがないでしょ。あの人の堅物は年季が入ってる」

スーン「ま、そうだな。ラ・グー総裁が生きている限り、利権で問題は動かないだろう」

そういうとふたりは仕事に戻っていった。クンタラを大量に移民させたアメリアであったが、クンタラたちは働き者で荒野だった中部地域の開発が進み、エネルギーや穀物の自給率はさらに高まっていた。産業用MSの需要は拡大を続け、地球に根を下ろしたジット団の下へは仕事が殺到していたのだった。

スーン「(しみじみと)最初からこうしておけばよかった」

コバシ「ですね。MSなんかわざわざ輸出してきて、誰が買うんだか」







ゴンドワンの首都に黒煙が立ち込めていた。

ルイン「フォトン・バッテリーの備蓄庫はクンタラ国建国戦線が接収する。大人しく立ち退けばよし。逆らう者は死んでもらう」

G-∀のマイクから発せられる声に慄いたゴンドワンの兵士たちは、武器を放り投げて次々に逃げ出していく。ルインのG-∀の下には砂まみれになったルーン・カラシュ5機が集まってきた。

クンタラの兵士A「我々だけじゃ使い切れないくらいですな」

クンタラの兵士B「アジアの同志もようやく動き始めて、ゲリラ戦でフォトン・バッテリーをかっぱらってるそうですぜ」

ルイン「ゴンドワンの差別主義者どもが乞食になり下がるのを見るのは爽快だな」

クンタラ建国戦線のゴンドワン・ルイン隊の当初の目的は、フォトン・バッテリーを強奪してエネルギー不足を演出しながらゲリラ戦を繰り返し、国内を騒乱状態に導くことであった。

その状況を変え、支配地域の拡大に舵を切らせたのはキャピタル・テリトリィ隊から提供されたG-∀の存在が大きかった。この古代兵器のある機能が、ゴンドワンの守備隊を無力化していくことに役立っていた。さらに原子炉ユニットのようなものが提供されたことも大きかった。

クンタラの兵士C「何もかも消滅させちまうんだから、大将のMSは無敵ですぜ。G-セルフなんてものは必要ないでしょ」

ルイン「いや、G-セルフだけは侮れない。あれは何か違うのだ」

6機のMSは一見すると砂漠のような場所にいるような佇まいだった。しかし彼らがいる場所はゴンドワンの首都だった場所なのである。ゴンドワンの文明はルイン操るG-∀によってたった1か月ですべてが砂塵に帰してしまっていた。

先立つこと2週間前、彼らクンタラ建国戦線はゴンドワン最大の飛行基地を急襲し、24隻の戦艦と10隻の輸送艦を接収していた。これによってゴンドワン軍は戦力を大幅に失い、政府ごと南部に移ることを余儀なくされていた。彼らはクリム・ニックに多くを預けすぎたのだ。

ホバー・ランチで陸路北部へ移動する仲間を残し、単独飛行が可能なG-∀のルインだけが先に基地へと戻った。彼らが棲家にしていた西北部の街は放棄され、現在はかなり内陸部へと拠点を移動させていた。世界中からゴンドワンへやってきたクンタラ保守派の仲間たちは人口が20万人を超え、首都が滅びたいま、ゴンドワン最大勢力となりつつあった。

ルインとマニィは旧領主の広大な屋敷を奪い、そこに居住していた。クンタラの救世主となったルイン・リーが最も良い屋敷の占有を言い出しても咎める者はいなくなっていた。

ルイン「1年前にはテント生活だったのにな」

そう呟いたルインに、マニィは生まれたばかりの子供の顔を見せて答えにした。ふたりの間に生まれた子供は女の子だった。

ルイン「ただここはあくまで仮の住まいだ。君はここに残ってもいいが、オレはタイミングを見計らってキャピタル・テリトリィへ戻らねばならない」

マニィ「やはりカーバ(クンタラ安住の地)はキャピタル・テリトリィなんだね」

ルイン「いや(首を振る)そうではないんだ。カーバとは地球そのもののことだ。カリル・カシスという女と共にジムカーオ大佐に呼びつけられたときにそう聞いた。そもそも地球文明が滅びたときに食人習慣が始まってしまい、クンタラという身分階級が生まれたそうだが、地球には逃げる場所がいくらでもある。だが、その習慣が宇宙に持ち込まれてしまうと、彼らはどこにも逃げ出せず、大人しく食われるしかなかった。それは宇宙移民の自己犠牲精神と結びついて制度として固定化されてしまったのだ。それに外宇宙から地球に帰還する過程で再び食糧難になったこともあって、クンタラという身分階級が固定化された。宇宙移民であった我々の先祖にとっては、地球に帰還することが食われることが終わることだったのさ。だから、地球こそがカーバなんだ」

マニィ「だったらなぜずっと差別を受けていたの?」

ルイン「今来、古来という言葉を知っているか? 外宇宙から地球に帰還してきた人類は、地球にクンタラを降ろして食人習慣と決別した。だが、それは数度に渡って行われたために、古参と新参者の間で新たな差別が起こり、アメリア以外の地域、とくにキャピタル・テリトリィで食人習慣がしばらく維持された。つまり、食う者もクンタラ、食われる者もクンタラという時代があって、その醜い争いの様子が地球でのクンタラ差別の元凶になったらしい」

マニィ「じゃ、自業自得だった?」

ルイン「今来はスコード教に改宗したリベラル派のクンタラ。古来はスコード教が興る以前に入植してきたクンタラ。結局はスコード教が悪いのさ」

マニィは大きく息を吐き出して、話題を変えた。

マニィ「キャピタル・テリトリィ、いまはクリムトン・テリトリィらしいけど、いつ行くつもりなの?」

ルイン「昨日カリルから連絡があって、キャピタル・タワーはジムカーオ大佐直属のキャピタル・ガードが奪還したそうだ。だからすぐにでも行かなきゃいけないんだ」

マニィ「あたしもついていく」

ルイン「せっかくこんな大邸宅を手に入れたのに、いいのか?」

マニィ「別に。ルインと一緒ならテントだって構わないよ」







逮捕されたターニア・ラグラチオンと学生たちは、警察署の留置場から牢屋へと護送されていた。

その車が襲撃されたのは彼らがノースリングに近づいたときであった。護送車の扉を開けたのは、クリム・ニックであった。

クリム「なんだこれは。女とガキばっかりじゃないか! こんなの使えるか!」

クリムは再び扉を閉めてしまった。車の外では銃撃戦が起きている。監視役の男は一瞬あっけにとられたがやがて自分の任務を思い出して銃を構えて護送中のレジスタンス派を威嚇した。

ひときわ大きな動作音はモビルスーツのものであった。バルカンの射撃音が鳴り響いて学生たちは身をすくめた。銃撃戦は5分以上続き、やがて沈黙した。するともう1度扉が開いた。開けたのは他の車両に乗せられていた学生であった。振り返った監視役の男は背中を蹴られて車外へ叩き落された。

素早く車外へ出たターニアは、ピストルを構えると護送車の扉に隠れて状況を確認した。そして運転席へ乗り込むとそのまま車をUターンさせた。それに他の車も続いた。

上空にはG-シルヴァーの姿があった。地上には軍の装甲車が砲身を森の方角へ向けていた。

ターニアたちはひとまず地元であるサウスリングへ戻るしかなかったが、閉鎖空間であるコロニー内に彼女らの逃げ場はない。

ターニア「こうなったら最終手段を取る。サウスリングを閉鎖して立て籠もる。みんな手はず通り行動してよ」

学生A「どんな最悪なことが起こたって、あの丸いMSで戦うよりはマシだ。みんな手分けして最後まで戦おう!」







クリム「なんであんなヘボそうなのを護送車で運んでいたんだ?」

クリムはいつものようにそう口にしたが、それに応えてくれていた人がすでに死んでしまったことを思い出してそのまま押し黙ってしまった。

監獄に捕らえられていた彼を救出したのは、ゴンドワンのスパイとトワサンガにおける協力者たちであった。彼らはゴンドワンへの入植と現地での住居の提供を約束され、クリムに従っていたのだった。その中にはベルリとターニアを襲撃した女性らも含まれていた。

G-シルヴァーをクリムに提供したのは、ドニエルとハッパを騙してセントラルリングまで連行した人を喰った話し方をする兵士であった。彼はアーミーの制服を着ていたが、ガランデンに乗っていたゴンドワンの兵士であり、元々キャピタル・テリトリィを監視するための密偵であった。

クリム「戦艦の手配は?」

密偵「そんなもの自分には無理ですよ。下っ端なもんで。でも全員が乗れるランチならセントラルから出られます」

クリム「では、オレが護衛するから宇宙へ出るぞ」

密偵「もうこうなったら仕方がないですね」

ところが、彼らがセントラルリングの港に向かおうとしていたとき、すでにノースリングからは銀色の凹凸のない戦艦スティックス30隻が出港しようとしていた。

トワサンガはもはや避けられなくなった大乱を前に緊張していた。


(ED)


この続きはvol:58で。次回もよろしく。



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