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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:108(Gレコ2次創作 第44話 前半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第44話「立憲君主主義」前半



1、


山脈地帯を抜けたベルリたちは、上空から東ゴンドワンに侵入した。警戒しつつ乗り込んだ彼らであったが、拍子抜けするほど抵抗はなく、軍が出動してくることもなかった。

「ゴンドワンってアメリアと戦争するほどの国力があるって話だったのに」

ノレドは眼下に広がる美しい景色を眺めながら、あまりにも無抵抗なことに疑念を抱き始めていた。南米のキャピタル・テリトリィで育ったノレドとトワサンガ生まれのリリンは、ジャングルとは違うゴンドワンの森に興味津々で全天周囲モニターにへばりついていた。

ベルリはラジオをつけてみたが、放送はされていなかった。電力に乏しいアジアの最大の娯楽はラジオから流れてくる音楽だったのに、ゴンドワンにはそれがない。無線もほとんど使われておらず、テレビの放送もなかった。電波が利用されていないのは不可解としか思えなかった。

ミャンマーから山岳地帯沿いに北西へ向かう長旅だったので、ハッパが作ってくれた積載用バックパックの中身も心もとなくなってきていたことから、3人は小さな町の外れにガンダムを降ろして、食料調達と情報収集を行うことにした。

彼らがやってきたのは、でこぼこの石畳が敷かれた小さな町だった。人通りはほとんどなく、商店も開いていない。そこで3人は町の中心にあったスコード教の教会に脚を運んで事情を訊くことにした。そこで管理人の老婆に教えてもらったのは、スコード教が活動を辞めたという悲しい話だった。

「教義を伝えていた方々はいなくなりました」老婆はいった。「教会はすべて廃院となって、王家の方々に接収されるのですが、ここは田舎なので役人の方がなかなか来なくて」

老婆はわずかな賃金で教会の掃除や不審者の監視などを行っているのだという。ゴンドワンに王家があると聞いたことのなかったベルリとノレドは思わず顔を見合わせた。

「誰が王さまになったのですか?」

「そりゃ子供たちに決まってますよ」老婆は不思議そうな顔で教えてくれた。「大人たちは子供たちのために国家を運営することに決めたのです」

「子供ですか?」ベルリは驚いた。「子供が総裁を務めているのですか?」

「いいえ」老婆は首を横に振った。「もちろん物事を決めるのは大人たちが運営する議会ですよ。そうじゃなくて、子供たちが王さまなんです。ゴンドワンは立憲君主主義の国ですから」

「驚いたね!」ノレドはリリンの顔をまじまじと見つめた。「リリンちゃんもゴンドワンでは王さまになるんだ」

「あんたたちがどこから来なさったのか知らないけど、ゴンドワンはもうすぐ氷に閉ざされてしまうともっぱらの話でさ、北部地方は放射能汚染で立ち入り禁止区域になってしまったし、人が住めるのは南側の地域と火山のある場所だけになっちまった。この国ではもうそんなに多くの人は住めなくなるんだよ。だからあたしたち年寄は身を引いて、子供たちを王さまにしたのさ。もしあんたたちが政府に話があるなら、ローマに行かなきゃいけない。ここいらはもう足腰の悪い老人ばかりだよ」

話を聞いた3人は、町の活気のなさの理由を悟った。子供たちがみんな別の場所へ移ってしまっているのだ。そう言われて町を眺めてみれば、たしかにポツポツと見かける人影は足腰の悪そうな老人ばかりであった。彼らは大声で話すこともなく、酒を飲むことも、商品を買うこともなく、木々のように静かに暮らしていた。

町でただ一軒の食品店で食べ物を購入したベルリたちは、自分たちが食べ盛りの若者であることを改めて実感させられた。彼らが購入しようと考えていた量は、店の売り上げの数日分に相当したからだ。頼めば買うこともできたのだろうが、3人は遠慮してローマまでの分に購入をとどめた。なぜなら、多くを買っても皴だらけの店の主人が喜ぶようには思えなかったからだ。

「歳を取るとお金に執着しなくなるようね」

ノレドはガンダムのバックパックに食料を詰め込みながら、心もとない紙袋の数に不満そうであった。

「たぶんだけど、あのお店の老人もお客さんと話がしたいために店を続けているだけじゃないかな。それに義務感だろうか。あのお店がなくなるとパンすら買えなくなっちゃう」

「共産主義者は暴力を振るってでも何もかも奪おうとしていたのに、ここじゃまったく逆。なんでこんなに欲がなくなっちゃったんだろう?」

ノレドはハノイでの経験を思い出しながら溜息をついた。共産主義者も自由民主主義者も、命がけの奪い合いの中で生きていた。それだけではなく、サムフォー夫人のように戦いを利用して土地の権利を得て領主になろうとする者もいた。川を流れる水さえ利権とされ、その奪い合いで多くの人が命を落とした。しかし、彼らは命を落としてでも奪うことに価値を見い出していたのだ。

それが東アジアの生きるということだった。

中央アジアの山岳地帯では、生きることは昨日の続きを繰り返すことだった。彼らは南側の砂漠で起きていた宗教戦争には参加せず、自然から与えられたものだけで暮らしていた。食料も水も十分にあった。それは食料と水が行き渡る分しか人がいないからでもあった。

3人は、子供たちが王さまになったという新しいゴンドワンの政治の中心地であるローマへと向かった。


ローマは確かに活気に満ちていた。街には人が溢れ、たしかに多くの人間がひしめき合って暮らしていた。子供たちはガンダムが大きな広場に降り立つと大歓声を上げて寄ってきた。ベルリはまるでスターになったかのように子供たちに取り囲まれた。ノレドとリリンは子供たちの外側にいる大人たちの憎しみに満ちた顔を見逃したりはしなかった。

「大人の人たちには歓迎されていないみたいよ」

ノレドは警戒した。しかし、彼女が手を繋いでいるリリンのことが気になるのか、大人たちは決してガンダムの存在に表立って不満を表明することはなかった。しかし、通報はされたようだった。

しばらくして警官が3人のところへやってきた。

「モビルスーツとは穏やかではありませんね。もしかしてよそ者でしょうか?」

よそ者という言葉を強調された3人はウンザリしながらも、ガンダムをどこに持っていけばよいのか尋ねた。警官は子供たちが無邪気に大きなモビルスーツの存在に喜んでいる姿を横目で見て、溜息をつきながらここに置いておけばよいと3人を黙認した。どうやら子供が王さまになったとの話はまんざら嘘ではないようだった。3人はさっそく議会に案内された。

「現在ゴンドワンでは計画的な移住政策が実行されています」案内の女性が説明してくれた。「旧北欧地帯が放射能汚染で立ち入り禁止区域に指定されてしまいましたので、そこの住民の移住を主な事業といたしまして、他にもこれからやってくる寒冷化によって氷河に覆われると予想されている地域の住人にも南欧への移住を勧めています。どの地区まで農業ができるのかそのときになってみなければわかりませんが、我々は楽観はしておりません」

長い廊下を歩きながら、スーツ姿の背の高い女性は意気軒昂に話した。しかしベルリには別の思いもあった。なぜゴンドワンはクリム・ニックに騙されてしまったのか。ゴンドワンが彼を受け入れることがなければ、ジムカーオの作戦は失敗していたかもしれないのだ。

「全球凍結の噂が意図的に流されて、市民が動揺してしまったのです」彼女は溜息をついた。「それにはクンタラ解放戦線が関係していたといまでは判明しています。旧北欧地域に発掘品の原子炉を集めて街を作ろうとしていたのも彼らクンタラ解放戦線です。それに、トワサンガの人間も関係していたと分かっています」

「トワサンガ?」

「ミラジ・バルバロスという人物です」

「ミラジさんが?」

これにはベルリとノレドも驚いた。ミラジがクンタラ解放戦線と行動を共にしているとはまったく知らなかったからだ。


2、


「それでミラジさんはいまはどこへ?」

「亡くなりました」女性の言葉はあっさりしたものだった。「クンタラ解放戦線のメンバーについては各地から集まっていましたので、遺体のすべての氏名を把握しているわけではありませんが、多くの証言から、ミラジという人物は亡くなったと。スコード教会からの情報提供によれば、彼はトワサンガからレコンギスタしてきた人物で、ビーナス・グロゥブの船にも出入りできたとか。もしそれが本当なら、わたくしどもよりみなさんの方があの方については詳しいのではないですか?」

「きっと武器だ」ベルリは呟いた。「ミラジさんとロルッカさんは、レイハントン家の再興が無理と知って、地球で生きていくためにモビルスーツの手配などの仕事をしていた。きっとそれでクンタラ解放戦線と取引があったんだ。ロルッカさんはどうしたのだろう?」

「ロルッカという人物は船による往来の記録がありまして、問い合わせたところ、アメリアでの死亡が確認されました。彼もまたクンタラ解放戦線に武器を横流ししていた死の商人です」

「情報は入ってきたのですか?」

「アメリアとの戦争は終わりましたから。いまではアメリア議会の実質的な代表はアメリア軍総監の地位を継いだアイーダ・スルガンですから。彼女との関係は良好です。そうでなければ、この全球凍結を前にいまだに戦争兵器を運用しているあなた方を議会に案内することはなかったでしょう。ベルリ・ゼナム、ノレド・ナグ。おふたかたにはぜひとも疲弊したゴンドワンの現状を知っていただきたい」

ここでもトワサンガの王子として発表されていたベルリの名は政治的な色彩を帯びていた。本人がいかにそこから距離を置きたいと願っても、レイハントン家の跡継ぎでありアメリアの実質的な代表であるアイーダ・スルガンの弟であることは覆すことができない事実なのだった。

現在のゴンドワンは、スコード教と距離を取る姿勢を示していた。というよりは、無神論に傾きつつあった。議会へ案内された3人は、上院の院内総務の部屋へ通された。そこには上院議員数名も同席して、にこやかに握手を求めてきた。かつてはこの場所が政治と文化の中心地であったが、現在のゴンドワンにその面影はない。老齢の院内総務は重々しく口を開いた。

「自由民主主義は民衆本位の政治を目的とした政治体制で、数々の試練に見舞われたわたくしどもはこの基本に立ち返ろうと考えたのです。しかし、民衆本位の政治と一口に言っても、そんなものは独裁者でも口にできることです。そこで我々は君主にゴンドワン全域の子供たちを置き、君主のための立憲主義を再構築することにしました。子供たちは教育課程を終えておらず知識が不足しているので、もちろん実験は一切ないですし、親の庇護下にあります。彼らは君主ではありますが、王のように総裁を行う立場にはない。それらは議会の仕事です。その議会が子供たちの未来を第一に考え、その存続を前提に立法を行うことが、民衆本位主義の理念に適っていると考えました」

「子供達には選挙権がありませんね」

「もちろんです。そこが民主主義の盲点だったのではないでしょうか。政治に参加し、立法する人間を選択する選挙に子供たちが除外される場合、現役世代への利益誘導や供与、老齢世代への福祉などが立法の議題に偏りがちになります。国家に集積された富を現役世代の大人たちや老人に分配することはもちろん大事な政治の仕事ではありますが、現役世代の失敗は成長した子供たちが負うことになります。しかも利益供与されることに慣れた世代は、自分たちが老齢になれば当然福祉予算を多めに要求します。前の世代の失敗を押しつけられた世代は、それを先送りしていままでと同じように利益分配と福祉だけを行って次の世代が失敗と先送りのツケを払わされる。ずっとこの繰り返しになるのです。そして先送りのツケは雪だるま式に膨らみ、最後には破綻する。自由民主主義は絶対的な分配の約束はしませんが、選挙に当選するためには短期の分配の約束はします。それらは主に現状維持が目的で、漸進的な改革案は通らず、最終的には不満が蓄積して革命主義に陥ってしまいます。革命は敗北です。それは漸進改革を怠ったという証ですから」

「同意します」ベルリは頷いた。

「この問題の原因を探るうちに辿り着いたのが、民衆本位主義に未来の視点が欠けている問題です。いま生きていて、成人である人間の利益だけが民衆本位ではない。民衆とは過去にも生きて未来にも生きる者たちです。死者もいれば、これから生まれてくる者も民衆です。そこで我々は議会が最高権威である仕組みそのものに疑問を感じ、その上に君主を置くことにしました。それは権力を行使する正統性を保証するための君主制ではありません。権力が現在だけではなく過去も未来も見据えて立法していけるようにするための装置のひとつなのです。そして民衆は未来をより良くすることを目標としようと、子供たちを君主にすることを定めたのです」

「子供たちを玉座に座らせる君主制じゃないってこと?」ノレドが尋ねた。

「それは違いますね。そんなことをすれば国中が要らないおもちゃだらけになる。しかしすぐに飽きて、おもちゃは散らかり放題。そんなことを目標にしては国は滅びます。子供はあくまで教育期間中の未熟な大人です。何の権限もない。しかしいずれ彼らは大人になり、役割上前の世代の失敗を押しつけられます。人間のやることは何かしら失敗はあるものです。政策の中に潜んだ失敗は時間が経過しないと見えてこない。失敗が見えてきたとき、前の世代は老齢に達して責任を取る立場ではなくなるし、自分たちの世代の失敗は自分たちで解決するなどと息巻いてはいつまでも現役にしがみついて世代交代に失敗します。それは最悪です。わたしなどももう老齢で引退間近ですが、子供たちを君主に据えてからというもの、一刻も早く引退しなければと焦るようになりました。なぜなら、子供たちはあっという間に成長する。ほんの少し前に子供たち読んでいた小さな子が、恋人を連れて議会にやってきたりする。老人の時間間隔で物事を進めてはいけないのです。わたしたちは早く引退しなきゃいけない。いまわたしが院内総務として働いているのは、住民の速やかな移住を進めるために折衝をしなければならないからです。ゴンドワンは徐々に全球凍結の影響を受け始めており、北部地域は居住不可能です。以前から南部地域への流民は始まっていたのですが、放棄された年に住み着いたクンタラ解放戦線のメンバーが核爆発を起こす事故を起こしてしまい、市場原理で自然な移住に任せておけなくなった。政治的に調整してやらなければ、貧しい者たちは汚染地域や氷に覆われた居住不可能地域に取り残されてしまう」

「多くの人間がより平等に南部への移住ができるように努力されているわけですね」

「そうです。それらの折衝は若手政治家には難しいのです。それでまだこうして現役をさせられています。本来ならとうに引退していなければいけない年齢です」

院内総務の話は、ベルリにもノレドにもとても分かりやすく、そして納得のいくものだった。これが人間が進むべき未来なのだろうか。ガンダムはこの結論を見せるために自分をこの地に導いたのか。ベルリはよくよく考えねばいけないと身を引き締めた。彼もまた、リリンが君主であったならと考え始めていたのだった。


3、


「どうしてスコード教を廃止しちゃったの?」ノレドは院内総務にぶしつけな質問をした。

「勘違いしないでいただきたいのですが、禁止されたのはスコード教ばかりではなく、クンタラの宗教も一緒です。宗教は一切禁止されました。スコード教が持っていた財産は、君主である子供たちが接収しました。これは、現在の子供たちの財産になるという意味ではなく、未来のために使われるという意味です。そうは言っても大したものはありません。教会くらいのものです。それらは接収後は地域コミュニティセンターとして活用しようと現在議会が議論しています」

「スコード教が禁止されても、キャピタルの通貨は使用されていますね」

「独自通貨を発行する議論もなされてはいますが、慎重論が大勢です。全球凍結は、生産可能地域の減少を意味しています。そんな我々が独自通貨を発行するのは自殺行為です」

「でもスコード教を禁止していながらキャピタル通貨だけを使用すると、中央銀行支店はいい顔をしないでしょう」

「あちらもいろいろあって、現在は形式的には独裁国家となっていますから、いまのところは大丈夫です。しかし、フォトン・バッテリーが再供給されるとなると問題が生じます」

「それなのになぜスコード教を禁止したのですか?」

「君主である子供たちと、エネルギーを供給してくれる宇宙の人々との間に何の接点もないからです。地球にエネルギーをもたらす神のごとき人々あってのスコード教だったはずですね。宇宙からエネルギーをもたらす人々は高潔で地球人類の観察者で、我々を善導するものだと。しかし実際はそうではなかった。彼らも人間で、しかも長い宇宙生活でムタチオンに苦しみ、地球にレコンギスタしたいと願っている。でもその地球は現在全球凍結へと向かっています。居住可能地域は赤道付近のベルト地帯だけと予想されており、その限られた土地に水資源が十分にあるかどうかも不明です。南米大陸と東南アジアの一部だけが居住可能ではないかとの予想もされています。最大人口は地球全体で100万人程度との試算もあります。そこに宇宙から優れた文明を持つ人間がレコンギスタしてきた場合、地球人はどのように彼らを迎え入れるべきなのでしょう? 宇宙に住み続けてもらうわけにはいかないのでしょうか? 人々の不安は、神が神ではなかったこと。そして、神のごとき人々は、彼らの故郷があり、同胞を優先しそうだということです。わたしたちの子供たちは、彼ら宇宙の人々の同胞ではない。このような場合、スコード教を自由民主主義の精神的支柱に据えて、いままで通り彼らにエネルギー供給を懇願すべきなのでしょうか? むしろ、あるもので生きられるだけの人間だけ生かすことを考え始めるべきではないでしょうか。生かすべき人間とは、地位や名誉では決められません。それはいつの時代も子供たちなのです」

「子供たちはいずれ大人になりますね」

「そうです。子供を生かすこと、それは大人が率先して死ぬということです」

「そこまで思いつめねばならないのでしょうか?」

「ゴンドワンはいずれの地域も赤道からは大きく外れます。数年前であれば侵略も視野に入れて物事を考えたかもしれませんが、国力が落ちたいまとなっては東の反スコード教、あるいはインドからの侵略にも耐えられそうにない。彼らは暖かい地域に生まれているので、ゴンドワンを侵略しては来ないでしょうが、こちらからあちらの領土を奪うことはもうできない。いまの我々が出来ることは、いかに多くの子供たちを少しでも遠い未来に送るかだけです。子供たちがお賭場になればまたその子供を未来に送ることだけを考える。これを繰り返すために、ゴンドワンは立憲君主主義を採用しました」

つまり、ゴンドワンの権力の中心は、実質的に空洞になっているということであった。「子供たち」という匿名性を持った存在を君主と見做して、その存続を大前提に政治を運営していく。立憲君主主義とは、本質的にそのようなものだったのだろうか?

ベルリはトワサンガの大学生ジル・マナクスの話を思い出していた。彼はトワサンガが王政を敷いていた理由を、男系男子血統が初代王の転生と見做しやすいからだと説明していた。王政とは、統治の正統性を持った人間が生き続けている幻想の上に成り立っていると。ジル・マナクスの君主論はまさに、君主の正統性が虚構と幻想が生み出した物語であることを見抜いていたのかもしれない。

ゴンドワンの子供君主制は、正当性の中心が空洞であることを前提に、子供の中に未来を見い出し、全球凍結を自分たちがいかに生き延びるべきか模索した結果なのであった。彼らは繁栄を諦め、存続に軸足を移したのだった。院内総務は言葉を継いだ。

「もしフォトン・バッテリーの再供給が行われた場合、我々はこの土地で生き続けることができるかもしれない。エネルギーは寒さを克服して、エネルギーが生み出す輝きは食料を作り出してくれるかもしれません。ですがそれと引き換えにもしレコンギスタしてきた者らに自分たちの子供たちが隷属を強いられたらどうしますか。より繁栄するために奴隷になることを我々は選ぶべきでしょうか。大人がそれを決断したとして、決断に参加していない子供は生きるために隷属に甘んじる人生をどう思うでしょうか? そして、もし彼ら子供たちが我々の君主であったとしたら、わたしたちは君主に対してあなたは奴隷になるべきだと言えるでしょうか? わたしたちは隷属を拒否したのです。それが、スコード教を拒否した理由です。クンタラももう御免です。権力の中心に置くべき物語は、自分たちの手で書き上げます。誰かから与えられるものであってはいけないのです」

ゴンドワンは、アメリアのアイーダへの対抗心からクリム・ニックの覇権主義を受け入れ、国力を大きく下げてしまった。大陸間戦争をしながらもレコンギスタの騒動に巻き込まれなかった彼らは、エネルギーの備蓄に余裕があった。アメリアとのエネルギー残量の差が、彼らに戦争の決断をさせた。そして彼らは破れ、反省したのだ。彼らは戦う気力を失い、未来に絶望していた。

「そういえば」ベルリが尋ねた。「ゴンドワンではラジオやテレビの放送が止まっていますね。それはなぜですか?」

「放送は娯楽です。娯楽は人心の興味を政治から遠ざけるので政治にはもってこいのものですが、娯楽に興じた人間は楽しみに満ちた人生に満足して、快楽の存続を求めるようになります。生への執着が負債を子供に負わせ、利益を子供から奪う行為に走らせる。楽しみを持つのは、子供のときだけでいい。彼らは君主なのですから。そして大人はそれに奉仕するだけでいい」

「それは国民に苦しみを押しつけるだけではありませんか?」

「最大の苦しみは、自由を奪われることです。隷属こそが悪なのです」

ノレドは、ゴンドワンの若者たちがボートピープルになってでもゴンドワンを脱出してキャピタル・テリトリィを目指した理由を理解した。ゴンドワン政治家のこの沈鬱な態度に嫌気がさし、彼らはクリム・ニックに熱狂し、彼に従ったのだ。彼らは新天地キャピタルに生きる希望を見い出していた。

なぜなら、ゴンドワンの希望はすでに潰えていたからである。ゴンドワンの子供たちは、大人たちに希望を託され、大人になったときに自分の国家に希望が無くなっていることを気づかされる。大人になったばかりの若者たちはそれに耐えられず、若者らしい勇気で侵略を選択したのだ。

希望に満ちた若者たちが逃げ出したことが、ゴンドワンの沈鬱に拍車をかけていたのだ。


4、


トワサンガ大学の学生だったジル・マナクスは、地球にレコンギスタしたのちアメリアへ身を寄せて就学の道を模索していたが、ニューヨークの壊滅後に命からがら徒歩でワシントンへ引っ越し、行く先々で地球の広さに驚きながらアメリアの政治体制について見分する中で大きな疑問を持つに至っていた。

自主独立の機運の強いアメリアには、小さなコミュニティに小さな支配者が必ずおり、それが憲法や法の規制を受けずに権力を行使していたのだ。アメリアには繁栄以外の目標は存在せず、その繁栄も各個の人間の自主努力に任されている。自主努力といっても限界があるので、多くの人間は何らかのコミュニティに参加してその庇護のもとで自己実現を図る。そのコミュニティに代表という名の支配者が存在するのである。

スペースコロニーであるトワサンガには、日々達成すべき数値目標がある。これが達成されない場合、コロニーは存続の危機に見舞われる。だから誰しも働き、労働工数によって対価を得ているのだが、それらの仕組みは全体利益と各個分配が公正に行われている安心感が前提になければ存続しえない。

そのために議会がある。議会は義務や分配に隔たりがないか監視する役割を負っている。王政は議会の仕組みに正統性を与える担保となり、もし議会が不当な行いばかりした場合に議会から権力を奪うための重要な装置でもあった。それらは男系男子を受け継ぐことで、初代レイハントン家当主カール・レイハントンが存在していると見做す幻想の上に成立していた。

ジル・マナクスは、カール・レイハントンの命が男系男子による継続によって続いていると見做す幻想のシステムに興味があって、彼の直系の子孫であるベルリ・ゼナムに何度か話を振ったことがあったのだが、レイハントン家相続に興味を持たなかったベルリは彼の話をまともに聞こうとはしなかった。ベルリ・ゼナムにとって、権力を血族相続すること自体が不当との判断があるためだジルは判断していた。

だがアメリアへやってきて、旅の途中で各地のコミュニティと触れ合っていると、権力の血族相続はあながち不当とは決めつけられないのだと確証を得た。なぜならどこのコミュニティも、政治力の強い者が権力者となって法を逸脱した支配を繰り広げ、酷いときは腕力によって権力の座に就く人間が決まっていたからだ。権力という力は、本来力がある者が奪うものなのだ。

権力は暴力性を内包しているのが当たり前であった。男系男子による最高権力の相続によって、権力を得る行為から暴力性を排除する仕組みが王政ではないのかと彼は考えるようになっていたのだ。初代王カール・レイハントンの見えない威光が、小さな権力者の出現を監視しているようなものだ。

こうした権力という暴力装置から暴力性を排除していく仕組みについて、ジルはもっと研究してみたいと願っていた。そのために権力者の宝庫であるアメリアの大学で学ぶことは彼の学問にとって重要な意味を持つはずだった。だが、後ろ盾を持たない彼の就学への道は厳しかった。

アメリアは、ビーナス・グロゥブのピアニ・カルータとジムカーオというふたりの人物が巻き起こした騒動を議会への報告書という形でまとめて発表した。また、トワサンガはその歴史書の編纂を10年以内をめどに発表すると地球に向けて公表した。ジル・マナクスは、そのどちらにも自分が関与できない立場であることを悔やんだ。彼の仲間たちはトワサンガに残り、ベルリ・ゼナムのサポートという形でそれらに携わっているに違いないのだ。

キャピタル・タワーは再び運行を再開し、アメリアからは月の内部にある冬の宮殿の調査をするための調査チームが派遣されたという。就学のための道筋がなかなか見えてこない彼は、内心かなり焦っていた。そんなとき出会ったのが、アメリアの投資家で実業家のグールド翁であった。

豊かな顎ひげを蓄えたこの老人は、アメリアのクンタラを束ねる4人のうちの最高齢ながら矍鑠たる人物であった。ジルは彼に庇護を受ける形で仕事と就学への道を切り拓こうとわずかな伝手を頼って彼に接触した。はじめこそ非クンタラであるというジルは相手にされなかったが、トワサンガ大学にいたことやベルリ・ゼナムと面識があることで興味を持たれ、彼はムーンレイスを調べる仕事を得た。

報告書次第では大学への推薦状も得られると聞いた彼は、知っている限りのことを報告書に書いた。それを読んだグールド翁は大変満足して彼を1年間傍で働かせて、そののち大学への推薦状と奨学金を与えることを約束した。こうしてジルは、ようやくアメリアでの就学への目途が立った。

グールド翁のもっぱらの心配は、どうやらムーンレイスのようだった。初代レイハントンと戦い、ある者は地球に追放され、降伏した者はコールドスリープで500年間の眠りに就かされたこの謎の集団は、アメリアのクンタラ指導者たちから異様に恐れられていた。

「キャピタル・タワーというのは、宇宙世紀時代の遺物じゃないかと伝わっていたはずだが」

グールド翁は、年齢に似つかわしくない強い酒と、塩気の多い肉料理を好んで食べる人物だった。翁の屋敷には20名を超える使用人と子や孫が同居しており、何度訪問してもそのたびに初対面の家族と出くわして紹介を受けるようなところだった。

その日もグールド翁は厚切りの肉をスコッチで流し込むような食事を摂っていた。忙しい翁と学生が面会できるのはこのような時間だけであった。翁の関心はムーンレイスとキャピタル・タワーに向けられていた。翁はキャピタル・タワーが500年前の代物であることが納得いかないのだった。

「宇宙世紀からの遺物がそこに残っていた。長く放置されていたが、それを誰かが再起動して使い始めた。こうでなければ歴史は辻褄が合わんのではないかな?」

「それはまたなぜ?」ジルは尋ねた。

「あんなものは宇宙世紀時代の宇宙への憧れのようなことがなくては到底なしえない大事業ではないか。スペースコロニーだの、宇宙船だの、そんなものすべてが」

「そうとも限りません」ジルは否定した。「宇宙で暮らしていると、今度は地球に降りることが憧れになります。人類は宇宙世紀時代に遠く外宇宙にまで達し、のちに地球に帰還してきているのです。キャピタル・タワーは外に出るものではなく、地球に降りるものだったのでしょう」

「わしは宇宙のことはよく知らんが、落っこちてくれば何とかなるのじゃないのかね?」

「そうやって地球に降りてきた人々も多かったと思いますが、500年前はアメリアがまだ産業革命に突入したばかりで、掘り残していた質の悪い石炭を使って産業革命が起こり始めた頃です。そのまま産業革命が進めば宇宙世紀を繰り返していたでしょう。人類が同じ轍を踏まないようにするには、アグテックのタブーを強く意識させて、化石燃料の使用をやめさせなくてはならなかった。そうした人類の行動制限を促すようなインパクトを与えるためには、宇宙との間に道が出来て、天からエネルギーがもたらされる新しい社会を形として見せる必要があったのではないでしょうか?」

「それが君らトワサンガの住人の仕事というわけか」

「伝え聞くところでは」

ジルは、カール・レイハントンの人物像については詳しくない。それは子供にとっては御伽噺で、大人にとっては神話の話だったからだ。そして彼は、メメス博士の存在も知らない。トワサンガの住民がすべてクンタラの子孫であることも当然知らない。トワサンガでフォトン・バッテリーの中継を行ってきた彼らの先祖は、500年前にビーナス・グロゥブの総裁だったラ・ピネレにかの地を追われたクンタラたちであった。

「何度も訊いてスマンが、君はクンタラではないのだな」

「いいえ、わたしはスコード教の信者です。そうはいっても、さほど熱心な信者ではありませんが」

「ふむ。どうも気に食わんな」

「と、おっしゃいますと?」

「数が合わん。クンタラの数が少なすぎる。地球での比率も少ないし、宇宙にクンタラがおらんのもおかしい。わしらは食われる家畜のようなものだったのだろう? だったら牛や馬のようにもっと数が多いはずだ。ところがそうじゃない」

「クンタラであることを忘れているとか。あるいは隠しているとか」

「それももちろんあろうが・・・」

そのとき不意に部屋の扉がノックされ、執事が顔を覗かせ一礼した。執事はドアを手で押さえたまま、ひとりの男を部屋の中へ招き入れた。その顔を見たジルは驚きを隠せなかった。アジア系の整った浅黒い顔立ちは忘れることができない。

「クンタラについてはわたしから説明しましょう」

ジムカーオは張りのある声でグールド翁に微笑みかけると、ジルを一瞥したのだった。


次回第44話「立憲君主主義」後半は、6月15日投稿予定です。


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<雑感>

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字幕がないので注意。


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「ラッコ親子の別れと再会」(2009年作品)感想 [ドキュメンタリー]

<あらすじ>

ヨットハーバーに住み着いたラッコの親子が人間の近くで子育てして子供を独立させるまでのドキュメンタリー。

この母親はピンクブルーという名の暴力ラッコの子供を生んでしまい、ケルプの森を追い出され、港にやってきたのだ。港はボートが行き来するのでスクリューで大怪我をする可能性がありラッコは近づかないのだが、DVラッコから逃げるためには仕方がなかった。

このピンクブルーはケルプの森を独り占めしながら、母娘のところにやってきて交尾しようとしたり、母親が取った餌を脅かして盗んだり、完全なDQN。無理矢理交尾しようと鼻を噛まれ母親ヨットの上に逃げ込んだりしている。ラッコ同士より人間の方が優しいなんて酷い話だ。

その際に娘とはぐれてしまった。娘は生きていたが、頑張って餌を採ってもピンクブルーに奪われてしまう。嵐が来て生存が危ぶまれていたが、何とか生き延びていた。これがきっかけになって子供は独立。母親も別の雄と交尾した。

<雑感>

1日中食ってばっかりいるラッコがどうやって子育てしているのか前から不思議だったのだが、子育て中も食ってばっかりだったわ。海の上で寝るときはケルプを身体に巻くのは知っていたが、陸上でも不安らしく、船のロープを必死に身体に巻こうとしていた。驚くべきことに生まれたばかりの赤ちゃんも同じことをやっている。

☆5.0。どこの世界でも暴力的なオスはあかんなと気づかせてくれる作品だった。


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  • 出版社/メーカー: 株式会社トミゼンフーヅ
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「猫の国」(2020年作品)感想 [ドキュメンタリー]

Tim Delmastro、Cassandra Delmastro共同監督による日本の猫文化を紹介した海外のドキュメンタリー映画。

<雑感>

外人が日本人のことをディスりながら猫カフェや猫島、猫の駅長などに会いに行く。そのほか猫の造形物やキャラクターを見るたびにクレイジークレイジーと喚いて金が貰えるんだから呑気なものだ。

☆3.0。猫は可愛いが外人は可愛くないから猫の生態だけ見せてくれればいいんだぞ。


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  • 出版社/メーカー: ユウカ
  • メディア: 食品&飲料






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「キャッツ&ドッグス 地球最大の肉球大戦争」(2010年作品)感想 [映画]

ブラッド・ペイトン監督によるアメリカのコメディ映画。出演はジェームズ・マースデン、クリスティナ・アップルゲイト、ニール・パトリック・ハリス。

<あらすじ>

エージェント犬が事件を解決する映画。

<雑感>

☆2.0。擬人化しすぎていて、犬猫の形をした人間に過ぎない。犬や猫の本音を人間の言葉で話す体裁ではない。ここまで人間っぽくするなら別に人間でいいじゃんって気になる。


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  • 出版社/メーカー: わが街とくさんネット
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  • 出版社/メーカー: ヤバケイ
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「キャッツ&ドッグス」(2001年作品)感想 [映画]

ローレンス・グーターマン監督によるアメリカ・オーストラリアのSFスパイアクションコメディ映画。出演はジェフ・ゴールドブラム、エリザベス・パーキンズ、トビー・マグワイア。

<あらすじ>

犬アレルギーの新薬研究を巡って犬と猫がスパイ合戦を繰り広げる話。

<雑感>

☆3.0。可愛ければいいってもんじゃねーぞコラ。








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  • 出版社/メーカー: 尾道市農業協同組合
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「劇場版BEM BECOME HUMAN」(2020年作品)感想 [映画]

博史池畠監督による日本のアニメ映画。

BEM.jpg


<あらすじ>

ベムはベルムという名前になって製薬企業ドラコ・ケミカルで働いていた。彼は1日朝版会社から支給された薬を飲んでいた。会社での評判は良かったが、ベルムは記憶を失うことがあった。そして会社は妖怪人間にまつわる研究を行っていた。妻と子供がいるが、彼らはどこかよそよそしかった。

彼が住むおかしな街に、捜査官のソニアがやってきた。彼女は違法薬物の捜査中に人工的に作られた妖怪人間に襲撃されるがベロに助けられ、そののちベルムに会うことになった。だがベルムは彼女のことを覚えていなかった。街のダイナーではベラがウェイトレスとして働いていた。ソニアはすっかり変わってしまった妖怪人間たちに戸惑った。

ソニアにベムと呼びかけられてからベルムは自分に疑問を抱くようになり、薬を飲むのをやめた。すると体調がおかしくなり会社で処方された別の薬を飲むことになった。意識を失ったベルムは、研究室へ運ばれた。そこにはDr.リサイクルがいたが、ベルムは覚えていなかった。銃を向けられたので抵抗すると、彼は親友と思っていたバージェスに撃たれてしまった。ベルムは覚醒してベムに戻った。

捜査を続行していたソニアに街を出ようと誘われたが断り、彼はいったん家に戻った。するとそこで、家族はおろか街の人間すべてがドラコ・ケミカルが作り上げた人工妖怪人間だとわかった。妻も子供も妖怪人間だったのだ。そのころソニアはベラに協力を求めるが断られ、ドラコ・ケミカルに捕まってしまった。彼女は撃たれ、瀕死の重傷を負う。ベムは彼女に自分の不死身の命を与えた。

ベム、ベラ、ベロの活躍によってドラコ・ケミカルが作り上げた人工妖怪人間たちは抹殺され、ソニアは不死身の人間になった。

<雑感>

テレビ版「BEM」は1話切りしてしまったが、アマプラに置いてあったので何気に視聴した。この作品はキャラクターデザインが好みではなく、家族設定も捨て去っていたので随分ガッカリしたものだが、その印象は劇場版でも変わらなかった。3人の妖怪人間たちが、人間の真似をして家族ごっこをしているところが良かったのに、それぞれ自我の欲求に従ってバラバラになるなんて悲しすぎる。

旧作はとんでもない鬱エンドで70年代アニメの中でも屈指の最終回の面白さを誇る作品だが、最後人間に絶望する彼らであっても、自分の心の中にある人間の理想像までは失っていない。そして彼らは自分たちの理想の人間を演じ続けることを選ぶ。

☆2.6。それなのにこの作品は、「個」になって終わるのだ。単細胞生物が分裂して生まれた妖怪人間が、人間に憧れ、人間に絶望し、人間の理想に恋い焦がれる旧作の思想性に到底及ばない脚本である。正直、酷い。








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「アリオン」(1986年作品)感想 [映画]

安彦良和監督による日本のアニメ映画。

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<あらすじ>

盲目の母デメテルと暮すアリオンは、伯父ハデスに冥府世界へ連れ去られた。アリオンは、ポセイドンの呪いを解くべく獣人ギドと少年セネカを従え旅に出ることになった。ゼウス軍とたたかい囚われたアリオンは、聾唖の少女レスフィーナに救われ、彼女が双子の妹だと知った。

地底王ハデスとまみえたアリオンは、彼をなじって殺すもその霊魂に憑りつかれ、父ポセイドンを殺してしまう。ポセイドン軍は力を失い、アテナ軍の前に敗北を喫する。秦の敵をアポロンと定めたアリオンは、オリンポスを目指し、そこで自分の実の父が獅子王だと知った。獅子王は、大地王ゼウスに滅ぼされ、レスフィーナの発揮した秘力の前にゼウスも力を失いアポロンに滅ぼされた。

アリオンとレスフィーナは、盲目の母デメテルの元へと戻っていった。

<雑感>

この作品の原作漫画は中高生のときに連載していて、高校生の頃には大の安彦良和ファンの友人らと大いに盛り上がっていた。ファンは男女を問わずたくさん存在していて、原作漫画を揃えている人間も大勢いた。高校在学中に公開された「クラッシャー・ジョー」はイマイチだったが、もしこの作品がアニメ化されたら大ヒット確実などと仲間内で話し合っていた。

大学へ入学しても、友人らとの関係性はそんなに変わらないだろうとオレは思っていた。ところがである。東京の大学へ入学すると周囲にアニメファンはおらず、ましてやアニメ雑誌を購入している人間などいない。田舎者なのでどこへ行けば同好の士がいるのかもわからない。

異性との付き合いが本格化する時期なので、大学で出来た友人らの会話は同棲するかしないかみたいな話題ばかりで、オレもそれに合わせるしかない。同じ高校出身者はひとりもいない。同県人は互いに避け合う。大学で出来た友人に話を合わせるしかなかった。

サークルも考えたがどうも違うし、思い切って生活を一変させようとバンドのライヴなどに出掛けるようになってアニメのことはすっかり忘れた。この作品はそんな時期に公開された劇場作品だ。待ちに待ったはずのアニメ化なのに、公開されたことすら知らなかった。アニメの情報を遮断していた時期なので、評判にことすら記憶にない。それほど盛り上がっていなかったはずだ。

のちにレンタルか何かで観たが、原作者本人がアニメを作っているのに原作の面白さをまるで生かせておらず、結局アニメは監督(演出)次第なのだと思うに至った。安彦良和は「クラッシャー・ジョー」で表出した演出能力のなさをこの作品でも露呈した。オレは彼の監督作品を見限った。

☆2.6。思い出の作品だが、面白くないのだから仕方がない。絵は綺麗だが、映像作品は演出なんだよ。本人ものちに自分の演出が弱いことに気づいたようだ。

いま気づいたのだが、アニメが好きなのに周囲にアニメファンがいなかった大学時代の環境が、なんだか後ろ暗い気持ちでアニメを見る習慣になっていたのだ。いま思えば、アニメのサークルに入っておけばよかったと後悔するが、なんかロリコンみたいな奴らばっかりで馴染めなかったんだよな。

女と縁がなさそうな人間ばかりだったし。アイドルファンと兼ねている奴も多かったし。うん、やっぱりあいつらの仲間になるのは無理だった。


アリオン [少年向け:コミックセット]

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  • 作者: 安彦 良和
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • メディア: コミック



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  • 発売日: 2017/06/15
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  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2013/08/21
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  • 出版社/メーカー: パイオニアLDC
  • 発売日: 2001/02/23
  • メディア: DVD



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「未来のミライ」(2018年作品)感想 [映画]

細田守監督による日本のアニメ映画。

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<あらすじ>

クンは家で両親を待っていた。両親は生まれたばかりの妹ミライを連れて病院から戻ってきた。両親は新生児の育児にかかりっきりになってクンを構ってくれなくなった。拗ねたクンは赤ん坊をひっくり返してしまった。すると愛犬のゆっこが人間の姿になって、クンが生まれたときに自分も同じ目に遭ったと訴えた。母親は職場に引っ越し、独立した建築家の父親が子供の面倒を見ることになった。

そこに未来から少女になったミライがやってきた。両親は雛人形を片付けておらず、このままでは1日に1年時間が進んでしまうので片づけに来たのだ。クンも手伝って、母親が帰宅する前に何とか終わった。

ほどなくしてクンは少女時代の母親に会った。母親も我儘を言って親に怒られていた。次は曾祖父に会った。曾祖父は戦争で脚を悪くしていたが、未来を見て行動する大切さを教えてくれた。クンは努力を続け、乗れなかった自転車に乗れるようになった。それもクンは妹に時間を割く両親に相手をしてもらえない疎外感を拭うことはできなかった。

クンは駅に迷い込んだ。そして我儘を言うと未来の東京駅に迷い込んでしまった。独りぼっちの世界へ連れていこうとする未来の新幹線に乗りたくないクンは、自分を証明しなければいけなくなった。クンは自分は母親の子、父親の子とは言えたが、そのあとがどうしても思いつかなかった。そこに赤ん坊のミライが現れた。ミライもまた独りぼっちの世界へ連れて行かれそうになるので、クンは必死に彼女を守り、自分はミライの兄だと自覚して叫んだ。

未来のミライに家族の歴史を見せてもらったクンは、急いでみんなが待つ家に帰っていった。

<雑感>

父親や母親が自分の自我の中に取り込まれていて、泣けば自分の代わりに何でもやってくれると思い込んでいるのは、他人の自我を意識できずに未分化になっているからだ。幼少期はみんなそうで、それが弟や妹が出来ると両親がそちらにかかりきりになって、両親は自分の中にあるわけではなく別のところにいると知ることになる。

すべて自分の自我の中にあるとの勘違いが解けて、他人を意識して慮るようになる。そのきっかけはまちまちだが、クンの場合は妹が出来たことだった。ひとりひとりに世界があり、思い出があり、歴史がある。自我はひとりひとりにあり、自分の自我だけがすべてではない。兄弟が出来るというのはそうした理解のきっかけになる。

この作品は、自我が未分化で、他人が自分の自我の中にあると思い込んでいた幼児が、そうではないと気づくさまを描いた作品で、テーマとしては非常に珍しい。アニメ作品の中のエピソードとしてなら描かれることはあるが、それがメインテーマになっているものは少ない。

自我が未分化のまま、自分も他人も全部自分の自我の世界にあるものと勘違いした気狂い人間が多い中、よくこれをテーマにしたものだと感心する。おそらくはかなりの反発を予想していたはずなのに、とても勇気のある決断だ。細田守はやはり面白い。

アマゾンで視聴したのでレビューをちらっと眺めてみたのだが、やはり自我が未分化で世界は全部自分の中にあると思い込んでるバカが暴れて低評価をつけていた。この作品に発狂するのは気狂いだけで、幼児期にちゃんと自分と他人との間に境界線を敷くことができた人間は、この作品がとても普遍的なテーマを扱っていることを理解できる。体験していないからわからないのだ。

☆5.0。この作品をアマゾンで観た人は、視聴後に低評価レビューを読んでみるといい。オレが上に書いたことがよくわかるはずだ。


細田守監督作品 原作小説合本 2006-2018 (角川文庫)

細田守監督作品 原作小説合本 2006-2018 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/07/13
  • メディア: Kindle版



未来のミライ (角川つばさ文庫)

未来のミライ (角川つばさ文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/06/30
  • メディア: 新書



オニババ対ヒゲ

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/07/20
  • メディア: 大型本



細田守 ミライをひらく創作のひみつ

細田守 ミライをひらく創作のひみつ

  • 作者: 松嶋雅人
  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 2018/07/20
  • メディア: 単行本



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「おおかみこどもの雨と雪」(2012年作品)感想 [映画]

細田守監督による日本のアニメ映画。脚本:奥寺佐渡子、細田守。キャラクターデザイン:貞本義行。

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<あらすじ>

女子大生の花は、ニホンオオカミの末裔おおかみおとこと肉体関係になって双子を生んだ。名前は雨と雪。子供たちは狼に変身できるおおかみこどもであった。当初は夫婦仲良く子育てをしていたが、生活のためにバイトを掛け持っていたおおかみおとこは亡くなってしまい、実家の支援もあてにならないことから花は田舎に引っ越して子育てをすることにした。

都会から来たわけありげな花を田舎の人は警戒していたが、やがて受け入れ、花も就職先を見つけて生活は安定していった。しかし子供たちは興奮するとおおかみに変身してしまう。雪は獣臭いと難癖をつけられて動揺し、おおかみになって相手を傷つけてしまった。

雨は学校に興味を持てなくなった。山へ入ることが多くなり、やがて先生と慕っていたきつねの死を受けて自分がおおかみとして山を統治していくと決めた。花は雨を失うまいとするうちに滑落して大怪我を追う。花は雨に行くなというが、男のおおかみとなった雨は独り立ちしていった。

<雑感>

おおかみおとこを好きになって彼の子を産むことで、ひとりの少女が自然との接点を持つ物語で、これは本来出産によって自然との接点を強く感じる女性の物語になっている。女性が出産によって自然と繋がる事象を、相手をおおかみにすることと、夫の死によって田舎暮らしを選択することのふたつをもってより強調する構造だ。

子供をおおかみこどもにすることで子育ての大変さも強調されるし、子供の意外な力強さと逆に驚くほどの弱さも強調される。全体的には子育てでアップアップの場面ばかりである。

女の子は女の子として、男の子は男の子として自立していく姿まで描かれており、時間としては14年ほどになるのだろうか。

「サマーウォーズ」を地上波で、「時をかける少女」をレンタルDVDで鑑賞したあとに、いまの嫁を誘って劇場で鑑賞した。2012年の夏は細田作品を3作ほぼ同じ時期に視聴したわけだ。テレビも細田守には大きな期待を掛けていたようだった。

会社の同僚で仮面ライダーの変身ベルトを収集していた人物が大の細田ファンで、おそらくこの作品がきっかけで結婚、多分3人ほど子供がいるはずだ。子供好き(特に少女)を公言しながらまったく子育てをしなかった宮崎駿には絶対に作れない作品なので、この映画の完成度の高さにはすっかり満足したものだ。子供が嫌いな奴はこの作品から急に細田を叩き出したが。

☆5.0。これも大好きな作品。ところが、次作の「バケモノの子」を見たという記憶がない。そのうちそのうちと言いながら忘れてたかもしれない。そのうち観る。


おおかみこどもの雨と雪 (角川文庫)

おおかみこどもの雨と雪 (角川文庫)

  • 作者: 細田 守
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: Kindle版



おおかみこどもの雨と雪 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE)

おおかみこどもの雨と雪 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE)

  • 出版社/メーカー: メディア・パル
  • 発売日: 2012/07/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



角川アニメ絵本 おおかみこどもの雨と雪 ( )

角川アニメ絵本 おおかみこどもの雨と雪 ( )

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/07/15
  • メディア: 単行本



おおかみこどもの雨と雪 (つばさ文庫)

おおかみこどもの雨と雪 (つばさ文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/07/15
  • メディア: 単行本



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「サマーウォーズ」(2009年作品)感想 [映画]

細田守監督による日本のSFアニメ映画。脚本:奥寺佐渡子。キャラクターデザイン:貞本義行。

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<あらすじ>

高校2年生の小磯健二は美人の先輩篠原夏希から恋人のフリをしてくれと頼まれ、彼女の実家に赴くことになった。仮想世界OZの保守のバイトをしていた彼は、自分の携帯に送られてきた謎の暗号を解いてしまい、それが原因でOZは謎の人工知能ラブマシーンに乗っ取られてしまった。

事態を収拾したのは夏希の曾祖母栄だった。彼女の政財界への人脈はすさまじく、何とか事態は収拾するかの思えた。ところが肝心の栄が狭心症で死去してしまった。栄の仇はラブマシーンだとばかりに陣内一族総出で人工知能に攻撃したものの、使用していたスーパーコンピューターの冷却用の氷を栄の遺体保存に回したせいで排熱が追い付かずスーパーコンピューターが壊れてしまった。

この隙を逃さなかったラブマシーンは、OZのアカウントを乗っ取り、人工衛星のコントロールを奪ってしまった。それを核施設に落とそうと目論むラブマシーンに対し、夏希は花札で勝負を挑んでアカウントの解放に成功する。さらに親戚の池沢佳主馬操るキングカズマに打撃を加えられたラブマシーンは、陣内家を特定してピンポイントで家屋の破壊を目論んだ。

これに健二が応戦。わずかに軌道をずらすことに成功して夏希の親戚一同を守ることに成功した。人工衛星の落下跡からは温泉が湧き出した。

<雑感>

細田守の作品で最初に見たのがこの作品。2012年のテレビの地上波だったはず。2012年になんでテレビ? と不思議で記憶を手繰り寄せて思い返してみると、当時大河ドラマと「鉄腕DASH」を録画して夕食時などに鑑賞していたのだ。それでこの作品も録画したようだ。

ところが2011年の「江〜姫たちの戦国〜」があまりにもバカバカしくて、さらに2012年の「平清盛」がホモホモしく耐えられなくなり録画は「鉄腕DASH」だけになってしまった。やがてそれも携帯で録画するようになってテレビを使わなくなっていったのだ。

地上波の作品に愛想を尽かしたところに、深夜アニメの視聴が入り込んだのだった。このあとしばらくレンタルしたアニメを楽しみ、2014年夏から深夜アニメを録画して観るようになった。青葉の事件が起きて以降は徐々にアニメから離れつつある。

そんな経緯で、アニメの新作と一緒にポスト宮崎駿探しが始まった。新作で名前や制作会社を覚えつつ、劇場作品でポスト宮崎駿を探している感じだったろうか。当時はまだ新海誠やその他の人材を全然知らなかったので、細田守で決まりなのかなと思っていた。だがこのあと徐々に???な展開になっていくのだった。

「千年女優」で名を知った今敏はすでに亡くなっていた。


サマーウォーズ 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE)

サマーウォーズ 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE)

  • 出版社/メーカー: スタイル
  • 発売日: 2020/08/08
  • メディア: 単行本



細田守とスタジオ地図の仕事

細田守とスタジオ地図の仕事

  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2015/07/09
  • メディア: 単行本



角川つばさ文庫版 サマーウォーズ

角川つばさ文庫版 サマーウォーズ

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: Kindle版



細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション

細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション

  • 作者: 氷川 竜介
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2015/07/07
  • メディア: 単行本



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「時をかける少女」(2006年作品)感想 [映画]

細田守監督による日本のSFアニメ映画。原作:筒井康隆。

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<あらすじ>

紺野真琴は理科準備室に不審な影を発見してその後を追った。転倒した彼女はタイムリープできるようになっていた。叔母の芳山和子に相談したところ、少女期にはよくあることだとそっけない返事。真琴はちょっとだけ時間をさかのぼって小さな幸せを満喫することに忙しかった。

ある日、真琴は友人の津田功介から交際を持ち掛けられる。それまでの関係を続けたかった真琴は時間を遡ってモラトリアムを設けた。本人はそのつもりだったが時間改編の影響は確実に出てきており、調理実習のトラブル回避にタイムリープを使い逃げたことが原因で功介は別の女性と付き合うことになった。

真琴の「何もなかったことにしたい」行動指針が、やがて重大な事故を招き寄せる。ブレーキが壊れかかった真琴の自転車を功介と彼女が使い、最初にタイムリープした時間軸に乗ってしまったのだ。これを助けたのは功介と並ぶもうひとりの大切な友人の間宮千昭だった。彼は未来人でふたりを助けたのが最後のタイムリープ能力であった。真琴の能力も尽きていた。

このままでは誰も救えず千昭を不幸にしただけだと思い悩んでいたとき、誠は能力が1回だけ回復していることに気づいた。今度はみんなをちゃんと救うと決めた彼女は理科準備室に戻り、功介と彼女の仲を取り持ちつつ千昭に未来に起こることを打ち明けた。

千昭と真琴は、未来で再開することを約束して別れた。3人で仲良く過ごす幸せな日常は、表向き引っ越しとされた千昭がいなくなったことで壊れてしまったが、未来にやるべきことを見つけた真琴はそんな現実を受け入れられるようになっていた。

<雑感>

この作品や細田守のことを知ったのは公開から数年後の2012年ごろだったはずだ。近所のツタヤで見かけて「時かけがアニメになったんだ」と気になったものの、細田を知らないので知ってる原作だからと借りずに放置していた。

数週間後「サマーウォーズ」をテレビで見て、この監督面白いじゃんと調べてみたら、レンタル屋で気になっていた「時をかける少女」が同じ監督だとわかり、すぐに借りて鑑賞した。

原作をかなり改変してあるものの理科準備室での出来事から事件が起きていく基本線は一緒で、演出しか見どころのなかった原田知世版の100倍は面白くてすぐに夢中になった。

このころ、深夜アニメに対する偏見が強くてアニメは避ける傾向にあったのだが、一方でポスト宮崎駿を探さなきゃなという気持ちもあって、細田守に注目して情報を得ていった。ジブリとはいろいろ因果があって、彼がジブリに入社していればいまごろ会社を率いていたのは彼だっただろう。良い演出家を見つけるのは砂漠の砂の中から金を見つけるようなものだといいながら、宮崎駿は手に取った金をポイと投げ捨てたのだ。彼は本当に創作に特化した人格なのである。

原作の主人公である芳山和子が、脇役で登場するところも気に入っていた。なんで声優が原田知世じゃないんだと少しだけ不満だったが、よく考えれば原田知世では声が若すぎると納得した。「時をかける少女」は何度も映画化されているので、芳山和子が主人公のパターンと脇で出演するパターンが確立しつつある。筒井もまさかこんなことになるとは思っていなかっただろう。

「時をかける少女」の魅力は主人公が良く動くことにある。この作品の主人公真琴は、走り回っているわりに重要なことから逃げ回っていて、その因果のもつれが未来の一点に集約されていく脚本も魅力のひとつ。とにかくよく動き、走り回る青春映画だった。

☆5.0。通算で10回ほど鑑賞している作品だが、機会があれば必ず観てしまう。


時をかける少女 (角川文庫)

時をかける少女 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/01
  • メディア: Kindle版



時をかける少女 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE)

時をかける少女 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE)

  • 出版社/メーカー: メディア・パル
  • 発売日: 2015/07/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



アニメ版 時をかける少女

アニメ版 時をかける少女

  • 出版社/メーカー: 金の星社
  • 発売日: 2007/04/01
  • メディア: 単行本



時をかける少女ARTBOOK―山本二三と絵映舎の世界

時をかける少女ARTBOOK―山本二三と絵映舎の世界

  • 作者: 山本 二三
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2020/08/08
  • メディア: 大型本



時をかける少女 NOTEBOOK

時をかける少女 NOTEBOOK

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/07/01
  • メディア: 単行本



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本日のツイカス 2021/06/10報道犯罪者日テレ [日記]


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