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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第26話「千年の夢」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第26話「千年の夢」最終回・後半



(OP)


ベルリとラライヤが降りたのはスコード教の神殿の奥の院だった。

上空から見ると天井部分がレイハントン家の紋章になってキラキラと輝いている。その中庭には青々とした芝が広がり、色とりどりの花が咲き乱れて、年中蝶々が舞っているようなのどかな場所だった。

普段はスコード教の幹部しか入れない奥の院に、モビルスーツで上空から舞い降りて侵入したのはベルリとラライヤが初めてだった。そのような不敬なことは絶対に赦さない厳格な雰囲気が漂う場所に立ち、ふたりは切羽詰まった外の世界とあまりに違うことに驚いていた。

ふたりは口々に案内してくれる人を探した。牧師や神父、職員、信徒いずれも見当たらない。少し戸惑いながらもふたりは建物の中へと入っていった。

上空からレイハントンの紋章に見えたのは、天井のステンドグラスのためだった。柔らかな光が天井と壁面の窓から差し込んで小さな埃をキラキラと輝かしていた。ベルリとラライヤは様々な色ガラスに照らされて2体の美しいオブジェのように映えた。

複雑な通路を抜けると礼拝堂があった。スコード教の上級幹部かもしくは神学校の成績優秀者しか入れない特別な礼拝堂なのでさほど広くはなく、壁面には古代の様々な宗教の神々がレリーフになって掲げられていた。

ふたりは注意深くG-メタルの挿入口になりそうなものを探した。壁の隅々、礼拝堂の椅子、祭壇、真っ白で装飾的な柱、そのどこかにG-メタルを使う場所があるはずなのだ。

ラライヤ「(ガッカリした表情で)ありませんねぇ」

ベルリ「上空から見たときはもっと大きな建物だと思ったのに、ここで行き止まりなのか」

ラライヤ「(人差し指を口に当て)誰か来ます。アイーダさん?」

ベルリの脳裏にも閃くものがあった。上空を見上げると、天井付近にグリモアが近づいてくるのが見えた。グリモアの方もすぐにG-セルフとG-アルケインを発見したのか、ゆっくりと中庭へと降りてきた。ハッチが開くと中からアイーダが姿を現した。

ベルリ「どうして姉さんがここに?」

アイーダ「さあ・・・閃くものがあったんです。ここに来なきゃいけないって。ふたりも?」

ラライヤ「わたしたちもそうです」

ラライヤが応えるのをアイーダは不思議そうに見つめた。ノレドでないことが奇異に感じられたのだ。

ベルリ「ここはスコード教の神殿なんですけど、G-メタルを使って何かをしなきゃいけないはずなのに、どこにも使える場所がなくて。もう時間もないし、最悪、みんな脱出してもらって、ぼくはG-セルフで薔薇のキューブを押し返せないかやってみようと思うんです」

アイーダ「そのことなんですけど、あたし、冬の宮殿でリリンちゃんにG-メタルを渡したままなんです。2枚必要だったら、あたしは取り返しのつかない失敗をしたことになる」

ベルリ「大丈夫(首に掛けたG-メタルを外す)。ぼくらはずっと何かに導かれて来た気がするんです。ひとりはジムカーオ大佐で、彼の敷いた道筋はとんでもないものだったけれど、同時に別の何かがぼくらを守っていてくれているはずなんです。そんな気がします」

ラライヤ「また誰かが来ますね」

アイーダ「あたしにも見えます。あれは法王さま!」

続いてやってきたのは、メガファウナの高速艇だった。着陸した船の中からゲル法王とリンゴが姿を現した。地面に降りたリンゴはそのままへたり込み、ゲル法王は地に足がつかないほど慌てていた。

リンゴ「もうダメだ。早く避難しなきゃ。すぐに薔薇のキューブがぶつかってくるよーー!」

ベルリやアイーダが口々にゲル法王に話しかけたが、法王は目をカッと見開いたまま口を真一文字に結んで神殿に向かう階段を駆け上がり、半ばまで達したところで突然止まって皆を振り返った。

ゲル法王「(怒鳴り声のような怖ろしい声で)生贄のふたりはモビルスーツへ! 他の者はこのわたくしについてきなさい。レイハントンの紋章は女の首に!」

普段の温厚なゲル法王の口調とはまったく違うために、4人の若者はのけぞるほど驚いた。しかし、歯をギリギリと噛みしめ宙の一点を見つめるゲル法王に威圧されて、ベルリはG-メタルをアイーダの首に下げると自分はG-セルフのコクピットに潜り込んだ。

隣ではラライヤが同じようにG-アルケインのコクピットに入って親指を立てて合図した。

ゲル法王「ついて来なさい!」

ゲル法王は神殿の中へと走り出した。

アイーダとリンゴは必死に法王の背中を追いかけた。アイーダは走りながら「生贄」のことを質問したがゲル法王はそれには応えてはくれなかった。

3人はステンドグラスの明かりが差し込む通路を抜けて、小さな礼拝堂へと辿り着いた。法王は法衣を翻して一気に参列者席を抜けると祭壇に上がってしゃがみこんだ。祭壇の床には扉があった。法王は扉を開いた。するとそこに下へ降りる階段が出現した。ゲル法王はためらいなく真っ暗な階段を下っていった。アイーダとリンゴもそれに続いた。

13段の階段はそのまま細い通路に繋がっていた。ゲル法王はなおもその細い通路を走り続け、アイーダとリンゴはその背中を追いかけた。息が切れかかったころ、行き止まりに突き当たって3人は脚を止めた。真っ暗だったためにリンゴはアイーダの背中にぶつかってしまった。

リンゴがパイロットスーツからペンライトを取り出して行き止まりになった壁を照らすと、そこにはレイハントンの紋章が刻まれていた。

2羽のつがいの鳥が、反対向きに並んだ形になっていて、上空から見下ろした神殿の天井と同じ形をしていた。

ゲル法王「さあここにそれを差し込んで」

アイーダはベルリから受け取ったG-メタルを紐から取り外して挿入口らしき場所に差し込んだ。するとレイハントンの紋章はうっすらと輝き、行き止まりになっていた扉が開いた。

眩い輝きが3人の視界を白く染めた。

ゲル法王は天に祈りを捧げてから光の中へ脚を踏み入れた。アイーダは法王が話した言葉の意味を気にして「生贄」のことを訊ねながら光の中へと脚を踏み入れた・・・。







アイーダ「なッ!」

輝く光の中へ脚を踏み入れたはずのアイーダは、自分が椅子に座っていることに驚愕して脚をジタバタと動かしてしまった。視線を上げると眼前に青い地球が見えている。メガ粒子砲の閃光がこちらに向かって飛んできている。撃ってきているのはムーンレイスの艦隊だった。

何が起こったのか理解するのに少し時間が掛かった。彼女は自分の掌を眺めて意識がエンフォーサーの中にあることを理解した。いま彼女はエンフォーサーの中に入ってシルヴァーシップの中央指令室の椅子に座って船を操作しているのだ。

そうとわかると目の前に広がる光景が何を意味しているのかすぐにわかった。彼女は声に出さず攻撃と航行の停止を指示した。すると彼女が乗り移ったシルヴァーシップは逆噴射をかけ、そのまま後ろの薔薇のキューブに激突した。

シルヴァーシップは一瞬で破壊されたが、薔薇のキューブには傷ひとつつかなかった。

アイーダはまた自分がシルヴァーシップの中央指令室にいるのを理解した。また別のエンフォーサーに乗り移ったのだ。そして自分の指示が乗っている船だけに届くわけではなく、別の船の別のエンフォーサーにも連動しているのだと感覚的に悟った。

彼女がシルヴァーシップ全艇に攻撃と航行の停止を命じた瞬間のことだった・・・。







ディアナ・ソレルは敵のシルヴァーシップが突然逆噴射をかけて薔薇のキューブにぶつかっていくさまを唖然と眺めた。何が起こったのかと考える間もなく、彼女は自分の身体の中をアイーダ・スルガンが通り過ぎて行ったことを悟った。

ディアナ「全軍薔薇のキューブの側面に回り込んでエンジンを狙え!」

ディアナ・ソレルの命令一下、ムーンレイスの艦隊は薔薇のキューブの前面から回避行動を取って側面に回り込んだ。すでに地球は眼前に迫っており、あと少し回避が遅れれば重力に引かれて手遅れになる寸前であった。

彼女たちを悩ましていたシルヴァーシップの艦隊は逆噴射したまま薔薇のキューブに激突して粉々に砕け散っていく。その様をモニターで眺めながら、ディアナ・ソレルは別のことを考えていた。

ディアナ(そうですか。あの方は地球でそんなお仕事をされてから亡くなりましたか)







冬の宮殿で宇宙世紀の歴史の研究に余念のなかったウィルミット・ゼナムとリリンは、目の前の空間にゲル法王の姿が映し出されて驚いた。

ウィルミットは袖でさめざめと涙を拭った。

ウィルミット「法王猊下! ああ、なんという姿に。おいたわしや・・・」

横にいたリリンは法王の姿を見上げながら大きく頷くと、首から下げていたアイーダのG-メタルを挿入口に差し込んだ。







ベルリ「えええーーー!!」

生贄とはどんなものだろうと身構えていたベルリとラライヤは、G-セルフとG-アルケインが突然薔薇のキューブの真ん前に出てしまってたことに驚いた。薔薇のキューブは30分もしないうちに大気圏に突入してキャピタル・タワーを直撃するところまで迫っていた。

何か武器がないか探したベルリは、自分がやるべきことは攻撃ではないと悟った。彼にはG-メタルはないのにG-セルフのすべての隠された機能を彼は理解していた。ベルリはいまG-セルフと一体となっており、それはラライヤも同じであった。

ベルリにはラライヤの姿が見え、ラライヤにはベルリの姿が見えた。しかし、それだけではない。薔薇のキューブにはノレドとルイン、そしてジムカーオがいるのがはっきりと見えた。

ジムカーオが放つオーラに、悪意はまったくなかった。その意味に気づいたのはルイン・リーであった。

薔薇のキューブの中央部分側面でYG-201と交戦していたルインとノレドは、敵のモビルスーツが自爆していくのを見ながら全身の感覚がモビルスーツと一体になるのを感じ取った。ルインにはジムカーオの姿がハッキリ見えた。そして彼が何を行おうとしていたのかもすべてわかったのだ。

ルイン「ビーナス・グロゥブでニュータイプ能力を発揮したとき、あなたはスコード教に改宗してエンフォーサーの仲間になるか、儀式の末に食べられるかと迫られ、クンタラの教えを捨てたのだ。それからあなたはずっと大きな虚無を抱えてひたすら大執行の時を待った。信仰を捨てて生き延びたことを悔やむでもなく、喜ぶでもなく!」

巨大な精神感応はルインとベルリ、そしてジムカーオへと拡がっていった。

ベルリ「神に会いたいがためにクンパ大佐の大罪を見逃し、父と母が殺されることも黙認した! ニュータイプの力というのはそういうことのために使うものなのか!」

ふたりの姿を交互に見比べながら、ジムカーオは嬉しそうに手を叩いた。彼の眼にも確かにルインとベルリが見えていた。

ジムカーオ「おお、これは・・・。てっきり一方的に大虐殺をして終わりかと思っていたよ。さすがにそれは気が引けたんだ。君たちには感謝しなきゃいけないな」

ルイン「そんなことのために!」

ベルリ「どれだけの人を殺したというんだ!」

ジムカーオ「教えてあげるが、現在までで人類の人口の4分の1が死んでいる。ラビアンローズが地上に落下すれば、100分の1にまで激減する。大執行とはね、こういうものなんだ。君たちは死を怖れているが、宇宙世紀の理屈ではこれくらいは平気なんだよ。なにか、レイハントンが仕掛けを施しているようだから、自分はそちらを調べさせてもらう。では失礼」

そう告げるなり、ジムカーオの気配が忽然と消えた。ニュータイプとしての能力に長けた彼は、精神感応をすることも切断することも自在にできるようだった。

ルイン「その力で人々を操っていたのか! クソッ!」

ラライヤ「時間がない!」

ベルリ「みんな避難してください! ぼくが・・・ガンダムがこれを押し返してみせます!」

ベルリは薔薇のキューブに突進した。真っ黒な四角い塊にG-セルフが取りついても、米粒より小さく感じられた。ラライヤはG-セルフがベルリ自身であって、またベルリとは別の誰かであることを知った。ベルリもまたいつのころからか彼を守護する力が憑依していたのだ。

ラライヤは感覚器官が一体化したG-アルケインで薔薇のキューブを押し返すなかに加わった。

ルインもまた避難はせずにその列に加わるため、彼はG-シルヴァーでノレドの元を飛び去っていった。

彼らの会話をノレドも聞いていた。しかし彼女には自分にも何かできるという確信がなかった。ベルリのところに行って、一緒に薔薇のキューブを押し返せばいいのか、避難すればいいのか、ベルリはどちらなら喜んでくれるだろうと彼女は考えてしまった。

ノレドはまたボロボロと涙をこぼしながら薔薇のキューブの中央部分で立ち竦んだ。彼女の耳に、ベルリの声が聞こえた。

ベルリ「ノレド! 手紙の約束を果たせ! 君が書いてくれた手紙の約束を今こそ果たしてくれ!」

ノレドはハッと顔を上げて正面を見た。そこには薔薇のキューブなど存在せず、ただ必死に巨大構造物を押し返そうとするベルリの姿だけがあった。

ノレド「手紙、受け取ってくれたの?」

ベルリ「サウスリングの机の中にノベルに守らせて置いてあっただろう! ずっとパイロットスーツの中に入れてある!」

ノレドは顔を真っ赤にしてベルリを見つめ、そして自分が彼に宛てた手紙が確かに懐に隠してあるのを知った。

ラライヤ「ノレドさん! G-ルシファーはそんなものじゃないでしょ!」

ノレドは自分がG-ルシファーと一体となっていることを改めて思い出し、じっとその設計思想を走査していった。

ノレド「そうか・・・、光の粒子、月光蝶だ!」

ノレドがそう叫んだ瞬間、パイロットシートのエンフォーサーが動き出した。彼女はもうバララ・ペオールの顔ではなかった。キュルキュルと高い動作音を立てたエンフォーサーが薔薇のキューブの全体構造を解析した。

ノレド「2時間掛かる?全部消滅させるのに2時間も?!」








ハリー「しぶとい!」

ハリー・オードはターンXとオルカともに∀ガンダムがキャピタル・タワーに向かうのを阻止するために戦っていた。しかし突然∀ガンダムは向きを変えて上昇し始めた。ハリーが視線を上げるとその先には巨大な薔薇のキューブがタワーめがけて落ちようとしているのが目に入った。

ハリー「オルカは退避! ターンXのパイロット! コクピットを開けろ。(ターンXのトリーティがハッチを開く。ハリーもスモーのハッチを開ける)ロープを渡すから機体を交換するぞ。スモーは地上に自動で降りるようにセットしておく。(トリーティはあまりの高さに恐怖している)怖がるな! ターンXに乗ったままならお前も死ぬぞ!」

ハリーは渡したロープを伝ってターンXに移動した。トリーティもヘルメットの中でしきりにスコードスコードと唱えながら必死の形相で渡ってみせた。

ハリー「あとは自動だ。お前は勇敢だったよ」

ターンXに搭乗したハリーは、オルカと自分のスモーが退避したのを見届けてから、全速で∀ガンダムを追いかけた。

彼には方向を変えた∀ガンダムに何者かの意思が宿ったように感じていた。おそらくは遠隔操作で動かされていたはずの∀ガンダムに、別の何かがやって来て操縦系を奪い去ったのだ。ハリーにはその人物に覚えがあった。だが確信がなかった。

いま、∀ガンダムとターンXの2機は、第二宇宙速度を超えて飛行していた。向かう先は薔薇のキューブであった。先行した∀ガンダムは円を描くように薔薇のキューブに取りつくと月光蝶を放って巨大な構造物を消滅させていった。

∀ガンダムとランデブーしたハリー・オードの眼下にあるザンクト・ポルトから眩いばかりの光が放たれ、レイハントンの紋章が宇宙空間に浮かび上がった。その光が∀ガンダムに触れたとき、ハリーはそこにディアナ・ソレルの姿を見た。

ハリー「ターンX! 月光蝶を放て!」








ザンクト・ポルトから閃光が放たれたのを、ケルベスはクラウンの中から眺めた。

彼が144番ナットを制圧したとき、そこにはザンクト・ポルトからの避難民が集結していた。すでに彼らに抵抗の意思はなく、制圧は簡単であったが、それより彼が頭に来たのは寝返った自分の教え子たちが避難民を放置していたことだった。

彼はクラウンの位置を確認してすぐさま運航表を切ると、一般人から先に地上へと降ろしていった。その手際の良さに驚いた彼の生徒たちはますます心酔した表情で彼の指示をテキパキとこなしていった。

ケルベスは1機を残してクラウンを地上に降ろしてしまうと、1台のレックスノーと数人のガード兵士を率いてザンクト・ポルトへと向かっていたのだ。

輝きを目にしたとき、彼はベルリとルインが共に薔薇のキューブを阻止するために力を合わせているのだと悟った。そして、輝きの源がゲル法王なのだとも理解した。

ケルベス「いいか、みんな。スコード教はゲル法王猊下の下で生まれ変わる。これからは真の世界宗教になっていくだろう」

だが彼がそう告げるまでもなく、その場にいた兵士たちすべてが彼と同じことを考えていた。








ジット団のメンバーと共にラトルパイソンに乗っていたマニィは、小さな子供を抱えたまま自分はもう地球には戻れなくなったのだと悟った。

ルインはベルリと共に戦っている。彼は罪人だ。彼と共に行くなら、もう地球には住めなくなったのだ。彼女はごめんねごめんねと子供に謝りながらザンクト・ポルトから発する光を眺めた。

彼女のそばで同じように子供を抱えていたクン・スーンは、しきりに頷いていた。

スーン「そうか、そういうことだったのか」

コバシ「レコンギスタなんてしなくても、レイハントン家が何もかも用意していてくれたんだね。あたしたち、法王庁の連中に踊らされすぎたみたい」

スーン「無理なんかしなくても、地球に来られたんだ・・・。レイハントン家が戦ってきたのは、軍産複合体とニュータイプ研究所。彼らの地球再支配がつまりレコンギスタだったと・・・」

もっと早くわかっていればキア隊長は死なずに済んだ、その言葉を飲み込んだクン・スーンの気持ちはコバシにはよくわかっていた。それはニュータイプの共感現象がなくてもわかったのである。








部屋に入るなり気絶して何の役にも立たなかったリンゴがすっくと立ち上った。彼の身体はジムカーオに乗っ取られていた。

リンゴの眼には神々しい光に包まれたゲル法王の姿が映っていた。そのまま彼はゲル法王の法衣を引き掴んで倒そうとした。ところがその手を掴んだアイーダが手首を捻って投げ飛ばしてしまった。

アイーダは法王を守るように立ちはだかった。

アイーダ「これくらいの心得は父に仕込まれています!」

リンゴ「まいったな。男の方が強いと思ってこちらを選んだのにとんだ見込み違いだった」

その口調はジムカーオそのままであった。アイーダは両手を前に出して構えたままリンゴを殴る隙を伺った。リンゴに憑依したジムカーオは、これはダメだとすぐに匙を投げてしまった。

リンゴ「ではもうひとりのレイハントンに忠告しておこう。このじいさんを中心にスコード教を真の世界宗教にしようと考えているようだが、ニュータイプが起こした奇蹟を教義の中心に置く限り、神に迫ろうとする科学者は必ず現れる。そして神のごとく人々を操るニュータイプもまた現れる。人間の残留思念の研究は、人体改造を強いて人の感情を破壊する。地球を救ったこの宗教こそが再び人類に過去の宇宙世紀と同じ轍を踏ませるだろう。だからこそ人間は真のニュータイプに進化するしかなかったのに、サイコミュなどというこざかしい方法で大執行を阻むとはレイハントンは愚かしい王であった。だが、負けは認めよう。君らが生き残ることがあるなら、再び相まみえることもあろう」

そう告げるとリンゴは再び失神して床に伸びてしまった。

アイーダ「わたくしとベルリは必ず正しい道を見つけてみせます!」

アイーダは虚空に向かってそう叫んだ。








ザンクト・ポルトから発した強烈な光が薔薇のキューブに照射された。眩い輝きがベルリ、ラライヤ、ルインの機体を神々しく照らし出した。

3機のガンダムはリミッターを遥かにオーバーした出力で薔薇のキューブを押し続けていた。後方にはムーンレイスの大艦隊がパルスエンジンのノズルを攻撃し続けている。しかし大気圏突入が近く、ディアナ・ソレルは艦隊を引き離す指示を出さなくてはならなかった。

ノレドのG-ルシファー、∀ガンダム、ターンXの3機はすべてのエネルギーを月光蝶の放出に充てていた。3機が放つ光の粒子は薔薇のキューブの巨大な質量を削っていっていた。

ノレドは生産設備のあるキューブ後方をあらかた消滅させてしまっていた。連結部は素材が硬く月光蝶すら効かない。張り付いたナノマシンが機能を停止して砂のように舞うばかりであった。

∀ガンダムとターンXは先端部分の巨大なキューブを半分以上失わせることに成功していた。この2機の参戦は意外だったらしく、ディアナ・ソレルはソレイユのブリッジの窓に顔を当て、∀ガンダムの操縦者を心に捉えようとした。

しかし残された時間は少なくなっていた。タワーまでの距離はわずか。まだ中心部分の球体が残っている。球体部分の下半分はパルスエンジンの本体だった。これを爆発させるとタワーに被害が出るのは確実だった。ディアナは名残惜しみつつも全軍に退避命令と大気圏突入準備を急がせた。白いソレイユと同型で黒い船体のオルカは薔薇のキューブを離れていった。

ベルリ「(必死の形相で)ノレドとラライヤは退避してくれ! あとはぼくが」

ルイン「ノレドとラライヤは下がれ! もう十分だ!」

飛行形態でエネルギーを消費していたG-アルケインはフォトン・バッテリーが尽きかけ、限界が来ていた。ノレドのG-ルシファーも無断出撃でバッテリーを交換しておらずエネルギーの残存表示が赤く点滅している。それでも薔薇のキューブから離れようとしないふたりに、外部からの介入があった。

G-アルケインとG-ルシファーはコントロールを失ったままフワリと浮くように薔薇のキューブから離れていった。ラライヤとノレドは必死にコントロールを取り戻そうともがいたが、2機は完全に機能を停止して地球の重力に引かれていった。

ベルリ「ノレド! ラライヤ!」

ドニエル「ルアン、オリバー、ノレドとラライヤを救出しろ。機体はそのまま大気圏に落として構わん。ふたりは必ず助けるんだ! ステア、角度調整!」

ステア「イエッサー」

重なり合うように落ちていく2機から脱出ポッドが飛び出した。ルアンとオリバーはグリモアで艦を離れてふたつの丸い球体をキャッチしてモビルスーツデッキへと戻った。そしてメガファウナも薔薇のキューブを離れて大気圏突入準備に移行した。

ルイン「まだかなりの質量がある。とにかく最後までこいつが地球に落ちないように頑張るだけだ」

ベルリ「絶対に絶対に落とさせやしません!」

G-セルフとG-シルヴァーは角度を変えるためにすべてのエネルギーを放出した。レイハントン家が用意した2機の最終系ガンダムの後方には虹色の輪が何層にも重なって伸び縮みを繰り返した。かろうじてタワーへの激突は避けられるほど角度が変わったとき、∀ガンダムは白い表面が溶けるように消えていき、巨大なパルスエンジンを繭のようなもので覆い始めた。

するとそれに呼応するかのようにターンXの表面を覆うナノマシンも形を崩し、そのすべてを繭の成形に使い果たして内部フレームだけになってしまった。

ターンXの頭部のコクピットが外れた。

ハリー「ディアナさま!」

∀ガンダムの内部フレームに残ったディアナ・ソレルの残留思念は、振り返ることなく少しだけ横顔を微笑ませると、その思念で両機の縮退炉を爆発させた。

縮退炉の爆発はパルスエンジンの爆発を誘発させた。薔薇のキューブはこれによってクルクルと回りながら重力圏を脱し、地球を遥かに逸れて宇宙の彼方へと消え去っていった。

爆発が起きたとき、2機のガンダムとターンXの頭部は地上へと吹き飛ばされた。ターンXの頭部はギリギリのところでソレイユが回収したものの、ガンダムは間に合わず大気圏へ突入してしまった。

マニィを乗せたラトルパイソンが、ガンダムの落下とすれ違った。そのとき、クン・スーンの赤ん坊とマニィの赤ん坊が同時にキャッと声を出して身体をのけぞらせた。するとガンダムを白く発光する膜のようなものが包んだ。

マニィ「ルイン!」

スーン「誰も死ぬな!」

2機のガンダムは手足が爆発を起こしてもがれてしまった。真っ赤になった頭部も吹き飛んだ。しかし、コクピットの部分だけは白く発光する膜に覆われて爆発を免れた。

2機は徐々に冷却されていった。

ドニエル「ステア! 何とかあれを!」

ステア「任せて!」

メガファウナは胴体部分だけ残ったガンダムの下に入り込み、速度を合わせてモビルスーツデッキに入れようと微調整を繰り返した。

ガンダムの胴体は無事に回収された。巨大なマグネットに張り付いたガンダムの胴体から、ベルリとルインが同時にハッチを開けてお互いに視線を合わせた。

ベルリ「(にっこり笑いながら)マニィに子供が生まれてたんですね。おめでとうございます」

ルイン「(俯きがちに)ああ、ありがとう、ベルリ」

焼けただれたガンダムの消火活動によってモビルスーツデッキはもうもうと水蒸気に包まれて、ベルリとルインの姿を靄の向こうに消していった。




       -ベルリの手紙-

母さんへ

母さんが地球に戻ってたった2日でクラウンが定時運航を開始したと聞いて驚いています。

リリンちゃんを引き取ってくれたと知り、感謝にたえません。ぼくはもう母さんの傍にはいられなくなったけど、リリンちゃんがいれば母さんも退屈せずに済みそうですね。ぼくはあの子にしてはいけないことをしてしまったので、母さんの心遣いにただただ頭を下げるしかありません。

ルイン先輩とマニィ、それにクリムさんは、それぞれクンタラ戦士の若者とゴンドワンの若者と共にクレッセント・シップとフルムーン・シップに搭乗してビーナス・グロゥブへ旅立っていきました。本当はぼくが全権大使にならなくてはいけないのですが、トワサンガの立て直しに時間を取られ、ふたりに甘えた格好になりました。ふたりはビーナス・グロゥブでラ・ハイデン総裁の裁きを受けることになります。しかし、死刑も懲役刑もないビーナス・グロゥブの方がふたりの罪は軽く済みます。それにあちらはやることがたくさんありすぎて人手が足らないようなので、おそらくふたりの能力は必ず役に立つでしょう。

アメリアのアイーダ姉さんとは頻繁に連絡を取っています。地球のすべての若者を一定期間宇宙で労働させることにより勤労意識を植え付けるというぼくの方針は、一部の人から徴兵制のようだと批判を受けていて、姉さんには苦労を掛けています。ズッキーニ大統領に毎日のように攻められて頭に来たのか、次の大統領選挙に出馬すると息巻いています。

しかし、アメリアに移住を果たしたディアナ閣下が、宇宙に住み、義務意識を育てることこそ教育の根幹にすべきだと力説されて、徐々に支援者を増やしているようです。彼女のカリスマ性は素晴らしいものがあります。将来は姉さんのライバルになるかもしれません。

トワサンガはハッパさんの協力もあって少しずつ機能を回復しつつあります。王政から民政への移行について母さんからいただいたアドバイスはとても役に立っています。王政を放棄する場合は、その権力構造を根本的に解体してからでないと、民主主義から独裁者が生まれるというのはその通りです。正統性の根幹を変えるのは大変ですが、トワサンガは地球からの学生を受け入れ教育する場所に生まれ変わるので、学生に政治の一翼を担ってもらう仕組みができないか検討中です。サウスリングの若者たちが様々な面で協力してくれるので助かっています。母さんも仕事をケルベス運航長官補佐に引き継いだら是非1度トワサンガの講師を引き受けてもらいたいものです。

ラライヤはすでに優れた教官で、兵器に利用されないモビルスーツの開発テストと宇宙労働規約の策定を同時にやってもらっています。きっと学生に大人気の先生になるはずです。

さて本題ですが・・・






ドニエル「(メガファウナの砲台に腰かけるベルリとノレドを眺めながら)結局あのふたりは結婚するのか?」

ギセラ「(ドニエルと並んでふたりの背中を眺めつつ)仲がいいのか悪いのかわからないんですよね」

副艦長「(ギセラの隣で)ビーナス・グロゥブからフォトン・バッテリーが配給されるようになったら自分らもメガファウナを捨ててフルムーン・シップ勤務になりますからねぇ。トワサンガと地球を往復する仕事に就かなきゃいけないから、結婚式を挙げるなら早くしてもらいたいんだなぁ」

ドニエル「ベルリの奴、ヤケにノレドにつっけんどんにすると思っていたら、ラブレターもらって照れてただけとか、何考えてんだかな」

副艦長「坊やなんでしょ」

ギセラ「艦長もステアがビーナス・グロゥブに行っちゃって寂しいんでしょ?」

ドニエル「そんなことはないぞ。そんなことはない」

2度と使われないはずの砲台に腰かけ、地球を眺めて話し込むベルリとノレドは、ときに真剣に、ときに笑い合い、いつまでもいつまでもそこに座り続けていた。

メガファウナの中の3人は、待っていても埒が明かないと、解散を決めて持ち場に戻っていった。




-完-




「ガンダム レコンギスタの囹圄」はこれで完結です。最後までお付き合いくださりありがとうございました。

富野由悠季監督の「ガンダム Gのレコンギスタ」劇場版が完成するまで、軽い気分で読んでいただければ幸いです。


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