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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第7話「ムーンレイス」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第7話「ムーンレイス」前半



(OP)


ベルリがモビルスーツデッキに降りてきた。それを見つけたハッパが声を掛けた。

ハッパ「G-セルフを出す? 何かあったのか?(辺りを見回し)警戒警報は鳴っていないようだが」

ベルリ「(G-セルフに乗り込みつつ)月面から微弱な救難信号が出てるみたいなんです。ちょっと見てきます。皆さんはフルムーンシップへ急いでください」

ハッパ「月面から? 宇宙人でもいたのか・・・、あ、ベルリ!」

起動させるなりベルリはメガファウナを飛び出していった。

G-セルフのモニターにも救難信号はキャッチされていた。ベルリは月の重力圏に入り、落下してしまわないように気をつけながら信号が発せられる地点へ急いだ。

ベルリ「お月さまに降りるなんて夢みたいな話だけど」

月面の砂の上に舞い降りたG-セルフは、大きく砂塵を舞い上げた。月の表面は、白と黒の世界だった。みるみるうちにG-セルフの機体表面温度は上がっていき、コクピットの空調装置が作動して冷たい風を吹き出した。ベルリは慎重に並行方向へ推進しながら発信機を探した。

月面赤道付近には高さ100メートルほどの位置に人工構造物がある。それが何をするためのものなのかベルリには分からなかった。ただ触れてはいけない気がしたので、頭上に見上げながらG-セルフをぶつけないように操縦するばかりであった。

遠くクレーターの影で光るものを見つけ、そちらへ向かった。すると巨大なハッチが開いて岩の奥に深い暗闇を出現させた。モビルスーツの高さより遥かに大きな何かの入口であった。見渡したところ、戦艦の発着場のようにも受け取れる大きさであった。

ベルリ「何の施設何だこりゃ。ここから救難信号が出てた? いや、もっと奥。この奥だ」

クレーターの縁に設置された巨大なハッチの奥には人工的な空洞があった。足元の形状からモビルスーツデッキかシャトルの発着場に思えた。いつの時代のものかはわからない。かなりの量の砂が溜まっていた。放棄されてかなりの年月が流れていそうであった。

G-セルフに乗ったままさらに奥に進むと、床が途切れ、崖のように切り立った溝があり、その向こうは壁、手前に下に降りていく細長い空洞が出現した。その巨大な溝は幅が数十メートル、長さは光が届かなくなるまでずっと左右に続いていた。ベルリは機体を発光させて静かに溝の中に降りていった。

ベルリ「月は巨大な人工施設だったんだ。そりゃシラノ-5があるくらいだから月だって基地にするだろうけど・・・。(G-セルフが着地する音と衝撃)え? 水?(上を見上げ)高さも100メートルはある。人が使うものにしては大きすぎるし、なんだここ?」

溝の下部には3メートルほど水が溜まっていた。G-セルフに乗っていてはわからないが、降りれば溺れてしまう水量だった。

水をかき分けまっすぐ進むと、地球ではありえないほどの波が立った。G-セルフは横穴を見つけてその中に入った。横穴もモビルスーツで余裕をもって入れるほど巨大だ。人間が使うにしては大きすぎる施設であった。水は横穴にも続き、さらに奥にも溜まっていた。

どこかで見た光景だった。ホテルのプールを巨大にしたような光景。既視感の理由はすぐに分かった。ビーナス・グロゥブの海に似ていたのだ。あれはここよりはるかに巨大ではあるが、設備の仕組みは同じはずであった。人工的に作った海の跡なのだ。ただし海水の量は減ってしまっている。

ベルリ「ここは・・・、海だ。かつて海だった場所だ。さっきの大きな溝が水を循環させる水路だとすると、水を使って施設内部の気温変化を小さくする装置かもしれない。お月さまにこんなものがあるなんて。(ヘルメットを脱いで頭を掻きむしり)これもトワサンガのものなのか?」

G-セルフは一気に岸まで飛びあがった。






ラライヤが操縦するG-ルシファーはクレッセント・シップの出向に間に合った。ハッチが閉まるなりすぐさまフライトが始まるというギリギリのタイミングだった。

機体から顔を出したラライヤを見て近づいてきたのは、ビーナス・グロゥブ守備隊からメガファウナに乗って地球へとやってきたパイロットたちだった。

彼らは仲間を数人戦闘で死なせてしまったが、クレッセント・シップに同乗して地球一周を楽しんだのち、再びビーナス・グロゥブに戻る手はずであったという。ところが肝心のクレッセント・シップが大気圏突入と大気圏脱出で船体が傷んでしまい、修理に手間取っていたとのことだった。

守備隊員A「ラライヤさん、またこうしてお会いできて光栄です」

G-ルシファーを降りたラライヤの周囲にはたちまち人だかりができた。それを横目に少し頬を膨らませながらノレドはゲル法王とリリンを伴ってクレッセント・シップの乗客となった。

クレッセント・シップのエル・カインド船長は4人をブリッジに迎え入れると、ゲル法王に恭しく一礼してから、いま一度ノレド、ラライヤ、ゲル法王、リリンの顔を眺めまわした。誰が責任者なのか確かめようとしたのだ。そしてノレドに狙いを定めた。

エル「これはこれはトワサンガ・レイハントン家のお妃・・・。(心配そうに小声で)でしたよね?」

ノレド「(大袈裟に頷き)そうじゃ、よきに計らえ」

エル「(急に崩れた口調になり)船というのは重さが重要なのですよ。突然モビルスーツで乗り込まれると困るんです。まあ、持ってきてくれたのがビーナス・グロゥブのモビルスーツのようなので、回収ということで大目にみますが。それに(ノレドに耳打ちして)なんで法王さまがここにいらっしゃる?」

ノレド「それは・・・(わざと大きな声で)誰もかれもスコード教をないがしろにするから、スコード教こそが太陽だということを知らしめるためです!」

副長「ああ、それは良いお考えで」

法王「ノレドさん、ノレドさん・・・」

ノレド「早速ですけど、法王猊下に飛び切りの部屋を用意してください。それにあたしたち3人には何か食べるものなどを・・・、エヘヘ」

ノレドはポケットにしまってあったチョコレートをリリンと分け合っただけで、しばらく何も食べていなかったのだった。

エル「法王猊下、空いている中で最も良いお部屋をご用意させていただきます。他の皆さんは食堂へ。長旅になりますから。また走っていただきますよ」






巨大なコンクリートの壁を超え岸に降り立ったベルリは、救難信号が発せられている位置を確かめた。

ベルリ「ここからかなり地下にありそうだ。というか、月の上側に近いぞ」

彼はフックを使ってG-セルフを降りた。重力はおよそ1G。水路の重力は軽かったのに、人間が移動する場所は地球と同じ重力してあった。どんな技術が使われているのか見当もつかない。

岸には倉庫群が立ち並んでいた。明かりがなく、手にした懐中電灯とヘルメットのライトが頼りであった。酸素濃度が低くてヘルメットは外せなかった。しかし、倉庫の大きさ、乗り捨てられた自動車などは人間が利用するサイズだ。かつてここに人間が住んでいたのである。

ベルリ「トワサンガの人たちが放棄した施設なのか、もっと前のものなのか・・・」

ベルリは発信器のある場所へ辿り着こうと、廃棄された車が動くか確かめてみた。汚れの酷いものは朽ちてしまって使い物にならず、運転席は仕様がわからないものばかりで、ボンネットがやたらに大きかった。壊れているものを開けてみると、ボンネットの下に複雑な仕組みの機械が詰まっていた。

比較的新しいバギー1台が作動した。運転席はユニバーサルスタンダード、フォトン・バッテリーで動く。このバギーに関しては新しいものであった。誰かが最近までこれを使っていたのである。救難信号の主と同じなのかどうかは分からなかったが、運転席に座ったベルリはそれでできるだけ発信器を探してみることにした。

廃墟となった海を伴う施設は、月の表面地下1キロメートルの位置にあることがわかった。岩の天井はかつてガラスで覆われていたのか、ところどころまだ一部が残っていた。扉に55と書かれたハッチの手前で車を乗り捨てたベルリは、コンソールに電力が来ていないことを確かめると、少し離れ場所にあった非常用のハッチを手動で開けて、細い通路に入っていった。

そこは重力が軽くなっていた。発信器の位置は動いていなかったが、近づくそぶりもない。通路はどこまでも続き、いくつも枝分かれしていたために、何度もマーキングしなければならなかった。

通路の先にはあまりに巨大なドッグがあった。手すり越しに下を覗き込むと、メガファウナよりさらに大きな、見たこともない形の宇宙船が停泊していた。ドッグの上部には左右に開閉する扉がついている。そこから離発着するのだ。かなりの高さがあり、扉の向こうがすぐに月面であるのは容易に想像できた。

この区域に酸素は存在しなかった。そしてベルリはあることに気がついた。

壁に描かれている案内表示の文字が、海やその岸にあったものと違うのだ。この巨大なドッグは、宇宙世紀時代のものであった。

ベルリ「あれれ、道に迷っちゃった?」

救難信号を確かめてみると、それはふたつに増えていた。ひとつはごく微弱で途切れがち、ひとつはそれよりは強い信号だったものの、やはり微弱である。

ベルリ「(周囲を見渡しながら)ふたつの信号が重なっていたんだ。ひとつはかなり距離がある。月の裏側に近いところだ。もうひとつは・・・、こっち!」

発信器を追っていくと、また途中から文字が変わる場所に出た。どうやらここは宇宙世紀時代の遺跡にのちの時代の人間が手を加えてできたものらしかった。1時間ほど移動して、ベルリは他の場所より整備された区画に出た。そこはまだ動力が生きており、コンソールもユニバーサルスタンダードであった。ところがその区画を抜けるとまた見たこともない装置が並んだ部屋に出た。古代の動力室のような雰囲気の場所であった。計器の一部に通電しており、パネルに明かりが点っている。

ベルリ「どうなっているんだここは?」

部屋の奥にあったハッチは、丸い取っ手がついており、左に回すと緩んで扉が開いた。酸素が噴き出してきたので慌ててハッチをしっかりと閉じる。ベルリが開けたのはエアロックだった。計測器を確認するとその通路には呼吸可能な空気が十分に供給されていた。気温も摂氏10度。恐る恐るバイザーを上げてみると塩素の臭いが鼻についた。

さらに奥に進んでいくとT字路に出た。そこから先は床が金属製で、左右の壁と天井が透明な継ぎ目のない板でできていた。叩くとガラスではない。透明な壁からは微かに青い光が漏れている。暗闇に目が慣れたベルリにはそれすら眩しく感じた。発信器の位置は左だったので、ベルリは左に折れて進んだ。

光を発した透明な壁は、四方に及んでいることがわかった。透明な壁の向こうに巨大な空間があり、そこに人間ひとりが歩けるほどの細い空間が渡してあるのだ。金属の床は滑り止めのようなものであった。ベルリが歩いているのは、巨大な透明なケースの中のモグラの穴のようなものだった。

壁は微かに結露で濡れていた。パイロットスーツの袖で拭ってみると、その先には長さ2メートルほどのボートのような形のケースが数えきれないほど置かれている。それは10メートルほどの高さに8段重ねてあり、空間にびっしり整然と並んでいる。どこまで続いているのかわからないほどであった。

上下左右すべてにそれが並んでいた。左右の部屋の高さだけで10メートル、上と下の空間がどれほど拡がっているのかはわからない。ボート状のケースの中に何が入っているのかは、ケースの上部が曇っていてわからない。透明な壁には継ぎ目がないのでどこから入っていいのかも不明であった。

ベルリは発信器の位置を頼りになおも進んだ。徐々に近くなってきたので先を急いでみると、また違う空間に出た。そこは金属で形成された馴染みある空間であった。明かりはないが空気は存在し、機器類も正常に作動している。文字盤は現在のものと文法が違う点があるものの、文字は同じである。

救難信号はこの部屋から発信されていた。耳を澄ますと小さな警告音が断続的に聞こえてきた。

ベルリが驚いたのは、この部屋にはレイハントンの紋章がいたるところにあることだった。ベルリは首から下げたG-メタルを取り出し、警告音を発している機器に差し込んだ。すると合成された音声が古い文法で「封印を解除する」という意味の言葉を発した。ガタガタと空気を震わす大きな音がしたかと思えば、続いて読み物に出てくる怪獣の唸り声のような低音が響き渡った。

ベルリ「え? ええーーーーーーーーッ?」

G-メタルによって、設備は再稼働したのである。

ベルリ「なんなの? ぼくは何を助けに来たの? これはいったい何事なんだ?」

先ほど通ってきた通路へ戻ろうとしたが、透明な壁がいつの間にか出現しており、塞がれてしまっていた。焦ったベルリは別のハッチ状の扉を開けて通路に出た。そこは長方形の見慣れた金属製の通路であった。天井には明かりが点っており、床にはトワサンガの19世紀アメリア様式の服を着た3人の男性が倒れていた。彼らはすでに死んでいたが、亡くなってからさほど時間は経っていないようだった。

ベルリ「空気ッ!」

廊下の酸素濃度はかなり低くなっていた。息苦しくなって、ベルリは慌ててバイザーを下げながら出てきたばかりのハッチを開けて部屋の中に戻った。

ベルリ「なんなの? いったいなんなの?」

確認すると部屋の中の空気は充分にあった。廊下で倒れていた男たちは、廊下側の酸素低下に気づかず低酸素症で倒れ、そのまま息を引き取ったようにみえた。

ベルリは自分がとんでもないところに迷い込んだと悟って壁に身体を押しつけて息を整えた。そしてパイロットスーツの残存酸素量を考え、空気を節約するためにエアーの供給を止めて、バイザーを再び上げた。その瞬間に部屋には煌々と明かりが点った。

ベルリの視線の先には、金髪の美しい女性が全裸で佇んでいた。

ディアナ「あなたはレイハントン家の者ですか?」

ベルリ「(視線のやり場に困りながら)え? いえ、いや、はい」

ディアナ「ようやく我らの封印を解く気になったわけですね。それは結構。(全裸のままベルリに近づき)して、冬の城の技術を一体何年の囹圄として使われましたか?(冷たく微笑み)どのような理由で封印を解かれましたか」






フルムーンシップは月の裏側に係留してあった。その周囲にはトワサンガのシャトルが多数警戒して船を守っていた。メガファウナは速度を落としてゆっくりと近づいていった。

メガファウナ艦長のドニエルと長身の副長はモニターを睨みつけながら思案中であった。

副艦長「当然こうなりますわね」

ドニエル「だわなぁ。ガヴァン隊の連中がもしあれで全部なら、トワサンガに守備隊はいないはずだ。キャピタル・テリトリィの軍隊がカシーバ・ミコシでトワサンガに入っているはずだから・・・。キャピタルの連中がフルムーンシップに乗り込んでると思うか?」

副艦長「可能性は低いでしょ? 惑星間移動船を軍の連中が動かせるとは思えない。トワサンガの人間が調査中かもしれないですが、機関部のレクチャーを受けた我々ならともかく、あんなデカイもの、調べるたってそんな簡単じゃないですよ。ビーナス・グロゥブの人間ですら仕組みを理解していないのに」

ギゼラ「まさか丸腰のシャトル相手に発砲はしないですよね?」

ドニエル「そんなことやって、お前・・・フォトン・バッテリーの配給の件もあるのに・・・」

副艦長「フォトン・バッテリーの配給再開を直談判しに行くのに、トワサンガの丸腰相手に戦争はできないですな。こりゃ(両手を挙げて)お手上げですかね?」

シャトルから通信が入り、メガファウナはフルムーンシップを目の前にしながらいったんシラノ-5に入港することになった。

ドニエル「どういうこっちゃわからんが、オレが誰か連れて代表としてトワサンガの連中と話をつけてくるから、副長、あとは任せる。(副長頷く。ドニエルがブリッジのクルーに向かって)いつでも出航できるように気を張っておけ。あと何があっても、誰も艦内にいれるなよ!」

レバーを手にハッチに向かっていたドニエルは、すれ違ったハッパに声を掛けた。ドニエルはハッパの襟首をつかんで暴れる彼をむりやり連行した。

ドニエル「ハッパ、お前がついてこい」

ハッパ「イヤですよ。なんで技術屋のぼくがそんなことさせられるんですか? 放してくださいよッ!」

ドニエル「(ニヤけた顔をハッパに近づけながら)これが終わったらオレが姫さまに頼んで2か月の有給休暇をもらってやるから。恩給は自分で頼めよ」

ハッパ「(疑り深い顔で)本当なんでしょうね? 信じていいんでしょうね!」

メガファウナの入港してきた港には多くの市民が押しかけ、トワサンガ新王家の当主を一目見ようと待ち構えていた。その数は5万人に達し、港はノレドたちを出迎えたときと同じように異様な活気に満ちていた。しかも今度は本当の王子の到着とあって市民の期待はさらに大きくなっていた。

その中に王子の地球の義母と認知されているウィルミットとジムカーオの姿があった。メガファウナが海賊船としてキャピタル・タワーを襲撃してきてからというもの、彼女は息子のベルリと顔を合わせる機会がほとんどなくなり、メガファウナがザンクト・ポルトを出てからというもの、対面したのはほんの数回であった。

ウィルミット「ああ、やっとベルに会える。もう一体どれくらい離れていたでしょう」

ジムカーオ「ベルリ王子は日本でクレッセント・シップから降りたそうですね」

メガファウナのハッチが開き、ふたりの人間が出てきた。ウィルミットは双眼鏡でその姿を確認して、眉を寄せた。出てきたのはドニエル艦長と整備士のハッパだった。艦長が出てくるのはともかく、なぜ短パンにワークジャケットを羽織った東洋系の眼鏡の男が出てくるのか不思議であった。

ふたりで並んで歩く姿は、まるでハッパがベルリであるかのように映った。ウィルミットは周囲を見回し、クスクスと笑いが漏れる観衆たちに、あれはベルリじゃないと大声で言ってやりたかった。

隣にいるジムカーオはさっと引き締まった顔になり、ウィルミットを残してその場を離れた。観衆たちの間には戸惑いと失笑がないまぜになったおかしな雰囲気が流れている。ウィルミットもこうしてはおれないとふたりの元へ急いだ。

メガファウナから姿を現したドニエルとハッパにもその雰囲気は伝わっていた。

ハッパ「嫌な予感がしますよ。若干笑われているんですが、あれは艦長を見て笑ってるんですよね」

恰幅のいいガニ股のドニエルと、小柄で大きな眼鏡をかけたハッパは、いたたまれない気持ちをこらえながら大観衆の中を歩いていく。そこに血相を変えたジムカーオがやってきた。ドニエルとハッパには、一瞬それがクンパ大佐のように見えた。

ジムカーオ「メガファウナのクルーの方ですか? お初にお目にかかります。自分はレイハントン家の参謀を務めますジムカーオと申します。ベルリ王子はいずこへ?」

ドニエルとジムカーオは握手を交わした。

ドニエル「ベルリ? あいつなら月から出ていた救難信号を確認させに行かせてます。じきにこっちへ来るでしょう」

ジムカーオ「救難信号?」

そこへ遅れてウィルミットがやってきた。

ウィルミット「ベルは? ベルリはどこです?」

ジムカーオ「(ウィルミットに向かって)月から発信された救難信号の確認だそうです。おそらくノレドさんとラライヤさんのG-ルシファーでしょう。(少し考え)モビルスーツでザンクト・ポルトには行けません。放っておけばいずれ戻ってくるはずです。それを待ちましょう。(事務方の人間を手招きして)市民の皆様には、ベルリ王子は後からやってくるとアナウンスしてくれ。艦長とお連れの方はどうかこちらへ」

ハッパ「(とぼとぼ歩きながら)なんでこうなるかなぁ・・・」







ノレドとラライヤを乗せたクレッセント・シップは、加速を終えて慣性飛行へと移行していた。そのブリッジではクルーに加えノレド、ラライヤ、法王、そしてリリンが集っていた。ノレドがクレッセント・シップ艦長のエル・カインドに食って掛かっていた。

ノレド「(驚いた顔で)やっぱりビーナス・グロゥブの方も知らないの? 呆れたー」

エル「呆れたも何も、法王庁は我々ヘルメス財団の下部組織にすぎませんので、なぜそのような発表を勝手にしたのか、こちらでは何とも」

ノレド「でもフォトン・バッテリーの配給停止が、地球の人たちやトワサンガの人たちをすっごくすっごく不安にしてるんだよ。(法王を振り向きながら義憤にかられ)人々を怖がらせるようなことを法王庁が勝手にやるはずがない」

法王「(両手を上に広げ)あり得ないことです。我々法王庁はヘルメス財団の意向に背くことも、人心に不安の種を蒔くことも絶対にいたしません。ですが、キャピタル・テリトリィにそのような通信が入っていたのは確かで、それは法王庁の回線ですから、我々は信じたわけです」

ブルボン王朝風の近衛兵長の正装に戻ったラライヤは腕を組んで考えている。

エル「フォトン・バッテリーの配給と回収は通常年に3回、4か月おきになされています。しかし、今回は地球でのエネルギーの過剰消費を鑑みて、かなりの量を持ち込んでいます。員数管理が崩れておりますので、それが正常に戻るまでの期間の配給停止は考えられます」

ラライヤ「地球の人たちはどれくらいバッテリーの在庫を保有しているのですか?」

エル「通常は1年分です。それが大陸間戦争によって崩れていて、モビルスーツが破壊された際など回収されないバッテリーもあるので、正確な数字が取れなくなっているわけです。戦争をやめろというのはこういう点もあるんです。バッテリーは有限で、無限に存在するわけじゃない。ビーナス・グロゥブはバッテリーで星を作っている最中なのです。それは地球人に戦争をさせるためにムダ働きしているわけではないんですよ」

ノレド「いまでも在庫は1年分?」

エル「ちゃんと計算して1年は持つように配給してますよ。だから1年も使って地球を巡行したんです。地球巡行中は戦争もなく、バッテリーの回収はかなり捗りました。重さが大事だって言ったでしょう? この船も空のバッテリーが満載ですよ」

ノレド「1年か・・・」

ラライヤ「バッテリーの配給停止って誰が言い出したんでしょう?」

頭を悩ましてもそれ以上の答えは出なかった。




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この続きはvol:34で。次回もよろしく。






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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第6話「恋文」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第6話「恋文」後半



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シラノ-5を飛び出したG-ルシファーは、コロニーのすぐ近くにいまだ停泊しているクレッセント・シップの姿をモニターで捉えた。前方にある月の裏側には微かにフルムーンシップの機影も確認できる。

3人は奪ってきたノーマルスーツに着替え、改めて座席に座り直すと宇宙空間を月に向かって進んだ。

リリンの横のナビゲーター席に座ったノレドは不思議そうに呟いた。

ノレド「トワサンガとビーナス・グロゥブって通信はできないんでしょ?」

ラライヤ「(G-ルシファーを操縦しながら)通信はできないはずですよ。ビーナス・グロゥブの意向はすべてクレッセントシップで伝えられることになってますから。それにトワサンガの人間はビーナス・グロゥブのことはほとんど知りません。天上界ですから」

ノレド「(不思議そうに)だったらさー、ラ・グー総裁がフォトン・バッテリーの配給を停止したって話は誰が持ってきたの? クレッセント・シップもフルムーン・シップもここにあるんだよ」

ラライヤ「そういえば・・・(不思議そうな顔で)え、その話ももしかしてウソなんですか?」

ノレド「ウソかどうかはわからないけど、通信してなければウソってことになるよね?」

ラライヤ「(怒った顔で)騙されるって本当に嫌な気分になります!」

ノレドは横に座っているリリンが悲しげな様子でうつむいてしまったのを見咎めた。リリンの親はハザム政権派の守備隊だと見做されて市民の攻撃を受け、家を奪われた挙句に母を殺されたのだ。ノレドとラライヤは彼女を不憫に思った。

トワサンガでは元々レコンギスタ派が多数で、レイハントン家が滅亡して王政から民政に移行したときには、拍手喝采でハザム政権は承認されたという。ところがフォトン・バッテリーがビーナス・グロゥブから来なくなると分かったとたんに民衆は掌を反し、自分たちで承認した政権に石を投げ、レイハントン家の妃になるとの触れ込みだったノレドになびいたのである。

ノレド「(リリンの頭を抱きかかえながら)こうして考えてみると、お姫さまなんてやってられないね。またいつクーデターに遭って殺されちゃうかわかんない」

ラライヤ「わたしはレイハントン家のことは小さかったのであまり覚えていないのですが、親はレイハントン家の家臣で、ドレッド将軍に殺されたと聞いたことがあります。それからわたしはずっと孤児で、フラミニア先生に教育を受けさせてもらったのです」

ノレド「リリンのお父さん、生きてるといいね。あたしは女王さまって柄じゃないけど、王さまになるベルリってお兄ちゃんは優しくていい人だから、きっとみんなのことを許してくれるよ」

リリン「わたしたちは地球に行けますか? レコンギスタをしないとみんな化け物になって死んじゃうって・・・。お父さんはハザム首相についていけばみんなが地球に行けるって」

ノレド「(少し怒った調子で)みんな地球に呼んじゃえばいいのよ」

ラライヤ「もしかしたら、ベルリさんが日本というところでクレッセント・シップを降りたのは、レコンギスタしてきた人たちをどこにどれくらい入植させられるか調べていたんじゃ?」

ノレド「そうなのかな?(ハタと気づき)そうだ、ベルリはトワサンガの王子さまだもんね。ベルリはクラウン運航長官の子供で、飛び級生で、トワサンガの王子さまなんだ・・・。生まれたときから・・・」

そう答えてリリンに微笑みかけたあと、ノレドは泣き出しそうな顔をそっと隠した。G-ルシファーは月の裏側に着地しようとしていた。






ウィルミット「もうわたくしはおばあちゃんですから、煮るなり焼くなり好きになさってください」

ジムカーオに付き添って屋敷を出たウィルミットは、自暴自棄にそう言った。王子の義母との触れ込みで親しみを込めて傅いていた近衛兵団なるものは、G-ルシファーを送り出してしまうとウィルミットには急によそよそしくなり、ジムカーオに連れられて行く彼女の護衛につこうとはしなかった。

ふたりを乗せた車はゲートの前で停車した。そこからはふたりきりの移動となった。

ジムカーオ「もうこの際なので、運航長官には自分への疑いは晴らしていただきます。もちろんノレドさんとラライヤさんが戻られればお屋敷に返しますし、ベルリ坊ちゃまが戻られても同様です。フォトン・バッテリーの配給が開始されれば、クラウンの運航長官の職に戻っていただいても結構。ただ、あとでお話いたしますが、同じ職にあっても気持ちは大きく変わるでしょう」

ふたりは車からエレベーターを乗り継ぎ、ノースリングへとやってきた。そこは農業セクションであるサウスリングとは全く違う、機能的な都市風景をもった行政セクションだった。緑化された空間以外に土はなく、湿度調整機能のある軽量のコンクリートで空間全体が覆われていた。

しかし、サウスリングの広さと比較して圧倒的に狭かった。1キロメートル四方ほどの広さしかなく、その先は巨大な壁で仕切られていた。まるでこの空間全体を覆い隠す意図があるかのように。ふたりは街でもひときわ高い尖塔を持つビルに入っていった。

ビルの中には大きな吹き抜けがあり、エレベーターがひっきりなしに上下に動いて人を運んでいた。フロアを生き返人間も多く、誰もかれも忙しそうだ。キャピタル・テリトリィ調査部の制服を着たジムカーオ大佐には誰もが一礼をしていく。ふたりは専用のエレベーターに乗った。

ジムカーオ「(勝手知ったる調子で暗証番号を打ち込みながら)長官はキャリアなので、こうした光景の方が馴染みがあるでしょう。シラノ-5のノースリングの奥は行政区域で、こここそまさにスペースノイドらしい場所といえるかもしれません」

ノースリングが狭いのは、その奥にもっと大きな空間があるためだった。その場所に脚を踏み入れると、確かに雰囲気が変わるのがウィルミットにもわかった。壁を観察してみると、すでに使われなくなった古代文字が使用されていたりもした。文字こそまさにユニバーサル・スタンダードで最も重要な統一すべきものであるのに。

ジムカーオの執務室は、白い壁と透明なアクリル板で作られた広いオフィスであった。どの部屋の壁も透明で、なかで働く人の姿が見える。肌の色は様々。男女の比率も同等程度。ウィルミットが初の女性クラウン運航長官として夢見てきた理想の職場がそこにあった。

ジムカーオ「(机の上のボタンを押して回線を繋ぎ)クラウンの運航長官をお連れした。何か飲み物を。いや、人でなくていい。アンドロイドに運ばせてくれ」

ウィルミット「(ソファに腰かけながら驚き)アンドロイド! まさかそんなものが! これは重大なタブー破りではないのですか?」

ジムカーオ「アンドロイドを知っていらっしゃる? 長官におかれましてはお伽噺ででもお読みになられましたか。(落ち着いた声で)逆です。タブー破りはモビルスーツのような戦闘人形を作ることであって、宇宙で生活するのにロボットやアンドロイドは必要不可欠なんです。モビルスーツも元来宇宙空間用の作業用ロボットスーツでした。それをこの宙域に住み始めたジオンというのが汎用人型兵器として応用した。そんな些細なきっかけで、人間は2000年も戦争を続けた。モビルスーツを消費するためだけに2000年も資源のある宙域に移動しては殺し合った。その利益を貯め込んで肥え太ったのが我々ヘルメス財団です」

ジムカーオの執務室にティーセットを持った美しい女性が現れた。たしかにその女性は美しかった。ウィルミットは驚愕して彼女をしげしげと眺めた。女性は銀色の肌をしていた。大きく見開かれた瞳には十字の走査線が走り、ウィルミットを記録しているかのように見つめ返していた。

ジムカーオ「本来、この行政区域に立ち入ることがタブーなのです。ここはヘルメス財団の人間以外は立ち入りできません。法王も、レイハントンも、ラ・グーさえも」

ウィルミット「法王さまも・・・」

ジムカーオ「ここに長官をお連れしたのはほかでもありません。長官の行政能力はここ数日観察させていただきましたが素晴らしいの一言です。ぜひあなたをヘルメス財団のメンバーに推薦いたしたい」






ラライヤはG-ルシファーを巧みに操って月面にある巨大なハッチの前で立ち止まった。

月は光と影の世界だ。その荒涼とした色彩がひとつの芸術であり、神聖なものであった。その場所に法王庁が管理する冬の宮殿があるという。しかし、ラライヤが案内してきたのはそうした神秘的な場所ではなく、ごくありきたりな真空を遮断するハッチの前だったのだ。

ノレドもリリンも月面にこんなものがあるとは考えもしなかったので、ポカンと口を開けてモニターを眺めるばかりであった。月の裏側は太陽光の当たらない漆黒の空間であった。ヒーターが絶え間なく温風を吹き出して操縦席を暖めている。

ノレド「月って遠くから眺めると黄色いのに、近くに寄るとこんなにも黒くて殺伐としてるんだ」

ラライヤ「新兵訓練で月に置き去りにされたことがあるんです。宇宙空間に慣れるためなんでしょうね。歩いてネオドゥのあるところまで酸素が切れないうちに移動して、モビルスーツで軌道上にあがって月を1周するんです。それで太陽が当たる場所と当たらない場所の気温の違いを体感してから、シラノ-5に戻るんです。そのときにこのハッチを偶然発見したんですよ」

ラライヤはG-ルシファーを操作して手動でハッチを開けるとどんどん中へと入っていく。

ノレド「(不安そうにリリンと抱き合いながら)真っ暗だけど、中に入ったことあるの? 中のことわかってるの?」

ラライヤ「何度も来てます。大丈夫です。もうすぐ月の世界が拓けてきますよ。ここはムーンレイスが作り上げた遺跡で、ごく少ない彼らの末裔が最低限の管理をしているといわれています。冬の宮殿はここにあるんです」

リリン「冬の宮殿は地獄の底に繋がる穴があるんだよ」

ラライヤ「(笑顔で)そういうお伽噺を読んでわたしたちは育ってきたんです」

G-ルシファーは、巨大な月の内部空間に出た。道路があり、建物があり、公園がある。土には枯れた樹木が葉もつけず突き刺さっている。舗装された道路には何台もの車が乗り捨てられ、モビルスーツが激突したまま破壊されたビルがそのままの形で残っていた。

月の内部そのものが大きなコロニーのように改造されていた。月はシラノ-5のような岩石を利用したコロニーであったのだ。それはムーンレイスという種族が作ったものだというが、明らかに戦争に爪痕が残っているさまは宇宙世紀時代からここが存在することを物語っていた。

G-ルシファーはある建物の前で止まった。それが冬の宮殿であった。ラライヤはふたりを残して先に下へ降り、酸素濃度や気温などを調べてからヘルメットのバイザーを上げて呼吸をしてみた。大丈夫だったらしく、ふたりに手招きをして降りてくるように促した。

ノレドは持ち込んだリュックの中から何かを取り出してポケットにしまうとリリンを抱きつかせた姿勢で地面に降り立った。

ノレド「重力がある?」

ラライヤ「月よりも地球に近い重力があるんです。仕組みは実はよくわかりません。ムーンレイスという人々の科学力はかなり進んでいて、アグテックのタブーがなかったようなんです」

冬の宮殿に入った3人は口々にゲル法王の名を呼んだ。宮殿の中は暗く、誰もいない。空気があるので3人のコツコツという足音だけが異様に響き渡った。宮殿と呼ぶにはそこはあまりに殺伐としていた。

ノレド(月の本当の姿を建物の姿にしたみたいだ。何もなくって、白と黒しかない)

ラライヤ「誰もいないのでしょうか?」

ノレド「万が一のために救難信号を出す小型発信器を置いておくね。(床に小さな箱を置く)法王さまが冬の宮殿にいるっていうの、本当なのかな?」

そのとき、リリンが短い指を前に突き出した。前方に白い階段に力なく腰かけて、両手で頭を抱えたゲル・トリメデストス・ナグ法王猊下の姿があった。3人は走って法王に近づいた。

ノレド「法王さまッ! ノレドです。ノレド・ナグです。しっかりしてくださいッ!」

法王「ああ(力なく立ち上がり)これはノレド・ナグさん。健やかですか」

ノレド「あたしは健やかですけど、法王さまが」

法王「大丈夫です。ご心配をおかけしました」

ノレド「あたしたち、法王さまを迎えに来たんです。一緒に逃げましょう。もうお姫さまのフリをするなんてこりごり。さあ、地球に帰りましょう!」

法王「(弱々しく首を振り)わたくしには罪があります。わたくしがしっかりしなかったために、地球は黒歴史の時代に戻ってしまった。それはこの月の裏側のように暗黒です。何もかもがトワサンガの意志の通り元に戻らなければ、地球は再び見捨てられる。すべてわたくしの罪なのです」

ノレド「そんなこと・・・、そんなことないです!」

そのときだった。4人の頭上に映像が浮かび上がった。すさまじい噴煙を噴き上げて地上を離れるロケット、月に降り立つ飛行士、開拓されていく月、その周囲にできていく円筒状の巨大構造物、地球の文明が宇宙に拡散し、地球と月の間に羽を広げた筒が何本も完成していく。それが地球と月の間を覆いつくし、小さなシャトルが地球から絶え間なくそこに人間を運んでいく。

円筒状の巨大構造物に何十万人も移り住み、緑が植えられ、街が完成していく。人々は宇宙服を脱ぎ、地球を模した街で生活を始める。走り回る子供たち。沸き上がる民衆。演説する男。組み立てられていく巨大ロボット。火花。破壊。戦艦同士の戦い。死。繰り返される死。宇宙に作られた巨大な円筒構造物が燃えながら地球に落下していく。爆風。一瞬で吹き飛ぶ街並み。文明の崩壊。砂漠化。

白いモビルスーツと赤いモビルスーツの戦い。早回しで何度も繰り返されるモビルスーツ同士の戦い。人間が作りあげたはずの円筒構造物から発せられる光の束。熱。溶ける戦艦。死。人間は作り、殺す。何度も作り上げては殺していく。すべての円筒構造物が廃棄され、朽ちていく。それでも続く白いモビルスーツの戦い。やがて放棄される地球と月。

巨大宇宙船で母星を見捨てる人間。惑星への移住。資源の採掘。地球を模して作られる街並み。モビルスーツの登場。開始される破壊。見る者を圧倒し呆れさせる爆発の数。爆発。死。それでも作られる新型のモビルスーツ。対立。破壊。戦争。熱狂する人々の歓声。モビルスーツの破壊。そのあとに起こる大爆発。融解する街。焼けただれる人間。死体で埋まる川。汚染された星を捨てる人類。

宇宙船による移動。惑星への入植。地球を模した街並み・・・。

法王「ああ、ああ・・・」

ノレド「(映像が浮かぶ天井に向けて叫ぶ)そんな罪を終わらせるのがスコード教なんだ! もうやめろ! 何がムーンレイスだ! やめろーーーーーッ!」






シラノ-5には多くの住民さえ知らない隠された行政区域があった。それこそがトワサンガが2重行政であった証であった。

その執務室のひとつにジムカーオ大佐とウィルミット長官が向かい合って座っている。

ジムカーオ「宇宙世紀が1500年に達したころでしょうか、自分たちの祖先は外宇宙にいたといいます。そこでずっと兵器を作って利益を上げ続けていました。しかし、おそらくは虚しくなったのでしょう。一部が再び太陽系を目指し、エネルギー確保のために金星宙域の廃棄された施設に住み着いた。そしてリギルドセンチュリーやアグテックのタブーを定め、スコード教を興しました。すべては宇宙世紀を否定して、平和で安定的な文明を再構築するためです」

ウィルミット「それがビーナス・グロゥブの始まりだと」

ジムカーオ「そうです。宇宙世紀とリギルドセンチュリーの最大の違いは、核の放棄です。核は便利なものですが、エネルギーの過剰は戦いの苛烈を生じさせます。そこで核をアグテックの最大のタブーにして、代替としてフォトン・バッテリーを使い始めたのです。もうこの宇宙に原子炉を積んだモビルスーツは存在しません」

原子炉と聞いて、ウィルミットはそれが厄介な発掘品として多く見つかっていることを思い出したが、ジムカーオには話さなかった。

ジムカーオ「月にやってきたとき、我々の祖先はそこでムーンレイスと名乗る地球から月に上がってきた者らと接触しました。お互いにつかず離れずの関係でしたが、彼らが宇宙世紀時代の生き残りでスコード教への改宗を拒否したために、500年ほど前に彼らを封じてキャピタル・タワーの建設を始めたのです。そして、スコード教の布教を開始しました。お判りいただけたでしょうが、キャピタル・テリトリィとは、つまりビーナス・グロゥブであり、ヘルメス財団なのです。キャピタル・ガードの調査部とは、最初からトワサンガのレイハントン家やビーナス・グロゥブ総裁に地球の現状を知らせる組織だったのです。ところがそこにピアニ・カルータが入り込んで偽の情報を流し、宇宙ではレコンギスタの必要性を訴えて軍備を増強させ、地球では宇宙の脅威を謳って各国に戦争の道具を与えてしまいました。そのことに長年気づかなかったのは、調査部から偽の情報が流されたためです」

ウィルミット「つまり大佐はそれを元の正しい形に戻そうとされているのだと?」

ジムカーオ「左様です。自分はなにひとつウソなど申しておりません。ウソがあったとすれば、それは情報が間違っているのです。自分の知識は完全ではない。それはあなたも同じはず。キャピタル・ガードにはそもそもふたつの目的があったのです。あなたが長官になった際に、すでにクンパ大佐は調査部の責任者だったでしょう? あなたは前任者から情報の一部を引き継ぎできなかったのです」

ウィルミットは深く溜息をついた。

ジムカーオ「ヘルメス財団の意思は、ピアニ・カルータ以前の状態に戻すことです。これが達成されない限り、フォトン・バッテリーの配給再開はあり得ません。ですから、メガファウナがこちらへやってきたら、ぜひとも長官にはレイハントン家再興の必要性をご子息にお話しいただきたい。自分が育てた子だの、そんなお話はなしにしていただきたいのです。では、それまであちらの者がここでのお仕事についてご説明させていただきます。失礼ながら自分は仕事が立て込んでおりまして。では」

若い女性が執務室に入ってきて、ウィルミットを部屋の外へと連れだした。女性はウィルミットにひとつひとつ説明していたが、何の言葉も耳には入ってこなかった。

ウィルミット(こんなのいけない。ベルはまだ子供なんだから、自分で未来を選ぶ権利がある。王子としてフォトン・バッテリーのためにこんな岩の塊の中で生きていけなんてわたしには言えない)






ラライヤはG-ルシファーの中で叫んだ。

ラライヤ「だからこのまま地球になんて行けませんって。エネルギーが持ちませんよ」

G-ルシファーの中にはゲル法王の姿もあった。法王は法衣のままで、ノーマルスーツさえ着ていない。ノレドはしきりに地球に帰ると息巻いてラライヤを困らせていたが、モニターにクレッセント・シップが映っているのを見つけると急に考えを変えた。

ノレド「じゃあさ、クレッセント・シップに乗ってビーナス・グロゥブへ行こうよ。ラ・グー総裁なら法王さまがとてもとても大事な役割があるってちゃんと話してくれると思うの」

リリン「(ノレドの膝の上で振り返り)天の神様の世界へ行くの?」

ノレド「(リリンの頬を手で挟み)そうだよぉ。法王さまと神様のところへ行こう」

ラライヤ「ダメですよ。もうすぐベルリが来るんですよ。結婚するんでしょ?」

ノレド「あんな大人の決めた話なんて無視無視」

ラライヤ「そんなこと言ってこの機を逃したら最後かもしれないのに。ベルリさんはトワサンガの王子さまで、地球に戻らないこともあるんですよ」

ノレド「(声を落とし)いいのさ・・・、ベルリにはあたしの気持ちを伝える手紙を書いてある。読むも読まないも運次第。あたしはそれに賭けてみるんだ・・・」

ラライヤ「(ヤケになって)知りませんよッ!」

G-ルシファーは方向転換をして、アイドリング中のクレッセント。シップへと向かった。

ノレドが書いたベルリへの手紙は、ハート形のシールで封をして、書斎の引き出しの中にそっと仕舞ってあった。


(ED)



この続きはvol:33で。次回もよろしく。



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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第6話「恋文」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第6話「恋文」前半



(OP)


トワサンガ守備隊のガヴァン・マグダラを退けたメガファウナは、月への長い旅路にあった。その船内では姿の見えない敵について活発な議論が戦わされていた。

副艦長「国家がまともに治められていないということでしょうか」

ギゼラ「配給制を採っていればどの国も官僚国家になるでしょ。自由なのは中西部でソーラー発電しているアメリアくらい。あれだってフォトン・バッテリーに蓄電できればもっと余裕が出る。バッテリー技術はやはり開放していただかないと。ラ・グー総裁に頼めませんか?」

ドニエル「ベルリ、責任重大だな」

トワサンガの守備隊がザンクト・ポルトに下り、レコンギスタを試みようとしていた事実は、メガファウナの中で大きな議論になっていた。誰もが有権者として責任をもって物事を考えていることに、ベルリ・ゼナムは感心しきりであった。普段はクルーたちのそのような態度を見ることがなかったからである。以前の旅では、ベルリは同年代の仲間たちと常に一緒だったのだ。

現在の地球はキャピタル・テリトリィ、アメリア、ゴンドワンを中心に物事が動いていたが、ベルリは日本からユーラシア大陸を横断してゴンドワン南部まで旅をした経験から、世界には多くの国が存在して、様々な人々の暮らしがあることを知っていた。東アジアには熱帯雨林があり、資源の再生は確実に進んでいる。一方で砂漠化によって居住地域は限られていた。

もし宇宙から大量の移民が地球にやってくるとなった場合、それを受け入れられる地域はほとんどない。エネルギーと食料に応じて、人口はすぐに目一杯にまで膨らんでしまうからだ。宇宙で暮らす人々は、少しずつ地球に降ろすしか方法はない。だが、ムタチオンの存在がそれを許さない。

ではどうすれば物事は解決に向かうのか。ベルリはフォトン・バッテリーの配給停止がその答えであるのではと考え、身震いした。もしこのまま100年でもフォトン・バッテリーの配給停止が続けば、地球の人口は激減する。だがその分だけ地球へ移民する余地は大きくなるのである。

ラ・グー総裁の考えがもし地球人の数を減らして強制的に土地を奪うというものであるなら、自分はその不当をどういう理屈で訴えたらいいのか、ベルリはずっと考えていた。このままでは、宇宙に暮らす者たちと地球に暮らす者たちは、いつまでたっても分断されたままだ。

分断はさらに国家の枠組みに及び、身分や立場に及び、血族に及び、個々人に及んでいく。ベルリ・ゼナムとガヴァン・マグダラを隔てていた壁は、あらゆるものに及ぶ。人はこの分断を乗り越えるすべはなく、およそ2500年に渡って続いた宇宙世紀の歴史のように、再び戦い続けるしかないのだろうか?

スコード教とともにリギルドセンチュリーが始まって1000余年。なぜ人々はUniversal Centuryを捨て、Regild Centuryを使い始めたのか。どんな願いが込められていたのか。スコード教が広まったいきさつはどんなものなのか。

地球の資源を使い果たすまで止まらなかった戦争は、宇宙世紀時代において資源調達範囲を外銀河にまで拡大し、獲得した資源はすべて戦争で消費されたという。

人と人の間にある壊しがたい壁、これがある限り何をやっても人は戦争を続けるのか。戦争によって人が得ているものとは何か。何か得ているものがあるから、それを欲しているはずなのだ。得ているもの・・・、ベルリはメガファウナのブリッジの中を見渡した。

そこにあるものは、信頼だった。メガファウナの艦内では人と人の壁は少なく、互いの信頼で満たされている。・・・、これが戦争をすることによって人が得ているものなのだろうか? 人と人の隔たりに耐え切れなくなった人間は、他人との信頼を確認するために、意見の違う者と戦ってきたのだろうか?

信頼という不確実なものを確実なものと確認するために、戦争は必要とされてきたのだろうか。

ドニエル「ベルリが姫さまの全権大使だからな。責任は重大だ。聞いているのかベルリ」

ベルリ「自分の背負った運命というものがあります。姉さんはそれを自覚して役割を果たそうとがんばっている。自分に何ができるかわからないですけど、やってみます」

メガファウナは徐々に月に近づいていた。





シラノ-5にあるレイハントン家の屋敷にはひっきりなしに人の出入りがあった。ノレド、ラライヤ、ウィルミットの3人が屋敷に入ったときに家付きとして雇われていた女中たちに加え、いまではウィルミットを頼って政府関係者が多く出入りしている。

屋敷の周囲はラライヤが旧レイハントン家の家臣だった者たちを集めて作った近衛兵団が守備している。彼らは旧レイハントン家の家臣団だった者たちで、ドレッド家のレコンギスタ作戦に反対してレジスタンス活動をしていた人物たちであった。

ウィルミット「相手の出方がわからない以上、表立って動けませんよ。わたしはともかく、お若いふたりのお嬢さまの身柄の安全のこともあるんですから」

ウィルミットは声をひそめて近衛兵団のターニア・ラグラチオン中尉に話しかけた。ターニアは薄い褐色の肌に長い黒髪を三つ編みにした30歳の女性で、ラライヤと同じほどの背丈しかない小柄な女性で眼鏡をかけている。彼女こそラライヤをドレッド軍に潜り込ませた人物であった。

薄暗い部屋にはウィルミットとターニアのふたりしかいない。家付きの女中たちは誰の味方かわからず、あまり近づけないようにしていた。

トワサンガの事情について全く無知であったウィルミットも、キャピタル・ガード調査部のクンパ大佐がかつてヘルメスの薔薇の設計図を流出させるという大事件を起こした人物であることなどは報道を通じて知るに及んでいた。さらに彼女はトワサンガの予算書に精通したことで、その実情を深く知ることになった。

ウィルミット「かつてはザンクト・ポルトまでがわたくしの宇宙のすべてでした。(立ち上がって窓の外を見つめる)そこから先は神々の世界だった。しかしいまではよくわかります。人のいるところはどこも地球と同じ。神々の世界は心の問題だったのだと」

ターニア「人の心は変わってしまった。わたしも同じなんです。少女のころは、ビーナス・グロゥブは神々の世界で、トワサンガこそ人間の大地、地球は地獄のような場所だと思っていました。(肩をすくめて)ごめんなさい。お伽噺では地球は地の底なんです。重力の先に辿り着く場所。お話の続きですが、わたしたちもまだジムカーオ大佐については調査中でよくわからないのです。長官こそキャピタル・テリトリィの方ですからご存知だと思ったのですが」

ウィルミット「(首を横に振り)キャピタル・ガードにジムカーオ大佐なる人物はいなかったはずです。少なくとも自分は知りません。本人はレイハントン家の参謀であったと」

ターニア「レイハントン家にあのような人物はおりません。参謀などと・・・。前当主さまは聡明な方で、何事も自分で取り仕切っておられました。むしろそれが仇となってクーデターで殺されることになった。何もかも自分でお考えになり、取り仕切っておられたために、亡くなられるとすぐにレイハントン家は導く者がいなくなって倒れてしまったのです。しかし、アイーダさまやベルリ坊ちゃまが生きていればまだ違った。しかし、その忘れ形見もすぐにどこかへ消えてしまい・・・。当時まだ在学中でしたが、王政から民政、共和制への移行が軍の暴走に至るとは考えもしませんでした」

ウィルミット「(溜息をつきながら)それもクンパ大佐がやったことだとか。そのような方がキャピタル・ガードでのさばっていたとは・・・。(部屋の中を歩き回る)ピアニ・カルータというのでしょう? 闘争による人類の強化を訴え、戦いの種であるヘルメスの薔薇の設計図をばら撒いていたとか」

ターニア「レイハントン家はレコンギスタというものに反対しており、代替案として家族単位で地球に入植させるプランを持っていたのです」

ウィルミット「わたくしがまだキャピタル・タワーの課長補佐だったころ、政府に出向して農地拡大法を作ったことがあります。おそらくはそれがレイハントン家の再入植案の受け入れだったのですね」

ターニア「レイハントン家の計画は、キャピタル・テリトリィの政策に反映されていたと。(紅茶を飲んで少し休む)ヘルメス財団というのは謎が多くてわからないことが多くあるのです」

ウィルミット「ジムカーオ大佐はヘルメス財団の者だとも名乗っていました」

ターニア「ではなぜレイハントン家の参謀だったなどとウソをつくのでしょう? それともわたしたちレジスタンスが知らない秘密でもあったのでしょうか?」

ウィルミットはその問いに応えなかった。自分はどこまでこの問題に深入りすべきなのかまだ決めかねていたからである。

ウィルミットの希望は、すべてが元通りになることであった。安全に自分と法王とノレド、ラライヤを地球に連れて帰る。そしてクラウンを通常運転に戻して、ベルリとともに暮らす。

それが叶うかどうか、いまの彼女には自信がなかった。ベルリはトワサンガの王子であり、ノレドと結婚すればそのままこの巨大な岩の中の王となる。シラノ-5とは、シラノ・ド・ベルジュラックの鼻に似ていることからつけられた名前だという。あの、恋文を代筆した男のことだ。

ベルリが行ってしまう。どうすればいいのか。クラウン運航長官の職を辞して、自分もベルリとともにこの岩の塊の中で暮らせばいいのか? 誘拐されて地球に連れ去られた王子を、何も知らずに我が子として育てた愚かな義母として・・・。そんなことは決してできない。

ウィルミット「法王さまの安否は大丈夫なのでしょうね?」

ターニア「(はたと気づいたように)ああ、スコード教の。あの方は月の冬の宮殿に籠られたとか」

ウィルミット「冬の宮殿?」

ターニア「宇宙世紀の愚か者たちの記録が納められた場所です。ビーナス・グロゥブの許しがあり、フォトン・バッテリーの供給が再開されるまで出てこないつもりだとか」

ウィルミット「その話を信じたのですか?」

ターニア「信じるも何も・・・。地球はクレッセント・シップが地球を離れた途端に戦争が始まったと聞き及びます。もうあの方の権威は地に堕ちたも同然。地球人が戦争をやめ、ヘルメスの薔薇の設計図がすべて回収されれば、別の方が法王の座に就きましょう」

ウィルミット「(窓に駆け寄り)大変なこと! 大変なことになってしまった!」







トワサンガの新女王候補のノレド・ラグと近衛兵団団長のラライヤ・アクパールは、シャンクを使ってシラノ-5の中を歩き回っていた。彼らには武装した近衛兵が付き添い周囲を関していたが、ノレドとラライヤはどこへ行っても人気者で襲撃されるそぶりもなかった。

視察名目での外出であったが、どこまで行けば止められるのか調べる目的も兼ねていた。ところがどこまで行けども、ふたりを制止する者はいなかった。

ノレド「ジムカーオ大佐が今回の問題の黒幕だってのは外れたのかな?」

ラライヤ「んー」

ノレドは古めかしいドレスに身を包んでいた。最初にあてがわれたものはサイズが合っていなかったので、トワサンガで仕立て屋に作り直させたものであった。月ではなぜか西暦18世紀のアメリア風の衣装が定着している。なぜそうなったのかはトワサンガの住人も覚えていなかった。

ラライヤはブルボン王朝風の軍服に身を包んでいた。まだあどけなさが残る顔に男装の軍服姿は、新しいレイハントン家という未知なものへの不安を和らげる不思議な魅力を秘めていた。

そのとき突然フードを深くかぶった少女が道を塞いだ。少女はノレドに近づき何かを訴えようとする。少女は近衛兵に両腕を掴まれ地面に組み伏せられた。

少女「女王陛下、なにとぞ」

ラライヤ「(ピシャリと)やめなさい! その娘を立たせて」

シャンクから飛び降りたラライヤは少女に近づいて爆薬を巻き付けていないか身体を検めた。少女は爆弾どころか薄汚れたフード付コートの下は裸であった。ラライヤの目配せに応えてノレドもシャンクを降りた。少女はノレドの顔を見るやその裾にすがりついて涙ながらに訴えた。

少女「お願いです。すべてを元に戻すなどといわず、ドレッド将軍のようにみんなを地球に還すと約束してくださいませ。このままではトワサンガの血が絶えます。月の女王は人々を地球に導く者がなるべきなのです」

ラライヤ「(ノレドの顔を見て)この娘、ドレッド支持派のお子さんだわ」

ノレド「ドレッド支持派・・・。虐められたの?」

ノレドの問いに答える力は少女には残っていなかった。彼女はラライヤの腕の中で倒れてしまった。






喧噪の中で、少女は目覚めた。そこはレイハントン家の屋敷であった。彼女は埃と垢まみれだった身体を綺麗に拭いてもらい、ベッドの上で介抱されていた。

ベッドの傍にはウィルミットの優しげな顔があった。

喧騒は別の部屋から聞こえてきた。

ノレド「あんな小さな子まで家から追い出すなんてどうかしてる!」

近衛兵A「追い出すも何も、法王庁からフォトン・バッテリー供給停止の発表があってあっという間のことですよ。そのときどこのリングでもクレッセント・シップを迎え入れる準備で忙しかったんで、ドレッド家はすでに力を失っていましたし、政府の人々が指揮を執って祭りの準備に忙しかったんです。ところが法王庁の発表があって誰かが反体制運動を叫び始め、ほんの数時間でハザム政権は転覆、守備隊の連中とともにザンクト・ポルトに逃亡したんです。混乱の中で何があったかなんて」

ウィルミット「(少女に向かって微笑みながら)あなた、お名前は?」

リリン「リリンです。父は守備隊にいました。母は殺され、家は奪われました」

ウィルミットは立ち上がってノレドたちがいる部屋に入っていった。

ウィルミット「略奪があったのですか?」

近衛兵A「(帽子をとって)へい、面目ないことですが」

屋敷の前に車が到着した。窓から覗き込むと白いキャピタルの制服にマントをつけたジムカーオ大佐であった。ノレドは慌てて窓から顔を引っ込め、ラライヤとウィルミットにジムカーオのことを話した。

ジムカーオ「(汗を拭きながら登場し)これは申し訳ない。諸事多忙でございまして。(女中に向かって)すまないが、水をくれないか」

2階から降りてきたウィルミットは、ジムカーオを応接室へ通した。彼は息を整えながらソファに腰かけると、アジア系の顔に屈託ない笑顔を浮かべて話し始めた。

ジムカーオ「お喜びください。ハザム政権の残党がベルリ王子によって退治されたそうです。ザンクト・ポルトを占拠していた彼らは地球圏でアメリアのメガファウナと戦闘になり、2隻ともに撃沈との知らせでございます。これでベルリ王子は真の英雄として凱旋できましょう。メガファウナがどうしてここまで上がってきたのか理由は分かりませんが、何はともあれ、ベルリ王子が帰還となればすぐにでも婚儀の用意をいたしまして」

ウィルミット「(驚いて)まさか! あの子はまだ子供です。(狼狽して)婚約という話であったでしょう? それもお芝居だと。振りをするだけだと」

ジムカーオ「(真面目な顔で)ラ・グー総裁の意思を考えれば、もはや従うしかないのです。ドレッド家は王政から民政への移行と称してレイハントン家を打倒し、秘かにドレッド艦隊を作り上げた。守備隊もです。これらが取り除かれたならば、ビーナス・グロゥブからトワサンガへはフォトン・バッテリーもやってきます。次は地球の状況を何とかすれば世界は救われます。そうではありませんか?」







そのころ2階では、ラライヤが屋敷を脱出するために縄梯子を窓から吊るしていた。

ラライヤ「ノレド、早く準備を」

ノレド「ちょっと待って(ノレドは白い封筒を書斎の机の引き出しに隠した)これで良し」

ラライヤ「何を隠したの?」

ノレド「内緒だよ(声をひそめて)ベルリへのラブレターなんだ。日本で別れてからもう何か月も逢ってない。どんな形でこれを読むかわからないけど、心を込めて書いてみました。へへへ。ノベルは机の中に隠れてこれが他の誰にも見られないように見張ってるんだよ。わかった?」

ノベル「ノレド、リョウカイ。ノレド、リョウカイ」

ラライヤ「(微笑んだ後に真面目な顔になり)あのジムカーオ大佐というのは信用できません。こんなところに閉じ込められていたら操り人形にされるだけです。リリン、あなたも来なさい。みんなで一度逃げて、どうなるか観察するのです」

ラライヤはリリンを抱きつかせたまましっかりした足取りで縄梯子を伝って下へ降りていく。ノレドはいつものスカートに着替えてリュックの中に食べ物を詰め込むだけ詰め込むと、それを背負ってラライヤの後に続いた。






ジムカーオ「ですから(視線を落とし)いや、自分が性急でした。お詫びいたします。たしかに若いおふたかたの気持ちも考えず婚儀を言い出したのは謝罪いたします。しかし、ことの重大さは長官もお判りでしょう? ベルリ王子をこのまま地球に置いておけないこともご承知のはず」

熱弁するジムカーオの背後の窓にリリンを抱えたラライヤの姿と、続いてノレドの姿が見えた。ウィルミットは視線の端でそれを確認して、3人が脱出するまでの時間を稼がなければと、またしても慣れない芝居を打つことになった。

ウィルミット「誰が何と言おうと、ベルリはわたくしの子です。(席を立って窓の反対側に歩いていく)将来を嘱望されている優秀な自慢の息子なんです」

ジムカーオ「(困り果てた顔で)王子はピアニ・カルータに誘拐されたのです。籍をレイハントンに戻すことはご理解いただきませんと。それは絶対に譲れないことです。地球の人口は約7億人です。個人の自由のために7億の人間を見殺しにするなどという選択肢があるのですか?」

ウィルミット「失礼でございますが、わたくしはキャピタル・タワーの長官として長年務めさせていただきましたけども、ガードの調査部にあなたのような人物がいるとは聞いたことがないのです。身分は大佐とのことですが、あなたがクンパ大佐と一緒ではないという証拠などはあるのでしょうか?」

ジムカーオ「そのことはいずれお話しできると思います」

ウィルミット「なぜいまお話ししてくださらないのですか?」

ジムカーオ「それはヘルメス財団の・・・、あッ」

屋敷に轟音が響き渡った。ジムカーオが窓の外を振り返るとG-ルシファーが浮かび上がっているのが見えた。G-ルシファーの轟音で会話が聞き取れないとみたジムカーオは、その音が遠ざかっていくまでソファから立ち上がりかけた姿勢のまま待った。窓には縄梯子が揺れてコツコツと音を立てていた。

ジムカーオ「(憤慨しながら)どうしてこう誰もかれも勝手なことばかりするのだ。(ウィルミットに向き直り)自分に対して疑義をお持ちのようだが、自分がキャピタル・ガードの所属でレイハントン家の家臣であったのはウソ偽りのないことです。そもそもキャピタル・ガード調査部という組織が、ヘルメス財団の地球を監視するためのスパイ組織なのだといったら信じますか?」






ノレド「ふわあ、落ち着くぅ(ノレドは久しぶりに着たミニスカートにホッと安堵の息を漏らす)あの衣装、疲れるのよね」

ラライヤ「コルセットがきついのでしょう? リリンもその服、似合ってますよ」

ラライヤはリリンに微笑みかけた。彼女はシートベルトで座席に固定させられ、短い脚を前に投げ出していた。彼女が着ている子供服は、そのむかしアイーダが身に着けていたものだという。

ノレド「ラライヤもその軍服姿、すごく似合ってる。あたしの近衛隊長さんなんだから頑張ってよー」

G-ルシファーに乗った3人は次々とハッチをかいくぐり、15番ゲートから宇宙へ脱出した。

ラライヤ「長官に聞いた通りなら、法王さまは月にある冬の宮殿にいるはずです。いまから救出に向かいます」

ノレド「そういえば、前に言ってたよね。月にはもうひとつの人類がいるんだって」

ラライヤ「月の民、ムーンレイスといいます。でもそれはお伽噺のことで、月で眠っているとはいいますが、本当かどうかは・・・」

ノレド「なんで分かれて暮らしてんだ? 同じ人間なのに」

ラライヤ「わたしも詳しいことは知らないのです。しかし、500年ほど前、わたしたちの祖先がまだ月の衛星軌道に到着していなかったころ、1度地球への帰還を試みて断念した人々だとか。彼らは地球に帰還する日まで、交代で眠っているといいます。彼らをサポートする仕事もあるとは言うのですが、本当のことは誰にもわからない。眠っている人の中には宇宙世紀時代の人もいるとか。法王庁の方々以外、彼らと交わるのはタブーなんです」

ノレド「(いたずらっぽく笑って)本物の月の女王さまがいたりして」



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この続きはvol:32で。次回もよろしく。












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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第5話「ザンクト・ポルトの混乱」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第5話「ザンクト・ポルトの混乱」後半



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メガファウナが出航すると同時に144番ナットからレックスノー部隊が出撃した。キャピタル・ガードはケルベス中尉が到着するまで決死の覚悟でタワーを守り抜く決心だった。

ドニエル「クノッソスが2隻来るぞ。挟撃されるのは避けたい。モビルスーツ部隊はどちらかに狙いを定めて足を止めろ。地球に引っ張られるなよ」

副艦長「タワーからできるだけ離れる。出撃は2分待て」

メガファウナとクノッソスは距離を保ったままタワーから離れていく。この驚異的な構造物が主砲の射程内から外れた瞬間にモビルスーツが出撃した。メガファウナの主力モビルスーツ・グリモア隊を率いるのはオリバー。彼の指示で左舷のクノッソスに照準を定めることになった。

クノッソスからは20機近いザックスが出撃してきた。数の上でも性能の上でもメガファウナは圧倒的に不利であった。

ベルリ「(悩みを振り払うように)やるしかない、やるしかないんだ!」

ザックス兵団の先頭を切るのはガヴァン・マグダラであった。

ガヴァン「不採用のYG-111に居場所があって、なぜ守備隊長のオレに居場所がないんだ!!」

G-セルフとザックスが交戦距離に入った。ビームライフルの閃光が交わり合って空域を一瞬だけ輝かせる。密集陣形を敷いていたザックス1機が流れ弾に当たって撃墜された。離れた場所からルアンのG-アルケインが高出力対艦ビーム・ライフルでベルリを援護をする。

陣形は崩れ、ガヴァン隊はG-セルフを囲むように展開するが、G-セルフの速さについてこられず1機また1機と戦闘不能状態に追い込まれていった。

ガヴァン「誰かそいつを爪で捕まえろ!」

守備隊だったザックス兵団はモビルスーツ鹵獲の技術に長けていたものの、固まれば遠距離からビームで狙撃され、中間距離ではG-セルフに狙い撃たれ、まるで思うように戦えなかった。G-セルフはまるで彼らの動きを先回りして読んでいるかのように逃げ回った。

ベルリ「トワサンガの人たちは故郷に家族もいるんでしょ? なぜ戦争をやめられないんですか!」

ガヴァン「なぜお前ら地球人は何もかも奪おうと戦争を仕掛けるんだ!」

バヴァンは巧みにベルリの攻撃をかわしたが、一瞬の躊躇で取り残された者は容赦なく撃墜させられていく。G-セルフの動きは滑らかで判断の迷いなどないかのようだった。

ガヴァン「墜ちろ、墜ちろ、おちろーーーーッ!(悔しさに歯を鳴らしながら)地球人の戦争慣れにやられるばかりでーッ!」

戦友たちが搭乗する味方機が撃墜させられるたびに、ガヴァンの焦りは濃くなっていった。

オリバー率いるグリモア部隊もザックス兵団の1隊と交戦に突入した。機動力に劣るグリモアは防御を固めながら艦砲射撃から距離を置き、数に劣る戦力を優位な形に持っていけるよう相手を誘導しているところだった。

オリバー「あっちのモビルスーツは爪に捕まると厄介な相手だ。こちらは陣形を崩すな。(加速させて)上を取って戦艦ごと地球に押し込むぞ」

メガファウナは、グリモア隊の動きに呼応するように空間を自在に動き回り、クノッソス2隻に挟撃されないよう位置取りしていた。幸いガヴァン隊をG-セルフが完全に足止めしてくれていたので、ステアは砲撃の脅威にさらされることなく動き回ることが出来た。

ドニエル「「常にクノッソス2隻の背後に地球が映るように動け。どちらか一方でも視界から消えたら無理して追い込まなくていい」

空間の奪い合いはクノッソスが重なったところで艦砲射撃の撃ち合いとなった。オリバーのグリモア隊は地球を背後に並んでしまったクノッソスに対して突っ込んでいき、至近距離からビームを撃ち込んで一撃で離脱する。相手のモビルスーツは戦艦を守るために船に近づくなどして陣形を乱していった。

近く重なりすぎたクノッソスは身動きが取れずにやみくもに弾幕を張るばかりとなった。

ドニエル「ステア! 右旋回、オリバーが上を取った。艦砲射撃で左のクノッソスを地球に押し込め」

ステア「イエッサー」

ドニエル「大気圏に押し込めーー!」

クノッソスの1隻がグリモアとメガファウナに押されているのを見て、ガヴァンは大声で怒鳴り上げたが、G-セルフとの交戦で孤立した彼の声はミノフスキー粒子に阻まれ、誰にも届かなかった。

2隻並んで戦うクノッソスは、側面を取られたまま旋回することも挟撃体制に移ることもできずに同じ方向への射撃を繰り返すのみであった。もとより彼らはトワサンガの守備隊であり、ドレッド軍のように艦隊戦術の訓練は受けていなかったのである。

ガヴァン「(両腕を振り回し)それでは2隻ある意味がないではないかーーッ! ラダッタ、ラダッタの船は宙域から離れて挟撃だッ。挟み込んで戦うんだ!」

オリバーのグリモア隊は、ザックスとは距離を空けるための射撃をするばかりで、相手が攻めあぐねるとみるとすかさず1機、また1機と陣形を離脱して戦艦に突撃するや至近距からビームを撃ち込んで離脱していった。

狙われた地球側にあるクノッソスは徐々に押し込まれ、地球の重力に引かれて高度を下げていった。それを見たラダッタ艦長のクノッソスはようやく艦首の向きを変えたが、砲撃の照準が乱れた隙を突かれてグリモアの突撃敢行を甘んじて受けるだけになった。

ガヴァンは自ら撒いたミノフスキー粒子を恨みながら、クノッソスに戻って指示を出そうとするが、G-セルフによる撃墜は止まらず、戦力は削られていく一方だった。彼は先頭を切って突撃したことを悔やんだがすでに遅かった。

ガヴァン「(呆然とした表情で)なぜ負ける? なぜこんなにあっさり負けるんだ?」

最初に押し込まれたクノッソスは、すでに大気との摩擦で船体が真っ赤に染まっていた。ガヴァン隊のクノッソスには大気圏突入シールドは装備されていない。地球に対し横向きで押し込まれたまま、船体の制御もできないまま装甲は燃え尽き、剥がれていった。

もう1隻のラダッタが艦長を務める船は、艦首を無理に変えたために、地球を背にしたより危険な態勢で大気圏に突入しようとしていた。そして、重力から逃れるためにメインエンジンを最大出力にした瞬間、船体後部が大爆発を起こしてその炎は一気に艦首まで伸びた。

グリモアと交戦していたザックスの動きが止まったとき、赤い飛行形態のモビルスーツが間に飛び込んできて変形した。ルアンのG-アルケインだった。グリモアとG-アルケインは茫然自失のザックスの編隊を掃討していった。

ガヴァン「(四方を見回し)あいつらにはみんな家族がいるんだぞーーーーッ!」

ベルリ「あんたが隊長なんでしょ! なんでこうなるまで戦おうとするんですか!」

ガヴァンのザックスはG-セルフに後れを取らない動きで最後まで生き残った。ガヴァンはもはや考えて機体を動かしてはいなかった。訓練に次ぐ訓練で培った経験だけでG-セルフと距離を置きながら撃ち合いに持ち込んでいた。

ガヴァン「地球の奴ら・・・、お前たちは悪魔だ。滅びるがいい。何もかも凍って死人の肉を喰らいながら最後は朽ちて死ぬがいい。そして再びクンタラの捨て場所となってこの世の地獄となるがいい!」

ベルリ「なんで撃つのをやめないんだ! どうして戦争ばっかりしたがるんですか!」

ガヴァン搭乗のザックスは、複数のビームライフルに機体を貫かれて爆発炎上した。ベルリは彼が四散したに黒い渦が巻き起こるのを見た。黙っていると、その渦に引き込まれてどこか別の空間へ移送されてしまうようだった。

耳が聞こえなくなっていた。操縦しているのに、機体が反応しているように感じなかった。何もかも手応えがなくなってしまった。ベルリは自分がどこかへ落下しているような気分になった。息苦しくて、声が出なかった。コクピットのモニターに見慣れない警告が並んでいた。

これは学校の教養課程で習った宇宙世紀時代の古代文字だった。ベルリのヘルメットに、見慣れない文字列が反射していた。

ドニエル「みんなよくやった。すぐに戻ってきて休め。フルムーン・シップを探しに月まで行くぞ」

ドニエルの声がベルリを気づかせた。背中が汗でべっとりと濡れていた。何かが起こったはずなのに、何が起こったのか思い出せなかった。






トワサンガのシラノ-5。レイハントン家の屋敷は十数年ぶりに活況を呈していた。ノレド・ラグはすでに住民たちからは女主人として扱われ、ひっきりなしに各地区の有力者の来訪を受けていた。

一気に近衛隊長に昇格したラライヤ・アクパールは、ジムカーオ大佐が紹介した軍人たちを部下にすることだけは断固拒否した。彼女は生まれ故郷のサウスリングでレジスタンス活動をやっていた仲間たちに声をかけ、即席の近衛兵団を作り上げた。

近衛兵たちには飾り立てられた制服が誂われた。レイハントン家に忠義を尽くし、長年ドレッド家のレコンギスタ作戦に抵抗してきた者たちはこれでようやく報われたと涙に暮れた。

彼女らと一緒に屋敷に押し込められたウィルミット・ゼナムに至っては、解散された議会から送られてくる稟議書に目を通し、サインをして決済する仕事までこなしていた。眼鏡をかけた彼女は膨大な書類に毎日目を通し、ひとつひとつ慎重に吟味して処理していくことから、議会よりはるかに有能だともっぱらの評判であった。

そこまでしなくてもよいと何度も止められたが、ウィルミットはいずれベルリがやる仕事ならいまのうちに自分が内容を把握しておきたいと言って譲らなかった。彼女があまりに有能であったため、トワサンガの役人たちもついつい頼るようになってしまっていた。

長年クラウン運航長官として勤め上げ、また役立たずな議会の代わりに政治にも関与してきた彼女のキャリアは伊達ではなかった。

愛想がよくいつも笑顔が絶えない将来の妃候補と、美しく仲間想いな近衛隊長、有能で切れ者の王子の義母という組み合わせは、トワサンガ、特にサウスリングの住民たちにレイハントン家再興が近く、また問題なく王政へ移行できるという安心感を与えた。

しかし、実情は少し違っていたのである。3人は食事が終わるとメイドたちを自宅へ帰らせ、3人でひとつの寝室にこもって話し込むことが日課になっていた。

屋敷の周囲には元レジスタンスの若者たちが、近衛兵の制服で周囲を警戒していた。彼らの多くはレイハントン家の家臣だった者らであり、かつて味わった屈辱を繰り返すまいと固く誓っていた。

ノレド「やっぱりおかしいよ。なんか変だ。どこの地区の人たちに訊いても、治安維持はモビルスーツでやっているって話すんだ」

ラライヤ「確認しましたが、ザックス兵団ではなく、カットシーとウーシアを使っているんですよ。少数ですがエルフ・ブルックも。(窓の外を気にしながら)あれってキャピタル・アーミーのものでしょ? 本国守備隊が別のものに入れ替わっているのは間違いないですよ」

まだ3人はトワサンガの本国守備隊がメガファウナに全滅させられたことを知らなかった。

ウィルミット「ここ数日予算の流れを調べていたんですけども(目頭を指で揉み)また戦艦を建造しようとしているみたいなんです。それはこちらで止めてありますけども、別の方のサインで通るようになったらもうこちらとしてはお手上げになります。・・・まさかこんなことになるとは。ノレドさん、ラライヤさん、どうお詫びしていいやら」

スコード教の熱心な信者であるウィルミットは、法王庁の発表を疑うことはせず、ゲル法王のトワサンガ亡命にノレドとラライヤを巻き込んだことを悔やんでいた。

彼女たちにはG-ルシファーが与えられ、こまめにフォトン・バッテリーの交換も受けることができる状況がウィルミットを一層混乱させていた。モビルスーツがあれば最悪脱出することができる。もしこのおかしな状況を作り出したのがジムカーオ大佐ならば、そんなヘマはしないはずだった。

キャピタル・ガード調査部のジムカーオ大佐は、地球とトワサンガの状況を整えてビーナス・グロゥブと交渉すると3人に話していた。彼の話を信じる方が、彼に悪意があると考えるより筋が通っている。それなのに、どうしても釈然としないことが多くありすぎるのだ。

ノレド「(申し訳なさそうに両手を振る)かまわないですよ。そんなこと。それより、結局あたしたちはここに閉じ込められたってことでしょう? どうやって逃げるか・・・。うん? 待てよ。逃げていいのかどうかもわからないのか。困ったなー」

ラライヤ「いざとなったらわたしがG-ルシファーでおふたりを脱出させます。でも、そう。逃げていいのかどうかもわからないですし、逃げてどこに行くのかも決まっていない」

屋敷の外にはG-ルシファーがいつでも乗り込めるように置かれている。レジスタンスのメンバーによって、この機体にもレイハントンコードが仕込まれ、レイハントン家のアイリスサインを持つか、ラライヤ、ノレド以外は認証しないように改造してしまったのだ。

ウィルミット「わたくしは若いおふたりのように金星まで行ったなんて経験はありませんが・・・、月の表面には何かありますの? 毎月空気の玉、水の玉、フォトン・バッテリーが僅かですけど運ばれていますよね。ラライヤさんはトワサンガの方でしたっけ?」

ラライヤ「月の表面には・・・」

シラノ-5は明かりが消え、人工的な夜が作られていた。





ノレドら3人はサウスリングに常駐していたが、ジムカーオは主にセントラルリングのオフィスか工業地帯で仕事をしていた。

彼は地球から運ばれてきた1機のモビルスーツを眺めていた。

ジムカーオ「この白いのはいったいどういうものなのかな?」

ジムカーオの質問に答えるのはキャピタル・テリトリィから法王と共にトワサンガにやってきた一団であった。彼らの中には元兵士もいれば博物館の学芸員などもいた。ほとんどが故郷でクンタラとして差別されてきた人間やその友人たちであった。

ベルリ・ゼナムに敗れて故郷に居場所がなくなったルインは、恋人のマニィを連れて放浪の旅に出た。それによってマスク部隊は解体したが、クンタラの地位向上を目指す志は地球に戻ってからも彼らを活動へと駆り立てていた。そこに現れたのがジムカーオ大佐であった。

ジムカーオは元マスク部隊を中心にキャピタル・テリトリィ内のクンタラを集め、いずれはクンタラ安住の地カーバに導くと約束した。彼らはまさかクンタラが調査部の大佐になっていたとは知らず、その地位が完全に本物であることを確かめると彼の元へと集結したのだ。

集まった人間たちに新たな身分や制服は与えられなかった。彼らはキャピタル・テリトリィ時代と同じ格好と身分でトワサンガで活動をさせられていた。表向きの理由はトワサンガの新国王になるはずのベルリ・ゼナムに疑われないためにとのことであった。カーバを与えるとは約束したが、トワサンガが彼らクンタラのカーバになるとは告げていなかった。

キャピタル・テリトリィで博物館の学芸員をやっていた男が進み出てジムカーオに説明した。

学芸員「これは地球で発掘された機体なのですが、実はもう1機ありまして、状況から類推すると500年前に地球とムーンレイスとの間で起こった戦争に使われたもののようです。製造されたのは遥か昔で1000年以上前ではないかともいわれております」

ジムカーオ「ああ、そういうことか」

短い説明でジムカーオが納得してしまったので学芸員の男は驚いてしまった。

学芸員「(戸惑いながら)・・・、月に持ち込んだのは、アメリアに残されていた記録ではその2機はいにしえよりライバル関係にあり、同じ場所に置いておくと災いが起こるとのことでしたので、ウーシァなどと共に運ばせていただきました」

ジムカーオ「1000年前のものとは思えないほど綺麗だろう? これはナノマシンという技術で、いまでは途絶えた宇宙世紀時代の究極の技術だったのだ。動力はおそらく縮退炉であろう。これもかなり一時的にしか実用されなかったものなのでとても貴重でな」

学芸員「(汗を拭きながら)わたしなどよりよほどお詳しく」

ジムカーオ「いやなに、古いものに興味があるだけだ。この機体の整備はできるのか? コクピットの座席の交換くらいなら君にでもできるんじゃないか。使うかどうかはともかく、直せるところだけ直してくれないか。胸の傷は修復しなくていい。それはおそらくこの機体の記憶なのだ」

学芸員「わかりました」

その隣にあったのはG-セルフと同型の機体であった。まだ塗装がされておらず、銀色のままであった。ぞろぞろと大人数を引き連れたジムカーオは、ひとりでさっさと階段を駆け上がってコクピットを覗き込み、酷くガッカリしたように肩をすくめた。

ジムカーオ「これが用意できたということは、YG-111のヘルメスの薔薇の設計図はあったんですね?」

話を振られたのはトワサンガに先乗りをして工作活動をした調査部の新米であった。彼はジムカーオを前にかしこまってしまいしどろもどろになっていた。

調査部の男「いえ、なかったんです! ヘルメスの薔薇の設計図は見つけておりません! これはYG-111の試作機と残存パーツで組み上げただけのものでして、あのその」

確かに肩のところに薄くYG-101との文字を見つけたジムカーオはひとり頷いた。

ジムカーオ「ヘルメスの薔薇の設計図はなかった。それは残念。引き続き探してくれているよね?」

調査部の男「それはもちろん!」

ジムカーオ「ならいいんだ。いやなに、別にこんなものは必要とはしていなくてね、欲しいのはYG-111のコアファイターの情報なんだよ。地球に捨てられていた機体もコアファイターだけなかったみたいでね。これも見たところ、ただのユニバーサル・スタンダードだ。レイハントン家が子供に残した機体は操縦席がコアファイターという飛行機になっていてね、操縦系統にこちらが知りたいものが仕込んである可能性があるんだよ。その情報が欲しいだけなんだ」

調査部の男「では整備の方は?」

ジムカーオ「整備はあてがあってね。もうすぐこちらにうってつけの訪問者がいらっしゃるから、彼にやらせればいい。(アーミーの制服を着た男を指さし)その人物が来たら君に案内させるからそのつもりでね」

アーミーの兵士「自分みたいな下っ端にですか?」

ジムカーオ「(驚いたように身体をのけぞらせて)まぁ、下っ端の仕事だからな」

そういって彼は可笑しな奴だと笑ったので、一同は釣られて笑い声を立てた。アーミーの制服の男は笑われるのに慣れているのか頭を掻いて恥ずかしさをごまかした。

地球からやって来た彼らは、トワサンガでの生活に順応したわけではなく、初めての宇宙での生活に戸惑うばかりであった。多くは家族を地球に残してきており、自分たちの仕事がいつ、どのような形になれば終わるのか何も知らされていない。ただ、カーバの夢だけを頼りについてきた者だった。

それほどクンタラの人間にとってカーバの予言は大きなものだった。ついてきた者たちの中には、その秘密の一端に触れるだけでも満足だと言ってはばからない人間もいたほどだ。

彼らはまだ自分たちがスペースコロニーにいるのだということさえまともに理解しているか怪しかった。ジムカーオは彼らにパトロール任務を与えていたものの、宇宙での生活に順応するための訓練は施していなかった。それもあって、多くの者はすぐに地球に還れるのだと信じていた。

まだ中年に差し掛かった年齢にしか見えない若き大佐であるジムカーオは、キャピタル・テリトリィのクンタラの希望の星であった。


(ED)


この続きはvol:31で。次回もよろしく。









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