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「聖なる鹿殺し / キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(2017年作品)感想 [映画]

ヨルゴス・ランティモス監督によるアメリカのサイコホラー映画。出演はコリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン。

<あらすじ>

心臓外科医のスティーブンは、飲酒状態で救命処置を行った。それが原因ではないのだが、患者は死んだ。何となく飲酒が原因かもしれないと漠たる不安に襲われた彼は、患者の息子マーティンに金や物をあげるようになった。それは贖罪のつもりであった。

そしてマーティンを家に招いたときから、家族に異変が起こり始める。マーティンはスティーブンに、あなたは父を殺したのだから家族の誰かを殺さねばならないと言い出した。相手にはしなかったが、家族がどんどんおかしくなってくるのでスティーブンは家族に袋をかぶせてグルグル回りながら誰かを撃ち殺すことにした。

死んだのは1番下のボブだった。

<雑感>

この気色悪い物語は、ギリシア悲劇「アウリスのイピゲネイア」の骨子から組み立てられている。スティーブンがアガメムノン役で、狂言回しだ。

深い意味はあまりなくて、劇中で非常に気色悪いマーティンは、スティーブンの不安が実体化したもの。贖罪の気持ちが生み出した架空の存在なのだが、架空のものに金や物を供えているうちにそれが実体を持ちはじめ、不安の実体化が現実に負の作用を及ぼしていく。

現実に負の作用が拡がっていくことで周囲の人間もスティーブンの不安を共有することになり、唯一の解決方法である「生贄を差し出す」ことが望まれていく。

スティーブンは心の中ではマーティンにそんな力はないと知っているし、そもそも自分の贖罪意識を晴らすための行為だったから、周囲が自分と同じ不安を共有すると醒めてしまい、そんなことはないと我に返る。ところが周囲の人間にとってスティーブンが最初に感じた不安は真実なので、必要のない生贄、意味のない生贄を出さないことには収まりがつかなくなってしまう。

その結果が最愛の息子を自分の手で殺す結果になる。

これは平安時代の呪いの作用と似ており、最初に「アウリスのイピゲネイア」を読んだときに「呪いの共有」としてまとめたことがある。そもそもの発端は「不安」なのだ。力及ばす患者を死なせてしまった「ストレス」でもある。

「アウリスのイピゲネイア」に限らずギリシア悲劇は「ストレス」のかけ方が上手くて、この物語の狂言回し役アガメムノンは、威厳溢れる姿と、まるで無知のような無表情無感情で他人の言葉に流され、頭に袋をかぶせてグルグル回って子供を殺す間抜けな姿を晒してしまう。

よく平安時代の陰陽師の話に呪いだのなんだのと出てくるけども、あれはまさに「アウリスのイピゲネイア」と同じことをやっているのだ。ある不安(例えばインフルエンザのような流行り病)を実体化(人形や言葉に不安を仮託する)させて、それを燃やして「インフルエンザが流行していることへの不安」を解消する。

節分の豆まきも同じ効果がある。悪いもの(流行り病)を鬼という形で実体化させて、豆をぶつけて追い払い、心の不安を取り除くのだ。ストレスは万病の元なので、それが解消されることで免疫力が高まって実際に病気の流行が収まったりする。

そうした人間の心の在り方を悲劇に仕立ててあるわけだ。これは同時に喜劇でもあるので、作者のエウリピデスは市井のまじない行為などの意味がないことをよく見抜いていたのだろう。

☆4.2。マーティンを家に招くことでスティーブンの不安が家族に拡がり心を蝕んでいく感じがよく作られていた。かなり良い出来だと思う。


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