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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第24話「砂塵に帰す」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第24話「砂塵に帰す」前半



(OP)


クリムから接収した∀ガンダムは、その機構解析のために封印されたまま横たわっていた。

解析作業はジット団委ねられ、キャピタル地域での戦闘に参加した彼らの帰国を待って行われることになっていた。シートを被せられた機体に興味を示す者はなかった。

そこにやって来たのはNYでキャバレーを経営するカリル・カシスと逮捕されたはずのロルッカ・ビスケスであった。

カリル「この借りは必ず返してもらいますからね」

周囲を見回したカリルはロルッカを∀ガンダムが横たわるジット団の工場へと案内した。工場といってももとは海沿いの廃倉庫だった場所を使っているだけであったが。

ロルッカは真っ赤な顔で憤慨していた。

ロルッカ「信じられん。姫さまがオレを逮捕させたというのか? ずっとレイハントン家に仕えてきて、レイハントンさまがノウトゥ・ドレットに殺された後もレジスタンスとして頑張って、ずっと坊ちゃまと姫さまを探し続けてきたこのオレを、逮捕させた・・・」

カリル「何があったのかはあたしゃ知らないけどさ、そりゃ武器の密売をやってりゃ危ない橋を渡ってるとわかりそうなもんだけどねぇ。とにかくルインに頼まれてなけりゃあたしだってこんな危険な真似はしないんだ。それからあんたが貯め込んでた金はきれいさっぱり使っちまったからね。怒るなよ。あんたを釈放させるのにどれだけ賄賂が必要だったと思ってるんだい。いいからそれに乗ってゴンドワンでもどこでも行っちまいな」

ロルッカ「これはルインが乗っていたモビルスーツじゃないか。なんでこんなものがここに・・・」

カリル「(周囲を気にしながら)さぁね。とにかく死にたくないならさっさと逃げるんだね。もうあたしは帰らせてもらうよ。こんなところ誰かに見られちゃあたしまで破滅しちまう」

何か言いたげなロルッカをそのまま残して、カリル・カシスは立ち去った。不満顔のロルッカだったが、レイハントン家に見捨てられたショックは大きく、最後には力なく∀ガンダムのシートを外してコクピットに乗り込んだ。

∀ガンダムはジムカーオ大佐の指示の下で発掘され、いったんキャピタルの南にある国境沿いの軍事基地跡地に運ばれた。騙されてホズ12番艦に乗せられたジット団のメンバーが、コクピットだけをユニバーサル・スタンダードに換装させている。認証も新規登録するだけにセットされていた。

ロルッカはコクピットに座って計器類を確かめた。

ロルッカ「これなら動かせそうではあるが・・・。こんな宇宙世紀時代のポンコツでゴンドワンまで逃げて、またあのチンピラみたいなクンタラの連中と顔を合わすなんてオレにはできない。どうする? やはり姫さまを頼って許してもらうか? いや待て。オレは法王庁の仕事を請け負っただけだ。武器の横流しをしていたわけじゃない。全世界に売り歩けと命令されたんだ。そもそも不当逮捕なのだ。謝る必要などないはずだ。だが、裁判は怖い。地球人に裁かれるなんてまっぴらだ」

彼はコクピットに座ったまま大きく溜息をついた。しばらく彼は考え、やがて決心した。

ロルッカ「とりあえずミラジと合流するか。これは何かの行き違いなのだ。ミラジに取りなしてもらうように頼むしかない。姫さまだってきっとわかってくれる。これは間違いなんだ」

彼は機体を立ち上がらせた。目立つことをしたくなかった彼はそのまま歩かせて海へ出て、大西洋を渡るつもりでいた。コンソールにはゴンドワンまでの飛行ルートが表示され、自動操縦にセットすることもできそうだった。

ロルッカ「これならなんとか」

彼が安心したときだった。∀ガンダムは突如自動操縦に切り替わり、倉庫の天井を突き破って一気に200mほど上昇した。シートベルトをしていなかったロルッカは天井でしこたま頭を打って力なく崩れ落ちた。∀ガンダムはさらに高度を上げた。

そして下に広がる街を見下ろし、何かの解析を始めたのだった。その行為はノレドがG-ルシファーでビーナス・グロゥブの薔薇のキューブの内部を破壊したときと同じであった。

驚いたロルッカは必死にコントロールを取り戻そうとしたが無理であった。コアファイターだけでも切り離そうとしたがこれもできなかった。どこをどう触ってもまるでいうことを聞かず、まるで機体そのものに意思でもあるかのようだった。

彼は痛む頭を押さえながら、シートベルトだけをして、こんなときに地球は便利だとノーマルスーツの必要がないことを感謝した。∀ガンダムはさらに上昇して1番高いビルを見下ろすほどに達すると、ぐるっと回って周囲にあるものを解析していった。

∀ガンダムは、破壊すべき文明の痕跡を探していたのだ。

陽光を浴びて白く禍々しく輝く機体は、やがて計算が終わると大きく両腕を天に掲げ、その姿勢のまま地面に対して水平になると、光の粒子のようなものを撒き散らし始めた。驚くことに、それに触れたものは一瞬で消え去った。そして後には砂塵だけが舞ったのである。

ロルッカ「こ、これは・・・。これはダメだ。誰がこんなことを考えた? ああ、街が消えていく・・・。だ、誰かこれを止めてくれぇ」







ゴンドワンの特使はアメリア大統領ズッキーニ・ニッキーニには会おうともせず、直接アイーダの元を訪ねてきた。アメリア軍総監執務室に通された特使は、すぐさま戦争の終結とクンタラ国建国戦線を共同で駆逐できないかと相談を持ち掛けてきた。

アメリアとゴンドワンはクリムトン・テリトリィという名称を認めないことで一致。ただし法王庁への対応では意見が分かれた。クンタラ建国戦線に備蓄分のフォトン・バッテリーを強奪された彼らは法王庁にすがればバッテリーの供給が許されるかのような甘い考えを持っていた。

アイーダはトワサンガで起こったことを手短に説明したのだが、そもそもトワサンガについて大した知識のない彼らには事情が複雑すぎて理解が及ばないだけでなく、法王庁の発表がアメリアの立場を弱めていると勘違いしており、彼らはいまこそアメリアに恩を売るときだとすら考えてやって来ていた。

アイーダ「法王庁にとりなすとのことですが、ご説明したように法王庁そのものと戦っているのです。キャピタルの住民は法王庁から自分たちの土地を取り戻さねばならないわけです」

特使「いえ、待ってください。法王庁と戦うとおっしゃるが、それではフォトン・バッテリーは永久に供給されないのでは?」

アイーダ「みなさまもご覧になったように、ビーナス・グロゥブのクレッセント・シップとフルムーン・シップは彼の地の総裁より直接預かるよう我々が承っており、トワサンガについても、発表は伏せておりましたが、王家の正統な血筋はベルリ・ゼナムという若者にあるのです。わたくしもそうです。トワサンガとビーナス・グロゥブの考え方は一致しておりますが、それを邪魔している者がおり、現在それらと宇宙で交戦中なのです」

特使「法王庁の発表を認めながら、非はないとおっしゃるのですか? 呆れた人だ」

アイーダは何かを言いかけたが、それは口にせず特使をホテルに送り返した。結局会談は何も決まらないまま終わった。

レイビオ「ゴンドワンの特使と組んでクンタラ国建国戦線と戦うのは国内のクンタラへの立場上慎まれた方が良いので、交渉決裂はやむを得ないかと」

アイーダ「(背もたれに深く沈み)そうですね。それにしてもたかがテロ組織に国の半分以上を取られるというのは一体どんな魔法を使ったというのでしょう? ゴンドワンの国内情勢についてもっと聞き出せればよかったのですが・・・」

レイビオ「こちらの調べで、ゴンドワンにおけるクンタラ指導者はルイン・リーという人物だと判明しております。もとキャピタル・アーミー所属、別名マスク。現在は法王庁からキャピタル・テリトリィの領主に任命されています」

アイーダ「マスクのことならよく知っています。薔薇のキューブのジムカーオという人物は、法王庁とクンタラを上手く使って現在の状況を作り出したようです。それにクリムですね。野心のある者が騙され、彼に利用されている。そして悪いのは全部わたしと弟になすりつけている。狡猾な男です」

レイビオ「(用紙を手渡し)ゴンドワンとキャピタルのフォトン・バッテリーが尽きかけているのは確かなようです。ゴンドワンにはもう侵略してくる余力はないでしょう。姫さまのお話では、支援しているキャピタルのレジスタンスもすべてこちら側とか。それが本当なら、アメリアは安泰です。ただし、議会は困難ですぞ」

セルビィ「議会対策についていくつか方向性をまとめてありますが、クリム・ニックの生存をどう使って・・・」

そこまで話したところで、ドアをノックする音が響いて会話は中断された。

アイーダ「お入りなさい。何事ですか?」

飛び込んできた男の報告を聞いたアイーダは、慌てて執務室の窓を開けた。すると青空を背にした1機のモビルスーツが上空に浮かんでいるのが見えた。

そのモビルスーツは七色に輝く何かを撒き散らした。するとその下にあった建物が跡形もなく消え去ったように見えた。まるで夢でも見ているかのようだった。とても美しい光景であるのに、それは紛れもなく破壊行為なのだった。

アイーダの目の前で街がどんどん消えていった。ビル群は跡形もなく消え去り、道路には砂塵が舞い降りた。緑の区画はそのままで、人工物だけが消え去っていく。

白昼に輝く虹の粒子が、街を砂漠に変えようとしていた。

アイーダ「すぐに全軍の召集! 警報を鳴らして! 警察を動員して市民を地下に避難させてください!」








ゴンドワン正規軍はアメリアとの大陸間戦争を諦め、残存兵力すべてをクンタラ狩りに投入する決定をした。

彼らが愛してやまなかった首都はすでになく、そこには砂に覆われた荒涼とした光景だけが残っていた。しかし公園や小さな森などはそのまま残っており、雨が降り積もった砂を川へ流せば復興できそうだとの情報がもたらされている。ゴンドワン政府はこれにすがった。

フォトン・バッテリーの備蓄はクンタラ国建国戦線に奪われほとんど残っていなかったものの、イザネル大陸政府との間にソーラーパネル供給と引き換えにフォトン・バッテリーを譲り受ける契約が成立して当座はしのげる見込みがついていた。季節が夏であることも幸いした。

今回の作戦は、イザネル大陸から提供されたエネルギーの3分の1を消費する大規模な戦闘が予定されており、人口規模でゴンドワン市民と匹敵するほど膨れ上がったクンタラたちを殲滅することが目的であった。元来クンタラ差別が根強い地域だけに、兵士たちはいきり立っていた。

作戦指揮官はクンタラ国建国戦線にモビルスーツが不足していることをすでに確認しており、最初の攻撃は大規模な空爆を予定していた。問題は北方地域の広範囲に拡がった占領区域のどこを攻撃するかであった。人口の多い地域を狙うとの意見に対し、ひとつの有力な案が提示されていた。

司令官「では連中はこの小さな町を最初に占領したというのだな。周辺の森の木はほとんど切り倒されているのに彼らは難なく冬を越して南進してきたと」

諜報員「当時まだフォトン・バッテリーは奪われておらず、彼らも流民が放棄した街をただ占拠しただけだったようです。ところが木もないのに彼らは冬を越した。そこで調べてみたところ、キャピタル・ガードに提供していたホズ12番艦がこちらに戻って、クンタラに使われている。しかもキャピタルから多くの大型船舶がやって来て、彼らの支配地域に巨大な何かを運んでいるのです。専門家の分析では原子炉ではないかと」

司令官「原子炉などアグテックのタブーに触れるではないか。そんなものを連中が組み立てたとでもいうのか?」

諜報員「おそらく発掘品でしょう。宇宙世紀初期からトリウム原子炉を始め様々な原子炉がMSに搭載されていたので、それを掘り起こして運んだのです。幸いゴンドワンにはあまり埋まっておりませんが、キャピタルやアメリアにはかなり多くありますから。そこを叩けば、周辺地域のクンタラたちはもう冬を越せません。防衛戦を張って、北方に封じ込めるのです」

司令官「だが原子炉を叩くのは・・・」

諜報員「無論ご決断は閣下にお任せいたしますが、入植してきたクンタラの数は膨大で、彼らひとりひとりを叩いている余裕はないかと思われます。大量破壊兵器がない現状・・・」








たった1機のモビルスーツにまるで歯が立たないことにアメリア軍は焦りの色を濃くしていた。

NY上空に突如出現した白いモビルスーツを撃墜するため、国境守備隊から正規軍まで動員されながら、ことごとく蹴散らされるばかりか兵器が一瞬で砂に変えられる恐怖は指揮系統を散々に乱して余りあった。空に輝く太陽は、もうもうと立ち込める砂塵に黄色く歪んでいた。

アメリア軍総監アイーダ・スルガンは、近接戦闘を諦めてロングレンジからの砲撃と戦闘機によるミサイル攻撃に作戦を切り替え、戦艦出撃の準備を急ぐように指示していた。

しかし、どれほど火力を集中させようとも、∀ガンダムはびくともしなかったのである。

攻撃を続ける意味は、砲火に晒されている間は虹色の粒を放出しないためであった。少しでも攻撃の手を緩めると、∀ガンダムはすぐさま態勢を整えて都市を破壊し尽くすように虹色の粒を撒き散らすのだった。アイーダはムーンレイスの基地で耳にしたG-ルシファーの機能を思い出していた。

アイーダ(ノレドさんがビーナス・グロゥブの薔薇のキューブを攻撃したときは、エンフォーサーユニットというものが暴走したからだと言っていた。しかしあれはクリムが普通に操縦していた機体だ。宇宙世紀時代のものかもしれないけど、エンフォーサーユニットとは違うもののはずだが・・・)

アイーダはアメリア軍総監執務室を離れてはいなかった。彼女は屋上へ出て、ミサイルやグリモアの射撃を受けるたびに燃え上がり、もうもうと煙を上げる∀ガンダムを眺めていた。昼過ぎから始まった戦闘は長引き、太陽は西の空に落ちようとしていた。

男性秘書「姫さま! 早く避難を!」

建物のすぐ近くでミサイルが誤爆した。爆風がアイーダの髪を大きく乱した。

女性秘書「姫さま!」

アイーダ「(サッと踵を返し)クリムから接収したシルヴァーシップを調査します。20名ほどの特殊部隊を組織するよう命じてください。それからすぐエル・カインド艦長にクレッセント・シップとフルムーン・シップを大西洋上へ避難させるようにと。至急です」







ジャングルの中の作戦本部に鎮座するケルベスの下に、助っ人としてジット団とミラーシェードという人物がやってきた。ミラーシェードは、変装したクリム・ニックであった。ケルベスにはすぐに分かった。問題は彼に恨みを持つレジスタンスのメンバーに見つかった場合であった。

ケルベスは夕闇のジャングルの中にクリムを誘い、ふたりきりで話をした。トワサンガで薔薇のキューブを見ることになったケルベスには、クリムに対する悪感情はなくなっている。彼もまたジムカーオ大佐に利用されただけの哀れな人間だと知っているからだ。しかも、ミック・ジャックも失っている。

ケルベス「そこでだ、天才を見込んで頼みがある」

クリム「なんだ?」

ケルベス「君がゴンドワンから連れてきた若者たちだが、あの子らはまだ君を信奉しているのだろう? もしそうなら、彼らを説得してこっちの味方につけてもらいたい。クリムもあの子らも、もうゴンドワンには戻れない。だとしたら、宇宙移民を考えてはくれまいか?」

クリム「ああ、その話か」

ケルベス「そうだ。これはベルリの発案なのだが、スペースノイドとアースノイドの決定的な違いは労働に関する価値観の問題だ。壁1枚隔てた向こう側が真空の宇宙に住むスペースノイドは、労働について非常に厳しい価値観をもって生きている。だからこそ、だらけた地球人が我慢できない。逆にアースノイドはスペースノイドの厳しい労働倫理をいつまで経っても理解しない。ここにスペースノイドとアースノイドの決定的な違いがある。そこで、ベルリは人々に一定期間宇宙で暮らすことを義務付けられないか検討しているんだ。宇宙まで行けなくても、キャピタル・タワーで訓練するだけでも全然違う。これは君が考えた地球人の幸福とは違うかもしれないが、ひとつの幸福の形になり得るものなんだ。オレは今回の問題に巻き込まれたゴンドワンの若者と、クンタラの若者をなんとかこのプログラムに参加させたいと願っている。手伝ってはくれまいか」

クリム「その話はアイーダから聞かされている。だが、ケルベス中尉殿はオレが単独行動を取ることになっても平気なのか? オレをまだ信じるのか?」

ケルベス「信じるさ。人間だからな。オレがキャピタル・ガードの教官になったのは、初めて宇宙空間に出たときの感動と緊張を子供たちに教えてやりたかったからなんだ。クラウンの守備隊というのは、アースノイドとして唯一宇宙を体験できる職業だった。宇宙に出て、地球にいたときのようにふざけては生きられないということを知ったとき、オレの中で何かが変わった。大人になった気がしたんだ。だから、ベルリの話を聞いたとき、それは人間が変われるチャンスを得る話だと思った。いままではそれをキャピタルの人間が独占していたが、誰もが体験できるならば、本当に大陸間戦争なんて起きただろうかと。宇宙世紀という時代を我々は悪しき黒歴史として教え込まれるが、新しい時代を宇宙世紀と名づけた人間たちはオレが宇宙に出たときの感動と同じものを感じて、それで宇宙世紀と名づけたんじゃないのか? 宇宙世紀は、希望の名前だったはずだ。だが、アースノイドとスペースノイドは立場が固定されて意識の違いが埋められぬまま戦争を繰り返し、やがて生じた大きな利権が戦争の継続を人類に押し付けてきた。宇宙世紀は人の数が多すぎた。エネルギーが、資源が、過剰になっていた。しかし、いまの時代はどうだろう? 宇宙世紀を本当に繰り返せるのだろうか? いまの地球の人口で、資源の量で、それは可能だろうか? 誰もが必ず宇宙で労働の義務を果たす世界は、何かが変わるとは思わないか? 人が初めて宇宙に飛び出したときの感動を、オレは教師として子供たちに伝える仕事を続けていく。君はゴンドワンのやさぐれた若者たちを、宇宙に導いて欲しいんだ」

クリムは神妙な顔でケルベスの話を聞き、瞬き始めた夜空の星を見上げた。

クリム「ずいぶん感傷的な幸福論だが、そうか、子供たちを宇宙で働かせる時代を作ろうというのか。リギルドセンチュリーにそれはふさわしいことなのかもしれない。そうだな、モビルスーツで遊んでいる場合じゃなかったのかもしれん・・・」

ケルベス「そこでだ。まずはキャピタル・タワーを奪還しないことには始まらん。テリトリィ内にいるゴンドワンの若者たちについては君に任せる。オレたちはクンタラの連中をどうにかするつもりだ。法王庁にはまだ何もしないでくれ。あいつらは攻撃を利用する連中だからな」

クリム「了解した。では先にヘカテーで街へ潜入させてもらう」







暗室のように真っ暗な部屋で、ジムカーオは目覚めた。ビーナス・グロゥブで生まれ、長く地球圏で暮らしてきた彼はにとって漆黒は懐かしい故郷であった。しかし、暗闇の中に引きこもってばかりもいられない。身支度を整えた彼は部屋を後にした。

トワサンガから解放された薔薇のキューブには、2万人の乗員が暮らしていた。地球圏へ最も遅く戻ってきた「今来」である彼らは、ムーンレイスの次に早く戻ってきた「古来」であるレイハントン家と激しく対立した人々の末裔であった。

ジムカーオ「人と人の間にある断絶を乗り越えること、生と死の間の断絶を乗り越えること、これらにおいて我々より進んだ人類などいるはずがないのだ。最も長く外宇宙で暮らした我々が辿り着いた世界以上に完成されたものなどあるはずがない」

彼の拡張された感覚器官はエンフォーサーと繋がり、同時にシルヴァーシップと繋がっていた。シルヴァーシップの全機能が彼の感覚であった。そしてすべての艦艇、その操縦者であるエンフォーサーの間に垣根はなく、感覚で繋がっていた。

シルヴァーシップやエンフォーサーは、彼の眼であり耳であり手足だった。

ジムカーオ「ではそろそろ行くとするか。我々執行者を止められる奇蹟があるというのなら、ぜひ見せていただきたいものだよ、レイハントンの坊や」

彼は手を振り、全軍の地球への前進を命じた。

シルヴァーシップと薔薇のキューブは、静かに青い地球目指して動き始めた。


(アイキャッチ)


この続きはvol:69で。次回もよろしく。



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