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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第23話「王政の理屈」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第23話「王政の理屈」後半



(アイキャッチ)


ゲル法王を前にして少しだけ緊張したハッパは、エンフォーサーについて話し始めた。

ハッパ「エンフォーサーというのは自立運動式の連動型人工知能で動くアンドロイドのことですが、その実態は拡張型サイコミュなんです。サイコミュはニュータイプ現象を増幅する装置ですが、エンフォーサーのものは人間の感覚器官の強化とは違った方向性のもので、残留思念を捕まえて増幅するものなんです。いわば人間の霊魂を取り込んで増幅させて実体化できる装置とでも言ったらいいでしょうか。つまり人間の意思情報が思念体として存在していることを前提としています」

話にラライヤも加わった。

ラライヤ「トワサンガの住人ならばさわりくらいは知っているはずですけど、ニュータイプは稀に起こる人間の感覚機能の拡張現象です。でもハッパさん、思念体、残留思念となるともはやオカルトの話になってしまう。人間の思念なんて死んだら消えるものじゃないですか?」

ハッパ「だから不思議なんだ。エンフォーサーはサイコミュだからニュータイプのアンドロイドじゃない。いわば空っぽ。何かがその中に入ることを前提にしている。ベルリが取り込まれそうになったのはそのためだ。そんなものがたくさんある。ぼくとノレドはG-ルシファーで薔薇のキューブに潜入してきたけど、シルヴァーシップはおそらくエンフォーサーで動かしている。連動型人工知能だからエンフォーサーが1台いれば船は動かせるし、エンフォーサー同士で連動させれば艦隊行動さえさせられるはずなんだ。エンフォーサーはニュータイプみたいなものだから、ミノフスキー粒子も関係ない」

ノレド「そこでメガファウナからこれを持ってきたんだよ」

ノレドは大きめのバッグのチャックを開けた。なかから取り出したのは、彼女がビーナス・グロゥブから持ち帰ったエンフォーサーの頭部だけであった。それを見たウィルミットは気味悪がってのけぞった。銀色の女性型の頭部には頸椎のところに通電させるための変圧器が簡易的につけられていた。

ハッパは鞄の中から取り出した他の部品を組み合わせ始めた。

ハッパ「手足があると何があるかわからないから、頭だけ完全に動くようにして、その下はサイコミュの最低限のパーツだけを組むことにします」

ラライヤ「(ハッパに部品を手渡しながら)わたし、ジムカーオに実験台にさせられそうになって、そのときに身体の中に誰かの残留思念が入っていると言われたんです。もしそうなら、その人物がこのエンフォーサーの中に入るかもしれない。もしそうならなくても、冬の宮殿にはたくさんの残留思念がいそうでしょ? だからここで実験しようって」

ウィルミットはオロオロしながらエンフォーサーの頭部とゲル法王の顔を交互に見比べた。

ウィルミット「みなさん忘れているかもしれませんが、それはアグテックのタブーもいいところで」

ゲル法王「いえ、神学者としてはとても興味深い実験です。人の残留思念などというものがあって、それが場に引き寄せられるというなら、その証拠をこの目で見たいという気持ちはあります」

ノレド「あたし(ハッパの作業を手伝いながら)G-ルシファーでビーナス・グロゥブの薔薇のキューブを攻撃しちゃったとき、もしかしたらラライヤの中にいた人が戦争はいけないって気持ちでエンフォーサーに入って攻撃したかもって思ってるんだけど・・・」

ハッパ「(組み立て作業を続けながら)もしそうなら、ラライヤの身体の中にいるニュータイプの残留思念は生前よほど強い能力を持っていたんだろう。残留思念なんてものがあるのかどうかはともかく、仕組みを見る限りそんなに長くは留めておけないはずだし、あっちこっち出たり入ったりできるならほとんどそれは幽霊みたいなものだ。G-ルシファーとG-セルフは座席がサイコミュシステムだから・・・。いや、待てよ。ラライヤの中に入ったり、サイコミュの中に入ったりしててもおかしくはないか・・・」

ラライヤ「実験していたとき、何かが中に入ってきた感じがあって、すごい覚醒感があったんです」

ノレド「確かにラライヤの様子はおかしかったよね?(ハッパに同意を求める)」

ハッパ「その人物がもしこのエンフォーサーの中に入ってくれたら、貴重な情報を聞き出せるかもしれないし、みなさんの研究の役にも立つかもしれない。じゃ、電気を通しますよ。ラライヤは中の人にこちらに入ってくれるようにお願いして。それから何かが身体から出る感覚があったらあとで教えてよ。いいかい、行くよ!」

ハッパはケーブルから引いた電極を変圧器に差し込んだ。

ラライヤ「(両手を前に突き出して力を入れる)ふん!」

電気が通ったことで、エンフォーサーの頭部は再起動状態となり、機能の回復にはしばらく時間が掛かった。何か思念を押し出すように両手を構えたラライヤは、そのままじっと動かずエンフォーサーに変化が起きるのを待った。1分ほど経つと、徐々にエンフォーサーが動き始めた。

ウィルミット「え?」

女性型ということ以外特徴のなかったエンフォーサーの顔つきが少しずつ変化を始めた。銀色の皮膚に見える表面がゆっくりと動き、何かの形になろうとする。

ハッパ「ナノマシンだ! うおおおおおおお!」

眼鏡をかけ直したハッパは小さな眼を限界まで拡げてその変化を目に焼き付けようとした。そのときだった。リリンが大きな声で突然泣き始めた。

リリン「パパ!」

エンフォーサーは男性の顔に変化した。その場にいる者の中でその人物を知っているのはリリンだけであった。エンフォーサーはリリンの父親の顔に変化したのである。

ゲル法王「(興奮した口調で)守護霊です。お父さまがリリンさんの守護霊になっていたんです」

ノレド「(唖然とした表情で)守護・・・霊」

リリンの父親の残留思念はかなり弱く、リリンに何かを語りかけようとしながらも、自分の顔の形を保つことさえおぼつかなく、その声は誰にも聞こえなかった。ただリリンだけがエンフォーサーの顔に抱き着きわんわんと泣き叫んでいる。

そんなリリンの姿を眩いばかりの強い光が照らした。ノレドやハッパ、ゲル法王とウィルミットも、光が差す方向に眼をやって仰天した。両手を突き出していたラライヤがその手を大きく包み込むように天に掲げ、身体から強い光を放っていたのである。

ラライヤの身体にはもうひとりの少女の姿が重なっていた。その少女はラライヤによく似た緑色の瞳を持つ美しい少女で、ラライヤの肉体を操っているように見えた。ラライヤとその少女が放つ光によって、冬の宮殿全体が神々しい光に包まれた。

彼女の目の前に、微かではあるがリリンの父親が立っていた。

リリンの父「娘がムタチオンに犯されないうちに地球へ連れて行きたくて、自分はガヴァン隊長と行動を共にしました。しかし力及ばず願いを叶えることはできませんでした。どうかみなさま、娘を地球に住まわせてあげてください。リリン、ふがいない父さんでごめんね。愛しているよ、ずっとずっと」

リリン「パパ! パパ!」

リリンの父親の姿は不意に消えてしまった。当たりに焦げ臭いにおいが充満して、ラライヤが放っていた光も消え、彼女はその場に崩れ落ちた。

ハッパ「いかん、サイコミュが焼けてしまった。(エンフォーサーの頭部の中を覗き込み)ああ、もうこれはダメだ。回路が全部ダメになった」

ゲル法王はウィルミットの袖を引いて何事か耳打ちをした。それを聞いて頷いたウィルミットがラライヤに駆け寄り、気を失った彼女の体をゆすった。

ノレドは泣き止まないリリンを強く抱きしめて自分も涙をボロボロとこぼした。

ノレド「リリンちゃん、あたしの家に連れて行きたいけど、あたしの両親も戦争で家が壊されて、いまどこにいるかわからないんだよ。なんでクリムはキャピタル・テリトリィを爆撃なんかしたんだ? なんでベルリはリリンちゃんのパパを殺さなきゃいけなかったんだ? なんでみんなこんなことしてるんだよ! 誰か教えてくれよ!」

そう叫んで、ノレドはリリンと共に大粒の涙をこぼし続けた。

その傍らに立ったゲル法王は、ラライヤがそうしていたように両手を広げて天にかざし、誓うようにこう言った。

ゲル法王「天の奇蹟は確かにあった。スコード教の原点なるものは、確かに存在している! 天にいらっしゃるラ・グー総裁! わたくしはいまあなたがおっしゃった宗教改革の意味を理解しました。わたくしは一命を賭して必ずやあなたの期待に応えてみせましょう!」





ルイン「ベルリを殺して何もかもを終わらせたい」

ザンクト・ポルトからカシーバ・ミコシに乗り込んだルイン・リーは、整列した元マスク部隊の面々に向けてそう訓示した。彼らは宇宙での戦闘経験を買われてジムカーオ直属となり、キャピタル・アーミーの解散に合わせて今回のクーデター計画の実行を担ってきた者たちであった。

正体を知られたルインはジムカーオと接触した際にこの計画を知らされ、自分はゴンドワン政府の瓦解を目指しながらいつか彼らと合流する日を待ち望んでいたのだ。

クンパ大佐の下で思うような結果が得られず、苦労を掛けたマスク部隊の面々の晴れやかな顔がルインには眩しく映った。

彼らはザンクト・ポルト最後の晩を飲み明かして過ごし、いまシラノ-5に向けて旅立とうとしている。

マスク部隊A「マニィさんとの間に女のお子さんがお生まれになったとか。おめでとうございます」

ルイン「ありがとう。いや、照れるな」

マスク部隊A「ルインさんもいまやキャピタル・テリトリィの領主。スコード教との歴史的和解が成立したのちにはシラノ-5の統治権も賜るとか。人類の敵レイハントンのベルリを叩いたのちは歴史上もっとも大きな権力を持つことになるのでは?」

ルイン「(シャンパンのグラスをテーブルの上に置き)いえ、ジムカーオ大佐のおっしゃっているのは、トワサンガと地球、とくにキャピタル・テリトリィまでが一体になっているとアピールしなければ、ビーナス・グロゥブからフォトン・バッテリーの供給再開の約束を取り付けられないということだと思うんです。いまは地球各地もバラバラ、トワサンガは王政も民政も機能していない、これではどう説明してもビーナス・グロゥブは説得できないと」

話し相手の男はニコニコ笑いながらもルインにそっと耳打ちした。

マスク部隊A「年はわたしの方が上だが、階級は君の方が上なんだから、敬語はいかんよ」

ルイン「自分はまだ領主だのには慣れておりませんので。しかし気をつけることにします」

クンタラたちはようやく巡ってきた我が世の春に浮かれ騒いでいた。地球の3大大国だったアメリア、ゴンドワン、キャピタル・テリトリィのうち、彼らは2つまで手に入れたのだ。もうひとつのアメリアは手に入れるまでもなくクンタラを差別しない実力主義の国である。彼らが喜び勇むのも無理はなかった。

ルインはもう少し年の若い話しやすそうな兵士を見つけて話しかけた。

ルイン「それで宇宙での首尾はどうだったのだ? 何もかも上手くいったのか?」

マスク部隊B「自分らはジムカーオ大佐の指示通りに動いただけです。トワサンガで苦労したのはガヴァン隊を追い出したときだけですか。あのときはすでに大佐が現地の人間を使って偽情報で誘導していたので、法王庁と自分らで叩き出すだけになっていました。ジムカーオ大佐というのは凄い人ですよ」

ルイン「確かに彼の計画は鮮やかというか、鮮やかすぎるというか・・・」

心配なのはその点だけであった。計画のすべてを立案し実行させたジムカーオ大佐は、たとえヘルメス財団の後押しと手引きがあったとしても侮れる相手ではなかった。それほど有能な人間が、自分を上に立たせずルインを押し立てて事を運ぼうと画策しているところがきな臭い点であった。

ルイン(クンパ大佐と同じビーナス・グロゥブの人間で、クンパ大佐と同じようにキャピタル・ガードの調査部に所属し、クンパ大佐とは違うことをやっている。これがどうも腑に落ちないのだ。クンパ大佐の目的を後で聞いたところでは、レコンギスタを演出することで人間同士を戦わせてスペースノイドの遺伝子を強化するというものだった。いわば戦わせること自体が目的だったのだ。しかし、ジムカーオ大佐は何かの決着に導こうとしているように見える。彼は結果が得られれば戦わす必要はないと思っている。だがその結果が一向に見えない)

ささやかなパーティーは解散し、カシーバ・ミコシはトワサンガに向けて動き出した。ルインの前には拘束具に全身を包まれたムーンレイスの捕虜2名が連れてこられた。

マスク部隊C「彼らが捕虜のムーンレイスです。名前はこちらがリック、こちらがコロン。ともにパイロットで、ディアナ親衛隊所属とのことです」

ルイン「拘束を一部解いてやれ。話が聞きたい」

兵士はリックとコロンの口を塞いでいた拘束を解いた。リックとコロンはカシーバ・ミコシに閉じ込められて連行されて以来、マスク部隊の尋問にも大人しく答えていたが、尋問する側にムーンレイスの知識がなく、話を聞いてもよくわからないことから独房に入れられたままになっていたのだ。

ルイン「わたしはキャピタル・テリトリィの領主ルイン・リーという者です。あなた方は古代種族のムーンレイスとのことですが、ムーンレイスのことを少し話していただきたいのです」

リック「あんたがここの責任者か? 1番偉いと思っていいのかな?」

ルイン「(苦笑しながら)立場上はそうなっています。しかし指揮を執っているのはジムカーオ大佐という人物ですが」

リック「だったら警告しておいてやるけど、レイハントンというのは怖ろしい人間で、生半可なことで勝てる相手じゃないからな。覚悟しておくことだ」

ルイン「(首を捻り)そのレイハントンというのは、ベルリ・ゼナムという少年のことか?」

リック「ベルリというのはあのホワイトドールの坊やだろう? 彼じゃない。彼の先祖のレイハントンだ。あいつは最も早く月に戻ってきた我々ムーンレイスから何もかも奪った男だ。クンタラなら今来、古来という言葉を知っているだろう? 最も早く月に戻ってきた我々が1番の古来、古株だ。ところがレイハントンは我々を月の内部に封じ込めてその文化を奪い、背乗りして自分が1番早く戻ってきたかのような顔をして外宇宙から戻ってきた人間たちの王に収まったのさ。本当ならば我々のディアナさまがそうなるはずだったのにな」

ルイン「わたしは地球で生まれ育った人間で、事情がよく呑み込めないのだが、それはいつのことなのだ?」

リック「たしか500年前とか言っていたな。そうだよな、コロン」

コロン「オレたちは500年間コールドスリープの中さ。お前にはわからないだろう? 500年前にレイハントンと戦った人間が目の前にいるんだぜ」

ルイン「500年前・・・、リギルド・センチュリー500年ごろのことか・・・」

リック「自分はアムロ・レイの生まれ変わりだとかぬかしてな、進化したニュータイプだから王になるのは自分しかいないのだと思い込んで、なんだか知らないが歴史の改編を始めたのさ。もっともオレたちは戦争で押されまくって、詳しいことは知らないけどな。アムロ・レイって誰だよって話で」

ルイン「アムロ・レイ・・・」

コロン「確かにヤツは怖ろしく強かったけどな。ベルリって坊やが同じくらい強いのかどうかはオレたちにはわからねぇが」

ルイン「しかしあなた方はそのレイハントン家と関係の深いアメリアと同盟を結んで法王庁にたてついたと聞いておりますが、これについて釈明はあるのですか?」

コロン「もともとオレたちはアメリアの人間なんだぜ。それでちゃんと条約でアメリアのサンベルト地帯に移住する約束になっていた。いろいろあってそれは叶わなかったが」

リック「レイハントン家の遺産を実質手に入れたのはジムカーオだぜ」

ルイン「(怪訝そうな口調で)そうなんですか?」

ルック「月の裏のコロニーはあいつが支配して、ベルリって坊やは入れてもらえなかったんだ。それでオレたちはコロニーをベルリの坊やに返すために戦ったのさ。あのベルリって坊やは、初代のようないけ好かない男じゃなかったしな」

コロン「月の裏の宙域だって元々はムーンレイスのものだ」

ルインは2人の話にウソはないと見抜いて、話題を変えた。

ルイン「わたしはシラノ-5に入り次第、何らかの交換条件を提示してあなた方を開放するつもりでおります。ところであなた方・・・ムーンレイスというのは、最終的にどうしたいと望んでいますか?」

リック「オレたちはディアナさまに従うだけだが、おそらくはアメリアに帰ることになるだろうな。もうそういう約束になっているかもしれない」

ルイン「まぁ、無駄な殺生をするつもりはありません」





キャピタル・テリトリィ周辺地区にはすべてのレジスタンス戦力が結集していた。彼らは全軍の指揮をケルベス・ヨーに委ねることを決め、勝手に兵を動かすことは固く禁じられた。

一方で法王庁はレジスタンス側が若者を無差別に殺し、女性に乱暴を働いたことを繰り返し非難していた。これについてはアメリア政府からもかなりきつい文言で警告が届いていた。もし今後同じことが起きた場合、レジスタンスへの支援を打ち切るとアイーダは告げてきたのだ。

世界の眼はレジスタンスへの非難に満ちていた。レジスタンスに参加していた人々は自分たちの正義を信じて疑わなかったために、彼らは酷く困惑した。ただ、どこの国家もフォトン・バッテリーが枯渇しつつあり、政治的なことより日常の心配の方が大きくなっていた。

アイーダが発表した「連帯のための新秩序」もクリムが発表した「闘争のための新世界秩序」も、事態の早期解決を約束した政治公約であったために、どの国も親身になってエネルギーの節約に取り組まなかったのは世界にとって誤算だった。

さらにクリムトン・テリトリィへの資金とエネルギーの供出が各国とも重しとなり、どこも経済が混乱し、治安も悪化してきていた。フォトン・バッテリーを供給してくれるのは法王庁とヘルメス財団であったために、どの国も法王庁に取り入ろうとする動きが活発化していた。

アメリアでは修正グシオンプランを支持する機運が高まり、エネルギーの自給なくして地球の真の独立はないと訴える勢力が議会を支配しつつあった。

そんななか、いまだに戦争を続けていたのがゴンドワンであった。

北方地区から中央地帯をクンタラ国建国戦線に実効支配されたゴンドワンは、南部に逃れた政府軍が反撃に出て、砂塵に帰したかつての首都跡地でクンタラ国建国戦線と激しく交戦していた。

政府軍にはエネルギーも戦力もほとんど残っておらず、戦いはクンタラ国建国戦線の有利のまま進んでいた。もし南部の政府軍が壊滅し、臨時政府が倒れることがあれば、ゴンドワンはクンタラのものになるというので、いまやアメリアに亡命したクンタラたちも戦いに加わり、ゴンドワン政府は風前の灯火となっていたのである。

しかし、彼らにも誤算はあった。ロルッカに手配を頼んでいたモビルスーツが届かなかったのである。それまでトワサンガ製のみならずゴンドワン製すら手配してくれていたロルッカからの荷物が届かなくなり、せっかくのフォトン・バッテリーが生かせない状態になりつつあった。

ミラジ「それをわたしに求められても困るんです」

ルインがいなくなったあと、彼の片腕として働いていたミラジは兵士たちから頼られることが多くなった。ロルッカへの手配も彼が行っていたために、モビルスーツが届かなくなった責任も彼に向けられる有様であった。

元々クンタラですらないミラジは、やはりルインについていくかアメリアへ渡っておけば良かったと激しく後悔していた。

クンタラ兵士A「ロルッカさんからの荷物もミラジさんが止めているって噂があるんですよね」

ミラジ「まさか。あいつはアメリアでオフィスを構えて派手にやっていたから、アイーダさんがクレッセント・シップとフルムーン・シップを引き連れて戻ってきたときに何かヘマをしでかしたんでしょう。とにかく誤解はよして欲しい。わたしは老人なんですよ」

クンタラ兵士B「もともと正規軍に対してモビルスーツが不足していたのに、予備のパーツも届かないんじゃいつまで優勢が保てるかわからない。何か打開策を考えていただかないと」

ゴンドワンに集まってきているクンタラたちはテロ活動も辞さない気の荒い若者が多く、トワサンガ育ちのミラジには手が余るものがあった。こんな連中を束ねていたのかと改めてルイン・リーという人間を評価した気にもなるというものであった。

ミラジ「YG-201については技術者と小さな工場でもあれば予備パーツを作らせることはできる。しかし、ゴンドワン製のルーン・カラシュについては本当にわからないもので・・・」

ミラジはなぜ自分がこんな若造に舐められなきゃいけないのかとウンザリしていた。ルインは年長であるミラジに感謝し、敬う気持ちがあったが、他の兵士たちにはそれがなかった。

しかも、それどころではないのである。

ミラジ「あなた方は押している押していると勇んでいらっしゃるが、追い詰められたゴンドワンはアメリアとも手を組むとルインさんもおっしゃっていたでしょう? どうして目の前の戦いばかりに夢中になって誰も大局を見ようとしないのか」

クンタラ兵士C「アメリアがゴンドワンと組んで戦力を割けば、ルインの兄貴がキャピタルから背後を襲う手はずになっている。それにアメリアもゴンドワンもいざとなれば戦争は止めて市民の日常生活にエネルギーを回さなきゃいけなくなる。こっちには原子炉もあれば核融合炉もあるのに、何の心配もいらない。欲しいのはゴンドワンから奪ったフォトン・バッテリーを使うためのモビルスーツなんだ」

男は机をドンと叩いて老人のミラジを恫喝した。ミラジが驚いて身をすくませると兵士たちはいっせいにどっと笑い声をあげた。

クンタラ兵士C「わかったかな、爺さん。なんとしてもロルッカさんと連絡を取ってモビルスーツを手に入れてくれ。市民の生活をすべて原子力で賄ってるオレたちにはフォトン・バッテリーは有り余ってるんだからよ」

ミラジがいくら悔しがったところで、若い彼らに腕力で適うはずもなく、引き下がるほかなかった。ミラジは溜息をつきながら表に出て、気分転換に通りを歩くことにした。

ミラジ(クンタラを差別する気持ちなど微塵もなかったはずなのに、何だろうかこの怒りは。結局クンタラを嫌っていたロルッカは金が入り出した途端にここへは立ち寄らなくなった。アメリアで例え捕まっても法的な裁きを受けるだけだが、ここでは私刑以外ありえない。なんということだ・・・)

彼らの拠点は当初奪った地域より150㎞ほど南へ移動していた。

これはルインとマニィが図書館で宇宙世紀時代の地下送電網の存在を見つけたから出来たことであった。原子力エネルギーは安定した電力を生み出し、送電網がある限り電力を供給してくれる。なぜそういう仕事をみんなしなくなったのか。なぜ戦うことばかりに夢中になるのか。

ミラジ「結局、エネルギーがある限り人はそれを浪費したがる。ヘルメス財団がやろうとしたことは何も間違っちゃいない。体育館に並べた原子炉など、1回の空爆で全部吹っ飛んでしまうというのに、なぜ安穏と日常生活を送れるのか。どうせアグテックのタブーの勉強もしなかったのだろう。学問は底辺を救済するものなのに、なぜ底辺はそれを放棄して猿のようにはしゃぎたがるのか。地球の大地はこんなに痩せてみすぼらしいのに、どうして地球に住むと人は堕落して働かなくなるのか。宇宙であんな態度の人間が1人でもいればそれは必ずミスを引き起こし、重大事故につながる。地球の人間はいくら堕落しても事故などたかが知れていると言わんばかりだ。壁の向こうに真空がある恐怖を知ろうともしない。そして余力のすべてを戦いに振り向ける。アースノイドなど、全員死んでしまえばいいのだ!」

そんなミラジの怨嗟が現実になろうとしていた。

アメリアがクリムから接収していた∀ガンダムと呼ばれる機体が、突如自動操縦に切り替わり、格納庫の天井を突き破って上空へ飛び去ったのである。

∀ガンダムはNY上空から人間が作り上げた文明を見下ろし、解析していた。

(ED)

この続きはvol:68で。次回もよろしく。



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