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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第22話「主導権争い」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第22話「主導権争い」後半



(アイキャッチ)


クリムトン・テリトリィと改名された都市は、ゴンドワンの若者たちとクンタラの若者たちがストリートで覇を競う無法地帯となりつつあった。

巨額の資本を投入され整備された新都市は、クリム・ニックの失脚によって貸付が引き剥がされ、そのキャピタル・フライトによって急速なゴーストタウン化が起こっていたのだ。建設中の巨大ビルは作りかけのまま放置され、元々ジャングル地帯であるために自然は道路を再び飲み込もうとしていた。

現在のゴンドワンは、都市部の9割以上が∀ガンダムによって砂塵に帰し、移住してきたゴンドワンの若者たちは帰るべき故郷を失ってしまっていた。

その故郷に新たに国家を建設したのがクンタラ国で、クンタラ国の若者たちはルイン・リーと共にクリムトン・テリトリィにも押し寄せ、この地もまたクンタラに飲み込まれようとしている。

元来熱心なスコード教の信者の多かったゴンドワンに、クリム・ニックが無神論を持ち込んだ。それに乗じてゴンドワンの若者はスコード教の聖地を強奪した。ところがその地はスコード教によってクンタラに与えられ、クンタラとスコード教は歴史的和解を成そうとしている。

梯子を外されたゴンドワンの若者たちは、キャピタル・テリトリィを亡ぼしたが故にスコード教にはすがれず、差別してきたが故にクンタラとも折り合いが悪い。さらに帰るべき故郷はもうない。八方塞の状態になっていたのだ。そして彼らは夜の街で暴力をふるうことでストレスを発散している。

しかし、クンタラの若者たちも決して幸せというわけではなかった。

彼らがこの地にやって来た途端、世界中から集まってきていた投資資金は回収されていき、クリム・ニックの口座にあった資金は法王庁に差し押さえられ、資金不足から極端な不況に見舞われていたのだ。

さらにクリムがトワサンガ征服のために多くのフォトン・バッテリーを持ち出したためにエネルギー不足も始まっていた。唯一景気がいいのは法王庁が管理するモビルスーツの販売だけ。これをアメリアへ横流しする仕事だけが景気が良かった。その仕事以外はないといってよかった。

夜になれば、ジャングル地帯に逃げ込んでいる元キャピタル・テリトリィの住人たちによるゲリラ戦が始まる。これはクラウンの運航を担うために新設された法王庁守備隊が撃退していたが、法王庁守備隊は住民の保護義務を負っていないために誰彼かまわずに銃撃する。

ゴンドワンの若者にとっても、クンタラの若者にとっても、この地は地獄のような街になっていた。

そんな街を、カーテン越しにルインは悲しげに見つめていた。

ルイン「キャピタルのことは心配ではあるのだが、法王庁とクンタラとの間の歴史的和解、それに反逆者ベルリ・ゼナムの処刑を請け負ったからにはやり遂げねばならぬ」

マニィ「領主といっても形ばかり。こんなのルインが望んできたカーバじゃないってわかってる」

ルイン「じゃ、ぼくは行くよ」

そういうと彼はマニィと娘にキスをして部屋を出て行った。

彼の屋敷は法王庁の人間によって警護されていた。3機のモビルスーツが警護に当たっている。

クリムトン・テリトリィのフォトン・バッテリーは残り1か月分を切っている。ルインがことを急ぐには訳があったのだ。一刻も早く事態を収拾して、エネルギーの配給を再開してもらうしか生き残る道はなかった。一見うまく事が運んでいるようで、内情は火の車だったのだ。

それでも戦争は続く。国力の高いアメリアはレジスタンスへのバッテリー供給を止めてはくれなかった。

こんなはずじゃなかったのに。マニィは何かがおかしいと感じ始めていた。ゴンドワンが北方の小都市を除いてほぼ全滅した途端にルインが宇宙に連れていかれる。それも追い込まれて否応なしにされた上でだ。何もかも上手くいくことで、ルインとマニィは逆らえない境遇に追い込まれている。

マニィ「クンタラの人たちを開放する戦いだったのに、何か違う方向に祭り上げられてしまった。何がいけなかったんだろう? あたしは欲をかきすぎたのだろうか・・・」

いまのマニィには娘のコニーがすべてだった。父親が宇宙へ行ってしまい、自分ひとりで子供を守れるか不安であった。警護の問題で、ルインの見送りにも行けないことが、彼女を不安にさせていた。







クリムトン・テリトリィ北方50㎞の地点に続々と新たな戦力が集結しつつあった。

そこはレジスタンスの拠点になっているキャンプであった。一般人への被害を最小限にするために、難民キャンプからはかなり離れた地点に設営してあった。

夜が更けようとしていた。レジスタンスへの参加者たちは、小さなラジオから流れてくる法王庁の発表に耳を傾けている。相変わらずアメリアを非難し、ムーンレイスを古代種族と罵り、トワサンガのレイハントン家を宇宙世紀復活派と決めつけてその打倒を呼び掛けている。

その先兵として、クリムトン・テリトリィのルイン領主がクラウンを使って宇宙に出撃する内容が勇ましい音楽と共に喧伝されている。およそ平和を願う法王庁の放送とも思えない内容であった。

ケルベスとレジスタンスたちは、キャピタル・タワーを奪還するための作戦を練っていた。そこへ彼の教え子たちがお馴染みのレックスノーでやってくると、レジスタンスの間に大きな歓声が沸き上がった。好漢として知られるケルベスが合流したときと同じ歓迎ぶりだった。

レックスノーは緑色のボディをジャングルの中に隠した。兵士と教え子たちは、すぐさまケルベスのテントへとやってきた。

トリーティ「このあとの第2陣はビーナス・グロゥブのジット団及びミラーシェードという人物らしいです。あのムーンレイスの親衛隊長さんでしょうかね?」

ケルベス「(机の上の地図から目を離し)ハリー・オードならばそんな偽名は使わんよ。誰かは察しがついている。彼らが第2陣ならば、ハリー隊長の部隊は第3陣だな」

レジスタンスA「今度こそ故郷を奪還できそうです」

ケルベス「当然だ。法王庁はオレたちキャピタル・テリトリィの人間を陰謀によって陥れた。その本体は、ジムカーオや法王庁ではない。ヘルメス財団だ。ゲル法王猊下は月の冬の宮殿というところでスコード教の原点について研究中だ。彼こそがスコード教だと信じろ」

レジスタンスA「スコード教が死んでなかったって教えてもらっただけで勇気百倍です」

戦力はどんどん膨れ上がっていった。総攻撃を前に、各地に散らばったレジスタンスに召集が掛かっていた。モビルスーツこそないが、アメリアから提供された武器はふんだんにある。

アメリアへ亡命したリベラル派のクンタラもクンタラ国建国戦線を非難してレジスタンスへの協力を申し出てくれていた。長くジャングルの中で反体制活動をしてきた人々の間には今度こその思いは強い。しかし、それが逆にケルベスを不安にさせていた。

ケルベス「ルイン・リーが今夜中にザンクト・ポルトに向かって出発する。彼の不在を狙った作戦によってキャピタル・テリトリィを奪還したい。だがみんなに聞いて欲しいのは、我々はずっと相手に主導権を取られて何度も煮え湯を飲まされてきたということだ。我々からキャピタル・テリトリィを奪ったクリム・ニックでさえ、巨大な敵の小さな手駒のひとつに過ぎなかった。敵は何か大きな目的があって、それを完璧に遂行するシステムを持っているとしか考えられない。たしかにルインの不在はチャンスだ。しかしそれが罠である可能性は大いにあるのだ」

レジスタンスB「まさか作戦を中止したいと?」

ケルベス「ムーンレイスと同盟を組んだとき、トワサンガを制圧すれば平和を取り戻せると思った。作戦は上手くいった。トワサンガは攻略できた。ところが敵はすでにトワサンガの住民に我々を悪だと思い込ませることに成功していて、トワサンガを奪ったとたんに我々は侵略者の汚名を着せられた。反スコード教徒の汚名を着せられた我々から逃れるべくトワサンガを脱出した人間はみんな殺された。我々が殺したことにされたんだ。クリムのときもそうだ。彼もゴンドワンの英雄からキャピタルの王になり、トワサンガまで進出した途端に何もかも失った。この戦いにおいて局地的勝利は、もしかすると敗北へ導く敵の布石かもしれないんだ」

レジスタンスC「ではどうしたらいいのですか?」

ケルベス「大きな作戦の一部によって生まれた状況と、突発的に起こった状況を分析してみないといけない。突発的に起きてしまった偶然は、ジムカーオの関与によって修復されている。見分けるのは困難かもしれないが、それができなければ次は我々がクリムのようになってしまう」

ケルベスの言葉にレジスタンスたちは大いに失望した。彼らは今夜こそ完膚なきまでに敵を叩き潰し、故郷を取り戻そうと意気込んでいたからだ。

ケルベス「だから状況を見極める時間が欲しい。まさに今夜は好機だが、それが怪しいんだ。だって考えても見ろ。レジスタンスの君たちはゴンドワンからの移住者たちと戦ってきたはずだ。それが一夜にして敵が法王庁になってしまっている。法王庁の人間を我々が皆殺しにして故郷を取り戻した後はどうなる? 宇宙にいるより大きな敵が何でもできるカードを手に入れるだけじゃないか?」

ラジオからは法王庁が煽ってきているとしか思えない激烈な言葉が流れてきている。それを聞いていれば、何としてでも法王庁を叩きのめしてやりたいと誰もが思う。ケルベスはそれが罠である可能性を指摘したのだ。

トリーティ「なるほど・・・。局地的勝利者が必ず敗北者になるように基本設計された作戦の中で我々は踊らされているだけだとこうおっしゃりたいのですね」

ケルベス「もしその作戦の中に、キャピタル・タワーの破壊が組み込まれていたら君たちはどうする? いままでの敵のやり口から想像するに、彼らは自分ではタワーを破壊しないだろう。交戦状態の中で偶然を装って破壊して、すべての責任を我々に押し付けるのだ」

トリーティ「敵がタワーを破壊するメリットはあるのでしょうか?」

ケルベス「ヘルメスの薔薇の設計図はもはや回収不可能だ。だとしたら彼らは地球を原始時代に戻そうとするだろう。そうすれば自然とヘルメスの薔薇の設計図は絶える。人類を滅亡させた後に、彼らは地球へ降りてくればいい。敵はトワサンガの人間を簡単に皆殺しにしてしまった。生き残ったのはサウスリングの人間だけだ。そこまで徹底してやるのが彼らなんだよ」

レジスタンスの人間は明らかに不満そうな様子であった。彼らはずっと地球にいて、最終ナットであるザンクト・ポルトまでは意識できるが、トワサンガのことまでは理解できないのだ。

ケルベスはテントを出た。レジスタンスとして戦ってきた者たちの不満は、彼の教え子たちにぶつけられている。それを聞きながら、彼は状況を整理しようと必死に頭を巡らせた。

ケルベス(法王庁はクリムが死んだと発表した。彼らはそう思っていたのだろう。だから発表した。しかし彼はシルヴァーシップを奪って地球に戻ってきていた。そこで慌てて死刑勧告という形で装ったが、混乱した。クリムがG-シルヴァーを奪っていたのも予想外だったはずだ。もしクリムの介入がなかった場合、∀ガンダムとターンXは果てしない戦いを繰り広げ、オレは・・・、オレは必ずキャピタル・テリトリィの方へ戦闘区域を変えていたはずだ。そこで何が起こったかだ。∀ガンダムとターンXは、そのままお互いだけと戦い合っただろうか?)

トリーティ「ケルベス隊長!」

大声で呼びかけられてケルベスは我に返った。テントの中から数人のレジスタンスのメンバーが武器を手に出てくる。ケルベス隊のメンバーが必死にそれを止めようとしていた。

レジスタンスA「そんなに騒がなくても、いつものようにちょっかい出してくるだけですよ。法王庁守備隊の連中と少しだけ戦って、すぐに引き上げてきますって」

ケルベス「敵に怪しい動きがあれば教えてくれよ」

トリーティ「行かせていいんですか?」

ふたりの会話を聞き遂げることなく、レジスタンスのメンバーはアメリア製のバギーに乗り込んで走り去ってしまった。

ケルベス「今夜が決戦だと思ってたんだろう。まぁ、しょうがないよ。彼らだって故郷を奪われたままで疲れているんだ」







レジスタンスA「キャピタル・タワーを守り抜いたあの隊長さんが来てくれたならすぐにでも奪還できると思ってたんだがなぁ」

レジスタンスB「敵がゴンドワンのときだってクンタラになってからだって、オレたちはモビルスーツなしでゲリラ戦をやって来たんだ。それで互角に戦い通したっていうのに、なんで信用してくれないんだろうな? 正規軍じゃないからか?」

レジスタンスC「もとはと言えば、あいつらガードがしっかりしていないからこんなことになっちまったっていうのにな。偉そうなもんだ」

彼らに賛同して今夜の攻撃に加わったのは12名だった。バギー1台とトラック1台に分乗した彼らは、手に手に武器を持ってジャングルの中を走り、彼らがいまだキャピタル・テリトリィと呼ぶ中心部へ繋がる幹線道路を走った。その手前にいくつもの検問所がある。そこを攻撃するのだ。

現在彼らの故郷に武力を展開しているのは、法王庁守備隊であった。法王庁守備隊はトワサンガから供給されたというモビルスーツを運用していた。

かつてこの地を支配していたゴンドワン軍は故郷へと戻り、南部に退いたゴンドワン政府の支援に回ってクンタラ国建国戦線と戦っていた。ゴンドワンの正規軍はクリム・ニックに見切りをつけて、本国北方地域奪還のために戻っていったが、若者たちはここに残った。

レジスタンスA「法王庁と折り合いが悪いゴンドワンの若い連中ばかり残ったから、法王庁の奴らは誰彼関係なく撃ってくるだろ。ゴンドワンの正規軍は法王庁と和解したに違いない。元々ゴンドワンはスコード教の信者が多いからな。若い連中は無神論者だから始末が悪い」

レジスタンスB「ゴンドワンもキャピタルもクンタラと戦っているというのに、なんでオレたちは反スコード教のアメリアなんかの支援を受けて、法王庁と戦わされているんだろう? オレたちが1番熱心なスコード教信者じゃないか。だろ? オレたちが戦っていたのは、クリム・ニック、ゴンドワン、そしてクンタラだ。法王庁じゃない。(うなだれて)だったはずなのにな・・・」

やがてバギーとトラックはかつてゴンドワンの検問所があった手前で停止した。息をひそめて近づいてみるとそこに法王庁の人間はおらず、無人になっていた。

トラックの荷台に乗っていたメンバーが車を降り、ゆっくりと建物の間をすり抜けていく間、どこからも攻撃してくる様子はなかった。銃を構えて警戒していた彼らは、息を吐き出して周囲を見渡した。

レジスタンスA「誰もいねぇ」

レジスタンスB「オレ思うんだが、法王庁の人間は『クンタラとの歴史的和解』ってヤツのあとに、オレたちキャピタルの住民を元に戻してくれるつもりじゃねーのか? いまはほら、クンタラの領主さまの機嫌を損ねちゃいけないからさ、遠慮してるんじゃないかって」

レジスタンスA「総攻撃が近いというんで招集をかけたのに来ない連中もいるだろ? あいつらオレたちより先に法王庁に駆け込んだんじゃねーのか? もしかしたらチクられたかもしれねぇ」

レジスタンスC「あのルインとかいうクンタラの新しい領主さまってよ、キャピタル・ガードの養成学校の首席卒業生らしいぜ。なんか、オレさ、本当に怪しいのはやっぱり法王庁の発表通りにアメリアじゃないかって気がするんだよな」

レジスタンスA「それはオレも思うわ。法王庁がオレたちを撃ってくるのって、アメリアから支援を受けているからじゃないかって。多分招集かけてこなかった連中もそう考えたんじゃないかな」

レジスタンスたちは何か得心いったように頷き合った。

レジスタンスC「ルインって奴な、クンタラ国建国戦線のゴンドワン方面隊の隊長だったらしいんだ。(両手を動かしながら)その隊長をこちらに呼び寄せるだろ。ゴンドワンの兵士を故郷に返すだろ。向こうじゃドンパチが始まって、正規軍とゲリラだからさ、正規軍が押し返すだろ。こっちではさ、アメリアの支援を受けてるオレたちとゴンドワンの若い連中とクンタラを撃ってくるだろ。これってさ」

レジスタンスA「法王庁が世界を元に戻そうとしているわけか!」

法王庁が自分たちを裏切ったわけじゃないと考えるに至った彼らは、互いの顔を見合って興奮した様子で抱き合った。

レジスタンスB「すると敵はしつこくキャピタルに残っているゴンドワンの若い連中と、クンタラだ。そうだよ。こう考えるのが1番シンプルじゃないか。オレたちの敵は反スコード教の無神論者どもとクンタラだ。法王庁はオレたちがこれに気づくのを待ってくれているんだよ!」

すべての謎が氷解したとばかりにスッキリした顔になったレジスタンスのメンバーは、再びバギーとトラックに分乗すると今度は全速力で街の中心地へ向かった。

そこでは今日もゴンドワンの若者とクンタラの若者が刃物を突きつけ合って暴れていた。安物の服をわざと切り裂いた服を身に着けた化粧の濃い若い女たちが、男たちの争いを少し離れた場所から眺めている。若い男たちにとって喧嘩は、女にアピールする場でもあったのだ。

そこに走ってきたのがレジスタンスのメンバーが乗るバギーとトラックであった。彼らは若者たちに向けて発砲するとそのまま街中を車で追いかけまわし、口々にスコードと叫びながら銃を乱射して、逃げ遅れた女をトラックに引きずり込んだ。

レジスタンスA「スコード!」

夜の街で遊んでいた若い女たち数名がレジスタンスに輪姦された。

スコード! スコード! スコード! それは雄たけびだった。彼らはその夜に限ってどこにも検問所がないことや、法王庁守備隊が姿を現さないことなど考えもしなかった。

その翌日、法王庁はクリムトン・テリトリィ領内でアメリアの支援を受けたレジスタンスメンバーが住人を虐殺した末に女を強姦したと発表し、その映像を公開した。音声のないその映像は法王庁を通じて各国に配信され、アメリアへの批判は大きくなった。

さらに法王庁は死んだと思われたクリム・ニックが生きていること、アメリアが彼の身柄を保護したこと、フォトン・バッテリーの供給が止まっている状態なのにムーンレイスという新たな居住者を勝手に入植させたことを非難した。

犯人であるレジスタンスメンバーは、法王庁守備隊によってすべて銃殺された。







ハリー・オードは小さな墓標に花を手向け、地球のそよ風に吹かれながら空を見上げた。

彼は数日かけてディアナ・ソレルの古い墓標を探し当てた。彼女の墓はソシエ・ハイムではなく、ディアナの名になっていた。墓碑銘は「月の女王 ここに眠る」それだけである。

従者として付き添ったはずのロラン・セアックの墓は見当たらなかった。地球で隠棲したディアナと生涯を共にしたのか、誰か愛する人を見つけこの地を去ったのかはわからない。

500年という年月は、アメリアの姿を大きく変えてしまっていた。

ふたりが移り住んだ小さな屋敷はもうない。周辺は別荘地開発が進み、大きなペントハウスがそこかしこに建てられていた。風光明媚な土地であったため、都市部の金持ちはこぞってここに別荘を建てたがっていた。随分と豊かになったものだとハリーは感慨に耽った。

手掛かりになるものは、墓地を管理する事務所で見つけた1冊の本だけであった。墓地を管理する老人は本を手に取りこう話した。

老人「この書物がアメリア人からクンタラ差別を消し去ったといっていい。スコード教はその本にいい顔をしないが、アメリアでは代々読まれてきたのだよ」

彼はそう言って、もう古くなったからとハリーにその本をくれたのだ。

本の著者の名はキエル・ハイム。かなり読みこまれてボロボロになっていたが、出版は20年前。老人はまた新しいものを購入するからと代金を受け取らずにハリーに本を託した。

青空の下に佇むハリーの手の中にはその本がある。

初版は450年前となっていた。タイトルは「クンタラの証言 今来と古来」であった。

クンタラに関する著書としては地球最古だと管理人が教えてくれた。地球では名著として扱われ、何度も再販を繰り返して現代まで生き残っていた。ディアナ・ソレルは、自分が隠棲して間もなく始まった宇宙での戦争を、地球に降ろされたクンタラから話を聞くことで知ろうとしていたのだ。

一読して気づいたのは、外宇宙から帰還してきた薔薇のキューブの者たちは、レイハントン家の仲間ではなかったということだった。ハリーたちは今来はすべてレイハントン家だと思って戦っていたが、薔薇のキューブだけでなく、外宇宙からは何度も地球圏への帰還者は続いていたのである。

それらをむやみに地球へ降ろさないよう管理していたのがレイハントン家であった。産業革命を成し遂げたばかりでいまだ野蛮人ばかりの土地に宇宙世紀の技術体系を持ち込んでは人類の歴史は正史からはみ出てしまい、またしても殺し合いの黒歴史が生まれると懸念されたのだ。

人間に技術を与えるには、人間を野蛮な状態から進化させる必要があった。その想いは地球に残ったディアナ・ソレルも同じであっただろう。彼女の身代わりに月の女王となった本物のキエル・ハイムは、レイハントン家を外宇宙からの侵略者だと捉えて交戦するしかなかった。

ハリー自身もレイハントン家や薔薇のキューブで戻ってきた人間たちのことを知らなかったので、キエル・ハイムに同調して抗戦を選択した。結果、彼らは月に封じられてしまったのだ。

「クンタラの証言 今来と古来」によると、クンタラ差別の起源にはふたつの流れがあるという。ひとつは文明崩壊後に起きた食糧難。これによって共食いが始まった。

もうひとつは宇宙において超常的な能力を発揮した人類への嫌悪とその能力を得るために始まった食人習慣。ハリーがメガファウナのクルーから聞いたニュータイプと呼ばれる超常能力の発現を恐れた人々が、彼らを下層階級に押し込め、食人することで能力を得ようとした。

やがてその食人習慣は階層固定化のための儀式となって、上層階級にニュータイプ現象が起きても不問に付せられ、下層階級の人間はニュータイプ現象が発現しなくても食われるようになった。

実際は、ニュータイプ現象は遺伝子しなかったと本では結論付けられ、故にクンタラへの差別はまったく意味のないものだとされていた。

また、ニュータイプ現象の捉え方にも言及されており、超常能力の発現を戦闘能力の向上と考え研究された宇宙世紀初期の考え方が差別の原因になったとも指摘されている。実際のニュータイプ現象は、空気が存在せず声が届かない宇宙空間に適応した何らかの新しい意思疎通能力の発現ではないかと本の中では考察されていた。

ハリー「姫さまは晩年このようなことを研究なされていたのか」

「クンタラの証言 今来と古来」には、地球に降ろされ捨てられた彼らが、地球人への食人行動に出た経緯に彼らの宗教が関係していること、被差別者の精神不安定の原因などについても言及されていた。また、一部の今来の中に地球をクンタラの牧場にしようと考えた者らもいると記されている。

ハリー「外宇宙脱出派というが、宇宙のあらゆる地域から数度に分かれて帰還した我々は、文化が大きく分かれていた。だからこそユニバーサル・スタンダードによって文化の再統合をせねばならなかったわけだが、クンタラを常食していた特権階級がもしそれに従うのを密かに拒否した場合、触れることがタブーになる隠れ蓑を探すはずだ。やはり彼らはスコード教を使って人々を謀っていた。ニュータイプを常食していた自分たちは他の者たちとは違うと」

思考を遮るように彼は呼び出しを受けた。

ハリー「なんだ?」

兵士「(マイク越しに)ケルベス中尉より合流の依頼が届きました」

ハリー「よし、こちらも用事は終わった。アイーダ総監と話をしてから、すぐに参ると伝えてくれ」

ハリーはいま一度ディアナ・ソレルの墓標に向かってこうべを垂れ、彼女が残した貴重な記録を大事そうに抱えて足早にその場を立ち去った。

小さな花々がそよ風に吹かれて揺れている。


(ED)


この続きはvol:66で。次回もよろしく。



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