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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第22話「主導権争い」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第22話「主導権争い」前半



(OP)


ベッドの上に固定されたまま、ラライヤはいつしか眠ってしまっていた。

彼女が目を覚ましたとき、部屋には表情のない銀色の肌を持つ女性がひとりだけ佇み、計器類を眺めていた。彼女はエンフォーサー、執行者と名づけられたアンドロイドだった。エンフォーサーは人種的特徴のない表情なき顔をラライヤに向けた。

ふたりはしばらく見つめ合った。するとみるみるうちにエンフォーサーに表情と人間の顔が宿ってきた。ラライヤの知らない人物だった。

エンフォーサーはニュータイプの残留思念の入れ物であり、あるタイプのモビルスーツのユニットであった。彼女は笑顔でラライヤを見下ろしていた。

ラライヤを拘束していた手錠と足枷が外された。ラライヤは恐るおそるベッドから立ち上がり、機械の身体を持つ彼女を見つめた。エンフォーサーに乗り移った人物は、柔和な顔をラライヤに向けている。

ラライヤ「あなたが・・・わたしの中にいた人なんですか?」

その自覚はあった。エンフォーサーに表情が宿ったとき、ラライヤは耳が聞こえなくなったような、目が見えなくなったような、不思議な感覚に襲われたからだ。

彼女の感覚器官は正常だった。通常の人間の、通常の感覚器官であり、性能だった。見えるし、聞こえもする。しかし、何かが違う気がした。見えたり聞こえたりするだけでは、何も見ておらず聞いていないのと同じだった。まるで感覚器官すべてに靄が掛かったようだった。

人間は本当はもっと多くのことを見ることができ、聞くことができる。他人との間の境界線はもっと薄く、その先に手を届かせることもできる。

人間はもっとわかり合える・・・。

エンフォーサー「断絶を感じる?」

その声は落ち着いて、静かなものだった。彼女の声に聞き覚えはない。いつかこの世界に生きた誰かの声なのか。彼女はいったい誰なのか。ラライヤも落ち着いて彼女の質問に応えた。

ラライヤ「感じます。人間ってこんなに隔たりがあったんですね」

エンフォーサー「でもそれは本当の感覚じゃない。地球という恐怖に満ちた世界で生き残るための防衛本能が、他者との間に断絶を作り上げただけ。生き残るための手段が、断絶を生んだのよ」

エンフォーサーの表情が消えた。一瞬、ラライヤは胸が締め付けられるような感覚に襲われた。エンフォーサーに乗り移った人が、再びラライヤの身体の中に入ってきたのだ。するとラライヤの感覚は研ぎ澄まされた。鋭敏で、物事を広く見渡せる感覚が戻った。目が覚めたときより、覚醒を自覚できた。

ラライヤはハッと何かを感じた。鋭敏な感覚器官に触れた感触は、懐かしいものだった。彼女は集中してその正体を探った。

ラライヤ「ノレドがこっちに来る」

ノレドとハッパが息を切らしながら薔薇のキューブの中の通路を走ってくるのが見えた。どこを走っているのかはわからない。もっと集中すると、薔薇のキューブの全体像が見渡せるようになった。








ノレドとハッパは必死に教えられた部屋を探し続けていた。そしてようやくF-10045と記された部屋を発見した。すると間髪入れず部屋の中からラライヤが姿を現した。

ノレド「ら、ラライヤ!」

ノレドから見て、ラライヤの様子は少しおかしいように見えた。でもどこに違和感を感じたのかまではわからなかった。ラライヤを心配するノレドは勢い込んで質問した。

ノレド「大丈夫だったの? 怪我はない? 何もされていない?」

ラライヤ「大丈夫ですよ。なんともありません。それより、G-ルシファーで来たんでしょ? いま男の人とふたりの女性がコクピットをいじって動かそうとしています。でもG-ルシファーはあたしたちのアイリスサインがないと動かないので、3人はすごく怒ってます。いまあちらに戻ると危ない。G-アルケインに乗ってG-ルシファーを持ち出してから搭乗しましょう」

ノレド「(ハッパを振り返りながら)やっぱり変だよ、ラライヤ。ジムカーオ大佐に何かされたんだ」

するとハッパが心配顔のノレドを制した。

ハッパ「いや、これはおそらくニュータイプ現象だ。まだ詳しくは調べられてないけど、思念だけが肉体の限界を超えているんだと思う」

ラライヤ「(ハッパの話を遮り)まずはみんなでここを脱出しましょう。話はそれからです」

ラライヤはノレドの手を引いて走り出した。ノレドは改めてラライヤがベルリと同じニュータイプというものなのだと知って、言いようのない悲しみに襲われた。なぜ自分はそうなれないのか。

生まれたときからトワサンガの王子で、地球に連れてこられてからもクラウンの運航長官に引き取られ才能を発揮したベルリと、パイロットの才能がありニュータイプにもなったラライヤ。周りにいる誰もが才能を発揮していくのに、自分だけが何もできないままなのだ。

不安に駆られ泣きそうになったノレドの手をラライヤは強く握り返した。

ふたりの後について走るハッパは、モビルスーツ用の巨大なレンチで武装していた。G-ルシファーを奪いに来た3人から逃げる際には必死にそれを振り回したのだ。

ハッパもまたベルリ恋しさに無理をするノレドを気遣い、別な話題をふたりに振った。

ハッパ「ラライヤもノレドもあの自動ラインを見たか?」

ラライヤ「はい。シルヴァーシップやモビルスーツなどを生産しているものでしょ? 機械だけであんなことができるんですね」

ハッパ「機械だけで戦艦からモビルスーツから、おそらくは薔薇のキューブに住んでいる人間の生活必需品まで自動で作って、その利益は誰のものになっていると思う?」

3人はときおり出会う薔薇のキューブのクルーらしき人間を蹴散らして走り続けた。

ノレド「みんな研究者みたいな人たちばっかりだ」

ノレドは自分を気弱を振り払うようにハッパに話を振った。巨大なレンチを握りしめたままのハッパがノレドの疑問に答えた。

ハッパ「出会う人間で会う人間白衣を着て研究者のような人物ばかり。レンチを構えて威嚇するだけで道を空けてくれる。警備の人間がいないんだ。戦艦のクルーもいない。モビルスーツも無人。なぁ、おかしいとは思わないか? こうして物を作って売れば金が入る。それは誰のものになっているんだ?」

ラライヤ「そういえば、おかしいですね」

3人はG-アルケインに乗り移った。薔薇のキューブの技術者はアメリア製のG-アルケインには興味がなかったようで、連れ去られたときのまま何もされていないようだった。

アルケインの500m先にはにはザム・クラブの姿があった。だがバララ・ペオールの姿はどこにもない。ラライヤはバララ・ペオールもまた自分と同じような実験をされたのだと理解した。彼女には過去の時代に生きたニュータイプの残留思念が宿っている。

その人物の悪質さが、バララ・ペオールを変質させたのだ。

3人は目線を上げ、キューブの反対側を見た。G-ルシファーはFブロックの反対側の壁面に着陸していた。全身の光を灯したままのG-ルシファーの輝きがはっきりと見えた。

真っ暗な立方体の内側壁面すべてが自動工場になっている。ハッパはキューブの中央部分に透明な膜に覆われた球体があるのを指さした。

ハッパ「あの部分が無重力下で精密部品を作るラインなのだろう」

3人はG-アルケインに乗り込んだ。しかし、3人が乗り込むには狭すぎた。コクピットに座ったラライヤは両端をハッパとノレドに圧迫されながら機体を発進させた。

ノレドがラライヤの頭越しにハッパに質問した。

ノレド「結局誰が儲けているって?」

ハッパ「アメリアで発生した資本の集中を思い出したんだよ。500年前に産業革命を達成したアメリアは、資本主義という経済体制で国家を運営していて、資本の偏りが問題になっている。つまり金持ちと貧乏人が発生したんだ。そこで余剰資本を効率よく投資するために、古代の文献をもとに株式市場というものを作ろうとしていた。しかしこれはさらに富の分配を破壊するというので、計画は止まったままになっている。株式市場再興を熱心に働きかけているのはクンタラの金持ちで、彼らはグシオン総監にそのことを陳情していた。総監はそれを止めていたんだけど・・・」

ラライヤ「ちょっと待ってくださいよ!」

G-アルケインがG-ルシファーにドンとぶつかって機体を抱きかかえると、コクピットの中にいた3人組が勢い余って外に飛び出してしまった。ラライヤは3人のヘルメットにモビルスーツの指を当てて接触回線を開くと、こういった。

ラライヤ「3人とも武器を捨てればこのまま助けます。それが嫌ならここに残って下さい」

3人は突然闇の中から出現したモビルスーツに驚いて慌てて武器を捨てた。ラライヤは3人を再びG-ルシファーのコクピットに押し込むと機体ごと抱きかかえて飛び上がった。

ハッパ「アルケインの認識コードを切るんだ。G-ルシファーだけのコードにしておけば、無人のシルヴァーシップは攻撃してこない」

ノレド「アメリアじゃなくても資本主義じゃないの?」

ハッパ「ああ、話の続きか。つまりアメリア以外はまだ国家が投資をしている段階なんだ。だけど、アメリアは自主独立の気風が強くて昔から個人の権利にうるさい。産業革命が起こったのも早かったからすでにかなりの大金持ちが発生している。あれ、何の話だっけ?」

ラライヤ「自動工場の利益は誰のものかって」

ハッパ「そうそれだ! つまり、薔薇のキューブの中の連中を宇宙世紀復活派と呼んでいるけど、彼らは戦争をしたいわけじゃない。戦争で儲けたいだけだろう? つまり、資本家とか株主とか、そういうものじゃないかって思ったんだ。そもそも彼らの名前は・・・」

ノレド・ラライヤ「ヘルメス財団!!」

ハッパ「どんだけ労働者から搾取したらビーナス・グロゥブみたいなもんが作れるのかって話ですよ。ヘルメス財団にとって、フォトン・バッテリーの供給体制は投資だったんじゃないかな」

ノレド「永久に搾取するための?」

ラライヤ「エンフォーサー、つまり執行者というのは株主みたいなもの?」

ハッパ「人間のエンフォーサーはね。機械の方がなぜエンフォーサーなのか、何を執行するのかについてはまだ確信がないな。ニュータイプに何を執行させるというのか」

そういいながら、ハッパは何やら嫌な予感を持ち始めていた。

3人を乗せたG-アルケインはG-ルシファーを抱えたまま静かに薔薇のキューブを離れ、ムーンレイスと戦争状態にあるシラノ-5側には戻らず月に向かって降下していった。

ラライヤが逃げたとの知らせはジムカーオに届けられた。報告を聞いた彼は特に驚いた様子もなく、ラライヤ・アクパールに憑依した残留思念の落ち着いた様子を思い出していた。

ジムカーオ「まさかとは思うが、ニュータイプは宇宙世紀の最初期にしか出現していないのではないか。ジオンが研究していた強化人間という狂人の思念ばかりがエンフォーサーに取りついて、これでは大執行などできようはずもない。それとも彼らの狂った思念に人類の未来を委ねることになるのだろうか・・・。ヘルメス財団も酔狂なことをするものだ」







法王庁からの発表は、アメリア国民にも当然伝わっていた。テレビは連日この話題で持ちきりであり、いつの間に自分たちが世界から非難を受ける立場になったのか頭が追いつかない人々がその大半であった。実力主義でクンタラ差別が少ない土地柄ゆえに、法王庁の発表が理解できないのだった。

だが法王庁の発表通りにクレッセント・シップとフルムーン・シップが共に宇宙から降りてきたとき、放送がでたらめでないことは誰の目にも明らかになった。ただ、アメリアの国民は法王庁より自国の政府の発表を待った。特に宇宙へ上がったアイーダ総監の言葉を。

ラトルパイソンから降り立ったアイーダ・スルガンの隣にクリム・ニックが立っているのを見たとき、大勢の観衆はさらに驚きを強めた。空港に押しかけアイーダに詰め寄るパフォーマンスを考えていたズッキーニ大統領派の議員はクリムの姿に仰天して何もせずに退散してしまった。

ハリー・オードはオルカを引き連れてアメリアのある地域へ移動していった。

クリム「まさに針のむしろだ」

アメリアを裏切ってゴンドワンについたクリム・ニックへの罵声はひときわ激しかった。彼との戦闘で死んだアメリア人兵士の家族はプラカードを掲げて彼に抗議の意思表明をした。そしてキャピタル・テリトリィから命からがら逃げてきた難民たちもまた彼を赦してはくれなかった。

アイーダへの非難の声は主にスコード教信者からのものだった。アメリアも南部のサンベルト地帯には多くのスコード教信者がいる。キャピタル・テリトリィに近いその地域は、ムーンレイスとの間の協定で本来は彼らに土地を明け渡すことになった。

スコード教はまさにその地域に多くの信者を抱えていたのだ。彼らにムーンレイスとの協定を納得させるのは至難の業に思えた。やり遂げなければならないことは多く、困難ばかりであった。

アイーダとクリムはアメリア国防相にある彼女の総監執務室へ入ってようやく一息ついた。さっそく駆け寄ってきたのはグシオン時代から政策秘書を務めるふたりであった。ひとりは背の高い年配の白人男性、ひとりは若い白人女性で、いずれもアイーダの有能なスタッフであった。

男性秘書はクリムを冷ややかな目で一瞥すると、腕まくりをしてアイーダに詰め寄った。

レイビオ(男性秘書)「宇宙では散々ご活躍だったようで。おかげで地球は大混乱ですよ。とにかく仕事が溜まっておりますが、そちらの男性(クリムを指さす)はこのまま置いておかれるつもりで?」

アイーダ「いえ、まずはクリムとわたしに飲み物を。(クリムに応接室の椅子に座るように促し、自分はその前に座る)わたしはあなたがやろうとしていたことは理解できるんです。パクス・ロマーナもまたひとつの平和の形だと思います。それは父が考えていた平和への道でもあり、考え方の違いをここで云々するつもりはないのです」

クリム「(脚を組んで遠くを見ながら)オレは法王庁から死刑勧告と死亡宣告が出ているのだろう? いまさらどうあがいてもジムカーオに嵌められた事実は覆らんし、アメリアの若者を殺したことも、キャピタルを爆撃したことも、ビルギーズ・シバを処刑したことも変わらん。罪は背負うつもりだよ。車で四肢を引き裂かれなかっただけ上等というものだ」

アイーダ「そこまで覚悟が定まっているというなら結論だけ申しますが、あなたには一兵卒としてキャピタル・タワー奪還のために戦ってもらいたいと思っているのです。ケルベスさんと共に戦ってください」

クリム「そんなこと相手が承知しないだろう。それに∀ガンダムはターンXと一緒に運用はできない」

アイーダ「あの白い機体はいにしえの大戦の忌まわしき機体らしいので解体します。エネルギー源を調べるためにもあれは提供してください。それよりあなたにはそのままゴンドワンの若者たちと宇宙へ移民していただきたいのです」

クリム・ニックの顔がサッと引き締まった。

クリム「宇宙・・・移民だと?」

アイーダ「そうです。これはベルリの発案なのですが、資源が枯渇した地球は思っているより居住可能な地域が少ない。一方で宇宙に住んでる方々は地球への帰還を望んでいる。だとするならば、地球と宇宙はもっと往還を激しくするべきだと」

クリム「あいつがそんなことを考えていたのか・・・」

アイーダ「弟は地球とトワサンガ、ビーナス・グロゥブの関係を変えようとしています。しかし、宇宙との往還をキャピタル・タワー以外の手段で行った場合、フォトン・バッテリーを止められては何もできなくなる。独自エネルギーで動いているクラウンを使うのが最も効率がいいのです。戦艦はいずれ廃止いたします」

クリム「グリモアでも貸してくれるのか?」

アイーダ「ミックさんのヘカテーが整備されて使えます。もしそれでよければ」

クリム「宇宙移民か・・・。君は総監として、上院議員として何を成すつもりなのだ?」

アイーダ「わたしが目指すのは、(毅然と)パクス・アメリアーナですよ。少なくとも宇宙で起きている大問題が解決するまでは。解決のヒントをくれたのもミックさんなんです」

クリム「(両手を上げ)わかったよ。償いはいかなる形であれさせてもらうさ」

クリムが退室すると入れ替わりに女性秘書が入ってきた。

セルビィ(女性秘書)「議会対策の仕事が溜まっているのですが、その前に姫さまはジット団ってご存知ですか?」

アイーダ「(大声で)ジット団! なんであなたがそれを?」

セルビィ「実はずっと面会要求がされていて、ビーナス・グロゥブから来たというのでとりあえず話だけ通しておこうと思いまして」

アイーダ「いまどこにいるのですか?」

セルビィ「それがこのすぐ近くなんですよ。モビルスーツの整備をやっている工場の汚い人たちなんですけど、どうしても姫さまに会って話したいことがあると。自分らは新型モビルスーツの整備と武装の開発を頼まれているが、新型兵器の横流しをしているロルッカ・ビスケスという人物の言うとおりにしていていいのかと」

アイーダ「(また大きな声で)ロルッカ・ビスケス! 新型モビルスーツ・・・。あ・・・、すぐに警察に連絡して動員できるすべての警官を集めるように指示してください。アメリアが宇宙世紀復活派の武器の横流し場所になっているなんて!」







ヘカテーの受け取り場所が記された小さな紙きれを頼りに、クリムはひとりで夕闇の街を歩いていた。一応サングラスで顔を隠してはいたが、アメリア中のヘイトを一身に集める彼は生きた心地がしなかった。ただ、法王庁が流してくれた死んだとの誤報もあり、誰も彼に気づくことはなかった。

クリム「(地図に眼を落とし)この辺のはずだが・・・。(周囲をキョロキョロと見回す)それにしてもやけに警官の数が多いな」

周辺区域には多くの警官が配置されていた。彼らはある巨大なビルを取り囲んでいた。どこぞの悪人が逮捕される瞬間を見てみようかとも考えたが、そんな立場でないことを思い出して彼は海沿いにある寂れた工場区域に脚を踏み入れた。薄暗闇の中、その工場だけは煌々と明かりが点っていた。

しかもやけに騒がしい。彼は工場の中に入って従業員に声を掛けた。

クリム「アメリア政府からヘカテーというモビルスーツの整備を依頼された工場はここか?」

声が小さかったのか酒に酔った従業員はクリムに気づかなかったが、やおら振り返って肩を抱きかかえると工場の中へと連れて行ってくれた。工場の中は酒盛りの最中だった。

クリム「なんだか楽しそうだな」

団員A「さっきアメリアのアイーダ総監から電話があってな、オレたちの正式な移民を認めてもらったんだ。クリムトンとかいう男と一緒にキャピタル・タワーの奪還作戦に加わる条件なんだが、オレたちもあの空爆では散々苦労させられたから、ちょうど仕返しもできるしって喜んでたのよ」

クリムは酒盛りの輪の中にクレッセント・シップで一緒だったコバシがいるのを見て、サングラスを深く掛け直した。コバシはクリムと幾度か面識がある。

団員A「(大声で)ヘカテーを取りに来たってよ! あれ? ってことはあんちゃんが噂のクリムトンかい?」

クリム「ああ、そうだが・・・」

小さな子供を抱きかかえた女性が声を聞きつけて近づいてきた。小柄な女性であった。クリムは彼女にも見覚えがあった。ビーナス・グロゥブから地球にやってきたジット団の女性だった。

スーン「あんたがクリムトンか。今回の作戦行動ではあなたの指揮下に入る、ジット団のクン・スーンという。話を聞かれているかどうか知らないが、実はわたしたちはトワサンガから密輸されたモビルスーツをロルッカ・ビスケスという男に扱わされて、その告発をしていたのだが、アイーダさんという方がようやく戻ってきて、流されたモビルスーツはアメリアが接収するということで決着したそうだ」

コバシ「そこでね、そのモビルスーツを使ってキャピタル・タワーを奪った奴らに復讐できることになったのよ。あたしはもうあの日の空爆のことは一生忘れないわ。あんな残虐なことができる人間がこの世にいていいはずがない。あれ、クリムトン・ニッキーニとかいう男がやったんでしょ? ああ、あんたのことじゃないわよ。同じ名前の人ね。あんな残虐行為をする悪魔がいたら、せっかくレコンギスタしてきたのに生きた心地がしないわよ。だからキャピタルのレジスタンスと協力して、タワーを奪還したのちに、サンベルトってところに全員分の住居と新しい工場を提供してもらえることになった」

団員B「これでようやく落ち着けるってもんだね」

団員C「(顔をしかめて)オレは前から武器商人みたいなことをしているロルッカとかミラジって連中は好きじゃなかったんだ。逮捕されて清々しているよ」

クリム「みなさんはビーナス・グロゥブの方だとか。アメリアとは散々戦ったんじゃないのですか?」

スーン「戦ったことは確かだが、アイーダさんはクレッセント・シップとフルムーン・シップをああしてアメリアに預けてもらうほどの人なんだろう? たしかにメガファウナの人間とはいろいろあったけど、ウチらが悪い面もある。もうとにかくこれで終わりにしたい。自分らは地球に根を下ろしてみんなで仕事して食っていければそれでいいんだ」

コバシ「(クリムに向き直り)ただし、条件があるの。タワーを奪還して元の住民を家に戻すのは結構。でもそれを成し遂げるために無差別殺人をするような真似だけはごめんこうむりたいのね。あたしたちはあんたの指揮下に入るのだから、あんたには空爆したクリムトンのようなことはしてほしくない。あれはね、人間のやることじゃないのよ。それはわかって欲しいのね」

ローゼンタール・コバシの言葉はクリムの心に突き刺さった。

戦争の興奮を離れてみれば、その行為はただの残虐行為でしかなく、戦争に内包される政治目的や浪漫主義は、何の意味もなさないのである。

自分は無意味な行為にミック・ジャックを巻き込み、死なせ、死んだ彼女に助けられ、こうして恥をかきながら生きていくのだろうかと自虐的感慨に包まれていくのを止めることができなかった。

スーン「それにしても問題なのはあの銀色の船体だな。あれは宇宙世紀末期のエンフォーサーユニットのものだろう?」

クン・スーンがエンフォーサーの名前を出すと、酒に酔っていた団員たちの顔色が変わり、凍り付くような静けさが場を支配した。

コバシ「ニュータイプによるオールドタイプの粛清って話でしょ? あの船がどこから持ち出されたものなのかわからないんだし、古い迷信みたいな話なんだから、気にすることはないと思うけど。(顔が引きつってくる)キア隊長の論文はあくまでビーナス・グロゥブが行う大執行をレイハントン家が阻止しようと考えているって話だから」

スーン「もちろん、何事もなければそれに越したことはないが、エンフォーサーユニットはG-ルシファーで我々も実験していたけども、システマチックに月光蝶を使うから、あんなものが大挙して生産されたら人類は本当に終わりだろう。なんだかG-∀も持ち帰るし、あのアイーダって姫さまもよくわからん人ではあるな」

クリム「(こわばった声で)月光蝶とは?」

コバシ「ナノマシンによる文明を消失させる武器のこと。大昔に開発された武器なんだけど、現在ではニュータイプによる大執行という裁きの日に使用されるだけの特殊兵器に指定されていて、あたしたちも法王庁からの依頼で研究していたのよ。G-ルシファーに搭載していたのは威力の弱いものだけど、もし銀色の船が空を覆うことがあったら、あとは祈るしかないという。迷信よ、迷信」

クリム「ニュータイプによる大執行・・・。裁きの日・・・」

スーン「人間がオールドタイプのまま進化しなかったら、ニュータイプによる支配に強制的に切り替えるってこと。だけどさ、(ふざけた調子で)人類がそんな都合よく進化するかっての」

スーンの言葉にジット団の団員たちは笑ったが、クリムの表情は凍り付いたままだった。


(アイキャッチ)


この続きはvol:65で。次回もよろしく。






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