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「Gレコ ファンジン 暁のジット団」vol:63(Gレコ2次創作 第21話・後半) [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第21話「法王庁の影」後半



(OP)


アイーダが乗るラトルパイソンは水先案内を引き受ける形で先行して大気圏突入を果たした。メガファウナの機能を取り入れ、宇宙での運用も可能になったこの戦艦は、彼女の自己矛盾そのものであった。アイーダは、大気圏脱出をクラウンに頼ることに不安を感じていたからこそ、ラトルパイソンを新型に改造するよう命じていたのだ。

そして、彼女の微かな不安は最悪な形で的中していた。

法王庁による善意の資源供出が支配体制の確立を目的としていた場合、アメリアは彼らにどう対処すればいいのか。アイーダは考え続けていた。

彼女自身が発表した、法王庁およびキャピタル・テリトリィとの協力関係を重視し、世界をスコード教の下に糾合して紛争を解決する「連帯のための新秩序」は、法王庁の裏切りによって頓挫した。法王庁は、彼らに敵対的であったクリム・ニックやクンタラ建国戦線を利用してアメリアを陥れたのだ。

アイーダ「(シートベルトを外しながら)こういうことでしょう。自主独立の機運の強いアメリアは、最初から法王庁にとっては目の仇、目の上のたんこぶだった。そのアメリア主導でスコード教への帰依を世界に呼び掛けた場合、アメリアは法王庁に対しても過大な要求を突き付けてくる可能性がある。彼らはそれを嫌がったのです。法王庁は、すべて自分たちで決め、それに従うだけの信徒を求めていた。だから彼らは我がアメリアを服従させるための手段を取った」

彼女は腕を組んだまま乗員を反応を確かめた。彼らはしきりに頷き、賛意を示した。

アイーダ「はなから法王庁はなかなか自分たちに服従しないアメリアを快く思っておらず、そのアメリアが世界の代表としてスコード教に接近してくることに恐怖したのです。法王庁はわたくしの『連帯のための新秩序』を、世界のヘゲモニーを握るための方便だと邪推した。そこで自らヘゲモニーを奪い返す手段に打って出た。これが地球圏における今回の騒動の原因です」

アイーダの声はオープンチャンネルですべての艦艇に流れていた。クレッセント・シップとフルムーン・シップの乗員だけでなく、ハリー・オードも彼女の演説に耳を傾けて聞いていた。

アイーダ「そこでわたくしとディアナ・ソレル閣下は、ある約定について再確認いたしました。それはアメリアとムーンレイスの間で取り決められた『サンベルト移譲条約』の再確認です。これは遥か大昔にアメリアとムーンレイスの間で取り決められた条約ですが、アメリア側の不手際によって条約の確認ができず、戦争の原因となったものですが、わたくしはディアナ閣下とお話しして、ムーンレイスのサンベルト地帯への移住を認めることにいたしました。ただし、これはアメリアに新国家を作ることではなく、すべてのムーンレイスのアメリアへの移住を許可するものです。アメリアがこの条約によって分裂することはありません。今回の事態が収束したのち、改めて条文を作り直した上で締結するつもりです。『連帯のための新秩序』は、破棄されたものとご理解ください」

新造艦オルカの中で話を聞いていたムーンレイスたちは、驚きの顔を互いに見合わせていた。彼らはまったくこの事実を知らされていなかったのだ。その喜びは抑えきれずに爆発して、オルカの中はお祭り騒ぎになった。

ハリー「ただの小娘だと思っていたのは撤回せねばな」

ディアナが自分を地球へ派遣する決断をした意味をようやく理解したハリーは、勝利の後に今度こそ夢が実現することに打ち震えた。







アイーダがオープンチャンネルを通じて伝えた言葉は、シルヴァーシップもキャッチした。

自らの残留思念をエンフォーサーユニットに移植することでクリムを救出したミック・ジャックは、エンフォーサーが分析した内容と自分の意識が感じた内容のギャップに驚いた。エンフォーサーはアイーダの方針を危険と見做し、ミックは逆に希望と捉えたのだ。

彼女はシルヴァーシップから外へこの情報が漏れないように指令を出した。エンフォーサーユニットの身体を得た彼女は、いまやこの戦艦の司令官なのだ。

エンフォーサー「クリム! 作戦変更です。すぐに戦艦に戻って!」

しかし、クリム・ニックはそれどころではなかった。彼は∀ガンダムを操るルイン・リーとともに、ケルベス・ヨーのターンXを鹵獲するために戦い続けていたのだ。

文明存続派の威信をかけて作られたターンXは、一筋縄ではいかない機体であった。加えて∀ガンダムのルインがやりにくそうに戦っていることも見て取れた。これではいくら戦い続けても決着はつきそうにもない。クリムは休息をとるかのようにシルヴァーシップの船体上部に乗った。

クリム「(肩で息をしながら)なんだ、ミック」

エンフォーサー「作戦変更です。ここは姫さまに慈悲を乞いましょう」

クリム「いや、そんなことは断じてできん!」

エンフォーサー「いえ、これはあたしの判断、ミック・ジャックの判断ってだけじゃないんです。考えてもごらんなさい。アメリアが反法王庁になった場合、ゴンドワンの亡命政府は国を破壊したクンタラ国建国戦線と、彼らと和解する手はずになっている法王庁への強い不満を表明します。そうなれば必ずアメリアと終戦協定を結ぶはずです。そして共にクンタラ国建国戦線を国を簒奪した侵略者として非難するでしょう。『クンタラ亡命者のための緊急動議』を出した姫さまはクンタラのリベラルに評判がいい。国内のリベラル派のクンタラに対して建国戦線への不支持表明を出させることくらいはできるはずです。だとすればどうなります? 次はそこで戦っているルインがクリムのように梯子を外される番です。法王庁は全部計算済みなんですよ。地球に居場所がなくなったルインは、ジムカーオを頼って宇宙に出るしかなくなる。そうなれば全部ジムカーオの思いのままに出来る」

クリム「それは、君の、その、機械の頭脳というものの判断なのか?」

エンフォーサー「そうです。姫さまのムーンレイスとの同盟の確認は、ルインという人物を追い込むための彼らの作戦の一部です」

ふたりの会話は接触回線だけではなくオープンチャンネルでも流されていた。それを聞いたルイン・リーはターンXと距離を置いた。

ルイン「オレを陥れるための罠だと?」

エンフォーサー「残念ながらね。クリムもそれで陥れられた。あなたはどうせ自分はジムカーオの片腕だとでも思っているのでしょう。でもこのままあなたが法王庁と歴史的和解などというものをやってしまえば、あなたの支持層である保守派のクンタラはあなたに不満を持つでしょうし、リベラル派のクンタラはあなたが何の権限もなくクンタラ代表を標榜しているだけだと非難するはずです」

よく考えれば、それはあり得る話であった。自分はクリムトン・テリトリィ=キャピタル・テリトリィの領主などという甘言に騙されて本質を見誤っていたのではないか。ルインは急に不安になり、戦闘を完全にやめてしまった。

ケルベス「ルイン生徒。オレの教え子。オレはお前のやったことを云々するつもりはない。お前もベルリと同じだ。ベルリは宇宙の人々を地球に入植させるにはどうしたらいいか探していた。お前はクンタラの人々をどうやったら救えるか探していた。そうじゃないのか? でもな、ジムカーオというのはレコンギスタ派よりたちが悪い男だぞ。あれはこの世界を宇宙世紀に戻そうとしている男だ。戦争は巨大な利権だ。宇宙世紀を戦争の世紀にしたのは戦争で肥え太ってきた一部の人間なんだ。連中が望んでいるのは、人間同士が争い、武器を求め、自分たちが利益を得ながら害だけは及ばないように戦争を限定的にとどめることなんだ。歯止めのある継続的戦争の創出による利益の最大化、それこそヘルメス財団が目指したものだ。ヘルメス財団は軍産複合体なんだ!」

ルイン「軍産・・・複合体」

ケルベス「主席卒業生のお前にはわかるはずだ。そこにいるクリムはキャピタルの民政の象徴であった首相を殺した。それで後に引けなくなった。お前にとってのそれは、法王庁との和解なのだ。キャピタルの利権に目を暗ませるな。正しい道を歩め、わが生徒!」

ルイン「そんな・・・そんなことはないはずだ。まさか、すべて壮大な計画の一部だったなどと、そんなことはない。有り得ない!」

エンフォーサー「(ルインに対し)それは自分で確かめたらいいでしょう。あたしたちが壮大な計画の一部だと知らずにキャピタル・テリトリィを灰にしたように、あなたはゴンドワンを砂に変えた。あたしたちが宇宙の王になることを夢見させられたように、あなたは地球の王になることを夢見させられていた。こうして話してはいるけど、あたしは大好きなクリムを残してすでに死んでしまっている。あなたを大好きな人は、本当に大丈夫かしら?」

ルイン「マニィが・・・殺されるというのか?」

ケルベス「ルイン生徒よ。オレはお前に教えなきゃいかんことは全部教えたつもりだ。あとは自分で考えて判断するんだ。オレは先にキャピタルに行かせてもらう。オレはそこでなすべきことがある」

そう告げるとケルベスは∀ガンダムとターンXが干渉し合わないように機体を大きく後退させてからキャピタルを目指して飛んで行ってしまった。

ルイン「待て!」

クリム「ルイン。その機体のままで彼を追いかけたら、先ほどの光球のような現象がまた起きてしまうのじゃないか? オレとモビルスーツを交換しないか?」

ルイン「G-セルフを渡すというのか?」

クリム「オレにはもう必要のないものだ」

クリムはシルヴァーシップの上でモビルスーツのハッチを開いた。ルインは戸惑いながらも彼の求めに応じて自分もその傍に降り立つと、ハッチを開けた。ふたりはしばらく見つめあったのち、先にクリムがワイヤーを渡して∀ガンダムのコクピットに脚をかけた。

その際にクリムは小さく呟いた。赤道上の風がふたりに吹きつけていた。

クリム「ミック・ジャックが死んだのは本当だ。オレがあの娘を冷たい宇宙で死なせた」

それを聞いたルインは自分もG-シルヴァーに乗り移った。

クリム「よく考えることだ」







ルインはケルベスの姿を追いかけたが、結局見失ってしまった。それを残念とも思わず、彼はクリムトン・テリトリィにある自分の邸宅へと戻った。

ルインが銀色のG-セルフで戻ってきたことに驚いたマニィだったが、それどころではないとばかりに機体を降りてくるルインに駆け寄って勢い込んで話し始めた。

マニィ「(子供を抱え直して)たいへんだよ、ルイン。ジムカーオ大佐から連絡が入ってる」

ルイン「大佐から?」

マニィ「(屋敷に向かって歩きながら)いま法王庁の人がやって来て、なんだか大きな機械を置いていってね、それを使うとトワサンガと時差なしで連絡できるんだって」

ジムカーオ大佐からと聞いてルインは緊張した。彼の頭の中にはクリムやミックの言葉が強く焼き付いていた。マニィとコニーの身に何かあると想像するだけで心がざわめいた。

ルイン「よし、オレが話す。マニィは部屋を出て行ってくれ」

マニィ「でも・・・」

ルイン「いいから!」

そう強く言い放ち、彼はマニィを退室させて、法王庁の人間が置いていったという機械に向き合った。操作はユニバーサル・スタンダードの通信機と変わらなかった。彼は通話スイッチを入れた。画面にカップでコーヒーを飲むジムカーオが映し出された。

ジムカーオ「おっと、これは失礼」

ルイン「一別以来です。あれから大佐の方針通り何もかも進み、また今回も特別なご配慮を賜り、至極光栄でございます」

ジムカーオ「ああ、屋敷のことか。君の働きに報いるとなればそれくらいは当然のことだ。堅苦しい挨拶は抜きにして本題に入るが、こうして通信することになったのは非常事態だと考えてもらっていい。実は法王庁とクンタラとの和解について問題が生じた。君にその日取りを決めてもらう手はずになっていたはずだが、アメリアと月の古代種族ムーンレイスが結託してしまって、トワサンガは大変な状態になってしまっているのだ。君も知っての通り、地球に残されたフォトン・バッテリーの残量は残り3か月もない。このまま戦争を続けていては月も地球も干上がってしまう。一刻も早く戦争を終わらせ、ヘルメスの薔薇の設計図を回収してビーナス・グロゥブと和解せねばならないのに、何も進んでいない状態なのだ。極めて憂慮すべき事態である。しかも、トワサンガの元国王であったレイハントン家の嫡男が反乱を起こし、シラノ-5の機能を停止させた上でこちらに戦いを挑んできている。いま必死に防戦しているのだが、レイハントン家とムーンレイスはかなり手強くて苦戦しているのだ」

ルイン「ベルリが反乱?」

ジムカーオ「何が気に入らないのか知らないが、トワサンガの国王になるのは嫌だと駄々をこねた挙句、古代種族を冷凍睡眠から解放して仲間に引き入れ、戦争を仕掛けてきているのだよ。それにアメリアにいる総監の娘も加わったから大騒動さ。こんな状態ではビーナス・グロゥブになんと申し開きしていいのかわからない。だからこうして君の助力を得るために通信させてもらった」

ルイン「わたしなどにどうしろというのでしょう?」

ジムカーオ「クラウンを使ってすぐに宇宙へ上がって来てくれないか。ザンクト・ポルトからはカシーバ・ミコシでトワサンガに入ってもらう。ただしこちらの宙域はずっと戦争が続いている状態だ。王子さまはよほど戦争が好きらしく、フォトン・バッテリーが尽きるまで戦争を続けるつもりのようだ。彼はビーナス・グロゥブから盗み出したクレッセント・シップとフルムーン・シップをアメリアへ降下させた。おそらくアメリアにあるフォトン・バッテリーを運ばせて補給にするつもりらしい」

ルイン「ベルリが・・・」

ジムカーオ「そう、ベルリ王子さまだ。ベルリ王子さまというのはノレド女史と仲が悪いのかい? 彼女とどうしても結婚するのが嫌らしいのだ。だからといってここまでやるのは異常だ。そうは思わないかね?」

ルイン「いえ、自分には宇宙で起こっていることは知りようもございませんので」

ジムカーオ「それはそうだ。愚痴が過ぎたようだ。わたしは戦争の終結とヘルメスの薔薇の設計図の回収、そしてトワサンガで起きた反ドレッド家の騒乱をベルリ王子のレイハントン家相続によって収束させるつもりだった。ところが誰もかれも勝手なことばかりして、法王庁もヘルメス財団もカンカンに怒ってしまっている。とにかく戦争を終わらせなければ、地球は破滅するしかない。そこで君に、ベルリ王子の処刑を頼みたい」

ルイン「(椅子から腰を浮かせるほど驚き)なんですって! ベルリの・・・処刑?」

ジムカーオ「そうだ。これは法王庁からの死刑勧告に基づくものだから、もちろん君は何の罪も被せられない。これについては君の了承があり次第法王庁とヘルメス財団の方から正式に発表させてもらうつもりだ。君は法王庁の発表を待って、ベルリ王子と戦っていただくことになる。そのために、すぐにでもタワーで上がってきて欲しいのだ」

ルイン「いや・・・しかし、急な話で・・・」

ジムカーオ「戸惑うのは無理もない。君に嫌な役割を押し付けるようで悪いのだが、こちらの手持ちの戦力はタワーの運航再開に振り向けてしまって、残っているのは2万人のトワサンガの一般住民だけなのだ。彼らを早く正常な生活に戻してやりたい。そのためには、ベルリ王子が持っているG-メタルというレイハントン家の証が必要なのだ。もしそれをベルリ王子から奪って、彼を処刑してくれたら、君をトワサンガの新王に推挙してもいい。レイハントン家のふたりの子供は地球で何不自由なく育てられてしまって、姉も弟も手が付けられない。アメリアの問題もあるが、まずはトワサンガを元に戻さねばビーナス・グロゥブと交渉することさえできない有様なのだ。クレッセント・シップとフルムーン・シップがアメリアからフォトン・バッテリーを運んできてからではまた戦争が長引き、地球はエネルギー不足でさらに疲弊してしまう。そうなったらクンタラどころじゃない。地球人全員が飢えて死ぬことになる。また共食いの時代に逆戻りだ。わたしはクンタラのひとりとしてそれは何としても避けたいと願っている。だから君にどうしてもと頼みたいのだ。君は優秀なパイロットでもある。君ならばベルリ王子を処刑できるはずだ。いや、それができるのは宇宙に君しかいないだろう」

ルイン「ひとつお聞きしたい。自分が宇宙へ出た場合、地球に残されたクンタラの人間、特に自分と共に戦ってくれたクンタラ国建国戦線の人間はどのようになるのでしょうか? 自分はいまゴンドワンの仲間と離れ、クリムトン・テリトリィの領主になれと命じられここで足止めを喰らって仲間と接触できておりません。当初、こういうつもりではなかったのです」

ジムカーオ「君のゴンドワンでの活躍はヘルメス財団も大いに評価しているところだ。クリム・ニックによって反スコード教の動きを強めたゴンドワンには制裁が必要であった。それを我々クンタラに押し付けた法王庁のやり方にはわたしも文句があるが、クンタラにはカーバが必要なのだ。カーバとは地球のことだ。地球へ還れば、差別はなくなるはずだった。約束の地カーバの伝説を持つクンタラには、地球のどこにでも自由に住める権利がある。法王庁はクンタラとの歴史的和解を通じて、クンタラ差別の撲滅と世界のすべての国に対して領土の割譲、参政権の付与を約束すると言っている。それに、もし君がトワサンガの新王になるというのなら、フォトン・バッテリーの配給権を持つことになる。クンタラ差別がある地域へのフォトン・バッテリーの配給停止をすることもできるんだ。そこまで保証されたなら、あとは自分次第だ。クンタラだからといって怠け者が得をするようではいかん。働いた分だけ、才能を発揮した分だけ報酬を受け取る。これで本当にクンタラは平等にあり得るのだ」

ルイン「なるほど。ゴンドワンの仲間にはいつでも会えると?」

ジムカーオ「君が新生キャピタル・テリトリィの領主を選択しようが、トワサンガの新王を選択しようが、クラウンに乗っていつでも好きなところへ行けるじゃないか。いまはそれを得るために働くべきときだ。働きもせずに何も得られないよ。それは当然であろう」

ルイン「自分の働き如何でクンタラは真の平等を得る? 間違いないのですね?」

ジムカーオ「まさか君も地球をクンタラが支配し得るとは思いはしないだろう? 数が圧倒的に少ないのだ。しかし、君がレイハントン家を亡ぼし、新王になるのなら話は別だ。フォトン・バッテリーの配給は支配だ。君は公正な男だから、不正などしないだろう。権力は正義を知る者が持つべきであって、ただ血筋が旧国王のものだからといって我儘放題で状況を少しも好転させられない地球育ちの甘ちゃん王子が持っていいものではない。血による差別で苦しんだ我々クンタラだからこそ、正義を成すことが出来る。そうは思わないか?」

ルイン「血か・・・」

ジムカーオ「血族支配を終わらせるのだ。我々クンタラの手で」

ルイン「そういうことならば・・・承知いたしました。一命を賭してでもベルリを処刑致しましょう。ただし、自分はひとりの子の親です。人殺しの汚名を着るわけにはまいりません。法王庁より、レイハントン家が持つ権利の剥奪、ベルリへの死刑勧告が出されたのち、クラウンにて出立いたします」

ジムカーオ「そうか、やってくれるか。君ならばわかってくれると思っていた。それでは直ちにそのふたつを世界に向けて発表しよう。ただ、言っておくが、月の裏側は戦争の真っただ中だ。カシーバ・ミコシに乗っているからと油断すると何が起こるかわからないからな」







ルイン・リーの∀ガンダムと機体交換を済ませたクリム・ニックは、真っ暗な中央指令室へと戻った。完全自動運行を実現したシルヴァーシップに人間の乗員はいない。ミック・ジャックの意識を取り込んだエンフォーサーさえも、無人船の機械の一部でしかなかった。

表面をナノマシンで覆ったエンフォーサーは、相変わらずミック・ジャックと寸分変わらぬ表情を浮かべてクリムが戻ってくるのを待っていた。彼女は初めて席を立ちあがるとクリムに近寄り、冷たい肌で彼を抱きしめてキスをした。

エンフォーサー「あたしはこれから姫さまにあなたのことを助けてくれるように懇願してきます。元々弱いあたしではもうここに戻ってくることはできないでしょう。これでお別れです。あなたはまた素敵な人を見つけてくださいな」

クリム「何を言ってるんだ、ミック。ずっと一緒に・・・」

そう言葉を伝えようとクリムが顔を上げたときには、エンフォーサーの顔はミック・ジャックのものではなくなっていた。それは女性型という以外に特徴のない、作り物の顔でしかなかった。

クリム「なんで・・・、なんでお前はそこまでしてオレを・・・」







ラトルパイソンのブリッジで腕組みをして今後の作戦を練っていたアイーダとブリッジクルーたちは、何かが来るのを感じて一斉に顔を見合わせた。

周囲を見回したブリッジクルーたちは、アイーダが人間の形をした光の塊と正対して話しているのを見た。だがそのボンヤリした光がなんであるのか理解できる者はいなかった。アイーダは相手の言葉に何度も頷くと、最後は笑みを浮かべてその人物に触ろうとした。

しかしアイーダの手は虚空を掴み、何も手に触れることはなかった。光は消えていなくなった。

アイーダ「たったいま、アメリアのミック・ジャックより陳情を受けました。後方から敵主力戦艦シルヴァーシップがやってきます。彼女は船とエンフォーサー1機、∀ガンダム1機と引き換えにクリム・ニックの安全の保障を求めてきたので、わたくしはそれを了承いたしました。グリモア隊は直ちに出撃して自動航行になっているシルヴァーシップの確保を急いでください。またクリムの身柄の確保も。アメリアは法王庁の死刑勧告には従いません。宗教団体による超法規命令は断固拒否いたします」

艦長「グリモアだけで大丈夫ですか?」

アイーダ「心配はいりません。敵艦はクリム以外は無人です。ああ、誰か船の分析ができる人たちを探さなければなりませんね」

命令だけを済ますと、アイーダは自室に戻ってベッドに腰かけた。

アメリアへ戻ればまた政治屋との戦いが待っている。彼女の敵は法王庁。どうやって打ち砕くか、そして宇宙で戦っている弟を守れるか、不安は尽きなかった。

静かに天井を見上げて、アイーダは呟いた。

アイーダ「ニュータイプへの導きが人類進化の鍵だって、本当にそうなの、ミック・ジャック」


(ED)


この続きはvol:64で。次回もよろしく。













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