「ガンダム レコンギスタの囹圄」第14話「宇宙世紀の再来」後半 [Gのレコンギスタ ファンジン]
「ガンダム レコンギスタの囹圄」
第14話「宇宙世紀の再来」後半
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ドニエル「(Gに耐えながら苦しそうに)副長! そっちは大丈夫そうかー?」
副艦長「(Gに耐えながら苦しそうに)なんとか!」
クレッセント・シップとフルムーン・シップは地球圏に近づいていた。
両機は最低限の人員で操舵しており、急減速のGに耐えるためにすべての乗組員はシートベルトをつけていた。クレッセント・シップに固定されたメガファウナの指揮はドニエル・トスが務め、クレッセント・シップの艦長はエル・カインド、その副長はフルムーン・シップの艦長となって、慣れない操舵手のステアに指示を送っていた。
ドニエル「(Gに耐えながら苦しそうに)投錨たって錨を下ろすわけじゃないが、まずは月の裏側に潜り込んでトワサンガと地球の情勢を探る。月にはムーンレイスというのがいるかもしれんから、モビルスーツ隊は減速終了後ただちにスタンバイだ。もう何があっても驚くな!」
エル・カインド「(Gに耐えながら苦しそうに)フルムーン・シップ艦長、トワサンガを越えたところで減速が終わるからすぐに舵を切って月へ。メガファウナ艦長、状況判断はお任せします」
ドニエル「(Gに耐えながら苦しそうに)G-アルケインのラライヤ、減速終了後直ちに出撃、月の表側を回ってザンクト・ポルト周辺を望遠で視認すること、変形は練習で習得したろうな。計算では月の表に出ればタワーが見えるはずだから、いいな!」
ラライヤ「(Gに耐えながら苦しそうに)大丈夫です!」
ドニエル「(Gに耐えながら苦しそうに)ベルリはラライヤより先に出てトワサンガの偵察、王子さまだってことを最大限利用して戦争にならないよう話をつけてくれ。シラノ-5の中には入らない。外からの交信だけだ。30分を越えるな!」
ベルリ「(Gに耐えながら苦しそうに)了解しやした」
惑星間移動の加速がようやく終わり、身体に掛かる負担が減ってきたところで総員はすぐさまシートベルトを外し、打ち合わせの行動へと急いだ。
G-セルフのコクピットに飛び込んだベルリにハッパがマイクで声を掛けた。
ハッパ「バックパックを用意してやれなくてすまん。お前さんだけは死んじゃいけない人間だ、必ず生きて戻って来いよ」
ベルリ「死んでいい人間なんていませんよ。それにこいつが必要にならない世界を作りたいんです」
そう告げるとベルリはモビルスーツデッキを飛び出していった。
ラライヤ「こっちも出ます!」
ハッパ「高速飛行形態になるのは充分に距離を取ってからだ。三日月も満月も速くてデカいんだからぶつかったら死ぬぞ」
ラライヤ「了解。G-アルケイン出ます!」
ラライヤ・アクパール搭乗のG-アルケインは出撃後斜め前方に急上昇してクレッセント・シップ、フルムーン・シップ両機と距離を取るとそのまま高速飛行形態に変形して右に旋回、月の軌道上に進入して太陽が当たる側に出た。真っ先に飛び込んできたのは青い地球の姿であった。
ラライヤ「最大望遠。照準ザンクト・ポルト。(前方モニターにキャピタル・タワー最終ナットザンクト・ポルトが小さく映し出される)あれは、光線?」
ときおりモニターに小さく交差する閃光が映し出されるのをラライヤは見逃さなかった。照準器の望遠性能が悪く詳しい解析はできないが、G-アルケインはそこに多数の戦艦が存在することを確認した。
ラライヤ「ガランデン1隻、戦艦級 unknown 2隻、クロコダイル2隻、ガビアル1隻を確認。アメリアと、どこ?」
その声は月に阻まれてメガファウナには届かない。ラライヤが知る限りガランデンはキャピタル・アーミーの船ではあるが、建造はゴンドワンだ。
モニター解析に熱中するラライヤを気づかせるように、コクピット内に警告音が響き渡り、警告灯が赤く点滅した。月表面より未確認機が4機近づいてきている。すべて同じ形だが、1機は金色の塗装で目立つ色をしていた。ラライヤはすぐさまモニターを切り替えてMSを視認した。
ラライヤ「見たことのない形・・・。トワサンガの新型か、それともディアナ・ソレルの?」
ラライヤは、自ら月にある冬の宮殿を目の当たりにしながら、ディアナ・ソレルが生きているというベルリの話を信じていなかった。彼女はムーンレイスがいまも生きているとは思っていない。しかし、月から出撃してきた未確認MSはどこか彼女が見知っている技術体系と違うものを感じさせた。
彼女は4機の未確認機を振り切るべくさらに加速した。金色の1機が集団から離れ、銀色の3機と挟撃を仕掛けてきたのでそられを振り切るべく自在に旋回して接近を許さなかった。
高速飛行形態のG-アルケインは4機とは速度が違う。あっという間に追撃を振り切ったがそれは彼らの罠であった。G-アルケインは彼らの網に捕らえられ、電流を流された。
ラライヤ「あああああ!」
減速と加速を繰り返してようやく網から逃れたものの、一瞬コントロールを失ったラライヤは機体が高速で月に向かって飛んでいるのを認め、MS形態に変形して減速した。そこを金色のMSに羽交い絞めにされてしまった。
月を背にした2機はゆっくりと漂いながら互いに緊張していた。金色のMSと接触回線が繋がった。
ハリー「できれば手荒な真似はしたくない。わたしの名前はハリー・オード。このMSはスモーという。あなたの名前と機体名を教えて欲しい」
ラライヤ「わたしは・・・ラライヤ・アクパールといいます。機体はG-アルケインです」
ハリー「物分かりが良くて結構。君の仲間にベルリ・レイハントンはいるか?」
ラライヤ「(しばし迷って)ベルリならいます。わたしにも質問させてください。あなたはディアナ・ソレルの手の者ですか?」
ハリー「ほう、姫の名前を知っているとは感心」
ラライヤ「ディアナ・ソレルが生きているのですか!」
ハリー「時を超え、美しいままにご健在だ。それではベルリ・レイハントンに伝えていただきたい。我々ムーンレイスはかつての遺恨を捨て、レイハントン家と結びつき、月とトワサンガに分かれた両者を統合して新しい治世を望んでいると」
ラライヤ「結びつき?」
ハリー「・・・婚儀のことだ! いや、だが待て。こうも伝えていただこう。ディアナ・ソレルとの婚儀は形式上のもので結構。政略結婚である故、ともに子をなす必要はなしと。いや、待て。それでは後々の跡取りはどうしたら・・・」
ラライヤ「ベルリが・・・ディアナ・ソレルと結婚ッ! ダメです! ベルリさんにはノレド・ナグという相応しいパートナーがいるんです!」
ハリー「そうなのか? ならばますます結構。よろしい。その者を妾にして子をなすがよい。こちらのことは婚儀の前に相談させていただくことにしよう。このことをラライヤ殿の上官並びにベルリ・レイハントンにお伝え願いたい。それともうひとつ。地球圏で戦闘が起こっているようだが、あれは貴殿の仲間か?」
ラライヤ「・・・遠くて確認はできませんが、わたしたちのメガファウナはアメリア船籍です」
ハリー「アメリア・・・。ほう、あなた方はアメリアのお方か。ならばなお結構。月は互いに争っている場合ではない。地球の野蛮人どもが戦艦などでこちらに迫ろうとしている。月は月で互いに手を結び、防衛体制を築かねばならない。そうお伝え願おう」
それだけ告げると金色のスモーはG-アルケインを開放し、再び月へと戻っていったのだった。
ラライヤ「ベルリがディアナ・ソレルと結婚?! これは・・・何とかしないと!」
シラノ-5に近づいたベルリを出迎えたのはザックスとネオドゥの混成部隊20機であった。彼らは一斉にビームライフルを撃ってきた。
ベルリ「戦う気なんかないってば!」
だが、彼らが追ってきているのはベルリのG-セルフではなかった。塗装を済ませていない、銀色のG-セルフだったのだ。
銀色のG-セルフは混成部隊の下方から急上昇してきてベルリのG-セルフを見つけるなりビームサーベルを引き抜き、襲い掛かってきた。ベルリもこれに応戦し、2機のG-セルフは接近しては離れを繰り返し、3合、4合と打ち合った。
ベルリはこの機体のパイロットにただならぬものを感じた。
ビーナス・グロゥブでヤーン・ジシャールと戦ったときと似た感触だが、こちらはもっと異質な何かだった。
ベルリ「部隊の方はみんな離れて! こいつは危険だ!」
ミノフスキー粒子が撒かれていなかったためにベルリの声は広く届いた。混成部隊は指揮官に命令でいったん下がったが、銀色のG-セルフはその中に突撃してまっすぐ駆け抜け右に旋回したときには3機が爆発していた。
ベルリ「こいつは、こいつはッ!」
2機のG-セルフは螺旋を描いて一定の距離を空けたまま斬り込む間合いを計って虚空を駆け抜け、ビームサーベルを押し付け合う展開になった。ベルリが力押しした瞬間、敵はそれをいなして素早く体を入れ替えると反対方向から打ち込んできた。
その一撃は咄嗟にかわしたもののベルリのG-セルフはバランスを失って左足の先が相手の機体の肘にぶつかった。その一瞬で、ベルリの脳裏には敵の正体が映像で浮かんだ。彼女は醜くゆがんだ顔で純粋な憎しみを注ぎ込んだ器のようにコクピットの中に鎮座していたのだ。
ベルリ「ユグドラシルのパイロット? あんたは何で人形みたいにッ!」
銀色のG-セルフに搭乗していたのは、バララ・ペオールであった。しかし、彼女の様子はおかしく、人格というものを感じない。あるのは純粋な憎しみと嫉妬心だけであった。バララのG-セルフはそのあともベルリの機体に襲い掛かってきたが、突然旋回してトワサンガの部隊に向けてビームライフルを撃つと月の方角へ飛び去っていった。
トワサンガの部隊はこれを追ったが、ベルリは深追いはしなかった。
ベルリ「いまはそれどころじゃない。あの人はバララ・ペオールに間違いないけど・・・。とにかくぼくは混乱を終わらせなきゃいけない。姉さんを助けるために」
ベルリはシラノ-5へ向かってオープンチャンネルで呼びかけた。返答はすぐに返ってきた。
ジムカーオ「これは王子。いったいどこへ行かれていたのですか? もう少ししっかりしていただきませんと、こう振り回されるばかりでは・・・」
ベルリ「あなたに伝えたいことがあります。トワサンガの政体や統治についてあなたにそれを決める権限はないのではありませんか? いったいあなたはなぜ勝手な行動を取るのでしょうか?」
ジムカーオ「それは無論混乱を早期に収拾するためです。フルムーン・シップでビーナス・グロゥブへ行かれたのならば、ラ・グー総裁よりヘルメス財団の意思はお聞きになったはずです。地球圏での戦争の中止、全戦力の放棄、ヘルメスの薔薇の設計図の回収、レコンギスタした者の身柄の引き渡し、これらがなされなければビーナス・グロゥブからフォトン・バッテリーは配給されません。ラ・グーはなんとおっしゃった?」
ベルリ「ラ・グー総裁はお亡くなりになりました。残念なことですけど、いまはそんな話をしているわけじゃない。大佐がそうやってトワサンガの指揮を執っている限り、この混乱は収束しないと考えます。これはつまり、指揮権を放棄しろということです」
ジムカーオ「それは簡単なことのようで簡単じゃありませんよ。まず王子はトワサンガの統治者にならねばならない。統治者になったならば軍の指揮権は王子のものです。人事権も王子のものです。すぐにこちらへいらして即位をされて、それからわたしジムカーオを解任すればよいのです。しかし、王子はアメリアのアイーダ総監と血縁でいらして、アイーダ総監は軍の最高責任者であるとともに政治家でもいらっしゃる。当然アメリアを第一に考えます。アメリアは現在ゴンドワンと戦争中で、キャピタル・テリトリィへの増援も検討中でしょう。トワサンガとアメリアの同盟でゴンドワン連合と戦えば、戦争は勝つでしょうが大きな被害と損害が出ます。それをさせないためにフォトン・バッテリーの供給を止めるとヘルメス財団は決めたのです。地球を二分する大戦争を仕掛けておきながら、しかも何のコネもないヘルメス財団と王子はどうやって交渉なさるのか。さらに、ラ・グーが死んだという。ラ・グーが亡くなったというならば、新総裁はキルメジット・ハイデンでしょう。だとしたらなおさらあなたは難しい交渉をすることになる。キルメジット・ハイデンは物事をはっきりさせるのが好きなお人だ。トワサンガとアメリアの同盟を断つために、アイーダ姫を殺しに来るでしょうな」
ベルリは自分の考えがジムカーオに見抜かれているのだと認めるしかなかった。
ベルリはジムカーオを穏便に追い払って、トワサンガの王子として即位しないまま総選挙で代表を決め、アイーダ・スルガンの「連帯のための新秩序」に参加すれば問題は丸く収まると考えていたのだ。しかし、ジムカーオはそれは軍事同盟であるとベルリに突き付けたのである。
ジムカーオ「どうやらご理解いただけたようで幸いです。トワサンガはあくまでビーナス・グロゥブと一体でなければならない。王子がこの問題を終結させるためには、トワサンガの王子となって即位し、ヘルメス財団に加盟していただいて、ヘルメス財団1000年の夢というものをご理解した上で、公的な立場で物事を決済するすべを身に着けていただいてからになるのです。王子は幼少時にクンパ・ルシータによって誘拐され、帝王教育を受けておられません。それを再開していただかなくてはならない。その教育者となるのも、実はこのジムカーオなのです」
ここへきて、ようやくベルリは自分の置かれた立場を理解した。ドレッド家の反乱によって生家を追われたとき、彼は王子ではなくなったのだ。トワサンガで自分が影響力を行使するには、ジムカーオの下に入って彼の指示に従って生きるしかないのである。
もしそれを拒めば、彼はただのクラウン運航長官の息子になって、トワサンガへの影響力など持たない立場になる。
ベルリ(逆に考えれば、この状況を作り出すためにこの人は真っ先にトワサンガに入ったということだ。彼は地球にいたからこそ、ガードとアーミーの人間をたぶらかしてここへ連れてこさせ、ハザム政権と守備隊を追い払った。この状況を主導したのは彼だ。間違いない)「わかりました。しかしぼくは弟なので、まずは姉と相談してから王子の件は考えることにします。ありがとやした」
屈託ない笑顔でそう告げるとベルリは一方的に回線を切ってメガファウナへと帰投した。
ベルリ「(悔し涙を浮かべながら)さあ、考えるんだ、ベルリ! なぜキャピタル・テリトリィは狙われた? いまのこの状況のためだ。ぼくが戻るべき場所をあらかじめ潰されたんだ。クラウンはもう動いていない。母さんはトワサンガで人質にされている。トワサンガの王子になれば、ぼくと姉さんと切り離されてしまう。一緒に世界の平和のための努力する道が断たれる! 全部このときのためにあの男は行動していたんだ・・・。クソッ、なんて狡猾な男だッ! それなのにぼくは月の王子さまにはなりたくないなんて子供みたいなことを考えていてッ!」
王子さまにはなりたくないと態度で表しながら、月の王子になるのは自分しかいないと高を括っていたことをベルリは深く後悔した。
メガファウナへ戻ったベルリは、すぐさまブリッジに上がって状況を報告した。
ドニエル「つまり? ベルリが味方に付いてるってのにオレたちはトワサンガの協力は得られそうにもないってことか?」
ベルリ「そうなります。お役に立てずにすみませんです」
月の裏側に潜り込んだメガファウナは、戦艦1隻では守り切れないほど巨大なクレッセント・シップとフルムーン・シップを抱えて大きな緊張に満たされていた。この2隻の巨大船はあくまで惑星間輸送艦であり、戦力と呼べるほどのものはついていない。さらにどちらも人員が足りていないのだ。
副艦長「ベルリをジムカーオって男に渡した日にゃ何をされるかわかりませんな。クンパ大佐という男もあとで知ってみりゃとんでもない策士でしたが、あいつもなかなかのヤリ手のようで」
ドニエル「だからよ、いまどうすりゃいいか考えてんだが」
副艦長「やはりこちらは姫さまと合流するしかないでしょう。キャピタル・タワーのケルベスさんがいくら頑張っていても、おそらくはタワーの維持が精一杯と見るべきで」
ベルリ「あと、その前の戦闘で艦長とハッパさんが話していた銀色のG-セルフと交戦したんですが」
ギセラ「こっちでも確認したよ」
ベルリ「パイロットがどうもユグドラシルに乗っていたバララ・ペオールのようでした」
ドニエル「なんでわかった? 話でもしたのか?」
ベルリ「いえ、何となくそう感じたというか、映像がパッと見えたような気がしました」
ドニエル「ビーナス・グロゥブでヤーン・ジシャールのジャイオーンと戦ったときもそんなことを話していたな。なんでお前とかラライヤってのはそういうものを戦闘中に見たりするんだろうか?」
副艦長「ニュータイプって言葉は聞いたことありますけどね。ハッパが詳しい」
ドニエル「G-セルフをみんなして欲しがっているのはやはり奇妙だな。副長はG-セルフに負けたマスクやクリムの坊やが欲しがっているという説で話していたが」
副艦長「(首をすくめて)ハッパの勘が当たってましたね」
そこに月を一周してきたG-アルケインの帰還が報告された。ラライヤもベルリ同様大急ぎで駆け込んできた。そのあとに、ノーマルスール姿のノレドも続いた。ノレドはリリンの手を引いていた。
G-アルケインが偵察で撮影してきた映像がブリッジのモニターに転送されてくる。
ラライヤ「現在キャピタル・タワー近くで艦隊戦が行われています。一方はアメリア軍、もう一方はガランデンですけど・・・」
副艦長「(モニターを見ながら話を遮り)あ、いや。ガランデンと一緒にいるのはゴンドワンのオーディンだ。あのガランデンは新造艦かもしくはキャピタル・テリトリィに返還してもらったものだろう。この映像ではわからんが、宇宙に出てきたのなら、クリムと見るべきかと」
ドニエル「そうだ。大気圏突入を怖がらずに突撃してくるのはクリムの坊やだろうよ。あいつはとうとうラトルパイソンと艦隊戦をおっぱじめやがったか」
ラライヤ「もうひとつ! 偵察飛行中に月のディアナ・ソレルの臣下ハリー・オードという人物と接触しました。(ラライヤは突然ノレドに抱き着き)こんなことは言いたくないし、させないですけど、ムーンレイスはディアナ・ソレルとベルリさんを結婚させて月は独自の防衛体制を作るべきだって言ってました。そう伝えてくれって。ノレドさん、ごめん」
ディアナ・ソレルとベルリの結婚と聞いて、ノレドの頬がひくついた。リリンは不思議そうに大人たちのやり取りを眺めている。
話を聞いたベルリとブリッジにいたクルーたちは黙り込み、しばし考えごとをしていたが、何か合点がいくような様子になったので、ノレドは慌てて周囲の人間に小声で訊いて歩いた。
ノレド「まさか、ベルリがディアナ・ソレルと結婚なんてしないよね? そうだよね。会ったこともないんでしょ?」
ベルリ「いや、ノレド。まだちゃんと話していなかったけど、あの人たちを目覚めさせたのはぼくなんだ。ムーンレイスを封印していたのは、おそらくレイハントン家の先祖で、スコード教への改宗を迫って拒否された末に月に封印したと聞いた。(ドニエルに向けて)艦長、月には宇宙世紀時代の遺物がたくさん残っていて、ムーンレイスの技術は素晴らしいものです。数もかなり多かったように思えます」
ドニエル「(横目でノレドを気にしながら)正直、メガファウナだけで三日月と満月を守り切れる自信がない。乗務員も足らんし、戦闘員はもっと足らん。姫さまと合流できりゃ少しは増員を頼めるのだが、クリムが宇宙に出てきてるとなると迂闊に月の表には出られない。あいつはフルムーン・シップを奪おうとしていたからな」
副艦長「まぁ、なんだ。結婚なんてしなくていいんだ。同盟だ、同盟。あ、そうそう。アメリアとムーンレイスが同盟すりゃ別に結婚なんてしなくても(横目でノレドを気にする)」
ノレド「月の女王さまとトワサンガの王子さまが結婚して月の統治者になる・・・。なーんだ、すごくいい話じゃない!」
ベルリ「結婚なんかしない! そんなこと考えてもいないから話をややこしくしないでくれ!」
ノレド「(真っ赤になって怒り)ふさわしい相手じゃん!」
ドニエル「あーーーーーーっ、止めろッ! これは同盟だ。我がアメリアは月の女王ディアナ・ソレルと軍事同盟(横にいる副長に訊ねる)軍事同盟でいいんだよな?」
副艦長「軍艦が通商同盟なんか結べないでしょ? どこにそんな権限が?」
ドニエル「オレたちゃこれからムーンレイスつーのと軍事同盟を結ぶことにする。代表者は(ベルリを横目で見るが思い直す)オレだ! オレが話し合う! だからベルリとノレドは喧嘩すんな!」
それからブリッジでは月の表側に出ずにムーンレイスと接触する方法が話し合わされた。
リリン「月の裏側に入口があるんだよ」
ラライヤ「あ、冬の宮殿に通じる入口! わたしなら案内できますし、ハリー・オードに名前を名乗っています。でもドニエル艦長を乗せて行くとなると、複座のG-ルシファーじゃないと狭いし、ちょっと臭いし・・・」
ノレド「あれは・・・、あれはやめた方がいいと思う・・・」
ベルリ「あ、でも自分は月の表側の入口から侵入してごく表面的なところしか通っていませんよ。太陽が当たる側には何らかの構造体があるので、あれに隠れていけばザンクト・ポルトからでは観測されないでしょう」
副艦長「あー、いや待て。君が行くときっとややこしいことになる。ここは別の人選で」
ドニエル「月の裏側からじゃかなり距離があるからな」
リリン「電話があったよ」
ドニエル「リリンちゃん、冬の宮殿に電話があったのか?」
リリン「あった」
ラライヤ「あったような気もしますが・・・」
副艦長「モビルスーツデッキのハッパにつないでくれ」
すぐにブリッジのモニターにハッパの顔が映し出された。
副艦長「G-アルケインを複座に換装できるか?」
ハッパ「3時間も貰えればできますが」
ドニエル「じゃ、すぐに頼む。ラライヤちゃんを酷使してすまんが、3時間仮眠を取ってノレドとふたりで冬の宮殿に行き、ムーンレイスの連中に、話し合いに応じるから月の裏側まで来てくれと頼んでくれ。でもまだ増援は頼むな。それはオレが判断する。ベルリは待機だ。トワサンガがどうなっているのかわからんし、こっちは守るものが大きすぎる。三日月も満月も無事にビーナス・グロゥブに持っていかにゃならんからな。パイロットは交代で仮眠を取れ。あくまで仮眠だぞ」
メガファウナクルーたちの、2隻の巨大輸送船を守りながらの緊張した時間はなおも続いた。
(ED)
この続きはvol:50で。次回もよろしく。
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