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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第14話「宇宙世紀の再来」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第14話「宇宙世紀の再来」前半



(OP)


クレッセント・シップが世界巡行を終えて地球を離れてから4か月が経過していた。

キャピタル・タワーを占拠したケルベス・ヨーは、ザンクト・ポルトまで完全に掌握したのちにキャピタル・テリトリィで議会の解散総選挙を行うつもりでいた。

ところが彼が144番ナットでトワサンガのガヴァン隊の侵略行為に対応しているうちに、地上ではゴンドワンのクリム・ニックが都市部への絨毯爆撃を敢行し、あっという間にすべてを破壊してしまっていた。キャピタル・テリトリィは、ゴンドワンの侵略戦争の餌食になったのだ。

地上が占拠されたのちは、ビクローバーへの通信網は寸断され、状況はまるで掴めていない。これによりアメリア軍総監アイーダ・スルガンへの救援要請も出せないままになり、ケルベス・ヨーはキャピタル・ガードの兵士と教え子たち、それにクラウン運航庁数名でタワーを死守するのが精一杯になっていた。

ザンクト・ポルトに拠点を移した彼の元へは、クリム・ニックからの一方的な降伏勧告と、トワサンガへ上がったキャピタル・ガード調査部からの増援申請が届いている。ドレッド家滅亡に続いて守備隊であるガヴァン隊さえ失ったトワサンガであったが、ジムカーオ大佐率いるガードと元アーミーの混成部隊が現在はシラノ-5を掌握しているとのことであった。

侵略者クリム・ニックに屈するのは論外としても、仲間であるはずのトワサンガの部隊の増援申請さえ迂闊に受け入れられないのがもどかしかった。キャピタル・ガードの中にはクンパ大佐の事件以来、調査部に不信感を持つものが多く、増援受け入れによって指揮権を奪われることを恐れていたのだ。

いまやキャピタル・ガードの指揮権は、中尉に過ぎないケルベス・ヨーに委ねられている。

ザンクト・ポルトにはトワサンガ首相のジャン・ビョン・ハザムがいる。彼はドレッド家の傀儡であったために真の民政の代表とは言い難く、ビーナス・グロゥブの承認も得ていないために扱いに困ることがあった。政治家として能力も未知数だった。

ケルベス「望んでやったこととはいえ、大それたことをしでかしたものだ」

ケルベスはザンクト・ポルトの行政官から預かった陳情書に眼を通し、備蓄エネルギーが底をつきかけていることに愕然とした。このままではあと1か月で人間が活動することはできなくなる。キャピタル・タワーのエネルギーは地球の自転を使った発電方法であるため問題はないが、各ナットの生命維持などはフォトン・バッテリーに頼っているからだ。

キャピタル・タワーに閉じ込められた彼らはエネルギーと物資をザンクト・ポルトに依存しており、地上からも月からも支援を受けずにいれば早々にこうなることはわかっていたはずなのに、アメリアへの支援要請を優先するあまり、決断が遅れたのは確かであった。

トリーティ「ザンクト・ポルトには大気圏突入グライダーというものがあります。命令があればいつでも自分がアメリアに支援要請へ赴きます」

ケルベス「いよいよとなったら頼むしかないが、ゴンドワンがどの程度の戦力で活動しているかによって、こちらの支援要請が受け入れられるかどうか決まる。北と南から挟み撃ちになって苦戦しているようなら、クリムの攻撃をかわして無事にアメリアに着いても受け入れられないこともある」

トリーティ「ではやはり、あの調査部のジムカーオの支援を受け入れるので?」

ケルベス「これはキャピタル・テリトリィの問題なのだから、最終的には彼らに賭けるしかない。アメリアと通信ができれば、どの道を選択するか見えてくるのだが」

そういうとケルベスは親指の爪を噛んで、残り1か月のエネルギーで何ができるか考えた。もはや大規模戦闘を起こすこともできず、市民への配給を減らすなど言語道断であった。

彼は天井を見上げ、しばらく黙考したのちに口を開いた。

ケルベス「2日後にジムカーオ大佐の使者と会う。第2ナットのケルベス部隊にはいつでも撤退できるように準備をさせておいてくれ。できれば、オレたちはトワサンガへ移動したい」






ミック「とにかくタワーの破壊だけは大反対です。あんな大きなものを壊して地球に落ちてきたらどうするつもりなんですか?」

かつてキャピタル・テリトリィ中心部だった場所は、大規模開発の好景気に沸き立っていた。地域を占領したクリム・ニックはその土地をクリムトン・テリトリィと命名し、世界中から投資と移民を受け入れ、破壊された街を新都市計画に基づいて再建しようとしていた。

クリムが発表した「闘争のための新世界秩序」に賛同した国々はこぞって失業者をクリムトン・テリトリィに送り込み、開発利権に与かろうと工作機械の供出に熱心になっていた。元々戦闘用モビルスーツ開発に熱心でなかったアジア地域も、工作機械ならば多様な製品を持っていたために商社をこの新たな国に送り込んで毎日のように商談に明け暮れている。

ゴンドワンの若者たちもこの土地に殺到し、働いた分だけ豊かになる新生活を満喫していた。古いしがらみがないとの理由で貧しい生活を強いられていた女たちやクンタラさえもこの土地を目指してやってきていた。いくら働いてもなくならない仕事と常に足らない労働力は、世界中の余剰資金をこの土地に集める効果を果たした。

この巨大利権によって、クリムは一瞬で世界一の大金持ちになってしまった。

問題は中心部に聳え立つキャピタル・タワーの扱いと、旧市民によるレジスタンス、さらにレジスタンスを支援するアメリアの動向、そして枯渇しつつあるエネルギーであった。

クリム「キャピタルに備蓄してあったフォトン・バッテリーは都市開発で使い果たしてしまった。あんな大きなもの、壊そうたって無理だよ。壊すためのエネルギーがない。それに、キャピタル・タワーは宇宙全体を支配するのに不可欠なものだ。そもそも失うわけにはいかない」

ミック「いまさらロケットじゃないですし、燃料もありませんしね」

キャピタル・ガードの抵抗が激しく、小競り合いの戦闘で消費されるエネルギーもバカにできないために、クリムはいずれタワーを破壊するのではないかとの憶測が市井に流れていたのだ。侵略戦争によって巨万の富を得たクリムへの風当たりは日増しに強まっており、ミック・ジャックはそれを気にしていたのだった。

クリムトン・テリトリィの開発は盛んであったが、人口が増えたことによってエネルギーの消費も激しかった。土木建築に消費されるフォトン・バッテリーは膨大で、軍事行動が制限されつつあった。アメリアに支援されているレジスタンスの方が装備が良いこともしばしば見受けられるようになった。

クリムは更地に建ち始める巨大建築物を旧議員宿舎だった執務室から眺めながら、ついに時が来たことを受け入れた。

クリム「アメリアを降伏させてからと思っていたが、この好景気を維持するためには資源が必要だ。オーディン、ガランデンを率いてまずはザンクト・ポルト、そしてトワサンガ、ビーナス・グロゥブと征服するしか道はない。ついてきてくれるな、ミック」

ミック「そりゃお供はしますけど、フルムーン・シップの奪取に失敗したのは痛かったですね」

クリム「メガファウナが邪魔したそうだな。姫さまはとことん情勢の読めないお人らしい。グシオン総監が宇宙からの脅威を訴え、地球の自主独立の重要性を訴えたのに、何もわかっていないとみえる。そもそもフォトン・バッテリーの解明さえできればビーナス・グロゥブなどなくても地球はやっていけるのだ。トワサンガにどれほどの技術があるのか知らないが、まずはあそこを占拠してみないと始まらない。ただオレが地球を離れた隙にアメリアがクリムトン・テリトリィに侵攻してこないとも限らない。それで迷っていたのだが、タワーのケルベスという者も、アイーダも代案を出さずに時間ばかり稼いで状況を複雑にするばかり」

ミック「(指先で机をたたきながら)アイーダさまの『連帯のための新秩序』でフォトン・バッテリーの供給がいままで通りに戻ったとしても、あたしたちはビーナス・グロゥブに支配されていることを知ってしまった。スコード教がどんなありがたいものかあたしは知りませんけど、宇宙にいる人に傅いて乞食のように生きるのはごめんですよ。それならあなたについていって宇宙で死ぬ方がよほど幸せというものです。(明るく笑い)さて、トワサンガ侵攻に作戦力は?」

クリム「そうだな・・・、首都防衛はクリムトン・テリトリィの正当性を訴えるためにもキャピタルから奪ったブルジンとアーミーから転向してきた連中に任せて、オーディン2隻とガランデンで出立したい。クリム・ニックがいなくなったと知ればアイーダはこちらに攻め込んでくるだろうし、タワーに籠っている連中も出てくるやもしれぬ。その場合はゴンドワンに背後を突くようにあらかじめ決めておきたい。2日で準備はできるか?」

ミック「出立準備は2日でできますが、ゴンドワンとの連絡は航空機を使わないと無理ですね。通信はアメリアに妨害されていますから。親書を持っていかせます」






アメリアのアイーダは癇癪を起して何度も何度も両の拳で机を叩いた。政治家としての道を歩み始めた彼女だが、元来老成した性格だったわけでなく、グシオンの死によって跡を継いだだけなので、ときどきこうしてストレスを発散しないとやっていられないのだった。

アイーダ「まったくまったくまったく!」

彼女のストレスの原因はゴンドワンであった。ゴンドワンは大陸間戦争を継続するとともにアメリア南方のキャピタル・テリトリィを爆撃して多くの難民を生み出していた。難民の多くは海を渡りアメリアに押し寄せていた。エネルギーに余裕のあるアメリアでもそれは大きな負担になっていた。

レイビオ(アイーダの男性秘書)「技術者の話では、電気というのは送電線というものを作らないと遠くに運べないらしく、それには大量の銅が必要とのことです。宇宙世紀時代にはもっと優れた技術があったのかもしれませんが、なにせ資源が枯渇するまで戦争をしていた時代なので、何も伝わっていないのが現状です」

アイーダ「モビルスーツの手足も銅で繋いでいる?」

レイビオ「手足は違います。電装系の一部はそのようですが、全部ではないようですね」

アイーダ「こうしてみますと、戦争というやらなくていいことのために資源やエネルギーを使うのはバカバカしいと思えます。限りある資源はもっと他のことに回せる。足らなければ奪えばいいとなぜ考えるのか!」

そういうとまた机をドンと叩いた。

レイビオ「(昔を懐かしむように)ヘルメスの薔薇の設計図が流出してきたとき、それがもたらす技術革新は人間を飛躍的に発展させると思ってしまったのです。イノベーションが人々を豊かにすると。しかし起こった結果は大陸間戦争でした。資源は戦争の道具に代わり、勝たねば奪われる世界。それを終わらせるためにグシオン総監は宇宙に敵を求めた。フォトン・バッテリーの情報開示も求めた。だがそれすら戦争継続の道具にされてしまった」

アイーダ「クリムですね。彼はモビルスーツオタクが高じて戦争オタクになってしまった。だけど、わかっています。勝たねば奪われる世界にわたしは生きて、アメリア軍の総監なのですから、キャピタル・テリトリィの救援要請を待ってからの出動では遅いのだと。エネルギーの枯渇に焦ったクリムは必ずどこかに奪いに出てくる。アメリアはラトルパイソンで固めてある。ゴンドワンはクリムがいなくなってから大人しい。なら宇宙に出るはずです。クロコダイルをザンクト・ポルトに向かわせましょう。入港できる保証はありませんが、求められたときにそばにいればすぐに対応できます」

レイビオ「承知いたしました。とにかく議会が招集されたらまた厄介になりますから、いまのうちに手を打っておくのが最善です」

アイーダ「賛成していただいたとのことですから、クロコダイルはわたくし自ら指揮することといたします」

レイビオ「また、姫さまそんな・・・」

アイーダ「議会が招集されたらまた厄介ですから」






春が近くなり、ゴンドワン北部の水が徐々にぬるくなり始めたころ、北上してきたゴンドワン守備隊とクンタラ国建国戦線との間で小競り合いが起こった。

守備隊の目的な流民によって放棄された町での略奪であった。ところがその町にはなぜか人が住み着いており、エネルギーも豊富でしかも住民の多くが武装していたことから大騒ぎになった。

調査のために軍が派遣されることになった。大型の輸送車5台とモビルスーツ2機によるこの調査隊は、見たこともない謎のモビルスーツに一蹴され、かろうじて逃げた2名の兵士を除いて全滅した。

事態を重く見たゴンドワン軍は、航空戦力を投入して状況を視察しようとした。ところが彼らが派遣機の選定を終えないうちに敵は襲い掛かってきた。それがホズ12番艦だったことは軍を驚愕させた。それは友好国であるキャピタル・テリトリィの求めに応じて供出したものだったからだ。

ホズ12番艦から出撃してきたのは、所属不明、形式不明の白いモビルスーツであった。それは翼を持たず上空を飛行し、基地上空で静止したのちに何らかの攻撃を行って基地全体を完全に消滅させてしまった。以後、ゴンドワン北部からの情報は途絶えた。

クリム・ニックがキャピタル・テリトリィ侵攻に出撃してから、対アメリア戦でゴンドワンは守勢に回った。大西洋地域での戦闘は敗北を繰り返し、ノルマンディーにアメリア海兵隊が上陸するとの噂に怯えた人々はさらに流民となり、春になって北部の故郷に帰ろうとする者も出てきた。

だがそこはすでに他人の土地となっていたのである。

ルイン・リー率いるクンタラ国建国戦線ゴンドワン隊は、当初の目的であるゲリラ戦においてゴンドワン国内を騒乱状態にしてエネルギー消費を増大させることにとどまらず、独自のエネルギー確保による居住地域拡大を成し遂げたことによってまさにクンタラ国の様相を帯び始めていた。

ルイン「アメリア国内のクンタラが我々に協力的であったなら、ゴンドワンなど一気に踏み潰してくれように。なぜ彼らはこちらの要求を撥ねつけるのか不思議でならない」

ミラジ「アメリアには商売で何度も入国しましたが、あの国は他の国に対しても文明が進んでいて、非常に豊かなんです。商業と工業の国で成功者を称える気風もあるので、クンタラ差別もほとんどない。差別を受けていなければ、クンタラ出身であることも親の膝で聞くお伽噺と変わらなくなるのでしょう。それはそれで幸せなことでは?」

ルイン「ご老体に意見するようで申し訳ないが、クンタラは崇める神が違うのです。そうやすやすとクンタラのことを忘れるとは思えない。何か別の考えがあると邪推されても仕方がない」

マニィ「(臨月のお腹をさすりながら)アメリアはスコード教すら田舎の人しか信じていないし、クンタラ安住の地ガーバのことだって、アメリアに住んでいれば忘れてしまうのかも」

ミラジ「それか、アメリアをカーバだと思っているかでしょうな」

ルイン「(吐き捨てる)バカな。クンタラ安住の地カーバはクンタラだけのものだ」

小さな食堂での昼食を済ませた3人は、広間に戻って状況報告を受けた。

兵士A「(3人の姿に目を止め)ロルッカさんはすごいですよ。頼めばなんでも調達してくれます。武器弾薬は使い切れないほど集まりました。モビルスーツもルーン・カラシュが明日には20機が納入されます。輸送機も現在手配中とのことで」

ミラジ「あいつはこうしたことが向いているのでしょう。コネも作ってきましたし」

ルイン「最新鋭機のルーン・カラシュは助かる。ホズ12番艦の本格運用もできそうだ。ウーシアはアーミーの仲間に運用させて、ルーン・カラシュは新たにパイロットを育成しよう」

兵士B「とうとうゴンドワンにカーバを作るんですね」

ルイン「うむ。それもいい。なにせあの原子炉というのは凄いものだ。無尽蔵のフォトン・バッテリーのようなもので、尽きることがない。だがカーバは安住の地でなければならない。絶えず紛争が起こっているようではそこはカーバではないのだ」

てっきりゴンドワンを占領してカーバにするつもりでいた兵士たちはルインの言葉の意味がわからずキョトンとしていた。ルインは彼らが望むものを与えてくれる人物であったが、どこに定着してどう暮らすのか話したことはなかった。

ルイン「(すべての書類に眼を通し終わり)よし、オレはG-∀で敵基地を叩いてくる。あれは素晴らしいものだ。戦わずして基地の痕跡すら残らないように消してくれる。あれが100機も手に入ったなら、地球上のすべての文明を消滅させて何もかも新しくしてやるのに」







いつしかウィルミット・ゼナムはムーンレイスたちにとってなくてはならない存在になっていた。

彼女の行政能力は永らく眠らされていた彼らの組織を瞬く間に立て直した。また現在という時間において社会がどう変わっているのかも包み隠さず教えてくれることから、誰もがディアナ・ソレルに次ぐ人物と見做し始めていた。だがそれは本人には迷惑な話でもあった。

ディアナ「お母さまには面倒な仕事ばかり押し付けてしまって、面目ない次第です」

ウィルミット「なかなかお母さまと呼ぶのをやめていただけないのですね」

ディアナ「キャピタル・タワーというものの長官をなさっていた有能な方だとお聞きいたしましても、わたくしどもはそれがどのような職業でどれほど重要な地位なのかピンと来ないのです。たしかにわたくしがご子息と恋仲などとウソをついたことは謝らなければなりません」

机の上に広げた用紙には、ウィルミットが中心になって作った月基地の見取り図が記されていた。月には宇宙世紀時代から様々な構造物が作られており、張りぼてで作った迷路のように複雑に入り組んでいる。使える設備と使えない設備、修理が必要な設備と翻訳が必要な設備などをわかりやすく視覚化したのがウィルミットの地図であった。

ウィルミット「(ディアナに向かい)驚くのはフォトン・バッテリーに依存しないエネルギー供給システムです。どうしてこんな無尽蔵のエネルギーを得ているものやら」

ディアナ「縮退炉のことですか? むしろわたくしたちには縮退炉や核融合炉のない世界の方が奇異に感じます。人が暮らすにはエネルギーが必要です。天然資源に頼ることは、生命維持に必要な環境を破壊する。バッテリーによる供給は、流通が止まれば終わりです。レイハントン家によってまさにそれがなされているわけですよね?」

ウィルミット「フォトン・バッテリーの供給停止にレイハントンは無関係なはずです。あなたが息子のベルリの婚約者を装ったように、現在トワサンガのレイハントン家は相続者がいない状態になっています。いない者がことをなすことはありませんでしょ?」

ディアナ「トワサンガというものがわたくしにはまだよく理解できないのです。あれはどこより持ってきた資源小惑星を使ってこの500年で作ったものでしょう。しかしそこは拠点ではなく、中継地に過ぎないと。ビーナス・グロゥブというものが明けの明星の近くにあるのだと」

ウィルミット「ええ、そうですけど・・・。(しばし悩み)失礼なことを伺いますが、あなたはもしかして地球の方ですか? 月の女王様が明けの明星とはおっしゃらないはず」

ディアナ「それは話すことが出来ない悲しい過去の話なのです。ええ、でもわたくしがキエル・ハイムと名乗り、アメリアの人間だと話したことは覚えておいででしょう。そのような人物と、昔々関わりがあったということです。それ以上は話しても意味のないこと」

このあとふたりは農業ブロック、工業ブロックなど生産設備の稼働状況を視察しながら、地球の見えるテラスまで移動した。ここもウィルミットが見つけた場所で、かなり古い観光用の設備を再利用して使えるようにしたのだ。

ウィルミット「わたくしは心配なのです。クレッセント・シップが去ったのち、法王さまの亡命などがあって、地球は見捨てられると危機感を持つはずだった。ところがディアナ女王はフォトン・バッテリーは必要ないとお考えになる。これではスコード教の権威が揺らぎます。スコード教のない世界に争いごとが起きないとはどうしても思えない」

ディアナ「過剰生産体制が宇宙世紀を暗黒の時代にした。反スコードは宇宙世紀に戻ることだと、こうお考えで?」

ウィルミット「おかしいのでしょうか。(首を振り)これは自分にもわからないのです。ただ自分はジムカーオという人物に、まるで宇宙世紀がそのまま残っているような場所へ連れていかれました。あそこがなんなのかは正直よくわかりません。しかし、スコード教とヘルメス財団が作り上げてきた安定と平和の形が大きく変わる予感はしました。悪い予感です」

ディアナ「お母さまは本当に賢い。ひとつわたくしどものお話をいたしましょう。この世界では1年前にレコンギスタという騒動があったと伺いました。実はわたくしたちも500年前に同じようなことを試みたのです。わたくしたちは支配者になろうとしていましたが、すぐにそれが愚かなことだと気づき、別の道を模索しました。人とは実に様々な考えを持つもので、それぞれの考えの違いからその試みは上手くいかなかったのですが、お母さまはわたくしたちの失敗の原因を理解し、成功に導く要因をスコード教に求めていらっしゃる。しかし、こうも考えてしまうのです。人と人との断絶をなくすための統一宗教は、支配ではないのかと。人の支配の仕組みは、必ず悪用されます」

ウィルミット「スコード教も悪用されていると?」

ディアナ「可能性の話です」

ウィルミット「ほんの数か月前なら、わたくしはそれを自信をもって否定いたしました。しかし、ジムカーオ大佐にあの場所を見せられた以上、女王のお話に真実味が出てしまいます」

ディアナ「さてそこでお頼みがあるのです」

ウィルミット「なんでしょう」

ディアナ「わたくしはあのトワサンガというものが欲しい。これは征服のためでも戦争のためでもありません。宇宙に住む者たちを地球に還すために権力が必要だという意味です。そこで、いま一度お母さまの大切なベルリ王子との婚儀をお考えいただきたい」





ビーナス・グロゥブのラ・ハイデン総裁よりクレッセント・シップとフルムーン・シップを預かったメガファウナの一行は、残り2日の旅程となったことで減速前のミーティングに忙しかった。

ドニエル「地球圏に入った際にもし戦争が起こっていたらどうするか、なんだ」

副艦長「とにもかくにもアメリアへ戻りたいところですがね」

ベルリ「宇宙と地球を繋ぐ生命線はキャピタル・タワーです。自分はケルベス教官が心配なのでザンクト・ポルトへ向かうことを希望します。最悪、G-セルフだけ増援に向かわせてくれれば」

ギセラ「トワサンガを離れるときもビーナス・グロゥブを離れるときもあの騒ぎですよ。もうこの船は騒動に巻き込まれるに決まっているんです」

ベルリ「いや、ぼくは姉さんのことは当然気に留めています。ぼくとラライヤ、ノレドにモビルスーツを与えてもらって、みなさんはどんな状況であろうともアメリへ戻って貰えば」

ドニエル「アメリアへ戻って姫さまに状況報告はせにゃならん。キャピタルとの同盟関係のためには一肌も二肌も脱ぐよ。だけど」

副艦長「そうだぞ、ベルリ。キャピタル・タワーが占拠されていることだってあるんだ。そうなったらすぐに君らを回収しなきゃいけない。モビルスーツだけで放り出すわけにはいかんよ」

ベルリ「キャピタル・タワーが占拠されるなんて!」

ギセラ「可能性の話だから熱くならない」

なかなか話がまとまらないブリッジに、ノレドとラライヤが上がってきた。ふたりはベルリを手招きして通路に呼び出した。

ベルリ「(怒った声で)いま重要な話をしているんだけど」

ラライヤ「(こちらも怒った顔で)月でディアナ・ソレルに会ったと話していましたよね?」

ベルリ「ああ。それが何か?」

ラライヤ「ノレドと話をしていたんですけど、もしそれが本物のディアナ・ソレルなら、必ずトワサンガを欲しがります。ベルリは王子さまなんだから、結婚という話は絶対に出てくると思うんです」

ベルリ「結婚なんかしない」

ラライヤ「ならいいのですが、ディアナ・ソレルはディアナ・カウンターという名のレコンギスタ派ですから、迂闊に話に乗ってしまうといけないと思って」

ベルリ「結婚なんかしないし、いらぬお節介だよ。レコンギスタ派なら向かうのは地球じゃないのか? じゃ、ぼくはタワーのことで話をしているから」

そういうとベルリはすぐにブリッジの中に戻ってしまった。

結局ノレドは一言も口を利いてもらえないまま、自分からも何も話せず、悲しそうな顔を当惑の表情で隠して自室に戻るしかなかった。


(アイキャッチ)



この続きはvol:49で。次回もよろしく。



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