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「ガンダム レコンギスタの囹圄」第8話「フルムーンシップを奪え!」前半 [Gのレコンギスタ ファンジン]

「ガンダム レコンギスタの囹圄」


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第8話「フルムーンシップを奪え!」前半



(OP)


トワサンガの工業区域の一角、その倉庫の中でドニエルとハッパはG-セルフの整備をさせられていた。ふたりは監視の兵士に会話を聞かれないようにコクピットの中で整備をするフリをしながら脱出の算段をつけていた。警備はかなり手薄だった。

ドニエル「キャピタルの組織がどうなっているのかさっぱりわからんが、最初の話ではアーミーが反乱を起こして、ガードが法王を警護しながらタワーでザンクト・ポルトに上がったって話だった。法王の亡命ってやつだ。ところがそれから、ホズ12番艦というやつが反乱を起こしてアーミーから離れたんだろう? クンタラだ、革命だって」

ハッパ「ぼくは捕まっていたんで話をいろいろ聞きましたけど、あれはアーミーの中のクンタラ出身者の集まりだったようで、それにビーナス・グロゥブの連中がクン・スーンとローゼンタール・コバシの他に20名ほどいましたね。彼らも捕まったみたいです。キア・ムベッキ・Jrが人質とか」

ドニエル「(髭をなでながら)サニエスって艦長だったな。世界同時革命とか叫んでいた。アーミーの中のクンタラ部隊と言えば、マスクだ。そうだろう?」

ハッパ「アーミーの中の元マスク部隊がアーミーから反乱を起こした」

ドニエル「ザンクト・ポルトでケルベスから聞いた話じゃ、地上に残されたアーミーは新兵ばっかりでアーミーはガードに再編入されると思い込んでた連中ばっかだったって話だ。法王警護の任務だと思っていたガードの連中はザンクト・ポルトに入れず、その下のナットで防衛戦を張っていた。調査部の人間は信用していないとも言っていた」

ハッパ「やっぱりあのジムカーオってアジア系の大佐ですか?」

ドニエル「マスクとジムカーオは繋がっているのか? それにまだおかしいんだぞ。サニエスのホズ12番艦を追いかけていた2隻の戦艦。あれも行方不明になっている」

ハッパ「(呆れながら)キャピタルはもうめちゃくちゃですね」

ドニエル「キャピタルってのは宗教国家だろ? 民主主義はお飾りで、ビルギーズ・シバは文学者のような風貌ってだけで選ばれていたと聞いた。アメリアとは全然違う」

ハッパ「前から言いたかったんですけど、キャピタルって法王庁のお膝元のくせにクンタラ差別が異様に強すぎるでしょ。ありゃなんですかね?」

ドニエル「前にビーナス・グロゥブへ行ったときはこっちも舞い上がってかしこまるばかりだったが、クンタラだのスコード教だのヘルメス財団だの、訊きたいことはいっぱいあったんだな」

ハッパ「(眼鏡を光らせ)じゃ、やっぱりフルムーンシップですか」

ドニエルは頷き返し、親指を立てて下に降りるぞと無言で合図した。






サウスリングのレイハントン家の屋敷に戻ったウィルミット・ゼナムは、物音ひとつしない屋敷の中で独りきりになったことを実感しつつ、今後の対策を考えていた。

彼女はジムカーオ大佐にヘルメス財団の裏の顔を見せられ、半ば共犯者にされようとしていた。ヘルメス財団の正式メンバーとなれば大変な名誉であることは確かだが、キャリアを餌に子供を裏切れと迫られているようにも感じていた。ウィルミットはベルリに自由な未来を与えてやりたかった。

ヘルメス財団に潜り込んで事の真相を追求するのもひとつの手段ではあるが、自分がその仕事の面白みに嵌って抜け出せなくなることもあり得る。キャリアを積んできた彼女はそれが自分というもので、だからこそそこに付け込まれたのだと認めるしかなかった。

クンパ大佐の傍にいながら彼の目論見をなにひとつ見抜けなかったのも確かであった。自分の能力は規律を保つことには有効でも、陰謀を見抜いてそれを覆す能力ではない。警察やスパイのようなことには向いていないのだ。

ウィルミット「(人工的な夜景を眺めながら)ベルリはこのまま大人になっていくばかり。もう自分は必要ないのかもしれない。それならばヘルメス財団のメンバーになって仕事に打ち込んでもいいような気もする。でももしジムカーオ大佐に悪意があって、ベルリが自分で未来を選択できない状況に追い込まれてしまったらもっと後悔が残る。どうしたらいいものやら・・・」

前庭の芝が激しくなびき、レイハントン家の邸宅にランチが到着した。そこにあったG-ルシファーはもうない。ウィルミットは自分が大変なことを忘れていることに気がついた。月から出ていたという救難信号のことをベルリに訊かなかったのだ。あれはノレドとラライヤかもしれないというのに。

数人の男性とキエル・ハイムが通り名となったディアナ・ソレルが降り立った。

男性A「奥さま、奥さまー」

男は庭先から大声でウィルミットを呼んだ。ウィルミットはディアナの申し出を受けて彼女が望んだ中距離用のランチ1隻と申し出の倍の2000人分の衣服を用意して与えていたのだ。

ウィルミット「手切れ金のつもりだったけども、もしやこれ幸いに・・・」

急いで玄関を出ると、男たちが寄ってきて代金は支払われていたがサインがまだとのことで、ウィルミットの姿を認めると何枚かの書類を差し出した。ウィルミットは素早く書類に名前を書くと自分もランチに乗り込んだ。ランチの中は昼間に購入した2000人分の衣服で一杯だった。

ディアナ「同行するのですか? それは困ります」

ウィルミット「(座席に座ってしまい)アメリアへ戻って仕立て屋をなさるとか。これはその回転資金として既製服として売るのでしょう? どこかに大気圏突入用のシャトルがあるとおっしゃいましたが、そもそもシャトルというのはアグテックのタブーで禁止されているのです。大気圏への突入はキャピタル・タワーに限られているのですよ」

ディアナ「(一瞬迷う)よろしい。ではご案内しましょう」

男たちはランチには乗りこまず、操縦はディアナが行った。ランチはゆっくりと浮かび上がった。






メガファウナへ向かったはずのベルリ・ゼナムは、ターニア・ラグラチオン中尉に捕まって軍用車で連行されているところだった。コロニー内は消灯され、夜になっている。

彼女が向かった先はサウスリングの旧レジスタンスの拠点であった。ベルリはかなり怒っていたが、フォトン・バッテリーの配給停止の件がある以上、彼女を無視するわけにもいかなかった。

ベルリ「王子さまといってみたり、ついてこいといってみたり、どうなってるんですか?」

ターニア「(恐縮して)それは申し訳なく思っております。しかし我々に1度会っていただかないことには、旧レイハントン家の家臣団も方向性がまとまりませんので。それにどっちが本物のお妃になられる方なのかハッキリさせていただきたいですし」

ベルリ「どっちがって?」

ふたりは平屋建てのログハウスの中に入った。室内には100名ほども集まっていて、ベルリの顔を見るなり席を立って帽子を脱いだ。若者は少なく、老人の姿が多い。

家臣団A「坊ちゃま、ああ、今度こそ本当にお坊ちゃまが帰っていらした」

老人たちは泣き出しそうな有様であった。ベルリはひとりひとりに丁寧に挨拶をしてできる限り老人を席に座らせようと自分は立ったまま老婆が差し出した飲み物を受け取った。

ターニア「実は法王さまがこちらへ亡命された際に、ノレド・ラグという女性を連れてきたんです」

ベルリ「(驚いて飲み物を吹き出してしまう)ノレドが?」

ターニア「(頷き)ノレドさんは正式なお妃候補と紹介され、我々の仲間のラライヤ・アクパールも一緒だったのでこちらも油断して信じてしまっていたのです。ところがお話を伺うとキャピタル・ガード調査部のジムカーオ大佐という人物が、ビーナス・グロゥブからフォトン・バッテリー供給再開の約束を取り付けるために単なるガールフレンドだった人物をフィアンセと偽って連れてきたのだとウィルミット長官から聞かされました。長官の話では、ジムカーオ大佐はヘルメス財団のメンバーでレイハントン家の参謀と名乗ったそうなのですが、そもそもレイハントン家に参謀などおりません。我々も彼のことはよく知らないのです。長官のお話では、キャピタル・ガードにも在籍していないとか」

周囲にいた老人たちが口々に「あんな男は知らない」「見たこともない」と言い合った。

ベルリ「たしかにガードの人物なのか確信はありません。ただ調査部は地球全土に派遣されているので、ずっとアジア勤務だったといわれれば納得するしかない・・・けども・・・」

ターニア「彼は大変鮮やかな手腕でトワサンガの行政権力を掌握しており、ハザム政権が倒れガヴァン隊がレコンギスタのためにザンクト・ポルトに降りた後はキャピタル・ガードもしくはアーミーと呼ばれる人たちも含めて現在は権力の中心におります。旧ドレッド派はほぼ壊滅しましたが、このまま彼に従うべきなのか、王子に従い彼らと戦うべきなのか、我々に指示を出していただきたいのです」

ベルリ「このぼくに? そこまで信用していただけるほど、ぼくの本当の父、レイハントン王は優れた人物だったということですか?」

老人たちはついに泣き出し、大きく頷き合った。これは自分が何か命令を出さないと問題が解決しないとみたベルリは、しばし考え、彼らにこういった。

ベルリ「地球ではクリム・ニックという人物が『闘争のための新世界秩序』というのを発表して、地球を武力で統一した上でザンクト・ポルト、トワサンガ、ビーナス・グロゥブに攻め入って宇宙の覇者になろうとしています。それに対抗しているのが、現在アメリア軍の総監で上院議員でもあるぼくの姉さん、つまりアイーダ・レイハントンなのです」

ターニアが目を見張って驚き、老人たちが感嘆の声を口にした。

ベルリ「アイーダ・レイハントンは、『連帯のための新秩序』というものを出して、全宇宙の平和的共存を訴えています。レコンギスタは結局のところ、強制入植であって、それは侵略です。そんなことをすれば戦争になって、ついてはラ・グー総裁の意向にもそぐわない。そこで姉さんとぼくは、地球に新生活圏を創造していくことで、宇宙にいる人々の地球への帰還を成し遂げようと考えたのです。侵略などしなくても、計画的に人々を地球に戻すことが出来ると考えました」

家臣団B「(興奮して)それぞまさにレイハントンさまのお考えそのもの。やはりこれは血筋だ。坊ちゃまとお嬢さまがお父上とお母上の意思をちゃんと継いでくださっている!」

ターニア「(戸惑いながら)その若さで・・・、わかりました。で、我々はどうすれば」

ベルリ「戦争は極力避けてください。それから、できるだけ早く姉さんとコンタクトを取れないかやってみてください。ぼくはこれからビーナス・グロゥブのラ・グー総裁のところへ行き、フォトン・バッテリーの供給再開を直談判してきます。必ず約束を取り付けるつもりですが、ラ・グー総裁を説得できたところで、地球と月で戦争をやっていては元の木阿弥です。またバッテリーの供給は停止されてしまいます。現在、ザンクト・ポルトまではキャピタル・ガードのケルベス中尉が制圧しているはずです。ケルベス中尉に取り継いでもらえば、アメリアの姉さんとも連絡が取れるはずです」

ターニア「了解しました。しかしザンクト・ポルトまで行く手段がないのも事実で、ジムカーオ大佐がカシーバ・ミコシを押さえているのもそうした事情を考慮しているのかも。ところで、昼間の女性、キエル・ハイムという方は・・・ノレドさんとは別に、いえ、その、愛人のようなご関係で?」

ベルリ「あの前に訊きたいんですけど、レイハントン家が月で封印したとは何のことでしょう?」

ターニアは言葉の意味がわからず首を傾げた。すると老人のひとりが話し始めた。

家臣団C「それはムーンレイスのことでは?」

ターニア「(老人の方を向き直り)ムーンレイスとはあのお伽噺に出てくる?」

家臣団C「ターニアさんはお若いのでお伽噺でしか知らないかもしれないが、ムーンレイスとは実際に月にいた種族で、かつてレイハントン家との間で戦争をしたとか。スコード教に従わず、アグテックのタブーを使うので忌避され、月に施設の大部分を移してそのまま封印したと聞きます。その施設の維持管理のために、ごくわずかなフォトン・バッテリーと空気の玉を補給しておりましたよ。わしはまだレイハントンさまが存命の頃に補給任務に就いたことがあります。月の裏側の地下にある冬の宮殿というのは、スコード教の聖地のひとつとして使われています。もっとも本物の冬の宮殿は焼け落ちており、スコード教で再建したものですけど。補給任務はドレッド家に引き継いだはずですが、ドレッド家がああなってから誰がその任を負っているものやら・・・」

ベルリ「(神妙な顔で)みなさんの中で、ディアナ・ソレルという名に聞き覚えのあるお方はいませんか?」

ターニア「(震えながら)ディアナ・ソレルはお伽噺に出てくる月を統べる女王の名です」

ベルリ「では、彼女がそのディアナ・ソレルです」

ログハウスの上空を、小型ランチが飛び去って行った。






豪華客船を手配してキャピタル・テリトリィを後にしたカリル・カシスは、ビルギーズ・シバの秘書を務めていた9人の仲間と共にアメリアへやって来た。

美しい女性ばかり10人の船旅は否応なしに人目を引いたものだが、キャピタルから乗った客が多い船の中では彼女たちがクンタラだと知ると肩をすくめて離れていく男たちばかりであった。絡まれないのはありがたいことだったけども、そうしたことも含めて彼女たちの怒りは収まることがなかった。

数日間アメリアでも有数の一流ホテルで豪遊した彼女たちは、アメリアの人間がクンタラに対して差別心がないことを実感した。クンタラ差別が激しいのはキャピタルの人間とゴンドワンの人間であった。キャピタル育ちの彼女たちにとっては天国のような国であった。

アメリアで必要なものは貨幣であった。金がある限りアメリアで苦しい想いをすることはない。そして彼女たちはビルギーズ・シバが横領して貯め込んでいた金を洗いざらい奪って逃げてきていたのである。金は数年働かず豪遊して食べていけるほどあった。

そのせいで彼女たちはすっかり怠惰な生活を送るようになっていた。

それが変わったのは、2週間が過ぎてアメリアで成功しているクンタラの有力者に出会ってからであった。

彼らはホテルで遊び惚けるクンタラの娘たちの噂を聞きつけてやって来た。真っ黒な顎鬚を蓄えて精悍な顔をさらに厳しく引き締めた5人の老人は、どうせ女目当てでノコノコ出掛けてきた助兵衛オヤジだろうと高を括っていた10人をいまにも杖で殴らんばかりに叱りつけたのだ。

アメリアのクンタラは数百年前に出版されたある書物の影響で差別をほとんど受けることなく生活できてはいるが、移民を多く受け入れるアメリアにはキャピタルやゴンドワンから職にあぶれた者たちが多く移民してきて犯罪に手を染める。

若くて美しい女10人が有り余るほど金を持っていることを隠すこともせず生活していては、彼らに何をされるかわかったものではない。老人たちはその忠告のために来訪したのだった。

その5人の実力者とは、アイーダにクンタラ救済を訴えた5人であった。彼らはすでに仕事を引退しており、残りの人生をクンタラの生活困窮者のために使っていた。カリルはそのような人間がいることを初めて知った。キャピタルではむしろクンタラを騙して金をとるのはクンタラだったからである。

5人の老人に散々説教された10人はしおれたように大人しくなった。10人の代表であるカリルが、自分たちは金を持っており、それにやらねばならぬこともあるので難民キャンプには入りたくはないと訴えると、老人たちはアメリアでの市民権の取り方などを教授してくれた。

老人A「NYには政治家がたくさんいるが、アメリアの政治家はキャピタルのお飾りの政治家とはまったく違う。政治家の秘書になるにはしかるべき大学で資格を取らねば無理だ。ビルギーズ・シバなどという小物と同じに考えてはいかん」

カリル「そうなんですか・・・」

老人B「君らが大金をどうやってせしめたか、そのことを詮索するつもりはない。問題は金を浪費していることだ。金などはいずれなくなる。金は増やすためにあるものだ」

老人C「ビルギーズ・シバの秘書なんてのはキャリアのうちには入らんよ。学校もロクに出ていない。得意なものもない。あるのは若さだけ。それで一体どんなやるべきことがあるというのやら」

老人D「まぁそのことも詮索はすまい。どうせクンタラ建国戦線などというものに騙されでもしたのだろう。あのルイン・リーという若者は賢く、若い女のモテそうな顔をしているようだから」

老人A「(溜息をつきながら)いま聞いただけのキャリアでは堅気の仕事に就くのは難しそうだ。何かいいアイデアアはないか?」

老人E「それならば店を買ってキャバレーでも始めたらどうだ」

話を聞いたカリルは慌ててかぶりを振った。

カリル「あたしはこの娘たちにまともな暮らしをさせてあげたいんで」

老人B「仕事が見つからんといっているのだ。仕事がなければ家も借りられん。ずっとホテルで暮らしているわけにもいかんだろう。店を買ってキャバレーをやれば、お前さんが主人で残りは使用人だ。お前さんひとりをわしらで世話すればあとの娘は部屋が借りられる。毎月家賃を払っておれば信用が生まれる。こうやって地歩を固めながら市民権に近づいていくしかない」

カリル「そうなんですか・・・」

老人C「あんたがキャバレーの店主になりゃ、他のクンタラ難民の子も助けることができる。我々もできる限り雇用しているが、『クンタラ亡命者のための緊急動議』が通ってからこっち難民は増えるばかりで特に女性の雇用問題が深刻だ。あんたがこの話を引き受けてくれたなら、わしらも資金援助は惜しまんよ」

老人E「そういうことだな」

こうしてカリル・カシスは、ようやく抜け出した水商売の道に再び戻ることになった。






ドニエル「今度はこっちのデカい奴を見てみるか」

メガファウナ艦長のドニエルは逃げ出す機会を窺っていたが、キャピタル・アーミーの兵士は銃を携帯しており、また彼らは自分たちがいる場所がセントラルリングということ以外何も知らなかった。

ドニエルとハッパは銀色のG-セルフの隣にある、胸の傷のついた巨大な機体に近づいた。

兵士「地球から持ち込んだ発掘品なんですが」

ハッパ「ぼくは博物館の学芸員じゃないからこの機体の整備はできないぞ」

兵士「自分は下っ端でよくわからないんですけど、とりあえず見てもらって、ダメなら上にそう報告します。コクピットの中がどうなってるかだけ確かめていただければ」

ふたりはクレーンを使って胸に傷のあるあまり見かけたことのない機体のコクピットに入った。

ハッパ「頭部がコクピットになっているのか。(見回しながら)座席部は朽ちてしまってなくなっている。機体は綺麗に残っているわりに中はボロボロになっているな」

ハッパは座席のみ交換して、操縦系統は分解清掃しただけでそのまま組み直した。着座しておそらくは動かすことができるが、パネルに浮かび上がる文字も違えば、計器類の配置も違う。

ドニエル「(小声で)動かんのか」

ハッパ「やってみます」

ハッパは埃の積もった計器類を解析しながら徐々に機体を起動させていった。どのような動力が使われているのか、エネルギーは充填されている。ユニバーサルスタンダードではないためになかなか思うように立ち上がってくれない。痺れを切らせたドニエルがコンソールをドンと叩いた。

すると機体の頭部が外れて宙に浮かんだ。落ちると覚悟してしっかり抱きあったふたりであったが、頭は浮いたまま宙を漂い、フラフラと施設の中を飛び回った。

下ではふたりを連行してきた兵士が驚いて無線でどこかに連絡しているのが見えた。

ドニエル「これ、飛ぶのか? 飛ぶんだな?」

ハッパ「知りませんよ!」

ドニエル「操縦はできんのか?」

ハッパ「やってみますけど」

胴体から切り離された頭部は自律的に飛行する能力があるらしく、操縦桿を握ったハッパは頭部だけのモビルスーツを何とか操り、フラフラと格納庫から出て行った。

ドニエル「よし、このままメガファウナまで飛んでいけ」

ハッパ「(情けなさそうに)いまにも落ちそうなんですけど」






ターニア・ラグラチオンは助手席にベルリ・ゼナムを乗せて軍用車両を疾走させていた。向かう先はサウスリングにあるレイハントン家の邸宅であった。ノースリングにある王宮は、ドレッド家によるクーデターがあって以来、立ち入り禁止区域に指定されており、そこに手掛かりがあるとは思えない。

あるとすればウィルミットやノレドたちが使っていたサウスリングの旧領地邸宅であった。

ベルリは疾走する車内で念のためにパイロットスーツに着替えた。セントラルリングで買ったばかりのジャケットは脱ぎ捨ててしまった。

ベルリ「母さんがいたり、ノレドやラライヤまでいたのに行方不明になっていたり、法王さまが冬の宮殿に籠られたまま任を解かれるとか、なんでこんなに話が進んじゃってるんですか!」

ターニア「誰かが計画的に物事を実行しているからではありませんか?」

到着するなりふたりはウィルミットの名を叫びながら屋敷の中に入っていった。

2階で物音がするのを聞いたベルリは急いで階段を駆け上がり、ひとつひとつドアを開けていった。するとかつてこの地の領主であったレイハントンが使っていた書斎にふたりのメイド姿の女性がおり、何かを探しているかのように部屋を荒らしていた。

ベルリが飛び込んできて驚いたふたりのメイドは、隠し持っていた銃を発砲した。


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この続きはvol:36で。次回もよろしく。












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