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「遊星からの物体X」(1982年作品)感想 [映画]

ジョン・カーペンター監督によるSF映画の傑作「遊星からの物体X」。原題は「The Thing」。

原作はジョン・W・キャンベルが1938年に発表したSF短編「影が行く(Who Goes There?)」。この作品は、リドリー・スコット監督による1979年の「エイリアン」とともに後世に絶大な影響をもたらしたB級映画だ。ただしいまとはA級B級の基準が違っていた。

1980年くらいまで、ハリウッド映画でA級といえば文芸作品に限られていた。SFはアーサー・C・クラークのように哲学的テーマを扱ったものならギリギリ文芸作品で、宇宙人が出てくるものはすべてB級映画だったのだ。「スター・ウォーズ」も「エイリアン」も第1作はB級映画扱いだった。

そうした評価基準を覆していったのがスティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、リドリー・スコット、ジョン・カーペンターといったコミックやパーパーバックに親しんで育った若手映画監督たちの商業的成功だった。彼らは映像技術によってそれまでバカバカしい子供騙しと思われていた宇宙人などをリアルに表現することに成功した。映像技術が文芸の価値を上回った瞬間だった。

70年代に彼らが台頭してきて、80年代にアメリカンコミックの人気ヒーロー「スーパーマン」「バットマン」が新機軸での映像化に成功すると、A級B級の垣根は映画にかけた予算で決まるようになった。予算をかけて見栄えのいい映像を作ることが出来れば、中身が宇宙人であろうがヒーローであろうが関係なくなっていった。映像技術の進歩が脚本に自由度を与え、元々かなり自由だったアメリカ文学はさらに何でも許容されるようになってそうした文芸の進歩がさらにハリウッド映画の脚本のレベルを上げていった。

映像と脚本の同時進化はやがてテレビドラマにまで及び、アメリカのドラマは世界中に売られていって大きな利益を上げるばかりでなく、アメリカという国の正統性をも支えるようになっていった。この現象は2000年を過ぎるまで続いた。

「スター・ウォーズ」「エイリアン」に続いてやってきたこの映画に、流行に敏感な高校生は飛びついた。この映画で使われたSFXのリアルさに息を飲んだ当時の中高生たちは美大を経てアメリカに留学してしまう者も生み出し、のちの映画に大きな影響を及ぼすことになる。

物語は古い時代のSFの定石であったミステリ仕立ての作品だ。もともとSFというのはミステリの傍流で、未知の存在を使って恐怖を煽る代物か、冒険小説の類似品でしかなった。この作品はペーパーバックの定番であったミステリ風のSFである。

何者かわからない存在が、南極という閉鎖空間で隊員たちをどんどん蝕み、誰がその存在になってしまっているのか誰も分からない状況が疑心暗鬼を生み出してやがてお互いを殺し合っていく、そのじわじわと迫りくる恐怖が持ち味の作品だ。過去に1度映画化されているがそれは本当のB級映画で原作はあまり関係ない。原作に近いのはこちらのリメイク版の方だ。

こうした、アンダーグランドであったものが新世代の映画監督たちによってメジャーになっていく過程を決定付けたのは、リドリー・スコットの「ブレードランナー」であった。「ブレードランナー」の成功が最終的にすべてをひっくり返し、ペーパーバック好きの少年たちはみんな映画界の巨匠になっていった。スピルバーグは「E.T」でその地位を不動のものとし、ジョージ・ルーカスは「スター・ウォーズ」の映像を磨き続けた。

ところがなぜかこの映画の監督ジョン・カーペンターだけは巨匠にはならなかった。映画以外の活動も盛んに行っていたからなのか、彼はずっとB級映画監督のままだった。かつては低俗なものとしてのB級であり、いまは低予算としてのB級である。彼がスピルバーグやルーカスのようにならなかった意味はよくわからない。

彼らが勃興してくる時代に青春時代を過ごせたのは僥倖であった。そして彼らの作品を観て育った世界中の子供たちがいま最前線で映画を撮っている。


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